説明

受動Qスイッチ固体レーザ発振装置及びレーザ着火装置

【課題】 本発明の課題は、小型化を達成しつつ、高効率のレーザ光を発振することのできる受動Qスイッチ固体レーザ発振装置及びレーザ着火装置を提供することである。
【解決手段】 本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置は、増幅媒体を保持する第1冷却ホルダと可飽和吸収体を保持する第2冷却ホルダとが一体化された冷却ユニットを備え、前記増幅媒体と前記可飽和吸収体とは、前記増幅媒体を通過する光が前記可飽和吸収体に入射可能に空間を介して配置され、前記冷却ユニットの軸線方向に直交する投影面に前記空間を投影したときに形成される空間投影領域は、前記投影面に増幅媒体を投影したときに形成される増幅媒体投影領域と前記投影面に可飽和吸収体を投影したときに形成される可飽和吸収体投影領域とを含む面積を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置及びレーザ着火装置に関し、特に増幅媒体と可飽和吸収体とを冷却する冷却ユニットを有する受動Qスイッチ固体レーザ発振装置及びこの受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を有するレーザ着火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
受動Qスイッチ固体レーザ発振装置は、共振器を受動Qスイッチ発振させて高エネルギーのパルスを発生することのできるレーザ発振装置であり、多数の文献に記載されている。例えば特許文献1には、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の基本的な構造が記載されており、第1の鏡と第2の鏡との間に利得媒体と可飽和吸収器とが設置されて成る受動Qスイッチレーザが記載されている。
【0003】
受動Qスイッチ固体レーザ発振装置では、利得媒体に入射された光エネルギーの一部が熱エネルギーに変わることにより利得媒体内に温度勾配が生じ、これによって利得媒体内に屈折率の分布が生じ、利得媒体がレンズと同様の挙動を示すことがある。このような現象は熱レンズ効果と呼ばれており、想定外のレンズが装置内部に挿入された場合と同様の状態となるので、この熱レンズ効果により通常はレーザ発振の効率が低下する。
【0004】
特許文献2には、冷却機構を有するマイクロレーザ装置が記載されている。すなわち、特許文献2の請求項1には、「光学的励起利得媒体層と、過飽和吸収体層と、光軸を有する空洞共振器を形成するために利得媒体および過飽和吸収体層を囲んで配置される第1および第2の反射器と、空洞共振器外側の光軸上の光透過性材料の熱拡散器と、前記レーザ共振器の縦方向励起のために配置された利得媒体によって吸収される波長の光学的励起光と、を含む一体型ボディを備えたマイクロレーザ装置。」が記載されている。そして、請求項14、15及び19には、熱拡散器がサファイア、ガーネット、フッ化物、オルトバナジウム、タングステン酸塩、またはオキソホウ酸塩(oxyborate)族の一員である単結晶材料、Co:スピネルであることが記載されている。また、段落番号0038及び図5には、励起光が入射する位置に孔が設けられたアルミニウム板511が設置され、これがヒートシンクとして用いられることが記載されている。
【0005】
特許文献2に代表されるように、冷却機構が備えられているレーザ発振装置がいくつか開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、なお冷却性能の優れた冷却機構を備えたレーザ発振装置の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平9−508755号公報
【特許文献2】特開2008−258627号公報
【特許文献3】特開2002−76480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、小型化を達成しつつ、高効率のレーザ光を発振することのできる受動Qスイッチ固体レーザ発振装置及びレーザ着火装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、
(1)増幅媒体を保持する第1冷却ホルダと可飽和吸収体を保持する第2冷却ホルダとが一体化された冷却ユニットを備え、
前記増幅媒体と前記可飽和吸収体とは、前記増幅媒体を通過する光が前記可飽和吸収体に入射可能に空間を介して配置され、
前記冷却ユニットの軸線方向に直交する投影面に前記空間を投影したときに形成される空間投影領域は、前記投影面に増幅媒体を投影したときに形成される増幅媒体投影領域と前記投影面に可飽和吸収体を投影したときに形成される可飽和吸収体投影領域とを含む面積を有することを特徴とする受動Qスイッチ固体レーザ発振装置であり、
前記(1)の好ましい態様は、
(2)前記第1冷却ホルダと前記第2冷却ホルダとは、冷却媒体が流通する流路を備えることを特徴とする前記(1)に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置であり、
(3)前記第1冷却ホルダは、励起光が入射される側に配置され、
前記第1冷却ホルダにおける前記流路は、前記増幅媒体における励起光が入射される側の面である入射面を含む平面よりも入射方向側に配置されることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置であり、
(4)前記平面に前記流路を投影したときに形成される流路投影領域は、少なくともその一部が前記入射面に含まれることを特徴とする前記(3)に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置であり、
(5)前記増幅媒体は、前記第1冷却ホルダを形成する部材のみを介して、前記冷却媒体により冷却されることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置であり、
(6)前記第1冷却ホルダと前記第2冷却ホルダとは、互いの結合角度を微調整可能にする中間部材を介して一体化されることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置であり、
前記課題を解決するための他の手段は、
(7)前記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を有するレーザ着火装置であり、
