説明

回路保護素子およびそれを用いた電池パック装置

【課題】 低融点金属の単体や合金を使用することなく、比較的高い融点を有する可溶性金属の単体または合金をヒューズエレメントに用いた回路保護素子を提供する。
【解決手段】 所定の温度で溶断する可溶金属のヒューズエレメント10と、絶縁層を介在してヒューズエレメントの表面に巻回配置した発熱抵抗体20と、ヒューズエレメント10および発熱抵抗体20を電気的に接続する接合部位30とを備える回路保護素子であり、500℃〜800℃の融点を有するPbフリー可溶金属からなる前記ヒューズエレメント10は、発熱抵抗体20の発熱により加熱され、溶断する回路保護素子である。ここで、ヒューズエレメントはメイン動作回路に、発熱抵抗体はメイン動作回路の異常を感知し作動するサブ動作回路に、それぞれ接続されて回路保護素子として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒューズエレメントと発熱抵抗体を備える回路保護素子およびそれを用いた電池パック装置、特に、ヒューズエレメントに500℃以上の融点を有するPbフリーの可溶金属を用いる回路保護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電池パック用保護素子は、被保護機器の過電圧・過充電動作に対してヒータを加熱してヒューズエレメントを溶断させ、過電流動作に対しては電流ヒューズとして機能させてメイン動作回路を安全に遮断させる。周知の保護素子は、特許文献1に示されるように、電圧検知で作動し、低融点金属、発熱体、および検知素子で構成する。低融点金属と発熱体は絶縁層を介して熱的接触され、検知素子により発熱体が通電発熱する。すなわち、機器に生ずる異常を検知すると、抵抗発熱体に電流が流れて発熱し、その発熱により低融点金属のヒューズエレメントを作動させる。一方、特許文献2は、二次電池における過充電および過放電を防止するために復帰型と非復帰型の二重の保護回路を設け、電池が異常な高電圧となって温度ヒューズが溶断した後は、一切放電できないようにした安全性の高い二次電池の過充電保護回路である。ここでは電池電圧が検出され、その値が設定値以上になると電圧検出回路がオン信号を出力する。電池と充電器との間には、直列接続した2個の温度ヒューズが接続され、電圧検出回路のオン信号で動作するスイッチが、温度ヒューズと熱的結合する発熱素子を通電加熱して温度ヒューズを作動させる。また、特許文献3は、温度ヒューズを小形化するために、セラミック基板の一方の面に配置した低融点合金の可溶体エレメントをセラミックキャップで封止し、他方の面に配置の導出用リードに抵抗体発熱素子を装着した温度ヒューズである。特許文献4は、チップ抵抗の発熱素子と温度ヒューズ素子をガラスエポキシの絶縁基板上に搭載配置することで、組立構造の簡素化と小型化を図る抵抗付き温度ヒューズである。さらに、特許文献5は、動作温度が129〜139℃の温度ヒューズにおいて、環境にやさしいPbフリー可溶合金を用いるもので、Snを5〜15重量%、Agを0.5〜4.5重量%およびBiを0.1〜2.0重量%および残部がInのPbフリーの可溶合金を用い、その表面にフラックスを被覆して絶縁パッケージする合金型温度ヒューズである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−153367号
【特許文献2】特開平10−056742号
【特許文献3】特開2003−217416号
【特許文献4】特開2005−129352号
【特許文献5】特開2005−150075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の電池パック装置に利用する保護素子は、使用する低融点金属の融点が略300℃以下であった。たとえば、過充電時の過熱に対する阻止と過電流動作に対する阻止の両方に対応するヒューズエレメントに、Sn、Pb、Bi、In、Zn、Au等の低融点金属の単体や合金からなる可溶合金や単体金属が使用されているが、これら可溶合金の融点は310℃以下である。また、保護素子の回路装置への組み込み配線のリフロー対策として、溶融温度の高温化にPbなどの有害金属を添加して低融点可溶合金が使用されることもあった。さらに、このような低融点金属やその可溶合金を用いるヒューズエレメントには、通常、ハロゲン系フラックス被膜を必要とする。