説明

半導体用フィルム、半導体装置の製造方法および半導体装置

【課題】接着層に対する熱履歴が長くなっても、基板表面の凹凸に対する埋め込み性を良好なものとしつつ、基板との密着強度を高めることができる半導体用フィルム、半導体装置の製造方法および半導体装置を提供すること。
【解決手段】半導体用フィルム10は、接着層3と支持フィルム4とが積層されてなり、接着層3は、水酸基を有する第1モノマー単位とカルボキシル基を有する第2モノマー単位とを含む繰り返し単位を有するアクリル系樹脂を含んで構成され、そのアクリル系樹脂は、繰り返し単位中に含まれる第1モノマー単位および第2モノマー単位の含有量は、それぞれ、0.1〜3mol%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用フィルム、半導体装置の製造方法および半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化等に対応して、半導体装置の高密度化、高集積化の要求が強まり、半導体パッケージの大容量高密度化が進んでいる。
【0003】
このような要求に対応するため、例えば、基板上に複数の半導体素子を多段で積層することで、半導体パッケージの小型化、薄型化、大容量化を実現する方法が検討されている。こうしたパッケージでは、基板として、ビスマレイミド−トリアジン基板やポリイミド基板のような有機基板が主に使用される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されているように、このような半導体パッケージにおいて、半導体素子と有機基板との接着や半導体素子と半導体素子との接着には、従来のペースト状の接着剤では半導体素子からはみ出さないよう適量に塗布することは困難であることから、フィルム状接着剤が主に用いられている。
【0005】
しかしながら、従来では、配線基板と半導体素子を接着する場合、配線基板の表面に金属配線の有無によって形成される凸凹を埋めることができず、配線基板と半導体素子間に間隙(ボイド)として残ってしまい、半導体パッケージの信頼性を悪化させる場合があった。
【0006】
具体的に説明すると、半導体用接着フィルムによる配線基板表面の凹凸への埋め込みは、半導体素子と配線基板とを半導体用接着フィルムを介して積層し、半導体素子と配線基板との間のワイヤーボンディングを行った後、封止材封入時の加熱・加圧を利用して行うため、半導体用接着フィルムは封止材封入時のフロー性が重要となる。
【0007】
近年、半導体素子の多段化が進み、ワイヤーボンディング工程により多くの時間がかかるため、従来に比べ、封止材を封入するまでの半導体用接着フィルムにかかる熱履歴が長くなってきており、封止材を封入する前に半導体用接着フィルムの硬化が進行し、フロー性が低下するため、配線基板表面の凸凹を埋め込むことができないという不良を発生する場合があった。
【0008】
また、半導体パッケージの信頼性を十分なものとするためには、半導体用接着フィルムと配線基板との密着強度を高めることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−73982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、接着層に対する熱履歴が長くなっても、基板表面の凹凸に対する埋め込み性を良好なものとしつつ、基板との密着強度を高めることができる半導体用フィルム、半導体装置の製造方法および半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)〜(16)の本発明により達成される。
(1) 接着層と支持フィルムとが積層されてなる半導体用フィルムであって、
前記接着層は、水酸基を有する第1モノマー単位とカルボキシル基を有する第2モノマー単位とを含む繰り返し単位を有するアクリル系樹脂を含んで構成され、
前記アクリル系樹脂は、前記繰り返し単位中に含まれる前記第1モノマー単位および前記第2モノマー単位の含有量は、それぞれ、0.1〜3mol%であることを特徴とする半導体用フィルム。
【0012】
(2) 前記接着層は、175℃で6時間熱処理した後の175℃における粘度が10000Pa・s以下である上記(1)に記載の半導体用フィルム。
【0013】
(3) 前記アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル共重合体である上記(1)または(2)に記載の半導体用フィルム。
【0014】
(4) 前記接着層中の前記アクリル系樹脂の含有量は、30〜90質量%である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0015】
(5) 前記接着層は、前記アクリル系樹脂とは異なる熱可塑性樹脂を含む上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0016】
(6) 前記熱可塑性樹脂がフェノキシ樹脂である上記(5)に記載の半導体用フィルム。
【0017】
(7) 前記接着層中における前記アクリル系樹脂以外の前記熱可塑性樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂100質量部に対して、0.5〜30質量部である上記(5)または(6)に記載の半導体用フィルム。
【0018】
(8) 前記接着層は、熱硬化性樹脂を実質的に含まないで構成されている上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0019】
(9) 前記接着層は、無機充填材を含んで構成されている上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0020】
(10) 前記接着層中の前記無機充填材の含有量は、前記接着層の前記無機充填材以外の樹脂組成物100質量部に対して、5〜150質量部である上記(9)に記載の半導体用フィルム。
【0021】
(11) 前記接着層は、カップリング剤を含んで構成されている上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0022】
(12) 前記接着層の前記支持フィルムと反対側の面に半導体ウエハーを貼着し、その状態で該半導体ウエハーおよび前記接着層を切断してそれぞれ個片化し、得られた個片を前記支持フィルムからピックアップする際に用いる上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0023】
(13) 前記接着層と前記支持フィルムとの間には、粘着層が設けられている上記(12)に記載の半導体用フィルム。
【0024】
(14) 上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の半導体用フィルムの前記接着層側の面に半導体ウエハーを貼着する工程と、
前記半導体ウエハーおよび前記接着層を切断してそれぞれ個片化することにより、複数の半導体素子を得る工程と、
得られた前記半導体素子を前記支持フィルムからピックアップする工程と、
ピックアップされた前記半導体素子を基板上に載置する工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【0025】
(15) 前記半導体素子を前記基板上に載置する工程では、複数の前記半導体素子を前記基板上に前記基板側から順次重ねて載置する上記(14)に記載の半導体装置の製造方法。
【0026】
(16) 基板上に接着層を介して半導体素子が設置された半導体装置であって、
前記接着層は、水酸基を有する第1モノマー単位とカルボキシル基を有する第2モノマー単位とを含む繰り返し単位を有するアクリル系樹脂を含んで構成され、
前記アクリル系樹脂は、前記繰り返し単位中に含まれる前記第1モノマー単位および前記第2モノマー単位の含有量は、それぞれ、0.1〜3mol%であることを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、接着層に含まれる水酸基およびカルボキシル基の含有量が比較的低く設定されるので、かかる水酸基とカルボキシル基との結合(架橋)による接着層の粘度上昇を抑えることができる。そのため、接着層に対する熱履歴が長くなっても、接着層のフロー性を良好なものとすることができる。その結果、基板表面の凹凸に対する接着層の埋め込み性を優れたものとすることができる。
【0028】
また、水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系樹脂は、基板表面および半導体素子に対する密着性に優れる。そのため、基板表面の凹凸を埋めた後の接着層に熱処理を施すことにより、基板表面および半導体素子に対する接着層の密着強度(ダイシェア強度)を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係る半導体装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る半導体用フィルムを製造する方法を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0031】
<第1実施形態>
まず、本発明の半導体用フィルムおよび本発明の半導体装置の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0032】
図1は、本発明の第1実施形態に係る半導体装置の概略構成を示す断面図、図2ないし図4は、それぞれ、本発明の第1実施形態に係る半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法を説明するための図(縦断面図)、図5は、本発明の第1実施形態に係る半導体用フィルムを製造する方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図1ないし図5中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0033】
[半導体装置]
図1に示す半導体装置100は、1つのパッケージ内に複数の半導体素子を搭載したチップスタック型の半導体装置である。
【0034】
このような半導体装置100は、絶縁基板5と、絶縁基板5の上面に接着層(第1接着層)31を介して載置された半導体素子71と、半導体素子71の上面に接着層(第2接着層)131を介して載置された半導体素子171と、半導体素子171の上面に接着層(第2接着層)231を介して載置された半導体素子271と、半導体素子271の上面に接着層(第2接着層)331を介して載置された半導体素子371と、半導体素子371の上面に接着層(第2接着層)431を介して載置された半導体素子471とを有している。
【0035】
また、半導体装置100では、絶縁基板5の下面に設けられた複数の端子(図示せず)上には、それぞれ、ボール状電極86が設けられている。また、絶縁基板5の上面に設けられた複数の端子(図示せず)は、それぞれ対応して、ボンディングワイヤーで構成された複数のワイヤー84(84a〜84e)を介して、複数の半導体素子71、171、271、371、471に電気的に接続されている。
【0036】
そして、絶縁基板5の上面上には、前述したような複数の半導体素子71、171、271、371、471および複数のワイヤー84の周囲を封止するモールド層85が設けられている。
【0037】
特に、かかる半導体装置100においては、後に詳述するが、複数の半導体素子71、171、271、371、471のうち最も絶縁基板5側の半導体素子71と絶縁基板5との間に設けられた接着層31が、水酸基を有する第1モノマー単位とカルボキシル基を有する第2モノマー単位とを含む繰り返し単位を有するアクリル系樹脂を含んで構成され、そのアクリル系樹脂は、前記繰り返し単位中に含まれる前記第1モノマー単位および前記第2モノマー単位の含有量は、それぞれ、0.1〜3mol%であることを特徴としている。
【0038】