(8)励起光を出力する励起光源と、前記励起光を集光する励起光学系ユニットと、前記励起光学系ユニットで集光された励起光に基づいてレーザ光を出力する前記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置と、前記受動Qスイッチ固体レーザ発振装置から出力されたレーザ光を集光させる出力光学系ユニットとを有するレーザ着火装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置は、増幅媒体を保持する第1冷却ホルダと可飽和吸収体を保持する第2冷却ホルダとが一体化された冷却ユニットを備え、増幅媒体と可飽和吸収体とが相対向するように空間をもって配置され、冷却ユニットの軸線方向における前記空間の空間投影領域が、前記投影面に増幅媒体を投影したときに形成される増幅媒体投影領域と前記投影面に可飽和吸収体を投影したときに形成される可飽和吸収体投影領域とを含む面積を有するように冷却ユニットが形成されて成る。したがって、増幅媒体と可飽和吸収体とを近接配置させることで小型化を達成しつつも、第1冷却ホルダと第2冷却ホルダとを一体化させるように固定する際に、増幅媒体と可飽和吸収体とに締め付け応力が生じるのを防止し、さらに固定後に外部から加えられる負荷が増幅媒体と可飽和吸収体とに影響を及ぼすのを防止することができる。また、増幅媒体と可飽和吸収体とを個別に冷却することができるので、それぞれを確実に冷却して熱レンズ効果を低く抑えることができる。したがって、小型化を達成しつつ、高効率のレーザ光を発振することのできる受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を提供することができる。
【0010】
第1冷却ホルダが、励起光が入射される側に配置され、かつ冷却媒体が流通する流路を備え、この流路が増幅媒体における励起光が入射される側の面である入射面を含む平面よりも入射方向側に配置され、前記平面に前記流路を投影したときに形成される流路投影領域の少なくとも一部が前記入射面に含まれるように形成されていると、温度が上昇しやすい入射面を効果的に冷却することができるので、増幅媒体を確実に冷却することができる。したがって、熱レンズ効果による影響が小さくて、高効率のレーザ光を発振することのできる受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を提供することができる。
【0011】
また、増幅媒体が、第1冷却ホルダを形成する部材のみを介して水により冷却されると、増幅媒体をより確実に冷却することができる。
【0012】
さらに、第1冷却ホルダと第2冷却ホルダとが、互いの結合角度を微調整可能にする中間部材を介して一体化されていると、第1冷却ホルダと第2冷却ホルダとの結合角度及び増幅媒体に対する可飽和吸収体の角度を、容易に微調整することができる。
【0013】
前記受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を有するレーザ着火装置もまた、小型化を達成しつつ、高効率のレーザ光を発振することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の一実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を示す断面概要説明図である。
【図2】図2(a)は、図1に示した受動Qスイッチ固体レーザ発振装置における入射面P1と流路投影領域Q1であり、図2(b)は、図1に示した受動Qスイッチ固体レーザ発振装置における出力面R1と流路投影領域S1である。
【図3】図3は、本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を示す断面概要説明図である。
【図4】図4は、本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を示す断面概要説明図である。
【図5】図5は、本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を示す断面概要説明図である。
【図6】図6は、本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を示す断面概要説明図である。
【図7】図7は、本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を示す断面概要説明図である。
【図8】図8は、本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を示す断面概要説明図である。
【図9】図9(a)は、図8に示した受動Qスイッチ固体レーザ発振装置における入射面P7と流路投影領域Q7であり、図9(b)は、図8に示した受動Qスイッチ固体レーザ発振装置における出力面R7と流路投影領域S7である。
【図10】図10は、本発明の一実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を有するレーザ着火装置を示す説明図である。
【図11】図11は、本発明の一実施例であるレーザ着火装置を内燃機関の気筒に装着した場合の気筒の模式図である。
【図12】図12は、本発明の一実施例であるレーザ着火装置に備えられた制御装置を説明するための構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、図1を参照しつつ本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の一実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置について説明する。図1は、本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の一実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を示す断面概要説明図である。この実施形態の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1は、増幅媒体2を保持する第1冷却ホルダ3と可飽和吸収体4を保持する第2冷却ホルダ5とが一体化された冷却ユニット10を備えている。この実施形態において、第1冷却ホルダ3が軸線Cの後方側に第2冷却ホルダ5が軸線Cの先端側に配置されており、この受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1における軸線Cの後方側に配置されている励起光源(図示なし。)から出力された励起光が入射孔11を通過して増幅媒体2に入射される。増幅媒体2における励起光が入射される側の入射面P1には反射鏡6を形成する多層膜誘電体がコーティングされており、可飽和吸収体4における増幅媒体2が配置されている側の面とは反対側の面である出力面R1には出力鏡7を形成する多層膜誘電体がコーティングされており、端面励起型の共振器を形成している。
ここで、第1冷却ホルダ3と第2冷却ホルダ5とが一体化されるとは、第1冷却ホルダ3と第2冷却ホルダ5とが強固に結合されていることである。
また、軸線Cは、第1冷却ホルダ3と第2冷却ホルダ5とを通る直線であり、両者が結合される方向に直交する平面で切断したときに現れる、複数の断面の重心を結んだ線である。
【0016】
第1冷却ホルダ3は、円盤状であり、第2冷却ホルダ5に対向する側の面にその軸線Cと同軸である円盤状の凹部8を有し、この凹部8に増幅媒体2が保持されている。第1冷却ホルダ3における軸線Cの先端方向側の端面には、この凹部8より大きい直径を有する円盤状の段部9が形成されており、この段部9の内周面に螺子が切られている。第1冷却ホルダ3は、励起光が増幅媒体2に入射できるように、軸線Cと同軸である円柱状の入射孔11を有し、この入射孔11は第1冷却ホルダ3を貫通するように形成されている。
【0017】
