説明

土壌加熱装置、土壌浄化方法、および土壌加熱装置の敷設方法

【課題】汚染土壌の浄化を促進するため、大きな外部エネルギーを投入することなく、土壌内部を加熱する手段を提供する。
【解決手段】地上に配置され、太陽熱の集熱を行う集熱手段1と、集熱手段1と熱的に接続された蒸発部3、土壌内部に配置された凝縮部4、および蒸発部3と凝縮部4を接続する配管18、19を有するヒートパイプと、凝縮部4周辺の土壌の温度を検知する温度センサ21と、凝縮部4周辺の土壌の温度に基づいて、流量制御弁5を制御し凝縮部4周辺の土壌への伝熱量を調節する流量制御手段20とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌汚染の浄化を促進する土壌加熱装置、土壌浄化方法および土壌加熱装置の敷設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ハロゲン化合物や炭化水素などの有機化合物による土壌汚染問題が顕在化し、土地の運用や流通に支障をきたすケースが増加している。さらに土壌汚染防止法の成立により、有害物質使用特定施設の使用廃止に伴う土壌汚染調査、および基準を超える汚染が発覚した場合の浄化措置等の実施が土地所有者や汚染原因者に義務付けられることとなり、土壌浄化技術に対するニーズがますます高まっている。
【0003】
こうした流れを受け、大規模な掘削作業が不要で、安価かつ工場等の操業を停止せずに実施が可能な土壌浄化方法として、土壌ガス吸引法やバイオレメディエーションなど、原位置での処理が可能となる方法が特に注目されている。
【0004】
土壌中に浸透した汚染物質は、土壌粒子に吸着したり、地下水に溶解した形などでも存在する。このため、土壌ガス吸引法の場合、浄化処理が進み汚染物質の濃度が低下するに従って、吸引による除去効率が低下するという課題を有している。一方、微生物を用いて汚染物質を分解する方法であるバイオレメディエーションについては、冬の低温時に微生物の活性が低下し、その結果浄化完了までの期間が長期化するという課題がある。
【0005】
こうした観点から、土壌を加熱し、汚染物質の土壌粒子からの脱着、地下水からの揮発および/または分解微生物の活性化を図る方法が試行されてきた。
【0006】
従来、土壌内部を加熱して汚染土壌を浄化する方法としては、修復土壌の地表面に配置された配管内を通過する熱媒、特にくみ上げた地下水を太陽光により加熱し、前記熱媒を修復土壌中に循環または導入する方法があった(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図4および図5は、特許文献1に示される土壌修復装置の模式図である。熱媒を輸送するパイプ51が、修復土壌上に配管されている。52はミラーで、太陽熱がパイプ51に集熱されるようになっている。このようにして太陽熱で加熱された温水は、ポンプ53によって土壌深部帯水層に送られる。
【0008】
この土壌修復装置では、熱媒として地下水を使用する。ポンプ55で帯水層からくみ上げられた地下水がパイプ51に送られ、ミラー52で加熱されて、再び帯水層に導入される構成となっている。
【0009】
図4の場合には、ポンプ53で帯水層に導入した温水を再度利用できるように、ポンプ53とポンプ55が地中の配管により接続される構成となっている。
【0010】
この他、土壌内部を加熱して汚染土壌を浄化する方法として、電力を用いる方法(例えば、特許文献2参照)や、約200℃の高温気体を導入する方法などが提案されている。
【特許文献1】特許第3332558号公報(第1−6頁、図1、図2)
【特許文献2】国際公開第93/01010号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の従来の構成では、熱媒として液体、特に地下水を使用して顕熱輸送を行っているため、熱媒の加熱に高いエネルギーが必要となり、汚染土壌への効率的な熱伝達が困難であるという課題を有していた。
【0012】
また、図4に示す従来の構成の場合には、汚染土壌を加熱するための熱媒を輸送するパイプが土壌内部に敷設されており、この構造を実現するためには汚染土壌の大規模な掘削が必要となり、施工コストが大幅に増大するという課題を有していた。