これにより、接着層31に含まれる水酸基およびカルボキシル基の含有量が比較的低く設定されるので、半導体装置100の製造過程において、かかる水酸基とカルボキシル基との結合(架橋)による接着層31の粘度上昇を抑えることができる。そのため、接着層31に対する熱履歴が長くなっても、接着層31のフロー性を良好なものとすることができる。その結果、絶縁基板5表面の凹凸に対する接着層31の埋め込み性を優れたものとすることができる。
【0039】
また、水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系樹脂は、絶縁基板5表面および半導体素子71に対する密着性に優れる。そのため、半導体装置100の製造時において、絶縁基板5表面の凹凸を埋めた後の接着層31に熱処理を施すことにより、絶縁基板5表面および半導体素子71に対する接着層31の密着強度を高めることができる。
【0040】
このような絶縁基板5と半導体素子71とを接着する接着層31は、後述するような半導体用フィルム10の接着層3が個片化されることにより得られたものである。
【0041】
一方、接着層131、231、331、431は、それぞれ、後述するような半導体用フィルム10の接着層3が個片化されることにより得られたものであってもよいし、この半導体用フィルム10とは異なる半導体用フィルムの接着層が個片化されることにより得られたものであってもよい。なお、以下では、接着層131、231、331、431は、それぞれ、後述するような半導体用フィルム10の接着層3と同様の接着層が個片化されることにより得られたものである場合を例に説明する。
【0042】
以下、半導体用フィルム10を用いて半導体装置100を製造する方法を説明する。なお、以下では、説明の便宜上、前述した半導体素子271、371、471および接着層231、331、431を省略した半導体装置100Aを製造する場合を例に説明するが、半導体素子271、371、471および接着層231、331、431に関する事項は、半導体素子171および接着層131と同様である。
【0043】
[半導体用フィルム]
図2に示す半導体用フィルム10は、支持フィルム4と、第1粘着層1と、第2粘着層2と、接着層3とを有している。より詳しくは、半導体用フィルム10は、支持フィルム4上に、第2粘着層2と、第1粘着層1と、接着層3とをこの順で積層してなるものである。
【0044】
この半導体用フィルム10は、後に詳述するが、接着層3の上面に半導体ウエハー7を貼着させ、この状態で半導体ウエハー7および接着層3を切断(ダイシング)してそれぞれ個片化し、得られた個片(半導体素子71と接着層31とを積層してなる個片83)を支持フィルム4からピックアップする際に用いるものである。このような半導体用フィルム10は、半導体ウエハー7をダイシングにより個片化する際に半導体ウエハー7を支持する機能を有する。また、半導体用フィルム10は、個片化された半導体ウエハー7(半導体素子71)および接着層3(接着層31)をピックアップする際に、第1粘着層1と接着層3との間が選択的に剥離するものである。このような半導体用フィルム10は、ピックアップした半導体素子71に、絶縁基板5上に接着するための接着剤(接着層31)を提供する機能を有する。
【0045】
また、支持フィルム4の外周部41および第2粘着層2の外周部21は、それぞれ第1粘着層1の外周縁11を越えて外側に存在している。
【0046】
このうち、外周部21には、後述する半導体装置100の製造時におけるダイシング時に、ウエハーリング9が貼り付けられる。これにより、半導体ウエハー7が確実に支持されることとなる。
【0047】
以下、半導体用フィルム10の各部の構成について順次詳述する。
(第1粘着層)
第1粘着層1は、一般的な粘着剤で構成されている。具体的には、第1粘着層1は、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等を含む第1樹脂組成物で構成されている。
【0048】
アクリル系粘着剤としては、例えば(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルで構成される樹脂、(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルと、それらと共重合可能な不飽和単量体(例えば酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル等)との共重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂を2種類以上混合してもよい。
【0049】
また、これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシルおよび(メタ)アクリル酸ブチルからなる群から選ばれる1種以上と、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルおよび酢酸ビニルの中から選ばれる1種以上との共重合体が好ましい。これにより、第1粘着層1が粘着する相手(被着体)との密着性や粘着性の制御が容易になる。
【0050】
また、第1樹脂組成物には、粘着性(接着性)を制御するためにウレタンアクリレート、アクリレートモノマー、多価イソシアネート化合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート)等のイソシアネート化合物等のモノマーおよびオリゴマーを添加してもよい。
【0051】
さらに、第1樹脂組成物には、第1粘着層1を紫外線等により硬化させる場合、光重合開始剤としてメトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフエノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1等のアセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾインイソブチルエーテル系化合物、ベンゾイン安息香酸メチル系化合物、ベンゾイン安息香酸系化合物、ベンゾインメチルエーテル系化合物、ベンジルフィニルサルファイド系化合物、ベンジル系化合物、ジベンジル系化合物、ジアセチル系化合物等を添加してもよい。
【0052】
また、第1樹脂組成物には、接着強度およびシェア強度を高める目的で、ロジン樹脂、テルペン樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族系石油樹脂等の粘着付与材等を添加してもよい。
【0053】
このような第1粘着層1の平均厚さは、特に限定されないが、1〜100μm程度であるのが好ましく、特に3〜50μm程度であるのがより好ましい。厚さが前記下限値未満であると十分な粘着力を確保するのが難しくなる場合があり、前記上限値を超えてもあまり特性に影響が無く、利点も得られない。厚さが前記範囲内であると、特に、ダイシング時に剥離せず、ピックアップ時には引っ張り荷重に伴って比較的容易に剥離可能になることから、ダイシング性、ピックアップ性に優れた第1粘着層1が得られる。
【0054】
(第2粘着層)
第2粘着層2は、前述した第1粘着層1よりも粘着性が高いものである。これにより、接着層3に対する第1粘着層1の密着力よりも、第1粘着層1および支持フィルム4に対する第2粘着層2の密着力が大きくなる。そのため、後述する半導体装置100の製造におけるピックアップ工程において、剥離を生じさせるべき所望の界面(すなわち第1粘着層1と接着層3との界面)で剥離を生じさせることができる。また、第2粘着層2の粘着性を高めることにより、後述する半導体装置100の製造の第2の工程においては、半導体ウエハー7をダイシングして個片化する際に、第2粘着層2とウエハーリング9との間が確実に固定されることとなる。その結果、半導体ウエハー7の位置ずれが確実に防止され、半導体素子71の寸法精度を高めることができる。
【0055】
この第2粘着層2の構成材料には、前述した第1粘着層1と同様のものを用いることができる。具体的には、第2粘着層2は、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等を含む第2樹脂組成物で構成されている。
【0056】
アクリル系粘着剤としては、例えば(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルで構成される樹脂、(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルと、それらと共重合可能な不飽和単量体(例えば酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル等)との共重合体等が用いられる。また、これらの共重合体を2種類以上混合してもよい。
【0057】
また、これらの中でも(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシルおよび(メタ)アクリル酸ブチルからなる群から選ばれる1種以上と、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルおよび酢酸ビニルの中から選ばれる1種以上との共重合体が好ましい。これにより、第2粘着層2が粘着する相手(被着体)との密着性や粘着性の制御が容易になる。
【0058】
また、第2樹脂組成物には、粘着性(接着性)を制御するためにウレタンアクリレート、アクリレートモノマー、多価イソシアネート化合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート)等のイソシアネート化合物等のモノマーおよびオリゴマーを添加してもよい。
【0059】
さらに、第2樹脂組成物には、第1樹脂組成物と同様の光重合開始剤を添加してもよい。
【0060】
また、接着強度およびシェア強度を高める目的で、ロジン樹脂、テルペン樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族系石油樹脂等の粘着付与材等を添加してもよい。
【0061】
このような第2粘着層2の平均厚さは、特に限定されないが、1〜100μm程度であるのが好ましく、特に3〜20μm程度であるのがより好ましい。厚さが前記下限値未満であると十分な粘着力を確保するのが困難となる場合があり、前記上限値を超えても特に優れた効果が得られない。また、第2粘着層2は、第1粘着層1によりも柔軟性が高いため、第2粘着層2の平均厚さが前記範囲内であれば、第2粘着層2の形状追従性が確保され、半導体用フィルム10の半導体ウエハー7に対する密着性をより高めることができる。
【0062】
(接着層)
接着層3は、熱可塑性樹脂を含む第3樹脂組成物で構成されている。
【0063】
特に、かかる第3樹脂組成物には、熱可塑性樹脂として、少なくともアクリル系樹脂が含まれている。すなわち、接着層3は、少なくともアクリル系樹脂を含んで構成されている。アクリル系樹脂はガラス転移温度が低い。そのため、アクリル系樹脂を含む接着層31は、絶縁基板5に対する初期密着性を向上させることができる。
【0064】
そして、かかるアクリル系樹脂として、水酸基を有する第1モノマー単位(以下、単に「第1モノマー単位」とも言う)とカルボキシル基を有する第2モノマー単位(以下、単に「第2モノマー単位」とも言う)とを含む繰り返し単位を有するアクリル系樹脂が用いられる。
【0065】
水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系樹脂は、絶縁基板5表面および半導体素子71に対する密着性に優れる。そのため、半導体装置100の製造時において、接着層31に熱処理を施すことにより、絶縁基板5表面および半導体素子71に対する接着層31の密着強度を高めることができる。
【0066】
また、前述したような水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系樹脂は、前記繰り返し単位中に含まれる前記第1モノマー単位および前記第2モノマー単位の含有量は、それぞれ、0.1〜3mol%である。
【0067】