第2冷却ホルダ5は、円盤状であり、第1冷却ホルダ3に対向する側の面にその軸線Cと同軸であり、かつ第1冷却ホルダ3における凹部8の外径と同一の内径を有する円環状の凸部12を有し、この凸部12の内周面13に当接するように可飽和吸収体4が保持されている。この円環状の凸部12の外周面14には螺子が切られている。この凸部12の外周面14に切られている螺子と第1冷却ホルダ3の段部9の内周面に切られている螺子とが螺合されることにより、第1冷却ホルダ3と第2冷却ホルダ5とが一体化され、強固に固定される。第2冷却ホルダ5は、レーザ光が出力できるように、軸線Cと同軸である円柱状の出力孔15を有し、この出力孔15は第2冷却ホルダ5を貫通するように形成されている。
【0018】
増幅媒体2と可飽和吸収体4とは、相対向するように空間16をもって配置されている。増幅媒体2に入射された励起光の一部は増幅媒体2で吸収されずに可飽和吸収体4に入射される。軸線C方向に直交する投影面にこの空間16を投影したときに形成される空間投影領域G1は、前記投影面に増幅媒体2を投影したときに形成される増幅媒体投影領域E1と前記投影面に可飽和吸収体4を投影したときに形成される可飽和吸収体投影領域F1とを含む面積を有する。換言すると、増幅媒体2と可飽和吸収体4とが相対向する面である増幅媒体端面28及び可飽和吸収体端面29同士は接触することなく、所定距離だけ離して配置され、かつ、増幅媒体2と可飽和吸収体4とにおける軸線Cに直交する方向の最大断面積よりも大きい断面積を有する空間が増幅媒体2と可飽和吸収体4との間に存在している。以下において、増幅媒体投影領域E1と可飽和吸収体投影領域F1との両方を含む最小面積を固体投影領域EF1と称することがある。この実施形態においては、増幅媒体投影領域E1と可飽和吸収体投影領域F1とが一致しているので、増幅媒体投影領域E1と可飽和吸収体投影領域F1と固体投影領域EF1とは一致している。増幅媒体投影領域E1と可飽和吸収体投影領域F1とが一致しない場合であっても、空間投影領域G1が、固体投影領域EF1を含むことのできる大きさを有していれば良い。なお、図1においては、これらの投影領域が断面ではなく模式的に示されている。
【0019】
このような空間16が存在することによって、第1冷却ホルダ3と第2冷却ホルダ5とを一体化させるように固定する際に、増幅媒体2と可飽和吸収体4とに締め付け応力が生じるのを防止し、さらに固定後に外部から加えられる負荷が増幅媒体2と可飽和吸収体4とに影響を及ぼすのを防止することができる。したがって、増幅媒体2と可飽和吸収体4とにかけられる応力を低減することができるので、高品質のレーザ光を発振することができる。
【0020】
本実施形態においては、増幅媒体2と可飽和吸収体4とは所定距離離して配置されているが、その距離は少なくとも互いに応力を及ぼさない程度で良い。したがって、光軸方向の長さを短くすることができるので、小型化した受動Qスイッチ固定レーザ発振装置を提供することができる。増幅媒体2と可飽和吸収体4とを本実施形態のように近接配置した場合には、増幅媒体2だけでなく可飽和吸収体4にも温度勾配が生じて熱レンズ効果が発生するおそれがある。しかし、本発明に係る受動Qスイッチ固定レーザ発振装置は、増幅媒体2と可飽和吸収体4とを個別に冷却することができるので、増幅媒体2と可飽和吸収体4とを確実に冷却することができる。その結果、熱レンズ効果の発生を防止することができるので、高効率のレーザ光を発振することのできる受動Qスイッチ固定レーザ発振装置を提供することができる。
【0021】
第1冷却ホルダ3と第2冷却ホルダ5とは、第1冷却ホルダ3と第2冷却ホルダ5とを冷却するための冷却媒体が流通する第1流路17と第2流路18とをそれぞれ有する。第1流路17と第2流路18とは、増幅媒体2と可飽和吸収体4とを冷却することができる限り、流路の形状、太さ及び配置等は特に限定されず、冷却媒体が速やかに流通することのできる形状、太さ及び配置等であることが好ましい。
【0022】
図2(a)は、図1に示した受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の増幅媒体の入射面P1と、平面A1に第1冷却ホルダに配される流路を投影したときに形成される流路投影領域Q1である。図1及び図2(a)に示されるように、この実施形態において、第1冷却ホルダ3における第1流路17は平面A1よりも入射方向側に配置されており、かつ、この平面A1に第1流路17を投影したときに形成される第1流路投影領域Q1は、その面積の一部が入射面P1に含まれている。増幅媒体2は、その入射面P1が最も励起光を吸収しやすいので、入射面P1が最も温度が上昇しやすい。したがって、第1流路17がこのように配置されていると、温度が上昇しやすく、さらに第1冷却ホルダ3に接触されている面積の大きい入射面P1を効果的に冷却することができるので、増幅媒体2を確実に冷却することができる。
【0023】
図2(b)は、図1に示した受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の可飽和吸収体の出力面R1と、平面B1に第2冷却ホルダに配される流路を投影したときに形成される流路投影領域S1である。図1及び図2(b)に示されるように、第2冷却ホルダ5における第2流路18は平面B1よりもレーザ光出力方向側に配置されており、かつこの平面B1に第2流路18を投影したときに形成される第2流路投影領域S1は、その面積の一部が出力面R1に含まれている。可飽和吸収体4は、増幅媒体2において吸収しきれなかった励起光、発振に寄与しない励起光の一部、及び発振光の一部を吸収する残留吸収等により温度が上昇する。したがって、第2流路18がこのように配置されていると、第2冷却ホルダ5に接触されている面積の大きい出力面R1を効果的に冷却することができるので、可飽和吸収体4を確実に冷却することができる。
【0024】
第1流路17と第2流路18とを流通する冷却媒体は、第1冷却ホルダ3と第2冷却ホルダ5とを冷却することができる限り特に限定されず、例えば、水、空気及びオイル等を挙げることができる。これらの中でも水は、熱容量が大きく取り扱いが容易なので、特に好ましい。
【0025】
図1に示されるように、増幅媒体2と可飽和吸収体4とは、固定リング19,20により第1冷却ホルダ3と第2冷却ホルダ5とにそれぞれ固定されている。固定リング19,20の形状は、円環状であり、その中心部には発振光が通過できる大きさの孔を有している。また、その外周面にはそれぞれ螺子が切られており、この螺子と第1冷却ホルダ3の凹部8内周面に切られた螺子及び第2冷却ホルダ5の凸部12内周面13に切られた螺子とそれぞれ螺合されている。増幅媒体2は、固定リング19で押圧されて、第1冷却ホルダ3の第1底面21に反射鏡6を介して密着されている。したがって、増幅媒体2から第1冷却ホルダ3へと効果的に放熱することができる。可飽和吸収体4もまた、固定リング20で押圧されて、第2冷却ホルダ5の第2底面22に出力鏡7を介して密着されている。したがって、可飽和吸収体4から第2冷却ホルダ5へと効果的に放熱することができる。
なお、増幅媒体2と第1冷却ホルダ3との間には反射鏡6が存在しているが、反射鏡6は、その厚さが十分に薄いので、増幅媒体2から第1冷却ホルダ3への熱伝達性に影響を与えることはほとんどない。出力鏡7についても同様である。
【0026】
