説明

半導体素子用絶縁膜

【課題】ポリイミド前駆体組成物のワニス安定性が良好で取り扱い性に優れ、かつ、基板界面の残留応力を低減でき、耐熱性に優れた半導体素子用絶縁膜を提供する。
【解決手段】芳香族ジアミンと、芳香族テトラカルボン酸及び芳香族テトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上のアシル化合物とを反応して得られるポリアミド酸を含むポリイミド前駆体組成物を、イミド化して成膜したポリイミド膜からなる半導体素子用絶縁膜であって、前記ポリアミド酸は、前記アシル化合物を、前記芳香族ジアミンよりも1モル%以上多く反応して得られるポリアミド酸であり、前記ポリイミド膜の熱膨張率が2〜24ppm/℃である半導体素子用絶縁膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子用絶縁膜に関し、更に詳しくは、薄板化シリコンパワー半導体素子、高耐電圧パワー半導体素子のパッシベーション膜として好適に使用できる半導体素子用絶縁膜に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の表面を保護し、外部環境の影響による劣化を防止するため、半導体素子の表面を絶縁膜で被覆している。このような絶縁膜には、熱的、電気的、機械的に良好な特性を有するポリイミドが主に使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリイミドの熱膨張率は、半導体素子の基板材料として使用されているシリコン、SiC、GaN等に比べて高い。このため、半導体素子の製造工程や使用時における加熱や発熱により、半導体素子の表面に被覆したポリイミド膜にクラックが発生したり、ポリイミド膜と基板との熱膨張差により基板に反りが生じ易かった。このようなトラブルは、基板をより薄膜にした半導体素子や、半導体素子の使用最高温度がより高温に曝されるパワー半導体素子の製造時や使用時に特に生じ易かった。
【0004】
このように、温度使用最高温度が175℃以上となる薄板化シリコンパワー半導体素子、高耐電圧次世代パワー半導体素子(SiC,GaN)の場合、その製造工程時の歩留まり向上およびデバイス使用時の長期信頼性確保に熱残留応力に起因する危険因子が多数存在していた。
【0005】
このような問題の解決策として、熱膨張率の低いポリイミド膜で半導体素子の表面を被覆し、基板と絶縁膜との界面で生じる熱応力を緩和して、半導体素子の使用時や製造時における絶縁膜のクラックや、基板の反りを抑制する試みが行われている。例えば、特許文献1には、シリコンウエハに形成された回路上に、主鎖中にテトラカルボン酸またはその酸無水物とジアミンとの重縮合生成物から形成された繰り返し単位を有し、その両末端に化学線官能基を有する感光性ポリイミド前駆体を成膜することが開示されている。このようにして成膜されたポリイミド膜の熱膨張率は、20ppm/℃以下であることが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−285129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、熱膨張率の低いポリイミド膜は、耐熱性が悪く、更には、硬く脆い性質であった。また、熱膨張率の低いポリイミド膜を形成しうるポリイミド前駆体組成物は、ワニス安定性に乏しく、ハンドリング性の劣るものであった。更には、ワニス安定性に乏しいことから、放熱フィラー等との混和性が低く、放熱特性の良い絶縁膜を形成し難かった。
【0008】
また、特許文献1に記載されている感光性ポリイミドの場合、感光基由来の残渣に起因する界面密着性低下の不安があった。高温での長期使用安定性が求められるパワー半導体用絶縁膜には、工程面、材料面からの見直しが求められていた。
【0009】
よって、本発明の目的は、ポリイミド前駆体組成物のワニス安定性が良好で取り扱い性に優れ、かつ、基板界面の残留応力を低減でき、耐熱性に優れた半導体素子用絶縁膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するにあたり、本発明の半導体素子用絶縁膜は、芳香族ジアミンと、芳香族テトラカルボン酸及び芳香族テトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上のアシル化合物とを反応して得られるポリアミド酸を含むポリイミド前駆体組成物を、イミド化して成膜したポリイミド膜からなる半導体素子用絶縁膜であって、
前記ポリアミド酸は、前記アシル化合物を、前記芳香族ジアミンよりも1モル%以上多く反応して得られるポリアミド酸であり、
前記ポリイミド膜の熱膨張率が2〜24ppm/℃であることを特徴とする。
【0011】
上述したように、熱膨張率の低いポリイミド膜を形成しうるポリイミド前駆体組成物は、ワニス安定性が低く、粘度が経時変化し易かった。このため、取り扱い性に劣り、工程管理、膜物性一定化等に課題が多かった。
これに対し、前記アシル化合物を、前記芳香族ジアミンよりも1モル%以上多く反応して得られるポリアミド酸は、分子量が適度に高く、そのままでも塗工に適した粘度である。また、このポリアミド酸は、アシル化合物を、芳香族ジアミンよりも1モル%以上多く反応させたことで、分子末端がカルボキシル基又は酸無水物基でエンドキャップされた構造となると考えられる。ポリアミド酸の分子末端が、カルボキシル基又は酸無水物基でエンドキャップされることにより、ポリアミド酸の保管時に大気中の水分等を吸水しても、吸水した水分がカルボキシル基や酸無水物基でトラップされるため、粘度が経時変化し難く、ワニス安定性に優れる。更にまた、放熱フィラーとの混和性にも優れる。
そして、このポリイミド前駆体組成物を成膜して得られるポリイミド膜は、耐熱性に優れ、更には、適度な柔軟性、強度を有し、熱膨張率が2〜24ppm/℃と、半導体素子基板に近い熱膨張率を有している。
