説明

地盤充填材

【課題】6価クロムの溶出量を低減し、かつ良好な強度発現性を有する地盤充填材を提供する。
【解決手段】(A)固化材5.6〜6.7重量%、(B)日本統一土質分類法による粘質土(CL)と粘土(CH)を含む粘性土9.6〜11.7重量%、(C)吸水性を有し吸水した水により膨潤する吸水材0.003〜0.1重量%及び(D)水81.5〜84重量%を配合し、攪拌・混合してなる地盤充填材であって、該(A)成分が、高炉スラグ30〜60重量%並びに普通セメント、高炉B種セメント及び早強セメントから選ばれる少なくとも1種のセメント40〜70重量%を含有する固化材である地盤充填材を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物背部等の地盤中に充填する地盤充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の背部の地盤、地盤掘削中の周囲の地盤等に充填し、空隙を無くして地表の沈下・陥没等を防止したり、周囲の地盤の強度を向上させて地盤の崩落等を防止する目的に用いる地盤充填材として、水ガラス等の有機樹脂系材料や、セメントと水を攪拌・混合させたセメントミルク等が知られている。
【0003】
しかしながら、上記したような従来の地盤充填材においては、例えば有機樹脂系材料では、流動性が高いため、地盤内の隙間へ入り込む性能は優れているが、大きく粗い空隙の場合には、空隙内に入った充填材が再び周囲へ流出し、空隙が十分に充填されない場合があり、地盤充填の確実性に問題があった。また、セメントミルク系の充填材では、6価クロム化合物の溶出の問題があった。
【0004】
このような問題を解決する方法として、例えば特許文献1には、粘性土、水、セメント及び吸水材からなる地盤充填材が開示されている。
しかしながら、近年、地盤充填材にはより高い強度発現性が求められているが、この技術においては、強度発現性を狙った配合では6価クロムの溶出量を低減できず、6価クロムの溶出量の低減を狙った配合では強度発現性が不十分である。すなわち、6価クロムの溶出量の低減と高い強度発現性を同時に達成した地盤充填材は未だ知られていない。
【0005】
【特許文献1】特許第3857529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、本発明の解決しようとする課題は、6価クロムの溶出量を低減し、かつ良好な強度発現性を有する地盤充填材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、高炉スラグ及びセメントからなる固化材、粘性土、吸水材並びに水からなる地盤充填材を用いることで、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は(A)固化材5.6〜6.7重量%、(B)日本統一土質分類法による粘質土(CL)と粘土(CH)を含む粘性土9.6〜11.7重量%、(C)吸水性を有し吸水した水により膨潤する吸水材0.003〜0.1重量%及び(D)水81.5〜84重量%を配合し、攪拌・混合してなる地盤充填材であって、該(A)成分が、高炉スラグ30〜60重量%並びに普通セメント、高炉B種セメント及び早強セメントから選ばれる少なくとも1種のセメント40〜70重量%を含有する固化材である地盤充填材を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の地盤充填材によれば、6価クロムの溶出量を低減しつつ、強度発現性が良好な地盤充填材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の地盤充填材は、固化材、粘性土、吸水材及び水を配合し、攪拌・混合してなる。
【0010】
(固化材)
本発明の地盤充填材に用いる固化材は、高炉スラグ30〜60重量%、好ましくは40〜60重量%、より好ましくは50〜60重量%並びに普通セメント、高炉B種セメント及び早強セメントから選ばれる少なくとも1種のセメント40〜70重量%、好ましくは40〜60重量%、より好ましくは40〜50重量%を含有する。
本発明における高炉スラグは、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定されているものを使用できる。この高炉スラグは地盤充填材中の6価クロムを還元し、比較的毒性の低い3価クロムを生成する。また、高炉スラグを配合することで、地盤充填材の硬化後の強度が増進する。従って、本発明の地盤充填材は、上記の高炉スラグを30重量%以上含有する固化材を用いることで、硬化後の強度を改善し、かつ6価クロムの溶出量を低下するものである。
