説明

安全靴等に用いられる樹脂製先芯およびそれを装着した靴

【目的】従来の先芯に比べて大幅な軽量化および低コスト化を実現でき、かつ10.8kNの圧迫荷重において日本工業規格JIS T8101−1987の7.2(2)の規定を満足する樹脂製先芯を提供すること。
【解決手段】安全靴等のつま先部に装着される先芯であって、PC(ポリカーボネート)、PCアロイ(ポリカーボネートアロイ)、アクリル変性塩ビの中から選ばれたいずれか一つの熱可塑性樹脂材料により樹脂製先芯を成形し、前記樹脂製先芯は、同先芯の水平距離の1/2のところで測定した高さが35mm以上45mm以下であり、かつ先端部の肉厚が3mm以上12mm以下であることを特徴とする樹脂製先芯。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製先芯およびそれをつま先部に装着した安全靴等に関するものである。ここで(安全靴等)とは、広く着用者のつま先を先芯により保護する靴の意であり、日本工業規格の規定外のもの(例えば、甲被に合成皮革を使用するもの等)をも含めるものとする。
【背景技術】
【0002】
日本工業規格のJIS T8101の普通作業用S種の性能を満足する従来の先芯としては、鋼製あるいは特許文献1に記載されているような長繊維強化された熱可塑性樹脂製のものが知られている。
【0003】
【特許文献1】特許第2969518号
【0004】
しかしながら、鋼製のものは重量が重く靴としてのバランスが悪いため、疲れやすい等の問題があった。
【0005】
前記特許2969518号はこの問題を解決すべくなされたものであり、長繊維強化の複合材料とすることで、軽量化を実現した。しかし、この発明においても性能を維持するためには、成形品中の強化繊維の長さを十分に長く保つ必要があり、汎用の射出成形という成形手法では残存繊維長が短くなってしまうために使えず、もっぱら圧縮成形を用いている。
【0006】
このため、成形に人手がかかるとともに、製法上どうしてもバリが発生するため、これを後で除去しなくてはならず手間とコストがかかっていた。また、履き古した安全靴を焼却処分するにあたっても、強化繊維としてガラス繊維が用いられることが多いため、残渣として残ってしまい灰としての処分量が増えてしまうという問題があった。
【0007】
また、欧州規格であるEN 12568に適合する先芯や、EN 344におけるProtective footwearまたはSafety footwearとしても一般的には、先芯として鋼製のものが用いられており、重量が重いという課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来からの問題点を解決し、従来の先芯に比べて大幅な軽量化および低コスト化を実現でき、かつ10.8kNの圧迫荷重において日本工業規格JIS T8101−1987の7.2(2)の規定を満足する樹脂製先芯を提供することにある。また、そのような先芯を装着することにより、疲れにくく且つつま先部の耐衝撃性および耐圧迫性が日本工業規格JIS T8101:1997における安全靴の普通作業用S種に要求される性能を満足する靴を提供することにある。ここで発行年度の異なる2種類の版のJIS T8101を用いる理由は、基本的には現行版(JIS T8101:1997)によるべきであるが、現行版には先芯単体としての性能が規定されておらず、また、他の現行JIS規格によっても先芯単体の性能は規定されていないため、先芯単体の性能を把握する方法として旧版(JIS T8101−1987)に記載されている先芯に関する規定を用いたものである。
【0009】
さらに本発明の目的は、上記の従来からの問題点を解決し、従来の先芯に比べて大幅な軽量化および低コスト化を実現でき、かつ耐圧迫性および耐衝撃性においてEN 12568に適合する先芯を提供することにある。また、そのような先芯を装着することにより、疲れにくく且つつま先部の耐衝撃性および耐圧迫性がEN 344におけるProtective footwearまたはSafety footwearに要求される性能を満足する靴を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討した結果、重量を大幅に軽量化し、射出成形により低コスト化を実現できる先芯材料を見出し、本発明に到達した。
【0011】
本発明が採用した技術解決手段は、
