単環縫いミシンのルーパー装置
【課題】ミシン針が被縫製物を貫通する際ミシン針が振れても糸切れや目飛びを防ぐことのできる単環縫いミシンのルーパー装置を提供する。
【解決手段】針先3aに糸が通され昇降運動して被縫製物Wを貫通するミシン針3と、被縫製物Wの下方でミシン針3の糸を手繰る縦振りルーパー5とを備え、ミシン針3と縦振りルーパー5により一本の糸で縫い目を形成して行く単環縫いミシンのルーパー装置において、縦振りルーパー5の正規の針先通過点30を有するあご部32の上面であって針先通過点30の周囲に対応する位置に、ミシン針3の針先3aを針先通過点30に導くように該針先通過点30に向かって下る傾斜案内面33を形成してある。
【解決手段】針先3aに糸が通され昇降運動して被縫製物Wを貫通するミシン針3と、被縫製物Wの下方でミシン針3の糸を手繰る縦振りルーパー5とを備え、ミシン針3と縦振りルーパー5により一本の糸で縫い目を形成して行く単環縫いミシンのルーパー装置において、縦振りルーパー5の正規の針先通過点30を有するあご部32の上面であって針先通過点30の周囲に対応する位置に、ミシン針3の針先3aを針先通過点30に導くように該針先通過点30に向かって下る傾斜案内面33を形成してある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単環縫いミシンのルーパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば、段ボール用単環縫いミシンのルーパー装置は、針先に糸が通され昇降運動して針板上の被縫製物を貫通するミシン針と、針板の下方でミシン針の糸を手繰る縦振りルーパーとを備え、前記ミシン針とルーパーにより一本の糸で縫い目を形成して行くようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−175157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記単環縫いミシンのルーパー装置では、図29(a),(b)に示すように、ミシン針3が被縫製物Wである段ボール(図29(a)ではシングルの段ボールを2枚重ね合わせた状態を示し、図29(b)ではダブルの段ボールを2枚重ね合わせた状態を示す)を貫通する際、段ボールの波型に加工した比較的硬い中芯Waの形状に沿ってミシン針3が振れることがある。ミシン針3が振れると、図29(a)のように針先3aが三角形の空間を形成する針糸ループLに触れて糸切れを発生したり、または図29(b)のように針先3aが三角形の空間を形成する針糸ループL内に進入せず、目飛びの原因となるという問題があった。なお、図29(a),(b)中、ラインSは、ミシン針3が正規に落ちるべく針位置を示す。
【0005】
そこで本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、ルーパーの形状に改良を加えることにより、ミシン針が被縫製物を貫通する際ミシン針が振れても糸切れや目飛びを防ぐことのできる単環縫いミシンのルーパー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の単環縫いミシンのルーパー装置は、請求項1に記載のように、発明の内容を理解しやすくするために図1〜図24に付した符号を参照して説明すると、針先に糸が通され昇降運動して被縫製物(W)を貫通するミシン針(3)と、被縫製物(W)の下方でミシン針(3)の糸を手繰る縦振りルーパー(5)とを備え、ミシン針(3)と縦振りルーパー(5)により一本の糸で縫い目を形成して行く単環縫いミシンのルーパー装置において、縦振りルーパー(5)の正規の針先通過点(30)を有するあご部(32)の上面であって針先通過点(30)の周囲に対応する位置に、ミシン針(3)の針先(3a)を針先通過点(30)に導くように該針先通過点(30)に向かって下る傾斜案内面(33)を形成してあることに特徴を有するものである。
