説明

害虫防除装置

【課題】害虫防除装置の電池寿命を、セットされた薬剤保持体の揮散持続時間に合わせて変更するようにして、害虫防除成分の揮散持続時間が異なる複数の薬剤保持体を、1台の害虫防除装置で使用可能とする。これにより、取扱い性に優れ、且つ常に害虫防除機能を適正状態に維持することができ、携帯型とするのに好適な害虫防除装置を提供する。
【解決手段】薬剤保持体20の選択手段25aが、該薬剤保持体20に含浸された害虫防除成分の含浸量に応じて害虫防除装置10の電気回路30の抵抗値を選択し、電池32の持続時間を変更して害虫防除成分の揮散持続時間に合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除装置に関し、より詳細には、使用者が身体に装着して屋外で携帯使用するのに好適な害虫防除装置に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫防除装置には、害虫防除成分を含浸させた薬剤保持体にファンからの気流を当て、害虫防除成分を揮散させて害虫防除するものがあり、このファン用モータの電源として電池が用いられることがある。これは、商用電源供給場所や電源コード長さなどの条件によって使用場所が制約されることなく、害虫防除装置を任意の場所に設置でき、更に容易に移動可能である利点を有するためであり、特に、携帯型害虫防除装置には好適である。
【0003】
このような害虫防除装置では、一般に害虫防除成分の揮散持続時間(薬剤寿命)と電池の持続時間(電池寿命)とが一致するように設定されており、このため害虫防除装置は、薬剤保持体専用に対応したものとして構成されている。したがって、薬剤寿命が尽きるときに電池寿命も尽きることになり、害虫防除機能が正常に維持されている。
【0004】
このような従来の害虫防除装置としては、薬剤寿命と電池寿命とを一致させると共に、ファンモータに電力を供給する電池の電圧を検出し、電池の残量を発光ダイオードの点灯状態によって段階的に表示するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
さらに、別の従来の害虫防除装置としては、害虫防除成分を保持するカートリッジにボタン電池を配置すると共に、装置本体側にも乾電池を備え、ボタン電池の電圧を検出してカートリッジの使用時間(換言すれば、害虫防除成分の残量)を表示し、更に、乾電池の電圧を検出して装置本体の使用時間を表示するようにした、インジケータ機能を有するものが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−95458号公報
【特許文献2】特開2003−169585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている害虫防除装置は、ファンモータ用電池の電圧を検出し、該電圧の低下に応じて発光ダイオードを連続点灯、点滅、消灯と順次変化させて、ファン回転数の低下に起因する害虫防除機能の低下を防止する。しかし、この例では、揮散持続時間が異なる複数の薬剤保持体が提供される場合、これに合わせて専用の(即ち、揮散持続時間と同じ電池寿命の)害虫防除装置を別途準備し、正しい組み合わせで使用する必要があり、取扱いが煩雑となる嫌いがあった。
【0008】
また、特許文献2に開示されている薬剤揮散装置、カートリッジ及び薬剤揮散装置キットは、害虫防除成分を保持するカートリッジに配置されたボタン電池の電圧によって害虫防除成分の残量を、また、装置本体側に配置された乾電池の電圧によって装置本体の使用時間を検出し、これらを個別の表示装置に表示している。これにより、カートリッジまたは乾電池の寿命が尽きたことを認識して、個別に交換することができる。しかし、本薬剤揮散装置は、2つの電池の電圧検出回路やインジケータ機能を備える必要があるので、薬剤揮散装置がコスト高になる問題があった。更に、薬剤揮散装置が大型となって、携帯型害虫防除装置に適用するには不向きであった。
【0009】
ここで、小型でインジケータ機能を備えることが困難な携帯型害虫防除装置においては、電池寿命と害虫防除成分の揮散持続時間(薬剤寿命)とを一致させることにより、取扱いを容易にすると共に、害虫防除機能を維持できるようにすることがまず考えられる。しかし、上記特許文献1に記載された例のように、仕様(揮散持続時間)が異なる薬剤保持体と害虫防除装置には互換性がない場合、誤った組合せで使用された際、どちらか一方の寿命が先に尽きてしまって、それ以後、害虫防除機能を適正に維持できなくなる虞があった。
