説明

固体酸化物形燃料電池用電解質シートと、それを備えた固体酸化物形燃料電池用単セルおよび固体酸化物形燃料電池、並びに、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの検査方法および固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法

【課題】より信頼性の高い強度特性を備えた固体酸化物形燃料電池用電解質シートを提供する。
【解決手段】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、少なくとも一方の面において、蛍光浸透探傷試験で検出される前記シートの表面のキズの数が、前記シートを1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画で30点以下である。本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルは、燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートとを備える。本発明の固体酸化物形燃料電池は、本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用電解質シートと、当該電解質シートを備えた固体酸化物形燃料電池用単セルおよび固体酸化物形燃料電池とに関する。さらに、本発明は、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの検査方法および固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は発電効率が高く、炭酸ガス削減効果を高め国際的な低炭素社会を実現するための環境エネルギー技術である。このことから、固体酸化物形燃料電池は、家庭用および業務用のクリーンな電力源として期待されている。固体酸化物形燃料電池用電解質膜として、ジルコニア系電解質シートの需要が拡大しつつある。
【0003】
ジルコニア系電解質シートを固体酸化物形燃料電池用電解質膜として使用する場合、ジルコニア系電解質シートの両方の面に電極が形成された単セルが、セパレータにより表裏から挟持されて複数積層されたスタックとして使用される。
【0004】
そのため、当該シートは、固体酸化物形燃料電池の運転中は約750℃〜950℃の高温で少なくとも10g/cm2の荷重がかかった状態で長時間保持されるとともに、運転開始・停止時等の室温から前記高温に繰り返し曝されることになる。このような使用状態は、当該シート表面にキズがあるとその傷がクラック発生の起点となってシートが割れやすくなるので、その機械的強度特性および強度のばらつきを示すワイブル係数に大きく影響する。特に、電解質シートの割れによる単セルの損傷は、たとえ1枚の電解質シートが割れただけでも固体酸化物形燃料電池の信頼性に大きく影響する。
【0005】
そこで、本発明者らは、CCDカメラを用いて得られる画像に基づいて検出される面積が0.1mm2以上であるキズ等の不良箇所が、当該シートを1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画で5点以下である、ワイブル係数に優れ、割れおよびクラック発生率の少ないジルコニア系電解質シートと、球状セラミック粒子を主体とするスペーサー間にジルコニア系グリーンシートを挟んだ状態で焼成するジルコニア系電解質シートの製造方法とを、特許文献1に開示している。
【0006】
しかしながら、上記方法で検出されるキズ等の表面欠陥を有する電解質シートを排除しても、単セルとセパレータとを積層してスタックにする工程中または固体酸化物形燃料電池の運転開始・停止時中に、セルが破損する問題が発生する場合がある。そこで、依然として、電解質シートについて、キズ等の表面欠陥等に対する信頼性の向上が求められている。
【0007】
一方、固体酸化物形燃料電池用電解質シートのキズの検査方法としては、厚みが大きくとも30μmである、燃料電池用固体電解質体用のセラミックス基板の表面欠陥(クラックの発生)について、10μm以上の欠陥数を実体顕微鏡で観察する技術が特許文献2に開示されている。これは実体顕微鏡での拡大視野範囲の欠陥像を目視でカウントしたものであり、実質は肉眼レベルでの定量である。そのため、検査シート数が多くなると誤差が入りやすくなり、信頼性が乏しい。
【0008】
また、セラミック基板の探傷試験に、カラーチェック法(染色浸透探傷試験)が一般に用いられている。電解質シートの場合にも、探傷試験が行われることが特許文献3および特許文献4に開示されている。しかしこれらの試験は、高温度で保持した後、直ちに水中に投入してクラックの有無を調べる熱衝撃耐力試験、および、室温で所定の荷重負荷をかけ、クラック・割れの発生状況を観察する荷重負荷試験等の、特定の強度試験後の評価用に適用されているだけである。したがって、量産化時の電解質シートの品質検査方法として十分には適用できないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第99/55639号
【特許文献2】特開平8−238613号公報
【特許文献3】特開平5−254932号公報
【特許文献4】特開2001−205607号公報
【特許文献5】特開2007−17376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、より信頼性の高い強度特性を備えた固体酸化物形燃料電池用電解質シートを提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、さらに、そのような信頼性の高い強度特性を備えた電解質シートを利用して、十分な強度特性を有する固体酸化物形燃料電池用単セルおよび固体酸化物形燃料電池を提供することも目的とする。
【0012】
本発明は、さらに、そのような信頼性の高い強度特性を備えた電解質シートを得るための検査方法と、その検査方法を利用した固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法とを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、固体酸化物形燃料電池の実用化に向けた電解質シートについて、CCDカメラを用いて得られる画像に基づいてキズが特定されたシートでは、割れ・クラックの発生割合は低下するものの、CCDカメラでは検出されていない微小・微細なキズを有する電解質シートを見逃している可能性が大きいことを見出した。すなわち、本発明者らは、CCDカメラを用いて得られる画像に基づいて検出されるキズよりもより微小・微細なキズを高精度で効率的に検出することによって、強度特性の信頼性をさらに高めることができ、より信頼性の高い強度特性を備えた固体酸化物形燃料電池用電解質シートを提供できることを見出した。
【0014】
具体的には、本発明者らは、電解質シート表面のキズの探傷検査に浸透液の毛細管現象を用いることによって、CCDカメラを用いてでは検出されない微小・微細なキズを検出できること、浸透液の中でも蛍光浸透探傷剤を用いた探傷検査法によって、キズの大きさおよび位置を高精度に、しかも連続的に検出できることを見出して本発明を完成させた。この方法は高品質なジルコニア系電解質シートの検査に非常に優れていることが判明した。
【0015】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用の電解質シートであって、少なくとも一方の面において、蛍光浸透探傷試験で検出される前記シートの表面のキズの数が、前記シートを1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画で30点以下である、固体酸化物形燃料電池用電解質シートを提供する。
【0016】
本発明は、さらに、燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された上記本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートとを備えた、固体酸化物形燃料電池用単セルも提供する。
【0017】
本発明は、さらに、上記本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルを備えた固体酸化物形燃料電池も提供する。
【0018】
本発明は、さらに、
(I)固体酸化物形燃料電池用電解質シートの表面に対して蛍光浸透探傷試験を実施して、前記電解質シートの表面のキズを検出する工程と、
(II)前記電解質シートの少なくとも一方の面を1辺30mm以内の区画に分割し、得られた区画ごとに前記工程(I)で検出された前記キズの数を求めて、前記区画ごとの前記キズの数を所定の数と比較して前記電解質シートの合否を判定する工程と、