このような構成のルーパー装置によれば、ミシン針(3)が被縫製物(W)を貫通する際ミシン針(3)が振れても、針先(3a)は傾斜案内面(33)により正規の針先通過点(30)に誘導案内されることによりミシン針(3)は真直ぐに矯正され、したがって針先(3a)は三角形の空間を形成する針糸ループに触れたり、針糸ループ内に進入しなかったりすることなく、針糸ループ内の正規の針位置に確実に進入することができる。
【0007】
請求項1記載の単環縫いミシンのルーパー装置は、請求項2に記載のように、縦振りルーパー(5)のシャンク(5b)は断面四角形の平板形状に且つリーマ孔(9)を有する形に形成する一方、ルーパー台(8)にシャンク(5b)を隙間無く嵌合可能なシャンク嵌合溝(11)およびリーマ孔(12)を形成し、シャンク(5b)をシャンク嵌合溝(11)に嵌合するとともに、この嵌合により互いに合致するリーマ孔(9),(12)にリーマボルト(14)を抜き差し可能に挿通して締結することにより縦振りルーパー(5)をルーパー台(8)に一体的に取り付けた構成を採用することができる。これによると、縦振りルーパー(5)をルーパー台(8)に所定向きに且つ所定高さ位置にして取り付けることができるので、縦振りルーパー(5)の取付け高さ及び角度等の調整を不要とし、また、縦振りルーパー(5)のミシン針(3)との隙間調整を不要とする。さらに、リーマボルト(14)はルーパー台(8)の揺動停止位置に関係なく、リーマボルト(14)単体で抜き差しできるので、縦振りルーパー(5)の取り付け、取り外しが簡単に行える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の単環縫いミシンのルーパー装置によれば、ミシン針が被縫製物を貫通する際ミシン針が振れても、針糸ループ内の正規の針位置に確実に進入させることができるので、糸切れや目飛びを防止できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例の単環縫いミシンの外観斜視図、図2は同単環縫いミシンのルーパー装置の分解斜視図、図3は同ルーパー装置の斜視図、図4は同ルーパー装置の組立状態を示す外観斜視図、図5は同ルーパー装置の平面図、図6は図5におけるA−A線断面図、図7は同ルーパー装置のルーパーの分解斜視図である。
【0010】
これらの図において、本発明の一実施例の単環縫いミシン1は、針先に糸(図示せず)が通されミシンアーム1Aの先端で昇降運動してミシンベッド1Bに設けた針板2上に載置される被縫製物(段ボールあるいは布、樹脂シート等)W(図29(a)(b)参照)を貫通するミシン針3、針板2の下方でミシン針3の糸を手繰り、ミシン針3と協働して一本の糸で縫い目を形成する縦振りルーパー5(図2、図3等参照)を含むルーパー装置6等を備える。図示例の単環縫いミシン1は段ボール箱の縫い合わせ部位に継ぎしろを縫い合わせる段ボール用ミシンを示す。
【0011】
ルーパー装置6は、図3〜図6に示すように、縦振りルーパー5と、ルーパー駆動機構7を備える。縦振りルーパー5は、図7〜図14に示すように、ルーパー本体5aと、このルーパー本体5aの基端部に設けたシャンク5bを有し、このシャンク5bをルーパー台8に取り付けられる。その取り付けに際し、縦振りルーパー5のシャンク5bは断面四角形の平板形状に形成するとともに、該シャンク5bの中間部位にリーマ孔9を、シャンク5bの尾端側端に切欠10をそれぞれ設ける。一方、ルーパー台8にシャンク5bが隙間無く嵌合可能な形状のシャンク嵌合溝11、リーマ孔12およびピン挿通孔13を形成する。かくして、縦振りルーパー5のシャンク5bをシャンク嵌合溝11に隙間なく嵌合し、この嵌合により互いに合致するリーマ穴12,9にリーマボルト14を、ピン挿通孔13および切欠10に回り止めピン15をそれぞれルーパー台8の一側方から通すとともに、ルーパー台8の他側方に突出するリーマボルト14の先端のねじ14aにナット16を螺合することにより縦振りルーパー5をルーパー台8に一体的に締結固定する。
【0012】
