説明

射出成形方法

【課題】 キャビティ内への溶融樹脂の充填完了に伴う金型内圧の急上昇を抑制する。
【解決手段】 成形金型10に、キャビティ11b、12bと、キャビティ11b、12bに溶融樹脂を射出するゲート12eと、キャビティ11b、12bの樹脂最終充填部に連通するオーバーフロー部12hとを設け、ゲート12eから溶融樹脂をキャビティ11b、12b内へ射出する射出工程において、キャビティ11b、12b内への溶融樹脂の充填が完了した後に、オーバーフロー部12hの容積に対して所定割合の容積だけ溶融樹脂がオーバーフローした時点で射出工程を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形金型のキャビティ内に溶融状態の樹脂を所定圧力にて射出することにより樹脂成形品を成形する射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形方法において、成形金型のキャビティ内に予めインサート部品をセットした後に、溶融状態の樹脂をキャビティ内に所定圧力にて射出することにより、金属製等のインサート部品を樹脂成形品と一体成形するインサート成形方法が広く採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、射出成形方法では溶融樹脂の射出工程において、キャビティ内への溶融樹脂の充填率が90%程度に上昇するまでは、キャビティ内に空間部が存在することにより金型内圧は非常に低い状態に維持されている。
【0004】
しかし、射出工程において、キャビティ内への溶融樹脂の充填がほぼ完了する状態に至ると、キャビティ内の空間部が消滅するに伴って金型内圧が急激に上昇する。これによって、インサート部品に過大な圧力が加わり、インサート部品を損傷させる原因となったり、あるいは、成形金型の耐久寿命にも悪影響を及ぼすという不具合があった。
【0005】
本発明は、上記点に鑑み、キャビティ内への溶融樹脂の充填完了に伴う金型内圧の急上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、成形金型(10)に、キャビティ(11b、12b)と、前記キャビティ(11b、12b)に溶融樹脂を射出するゲート(12e)と、前記キャビティ(11b、12b)の樹脂最終充填部に連通するオーバーフロー部(12h)とを設け、
前記ゲート(12e)から溶融樹脂を前記キャビティ(11b、12b)内へ射出する射出工程において、前記キャビティ(11b、12b)内への溶融樹脂の充填が完了した後に、前記オーバーフロー部(12h)の容積に対して所定割合の容積だけ溶融樹脂がオーバーフローした時点で前記射出工程を終了することを特徴としている。
【0007】
これによると、成形金型(10)内への溶融樹脂の射出に際して、オーバーフロー部(12h)を充填不足(ショートショット)の状態にして、オーバーフロー部(12h)に必ず空間部が残存するから、キャビティ(11b、12b)内への樹脂充填が完了する状態になっても、成形金型(10)の内圧を極めて低い状態に維持できる。
【0008】
これにより、成形金型(10)の耐久寿命が過大な金型内圧によって悪影響を受けることを回避できる。
【0009】
また、オーバーフロー部(12h)をキャビティ(11b、12b)のうち樹脂最終充填部に連通させているから、キャビティ(11b、12b)内への樹脂充填が完了する前に溶融樹脂がオーバーフロー部(12h)側へオーバーフローすることはない。従って、オーバーフロー部(12h)を成形金型(10)に追加しても、樹脂成形品(14)の成形に支障をきたすことはない。
【0010】
請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の射出成形方法において、前記オーバーフロー部(12h)の所定割合の容積に溶融樹脂がオーバーフローするのに必要な射出量を予め設定しておき、
前記射出工程の射出量が前記設定射出量に到達すると、前記射出工程を終了させればよい。
【0011】
請求項3に記載の発明のように、請求項1または2に記載の射出成形方法において、前記オーバーフロー部(12h)の断面積よりも小さい断面積を有する小連通路(12i)により前記オーバーフロー部(12h)を前記キャビティ(11b、12b)の樹脂最終充填部に連通させれば、小連通路(12i)が溶融樹脂の流れの流通抵抗となるので、キャビティ(11b、12b)内への樹脂充填をより一層確実に行うことができる。
【0012】
請求項4に記載の発明のように、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の射出成形方法において、前記キャビティ(11b、12b)内にインサート部品(13)を予めセットしておき、その後に、前記射出工程を実行すれば、キャビティ(11b、12b)内で成形される樹脂成形品(14)とインサート部品(13)とを一体成形(インサート成形)できる。
【0013】
このインサート成形に際して、オーバーフロー部(12h)に必ず空間部を残存させることにより、成形金型(10)の内圧を極めて低い状態に維持できるから、インサート部品(13)が過大な金型内圧によって損傷することを回避できる。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1は本実施形態の成形金型10の断面図であり、図2は図1の可動型11の平面図を示し、図3は図1の固定型12の平面図を示す。図4は成形直後の成形品を示す斜視図である。
【0016】
本実施形態の成形金型10は、可動型11と固定型12とにより構成される。可動型11と固定型12にはそれぞれ型取付盤11a、12aが設けてある。可動型11は、その型取付盤11aを介して射出成形装置の図示しない型締め装置に連結され、型締め装置の駆動力によって図1の水平方向に移動できるようになっている。
