説明

列車モニタ・データ伝送システムを有する列車制御装置

【課題】常に編成全体として粘着限界値に近いトルクを発生させて粘着力の有効利用を図ることができる列車制御装置を提供すること。
【解決手段】先頭電動車の電気車制御装置B1で空転あるいは滑走を最初に検知すると、そのときの接線力係数Muj(B1)を推定し、この接線力係数と、先頭車から後方の車両における粘着係数の増大量データDeltaMujと、計画トルク指令値Tauczjをもとに、各電気車制御装置B1,Ajにおける実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを求め、車両モニタ・データ伝送システム1を介して各電気車制御装置に対して伝送する。各電気車制御装置B1,Ajでは、上記トルク指令値上限値Taujmax_actを目標値として、各電気車制御装置の制御対象範囲の電動機でトルクを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車の良好な乗り心地を維持しつつ編成列車全体として粘着力の有効利用を図った再粘着制御を実現するための、列車モニタ・データ伝送システムを有する列車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車、例えば電車は、車輪・レール間の接線力(粘着力ともいう)によって加減速を行っているが、この接線力は、一般にすべり速度に対して図17に示すような特性を有している。図17はすべり速度に対する接線力(接線力係数)を示したものであり、横軸はすべり速度、縦軸は接線力(接線力係数)であり、実線はレール面湿潤時、破線はレール面乾燥時を示している。なお、接線力を軸重(車軸1軸当たりのレールに加わる垂直荷重)で割ったものを接線力係数、接線力係数の最大値を粘着係数という。
図示の如く、接線力の最大値を超えないトルクを主電動機で発生している場合は、空転・滑走は発生せず、接線力の最大値より左側の微小なすべり速度の粘着領域で電気車は走行する。もし最大値より大きなトルクを発生するとすべり速度は増大し、接線力が低下するので、ますます、すべり速度が増大する空転・滑走状態になるが、車輪およびレールが乾燥状態では主電動機で発生するトルクは接線力の最大値を超えないように車両の性能が設定されるので、空転・滑走は発生しない。
【0003】
しかし、実線で示すように、レール面が雨などによって湿潤状態にある場合は粘着係数が低下して、接線力の最大値が車両の設定性能に対応した主電動機の発生トルクより小さくなる。
この場合、すべり速度が増大して空転・滑走状態になり、そのまま放置するとこれに対応して接線力が低下し、車両の加速・減速に必要な加減速力がますます低下してしまうので、迅速に空転・滑走を検出し、主電動機が発生するトルクを低減して再粘着させることが必要になる。このようにトルクの制御を行って再粘着させる場合、小さなすべり速度に維持しつつ、主電動機の発生トルクが極力接線力の最大値近傍の値になるように制御すること、すなわち極力粘着力の有効利用を図ることが、電気車の加減速性能を高める上で必要である。
【0004】
このような再粘着制御の実現を目的とした方法として、主電動機の回転速度を主電動機に印加される電圧・電流から推定し、この推定速度情報と主電動機発生トルクの演算値を入力情報として、最小次元外乱オブザーバを用いて車輪・レール間の接線力に対応した主電動機トルクを制御周期毎に推定して、空転・滑走検知時の推定トルクを用いて主電動機の発生トルクを制御する方式が、提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
この制御方式によって、良好な乗り心地を保ちつつ、主電動機の発生トルクを極力接線力の最大値近傍に、すなわち粘着限界値に近い値に維持することができつつある。
【0005】
しかしながら、上記の制御が実現しているのは個々の電動車などを独立に制御する場合についてである。
ところで、複数の電動車と付随車で構成された電車列車で、列車長が長い場合などにおいては、先頭車両や先頭車両に近い車両では空転・滑走が頻発する場合でも、後方の車両では殆ど空転・滑走が発生しない事象がしばしば経験されるところである。この事象は、進行方向前方に位置する車両の車輪でレール面上の水分を排除するなどの理由によって、後方の車両の粘着係数が高くなるためであると一般的に解釈されている。
【0006】
この場合について、現状では、前方の車両で空転・滑走を検知した場合に、この車両では前述のような粘着限界値に近いトルクを発生する再粘着制御が行われる場合があるが、粘着係数が高くなって空転・滑走の発生がない後方の車両では、車両の計画性能で設定されたトルクの上限値までのトルクを指令するにとどまっている場合が多い。
実際には、後方の空転・滑走を検知していない車両では、車両の計画性能で設定されたトルクの上限値以上にトルクを発生させて、車両の計画性能に近い加減速性能を維持する余力がある場合が多い。すなわち編成列車全体として粘着力の利用率を向上させることのできる余地があるのに、一部の新幹線電車の例があるのみで、それがなされていない。これは、どれだけ後方の車両でトルクを発生させれば良いのか明確な指針が得られていないからである。
【0007】
このような編成全体として粘着力の有効利用を図るための試みとして、特許文献2に記載されている技術が知られている。
この例では、前方車両の空転・滑走を予め想定し、車両編成全体として一定のトルクが得られるように、想定した空転・滑走で低減される前方車両のトルクを後方の車両で分配するもので、トルクの配分を予め想定している。
これに対して、特許文献3に記載されているように、トルクの配分を予め想定するのではなく、状態に応じて柔軟にトルクを分配する試みもなされている。この例の場合、車上通信ネットワークを介して収集した各車両駆動装置の状態に応じて、それぞれの車両駆動装置のトルク指令値を決定する。
第一の車両駆動装置のトルク指令値を低減する場合に、当該低減されたトルク量が第一の車両駆動装置とは異なる第二の車両駆動装置に分配されるようにそれぞれの車両駆動装置のトルク指令値を決定するとともに、決定したトルク指令値を車上通信ネットワーク経由で車両駆動装置に伝達するとしている。
【0008】
特許文献2に記載されている技術の場合、予め想定した空転・滑走が発生した場合には編成車両全体として必要とするトルクが得られことがあるかもしれないが、画一的にトルク配分を決めても、殆どの場合編成列車全体として想定したとおりの性能が得られることがないといえる。
すなわち、粘着係数は列車速度、レール面に付着している水膜の厚さ(言い換えると、単位時間あたりの降雨量が多いか少ないかなど)、水膜の温度(言い換えると外気温が高い夏季か外気温が低い冬季なのか)などによって、さまざまに、あるいは時々刻々変化するので、画一的なトルク配分制御では殆ど対応できない。
例えば、列車速度による粘着係数の変化を考慮の対象外としたとしても、粘着係数が高くなる夏季における空転・滑走を想定してトルク配分を設定した場合、夏季においては編成全体として計画性能を維持できることが比較的多いかもしれないが、このような設定では、外気温が低い冬季の粘着係数が非常に低下した場合については全く対応できなくなる。今度は、冬季の粘着係数が非常に低下した場合を想定してトルク配分を設定すると、夏季においては編成全体としてもっと加減速性能を高めることができるのに、それが実現できないことになる。
【0009】
また、特許文献3に記載されている技術では、予めトルク配分を設定するのではなく、編成内の各車両の空転・滑走の発生状況に応じて動的に各車両のトルク指令値を変化させ、ある程度制御時間が経過すると制御状態変化がなくなり、各車両のトルク指令値がほぼ適正な値に収斂し、天候や状況に応じた柔軟な制御が可能であるとしている。
しかしながら、この制御方式では、仮にある制御状態に収斂するとしても、収斂するまでの間各車両のトルク指令値が動的に変動するので、乗り心地が悪くなることが先ず考えられる。また、どのような再粘着制御方式が用いられるかによっても異なるが、ある制御状態に収斂しても、再粘着制御方式の性能が悪ければ、粘着力の利用率が悪い状態に収斂してしまう可能性が高く、結果として編成全体として粘着力の有効利用が図れないことになる。
【0010】
16両編成の新幹線電車のように、車両の計画トルク特性に対応した粘着係数すなわち期待粘着係数が低く設定されていて、列車長が長く後方の車両の粘着係数向上効果がより得られる車両の場合は、粘着限界に近いトルクを指令する制御が行われていなくても、編成全体として計画加減速性能が得られる可能性があるかもしれない。
しかし、加速・減速時間が新幹線よりも短く相対的に上記の動的にトルクが変動している時間の割合が大きくなる10両以下の列車長である場合が多い在来鉄道車両の場合は、ある制御状態に収斂するまでの期間において粘着力の有効利用が図れないと、加減速性能に大きく影響することになる。特に粘着係数が大きく低下する冬季においては、制御終了まで空転・滑走が編成内のどの車両でも発生していて、適正値に各車両のトルクが収斂することがなくなることが容易に想定される
このように、編成列車の粘着条件は四季を通じて多様に変化するが、どのような粘着条件のときであろうとも、編成列車全体として、加減速制御開始時から常に粘着限界に近いトルクの発生によって加減速性能を極力高める、すなわち粘着力の有効利用が図られることが望まれるが、現状では前述のようにこのような要求に対して十分応えられているとは言えない。
【0011】
編成列車における先頭軸からの各車軸の軸位別粘着係数の測定例は、たとえば非特許文献2,3,4などに開示されている。例えば、非特許文献2には、在来線電車、新幹線電車における粘着係数の測定例が示されており、非特許文献3には、新幹線の営業電車における、滑走頻度データを、棒グラフで表したものが示されており、非特許文献4には、上記各車軸の軸位別粘着係数を用いた編成列車におけるシミュレーションについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−252716号公報
【特許文献2】特開平5−276606号公報