このように縦振りルーパー5のシャンク5bは断面四角形の平板形状に形成してルーパー台8のシャンク嵌合溝11に隙間なく嵌合し、リーマボルト14を互いに合致するリーマ孔12,9に挿通して締結固定することで縦振りルーパー5とルーパー台8とを一体化する取付構造を採用することにより、縦振りルーパー5をルーパー台8に所定向きに且つ所定高さ位置にして取り付けることができ、したがって縦振りルーパー5の取付け高さ及び角度等の調整を不要とし、また図27に示すように縦振りルーパー5のミシン針3との隙間g、即ち縦振りルーパー5の先端がミシン針3のえぐり部3bを通過するときの隙間gの調整を不要とする。また、リーマボルト14はルーパー台8の揺動停止位置に関係なく、リーマボルト14単体で抜き差しできるので、縦振りルーパー5の取り付け、取り外しに際し殊更ルーパー台8の位置調整を行う必要なく、簡単に取り付け、取り外しができて縦振りルーパー5の交換作業に便利である。
【0013】
ルーパー駆動機構7は、図2〜図6に示すように、ミシンベッド1B内に架設した下軸20、ねじ歯車21、ルーパー振元直交軸22、ルーパー振元クランク23、ルーパー振元リンク24、ルーパー振元軸25、ルーパー振元レバー26、ルーパー振元ロッド27、ルーパー軸レバー28、ルーパー軸29等にて構成される。更に詳しくは、ルーパー駆動機構7は、下軸20と、下軸20の一方向回転(図3中、矢印a)をねじ歯車21を介し受けて一方向回転(図3中、矢印b)するルーパー振元直交軸22と、ルーパー振元直交軸22の一方向回転をルーパー振元クランク23、ルーパー振元リンク24を介してルーパー振元軸25回りに往復駆動回転するルーパー振元レバー26、ルーパー振元レバー26の往復駆動回転に伴い前後往復動するルーパー振元ロッド27と、ルーパー振元ロッド27の前後往復動に伴い三者が一体的に往復駆動回転するルーパー軸レバー28、ルーパー軸29、ルーパー軸29に一体的に挿通結合したルーパー台8にて構成される。
しかるときは、縦振りルーパー5は、ミシン針3の上下往復運動に同期して作動するルーパー駆動機構7により往復駆動回転するルーパー軸29回りに、ミシンベッド1Bの内部で生地送り方向(ミシン針後方)Y(図1参照)の所定の前後揺動範囲に亘って往復駆動揺動する。
【0014】
縦振りルーパー5の運動について、被縫製物Wが段ボールであって、被縫製物Wの送り量が多く、被縫製物Wが厚い(段ボール2枚で約16mm)場合、ミシン針3のストロークが長くなり(実施例で50mm)、ミシン針3の運動速度が速くなる。よって、ルーパー運動速度の比較グラフを示す図28のように、一般的な縦振りルーパー機構によるルーパー運動では縦振りルーパーが針糸をすくうとき、縦振りルーパーの運動が遅れてしまう。
そこで、図28に示す実施例のルーパー装置のように下死点からスクイ位置(縦振りルーパーが針糸をすくう位置)までのルーパー運動量(速度)を大きくする。
このように下死点からスクイ位置までの縦振りルーパー5の運動を速くするという縦振りルーパー5の運動曲線の変更によって、被縫製物Wが段ボールであって、その送り量が10mm以上に多く、段ボール2枚で厚みが約16mmのように厚い場合でも調子を安定させて縫製することができる。
【0015】
本発明では、図20〜図24に示すように、縦振りルーパー5は、ミシン針3が振れる不具合がなくて真直ぐな姿勢で下降すると同時に縦振りルーパー5が後退揺動する時にミシン針3の先端が通過する正規の針先通過点30(図22参照)を、ルーパー本体5aの先端側のえぐり31を設けたあご部32の上面に有しており、そのあご部32の上面であって針先通過点30の周囲に対応する位置に、ミシン針3の先端を針先通過点30の方へ滑り移動して導くように該針先通過点30に向かって下る傾斜案内面33を形成してある。
【0016】
このように縦振りルーパー5に傾斜案内面33を形成しておくと、ミシン針3が被縫製物Wを貫通する際、図15〜図19、図29(a),(b)に示すようにミシン針3が振れて針先3aが図17に示すごとき不正規の針先通過点34を通過しようとしても、針先3aは図20〜図24に示すように傾斜案内面33により正規の針先通過点30に誘導案内されることによりミシン針3は真直ぐに矯正されるため、針先3aが図29(a),(b)に示すように三角形の空間を形成する針糸ループLに触れたり、針糸ループL内に進入しなかったりすることなく、針糸ループL内の正規の針位置に確実に進入することができる。したがって、針先3aが針糸ループLに触れて糸切れを発生したり、針糸ループL内に進入せずに目飛びの原因となるような問題を解消するに至った。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例の単環縫いミシンの外観斜視図である。