これにより、接着層31に含まれる水酸基およびカルボキシル基の含有量が比較的低く設定されるので、半導体装置100の製造過程において、かかる水酸基とカルボキシル基との結合(架橋)による接着層31の粘度上昇を抑えることができる。そのため、接着層31に対する熱履歴が長くなっても、接着層31のフロー性を良好なものとすることができる。その結果、絶縁基板5表面の凹凸に対する接着層31の埋め込み性を優れたものとすることができる。
【0068】
また、このような含有量で水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系樹脂を用いた接着層3では、175℃で6時間熱処理した後の175℃における接着層3の粘度を10000Pa・s以下とすることができる。
【0069】
後述するようなワイヤーボンディングにおいて、1つの半導体素子に対してワイヤーボンディングに要する時間は、用いる半導体素子の大きさや端子の数等によっても異なるが、一般に、約10分程度である。したがって、30程度の半導体素子を積層しても、その積層およびボンディング後に、接着層31が良好なフロー性を有する。
【0070】
また、接着層3に含まれるアクリル系樹脂は、前述したように水酸基およびカルボキシル基の含有量が比較的低く設定されているが、前述したように絶縁基板5表面の凹凸に対する接着層31の優れた埋め込み性と相まって、水酸基およびカルボキシル基による絶縁基板5表面に対する優れた密着性を好適に発揮することができる。その結果、絶縁基板5表面に対する接着層31の密着強度を高めることができる。具体的には、封止後において、絶縁基板5と半導体素子71とを接着した接着層31の260℃におけるダイシェア強度を1MPa以上とすることができる。
【0071】
このような水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系樹脂の接着層3中における含有量は、他の樹脂成分や無機充填材の含有量等によっても異なるが、例えば、30〜90質量%であるのが好ましく、40〜90質量%であるのがより好ましい。これにより、絶縁基板5表面および半導体素子71に対する接着層31の密着強度を高めることともに、接着層31のフロー性を高めることができる。
【0072】
これに対し、かかる水酸基またはカルボキシル基の含有量が前記下限値未満であると、接着層3のアクリル系樹脂以外の構成材料によっては、絶縁基板5や半導体素子71に対する接着層31の密着性を高める効果が得られない場合がある。一方、かる水酸基またはカルボキシル基の含有量が前記上限値を超えると、接着層3や接着層31にかかる熱履歴によって、水酸基とカルボキシル基との結合が生じやすくなる。また、接着層31の粘着力が強すぎて作業性が低下する場合がある。
【0073】
このような水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系樹脂としては、前述したような含有量の範囲で水酸基およびカルボキシル基を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を有するエチルアクリレート−ブチルアクリレート−アクリロニトリル−アクリル酸−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体に代表されるアクリル酸エステル共重合体を好適に用いることができる。これにより、半導体素子71および絶縁基板5表面に対する接着層3の密着性を向上させることができる。
【0074】
【化1】

【0075】
ただし、上記式(1)において、m、n、x、yおよびzは、それぞれ、1以上の整数である。
【0076】
例えば、上記式(1)で表わされるアクリル系樹脂を用いた場合において、その繰り返し単位中に含まれる水酸基を有する第1モノマー単位の含有量を0.1〜3mol%にするには、z/(m+n+x+y+z)が0.1〜3となるようにm、n、x、yおよびzの数を調整すればよく、また、繰り返し単位中に含まれるカルボキシル基を有する第2モノマー単位の含有量を0.1〜3mol%にするには、y/(m+n+x+y+z)が0.1〜3となるようにm、n、x、yおよびzの数を調整すればよい。
【0077】
また、前記アクリル系樹脂の繰り返し単位中における第1モノマー単位および第2モノマー単位の含有量は、互いに同じであっても異なっていてもよいが、第2モノマー単位の含有量が第1モノマー単位の含有量よりも多いのが好ましい。これにより、半導体素子71に対する接着層31の密着性を向上させることができる。なお、第1モノマー単位の含有量が第2モノマー単位の含有量よりも多くすることにより、絶縁基板5に対する接着層31の密着性を高めることもできる。
【0078】
また、前記アクリル系樹脂の繰り返し単位中における第1モノマー単位の含有量は、0.1〜3mol%であればよいが、0.1〜2mol%であるのがより好ましく、0.2〜1mol%であるのがさらに好ましい。これにより、前述したような絶縁基板5表面に対する接着層31の密着性と、長時間の熱履歴後の接着層31のフロー性とのバランスが特に優れたものとなる。
【0079】
また、前記アクリル系樹脂の繰り返し単位中における第2モノマー単位の含有量は、0.1〜3mol%であればよいが、0.2〜2.5mol%であるのがより好ましく、0.3〜2mol%であるのがさらに好ましい。これにより、前述したような半導体素子71に対する接着層31の密着性と、長時間の熱履歴後の接着層31のフロー性とのバランスが特に優れたものとなる。
【0080】
なお、第3樹脂組成物には、前述したような水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系樹脂とは異なるアクリル系樹脂が含まれていてもよい。
【0081】
ここで、アクリル系樹脂とは、アクリル酸およびその誘導体を意味し、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、アクリルアミド等の重合体および他の単量体との共重合体等が挙げられる。
【0082】
また、第3樹脂組成物には、アクリル系樹脂とは異なる熱可塑性樹脂が含まれているのが好ましい。これにより、封止時における接着層31のフロー性を高めることができる。また、第3樹脂組成物に含まれるアクリル系樹脂以外の熱可塑性樹脂の種類によって、半導体素子71や絶縁基板5に対する接着層31の密着性を高めることもできる。
【0083】
かかるアクリル系樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等のポリイミド系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等のポリアミド系樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
中でも、かかる熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂を用いるのが好ましい。フェノキシ樹脂は、水酸基またはエポキシ基を有していることから、絶縁基板5(有機基板)に対する密着性に優れている。また、フェノキシ樹脂は、アクリル酸エステル共重合体との相溶性に優れていることから、前述したアクリル系樹脂としてアクリル酸エステル共重合体を用いた場合、接着層31の外観を優れたものとすることができる。
【0085】
また、接着層3中におけるアクリル系樹脂以外の熱可塑性樹脂(特にフェノキシ樹脂)の含有量は、前述したアクリル系樹脂100質量部に対して、0.5〜30質量部であるのが好ましく、3〜20質量部であるのがより好ましい。これにより、封止時における接着層31のフロー性を向上させるとともに、接着層31の外観を優れたものとすることができる。
【0086】
また、接着層3に含まれる熱可塑性樹脂(特にアクリル系樹脂)のガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、−35〜80℃であることが好ましく、特に−30〜60℃であることがより好ましく、−25〜50℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が前記下限値未満であると接着層3の粘着力が強くなり作業性が低下する場合があり、前記上限値を超えると低温接着性を向上する効果が低下する場合がある。
【0087】
また、熱可塑性樹脂(特にアクリル系樹脂)の重量平均分子量は、特に限定されないが、10万以上が好ましく、特に15万〜100万が好ましい。重量平均分子量が前記範囲内であると、封止時における接着層31のフロー性を良好なものとすることができる。また、半導体用フィルム10の製造時における接着層3の成膜性を向上させることができる。
【0088】
また、接着層3は、熱硬化性樹脂を実質的に含まないで構成されているのが好ましい。これにより、接着層3の粘度が熱履歴によって上昇してしまうのを簡単かつ確実に防止することができる。
【0089】
ここで、「接着層3が熱硬化性樹脂を実質的に含まない」とは、接着層3を構成する第3樹脂組成物全体に対して熱硬化性樹脂の含有量が3質量%以下のものをいう。すなわち、接着層3を構成する第3樹脂組成物には、微量の熱硬化性樹脂が含まれていてもよい。この場合、第3樹脂組成物中における熱硬化性樹脂の含有量は、2質量%であるのが好ましく、1質量%であるのがより好ましい。これにより、ワイヤーボンディングの熱履歴による接着層3中の熱硬化性樹脂の硬化反応が少ないため、封止時の接着層3のフロー性が低下してしまうのを抑制することができる。
【0090】
第3樹脂組成物が微量の熱硬化性樹脂を含む場合、その熱硬化性樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物を用いるようにしてもよい。また、これらの中でもエポキシ樹脂またはフェノール樹脂が好ましい。これらの樹脂によれば、接着層3の耐熱性および密着性をより向上することができる。
【0091】
また、第3樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含む場合に、さらに硬化剤(熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、特に、フェノール系硬化剤)や硬化触媒を微量含んでいてもよい。
【0092】
硬化剤としては、例えばジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等の芳香族ポリアミン、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジド等を含むポリアミン化合物等のアミン系硬化剤、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物(液状酸無水物)、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等の酸無水物系硬化剤、フェノール樹脂等のフェノール系硬化剤が挙げられる。これらの中でもフェノール系硬化剤が好ましく、具体的にはビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(通称テトラメチルビスフェノールF)、4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール(通称ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、およびこれらの内ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタンの3種の混合物(例えば、本州化学工業(株)製、ビスフェノールF−D)等のビスフェノール類、1,2−ベンゼンジオール、1,3−ベンゼンジオール、1,4−ベンゼンジオール等のジヒドロキシベンゼン類、1,2,4−ベンゼントリオール等のトリヒドロキシベンゼン類、1,6−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類の各種異性体、2,2’−ビフェノール、4,4’−ビフェノール等のビフェノール類の各種異性体等の化合物が挙げられる。
【0093】
