説明

多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法

【課題】紫外線を照射する光源による熱の影響を低減して、外径の安定した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を提供する。
【解決手段】吸水膨潤させた含水吸水性ポリマが分散された紫外線硬化型樹脂組成物を金属導体の外周に被覆する工程と、前記金属導体の外周に被覆された前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し架橋硬化させるとともに、前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理して多孔質化する工程と、を含む多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射する1灯目の紫外線照射炉では、前記紫外線硬化型樹脂組成物を冷却する冷却液中で紫外線を照射し架橋硬化させて、その後に前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属導体の外周に多孔質の紫外線硬化型樹脂組成物被覆を施した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野をはじめとする精密電子機器類や通信機器類の小型化や高密度実装化が進むなかで、これらに使用される電線・ケーブルもますます細径化が図られている。特に信号線等では、伝送信号の一層の高速化を求める傾向が顕著であり、これに使用される電線の絶縁体層を薄くかつ可能な限り低誘電率化することにより伝送信号の高速化を図ることが望まれている。
【0003】
この絶縁体層には従来、ポリエチレンやふっ素樹脂などの誘電率の低い絶縁材料を発泡(多孔質化)させたものが使われている。発泡した絶縁体層の形成は、予め発泡させたフィルムを導体上に巻き付ける方法や押出方式が知られており、特に押出方式が広く用いられている。
【0004】
押出方式により発泡を形成する方法は、大きく物理的な発泡方法と化学的な発泡方法に分けられる。物理的な発泡方法としては、液体フロンのような揮発性発泡用液体を溶融樹脂中に注入し、その気化圧により発泡させる方法や窒素ガス、炭酸ガスなど押出機中の溶融樹脂に直接気泡形成用ガスを圧入させることにより一様に分布した細胞状の微細な独立気泡体を樹脂中に発生させる方法などがある。化学的な発泡方法としては、樹脂中に発泡剤を分散混合した状態で成形し、その後熱を加えることにより発泡剤の分解反応を発生させ、分解により発生するガスを利用して発泡させる方法がよく知られている。
【0005】
押出方式に代わる薄肉被覆方式として、エナメル線に代表される熱硬化樹脂のコーティングや光ファイバの紫外線硬化樹脂のコーティングなどのコーティング方式が知られている。
【0006】
また、押出方式やコーティング方式に代わる方法として、予め水を吸収させ膨潤させた含水吸水性ポリマを液状の架橋硬化型樹脂に分散させた有機樹脂組成物を、紫外線又は熱により架橋硬化後に含水吸水性ポリマの水分を除去することにより、空孔を形成し多孔質層とする方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1によれば、薄肉で細径の発泡絶縁層の形成を高速化することが容易となり、また、環境負荷も抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−209190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の物理的な発泡方法において、溶融樹脂中に揮発性発泡用液体を注入する方法は、気化圧が大きく気泡の微細形成が難しいため薄肉成形に限界があり、揮発性発泡用液体の注入速度が遅いため、高速成形が難しく生産性に劣るという問題がある。また、押出機中で直接気泡形成用ガスを圧入する方法は、細径薄肉化に限界があること、安全面で特別な設備や技術を必要とするため、生産性に劣ることや製造コストの上昇を招いてしまう問題がある。また、フロン、ブタン、炭酸ガス等を用いる物理的な発泡方法は
環境負荷が大きい問題がある。
【0009】
また、上記の化学的な発泡方法においては、予め樹脂中に発泡剤を混練し、発泡剤を反応分解させて発生したガスにより発泡させるため、樹脂の成形加工温度は、発泡剤の分解温度より低く保持しなければならない問題がある。さらに、素線の径が細くなると、押出被覆では樹脂圧により断線が起こりやすく、高速化が難しくなるという別の問題もある。また、化学的な発泡方法に用いる発泡剤は価格が高いといった問題がある。
【0010】