【特許文献3】特許第4225233号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】門脇悟志、畑正、廣瀬寛、大石潔、飯田哲史、高木正志、佐野孝、保川忍:「速度センサレスベクトル制御・外乱オブザーバによる空転再粘着制御の実車両への適用とその評価−205系5000番代電車における実例−」、電気学会論文誌D、平成16年9月号、pp909−915
【非特許文献2】大山忠夫:「鉄道車両のブレーキ技術(2)―ブレーキにおける粘着理論(その1)―」、機械の研究、第48巻、10号(1996)
【非特許文献3】大山忠夫:「鉄道車両のブレーキ技術(3)―ブレーキにおける粘着理論(その2)―」、機械の研究、第48巻、11号(1996)
【非特許文献4】今井一富、大石潔、佐野孝、牧島信吾、保川忍:「電車編成における軸別粘着係数分布のモデル化と空転再粘着制御」、電気学会交通・フィジカルセンサ合同研究会、TER−09−1(PHS−09−1)、平成21年2月4日、pp1−6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、編成列車の粘着条件は四季を通じて多様に変化するが、どのような粘着条件のときであろうとも、編成列車全体として、加減速制御開始時から常に粘着限界に近いトルクの発生によって加減速性能を極力高める、すなわち粘着力の有効利用が図られることが望まれる。
しかし、現状では前述のようにこのような要求に対して十分応えられているとは言えない。すなわち、予め想定した配分パターンによってトルク配分する方式の場合、想定した空転・滑走を上回る空転・滑走が発生したときは車両全体として必要とするトルクが得られず加減速性能の向上があまり期待できないことである。
【0015】
また、編成内の各車両の空転・滑走の発生状況に応じて動的に各車両のトルク指令値を変化させる方式の場合、ある制御状態に収斂するとしても収斂するまでの間各車両のトルク指令値が動的に変動するので、乗り心地が悪くなることが想定され、収斂するまでの間および収斂した制御状態が必ずしも粘着力の有効利用が図られた状態になることが保証されないことである。
本発明は上述した点に鑑み創案されたもので、その目的とするところは、常に編成全体として粘着限界値に近いトルクを発生させて粘着力の有効利用を図ることができる列車モニタ・データ伝送システムを有する列車制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するため、本発明は、新幹線の営業電車列車におけるATCブレーキ作動時の各車両の各車軸位置における滑走頻度分布の冬季を含む長期間に亘るデータから、先頭車両を基準にした各車両・各軸位の粘着係数増分データを作成し、先頭電動車あるいは先頭車に最も近い電動車で空転・滑走を検知した場合にそのときの接線力係数を推定して、この推定接線力係数と各車両の粘着係数増分データから各車両の接線力係数の上限値を設定し、接線力係数の上限値に対応したトルク指令値の上限値を演算して各車両に割り当てて、編成全体で計画性能が確保できると推定された場合は、後方の車両のトルク指令値を増大させることで前方の車両のトルク低減分を補う。
また、冬季の粘着係数が大きく低下したときのように計画性能が確保できない場合は、各車両に割り当てられた粘着係数の推定値に対応したトルク指令値どおりのトルクを発生するようにして、常に編成全体として粘着限界値に近いトルクを発生させて粘着力の有効利用を図る。
【0017】
すなわち、本発明においては、次のようにして上記課題を解決する。
(1)電車列車の先頭に位置する電動車または先頭車両に最も近い電動車の電気車制御装置B1と、該電動車より進行方向後方に位置する電動車の電気車制御装置Aj(j=2〜n)と、各電動車の各電気車制御装置B1,Aj間でデータを伝送する機能を有する列車モニタ・データ伝送システムとを有する、複数の電動車と付随車で構成される電車列車の列車制御装置において、以下のようにして主電動機のトルク制御を行なう。
上記電気車制御装置B1は、予め設定された先頭車両の粘着係数に対する進行方向後方に位置する電動車の先頭車両からの位置に対する粘着係数の増加量データDeltaMuj(j=2〜n)と、各電気車制御装置B1、Ajが搭載されている電動車の空車質量データW0j(j=1〜n、但しj=1のときは電気車制御装置B1のデータを意味する、以下同じ)と、当該電動車が空車のときの前記各電気車制御装置B1,Ajの計画トルク指令値Tauczj(j=1〜n)とを保持した記憶手段と、電気車制御装置Ajから送られてきた応荷重信号データdWj(j=2〜n)を受信する手段と、上記電気車制御装置B1における空転を検知する空転検知手段と、上記空転検知手段による空転検知結果に基づき、各電気車制御装置B1,Ajで実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_act(j=1〜n)を求めるトルク指令値上限値演算手段と、上記演算結果である実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを上記列車モニタ・データ伝送システムを介して、各電気車制御装置Ajに伝送する手段と、電気車制御装置B1の上記実際に発生すべきトルク指令値上限値Tau1max_actを目標値として主電動機のトルク制御を行なう手段を備える。
上記各電気車制御装置Ajは、自車に伝送された上記実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを目標値として主電動機のトルク制御を行なう手段を備え、上記電気車制御装置B1に設けられたトルク指令値上限値演算手段は、上記空転検知手段により空転が検知されないとき、予め設定された当該電車列車の加速性能から算定された期待粘着係数Muz_exptを、電気車制御装置B1,Ajの接線力係数上限値Mujmax(j=1〜n)に設定し、上記記憶手段に保持された電気車制御装置B1、Ajの空車質量W0jと、前記応荷重信号dWjを用いて、前記接線力係数上限値Mujmaxに対応した実際に発生すべき上記トルク指令値上限値Taujmax_act(j=1〜n)を求める。
また、上記空転検知手段により空転が検知されたとき、空転検知結果に基づき、電気車制御装置B1の推定接線力係数Muj(B1)を求め、該推定接線力係数Muj(B1)から電気車制御装置B1の接線力係数上限値Mu1maxを求めるとともに、該推定接線力係数上限値Mu1maxと、前記記憶手段に記憶された各電気車制御装置Ajの粘着係数増加量データDeltaMujにより各電気車制御装置Ajの接線力係数上限値Mujmax(j=2〜n)を求め、上記接線力係数上限値Mujmax(j=1〜n)と、前記空車質量W0jと、電気車制御装置B1の応荷重信号dWjと、前記受信した応荷重信号dWj(j=2〜n)に基づき、上記電気車制御装置B1,Ajのトルク指令値上限値Taujmax(j=1〜n)を演算し、また、前記記憶手段に保持された計画トルク指令値Tauczj(j=1〜n)と、前記応荷重信号dWj(j=1〜n)を用いて、前記各電気車制御装置B1,Ajの実際に指令すべき計画トルク指令値Taucj(j=1〜n)を演算する。
そして、電気車制御装置B1に最も近い電気車制御装置A2から最後尾の電気車制御装置Anまでの間の電気車制御装置Ak(k=2〜n)の各々について、該電気車制御装置Akより前方で電気車制御装置Akに最も近い電気車制御装置Ak−1までの各電気車制御装置の上記トルク指令値上限値Taujmaxの合計値である第1の合計値Tautkと、上記計画トルク指令値上限値Taucjの合計値である第2の合計値Tauctkとを求め、上記第1の合計値Tautkが第2の合計値Tauctk以下のときは、当該電気車制御装置Akの上記トルク指令値上限値Taujmax(j=1〜n)を実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actに設定し、上記第1の合計値Tautkが第2の合計値Tauctkより大きいときは、当該電気車制御装置Akの上記計画トルク指令値Taucjを実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actに設定する。
【0018】
(2)上記(1)の電気車制御装置および列車モニタ・データ伝送システムにおいて、各電気車制御装置Ajに、空転検知手段と、空転検知結果に基づき当該電動車の推定接線力係数Muj_newを演算する推定接線力係数演算手段を設け、また、電気車制御装置B1に前記粘着係数の増加量データDeltaMujを修正する粘着係数増加量修正手段を設ける。
そして、電気車制御装置Ajで空転検知した場合、電気車制御装置Ajは、上記推定接線力係数演算手段で上記当該電動車の推定接線力係数Muj_newを演算し、前記列車モニタ・データ伝送システムを介して、前記電車列車の各走行方向の先頭に位置する電動車の電気車制御装置B1に、前記推定接線力係数Muj_newを伝送し、前記電気車制御装置B1は、前記粘着係数増加量修正手段により、伝送されてきた前記推定接線力係数Muj_newを用いて前記電気車制御装置B1において保持している前記粘着係数の増加量データDeltaMujを修正する。
【0019】
(3)上記(1)または(2)の列車モニタ・データ伝送システムを有する列車制御装置において、前記各電動車は、電気車制御装置B1,Ajが制御する電動車で発生すべき空気ブレーキ力指令値Fair_cj(j=1〜n)を発生するブレーキ受量器Brj(j=1〜n)を備え、電気車制御装置B1は、ブレーキ中に滑走を検知したとき、上記ブレーキ受量器Br1から空気ブレーキ力指令値Fair_c1を受信し、受信した前記空気ブレーキ力指令値Fair_c1と当該電気車制御装置B1で制御し発生している電気ブレーキ力Felec1とから当該電動車の推定接線力係数Muj(B1)を演算するブレーキ時接線力係数推定手段と、主電動機のブレーキトルク制御を行うブレーキトルク制御手段を備え、上記各電気車制御装置Ajは、トルク指令値上限値演算手段と主電動機のブレーキトルク制御を行うブレーキトルク制御手段を備える。