増幅媒体2は、所望のレーザ光を出力することができる限り、公知の光学部品を採用することができる。増幅媒体2は、励起光源(図示せず。)から出力された励起光が照射されることにより、励起され、光の誘導放出を行う材料であり、例えば、Nd:YAG、Yb:YAG等の希土類元素を添加して成るYAGの単結晶やセラミックス及びバナジウム酸化物が好適に使用される。増幅媒体2の形状は、この実施形態においては、円盤状の凹部8に密着して保持される大きさを有する円盤状であるが、増幅媒体2の形状は、第1冷却ホルダ3の凹部8に密着して保持されることができ、かつ受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1からレーザ光を出力することができる限り特に限定されず、例えば楕円板、多角柱体、半球、多角錐等の形状を挙げることができる。増幅媒体2の大きさもまた、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1が要求される性能に応じて適宜調整することができる。
【0027】
可飽和吸収体4は、所望のレーザ光を出力することができる限り、公知の光学部品を採用することができる。可飽和吸収体4は、増幅媒体2から誘導放出された光を吸収することにより、光の透過率を変化させることができ、Qスイッチとしての機能を有する材料であり、例えば、Cr4+:YAGが好適に使用される。可飽和吸収体4の形状及び大きさもまた、前述した増幅媒体2と同様に、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1が要求される性能に応じて適宜調整することができる。
【0028】
反射鏡6は、増幅媒体2から発振される発振光を99%より大きな反射率(ほぼ100%の反射率)で反射し、励起光を透過するのが好ましい。図1に示すように、本実施形態の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1においては、増幅媒体2における入射面P1に誘電体多層膜がコーティングされることにより反射鏡6が形成されている。したがって、共振器を構成する部品が減るので、アラインメントが容易になると共に、共振器の光軸方向の長さが短くなるので、高効率のレーザ光を発振することができる。なお、反射鏡6は、後述するように独立した部品として配置されても良い。
【0029】
出力鏡7は、増幅媒体2から発振される発振光を5〜98%の反射率で反射するのが好ましく、20〜90%の反射率で反射するのが特に好ましく、その残りの発振光は透過する。図1に示すように、本実施形態の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1においては、可飽和吸収体4における出力面R1に誘電体多層膜がコーティングされることにより出力鏡7が形成されている。したがって、共振器を構成する部品が減るので、アラインメントが容易になると共に、共振器の光軸方向の長さが短くなるので、高効率のレーザ光を発振することができる。なお、出力鏡7は、後述するように独立した部品として配置されても良い。
【0030】
第1冷却ホルダ3、第2冷却ホルダ5、及び固定リング19,20を形成する材料は、堅牢であり、熱伝導性及び耐熱性を有する材料である限り特に限定されず、例えば、アルミニウム、銅、及びこれらの金属を主成分とする合金等を挙げることができる。
【0031】
図3に示されるように、この発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置200は、第1冷却ホルダ203と第2冷却ホルダ205とがボルト223とナット224とにより固定され、第1冷却ホルダ203と第2冷却ホルダ205とがOリング225を介して固定されていること以外は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1と同様に構成されている。
【0032】
この受動Qスイッチ固体レーザ発振装置200は、第1冷却ホルダ203と第2冷却ホルダ205とを貫通し、かつ、軸線Cに平行な4つの貫通孔226を有し、これらの貫通孔226にボルト223が貫通され、ナット224で固定されている。また、第1冷却ホルダ203における、軸線Cの先端方向側の端面にOリング225を嵌め込むための円環状の溝227が設けられ、この溝227に中間部材の一例であるOリング225が嵌めこまれている。この溝227の内径は、段部209の内径よりも大きくなるように形成されている。第1冷却ホルダ203と第2冷却ホルダ205との間に、Oリング225が挟持されているので、ボルト223とナット224とにより締め付ける強さを調整すると、第1冷却ホルダ203と第2冷却ホルダ205との間の結合角度ひいては増幅媒体端面228に対する可飽和吸収体端面229の角度を容易に微調整することができる。
なお、結合角度は、例えば、第1冷却ホルダ203における第2冷却ホルダ205に相対向する面である第1端面263と第2冷却ホルダ205における第1冷却ホルダ203に相対向する面である第2端面264との角度を挙げることができる。
また、ボルト223とナット224との数は、第1冷却ホルダ203と第2冷却ホルダ205とが強固に固定される限り特に限定されないが、少なくとも3つ以上設けられるのが好ましい。
【0033】
図4に示されるように、この発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置300は、反射鏡306と出力鏡307とが第1冷却ホルダ303及び第2冷却ホルダ305における増幅媒体302及び可飽和吸収体304が保持されている面とは反対側の面に保持されていること以外は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置200と同様に構成されている。
【0034】
第1冷却ホルダ303は、増幅媒体302が保持されている面すなわち第1底面321とは反対側の面に、軸線Cと同軸である円環状の反射鏡保持凸部331が設けられ、この反射鏡保持凸部331の内周面332に当接するように反射鏡306が保持されている。反射鏡306は、増幅媒体302と同様にして固定リング333により第1冷却ホルダ303に固定されている。固定リング333の形状は、円環状であり、その中心部には励起光が通過できる大きさの孔を有している。また、固定リング333の外周面には螺子が切られており、この螺子と反射鏡保持凸部331の内周面332に切られた螺子とが螺合される。
【0035】
第2冷却ホルダ305は、可飽和吸収体304が保持されている面すなわち第2底面322とは反対側の面に、軸線Cと同軸である円環状の出力鏡保持凸部334が設けられ、この出力鏡保持凸部334の内周面335に当接するように出力鏡307が保持されている。出力鏡307は、反射鏡306と同様にして固定リング336により第2冷却ホルダ305に固定されている。
【0036】
反射鏡306と出力鏡307とが、増幅媒体302における励起光が入射される面である入射面P3と可飽和吸収体304の下流側平面である出力面R3とにそれぞれ設けられるのではなく、図4に示されるように、それぞれ独立して第1冷却ホルダ303と第2冷却ホルダ305とに保持されていると、入射面P3と出力面R3とが第1冷却ホルダ303と第2冷却ホルダ305とにそれぞれ密着して配置されるので、第1流路317と第2流路318とを流通する冷却媒体と増幅媒体302及び可飽和吸収体304それぞれとの間には、冷却ユニット310を形成する部材のみが存在することになる。したがって、増幅媒体302から第1冷却ホルダ303へ、また可飽和吸収体304から第2冷却ホルダ305へとより一層効果的に放熱させることができる。また、ボルト323とナット324とにより締め付ける強さを調整すると、第1冷却ホルダ303と第2冷却ホルダ305との間の結合角度ひいては反射鏡306、増幅媒体302、可飽和吸収体304及び出力鏡307それぞれの相対向する面同士の角度を容易に微調整することができる。
