説明

半導体発光素子およびそれを用いた光パルス試験器

【課題】複数の波長帯の光を発光可能であり、特に、複数の異なる波長帯の光を各々複数の縦モードで発振可能で、高出力且つ高歩留まりで製造可能な半導体発光素子およびそれを用いた小型且つ低価格な光パルス試験器を提供する。
【解決手段】1.55μm帯に利得波長λ1を有するMQW活性層13aと1.3μm帯に利得波長λ2を有するMQW活性層13bが、光の導波方向に沿って結合導波層19を介して光学的に結合されて、利得波長λ1、λ2の長さの順に直列に配置され、結合導波層19は1.3μmより短い組成波長を有し、結合導波層19近傍に、短い利得波長λ2のブラッグ波長を有する回折格子20が形成された構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子およびそれを用いた光パルス試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の分野において、複数波長の光を出力するシステムが用いられている。そして、例えば2波長のレーザ光を出力するシステムの場合には、各波長用に製作された2つの半導体レーザを用意し、各半導体レーザからの出力光を合波して出力する構成としていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、光通信用の光源として、1つの素子で1.3μm帯から1.5μm帯までの波長差の大きな光を出射する集積型の半導体レーザが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−209266号公報
【特許文献2】特開平11−68224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された構成においては、光学部品の点数が多く、各光学部品の光軸を調整するための機構構造が複雑であり、小型化および低価格化の実現が困難であった。
【0006】
また、特許文献2に開示された半導体レーザは、単一の縦モードで発振する分布帰還型(DFB:Distributed-FeedBack)レーザであり、例えば、光パルス試験器に用いられた場合には、コヒーレントノイズの増大による測定精度の低下を引き起こす恐れがあった。
【0007】
このような問題を解決するため、本出願人は先の出願(特願2009−034080)において、複数の波長帯の光を各々複数の縦モードで発振可能な半導体発光素子を開示した。この発明によって上述のような従来技術の問題点は解決されたが、さらなる研究の結果、より低価格化を可能にする製造容易性の改善や、光パルス試験器の性能のさらなる向上に直結する光出力の増大を実現する、より好ましい構造を発明するに至った。
【0008】
すなわち本発明は上述の従来技術の問題点を解決すると同時に、製造容易性の改善(あるいは歩留まりの向上)および光出力の向上を実現した半導体発光素子およびそれを用いた光パルス試験器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体発光素子は、半導体基板上に、劈開によって形成された第1の光出射端面と第2の光出射端面とを有し、前記第1の光出射端面に開口し第1の利得波長を有する第1の多重量子井戸型活性層と前記第2の光出射端面に開口し第2の利得波長を有する第2の多重量子井戸型活性層とそれらを光学的に結合させる結合導波路層とが光の導波方向に結合され、前記第1の多重量子井戸層の上方に第1の電極を、前記第2の多重量子井戸層の上方に第2の電極を、前記半導体基板の底面に第3の電極を備えている半導体発光素子において、前記第1の利得波長は前記第2の利得波長より長く、前記結合導波路層近傍に、前記第2の利得波長に相当するブラッグ波長を有する回折格子が形成され、前記第1の電極と前記第3の電極との通電によって前記第1の多重量子井戸型活性層で生成された光が、前記第1の光出射端面と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、前記第2の電極と前記第3の電極との通電によって前記第2の多重量子井戸型活性層で生成された光が、前記回折格子と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、ともに前記第2の光出射端面から出射される構成を有している。
【0010】
この構成により、1つの素子で複数の波長帯の光を各々複数の縦モードで発振させることができる。
【0011】
本発明の半導体発光素子は、前記第2の光出射端面から出射される光に対する反射率が、前記第1の光出射端面から出射される光に対する反射率より低く形成された構成を有していてもよい。
【0012】
本発明の半導体発光素子は、前記第1の利得波長が1.52〜1.58μmであり、前記第2の利得波長が1.28〜1.34μmである構成を有していてもよい。
【0013】