このため、本発明の半導体素子用絶縁膜は、ポリイミド前駆体組成物のワニス安定性が良好であるため、取り扱い性に優れ、工程管理が容易である。そして、ポリイミド膜の熱膨張率を基板の熱膨張率に近づけることができるため、基板界面の残留応力を低減でき、半導体素子の製造時や使用時において、半導体素子基板の反りや、絶縁膜のクラック等を抑制できる。
【0012】
本発明の半導体素子用絶縁膜の前記芳香族ジアミンは、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−5,5’−ビスベンゾオキサゾール、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル及び4,4’−ジアミノベンズアニリドから選ばれる1種以上を70〜100モル%含有することが好ましい。
【0013】
本発明の半導体素子用絶縁膜の前記アシル化合物は、ピロメリット酸、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸及び3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上を70〜100モル%含有することが好ましい。
【0014】
この態様によれば、ポリイミド前駆体の常温放置時におけるワニス粘度安定性が大幅に改善され、ハンドリング性が良好である。更には、破断強度、破断伸び等の膜機械強度に優れたポリイミド膜とすることができる。
【0015】
本発明の半導体素子用絶縁膜の前記ポリイミド前駆体組成物は、絶縁性放熱フィラーを含有することが好ましい。また、前記絶縁性放熱フィラーが、窒化ホウ素であることがより好ましい。絶縁性放熱フィラーを含有することにより、放冷特性をより向上させることができる。
【0016】
本発明の半導体素子用絶縁膜の前記ポリアミド酸は、ポリスチレン換算重量平均分子量が50,000以上200,000以下であるポリアミド酸の割合が70〜100質量%で、ポリスチレン換算重量平均分子量が10,000以上50,000未満であるポリアミド酸の割合が0〜30質量%であることが好ましい。ポリスチレン換算重量平均分子量が50,000以上200,000以下であるポリアミド酸の割合が70〜100質量%であると、ワニス粘度が高くなり過ぎずハンドリング性が良好である。更には、破断強度、破断伸び等の膜機械強度に優れたポリイミド膜とすることができる。そして、ポリスチレン換算重量平均分子量が10,000以上50,000未満であるポリアミド酸の割合が0〜30質量%であると、基板との密着性や、フィラー分散性が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の半導体素子用絶縁膜は、ポリイミド前駆体組成物のワニス安定性が良好であるため、取り扱い性に優れ、工程管理が容易である。そして、ポリイミド膜の熱膨張率を基板の熱膨張率に近づけることができるため、基板界面の残留応力を低減でき、半導体素子の製造時や使用時において、半導体素子基板の反りや、絶縁膜のクラック等を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の半導体素子用絶縁膜を備えたデバイスの製造工程の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の半導体素子用絶縁膜は、芳香族ジアミンと、芳香族テトラカルボン酸及び芳香族テトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上のアシル化合物とを反応して得られるポリアミド酸を含むポリイミド前駆体組成物を、イミド化して成膜したポリイミド膜である。
【0020】
(芳香族ジアミン)
芳香族ジアミンとしては、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−5,5’−ビスベンゾオキサゾール、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル及び4,4’−ジアミノベンズアニリドから選ばれる1種以上を、70〜100モル%含有するものが好ましく用いられる。これらの芳香族ジアミンは、比較的剛直な構造を有し、熱膨張率を低くしつつ耐熱性に優れたポリイミド膜を形成できる。芳香族ジアミン全体に対する上記した芳香族ジアミン(以下、剛直構造ジアミンともいう)の割合が70モル%未満であると、耐熱性が低下する傾向にある。
【0021】
剛直構造ジアミンとして、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−5,5’−ビスベンゾオキサゾールを用いた場合、非常に高耐熱性でフレキシブルなポリイミド膜が得られる。また、このポリイミド膜は、低熱膨張でありながら比較的小さい弾性率を有し、切削加工時の面平坦性に優れ、更には、フィラー分散性に優れる。
【0022】
また、剛直構造ジアミンとして、4,4’−ジアミノベンズアニリドを用いた場合、フィラー分散性に非常に優れたポリイミド膜が得られる。
【0023】
また、剛直構造ジアミンとして、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリドを使用した場合、これらは薬品コストが低いので製造コストを低減できる。更には、アシル化合物との反応性が高いので、反応時のサイクルタイムを短縮できる。
【0024】
芳香族ジアミンには、上記した剛直構造ジアミンの他に、柔軟構造のジアミン(以下、柔軟構造ジアミンともいう)を併用しても良い。柔軟構造ジアミンを併用することにより、ポリイミド膜の柔軟性、金属や基板との密着性を高めることができる。
【0025】
柔軟構造ジアミンを使用する場合、芳香族ジアミン全体に対する柔軟構造ジアミンの割合は、30モル%以下が好ましく、1〜20モル%がより好ましく、3〜10モル%が特に好ましい。柔軟構造ジアミンの割合が30モル%を超えると、ポリイミド膜の耐熱性が不十分な場合がある。また、3モル%未満であると、添加効果がほとんど得られないことがある。
【0026】
柔軟構造ジアミンとしては、主鎖にエーテル構造を含有するジアミン、主鎖にヘテロ環を含有するジアミン、主鎖にシロキサン構造を有するジアミン等が挙げられる。