【0037】
図5に示されるように、この発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置400は、反射鏡406と出力鏡407とがOリング441,442を介して第1冷却ホルダ403と第2冷却ホルダ405とにそれぞれ保持されており、微調螺子443,444,445,446及びスペーサ447,448が設けられていること以外は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置300と同様に構成されている。
【0038】
第1冷却ホルダ403は、増幅媒体402が保持されている面すなわち第1底面421とは反対側の面に、軸線Cと同軸である円環状の反射鏡保持凸部431が設けられ、この反射鏡保持凸部431の内周面432に当接するように反射鏡406が保持されている。第1冷却ホルダ403における第1底面421とは反対側の面には、軸線Cと同軸であり、かつ反射鏡保持凸部431の内径よりも小さい外径を有する円環状の溝449が設けられ、この溝449にOリング441が嵌め込まれている。反射鏡406は、図4に示した受動Qスイッチ固体レーザ発振装置300と同様にして固定リング450により固定されており、反射鏡406と固定リング450との間にはスペーサ447が設けられている。固定リング450には2つの螺子孔451,452が設けられ、この螺子孔451,452に微調螺子443,444が螺合されている。この微調螺子443,444の締め付ける強さを調整することにより、増幅媒体402と可飽和吸収体404との相互の位置を固定した状態で、反射鏡406の出力鏡407に対向する面の角度を調整することができる。この実施形態においては、微調螺子443,444が2つ設けられているが、微調螺子の数は反射鏡406の角度を調整することができる限り特に限定されない。
【0039】
第2冷却ホルダ405は、可飽和吸収体404が保持されている面すなわち第2底面422とは反対側の面に、軸線Cと同軸である円環状の出力鏡保持凸部434が設けられ、この出力鏡保持凸部434の内周面435に当接するように出力鏡407が保持されている。出力鏡407は、反射鏡406と同様にしてOリング442を介して固定リング456により第2冷却ホルダ405に固定され、固定リング456に設けられた2つの螺子孔454,455に微調螺子445,446が螺合されている。したがって、微調螺子445,446の締め付ける強さを調整することにより、増幅媒体402と可飽和吸収体404との相互の位置を固定した状態で、出力鏡407の反射鏡406に対向する面の角度を調整することができる。
【0040】
図6に示されるように、この発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置500は、可飽和吸収体504における軸線Cに直交する平面で切断したときの断面が、増幅媒体502における軸線Cに直交する平面で切断したときの断面よりも大きく、増幅媒体502と可飽和吸収体504とが接着剤で第1冷却ホルダ503と第2冷却ホルダ505とにそれぞれ保持されていること以外は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1と同様に構成されている。
【0041】
増幅媒体投影領域E5は、可飽和吸収体投影領域F5に含まれており、可飽和吸収体投影領域F5の面積より小さい。したがって、固体投影領域EF5は、可飽和吸収体投影領域F5に一致している。固体投影領域EF5は、空間投影領域G5に含まれており、空間投影領域G5の面積より小さい。したがって、第1冷却ホルダ503と第2冷却ホルダ505とを一体化させるように固定する際に、増幅媒体502と可飽和吸収体504とに応力がかかるのを防止することができる。
【0042】
増幅媒体502と可飽和吸収体504とは、第1底面521と第2底面522とにそれぞれ熱伝導性を有する接着剤により形成される接着剤層561,562を介して接着されている。接着剤層は、増幅媒体502と第1冷却ホルダ503及び可飽和吸収体504と第2冷却ホルダ505それぞれの接触面全面に設けられても良いし、前記接触面の一部にのみ接着剤層が設けられても良いが、増幅媒体502と可飽和吸収体504とから冷却ユニット510への熱伝導が大きくなるように、接着剤層が設けられるのが好ましい。
増幅媒体502と可飽和吸収体504とが接着剤により冷却ユニット510に固定されていると、増幅媒体502と可飽和吸収体504とに応力がかからないので、より一層高品質のレーザ光を発振することができる。
【0043】
接着剤層561,562を形成する材料は、熱伝導性が良好であり、増幅媒体502及び可飽和吸収体504と冷却ユニット510との接着性が良好である限り特に限定されず、例えば、シリコーン樹脂等により形成される接着剤を挙げることができる。
【0044】
図7に示されるように、この発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置600は、増幅媒体602における軸線Cに直交する平面で切断したときの断面が、可飽和吸収体604における軸線Cに直交する平面で切断したときの断面よりも大きく、第1冷却ホルダ603と第2冷却ホルダ605とが接着剤で一体化されていること以外は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置500と同様に構成されている。
【0045】
可飽和吸収体投影領域F6は、増幅媒体投影領域E6に含まれており、増幅媒体投影領域E6の面積より小さい。したがって、固体投影領域EF6は、増幅媒体投影領域F6に一致している。また、固体投影領域EF6は、空間投影領域G6と一致している。また、増幅媒体602と可飽和吸収体604とは所定距離離して配置されている。したがって、第1冷却ホルダ603と第2冷却ホルダ605とを一体化させるように固定する際に、増幅媒体602と可飽和吸収体604とに応力がかかるのを防止することができる。
【0046】
第1冷却ホルダ603と第2冷却ホルダ605とは、接着剤により形成される接着剤層671を介して接着されている。接着剤層671は、第1冷却ホルダ603と第2冷却ホルダ605とが相対向する2つの面の間であって、増幅媒体602と可飽和吸収体604とが保持されている部分の外周部分に円環状に設けられている。接着剤層は、第1冷却ホルダ603と第2冷却ホルダ605とが一体化するように強固に固定される限り、第1冷却ホルダ603と第2冷却ホルダ605との間のいずれに設けられていても良い。
【0047】
接着剤層671を形成する材料は、第1冷却ホルダ603と第2冷却ホルダ605とが一体化するように強固に固定される限り特に限定されず、公知の接着剤を使用することができる。
【0048】
