説明

切断装置及び基板の製造方法、半導体ウエハ

【課題】うねりの小さい基板を容易に製造できるようにした切断装置及び基板の製造方法、半導体ウエハを提供する。
【解決手段】一対のローラー10間にワイヤー20が巻き掛けられてワイヤー列21が構成され、ワイヤー列21を一対のローラー10間で移動させながら当該ワイヤー列21にインゴット1を押し当てて該インゴット1を切断するワイヤーソー100であって、補助ローラー60を備える。この補助ローラー60は、ワイヤー列21に対しインゴット1からの負荷がない状態で、ワイヤー列21に当接してその張力を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インゴットを切断する切断装置及び基板の製造方法、半導体ウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。即ち、特許文献1には、棒状の材料を薄く切断して基板を製造する装置として、固定砥粒方式のワイヤーソーが開示されている。固定砥粒方式のワイヤーソーは、例えば、表面に砥粒が固着されたワイヤーを用いてワイヤー列を形成し、そのワイヤー列を高速で走行させることにより棒状の材料(即ち、インゴット)を切断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−28654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図8(a)に示すように、インゴット101の切断が安定するまでの移行段階では、ワイヤー列121はインゴット101からの押圧力を受けて下側へ撓む。このとき、インゴット101はその角部を支点としてワイヤー列121を押圧するため、インゴット101の角部とワイヤー列121との接触箇所に特に力が集中する。即ち、ワイヤー列121の背力(インゴット101がワイヤー列121を押圧する力の反作用の力)がインゴット101の角部に集中する。その結果、インゴット101は角部から切断され始める。
【0005】
また、インゴット101が例えば多結晶シリコンからなる場合、多結晶シリコンの結晶粒は大きさにバラツキがあり局所的に硬さが異なる。このため、多結晶シリコンの結晶粒が障害となって、ワイヤー列121はその切断方向(Z軸の方向)と交差する横方向(例えば、Y軸の方向)に押される場合がある。
ここで、インゴット101の切断が安定するまでの移行段階では、ワイヤー列121は撓み易い。つまり、図8(b)に示すように、移行段階では、ワイヤー列121の切断方向に働く力(即ち、背力)F1に対して、横方向に働く力F2の割合が大きい。このため、インゴット101における被切断の方向が不安定となり易かった。例えば図8(b)の矢印Fで示すように、被切断の方向が本来あるべきZ軸の方向(即ち、F1の方向)ではなく、左右にばらついた方向(即ち、F1とF2とを合成した方向)となり易かった。
【0006】
このように、被切断の方向Fが左右にばらついてしまうと、予め設定された位置でインゴット101を切断することが難しくなり、厚さが均一で被切断面(即ち、表面)の平坦性が高いウエハ(即ち、うねりの小さい)を製造することが難しくなる、という課題があった。例えば図8(a)に示したインゴット101では、角部から切断され始めることから、特に角部において、大きなうねりが生じやすかった。
そこで、この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、うねりの小さい基板を容易に製造できるようにした切断装置及び基板の製造方法、半導体ウエハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る切断装置は、一対のローラーと、前記一対のローラー間に予め設定された張力で掛け渡されるワイヤーとを備え、前記ワイヤーを前記ローラー間で移動させながら当該ワイヤーにインゴットを押し当てて該インゴットを切断する切断装置であって、前記ワイヤーに対し前記インゴットからの負荷がない状態で、前記一対のローラー間の前記ワイヤーに当接して当該ワイヤーの張力を増加させる補助ローラー、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成であれば、ワイヤーによるインゴットの切断が安定するまでの移行段階の初期(即ち、切断の初期段階)において、補助ローラーは、ローラー間に掛け渡されたワイヤーの張力を高めることができる。ワイヤーは、補助ローラーにより所定の撓み量を与えられているので、インゴットが接触した直後から速やかに背力を発現させることができる。これにより、当該切断装置は、インゴットにおける被切断の方向を安定化することができ、予め設定された位置でインゴットを高精度に切断することができる。従って、当該切断装置は、厚さが均一で被切断面(即ち、表面)の平坦性が高い基板(即ち、うねりの小さい基板)を容易に製造することができる。