【0013】
また、図5に示す従来の構成の場合には、その構造の実現にあたっては土壌の大規模な掘削は不要であるが、熱媒として地下水以外の利用が不可能であるという課題を有していた。
【0014】
また、加熱に電力や高温気体を使用する方法では、土壌は熱伝導率が低いため、所望の温度に加熱するために必要なエネルギーが非常に大きなものとなり、経済性と環境性の両面で負荷が大きくなるという課題を有していた。
【0015】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、大きな外部エネルギーの投入を必要とせず、高効率で施工の容易な、土壌加熱装置、土壌浄化方法および土壌加熱装置の敷設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するために、第1の本発明は、
地上に配置され、太陽熱の集熱を行う集熱手段と、
前記集熱手段と熱的に接続された蒸発部、土壌内部に配置された凝縮部、および前記蒸発部と前記凝縮部を接続する配管を有するヒートパイプとを備えた、土壌加熱装置である。
【0017】
第2の本発明は、
さらに、前記配管に配置され、前記ヒートパイプ内を循環する熱媒の流量を制御する流量制御弁と、
前記凝縮部周辺の土壌の温度を検知する温度検知手段と、
前記凝縮部周辺の土壌の温度に基づいて、前記流量制御弁を制御し、前記凝縮部周辺の土壌への伝熱量を調節する流量制御手段とを備えた、第1の本発明の土壌加熱装置である。
【0018】
第3の本発明は、
さらに、前記凝縮部周辺の土壌の温度を検知する温度検知手段と、
前記配管に配置され、前記凝縮部の熱媒を前記蒸発部に移動させる熱媒循環ポンプとを備え、
前記熱媒循環ポンプは、前記凝縮部周辺の土壌の温度に基づいて、前記凝縮部から前記蒸発部に移動させる前記熱媒の移動量を制御することにより、前記凝縮部周辺の土壌への伝熱量を調節する、第1の本発明の土壌加熱装置である。
【0019】
第4の本発明は、
前記熱媒循環ポンプは、前記集熱手段から供給される熱により稼動される、第3の本発明の土壌加熱装置である。
【0020】
第5の本発明は、
さらに、地上に配置され、太陽光により発電を行う太陽光発電手段を備え、
前記熱媒循環ポンプは、前記太陽光発電手段より供給される電力により稼働される、第3の本発明の土壌加熱装置である。
【0021】
第6の本発明は、
前記配管は、前記蒸発部から前記凝縮部に熱媒が移動する蒸気管、および前記凝縮部から前記蒸発部に熱媒が移動する液管を有しており、
前記蒸気管および前記液管は断熱材で囲まれている、第1の本発明の土壌加熱装置である。
【0022】
第7の本発明は、
さらに、前記蒸気管および前記液管がその内部に配置される保護管を備えている、第6の本発明の土壌加熱装置である。
【0023】
第8の本発明は、
さらに、土壌汚染化合物の分解を促進する物質および/または土壌汚染化合物の分解能を有する微生物を供給する供給管を備え、
前記供給管は、前記蒸気管および前記液管とともに前記保護管の内部に配置されている、第7の本発明の土壌加熱装置である。
【0024】
第9の本発明は、
前記土壌を加熱する際に、土壌中に供給した前記微生物の活性化を行う、第8の本発明の土壌加熱装置である。
【0025】
第10の本発明は、
さらに、土壌ガスを吸引する土壌ガス吸引管を備え、
前記土壌ガス吸引管は、前記蒸気管および前記液管とともに前記保護管の内部に配置されており、前記土壌を加熱する際に、汚染物質を含有した前記土壌中の土壌ガスを吸引する、第7の本発明の土壌加熱装置である。
【0026】
第11の本発明は、
太陽熱の集熱を行う集熱手段に熱的に接続された蒸発部、土壌内部に配置された凝縮部、および前記蒸発部と前記凝縮部を接続する配管を有するヒートパイプの、前記蒸発部を太陽熱の集熱により加熱し、前記蒸発部内部の熱媒を気化させるステップと、
気化した前記熱媒が、前記蒸発部から前記凝縮部に移動するステップと、
前記凝縮部に移動した前記熱媒が凝縮することにより前記凝縮部周辺の土壌を加熱し、化学物質により汚染された前記土壌を浄化するステップとを備えた、土壌浄化方法である。