前記トルク指令値上限値演算手段は、ブレーキ時、空気ブレーキ力と電気ブレーキ力の合計値として上記ブレーキ時接線力係数推定手段により推定された推定接線力係数Muj(B1)に基づき、各電気車制御装置B1,Ajで実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_act(j=1〜n)を求め、電気車制御装置B1のブレーキトルク制御手段は、上記トルク指令値上限値Tau1max_actから自車空気ブレーキ力指令値Fair_c1を減算し、この減算結果を目標値として主電動機ブレーキトルク制御を行い、上記各電気車制御装置Ajのブレーキトルク制御手段は、ブレーキ時に自車に伝送された上記トルク指令値上限値Taujmax_actから自車空気ブレーキ力指令値Fair_cjを減算し、この減算結果を目標値として主電動機ブレーキトルク制御を行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)先頭電動車あるいは先頭車に最も近い電動車の電気車制御装置において、空転あるいは滑走を最初に検知した時点から、営業電車列車で長期間に亘って計測された各車軸別滑走頻度データを基に算出した先頭車から後方の車両における粘着係数の増大量データと、先頭電動車あるいは先頭車に最も近い電動車の接線力係数の推定結果を基に、編成列車内の各電動車で発生すべきトルク指令値を演算して各電動車に指令するようにしたので、編成全体として、良好な乗り心地を保ちつつ粘着力の有効利用が可能となり、電車列車の加減速性能のさらなる向上を図ることができる。
(2)各電気車制御装置に空転検知手段と、空転検知結果に基づき当該電動車の推定接線力係数を演算する推定接線力係数演算手段を設け、また、先頭電動車あるいは先頭車に最も近い電動車の電気車制御装置に粘着係数の増加量データを修正する粘着係数増加量修正手段を設け、各電気車制御装置で検知した空転検知結果を、先頭電動車あるいは先頭車に最も近い電動車の電気車制御装置に伝送し、粘着係数の増加量データを修正するようにしたので、粘着係数の増加量データを空転検知結果に応じて、適切な値に修正することが可能となる。
(3)ブレーキ時、推定接線力係数に基づき、各電気車制御装置で実際に発生すべきトルク指令値上限値を求め、各電気車制御装置で、主電動機ブレーキトルク制御を行うようにしたので、ブレーキ時にも、編成全体として良好な乗り心地を保ちつつ粘着力の有効利用が可能となり、電車列車の減速性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施例の電気車制御装置と車両モニタ・データ伝送システムのデータ伝送路の概要を示すブロック図である。
【図2】電気車制御装置が搭載されている電動車における駆動・ブレーキ制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施例における電車列車の先頭の電動車に搭載されている電気車制御装置B1の詳細ブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施例における電気車制御装置Ajの詳細ブロック図である。
【図5】空転検知手段の機能を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施例における各電気車制御装置で実際に指令すべきトルク指令値上限値の決定方法を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施例における各電気車制御装置の制御動作のフローチャート(1)である。
【図8】本発明の第1の実施例における各電気車制御装置の制御動作のフローチャート(2)である。
【図9】本発明の第1の実施例における各電気車制御装置の制御動作のフローチャート(3)である。
【図10】粘着係数の測定例を示す図である。
【図11】新幹線電車の編成内車軸別滑走件数データの例を示す図である。
【図12】式(11)、(12)から数値解析によって求めた車軸毎のkjσを示した図である。
【図13】電車列車の走行方向の先頭車の粘着係数(4軸分の平均値)に対する進行方向後方に位置する電動車の先頭車両からの位置に対する粘着係数(4軸分の平均値)の増加量データDeltaMujである。
【図14】本発明の第2の実施例の電気車制御装置と車両モニタ・データ伝送システムのデータ伝送路の概要を示すブロック図である。
【図15】本発明の第3の実施例の電気車制御装置と車両モニタ・データ伝送システムのデータ伝送路の概要を示すブロック図である。
【図16】ブレーキ指令とブレーキパターン、電気ブレーキ力、空気ブレーキ指令の関係を示す図である。
【図17】接線力係数あるいは接線力のすべり速度に対する一般的な特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、後述の営業電車列車で長期間に亘って計測された各車軸別滑走頻度データを基に算出した先頭車から後方の車両における粘着係数の増大量データを用意し、先頭電動車あるいは先頭車に最も近い電動車の電気車制御装置において、空転あるいは滑走を最初に検知した時点から、先頭電動車あるいは先頭車に最も近い電動車の電気車制御装置において空転あるいは滑走を検知したときの接線力係数の推定値をもとに、上記増大量データに基づき、各電気車制御装置におけるトルク指令値上限値を求め、車両モニタ・データ伝送システムのデータ伝送回線を介して各電気車制御装置に対して、トルク指令値上限値を伝送する。
そして、各電気車制御装置で、伝送されてきたトルク指令値上限値を目標値として各電気車制御装置の制御対象範囲の電動機で発生するように制御することで、編成電車列車全体として極力粘着力の有効利用を図って電車列車の加減速性能を向上させる。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明の第1の実施例を実現する電気車制御装置と車両モニタ・データ伝送システムのデータ伝送路の概要を示すブロック図、図2は電動車の力行・ブレーキ制御系の概略構成を示すブロック図、図3は本発明の第1の実施例における電車列車の先頭の電動車に搭載されている電気車制御装置B1の機能ブロック図である。
なお、ここで、図3では電車列車の先頭の電動車に搭載されている電気車制御装置を電気車制御装置B1として示しているが、先頭列車が電動車でない場合には、該電車列車の先頭車両に最も近い電動車の電気車制御装置が電気車制御装置B1となる。
また、図4は本発明の第1の実施例における、上記先頭の電動車に続く後続の電動車の電気車制御装置Ajの機能ブロック図である。
図5は空転検知手段の動作を説明する図、図6は本発明の第1の実施例における各電気車制御装置で実際に指令すべきトルク指令値上限値の決定方法を説明する図、図7〜図9は本発明の第1の実施例における各電気車制御装置の制御動作のフローチャート、図10は粘着係数の測定例、図11は新幹線電車の編成内車軸別滑走件数データの例、図12は新幹線電車の先頭軸からの軸位別粘着係数分布の計算値、図13は電車列車の走行方向の先頭車の粘着係数(4軸分の平均値)に対する進行方向後方に位置する電動車の先頭車両からの位置に対する粘着係数(4軸分の平均値)の増加量データDeltaMujを示す図である。
【0024】
図1は本発明の第1の実施例を実現する電気車制御装置と車両モニタ・データ伝送システムのデータ伝送路の概要を示すブロック図であり、図1は、先頭車が電動車である場合を示しており電気車制御装置B1が先頭車両として示され、それより後方の電気車制御装置A2から最後尾の電気車制御装置Anがその後に示されている。先頭車が電動車ではない場合は先頭車に最も近い電動車の電気車制御装置がB1となって表示されるが、システムの動作は図1の場合と変わらない。
図1に示すように、本発明の電車列車は、各電動車間で情報を伝送するための車両モニタ・データ伝送システム1を備え、また、先頭の電動車である電気車制御装置B1と後続の電気車制御装置A2〜Anはそれぞれ電気車制御装置B1の伝送手段11、電気車制御装置Ajの伝送手段21を備えており、これにより、電気車制御装置B1と電気車制御装置A2〜Anは相互にデータ伝送が可能である。
【0025】
電気車制御装置A2から最後尾の電気車制御装置Anは、自車の空車質量からの乗客による質量の増加分を表す応荷重信号dW2〜dWnを車両モニタ・データ伝送システム1の伝送路を介して電気車制御装置B1に伝送する。
電気車制御装置B1は、自車を含む各電気車制御装置の空車質量データW0j(j=1〜n)と、前述の粘着係数の増加量データDeltaMuj(j=2〜n)を保有し、このように伝送されてきた応荷重信号データおよび自車の応荷重信号dW1(j=1〜n)のデータと、空転検知したときに得られた接線力係数Muj(B1)に基づき、CPU等で構成される演算手段10により、後述するように各種の演算を行い、実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを演算する。そして、上記伝送手段11から車両モニタ・データ伝送システム1を介して、後続の各電気車制御装置Ajに伝送する。なお、ここで、j=1は先頭の電動車である電気車制御装置B1を指し、j=2〜nは後続の電気車制御装置Ajを指すこととする。
電気車制御装置B1および各電気車制御装置Ajは上記トルク指令値上限値Taujmax_actに応じて、各電動車のPWMインバータを制御する。
なお、上記粘着係数の増加量データDeltaMujがどのように算出されたものであるかは、後に詳しく述べる。
【0026】
以下、図2、図3、図4により、本実施例について詳細に説明する。
図2は電動車の力行・ブレーキ制御系の概略構成を示すブロック図である。
同図に示すように、本実施例の各電動車は、運転士の力行指令と、応荷重信号dWjに応じてトルク指令値を出力する前記電気車制御装置B1,Ajを備え、力行時、ベクトルコントローラ31はこのトルク指令を受けてPWMインバータ32を制御して、電動車の主電動機33のトルク制御等を行う。
【0027】
また、ブレーキ指令に応じて電気ブレーキ力と空気ブレーキ力を制御するブレーキ制御装置40を備える。
ブレーキ制御装置40は、ブレーキ指令を受信するブレーキ受量器Brjを備え、運転士のブレーキ操作が行われると、ブレーキ受量器Brjは、電気ブレーキ力に対応したブレーキパターンBr_patを発生して、電気車制御装置B1,Ajに送信する。
電気車制御装置B1,Ajでは受信したブレーキパターンBr_patに対応した電気ブレーキ力を発生すべくPWMインバータ32を制御するとともに、制御の結果発生した電気ブレーキ力Felecjをブレーキ受量器Brjに送信する。
