説明

固化材

【課題】地盤改良に用いるセメント系固化材であって、固化処理した地盤の強度が大きく、かつ六価クロムの溶出量が少ない固化材を提供する。
【解決手段】セメントクリンカー粉末を主体とし、石膏粉末、高炉スラグ粉末、および石灰石粉末を含有し、セメントクリンカーおよび石膏と共に、高炉スラグおよび石灰石の少なくとも何れかを一緒に混合粉砕してなることを特徴とする固化材であり、好ましくは、ブレーン比表面積3500〜5000cm2/gであり、セメントクリンカー粉末を50wt%以上含み、セメントクリンカー粉末と石膏粉末の合計量が60〜80wt%、高炉スラグ粉末と石灰石粉末の合計量が20〜40wt%、高炉スラグ粉末と石灰石粉末の含有量比が100:1〜1:1である固化材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良に用いるセメント系固化材であって、固化処理した地盤の強度が大きく、かつ六価クロムの溶出量が少ない固化材に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤を固化する処理材としてセメントやセメントを主体とした固化材が従来から知られていた。しかし、土壌等の条件によっては処理した土壌から六価クロムが溶出することが判り、六価クロムの溶出を規制する通達が行政機関から出された。その後、六価クロム対策用セメント系固化材が販売されるようになり、これらの固化材を使用することによって六価クロムの溶出量は低減されているが、六価クロム溶出の問題が全て解決されたわけではない。
【0003】
セメント系固化材については、高炉スラグ粉末を配合することによって六価クロムの溶出を抑制できることが知られている。高炉スラグ粉末が還元剤として作用し、六価クロムが三価クロムに還元されて溶出が抑制される。
【0004】
具体的には、例えば、特開2002−320954号公報に重金属溶出抑制処理材が記載されている。この処理材は六価クロム、砒素、セレン、カドミウム、水銀および鉛の少なくとも1種または複数の重金属で汚染された土壌を不溶化して重金属の溶出を抑制する。具体的には、高炉スラグ微粉末、石膏、およびカルシウムを含有するアルカリ材料からなる重金属溶出抑制剤である。
【0005】
また、特開2001−348571号公報には、水硬性材料、高炉スラグ、および石膏を含む地盤改良材が記載されており、これは高炉スラグによって六価クロムの溶出を低減する。具体的には、セメントなどの水硬性材料100重量部に対して、高炉スラグ5重量部以上、及び石膏を無水石膏換算で2重量部以上含む材料を用いて、六価クロムの溶出を抑制する方法である。
【0006】
さらに、特開2006−193971号公報には、六価クロム溶出低減剤として高炉スラグ粉末を含み、さらに石膏および消石灰ないし生石灰の1種または2種を含む水硬性材料(セメント等)を用いる地盤改良工法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−320954号公報
【特許文献2】特開2001−348571号公報
【特許文献3】特開2006−193971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の処理方法は、重金属溶出防止を目的としており、セメントやセメント系固化材は用いられていないので軟弱地盤を固化する効果はない。また、特許文献2の方法は、高炉スラグを5重量部以上含むことで溶出を抑制できると説明されているが、実施例において最も少ない高炉スラグの添加量は、セメント100重量部に対して高炉スラグ42.9重量部であり、実際には多量の高炉スラグを必要としており、しかも実施例における最大地盤強度は550kN/m2であり、これを上回る地盤強度は得られていない。
【0009】
特許文献3の方法は、高炉スラグの含有量が少なくても、六価クロムの溶出量が少なく、地盤強度が大きい利点を有しているが、1回目の固化材を添加混合した土壌部分が凝結の準備期に達した時点以降に、この固化材が添加混合された部分に対して、2回目の固化材を添加混合する方法であり、添加方法が特定されている。
【0010】