【0027】
第12の本発明は、
第7の本発明の土壌加熱装置の敷設方法において、
地上から、土壌内部の化学物質により汚染された部分に達するボーリング穴を穿孔するステップと、
前記保護管内に、前記蒸気管および前記液管を収納するステップと、
前記ボーリング穴に、前記蒸気管および前記液管が収納された前記保護管を打ち込むステップとを備えた、土壌加熱装置の敷設方法である。
【0028】
第13の本発明は、
第2の本発明の土壌加熱装置の、前記凝縮部周辺の土壌の温度に基づいて前記流量制御弁を制御し前記凝縮部周辺の土壌への伝熱量を調節する前記流量制御手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0029】
第14の本発明は、
第13の本発明のプログラムを担持した記録媒体であって、コンピュータで利用可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、大きな外部エネルギーの投入を必要とせず、高効率で施工の容易な、土壌加熱装置、土壌浄化方法および土壌加熱装置の敷設方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0032】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における、土壌加熱装置を使用した土壌浄化の概念を示す図である。
【0033】
本実施の形態1の土壌加熱装置は、集熱手段1と、熱媒が内部に封入されたヒートパイプ2を備えている。ヒートパイプ2は、集熱手段1の内部に配置された蒸発部3と、土壌内部に配置された凝縮部4と、蒸発部3と凝縮部4を接続する液管18および蒸気管19の2本の配管を有している。液管18および蒸気管19は、断熱材6に囲まれており、これらは、保護管7に収納されている。なお、液管18および蒸気管19は、本発明の、蒸発部と凝縮部を接続する配管の一例である。
【0034】
また液管18内を流通する熱媒の流量を制御する流量制御弁5が、液管18上に設けられている。また、凝縮部4の周辺の土壌の温度を検知する温度センサ21が、凝縮部4と共に設置されている。そして、凝縮部4の周辺の土壌の温度に基づいて、流量制御弁5を制御することにより、液管18を流通する熱媒の流量を調整する流量制御手段20が備えられている。なお、温度センサ21は、本発明の温度検知手段の一例である。
【0035】
本実施の形態1の土壌加熱装置で用いられる熱媒には、使用される圧力・温度範囲で凝縮するものが使用でき、フロン等のハロゲン置換炭化水素、プロパン、ブタン、イソブタン等の炭化水素、水、アルコール、アンモニア等を使用することができる。
【0036】
次に、本実施の形態1の土壌加熱装置の動作について説明する。
【0037】
集熱手段1は、太陽熱の集熱を行い、ヒートパイプ2に対して熱媒の蒸発に要する熱を伝達する手段である。具体的には、ミラーや集熱フィン等が考えられるが、当然これらに限定されるものではない。できるだけ損失なくヒートパイプ2への熱伝達を行うため、集熱手段1にヒートパイプ2の蒸発部3が一体化した構成をとり、このヒートパイプ2の蒸発部3に太陽熱が集熱される。なお、図1の構成においては、集熱手段1は地表面と平行に設置されているが、地表面に垂直に設置したり、地表面に対して傾斜角をつけて配置した構成などをとっても差し支えない。
【0038】
ヒートパイプ2は、高温の集熱手段1に接続された蒸発部3から、土壌内部に配置された凝縮部4に熱伝達を行い、これにより凝縮部4周辺の土壌の加熱を行う作用を有する。汚染土壌の加熱手段としてヒートパイプ2を使用することにより、中に封入された熱媒の潜熱を汚染土壌への熱伝達に利用することが可能となり、従来の顕熱のみによる熱伝達と比較して、より効率的に汚染土壌を加熱することが可能となる。
【0039】