さらにまた、発熱抵抗体には熱硬化性樹脂中に導電性粒子を分散した組成物を用いる厚膜抵抗や単体のチップ抵抗を使用し、両者の絶縁は絶縁性高分子中に高熱伝導性の無機物質を分散した組成物やスペース空間により確保していた。しかし、前述のPbやフラックスは有害物質として使用上望ましくない物質として環境上問題を提起している。それゆえ、Pbやハロゲン系フラックスの有害物質の使用を回避しつつ、リフロー化のできる回路保護素子の提供が望まれていた。加えて、保護素子の小型化とローコスト化が求められ、ヒューズエレメントと発熱抵抗エレメントとの改良構造が望まれ、同時に携帯情報機器への適用が可能な信頼性の高いパッケージ品の提供が期待されている。
【0005】
したがって、本発明の目的は、上述する従来の保護素子や抵抗内蔵型温度ヒューズの欠点を解消するために提案されたものであり、低融点金属の単体や合金を使用することなく、比較的高い融点を有する可溶性金属の単体または合金をヒューズエレメントに用いることを特徴とするもので、取り扱いを容易にすると共に熱的結合の安定化を図り、実装配置が簡素化できるように、ヒューズエレメントに絶縁電熱線の発熱抵抗体を直接に巻き回した構造の新規かつ改良された回路保護素子の提供にある。また、この回路保護素子を用いて組み立てを容易にする電池パック装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、環境的に有害なPbの使用を避けるPbフリーの可溶金属をヒューズエレメントに用い、これに絶縁被覆を有する電熱線材を巻き回した発熱抵抗体を配置し動作温度500〜800℃の回路保護素子が提供される。すなわち、溶融温度500℃以上の可溶金属を単体または合金で使用したヒューズエレメントに直接電熱線を、絶縁層を介して巻回装着するので、簡素化構造で小型化を図ると共にリフロー処理に耐え配線組み込みを容易化する回路保護素子である。具体的には、可溶合金のりん銅ろうからなる500℃以上の温度で溶断するヒューズエレメントと、このヒューズエレメントの表面に巻き回したニクロム系電熱線の発熱抵抗体と、これらの両者を電気的に接続する接合部位とを装着する基板を備える回路保護素子である。この回路保護素子の適用は、メイン動作回路にヒューズエレメントを、動作異常を感知して制御信号を生成する補助的なサブ動作回路に発熱抵抗体をそれぞれ接続し、異常時、発熱抵抗体への通電に伴う発熱によりヒューズエレメントを加熱溶断させる。ヒューズエレメントはPbフリーであって、好ましくは、500℃以上かつ800℃以下の融点を有する可溶金属の単体または合金からなる。なお、ヒューズエレメントの可溶金属にりん銅ろうを用いる場合、フラックスを使用しなくても溶断が円滑に行えることが実験的に確認され、構成材料で環境にやさしい有害物質を排除する回路保護素子であることを見出した。
【0007】
上述する回路保護素子において、好ましくは、発熱抵抗体は絶縁被覆を有するニクロム系電熱線であり、可溶金属のヒューズエレメントはりん銅ろうであって、直接接触状態で巻き付け、両者を電気的接続する接合部位を基板に設ける。ここで、ヒューズエレメントにはアルミろう、銀ろう、銅ろう、黄銅ろう、ニッケルろうおよびアルミ単体を含む金属材群から選択し、たとえば、フラックスフリーのりん銅ろうを用いこれに発熱抵抗体のニクロム系絶縁被覆電熱線を使用して両者の熱的結合度を高めることを特徴とする。また、接合部位はヒューズエレメントの中間点とすることで、事実上2つの分割エレメントで構成することとなる。そして、必要に応じて、分割エレメントに異なる融点の可溶金属を用いてもよく、それにより、溶断するタイミングを変えることもできる。
【0008】
本発明の別の観点によれば、上述する回路保護素子は、電池パック装置のように、充電器と電池電源を備えるパワーラインのメイン動作回路と、充電器や電池電源の過電圧や過電流の異常を感知検出して制御電流を生成するサブ動作回路とを具備する回路装置に適用される。この場合、回路保護素子のヒューズエレメントはメイン動作回路のパワーラインに直列接続され、発熱抵抗体はサブ動作回路の制御電流により発熱され、ヒューズエレメントの所定の動作温度でパワーラインを遮断させる。一方、前述するヒューズエレメントを2個の分割エレメントで構成し、分割エレメントのジャンクションを接合部位として発熱抵抗体の一方の端子を接続する。異常検知の場合、発熱抵抗体の通電発熱で分割エレメントの一方が作動するとメイン動作回路のパワーラインが遮断され、引き続き、分割エレメントの他方の作動によりサブ動作回路の制御用回路が遮断される。その結果、制御用回路のダメージも阻止できる。なお、分割エレメントは、溶断温度が互いに異なる可溶金属で設定することで、優先順位に応じてタイミング的に順次作動させることもできる。