また、硬化触媒としては、例えばイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン等アミン系触媒、トリフェニルホスフィン等リン系触媒等が挙げられる。これらの中でもイミダゾール類が好ましい。これにより、特に速硬化性と保存性を両立することができる。
【0094】
イミダゾール類としては、例えば1−ベンジル−2メチルイミダゾール、1−ベンジル−2フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらの中でも2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールまたは2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。これにより、保存性を特に向上することができる。
【0095】
また、第3樹脂組成物は、無機充填材(フィラー)を含有しているのが好ましい。すなわち、接着層3は、無機充填材を含んで構成されているのが好ましい。これにより、接着層3と第1粘着層1との間の剥離強度を調整し、ダイシング時に剥離せず、ピックアップ時には引っ張り荷重に伴って比較的容易に剥離可能になるとともに、封止時における熱および圧力のもとにおける接着層3の弾性率を高めて、かかる圧力に対する半導体素子の耐性を向上させることができる。
【0096】
この無機充填材としては、例えば銀、酸化チタン、シリカ、マイカ等の粒子が挙げられる。
【0097】
中でも、接着層3に用いる無機充填材としては、シリカ(特に溶融シリカ)が好ましい。これにより、接着層3内での無機充填材の分散性を向上させ、その結果、接着層3の外観を優れたものとすることができる。また、接着層3内に無機充填材を均一に分散させることにより、接着層3の熱膨張係数を効果的に低減させ、その結果、半導体素子の積層数が多くしても、各半導体素子の反りを低減させることができる。また、半導体用フィルム10の製造時の作業性を向上させることができる。
【0098】
また、無機充填材の平均粒径は、0.01〜20μmであるのが好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましい。かかる平均粒径が前記下限値未満であると、無機充填材同士が凝集しやすくなるとともに、無機充填材を添加することによる効果が少なくなる傾向を示す。一方、かかる平均粒径が前記上限値を超えると、封止時に無機充填材が接着層3から突出して半導体素子71に対してダメージを与えるおそれがあり、また、絶縁基板5に対する接着層3の接着力が低下する傾向を示す。
【0099】
また、接着層3中の無機充填材の含有量は、接着層3の無機充填材以外の樹脂組成物100質量部に対して、10〜150質量部であるのが好ましく、20〜120質量部であるのがより好ましい。これにより、接着層3と第1粘着層1との間の剥離強度を調整し、ダイシング時に剥離せず、ピックアップ時には引っ張り荷重に伴って比較的容易に剥離可能になるとともに、封止時における熱および圧力のもとにおける接着層3の弾性率を高めて、かかる圧力に対する半導体素子71の耐性を向上させることができる。
【0100】
また、第3樹脂組成物は、さらにカップリング剤を含むことが好ましい。すなわち、接着層3は、カップリング剤を含んで構成されているのが好ましい。これにより、接着層31と絶縁基板5表面との密着性を向上させるとともに、接着層31中の樹脂と無機充填材との密着性を向上させることができる。
【0101】
前記カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらの中でもシラン系カップリング剤が好ましい。これにより、耐熱性をより向上することができる。
【0102】
このうち、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンなどが挙げられる。
【0103】
カップリング剤の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部程度であるのが好ましく、特に0.5〜10質量部程度であるのがより好ましい。含有量が前記下限値未満であると密着性の効果が不十分である場合があり、前記上限値を超えるとアウトガスやボイドの原因になる場合がある。
【0104】
接着層3を成膜するにあたっては、このような第3樹脂組成物を、例えばメチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ジメチルホルムアルデヒド等の溶剤に溶解して、ワニスの状態にした後、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を用いてキャリアフィルムに塗工し、乾燥することで接着層3を得ることができる。
【0105】
接着層3の平均厚さは、特に限定されないが、3〜100μm程度であるのが好ましく、特に5〜70μm程度であるのがより好ましい。厚さが前記範囲内であると、特に厚さ精度の制御を容易にできる。
【0106】
(支持フィルム)
支持フィルム4は、以上のような第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3を支持する支持体である。
【0107】
このような支持フィルム4の構成材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、エチレン酢ビ共重合体、アイオノマー、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ビニルポリイソプレン、ポリカーボネート等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が挙げられる。
【0108】
支持フィルム4の平均厚さは、特に限定されないが、5〜200μm程度であるのが好ましく、30〜150μm程度であるのがより好ましい。これにより、支持フィルム4は、適度な剛性を有するものとなるため、第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3を確実に支持して、半導体用フィルム10の取扱いを容易にするとともに、半導体用フィルム10が適度に湾曲することで、半導体ウエハー7との密着性を高めることができる。
【0109】
(半導体用フィルムの特性)
第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3は、それぞれ異なる密着力(粘着力)を有しているが、以下では、それらについて詳述する。
【0110】
前述したように、第1粘着層1および支持フィルム4に対する第2粘着層2の密着力は、接着層3に対する第1粘着層1の密着力よりも大きい。これにより、個片83をピックアップした際に、第1粘着層1と第2粘着層2との界面が不本意にも剥離してしまうのを防止することができる。すなわち、第1粘着層1と接着層3との界面で選択的に剥離を生じさせることができる。
【0111】
すなわち、第1粘着層1および第2粘着層2の2層で構成された粘着層を用いているため、それぞれの粘着力を異ならせることで、上記のように、ダイシング時における半導体ウエハー7の確実な固定と個片83の容易なピックアップとを両立させることが可能になる。換言すれば、ダイシング性とピックアップ性の両立を図ることができる。
【0112】
また、第1粘着層1の第2粘着層2に対する密着力は、特に限定されないが、40〜400N/m程度であるのが好ましく、特に120〜240N/m程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、特にダイシング性やピックアップ性に優れる。
【0113】
なお、上記密着力(粘着力)の単位である「N/m」は、支持フィルム4上の第2粘着層2の表面に第1粘着層1を積層して貼り付けたサンプルを25mm幅の短冊状にし、その後、23℃(室温)において、この積層体において第1粘着層1の部分を剥離角180°でかつ引っ張り速度1000mm/minで引き剥がしたときの荷重(単位N)を1m幅当たりに換算した(1000mm/25mm=40倍した)値である。すなわち、ここでは、第1粘着層1の第2粘着層2に対する密着力は、180°ピール強度として説明する。
【0114】
また、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、接着層3の半導体ウエハー7に対する密着力よりも小さいことが好ましい。これにより、個片83をピックアップした際に、半導体ウエハー7と接着層3との界面が不本意にも剥離してしまうのを防止することができる。すなわち、第1粘着層1と接着層3との界面で選択的に剥離を生じさせることができる。
【0115】
また、接着層3の半導体ウエハー7に対する密着力は、特に限定されないが、20〜200N/m程度であるのが好ましく、特に32〜100N/m程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、特にダイシング時に振動や衝撃で半導体素子71が飛んで脱落する、いわゆる「チップ飛び」の発生を十分に防止することができる。
【0116】
なお、上記密着力(粘着力)の単位である「N/m」は、半導体ウエハー7の表面に25mm幅の短冊状の接着層3を貼り付け、その後、23℃(室温)において、この接着層3を剥離角180°でかつ引っ張り速度1000mm/minで引き剥がしたときの荷重(単位N)を1m幅当たりに換算した(1000mm/25mm=40倍した)値である。すなわち、ここでは、接着層3の半導体ウエハー7に対する密着力は、180°ピール強度として説明する。
【0117】
また、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、第2粘着層2のウエハーリング9に対する密着力よりも小さいことが好ましい。これにより、後述する第3の工程において、個片83をピックアップした際に、第2粘着層2とウエハーリング9との間は剥離することなく、接着層3と第1粘着層1との間が選択的に剥離する。そして、ダイシングの際には、ウエハーリング9により積層体8を確実に支持し続けることができる。
【0118】
なお、第1粘着層1の接着層3に対する密着力や第2粘着層2のウエハーリング9に対する密着力は、それぞれ、前述したアクリル系樹脂等の種類(組成)、モノマー等の種類、含有量、硬度等を変化させることで調整することができる。
【0119】
また、ダイシング前における第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、特に限定されないが、密着界面の平均で4〜32N/m程度であるのが好ましく、特に12〜24N/m程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、後述するように積層体8を引き伸ばしたり(エキスパンド)、積層体8をダイシングした際に、半導体素子71が第1粘着層1から脱落する等の不具合が防止されるとともに、優れたピックアップ性が確保される。
【0120】
なお、上記密着力(粘着力)の単位である「N/m」は、第1粘着層1の表面に接着層3を貼り付けたサンプルを25mm幅の短冊状にし、その後、23℃(室温)において、この積層フィルムにおいて接着層部分を剥離角180°でかつ引っ張り速度1000mm/minで引き剥がしたときの荷重(単位N)を1m幅当たりに換算した(1000mm/25mm=40倍した)値である。すなわち、ここでは、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、180°ピール強度として説明する。
【0121】
上記のような特性を有する第1粘着層1の組成としては、例えば、アクリル系樹脂100質量部に対して、アクリレートモノマー1〜50質量部と、イソシアネート化合物0.1〜10質量部とを配合したものが挙げられる。
【0122】
一方、第2粘着層2のウエハーリング9に対する密着力は、特に限定されないが、密着界面の平均で40〜800N/m程度であるのが好ましく、特に160〜480N/m程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、後述するように積層体8を引き伸ばしたり(エキスパンド)、積層体8をダイシングした際に、第1粘着層1と第2粘着層2との界面の剥離が防止され、結果として半導体素子71の脱落等が確実に防止される。また、ウエハーリング9により積層体8を確実に支持することができる。
