説明

変性ポリビニルアセタール樹脂及び変性ポリビニルアセタール樹脂組成物

【課題】印刷又は塗工時に糸引きしにくく、密着性に優れ、かつ、低密度で高い分散性を有する樹脂組成物を作製することが可能な変性ポリビニルアセタール樹脂及び該変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、分子中に(1)ビニルアルコール単位、(2)アセタール単位、(3)酢酸ビニル単位、(4)エチレン単位、(5)ビニルアルコールと下記(6)及び/又は(7)の置換基とのエステルからなる構造単位、を全て有することを特徴とする変性ポリビニルアセタール樹脂及びポリビニルアセタール樹脂を用いた樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷又は塗工時に糸引きしにくく、密着性に優れ、かつ、低密度で高い分散性を有する樹脂組成物を作製することが可能な変性ポリビニルアセタール樹脂及び該変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアセタール樹脂は、顔料等の無機粉や有機粉の分散性や塗布面への接着性に優れていることから、種々の用途にバインダー樹脂として利用されている。
具体的なポリビニルアセタール樹脂の用途としては、例えばコンデンサ、インダクタ、バリスタ等が知られており、なかでも積層セラミックコンデンサ等の積層電子部品の材料として多く用いられている。
【0003】
このような積層電子部品は、一般に次のような工程を経て製造されている。
まず、セラミック粉末を含有したシート(グリーンシート)上に、パラジウム、銀、ニッケル、銅等の導電材を含有する電極ペーストを所定パターンで印刷する。得られた印刷後のセラミックグリーンシートを複数枚積み重ねてプレスして積層し、切断、焼成等の工程を経て積層電子部品を製造する。
【0004】
一方で、積層電子部品には、近年更なる小型化、大容量化が求められており、セラミックグリーンシートについても、より一層の多層化、薄膜化が検討されている。
しかしながら、薄層化に伴い、層間厚みが薄くなっているためにグリーンシートと電極層間の接着力が不足しデラミネーションが発生したりする等の問題が発生していた。
【0005】
このようなデラミネーションの問題を改善するため、特許文献1では、電極ペーストに使用するバインダーをエチルセルロースではなく、ポリビニルブチラールを使用することで密着性が改善することが開示されている。しかしながら、特許文献1では、ポリビニルブチラールを使用することで密着性が改善されるが、スクリーン印刷時に糸引きが発生し製品不良が発生してしまうという問題があった。
【0006】
これに対して、スクリーン印刷時の糸引きの問題を改善するため、ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量を26モル%未満とした特許文献2が開示されている。また、(メタ)アクリル酸エステル類を主成分とする重合性モノマーを、ポリビニルアセタール樹脂が分散されてなる水性媒体に添加してポリビニルアセタール樹脂中に浸透させた後、重合させてポリビニルアセタール・(メタ)アクリル酸エステル複合樹脂を得た特許文献3も開示されている。しかしながら、このような技術でも、高容量な積層電子部品を製造する際には、依然として充分な密着性が得られなかったり、無機粉や有機粉の分散性が充分ではなかったりすることが問題であった。
【0007】
また、ポリビニルアセタール樹脂は、電極ペーストに加えて、例えば、セラミックグリーンシート作製用スラリー、インク、塗料、熱現像性感光材料、絶縁ペースト等にも用いられており、これらの材料についても、近年の高機能化に伴い、より一層の性能の向上が求められている。
例えば、セラミックグリーンシート作製用スラリーにおいては、近年の積層電子部品の小型化に伴い、用いられるセラミック粉末が微細化しており、一層の高分散性が求められている。また、ポリビニルアセタール樹脂は金属への接着性が良好であることから、綱板等に塗工される塗料に用いられているが、吹きつけ方式により塗工を行う場合のスプレーガン等の噴霧口からの糸切れ性を改善し、作業性を向上させることも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−320008号公報
【特許文献2】特開2005−259667号公報
【特許文献3】特開2005−15654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、印刷又は塗工時に糸引きしにくく、密着性に優れ、かつ、低密度で高い分散性を有する樹脂組成物を作製することが可能な変性ポリビニルアセタール樹脂及び該変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも、下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)で表される構造単位を有することを特徴とする変性ポリビニルアセタール樹脂である。
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは下記一般式(6)、及び/又は(7)で表される官能基を有する基を表す。
以下に本発明を詳述する。
【化2】

【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の構造を有する変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた場合、印刷又は塗工時に糸引きしにくく、密着性に優れ、かつ、低密度で高い分散性を有する樹脂組成物を調製することが可能となることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、少なくとも、上記一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)で表される構造単位を有する。このように極性の低い構造単位と極性の高い構造単位とを有することで、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、金属粉、無機材料、有機材料等との相互作用がより一層良好となる。その結果、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた場合、印刷性又は塗工性に優れるだけでなく、密着性に優れ、低密度で高い分散性を有する樹脂組成物を作製することが可能となる。
【0013】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(1)で表される構造単位(ビニルアルコール単位)の含有量の好ましい下限は17モル%、好ましい上限は40モル%、より好ましい上限は30モル%である。
上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量が17モル%未満であると、溶解時に使用する有機溶剤に対する溶解性が低下することがある。上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量が30モル%を超えると、吸湿しやすくなるだけでなく、印刷性が悪化することがある。
【0014】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(2)で表される構造単位(アセタール単位)の含有量の好ましい下限は40モル%、好ましい上限は80モル%である。上記一般式(2)で表されるアセタール単位の含有量が上記の範囲を超えると、溶解時に使用する有機溶剤に不溶となることがある。
