説明

客土用土留方法及び客土用土留用具

【課題】より簡素な構成によって、軟弱な地盤に対しても土留板の支持力の不足が生じることなく、的確な土留作用を確保し得る使い勝手のよい客土用の土留技術を提供する。
【解決手段】略U字状又は略V字状に折曲げ形成した棒材からなる複数の支持部材5の各頂部を連結部材6にて連結し、その連結部材6を境に支持部材5の山側に多数の開孔部を備えた土留板7を支持するとともに、前記支持部材5の谷側の下端部に可撓性を有する接地板8を固着し、その接地板8を傾斜した地盤表面に接地させるとともに、前記土留板7の下部をアンカーピンにより地盤に対して固定した上、前記地盤上に植生用の客土を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜した地盤表面に対して植栽用の客土を吹付け工法などにより供給して斜面の緑化を図る斜面の緑化技術に関し、より詳しくは、その傾斜した地盤表面に供給した植栽用の客土の滑落を防止し得るとともに、良好な排水性や通気性を維持し得る客土用の土留技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の客土用の土留技術に関しては、傾斜した地盤表面に対して多数の土留板を設置した上、植生材として客土などを吹付け工法などにより供給して緑化を図る土留技術が知られている。また、その土留板の設置の仕方に関し、アンカーにより土留板を直接的に支持して設置するものや、L字状、略V字状、あるいは三角形状に折曲げ形成した支持部材を介して土留板を支持し、アンカーによって固定するものなどが知られている(特許文献1)。しかしながら、これらの従来における土留板の設置の仕方では、その土留板を支持する支持力が、山側ではアンカーの定着力に依存する。一方、谷側においては、土留板が受止める土留圧に基づいて支持部材に後方への回転力が作用することになるが、この回転力に対しては、その支持部材の谷側の部分と地盤との接地面における地盤側からの反力に依存することになる。このため、軟弱な地盤の場合には、とりわけ谷側において支持部材の接地部が地盤側へめり込んで土留板に対する支持力の不足が生じるといった技術的問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−297889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、より簡素な構成によって、軟弱な地盤に対しても土留板の支持力の不足が生じることなく、的確な土留作用を確保し得る使い勝手のよい客土用の土留技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するため、略U字状又は略V字状に折曲げ形成した棒材からなる複数の支持部材の各頂部を連結部材にて連結し、その連結部材を境に前記支持部材の片側に多数の開孔部を備えた土留板を支持するとともに、前記支持部材の反対側の下端部に可撓性を有する接地板を固着し、その接地板を傾斜した地盤表面に接地させるとともに、前記土留板の下部をアンカーピンにより地盤に対して固定した上、前記地盤上に植生用の客土を供給するという技術手段を採用した。なお、前記土留板は、網状部材から構成したり、間隔をあけて平行に並べた多数の棒材から構成することが可能である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)土留板の支持手段として、略U字状又は略V字状に折曲げ形成した棒材からなるアーチ状の支持部材を採用したので、客土の滑落に対する強力な土留力を簡便に得ることができる。
(2)支持部材の谷側の下端部に可撓性を有する接地板を固着し、その接地板を傾斜した地盤表面に接地させることによって、地盤側からの反力を的確に受止めるように構成したので、軟弱な地盤に対する場合であっても、従来のように支持部材の谷側の下端部が地盤側にめり込んで支持力の不足を生じるような事態は的確に防止することができ、客土の滑落に対する的確な土留力を簡便かつ安定的に得ることができる。
(3)アンカーピンによる山側の地盤に対する定着力と前記接地板による谷側の地盤に対する接地面からの反力との組合わせによって、客土の滑落を防止する土留力を確保するように構成したので、きわめて簡素な構成であるにも拘らず、軟弱な地盤に対する場合であっても、的確な土留力を簡便かつ安定的に得ることができる。
(4)支持部材の谷側の下端部に固着される前記接地板は、可撓性を有することから地盤表面の凹凸に適応可能であるとともに、その設置状態において地盤表面と客土下面とによって挟持されることからがたつきの少ない安定した設置状態が簡便に得られる。