図8に示されるように、この発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の他の実施例である受動Qスイッチ固体レーザ発振装置700は、第1冷却ホルダ703及び第2冷却ホルダ705に設けられている第1流路717及び第2流路718の形状及び配置が異なり、第3流路7772が追加して設けられていること以外は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置600と同様に構成されている。
【0049】
図9(a)は、図8に示した受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の増幅媒体の入射面P7と、平面A7に第1冷却ホルダに配される流路を投影したときに形成される流路投影領域Q71,Q72である。図8及び図9(a)に示されるように、第1冷却ホルダ703における第1流路717は、平面A7よりも入射方向側に配置されており、かつ、この平面A7に第1流路717を投影したときに形成される第1流路投影領域Q71は、その全領域が入射面P7に含まれている。第1冷却ホルダ703における第3流路772は、平面A7よりも出力方向側すなわち軸線Cの先端方向側に配置されており、かつ、この平面A7に第3流路772を投影した場合に形成される第3流路投影領域Q72は、その全領域が入射面P7に含まれていない。一方、軸線Cの半径方向に第3流路772を投影した場合に形成される第3流路直交投影領域Q73は、軸線Cの半径方向に増幅媒体702を投影した場合に形成される増幅媒体直交投影領域E73を含んでいる。したがって、増幅媒体702の入射面P7だけでなく増幅媒体702の半径方向の外周面773からも第1冷却ホルダ703へと熱が伝えられるので、増幅媒体702を確実に冷却させることができる。
【0050】
図9(b)は、図8に示した受動Qスイッチ固体レーザ発振装置の可飽和吸収体の出力面R7と平面B7に第2流路718を投影したときに形成される流路投影領域S7である。図8及び図9(b)に示されるように、第2冷却ホルダ705における第2流路718は、軸線Cを含む断面を示す図8においては、鉤状であり、軸線Cに直交する方向の断面を示す図9(b)においては、円環状である。換言すると、第2流路718は、可飽和吸収体704における出力面R7とその半径方向の外周面774とに対向する形状を有して配置されている。平面B7に第2流路718を投影したときに形成される第2流路投影領域S7は、その面積の一部が出力面R7に含まれている。一方、軸線Cの半径方向に第2流路718を投影した場合に形成される第2流路直交投影領域S72は、軸線Cの半径方向に可飽和吸収体704を投影したときに形成される可飽和吸収体直交投影領域F72と一部が一致している。第2流路718がこのように配置されていると、出力面R7だけでなく可飽和吸収体704の外周面774からも第2冷却ホルダ705へと熱が伝えられるので、可飽和吸収体704を確実に冷却させることができる。
【0051】
本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置は、加工装置、医療機器、及び内燃機関等パルスレーザを用いる用途一般に幅広く使用することができる。本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を内燃機関に使用する場合には、内燃機関の気筒に装着し、燃焼室内にパルスレーザを照射することにより、燃焼室内にある燃料に着火することができるので、内燃機関用のレーザ着火装置として好適に用いることができる。
【0052】
図10は、本発明に係るレーザ着火装置の一実施例を示すレーザ着火装置の断面概略説明図である。このレーザ着火装置1000は、励起光を出力する励起光源1081と、この励起光源を制御する制御装置1082と、励起光を伝送する光ファイバ1083と、励起光を集光する励起光学系ユニット1084と、この励起光学系ユニット1084で集光された励起光が入射されて増幅媒体1002を励起させることによりレーザ光を出力する、図1に示された受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1と同様の構成を有する受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001と、この受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001から出力されたレーザ光を集光させる出力光学系ユニット1085とを有する。
【0053】
励起光源1081は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001における増幅媒体1002に励起光を照射して、増幅媒体1002を励起させることにより受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001から所望のエネルギーを有するパルスレーザを出力させることができる限り特に限定されず、例えば公知の半導体レーザを採用することができる。
【0054】
光ファイバ1083は、励起光源1081から出力された励起光を伝送し、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001における増幅媒体1002に励起光を照射して、増幅媒体1002を励起させることにより受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001から所望のエネルギーを有するレーザ光を出力させることができる限り特に限定されず、公知の光ファイバを採用することができる。励起光源1081から出力された励起光を、光ファイバ1083を介さずに、励起光学系ユニット1084で集光して増幅媒体1002に照射させても良いが、光ファイバ1083を介して入力部1086から励起光を励起光学系ユニット1084に入射させると、例えば、このレーザ着火装置1000を内燃機関に用いる場合には、励起光源1081を内燃機関から離して設置することができるので内燃機関の熱による影響を受けにくくなるので好ましい。
【0055】
励起光学系ユニット1084は、励起光が供給される入力部1086と少なくとも一枚のレンズ1087,1088とを有し、励起光を集光して所望のように増幅媒体1002に入射させることができる限り、任意の形状のレンズ、例えば、両凹レンズ、両凸レンズ、平凹レンズ、平凸レンズ、メニスカス凹レンズ、及びメニスカス凸レンズ等を配置することができる。本実施形態においては、励起光学系ユニット1084は、入力部1086、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001側が凸状の平凸レンズ1087、及び入力部1086側が凸状の平凸レンズ1088が、この順に配置され、入力部1086から入力された励起光がこの二枚の平凸レンズ1087,1088を用いてコリメート後に集光され、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001における反射鏡1006を透過して増幅媒体1002に入射されている。
【0056】