この構成により、1つの素子で1.3μm帯および1.55μm帯の光を複数の縦モードで発振させることができる。
【0014】
本発明の半導体発光素子は、前記結合導波路層が、前記第2の利得波長と同じかまたはより短い組成波長を有するバルク型構造であるである構成を有していてもよい。
【0015】
この構成により、高い製造歩留まりで作製でき、かつ高出力特性を得ることが出来る。
【0016】
本発明の半導体発光素子は、前記結合導波路層の上方に、前記第1の電極および前記第2の電極から拡散してくるキャリアの前記結合導波路層への流入を防止するキャリアブロック層が設けられていてもよい。
【0017】
この構成により結合導波路層へのキャリア流入が抑えられ、自由キャリア吸収による光出力の減少を防ぐことができ、高出力動作が実現される。
【0018】
本発明の光パルス試験器は、上記のいずれかの半導体発光素子、および、該半導体発光素子に光パルスを発するためのパルス状の駆動電流を印加する発光素子駆動回路を有し、該半導体発光素子の前記第2の光出射端面から出射された前記光パルスを被測定光ファイバに出力する発光部と、前記被測定光ファイバからの前記光パルスの戻り光を電気信号に変換する受光部と、前記受光部によって変換された電気信号に基づいて前記被測定光ファイバの損失分布特性を解析する信号処理部と、を備える構成を有している。
【0019】
この構成により、複数の波長帯の光を複数の縦モードで発振可能な半導体発光素子を備えるため、小型且つ低価格な光パルス試験器を実現できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、複数の異なる波長帯の光を各々複数の縦モードで発振可能であり、高出力動作が可能でかつ製造容易な半導体発光素子およびそれを用いた小型且つ低価格な光パルス試験器を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態の半導体発光素子の構成を示す断面図
【図2】本発明の第2の実施形態の半導体発光素子の構成を示す断面図
【図3】本発明の第3の実施形態の光パルス試験器の構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る半導体発光素子およびそれを用いた光パルス試験器の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
本発明に係る半導体発光素子の第1の実施形態を図1に示す。図1は、第1の実施形態の半導体発光素子10を光の伝搬方向に沿って切断した断面図である。
【0024】
半導体発光素子10は、図1に示すように、例えば、n型InP(インジウム・リン)からなるn型半導体基板11と、n型InPクラッド層12と、利得波長λ1を有するInGaAsP(インジウム・ガリウム・砒素・リン)からなる第1の多重量子井戸型の活性層13aを有する第1の利得領域Iと、利得波長λ2(<λ1)を有するInGaAsPからなる第2の多重量子井戸型の活性層13bを有する第2の利得領域IIと、λ2よりさらに短い組成波長を有するInGaAsPからなるバルク型結合導波路層19を有する結合導波路領域IIIを備える。
【0025】
ここで、利得波長とは、後述する複数の縦モードの発振波長のうち所望の縦モードのピーク波長を示すものとする。本実施形態では、利得波長λ1、λ2として光パルス試験器で用いる波長1.55μm、1.3μmを例にして説明する。なお、利得波長λ1、λ2は、それぞれ1.52≦λ1≦1.58、1.28≦λ2≦1.34の範囲内の値であってもよい。またその時の結合導波路層19の組成波長λjは1.05≦λj≦1.27であっても良い(上記λ1、λ2、λjの単位はいずれもμm)。なお組成波長とは、半導体混晶のバンドギャップエネルギーを光の波長で表したもので、混晶組成の表現方法の一つである。
【0026】
第1の多重量子井戸型の活性層13a、結合導波路層19,第2の多重量子井戸型の活性層13bは、光の導波方向に沿って配置され、バットジョイント構造により光学的に結合されている。なお、ここで言う第1の多重量子井戸型の活性層13aおよび第2の多重量子井戸型の活性層13bは、多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造とそれを挟む光分離閉じ込め(SCH:Separate Confinement Heterostructure)層を含んでいる。
【0027】
また、第1の多重量子井戸型の活性層13aおよび第2の多重量子井戸型の活性層13bの上面にはp型InPクラッド層14、p型InGaAs(インジウム・ガリウム・砒素)からなるコンタクト層15a、15bがこの順にそれぞれ積層されている。結合導波路層19の上面にはp型InPクラッド層14が形成されている。
【0028】
また、n型半導体基板11の下面には下部電極16、コンタクト層15aおよび15b上には第1の利得領域I用の第1の上部電極17aおよび第2の利得領域II用の第2の上部電極17bが蒸着形成されている。