さらに、コーティング方式においては、薄肉被覆に有効な熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂などの液状材料を被覆させるが、熱硬化樹脂の場合、材料のかなりの部分を占める溶剤を揮散させるとともに焼付する必要がある。このため、1回のコーティングで得られる膜厚は数μm以下となり、多層塗りを必要とし、発泡層(多孔質層)の形成が困難である。また、撚導体では導体の隙間に溶剤が入り込み、溶剤の揮散がしにくく、被覆のふくれなどが発生しやすい。さらに溶剤を使用するため環境負荷が大きい問題がある。
【0011】
また、特許文献1の方法を紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造に用いた場合、紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の外径変動が生じやすいという問題があった。この問題を検討したところ、紫外線硬化型樹脂組成物を架橋硬化する際に用いる紫外線ランプに原因があることが明らかになった。
すなわち、紫外線ランプからは紫外線だけでなく赤外線や輻射熱が放射されるため、含水吸水性ポリマ中の水分が急激に熱せられることになる。さらに、紫外線硬化型樹脂組成物の架橋硬化にともなう反応熱(重合熱)により水分が熱せられることになる。このため、紫外線硬化型樹脂組成物が架橋硬化する前に含水吸水性ポリマ中からの水分の放出、および紫外線硬化型樹脂組成物の急激な粘性変化により、紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線に外径変動が生じていた。
【0012】
本発明は、紫外線を照射する光源による熱の影響を低減して、外径の安定した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線が得られる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、吸水膨潤させた含水吸水性ポリマが分散された紫外線硬化型樹脂組成物を金属導体の外周に被覆する工程と、前記金属導体の外周に被覆された前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し架橋硬化させるとともに、前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理して多孔質化する工程と、を含む多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射する1灯目の紫外線照射炉では、前記紫外線硬化型樹脂組成物を冷却する冷却液中で紫外線を照射し架橋硬化させて、その後に前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理する多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法である。
【0014】
上記記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記冷却液は水であることが好ましい。
【0015】
上記記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記紫外線硬化型樹脂組成物の被覆された前記金属導体は、紫外線を照射する紫外線照射炉の、紫外線に対して透明な材料からなる透明管内に給排され又は充填されている前記冷却液中に導入されることが好ましい。
【0016】
上記記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記透明管は前記冷却液が給排され又は充填されている内管と前記内管を囲む外管とを有する二重管構
造であって、前記外管内は乾燥ガス雰囲気または真空であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、紫外線を照射する光源による熱の影響を低減して、外径の安定した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法で用いた製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】(a)は脱水処理前の紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の断面図であり、(b)は(a)の脱水処理後の断面図である。
【図3】図1の製造装置の紫外線照射炉を示すもので、(a)は冷却液が給排され又は充填される透明管を備える紫外線照射炉の一例を示す概略構成図であり、(b)は(a)における透明管が二重管構造の紫外線照射炉の一例を示す概略構成図である。