を含む、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの検査方法を提供する。
【0019】
本発明は、さらに、
(i)固体酸化物形燃料電池用電解質シート用のグリーンシートを作製する工程と、
(ii)前記グリーンシートを焼成して固体酸化物形燃料電池用電解質シートを得る工程と、
(iii)前記工程(ii)で得られた前記電解質シートを、上記本発明の検査方法を用いて検査する工程と、
を含む、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートでは、蛍光浸透探傷試験で検出される前記シート表面の格段に微小・微細なキズの数が、前記シートを1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画で30点以下である。したがって、本発明によれば、キズに起因する電解質シートの破損が低減でき、より信頼性の高い強度特性を有する固体酸化物形燃料電池用電解質シートを提供できる。さらに、本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルは、当該電解質シートを備える。したがって、本発明の単セルは、セパレータと交互に複数枚積層してスタックにする工程中または固体酸化物形燃料電池の運転開始・停止時中に破損することが少ない、十分な強度特性を備えた単セルであり、高い信頼性を有する。さらに、本発明の固体酸化物形燃料電池は、当該単セルを備えているので、同様に高い信頼性を有する。さらに、本発明の固体電解質形燃料電池用電解質シートの検査方法および製造方法によれば、上記のような信頼性の高い強度特性を備えた電解質シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例において、電解質シートを得るために用いられた蛍光浸透探傷検査システムの構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例において、1辺100mm角電解質シートを1辺30mm以下の区画に分割した1例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例において、電解質シートの曲げ試験の測定に用いた装置の構成を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例において、電解質シートの耐荷重負荷試験に用いた装置の構成を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例で用いた突起形状スペーサーを模式的に示す断面図である。
【図6】本発明で用いることができる突起形状アルミナ/ジルコニア系スペーサーの一例の三次元形状を示すカラー超深度撮影画像である。
【図7】本発明で用いることができる突起形状アルミナ/ジルコニア系スペーサーの一例について、二次元形状の撮影画像と突起形状プロファイルデータとを重ね合わせた図である。
【図8】本発明の実施例におけるグリーンシートと突起形状スペーサーとの積層体を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態の固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、少なくとも一方の面において、蛍光浸透探傷試験で検出される前記シートの表面のキズの数が、前記シートを1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画で30点以下であるシートである。望ましくは、本実施形態の固体酸化物形燃料電池用電解質シートが、両方の面において、蛍光浸透探傷試験で検出される前記シートの表面のキズの数が、前記シートを1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画で30点以下のシートであることである。
【0023】
蛍光浸透探傷試験で検出される前記シートの表面のキズは、従来のCCDカメラを用いて得られる画像に基づいて検出されるキズに比べ、浸透液の毛細管現象を利用しているので格段に微小・微細なものである。
【0024】
本実施形態の電解質シートでは、蛍光浸透探傷試験で検出されるキズの数が、1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画で30点以下と特定されている。しかし、信頼性の観点からは、キズの数はゼロに近づく値のほうがよいのは当然のことである。キズの数が30点を超えると、シート強度が低下する傾向にあり信頼性が十分とは言えなくなる。当該シートを1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画でキズの数が25点以下であることにより、強度特性の信頼性をさらに高めることができる。より望ましいキズの数は20点以下、特に望ましくは15点以下である。
【0025】
なお、蛍光浸透探傷試験で検出されるシート表面のキズは、通常、従来(特許文献1記載)のCCDカメラを用いて得られる画像に基づいて検出されるキズも含む。そこで、本実施形態の固体酸化物形燃料電池用電解質シートでは、CCDカメラを用いて得られる画像に基づいて検出される当該シート表面のキズの数が、当該シートを1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画で7点以下であることが望ましい。より望ましいキズの数は6点以下、特に望ましくは5点以下である。
【0026】
なお、ここでいう蛍光浸透探傷試験で検出されるキズとは、蛍光浸透探傷試験で検出される箇所のことであって、クラック、線状または鎖状のスジまたはへこみ、および、点状または円状の穴またはへこみ等の形状、その面積、およびその長さは特定されず、連続した検出箇所を1点と数える。また、当然のことながらCCDカメラで検出されるキズは、蛍光浸透探傷試験でも検出されていることになる。
【0027】
また、本実施形態では、電解質シートを1辺30mm以内の区画に分割した範囲でのキズの数で特定している。たとえば、電解質シートが1辺90mm角の場合、1辺30mm以内の区画に分割した範囲で30点を超えるキズがある区画が1つでもあることは、他の区画がすべて30点以下であっても電解質シートの強度信頼性の上では望ましくなく、品質管理上問題となる。このようにキズが局所的に発生しているシートを区別し、より強度特性の信頼性を高める条件として、30mmの区画に分割した範囲を発明者らは選択している。ただし、電解質シートの形状および寸法によっては、全てが1辺30mmの区画に分割できず、シート周縁部等は30mm区画に達しない場合がある。したがって、本実施形態では1辺30mm以内の区画と特定し、30mm区画に達しない場合の区画範囲も同様にキズの数を算出した。
【0028】
蛍光浸透探傷試験とは、一般に、金属疲労によって生じた金属表面の微小なキズ(クラック)を発見することによって金属疲労の有無を調べることに用いられている試験である。この蛍光を用いる試験方法によって、微小・微細なキズの発見および計測が可能となり、量産化された電解質シートの品質管理に適用することができる。特に、CCDカメラでは検出されにくい深さが20μm未満のキズおよび長さが100μm未満のキズを簡便に検出できるので、キズに係る欠陥のある電解質シートを選別・排除でき、電解質シートに関して高度な品質管理ができることになる。
【0029】
一般的な蛍光浸透探傷検査の手順は、次のとおりである。一旦、電解質シートを蛍光塗料に浸漬または電解質シートに蛍光塗料を塗布する。次に、電解質シートを洗浄または電解質シートから蛍光塗料を払拭する。その後、電解質シートへ紫外光を照射する。この時、電解質シートの表面にキズがあるとその中へ蛍光塗料が入り込んで、表面から蛍光塗料が払拭された後も残留しているため、暗室等の周囲の暗い環境下でブラックライト等から紫外光を照射すると紫外光に反応して蛍光を発生することになる。即ち、キズの部分だけが蛍光を発生することになる。その蛍光を発している箇所を肉眼で認識する。ただ、肉眼による目視検査では、経験に左右されやすくかつ手間と時間がかかる問題点があったが、蛍光を画像処理して解析することによって、量産化された電解質シートの位置や個数を簡便に効率よく特定できる。
【0030】
蛍光浸透探傷試験の一般的な検査方法としては、水洗性蛍光浸透探傷法、後乳化性蛍光浸透探傷法、溶剤除去性蛍光浸透探傷法等があり、特に限定はされない。しかし、廃水を簡便に処理できることから、水洗性蛍光浸透探傷法と後乳化性蛍光浸透探傷法が望ましい。
【0031】