なお、本明細書において、アセタール化度(一般式(2)で表されるアセタール単位の含有量)の計算方法としては、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基をアセタール化して得られたものであることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を計算する。
【0015】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(3)で表される構造単位(アセチル単位)の含有量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は25モル%である。上記範囲を超えると、原料のポリビニルアルコールの溶解性が低下し、アセタール化反応が困難となる。より好ましい上限は15モル%である。
【0016】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記一般式(4)で表される構造単位を有する。上記一般式(4)で表される構造単位を有することで、樹脂の水素結合力が低下し、その結果、スクリーン印刷時の糸切れ性が良好となり、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の印刷性を向上させることができる。
【0017】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(4)で表される構造単位の含有量の好ましい下限は0.5モル%、好ましい上限は20モル%である。上記一般式(4)で表される構造単位の含有量が0.5モル%未満であると、スクリーン印刷時の糸切れ性が悪くなることがある。上記一般式(4)で表される構造単位の含有量が20モル%を超えると、溶解時に使用する有機溶剤に不溶となることがある。より好ましい下限は1モル%、より好ましい上限は10モル%である。
【0018】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記一般式(4)で表される構造単位と上記一般式(5)で表される構造単位とを有する。上記一般式(4)と(5)で表される構造単位を同時に有することで、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、水素結合力が低下しながらも金属粉、無機材料及び有機材料との相互作用がより一層良好となり、例えば、ニッケル等の金属粉との配位によって分散性が向上する。その結果、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた樹脂組成物は、印刷性又は塗工性に優れるだけでなく、密着性に優れ、低密度でかつ分散性に優れたものとなる。
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(4)で表される構造単位と上記一般式(5)で表される構造単位との含有モル比率は10:1〜1:5であることが好ましい。上記範囲内とすることで、充分な糸引防止性を有しつつ、低密度で高い分散性を有する変性ポリビニルアセタール樹脂が得られる。
【0019】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(5)で表される構造単位の含有量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は15モル%である。上記一般式(5)で表される構造単位の含有量が上記範囲外であると、低密度で分散性の良い樹脂組成物が得られないことがある。より好ましい下限は1モル%、より好ましい上限は10モル%である。
【0020】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、重合度の好ましい下限が100、好ましい上限が4000である。上記重合度を上記範囲内とすることにより、得られる樹脂組成物が印刷又は塗工に好適な粘度となり、密着性に優れ、低密度で分散性に優れるものとなる。
【0021】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては、例えば、上記Rが上記一般式(6)で表される基であるポリビニルアセタール樹脂を製造する場合、β−ジカルボニル基を有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化する方法、未変性のポリビニルアルコールをアセタール化した後、β−ジカルボニル基を付加させる方法等が挙げられる。好ましくは、β−ジカルボニル基を有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化する方法等が挙げられる。
上記β−ジカルボニル基の付加方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中に4−メチレン−2−オキセタノン等を添加する方法等が挙げられる。
【0022】
上記アセタール化の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、酸触媒の存在下で変性ポリビニルアルコールの水溶液、アルコール溶液、水/アルコール混合溶液、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0023】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとをそれぞれ単独で用いるか、又は、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとを併用することが好ましい。
【0024】
上記酸触媒としては特に限定されず、有機酸、無機酸のどちらでも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。
【0025】
上記アセタール化の反応を停止するために、アルカリによる中和を行うことが好ましい。上記アルカリとしては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
また、上記中和工程の前後に、水等を用いて得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を洗浄することが好ましい。なお、洗浄水中に含まれる不純物の混入を防ぐため、洗浄は純水で行うことがより好ましい。
【0026】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂に、有機溶剤、並びに、無機粉末、金属粉末及び有機粉末からなる群より選択される少なくとも1種を添加することで、変性ポリビニルアセタール樹脂組成物が得られる。このような変性ポリビニルアセタール樹脂組成物もまた本発明の1つである。
【0027】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物は、無機粉末、金属粉末及び有機粉末からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物は、無機粉末を含有する場合には、例えば、積層セラミック電子部品を製造するための、セラミックグリーンシート作製用スラリー、電極が塗工された部分と塗工されていない部分との段差を埋めるための段差吸収ペースト等として用いられる。また、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物は、金属粉末を含有する場合には、例えば、積層セラミック電子部品の電極部分、積層チップインダクタの導電部分、プリント配線板の導電部分等を形成するための電極ペーストとして用いられ、顔料又は染料を含有する場合には、例えば、インクジェット用インク、吹きつけ塗料等として用いられる。
【0028】