本発明は、高炉スラグの含有量が少なくても六価クロムの溶出量が少なく地盤強度が大きい利点を有しつつ、段階的に添加しなくても十分な六価クロム溶出抑制効果と地盤固化効果を得ることができる固化材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の構成からなる地盤固化に関する。
〔1〕セメントクリンカー粉末を主体とし、石膏粉末、高炉スラグ粉末、および石灰石粉末を含有し、セメントクリンカーおよび石膏と共に、高炉スラグおよび石灰石の少なくとも何れかを一緒に混合粉砕してなることを特徴とする固化材。
〔2〕セメントクリンカーおよび石膏と共に、高炉スラグおよび石灰石の少なくとも何れかを一緒に混合粉砕したブレーン比表面積3500〜5000cm2/gの粉末からなる上記[1]に記載する固化材。
〔3〕セメントクリンカー粉末を50wt%以上含み、セメントクリンカー粉末と石膏粉末の合計量が60〜80wt%、高炉スラグ粉末と石灰石粉末の合計量が20〜40wt%であって、高炉スラグ粉末と石灰石粉末の含有量比が100:1〜1:1である上記[1]または上記[2]に記載する固化材。
【発明の効果】
【0012】
本発明の固化材は、セメントクリンカー粉末を主体とするので固化処理によって地盤強度を高めることができる。好ましくは、地盤強度を520kN/m2以上に高めることができる。また、本発明の固化材は、高炉スラグ粉末の含有量が少なくても六価クロムの溶出を環境基準値以下に抑制することができる。具体的には、例えば、35wt%以下の高炉スラグ含有量によって、六価クロムの溶出量を0.05mg/L以下に抑制することができる。
【0013】
本発明の固化材は、少なくともセメントクリンカー、石膏、および石灰石を一緒に混合粉砕して製造したものであり、何れも一般的な成分であって特殊な成分を含有せず、また特殊な工程によって製造したものではないので、容易に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態と共に具体的に説明する。
本発明の固化材は、セメントクリンカー粉末を主体とし、石膏粉末、高炉スラグ粉末、および石灰石粉末を含有し、セメントクリンカーおよび石膏と共に、高炉スラグおよび石灰石の少なくとも何れかを一緒に混合粉砕してなることを特徴とするものである。
【0015】
本発明において、使用するセメントクリンカーと石膏と高炉スラグおよび石灰石の種類は特に限定されない。セメントクリンカーは通常使用している種類、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントのいずれでもよい。
【0016】
石膏は無水石膏、二水石膏、および半水石膏の何れでも良く、これらを1種類以上混合したものでもよく、また天然産品、副産品のいずれも使用することができ、使用効果に大きな影響がなければ粘土鉱物などの不純物が混入しているものも使用することができる。高炉スラグや石灰石も通常使用しているものでよい。
【0017】
本発明の固化材は、セメントクリンカーおよび石膏と共に、高炉スラグおよび石灰石の少なくとも何れかを一緒に混合粉砕してなるものである。粉砕手段は混合して粉砕できる装置であればよい。粉砕の程度はブレーン比表面積3500〜5000cm2/gの粉末にするのが好ましい。
【0018】
上記原料を一緒に混合粉砕する場合、高炉スラグと石灰石は、少なくとも何れかがセメントクリンカーおよび石膏と一緒に混合粉砕される。好ましくは、高炉スラグと石灰石の両方がセメントクリンカーおよび石膏と一緒に混合粉砕される。
【0019】
上記原料を個別に粉砕した後に混合してなる固化材よりも、これらの原料を混合して一緒に粉砕してなる固化材のほうが地盤強度が大きく、六価クロムの溶出抑制効果も良い。上記原料を混合して一緒に粉砕することによって、粉末どうしが絡み合った状態になり、これに水が加わるとセメントの水和反応や高炉スラグの水和反応が促進され、これらの水和反応が促進された状態において、セメントと石膏が反応してエトリンガイトなどの水和物の生成が促進され、地盤の強度を高め、一方、石灰石は高炉スラグ中のアルミニウムや硫化物の溶出を促し、これが六価クロムを吸着または還元することによって、六価クロムの溶出が効果的に抑制され、原料を個別に粉砕した後に混合してなる固化材よりも地盤強度が大きく、六価クロムの溶出抑制効果が向上すると考えられる。