本実施形態において電解質シートのキズの検査方法として利用される蛍光浸透探傷試験は、特許文献5などに記載された公知の方法を採用できるが、量産化された電解質シートを全数検査することができるように、例えば、
(1)蛍光浸透探傷剤を表面に浸透または吸着させた電解質シートを暗室内の所定の検査位置に静置する静置工程と、
(2)暗室内で、ブラックライトから検査位置の電解質シートに蛍光浸透探傷用の近紫外線を照射し、前記近紫外線をカットし蛍光および可視光を通すロングパスフィルタを通して電解質シートを撮影し、蛍光静止画像を取得する蛍光静止画像撮影工程と、
(3)前記工程と時間をずらして、同一位置から、検査位置の電解質シートに白色ストロボから可視光を照射し、ロングパスフィルタを通して電解質シートを撮影し、可視静止画像を取得する可視静止画像撮影工程と、
(4)前記蛍光静止画像と可視静止画像とを画像処理装置により重ね合わせて重合せ画像を表示する画像処理工程と、
を備えた方法とすることができる。この方法を、位置検知センサーを備えたベルトコンベアまたはローラコンベア等の搬送装置と組み合わせることによって、画像から短時間に連続的に蛍光浸透探傷検査ができるので量産に合わせて全数検査が可能となる。
【0032】
なお、前記画像処理装置は、電解質シートの形状と大きさを記憶する記憶装置を備え、可視静止画像と電解質シート形状とのパターンマッチングにより可視静止画像上の検査領域を特定し、前記蛍光静止画像から検査領域以外の画像を消去する。
【0033】
また、CCDカメラを用いて得られる画像に基づく電解質シートのキズ検出方法も、公知の方法を採用できるが、特許文献1に記載の方法が好適である。
【0034】
上記のように、本実施形態の固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、蛍光浸透探傷試験で検出されるキズの数によって特定されている。すなわち、蛍光浸透探傷試験が、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの検査方法に適用される。そこで、別の観点から、本実施形態の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの検査方法として、
(I)固体酸化物形燃料電池用電解質シートの表面に対して蛍光浸透探傷試験を実施して、前記電解質シートの表面のキズを検出する工程と、
(II)前記電解質シートの少なくとも一方の面(望ましくは両方の面)を1辺30mm以内の区画に分割し、得られた区画ごとに前記工程(I)で検出された前記キズの数を求めて、前記区画ごとの前記キズの数を所定の数(ここでは30点)と比較して前記電解質シートの合否を判定する工程と、
を含む方法を特定することができる。
【0035】
また、さらに別の観点から、本実施形態の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法として、
(i)固体酸化物形燃料電池用電解質シート用のグリーンシートを作製する工程と、
(ii)前記グリーンシートを焼成して固体酸化物形燃料電池用電解質シートを得る工程と、
(iii)前記工程(ii)で得られた前記電解質シートを、上記の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの検査方法を用いて検査する工程と、
を含む方法を特定することができる。
【0036】
次に、本実施形態の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法および形状等について、詳しく説明する。
【0037】
本実施形態の電解質シートを構成するセラミックは、ジルコニア系酸化物、セリア系酸化物およびランタンガレート系酸化物が好適に用いられる。望ましいジルコニア系酸化物としては、安定化剤としてMgO、CaO、SrOおよびBaO等のアルカリ土類金属の酸化物、Sc23、Y23、La23、CeO2、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Ho23、Er23およびYb23等の希土類元素の酸化物、Bi23、および、In23等から選ばれる1種もしくは2種以上の酸化物を固溶させたもの、あるいは、これらに分散強化剤としてAl23、TiO2、Ta25および/またはNb25等が添加された分散強化型ジルコニア等が例示される。特に望ましくは、スカンジウム、イットリウム、セリウムおよびイッテルビウムよりなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物で安定化されたジルコニア系酸化物である。
【0038】
これらの酸化物は、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用しても構わない。上に例示したもの中でも、より高度の熱的、機械的、化学的特性、酸素イオン導電性特性を有する電解質シートを得るには、3〜10モル%の酸化イットリウムで安定化された、4〜12モル%の酸化スカンジウムで安定化された、または、4〜15モル%の酸化イッテルビウムで安定化された、正方晶および/または立方晶構造の酸化ジルコニウムが特に望ましい。これらの中でも、8〜10モル%の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア(8YSZ〜10YSZ)、6〜12モル%の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア(6ScSZ〜12ScSZ)、10モル%の酸化スカンジウムと1〜2モル%セリアで安定化されたジルコニア(10Sc1CeSZ〜10Sc2CeSZ)、10モル%の酸化スカンジウムと1モル%アルミナで安定化されたジルコニア(10Sc1AlSZ)、10モル%の酸化スカンジウムと1モル%イットリアで安定化されたジルコニア(10Sc1YSZ)が最適である。また、セリア系酸化物としては、イットリア、サマリアおよび/またはガドリア等がドープされたセリアが挙げられる。ランタンガレート系酸化物としては、ランタンガレート、および、ランタンガレートのランタンおよび/またはガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケルおよび/または銅等で置換されたものが挙げられる。
【0039】
本実施形態の電解質シートは、上記酸化物粉末、バインダー、可塑剤、分散剤等を含むスラリーを長尺グリーンテープに塗工し、当該グリーンテープを所定形状に切断して得たグリーンシートを焼成して、該グリーンシート中の有機成分を蒸散・燃焼させ、酸化物粉末をシート状に緻密に焼結させることにより製造される。
【0040】
本実施形態の電解質シートの形態は平板状、湾曲状、ディンプル状、膜状、円筒状、円筒平板状、ハニカム状等が例示されるが、特に平板状が望ましい。平板状固体酸化物形燃料電池用電解質シートとしては、厚さが50μm以上400μm以下、より望ましくは80μm以上300μm以下、さらに望ましくは100μm以上300μm以下で、平面面積が50cm2以上900cm2以下、より望ましくは80cm2以上500cm2以下の上記酸化物の緻密質焼結体からなる電解質シートが好適である。
【0041】
なお、本実施形態の固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、一方の面に燃料極、他方の面に空気極を形成することによって、固体酸化物形燃料電池用単セルを構成することができる。換言すると、本実施形態の固体酸化物形燃料電池用単セルが、燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された本実施形態の固体酸化物形燃料電池用電解質シートとを備えている。単セルには、表面を粗化した電解質シートを用いる場合がある。これは、電解質シートと燃料極との界面、および、電解質シートと空気極との界面が剥離して発電性能が低下することを防止するために、電解質シート表面にアンカー効果を持たせるためであり、さらには上記界面での電極反応場を増大し発電性能を向上するためである。電解質シートの表面を粗化することは、当然シート表面のキズを増大させることになるので、粗化する場合でもなるべく表面粗さが小さくなるように制御することが望ましい。
【0042】
電解質シートの具体的な表面粗さは、一方の面と他方の面がともに、Raで0.02μm以上1.5μm以下の範囲になるように調整することが望ましい。より望ましくは0.05μm以上1.2μm以下、さらに望ましくは0.08μm以上1.0μm以下の範囲である。なお、ここでいう表面粗さRaとは、JIS B0601:2001に準拠して測定される表面粗さ(Ra)のことである。
【0043】