(1)安全靴等のつま先部に装着される先芯であって、PC(ポリカーボネート)、PCアロイ(ポリカーボネートアロイ)、アクリル変性塩ビの中から選ばれたいずれか一つの熱可塑性樹脂材料により樹脂製先芯を成形し、前記樹脂製先芯は、同先芯の水平距離の1/2のところで測定した高さが35mm以上45mm以下であり、かつ先端部の肉厚が3mm以上12mm以下であることを特徴とする樹脂製先芯。
【0012】
(2)前記(1)の樹脂製先芯が、射出成形により得られたものであることを特徴とする樹脂製先芯。
【0013】
(3)前記(1)または(2)の樹脂製先芯であって、PCアロイがPC/ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、PC/ポリエステル、PC/MBS(メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体)、PC/ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸エチレン共重合体)、PC/AES(アクリロニトリル−エチレン・プロピレンゴム−スチレン共重合体)、PC/SAS(シリコン系複合ゴム−アクリロニトリル−スチレン共重合体)、PC/HIPS(ハイインパクトポリスチレン)のいずれかであることを特徴とする樹脂製先芯。
【0014】
(4)前記(1)から(3)のいずれかの樹脂先芯であって、1個当たりの重量が40g以下であり、10.8kNの圧迫荷重において日本工業規格JIS T8101−1987の7.2(2)の規定を満足する樹脂製先芯。
【0015】
(5)前記(1)から(3)のいずれかの樹脂先芯であって、1個当たりの重量が40g以下であり、欧州規格EN 12568:1998の4.1.3および4.1.4に規定される保護靴(protective footwear)用先芯としての性能を満足する樹脂製先芯。
【0016】
(6)前記(1)から(3)のいずれかの樹脂先芯であって、1個当たりの重量が50g以下であり、欧州規格EN 12568:1998の4.1.3および4.1.4に規定される安全靴(safety footwear)用先芯としての性能を満足する樹脂製先芯。
【0017】
(7)前記(4)の樹脂製先芯が装着され、つま先部の耐衝撃性および耐圧迫性が日本工業規格JIS 8101:1997における安全靴の普通作業用S種に要求される性能を満足することを特徴とする靴。
【0018】
(8)前記(5)の樹脂製先芯が装着され、つま先部の耐衝撃性および耐圧迫性が欧州規格EN 344:1992における保護靴(protective footwear)に要求される性能を満足することを特徴とする靴。
【0019】
(9)前記(6)の樹脂製先芯が装着され、つま先部の耐衝撃性および耐圧迫性が欧州規格EN344:1992における安全靴(safety footwear)に要求される性能を満足することを特徴とする靴。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、10.8kNの圧迫荷重において日本工業規格JIS T8101−1987の7.2(2)の規定を満足することのできる樹脂先芯を、軽量かつデザイン性の優れたものとして提供することが可能となった。また、耐圧迫性および耐衝撃性においてEN 12568に適合する先芯を、軽量かつデザイン性の優れたものとして提供することが可能となった。その結果、疲れにくく且つつま先部の耐衝撃性および耐圧迫性が日本工業規格JIS T8101:1997における安全靴の普通作業用S種に要求される性能を満足する靴を提供することが可能となった。また、疲れにくく且つつま先部の耐衝撃性および耐圧迫性がEN 344におけるProtective footwearまたはSafety footwearに要求される性能を満足する靴を提供可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