【0123】
なお、上記密着力(粘着力)の単位である「N/m」は、ウエハーリング9の上面に第2粘着層2が接するように、25mm幅の短冊状の第2粘着層2を積層した支持フィルム4を23℃(室温)で貼り付け、その後、23℃(室温)において、この第2粘着層2を積層した支持フィルム4を、剥離角180°でかつ引っ張り速度1000mm/minでウエハーリング9から引き剥がしたときの荷重(単位N)を1m幅当たりに換算した(1000mm/25mm=40倍した)値である。すなわち、ここでは、第2粘着層2のウエハーリング9に対する密着力は、180°ピール強度として説明する。
【0124】
上記のような特性を有する第2粘着層2の組成としては、例えば、アクリル系樹脂100質量部に対して、ウレタンアクリレート1〜50質量部と、イソシアネート化合物0.5〜10質量部とを配合したものが挙げられる。
【0125】
また、第1粘着層1の接着層3に対する密着力をAとし、第2粘着層2の第1粘着層1に対する密着力をAとしたとき、A/Aは、特に限定されないが、5〜200程度であるのが好ましく、10〜50程度であるのがより好ましい。これにより、第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3は、ダイシング性およびピックアップ性において特に優れたものとなる。
【0126】
(半導体用フィルムの製造方法)
以上説明したような半導体用フィルム10は、例えば以下のような方法で製造される。
【0127】
まず、図5(a)に示す基材4aを用意し、この基材4aの一方の面上に第1粘着層1を成膜する。これにより、基材4aと第1粘着層1との積層体61を得る。第1粘着層1の成膜は、前述した第1樹脂組成物を含む樹脂ワニスを各種塗布法等により塗布し、その後塗布膜を乾燥させる方法や、第1樹脂組成物からなるフィルムをラミネートする方法等により行うことができる。また、紫外線等の放射線を照射することにより、塗布膜を硬化させるようにしてもよい。
【0128】
上記塗布法としては、例えば、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0129】
また、積層体61と同様にして、図5(a)に示すように、用意した基材4bの一方の面上に接着層3を成膜し、これにより、基材4bと接着層3との積層体62を得る。
【0130】
さらに、各積層体61、62と同様にして、図5(a)に示すように、用意した支持フィルム4の一方の面上に第2粘着層2を成膜し、これにより、支持フィルム4と第2粘着層2との積層体63を得る。
【0131】
次いで、図5(b)に示すように、第1粘着層1と接着層3とが接するように積層体61と積層体62とを積層し、積層体64を得る。この積層は、例えばロールラミネート法等により行うことができる。
【0132】
次いで、図5(c)に示すように、積層体64から基材4aを剥離する。そして、図5(d)に示すように、前記基材4aを剥離した積層体64に対して、基材4bを残して、前記接着層3および前記第1粘着層1の有効領域の外側部分をリング状に除去する。ここで、有効領域とは、その外周が、半導体ウエハー7の外径よりも大きく、かつ、ウエハーリング9の内径よりも小さい領域を指す。
【0133】
次いで、図5(e)に示すように、第1粘着層1の露出面に第2粘着層2が接するように、基材4aを剥離し有効領域の外側部分をリング状に除去した積層体64と積層体63を積層する。その後、基材4bを剥離することにより、図5(f)に示す半導体用フィルム10が得られる。
【0134】
[半導体装置の製造方法]
次に、上述したような半導体用フィルム10を用いて半導体装置100を製造する方法について説明する。
【0135】
図2ないし図4に示す半導体装置の製造方法は、半導体ウエハー7と半導体用フィルム10とを積層(貼着)し、積層体8を得る第1の工程と、半導体用フィルム10の外周部21をウエハーリング9に貼り付けた状態で、半導体ウエハー7側から積層体8に切り込み81を設ける(ダイシングする)ことにより、半導体ウエハー7および接着層3を個片化し、半導体素子71および接着層31からなる複数の個片83を得る第2の工程と、個片83の少なくとも1つをピックアップする第3の工程と、ピックアップされた個片83を絶縁基板5上に載置し、半導体装置100を得る第4の工程とを有する。以下、各工程について順次詳述する。
【0136】
[1]
[1−1]まず、半導体ウエハー7および半導体用フィルム10を用意する。
【0137】
半導体ウエハー7は、あらかじめ、その表面に複数個分の回路が形成されたものである。かかる半導体ウエハー7としては、シリコンウエハーの他、ガリウムヒ素、窒化ガリウムのような化合物半導体ウエハー等が挙げられる。
【0138】
このような半導体ウエハー7の平均厚さは、特に限定されず、好ましくは0.01〜1mm程度、より好ましくは0.02〜0.3mm程度とされる。前述したような半導体用フィルム10を用いた半導体装置の製造方法によれば、このような厚さの半導体ウエハー7に対しても欠けや割れ等の不具合を生じさせることなく、簡単かつ確実に切断して個片化することができる。
【0139】
[1−2]次に、図2(a)に示すように、上述したような半導体用フィルム10の接着層3と、半導体ウエハー7とを密着させつつ、半導体用フィルム10と半導体ウエハー7とを積層する(第1の工程)。なお、図2に示す半導体用フィルム10では、接着層3の平面視における大きさおよび形状が、半導体ウエハー7よりも大きく設定されている。このため、半導体ウエハー7の下面全体が接着層3の上面全体と密着し、これにより半導体ウエハー7が半導体用フィルム10で支持されることとなる。なお、接着層3の平面視における大きさおよび形状は、半導体ウエハー7と等しくまたはそれよりも大きく、かつ、ウエハーリング9の内径よりも小さい形状に、あらかじめ設定されていればよい。
【0140】
上記積層の結果、図2(b)に示すように、半導体用フィルム10と半導体ウエハー7とが積層されてなる積層体8が得られる。
【0141】
[2]
[2−1]次に、ウエハーリング9を用意する。続いて、第2粘着層2の外周部21の上面とウエハーリング9の下面とが密着するように、積層体8とウエハーリング9とを積層する。これにより、積層体8の外周部がウエハーリング9により支持される。
【0142】
ウエハーリング9は、一般にステンレス鋼、アルミニウム等の各種金属材料等で構成されるため、剛性が高く、積層体8の変形を確実に防止することができる。
【0143】
半導体用フィルム10が上述したように粘着性の異なる2層の粘着層(第1粘着層1および第2粘着層2)を有していることにより、これらの粘着性の違いを利用して、ダイシング性とピックアップ性の両立を図ることができる。
【0144】
[2−2]次に、ダイサーテーブル302を用意し、ダイサーテーブル302と支持フィルム4とが接触するように、ダイサーテーブル302上に積層体8を載置する。
続いて、図2(c)に示すように、ダイシングブレード82を用いて積層体8に複数の切り込み81を形成する(ダイシング)。ダイシングブレード82は、円盤状のダイヤモンドブレード等で構成されており、これを回転させつつ積層体8の半導体ウエハー7側の面に押し当てることで切り込み81が形成される。そして、半導体ウエハー7に形成された回路パターン同士の間隙に沿って、ダイシングブレード82を相対的に移動させることにより、半導体ウエハー7が複数の半導体素子71に個片化される(第2の工程)。また、接着層3も同様に、複数の接着層31に個片化される。このようなダイシングの際には、半導体ウエハー7に振動や衝撃が加わるが、半導体ウエハー7の下面が半導体用フィルム10で支持されているため、上記の振動や衝撃が緩和されることとなる。その結果、半導体ウエハー7における割れや欠け等の不具合の発生を確実に防止することができる。
【0145】
切り込み81の先端(最深部)は、支持フィルム4に達している。これにより、半導体ウエハー7および接着層3の双方を確実に個片化して、半導体素子71および接着層31を得ることができる。なお、切り込み81の深さは、半導体ウエハー7と接着層3とを貫通し得る深さであればよく、例えば、切り込み81の深さを高精度に制御可能である場合には、切り込み81の最深部は、第1粘着層1内または第2粘着層2内に位置していてもよい。
【0146】
[3]
[3−1]次に、複数の切り込み81が形成された積層体8を、図示しないエキスパンド装置により、放射状に引き伸ばす(エキスパンド)。これにより、図2(d)に示すように、積層体8に形成された切り込み81の幅が広がり、それに伴って個片化された半導体素子71同士の間隔も拡大する。その結果、半導体素子71同士が干渉し合うおそれがなくなり、個々の半導体素子71をピックアップし易くなる。なお、エキスパンド装置は、このようなエキスパンド状態を後述する工程においても維持し得るよう構成されている。
【0147】
[3−2]次に、図3に示すダイボンダ250により、個片化された半導体素子71のうちの1つを吸着して上方に引き上げる。その結果、図3(e)に示すように、接着層31と第1粘着層1との界面が選択的に剥離し、半導体素子71と接着層31とが積層されてなる個片83がピックアップされる(第3の工程)。
【0148】
[4]
[4−1]次に、半導体素子71(チップ)を搭載(マウント)するための絶縁基板5を用意する。
【0149】
この絶縁基板5としては、半導体素子71を搭載し、半導体素子71と外部とを電気的に接続するための配線や端子等を備えた絶縁性を有する基板が挙げられる。
【0150】
具体的には、ビスマレイミド−トリアジン(BT)基板、ポリエステル銅張フィルム基板、ポリイミド銅張フィルム基板、アラミド銅張フィルム基板等の可撓性基板や、ガラス布・エポキシ銅張積層板等のガラス基材銅張積層板、ガラス不織布・エポキシ銅張積層板等のコンポジット銅張積層板、ポリエーテルイミド樹脂基板、ポリエーテルケトン樹脂基板、ポリサルフォン系樹脂基板等の耐熱・熱可塑性基板といった硬質性基板の他、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、炭化ケイ素基板等のセラミックス基板などが挙げられる。
なお、絶縁基板5に代えて、リードフレーム等を用いるようにしてもよい。
【0151】
次いで、図3(f)に示すように、ピックアップされた個片83を、ダイボンダ250により絶縁基板5上に載置する。
【0152】
ここで、ダイボンダ250について説明する。
図3に示すダイボンダ250は、ダイシング工程を経て得られた個片83をピックアップした後、後述する絶縁基板5上に移送するものである。
【0153】
このダイボンダ250は、個片83を吸着するコレット(チップ吸着部)260と、絶縁基板5を下方から加熱するヒーター270と、コレット260を支持する装置本体280とを有する。コレット260は、個片83を吸着した状態で、積層体8の載置部から絶縁基板5の載置部まで移動し得るようになっている。
【0154】
本工程では、図3(e)に示すように、コレット260により個片83をピックアップし、この個片83を絶縁基板5上に載置する。そして、ヒーター270で加熱しつつ個片83を絶縁基板5に圧着することにより、個片83を絶縁基板5に接着する(図3(f)参照)。
【0155】
なお、このようなピックアップの際に、接着層31と第1粘着層1との界面が選択的に剥離する理由は、前述したように、第2粘着層2の粘着性が第1粘着層1の粘着性より高いため、支持フィルム4と第2粘着層2との界面の密着力、および、第2粘着層2の第1粘着層1との界面の密着力は、第1粘着層1と接着層3との密着力より大きいからである。すなわち、半導体素子71を上方にピックアップした場合、これらの3箇所のうち、最も密着力の小さい第1粘着層1と接着層3との界面が選択的に剥離することとなる。
【0156】