ブレーキ受量器Brjでは、上記電気ブレーキ力Felecjとブレーキ指令から、空気ブレーキで発生すべき空気ブレーキ力指令値Fair_cjを演算して(空気ブレーキ力指令値Fair_cj=ブレーキ指令に対応したブレーキ力−電気ブレーキ力Felecj となるように演算する)、空気ブレーキ力発生装置41に送信するとともに、電気車制御装置Ajにも送信する。
空気ブレーキ力発生装置では、空気ブレーキ力指令値Fair_cjに対応した空気ブレーキ力を発生すべく圧縮空気ブレーキを制御してこれをブレーキシリンダ42に送り込み、その結果ブレーキシュー43が動輪44の踏面に押し当てられることによって空気ブレーキ力が発生する。
なお、以下に説明する第1、第2の実施例では、力行時における各電気車制御装置の再粘着制御について説明し、ブレーキ時を含む各電気車制御装置における再粘着制御については、第3の実施例で説明する。
【0028】
図3は電気車制御装置B1の機能構成を示すブロック図、図4は電気車制御装置B1に後続する電気車制御装置Aj(j=2〜n)の機能構成を示すブロック図である。
図3に示すように、電気車制御装置B1は記憶手段12を備え、記憶手段12には、予め、前記した電気車制御装置Ajの粘着係数の増加量データDeltaMuj、計画トルク指令値Tauczj、期待粘着係数Muz_exptが保持され、また、自車および他車から送られてきた応荷重信号dWj(j=1〜n)、空車質量W0j(j=1〜n)を記憶する。
また、上記記憶手段12に記憶されたデータと、空転検知手段14により検出された空転検知結果等に基づき、トルク指令値上限値Taujmax_actを演算するトルク指令値上限値演算手段13を備える。トルク指令値上限値演算手段13は前記演算手段10の一部を構成する。
トルク指令値上限値演算手段13により求めたトルク指令値上限値Taujmax_actは、自車のベクトルコントローラ31に送信されるとともに、伝送手段11から車両モニタ・データ伝送システム1を介して後続の電気車制御装置Ajに送信される。
【0029】
また、図4に示すように、電気車制御装置Ajは、自車の応荷重信号dWjを記憶する記憶手段22を備え、力行指令を受信すると、自車の応荷重信号dWjを伝送手段21から車両モニタ・データ伝送システム1を介して電気車制御装置B1に送信する。そして、電気車制御装置B1から車両モニタ・データ伝送システム1を介して送信されるトルク指令値上限値Taujmax_actを伝送手段21で受信して、自車のベクトルコントローラ31に送信する。
【0030】
図3、図4において、電気車制御装置B1は、運転士の図示しない主幹制御器(マスコン)の操作によって発生した力行指令を受信すると、受信したこの力行指令に対応した記憶手段12に記憶されている期待粘着係数Muz_exptと空車時の計画トルク指令値Tauczj等を取り出す。
電気車制御装置B1において、空転検知しない場合には、この期待粘着係数Muz_exptと空車時の計画トルク指令値Tauczjと、応荷重信号dWj、空車質量W0jとから実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを演算して、この実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを各電気車制御装置Ajに対して指令する。
図4に示す各電気車制御装置Ajは、実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを受信し、この実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actをベクトルコントローラ31に渡し、ベクトルコントローラ31はこの実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを発生すべく、PWMインバータ32を制御する。
なお、電気車制御装置B1およびAjでは、電動車1両分の4台の主電動機を一括制御(1C4M)するPWMインバータを想定している。
【0031】
図5は上記空転検知手段14の動作を説明する図である。同図に示すように、四つの動輪軸のそれぞれの演算軸加速度の平均値を表す平均演算軸加速度が、ある設定された第1の閾値αaを超えた場合に上記した空転検知が行われ、この平均演算軸加速度が、第2の閾値αb(ただしαb<αa)以下である場合には、空転状態にないものと判断する。
またブレーキ時については、四つの動輪軸のそれぞれの演算軸減速度の平均値を表す平均演算軸減速度が、ある設定された第1の閾値βaを超えた場合に滑走検知が行われ、この平均演算軸減速度が、第2の閾値βb以下である場合には、滑走状態にないものと判断する。
【0032】
電気車制御装置B1において空転が検知されると、空転が検知される度に、空転検知結果に基づき、その時の接線力係数Muj(B1)を推定する。
上記接線力係数Muj(B1)は、例えば前記特許文献1、非特許文献1に記載される外乱オブザーバの手法を用いて、制御周期毎に車輪・レール間の接線力に対応した主電動機軸で見たトルクおよび接線力係数を推定することができる。
以下簡単に、接線力係数Muj(B1)を求める方法について説明する。
電動車1両には、通常4軸の主電動機で駆動される動軸があり、本実施例では4台の誘導電動機を用いた主電動機を1台のインバータで一括制御することを想定している。しかし、接線力係数の推定には、1動軸モデルを用いる。この1動軸についての運動方程式は、以下の(1)、(2)式で表される。
ここで、Jm:主電動機軸から見た駆動系全体(動輪、車軸、大歯車、ピニオン、主電動機等) の慣性モーメント、ωm:主電動機の回転角速度、τm:主電動機トルク、τc:主電動機への負荷トルク、Rg:歯車比、μ(Vs):すべり速度Vsのときの接線力係数、W:動軸の軸重、g:重力加速度、r:動輪半径である。
そして、特許文献1の図1のブロック図で示す外乱オブザーバによって、上記負荷トルクτcを、以下の(3)式のように推定する。ここに、τ^c:推定負荷トルク、s:ラプラス演算子、a:外乱オブザーバの極(時定数の逆数) である。
(3)式で負荷トルクが推定されたら、以下の(4)式で接線力係数の推定値を求める。以上のように、主電動機トルクτmと主電動機の回転角速度ωmを外乱オブザーバへ入力して、推定接線力係数を演算することができる。
【0033】
【数1】

【0034】
図5に示す空転検知手段14によって空転・滑走を検知され、空転(滑走) 検知信号がオンになると、上記のように接線力係数Muj(B1)を推定して記憶する。
そして、この推定接線力係数Muj(B1)と、記憶手段12に記憶された粘着係数の増加量データDeltaMujを用いて、次の式により各電気車制御装置Ajが搭載されている電動車の接線力係数がこの値を超えることがない値であることを意味する接線力係数上限値Mujmaxを算出する。
Mujmax=Muj(B1)+dMuj(j=1,2,…,j,…n)
ここで、dMuj∈DeltaMujである。
そして、この値と空車質量W0j、応荷重信号データdWjを用いて各電気車制御装置Ajにおいて発生すべき「実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_act」を演算する。
なお、この値の算出方法については、図6〜図9を用いて後で詳述する。
そして、この実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを電気車制御装置B1からAjに伝送し、図2に示すように、各電気車制御装置AjはこのTaujmax_actを目標値として主電動機のトルク制御を行う。
【0035】
次に、図6と図7〜図9を用いて、実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actの算出方法について詳述する。なお、図6は前述の通り、各電気車制御装置で実際に指令すべきトルク指令値上限値の決定方法を説明する図、図7〜図9は、電気車制御装置B1とその他の電気車制御装置Ajの制御動作を示すフローチャートである。
図7〜図9において、[ステップS101]で、前述のように各電気車制御装置Ajが自車の応荷重信号dWjを電気車制御装置B1に伝送する。
電気車制御装置B1では、[ステップS102]に示すように記憶手段12に、電車列車の先頭車両の粘着係数に対する進行方向後方に位置する電動車の粘着係数の増加量データDeltaMujと、自車を含む各電気車制御装置が搭載されている電動車の空車質量データW0jを保有している。
[ステップS103]で、電気車制御装置B1であるのか否かの判定を行い、電気車制御装置B1でない場合には処理を終了する。また、電気車制御装置B1である場合には、[ステップS104]で、空転検知をしたか否かの判定を行う。
【0036】
(1)空転検知をしない場合
全く空転検知しないか前回の空転検知した時点からある時間以上経過した場合には空転検知がないと判断して、[ステップS117]の処理を行う。
すなわち、まず車両の計画加速性能を実現するために必要な粘着係数である期待粘着係数Muz_exptを、接線力係数上限値Mujmaxに設定する。
そして、各電気車制御装置Ajの空車質量W0jと応荷重信号dWjを用いて、接線力係数上限値Mujmaxに対応した実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを演算する。同様に、電気車制御装置B1において実際に発生すべきトルク指令値上限値Tau1max_actを求める。
実際に発生すべきトルク指令値上限値Tau1max_actが求まったら、[ステップS115]に行き、算出されたトルク指令値上限値Taujmax_actを、各電気車制御装置Ajに伝送する。
【0037】
ここで、接線力係数上限値Mujmaxと、応荷重信号dWjと空車質量W0jからトルク指令値上限値は以下のようにして算出される。
前述の(2)式は、車輪・レール間の接線力係数と負荷トルクとの関係を表しており、各電気車制御装置Ajでは、当該電動車の粘着係数に非常に近い接線力係数上限値Mujmaxに対応したトルクである実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを各電動機で発生することを目標として、電動機制御を行う。
そこで、当該電動車の空車質量W0jと乗客による質量の増加分を表す応荷重信号dWjとから動軸の実際の質量WをW=空車質量(1軸当たり)W0j+応荷重信号dWjによって求め、前記(2)式を用いてトルク指令値上限値Taujmax_actを、以下の(5)式で演算する。