【0011】
また、本発明の地盤充填材の総重量に対する固化材の重量比率は、一般には、5.6〜6.7重量%程度が適当である。地盤充填材の総重量に対するセメント重量の比率を5.6〜6.7重量%の範囲で適宜調整すれば、地盤充填材の地盤充填後の圧縮強度を適宜の値に調整することが可能である。また、地盤充填材の総重量に対するセメント重量の比率を5.6〜6.7重量%の範囲で適宜調整すれば、地盤充填材の地盤充填後の体積収縮量を適宜の値に調整することが可能である。さらに、地盤充填材の総重量に対するセメント重量の比率を6.7重量%以下とすることで、溶出する6価クロムの濃度が環境に悪影響を与えない程度となるようにすることができる。
【0012】
(粘性土)
本発明の地盤充填材に用いる粘性土としては、日本統一土質分類法(地盤工学会基準 JSF規格 M1−73)による「C」に相当する土である「粘性土」を用いることができる。この粘性土(C)には、粘質土(CL)と、粘土(CH)が含まれる。
また、上記の配合例とその物性値の結果から、本発明の地盤充填材の総重量に対する粘性土の重量比率は、粘性土の性質によって異なるが、一般には、9.6〜11.7重量%程度が適当である、と考えられる。
【0013】
(吸水材)
本発明の地盤充填材に用いる吸水材としては、一般に、高吸水性ポリマーを用いることができる。高吸水性ポリマーとは、吸水性を有する高分子材料である。この高吸水性ポリマーには、デンプン系高分子材料、又はセルロース系高分子材料、若しくは合成高分子材料のいずれか、あるいはこれらを適宜の組合わせた物質が含まれる。
デンプン系高分子材料の高吸水性ポリマーには、グラフト重合系材料、及びカルボキシメチル化(CM化)材料が含まれる。また、セルロース系高分子材料の高吸水性ポリマーには、グラフト重合系材料、及びカルボキシメチル化(CM化)材料が含まれる。また、合成高分子材料の高吸水性ポリマーには、上記したポリアクリル酸塩系材料のほか、ポリビニルアルコール(PVA)系材料、ポリアクリルアミド系材料、及びポリオキシエチレン系材料が含まれる。
【0014】
これらの高吸水性ポリマーは、高分子電解質などの水溶性ポリマーが種々の方法で不溶化され、網目状等をなすとともに親水性の高い基(−COOH基、あるいは−COONa基など)を有する構造となっている。
この不溶化の方法には、グラフト重合による3次元化、橋かけ剤による橋かけ重合、水溶性高分子の3次元化、自己橋かけによる網状化、放射線照射による網状化、結晶構造の導入等の方法がある。
また、親水化の方法としては、親水性モノマーの重合、疎水性ポリマーに対するカルボキシメチル化(CM化)反応、疎水性ポリマーに対する親水性モノマーのグラフト重合、ニトリル基・エステル基の加水分解反応などがある。
また、吸水材の形態としては、無定形粉末状、球形粒状(パール状)、リン片状、短繊維状、長繊維状、不織布状、フィルム状等がある。
【0015】
高吸水性ポリマーは、水と接触すると、水を吸水し、自らは膨潤してゲル化する。その吸水力は、CM化材料やポリビニルアルコール(PVA)系材料などでは、1グラムの吸水材当り水100〜400グラムを吸水する。また、アクリル酸ソーダ系材料やデンプン/アクリル酸系材料では、吸水力は、1グラムの吸水材当り水1000グラムに達する。また、高吸水性ポリマーは、不溶性であり、人体等に対して無害であるため、例えば、紙おむつの吸水材等として利用されている。
この吸水材の吸水の原理は、橋かけされた高分子電解質に起因するもので、「イオン網目理論」と呼ばれている。すなわち、吸水力を発揮する要因は、(a)構成物質内の高分子電解質と水との親和力(b)ゲルの内部の可動イオン濃度が外側(水側)よりも高いために発生する浸透圧の2つである。また、吸水力を抑制する要因は、「網目構造に基づくゴム的な弾性力」である。
このため、これらの要因のバランスがとれたところで吸水力が決定され、吸水力は、下式(1)
吸水力={(イオン浸透圧)+(高分子電解質の水との親和力)}/橋かけ密度・・・(1)
で表される。
また、高吸水性ポリマーが吸水によりゲル化し膨張する際の膨張の度合は、各種の試験により知られている。例えば、ある種の高吸水性ポリマーは、10日間で200%以上膨張する。