また、個片83をピックアップする際には、半導体用フィルム10の下方から、ピックアップすべき個片83を選択的に突き上げるようにしてもよい。これにより、積層体8から個片83が突き上げられるため、前述した個片83のピックアップをより容易に行うことができるようになる。なお、個片83の突き上げには、半導体用フィルム10を下方から突き上げる図示しない針状体(ニードル)等が用いられる。すなわち、ダイボンダ250は、この針状体を有していてもよい。
【0157】
[4−2]次に、図4(g)に示すように、絶縁基板5上に載置された個片83を加熱・圧着する。これにより、接着層31を介して半導体素子71と絶縁基板5とが仮接着(ダイボンディング)される(第4の工程)。
【0158】
仮接着における加熱・圧着の条件としては、半導体素子71の破壊を防止するため、低温、低荷重、短時間で熱圧着することが好ましく、例えば、加熱温度は80〜150℃程度であるのが好ましい。また、圧着時間は0.1〜5秒程度であるのが好ましい。
【0159】
このような仮接着においては、絶縁基板5表面の凹凸を接着層31により完全に埋め込むことは難しく、絶縁基板5と接着層31との間に空隙があっても構わない。
【0160】
[4−3]その後、図4(h)に示すように、半導体素子71の端子(図示せず)と絶縁基板5上の端子(図示せず)とをワイヤー84(84a)により電気的に接続する。このワイヤー84は、ボンディングワイヤーであり、ワイヤーボンディング装置を用いて行われる。
【0161】
また、この工程(ワイヤーボンディング工程)は、150〜190℃の熱板上に載置した状態で行われる。
【0162】
[4−4]そして、図4(i)に示すように、半導体素子71上に接着層131を介して半導体素子171を仮接着する。具体的には、半導体素子171および接着層131からなる個片183を半導体素子71上に載置し、その個片183を加熱・圧着する。これにより、接着層131を介して半導体素子171と半導体素子71とが仮接着(ダイボンディング)される。
【0163】
本工程[4−4]は、前述した工程[4−2]と同様にして行われる。
ここで、半導体素子171および接着層131は、前述した半導体素子71および接着層31と同様にして得られたものである。
【0164】
本実施形態では、半導体素子171および接着層131の形状および大きさは、半導体素子71および接着層31と等しく設定されている。そのため平面視における半導体素子71の中心と半導体素子171の中心とをずらすことで、半導体素子71の上面から引き出されたワイヤー84を避けるように、半導体素子171を半導体素子71上に載置することができる。
【0165】
また、本実施形態では、接着層131の構成材料は、接着層31の構成材料と同様である。これにより、接着層131に対する熱履歴が長い場合であっても、半導体素子71の上面の段差を後述の封止工程にて埋め込むことができる。
【0166】
接着層131の厚さは、接着層31の厚さと同じであってもよいが、接着層31よりも薄いのが好ましい。これにより、接着層131のフロー性が高い場合においても、半導体素子71と半導体素子171とを接着層131を介して安定的に接着させることができる。
【0167】
[4−5]
次に、図4(j)に示すように、半導体素子171の端子(図示せず)と絶縁基板5上の端子(図示せず)とをワイヤー84(84b)により電気的に接続する。
【0168】
本工程[4−5]は、前述した工程[4−3]と同様にして行われる。
なお、半導体素子が3段以上積層される半導体装置を製造する場合には、前述した工程[4−4]および[4−5]を交互に繰り返し行えばよい。
【0169】
[4−6]
その後、図4(k)に示すように、絶縁基板5上に載置された個片83、183およびワイヤー84を樹脂材料で被覆し、モールド層85を形成する。これにより、半導体素子71、171およびワイヤー84が封止される。
【0170】
このモールド層85を構成する樹脂材料(封止樹脂)としては、エポキシ系樹脂等の各種モールド樹脂が挙げられる。
【0171】
かかる封止は、例えばトランスファー成形機を用いて、150〜200℃、5〜10MPaの高温、高圧で行われる。
【0172】
このような高温、高圧により、モールド層85の形成とともに、接着層31が軟化し、絶縁基板5表面の凹凸が接着層31により完全に埋め込まれる。また、接着層131も軟化し、半導体素子71の上面に対する密着性が高められる。
【0173】
特に、接着層31は、前述したように、長い熱履歴を受けても良好なフロー性を有しているので、絶縁基板5表面に対する接着層31の埋め込み性を極めて優れたものとすることができる。
【0174】
その後、必要に応じて、モールド層85を熱処理により本硬化させる。
かかる本硬化の条件は、かかる本硬化が可能な条件であれば特に限定されないが、例えば、温度100〜200℃、時間5〜300分の条件が好ましく、特に温度120〜180℃、時間30〜240分の条件が好ましい。
【0175】
さらに、絶縁基板5の下面に設けられた端子(図示せず)にボール状電極86を接合することにより、半導体素子71をパッケージ内に収納してなる図4(k)に示すような半導体装置100が得られる。
【0176】
以上のような方法によれば、第3の工程において、半導体素子71に接着層31が付着した状態、すなわち個片83の状態で、ピックアップされることから、第4の工程において、この接着層31をそのまま絶縁基板5との接着に利用することができる。このため、別途接着剤等を用意する必要がなく、半導体装置100の製造効率をより高めることができる。
【0177】
特に、接着層31に含まれる水酸基およびカルボキシル基の含有量が比較的低く設定されるので、半導体装置100の製造過程において、かかる水酸基とカルボキシル基との結合(架橋)による接着層31の粘度上昇を抑えることができる。そのため、接着層31に対する熱履歴が長くなっても、接着層31のフロー性を良好なものとすることができる。その結果、絶縁基板5表面の凹凸に対する接着層31の埋め込み性を優れたものとすることができる。
【0178】
また、水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル系樹脂は、絶縁基板5表面に対する密着性に優れる。そのため、半導体装置100の製造時において、絶縁基板5表面の凹凸を埋めた後の接着層31に熱処理を施すことにより、絶縁基板5表面に対する接着層31の密着強度を高めることができる。
【0179】
<第2実施形態>
次に、本発明の半導体用フィルムおよび本発明の半導体装置の製造方法の第2実施形態について説明する。
【0180】
図6は、本発明の第2実施形態に係る半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0181】
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。なお、図6において、第1実施形態と同様の構成部分については、先に説明した図1と同様の符号を付している。
【0182】
本実施形態にかかる半導体用フィルム10’は、粘着層の層構成が異なる以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0183】
すなわち、図6に示す半導体用フィルム10’では、第1粘着層1が省略され、第2粘着層2の1層のみが設けられている。
【0184】
そして、このような半導体用フィルム10’を製造するにあたっては、第2粘着層2の上面のうち、接着層3と接する領域(半導体ウエハー7を積層する領域)にあらかじめ紫外線を照射しておく。これにより、この領域の粘着性が失活し、結果として第2粘着層2と接着層3との密着力が低下する。その結果、第3の工程において個片83をピックアップする際に、大きな荷重をかけなくても個片83をピックアップすることが可能になることから、ピックアップ性の向上を図ることができる。
【0185】
一方、第2粘着層2の上面のうち、接着層3と接しない領域には紫外線が照射されないため、この領域では第2粘着層2の本来の粘着力が維持されることとなる。このため、第2粘着層2とウエハーリング9との密着力も維持され、ダイシング性の低下は防止されることとなる。
【0186】
換言すれば、第1実施形態では、粘着性の異なる2層の粘着層を用いることで、ダイシング性とピックアップ性の両立が図られているが、本実施形態では、第2粘着層2の一部領域のみ粘着性を低下させることで、1層の粘着層であっても、ダイシング性とピックアップ性を両立している。
【0187】
このような半導体用フィルム10’を、図6(a)に示すように、半導体ウエハー7と積層して、積層体8’を得る。
【0188】
次いで、図6(b)に示すように、ダイシングブレード82を用いて積層体8’に複数の切り込み81を形成する(ダイシング)。
【0189】
その後、前述した第1実施形態と同様、第3の工程および第4の工程を行うことにより、半導体装置が得られる。
【0190】
なお、第2粘着層2に照射する紫外線としては、好ましくは波長100〜400nm程度のもの、より好ましくは波長200〜380nm程度のものが用いられる。また、紫外線の照射時間としては、波長やパワーにもよるが、好ましくは10秒〜1時間程度、より好ましくは30秒〜30分程度とされる。このような紫外線によれば、第2粘着層2中の化学構造を変化させ、効率よく粘着性を失活させるとともに、第2粘着層2の粘着性が必要以上に低下してしまうのを防止することができる。
【0191】
また、第2粘着層2に照射するのは、紫外線に限られず、電子線、X線等の各種放射線であってもよい。
【0192】
なお、紫外線の照射は、本実施形態のように、第2粘着層2の上面のうち、接着層3と接する領域に対してあらかじめ照射する場合に限らない。例えば、第2粘着層2の構成材料が紫外線に感応して硬化するような材料である場合には、第2粘着層2と接着層3とを積層した後、第2粘着層2と接着層3と半導体ウエハー7とを積層した後、または、第2粘着層2と接着層3と半導体ウエハー7とを積層し、半導体ウエハー7をダイシングした後のいずれかにおいて紫外線を照射するようにしてもよい。このような場合、紫外線の照射に伴って第2粘着層2が硬化するため、照射領域に位置する第2粘着層2の粘着力が低下する。その結果、このような場合であっても、個片83のピックアップ性の向上を図ることができる。
【0193】
以上、本発明の半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0194】
例えば、パッケージの形態は、BGA(Ball Grid Array)、LGA(Land Grid Array)等のCSP(Chip Size Package)、TCP(Tape Carrier Package)のような表面実装型のパッケージ、DIP(Dual Inline Package)、PGA(Pin Grid Array)のような挿入型のパッケージ等であってもよく、特に限定されない。
【0195】
また、前記各実施形態では、絶縁基板5上に個片83をマウントする場合について説明したが、この個片83は、別の半導体素子上にマウントするようにしてもよい。すなわち、本発明の半導体装置の製造方法は、複数の半導体素子を積層してなるチップスタック型の半導体装置を製造する場合にも適用することができる。これにより、ピックアップ不良のおそれや半導体素子間に削り屑等が侵入するおそれがなくなり、信頼性の高いチップスタック型の半導体装置を高い製造歩留まりで製造することができる。
【0196】
また、本発明の半導体装置の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
【0197】
また、前述した実施形態では、基板上に複数の半導体素子を積層した場合を例に説明したが、基板上に1つの半導体素子を接着層を介して接着した半導体装置についても本発明を適用することができる。
【実施例】
【0198】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
1.半導体装置の製造
(実施例1)
<1>第1粘着層の形成
