説明

剛性測定方法および研削盤

【課題】工作物の研削部位の正確なたわみを研削中に測定し、これと研削抵抗を用いて正確な研削位置剛性を測定できる剛性測定方法および研削盤を提供する。
【解決手段】研削作用位置から回転方向に180度未満に位置する加工部の表面の位置である測定開始位置Aを含む直径である開始位置直径Dを測定する。測定開始位置Aが工作物Wの回転軸心Oに関して研削作用位置と対向する位置に到達した時に、測定開始位置Aに対する工作物の両軸端部における回転中心を結ぶ直線の距離である表面距離Lと、この時作用している法線研削抵抗力Rを同時に測定する。開始位置直径Dを測定してから工作物Wが180度回転した時の測定開始位置Aを含む直径である終了位置直径Dを測定する。工作物Wの研削作用位置における剛性である研削位置剛性kを式k=R/(L−(D+D)/4)を用いて演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削加工中に工作物の剛性を測定する剛性測定方法および研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削盤においては、工作物を高精度かつ高能率に研削することを目的として、工作物の研削抵抗によるたわみ量を考慮して砥石車の切込み速度や切込み量を制御することが行われている。このたわみ量を予測するためには工作物の研削部位の剛性と研削抵抗を測定できればよい。研削抵抗は送りモータの電流の測定や、負荷センサを備えることで容易に研削中に測定することが可能である。
一方、剛性の測定については、研削の有無を判定するAEセンサを備えた研削盤において、所定の砥石切込み位置における研削時の研削抵抗を測定し、この位置から砥石を研削が行われない最小位置まで後退させ、その後退量をこの時の工作物のたわみであるとして、先の研削抵抗とこのたわみを用いて剛性を演算により求めている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−93787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、たわみの測定において研削中に砥石を後退することが必要であり、研削時間が長くなる。また、後退中にも研削が継続されるため、その研削による半径の減少分の誤差がたわみに付加される。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、研削部位の正確なたわみを研削中に測定し、これと研削抵抗を用いて正確な剛性を測定できる研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、円筒状の工作物を回転支持して砥石車を前記工作物に切込む研削盤を用いて、加工部を研削しながら前記加工部の剛性を測定する剛性測定方法において、
研削作用位置から回転方向に180度未満に位置する前記加工部の表面の位置である測定開始位置を含む直径である開始位置直径Dを測定する開始径測定工程と、
前記測定開始位置が前記工作物の回転軸心を基準として前記研削作用位置と対向する位置に到達した時に、前記測定開始位置に対する前記工作物の両軸端部における回転中心を結ぶ直線の距離である表面距離Lと、この時作用している法線研削抵抗力Rを同時に測定する距離・抵抗測定工程と、
前記開始位置直径Dを測定してから工作物が180度回転した時の測定開始位置を含む直径である終了位置直径Dを測定する終了径測定工程と、
前記工作物の研削作用位置における剛性である研削位置剛性kを式k=R/(L−(D+D)/4)を用いて演算する剛性演算工程を備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、円筒状の工作物を回転支持して砥石車により加工部を研削する研削盤において、
前記加工部の外径寸法を測定する工作物径測定装置と、
前記砥石車の切込み方向における前記加工部の表面の位置を測定する位置測定装置と、
研削中の法線抵抗力を測定する法線抵抗力測定装置と、
前記工作物径測定装置により測定した研削作用位置から回転方向に180度未満に位置する前記加工部の測定開始位置を含む直径である開始位置直径Dと、
前記測定開始位置が前記工作物の回転軸心を基準として前記研削作用位置と対向する位置に到達した時に、前記位置測定装置により測定した前記測定開始位置の表面位置と工作物の軸端部における回転支持中心位置の距離である表面距離Lと、同時に前記法線抵抗力測定装置により測定したこの時作用している法線研削抵抗力Rと、
前記工作物径測定装置により測定した前記開始位置直径Dを測定してから工作物が180度回転した時の測定開始位置を含む直径である終了位置直径Dと、