【0009】
また、上記の切断装置において、前記ワイヤーによる前記インゴットの切断が安定すると前記ワイヤーと前記補助ローラーとが離れた状態となることを特徴としてもよい。このような構成であれば、ワイヤーによるインゴットの切断が安定しているとき(即ち、安定時)は、ワイヤーの背力をインゴットに集中させることができる。これにより、インゴットを効率良く切断することができる。
【0010】
また、上記の切断装置において、前記補助ローラーを一対備え、前記一対の補助ローラーは、前記ワイヤーの走行方向において、前記ワイヤーの前記インゴットが押し当てられる位置の前後の位置にそれぞれ当接することを特徴としてもよい。このような構成であれば、一対の補助ローラーは、ワイヤーのインゴットが押し当てられる位置(以下、切断位置)の前後の位置を支点として、切断位置の張力を高めることができる。ワイヤーに張力を付与する支点の位置を切断位置の前後に配置することができ、且つ、これら支点の位置を切断位置に近づけることができる。このため、ワイヤーの切断位置の張力をより均一に高めておくことができる。
【0011】
また、上記の切断装置において、前記ワイヤーは、表面に砥粒が固着された固定砥粒付ワイヤーであることを特徴としてもよい。このような構成であれば、ワイヤーの表面に固着された砥粒により、インゴットを効率高く切断することができる。
本発明の別の態様に係る基板の製造方法は、一対のローラー間に予め設定された張力でワイヤーを掛け渡し、前記ワイヤーを前記ローラー間で移動させながら当該ワイヤーにインゴットを押し当てて該インゴットを切断することにより、前記インゴットから基板を製造する方法であって、前記ワイヤーに対し前記インゴットからの負荷がない状態で、前記一対のローラー間の前記ワイヤーに補助ローラーを当接させて当該ワイヤーの張力を増加させることを特徴とする。
【0012】
このような方法であれば、切断の初期段階において、ローラー間に掛け渡されたワイヤーの張力を高めることができる。切断を開始する前に、ワイヤーは補助ローラーにより所定の撓み量を与えられているので、ワイヤーの背力をインゴットが接触した直後から速やかに発現させることができる。これにより、インゴットにおける被切断の方向を安定化することができ、予め設定された位置でインゴットを高精度に切断することができる。従って、厚さが均一で表面の平坦性が高い基板(即ち、うねりの小さい基板)を容易に製造することができる。
【0013】
また、上記の基板の製造方法において、前記基板は半導体ウエハであることを特徴としてもよい。このような方法であれば、うねりの小さい半導体ウエハを容易に製造することができる。
本発明のさらに別の態様に係る半導体ウエハは、上記の切断装置を用いて作製されたことを特徴とする。このような構成であれば、うねりの小さい半導体ウエハを実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インゴットにおける被切断の方向を安定化することができ、予め設定された位置でインゴットを高精度に切断することができる。従って、うねりの小さい基板を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るワイヤーソー100の構成例を示す図。
【図2】固定砥粒付のワイヤー20の構成例を示す図。
【図3】補助ローラー60の構成例を示す図。
【図4】ワイヤーソー100によるインゴット1の切断工程を示す図。
【図5】ワイヤー列21のピッチの一例を示す図。
【図6】参考例と本発明の実施形態とについて、背力の立ち上がりを比較した図。
【図7】ワイヤーソー100の変形例を示す図。
【図8】従来技術の課題を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係るワイヤーソー100の構成例を示す概念図である。図1に示すワイヤーソー100は、インゴット1を薄く切断(即ち、スライス)してウエハを製造する装置である。インゴット1は例えば多結晶シリコンである。このワイヤーソー100は、例えば、ローラー10と、固定砥粒付のワイヤー20と、ワイヤーボビン30と、ガイドローラー40と、テンションローラー50と、補助ローラー60と、ワークホルダー70と、を備える。
【0017】
ローラー10は、例えば一対設けられている。これら一対のローラー10は、予め設定された(即ち、所定の)間隔を置いて配置されている。一対のローラー10は、その軸部11を中心に右回り又は左回りにそれぞれ自転可能となっている。
ワイヤー20は、一対のローラー10間に予め設定された張力で掛け渡されている。例えば、ワイヤー20は、一対のローラー10間に繰り返し巻き掛けられており、互いに平行に配置された複数のワイヤー列21を構成している。ワイヤー20は、例えば鋼線やピアノ線等の金属線からなる。図2に示すように、ワイヤー20の表面には、例えばダイヤモンド(C)又は炭化ケイ素(SiC)等の砥粒26が固着されている。