本実施形態のレーザ発生装置1001における入力部1086は、光ファイバ1083の端部を外周面から保持する筒状部1090と、この筒状部1090の端部に設けられた接続アダプタ1091とにより形成されている。この接続アダプタ1091は、円盤状の蓋体であり、円盤状体の外周部から立ち上がる環状部を有しており、この環状部の内周面1092に切られた螺子が、レンズ1087,1088を収容する第1筐体1093の外周面1094に切られた螺子に螺合されて、光ファイバ1083と励起光学系ユニット1084とが固定される。この筒状部1090には、光ファイバ1083の端部が嵌め込まれ、光ファイバ1083を伝送する励起光が、励起光学系ユニット1084に供給される。また、光ファイバ1083を使用しない場合には、励起光源1081から入力部1086を介して直接に励起光が励起光学系ユニット1084に供給される。
【0057】
第1筐体1093は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001側の端部外周面1095に切られた螺子と、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001の第1冷却ホルダ1003の端面に設けられている円環状の凸部の内周面1096に切られた螺子とが螺合されて、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001と固定されている。
【0058】
出力光学系ユニット1085は、少なくとも一枚のレンズ1089を有し、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001から出力されたレーザ光を内燃機関における燃焼室内の所望の位置に所望の集光径で集光させることができる限り、任意の形状のレンズ、例えば、両凹レンズ、両凸レンズ、平凹レンズ、平凸レンズ、メニスカス凹レンズ、及びメニスカス凸レンズ等を配置することができる。これらのレンズは、第2筐体1097に収容される。本実施形態においては、集光レンズとして受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001側が凸状の平凸レンズ1089が一枚配置されている。
【0059】
第2筐体1097は、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001側の端部外周面1098に切られた螺子と、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001の第2冷却ホルダ1005の端面に設けられている円環状の凸部の内周面1099に切られた螺子とが螺合されて、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001と固定されている。
【0060】
図11は、本実施形態のレーザ着火装置を内燃機関の気筒に装着した場合の気筒の模式図である。内燃機関の気筒2000は、シリンダブロック2001とシリンダヘッド2002とピストン2003とにより形成され、シリンダブロック2001とシリンダヘッド2002とピストン2003とにより囲まれて形成される空間が燃焼室2004である。シリンダヘッド2002には燃料と空気との混合気を供給する吸入管2005が接続され、吸入弁2006の開閉により混合気の供給が調節されるように形成されている。また、シリンダヘッド2002には燃焼後の塔内ガスを排出する排気管2007が接続され、排気弁2008の開閉により燃焼後の塔内ガスの排気が調節されるように形成されている。本実施形態のレーザ着火装置1000は、燃焼室2004内の混合気に着火させることができる限り任意の位置に設置することができ、例えば、図11に示すようにシリンダヘッド2002における吸入弁2006と排気弁2008との間に、本実施形態のレーザ着火装置1000を設置することができる。レーザ着火装置1000から出力されたパルスレーザは燃焼室2004内においてブレークダウンを生じ、パルスレーザの結像点2009を起点に燃焼室2004内の混合気が燃焼する。なお、内燃機関における気筒2000の一例を説明したが、気筒の構成は上記構成に限定されるものではない。
【0061】
本実施形態のレーザ着火装置が内燃機関用レーザ着火装置として使用される場合には、励起光源の稼動タイミング、励起光の強度等を制御する制御装置を有するのが好ましい。制御装置を有することにより、内燃機関の稼動状態に応じて、所望のタイミングで所望のエネルギーを有するレーザ光を容易にかつ確実に発振させることができる。図12は、本実施形態のレーザ着火装置の制御装置を説明するための構成図である。本実施形態のレーザ着火装置は、内燃機関の気筒に取り付けられた種々のセンサ3003により得られる信号を解析し、この解析結果に基づいて、励起光源の電源及び励起光の強度等が制御装置3000により制御される。制御装置3000は、演算部3001と制御部3002とにより形成され、内燃機関の気筒に取り付けられた種々のセンサ3003、例えば、クランク角、燃焼室内の圧力、燃焼室内の燃料の濃度、排気管内の排気温度、排気管内の排気中の酸素濃度及び残存燃料濃度等を検知するセンサから送信された信号を演算部3001において解析する。解析された結果は、制御部3002へ送信され、この制御部3002は制御信号を生成し、例えば励起光源3004に制御信号を出力する。この制御信号により、励起光源3004の稼働タイミング及び励起光の強度等が制御される。制御装置3000が設けられていると、内燃機関の気筒内の混合気を適切なタイミングで、着火させることができるので、内燃機関の稼動状況に応じて、所望のように気筒を動作させることができる。
【0062】
次に、図10を参照しながら、レーザ着火装置1000の作用について説明する。図10に示されるように、励起光源1081から出力された励起光は、光ファイバ1083により伝送され入力部1086から励起光学系ユニット1084に入力される。入力された励起光は励起光学系ユニット1084における2枚の平凸レンズ1087,1088により集光され、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001の反射鏡1006を透過して増幅媒体1002に入射される。入射された励起光は増幅媒体1002に吸収されることにより、増幅媒体1002は時間と共に励起され、反転分布密度が上昇し、誘導放出が起こる。増幅媒体1002から発振された光が出力鏡1007と反射鏡1006との間を往復する過程において、可飽和吸収体1004が受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001内部を往復する光を吸収して、可飽和吸収体1004の透過率が上昇するので、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001に貯蔵されたエネルギーと損失されたエネルギーとの比であるQ値が急激に上昇し、Qスイッチ固体レーザ発振装置1001内部を往復する発振光と出力鏡1007を透過するレーザ光とが急激に増加する。出力の急激な増加に伴い、増幅媒体1002の反転分布密度は急激に減少するので、受動Qスイッチ固体レーザ発振装置1001内を往復する発振光と出力鏡1007を透過するレーザ光とは短時間のうちに減少に転じるので、出力はジャイアントパルスとなる。
【0063】
励起光源1081からの励起光が連続して照射される場合には、上記過程が繰り返されるので、本実施形態のレーザ着火装置1000からパルスレーザが所定間隔で出力される。一方、増幅媒体1002の反転分布密度が閾値に達した後に、励起光源1081から出力される励起光を速やかに止めると、単一のパルスレーザとなる。