【図4】(a)は実施例の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の外観を示す電子顕微鏡写真であり、(b)は(a)の電線の拡大した断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例における紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述したように、従来にあっては、紫外線ランプを用いて紫外線を照射する際に、樹脂組成物の架橋硬化と同時に、含水吸水性ポリマから水分が加熱、脱水されていた。すなわち、樹脂が十分に架橋硬化する前に脱水が生じるため、空孔の形成が阻害され、製造される電線の外径が不安定となっていた。このことから、本発明者らは紫外線を照射する光源による熱の影響を鋭意研究した。その結果、紫外線照射の1灯目において、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を冷却する冷却液中で樹脂組成物の架橋硬化を行うことによって、紫外線ランプの輻射熱および紫外線硬化型樹脂組成物の反応熱(重合熱)による脱水を抑制するとともに、紫外線硬化型樹脂組成物の急激な粘性変化を抑える。これにより、架橋硬化後の脱水処理において、所定の寸法、分布を有する空孔を形成でき、電線の外径を安定化できることを見出し、本発明を創作するに至った。
【0020】
以下に、本発明にかかる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を、図1に示す製造装置を用いて製造する製造方法について説明する。図1は本発明の一実施形態にかかる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を製造する製造方法に用いた製造装置の一例を示す概略構成図である。図1に示すように、製造装置は、金属導体2を送り出す送出機30と、送出機30から送り出された金属導体2に多孔質紫外線硬化型樹脂組成物を被覆形成して巻き取る引取・巻取機33と、の間の搬送経路には、垂直下方に電線を搬送する垂直搬送ラインを有する。この垂直搬送ラインには、上から順に、垂直下方に送られる金属導体2の外周に含水吸水性ポリマが分散された紫外線硬化型樹脂組成物を塗布する加圧塗布槽31と、冷却液が給排される透明管を備える1段目の紫外線照射炉10と、2段目の紫外線照射炉21と、被覆層が硬化した電線の外径を測定する外径測定機32と、が配置されている。さらに、上記搬送経路には、金属導体2をガイドする複数のローラ34が配置されるとともに、引取・巻取機33は乾燥部35内に設置されている。
【0021】
本実施形態にかかる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線1の製造方法は、図1に示すように、含水吸水性ポリマが分散された紫外線硬化型樹脂組成物を金属導体2の外周に被覆する工程と、冷却液が給排される透明管を備える紫外線照射炉10で金属導体2上の含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射して被覆層5を形成する工程と、紫外線照射炉で被覆層5に紫外線を照射する工程と、被覆層5の含水吸水性ポリマ中の水分を脱水処理して、空孔を形成し被覆層5を多孔質化する工程と、を含む。
【0022】
まず、液状の紫外線硬化型樹脂組成物に、予め吸水し膨潤させた吸水性ポリマを分散させて、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を準備する。
吸水性ポリマとは、非常に良く水を吸い込み、保水力が強いため多少の圧力を加えても吸水した水を放出しない高分子物質で、含水吸水性ポリマとは、吸水性ポリマに水を吸水させたものである。吸水性ポリマとしては、電気絶縁性を低下させる要因となるナトリウムを含まないものが好ましく、例えばポリアルキレンオキサイド系樹脂などがあげられる。含水吸水性ポリマは、吸水性ポリマ1gあたりに吸水する水の量を示す吸水量が、20〜100g/gの範囲内の数値であることが好ましい。これは、吸水量が20g/gより少ないと、多孔質化する際の高い空隙率を得るために吸水性ポリマの添加量を多くする必要があり、コスト面や機械的特性面での問題や空孔形成効率の低下が生じやすくなるためである。一方、吸水量が100g/gより多いと、多孔質化する際の脱水効率が低下することや微細な空孔形成が難しくなるためである。
【0023】
また、吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散させるのは、空孔のサイズや形状が、吸水性ポリマの粒子径と吸水量で制御できることや、吸水膨潤によりゲル状となった吸水性ポリマが水を多く含み、水と液状の紫外線硬化型樹脂組成物とは非相溶なので、撹拌分散の際に、独立分散しやすく、且つ球状となって分散しやすくなるからである。このため硬化後の脱水によって得られる空孔形状を球に近い形状とすることができ、つぶれに対して強いものが得られやすくなる。
【0024】