【0029】
また、第1の活性層13aおよび第2の活性層13bは、劈開によって形成された第1の光出射端面10aおよび第2の光出射端面10bをそれぞれ有する。第1の光出射端面10aには高反射(HR)コート18aが、第2の光出射端面10bには低反射(LR)コート18bがそれぞれ施されており、第2の光出射端面10bから出射される光に対する反射率が、第1の光出射端面10aから出射される光に対する反射率より低くなっている。
【0030】
ここで、HRコート18aが施された第1の光出射端面10a側の反射率は90%以上、LRコート18bが施された第2の光出射端面10b側の反射率は1〜10%程度とすることが好ましい。
【0031】
さらに、結合導波路部19近傍に、第2の利得波長λ2近傍のブラッグ波長λgおよび100cm-1以上の結合係数κを有する回折格子20が形成されている。
【0032】
ここで、結合係数κとは、回折格子が形成された導波路を光が単位距離だけ伝搬する際に反射される光の割合を示すパラメータである。この結合係数κが大きいと、最大反射率が増大するとともに反射帯域が拡がり、複数の縦モードの発振が生じる。なお、上記のようにκ≧100cm-1である本実施形態の回折格子20においては、回折格子20の光の導波方向の長さLが200μm程度あれば反射率は90%以上となる。なお図1では結合導波路層19の長さと回折格子の長さLが一致して描かれているが、必ずしも一致する必要はなく、結合導波路の一部に回折格子があっても良い。
【0033】
結合導波路層19はバルク結晶で作製されるため、第1の多重量子井戸型の活性層13aとの界面である第1のバットジョイント結合部19aおよび第2の多重量子井戸型の活性層13bとの界面である第2のバットジョイント結合部19bは、ともに多重量子井戸型結晶とバルク結晶との接合となり、しかも先に多重量子井戸型結晶を成長した後でバルク型結晶を成長させるので、多重量子井戸構造を後からバットジョイント成長させるときに生じやすい結晶の這い上がりや歪み、欠陥の問題が生じにくく、界面での過剰反射や光の吸収損失の増大を回避でき、高歩留まりや光出力の向上が達成できる。
【0034】
さらに結合導波路層19の組成波長は第1の利得波長λ1および第2の利得波長λ2よりも短いため、遷移による吸収損失が抑えられ、高出力動作が可能となる。
【0035】
なお、回折格子20が形成される位置は、図1に示したように結合導波路層19の下方であってもよく、あるいは結合導波路層19の上方のp型InPクラッド層14内であってもよい(図示せず)。また、第1の利得領域Iの第1の光出射端面10a近傍にもブラッグ波長1.55μmの回折格子が形成されていてもよい。
【0036】
以下、本発明に係る半導体発光素子10の製造方法の一例を図1を参照しながら説明する。
【0037】
まず、有機金属気相成長(MOVPE)法を用いてn型InPからなるn型半導体基板11上に、n型InPクラッド層12をエピタキシャル成長形成する。
【0038】
次に、n型InPクラッド層12の上面に、利得波長が1.55μmとなるInGaAsPからなる第1の多重量子井戸型の活性層13aを成長形成する。
【0039】
次に、第1の多重量子井戸型の活性層13aの上にSiO2またはSiNxからなる絶縁膜(図示せず)をプラズマCVD法等により数10nm堆積し、さらにその上にフォトレジスト(図示せず)を塗布する。
【0040】
続いて、フォトリソグラフィにより、第2の利得領域IIおよび結合導波路領域III側のレジストを取り除き、エッチング処理により、レジストで覆われていない領域の絶縁膜を除去する。
【0041】
さらに、残っているレジストを剥離したのち、絶縁膜をマスクとするエッチング処理により、絶縁膜に覆われていない領域の第1の多重量子井戸型の活性層13aを除去する。
【0042】
次に、上述のようにエッチングによって露出した領域のn型InPクラッド層12の上に、利得波長が1.3μmとなるInGaAsPからなる第2の多重量子井戸型の活性層13bを、第1の多重量子井戸型の活性層13aと連続するようにバットジョイント成長させる。第1の多重量子井戸型の活性層13a上には絶縁膜が成長阻害マスクとして存在しているため、第2の多重量子井戸型の活性層13bは成長阻害マスクの無い領域にのみ選択的に成長形成される。
【0043】
次いで再びSiO2またはSiNxの絶縁膜(図示せず)を全面に形成し、さらにフォトリソグラフィで第1の利得領域Iおよび第2の利得領域IIのみを覆うように成形した後、露出した部分の第2の多重量子井戸型の活性層をエッチングにより除去する。
【0044】
次に、フォトレジスト(図示せず)または電子ビームレジスト(図示せず)をn型InPクラッド層12の結合導波路領域IIIであって、光の導波方向の長さLに亘る表面に塗布する。そして、レジストが塗付された結合導波路領域IIIに干渉露光法または電子ビーム描画法によって回折格子パターン露光を行い、現像およびウェットエッチングによって高さ0.1μm程度の回折格子20を作製する。ここで、回折格子20のピッチは組成波長を考慮しながら利得波長1.3μmに対応するピッチに設定する。組成波長が1.25μmであれば約0.2μmとすればよい。