本実施の形態1の土壌加熱装置を構成するヒートパイプ2は、蒸発部3が上方に位置する、いわゆるトップヒート状態での動作が行える必要がある。図1の構成においては、トップヒート状態での動作を実現するために、ヒートパイプ2は、蒸発部3と凝縮部4を液管18および蒸気管19の2本の管にて接続したループ型の構成をとっているが、ヒートパイプ内部にウィックを形成させた構造などのトップヒート状態での動作が行えるものであれば、ループ型以外の構成でも差し支えない。
【0040】
ヒートパイプ2において、凝縮部4にて液相となった熱媒を蒸発部3へ移動させる毛細管力を有効に発生させるため、管径は出来る限り小さいことが望ましい。しかし一方、小さい管径のヒートパイプを使用する場合、施工時又は土壌中での圧力により変形や破損の確率が高くなり、施工性がよくないという課題が生じる。そこで、少なくともヒートパイプの外径より大きな内径を有する保護管7の中に、ヒートパイプの配管部分の一部または全体を収納する構造をとることにより、こうした変形や破損を防止し、施工性の向上を可能にできる。
【0041】
特に、凝縮部4と蒸発部3を、各々蒸気と液が通過する蒸気管19と液管18の2本の細管により接続する図1に示すようなループ型ヒートパイプ2を使用する場合、蒸気管19と液管18を1本の保護管7内に収納し、汚染土壌に向けて穿孔したボーリング穴にヒートパイプ2を保護管7ごと打ち込む工法を採用することにより、大規模かつ複雑な掘削を行うことなくヒートパイプ2の設置が可能となり、施工性を大幅に向上できる。
【0042】
さらに、この保護管7には、地下水や土壌中の腐食性物質等によるヒートパイプ2の腐食を防止する効果も期待でき、土壌加熱装置の長寿命化を実現できる。また、保護管7の内部または外壁に断熱材6を設置したり、保護管7自身を断熱性の高い素材にて構成することにより、非汚染土壌に対する断熱効果をより向上させることができ、さらに高効率で土壌浄化措置を実施することが可能となる。
【0043】
保護管7の材質としては、強度がある程度あって腐食に強いもの、例えば、ステンレス、鋳鉄、コンクリート、樹脂系(PE、PP、PVCなど)などを使用できる。また、断熱性の高い素材として、コンクリートや樹脂系の材料などが使用できる。
【0044】
流量制御弁5は、ヒートパイプ2内部の熱媒の流量を制御する作用を有する。この流量制御弁5の作用により、汚染土壌の浄化に適した土壌温度範囲の維持を図る。流量制御弁5は、温度センサ21で検知した凝縮部4周辺の土壌の温度に基づいて、流量制御手段20によって制御される。温度センサ21で検知した温度が、予め設定している所定の温度よりも高くなった場合には、凝縮部4周辺の土壌の温度を下げるために、液管18を流れる熱媒の流量が少なくなるように流量制御弁5を制御する。
【0045】
太陽熱の集熱により、集熱手段1およびヒートパイプ2の蒸発部3は、最高で摂氏約90度程度まで上昇すると考えられる。一方、バイオレメディエーションによる土壌浄化を実施する場合、土壌中の温度が摂氏50度以上に上昇すると、土壌中の多くの微生物が死滅し、その結果、汚染物質分解の進行が著しく遅くなる可能性がある。この場合、流量制御手段20は、土壌中の温度が摂氏50度以上にならないように、流量制御弁5を制御する。
【0046】
また、バイオレメディエーションやその他の土壌浄化手法において、土壌中に酸素および/または水素やメタンなどの可燃性気体を導入している場合、高温の熱伝達を行うと過熱による引火の危険性が発生する。このような場合にも、流量制御弁5によりヒートパイプ2内部の熱媒の流量を制限することにより、過剰な熱伝達を抑制し、汚染土壌の過熱による弊害を回避することが可能となる。
【0047】
また、バイオレメディエーションにおいて、浄化に寄与する微生物の至適温度が予めわかっている場合、温度センサ21により汚染土壌近傍の温度情報を取得し、その温度情報をフィードバックして流量制御弁5を自動制御させるようにしてもよい。
【0048】
なお、図1では、流量制御手段20が温度センサ21からの温度情報を得るための配線を保護管7の外部に配置させる構成としているが、この配線を、保護管7の内部を通すような構成にしてもよい。
【0049】