Taujmax_act=Mujmax×(空車質量W0j+応荷重信号dWj)×g×r/ Rg…(5)
【0038】
(2)空転検知をした場合
[ステップS104]において電気車制御装置B1が空転検知した場合には、[ステップS105]にいき、空転検知結果に基づき自車の推定接線力係数Muj(B1)を演算し、これを自車の接線力係数上限値Mu1maxとして設定する。
そして、[ステップS106]で、この推定接線力係数Muj(B1)と粘着係数の増加量データDeltaMujのうち電気車制御装置Ajに対応する粘着係数の増加量データdMujを加算して、各電気車制御装置Ajの接線力係数上限値Mujmaxを算出する(ここでj=2〜n)。
つぎに[ステップS107]で、各電気車制御装置Ajの空車質量W0jと応荷重信号dWjを用いて、接線力係数上限値Mujmaxに対応した各電気車制御装置Ajのトルク指令値上限値Taujmaxを演算する。また、その際、電気車制御装置B1のトルク指令値上限値Tau1maxも演算される。
【0039】
[ステップS108]では、記憶手段12に記憶された列車が空車のときの電気車制御装置Ajの計画トルク指令値Tauczjと応荷重信号dWjを用いて、電気車制御装置Ajの実際に指令すべき計画トルク指令値Taucjが演算される。また、電気車制御装置B1の実際に指令すべき計画トルク指令値Tauc1も演算される。
つぎに[ステップS109]において、電気車制御装置B1の後方で、これに最も近い電気車制御装置A2から最後尾の電気車制御装置Anまでの各電気車制御装置Ajについて、以下の(6)式と(7)式によって、トルク指令値上限値の合計値Taut(j−1)と実際に指令すべき計画トルク指令値の合計値Tauct(j−1)を演算する。
【0040】
【数2】

【0041】
そして、[ステップS110]においてj=2からnまでのjのそれぞれについて、Taut(j−1)とTauct(j−1)の比較を行う。
そして、Taut(j−1)がTauct(j−1)より小さいか等しい場合、[ステップS111]に行き、以下の(8)式に示すように、トルク指令値上限値Taujmaxを実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actに設定する。
Taujmax_act=Taujmax…(8)(j=2,3,・・・n)
また、Taut(j−1)がTauct(j−1)より大きい場合[ステップS112]に行き、(9)式に示すように、計画トルク指令値Taucjを実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actに設定する。
Taujmax_act=Taucj…(9)(j=2,3,・・・n)
【0042】
以上の[ステップS110]、[ステップS111]、[ステップS112]の処理をj=2からnまで行う([ステップS113]〜[ステップS114])。このようにして設定した実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actは、[ステップS115]で電気車制御装置B1を含めた各電気車制御装置Ajに伝送される。
[ステップS116]において、このように実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを受信した電気車制御装置B1を含めた各電気車制御装置Ajは、実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを目標値として、各電気車制御装置Ajの制御対象範囲の主電動機(4台の主電動機)のトルク制御を行う。
【0043】
以上説明した空転を検知した場合において、各電気車制御装置Ajに実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを割り当てる処理について、再度図6によって説明する。
先頭車(電気車制御装置B1)の粘着係数は、季節によって大きく変化する。夏季のように外気温が高い場合は粘着係数が高く、冬季のように外気温が低い場合は、大きく粘着係数が低下する。
図6(a)(b)は、このような粘着係数の変化に対して、「実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_act」の割り当て状況を示したものであり、図6(a)は粘着係数が高い場合の各電動車における「実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_act」の割り当て状況を示し、図6(b)は粘着係数が低い場合の各電動車における「実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_act」の割り当て状況を示す。
なお、同図は説明を簡略にするために、先頭の1号車から全ての車両が電動車の場合を表している。実際には、先頭車が電動車ではない場合や、途中の車両にも付随車が混在する場合の方が多いが、同様の考え方で説明することができる。
【0044】
まず、粘着係数が高い図6(a)の場合について説明する。
図6(a)のC1に注記されているように、先頭車(電気車制御装置B1)が空転検知すると、トルク指令値上限値演算手段13は、そのときの推定接線力係数Muj(B1)を演算し、このMuj(B1)をもとに、先頭車からの位置に対する粘着係数の増加量データDeltaMujを基に、電気車制御装置B1を含む電気車制御装置Ajの接線力係数上限値Mujmax(j=1,2,・・・n)を演算する。
そして、各電動車の空車質量と応荷重信号データを用いて、各電気車制御装置Ajの接線力係数上限値Mujmaxに対応したトルク指令値上限値Taujmaxを算出する(図6(a)のC2に注記した曲線A)。
つぎに、列車が空車のときの電気車制御装置Ajの計画トルク指令値Tauczjと応荷重信号dWjを用いて、計画加速性能を実現するために実際に指令すべき計画トルク指令値Taucj(ここにj=1,2,・・・n)を求める(図6(a)の注記C3)。
そして、電気車制御装置B1の実際に発生すべきトルク指令値Tau1max_actとして、トルク指令値上限値Tau1maxを設定する。
【0045】
つぎに、j=2,3,・・・nである電気車制御装置Ajの実際に発生すべきトルク指令値Tau1max_actは、以下のようにして演算する。
前述の(6)式と(7)式によって、j−1番目の電気車制御装置Aj−1までのトルク指令値上限値の合計値Taut(j−1)と実際に指令すべき計画トルク指令値の合計値Tauct(j−1)を演算する。
そして、各電気車制御装置Ajについて、トルク指令値上限値の合計値Taut(j−1)と実際に指令すべき計画トルク指令値の合計値Tauct(j−1)の大小比較を行う。
そして、トルク指令値上限値の合計値Taut(j−1)が実際に指令すべき計画トルク指令値の合計値Tauct(j−1)より小さい間は、電気車制御装置Ajの実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actとして、トルク指令値上限値Taujmaxを割り当てる。
やがて、トルク指令値上限値の合計値Taut(j−1)が実際に指令すべき計画トルク指令値の合計値Tauct(j−1)に等しいか大きくなると、実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actとして、実際に指令すべき計画トルク指令値Taucjを割り当てる。
【0046】
図6(a)の例では、先頭車における計画加速性能を実現するうえで不足となるトルク量の不足分合計値(Tauc1−Tau1max)より、2号車、3号車の実際のトルク指令値上限値Taujmaxと計画トルク指令値Taucjの差分の合計値[(Tau2max−Tauc2)+(Tau3max−Tauc3)]が大きい。
したがって、3号車までは、実際に発生すべきトルク指令値Tau1max_actとしてトルク指令値上限値Taujmaxを割り当て、それ以降の号車については、実際に発生すべきトルク指令値Tau1max_actとして計画トルク指令値Taucjを割り当てている。
【0047】
上記のように実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを割り当てることになるのは、図6(a)に示すように粘着係数が比較的高い場合で、この場合はトルク指令値上限値Taujmaxの編成全体での平均値が、計画加速性能を実現するために実際に指令すべき計画トルク指令値Taucjの平均値より大きくなる。
このような場合は、当初、電気車制御装置B1、A2、・・・Aj−1については、トルク指令値上限値Taujmaxが実際に指令すべき計画トルク指令値Taucjより小さいので、実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actとしては、トルク指令値上限値Taujmaxを割り当てる必要がある。
やがてトルク指令値上限値Taujmaxが実際に指令すべき計画トルク指令値Taucjより大きくなるが、その場合には、トルク指令値上限値の合計値Taut(j−1)が実際に指令すべき計画トルク指令値の合計値Tauct(j−1)に等しいか大きくなるまでトルク指令値上限値TaujmaxをTaujmax_actとして割り当て、それ以降の電気車制御装置については、計画加速性能を実現するために実際に指令すべき計画トルク指令値TaucjをTaujmax_actとして割り当てる。
このように実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを割り当てることによって、編成列車全体として、計画加速性能を実現できるTaujmax_actを割り当てることができる。
【0048】
次に、粘着係数が低い図6(b)の場合について説明する。
粘着係数が非常に低い場合には、トルク指令値上限値Taujmaxの編成全体での平均値が、計画加速性能を実現するために実際に指令すべき計画トルク指令値Taucjの平均値より大きくなることがない状態となる。