なお、紫外線硬化型樹脂組成物としては、紫外線により硬化するもので、ウレタン系、シリコーン系、ふっ素系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリカーボネート系など公知の樹脂組成を選択できるが、樹脂成分の誘電率が4以下であることが好ましく、3以下であるとさらに好ましい。また、紫外線硬化型樹脂組成物に添加される光重合開始剤は、使用する紫外線照射ランプの波長領域に適したものが、公知の光重合開始剤から選択される。また、金属導体2としては、銅、アルミ、ニッケルなど、またはこれらをベースとした合金があげられ、例えば、銅メッキ線た錫メッキ線などが用いられる。
【0025】
次に、送出機30から金属導体(撚り線)2を送り出し、ローラ34により金属導体2をガイドして加圧塗布槽31に送る。この加圧塗布槽31において、塗布ダイス(図示せず)により、金属導体2の外周に、上記の含水吸水性ポリマが分散された液状の紫外線硬化型樹脂組成物を塗布して、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線3(以下、被覆電線3とする)を形成する。被覆電線3は、金属導体2の外周に、含水吸水性ポリマが分散した紫外線硬化型樹脂組成物が所定の厚さで塗布されている。
【0026】
次に、図1、図2(a)に示すように、冷却液としての水が給排され、紫外線に対して透明な材料からなる透明管としての石英管を備える紫外線照射炉10に被覆電線3を送り、水中で金属導体2の外周の紫外線硬化型樹脂組成物6に紫外線を照射し、紫外線硬化型樹脂組成物6が架橋硬化され被覆層5の形成された、硬化した含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線4(以下、硬化した被覆電線4とする)を形成する。この被覆層5は、金属導体2の外周に形成され、硬化した紫外線硬化型樹脂組成物6中に含水吸水性ポリマ7が分散した構造となっている。
【0027】
水が給排される石英管を備える紫外線照射炉10(以下、紫外線照射炉10とする)は、図3(a)に示すように、炉内には紫外線を照射する紫外線ランプ11が設けられるとともに、被覆電線3が垂直に通過する石英管12が設置されている。また、紫外線照射炉10の内壁面部には、赤外線を透過させ紫外線を反射する反射鏡としてのコールドミラー(図示せず)を備えている。紫外線ランプ11は紫外線を発光し、石英管12内を通過する金属導体2外周の紫外線硬化型樹脂組成物6を架橋硬化するが、紫外線ランプ11とし
て、高圧水銀ランプやメタルハライドランプなどの放電ランプなどが用いられる場合、発光する光には紫外線以外に赤外線が含まれることになる。また、紫外線ランプ11は発光に伴って発熱して、紫外線照射炉10内の温度を上昇させる。
本実施形態において、石英管12は、水Wを供給する供給口14を下部に、水Wを排出する排出口15を上部にそれぞれ備えている。石英管12は、水Wが供給口14から供給されるとともに排出口15から排出されて、石英管12内の水W中を通過する被覆電線3を冷却して、紫外線ランプ11からの赤外線照射による熱の影響を低減している。
すなわち、水Wが給排される石英管12内の被覆電線3に紫外線ランプ11で照射する際に、紫外線ランプ11から照射される紫外線に含まれる赤外線による輻射熱を水Wで冷却することができる。また、被覆電線3を水W中に導入することにより架橋硬化にともなう反応熱(重合熱)も冷却できるとともに、紫外線ランプ11の発光にともなう紫外線照射炉10内の温度上昇から被覆電線3を保護することが可能となる。さらに、被覆電線3の発熱を低減して、樹脂中に含まれる低分子量成分の揮発を抑制できるので、揮発成分の石英管12への付着、および付着にともなう紫外線の透過率の低下を抑制することができる。
このように、紫外線照射の一段目(1灯目)の紫外線照射炉10において、水W中で紫外線を照射することにより、輻射熱および重合熱による紫外線硬化型樹脂組成物6の温度上昇を抑制するとともに、発光に伴い上昇する紫外線照射炉10の炉内温度から被覆電線3を保護しつつ架橋硬化させることができる。
したがって、紫外線硬化型樹脂組成物6の硬化過程(硬化が不十分な状態)において、含水吸水性ポリマ7中の水分の加熱による放出、および紫外線硬化型樹脂組成物6の急激な粘性変化を抑制でき、空孔形成の阻害および樹脂組成物被覆電線の外径変動を抑制することができる。
【0028】
上記実施形態において、冷却液として水を用いたが、冷却液は、紫外線の吸収が少なく、かつ含水吸水性ポリマ中の水分を脱水しないものであれば、水に限らない。水は、赤外線を一部吸収するため、赤外線による輻射熱を低減し金属導体2などの温度上昇を抑制することができる。さらに、被覆電線3を水環境下に導入することで、含水吸水性ポリマ中の水分量を低減することなく一定とすることが可能となる。
【0029】
上記実施形態において、透明管として石英管を用いたが、透明管の材料には、紫外線に対して透明であれば石英に限定されず、紫外線透過率の高い石英以外のガラスや樹脂などを用いることができる。石英管は耐熱性が高く紫外線の透過率が高いため透明管に好適である。