【0027】
上記主鎖にエーテル構造を含有するジアミンとしては、オキシジアニリン等が挙げられる。
【0028】
上記主鎖にヘテロ環を含有するジアミンとしては、チオフェン環を有するジアミンが好ましい。具体的には、2,5‐ビス(4−アミノベンゾイル)チオフェンが好ましい一例として挙げられる。2,5‐ビス(4−アミノベンゾイル)チオフェンを使用することにより、金属との密着性に優れたポリイミド膜を形成できる。この理由としては次のように推測できる。すなわち、2,5‐ビス(4−アミノベンゾイル)チオフェンは、柔軟性があり、樹脂の柔軟性によるアンカー効果と同時に、チオフェン環のS元素が金属に配位することにより金属との密着性に有効に寄与していると考えられる。
【0029】
上記主鎖にシロキサン構造を有するジアミンとしては、下式(1)に示すジアミンが好ましく挙げられる。より好ましくは、下式(2)のジアミンである。下式(1)のジアミンを使用することにより、基板や金属との密着性を向上できる。
【0030】
【化1】

【0031】
(式(1)中、R、Rは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい二価の炭化水素基である。R〜Rは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい一価の炭化水素基である。nは、1以上の整数である。)
【0032】
【化2】

【0033】
(アシル化合物)
アシル化合物としては、ピロメリット酸、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸及び3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上を、70〜100モル%含有するものが好ましく用いられる。これらのアシル化合物は、比較的剛直な構造を有し、棒状の剛直鎖を形成することができるので、熱膨張率を低くしつつ耐熱性に優れたポリイミド膜を形成できる。アシル化合物全体に対する上記したアシル化合物(以下、剛直構造アシル化合物とうもいう)の割合が70モル%未満であると、ポリイミド膜の熱膨張率が大きくなり、耐熱性が低下する傾向にある。
【0034】
剛直構造アシル化合物として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を使用した場合、理由は不明であるが、ポリイミド前駆体のワニス安定性が良好にできる。更には、得られるポリイミド膜の低熱膨張率を有しながら、比較的低い弾性率であり、破断伸びに優れ、切削加工時の表面抵抗が好くなる傾向にあり、平坦性など有利に働く。
【0035】
剛直構造アシル化合物として、ピロメリット酸、ピロメリット酸二無水物を使用した場合、ポリイミド膜の熱膨張率をより低下できる。
【0036】
アシル化合物には、上記した剛直構造アシル化合物の他に、2つ以上の芳香族環が、エステル結合、エーテル結合、ケトン結合により結合した構造をなす芳香族テトラカルボン酸及びこれらの酸無水物(以下、柔軟構造アシル化合物ともいう)を含有しても良い。これらの柔軟構造アシル化合物は、屈曲性があり、柔軟構造を有しており、ポリイミド膜の柔軟性を高めることができる。
【0037】
柔軟構造アシル化合物を使用する場合、アシル化合物全体に対する柔軟構造アシル化合物の割合は、30モル%以下が好ましく、1〜25モル%がより好ましく、3〜10モル%が特に好ましい。柔軟構造アシル化合物の割合が30モル%を超えると、ポリイミド膜の耐熱性が不十分な場合がある。また、3モル%未満であると、添加効果がほとんど得られないことがある。
【0038】
柔軟構造アシル化合物としては、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0039】
(ポリイミド前駆体組成物)
ポリイミド前駆体組成物は、上記芳香族ジアミンと上記アシル化合物とを反応させて得られるポリアミド酸を少なくとも含有する。本発明においては、前記ポリアミド酸は、上記アシル化合物を、上記芳香族ジアミンよりも1モル%以上多く反応して得られるポリアミド酸を用いる。好ましくは、上記芳香族ジアミン1モルに対し、上記アシル化合物を1.01〜1.15モル、より好ましくは1.02〜1.08モル、特に好ましくは1.02〜1.05モル反応させて得られるポリアミド酸である。
【0040】
上記アシル化合物を、上記芳香族ジアミンよりも1モル%以上多く反応させることにより、分子末端がカルボキシル基又は酸無水物基でエンドキャップされた構造のポリアミド酸が得られると考えられる。ポリアミド酸の分子末端がカルボキシル基又は酸無水物基でエンドキャップされることにより、保管時に大気中の水分等を吸水しても、吸水した水分がカルボキシル基や酸無水物基でトラップされるため、ポリアミド酸の粘度が経時変化し難くなり、ワニス安定性が向上したものと考えられる。
【0041】
また、このポリアミド酸を含むポリイミド前駆体組成物をイミド化し成膜して得られるポリイミド膜は、熱分解温度が高く、更には、熱分解初期に発生する分解ガスは、分子末端のカルボキシル基や酸無水物基が熱分解して発生した炭酸ガス(CO)を主成分とするものであり、ポリイミド膜の主鎖ポリマーの分解を抑制でき、耐熱性に優れている。
【0042】
これに対し、芳香族ジアミン1モルに対し、アシル化合物を1モル以下の割合で反応させることにより、分子末端にアミノ基を有するポリアミド酸が得られ易くなるが、分子末端にアミノ基を有するポリアミド酸は、ポリアミド酸のカルボキシル基と分子末端のアミノ基とが反応して塩を形成し易い。このような塩が形成されると、触媒効果によってポリアミド酸の分子量が低下し易く、ポリイミド前駆体組成物の粘度が経時変化し易い。更には、ポリイミド前駆体組成物の熱イミド化時に生成する水などに、ポリアミド酸の加水分解が促進され易く、得られるポリイミド膜の分子量が低下し易い。更にまた、末端アミノ基は熱に対して不安定であることから、分子末端がカルボキシル基又は酸無水物基でエンドキャップされた構造のポリアミド酸を成膜したポリイミド膜よりも熱分解開始温度が低くなり易く、耐熱性が損われ易い。