尚、揮散持続時間が異なる複数の薬剤保持体を提供することは、短時間だけ限定して使いたい使用者、害虫防除装置を設定したまま長時間使い続けたい使用者など、使用者の多様な使い方に対応するために必要である。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、害虫防除成分の揮散持続時間(薬剤寿命)の異なる薬剤保持体が害虫防除装置にセットされても、害虫防除装置の電池寿命をセットされた薬剤保持体の揮散持続時間に合わせて一致させることにより、1台の害虫防除装置で仕様の異なる複数の薬剤保持体を使用できるようにして取扱い性を向上させると共に、常に害虫防除機能を適正状態に維持することができる害虫防除装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 害虫防除成分を保持した薬剤保持体と、駆動手段によって回転駆動されるファンと、前記駆動手段に電力を供給する電池と、を備え、前記ファンによる気流を前記薬剤保持体に当てて前記害虫防除成分を揮散させる害虫防除装置であって、
前記薬剤保持体に含浸された前記害虫防除成分の含浸量に応じて前記害虫防除装置の電気回路の抵抗値を選択する選択手段を備え、
前記電池の持続時間を前記害虫防除成分の持続時間に一致させることを特徴とする害虫防除装置。
【0012】
(2) 前記選択手段は、前記薬剤保持体に設けられた特定形状部であることを特徴とする上記(1)に記載の害虫防除装置。
【0013】
(3) 前記害虫防除装置は、使用者が身体に装着して使用する携帯型害虫防除装置であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の害虫防除装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の害虫防除装置によれば、薬剤保持体の選択手段が、該薬剤保持体に含浸された害虫防除成分の含浸量に応じて害虫防除装置の電気回路の抵抗値を選択し、これにより電池の持続時間を害虫防除成分の持続時間に合わせて変更するようにしたので、使用者は、薬剤保持体の揮散持続時間を気にすることなく害虫防除装置にセットすることができ、仕様の異なる複数の薬剤保持体を1台の害虫防除装置で使用できる。またこれによって、専用の害虫防除装置を用意した場合のように、害虫防除装置と薬剤保持体との誤った組合せでの使用を防止して取扱い性を大幅に向上させることができる。更に、揮散持続時間が異なる薬剤保持体がセットされても、常に揮散持続時間と電池寿命とが一致しているので、ファンの回転により薬剤保持体の有効作用を容易に知ることができ、害虫防除機能を適正状態に維持することができる。
【0015】
また、本発明の害虫防除装置によれば、選択手段が、薬剤保持体に設けられた特定形状部であるので、害虫防除成分の含浸量、即ち、揮散持続時間が異なる薬剤保持体ごとに、異なる特定形状部を設けるようにすれば、この特定形状部を検出することにより、容易に害虫防除装置の電気回路の抵抗値を選択して電池の持続時間を害虫防除成分の持続時間に合わせて変更することができる。
【0016】
更に、本発明の害虫防除装置によれば、使用者が身体に装着して使用する携帯型害虫防除装置に適用するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る害虫防除装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る害虫防除装置の斜視図、図2(a)は長時間用薬剤保持体の正面図、(b)は短時間用薬剤保持体の正面図、図3は害虫防除装置の電気回路図、図4は長時間用薬剤保持体がセットされた状態を示す害虫防除装置の部分破断図、図5は短時間用薬剤保持体がセットされた状態を示す害虫防除装置の部分破断図である。
【0018】
図1に示すように、害虫防除装置10は、チャンバ11と、害虫防除成分を保持する薬剤保持体20とを備えている。害虫防除装置10は、ベルトBを介して使用者の身につけられる携帯型害虫防除装置である。
【0019】
チャンバ11は、平板及び当該平板に立設された周壁を有する、表側器体12a、中間器体12b及び裏側器体12cを組み合せてなる。各平板は、長方形板の一端を半円板状にした形状であって、周壁は、平板の周りに円弧状に延びる円弧部分と、平板の周りに直線状に延びる直線部分とを有している。
【0020】
表側器体12aの周壁には、薬剤保持体を挿入するための挿入開口15が設けられている。また、表側器体12aの平板には、チャンバ11内に外気を取り入れるための複数のスリット21aからなる吸気口21が設けられている。起立した使用者の身につけられた状態におけるチャンバ11の上部には、上部排気口13aが設けられ、チャンバ11の下部には、下部排気口13bが設けられている。裏側器体12cの平板には、害虫防除装置10を設置面(ここでは使用者の胴体表面)に係止する保持手段であるクリップ19が設けられている。また、裏側器体12cには、電池32を出し入れする電池収納室の開口を塞ぐ蓋部材18が取り付けられている。
【0021】
チャンバ11内には、ファンF、ファンFを回転駆動する駆動手段であるモータ31、モータ31を制御するための後述する電気回路30などが内蔵されている。ファンFは、回転することにより吸気口21から外気を取り込み、薬剤保持体20に当てて害虫防除成分を揮散させる。ファンFとしては、プロペラファン、シロッコファン、ロータリーファン、ピエゾファン、クロスフローファンなどを採用できる。
【0022】