【図2】同単環縫いミシンのルーパー装置の分解斜視図である。
【図3】同ルーパー装置の斜視図である。
【図4】同ルーパー装置の組立状態を示す外観斜視図である。
【図5】同ルーパー装置の平面図である。
【図6】図5におけるA−A線断面図である。
【図7】同ルーパー装置のルーパーの分解斜視図である。
【図8】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を左前方から見た外観斜視図である。
【図9】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を右前方から見た外観斜視図である。
【図10】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を後方から見た外観斜視図である。
【図11】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を示す正面図である。
【図12】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を示す平面図である。
【図13】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を示す右側面図である。
【図14】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を示す背面図である。
【図15】同ルーパー装置のミシン針の矯正前におけるミシン針とルーパーの側面図である。
【図16】同ルーパー装置のミシン針の矯正前におけるミシン針とルーパーの正面図である。
【図17】図15におけるB−B線断面図である。
【図18】図15におけるC−C線断面図である。
【図19】図16におけるD−D線断面図である。
【図20】同ルーパー装置のミシン針の矯正後におけるミシン針とルーパーの側面図である。
【図21】同ルーパー装置のミシン針の矯正後におけるミシン針とルーパーの正面図である。
【図22】図20におけるE−E線断面図である。
【図23】図20におけるF−F線断面図である。
【図24】図21におけるG−G線断面図である。
【図25】同ルーパー装置のミシン針とルーパーの背面図である。
【図26】同ルーパー装置のミシン針とルーパーの側面図である。
【図27】図25におけるH−H線断面図である。
【図28】本発明の実施例のルーパー装置と一般的な縦振りルーパー機構によるそれぞれのルーパー運動速度を比較して示すグラフである。
【図29】ミシン針が被縫製物である段ボールを貫通する際、ミシン針が振れた不具合な状態図を示し、(a)はシングルの段ボールを重ねた状態を示し、(b)はダブルの段ボールを重ねた状態を示している。
【符号の説明】
【0018】
1 単環縫いミシン
3 ミシン針
5 縦振りルーパー
5a ルーパー本体
5b シャンク
6 ルーパー装置
8 ルーパー台
9,12 リーマ孔
11 シャンク嵌合溝
14 リーマボルト
30 針先通過点
32 あご部
33 傾斜案内面
【技術分野】
【0001】
本発明は、単環縫いミシンのルーパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば、段ボール用単環縫いミシンのルーパー装置は、針先に糸が通され昇降運動して針板上の被縫製物を貫通するミシン針と、針板の下方でミシン針の糸を手繰る縦振りルーパーとを備え、前記ミシン針とルーパーにより一本の糸で縫い目を形成して行くようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−175157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記単環縫いミシンのルーパー装置では、図29(a),(b)に示すように、ミシン針3が被縫製物Wである段ボール(図29(a)ではシングルの段ボールを2枚重ね合わせた状態を示し、図29(b)ではダブルの段ボールを2枚重ね合わせた状態を示す)を貫通する際、段ボールの波型に加工した比較的硬い中芯Waの形状に沿ってミシン針3が振れることがある。ミシン針3が振れると、図29(a)のように針先3aが三角形の空間を形成する針糸ループLに触れて糸切れを発生したり、または図29(b)のように針先3aが三角形の空間を形成する針糸ループL内に進入せず、目飛びの原因となるという問題があった。なお、図29(a),(b)中、ラインSは、ミシン針3が正規に落ちるべく針位置を示す。