【0045】
次に、結合導波路領域IIIに組成波長が1.25μmのバルク型InGaAsP結晶をバットジョイント成長させる。
【0046】
次に、第1の利得領域Iおよび第2の利得領域IIに残った絶縁膜を剥離してから、全面にp型InPクラッド層14の一部を成長形成する。さらに、新たに絶縁膜(図示せず)をp型InPクラッド層14の上面に堆積させ、その上にフォトレジスト(図示せず)を塗布する。
【0047】
そして、導波路となるメサ構造を作製するために、フォトリソグラフィによりレジストをストライプ状に残し、その両側を除去する。さらに、一定幅の線状に残ったレジストをマスクとして、絶縁膜の両側をエッチング処理により除去する。
【0048】
続いて残ったレジストを剥離除去して、絶縁膜をマスクとするエッチングを行い、メサ構造(図示せず)を形成する。こうしてストライプ状の第1の多重量子井戸型の活性層13a、結合導波路層19、第2の多重量子井戸型の活性層13bが連続してストライプ状に形成され、導波路のコアとなる。
【0049】
次に、絶縁膜を成長阻害マスクとして利用して、第1の多重量子井戸型の活性層13a、結合導波路層19、第2の多重量子井戸型の活性層13bを含むメサ構造の両側にp型InPからなる埋め込み層(図示せず)とn型InPからなる埋め込み層(図示せず)を順に形成する。この後、絶縁膜を除去して全面に再びp型InPクラッド層14を成長形成し、さらにその上にp型InGaAsからなるコンタクト層15を形成する。
【0050】
そして、コンタクト層15上の第1の利得領域Iおよび第2の利得領域IIに、各々Au、Ti、Ptからなる第1の上部電極17aおよび第2の上部電極17bを蒸着する。結合導波路領域IIIへは電極を形成しないが、これはレジスト(図示せず)によるリフトオフ法やメタルマスク(図示せず)法などを適宜用いればよい。
【0051】
そして、蒸着した電極をエッチングマスクとして、電極の形成されていない結合導波路領域IIIのコンタクト層15を除去する。
【0052】
さらに、n型半導体基板11の下面側を研磨してAu、Ge、Ptからなる下部電極16を蒸着し、半導体ウエハを完成する。
【0053】
次に、この半導体ウエハを所定位置で劈開し、チップ化する。さらに第1の利得領域I側の第1の光出射端面10aに反射率90%以上の高反射(HR)コート18aを形成し、第2の利得領域II側の第2の光出射端面10bに反射率1〜10%程度の低反射(LR)コート18bを形成する。これで本実施形態の半導体発光素子10が完成する。
【0054】
次に、以上のように構成された本実施形態の半導体発光素子10の動作について説明する。
【0055】
第1の利得領域I用の第1の上部電極17aと下部電極16との間に電流が注入された場合には、第1の多重量子井戸型の活性層13aの内部が発光状態となる。
【0056】
第1の多重量子井戸型の活性層13aで生成された1.55μm帯の光は、組成波長が1.25μmの結合導波路層19および利得波長が1.3μmの第2の多重量子井戸型の活性層13bでは吸収されず、且つ、1.3μmのブラッグ波長λgを有する回折格子20で反射されずに、第1の多重量子井戸型の活性層13a、結合導波路層19および第2の多重量子井戸型の活性層13bに沿って伝搬する。
【0057】
従って、第1の多重量子井戸型の活性層13aで生成された1.55μm帯の光は、第1の光出射端面10aと第2の光出射端面10bで構成された共振器において、1.55μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート18bが形成された第2の光出射端面10bから出射される。
【0058】
一方、第2の利得領域II用の第2の上部電極17bと下部電極16との間に電流が注入された場合には、第2の多重量子井戸型の活性層13bの内部が発光状態となる。
【0059】
第2の多重量子井戸型の活性層13bで生成された1.3μm帯の光は、第2の多重量子井戸型の活性層13bおよび結合導波路層19に沿って伝搬する。この1.3μmの光は、1.3μmのブラッグ波長λgを有する回折格子20で90%以上反射されるため、利得波長が1.55μmの第1の多重量子井戸型の活性層13aにおける光吸収を抑制することができる。
【0060】
従って、第2の多重量子井戸型の活性層13bで生成された1.3μm帯の光は、回折格子20と第2の光出射端面10bで構成された共振器において、1.3μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート18bが形成された第2の光出射端面10bから出射される。
【0061】