薬剤保持体20は、図2に示すように、円環状の枠体25と、枠体25の中央に配置された略円板状の中央部27と、中央部27から枠体25に放射状に延びる桟27aと、枠体25、中央部27及び桟27aによって区画される複数の開口に架け渡された薬剤担持体26とを備えている。
【0023】
薬剤担持体26は、外形がほぼ円形であり、その外周縁部を枠体25に支持されている。薬剤担持体26には、害虫防除成分を含む薬剤が保持されている。薬剤担持体26に薬剤を保持させる方法としては点滴法が適当であり、薬剤保持体20ごとに設定された害虫防除成分の揮散持続時間に合わせて、所定量の薬剤が点滴される。
【0024】
枠体25の形状は、害虫防除成分の揮散持続時間が異なる薬剤保持体20ごとに異なる。具体的には、長時間用、例えば、200時間用の薬剤保持体20Aの枠体25は、図2(a)に示すように、図中右斜め下方に特定形状部である突起部25aを備えている。また、短時間用、例えば、84時間用の薬剤保持体20Bの枠体25は、図2(b)に示すように、突起部がない形状となっている。薬剤保持体20の揮散持続時間の相違は、突起部25aの有無によって識別される。尚、枠体25の形状は、上記した2種類に限定されず、設定される揮散持続時間の数に合わせて複数種類の設定が可能である。
【0025】
薬剤担持体26に保持させる薬剤の有効成分としては、害虫防除剤、殺菌剤、芳香剤、消臭剤等を例示できる。害虫防除成分として代表的なものを、以下に例示する。
・dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル dl−シス/トランス−クリサンテマート(一般名アレスリン:商品名ピナミン:住友化学工業株式会社製)
・dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル d−シス/トランス−クリサンテマート(商品名ピナミンフォルテ:住友化学工業株式会社製)
・dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル d−トランス−クリサンテマート(一般名バイオアレスリン、商品名エスバイオール:ユクラフ社製)
・d−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル d−トランス−クリサンテマート(商品名エキスリン:住友化学工業株式会社製)
・(5−ベンジル−3−フリル)メチル d−シス/トランス−クリサンテマート(一般名レスメトリン:商品名クリスロンフォルテ:住友化学工業株式会社製)
・5−プロパギル−2−フリルメチル−d−シス/トランス−クリサンテマート(一般名フラメトリン:商品名ピナミンDフォルテ:住友化学工業株式会社製)
・(+)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテニル(+)−シス/トランス−クリサンテマート(一般名プラレトリン、商品名エトック:住友化学工業株式会社製)
・dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル−dl−シス/トランス−2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボシキラート(一般名テラレスリン:住友化学工業株式会社製)
・(1,3,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−1,3−ジオキソ−2−イソインドリル)メチル−dl−シス/トランス−クリサンテマート(一般名フタルスリン、商品名ネオピナミン:住友化学工業株式会社製)
・(1,3,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−1,3−ジオキソ−2−イソインドリル)メチル−d−シス/トランス−クリサンテマート(商品名ネオピナミンフォルテ:住友化学工業株式会社製)
・3−フェノキシベンジル−d−シス/トランス−クリサンテマート(一般名フェノトリン、商品名スミスリン:住友化学工業株式会社製)
・3−フェノキシベンジル−dl−シス/トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート(一般名ペルメトリン、商品名エクスミン:住友化学工業株式会社製)
・(±)α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)−シス/トランス−クリサンテマート(一般名シフェノトリン、商品名ゴキラート:住友化学工業株式会社製)
・1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル dl−シス/トランス−3−(2,2−ジメチルビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート(一般名エンペントリン、商品名ベーパースリン:住友化学工業株式会社製)
・d−トランス−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシレート(一般名トランスフルスリン)