【0018】
ワイヤーボビン30は、例えば一対設けられている。これら一対のワイヤーボビン30は、ローラー10に向けてワイヤー20を繰り出したり、ローラー10からワイヤー20を巻き取ったりする。即ち、ワイヤーボビン30は、同期をとって同じ方向に同じ速度で自転することによって、ワイヤーボビン30の一方がワイヤー20を繰り出し、その他方がワイヤー20を巻き取る。そして、この動作により、ワイヤーボビン30は、一対のローラー間10に巻き掛けられているワイヤー列21を往復移動させ、又は、一方向に移動させる(即ち、走行させる)。
【0019】
なお、ワイヤー列21を往復移動させる場合は、その往路の移動時に、ワイヤーボビン30が未使用の新しいワイヤー20を一定の長さだけ送り出すと共に、ワイヤーボビン30が使用後(即ち、インゴット1の切断に使用された後)のワイヤー20を一定長さだけ巻き取るようにしてもよい。つまり、ワイヤー列21の往路における移動量を、ワイヤー列21の復路における移動量よりも一定の長さだけ長くしてもよい。これにより、ワイヤーボビン30は、ローラー10に巻き掛けられているワイヤー列21を新しいワイヤー20で少しずつ入れ替えることができる。
【0020】
ガイドローラー40は、例えばワイヤーボビン30とローラー10との間でのワイヤー20の移動をガイドするものである。ガイドローラー40は複数個設けられている。複数個のガイドローラー40の各々の位置は、ローラー10やワイヤーボビン30に対して固定されている。
テンションローラー50は、ワイヤーボビン30とローラー10との間でワイヤー20の張力を調整するものである。テンションローラー50は複数設けられている。複数個のテンションローラー50の各々は、その位置がワイヤー20の延伸方向と交差する方向(例えば、上下方向)に移動する。これにより、テンションローラー50は、ワイヤー20の張力を強めたり弱めたりすることができる。なお、テンションローラー50の移動は、例えばアクチュエータ(図示せず)による伸縮運動又は屈伸運動等により行う。
【0021】
補助ローラー60は、例えば一対設けられており、一定の距離を置いて配置されている。これら補助ローラー60は、ワイヤー列21に対しインゴット1からの負荷がない状態で、ワイヤー列21に当接してワイヤー列21の張力を増加させるものである。補助ローラー60は、例えばローラー10よりも径の小さいローラーである。
図3(a)及び(b)は、補助ローラー60の構成例を示す概念図である。図3(a)及び(b)に示すように、補助ローラー60は軸61を有し、この軸61は例えば支持部62によって固定されている。また、この補助ローラー60は、走行しているワイヤー列21に押し当てられることにより、その軸61を中心にワイヤー列21の移動に対応して回転する。即ち、この補助ローラー60は、回転自在となっている。
【0022】
一例を挙げると、支持部62は、Z軸方向へ補助ローラー60をワイヤー列21の側に押圧するように筐体(図示せず)に固定されている。これにより、補助ローラー60は、その外周面がワイヤー列21に押し当てられている。この状態で、ワイヤー列21がX軸方向へ移動すると、補助ローラー60はワイヤー列21を押圧した状態でワイヤー列21の移動方向へ回転する。
【0023】
なお、図3(a)及び(b)に示すように、補助ローラー60の表面には、軸方向(即ち、Y軸方向)に一定の離間距離(即ち、ピッチ)で複数の溝63が形成されていてもよい。この場合、複数の溝36のY軸方向へのピッチは、例えば、複数のワイヤー列21のY軸方向へのピッチと同じ長さであることが好ましい。これにより、補助ローラー60がワイヤー列21を押圧しているときは、複数の溝36の各々に複数のワイヤー列21の各々が入り込んだ状態となり、ワイヤー列21のY軸方向への位置ずれを抑制することができる。
【0024】
また、図1に示すよう、一対の補助ローラー60は、例えばワイヤー列21の走行方向(即ち、X軸方向)において、ワイヤー列21のインゴット1が押し当てられる位置(即ち、切断位置)22の前後の位置23を押圧するように、それぞれ配置されていることが好ましい。これにより、一対の補助ローラー60は、切断位置22の張力を、この切断位置22を挟む前後の位置23を支点として高めることができる。ワイヤー列21に張力を付与する支点の位置23を切断位置22の前後に配置することができる。また、これら支点の位置23を切断位置22に近づけて配置することができる。このため、ワイヤー列21において、切断位置22の張力をより均一に高めておくことができる。
【0025】