安全靴等の先芯に要求される特性とは、対圧迫性に関しては材料の弾性率が重要であり、耐衝撃性に関しては材料の耐衝撃性が重要である。また、これと並行して先芯の形状デザインも重要な要素である。特に前記JIS規格やEN規格に規定されている衝撃試験に当たっては、そのストライカーの形状から先芯先端部の肉厚がエネルギー吸収の面から重要な要素となるとともに、先芯自体の初期高さも重要な要素である。材料的には性能の低いものを使用して、前記JIS規格やEN規格に規定する強度性能を満たす先芯を作ること及び/または前記JIS規格やEN規格において要求されるつま先保護性能を有する靴を作ることは可能であるが、先芯先端部の肉厚を相当大きくしなければならなかったり、先芯自体の初期高さを相当高いものにしなければならない。先芯は靴にはめ込んで使用する物であり、デザイン的にも事実上制約があるため、上記のような性能の低いものを使用したのでは、つま先保護性能を有する靴(安全靴、保護靴)として実用に適さないものとなってしまう。
【0022】
本発明者は鋭意検討した結果、先芯の材料として、長繊維強化されていない熱可塑性樹脂であっても十分に先芯強度に耐える樹脂があることを見いだし、さらに熱可塑性樹脂材料としては、PC(ポリカーボネート)、PCアロイ(ポリカーボネートアロイ)、アクリル変性塩ビの何れか一つの材料が一層有効であることを見いだした。なお、前記熱可塑性樹脂が、曲げ弾性率が2000MPa以上で、且つシャルピーV付き衝撃強度が30KJ/m2 以上のものであれば、強度上で十分であり、先芯材料として一層好ましい。
【0023】
より好ましい先芯を成形する熱可塑性樹脂の性能としては、曲げ弾性率2200MPa以上で、且つシャルピーV付き衝撃強度が50KJ/m2 以上の材料を選択することが好ましい。
【0024】
より好ましくは、曲げ弾性率とシャルピーV付き衝撃強度のバランスがとれたPCおよび/あるいはPCアロイがより好ましい。
【0025】
PCアロイとしては、PC/ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、PC/ポリエステル、PC/MBS(メタクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体)、PC/ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エチレン共重合体)、PC/AES(アクリロニトリル-エチレン・プロピレンゴム-スチレン共重合体)、PC/SAS(シリコン系複合ゴム-アクリロニトリル-スチレン共重合体)、PC/HIPS(ハイインパクトポリスチレン)が挙げられ、中でも汎用的であるPC/ABSを選択することが特に好ましい。
【0026】
上記に記載した熱可塑性樹脂には、性能を阻害しない範囲で、耐衝撃改良材、ゴム、エラストマー、着色剤、酸化防止剤、フィラー、耐候剤等の添加剤を加えることも可能である。
【0027】
先芯の形態としては、先芯の水平距離の1/2のところで測定した高さが35mm以上、45mm以下であることが必要である。35mm以下では前記各JIS規格および/またはEN規格に規定される強度性能を満たすことが困難となり、45mm以上では先芯としての頂上部の位置がかなり高くなるため安全靴等の外観がデザイン上好ましくないものとなる。より好ましい高さは37mm以上、43mm以下である。
【0028】
また、先端部の肉厚が3mm以上、12mm以下であることが必要である。3mm以下では、強度を保持することが難しく、12mm以上では極端に肉厚となるため、重量増になるとともに形状的に実用に適さないものとなってしまう。
より好ましい先芯の先端部の肉厚は、4mm以上10mm以下である。
【0029】
先芯1個の重量としては、JIS T8101−1987の7.2(2)の規定を満足する先芯および/またはJIS T8101:1997における安全靴の普通作業用S種に要求される性能を満足する靴に使用される先芯においては、軽量化して疲れにくくするには40g以下にすることが必要である。より好ましくは20g以上38g以下の範囲である。20g以下である場合、耐衝撃性および耐圧迫性を維持することが困難となる。EN 12568のProtective footwear用先芯および/またはEN 344のProtective footwearに使用される先芯においても同様である。
【0030】
また、EN 12568のSafety footwear用先芯および/またはEN 344のSafety footwearに使用される先芯においては、先芯1個の重量としては50g以下にすることが必要である。より好ましくは30g以上48g以下の範囲である。30g以下である場合、耐衝撃性および耐圧迫性を維持することが困難となる。