また、透明管は、冷却液が給排される内管と内管を囲む外管とを有する二重管構造の石英管であって、外管内は乾燥ガス雰囲気または真空とすることが好ましい。二重管構造石英管16とは、図3(b)に示すように、供給口14および排出口15を有し、水Wが給排される内管17と、ガス供給口19およびガス排出口20を有し、乾燥ガス雰囲気にある外管18と、を備える構造を示す。乾燥ガス雰囲気とは、乾燥ガスGが給排又は充填され、雰囲気中に含まれる水分(水蒸気)が少ない又は実質的にない状態をいう。
図3(a)に示すような石英管12の表面においては、水Wが給排される石英管12の内部とその外部とでは温度差が大きいため、石英管12の表面に結露が生じ、その結露により透明管12の表面における紫外線の透過率が低下することになる。一方、透明管を二重管構造石英管16とすることによって、内管17を覆う外管18中の水分(水蒸気)を減少し結露の発生を抑制することができる。しかも、外管18を設けて断熱効果を得ることにより給排される水Wの温度上昇を抑えることができる。なお、用いる乾燥ガスとしては、水蒸気を含有しないものであればよく、取り扱い性などの観点から乾燥空気が好ましい。また、外管18内を真空状態として、結露の発生を防止しても良い。
【0030】
続いて、被覆層5が形成され、硬化した被覆電線4を、紫外線照射炉21に送り紫外線
を照射して、被覆層5をさらに十分に架橋硬化する。紫外線照射炉21は、図示しないが、上述した紫外線照射炉10と同様に、紫外線ランプ、石英管、コールドミラーを備えており、紫外線照射炉10とは、冷却液としての水が石英管内に給排されない点だけが異なる。
本実施形態においては、被覆層5に紫外線をさらに照射するに際して、冷却液としての水を用いずに大気中で紫外線を照射している。紫外線ランプを用いることにより含水吸水性ポリマの水分が加熱されるが、上述した一段目の冷却液としての水が給排される石英管を備える紫外線照射炉10において、被覆電線3は外径変動が生じない程度に架橋硬化された被覆層5が形成されるので、外径の変動は生じにくい。しかも、2段目の紫外線照射炉21において、紫外線ランプにより被覆層5の架橋硬化に加えて脱水処理も同時になされ、後述する脱水工程において、脱水処理時間の短縮や脱水処理装置の縮小などが可能となる。
【0031】
続いて、図1に示すように、硬化した被覆電線4は外径測定機32を通過することにより、その外径が連続的に測定され、搬送速度の制御などに利用される。外径測定機32としては非接触のレーザ方式などが用いられる。
【0032】
続いて、被覆層5が形成され、硬化した被覆電線4は、乾燥部35内の引取・巻取機33へと巻き取られる。乾燥部35は、図1に示すように、硬化した被覆電線4の搬送距離を長くして乾燥時間を長くするために、硬化した被覆電線4を反転などするための複数のローラ34が配置される。この乾燥部35において、硬化した被覆電線4の搬送中(あるいは更に引取・巻取機33に巻き取った硬化した被覆電線4を放置することにより)、被覆層5中に分散した含水吸水性ポリマ7の水分を自然乾燥し脱水する。この乾燥による脱水処理で、含水吸水性ポリマ7中の水分が脱水、除去され、図2(b)に示すような空孔8が形成され、被覆層5が多孔質化された多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線1が形成される。
上記実施形態においては、脱水処理を自然乾燥により行ったが、乾燥部内を高温に保持し乾燥による脱水処理を促進するようにしてもよい。また、マイクロ波により加熱して脱水することも可能である。マイクロ波による加熱によれば水分を急速に加熱できるので、吸水性ポリマや周囲の樹脂などに影響をあたえることなく、短時間で効率よく空孔を形成できる。また、電線を搬送する距離を低減することができるので、装置を小型化・縮小化することができる。
【0033】
上述したように、本実施形態においては、金属導体の外周に塗布された、含水吸水性ポリマを分散した紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射する1灯目において、水中(冷却液中)で紫外線を照射する。この構成により、輻射熱および重合熱による金属導体などの温度上昇を抑制するとともに、紫外線ランプの発光による紫外線照射炉内の温度上昇から含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を保護するため、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の硬化過程(架橋硬化が不十分な状態)において、含水吸水性ポリマからの水分の加熱、脱水を最小限に抑制することができる。そして、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の硬化前における急速な粘性や流動性変化による空孔の形成の阻害を抑制し、被覆樹脂の塗りムラがなく外径の安定した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を形成することができる。また、被覆樹脂を多孔質化して誘電率を低下することができるので、細径、薄肉化した伝送速度の高い信号線などを形成することができる。