(5)土留板として多数の開孔部を備えた土留板を採用したことから、客土の滑落を防止するだけでなく、良好な排水性や通気性を維持し得るので、土留板によって客土が隔離されることがなく、また根絡みも期待できるので、斜面の保護及び的確な緑化に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施状態を例示した説明図である。
【図2】本発明の客土用土留用具に係る第1実施例を示した正面図である。
【図3】同第1実施例を拡大して示した拡大側面図である。
【図4】同第1実施例を示した斜視図である。
【図5】本発明の客土用土留用具に係る第2実施例を示した正面図である。
【図6】同第2実施例を拡大して示した拡大側面図である。
【図7】同第2実施例を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、地盤表面に対して供給される客土の滑落を防止する土留手段として使用されるものであれば、更に他の緑化基材を合わせて地盤表面に供給する場合にも適用し得ることはいうまでもない。本発明の土留手段は、とりわけ軟弱な地盤表面に対して有効であるが、それに限定されるものではない。すなわち、適用する地盤表面は、地山などの自然のままの斜面の表面でも、造成された斜面の表面でも、予めコンクリートやモルタル等によって被覆された斜面の表面であってもよい。また、土留板は、多数の開孔部を有するものであればよく、網状部材から構成したり、多数の棒材を間隔をあけて平行に並べて形成したものなどから構成される。その土留板の高さ方向の幅は、前記支持部材間の山側の下端部から上端部までの全幅を塞ぐものでもよいが、一部を塞ぐ形態も可能である。
【0009】
また、土留板の下部をアンカーピンにより地盤に対して固定する場合の具体的な手法に関しては、土留板の下部に対して直接的にアンカーピンの掛止部を掛止するようにしてもよいし、土留板の他の部分に対してアンカーピンの掛止部を掛止するようにしてもよい。その場合に、アンカーピンを先に打込み、そのアンカーピンの掛止部に土留用具を掛止するように設置してもよいし、逆に後からアンカーピンを打込む際に掛止部を土留用具に掛止させるようにしてもよい。さらに、前記支持部材の下端部をアンカーピンによって固定することにより、土留板の下部を地盤に対して固定する形態も可能である。要は、アンカーピンを用いて土留板の下部を地盤に対して固定し得るものであればよい。
【0010】
また、土留板に対する支持部材の配置関係は、土留板の左右両端及び中央に支持部材を配置する形態だけでなく、土留板に作用する圧力により回動しないように間隔をあけて配設した少なくとも2つの支持部材を有するものであればよい。さらに、前記接地板は、後述の実施例のように谷側の全ての支持部材の下端部に設ける形態が好適であるが、土留板の支持力として充分な反力が得られる場合には、一部の支持部材の下端部に対する設置は省略してもよい。この接地板の大きさや可撓性に関しては、地盤側にめり込んでしまうことなく、地盤からの反力を的確に受止めて土留板に作用する圧力に対して十分に対抗し得る受圧面積と可撓性を備えるように設定する。なお、接地板の可撓性は、地盤表面に対して適度に食込んで、その地盤表面の凹凸に適応できる程度のものが好適である。そして、その程度の可撓性を備えるものであれば、金属製だけでなく合成樹脂製のものも可能である。
【実施例1】
【0011】
図1は本発明の実施状態を例示した説明図であり、図示のように本発明に係る客土用の土留用具1は、傾斜した地盤2の表面に対して千鳥状などの適宜の配列で多数設置される。しかる後、その地盤2の表面に対して吹付け工法などにより客土3が供給され、緑化などが図られることになる。なお、図中4はアンカーピンを示したものである。
【0012】
図2〜図4は本発明の客土用土留用具に係る第1実施例を示したものである。図示のように、本実施例に係る土留用具1は、略U字状に折曲げ形成した棒材からなる複数の支持部材5と、それらの支持部材5の各頂部を連結した連結部材6と、その連結部材6を境に前記支持部材5の片側に設けた多数の開孔部を有する網状部材からなる帯状の土留板7と、その支持部材5の反対側の下端部に溶接などにより固着した可撓性を有する接地板8とから構成される。
【0013】