アクリル酸2−エチルヘキシル30質量%と酢酸ビニル70質量%とを共重合して得られた重量平均分子量300,000の共重合体100質量部と、分子量が700の5官能アクリレートモノマー45質量部と、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン5質量部と、トリレンジイソシアネート(コロネートT−100、日本ポリウレタン工業(株)製)3質量部と、を剥離処理した厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに対して、乾燥後の厚さが10μmになるように塗布し、その後、80℃で5分間乾燥した。そして、得られた塗布膜に対して紫外線500mJ/cmを照射し、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に第1粘着層を成膜した。
【0199】
<2>第2粘着層の形成
アクリル酸ブチル70質量%とアクリル酸2−エチルヘキシル30質量%とを共重合して得られた重量平均分子量500,000の共重合体100質量部と、トリレンジイソシアネート(コロネートT−100、日本ポリウレタン工業(株)製)3質量部と、を剥離処理した厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに対して、乾燥後の厚さが10μmになるように塗布し、その後、80℃で5分間乾燥した。そして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に第2粘着層を成膜した。その後、支持フィルムとして厚さ100μmのポリエチレンシートをラミネートした。
【0200】
<3>接着層の形成
アクリル酸エステル共重合体(前記式(1)で表わされるエチルアクリレート−ブチルアクリレート−アクリロニトリル−アクリル酸−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体、重量平均分子量800,000)の固形成分で100質量部と、フェノキシ樹脂(YX6954、重量平均分子量:40000、Tg130℃、三菱化学株式会社製)10質量部、無機充填材として添加される球状シリカ(SC1050、平均粒径:0.3μm、(株)アドマテックス製)115質量部と、カップリング剤として添加されるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403E、信越化学工業(株)製)1.1質量部とを、メチルエチルケトンに溶解して、樹脂固形分20質量%の樹脂ワニスを得た。
【0201】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、水酸基を有する第1モノマー単位と、カルボキシル基を有する第2モノマー単位とが、それぞれ、3.0mol%が含まれたものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート60mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、アクリル酸3.0mol%、ヒドロキシエチルメタクリレート3.0mol%の重合比となるものを用いた。
【0202】
次に、得られた樹脂ワニスを、コンマコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、品番ピューレックスA43、厚さ38μm)に塗布した後、温度150℃で3分間乾燥して、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚さ20μmの接着層を成膜した。
【0203】
<4>半導体用フィルムの製造
第1粘着層を成膜したフィルムと、接着層を成膜したフィルムとを、第1粘着層と接着層とが接するようにラミネート(積層)し、第1粘着層側のポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離して、積層体を得た。
【0204】
次にロール状の金型を用いて、第1粘着層と接着層を半導体ウエハーの外径よりも大きく、かつウエハーリングの内径よりも小さく打ち抜き、その後不要部分を除去して、第2積層体を得た。
【0205】
さらに第2粘着層の一方の面側にあるポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離する。そして前記第2積層体の第1粘着層と第2粘着層とが接するように、これらを積層した。これにより、ポリエチレンシート(支持フィルム)、第2粘着層、第1粘着層、接着層およびポリエチレンテレフタレートフィルムの5層がこの順で積層してなる半導体用フィルムを得た。
【0206】
<5>半導体装置の製造
次に、厚さ200μm、8インチのシリコンウエハーを用意した。
【0207】
そして、半導体用フィルムからポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、その剥離面にシリコンウエハーを60℃で積層した。これにより、ポリエチレンシート(支持フィルム)、第2粘着層、第1粘着層、接着層およびシリコンウエハーの5層がこの順で積層してなる積層体を得た。
【0208】
次いで、この積層体をシリコンウエハー側から、ダイシングソー(DFD6360、(株)ディスコ製)を用いて以下の条件でダイシング(切断)した。これにより、シリコンウエハーが個片化され、以下のダイシングサイズの半導体素子を得た。
【0209】
<ダイシング条件>
・ダイシングサイズ :10mm×10mm角
・ダイシング速度 :50mm/sec
・スピンドル回転数 :30,000rpm
【0210】
なお、このダイシングにより形成された切り込みは、その先端がポリエチレンシート(支持フィルム)内に達していた。
【0211】
次いで、半導体素子の1つを半導体用フィルムの裏面からニードルで突き上げ、突き上げた半導体素子の表面をダイボンダのコレットで吸着しつつ上方に引き上げた。これにより、半導体素子と接着層の個片をピックアップした。
【0212】
次に、ピックアップした個片を、ソルダーレジスト(太陽インキ製造(株)製、商品名:AUS308)をコーティングしたビスマレイミド−トリアジン樹脂基板(回路段差5〜10μm)に、温度130℃、荷重5Nで、1.0秒間圧着して、ダイボンディング(仮接着)した。
【0213】
次いで、半導体素子と樹脂基板とをワイヤーボンディングにより電気的に接続した。このとき、ワイヤーボンディングは、175℃の熱板上にて行った。また、半導体素子を多数積層した場合を想定して、かかる熱板による熱処理を6時間行った。
【0214】
そして、樹脂基板上の半導体素子およびボンディングワイヤーを、低圧トランスファー成形機を用い、成形温度175℃、圧力6.9MPa、硬化時間2分で、封止樹脂(EME−G760L、住友ベークライト(株)製)により封止し、さらに、温度175℃で2時間の熱処理を行って封止樹脂を完全硬化させた。これにより、半導体装置を得た。なお、本実施例では、かかる半導体装置を10個作製した。
【0215】
(実施例2)
接着層の形成に際し、アクリル酸エステル共重合体の重合比が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0216】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、水酸基を有する第1モノマー単位0.1mol%、カルボキシル基を有する第2モノマー単位3.0mol%が含まれたものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート62.9mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、アクリル酸3.0mol%、ヒドロキシエチルメタクリレート0.1mol%の重合比となるものを用いた。
【0217】
(実施例3)
接着層の形成に際し、アクリル酸エステル共重合体の重合比が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0218】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、水酸基を有する第1モノマー単位3.0mol%、カルボキシル基を有する第2モノマー単位0.1mol%が含まれたものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート62.9mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、アクリル酸0.1mol%、ヒドロキシエチルメタクリレート3.0mol%の重合比となるものを用いた。
【0219】
(実施例4)
接着層の形成に際し、アクリル酸エステル共重合体の重合比が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0220】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、水酸基を有する第1モノマー単位0.5mol%、カルボキシル基を有する第2モノマー単位1.8mol%が含まれたものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート63.7mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、アクリル酸1.8mol%、ヒドロキシエチルメタクリレート0.5mol%の重合比となるものを用いた。
【0221】
(実施例5)
接着層の形成に際し、アクリル酸エステル共重合体の重合比が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0222】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、水酸基を有する第1モノマー単位1.0mol%、カルボキシル基を有する第2モノマー単位2.0mol%が含まれたものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート63mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、アクリル酸2.0mol%、ヒドロキシエチルメタクリレート1.0mol%の重合比となるものを用いた。
【0223】
(実施例6)
接着層の形成に際し、フェノキシ樹脂の含有量が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
ここで、接着層の形成にフェノキシ樹脂30質量部を用いた。
【0224】
(実施例7)
接着層の形成に際し、フェノキシ樹脂の添加を省略して樹脂ワニスを得た以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0225】
(実施例8)
接着層の形成に際し、アクリル系樹脂以外の熱可塑性樹脂としてフェノキシ樹脂に代えてニトリルブタジエンゴム(NBR)(Nipol1042、日本ゼオン社製)を用いた以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0226】
(実施例9)
接着層の形成に際し、熱硬化性樹脂としてレゾール型フェノール樹脂(PR−175、住友ベークライト社製)3質量部を追加して樹脂ワニスを得た以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0227】
(実施例10)
接着層の形成に際し、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂であるオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN−1020−80,エポキシ当量200g/eq、日本化薬社製)5質量部、硬化剤としてノボラック型フェノール樹脂(PR−53647,水酸基当量104g/OH基、住友ベークライト社製)3質量部を追加して樹脂ワニスを得た以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0228】
(実施例11)
接着層のカップリング剤の添加を省略した以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0229】