・1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル 3−(2,2−ジクロロエテニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート等。
【0026】
また、上記した化合物に例えば構造上類似し、実質的には同様の薬効のある化合物も挙げることができる。例えばエンペントリンの場合3位の2個の置換基はメチル基であるが、その置換基として他のアルキル基、不飽和アルキル基またはハロゲン原子である化合物を用いることもできる。この他にも、フィプロニール、イミプロトリン、フラニル系の殺虫剤であるジノテフラン(化学名:(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(テトラヒドロ−3−フリルメチル)グアニジン)、トリクロルホン、カルタップ、アセタミプリド、ニテンピラム、イミダクロプリド(Imidacloprid、日本バイエルアグロケム社製)、ニテンピラム(Nitenpyram、住化武田農薬社製)、チアクロプリド(Thiacloprid、日本バイエルアグロケム社製)、クロチアニジン(Clotianidin、住化武田農薬社製)、チアメトキサム(Thiamethoxam、シンジェンタ社製)、プロポクスル(Propoxur、バイエル薬品社製)、ピメトロジン(Pymetrozine、シンジェンタ社製)、フェニトロチオン(住友化学社製)、フェンチオン(バイエル社製)、メトフルトリン(住友化学社製)、アミドフルメト(住友化学社製)、植物精油などの殺虫剤やメトプレン(イソプロピル(2E−2E)−11−メトキシ−3,7,11−トリメチル−2,4−トリメチルドデカ−2,4−ジエノエート)、ピリプロキシフェン、82−[1−メチル−2−(フェノキシフェノキシ)エトキシ]ピリジン)などの昆虫幼若ホルモン、ジフルペンズロン(1−(4−クロロフェニル)−3−(2,6−ジフルオロベンゾイル)ウレア)、テフルベンズロン(1−(3,5−ジフルオロベンゾイル)ウレア)などの昆虫キチン形成阻害化合物などが挙げられる。
【0027】
こうした中でも、常温で難揮散性のものが好ましく、さらに、プラレトリン、レスメトリン、バイオアレスリン、フラメトリン、テラレスリン、トランスフルスリン、メトフルトリンが特に好ましい。このような害虫防除成分は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。また、これらの類縁体も用いられる。これらのうち常温で揮散しやすいものについては、例えば、揮散を調整するためのカバーを設けたり、ポリブテン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン等の炭化水素類や、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、フタル酸ブチルなどのエステル類からなる揮散調整剤を併用したりすることで、難揮散性となり長時間にわたって害虫防除効果を得ることができる。
【0028】
薬剤保持体20に薬剤を保持させる際に、薬剤担持体26に薬剤を容易に含浸させるための理由で液状薬剤を低粘度化する添加剤として、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリル酸ヘキシルなどの脂肪酸エステルやイソプロピルアルコール、ポリエチレングリコール、脱臭ケロシンなどの溶剤を必要に応じて使用することができる。また、薬剤保持体20に薬剤を保持させる際に、その他の補助成分とともにこれを保持させることができ、例えば、蒸散促進用助剤として昇華性物質を添加すると揮散効果が高まってよい。害虫防除成分としてピレスロイド系化合物を使用する場合には、これに対して有効な既知の共力剤を混合することも好ましい。さらにBHTやBHAなどの酸化防止剤や紫外線吸収剤を添加すると光、熱、酸化などに対する安定性が高まる。
【0029】
薬剤担持体26は、形態、材質、サイズ等を任意に設定できるが、簡単な構造で、通気性の大きいものが好ましい。例えば、ハニカム形状、スノコ形状、蛇腹形状、網形状、スリット形状、格子形状、粒状、顆粒状、または開孔を設けた紙類等の構造のものを採用できる。各セルの形状も本発明の効果の面では問題にならない。上記した以外の形状として、例えば6角形蜂の巣形状でも、円形状、S字形状でもよい。通気性ケース(保持体ケース)中に、粒体、ブロック、粉砕物等を、通気性を阻害しないように収納した通気性担体も、薬剤担持体26として使用し得る。
【0030】
薬剤担持体26を形成する材質は、有効成分を十分に保持できるものであれば特に限定されない。しかし、保持した有効成分を一時に揮散させるようなものより、要求される時間にわたって同じ量の有効成分を連続的に揮散させることができるような材質であることが好ましい。例えば紙類(濾紙、パルプ、リンター、厚紙、ダンボール等)、樹脂類(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、高吸油性ポリマー等)、セラミック、ガラス繊維、炭素繊維、化学繊維(ポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、天然繊維(木綿、絹、羊毛、麻等)、ガラス繊維、炭素繊維、化学繊維、天然繊維等からなる不織布、編織布等の布綿、多孔性ガラス材料、多孔性金属材料、金網等が挙げられる。