電解質シートの形状としては、円形、楕円形、アールを持った角形等何れでもよく、これらのシート内に同様の円形、楕円形、Rを持った角形等の穴を1つもしくは2つ以上有するものであってもよい。なお、シート内に穴がある場合の平面面積とは、当該穴の面積を含んだ外周縁で囲まれる面積を意味する。
【0044】
上記の長尺グリーンテープの製法として一般的に採用されているのは、前述の如く酸化物粉末と有機質バインダー、分散剤、溶媒、必要により可塑剤や消泡剤等を含むスラリーを、離型処理した高分子フィルム上にドクターブレード法、カレンダー法、押出し法等によって連続的に敷き延べてテープ状に塗布し、これを乾燥させて溶媒を揮発させて長尺グリーンテープに成形するが、量産性とシート厚さの対応性からドクターブレード法を用いることが望ましい。
【0045】
前記グリーンテープの製造に使用されるバインダーの種類は、従来から知られた有機質バインダーを適宜選択して使用できる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系およびメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース等のセルロース類等が例示される。
【0046】
これらの中でも、グリーンテープの成形性および強度と、焼成時の熱分解性等との点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類;およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等の炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレート類;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレートまたはアミノアルキルメタクリレート類;アクリル酸やメタクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレートの如きマレイン酸半エステル等のカルボキシル基含有モノマー、から選択される少なくとも1種を重合または共重合させることによって得られる、数平均分子量が望ましくは20,000〜500,000、より望ましくは50,000〜400,000、さらに望ましくは100,000〜300,000であり、ガラス転移温度(Tg)が望ましくは−10〜80℃、より望ましくは0〜70℃、さらに望ましくは5〜60℃である、(メタ)アクリレート系共重合体が望ましいものとして推奨される。
【0047】
また、本実施形態の電解質シートのような、蛍光浸透探傷検査で検出されるキズの数が少ない電解質シートを作製するために、グリーンテープの切断加工時およびグリーンシートがセッターおよび/またはスペーサーと接触するグリーンシート焼成中に、グリーンテープおよびグリーンシートが軟らかいためにそれらの表面にキズが発生するという問題を避けることが望ましい。そこで、グリーンテープおよびグリーンシートを、キズが発生しにくい適度の硬さに調整することが望ましい。
【0048】
そこで、電解質シートを製造するためには、JIS K−2530の石油アスファルトの針入度試験方法(温度:25℃、荷重:100g、時間:5秒)に準拠して測定されるグリーンテープおよびグリーンシートの針入度が、望ましくは0.01〜0.3mm/分、より望ましくは0.02〜0.25mm/分、さらに望ましくは0.03〜0.2mm/分となるように調整することが望ましい。
【0049】
このグリーンテープおよびグリーンシートの針入度の調整には、上記数平均分子量およびガラス転移温度とともに、バインダーの酸価および酸価比(酸価比=酸価÷(酸価+水酸基価+アミン価)が影響する。したがって、グリーンテープの成形性および切断加工性を満足するとともに、焼成後の電解質シートにキズが発生しにくくするためには、バインダーの酸価を望ましくは0.1〜30、より望ましくは0.2〜20、さらに望ましくは0.3〜10に、酸価比を望ましくは0.01〜0.3、より望ましくは0.02〜0.25、さらに望ましくは0.03〜0.2に調整する。このように調整されたバインダーを用いたグリーンテープは、長尺テープを巻き取ってもキズやタックが発生しにくく、グリーンテープを所定寸法に切断加工してもグリーンシートにヒビ入が発生しにくく、グリーンシートを焼成してもキズが非常に少ない電解質シートが得られることになる。
【0050】
これらの有機質バインダーは、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。特に望ましいのは、イソブチルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシルメタクリレートを60質量%以上、アクリル酸やメタクリル酸を0.05質量%以上含むモノマーの重合体である。
【0051】
酸化物粉末とバインダーの使用比率は、前者100質量部に対して後者10〜30質量部、より望ましくは15〜20質量部の範囲が、グリーンテープ成形性、グリーンシート硬さ、易熱分解性および焼成して得られる電解質シートの平坦性の観点から、好適である。
【0052】
またグリーンテープの製造に使用される溶媒としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ブタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、等が適宜選択して使用される。これらの溶媒も単独で使用し得る他、2種以上を適宜混合して使用できる。これら溶媒の使用量は、グリーンテープ成形時におけるスラリーの粘度を加味して適当に調節するのがよく、望ましくはスラリー粘度が1〜50Pa・s、より望ましくは2〜20Pa・sの範囲となる様に調整するのがよい。
【0053】
上記スラリーの調製に当たっては、原料粉末の解膠や分散を促進するため、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体、そのアンモニウム塩、アミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体、そのアンモニウム塩、などの分散剤を必要に応じて添加することができる。更には、グリーンシートに柔軟性を付与するため、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル類;プロピレングリコールなどのグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステルなどのポリエステル類、などの可塑剤を必要に応じて添加することができる。更には、界面活性剤や消泡剤などを、必要に応じて添加することができる。
【0054】
上記原料配合からなるスラリーを前述の様な方法で適切な厚さに成形し、乾燥させて長尺グリーンテープを得た後、所定の形状・寸法に切断してグリーンシートとする。乾燥条件は特に制限されず、例えば室温〜150℃の一定温度で乾燥してもよいし、50℃、80℃、120℃の様に順次連続的に昇温して加熱乾燥してもよい。
【0055】
上記のように、本実施形態の電解質シートは、所定形状のグリーンシートを焼成し、グリーンシート中の有機成分を蒸散・燃焼させ、電解質粉末をシート状に焼結させることにより製造される。
【0056】
かかる焼成の際には、特許文献1に記載の技術のように、所定形状のグリーンシート間に多孔質セラミックシートをスペーサーとして上記グリーンシートの周縁部が多孔質セラミックシートからはみ出ない様に挟み、当該グリーンシートと多孔質セラミックシートが交互に積み重なった積層体にして焼成する方法がある。かかる多孔質セラミックシートは、グリーンシートからの有機成分分解ガスの放散を均一にして電解質シートの反りやうねりを低減し、電解質シート同士の接合を抑制し、電解質シートの生産性を向上するといった効果も有する。
【0057】
本実施形態の電解質シートを製造するためには、上記のようにスペーサーをグリーンシートと交互に積層してグリーンシートを焼成する。少なくとも片面に複数の突起を有し、前記突起の基底面形状が円形、楕円形、または、頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、前記突起の平均高さが0.05μm以上50μm以下、望ましくは0.08μm以上10μm以下、さらに望ましくは0.1μm以上5μm以下であり、平均厚さが100μm以上400μm以下である、突起形状を有するセラミックシートをスペーサーとして用いることが、電解質シートに発生するキズを低減する上で格段に優れている。なお、突起の平均高さとは、スペーサー表面における5μm〜2mm四方の領域(少なくともスペーサー表面の中心を含む領域であり、該領域内に突起が少なくとも50個存在する領域)について、該領域に存在する全ての突起について高さを測定し、これらの値から算出される平均値である。