【0020】
本発明の固化材は、セメントクリンカー粉末を50wt%以上含み、セメントクリンカー粉末と石膏粉末の合計量が60〜80wt%、高炉スラグ粉末と石灰石粉末の合計量が20〜40wt%であって、高炉スラグ粉末と石灰石粉末の含有量比が100:1〜1:1であるものが好ましい。
【0021】
セメントクリンカー粉末の含有量が50wt%より少なく、セメントクリンカー粉末と石膏粉末の合計量が60wt%より少ないと、地盤強度を高める効果が低下するので好ましくない。セメントクリンカー粉末と石膏粉末の合計量が80wt%より多いと、相対的に高炉スラグや石灰の含有量が減少するので好ましくない。一方、高炉スラグ粉末と石灰石粉末の合計量が40wt%より多いと、相対的にセメントクリンカーと石膏の合計量が60wt%より少なくなるので好ましくない。
【0022】
高炉スラグ粉末と石灰石粉末の合計量が20wt%より少なく、また高炉スラグ粉末の量が石灰石粉末量の1/2よりも少ないと、六価クロムの溶出を抑制する効果が低下するので好ましくない。一方、高炉スラグ粉末100重量部に対して石灰石粉末が1重量部より少なくと、石灰石粉末の量が少なすぎて高炉スラグの反応性を低下させるため、好ましくない。
【実施例】
【0023】
〔固化材の製造〕
セメントクリンカー、二水石膏、高炉スラグ、および石灰石を原料とし、表1および表2に示す配合比にて混合して固化材を製造した。比較例1〜4の固化材はこれらの原料を個別にブレーン比表面積4000cm2/gに粉砕したものを混合して製造したものである。実施例1〜7および参考例の固化材はこれらの原料を全て混合して粉砕し、ブレーン比表面積4000cm2/gの粉末にしたものである。
【0024】
〔土壌固化試験〕
埼玉県産関東ローム(湿潤密度1.326g/cm3、含水比120.8%)を用い、この土壌に対して実施例1〜7および比較例1〜5の固化材を、おのおの200kg/m3の割合で混合して一軸圧縮試験用供試体(直径50mm、高さ100mm)を成形し、7日材齢の一軸圧縮試験を行った。また、環境庁告示第46号法に準拠して6価クロムの溶出試験を行った。試験結果を表1および表2に示す。
【0025】
表1および表2に示すように、実施例1〜7の固化材(材料を全て混合粉砕して製造した固化材)を用いた場合には、処理土の強度は何れも520kN/m2以上であり、六価クロムの溶出量は0.05mg/L以下である。一方、材料を粉末した後に混合して製造した固化材(比較例1〜4)を用いた場合には、材料の成分比が実施例1〜4と同一であっても、処理土の強度は何れも515kN/m2以下であり、六価クロムの溶出量は0.08mg/L以上であって、処理効果が低い。
【0026】
また、表2の参考例に示すように、高炉スラグ粉末の含有量が石灰石粉末の含有量の1/2では、処理土の強度が低くなり、六価クロムの溶出量も多くなるので、高炉スラグ粉末の含有量は石灰石粉末よりも多いことが好ましい。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカー粉末を主体とし、石膏粉末、高炉スラグ粉末、および石灰石粉末を含有し、セメントクリンカーおよび石膏と共に、高炉スラグおよび石灰石の少なくとも何れかを一緒に混合粉砕してなることを特徴とする固化材。
【請求項2】
セメントクリンカーおよび石膏と共に、高炉スラグおよび石灰石の少なくとも何れかを一緒に混合粉砕したブレーン比表面積3500〜5000cm2/gの粉末からなる請求項1に記載する固化材。
【請求項3】
セメントクリンカー粉末を50wt%以上含み、セメントクリンカー粉末と石膏粉末の合計量が60〜80wt%、高炉スラグ粉末と石灰石粉末の合計量が20〜40wt%であって、高炉スラグ粉末と石灰石粉末の含有量比が100:1〜1:1である請求項1または請求項2に記載する固化材。

【公開番号】特開2012−46704(P2012−46704A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192662(P2010−192662)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】