【0034】
なお、上記実施形態では水(冷却液)が給排される場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、冷却液を循環させたり、あるいは透明管内に冷却液を流さずに充填させた状態のままとしてもよい。また、上記実施形態では、二段(2灯)ある紫外線照射炉の一段目において冷却液中で紫外線を照射し、二段目において冷却液を用いず
に紫外線を照射した場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。紫外線照射工程の1灯目において、冷却液中で紫外線照射を行えばよく、例えば、二段以上の冷却液中での紫外線照射、または冷却液中での紫外線照射と冷却液を用いない紫外線照射を組み合わせた三段以上の紫外線照射としてもよい。
【0035】
また、上記実施形態において、紫外線照射炉に備える紫外線ランプは、特に限定されず、放電ランプやLEDランプなどを好適に用いることが可能である。
【0036】
また、本発明の金属導体は、複数の金属導体を撚りあわせた撚り線に限らず、単線の金属導体の電線にも適用可能である。また、本発明は、電線に限定されず、多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の外周に、さらに金属導体およびシースを設けた同軸ケーブルや、複数の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を用い、これら電線などを平行に束ねたりして、その外周にシースを設けたケーブルなどにも適用できる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0038】
まず、本発明の実施例において用いる含水吸水性ポリマ含有の紫外線硬化型樹脂組成物について説明する。
紫外線硬化型樹脂組成物には、オリゴマー成分として、H−MDI変性ポリエチレングリコールアジペートジメタクリレートオリゴマ(UA-4002HM、新中村化学)を100重量
部、モノマー成分として、シクロペンタニルアクリレート(FA-513AS、日立化成工業)を55重量部、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184、チバスペシャリテイケミカルズ)を3重量部、および2,4,6−トリメチルベ
ンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO、チバスペシャリテイケミカ
ルズ)を4.5重量部、酸化防止剤として2,2−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX1035、チバスペシャリテイケミカルズ)を0.15重量部、安定剤としてヒドロキノンを0.15重量部、を添加して混練機により混練した、紫外線硬化型樹脂組成物Aを使用した。
【0039】
紫外線硬化型樹脂組成物Aに分散させる含水吸水性ポリマは、平均粒径50μmの吸水性ポリマ(アクアコークTWP−PF 住友精化製)と蒸留水とを1:31の比率で混ぜ合わせ24時間静置した後、高圧ホモジナイザー(PANDA 2K型 Niro Soavi社製)を用い
圧力130MPaで、1回処理した含水吸水性ポリマBを使用した。
【0040】
上記紫外線硬化型樹脂組成物Aに、含水率が60%となるように含水吸水性ポリマBを添加して、50℃に加温しながら30分、回転数600rpmで攪拌分散し、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Cを準備した。
【0041】
(実施例1)
金属導体として、40AWG(素線本数7、素線直径0.03mm)の銀メッキ銅撚り線の外周に、加圧塗布槽を用いて、40℃に加温した含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Cを速度100m/minで被覆(厚さ110μm)した。そして、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Cに被覆された撚り線を、一段目の紫外線照射炉として、二重管構造の石英管を備え、内管の中に水を循環させ、外管に乾燥空気を給排させた紫外線照射炉(メタルハライドランプ:アイグラフィックス製、6kW、ランプ長25
0mm、波長230〜600nm)に通して、紫外線硬化型樹脂組成物を架橋硬化して被覆層を形成した。さらに、二段目の紫外線照射炉として、通常の石英管を備えた紫外線照射炉(メタルハライドランプ:アイグラフィックス製、6kW、ランプ長250mm、波
長230〜600nm)に通して、さらに架橋硬化して、被覆厚が約110μmの被覆層
を形成した。硬化された被覆層は、その後乾燥、もしくはマイクロ波などにより加熱され、被覆層中の含水吸水性ポリマの水分を除去して空孔を形成することにより、多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を得た。