式k=R/(L−(D+D)/4)を用いて工作物の研削位置剛性kを演算する制御装置を備えることである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1係る発明によれば、研削中に測定した開始位置直径Dと終了位置直径Dと、表面距離Lとこの時作用している法線研削抵抗力Rとを用いて加工部の剛性kを演算することで、研削中に加工部の剛性を短時間に測定できる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、研削中に測定した開始位置直径Dと終了位置直径Dと、表面距離Lとこの時作用している法線研削抵抗力Rとを用いて加工部の剛性kを演算することで、研削中に加工部の剛性を短時間に測定可能な研削盤を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の研削盤の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1のB矢視図である。
【図3】本実施形態の測定方法を示す概念図である。
【図4】本実施形態の剛性測定工程を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態の剛性測定工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を円筒研削盤の実施例に基づき、図1〜図5を参照しつつ説明する。
図1に示すように、円筒研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能に支持され送りモータ9により駆動される砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石7を回転自在に支持し、砥石車7は砥石軸回転モータ(図示省略する)により回転駆動される。テーブル4上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動され、主軸の回転位相を検出する位相検出器10を備えた主軸5と、工作物Wの他端を回転自在に支持する心押し台6が設置されている。工作物Wは主軸5と心押し台6により支持されて、研削加工時に回転駆動される。工作物Wの加工部を測定する測定装置8がテーブル上に設置されている。
図2に示すように、測定装置8は、テーブルに固定されたベース81に保持された工作物径測定装置本体831と工作物径測定装置本体831に係合する180度対向して配置された接触子832a、832bで構成される工作物径測定装置83と、ベース81に保持されたブラケット82に固定され、研削作用位置に対し180度対抗した工作物Wの表面位置を非接触で測定する静電容量型の表面位置測定装置85を備えている。接触子832a、832bと表面位置測定装置85は工作物Wの軸方向で同一位置で、回転方向でΦの位相差を備えて配置され、加工部の同一部位を測定することができる。
【0012】
この研削盤1は制御装置30を備えており、制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御部31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御部32、主軸5の回転を制御する主軸制御部33、測定装置8を制御する測定装置制御部34、記録部351を内蔵し剛性の演算をする演算部35などを具備している。X軸制御部31の機能として研削時に砥石車7に作用する法線研削抵抗力を送りモータ9の電流値から測定する法線研削抵抗測定部311を備えている。
【0013】
研削位置剛性の測定について、加工位置における工作物Wの軸心に垂直な断面を示す図3に基づき説明する。
図3において、工作物Wの回転基準である主軸5の回転中心と心押台6のセンタ中心を結ぶ線の加工位置における位置を点Pとする。工作物Wに法線研削抵抗力が作用していると、加工部の回転中心は点Pからたわみにより移動した点Oとなる。点Pと点Oを結ぶ直線上で研削作用部の反対方向に位置する加工部の表面Aと点Pの距離をLとし、点Oからの加工部の表面Aまでの半径をrとすると、点Pと点Oの距離(たわみ量)tはt=L−rと表される。このときに工作物に作用する法線方向の研削抵抗をRとすると、工作物の研削位置における剛性kはk=R/t=R/(L−r)で算出できる。
【0014】
ここで、現時点の研削作用位置と表面Aを含む直径をDとし、1回転前の表面Aを含む直径をDとすると、D=r+r、D=r+rとなる。研削除去速度が一定となる定常研削状態では工作物径の減少速度は一定であり、表面Aの研削は1/2回転前に行われているので、rはrとrの中間の大きさとなるため、r=(r+r)/2となる。以上の式からr=(D−r+D−r)/2が成り立ち、これからr=(D+D)/4となる。Dの測定は図3に示す位置から工作物Wを角度Φだけ回転を戻した過去の時点で、表面Aが接触子832bの位置にあるときに測定される。Dの測定は図3に示す位置から工作物Wが角度(180−Φ)だけ回転した後の時点で、表面Aが接触子832aの位置にあるときに測定される。
以上より、剛性kはk=R/t=R/(L−r)=R/(L−(D+D)/4)で算出できる。
【0015】
点Pと加工部の表面Aの距離Lは、点Pと表面位置測定装置85の距離をuとし、加工部の表面Aと表面位置測定装置85の距離をsとすると、L=u−sとなり、uは測定装置8、主軸5、心押し台6の配置により決定される一定の値である。