上記無機粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。上記金属粉末としては特に限定されず、例えば、目的に応じて、ニッケル、銀、金、白金、パラジウム、銅、各種合金等が用いられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0029】
上記無機粉末又は上記金属粉末の配合量は特に限定されないが、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する好ましい下限は100重量部、好ましい上限は10000重量部である。上記無機粉末又は金属粉末の配合量が100重量部未満であると、得られる樹脂組成物において、上記無機粉末又は上記金属粉末の密度が低くなりすぎることがある。これにより、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物がセラミックグリーンシート作製用スラリーとして用いられる場合には、セラミックグリーンシートの機械的強度が低下することがある。また、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物が電極ペーストとして用いられる場合には、導電性が低下することがある。上記無機粉末又は上記金属粉末の配合量が10000重量部を超えると、印刷性又は塗工性に優れた、低密度で分散性の良い樹脂組成物が得られないことがある。
【0030】
上記有機粉末としては特に限定されず、例えば、ジアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料等の顔料又は染料が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0031】
上記有機粉末の配合量は特に限定されないが、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物が濃縮インク又は濃縮塗料として用いられる場合には、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物中の好ましい下限は15重量%、好ましい上限は30重量%である。また、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物が希釈されたインク製品又は希釈された塗料製品として用いられる場合には、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物中の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は15重量%である。
上記有機粉末の配合量が上記範囲を下回ると、塗布後のインク濃度又は塗料濃度が低くなり、目的の色味をだすことができないことがある。上記有機粉末の配合量が上記範囲を上回ると、印刷性又は塗工性に優れた、低密度で分散性の良い樹脂組成物が得られないことがある。
【0032】
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオールアセテート等が挙げられる。
【0033】
上記有機溶剤の配合量は特に限定されないが、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物が上記無機粉末又は上記金属粉末を含有する場合には、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する好ましい下限は100重量部、好ましい上限は10000重量部である。また、上記有機溶剤の配合量は、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物がインク又は塗料として用いられる場合には、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物中の好ましい下限は60重量%、好ましい上限は85重量%である。
上記有機溶剤の配合量が上記範囲を外れると、印刷性又は塗工性に優れた、低密度で分散性の良い樹脂組成物が得られないことがある。
【0034】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤、無機粉末、金属粉末及び有機粉末からなる群より選択される少なくとも1種及び必要に応じて添加する各種添加剤を三本ロール、ボールミル、ビーズミル等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0035】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物を用いて、積層セラミック電子部品を製造することができる。
具体的には例えば、セラミックグリーンシート作製用スラリーとしての本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物を支持体の離型処理した面に塗工し、加熱等により有機溶剤等の揮発成分を除去した後、支持体から剥離することにより、セラミックグリーンシートを得ることができる。次いで、セラミックグリーンシートの表面に電極ペーストとしての本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物を印刷する工程と、上記変性ポリビニルアセタール樹脂組成物が印刷されたセラミックグリーンシートを基材から剥離し、積層圧着させる工程を行う。
【0036】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂組成物を印刷する場合の具体的方法としては、特に限定されず、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷等の方法が挙げられる。なお、その他の具体的な方法については、従来公知の方法を用いることができる。
【0037】
上述した工程を行い、電極層が形成されたセラミックグリーンシートを作製した後、同様にして作製した電極層が形成されたセラミックグリーンシートを積層し加熱圧着して得られた積層体を脱脂・焼成することで、接着力や分散性等の問題が解決された積層セラミック電子部品が得られる。
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた場合、印刷性又は塗工性に優れ、かつ、低密度でも優れた分散性を有する樹脂組成物が得られるため、既存の積層圧着条件よりも低圧力・短時間でセラミックグリーンシートと樹脂組成物とを接着させることが可能となり、生産性を向上させるだけでなく、歩留まりも向上させることが可能となる。
なお、上記加熱圧着工程、積層体を脱脂・焼成する工程については特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、印刷又は塗工時に糸引きしにくく、密着性に優れ、かつ、低密度で高い分散性を有する樹脂組成物を作製することが可能な変性ポリビニルアセタール樹脂及び該変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量が2モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量が2モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を、1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸70重量部とブチルアルデヒド61重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0041】