断熱材6は、ヒートパイプ2において汚染土壌の加熱を行う凝縮部4以外の部分からの熱損失を低減する作用を有する。土壌中の汚染化合物の分布深度は、地表近くから、特に比重が高く粘性の低い有機ハロゲン化合物の場合は数十メートルに達する場合がある。汚染土壌の上部に存在する非汚染土壌への不要な熱伝達を防ぎ、汚染土壌近傍の加熱を効率的に実施する観点から、本実施の形態1を構成するヒートパイプ2のうち非汚染土壌に接する部分には断熱材を装着することが好ましい。断熱材としては、ウレタンフォームやポリスチレンフォームなどのプラスチック系断熱材、グラスウール、セラミックファイバー等を使用することができるが、当然これらに限定されるものではない。
【0050】
微生物による汚染物質の分解を利用するバイオレメディエーションに関しては、特に冬季の土壌温度は微生物が活発に活動する温度領域を下回るため、浄化速度が低下し、その結果、浄化の工期が長期化するという課題が従来指摘されてきた。本実施の形態1の土壌加熱装置を使用し、汚染土壌の近傍を選択的に加熱することにより、バイオレメディエーションに寄与する微生物の活動を活発化させることが可能となる。一般に、微生物を構成する蛋白質の変性が起こらない範囲で土壌の温度が1℃上がることにより、微生物の活性は数倍程度に向上するとされており、効果的な汚染土壌の浄化を行うことができる。
【0051】
なお、土壌の加熱により活性化される微生物の種類は特に限定されず、汚染土壌中に既に存在する土着菌であっても、外部より導入された微生物でも差し支えない。
【0052】
また、バイオレメディエーションと並んで原位置土壌浄化の代表的技術である土壌ガス吸引法は、土壌中の汚染物質、特に揮発性有機化合物を強制的に吸引し、地上でガスを回収、浄化する方法であるが、冬の低温期については汚染物質の揮発性が低下し、さらに粘性が向上して土壌への吸着力が大きくなるため、浄化効率が低下する課題が存在した。本実施の形態1の土壌加熱装置では、汚染土壌の加熱を行わせることにより、汚染物質の揮発性を向上させ、揮発ガスの吸引効率を向上させることが可能となる。
【0053】
汚染土壌の面積が大きい場合、本発明の土壌加熱装置を複数設置することにより、浄化をさらに効果的に実施することが可能である。設置する間隔は、対象となる土壌の熱伝導率などの諸特性、浄化手法に対応した目標加熱温度等により適宜決定される。
【0054】
以上の効果より、本実施の形態1の土壌加熱装置により、汚染土壌の完全浄化を短い工期で、かつ容易な工法により実現することができる。
【0055】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における、土壌加熱装置を使用した土壌浄化の概念を示す図である。図1と同じ構成部分については、同じ符号を用いている。
【0056】
本実施の形態2の土壌加熱装置は、集熱手段1と、熱媒が内部に封入されたヒートパイプ2を備えている。ヒートパイプ2は、図1に示した実施の形態1と同じ構成である。凝縮部4から蒸発部3に熱媒を流通させるための熱媒ポンプ10が、液管18に備えられている。なお、熱媒ポンプ10は、本発明の熱媒循環ポンプの一例である。
【0057】
熱媒ポンプ10は、温度センサ21からの凝縮部4の周辺の土壌の温度に基づいて、液管18内の熱媒の流量を制御する。また、太陽光発電装置8で発電した電気が蓄電装置9に蓄電されるようになっており、熱媒ポンプ10は、蓄電装置9の電力を用いて稼働されるようになっている。なお、温度センサ21は、本発明の温度検知手段の一例である。また、太陽光発電装置8は、本発明の太陽光発電手段の一例である。
【0058】
次に、本実施の形態2の土壌加熱装置の動作について説明する。
【0059】
熱媒ポンプ10は、汚染土壌近傍に設置されたヒートパイプ2の凝縮部4にて凝縮させた熱媒を、上方の蒸発部3へ供給する作用を有し、トップヒート状態におかれたヒートパイプ2の動作安定性を保証する。また、熱媒ポンプ10は、熱媒の流量制御機能も同時に有している。
【0060】
熱媒ポンプ10の構成および熱媒ポンプ10の駆動に必要な動力の種類は問わない。しかし、本実施の形態2における土壌加熱装置は、環境を修復浄化する目的にて投入される装置であることから、外部エネルギーの投入による新たな環境負荷を最小にすることが望ましい。さらに、浄化すべき土壌汚染対象が拡大していることから、電力などの動力を供給するインフラが容易に使用できない土地における適用性についても配慮することが望ましい。