ワークホルダー70は、インゴット1を保持するものであり、ワイヤー列21の上方に配置されている。ワークホルダー70は、インゴット1を保持した状態で下降する(即ち、ワイヤー列の側に移動する)ことにより、インゴット1をワイヤー列21に押し当てることができる。ワークホルダー70の昇降動作は、例えば、ワークホルダー70に取り付けられたシャフト(図示せず)をモーター(図示せず)で駆動して正・逆回転することにより行う。
【0026】
(動作)
次に、上記のワイヤーソー100の動作例を説明する。
図4(a)〜(c)は、ワイヤーソー100によるインゴット1の切断工程を示す概念図である。図4(a)に示すように、まず始めに、ワークホルダー70がインゴット1を保持する。上述したように、インゴット1は例えば多結晶シリコンである。また、このインゴット1の形状は、例えば四角形の断面を有する四角柱である。また、テンションローラー50が例えば上昇又は下降して、ワイヤーの張力を調整する。調整後のワイヤーの張力は、例えば25N〜35Nの間である。また、図5に示すように、ワイヤー列21の離間距離(即ち、ピッチ)は、例えば325μmである。
この状態で、一対のワイヤーボビン30が同期をとって自転し、ワイヤーの繰り出しと巻き取りとを行う。これにより、ワイヤー列21は例えば往復移動する。ワイヤー列21の移動速度は、例えば200m/min〜1000m/minの間である。
【0027】
次に、図4(b)に示すように、ワークホルダー70が下降して、インゴット1をワイヤー列21に押し当てる。この切断の初期段階では、ワイヤー列21には補助ローラー60が押し当てられており、ワイヤー列21の張力は補助ローラー60により高められている。このため、ワイヤーソー100は、切断の初期段階においてワイヤー列21が撓むことを抑制することができ、ワイヤー列21にインゴット1が接触した直後からワイヤー列21の背力を速やかに発現させることができる。
【0028】
また、このワイヤーソー100では、少なくともインゴット1が切断される際に、補助ローラー60のローラーに対する位置は固定されている。このため、図4(c)に示すように、ワークホルダー70がさらに下降すると、インゴット1はワイヤー列21に強く押し当てられる。そして、補助ローラー60はワイヤー列21から離れ、ワイヤー列21の張力はインゴット1により保持されることとなる。つまり、ワイヤー列21によるインゴット1の切断が安定すると、ワイヤー列21と補助ローラー60とが離れた状態となり、ワイヤー列21の背力はインゴット1に集中する。このため、ワイヤーソー100はインゴット1を効率良く切断することができる。
この実施形態では、ワイヤーソー100が本発明の「切断装置」に対応している。
【0029】
(比較)
図6(a)及び(b)は、参考例に係るワイヤーソーと、本発明の実施形態に係るワイヤーソー100とにおける背力の立ち上がりを比較した図である。図6(a)及び(b)において、横軸はインゴットがワイヤー列に接触してからのワークホルダーの下降量を示す。また、縦軸は、ワイヤー列の背力の大きさを示す。また、参考例に係るワイヤーソーは、例えば図1において補助ローラーを取り外した形態(即ち、補助ローラーを具備しない形態)を有する。
【0030】
図6(a)に示すように、参考例に係るワイヤーソーでは、ワークホルダーの下降量が15mmに到達するまでは、背力はほぼ一定の割合で徐々に増大する。そして、15mmに到達した後は、背力は一定となる(切断が安定する)。切断の移行段階(例えば、ワークホルダーの下降量が15mmに到達するまでの間)では、背力が小さくてワイヤー列の撓み量が大きく、インゴットにおける被切断の方向が安定しなかった。
【0031】
これに対して、図6(b)に示すように、本発明の実施形態に係るワイヤーソー100では、インゴットがワイヤー列に接触した直後の、移行段階の初期(即ち、切断の初期段階)において、背力は急激に増大する。その後、ワークホルダーの下降量が15mmに到達するまでの間は、背力はごく緩やかに増大し、15mmに到達した後は一定となる(切断が安定する)。このように、ワイヤーソー100では、切断の移行段階において、その初期段階を除けば、背力は既に大きくてワイヤー列の撓み量は小さい。これにより、インゴットにおける被切断の方向が安定することが確認された。
【0032】
(実施形態の効果)
本発明の実施形態によれば、以下の効果を奏する。
ワイヤー列21に対しインゴット1からの負荷がない状態で、ワイヤー列21の張力は補助ローラー60により高められている。このため、ワイヤーソー100は、切断の移行段階においてワイヤー列21が撓むことを抑制することができ、その背力を速やかに発現させることができる。
これにより、ワイヤーソー100は、インゴット1における被切断の方向を安定化することができ、予め設定された位置でインゴット1を高精度に切断することができる。従って、ワイヤーソー100は、厚さが均一で表面の平坦性が高い(即ち、うねりの小さい)ウエハを製造することができる。
【0033】
(変形例)