本実施例の土留用具1を傾斜した地盤2の表面に対して設置する場合には、図4に示したように、土留板7を設けた側を山側へ向けて地盤2上の所定位置に載置する。これにより、支持部材5の反対側の下端部に固着された接地板8は地盤2の谷側の表面に接地され、支持部材5の谷側に関する設置作業は完了する。しかる後、アンカーピン4を土留板7の下部の網目に挿通させ、あるいは外側から土留板7の下部近傍に打込み、そのアンカーピン4の上端部に折曲げ形成したL字状などの掛止部を土留板7の下部に掛止して、土留板7の下部を地盤2に対して固定する。すなわち、土留用具1の設置に際しては、傾斜した地盤2の表面の所定の設置位置に載置し、土留板7の下部をアンカーピン4によって地盤2に対して固定するだけで設置作業が完了し、土留用具1をきわめて簡便に設置することができる。なお、前述のように、アンカーピン4によって支持部材5の山側下端部を固定することにより、土留板7の下部を地盤2に対して固定するようにしてもよい。また、以上の説明では、土留用具1を地盤2上の所定位置に載置し、その載置状態で後からアンカーピン4を打込んで固定する場合を示したが、先にアンカーピン4を打込んでおき、その打込まれたアンカーピン4の掛止部に対して後から土留板7側を掛止するようにして土留用具1を設置する作業手順も可能である。
【実施例2】
【0014】
図5〜図7は本発明の客土用土留用具に係る第2実施例を示したものである。図示のように、本実施例に係る土留用具9は、略U字状に折曲げ形成した棒材からなる前記支持部材5と同様の複数の支持部材10と、それらの支持部材10の各頂部を連結した連結部材11と、その連結部材11を境に前記支持部材10の片側に間隔をあけて平行に並べて設けた多数の棒材12からなる土留板13と、その支持部材10の反対側の下端部に溶接などにより固着した可撓性を有する接地板14とから構成される。
【0015】
本実施例の土留用具9を傾斜した地盤2の表面に対して設置する場合には、図7に示したように、土留板13を設けた側を山側へ向けて地盤2上の所定位置に載置する。これにより、支持部材10の反対側の下端部に固着された接地板14は地盤2の谷側の表面に接地され、支持部材10の谷側に関する設置作業は完了する。しかる後、アンカーピン4を土留板13を構成する下部の棒材12の近傍に打込み、そのアンカーピン4の上端部に折曲げ形成したL字状などの掛止部をその棒材12に掛止して、土留板13の下部を地盤2に対して固定する。すなわち、本実施例の土留用具9の設置に際しては、傾斜した地盤2の表面の所定の設置位置に載置し、下部の棒材12にアンカーピン4の掛止部を掛止させて土留板13の下部を地盤2に対して固定するだけで設置作業が完了し、土留用具9をきわめて簡便に設置することができる。なお、前述のように、アンカーピン4によって支持部材10の山側下端部を固定することにより、土留板13の下部を地盤2に対して固定するようにしてもよい。また、以上の説明では、土留用具9を地盤2上の所定位置に載置し、その載置状態で後からアンカーピン4を打込んで固定する場合を示したが、先にアンカーピン4を打込んでおき、その打込まれたアンカーピン4の掛止部に対して後から土留板13側を掛止するようにして土留用具9を設置する作業手順も可能である。
【符号の説明】
【0016】
1:土留用具、2:地盤、3:客土、4:アンカーピン、5:支持部材、6:連結部材、7:土留板、8:接地板、9:土留用具、10:支持部材、11:連結部材、12:棒材、13:土留板、14:接地板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略U字状又は略V字状に折曲げ形成した棒材からなる複数の支持部材の各頂部を連結部材にて連結し、その連結部材を境に前記支持部材の片側に多数の開孔部を備えた土留板を支持するとともに、前記支持部材の反対側の下端部に可撓性を有する接地板を固着し、その接地板を傾斜した地盤表面に接地させるとともに、前記土留板の下部をアンカーピンにより地盤に対して固定した上、前記地盤上に植生用の客土を供給することを特徴とする客土用土留方法。
【請求項2】
略U字状又は略V字状に折曲げ形成した棒材からなる複数の支持部材の各頂部を連結部材にて連結し、その連結部材を境に前記支持部材の片側に多数の開孔部を有する土留板を支持するとともに、前記支持部材の反対側の下端部に可撓性を有する接地板を固着し、前記土留板の下部を地盤に対して固定するアンカーピンを備えたことを特徴とする客土用土留用具。
【請求項3】
前記土留板を網状部材から構成したことを特徴とする請求項2に記載の客土用土留用具。
【請求項4】
前記土留板を間隔をあけて平行に並べた多数の棒材から構成したことを特徴とする請求項2に記載の客土用土留用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−106206(P2011−106206A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264224(P2009−264224)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(000230788)日本基礎技術株式会社 (15)
【Fターム(参考)】