【0061】
このような観点から、本実施の形態2における土壌加熱装置の熱媒ポンプ10の動力としては、現地で供給可能な自然エネルギーの利用が好ましい。特に本実施の形態2の土壌加熱装置は、熱媒の加熱に太陽光を利用するものであることから、熱媒ポンプ10を駆動する動力としても、太陽光発電より得られる電力や太陽熱を利用することが可能、かつ最も効率がよいと考えられる。
【0062】
太陽光発電装置8については、加熱すべき汚染土壌の深さ、熱媒の種類や加熱に必要な流量等に応じて決まる熱媒ポンプ10の駆動動力を供給可能なだけの発電能力が確保されれば、その種類および構成は問わない。蓄電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電装置9を接続することにより、太陽光発電が行われない夜間や悪天候時においても熱媒ポンプ10の動作を行わせることができる。
【0063】
太陽熱による熱媒ポンプの駆動には、例えば、熱駆動ポンプを使用することができる。熱駆動ポンプを本実施の形態2の土壌加熱装置に適用する場合の作動メカニズムは次のとおりである。
【0064】
まず、集熱手段1により集熱された太陽熱により、蒸発部3の配管内の熱媒が沸騰し、熱媒に気泡が発生する。この気泡がつぶれることにより、熱媒に圧力振動が発生し、この圧力振動を利用して加熱された熱媒を下方の凝縮部4へ送り出す。このようにして、地上に設置された集熱手段1により、集熱された太陽熱のエネルギーを動力として、土壌内部に熱を伝達するポンプとして作動する。
【0065】
本実施の形態2の土壌加熱装置により、大きな外部エネルギーを投入することなく汚染土壌の浄化を促進することが可能となる。このため、浄化に要するランニングコストの大幅な低減が実現されるとともに、外部エネルギー投入に必要なエネルギーインフラが整備されていない地域においても、効果的な土壌浄化を実施することができる。
【0066】
(実施の形態3)
図3は、本発明の実施の形態3における、土壌加熱装置を使用した土壌浄化の概念を示す図である。図2と同じ構成部分については、同じ符号を用いている。
【0067】
本実施の形態3の土壌加熱装置は、実施の形態2の土壌加熱装置に、土壌ガス吸引管11、土壌ガス吸引ポンプ12、吸引ガス処理装置13、供給管14、供給装置15を加えた構成である。土壌ガス吸引管11および供給管14は、液管18および蒸気管19とともに、断熱材6に囲まれて、保護管7に収納されている。
【0068】
次に、本実施の形態3の土壌加熱装置の動作について説明する。
【0069】
土壌ガス吸引ポンプ12は、主に不飽和層の揮発性有機物質による汚染の浄化を実施するために、汚染物質を含有した土壌ガスを土壌ガス吸引管11を通じて吸引する作用を有する。土壌ガス吸引ポンプ12の構成および土壌ガス吸引ポンプ12の駆動に必要な動力の種類は特に問わないが、動力としては、実施の形態2で説明したように、太陽光発電より得られる電力や太陽熱を利用することが最も効率的であると考えられる。
【0070】
土壌ガス吸引ポンプ12により吸引された土壌ガスは、必要に応じて気液分離が実施された後、吸引ガス処理装置13により有害な汚染物質が除去または分解される。そして、無害化されたガスは大気中に放出される。吸引ガス処理装置13としては、活性炭などによる吸着塔や、触媒、熱、プラズマ、紫外線などを利用した分解装置などが考えられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
土壌ガス吸引による揮発性有機物質による土壌汚染浄化にあたっては、浄化の進行により汚染濃度が低下してきた際に、除去効率が大きく低下してくることが課題として挙げられている。この現象は、汚染物質の土壌粒子への吸着や地下水への溶解によると考えられる。本実施の形態3の土壌加熱装置を使用することにより、土壌粒子に吸着されていた汚染物質の脱着、地下水に溶解していた汚染物質の揮発が促進され、低濃度の汚染であっても、土壌ガスの吸引による汚染物質の土壌からの除去効率を向上させることが可能となる。