【0009】
ここで、ヒューズエレメントには融点が500℃を超える可溶金属を用い、これに絶縁被覆ニクロム系電熱線等の発熱抵抗体を巻き回して構成し、それにより動作温度がリフロー処理にも安定である500〜800℃の範囲内とする新規かつ改良された回路保護素子を提供する。特に、500〜800℃の動作温度範囲内で作動する可溶金属に、りん銅ろうを選択使用することで、フラックスフリーを可能とすることを見い出し、ハロゲン系フラックスの有害性を解消する。また、ヒューズエレメントに絶縁被覆を施したニクロム系電熱線の発熱抵抗体を密着して巻回配置することで通電発熱が効果的にヒューズエレメントに伝達され、精度向上と同時に構造的小型化が図られることを明らかにした。
【0010】
さらに、別の観点において、本発明は電池パック装置における充電器と電池電源のパワーラインにヒューズエレメントを挿入するので、それ自体に流れる過電流で作動するほか、サブ動作回路が検知する異常電圧により発熱抵抗体の通電発熱に伴う過熱によっても所定の動作温度で回路遮断させる。ここで、ヒューズエレメントはパワーラインに直列接続の二つの分割エレメントで構成し、そのジャンクションを、発熱抵抗体を接続する接合部位とする場合、発熱抵抗体の通電による異常発熱時に、一方の分割エレメントの溶断でメイン動作用回路のパワーラインを遮断させる。単一エレメントの場合制御回路はそのまま持続されるが、分割エレメント方式では、他方のエレメントが引き続いて溶断し、それにより制御用回路の信号ラインを遮断させる。この場合に、二つの分割エレメントの溶断する動作温度は、互いに異なる温度に設定して、タイミング的に順次作動させ遮断回路の優先順位をつけて安全性の向上を図ることができる。同様に、ヒューズエレメントに巻き回す発熱抵抗体も二つの分割抵抗体とすることで、通電発熱を分散してヒューエレメントの溶断を促進したり遅延したりすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヒューズエレメントの可溶合金は、従来の低融点金属よりも高融点の金属材を用いるが、発熱抵抗体の電熱線材をヒューズエレメントに直接巻回配置するので、熱伝達効率が向上し、所要のスペース空間を小さくして小型化された回路保護素子を提供する。また、ヒューズエレメントにPbフリーの可溶金属を使用することで環境公害の発生を阻止し、環境に対して安全と安心を与え環境にやさしい回路保護素子となる。同様に、りん銅ろうをヒューズエレメントに使用することでフラックスフリーの回路保護素子が提供できる。さらに、本発明の回路保護素子は、従来の低融点金属に代え、溶融温度が500℃以上の可溶金属を使用するので、回路素子の組み立てやマザーボードへの実装において、リフロー処理が容易化され、かつ所望する処理温度の高温化による確実なはんだ付けなどにより作業の簡素化と効率化が図られる。
【0012】
また、本発明は、この回路保護素子を用いて組み立てを容易にする電池パック装置の提供を目的とする。すなわち、ヒューズエレメントには融点が500℃を超える可溶金属を用い、これに絶縁被覆ニクロム系電熱線等の発熱抵抗体と巻き回して構成し、それにより動作温度がリフロー処理にも安定である500〜800℃の範囲内とする新規かつ改良された回路保護素子を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施例1の回路保護素子であり、図1(a)はカバーを除く主要部の平面図、図1(b)は図1(a)の中央部分の断面を示す正面図、図1(c)および図1(d)は回路保護素子の動作後の状態を示す平面図および正面図、図1(e)は図1(b)の発熱抵抗体の拡大断面図である。
【図2】同じく図1の別の実施態様を示す回路保護素子であり、図2(a)はカバーを除く主要部の平面図、図2(b)は図2(a)の中央部分の断面を示す正面図、図2(c)および図2(d)は回路保護素子の動作後の状態を示す平面図および正面図である。