【0058】
また、突起の高さとは、スペーサーのベースライン(基底面によって形成されるライン)から最も高さの高い位置までの距離である。突起の高さは、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(キーエンス社製、型番:VK−9500)用い、観察アプリケーション(キーエンス社製、「VK VIEWER」)でスペーサー表面のカラー超深度画像を撮影し、同時に該画像を解析アプリケーション(キーエンス社製、「VK ANALYZER」)でスペーサー表面プロファイルの形状解析により突起の形状計測を行うことによって求めることができる。具体的には、スペーサー表面の撮影画像(XY軸に相当)と突起形状プロファイルデータ(Z軸に相当)とを、複数の突起の中心を通るラインをベースにして重ね合わせて、突起の撮影画像上の最外周輪郭部と突起形状プロファイルの交点を通る面を基底面とした。突起形状プロファイルでベースラインから最も高い点までの法線距離を突起高さとした。
【0059】
また、スペーサーの平均厚さとは、同様に超深度カラー3D形状測定顕微鏡を用い、上記突起の平均高さおよび曲率半径と同様にして、観察アプリケーションでスペーサー断面のカラー超深度画像を撮影し、同時に該画像を解析アプリケーションでスペーサー表面プロファイルの形状解析によりスペーサーの一方の側の基底面と他方の側の基底面を特定して形状計測を行った。得られたシートの2つの基底面間の間隔をシート厚さとし、任意の5か所で間隔の平均値を平均厚さとした。
【0060】
これは、上記突起形状を有するスペーサー(以下、突起形状スペーサー)では、突起形状が半球形、半楕円球形、または、頂点および稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体であり、それらの突起が例えばスペーサー全面に渡って規則正しく配置されている。そのため、交互に積層されるグリーンシートと突起形状スペーサーとは、従来の面接触や線接触ではなく点接触になるので、その接触面積は小さくなる。その結果、グリーンシートとスペーサーとの積層状態におけるグリーンシートにかかる荷重は均一に分散され、且つ、グリーンシート焼成時の収縮による摩擦も非常に小さくなることから、電解質シート表面に発生するキズの数、特に微小・微細なキズの数が非常に少なくなると考えられる。
【0061】
その結果、電解質シートのクラック発生の起点となるキズの箇所が少なくなり、強度特性が増大し、電解質シートの信頼性が向上する。
【0062】
上記突起形状スペーサーとしては、片面における前記突起の平均高さが、スペーサー厚さを100としたとき、0.1以上33以下であること、望ましくは0.2以上10以下、より望ましくは0.3以上5以下であること、が好適である。また、上記突起形状スペーサーの前記突起の平均高さのばらつきの値(高さの標準偏差/平均高さ)が、いずれも0.25以下であること、前記突起の基底面の円相当径のばらつきの値(円相当径の標準偏差/平均円相当径)が、いずれも0.25以下であること、さらには、前記突起の平均高さと平均円相当径の比(平均高さ/平均円相当径)が、いずれも0.05以上0.5以下であることがさらに好適である。
【0063】
また、上記突起形状スペーサーは、緻密質、多孔質のいずれでもよく、その気孔率は0〜50%、望ましくは1〜40%、より望ましくは3〜30%である。
【0064】
また、上記突起形状スペーサーは、アルミナ、ジルコニア、ムライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが、焼成時に電解質シート成分との固相反応を防止する上で望ましい。
【0065】
上記突起形状スペーサー用セラミックシートの製造方法は、アルミナ、ジルコニア、ムライトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むグリーンシートの片面または両面に、基底面形状が円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、および/または、その立体形状が半球形、半楕円球形、または、頂点および稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体の陥没を有し、前記陥没の円相当径が0.05μm以上50μm以下、かつ前記陥没の深さが0.05μm以上50μm以下であるスタンパを押圧する工程を含む。
【0066】
前記スタンパを押圧する際の温度における、前記グリーンシートの最大応力が1.96MPa以上19.6MPa以下、かつ、最大応力時の伸び率が20%以上500%未満であることが望ましい。さらに、前記グリーンシートを形成するためのスラリーが、有機質バインダーを、前記セラミックシート材料100質量部に対して12質量部以上30質量部以下含有することが望ましい。これらにより、均一な突起形状を安定して製造できる。
【0067】
本実施形態の固体酸化物形燃料電池用単セルは、本実施形態の電解質シートを支持体とし、その一方の面に燃料極を形成し、他方の面に空気極をスクリーン印刷等で形成することによって得られる電解質支持型セルである。セルの支持体が、表面のキズ発生数が少ない、特に微細微小なキズが非常に少ない本実施形態の電解質シートであることより、前記単セルも強度特性に優れ、その信頼性が向上する。
【0068】
上記単セルの製法では、燃料極、空気極の形成の順序は適時設定すればよく、必要焼成温度の低い電極を先に電解質シート上に製膜して焼成した後、他方の電極を成膜して焼成してもよいし、あるいは燃料極および空気極を同時に焼成してもよい。また、電解質シートと空気極との固相反応による高抵抗成分が生成するのを防止するために、電解質シートと空気極との間にバリア層としてのセリア中間層を形成してもよい。この場合は、中間層を形成した面または形成すべき面とは逆の面上に燃料極を形成し、中間層の上に空気極を形成する。ここで、中間層と燃料極の形成の順序は特に制限されず、また、電解質シートの各面にそれぞれ中間層ペーストと燃料極ペーストを塗布乾燥した後に焼結することによって、中間層と燃料極を同時に形成してもよい。
【0069】
燃料極および空気極の材料、さらには中間層材料、また、これらを形成するためのペーストの塗布方法や乾燥条件、焼成条件等は、従来公知の方法に準じて実施できる。
【0070】
また、本実施形態の固体酸化物形燃料電池は、本実施形態の強度特性に優れ高い信頼性を有する単セルを備えている。したがって、本実施形態の固体酸化物形燃料電池は、単セル破損による損傷が低減され、耐久性に優れたものであることから、高い信頼性を有する。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は、下記実施例により制限を受けるものではない。本発明は、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で下記実施例に適当に変更を加えて実施することも可能である。それらは、いずれも、本発明の技術的範囲に包含される。
【0072】
まず、本実施例および比較例で用いた評価・検査方法について説明する。
【0073】
<評価・検査方法>
(1)電解質シートの蛍光浸透探傷検査
本実施例で使用した蛍光浸透探傷装置の全体構成を図1に示す。この図に示すように、本実施例で用いた蛍光浸透探傷装置10は、暗室11、ローラコンベア12、ブラックライト13、白色ストロボ14、ロングパスフィルタ15、CCD撮影カメラ16、位置検出センサー17および画像処理装置18を、基本構成として備えていた。本実施例では、この装置10を用いて、以下の方法でキズを検査した。図中、1は検査される電解質シートを示している。
【0074】
検査される電解質シート1には、図示しない前工程において、電解質シート1の表面の付着物を除去する前処理と、上述した浸透処理、洗浄処理および現像処理とが行われていた。すなわち、電解質シート1は、蛍光剤を表面のキズに浸透させた後の状態となっていた。蛍光剤は、水溶性蛍光浸透液(栄進化学社製、品名「ネオグロー、F−4A」)を用いた。なお、浸透処理時間は5分間であり、浸透処理した電解質シートを30cm離れた距離から水スプレーにて洗浄した。洗浄状態は電解質シートにブラックライトを照射しながら確認し、電解質シートを乾燥させて水分を除去した。
【0075】
ローラコンベア12で、蛍光剤を表面に浸透させた電解質シート1を暗室11内の所定の検査位置まで搬入し、当該所定の位置で電解質シート1を一時停止させた。蛍光探傷用のブラックライト(栄進化学社製、品名「ウルトラライトS−35」)13で、検査位置に停止した電解質シート1に波長375nmの近紫外線を連続的に照射して、CCD撮像カメラ16で蛍光静止画像を撮影した。次いで、通常の写真撮影用の白色ストロボ14で電解質シート1に可視光を1/1000秒間照射して、電解質シート1の外形を判別できる可視静止画像をCCD撮像カメラ16で撮影した。