【0005】
そこで本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、ルーパーの形状に改良を加えることにより、ミシン針が被縫製物を貫通する際ミシン針が振れても糸切れや目飛びを防ぐことのできる単環縫いミシンのルーパー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の単環縫いミシンのルーパー装置は、請求項1に記載のように、発明の内容を理解しやすくするために図1〜図24に付した符号を参照して説明すると、針先に糸が通され昇降運動して被縫製物(W)を貫通するミシン針(3)と、被縫製物(W)の下方でミシン針(3)の糸を手繰る縦振りルーパー(5)とを備え、ミシン針(3)と縦振りルーパー(5)により一本の糸で縫い目を形成して行く単環縫いミシンのルーパー装置において、縦振りルーパー(5)の正規の針先通過点(30)を有するあご部(32)の上面であって針先通過点(30)の周囲に対応する位置に、ミシン針(3)の針先(3a)を針先通過点(30)に導くように該針先通過点(30)に向かって下る傾斜案内面(33)を形成してあることに特徴を有するものである。
このような構成のルーパー装置によれば、ミシン針(3)が被縫製物(W)を貫通する際ミシン針(3)が振れても、針先(3a)は傾斜案内面(33)により正規の針先通過点(30)に誘導案内されることによりミシン針(3)は真直ぐに矯正され、したがって針先(3a)は三角形の空間を形成する針糸ループに触れたり、針糸ループ内に進入しなかったりすることなく、針糸ループ内の正規の針位置に確実に進入することができる。
【0007】
請求項1記載の単環縫いミシンのルーパー装置は、請求項2に記載のように、縦振りルーパー(5)のシャンク(5b)は断面四角形の平板形状に且つリーマ孔(9)を有する形に形成する一方、ルーパー台(8)にシャンク(5b)を隙間無く嵌合可能なシャンク嵌合溝(11)およびリーマ孔(12)を形成し、シャンク(5b)をシャンク嵌合溝(11)に嵌合するとともに、この嵌合により互いに合致するリーマ孔(9),(12)にリーマボルト(14)を抜き差し可能に挿通して締結することにより縦振りルーパー(5)をルーパー台(8)に一体的に取り付けた構成を採用することができる。これによると、縦振りルーパー(5)をルーパー台(8)に所定向きに且つ所定高さ位置にして取り付けることができるので、縦振りルーパー(5)の取付け高さ及び角度等の調整を不要とし、また、縦振りルーパー(5)のミシン針(3)との隙間調整を不要とする。さらに、リーマボルト(14)はルーパー台(8)の揺動停止位置に関係なく、リーマボルト(14)単体で抜き差しできるので、縦振りルーパー(5)の取り付け、取り外しが簡単に行える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の単環縫いミシンのルーパー装置によれば、ミシン針が被縫製物を貫通する際ミシン針が振れても、針糸ループ内の正規の針位置に確実に進入させることができるので、糸切れや目飛びを防止できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例の単環縫いミシンの外観斜視図、図2は同単環縫いミシンのルーパー装置の分解斜視図、図3は同ルーパー装置の斜視図、図4は同ルーパー装置の組立状態を示す外観斜視図、図5は同ルーパー装置の平面図、図6は図5におけるA−A線断面図、図7は同ルーパー装置のルーパーの分解斜視図である。
【0010】