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は30モル%、ブチラール単位含有量(上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は65モル%、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は1モル%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量は2モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量(R:上記一般式(6)で表される基)は2モル%であった。
【0042】
(電極ペーストの作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂2.4重量部を、ターピネアセテート27重量部に加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、ニッケル粉(住友金属201、平均粒子径0.2μm)38重量部、チタン酸バリウム(BT−01、平均粒子径0.1μm)4重量部、分散剤としてオレオイルザルコシンを0.5重量部加え、三本ロールで5時間混合して電極ペーストを得た。
【0043】
(セラミックスラリーの作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂3重量部を、エタノール/トルエン混合溶剤(混合比=1:1(重量比))40重量部に溶解した。得られた樹脂溶液に、チタン酸バリウム(BT−02、平均粒径0.2μm)30重量部、可塑剤としてフタル酸ジオクチル1重量部、分散剤としてED−216(楠本化成社製)を0.3重量部加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリーを得た。
【0044】
(実施例2)
ケン化度99%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量が4モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量が1モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸76重量部とブチルアルデヒド35重量部、アセトアルデヒド20重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は28モル%、ブチラール単位含有量は36モル%(R:プロピル基)、アセトアセタール単位(R:メチル基)含有量は30モル%、アセチル単位含有量は1モル%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量は4モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量(R:上記一般式(6)で表される基)は1モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0045】
(実施例3)
ケン化度99%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量が4モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量が2モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸76重量部とブチルアルデヒド45重量部、アセトアルデヒド8重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は28モル%、ブチラール単位含有量は55モル%(R:プロピル基)、アセトアセタール単位(R:メチル基)含有量は10モル%、アセチル単位含有量は1モル%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量は4モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量(R:上記一般式(7)で表される基)は2モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0046】
(実施例4)
ケン化度95%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量が8モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量が4モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸70重量部とブチルアルデヒド62重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は30モル%、ブチラール単位含有量は53モル%(R:プロピル基)、アセチル単位含有量は5モル%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量は8モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量(R:上記一般式(6)で表される基)は4モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0047】
(実施例5)
ケン化度99%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量が2モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量が8モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸76重量部とブチルアルデヒド40重量部、アセトアルデヒド15重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は27モル%、ブチラール単位含有量は37モル%(R:プロピル基)、アセトアセタール単位(R:メチル基)含有量は25モル%、アセチル単位含有量は1モル%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量は2モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量(R:上記一般式(6)で表される基)は8モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0048】
(実施例6)
ケン化度98%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量が4モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量が2モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸76重量部とブチルアルデヒド72重量部、アセトアルデヒド10重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は22モル%、ブチラール単位含有量は62モル%(R:プロピル基)、アセトアセタール単位(R:メチル基)含有量は8モル%、アセチル単位含有量は2モル%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量は4モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量(R:上記一般式(7)で表される基)は2モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0049】
(実施例7)