【0042】
上記で得られた多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を、電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、図4(a)に示すように、電線の外径は安定しており、その外径変動は±10μm以下となっていた。また、図4(b)に示すように、空孔は潰されることなく被覆層中に分散されて形成されていた。なお、外径変動の許容範囲は被覆層の厚さにより変化して、被覆層の厚さが110μmの場合は±20μm以下であれば実用上問題はない。
【0043】
(比較例1)
比較例1では、紫外線照射の一段目および二段目のそれぞれにおいて、通常の石英管を装着した紫外線照射炉(メタルハライドランプ:アイグラフィックス製、6kW、ランプ
長250mm、波長230〜600nm)を用いて、大気中で紫外線を照射した点が実施例1と異なるだけで、その他の構成については実施例1と同じである。
【0044】
実施例1と同様に、電子顕微鏡により観察した結果、図5に示すように、電線の外径が不安定となり、空孔の潰れや金属導体の露出が観察された。また、電線の外径変動は±50μm以上となっており、実用上問題が生じる。
【0045】
実施例及び比較例から明らかなように、含水吸水性ポリマを分散させた紫外線硬化型樹脂組成物を金属導体上に被覆して架橋硬化させる際に、少なくとも紫外線照射の1灯目において、冷却液中で紫外線を照射して架橋硬化することで安定した外径の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を得られることがわかった。
【符号の説明】
【0046】
1 多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線
2 金属導体
3 含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線
4 硬化した含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線
5 被覆層
6 紫外線硬化型樹脂組成物
7 含水吸水性ポリマ
8 空孔
10 水が給排される石英管を備える紫外線照射炉
11 紫外線ランプ
12 石英管(透明管)
16 二重管構造石英管
17 内管
18 外管
21 紫外線照射炉
31 加圧塗布槽
35 乾燥部
W 水(冷却液)
G 乾燥ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水膨潤させた含水吸水性ポリマが分散された紫外線硬化型樹脂組成物を金属導体の外周に被覆する工程と、
前記金属導体の外周に被覆された前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し架橋硬化させるとともに、前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理して多孔質化する工程と、を含む多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、
前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射する1灯目の紫外線照射炉では、前記紫外線硬化型樹脂組成物を冷却する冷却液中で紫外線を照射し架橋硬化させて、その後に前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理することを特徴とする多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記冷却液は水であることを特徴とする多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記紫外線硬化型樹脂組成物の被覆された前記金属導体は、紫外線を照射する紫外線照射炉の、紫外線に対して透明な材料からなる透明管内に給排され又は充填されている前記冷却液中に導入されることを特徴とする多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記透明管は前記冷却液が給排され又は充填されている内管と前記内管を囲む外管とを有する二重管構造であって、前記外管内は乾燥ガス雰囲気または真空であることを特徴とする多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−174610(P2012−174610A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37607(P2011−37607)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】