これらの図において、本発明の一実施例の単環縫いミシン1は、針先に糸(図示せず)が通されミシンアーム1Aの先端で昇降運動してミシンベッド1Bに設けた針板2上に載置される被縫製物(段ボールあるいは布、樹脂シート等)W(図29(a)(b)参照)を貫通するミシン針3、針板2の下方でミシン針3の糸を手繰り、ミシン針3と協働して一本の糸で縫い目を形成する縦振りルーパー5(図2、図3等参照)を含むルーパー装置6等を備える。図示例の単環縫いミシン1は段ボール箱の縫い合わせ部位に継ぎしろを縫い合わせる段ボール用ミシンを示す。
【0011】
ルーパー装置6は、図3〜図6に示すように、縦振りルーパー5と、ルーパー駆動機構7を備える。縦振りルーパー5は、図7〜図14に示すように、ルーパー本体5aと、このルーパー本体5aの基端部に設けたシャンク5bを有し、このシャンク5bをルーパー台8に取り付けられる。その取り付けに際し、縦振りルーパー5のシャンク5bは断面四角形の平板形状に形成するとともに、該シャンク5bの中間部位にリーマ孔9を、シャンク5bの尾端側端に切欠10をそれぞれ設ける。一方、ルーパー台8にシャンク5bが隙間無く嵌合可能な形状のシャンク嵌合溝11、リーマ孔12およびピン挿通孔13を形成する。かくして、縦振りルーパー5のシャンク5bをシャンク嵌合溝11に隙間なく嵌合し、この嵌合により互いに合致するリーマ穴12,9にリーマボルト14を、ピン挿通孔13および切欠10に回り止めピン15をそれぞれルーパー台8の一側方から通すとともに、ルーパー台8の他側方に突出するリーマボルト14の先端のねじ14aにナット16を螺合することにより縦振りルーパー5をルーパー台8に一体的に締結固定する。
【0012】
このように縦振りルーパー5のシャンク5bは断面四角形の平板形状に形成してルーパー台8のシャンク嵌合溝11に隙間なく嵌合し、リーマボルト14を互いに合致するリーマ孔12,9に挿通して締結固定することで縦振りルーパー5とルーパー台8とを一体化する取付構造を採用することにより、縦振りルーパー5をルーパー台8に所定向きに且つ所定高さ位置にして取り付けることができ、したがって縦振りルーパー5の取付け高さ及び角度等の調整を不要とし、また図27に示すように縦振りルーパー5のミシン針3との隙間g、即ち縦振りルーパー5の先端がミシン針3のえぐり部3bを通過するときの隙間gの調整を不要とする。また、リーマボルト14はルーパー台8の揺動停止位置に関係なく、リーマボルト14単体で抜き差しできるので、縦振りルーパー5の取り付け、取り外しに際し殊更ルーパー台8の位置調整を行う必要なく、簡単に取り付け、取り外しができて縦振りルーパー5の交換作業に便利である。
【0013】
ルーパー駆動機構7は、図2〜図6に示すように、ミシンベッド1B内に架設した下軸20、ねじ歯車21、ルーパー振元直交軸22、ルーパー振元クランク23、ルーパー振元リンク24、ルーパー振元軸25、ルーパー振元レバー26、ルーパー振元ロッド27、ルーパー軸レバー28、ルーパー軸29等にて構成される。更に詳しくは、ルーパー駆動機構7は、下軸20と、下軸20の一方向回転(図3中、矢印a)をねじ歯車21を介し受けて一方向回転(図3中、矢印b)するルーパー振元直交軸22と、ルーパー振元直交軸22の一方向回転をルーパー振元クランク23、ルーパー振元リンク24を介してルーパー振元軸25回りに往復駆動回転するルーパー振元レバー26、ルーパー振元レバー26の往復駆動回転に伴い前後往復動するルーパー振元ロッド27と、ルーパー振元ロッド27の前後往復動に伴い三者が一体的に往復駆動回転するルーパー軸レバー28、ルーパー軸29、ルーパー軸29に一体的に挿通結合したルーパー台8にて構成される。
しかるときは、縦振りルーパー5は、ミシン針3の上下往復運動に同期して作動するルーパー駆動機構7により往復駆動回転するルーパー軸29回りに、ミシンベッド1Bの内部で生地送り方向(ミシン針後方)Y(図1参照)の所定の前後揺動範囲に亘って往復駆動揺動する。
【0014】
縦振りルーパー5の運動について、被縫製物Wが段ボールであって、被縫製物Wの送り量が多く、被縫製物Wが厚い(段ボール2枚で約16mm)場合、ミシン針3のストロークが長くなり(実施例で50mm)、ミシン針3の運動速度が速くなる。よって、ルーパー運動速度の比較グラフを示す図28のように、一般的な縦振りルーパー機構によるルーパー運動では縦振りルーパーが針糸をすくうとき、縦振りルーパーの運動が遅れてしまう。