【0043】
本発明において、ポリアミド酸は、ポリスチレン換算重量平均分子量が50,000以上200,000以下であるポリアミド酸の割合が70〜100質量%で、ポリスチレン換算重量平均分子量が10,000以上50,000未満であるポリアミド酸の割合が0〜30質量%であることが好ましい。
【0044】
ポリスチレン換算重量平均分子量が50,000以上200,000以下であるポリアミド酸(以下、高分子量ポリアミド酸ともいう)は、ワニス粘度が高くなり過ぎずハンドリング性が良好で、フィラー分散性が良好である。更には、耐熱性、機械強度(破断強度、破断伸び等)に優れたポリイミド膜とすることができる。
【0045】
また、ポリスチレン換算重量平均分子量が10,000以上50,000未満であるポリアミド酸(以下、低分子量ポリアミド酸ともいう)は、成膜後のポリイミド膜の機械強度などが低下する傾向にあるが、分子末端のカルボキシル基や酸無水物基の割合が増加することから、ワニス安定性、フィラー分散性、基板密着性が向上する。
【0046】
そして、高分子量ポリアミド酸の割合が70〜100質量%で、低分子量ポリアミド酸の割合が0〜30質量%であれば、ワニス安定性に優れ、フィラー分散性が良好であり、更には、膜機械強度に優れ、耐熱性に優れたポリイミド膜が得られやすくなる。また、高分子量ポリアミド酸と低分子量ポリアミド酸とを混合して用いた場合には、両樹脂の機能を有するポリイミド膜を得ることができる。
【0047】
なお、高分子量ポリアミド酸と低分子量ポリアミド酸とを混合して用いる場合、高分子量ポリアミド酸と低分子量ポリアミド酸との組み合わせは、相溶性に優れるものを選択して使用することが好ましい。特に好ましくは、それぞれの主鎖構造が同一のポリアミド酸を用いる。高分子量ポリアミド酸と低分子量ポリアミド酸との相溶性が良好であれば、イミド化後のポリイミド膜は完全に一体化し、長期信頼性に優れる。
【0048】
ポリアミド酸のポリスチレン換算重量平均分子量は、芳香族ジアミンに対するアシル化合物の比率を高めて反応させることで、ポリスチレン換算重量平均分子量の低いポリアミド酸が得られる。
【0049】
本発明において、ポリスチレン換算重量平均分子量とは、後述する実施例に記載した重量平均分子量測定で求めた値である。
【0050】
本発明において、ポリイミド前駆体組成物には、NMP(N−メチルピロリドン)、DMAc(ジメチルアセトアミド)、DMF(ジメチルスルフォキシド)などの非プロトン性極性溶剤などの溶剤を含有させて粘度調整を行ってもよい。これらの溶剤は、ポリイミド前駆体組成物中に好ましくは60〜95重量%、より好ましくは80〜92重量%含有させて、ポリイミド前駆体組成物の粘度を5〜300Pa・Sに調整する。
【0051】
本発明において、ポリイミド前駆体組成物には、絶縁性放熱フィラーを含有させても良い。絶縁性放熱フィラーを含有させることにより、得られるポリイミド膜の放冷特性を向上できる。また、このポリイミド前駆体組成物は、フィラー分散性に優れるため、絶縁性放熱フィラーを含有させてもハンドリング性が損なわれ難い。
【0052】
絶縁性放熱フィラーとしては特に限定はなく、従来公知のものを使用できる。好ましくは、窒化ホウ素である。窒化ホウ素は、放冷特性に優れ、更には、アミド構造との親和性に優れることから、ポリイミド前駆体組成物中に均一分散し易く、また、成膜後のポリイミド膜から分離しにくい。
【0053】
絶縁性放熱フィラーは、ポリイミド前駆体組成物中に1〜50重量%含有することが好ましく、3〜30重量%含有することがより好ましい。絶縁性放熱フィラーの含有量が1重量%未満であると、添加効果が殆ど得られない。50重量%を超えると、ポリイミド前駆体組成物中に均一分散し難くなり、更には、ワニス安定性および製膜後の膜機械特性が低下する傾向にある。
【0054】
(半導体素子用絶縁膜)
本発明の半導体素子用絶縁膜は、上記ポリイミド前駆体組成物をイミド化して成膜して得られるポリイミド膜からなる。
【0055】
ポリイミド前駆体組成物の成膜は、特に限定はなく、従来公知の方法により成膜できる。例えば、ポリイミド前駆体組成物を基板等の被塗装物の表面に塗布し、プリベーク処理を行ってポリイミド前駆体組成物の塗膜を形成し、これを熱イミド化して行う方法等が挙げられる。また、被塗装物の表面をあらかじめカップリング剤で処理しておくことにより、被塗装物との密着性を向上できる。カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、アルミ系カップリング剤、チタン系カップリング剤などが使用できる。カップリング剤による処理方法は従来公知の方法で行うことができる。例えば、カップリング剤を溶剤に溶かして被塗装物の表面に塗布するウエット処理法、被塗装物をカップリング剤の蒸気に曝すドライ法などが挙げられる。
【0056】
本発明の半導体素子用絶縁膜は、熱膨張率が2〜24ppm/℃であり、4〜16ppm/℃が好ましく、4〜8ppm/℃がより好ましい。熱膨張率を高めるには、柔軟構造ジアミンまたは柔軟構造酸無水物の比率を上記した範囲で高めればよい。また、熱膨張率を低くするには、剛直構造ジアミンまたは剛直構造酸無水物の比率を上記した範囲で高くすればよい。
【0057】
本発明の半導体素子用絶縁膜は、弾性率が2〜8.5Gpaが好ましく、4〜7Gpaがより好ましい。弾性率が2Gpa未満であると、樹脂が柔軟構造になり破断伸びに優れるが膜熱膨張率が大きく、耐熱性不足になる。弾性率が8.5Gpaを超えると、膜が硬く、もろくなり切削平坦性が悪くなる。弾性率4〜7GPa程度が膜の硬さ、柔軟性のバランスが良く切削時の平坦性に優れる。弾性率を高めるには、剛直構造ジアミンまたは剛直構造酸無水物の比率を上記した範囲で高くすればよい。また、弾性率を低くするには、柔軟構造ジアミンまたは柔軟構造酸無水物の比率を上記した範囲で高くすればよい。
【0058】
本発明の半導体素子用絶縁膜は、後述する実施例記載の膜破断強度、破断伸び測定の方法で測定した常温評価時の伸びが10%以上であることが好ましく、30%以上がより好ましい。伸びが30%以上であれば、コンタクト電極などへの応力を膜の伸びで十分緩和できる。