【0064】
出力鏡1007から出力されたレーザ光は、平凸レンズ1089により成る集光レンズにより集光されて、気筒2000の燃焼室内に所望の集光径を有する結像点2009が形成される(図11参照。)。この結像点2009において、諸条件によって決まる閾値より高い電界が生じると、この電界によりブレークダウンを生じ、この結像点2009を起点に燃焼室内の混合気が燃焼する。
【0065】
上述したように、レーザ着火装置1000からレーザ光が連続して発振されると、増幅媒体1002及び可飽和吸収体1004の温度が上昇し、温度勾配が生じるようになる。しかし、本発明に係るレーザ着火装置は、励起光源1081から励起光を出力するのと同時にあるいはその前から第1流路1017及び第2流路1018に冷却媒体を流通させることにより冷却ユニット1010を所定温度に保持することで、増幅媒体1002及び可飽和吸収体1004の熱を冷却ユニット1010へと効果的に放熱させて、増幅媒体1002及び可飽和吸収体1004の温度が上昇するのを防止している。
【0066】
本発明に係る受動Qスイッチ固体レーザ発振装置は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更をすることができる。
【0067】
例えば、冷却ユニットの形状は、増幅媒体と可飽和吸収体とを確実に冷却することができる限り特に限定されず、その形状として、例えば円盤状、円柱状、多角柱及び多角体等を挙げることができる。
【0068】
第1冷却ホルダと第2冷却ホルダとを結合する方法は、がたつきなく強固に固定されて一体化することができる限り特に限定されず、上述した方法以外にも公知の方法を採用することができる。
【0069】
上述した実施形態における受動Qスイッチ固体レーザ発振装置は、第1冷却ホルダが軸線Cの後端側すなわち励起光が入射される側に配置されているが、可飽和吸収体が励起光を吸収しない材料により形成されている場合には、第1冷却ホルダが軸線Cの先端側すなわちレーザ光が出力される側に配置されていても良い。
【0070】
本発明に係るレーザ着火装置は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更をすることができる。
【0071】
例えば、励起光学系ユニットにおけるレンズの種類及び個数は特に限定されず、励起光の増幅媒体に対する入射径及び集光位置を所望のように調整することができれば良い。
【0072】
出力光学系ユニットにおけるレンズの種類及び個数も特に限定されず、内燃機関の燃焼室内における所望の位置に所望の集光径でパルスレーザの結像点を有するように調整することができれば良い。
【符号の説明】
【0073】
1,100,200,300,400,500,600,700,1001 受動Qスイッチ固体レーザ発振装置
2,102,202,302,402,502,602,702,1002 増幅媒体
3,103,203,303,403,503,603,703,1003 第1冷却ホルダ
4,104,204,304,404,504,604,704,1004 可飽和吸収体
5,105,205,305,405,505,605,705,1005 第2冷却ホルダ
6,106,206,306,406,506,606,706,1006 反射鏡
7,107,207,307,407,507,607,707,1007 出力鏡
8,108,208,308,408,508,608,708,1008 凹部
9,109,209,309,409,509,1009 段部
10,110,210,310,410,510,610,710,1010 冷却ユニット
17,117,217,317,417,517,617,717,1017 第1流路
18,118,218,318,418,518,618,718,1018 第2流路
225,325,425 Oリング
1081 励起光源
1082 制御装置
1083 光ファイバ
1084 励起光学系ユニット
1085 出力光学系ユニット
1086 入力部
A1,A7 平面
B1,B7 平面
E1,E5,E6 増幅媒体投影領域
F1,F5,F6 可飽和吸収体投影領域
EF1,EF5,EF6 固体投影領域
G1,G5,G6 空間投影領域
P1,P3,P7 入射面
R1,R3,R7 出力面
Q1,Q71 第1流路投影領域
S1,S7 第2流路投影領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅媒体を保持する第1冷却ホルダと可飽和吸収体を保持する第2冷却ホルダとが一体化された冷却ユニットを備え、
前記増幅媒体と前記可飽和吸収体とは、前記増幅媒体を通過する光が前記可飽和吸収体に入射可能に空間を介して配置され、
前記冷却ユニットの軸線方向に直交する投影面に前記空間を投影したときに形成される空間投影領域は、前記投影面に増幅媒体を投影したときに形成される増幅媒体投影領域と前記投影面に可飽和吸収体を投影したときに形成される可飽和吸収体投影領域とを含む面積を有することを特徴とする受動Qスイッチ固体レーザ発振装置。
【請求項2】
前記第1冷却ホルダと前記第2冷却ホルダとは、冷却媒体が流通する流路を備えることを特徴とする請求項1に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置。
【請求項3】
前記第1冷却ホルダは、励起光が入射される側に配置され、
前記第1冷却ホルダにおける前記流路は、前記増幅媒体における励起光が入射される側の面である入射面を含む平面よりも入射方向側に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置。
【請求項4】
前記平面に前記流路を投影したときに形成される流路投影領域は、少なくともその一部が前記入射面に含まれることを特徴とする請求項3に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置。
【請求項5】
前記増幅媒体は、前記第1冷却ホルダを形成する部材のみを介して、前記冷却媒体により冷却されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置。
【請求項6】
前記第1冷却ホルダと前記第2冷却ホルダとは、互いの結合角度を微調整可能にする中間部材を介して一体化されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置を有するレーザ着火装置。
【請求項8】
励起光を出力する励起光源と、前記励起光を集光する励起光学系ユニットと、前記励起光学系ユニットで集光された励起光に基づいてレーザ光を出力する請求項1〜6のいずれか1項に記載の受動Qスイッチ固体レーザ発振装置と、前記受動Qスイッチ固体レーザ発振装置から出力されたレーザ光を集光させる出力光学系ユニットとを有するレーザ着火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−14646(P2011−14646A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155985(P2009−155985)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】