本発明の地盤充填材において、好ましくは、前記水の添加量と前記吸水材の添加量を調整することにより、前記粘性土の土粒子の間隙に自由水の状態で存在する間隙水を前記吸水材と置換させて攪拌・混合後の前記地盤充填材の流動性を調整する。
【0016】
(水)
本発明の地盤充填材の総重量に対する水の重量比率は、粘性土の性質によっても異なるが、一般には、81.5〜84重量%程度が適当である、と考えられる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明に係る発明を下記実施例によりさらに説明する。
(使用原材料)
吸水材:e−soil A材(住友大阪セメント社製)
固化材:e−soil B材(住友大阪セメント社製、普通ポルトランドセメント50重量%及び高炉スラグ40重量%含有)
粘性土:e−soil C材(住友大阪セメント社製)
水:上水道水
【0018】
なお、実施例における試験は以下のように行った。
フロー値とは、流動体などの物質の柔らかさ、流動し易さ等(コンシステンシー)を示す指標値であって、150〜210mmが好ましく、160〜200mmがより好ましい。当該フロー値が210mm以上のものは流動性が大き過ぎ、いったん充填されても、地盤内に大きな空隙等があると、そこから他の箇所へ流出してしまうおそれがあり、150mm未満のものは流動性が不十分であり、施工性に劣る。
フロー値の試験方法としては、一般的には、「日本道路公団規格(JHS)」のA313−1992に規定されている「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」の「1.2 シリンダー法」が準用されている。
このシリンダー法は、内径80mm、高さ80mmの黄銅等からなる両端開放の円筒を用いる。以下、上記規格に記載された「エアモルタル及びエアミルク」を「攪拌・混合後の地盤充填材」と読み替えて説明する。
【0019】
まず、このシリンダーを水平な鋼板等の板の上に静置する。その後、攪拌・混合後の地盤充填材を、シリンダーからあふれさせないように、シリンダーの上端まで静かに入れる。その後、攪拌・混合後の地盤充填材の表面が水平で、かつシリンダーの上端に一致するように、シリンダーの側面を指で軽くたたく。その後、シリンダーを静かに鉛直上方に引き上げる。これにより、攪拌・混合後の地盤充填材が板上に広がる。広がって1分後に、最大と認められる方向の径(以下、「最大径」という。単位:mm)、及びこの最大径に直角な方向の径(以下、「直交径」という。単位:mm)を計測する。フロー値としては、上記の最大径と直交径の和を2で除して得られる加重平均値(mm)を用いる。
【0020】
硬化体の圧縮強度は、地盤工学会基準「一軸圧縮試験(JISA1216)」により測定した。28日経過後の地盤充填材の圧縮強度としては、30〜150kN/m2であれば良好である。
【0021】
六価クロム溶出試験は、環境庁告示46号「土壌の汚染に係る環境基準について」で定められた溶出試験方法であるDC法(ジフェニルカルバジド吸光光度法)(JIS K 0102の65.2.1)により求めた。
【0022】
実施例1及び比較例1
表1の組成で粘性土、水、吸水材及び固化材を混練して地盤充填材を調製した。この地盤充填材の混練直後のシリンダーフロー値、28日経過後の圧縮強度及び6価クロム溶出試験結果を表1に示す。
【0023】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)固化材5.6〜6.7重量%、(B)日本統一土質分類法による粘質土(CL)と粘土(CH)を含む粘性土9.6〜11.7重量%、(C)吸水性を有し吸水した水により膨潤する吸水材0.003〜0.1重量%及び(D)水81.5〜84重量%を配合し、攪拌・混合してなる地盤充填材であって、該(A)成分が、高炉スラグ30〜60重量%並びに普通セメント、高炉B種セメント及び早強セメントから選ばれる少なくとも1種のセメント40〜70重量%を含有する固化材である地盤充填材。

【公開番号】特開2009−249543(P2009−249543A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100580(P2008−100580)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】