以上から、剛性kは法線研削抵抗測定部311により測定するR、表面位置測定装置85により測定するs、工作物径測定装置83により測定するD、Dと式k=R/(u−s−(D+D)/4)を用いて算出できる。
【0016】
本研削盤1において、研削中に剛性測定する工程について、図4のフローチャートと図5に基づき説明する。
はじめに、主軸5の回転中心と心押台6のセンタ中心を結ぶ線の加工位置における位置である点Pと表面位置測定装置85の距離uを記録部351に記録する(S1)。定常研削状態で、工作物径測定装置83によりDを測定し記録部351に記録する。図5(a)に示すように、測定時における接触子832bの接触する工作物の表面Aの位置を測定開始位置とする(S2)。表面Aが表面位置測定装置85の位置に到達するまで主軸をΦ度回転させる(S3)。図5(b)に示すように、表面Aと表面位置測定装置85の距離sを表面位置測定装置85で測定し、同時に法線研削抵抗Rを法線抵抗測定部311で測定し、記録部351に記録する(S4)。表面Aが接触子832aの位置に到達するまで主軸を(180−Φ)度回転させる(S5)。図5(c)に示すように、表面Aが接触子832aに接触する位置の工作物直径Dを測定し、記録部351に記録する(S6)。工作物剛性kを式k=R/(u−s−(D+D)/4)を用いて演算部35で演算する。
【0017】
以上のように、本発明の剛性測定方法を用いると、研削中に工作物の研削位置における剛性の測定ができ、その剛性値を用いて研削量や研削送り速度などを設定できる。特別に剛性測定のための時間を要することがないため、研削時間を短縮できる。
【0018】
上記事例では砥石台送りモータ9の電流値を検出して法線研削抵抗力の測定を行ったが、主軸台5と心押し台6に荷重測定センサを設置して測定してもよい。
表面位置測定装置85を非接触型のものを用いたが、差動トランス方式などの接触式の測定機を用いてもよい。
剛性測定を研削除去速度が一定となる定常研削中に実施したが、砥石車の切込み速度が一定の状態で測定してもよい。さらに、砥石車の切込み速度が変動しても変動幅が小さい場合は剛性測定を行ってもよい。
【符号の説明】
【0019】
W:工作物 3:砥石台 4:テーブル 5:主軸 6:心押し台 7:砥石車 8:測定装置 9:砥石台送りモータ 30:制御装置 35:演算部 85:表面位置測定装置 832a、832b:接触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の工作物を回転支持して砥石車を前記工作物に切込む研削盤を用いて、加工部を研削しながら前記加工部の剛性を測定する剛性測定方法において、
研削作用位置から回転方向に180度未満に位置する前記加工部の表面の位置である測定開始位置を含む直径である開始位置直径Dを測定する開始径測定工程と、
前記測定開始位置が前記工作物の回転軸心を基準として前記研削作用位置と対向する位置に到達した時に、前記測定開始位置に対する前記工作物の両軸端部における回転中心を結ぶ直線の距離である表面距離Lと、この時作用している法線研削抵抗力Rを同時に測定する距離・抵抗測定工程と、
前記開始位置直径Dを測定してから工作物が180度回転した時の測定開始位置を含む直径である終了位置直径Dを測定する終了径測定工程と、
前記工作物の研削作用位置における剛性である研削位置剛性kを式k=R/(L−(D+D)/4)を用いて演算する剛性演算工程を備える剛性測定方法。
【請求項2】
円筒状の工作物を回転支持して砥石車により加工部を研削する研削盤において、
前記加工部の外径寸法を測定する工作物径測定装置と、
前記砥石車の切込み方向における前記加工部の表面の位置を測定する位置測定装置と、
研削中の法線抵抗力を測定する法線抵抗力測定装置と、
前記工作物径測定装置により測定した研削作用位置から回転方向に180度未満に位置する前記加工部の測定開始位置を含む直径である開始位置直径Dと、
前記測定開始位置が前記工作物の回転軸心を基準として前記研削作用位置と対向する位置に到達した時に、前記位置測定装置により測定した前記測定開始位置の表面位置と工作物の軸端部における回転支持中心位置の距離である表面距離Lと、同時に前記法線抵抗力測定装置により測定したこの時作用している法線研削抵抗力Rと、
前記工作物径測定装置により測定した前記開始位置直径Dを測定してから工作物が180度回転した時の測定開始位置を含む直径である終了位置直径Dと、
式k=R/(L−(D+D)/4)を用いて工作物の研削位置剛性kを演算する制御装置を備える研削盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71204(P2013−71204A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212357(P2011−212357)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】