【図3】同じく図1の別の実施回路態様の回路保護素子であり、図3(a)はヒューズエレメントと発熱抵抗体の接続要部の平面図および図3(b)は図3(a)の接続回路図である。
【図4】同じく図2の別の実施回路態様を示す回路保護素子であり、図4(a)はヒューズエレメントと発熱抵抗体の接続要部の平面図および図4(b)は図4(a)の接続回路図である。
【図5】同じく図4の別の実施回路態様を示す回路保護素子であり、図5(a)はヒューズエレメントと発熱抵抗体の接続要部の平面図および図5(b)は図5(a)の接続回路図である。
【図6】本発明の回路保護素子を利用する電池パック装置の主要部品の配線状態を示す電気的回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によれば、図1に示すように、所定の温度で溶断する可溶金属のヒューズエレメント10と、絶縁層を介在してヒューズエレメントの表面に巻回配置した発熱抵抗体20と、ヒューズエレメントおよび発熱抵抗体を電気的に接続する接合部位30とを備える回路保護素子が提供される。ヒューズエレメント10はメイン動作回路に、発熱抵抗体20はメイン動作回路の異常感知で作動する制御信号を生成するサブ動作回路にそれぞれ接続し、サブ動作回路の作動時の通電により発熱抵抗体20が発熱し、ヒューズエレメント10を加熱して溶断させることを特徴とする回路保護素子である。ここで、前記ヒューズエレメントは500℃〜800℃の融点を有するPbフリー可溶金属であり、前記発熱抵抗体は絶縁被覆を有し、ヒューズエレメント10に接触して巻き付け、接合部位30をヒューズエレメント10の中間部に設けることでメイン動作回路は勿論のこと、サブ動作回路も切り離して制御回路の損傷をも回避する。
【0015】
本発明の回路保護素子は、好ましくは、アルミろう、銀ろう、銅ろう、黄銅ろう、りん銅ろう、ニッケルろうおよびアルミ単体を含む金属材から選択されるPbフリーのヒューズエレメントが使用されることを特徴とする。特に、フラックスフリーの実現のために、りん銅ろうをヒューズエレメント10に使用することを提案し、有害物質の使用を避けた環境にやさしい回路保護素子を提供する。さらに、発熱抵抗体はニクロム系絶縁被覆電熱線の使用により特性の安定化を実現する。
【0016】
本発明の別の実施態様において、図6に示すように、メイン動作回路43が充電器と電池電源のパワーライン、サブ動作回路44がパワーラインの過電圧を検知する制御電圧により発熱抵抗体20を通電発熱させる制御回路であり、パワーラインに直列配置したヒューズエレメント10を所定の温度で溶断させることを特徴とする回路保護素子を用いた電池パック装置が提供される。ここで、前記ヒューズエレメントは2個の分割エレメントからなり、接合部位を分割エレメントの接続点に設け、発熱抵抗体の導出端子を接続して通電発熱時に分割エレメントの一方の溶断によりパワーラインを遮断させ、引き続き分割エレメントの他方の溶断により制御回路を遮断させ、それにより制御回路のダメージを阻止することを特徴とする電池パック装置が開示される。この場合、前記分割エレメントは、互いに異なる溶融温度を有する可溶金属が選定され、それによりタイミング的に順次溶断させることを特徴とする電池パック装置である。なお、本発明では、特に配線材料同士を相互に接続する終端接続部も含めて端子と表記する。
【0017】
本発明の実施態様は、一対の端子を備え所定の溶融温度を有する可溶金属からなるヒューズエレメントと、一対の端子を備えガラス被膜等の絶縁層を介してヒューズエレメントの表面に巻回配置した発熱抵抗体と、この発熱抵抗体の一方の端子をヒューズエレメントに電気的に接続する結合端子とを具備する回路保護素子である。図1および図2に示すように、ヒューズエレメントに発熱抵抗体を巻き付けて構成される。実施例1の回路保護素子は、図1(a)に示すように、溶融温度が500℃を超える可溶金属のヒューズエレメント10に発熱抵抗体20を巻き回して構成される。ヒューズエレメント10は溶融温度が500℃〜800℃のPbフリーの可溶金属の単体または合金からなる。この実施例ではりん銅ろうであって、Pbを含まない可溶合金が使用される。このヒューズエレメントは2つの分割エレメント16および18からなり、メイン動作回路に接続された一対の端子12,14を備える。一方、発熱抵抗体20は端子22,24を備え、端子24は分割エレメントの中点に設けた接合部位30に接続されている。