【0059】
本発明の半導体素子用絶縁膜は、熱膨張率の異なる複数のポリイミド膜が積層したものであってもよい。熱膨張率の異なるポリイミド膜を積層することにより、膜全体としてみると熱膨張率が傾斜化し、それぞれの膜に接する金属材料の熱膨張に近いポリイミド膜で構成された半導体素子用絶縁膜とすることができる。
【0060】
熱膨張率の異なるポリイミド膜が積層された半導体素子用絶縁膜を得るには、例えば、以下に示す方法で製造できる。以下に示す例は、熱膨張率の異なるポリイミド膜が2層積層された半導体素子用絶縁膜を製造する場合であるが、3層以上のポリイミド膜を積層する場合も同様にして製造できる。
【0061】
すなわち、まず、第1のポリイミド前駆体組成物を基板等の被塗装物の表面に塗布し、プリベーク処理する。次に、このプリベーク処理した膜上に、第2のポリイミド前駆体組成物を塗布し、プリベーク処理した後イミド化処理する。第1、第2のポリイミド前駆体組成物のイミド化を同時に行うことにより、それぞれのポリイミド前駆体によって形成されるポリイミド膜どうしが界面間で一体化した半導体素子用絶縁膜が得られ易くなる。
【0062】
各々のポリイミド前駆体組成物は、芳香族ジアミン及び/又はアシル化合物が、同一の化合物を用いて反応させたポリアミド酸を含むものが好ましい。このようなポリイミド前駆体組成物を用いることで、プリベーク膜の界面間で相溶化が生じ、イミド化によって一体化し易くなる。
【0063】
(半導体素子用絶縁膜を備えたデバイスの製造)
図1を用いて、本発明の半導体素子用絶縁膜を備えたデバイスの製造工程の一例を示す。
【0064】
まず、基板1(研磨前の基板)上に下部表面電極2を形成する(図1(a))。
【0065】
次に、この基板1の表面にレジストを塗布し(図1(b))、これをプリベークしてレジスト膜3を形成する。そして、レジスト膜3を貫通して下部表面電極2上にコンタクトホールし、コンタクトホールに電解メッキ法を用いてコンタクト電極4を作製する(図1(c))。レジスト膜3を剥離することで、下部表面電極2上にコンタクト電極4が形成された基板が得られる(図1(d))。コンタクト電極4のトータル面積が下部表面電極2の1/3を占めると下部発熱を上部に伝達し易くなる。
【0066】
次に、下部表面電極2、コンタクト電極4を埋め込む形で基板1全面にポリイミド前駆体組成物を塗布し、これを熱イミド化して半導体素子用絶縁膜5を形成する。熱イミド化する際、最終キュア温度を350〜400℃にすることが好ましい。この高温処理はコンタクト電極4のメッキ層のアニール処理をかねるこことからコンタクト電極4の強度向上有効に働く。そして、半導体素子用絶縁膜5を研磨または切削等により表面を削り、コンタクト電極4を半導体素子用絶縁膜5上に削りだす。この半導体素子用絶縁膜5上に露出したコンタクト電極4を介して、半導体素子用絶縁膜5上部に上部表面電極6(エミッター電極、ゲート電極)を形成する(図1(f))。
【0067】
次に、表面電極側を支持基板などに固定し、基板裏面を所定の厚み(好ましくは150μm以下)に研磨し、ついで裏面電極7を形成する(図1(g))。
【0068】
そして、裏面電極側を支持基板などに固定し、半導体素子用絶縁膜5から直接ダイシングして各素子を切り出すことで、本発明の半導体素子用絶縁膜を備えたデバイスを製造できる。
【実施例】
【0069】
[測定方法]
・重量平均分子量測定
測定装置:島津製作所製LC−10AD(解析ソフト:CLASS−VP、GPC for CLASS−VP)
UV検出:測定波長 270nm
カラム:PL製 Plgel 5μm MIXED−C 300×7.5mm
PL製 Plgel 5μm Guard 50×7.5m 2本
カラム温度:36℃
溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)0.5L/Lと、テトラヒドロフラン(THF)0.5L/Lと、リン酸5.8g/Lの混合液
流量:1ml/min(ポンプ流量誤差±2%)
標準ポリスチレン:東ソー標準キッド
樹脂濃度0.1Wt%
【0070】
・ワニス安定性
ポリイミド前駆体組成物の粘度が30〜40Paの範囲になるように、N−メチルピロリドン(NMP)とジメチルアセトアミド(DMAc)とを重量比で1:1の割合で混合した混合溶剤を適宜加えて調整し、25℃で48時間放置後の粘度を、東機産業株株式会社製E型回転粘度計、中粘度用M型を用い、25℃、50rpmまたは100rpmの条件で測定した。±10%以内の粘度変化の場合は○とし、±10〜12%の粘度変化の場合は△とし、それ以外を×とした。
【0071】
・フィラー分散性
ポリイミド前駆体組成物に、平均粒径10μmの窒化ホウ素を樹脂重量に対して25質量%添加した後、攪拌して分散させた。25℃で3時間放置した後の分散性を目視で観察し、均一分散維持の場合は○とし、僅かに沈降分離が見られる場合は△とし、沈降分離が確認できる場合は×とした。
【0072】
・熱膨張率測定
測定装置:Seiko instruments製 EXSTAR TMA/SS6000
測定試料:4mm×20mm×10μm
測定条件:25℃→300℃→25℃→300℃→25℃サイクルの2回目の冷却時における熱膨脹率変化を記録した。
昇温速度:5℃/分
荷重:2g(空気雰囲気)
【0073】
・1%重量減衰開始温度
測定装置:Seiko instruments製 EXSTAR 6000
測定試料:2g〜500mg
測定条件:Nガスを200ml/分の流量で供給しながら、昇温速度10℃/℃にて、室温から600℃まで昇温し、1%重量減衰開始温度を記録した。
【0074】
・弾性率測定
測定装置:Seiko instruments製 EXSTAR TMA/SS6000
測定試料:9mm×20mm×10μm
測定条件:最小張力/圧縮力=50mN、張力/圧力ケ゛イン=1.2、力振幅初期=50mN、周波数=1Hz、温度変化プログラム=室温〜300℃、昇温速度=5℃/min