【0017】
固定型12はその型取付盤12aを介して射出成形装置の図示しない固定部に固定保持される。
【0018】
本実施形態では、図4に示すように、パイプ状のインサート部品13を直方体状の樹脂ブロック体14の中央部を貫通するようにインサート成形する。なお、インサート部品13は具体的にはアルミニュウム等の金属で成形された金属パイプであり、樹脂ブロック体14の樹脂材質は熱可塑性樹脂の66ナイロンである。
【0019】
可動型11と固定型12の合わせ面のうち、上下方向の略中央部に樹脂ブロック体14を成形するための型空間をなす可動側キャビティ11bと固定側キャビティ12bが形成されている。この両キャビティ11b、12bを合わせることにより樹脂ブロック体14の直方体形状を構成する。
【0020】
また、両キャビティ11b、12bの両側には図2、図3に示すようにインサート部品13を収容するための半円筒状の可動側収容部11cと固定側収容部12cとが形成されている。この両収容部11c、12cを合わせることにより、パイプ状インサート部品13に対応した円筒形状を構成する。
【0021】
可動側収容部11cと固定側収容部12cの径寸法d1はパイプ状インサート部品13の外径d2よりも所定量大きくしてある。それに対し、可動側収容部11cと可動側キャビティ11bとの間、および固定側収容部12cと固定側キャビティ12bとの間には、それぞれパイプ状インサート部品13の外周面に密着する可動側型押し切り部11dおよび固定側型押し切り部12dが形成されている。
【0022】
固定型12には、固定側キャビティ12bの一端部(図1の下端部)に溶融樹脂をキャビティ11b、12b内に射出するためのゲート12eが形成されている。
【0023】
このゲート12eにはスプルー(湯口)12fの通路が連通しており、このスプルー12fの上流側端部に球面状のノズルタッチ部12gが形成され、このノズルタッチ部12gに対して射出装置13のノズル部13aの先端球面を接触させることにより、射出装置13のノズル部13aから溶融樹脂がスプルー12fの通路を通過してゲート12eに供給される。
【0024】
一方、固定側キャビティ12bの他端部(図1の上端部)は、ゲート12eの形成部位と反対側に位置しているので、キャビティにとって樹脂最終充填部となる。この固定側キャビティ12bの他端部、すなわち、樹脂最終充填部に連通するオーバーフロー部12hが固定型12に形成されている。ここで、オーバーフロー部12hはその断面積に比較して大幅に小さい断面積を有する小連通路12iにより固定側キャビティ12bの他端部(樹脂最終充填部)に連通する。
【0025】
このオーバーフロー部12hの形状は本例では直方体状になっているが、直方体状以外の他の形状でもかまわない。オーバーフロー部12hの容積は後述するように成形金型10内への溶融樹脂の射出量のバラツキを吸収できるだけの大きさを持つように設計する。
【0026】
次に、本実施形態の射出成形方法を説明する。図1は成形金型10の型締め状態を示しているので、先ず、可動型11を図1の型締め状態から図示左側へ移動させ、可動型11を型開きの状態に移行させる。
【0027】
次に、パイプ状インサート部品13を可動型11の収容部11c、型押し切り部11dおよびキャビティ11bの内側にセットする。この際に、パイプ状インサート部品13を型押し切り部11d、12dの内側に挿入することにより、パイプ状インサート部品13のセット状態を保持できる。
【0028】
次に、可動型11を型開きの状態から図1の右側方向に移動させて固定型12と突き合わせ、可動型11に所定の型締め力を加える。これにより、可動型11を固定型12に圧接させて図1に示す型締め状態とする。
【0029】
この型締めが完了すると、次に、射出装置13が固定型12に向かって前進し、射出装置13のノズル部13aの先端球面部を固定型12のスプルー12fのノズルタッチ部12gに接触させる。これにより、ノズル部13aの内部通路がスプルー12fの通路に連通する。そして、このノズルタッチの完了に伴って、射出装置13内部のスクリュー(図示せず)が前進して射出装置13内部の溶融樹脂をノズル部13aからスプルー12fの通路に射出する。
【0030】
更に、この溶融樹脂は、スプルー12fの通路およびゲート12eを通してキャビティ11b、12b内に射出される。
【0031】
溶融樹脂は、このキャビティ11b、12bの一端側(下端部)から他端側(上端部)へ向かって順次充填されていき、キャビティ11b、12bの内側空間への樹脂の充填が完了した後に溶融樹脂がオーバーフロー部12h内にオーバーフローする。
【0032】
ここで、オーバーフロー部12hの容積および成形金型10内への溶融樹脂の射出量は次の事項を満足するように設定してある。すなわち、射出量がそのバラツキ範囲のうち最大量になった際にも、オーバーフロー部12hの全容積に対して所定割合の容積の空間部が必ず残存して溶融樹脂が充填不足(ショートショット)の状態となるようにオーバーフロー部12hの容積を設定してある。
【0033】
そして、成形金型10内への溶融樹脂の射出量がそのバラツキ範囲のうち最小量になった際にも、キャビティ11b、12b内へ射出された溶融樹脂の一部が必ずオーバーフロー部12h内にオーバーフローするように、射出量を設定する。これにより、射出量がバラツキ範囲の最小量になってもキャビティ11b、12b内への溶融樹脂の充填を確実に完了できる。
【0034】
成形金型10内へ溶融樹脂を予め設定した射出量だけ射出して射出工程が終了した後も、所定時間の間、射出装置13内部のスクリューの前進状態を保持して樹脂射出圧力を保持する。この工程を一般には保圧工程と称する。
【0035】
この保圧工程の時間が所定時間に達すると、射出装置13内部のスクリューを後退させて樹脂射出圧力を低下させ、保圧工程を終了する。