この発熱抵抗体20はニクロム線26とその表面にガラスセラミック等の絶縁被膜28とからなり、補助的なサブ動作回路に接続され、異常時の制御電流の通電により発熱する。図2は実施例2の回路保護素子であり、ヒューズエレメント10を二つの異なる融点を有する可溶金属を用いて分割エレメントを構成している。なお、ヒューズエレメント10は分割されたほかは、単一構成でもよい。また、図1および図2において、同一部分は同一符号で示し、それぞれの図では、動作前の状態(a)、(b)および動作後の状態(c)、(d)として、それぞれ作動前後の状態を示し、動作後の状態(c)、(d)ではそれぞれの分割エレメントがそれぞれのヒューズエレメント10の中央部分で溶断することを示している。
【0018】
図3ないし図5は、実施例3としてヒューズエレメント10と発熱抵抗体20の3つの異なる接続回路形態について示すもので、図3はヒューズエレメントと発熱抵抗体との接続部位30を両者の片側に設けるもので構造の簡素化を図る単一構成の回路保護素子である。図4は両者とも2個の分割部分から構成し、接続部位30を中央に設け、それにより両者の熱分配の均等化を図り安定した作動を実現する。図5は単一の発熱抵抗体を分割型ヒューズエレメントの中央に接続部位を設けるものであるが、この場合、ヒューズエレメントの動作特性を異にすることで作動タイミングにずれを設ける。それにより、溶断優先順位の選定を可能にする。通常、ヒューズエレメント10はメイン動作回路に配置され、発熱抵抗体はサブ動作回路に配置される。好ましくは、分割エレメントタイプとして、異常時の回路遮断をメインおよびサブの両方の動作回路で行う。
【0019】
本発明にかかる上記回路形態で用いる回路保護素子は、図6に示す充放電制御回路を有する電池パック装置に利用される。図6はその代表的な電池パック装置における主要部分の回路構成を示す実用的回路図である。この電池パック装置はバッテリー電源41と充放電のパック側端子42との間にメイン動作回路43とサブ動作回路44とを具備して構成される。具体的にはメイン動作回路43が直列にヒューズエレメント10を介在して接続され、サブ動作回路44が並列的に通電発熱する発熱抵抗体20を介在して接続される。ヒューズエレメント10と発熱抵抗体20は上記実施例3に示す3つの異なる接続回路で使用される。たとえば、メイン動作用回路43にはNchFETなどの充放電制御用FET45の2個直列回路に前述のヒューズエレメント10が第1のリード端子を介して直列接続で配線配置される。一方、サブ動作回路44はバッテリー電源41からの信号や高耐圧用能動素子(図示にせず)からの過充電等の異常時に電流を流して発熱抵抗体20を発熱させ、ヒューズエレメント10を溶断する。ここで、図示したヒューズエレメント10と発熱抵抗体20は、図5に示すような分割型ヒューズエレメントと単一型発熱抵抗体であるが、好ましくは、それぞれが2個に分割されたエレメント部分で構成し、2分割された中央のジャンクションを接合部位30とする。具体的には、メイン動作用回路43の分割エレメントを2分割し、その中央ジャンクションにサブ動作回路44の2分割の発熱抵抗体の中央部位を接続して、図4(b)の電気回路構成とする。すなわち、充電器の端子側と電池側とのいずれかからの異常信号を検知し、サブ動作回路で制御電流を生成して分割された発熱抵抗体の発熱を均等化してヒューズエレメントに伝熱して可溶金属を溶断させる。したがって、回路保護素子により電池の過充電防止等の異常状態を解消することができる。
【実施例1】
【0020】
本発明の回路保護素子は、図1(a)の実施例1に示すように、Pbフリーの可溶金属からなるヒューズエレメント10、このエレメントから絶縁された発熱抵抗体20、および両者を接続する結合部位30を具備して構成される。発熱抵抗体20は、図1(e)に示す絶縁被覆28を有するニクロム電熱線26であり、この電熱線は組成重量比がNi77以上、Cr19〜21およびSi0.75〜1.6、抵抗108×10−8Ω・mのニッケルクロム電熱線である。一方、ヒューズエレメント10は、JIS規格(JIS Z 3264−1998)のBCuP−5で組成重量比Ag14.5〜15.5、P4.8〜5.3、Cu残、またはBCuP−4で組成重量比Ag5.8〜6.2、P6.8〜7.7、Cu残の可溶合金を用い、環境的に有害なPbの使用を避ける。発熱抵抗体20はヒューズエレメント10に直接巻き回し、取り付け接合部位30で接続される。