(実施例12)
接着層の無機充填材の添加を省略した以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0230】
(比較例1)
接着層に用いるアクリル酸エステル共重合体の重合比が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0231】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、水酸基を有する第1モノマー単位3.5mol%、カルボキシル基を有する第2モノマー単位3.5mol%が含まれたものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート59mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、アクリル酸3.5mol%、ヒドロキシエチルメタクリレート3.5mol%の重合比となるものを用いた。
【0232】
(比較例2)
接着層に用いるアクリル酸エステル共重合体の重合比が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0233】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、水酸基を有する第1モノマー単位3.5mol%、カルボキシル基を有する第2モノマー単位3.0mol%が含まれたものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート59.5mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、アクリル酸3.0mol%、ヒドロキシエチルメタクリレート3.5mol%の重合比となるものを用いた。
【0234】
(比較例3)
接着層に用いるアクリル酸エステル共重合体の重合比が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0235】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、水酸基を有する第1モノマー単位3.0mol%、カルボキシル基を有する第2モノマー単位3.5mol%が含まれたものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート59.5mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、アクリル酸3.5mol%、ヒドロキシエチルメタクリレート3.0mol%の重合比となるものを用いた。
【0236】
(比較例4)
接着層に用いるアクリル酸エステル共重合体の重合比が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0237】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、水酸基を有する第1モノマー単位3.0mol%を含み、カルボキシル基を有する第2モノマー単位含まないものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート63mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、ヒドロキシエチルメタクリレート3.0mol%の重合比となるものを用いた。
【0238】
(比較例5)
接着層に用いるアクリル酸エステル共重合体の重合比が異なる以外は、前述した実施例1と同様にして半導体装置を製造した。
【0239】
ここで、前記アクリル酸エステル共重合体として、その繰り返し単位中に、カルボキシル基を有する第2モノマー単位3.0mol%を含み、水酸基を有する第1モノマー単位を含まないものを用いた。具体的には、前記アクリル酸エステル共重合体として、エチルアクリレート63mol%、ブチルアクリレート24mol%、アクリロニトリル10mol%、アクリル酸3.0mol%の重合比となるものを用いた。
【0240】
2.評価
2.1 密着強度
各実施例および各比較例で得られた半導体用フィルムを、それぞれ、4×4mmの大きさのシリコンチップ(厚さ550μm)と、ソルダーレジスト(太陽インキ製造社製:商品名:AUS308)をコーティングしたビスマレイミド−トリアジン基板との間にはさんで、温度130℃、荷重5Nで、1秒間熱圧着し、175℃で6時間熱処理を行ったサンプルを作成した。そして、各サンプルを260℃の熱板上に載置した状態で、20秒間保持した後、プッシュプルゲージで0.5mm/分の速度にてせん断応力をかけた時のせん断強度(ダイシェア強度)を測定し、樹脂基板および半導体素子に対する接着層の密着強度を評価した。
【0241】
2.2 埋め込み性
各実施例および比較例で得られた半導体装置を、走査型超音波探傷機(SAT)により、樹脂基板(配線基板)上の段差に接着層が充填されている率に基づき、下記のようにして、樹脂基板の表面の凹凸に対する埋め込み性を評価した。
【0242】
◎:充填率が、100%
○:充填率が、80%以上100%未満
△:充填率が、40%以上80%未満
×:充填率が、40%未満もしくは接着フィルム内が全面ボイド状になったもの
これらの評価結果を表1に示す。
【0243】
【表1】

【0244】
表1からわかるように、各実施例においては、接着層が長時間(6時間)の熱履歴を受けた後においても、ダイシェア強度1MPa以上の強い密着強度を発揮しつつ、樹脂基板表面の凹凸に対する接着層の埋め込み性に優れている。
【0245】
一方、比較例1〜3においては、接着層が長時間(6時間)の熱履歴を受けた後においても、ダイシェア強度1MPa以上の強い密着強度を発揮するものの、樹脂基板表面の凹凸に対する接着層の埋め込み性が十分でなかった。これは、接着層のアクリル系樹脂に含まれる水酸基やカルボキシル基の含有量が多いため、接着層が長時間(6時間)の熱履歴を受けると、水酸基とカルボキシル基との結合による接着層の粘度上昇が大きいためであると考えられる。
【0246】
また、比較例4および5においては、接着層が長時間(6時間)の熱履歴を受けた後においても、樹脂基板表面の凹凸に対する接着層の埋め込み性を発揮するものの、ダイシェア強度が1MPa未満であり、密着強度が不足していた。これは水酸基やカルボキシル基の含有量が少ないため、基板表面および半導体素子と接着フィルムとの界面の密着力が低下したためであると考えられる。
【符号の説明】
【0247】
1 第1粘着層
2 第2粘着層
3 接着層
4 支持フィルム
4a 基材
4b 基材
5 絶縁基板
7 半導体ウエハー
8、8’ 積層体
9 ウエハーリング
10、10’ 半導体用フィルム
11 外周縁
21 外周部
31 接着層
41 外周部
61 積層体
62 積層体
63 積層体
64 積層体
71 半導体素子
81 切り込み
82 ダイシングブレード
83 個片
84(84a〜84e) ワイヤー
85 モールド層
86 ボール状電極
100 半導体装置
100A 半導体装置
131 接着層
171 半導体素子
183 個片
231 接着層
250 ダイボンダ
260 コレット
270 ヒーター
271 半導体素子
280 装置本体
302 ダイサーテーブル
331 接着層
371 半導体素子
431 接着層
471 半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層と支持フィルムとが積層されてなる半導体用フィルムであって、
前記接着層は、水酸基を有する第1モノマー単位とカルボキシル基を有する第2モノマー単位とを含む繰り返し単位を有するアクリル系樹脂を含んで構成され、
前記アクリル系樹脂は、前記繰り返し単位中に含まれる前記第1モノマー単位および前記第2モノマー単位の含有量は、それぞれ、0.1〜3mol%であることを特徴とする半導体用フィルム。
【請求項2】
前記接着層は、175℃で6時間熱処理した後の175℃における粘度が10000Pa・s以下である請求項1に記載の半導体用フィルム。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル共重合体である請求項1または2に記載の半導体用フィルム。
【請求項4】
前記接着層中の前記アクリル系樹脂の含有量は、30〜90質量%である請求項1ないし3のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項5】
前記接着層は、前記アクリル系樹脂とは異なる熱可塑性樹脂を含む請求項1ないし4のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がフェノキシ樹脂である請求項5に記載の半導体用フィルム。
【請求項7】
前記接着層中における前記アクリル系樹脂以外の前記熱可塑性樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂100質量部に対して、0.5〜30質量部である請求項5または6に記載の半導体用フィルム。
【請求項8】
前記接着層は、熱硬化性樹脂を実質的に含まないで構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項9】
前記接着層は、無機充填材を含んで構成されている請求項1ないし8のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項10】
前記接着層中の前記無機充填材の含有量は、前記接着層の前記無機充填材以外の樹脂組成物100質量部に対して、5〜150質量部である請求項9に記載の半導体用フィルム。
【請求項11】
前記接着層は、カップリング剤を含んで構成されている請求項1ないし10のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項12】
前記接着層の前記支持フィルムと反対側の面に半導体ウエハーを貼着し、その状態で該半導体ウエハーおよび前記接着層を切断してそれぞれ個片化し、得られた個片を前記支持フィルムからピックアップする際に用いる請求項1ないし11のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項13】
前記接着層と前記支持フィルムとの間には、粘着層が設けられている請求項12に記載の半導体用フィルム。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の半導体用フィルムの前記接着層側の面に半導体ウエハーを貼着する工程と、
前記半導体ウエハーおよび前記接着層を切断してそれぞれ個片化することにより、複数の半導体素子を得る工程と、
得られた前記半導体素子を前記支持フィルムからピックアップする工程と、
ピックアップされた前記半導体素子を基板上に載置する工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記半導体素子を前記基板上に載置する工程では、複数の前記半導体素子を前記基板上に前記基板側から順次重ねて載置する請求項14に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
基板上に接着層を介して半導体素子が設置された半導体装置であって、
前記接着層は、水酸基を有する第1モノマー単位とカルボキシル基を有する第2モノマー単位とを含む繰り返し単位を有するアクリル系樹脂を含んで構成され、
前記アクリル系樹脂は、前記繰り返し単位中に含まれる前記第1モノマー単位および前記第2モノマー単位の含有量は、それぞれ、0.1〜3mol%であることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−7103(P2012−7103A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145202(P2010−145202)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】