【0075】
・破断強度、破断伸び
測定装置:島津製作所製 精密万能試験機オートグラフ 床置型AG−10kNX
測定試料:0.01mm×10mm×35mm
測定条件:引張速度10mm/分(25℃)
【0076】
・熱分解開始温度および分解ガス測定
測定装置:FT/IR−470Plus−Irtron IRT−30 (ニコレー製)
加熱温度:開始温度100℃〜700℃(30min)
昇温速度:20℃/min
(GC部)
カラム:Ultra ALLOY−DTM 2.5m×0.15mm
温度:300℃
注入口:300℃
インターフェース:280℃
キャリアガス:50Kpa 全流量60mL/min
【0077】
・熱伝導率測定
シリコン基板上に製膜後の膜厚が30〜40μmとなるように、ポリイミド前駆体組成物を塗布後、プリベークした。この上にさらに該ポリイミド前駆体組成物を重ね塗布した。この操作を繰り返して膜厚を調整後、熱イミド化して試料を作製し、京都電子工業株式会社製、迅速熱伝導率計(QTM−50)を用いて熱伝導率を測定した。
【0078】
[芳香族ジアミンの合成]
(合成例1)
攪拌シール、窒素ガス導入ライン、温度計を設置した1Lセパラブルフラスコ中に、3,3’−ジアミノー4,4’−ジヒドロキシビフェニル(和歌山精化社製)37.4g(0.173モル)、アミノ安息香酸47.5g(0.351モル)、ポリリン酸(密度=2.06、メルク社製)450gを混合した。
上記混合液を、窒素雰囲気下、100℃で1時間攪拌した。反応系に試薬が均一に分散したことを確認後、反応温度を150℃(内部温度)まで昇温し、150℃で6時間加熱攪拌した。
反応液を80℃まで冷却後、攪拌装置(スリーワンモーター型攪拌装置)を設置した5Lの水中に攪拌しながら添加し、析出した黄色結晶を濾別して回収した。
回収した黄色結晶をアンモニア水で処理し、水洗処理を行い、過剰ポリリン酸を除去した後、NMP:水(9:1)混合溶剤系を用い、再結晶処理した。そして再結晶物を水洗処理し、加熱真空乾燥処理を行い、結晶体を得た。
この結晶体を、展開溶剤としてメタノールを用い、高速液体クロマトグラフィーにて、HPLC面積比で評価したところ、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビベンゾオキサゾールの純度が98.5%以上であった。また、総合収率は52%であった。
【0079】
(合成例2)
下式に示す方法で2,5−ビス(4−アミノベンゾイル)チオフェンを合成した。
すなわち、ニトロフェナシルブロミド24.4gを、アセトン300mlに溶解して氷冷攪拌しながら、水に溶解した硫化ナトリウム・9水和物13gを滴下した。そして、そのまま1時間攪拌した後、氷水300mlを加えて、沈殿をろ過、乾燥してジケトスルフィド誘導体14.6gを得た。
得られたジケトスルフィド誘導体7.2gと40%グリオキサール水溶液3.5gを、メタノール100mlとジクロロメタン100mlの混合溶液中で攪拌しながら、28%ナトリウムメトキシド4mlを滴下し、沈殿をろ過してニトロベンゾイルチオフェン誘導体6.1gを得た。
得られたニトロベンゾイルチオフェン誘導体3.8gを、酢酸50mlに溶解・攪拌しながら、塩酸30mlに塩化スズ17.0gを溶解した溶液を滴下し、100℃に昇温して4時間加熱・攪拌した。放冷後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和した後沈殿を炉別し、エタノールから再結晶して、結晶体2.2gを得た。
この結晶体の融点は190〜192℃で、NMR(核磁気共鳴装置:日本電子社製、JNM.ECM型500Mを使用)7.75ppm(d−d)4Hベンゼン環、7.72ppm(s)2Hチオフェン環、6.79ppm(d−d)4Hベンゼン環、6.30ppm(s)4Hアミノ基の分析結果より、2,5−ビス(4−アミノベンゾイル)チオフェンであることが確認できた。
【0080】
【化3】

【0081】
[絶縁膜の製造]
(実施例1)
高粘度攪拌装置、窒素ガスラインを備えた500mLセパラブルフラスコ中に2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビベンゾオキサゾール12.54g(0.03モル)を秤量した。次いで、N−メチルピロリドン(NMP)とジメチルアセトアミド(DMAc)とを重量比で1:1の割合で混合した混合溶剤(以下、混合溶剤という)90gを加え、室温にて30分間攪拌した。
この混合反応液を氷冷攪拌下にて、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物9.18g(0.0312モル)を粉体のまま添加した。さらに、上記混合溶剤20gを用い反応容器内に付着した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を洗浄しながら追加添加した。氷冷攪拌2時間後、25℃に昇温後24時間攪拌し、ポリアミド酸を得た。このポリアミド酸の重量平均分子量、ワニス安定性、フィラー分散性を表1に記載する。
得られたポリアミド酸に、上記混合溶剤を適宜加え、ワニスを室温で充分攪拌してワニス粘度が30〜50Psになるように調整し、ポリイミド前駆体組成物を得た。
このポリイミド前駆体組成物を、カップリング剤処理を施したシリコン基板にスピナーを用い塗布し、90℃6分ホットプレートを用いプリベーク処理した。(塗工膜厚はキュア後膜厚が8μmとなるように調整した)。次いで、イナートオーブンを用い、50℃×60分→150℃×30分→250℃×60分×最終キュア温度(350又は400℃)×60分→冷却(室温)の温度プロセスで熱イミド化して成膜した。
そして、50%フッ化水素酸を用い、シリコン基板から成膜した膜を剥離し、十分水洗後130℃3時間加熱乾燥して評価用フィルムを得て、破断強度(MPa)、破断の伸び(%)、熱膨張率(ppm/℃)、弾性率(GPa)、1%重量減衰開始温度(℃)、脱ガス検知温度(℃)、分解ガスの種類を評価した。結果を表1にまとめて記す。
【0082】
(実施例2)