【0031】
本発明の樹脂製先芯の成形方法としては、圧縮成形、押出し圧縮成形等も可能であるが、自動化しやすくバリの発生がほとんどない射出成形が好ましい。これにより、従来の圧縮成形で発生していたバリ取り工程が削減されるとともに、省力化することができ低コストで先芯が得られ、軽量でデザイン性に優れたつま先保護性能を有する靴(安全靴、保護靴)を提供することができる。
【0032】
また、本発明の樹脂製先芯で使用される材料は基本的には、熱可塑樹脂がほぼ100%であるので、安全靴等を履き古して焼却処分される際にもほとんど残渣を出さず、環境にもやさしいものとなっている。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、材料の曲げ弾性率はISO 178、シャルピーV付き衝撃強度はISO 179に基づいた値である。また、実施例、比較例で述べられる圧迫試験および衝撃試験結果は、測定した残存粘土高さを表す。また先芯は図1(イ)(ロ)に示す形状をしており、図中aは先芯の水平距離、bは先芯の1/2の水平距離(天井部の中間部)、cは水平距離1/2(天井部中間部)のところの先芯の高さ、dは先端部の肉厚である。先芯は、靴の先端形状に合わせた形状として構成されており、先端部の肉厚部は先芯の周囲立ち上がり部に略均一に形成されており、この肉厚部は後端部に向けて徐々に厚さが減少するように構成されている。また先芯の下端全周には、内側に向けて折り曲げ部(フランジ)が形成されている。
また、以下に述べる実施例先芯は、曲げ弾性率2000MPa以上、かつシャルピーV付き衝撃強度30kJ/m2 以上の性能を有する熱可塑性樹脂材料の中から選んだPC(商品名:パンライトK−1300Y)およびPC/ABS(商品名:ユーピロンMB2214R)を使用しており、また比較例先芯は、前述の条件(曲げ弾性率2000MPa以上、かつシャルピーV付き衝撃強度30kJ/m2 以上)を満足していない熱可塑性樹脂材料の中から選んだ、POM(商品名:ジュラコンM25−44)、HDPE(商品名:ハイゼックス8200B)を使用して成形している。
【0034】
〔実施例1〕熱可塑性樹脂材料としてPC(商品名:パンライトK−1300Y)を使用し、さらに、射出成形機に株式会社日本製鋼所製J110ELIII (シリンダサイズφ35)を使用し、樹脂温度290°C、金型温度80°Cにて樹脂製先芯を射出成形した。この先芯は水平距離の1/2のところで測定した高さが41mmであり、かつ先端部の肉厚が5.9mmである。この先芯につきJIS T8101−1987の記載にもとづき、10.8kNの圧迫荷重での先芯の圧迫試験を実施した。また、同一条件で成形した先芯を装着した安全靴につきJIS T8101:1997に規定する方法及びS種の条件で衝撃試験(70J)および圧迫試験(10kN)を行なった。これらの結果を図2(表1)に示したが、それぞれの規格を満足する性能を示した。
【0035】
〔実施例2〕熱可塑性樹脂材料としてPC/ABS(商品名:ユーピロンMB2214R)を使用し、樹脂温度を260°Cに変更したほかは、実施例1と同様にして成形および試験を実施した。結果を図2(表1)に示したが、それぞれの規格を満足する性能を示した。
【0036】
〔比較例1〕熱可塑性樹脂材料としてPOM(商品名:ジュラコンM25−44)を使用した。この先芯は水平距離の1/2のところで測定した高さが40mmであり、かつ先端部の肉厚が5.8mmである。樹脂温度を195°Cに変更したほかは、実施例1と同様にして成形および試験を実施した。結果を表1に示したが、衝撃試験後の先芯の状態を確認したところ光を通すような割れが生じていたことから、不合格と判定した。
【0037】
〔比較例2〕熱可塑性樹脂材料としてHDPE(商品名:ハイゼックス8200B)を使用し、先芯の水平距離の1/2のところで測定した高さと、先端部の肉厚が比較例1と同じである。樹脂温度を220°Cに、金型温度を50°Cに変更したほかは、実施例1と同様にして成形および試験を実施した。結果を表1に示したが、圧迫試験において10kN未満の加圧力で降伏を生じ測定不可能となったことから、不合格と判定した。
【0038】