この場合は、図6(b)に示すように、電気車制御装置B1を含む各電気車制御装置Ajでは、トルク指令値上限値Taujmaxを実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actとして割り当てることになる。
すなわち、前記したように先頭車(電気車制御装置B1)が空転検知すると、電気車制御装置B1を含む電気車制御装置Ajの接線力係数上限値Mujmax(j=1,2,・・・n)を演算する。そして、各電動車の空車質量と応荷重信号データを用いて、各電気車制御装置Ajの接線力係数上限値Mujmaxに対応したトルク指令値上限値Taujmaxを算出する。また、列車が空車のときの電気車制御装置Ajの計画トルク指令値Tauczjと応荷重信号dWjを用いて、計画加速性能を実現するために実際に指令すべき計画トルク指令値Taucj(ここにj=1,2,・・・n)を求める。
そして、例えば前述した(5)式と(6)式によって、電気車制御装置Anまでのトルク指令値上限値の合計値Taut(n)と実際に指令すべき計画トルク指令値の合計値Tauct(n)を演算し、Taut(n)がTauct(n)に満たない場合、上記のようにトルク指令値上限値Taujmaxを実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actとして割り当てる。
【0049】
つぎに、前述の、電車列車の先頭車両の粘着係数に対する進行方向後方に位置する電動車の先頭車両からの位置に対する粘着係数の増加量データDeltaMuj(図13参照)の、算出方法について述べる。
図10は前記非特許文献2に記載されている、在来線電車、新幹線電車における粘着係数の測定例を示している。
前述のごとく、粘着係数はレール面上に存在する水膜の温度によって大きく変化すことが知られている。外気温が高い夏季などにおいては水膜の温度が高いので、粘着係数は高くなる。これに対して、外気温が非常に低くなる冬季においては、粘着係数が非常に低くなることはしばしば経験するところである。
図10の新幹線951型試験電車の測定例は、外気温が低い時期に測定されたものと考えられ、新幹線電車の粘着係数測定例の中で、ほぼ下限値に対応しているものと思われる。この図中に記載されている新幹線の計画粘着係数μ0 (Vt)は、(10)式で表されるが、新幹線において列車をATC(自動列車制御)システムによって減速させるときに使用される常用最大ブレーキ(ATCブレーキと称されている)において、ブレーキ力は基本的にはこの計画粘着係数に対応したブレーキ力となるように制御されている。ここに、列車速度Vtは(km/h)で表されている。
【0050】
【数3】

【0051】
図11は前記非特許文献3に記載されている、新幹線の営業電車における、冬季を含む長期間に亘って測定された滑走頻度データを、先頭軸からの各車軸の位置、先頭車両から後方の車両の位置に対して整理して、頻度データとして棒グラフで表したものである。
図10の新幹線電車の粘着係数データを見ると、計画粘着係数を平均値としてこれの上下に測定値がバラついていると見なすことができる。そこで、この分布を正規分布とみなして、標準偏差σを求めると、0.012程度となる。
つぎに、図11の新幹線電車の車軸別滑走件数のデータにおいて、先頭車両(1号車)4軸の滑走件数の平均値fravgは、(11)式の関係で表されると仮定し、先頭車両1軸目からj番目の車軸の滑走件数の平均値frjは、(12)式の関係で表すことができると仮定する。
なお、粘着係数はマイナスになることはないので、積分範囲はx≧0からとすべきであるが、正規分布と仮定している関係で、xを−∞からとしている。x≧0からと値は殆ど変わらない。
【0052】
【数4】

【0053】
ここで、kjは、先頭からj番目の軸の平均粘着係数が先頭車両の平均粘着係数μ0 (Vt)に対して、プラス側に標準偏差σのkj倍だけシフトしているとみなすときの係数である。以上のように仮定するのは、前述のように新幹線電車のATCブレーキ力が計画粘着係数に対応したブレーキ力に制御されていることから来ている。
これらの式から数値解析によって求めた車軸毎のkjσを図にしたものが図12である。ばらつきがあるため平滑化を行い、先頭車両4軸のkjσの平均値が零になるように補正したものが、(13)式であり、図12中の近似値(計算値)はこの式で軸位ごとに計算したものである。
kjσ=0.0083ln(j)−0.0066…(13)
【0054】
図12および(13)式は新幹線電車についてのものであるが、在来線電車の場合には、過去に測定された粘着係数データでは、速度の増大とともに新幹線電車の粘着係数との差が大きくなっていくので(新幹線電車の方が低くなる)、(13)式をその分補正して、電車列車の先頭車両の粘着係数に対する進行方向後方に位置する電動車の先頭車両からの位置に対する粘着係数の増加量データDeltaMujとして使用する。
図13は、このようにして求められる粘着係数の増加量データDeltaMujの一例である(新幹線のデータをもとに作成した、補正前のものである)。
【0055】
以上に述べた方法で求められた、電車列車の先頭車両の粘着係数に対する進行方向後方に位置する電動車の先頭車両からの位置に対する粘着係数の増加量データDeltaMujを用いて、先頭車の電気車制御装置B1で空転検知したときに推定接線力係数Muj(B1)を演算して、この推定接線力係数Muj(B1)をもとに、後続の電気車制御装置A2からAnにおいて発生すべきトルクの上限値(当該電動車で発生すべき最適値に相当している)が、実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actとして各電気車制御装置Ajに送信されてくる。そのため、各電気車制御装置AjではこのTaujmax_actを目標値として、主電動機のトルク制御を行うことによって、時々刻々粘着係数が変化しても、常にそのときの各電気車制御装置が搭載されている電動車の粘着係数に非常に近い接線力係数に対応したトルクを当該電動車で発生することができるので、制御開始時から、常に編成全体として粘着力の有効利用が図れることになる。
【0056】
実際には以上のように制御される場合であっても、粘着係数の増加量データDeltaMuj作成のもととなった、新幹線電車の粘着係数や滑走件数の実測値には、バラツキが存在するので、上記のように演算された実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを指令しても、そのときの実際の粘着係数がTaujmax_actに対応した接線力係数より小さいために空転が発生することが想定されるが、その場合であっても、前述の非特許文献1に記載の再粘着制御機能を各電気車制御装置が搭載していてこれによって再粘着制御を行えば、良好な乗り心地を維持しつつ、各電気車制御装置では95(%)程度の粘着力の利用率を実現することは可能である。
また、そのときの実際の粘着係数がTaujmax_actに対応した接線力係数より空転検知しない程度に小さい場合は、空転検知した場合の再粘着させるためのトルクの引き下げが行われないため、95(%)よりさらに高い粘着力の利用率が実現できる。
【0057】
これに対して、そのときの実際の粘着係数がTaujmax_actに対応した接線力係数より大きい場合については、その差があまり大きくない場合には、空転が発生しないので同様に、高い粘着力の利用率が得られる。
しかしその差が非常に大きいと空転の発生はないものの、粘着力の利用率が低下することになるが、粘着係数の増加量データDeltaMujの作成時に、このような状態にならないようにデータ作成で配慮可能であるので、そのような事態は殆ど発生することはないと考えている。
【0058】
以上に述べたように、本発明の第1の実施例によって、主電動機のトルク制御開始時点から、粘着係数が時々刻々変化しても、良好な乗り心地を維持しつつ、常に編成全体として粘着力の有効利用が図れることになる。
なお、以上の説明では、先頭車両が電動車である場合について述べたが、電動車が編成列車の中間にある場合でも、同様の作用と効果が期待できるのはいうまでもない。また、各電気車制御装置が4台の主電動機を一括制御する場合について説明を行ったが、このような駆動システムに限定される必要はなく、前述の粘着係数の増加量データDeltaMujは軸位別のデータをもとに作成しているので、1台のインバータで1台の主電動機を駆動する1C1M(個別制御)の駆動方式の場合や、1台のインバータで2台の主電動機を駆動する1C2M(台車制御)の駆動方式の場合にも、同様に適用することが可能である。
【実施例2】
【0059】
図14は本発明の第2の実施例を実現する電気車制御装置と車両モニタ・データ伝送システムのデータ伝送路の概要を示すブロック図である。同図は、前記図1と異なる箇所についてのみ示したものである。
本実施例においては、電気車制御装置B1のすぐ後ろにある電気車制御装置A2から最後の電気車制御装置Anにそれぞれ空転検知手段25と、推定接線力係数演算手段23を有する演算手段20を設け、各電気車制御装置Ajで空転検知した場合、各電気車の推定接線力係数演算手段23で推定接線力係数Muj_newを演算して、電気車制御装置B1に伝送し、電気車制御装置B1に設けた粘着係数増加量データ修正手段15で、前記粘着係数の増加量データDeltaMujを修正するようにしたものである。
その他の構成、動作は前記第1の実施例と同様であり、電動車の力行・ブレーキ制御系、電気車制御装置B1、先頭の電動車に続く後続の電動車の電気車制御装置Ajの構成等は、図2−図4に示したものと同様である。
したがって、ここでは、上記粘着係数の増加量データDeltaMujの修正についてのみ説明する。
【0060】
各電気車制御装置Ajの空転検知手段25で空転検知されると、各電気車制御装置Ajの推定接線力係数演算手段23は、推定接線力係数Muj_newを演算する。この新たに演算した推定接線力係数Muj_newは、伝送手段21から車両モニタ・データ伝送システム1を介して電気車制御装置B1に伝送される。
各電気車制御装置Ajから、新たに演算した推定接線力係数Muj_newを受信した電気車制御装置B1では、この推定接線力係数Muj_newを用いて、粘着係数増加量データ修正手段15により、保有している粘着係数の増加量データDeltaMujを修正する。
【0061】
この粘着係数の増加量データDeltaMujの修正は、以下の方法で行う。