ケン化度88%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量が2モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量が2モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸76重量部とブチルアルデヒド35重量部、アセトアルデヒド20重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は30モル%、ブチラール単位含有量は34モル%(R:プロピル基)、アセトアセタール単位(R:メチル基)含有量は20モル%、アセチル単位含有量は12モル%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量は2モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量(R:上記一般式(7)で表される基)は2モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0050】
(比較例1)
市販のポリビニルブチラール樹脂BH−3(積水化学工業社製、残存水酸基量は33モル%、ブチラール単位含有量は66モル%、アセチル単位含有量は1モル%)を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0051】
(比較例2)
ケン化度99%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量が2モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸70重量部とブチルアルデヒド61重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は32モル%、ブチラール単位含有量は65モル%(R:プロピル基)、アセチル単位含有量は1モル%、上記一般式(4)で表される構造単位含有量は2モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0052】
(比較例3)
ケン化度99%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量が3モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸70重量部とブチルアルデヒド62重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は28モル%、ブチラール単位含有量は68モル%(R:プロピル基)、アセチル単位含有量は1モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量(R:上記一般式(6)で表される基)は3モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0053】
(比較例4)
ケン化度98%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量が4モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、70%硝酸70重量部とブチルアルデヒド75重量部を添加し、樹脂を析出させ反応させた。反応後、蒸留水にて洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。
次に、蒸留水により溶液を2時間洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は23モル%、ブチラール単位含有量は71モル%(R:プロピル基)、アセチル単位含有量は2モル%、上記一般式(5)で表される構造単位含有量(R:上記一般式(7)で表される基)は4モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0054】
(比較例5)
市販のエチルセルロース(ダウ社製、STD−45)を用いた以外は、実施例1と同様にして電極ペースト及びセラミックスラリーを作製した。
【0055】
(評価1)
(1)分散性評価
得られた電極ペースト又はセラミックスラリーをスライドガラスの上にバーコーターを用いて厚さ2μmに塗工し、70℃で2時間乾燥させた後、20℃で1晩放置し、分散性評価用サンプルを作製した。
分散性評価用サンプルは接触式表面粗さを用いて表面粗さ(Ra)測定を5回行い、平均値を算出した。
【0056】
(2)密度評価
得られた電極ペースト又はセラミックスラリーを離型PETの上にバーコーターを用いて厚さ3μmに塗工し、70℃で2時間乾燥、20℃で1晩放置した後、2cmにカットし、密度評価用サンプルを作製した。密度評価用サンプルについて、重さと厚みを測定した。そして、重さと厚みから理論値対比での相対密度を算出した。
【0057】
(3)層間接着性評価
得られた電極ペースト又はセラミックスラリーを離型PETの上にバーコーターを用いて厚さ3μmに塗工し、70℃で2時間乾燥、20℃で1晩放置した後、幅1cm×3cmにカットし、セラミックグリーンシート(チタン酸バリウム、BM−2(積水化学工業社製)、DOP含有、厚さ3μm)を60℃、0.5MPa、5分間圧着し、引き剥がす際にかかる力を測定した。
【0058】
(4)塗工性(糸切れ性)評価
得られた電極ペースト又はセラミックスラリーをCaBER(HAAKE製)を用いてペースト厚み2mmとなるように2本の金属棒に挟み、0.2m/sの速度で引き離した。この時、2本の金属棒の間に形成される糸状のペーストが切断するまでの時間を測定した。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、印刷又は塗工時に糸引きしにくく、密着性に優れ、かつ、低密度で高い分散性を有する樹脂組成物を作製することが可能な変性ポリビニルアセタール樹脂及び該変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)で表される構造単位を有することを特徴とする変性ポリビニルアセタール樹脂。
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは下記一般式(6)、及び/又は(7)で表される官能基を有する基を表す。
【化2】

【請求項2】
前記一般式(1)で表される構造単位の含有量が17〜30モル%、前記一般式(2)で表される構造単位の含有量が40〜80モル%、前記一般式(3)で表される構造単位の含有量が0.1〜25モル%、前記一般式(4)で表される構造単位の含有量が0.5〜20モル%、かつ、前記一般式(5)で表される構造単位の含有量が0.1〜15モル%であることを特徴とする請求項1記載の変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2記載の変性ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤、並びに、無機粉末、金属粉末及び有機粉末からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする変性ポリビニルアセタール樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−107201(P2012−107201A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195105(P2011−195105)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】