【0076】
CCD撮影カメラ16には、CCDの有効画素数が1000×1000画素以上のデジタルビデオカメラを用い、視野は電解質シート1の寸法に合わせて、一辺100mmに設定した。
【0077】
画像処理装置18は、中央処理装置(CPU)(図示せず)、画像表示装置19、記憶装置20および通信制御装置21を備えていた。画像処理装置18は、蛍光静止画像と可視静止画像とを重ね合わせた重合せ画像を表示し、可視静止画像と電解質シート1の形状とのパターンマッチングにより可視静止画像上の検査領域を特定し、蛍光静止画像から検査領域以外の画像を消去し、さらに、蛍光静止画像をモフォロジ処理して蛍光箇所を特定し、可視静止画像と電解質シート形状とのパターンマッチングにより蛍光箇所の数を算出した。
【0078】
なお、本実施例では、検査領域は、1辺30mm以下の区画に分割して得られる各区画とした。検査する電解質シートが1辺100mmの角形シートであるので、その区画を、図2に示すようにAa,Ab・・・,・・・,Ddの計16区画に分割した。
【0079】
(2)電解質シートのCCD探傷検査
上記の蛍光浸透探傷検査装置10を用いたが、検査する電解質シート1には蛍光剤が浸透されておらず、また、ブラックライト13は照射せず白色ストロボで可視光のみを照射して電解質シート1の可視静止画像を撮影し、1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画のキズの数を算出した。なお、電解質シートの蛍光浸透探傷検査とCCD探傷検査とが行われる順序は特定されないが、本実施例では、作業効率を考慮して、先にCCD探傷検査した後に蛍光浸透探傷検査を行った。
【0080】
(3)曲げ強度試験
電解質シート20枚と、単セル20枚とについて、JIS R 1601に準拠して4点曲げ強度を測定した。測定は、キズの測定に供したサイズのままのシートと、それを用いて形成された単セルについて行なった。
【0081】
具体的には、図3に示すように、電解質シート30を、支点となる直径8mmで長さ120mmの4本のステンレス棒31で挟持した。ステンレス棒31の位置は、下部支点間(a−a)の距離が80mm、上部荷重支点間(b−b)の距離が60mmとなるように調整した。上部荷重点間にバスケットを置き、そのバスケットの中に直径1mmの鉛玉を入れることにより、電解質シート30全体に均等に荷重をかけた。電解質シート30が破損するまで鉛玉を入れ、破損したときの荷重から、電解質シート30の平均4点曲げ強度を算出した。単セルの測定も、電解質シート30と同様の方法で実施された。
【0082】
(4)耐荷重負荷試験
図4に示すように、電気炉中に設置したアルミナセッター41の上に、電解質シート40を20枚重ねて載置し、その上に5kg相当の荷重負荷用の緻密室アルミナ板42を載せた。このような状態(50g/cm2の荷重がかかった状態)にして、1000℃で100時間保持した。
【0083】
10時間後、アルミナ板42を取り去り、目視により、20枚の電解質シート40について割れの有無を調べた。割れが発生していたシートの枚数を数え、平均割れ発生率を算出した。
【0084】
次に、本実施例および比較例で用いた電解質シート用のグリーンシートと、当該グリーンシートの焼成に用いたスペーサーとについて、具体的に説明する。
【0085】
<電解質シート用のグリーンシート>
(1)6ScSZグリーンシート
6モル%スカンジウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「6ScSZ」、比表面積:11m2/g、平均粒子径:0.5μm、以下6ScSZと記す。)100質量部に対して、メタアクリレート系共重合体(数平均分子量:100,000、ガラス転位温度:−8℃、酸価:1、酸価比:0.04、固形分濃度:50質量%)からなるバインダーを固形分換算で17質量部、分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部を、トルエン/イソプロパノール(質量比:3/2)の混合溶媒と共にナイロンポットに投入し、60rpmで20時間ミリングして原料スラリーを調製した。このスラリーを減圧脱泡容器へ移し、3.99kPa〜21.3kPa(30Torr〜160Torr)に減圧して濃縮・脱泡し、粘度が2.5Pa・sの塗工用スラリーとした。
【0086】
得られた塗工用スラリーを塗工装置のスラリーダムに移して、塗工部のドクターブレードによってPETフィルム上に連続的に塗工し、塗工部に続く110℃の乾燥炉に0.15m/分の速度で通過させて溶媒を蒸発させ、乾燥させることにより長尺6ScSZグリーンテープを成形した。当該グリーンテープを切断して厚さが約220μmで約125mm角の6ScSZグリーンシートを得た。グリーンシートの針入度は0.26mm/分であった。
【0087】
(2)8YSZグリーンシート
8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「HSY−8」、比表面積:10m2/g、平均粒子径:0.5μm、以下8YSZと記す。)100質量部に対して、メタアクリレート系共重合体(数平均分子量:200,000、ガラス転移温度:5℃、酸価:3、酸価比:0.1、固形分濃度:45質量%)からなるバインダーを固形分換算で18質量部、分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3.8質量部およびトルエン/イソプロパノール混合溶媒(質量比:3/2)から、6ScSZグリーンシートの場合と同様にしてスラリーを調製し、ドクターブレード法で長尺8YSZグリーンテープに成形した。当該グリーンテープを切断して厚さが約320μmで約125mm角の8YSZグリーンシートを得た。グリーンシートの針入度は0.09mm/分であった。
【0088】
<スペーサー>
(1)突起形状アルミナ/ジルコニア系スペーサー
(アルミナ/ジルコニア系グリーンシートの作製)
平均粒子径が1.6μmの低ソーダアルミナ粉末(昭和電工社製、商品名「AL−160SG」)80質量部と、3モル%酸化イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学社製、商品名「HSY−3」、平均粒子径:0.4μm、比表面積:8.5m2/g)20質量部とに対し、6ScSZグリーンシートの場合と同様のバインダーを固形分換算で15質量部、分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部、可塑剤としてジブチルフタレート5質量部を、トルエン/イソプロパノール(質量比:3/2)の混合溶媒と共にナイロンポットに投入し、60rpmで20時間ミリングして原料スラリーを調製した。
【0089】
さらに、6ScSZグリーンシートの場合と同様にして、このスラリーを濃縮脱泡して粘度を10Pa・sに調整し、ドクターブレード法により塗工して長尺グリーンテープを得た。さらに電解質シート用のグリーンシートの製造と同様に当該グリーンテープを切断して、厚さが約210μmで約160mm角のアルミナ/ジルコニア系グリーンシートを得た。
【0090】
(突起形状アルミナ/ジルコニア系スペーサーの作製)
上記アルミナ/ジルコニア系グリーンシートを加熱テーブルの上に載置し、その上にスタンパを重ねて積層体(加熱テーブル/グリーンシート/スタンパ)とした。なお、スタンパには、押圧部および基板部がニッケル製であり、陥没形状が半球状で押圧部がフッ素樹脂でコートされたものを用いた。この積層体を圧縮成形機(神藤金属工業所製、型式「S−37.5」)のプレス部に載置してグリーンシートを40℃に保温しながら、押圧力22.5MPa(230kgf/cm2)、押圧時間2秒間の条件で加圧した後、スタンパをグリーンシートから剥離して、突起が形成されたアルミナ/ジルコニア系グリーンシートを得た。
【0091】
このグリーンシートを1550℃で3時間焼成することにより、図5に示すような突起51を表面に有するアルミナ/ジルコニア系スペーサー50を得た。アルミナ/ジルコニア系スペーサー50は、図6のアルミナ/ジルコニア系スペーサーの三次元形状を示すカラー超深度撮影画像に示されるような形状を有しており、突起の立体形状は半球状であり、突起はスペーサー基底面(突起以外の平面部分)に密に規則的に形成されていた。
【0092】
また、図7に示されるような、突起形状アルミナ/ジルコニア系スペーサーについて二次元形状の撮影画像と突起形状プロファイルデータとを重ね合わせた図から読み取ると、突起の平均高さは4.0μm、隣接する突起の頂点間の平均間隔は34μm、突起の平均円相当径が24μmであった。また、平均厚さは160μmで130mm角であった。