【0072】
供給装置15は、供給管14を通じて、汚染物質の浄化に必要な物質、あるいは浄化を促進する物質を、汚染土壌中に供給する作用を有する。例えばバイオレメディエーションの場合、微生物が汚染物質を分解するために必要で、汚染土壌において不足していると考えられる物質を地上の供給装置より汚染部分に供給することにより、微生物分解を活性化させることができる。供給する物質は、酸素に代表される電子受容体、微生物の栄養源となる基質、窒素やリンなどの栄養塩、浄化対象となる汚染物質の分解能が高い外来微生物など、汚染物質や分解微生物の特性、土壌汚染部分の性状などに応じて適宜選択される。
【0073】
土壌ガス吸引管11および供給管14が、液管18および蒸気管19とともに保護管7内に収納されていることにより、土壌加熱によるガス吸引と土壌中の微生物活動の促進、およびバイオレメディエーションに必要な物質の供給が同時に行われ、土壌浄化をより短期間に効率的に行うことが可能となる。それとともに、保護管7により土壌加熱装置の破損や腐食が防止され、施工性および寿命が向上する効果も得られると考えられる。
【0074】
なお、本発明のプログラムは、上述した本発明の土壌加熱装置の流量制御手段の機能をコンピュータにより実行させるためのプログラムであって、コンピュータと協働して動作するプログラムである。
【0075】
また、本発明の記録媒体は、上述した本発明の土壌加熱装置の流量制御手段の機能をコンピュータにより実行させるためのプログラムを担持した記録媒体であり、コンピュータにより読み取り可能かつ、読み取られた前記プログラムが前記コンピュータと協働して利用される記録媒体である。
【0076】
また、本発明のプログラムの一利用形態は、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータと協働して動作する態様であっても良い。
【0077】
また、記録媒体としては、ROM等が含まれる。
【0078】
また、上述した本発明のコンピュータは、CPU等の純然たるハードウェアに限らず、ファームウェアや、OS、更に周辺機器を含むものであっても良い。
【0079】
なお、以上説明した様に、本発明の構成は、ソフトウェア的に実現しても良いし、ハードウェア的に実現しても良い。
【0080】
以上に説明したように、本発明の土壌加熱装置は、化学物質により汚染された土壌の内部を効率的に加熱できるので、土壌中の汚染化学物質の揮発および/または微生物による分解を加速し、工期が短くエネルギー利用効率の高い土壌浄化を実施することが出来る。
【0081】
また、太陽熱およびヒートパイプによる潜熱輸送を利用するので、土壌内部の加熱を大きな外部エネルギーを投入することなく効率的に実施することが可能となり、汚染土壌の浄化を促進することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明にかかる土壌加熱装置は、化学物質により汚染された土壌および地下水を加熱し、微生物による分解および/または土壌ガス吸引による浄化を促進する作用を有し、土壌浄化システムとして有用である。また、農地の加熱による植物の成長促進等の用途にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態1における土壌加熱装置を使用した土壌浄化の概念図
【図2】本発明の実施の形態2における土壌加熱装置を使用した土壌浄化の概念図
【図3】本発明の実施の形態3における土壌加熱装置を使用した土壌浄化の概念図
【図4】従来の土壌修復装置の模式図
【図5】従来の土壌修復装置の別の構成の模式図
【符号の説明】
【0084】
1 集熱手段
2 ヒートパイプ
3 蒸発部
4 凝縮部
5 流量制御弁
6 断熱材
7 保護管
8 太陽光発電装置
9 蓄電装置
10 熱媒ポンプ
11 土壌ガス吸引管
12 土壌ガス吸引ポンプ
13 吸引ガス処理装置
14 供給管
15 供給装置
18 液管
19 蒸気管
20 流量制御手段
21 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上に配置され、太陽熱の集熱を行う集熱手段と、