なお、第1の上部電極17aおよび第2の上部電極17bと下部電極16との間に同時に電流が印加されてもよく、この場合には、第2の光出射端面10bから1.3μm帯および1.55μm帯の光が同時に出射される。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の半導体発光素子は、結合導波路領域IIIに回折格子を有することにより、1.3μm帯および1.55μm帯の波長帯の光を複数の縦モードで発振させることができる。
【0063】
なお本実施形態ではn型InPクラッド層12を用いたが、この部分を組成波長が結合導波路層19とInPの中間(例えば0.95μm)となるようなn型InGaAsPクラッドとすることも可能である。この構造であれば、光の分布を全体的にn型クラッド層側へ引き寄せることができ、吸収損失の高いp型InPへの分布を減らして導波損失を抑えられるので、より高出力化が可能である。
【0064】
(第2の実施形態)
本発明に係る半導体発光素子の第2の実施形態について図面を用いて説明する。第1の実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0065】
図2は、第2の実施形態の半導体発光素子30を光の伝搬方向に沿って切断した断面図である。
【0066】
半導体発光素子30は、図2に示すように、上述した第1の実施形態の構成に加え、結合導波路領域IIIにおいて、結合導波路層31の上方にp型InPキャリアブロック層32aを介してn型InPキャリアブロック層32bが形成されている。
【0067】
本実施形態においても、第1の利得領域Iに通電すれば第1の利得波長λ1のレーザ光が、第2の利得領域IIに通電すれば第2の利得波長λ2のレーザ光が発振し、ともに第2の出射端面30bから出射される。
【0068】
また本実施形態においても、結合導波路層31と第1の多重量子井戸型の活性層13aとの界面31a、および結合導波路層31と第2の多重量子井戸型の活性層13bとの界面31bは、ともに多重量子井戸型結晶とバルク型結晶とのバットジョイントであるので、結晶性で損失も少なく、且つ良好な高い製造性を有する構造となっている。
【0069】
加えて本実施形態においては、結合導波路層31の上方にp型InPキャリアブロック層32aを介してn型InPキャリアブロック層32bが形成されており、このpn接合によって、第1の利得領域Iまたは第2の利得領域IIへ通電する際に結合導波路領域IIIへ漏れてくるリーク電流を抑える構成となっている。この構成により、結合導波路層31内における自由キャリアによる吸収損失の増大を抑制することができ、大電流駆動時の高出力動作が可能となる。
【0070】
本実施形態における結合導波路層31は第1の実施形態における結合導波路層19と同様に、第2の利得波長λ2より大きくInPのバンドギャップエネルギーよりは小さな組成波長(例えば1.25μm)を有するInGaAsPのバルク型結晶で構成されるが、n型にドーピングされていても良い。
【0071】
なお、以上の実施形態においては利得領域をI、IIの2領域として説明してきたが、これに限られるものではない。さらに利得領域を有する構成とし、3つ以上の波長帯の光を発振・出射する構成としてもよい。
【0072】
(第3の実施形態)
複数の異なる波長帯の光を複数の縦モードで発振可能な第1または第2の実施形態の半導体発光素子10、30は、光パルス試験器の光源として用いることができる。以下、半導体発光素子10または半導体発光素子30を備えた光パルス試験器の実施形態について図面を用いて説明する。
【0073】
図3に示すように、第3の実施形態の光パルス試験器は、半導体発光素子10、30および半導体発光素子10、30に光パルスを発するためのパルス状の駆動電流を印加する発光素子駆動回路2を有し、半導体発光素子10、30の第2の光出射端面10b、30bから出射された光パルスを被測定光ファイバ3に出力する発光部1と、被測定光ファイバ3からの光パルスの戻り光を電気信号に変換する受光部4と、受光部4によって変換された電気信号に基づいて被測定光ファイバ3の損失分布特性を解析する信号処理部5と、を備える。
【0074】
なお、信号処理部5は、発光素子駆動回路2が半導体発光素子10、30に駆動電流を印加するタイミングを制御する。
【0075】
さらに、本実施形態の光パルス試験器は、発光部1からの光パルスをバンドパスフィルタ(BPF)6に出力するとともに、被測定光ファイバ3からの戻り光を受光部4に出力する光カプラ7と、被測定光ファイバ3と光結合する光コネクタ8と、信号処理部5の処理結果を表示する表示部9と、を備える。
【0076】
次に、以上のように構成された本実施形態の光パルス試験器の動作を説明する。なお、以下の説明においては、本実施形態の光パルス試験器は半導体発光素子10を備えているものとする。
【0077】
まず、発光素子駆動回路2によって、半導体発光素子10の第1の利得領域I(または第2の利得領域II)にパルス状の駆動電流が印加されることにより、発光部1から1.55μm帯(または1.3μm帯)の光パルスが出力される。