図7は、本発明の実施形態に係るワイヤーソー100の変形例を示す概念図である。図7に示すように、上記のワイヤーソー100は冷却ノズル80を備えていてもよい。この冷却ノズル80は、連続又は断続的に、ワイヤー列21に向けて冷却媒を噴出する。冷却媒は、例えば純水である。ワイヤー列21はインゴットとの摩擦により加熱されるが、ワイヤー列21に冷却水が供給されることにより、ワイヤー列21が過度に高温となることを防ぐことができる。
【0034】
また、上記の実施形態では、例えば図2に示したように、ワイヤー20として、表面に砥粒が固着された固定砥粒付ワイヤーを用いる場合について説明した。しかしながら、本発明において、ワイヤー20の構成はこれに限られることはない。
上記の実施形態において、ワイヤー20は、例えば金属線の表面に砥粒が固着されていないタイプのものを使用してもよい。この場合においても、一対のローラー10間にワイヤー20を巻き掛けてワイヤー列21を構成する。そして、このワイヤー列21に砥粒を含むスラリーを吹き掛けながら、ワイヤー列21を往復移動させ、又は、一方向に移動させる(即ち、走行させる)。
【0035】
上記の構成であっても、ワイヤー列21にインゴットを押し当てることにより、インゴットを切断することができ、ウエハを製造することができる。また、この場合においても、図1に示したように、ワイヤー列21に補助ローラー60を押し当てることにより、このワイヤー列21の張力を高めることができる。このため、上記の実施形態と同様に、インゴット1における被切断の方向を安定化することができる。
【0036】
なお、本発明は、インゴットが多結晶構造の半導体からなる場合に適用して極めて好適である。しかしながら、本発明において、切断の対象となるインゴットは必ずしも多結晶構造に限定されるものではない。例えば、切断の対象は、単結晶構造の半導体、又はアモルファス構造の半導体からなるインゴットであってもよい。この場合も、インゴットにおいて被切断の方向の安定化に寄与することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 インゴット
10 ローラー
20 ワイヤー
21 ワイヤー列
30 ワイヤーボビン
40 ガイドローラー
50 テンションローラー
60 補助ローラー
70 ワークホルダー
80 冷却ノズル
100 ワイヤーソー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のローラーと、前記一対のローラー間に予め設定された張力で掛け渡されるワイヤーとを備え、前記ワイヤーを前記ローラー間で移動させながら当該ワイヤーにインゴットを押し当てて該インゴットを切断する切断装置であって、
前記ワイヤーに対し前記インゴットからの負荷がない状態で、前記一対のローラー間の前記ワイヤーに当接して当該ワイヤーの張力を増加させる補助ローラー、を備えることを特徴とする切断装置。
【請求項2】
前記ワイヤーによる前記インゴットの切断が安定すると前記ワイヤーと前記補助ローラーとが離れた状態となることを特徴とする請求項1に記載の切断装置。
【請求項3】
前記補助ローラーを一対備え、
前記一対の補助ローラーは、前記ワイヤーの走行方向において、前記ワイヤーの前記インゴットが押し当てられる位置の前後の位置にそれぞれ当接することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の切断装置。
【請求項4】
前記ワイヤーは、表面に砥粒が固着された固定砥粒付ワイヤーであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の切断装置。
【請求項5】
一対のローラー間に予め設定された張力でワイヤーを掛け渡し、前記ワイヤーを前記ローラー間で移動させながら当該ワイヤーにインゴットを押し当てて該インゴットを切断することにより、前記インゴットから基板を製造する方法であって、
前記ワイヤーに対し前記インゴットからの負荷がない状態で、前記一対のローラー間の前記ワイヤーに補助ローラーを当接させて当該ワイヤーの張力を増加させることを特徴とする基板の製造方法。
【請求項6】
前記基板は半導体ウエハであることを特徴とする請求項5に記載の基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の切断装置を用いて作製されたことを特徴とする半導体ウエハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−107162(P2013−107162A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253163(P2011−253163)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000139687)株式会社安永 (23)
【Fターム(参考)】