【0031】
また、薬剤担持体26は、有効成分を含む薬剤を保持し、これらの一種または二種以上を組み合わせて任意の形状にして使用するものであってもよい。薬剤担持体26に有効成分等を保持させるには、薬剤担持体26に薬剤を滴下塗布、含浸塗布、スプレー塗布等の液状塗布方法、液状印刷、はけ塗り等の方法、或いは薬剤担持体26へ貼り付けする方法等を用いることができる。更に、使用する組成物が液状のものでない場合、或いは溶剤を使用しない場合、混練込み、塗布、印刷等の方法を適用できる。
【0032】
次に、電気回路30について図3を参照して説明する。
抵抗値を選択して切り換えるための抵抗選択回路38は、ファンFを回転駆動するモータ31に並列接続されており、該抵抗選択回路38及びモータ31には、電源スイッチ16を介して電池32から電圧が印加される。抵抗選択回路38は、モータ31と並列接続された、切換スイッチ33と第1抵抗34、第2抵抗35とLED36、及びリセットIC37とからなり、リセットIC37の出力端子が第2抵抗35とLED36の間に接続されている。
【0033】
電源スイッチ16は、その操作部が外部に露出してチャンバ11の吸気口21下方に配設されている(図1参照)。また、切換スイッチ33は、例えば、ノーマリークローズ型のリーフスイッチであり、図4に示すように、薬剤保持体20がチャンバ11の挿入開口15から挿着されたとき、突起部25aによって切り換えられるように、突起部25aに対応する位置に配設されている。切換スイッチ33は、金属などの導電体からなる操作レバー40と、これと接触して導通し、または該導通が遮断される接点41とを備える。操作レバー40は、突起部25aによって押圧され、これにより切換スイッチ33の切換えが行われる。電池としては、アルカリ電池、マンガン電池、水銀電池、太陽電池、カドニカ電池、蓄電池などが使用できる。
【0034】
リセットIC37の作用は、電池電圧を検知して、LED36の点灯を制御する。即ち、リセットIC37は、電池の残量が残り少なくなると、例えばLED36を点滅させ、又は電池寿命が尽きると消灯して、使用者に電池の状態を報知する機能を有する。
【0035】
次に本実施形態の作用を説明する。
薬剤保持体20は、図1に示すように、矢印X方向にチャンバ11の挿入開口15を介してチャンバ11内に挿着される。そして、吸気口21である円形開口の中心を通る平板に垂直な軸と同軸状にチャンバ11内に備えられたファンFと、吸気口21との間に薬剤保持体20を配置する。そして、クリップ19によりベルトBを挟持することで害虫防除装置10を使用者の身につけて、電源スイッチ16をオンすると、モータ31が回転してファンFにより吸気口21から外気が気流となってチャンバ11内に取り入れられ、薬剤保持体20の薬剤担持体26を通過する。そのとき、気流に害虫防除成分が含まれ、害虫防除成分を含んだ気流Aが、上部排気口13a及び下部排気口13bを通って放出されて害虫防除成分が揮散される。
【0036】
揮散持続時間が、例えば200時間に設定された長時間用薬剤保持体20Aをチャンバ11内に挿着すると、図4に示すように、突起部25aが操作レバー40を押圧して切換スイッチ33が開成し、第1抵抗34と電池32との接続が遮断される。従って、電池32の放電電流(消費電流)は、第2抵抗35の抵抗値(モータ31の抵抗値も含む)によって決まる。
【0037】
一方、揮散持続時間が、例えば84時間に設定された短時間用薬剤保持体20Bをチャンバ11内に挿着すると、図5に示すように、操作レバー40が押圧されないので切換スイッチ33が閉成したままであり、第1抵抗34と電池32が接続する。従って、電池32の放電電流(消費電流)は、第1抵抗34及び第2抵抗35の抵抗値(モータ31の抵抗値も含む)によって決まる。
【0038】
このように、薬剤保持体20(20A,20B)の揮散持続期間に対応して抵抗が選択される。これにより、電池32の放電電流(消費電流)を変え、即ち、長時間用薬剤保持体20Aが挿着された場合には消費電流を小さくして電池32の持続時間(電池寿命)を長くし、短時間用薬剤保持体20Bが挿着された場合には消費電流を大きくして電池32の持続時間(電池寿命)を短くして、電池32の持続時間(電池寿命)を薬剤保持体20の揮散持続期間に合わせる。尚、第1抵抗34および第2抵抗35の抵抗値は、電池32の持続時間が、それぞれの薬剤保持体20の揮散持続期間に一致するように設定される。
【0039】