【0078】
そして、発光部1から出力された光パルスが、光カプラ7、BPF6、光コネクタ8を経て、被測定光ファイバ3に入射される。被測定光ファイバ3に入射された光パルスは、戻り光となって光カプラ7を介して受光部4に受光される。
【0079】
戻り光は、受光部4によって電気信号に変換され、信号処理部5に入力される。そして、信号処理部5によって、被測定光ファイバ3の損失分布特性が算出される。算出された損失分布特性は表示部9に表示される。
【0080】
以上説明したように、本実施形態の光パルス試験器は、1つの素子で複数の異なる波長帯の光を複数の縦モードで発振可能な半導体発光素子を備えるため、小型化および低価格化を実現できる。
【符号の説明】
【0081】
1 発光部
2 発光素子駆動回路
3 被測定光ファイバ
4 受光部
5 信号処理部
10、30 半導体発光素子
10a、30a 第1の光出射端面
10b、30b 第2の光出射端面
13a、33a 第1の多重量子井戸型の活性層
13b、33b 第2の多重量子井戸型の活性層
18a 高反射(HR)コート
18b 低反射(LR)コート
19、31 結合導波路層
19a、31a 第1のバットジョイント結合部
19b、31b 第2のバットジョイント結合部
20 回折格子
32a n型InPキャリアブロック層
32b p型InPキャリアブロック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板(11)上に、
劈開によって形成された第1の光出射端面(10a、30a)と第2の光出射端面(10b、30b)とを有し、前記第1の光出射端面に開口し第1の利得波長を有する第1の多重量子井戸型活性層(13a)と前記第2の光出射端面に開口し第2の利得波長を有する第2の多重量子井戸型活性層(13b)とそれらを光学的に結合させる結合導波路層(19、31)とが光の導波方向に結合され、前記第1の多重量子井戸層の上方に第1の電極(17a)を、前記第2の多重量子井戸層の上方に第2の電極(17b)を、前記半導体基板の底面に第3の電極(16)を備えている半導体発光素子において、
前記第1の利得波長は前記第2の利得波長より長く、
前記結合導波路層近傍に、前記第2の利得波長に相当するブラッグ波長を有する回折格子(20)が形成され、
前記第1の電極と前記第3の電極との通電によって前記第1の多重量子井戸型活性層で生成された光が、前記第1の光出射端面と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、前記第2の電極と前記第3の電極との通電によって前記第2の多重量子井戸型活性層で生成された光が、前記回折格子と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、ともに前記第2の光出射端面から出射されることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記第2の光出射端面の反射率が、前記第1の光出射端面の反射率より低く形成されたことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第1の利得波長が1.52〜1.58μmであり、
前記第2の利得波長が1.28〜1.34μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記結合導波路層は、前記第2の利得波長と同じかまたはより短い組成波長を有するバルク型構造であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記結合導波路層の上方に、前記第1の電極および前記第2の電極から拡散してくるキャリアの前記結合導波路層への流入を防止するキャリアブロック層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体発光素子、および、該半導体発光素子に光パルスを発するためのパルス状の駆動電流を印加する発光素子駆動回路(2)を有し、該半導体発光素子の前記第2の光出射端面から出射された前記光パルスを被測定光ファイバ(3)に出力する発光部(1)と、
前記被測定光ファイバからの前記光パルスの戻り光を電気信号に変換する受光部(4)と、
前記受光部によって変換された電気信号に基づいて前記被測定光ファイバの損失分布特性を解析する信号処理部(5)と、を備える光パルス試験器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−192856(P2011−192856A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58610(P2010−58610)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】