なお、ヒューズエレメントには溶融温度500℃以上のPbフリー可溶金属の単体または合金が使用され、発熱抵抗体は絶縁層を介してヒューズエレメントに巻回配置されるので、簡素化と小型化に加えてリフロー処理に耐え、配線組込みを容易にする。すなわち、500℃以上の動作温度のりん銅ろうのヒューズエレメント10と、その表面に巻き回したニクロム系電熱線の発熱抵抗体20と、両者を電気的に接続する接合部位30とを、側面スルーホール電極31を施した絶縁セラミック基板35上に配置し、図1(b)に示すように、絶縁カバー40で封止したパッケージタイプ回路保護素子を提供する。この回路保護素子は、図6に示すように、電池パック装置のメイン動作回路にヒューズエレメント10を、動作異常を感知して制御信号を生成するサブ動作回路の発熱抵抗体20に接続し、異常時に、発熱抵抗体への通電に伴う発熱によりヒューズエレメントを加熱溶断させる。ヒューズエレメント10は、Pbフリーで500℃以上かつ800℃以下の融点を有する可溶金属の単体または合金からなる。なお、実施例1のように、可溶金属にりん銅ろうを用いる場合、通常の温度ヒューズでは必須であるハロゲン系フラックスを使用しなくても、溶断は円滑に行えることが確認され、構成材料として有害物質を排除する環境にやさしい回路保護素子を提供する。
【0021】
上述する回路保護素子において、発熱抵抗体は絶縁被覆を有するニクロム系電熱線であり、可溶金属のヒューズエレメントにはりん銅ろうが使用され、直接接触状態で巻き付け、両者を電気的接続する接合部位を基板に設ける。ここで、ヒューズエレメントにはアルミろう、銀ろう、銅ろう、黄銅ろう、ニッケルろうおよびアルミ単体を含む金属材群から選択し、たとえば、フラックスフリーのりん銅ろうを用いこれに発熱抵抗体のニクロム系絶縁被覆電熱線を使用して両者の熱的結合度を高めることを特徴とする。また、接合部位30はヒューズエレメント10の中間点とすることで、事実上2つの分割エレメントで構成することとなる。そして、具体的には、動作後の状態が図1(c)および図1(d)に示すように、それぞれの領域で溶断する。また、この実施例1では接合部位30が両者のそれぞれの中央部に設けたが、図3ないし図5に示すように、必要に応じて、分割エレメントに異なる融点の可溶金属を用いて溶断するタイミングを変えるなど、異なる設定も可能である。
【実施例2】
【0022】
図2(a)および図2(b)は本発明に係る第2の実施例による回路保護素子である。この実施例において、ヒューズエレメント10は、2個に分割された異なる溶融温度の可溶合金を使用し、それぞれ異なる動作温度での溶断を可能にする。ここでは、ヒューズエレメント10が第1の可溶合金16と第2の可溶合金18から構成され、それぞれの動作温度が異なる。図2(c)および図2(d)は動作後の状態を示す。なお、パッケージ構造や動作後の状態については、図1の実施例と同様であり、同一部分については同じ符号で示してある。
【実施例3】
【0023】
図3ないし図5はヒューズエレメント10と発熱抵抗体20を接続する接合部位30に関する実施態様として異なる状態の接続回路を示す。図3はヒューズエレメント10と発熱抵抗体20はそれそれ単一体で構成し、両者の接続部位30を片側に設けて構造を簡素化した。図4はヒューズエレメント10と発熱抵抗体20はそれそれ分割体で構成し、両者の接合部位30を中央に設け、発熱抵抗体20の均等化とヒューズエレメント10の2方向で遮断するように回路構成した。さらに、図5はヒューズエレメント10の分割化と発熱抵抗体20の単一化との組み合わせで、接合部位30を中央に設けている。図4および図5では、ヒューズエレメント10の各分割部分は異なる動作温度に設定することで、動作回路の遮断にタイムラグを設定可能とした。
【実施例4】
【0024】