上記したように、薬剤保持体20を害虫防除装置10に挿着するだけで、電池寿命が薬剤保持体20の揮散持続期間に合わせて変更されるので、使用者はLED36の消灯により害虫防除成分の揮散持続期間の終了を確認することができる。LED36が消灯したとき、薬剤保持体20及び電池32を同時に交換して、害虫防除装置10を再使用する。従って、揮散持続期間が異なる複数の薬剤保持体20を1台の害虫防除装置10で共通使用することができ、取扱い性が大幅に向上すると共に、常に害虫防除機能を適正状態に維持することができる。また、揮散持続期間や電池寿命の終了を知らせるためのインジケータ機能及びそのための回路が不要となるので、害虫防除装置10の小型化、低コスト化が可能となり、携帯型害虫防除装置とするのに好適である。
【0040】
尚、薬剤保持体の種類(揮散持続期間)を識別するための特定形状部は、突起部である必要はなく、電気抵抗を選択可能なものであれば、どのような形態であってもよい。例えば、形状、形態、大きさ、長さ、幅、厚み、色、重量、材質、化学物質などが考えられ、害虫防除装置がこれらの違いを検出して電気回路の抵抗値を変更し、電池寿命を薬剤保持体の揮散持続期間に合わせればよい。
【0041】
本実施形態の害虫防除装置10によれば、害虫防除成分の揮散持続時間(薬剤寿命)の異なる薬剤保持体20が害虫防除装置10にセットされても、害虫防除装置10の電池寿命をセットされた薬剤保持体20の揮散持続時間に合わせて一致させるようにしたので、1台の害虫防除装置10で仕様の異なる複数の薬剤保持体20を使用することができ、これにより取扱い性を向上させると共に、常に害虫防除機能を適正状態に維持することができ、携帯型とするのに好適な害虫防除装置を提供できる。
【実施例】
【0042】
本発明の効果を確認するため、84時間用薬剤保持体(短時間用薬剤保持体)と200時間用薬剤保持体(長時間用薬剤保持体)を準備し、図3に示す電気回路を備える害虫防除装置にセットして作動時間を測定した。尚、第1抵抗、及び第2抵抗の抵抗値は、それぞれ1.3kΩ、150Ωとし、電池は単3型アルカリ電池を2本使用して3.0Vを印加した。また、薬剤としてトランスフルトリン又はメトフルトリンを用いた。
【0043】
84時間用薬剤保持体をセットしたときの電流値は35mAであり、電池寿命は略84時間であった。また、200時間用薬剤保持体をセットしたときの電流値は17mAであり、電池寿命は略200時間であった。また、試験終了後に、各薬剤保持体の害虫防除成分の残量を測定したところ、極く僅かであった。これにより、薬剤保持体の揮散持続期間と電池寿命を一致させることができ、且つ電池の有効期間中は、害虫防除成分が有効に揮散されていることが確認された。
【0044】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、本発明においては、害虫防除装置として説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、芳香剤揮散装置などのように、気流によって薬剤を揮散させる装置であれば、どのような装置にも適用することができ、同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る害虫防除装置の斜視図である。
【図2】(a)は長時間用薬剤保持体の正面図、(b)は短時間用薬剤保持体の正面図である。
【図3】害虫防除装置の電気回路図である。
【図4】長時間用薬剤保持体がセットされた状態を示す害虫防除装置の部分破断図である。
【図5】短時間用薬剤保持体がセットされた状態を示す害虫防除装置の部分破断図である。
【符号の説明】
【0046】
10 害虫防除装置
20 薬剤保持体
20A 長時間用薬剤保持体
20B 短時間用薬剤保持体
25a 突起部(選択手段、特定形状部)
30 電気回路
31 モータ(駆動手段)
32 電池
34 第1抵抗
35 第2抵抗
A 気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫防除成分を保持した薬剤保持体と、駆動手段によって回転駆動されるファンと、前記駆動手段に電力を供給する電池と、を備え、前記ファンによる気流を前記薬剤保持体に当てて前記害虫防除成分を揮散させる害虫防除装置であって、
前記薬剤保持体に含浸された前記害虫防除成分の含浸量に応じて前記害虫防除装置の電気回路の抵抗値を選択する選択手段を備え、
前記電池の持続時間を前記害虫防除成分の持続時間に一致させることを特徴とする害虫防除装置。
【請求項2】
前記選択手段は、前記薬剤保持体に設けられた特定形状部であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除装置。
【請求項3】
前記害虫防除装置は、使用者が身体に装着して使用する携帯型害虫防除装置であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の害虫防除装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−142054(P2008−142054A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335731(P2006−335731)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】