〔実施例3〕熱可塑性樹脂材料としてPC(商品名:パンライトK−1300Y)を使用した。この先芯は水平距離の1/2のところで測定した高さが41mmであり、かつ先端部の肉厚が6.7mmである。射出成形機に株式会社日本製鋼所製J110ELIII (シリンダサイズφ35)を使用し、樹脂温度290°C、金型温度80°Cにて樹脂製先芯を射出成形した。この先芯につきEN 12568の規定に準じ100Jの衝撃試験および10kNの圧迫試験を行ない、Protective footwear用のInternal toecapとして評価した。また、同一条件で成形した先芯を装着した安全靴につきEN 344におけるProtective footwearの規定に準じ100Jの衝撃試験および10kNの圧迫試験を行なった。これらの結果を図3(表2)に示したが、それぞれの規格を満足する性能を示した。
【0039】
〔実施例4〕熱可塑性樹脂材料としてPC/ABS(商品名:ユーピロンMB2214R)を使用した。樹脂温度を260°Cに変更したほかは、実施例3と同様にして成形および試験を実施した。結果を図3(表2)に示したが、それぞれの規格を満足する性能を示した。
【0040】
〔比較例3〕熱可塑性樹脂材料としてPOM(商品名:ジュラコンM25−44)を使用した。この先芯は水平距離の1/2のところで測定した高さが40mmであり、かつ先端部の肉厚が6.6mmである。樹脂温度を195°Cに変更したほかは、実施例3と同様にして成形および試験を実施した。結果を表2に示したが、衝撃試験後の先芯の状態を確認したところ光を通すような割れが生じていたことから、不合格と判定した。
【0041】
〔比較例4〕熱可塑性樹脂材料としてHDPE(商品名:ハイゼックス8200B)を使用し、比較例3と同じ先芯形状とした。樹脂温度を220°Cに、金型温度を50°Cに変更したほかは、実施例3と同様にして成形および試験を実施した。結果を表2に示したが、圧迫試験において規定荷重(10kN)未満の加圧力で降伏を生じ測定不可能となったことから、不合格と判定した。
【0042】
〔実施例5〕熱可塑性樹脂材料としてPC(商品名:パンライトK−1300Y)を使用した。この先芯は水平距離の1/2のところで測定した高さが41mmであり、かつ先端部の肉厚が9.9mmである。射出成形機に株式会社日本製鋼所製J110EL III(シリンダサイズφ35)を使用し、樹脂温度290°C、金型温度80°Cにて射出成形した。この先芯につきEN 12568の規定に準じ200Jの衝撃試験および15kNの圧迫試験を行ない、Safety footwear用のInternal toecapとして評価した。また、同一条件で成形した先芯を装着した安全靴につきEN 344におけるSafety footwearの規定に準じ200Jの衝撃試験および15kNの圧迫試験を行なった。これらの結果を図4(表3)に示したが、それぞれの規格を満足する性能を示した。
【0043】
〔実施例6〕熱可塑性樹脂材料としてPC/ABS(商品名:ユーピロンMB2214R)を使用した。樹脂温度を260°Cに変更したほかは、実施例5と同様にして成形および試験を実施した。結果を図4(表3)に示したが、それぞれの規格を満足する性能を示した。
【0044】
〔比較例5〕熱可塑性樹脂材料としてPOM(商品名:ジュラコンM25−44)を使用した。この先芯は水平距離の1/2のところで測定した高さが40mmであり、かつ先端部の肉厚が9.8mmである。樹脂温度を195°Cに変更したほかは、実施例5と同様にして成形および試験を実施した。結果を表3に示したが、衝撃試験後の先芯の状態を確認したところ光を通すような割れが生じていたことから、不合格と判定した。
【0045】
〔比較例6〕熱可塑性樹脂材料としてHDPE(商品名:ハイゼックス8200B)を使用し、比較例5と同じ先芯形状とした。樹脂温度を220°Cに、金型温度を50°Cに変更したほかは、実施例5と同様にして成形および試験を実施した。結果を表3に示したが、圧迫試験において規定荷重(15kN)未満の加圧力で降伏を生じ測定不可能となったことから、不合格と判定した。
【0046】