図6は本発明に係る電池パック装置の回路図を示し、本発明の回路保護素子の適用例を示す。たとえば、携帯情報端末用主電源は、保存特性や耐漏液性に優れた高密度エネルギーのLiイオン二次電池が利用されているが、その安全性確保に回路保護素子を使用する。二次電池においては、電池電圧が所定の設定電圧を越えたとき充電電流を遮断する復帰型保護回路と、この復帰型保護回路が何らかの原因で作動せず電池電圧が異常に上昇したときヒューズエレメントを溶断する非復帰型保護回路とを設けて安全性の高い保護装置を構成する。後者の非復帰型保護回路には回路保護素子が利用され、充電器と電池間のパワーラインに直列接続した可溶金属のヒューズエレメントを使用している。この場合、可溶合金のヒューズエレメントと発熱抵抗体を熱的に結合させ、制御信号により抵抗発熱させる回路保護素子である。発熱抵抗体は電池電圧を検知し電池電圧が設定値以上になるとオン信号を出力する電圧検出回路で動作する。この保護素子は、絶縁セラミック基板の表面側に可溶金属のヒューズエレメント、これに巻き回したニクロム電熱線を配置して構成される。2次電池の非復帰型保護回路として過充電などの異常を検出した場合にヒューズエレメントと熱結合の抵抗体に通電させる。この通電により生じた発熱が強制的にヒューズエレメントを作動して回路を遮断させる。また、電池パック装置用保護回路には充放電を制御するMOSFETなどのスイッチング能動素子を含む専用の制御ICと共に回路保護素子をマザーボード用プリント基板に搭載する。なお、ヒューズエレメントは2個の分割エレメントを有し、接合部位を分割エレメントの接続点にして発熱抵抗体を接続し、この発熱抵抗体の通電発熱により分割エレメントの一方を溶断して、先ず、メイン動作回路のパワーラインを遮断させ、引き続き、分割エレメントの他方を溶断してサブ動作回路の制御回路を遮断させ、それにより制御回路のダメージを阻止することを可能にする。ここで、分割エレメントは、互いに異なる溶融温度を有する可溶金属を使用し、それによりタイミング的に順次溶断させるようにした回路保護素子を用いた電池パック装置を提供する。
【0025】
本発明の別の観点によれば、上述する回路保護素子は、電池パック装置のように、充電器と電池電源を備えるパワーラインのメイン動作回路と、充電器や電池電源の過電圧や過電流の異常を感知検出して制御電流を生成するサブ動作回路とを具備する回路装置に適用される。この場合、回路保護素子のヒューズエレメントはメイン動作回路のパワーラインに直列接続され、発熱抵抗体はサブ動作回路の制御電流により発熱され、ヒューズエレメントの所定の動作温度でパワーラインを遮断させる。一方、前述するヒューズエレメントを2個の分割エレメントで構成し、分割エレメントのジャンクションを接続部位として発熱抵抗体の一方の端子を接続する。異常検知の場合、発熱抵抗体の通電発熱で分割エレメントの一方が作動すると、メイン動作回路のパワーラインは遮断され、引き続き、分割エレメントの他方の作動によりサブ動作回路の制御用回路が遮断される。その結果、制御用回路のダメージも阻止できる。なお、分割エレメントは、溶断温度が互いに異なる可溶金属で設定することで、優先順位に応じてタイミング的に順次作動させることもできる。さらに、ヒューズエレメントの可溶合金に500〜800℃の動作温度範囲内で作動するりん銅ろうを選択する場合、フラックスフリーが可能となり、ハロゲン系フラックスの有害性を解消することができることを見出した。また、ヒューズエレメントに絶縁被覆を施したニクロム系電熱線からなる発熱抵抗体を密着して巻回配置することで通電発熱が効果的にヒューズエレメントに伝達され、精度向上と同時に構造的小型化が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の回路保護素子は、リフロー・ソルダリングを用いた一括はんだ付けに対応でき、かつ高温の使用環境に適合した環境対応型の回路保護素子および電池パック装置に利用できる。
【符号の説明】
【0027】
10・・・ヒューズエレメント、 12,14,22,24・・・端子、
16,18・・・分割エレメント、 20・・・発熱抵抗体、
26・・・ニクロム系電熱線、 28・・・絶縁被覆、 30・・・接合部位、
31・・・側面スルーホール電極、 35・・・絶縁セラミック基板、
40・・・絶縁カバー、 41・・・バッテリー電源、 42・・・パック側端子、
43・・・メイン動作回路(パワーライン)、 44・・・サブ動作回路(制御回路)、
45・・・FET。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度で溶断する可溶金属のヒューズエレメントと、絶縁層を介在して前記ヒューズエレメントの表面に巻回配置した発熱抵抗体と、前記ヒューズエレメントおよび前記発熱抵抗体を電気的に接続する接合部位とを備え、前記ヒューズエレメントは500℃〜800℃の融点を有するPbフリー可溶金属であり、前記発熱抵抗体の発熱により前記ヒューズエレメントを加熱溶断することを特徴とする回路保護素子。