各電気車制御装置Ajにおいて、図5で説明したように空転検知する毎に、前記したように推定接線力係数Muj_newを演算して、電気車制御装置B1に車両モニタ・データ伝送システムのデータ伝送路1を介して伝送する。
電気車制御装置B1では、Muj_newを受信した時点における先頭車B1の推定接線力係数Muj(B1)を求め、この推定接線力係数Muj(B1)と伝送されてきたMuj_newと電気車制御装置Ajの位置から、電気車制御装置Ajが属する車両の先頭車からの号車番号jに対応した粘着係数増加量データDeltaMuj_new(N_ntr_j)を演算して蓄積する。
ここにN_ntr_jは、号車番号jに対応した新たに蓄積された粘着係数増加量データの数を表している。
【0062】
そして、数駅間走行後の上記粘着係数増加量データDeltaMuj_new(N_trn_j)のデータ数N_trn_jがある最小値N_min以上となったときに、新たに得られた先頭車からの号車番号jの粘着係数増加量データの平均値DeltaMuj_δ_avrを、以下の(14)式によって演算する。
そして、この新たに得られた先頭車からの号車番号jの粘着係数増加量データの平均値DeltaMuj_δ_avrと電気車制御装置B1で保有している粘着係数増加量データDeltaMujとから、以下の(15)式で与えられるDeltaMuj_modを新たなDeltaMujに設定する。
【0063】
【数5】

【0064】
ここに、Nz_jは、元の粘着係数の増加量データDeltaMujの作成に用いられたデータ数である。
そして、このように修正した粘着係数の増加量データDeltaMujを用いて前記第1の実施例で説明した制御を行うことによって、粘着係数の増加量データDeltaMujがそのときの車両の状態により適合したものとなることで、編成全体として粘着力の有効利用を図るための制御性能がより向上することが期待できる。
なお、上記の粘着係数増加量データDeltaMujの修正は、数駅間走行後に新しく作成された粘着係数増加量データDeltaMuj_new(Car_j)のデータ数が最小値N_min以上となった時点から、粘着係数増加量データが新たに作成される毎に行ってもよいが、このための計算負荷の著しい増大を抑制するために、データ数が例えばある数N_arg増える毎に行うようにしてもよい。
【実施例3】
【0065】
以上説明した第1、第2の実施例では、力行時における各電気車制御装置の再粘着制御について説明したが、以下に説明する第3の実施例では、ブレーキ時を含む各電気車制御装置における再粘着制御について説明する。
ここで、電車のブレーキシステムでは、実際に発生している電気ブレーキ力と空気ブレーキ力を合計したブレーキ力が、運転士の指令したブレーキ指令に対応したブレーキ力になるように制御が行われる。最近のインバータ制御電車では、電力回生ブレーキが用いられているが、この電力回生ブレーキは、電動車で発生した電力回生エネルギーを当該電車の近くに在線する力行している電車で消費することを前提としており、実際に発生する電気ブレーキ力は、絶えず変動する。
そのため、実際に発生する電気ブレーキ力を常に把握しながら、不足するブレーキ力を空気ブレーキ力で補足している。
このようなブレーキシステムにおいて、ブレーキ時に滑走した場合は、力行時の再粘着制御と同様に、主電動機で発生するブレーキトルクの制御によって再粘着させる。これは、空気ブレーキの応答速度が電気ブレーキ力の応答速度に比べて非常に遅いく、空気ブレーキでは、良好な制御性能がえられないためである。
【0066】
図15は本発明の第3の実施例を実現する電気車制御装置と車両モニタ・データ伝送システムのデータ伝送路の概要を示すブロック図である。
本実施例において、各電気車制御装置B1,Ajでは、第1の実施例で説明した力行時の再粘着制御を行うほかに、ブレーキ時についても力行時と同様の制御を行う。
なお、力行時の再粘着制御についての構成、動作は前記第1の実施例と同様であり、電動車の力行・ブレーキ制御系、電気車制御装置B1、先頭の電動車に続く後続の電動車の電気車制御装置Ajの構成等は、基本的に図2−図4に示したものと同様である。
【0067】
本実施例においては、図15に示すように、電気車制御装置B1の演算手段10にブレーキトルク制御手段16を設けるとともに、電気車制御装置Ajの演算手段20に、ブレーキトルク制御手段24を設け、ブレーキ受量器Brjから与えられる空気ブレーキ力指令値Fair_cjを電気車制御装置Ajの上記ブレーキトルク制御手段24に送信するように構成し、ブレーキトルクを制御するように構成したものである。
電気車制御装置B1では、上記ブレーキトルク制御手段16に当該電気車制御装置B1に搭載されているブレーキ受量器Br1から、空気ブレーキ装置で発生すべきブレーキ力の指令値を意味する空気ブレーキ力指令値Fair_c1を常時入力し、滑走が検知されたとき、演算手段10は、この時の空気ブレーキ力指令値Fair_c1と、電気車制御装置B1で制御し発生している電気ブレーキ力Felec1とから、当該電動車の推定接線力係数Muj(B1)を演算する。
【0068】
すなわち、滑走検知したとき、この時点において実際に発生している電気ブレーキ力と空気ブレーキ力を用いて電気車制御装置B1での接線力を推定することができる。
ここで、電気車制御装置B1では電気ブレーキ力Felec1は把握できるが、この時点の実際に発生している空気ブレーキ力については把握することができない。そこで、図15に示すように、ブレーキ受量器Br1から入力される空気ブレーキ力指令値Fair_c1を用いる。そして、電気ブレーキ力Felec1と空気ブレーキ力指令値Fair_c1が動輪周上のブレーキ力を表している場合、以下の(16)式を用いて推定接線力係数Muj(B1)を演算する。ここで、W01:電気車制御装置B1が搭載されている電動車の空車質量(1軸当たり) 、dW1:電気車制御装置B1が搭載されている電動車の応荷重信号(1軸当たり) である。
【0069】
【数6】

【0070】
上記推定接線力係数Muj(B1)に基づき、前記第1の実施例で説明したように、各電気車制御装置Aj(j=1〜n)の前述の実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを演算し、このトルク指令値上限値Taujmax_actを空気ブレーキ力と電気ブレーキ力の合計値として、各電気車制御装置Ajに伝送する。
電気車制御装置B1から実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを受信した各電気車制御装置Ajのブレーキトルク制御手段24は、実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actから、自車のブレーキ受量器Brjから入力した空気ブレーキ力指令値Fair_cjを減算し、これを実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actに設定しなおす。
そしてこの設定しなおした実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを目標値として主電動機のブレーキトルク制御を行う。
電気車制御装置B1においても、同様に、ブレーキトルク制御手段16により、実際に発生すべきトルク指令値上限値Tau1max_actから自車のブレーキ受量器Br1から入力した空気ブレーキ力指令値Fair_c1を減算し、これを実際に発生すべきトルク指令値上限値Tau1max_actに設定しなおす。
以上の制御によって、ブレーキ時においても、力行時と同様に編成列車全体として、粘着力の有効利用を図った再粘着制御が実現できることになる。
【0071】
以下、上記ブレーキ時の再粘着制御についてさらに詳述する。
図16に示すように、運転士のブレーキ操作に対応したブレーキ指令を、電気車制御装置Ajに搭載されている電動車のブレーキ制御装置の中のブレーキ受量器Brjが受信する。なお、これは、ブレーキ受量器Br1、…Brj、…Brnの全てのブレーキ受量器において、同じ動作をする。
ブレーキ指令を受信したブレーキ受量器Brjでは、前述した図2で説明したように、ブレーキ指令に対応したブレーキパターンBr_patを発生し、これを電気車制御装置Ajに伝送する。
図16(b)に示すブレーキパターンBr_patは、電気ブレーキと空気ブレーキによるトータルの発生すべきブレーキ力を表している。電気車制御装置Ajでは、このブレーキパターンBr_patを目標値として主電動機のトルク制御を行うが、前述したように電力回生ブレーキによる電気ブレーキ力は絶えず変動し、図16(c)に示すように、目標値を下回ることがよく発生する。
【0072】
そのため電気車制御装置B1は実際に発生している電気ブレーキ力Felec1をブレーキ受量器Br1に送信して、不足するブレーキ力を空気ブレーキで補足するように促す。ブレーキ受量器Br1では、ブレーキパターンBr_patが示すトータルの発生すべきブレーキ力から実際に発生している電気ブレーキ力Felec1を減算したブレーキ力を、空気ブレーキ指令として空気ブレーキ力発生装置41に送信する。
空気ブレーキ力発生装置41では、この空気ブレーキ指令に対応した空気ブレーキ力を発生すべく、圧縮空気をブレーキシリンダに送り込んで、必要な空気ブレーキ力を発生する。そのため、図16(d)に示すように、電気ブレーキ力の不足分の空気ブレーキ力が発生する。また、上記の空気ブレーキ指令は、前述したように接線力係数を推定する目的のために電気車制御装置B1にも送信される。
【0073】
以上のように、不足するブレーキ力をブレーキ受量器Br1で演算するために、電気ブレーキ力Felec1がブレーキ受量器Br1に送信され、ブレーキ受量器Br1で演算した補足すべき空気ブレーキ力である空気ブレーキ力指令値Fair_c1を電気車制御装置B1で受信する。
そして、電気車制御装置B1では、推定接線力係数Muj(B1)を演算し、このMuj(B1)と粘着係数の増加量データDeltaMujをもとに、各電気車制御装置Ajが搭載されている電動車での接線力係数の上限値である接線力係数上限値Mujmaxを演算する。
そして、この接線力係数上限値Mujmaxを基に、電気車制御装置B1では、第1の実施例で説明したように、トルク指令値上限値Taujmax_actを演算する。このトルク指令値上限値Taujmax_actは、電気車制御装置Ajが搭載されている電動車で電気ブレーキと空気ブレーキを用いて発生すべきブレーキトルクを表している。