【0036】
次に、成形金型10を所定時間の間、冷却した後に、可動型11を図1の型締め状態から図示左側へ移動させ、成形金型10の型開きを行って、成形品を成形金型10内から取り出す。
【0037】
図4は、このように成形金型10内から取り出した直後の成形品を示す。図4の成形品のうち、12e’、12f’の部分はゲート12eからスプルー12fの通路部に充填された樹脂の成形体である。また、12h’の部分はオーバーフロー部12h内の所定割合の容積に充填された樹脂の成形体である。また、12i’の部分は小連通路12iに充填された樹脂の成形体である。
【0038】
これらの成形体12e’、12f’、12h’、12i’は、製品形状としては不要部分であるから、樹脂ブロック体14から切除される。
【0039】
ところで、本実施形態によると、成形金型10内への溶融樹脂の射出に際して、キャビティ11b、12bの樹脂最終充填部に連通するオーバーフロー部12hを充填不足(ショートショット)の状態にして、オーバーフロー部12hに必ず空間部が残存するようにしているから、キャビティ11b、12b内への樹脂充填が完了する状態になっても、成形金型10の内圧を極めて低い状態に維持できる。
【0040】
これにより、インサート部品13が過大な金型内圧によって損傷することを回避できる。また、成形金型10自体の耐久寿命が過大な金型内圧によって悪影響を受けることも回避できる。
【0041】
なお、オーバーフロー部12hをキャビティ11b、12bのうち樹脂最終充填部に連通させているから、キャビティ11b、12b内への樹脂充填が完了する前に溶融樹脂がオーバーフロー部12h側へオーバーフローすることはない。
【0042】
しかも、オーバーフロー部12hを小連通路12iによりキャビティ11b、12bのうち樹脂最終充填部に連通しているから、溶融樹脂がオーバーフロー部12h側へオーバーフローする際に、小連通路12iが溶融樹脂の流れの流通抵抗となる。これにより、キャビティ11b、12b内への樹脂充填をより一層確実に行うことができる。
【0043】
従って、オーバーフロー部12hを成形金型10に追加しても、樹脂ブロック体14の成形に支障をきたすことはない。
【0044】
(他の実施形態)
なお、本発明は上述の一実施形態に限定されることなく、種々変形可能である。例えば、上述の一実施形態では、オーバーフロー部12hを固定型12側に形成しているが、オーバーフロー部12hを可動型11側に形成してもよい。また、オーバーフロー部12hを可動型11と固定型12の両方にわたって形成してもよい。
【0045】
また、上述の一実施形態では、インサート部品13を可動型11側にセットする例について説明したが、インサート部品13を固定型12側にセットするようにしてもよい。
【0046】
また、上述の一実施形態では、インサート部品13を樹脂ブロック体14と一体にインサート成形しているが、インサート部品13を樹脂ブロック体14と一体にインサート成形しない、樹脂部材のみの射出成形に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態による成形金型を示す断面図である。
【図2】図1の可動型の平面図である。
【図3】図1の固定型の平面図である。
【図4】成形金型内から取り出した直後の成形品を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
10…成形金型、11…可動型、12…固定型、11b、12b…キャビティ、
12e…ゲート、12h…オーバーフロー部、13…インサート部品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形金型(10)に、キャビティ(11b、12b)と、前記キャビティ(11b、12b)に溶融樹脂を射出するゲート(12e)と、前記キャビティ(11b、12b)の樹脂最終充填部に連通するオーバーフロー部(12h)とを設け、
前記ゲート(12e)から溶融樹脂を前記キャビティ(11b、12b)内へ射出する射出工程において、前記キャビティ(11b、12b)内への溶融樹脂の充填が完了した後に、前記オーバーフロー部(12h)の容積に対して所定割合の容積だけ溶融樹脂がオーバーフローした時点で前記射出工程を終了することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記オーバーフロー部(12h)の所定割合の容積に溶融樹脂がオーバーフローするのに必要な射出量を予め設定しておき、
前記射出工程の射出量が前記設定射出量に到達すると、前記射出工程を終了することを特徴とする請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記オーバーフロー部(12h)の断面積よりも小さい断面積を有する小連通路(12i)により前記オーバーフロー部(12h)を前記キャビティ(11b、12b)の樹脂最終充填部に連通することを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形方法。
【請求項4】
前記キャビティ(11b、12b)内にインサート部品(13)を予めセットしておき、その後に、前記射出工程を実行することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−35630(P2006−35630A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218515(P2004−218515)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000106988)シミズ工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】