実施例1において、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビベンゾオキサゾール12.54g(0.03モル)の代わりに、p−フェニレンジアミン3.25g(0.03モル)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
【0083】
(実施例3)
実施例1において2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビベンゾオキサゾール12.54g(0.03モル)の代わりに、4,4’−ジアミノベンズアニリド6.82g(0.03モル)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
【0084】
(実施例4)
実施例1において、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビベンゾオキサゾール12.54g(0.03モル)の代わりに、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビベンゾオキサゾール12.18g(0.0291モル)と下式(2)に示すSiジアミン0.224g(0.0009モル)とを用いた以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
【0085】
【化4】

【0086】
(実施例5)
実施例1において、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビベンゾオキサゾール12.54g(0.03モル)の代わりに、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビベンゾオキサゾール9.16g(0.0219モル)と、2,5‐ビス(4−アミノベンゾイル)チオフェン2.61g(0.0081モル)とを用いた以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
【0087】
(実施例6)
実施例1において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物9.18g(0.0312モル)の代わりに、ピロメリット酸二無水物6.8g(0.0312モル)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
【0088】
(実施例7)
実施例3において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物9.18g(0.0312モル)の代わりに、ピロメリット酸二無水物6.8g(0.0312モル)を用いた以外は実施例3と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
【0089】
(実施例8)
実施例5において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物9.18g(0.0312モル)の代わりに、ピロメリット酸二無水物6.8g(0.0312モル)を用いた以外は実施例5と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
【0090】
(実施例9)
実施例1において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物9.18g(0.0312モル)の代わりに、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物10.06g(0.0312モル)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
【0091】
(比較例1)
実施例1において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の使用量を12.55g(0.03モル)とした以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
このポリイミド前駆体組成物の粘度は、100Psを超え、ワニスハンドリングが大幅に悪化した。また、実施例1の混合溶剤を加えて粘度を30Psまで低下させたところ、樹脂濃度が5.0重量%以下まで低下し、厚膜塗工が困難であった。また、ワニス安定性が悪化した。初期分解ガス成分もベンゼン環由来のガス(C系ガス)を検知した。
【0092】
(比較例2)
実施例1において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の使用量を12.55g(0.03モル)とし、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビベンゾオキサゾールの使用量を13.06g(0.0312モル)とした以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
このポリイミド前駆体組成物は、ワニス安定性が極めて悪かった。また、膜の破断伸びが低く、強度不足が懸念される。更には、脱ガス開始温度が低く、初期分解ガス成分もベンゼン環由来のガスを検知した。
【0093】
(比較例3)
実施例2において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の使用量を12.55g(0.03モル)とし、p−フェニレンジアミンの使用量を3.25g(0.03モル)とした以外は実施例2と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
このポリイミド前駆体組成物の粘度は、100Psを超え、ワニスハンドリングが大幅に悪化した。また、実施例1の混合溶剤を加えて粘度を30Psまで低下させたところ、樹脂濃度5.0重量%以下まで低下し、厚膜塗工が困難であった。また、フィラー分散性も悪かった。初期分解ガス成分はベンゼン環由来のガスを検知した。