電気車制御装置B1では、このトルク指令値上限値Tau1max_actから、空気ブレーキ力指令値Fair_c1を減算したものを新たにトルク指令値上限値Tau1max_actとして設定し直して、この新たに設定したTau1max_actを目標値として電動機のブレーキトルク制御を行う。
また、このようにして演算した実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actは、電気車制御装置B1から各電気車制御装置Ajに送信される。
【0074】
電気車制御装置A2〜Anでは、電気車制御装置B1から、電気ブレーキと空気ブレーキを合算したトータルの発生すべきブレーキトルクの意味合いを持つ上記実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを受信すると、この信号を受信した電気車制御装置Ajが搭載されている電動車での空気ブレーキ力指令値Fair_cjをブレーキ受量器Brjから受信して、上記実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actから、空気ブレーキ力指令値Fair_cjを減算したものを新たにトルク指令値上限値Taujmax_actとして設定し直して、この新たに設定したTaujmax_actを目標値として電動機のブレーキトルク制御を行う。
なお、電気車制御装置B1以外の各電気車制御装置A2〜Anにおいても、電気車制御装置B1と同様、ブレーキ受量器Br2〜Brnから電気車制御装置A2〜Anに対してブレーキパターンBr_patが送信されるが、電気車制御装置B1からの実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actを受信していることを条件として、この通常動作は抑制される。
【符号の説明】
【0075】
1 車両モニタ・データ伝送システム
10,20 演算手段
11,21 伝送手段
12,22 記憶手段
13 トルク指令値上限値演算手段
14,25 空転検知手段
15 粘着係数増加量データ修正手段
16,24 ブレーキトルク制御手段
23 推定接線力係数演算手段
31 ベクトルコントローラ
32 PWMインバータ
33 主電動機
40 ブレーキ制御装置
41 空気ブレーキ力発生装置
42 ブレーキシリンダ
43 ブレーキシュー
44 動輪
B1,A2〜An(Aj) 電気車制御装置
Brj ブレーキ受量器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車列車の先頭に位置する電動車または先頭車両に最も近い電動車の電気車制御装置B1と、該電動車より進行方向後方に位置する電動車の電気車制御装置Aj(j=2〜n)と、各電動車の各電気車制御装置B1,Aj間でデータを伝送する機能を有する列車モニタ・データ伝送システムとを有する、複数の電動車と付随車で構成される電車列車の列車制御装置であって、
上記電気車制御装置B1は、予め設定された先頭車両の粘着係数に対する進行方向後方に位置する電動車の先頭車両からの位置に対する粘着係数の増加量データDeltaMuj(j=2〜n)と、各電気車制御装置B1、Ajが搭載されている電動車の空車質量データW0j(j=1〜n、但しj=1のときは電気車制御装置B1のデータを意味する、以下同じ)と、当該電気車が空車のときの前記各電気車制御装置B1,Ajの計画トルク指令値Tauczj(j=1〜n)とを保持した記憶手段と、
電気車制御装置Ajから送られてきた応荷重信号データdWj(j=2〜n)を受信する手段と、
上記電気車制御装置B1における空転を検知する空転検知手段と、
上記空転検知手段による空転検知結果に基づき、各電気車制御装置B1,Ajで実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_act(j=1〜n)を求めるトルク指令値上限値演算手段と、
上記演算結果であるトルク指令値上限値Taujmax_actを上記列車モニタ・データ伝送システムを介して、各電気車制御装置Ajに伝送する手段と、
電気車制御装置B1の上記トルク指令値上限値Tau1max_actを目標値として主電動機のトルク制御を行なう手段を備え、
上記各電気車制御装置Ajは、自車に伝送された上記トルク指令値上限値Taujmax_actを目標値として主電動機のトルク制御を行なう手段を備え、
上記電気車制御装置B1に設けられたトルク指令値上限値演算手段は、
上記空転検知手段により空転が検知されないとき、予め設定された当該電車列車の加速性能から算定された期待粘着係数Muz_exptを、電気車制御装置B1,Ajの接線力係数上限値Mujmax(j=1〜n)に設定し、
上記記憶手段に保持された電気車制御装置B1、Ajの空車質量W0jと、前記応荷重信号dWjを用いて、前記接線力係数上限値Mujmaxに対応した実際に発生すべき上記トルク指令値上限値Taujmax_actを求め、
上記空転検知手段により空転が検知されたとき、
空転検知結果に基づき、電気車制御装置B1の推定接線力係数Muj(B1)を求め、該推定接線力係数Muj(B1)から電気車制御装置B1の接線力係数上限値Mu1maxを求めるとともに、該推定接線力係数Muj(B1)と、前記記憶手段に記憶された各電気車制御装置Ajの粘着係数増加量データDeltaMujにより各電気車制御装置Ajの接線力係数上限値Mujmax(j=2〜n)を求め、
上記接線力係数上限値Mujmax(j=1〜n)と、前記空車質量W0jと、電気車制御装置B1の応荷重信号dW1と、前記受信した応荷重信号dWj(j=2〜n)に基づき、上記電気車制御装置B1,Ajのトルク指令値上限値Taujmaxを演算し、
また、前記記憶手段に保持された計画トルク指令値Tauczj(j=1〜n)と、前記応荷重信号dWj(j=1〜n)を用いて、前記各電気車制御装置B1,Ajの実際に指令すべき計画トルク指令値Taucj(j=1〜n)を演算し、
電気車制御装置B1に最も近い電気車制御装置A2から最後尾の電気車制御装置Anまでの間の電気車制御装置Ak(k=2〜n)の各々について、該電気車制御装置Akより前方で電気車制御装置Akに最も近い電気車制御装置Ak−1までの各電気車制御装置の上記トルク指令値上限値Taujmaxの合計値である第1の合計値Tautkと、上記計画トルク指令値上限値Taucjの合計値である第2の合計値Tauctkとを求め、 上記第1の合計値Tautkが第2の合計値Tauctk以下のときは、当該電気車制御装置Akの上記トルク指令値上限値Taujmax(j=1〜n)を実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actに設定し、
上記第1の合計値Tautkが第2の合計値Tauctkより大きいときは、当該電気車制御装置Akの上記計画トルク指令値Taucjを実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_actに設定する
ことを特徴とする列車モニタ・データ伝送システムを有する列車制御装置。
【請求項2】
各電気車制御装置Ajに、空転検知手段と、空転検知結果に基づき当該電動車の推定接線力係数Muj_newを演算する推定接線力係数演算手段を設け、
また、電気車制御装置B1に前記粘着係数の増加量データDeltaMujを修正する粘着係数増加量修正手段を設け、
電気車制御装置Ajで空転検知した場合、電気車制御装置Ajは、上記推定接線力係数演算手段で上記当該電動車の推定接線力係数Muj_newを演算し、
前記列車モニタ・データ伝送システムを介して、前記電車列車の各走行方向の先頭に位置する電動車の電気車制御装置B1に、前記推定接線力係数Muj_newを伝送し、
前記電気車制御装置B1は、前記粘着係数増加量修正手段により、伝送されてきた前記推定接線力係数Muj_newを用いて前記電気車制御装置B1において保持している前記粘着係数の増加量データDeltaMujを修正する
ことを特徴とする列車モニタ・データ伝送システムを有する列車制御装置。
【請求項3】
前記各電動車は、電気車制御装置B1,Ajが制御する電動車で発生すべき空気ブレーキ力指令値Fair_cj(j=1〜n)を発生するブレーキ受量器Brjを備え、
電気車制御装置B1は、ブレーキ中に滑走を検知したとき、上記ブレーキ受量器Br1から空気ブレーキ力指令値Fair_c1を受信し、受信した前記空気ブレーキ力指令値Fair_c1と当該電気車制御装置B1で制御し発生している電気ブレーキ力Felec1とから当該電動車の推定接線力係数Muj(B1)を演算するブレーキ時接線力係数推定手段と、主電動機のブレーキトルク制御を行うブレーキトルク制御手段を備え、
上記各電気車制御装置Ajは、主電動機のブレーキトルク制御を行うブレーキトルク制御手段を備え、
前記トルク指令値上限値演算手段は、ブレーキ時、空気ブレーキ力と電気ブレーキ力の合計値として上記ブレーキ時接線力係数推定手段により推定された推定接線力係数Muj(B1)に基づき、各電気車制御装置B1,Ajで実際に発生すべきトルク指令値上限値Taujmax_act(j=1〜n)を求め、
電気車制御装置B1のブレーキトルク制御手段は、上記トルク指令値上限値Tau1max_actから自車空気ブレーキ力指令値Fair_c1を減算し、この減算結果を目標値として主電動機ブレーキトルク制御を行い、
上記各電気車制御装置Ajのブレーキトルク制御手段は、ブレーキ時に自車に伝送された上記トルク指令値上限値Taujmax_actから自車空気ブレーキ力指令値Fair_cjを減算し、この減算結果を目標値として主電動機ブレーキトルク制御を行う
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の列車モニタ・データ伝送システムを有する列車制御装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−151871(P2011−151871A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8729(P2010−8729)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】