【請求項2】
前記ヒューズエレメントをメイン動作回路に、前記発熱抵抗体をサブ動作回路に接続し、前記サブ動作回路は前記メイン動作回路の異常感知で作動し、その作動時の通電により前記発熱抵抗体を発熱させることを特徴とする請求項1に記載の回路保護素子。
【請求項3】
前記発熱抵抗体は絶縁被覆を有し、前記ヒューズエレメントに接触して巻き付け、前記接合部位を前記ヒューズエレメントの中間部に設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回路保護素子。
【請求項4】
前記ヒューズエレメントがアルミろう、銀ろう、銅ろう、黄銅ろう、りん銅ろう、ニッケルろうおよびアルミ単体を含む金属材から選択されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一つに記載の回路保護素子。
【請求項5】
前記ヒューズエレメントがフラックスフリーのりん銅ろうであり、前記発熱抵抗体がニクロム系絶縁被覆電熱線であることを特徴とする請求項4に記載の回路保護素子。
【請求項6】
前記ヒューズエレメントは2個に分割されたエレメント部分により構成され、前記発熱抵抗体が前記エレメント部分のジャンクションを接合部位として接続したことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一つに記載の回路保護素子。
【請求項7】
前記メイン動作回路が充電器と電池電源を含むパワーラインであり、前記サブ動作回路が前記パワーラインの過電圧を検知する制御電圧により前記発熱抵抗体を通電発熱させる制御回路であり、前記パワーラインに直列配線した前記ヒューズエレメントを所定の温度で溶断させることを特徴とする請求項2に記載の回路保護素子を用いた電池パック装置。
【請求項8】
前記ヒューズエレメントは2個の分割エレメントを有し、前記接合部位を前記分割エレメントの接続点に設けて前記発熱抵抗体を接続し、この発熱抵抗体の通電発熱により前記分割エレメントの一方を溶断して前記パワーラインを遮断させ、引き続き、前記分割エレメントの他方を溶断して前記制御回路を遮断させ、それにより前記制御回路のダメージを阻止することを特徴とする請求項7に記載の回路保護素子を用いた電池パック装置。
【請求項9】
前記分割エレメントは、互いに異なる溶融温度を有する可溶金属を使用し、それによりタイミング的に順次溶断させるようにしたことを特徴とする請求項8に記載の回路保護素子を用いた電池パック装置。
【請求項10】
前記パワーラインの電池電源が2次電池であって、前記制御回路は過電圧と過電流に対して、電圧を検出し、電池電圧が設定値以上でオン信号を出力して通電させ、電池と充電器との間に前記ヒューズエレメントが直列接続され、前記制御回路に接続された発熱抵抗体はオン信号で動作するスイッチ素子により通電発熱し、この発熱が前記発熱抵抗体と熱的に結合した前記ヒューズエレメントを加熱して溶断させることを特徴とする回路保護素子を用いた電池パック装置。
【請求項11】
前記ヒューズエレメントが2個の分割エレメントにより構成され、前記発熱抵抗体が前記分割エレメントのジャンクションを接合部位としたことを特徴とする請求項10に記載の回路保護素子を用いた電池パック装置。
【請求項12】
前記分割エレメントの一方は電池側に、他方は充電器のパック側に挿入され、前記制御回路の発熱抵抗体の発熱による前記分割エレメントの溶断温度は一方が他方のそれより低く設定され、前記電池電圧が設定値以上になると、前記制御回路がオン信号を出力して前記スイッチ素子をオン動作させ、前記発熱抵抗体を発熱させて一方の分割エレメントを他方の分割エレメントに優先して溶断させることを特徴とする請求項11に記載の回路保護素子を用いた電池パック装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−129124(P2012−129124A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281125(P2010−281125)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(300078431)エヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社 (75)
【Fターム(参考)】