【0093】
(2)突起形状ムライト系スペーサー
(ムライト系グリーンシートの作製)
平均粒子径が0.8μm、比表面積が8.5m2/gの高純度ムライト粉末(共立マテリアル社製、商品名「KM」)100質量部に対し、電解質シート用のグリーンシートの製造で用いたバインダー17.5質量部、分散媒であるトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶媒45質量部および分散剤であるソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3.5質量部の混合物を、ボールミルで粉砕しつつ混合してスラリーとした。
【0094】
さらに、上記電解質シート用のグリーンシートの製造と同様に、このスラリーを濃縮脱泡して粘度を10Pa・sに調整した。ドクターブレード法により長尺グリーンテープを得た。さらに上記電解質シート用のグリーンシートの製造と同様に当該グリーンテープを切断して、厚さ約280μmで約160mm角のムライト系グリーンシートを得た。
【0095】
(突起形状ムライト系スペーサーの作製)
上記ムライト系グリーンシートを用いて、アルミナ/ジルコニア系グリーンシートの場合と同様にして積層体を作製し、その積層体を圧縮成形機(神藤金属工業所製、型式「S−37.5」)のプレス部に載置し、押圧力11.8MPa(120kgf/cm2)、押圧時間30秒間の条件で加圧した。加圧後、30℃以下に冷却してからスタンパをグリーンシートから剥離して、突起が形成されたムライト系グリーンシートを得た。
【0096】
このグリーンシートを1500℃で3時間焼成することによりムライト系スペーサーを得た。突起の立体形状は半球状であり、突起の平均高さは9.2μm、隣接する突起の頂点間の平均間隔は53μm、突起の平均円相当径が41μmであった。また、平均厚さは221μmで130mm角であった。
【0097】
(3)球状アルミナ粒子系スペーサー
市販の平均粒子径0.7μm、比表面積が7.5m2/gのアルミナ真球状粒子95質量部と、上記3モル%酸化イットリウム安定化ジルコニア粉末5質量部とに対し、上記アルミナ/ジルコニア系グリーンシートの製造の場合と同様の溶媒40質量部、分散剤2.5質量部を添加して、粉砕しつつ混合した。さらに同様のバインダー15質量部、可塑剤2質量部を混合してスラリーとした。当該スラリーを用いて、上記アルミナ/ジルコニア系グリーンテープの場合と同様にして、厚さ280μmの長尺グリーンテープを得た。さらに当該グリーンテープを上記電解質シート用のグリーンシートの製造と同様に切断して、約160mm角の球状アルミナ系グリーンシートを得た。このグリーンシートを1550℃で3時間焼成することにより、約130mm角、厚さ280μmの球状アルミナ粒子系スペーサーを得た。
【0098】
(4)不定形アルミナ粒子系スペーサー
平均粒径55μmの不定形アルミナ粒子(昭和電工社製、商品名「Al−15」)100質量部に対して、上記アルミナ/ジルコニア系グリーンシートの製造の場合と同様の溶媒40質量部、分散剤2.5質量部を添加して、粉砕しつつ混合した。さらに同様のバインダー15質量部、可塑剤2質量部を混合してスラリーとした。当該スラリーを用いて、上記アルミナ/ジルコニア系グリーンテープの場合と同様にして、厚さ280μmの長尺グリーンテープを得た。さらに当該グリーンテープを上記電解質シート用のグリーンシートの製造と同様に切断して、約160mm角の不定形アルミナ系グリーンシートを得た。このグリーンシートを1580℃で3時間焼成することにより、約130mm角、厚さ260μmの球状アルミナ粒子系スペーサーを得た。
【0099】
次に、各実施例および比較例の電解質シートについて説明する。
【0100】
(実施例1)
(6ScSZ電解質シートの作製)
前記6ScSZグリーンシートと、上記のようにして得られた突起形状アルミナ/ジルコニアスペーサーとの組合せで、図8に示すような10枚の6ScSZグリーンシート60と11枚のスペーサー50との積層体を100組準備した。この積層体を厚さ10mmの280mm角アルミナセッター41に載せ、当該セッターを支柱(図示せず)を介して互いに積み重ねた状態で、バッチ式焼成炉へ挿入し、1420℃で3時間焼成した。これにより、100mm角で厚さが180μmの6ScSZ電解質シートを1000枚作製した。なお、JIS B0601:2001に基づいて、触針式粗さ計(ミツトヨ社製、型式「SJ−201」)で測定したこれらの表面粗さ(Ra)は、一方の面の平均Raが0.05μm、他方の面の平均Raが0.12μmであった。
【0101】
(実施例2)
(8YSZ電解質シートの作製)
前記8YSZ系グリーンシートと、上記のようにして得られた突起形状ムライトスペーサーとの組合せで、図8に示すような10枚の8YSZグリーンシート60と11枚のスペーサー50との積層体を100組準備した。この積層体を厚さ10mmの280mm角アルミナセッター41に載せ、当該セッターを支柱(図示せず)を介して互いに積み重ねた状態で、バッチ式焼成炉へ挿入し、1450℃で3時間焼成した。これにより、約100mm角で厚さが250μmの8YSZ電解質シートを1000枚作製した。なお、これらの表面粗さ(Ra)を実施例1と同様の方法で測定したところ、一方の面の平均Raが0.07μm、他方の面の平均Raが0.16μmであった。
【0102】
(実施例3)
(6ScSZ電解質シートの作製)
前記6ScSZグリーンシートと、上記のようにして得られた突起形状アルミナ/ジルコニアスペーサーおよび球状アルミナ粒子系スペーサーとを用い、突起形状アルミナ/ジルコニアスペーサーと球状アルミナ粒子系スペーサーが交互になるように6ScSZグリーンシート間に配置する組み合わせで、10枚の6ScSZグリーンシート60と、6枚の突起形状アルミナ/ジルコニアスペーサーと、5枚の球状アルミナ粒子系スペーサーとの積層体を100組準備した。この積層体を厚さ10mmの280mm角アルミナセッターに載せ、当該セッターを支柱を介して互いに積み重ねた状態で、バッチ式焼成炉へ挿入し、1420℃で3時間焼成した。これにより、100mm角で厚さが180μmの6ScSZ電解質シートを1000枚作製した。同様にして測定したこれらの表面粗さ(Ra)は、一方の面の平均Raが0.07μm、他方の面の平均Raが0.19μmであった。
【0103】
(比較例1)
突起形状アルミナ/ジルコニアスペーサーの代わりに上記のようにして得られた球状アルミナ粒子系スペーサーを用いた以外は、実施例1と同様にして、約100mm角で厚さが180μmの6ScSZ電解質シートを1000枚作製した。
【0104】
(比較例2)
突起形状アルミナ/ジルコニアスペーサーの代わりに上記のようにして得られた不定形アルミナ粒子系スペーサーを用いた以外は、実施例1と同様にして、約100mm角で厚さが180μmの6ScSZ電解質シートを1000枚作製した。
【0105】
(実施例4〜6と、比較例3および4)
実施例4〜6では、それぞれ実施例1〜3の電解質シートを用いた単セルを作製した。また、比較例3および4では、それぞれ比較例1および2の電解質シートを用いた単セルを作製した。単セルの具体的な作製方法は、以下のとおりである。
【0106】
(単セルの作製)
実施例1で得られた電解質シートから、任意に50枚抜き出した。各電解質シートの一方の面に燃料極、他方の面に空気極を形成し、固体酸化物形燃料電池用単セルを50枚作製した。詳しくは、各電解質シートの一方の面に、塩基性炭酸ニッケルを熱分解して得た平均粒子径0.9μmの酸化ニッケル粉末70質量部と、前記8YSZグリーンシートの製造に用いた粉末30質量部と、溶媒等とからなる燃料極ペーストをスクリーン印刷で塗布した。各電解質シートの他方の面に、20モル%サマリウムドープセリア粉末と溶媒等とからなる中間層ペーストをスクリーン印刷で塗布した。これを1300℃で焼き付けて、各電解質シートに燃料極と中間層とを形成した。次いで、中間層の上に、市販のストロンチウムドープドランタン鉄コバルテート(La0.6Sr0.4Fe0.8Co0.23)粉末80質量部と市販の20モル%ガドリニアドープセリア粉末20質量部と、溶媒等からなる空気極ペーストを、スクリーン印刷で塗布した。これを1000℃で焼き付けて、4層構造の単セルを作製した。実施例2および3と比較例1および2の電解質シートを用いて、同様に4層構造の単セルを作製した。実施例1の電解質シートを用いて作製した単セルを実施例4とした。実施例2の電解質シートを用いて作製した単セルを実施例5とし、実施例3の電解質シートを用いて作製した単セルを実施例6とした。比較例1の電解質シートを用いて作製した単セルを比較例3とした。比較例2の電解質シートを用いて作製した単セルを比較例4とした。