そこで、図28に示す実施例のルーパー装置のように下死点からスクイ位置(縦振りルーパーが針糸をすくう位置)までのルーパー運動量(速度)を大きくする。
このように下死点からスクイ位置までの縦振りルーパー5の運動を速くするという縦振りルーパー5の運動曲線の変更によって、被縫製物Wが段ボールであって、その送り量が10mm以上に多く、段ボール2枚で厚みが約16mmのように厚い場合でも調子を安定させて縫製することができる。
【0015】
本発明では、図20〜図24に示すように、縦振りルーパー5は、ミシン針3が振れる不具合がなくて真直ぐな姿勢で下降すると同時に縦振りルーパー5が後退揺動する時にミシン針3の先端が通過する正規の針先通過点30(図22参照)を、ルーパー本体5aの先端側のえぐり31を設けたあご部32の上面に有しており、そのあご部32の上面であって針先通過点30の周囲に対応する位置に、ミシン針3の先端を針先通過点30の方へ滑り移動して導くように該針先通過点30に向かって下る傾斜案内面33を形成してある。
【0016】
このように縦振りルーパー5に傾斜案内面33を形成しておくと、ミシン針3が被縫製物Wを貫通する際、図15〜図19、図29(a),(b)に示すようにミシン針3が振れて針先3aが図17に示すごとき不正規の針先通過点34を通過しようとしても、針先3aは図20〜図24に示すように傾斜案内面33により正規の針先通過点30に誘導案内されることによりミシン針3は真直ぐに矯正されるため、針先3aが図29(a),(b)に示すように三角形の空間を形成する針糸ループLに触れたり、針糸ループL内に進入しなかったりすることなく、針糸ループL内の正規の針位置に確実に進入することができる。したがって、針先3aが針糸ループLに触れて糸切れを発生したり、針糸ループL内に進入せずに目飛びの原因となるような問題を解消するに至った。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例の単環縫いミシンの外観斜視図である。
【図2】同単環縫いミシンのルーパー装置の分解斜視図である。
【図3】同ルーパー装置の斜視図である。
【図4】同ルーパー装置の組立状態を示す外観斜視図である。
【図5】同ルーパー装置の平面図である。
【図6】図5におけるA−A線断面図である。
【図7】同ルーパー装置のルーパーの分解斜視図である。
【図8】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を左前方から見た外観斜視図である。
【図9】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を右前方から見た外観斜視図である。
【図10】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を後方から見た外観斜視図である。
【図11】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を示す正面図である。
【図12】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を示す平面図である。
【図13】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を示す右側面図である。
【図14】同ルーパー装置のルーパーの組立状態を示す背面図である。
【図15】同ルーパー装置のミシン針の矯正前におけるミシン針とルーパーの側面図である。
【図16】同ルーパー装置のミシン針の矯正前におけるミシン針とルーパーの正面図である。
【図17】図15におけるB−B線断面図である。
【図18】図15におけるC−C線断面図である。
【図19】図16におけるD−D線断面図である。
【図20】同ルーパー装置のミシン針の矯正後におけるミシン針とルーパーの側面図である。
【図21】同ルーパー装置のミシン針の矯正後におけるミシン針とルーパーの正面図である。