【0094】
(比較例4)
実施例2において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の使用量を12.55g(0.03モル)とし、p−フェニレンジアミンの使用量を3.38g(0.0312モル)とした以外は実施例2と同様にしてポリアミド酸を得てポリイミド前駆体組成物を調製した。このポリイミド前駆体組成物を用い、実施例1と同様にして成膜した。
このポリイミド前駆体組成物は、ワニス安定性が極めて悪かった。また、膜の破断伸びが低く、強度不足が懸念される。更には、脱ガス開始温度が低く、初期分解ガス成分もベンゼン環由来のガスを検知した。
【0095】
(比較例5)
市販の低熱膨張自己密着型樹脂ワニス(商品名:「SP−042」 東レ社製)を用い、ワニス安定性、フィラー分散性を評価した。また、この樹脂ワニスを用いて実施例1と同様にして成膜し、破断強度(MPa)、破断の伸び(%)、熱膨張率(ppm/℃)、弾性率(GPa)、1%重量減衰開始温度(℃)、脱ガス検知温度(℃)、分解ガスの種類を評価した。
この樹脂ワニスは、―15℃での保存が必要であった。
また、脱ガス開始温度が300℃と極めて低かった。
【0096】
【表1】

【0097】
[複合膜の作製と評価]
実施例1において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物9.18g(0.0312モル)の使用量を9.53g(0.0324モル)とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸を得た。このポリアミド酸の重量平均分子量は38000であった。
次に、得られたポリアミド酸30gと、実施例1のポリアミド酸70gと混合した。2種類のポリアミド酸は主鎖構造が同一のため、完全に溶解し、均一ワニスになった。このワニスに窒化ホウ素4.8g(商品名「HP−40」、JFES社製、平均粒径10μm、ポリアミド酸の全質量に対して30質量%に相当)を添加し、攪拌してポリイミド前駆体組成物を調製した。窒化ホウ素はワニスに均一分散した。このポリイミド前駆体組成物から成膜したフィルムの熱伝導率は1.4(W/m/K)であった。
【0098】
一方、窒化ホウ素を添加しないこと以外は同様にして調製したポリイミド前駆体組成物を用いて成膜したフィルムの熱伝導率は0.2(w/m/k)であった。このように、窒化ホウ素を添加することにより放熱特性が著しく向上した。
【0099】
[膜積層構造体の成膜]
実施例1のポリイミド前駆体組成物を、最終膜厚が3μmになるようにスピナーを用いてシリコン基板に塗布した。この基板を90℃×6分、ホットプレートを用いてプリベークした。次に、この基板上に、実施例5のポリイミド前駆体組成物を、最終膜厚が2μmになるようにスピナーを用い塗布し、90℃×6分、ホットプレートでプリベークした。塗工およびプリベーク後の膜中のボイドおよび剥離(浮き)は見られなかった。この基板を、イナートオーブンを用い最終キュア温度400℃×60分の条件で熱イミド化して成膜た。膜を通常の方法でシリコン基板より剥離した。剥離した膜の破断強度は310Mpa、破断伸び39%で優れた膜機械特性を示した。また、2種類の膜は界面で剥離することなく一体化していた。
【符号の説明】
【0100】
1:基板
2:下部表面電極
3:レジスト膜
4:コンタクト電極
5:半導体素子用絶縁膜
6:上部表面電極
7:裏面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアミンと、芳香族テトラカルボン酸及び芳香族テトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上のアシル化合物とを反応して得られるポリアミド酸を含むポリイミド前駆体組成物を、イミド化して成膜したポリイミド膜からなる半導体素子用絶縁膜であって、
前記ポリアミド酸は、前記アシル化合物を、前記芳香族ジアミンよりも1モル%以上多く反応して得られるポリアミド酸であり、
前記ポリイミド膜の熱膨張率が2〜24ppm/℃であることを特徴とする半導体素子用絶縁膜。
【請求項2】
前記芳香族ジアミンは、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−5,5’−ビスベンゾオキサゾール、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル及び4,4’−ジアミノベンズアニリドから選ばれる1種以上を70〜100モル%含有する、請求項1に記載の半導体素子用絶縁膜。
【請求項3】
前記アシル化合物は、ピロメリット酸、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸及び3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上を70〜100モル%含有する、請求項1に記載の半導体素子用絶縁膜。
【請求項4】
前記ポリイミド前駆体組成物は、絶縁性放熱フィラーを含有する、請求項1から3のいずれか記載の半導体素子用絶縁膜。
【請求項5】
前記絶縁性放熱フィラーが、窒化ホウ素である、請求項4に記載の半導体素子用絶縁膜。
【請求項6】
前記ポリアミド酸は、ポリスチレン換算重量平均分子量が50,000以上200,000以下であるポリアミド酸の割合が70〜100質量%で、ポリスチレン換算重量平均分子量が10,000以上50,000未満であるポリアミド酸の割合が0〜30質量%である、請求項1から5のいずれか記載の半導体素子用絶縁膜。

【図1】
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【公開番号】特開2011−187613(P2011−187613A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50280(P2010−50280)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】