【0107】
(試験1)
実施例1〜3と、比較例1および2とで得られた電解質シートそれぞれ100枚について、電解質シートの両方の面の前記蛍光浸透探傷検査と前記CCD探傷検査とを行った。100枚の内の任意の1枚の各電解質シートの各区画での前記蛍光浸透探傷検査でのキズ検出数およびCCDカメラ検査でのキズ検出数を表1に示す。また、各100枚についても同様に検査を行い、蛍光浸透探傷検査でのキズ検出数が30点を超える区画数の平均値、および、CCDカメラ検査でのキズ検出数の数が7点を超える区画数の平均値の結果を表2に示す。
【0108】
(試験2)
実施例1〜3と、比較例1および2とで得られた電解質シートそれぞれ20枚、並びに、実施例4〜6と、比較例3および4の単セルそれぞれ20枚について、前記曲げ強度試験と前記耐荷重負荷試験とを行った。結果を表2と表3に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
表1からわかるように、実施例1および2の電解質シートでは、両方の面のいずれの1辺30mmの区画および30mm未満の区画において、蛍光浸透探傷検査で検出されるキズの数は30点以下、CCD探傷検査で検出されるキズの数は7点以下であった。
【0113】
また、実施例3の電解質シートでは、突起形状スペーサーに接する面のいずれの区画においても、蛍光浸透探傷検査で検出されるキズの数は30点以下、CCD探傷検査で検出されるキズの数は7点以下であったが、球状粒子系スペーサーに接する面の区画においては、蛍光浸透探傷検査で検出されるキズの数が30点を超える区画が2つ、CCD探傷検査で検出されるキズの数が7点を超える区画が1つ認められた。
【0114】
比較例1および2の電解質シートには、蛍光浸透探傷検査で検出されるキズの数が30点を超える区画が、1つの面で3区画以上存在した。CCD探傷検査で検出されるキズの数が7点を超える区画は2区画以上であった。
【0115】
また、表2に示すように、蛍光浸透探傷検査で検出されるキズの数が30点を超える区画がゼロであり、CCD探傷検査で検出されるキズの数が7点を超える区画がゼロである実施例1の電解質シートは、曲げ強度は560MPaであり、耐荷重負荷試験による割れはゼロであった。これに対し、キズの数が多い比較例1の電解質シートは、曲げ強度が実施例1よりも低下し、耐荷重負荷試験でシートの割れが認められるようになった。キズの数がさらに多い比較例2の電解質シートでは、曲げ強度が実施例1と比較して15%低下し、耐荷重負荷試験でシートの割れ発生率も30%と多くなっていた。
【0116】
また、一方の面が蛍光浸透探傷検査で検出されるキズの数が30点を超える区画がゼロであり、CCD探傷検査で検出されるキズの数が7点を超える区画がゼロであるが、他方の面が30点を超える区画を有する実施例3の電解質シートは、曲げ強度が実施例1とほぼ同等であったが、耐荷重負荷試験でシートの割れが若干認められるようになった。
【0117】
このことから、蛍光浸透探傷検査で検出される1辺30mm以内の区画キズの数が電解質シートの強度物性に影響を与え、本発明で特定されたキズの数を満たす電解質シートは曲げ強度および耐過重負荷試験において優れた性能を有しており高品質であることが分かる。
【0118】
また、実施例1の電解質シートを用いた実施例4の単セルは、曲げ強度は550MPaで若干低下したが、耐荷重負荷試験による単セルの割れはゼロであった。一方、キズの数が多い比較例1の電解質シートを用いた比較例3の単セルは、実施例4の単セルに対して曲げ強度が約10%低下し、単セルの割れ発生率も15%と多く認められるようになった。キズの数がさらに多い比較例2の電解質シートを用いた比較例4の単セルは、曲げ強度が大きく低下し耐荷重負荷試験でシートの割れ発生率が40%と非常に高くなった。
【0119】
また、実施例2の電解質シートを用いた実施例5の単セルは、曲げ強度は215MPaで同じように若干低下したが、耐荷重負荷試験による単セルの割れはゼロであった。
【0120】
実施例3の一方の面に所定のキズ数を超える区画が含まれている電解質シートを用いた実施例5の単セルは、実施例4の単セルに対して曲げ強度が約3%低下し、単セルの割れ発生率も4%と認められるようになった。
【0121】
以上のことから、本発明の特定されたキズの数のジルコニア系電解質シートは高品質であり、これを用いた単セルも優れた強度特性を有しているので、信頼性の高い単セルを得るための好適な電解質シートであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用の電解質シートと、当該電解質シートを備えた固体酸化物形燃料電池用セルおよび固体酸化物形燃料電池に関する技術であり、信頼性の高い強度特性を備えた電解質シートを実現できることから、固体酸化物形燃料電池用セルおよび固体酸化物形燃料電池の信頼性向上に寄与できるものである。
【符号の説明】
【0123】
1,30,40 電解質
10 蛍光浸透探傷装置
11 暗室
12 ローラコンベア
13 ブラックライト
14 白色ストロボ
15 ロングパスフィルタ
16 CCD撮影カメラ
17 位置検出センサー
18 画像処理装置
19 画像表示装置
20 記憶装置
21 通信制御装置
31 ステンレス棒
41 アルミナセッター
42 アルミナ板
50 アルミナ/ジルコニア系スペーサー
51 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用の電解質シートであって、
少なくとも一方の面において、蛍光浸透探傷試験で検出される前記シートの表面のキズの数が、前記シートを1辺30mm以内の区画に分割して得られる各区画で30点以下である、
固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項2】
CCDカメラを用いて得られる画像に基づいて検出される前記シートの表面のキズの数が、前記各区画で7点以下である、
請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項3】
ジルコニア系酸化物を含有し、
前記ジルコニア系酸化物が、スカンジウム、イットリウム、セリウムおよびイッテルビウムよりなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物で安定化されたジルコニアである、
請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項4】
前記電解質シートの厚さが50μm以上400μm以下であり、平面面積が50cm2以上900cm2以下である、
請求項1〜3の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項5】
燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された請求項1〜4の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートとを備えた、
固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項6】
請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池用単セルを備えた、
固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
(I)固体酸化物形燃料電池用電解質シートの表面に対して蛍光浸透探傷試験を実施して、前記電解質シートの表面のキズを検出する工程と、
(II)前記電解質シート少なくとも一方の面を1辺30mm以内の区画に分割し、得られた区画ごとに前記工程(I)で検出された前記キズの数を求めて、前記区画ごとの前記キズの数を所定の数と比較して前記電解質シートの合否を判定する工程と、
を含む、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの検査方法。
【請求項8】
(i)固体酸化物形燃料電池用電解質シート用のグリーンシートを作製する工程と、
(ii)前記グリーンシートを焼成して固体酸化物形燃料電池用電解質シートを得る工程と、
(iii)前記工程(ii)で得られた前記電解質シートを、請求項7に記載の検査方法を用いて検査する工程と、
を含む、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−216540(P2012−216540A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−78173(P2012−78173)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】