上記実施例1〜6は、熱可塑性樹脂材料としてPC、PC/ABSを用いた例について説明したが、曲げ弾性率2000MPa以上、かつシャルピーV付き衝撃強度30kJ/m2 以上の性能を有する熱可塑性樹脂材料であれば、前記した材料に限定することはなく、他の材料を使用しても良いことは当然である。また、本発明はその精神また主要な特徴から逸脱することなく、他の色々な形で実施することができる。そのため前述の実施例は単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。更に特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る樹脂製先芯は、軽量安全靴用の先芯として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(イ)は本発明に係る樹脂先芯の一例を示す概略断面図、同(ロ)は全体斜視図である。
【図2】実施例1、2と比較例1、2との実験データを比較する表である。
【図3】実施例3、4と比較例3、4との実験データを比較する表である。
【図4】実施例5、6と比較例5、6との実験データを比較する表である。
【符号の説明】
【0049】
a 水平距離
b 水平距離の1/2
c 水平距離の1/2のところで測定した高さ
d 先端部の肉厚



【特許請求の範囲】
【請求項1】
安全靴等のつま先部に装着される先芯であって、PC(ポリカーボネート)、PCアロイ(ポリカーボネートアロイ)、アクリル変性塩ビの中から選ばれたいずれか一つの熱可塑性樹脂材料により樹脂製先芯を成形し、前記樹脂製先芯は、同先芯の水平距離の1/2のところで測定した高さが35mm以上45mm以下であり、かつ先端部の肉厚が3mm以上12mm以下であることを特徴とする樹脂製先芯。
【請求項2】
射出成形により得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製先芯。
【請求項3】
PCアロイがPC/ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、PC/ポリエステル、PC/MBS(メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体)、PC/ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸エチレン共重合体)、PC/AES(アクリロニトリル−エチレン・プロピレンゴム−スチレン共重合体)、PC/SAS(シリコン系複合ゴム−アクリロニトリル−スチレン共重合体)、PC/HIPS(ハイインパクトポリスチレン)のいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂製先芯。
【請求項4】
1個当たりの重量が40g以下であり、10.8kNの圧迫荷重において日本工業規格JIS T 8101−1987の7.2(2)の規定を満足する請求項1から3のいずれかに記載の樹脂製先芯。
【請求項5】
1個当たりの重量が40g以下であり、欧州規格EN 12568:1998の4.1.3および4.1.4に規定される保護靴(protective footwear)用先芯としての性能を満足する請求項1から3のいずれかに記載の樹脂製先芯。
【請求項6】
1個当たりの重量が50g以下であり、欧州規格EN 12568:1998の4.1.3および4.1.4に規定される安全靴(safety footwear)用先芯としての性能を満足する請求項1から3のいずれかに記載の樹脂製先芯。
【請求項7】
請求項4に記載の樹脂製先芯が装着され、つま先部の耐衝撃性および耐圧迫性が日本工業規格JIS T 8101:1997における安全靴の普通作業用S種に要求される性能を満足することを特徴とする靴。
【請求項8】
請求項5に記載の樹脂製先芯が装着され、つま先部の耐衝撃性および耐圧迫性が欧州規格EN 344:1992における保護靴(protective footwear)に要求される性能を満足することを特徴とする靴。
【請求項9】
請求項6に記載の樹脂製先芯が装着され、つま先部の耐衝撃性および耐圧迫性が欧州規格EN 344:1992における安全靴(safety footwear)に要求される性能を満足することを特徴とする靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−68886(P2007−68886A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261953(P2005−261953)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(390002222)株式会社シモン (7)
【Fターム(参考)】