【図22】図20におけるE−E線断面図である。
【図23】図20におけるF−F線断面図である。
【図24】図21におけるG−G線断面図である。
【図25】同ルーパー装置のミシン針とルーパーの背面図である。
【図26】同ルーパー装置のミシン針とルーパーの側面図である。
【図27】図25におけるH−H線断面図である。
【図28】本発明の実施例のルーパー装置と一般的な縦振りルーパー機構によるそれぞれのルーパー運動速度を比較して示すグラフである。
【図29】ミシン針が被縫製物である段ボールを貫通する際、ミシン針が振れた不具合な状態図を示し、(a)はシングルの段ボールを重ねた状態を示し、(b)はダブルの段ボールを重ねた状態を示している。
【符号の説明】
【0018】
1 単環縫いミシン
3 ミシン針
5 縦振りルーパー
5a ルーパー本体
5b シャンク
6 ルーパー装置
8 ルーパー台
9,12 リーマ孔
11 シャンク嵌合溝
14 リーマボルト
30 針先通過点
32 あご部
33 傾斜案内面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針先に糸が通され昇降運動して被縫製物を貫通するミシン針と、被縫製物の下方でミシン針の糸を手繰る縦振りルーパーとを備え、前記ミシン針と縦振りルーパーにより一本の糸で縫い目を形成して行く単環縫いミシンのルーパー装置において、前記縦振りルーパーの正規の針先通過点を有するあご部の上面であって前記針先通過点の周囲に対応する位置に、前記ミシン針の針先を前記針先通過点に導くように該針先通過点に向かって下る傾斜案内面を形成してあることを特徴とする、単環縫いミシンのルーパー装置。
【請求項2】
前記縦振りルーパーのシャンクは断面四角形の平板形状に且つリーマ孔を有する形に形成する一方、前記ルーパー台に前記シャンクを隙間無く嵌合可能なシャンク嵌合溝およびリーマ孔を形成し、前記シャンクを前記シャンク嵌合溝に嵌合するとともに、この嵌合により互いに合致する前記リーマ孔にリーマボルトを抜き差し可能に挿通して締結することにより前記縦振りルーパーを前記ルーパー台に一体的に取り付けている、請求項1記載の単環縫いミシンのルーパー装置。
【請求項1】
針先に糸が通され昇降運動して被縫製物を貫通するミシン針と、被縫製物の下方でミシン針の糸を手繰る縦振りルーパーとを備え、前記ミシン針と縦振りルーパーにより一本の糸で縫い目を形成して行く単環縫いミシンのルーパー装置において、前記縦振りルーパーの正規の針先通過点を有するあご部の上面であって前記針先通過点の周囲に対応する位置に、前記ミシン針の針先を前記針先通過点に導くように該針先通過点に向かって下る傾斜案内面を形成してあることを特徴とする、単環縫いミシンのルーパー装置。
【請求項2】
前記縦振りルーパーのシャンクは断面四角形の平板形状に且つリーマ孔を有する形に形成する一方、前記ルーパー台に前記シャンクを隙間無く嵌合可能なシャンク嵌合溝およびリーマ孔を形成し、前記シャンクを前記シャンク嵌合溝に嵌合するとともに、この嵌合により互いに合致する前記リーマ孔にリーマボルトを抜き差し可能に挿通して締結することにより前記縦振りルーパーを前記ルーパー台に一体的に取り付けている、請求項1記載の単環縫いミシンのルーパー装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2010−69200(P2010−69200A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242335(P2008−242335)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(391040401)株式会社タワダ (5)
【出願人】(391005123)株式会社森本製作所 (26)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(391040401)株式会社タワダ (5)
【出願人】(391005123)株式会社森本製作所 (26)
【Fターム(参考)】
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