前記集熱手段と熱的に接続された蒸発部、土壌内部に配置された凝縮部、および前記蒸発部と前記凝縮部を接続する配管を有するヒートパイプとを備えた、土壌加熱装置。
【請求項2】
さらに、前記配管に配置され、前記ヒートパイプ内を循環する熱媒の流量を制御する流量制御弁と、
前記凝縮部周辺の土壌の温度を検知する温度検知手段と、
前記凝縮部周辺の土壌の温度に基づいて、前記流量制御弁を制御し、前記凝縮部周辺の土壌への伝熱量を調節する流量制御手段とを備えた、請求項1に記載の土壌加熱装置。
【請求項3】
さらに、前記凝縮部周辺の土壌の温度を検知する温度検知手段と、
前記配管に配置され、前記凝縮部の熱媒を前記蒸発部に移動させる熱媒循環ポンプとを備え、
前記熱媒循環ポンプは、前記凝縮部周辺の土壌の温度に基づいて、前記凝縮部から前記蒸発部に移動させる前記熱媒の移動量を制御することにより、前記凝縮部周辺の土壌への伝熱量を調節する、請求項1に記載の土壌加熱装置。
【請求項4】
前記熱媒循環ポンプは、前記集熱手段から供給される熱により稼動される、請求項3に記載の土壌加熱装置。
【請求項5】
さらに、地上に配置され、太陽光により発電を行う太陽光発電手段を備え、
前記熱媒循環ポンプは、前記太陽光発電手段より供給される電力により稼働される、請求項3に記載の土壌加熱装置。
【請求項6】
前記配管は、前記蒸発部から前記凝縮部に熱媒が移動する蒸気管、および前記凝縮部から前記蒸発部に熱媒が移動する液管を有しており、
前記蒸気管および前記液管は断熱材で囲まれている、請求項1に記載の土壌加熱装置。
【請求項7】
さらに、前記蒸気管および前記液管がその内部に配置される保護管を備えている、請求項6に記載の土壌加熱装置。
【請求項8】
さらに、土壌汚染化合物の分解を促進する物質および/または土壌汚染化合物の分解能を有する微生物を供給する供給管を備え、
前記供給管は、前記蒸気管および前記液管とともに前記保護管の内部に配置されている、請求項7に記載の土壌加熱装置。
【請求項9】
前記土壌を加熱する際に、土壌中に供給した前記微生物の活性化を行う、請求項8に記載の土壌加熱装置。
【請求項10】
さらに、土壌ガスを吸引する土壌ガス吸引管を備え、
前記土壌ガス吸引管は、前記蒸気管および前記液管とともに前記保護管の内部に配置されており、前記土壌を加熱する際に、汚染物質を含有した前記土壌中の土壌ガスを吸引する、請求項7に記載の土壌加熱装置。
【請求項11】
太陽熱の集熱を行う集熱手段に熱的に接続された蒸発部、土壌内部に配置された凝縮部、および前記蒸発部と前記凝縮部を接続する配管を有するヒートパイプの、前記蒸発部を太陽熱の集熱により加熱し、前記蒸発部内部の熱媒を気化させるステップと、
気化した前記熱媒が、前記蒸発部から前記凝縮部に移動するステップと、
前記凝縮部に移動した前記熱媒が凝縮することにより前記凝縮部周辺の土壌を加熱し、化学物質により汚染された前記土壌を浄化するステップとを備えた、土壌浄化方法。
【請求項12】
請求項7に記載の土壌加熱装置の敷設方法において、
地上から、土壌内部の化学物質により汚染された部分に達するボーリング穴を穿孔するステップと、
前記保護管内に、前記蒸気管および前記液管を収納するステップと、
前記ボーリング穴に、前記蒸気管および前記液管が収納された前記保護管を打ち込むステップとを備えた、土壌加熱装置の敷設方法。
【請求項13】
請求項2に記載の土壌加熱装置の、前記凝縮部周辺の土壌の温度に基づいて前記流量制御弁を制御し前記凝縮部周辺の土壌への伝熱量を調節する前記流量制御手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムを担持した記録媒体であって、コンピュータで利用可能な記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−7181(P2006−7181A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191871(P2004−191871)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】