説明

工作機械の移設検出装置

【課題】工作機械の当初の設置場所からの不適切な移設による機械の精度低下、機能低下、寿命低下などを防止すると共に、機械の移設先や移設履歴を知ることもできる技術手段を提供する。
【解決手段】工作機械ないしNC装置のフレームの下面に設置されて設置床面を検出する距離センサ1aと、この距離センサの検出値に変動があったときに当該変動を記憶する記憶手段2と、NC装置4に電源が投入されたときに充電されて前記距離センサ及び記憶手段に必要な電気を供給するバッテリー5と、NC装置4に工作機械3の起動指令が与えられた時に記憶手段2の内容を読取ることができない場合及び記憶手段2が変動を記憶している場合にNC装置4に動作制限信号を出力する制限情報出力手段7と、リセット信号を受けて動作制限信号に基づく動作制限を解除すると共に記憶手段2の内容を初期化するリセット手段8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械が移設されたときに、機械の起動を制限して、不適正な移設による加工精度や機械寿命の低下などのトラブルを防止する技術手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工精度の高い工作機械は、機械の据付が不適切であると、加工精度が低下じたり、所定の加工能力を発揮できないなどのトラブルが発生する。たとえば、据付ける床面に歪みや捻じれがあると、機械を床面に固定したときに機械フレームが変形し、当該フレームに搭載されている主軸や刃物台の位置関係に誤差が生ずるため、その機械の本来の加工精度を発揮することができない。また、据付ける床面を支えている基礎の強度が十分でないと、大きな切削反力が作用したり、ワークの搬送を行うローダやアンローダが動作したときに機械が振動し、加工面精度が低下したり、本来の加工能力を発揮できないということが起る。
【0003】
工作機械には種々のものがあり、更に同じ種類の工作機械であってもフレームの構造や刃物台の配置位置により、据付時に留意しなければならない技術事項にも相違がある。そこで、工作機械の据付に際しては、機械メーカが認定した据付業者により据付を行って、機械本来の性能が確保されるようにしている。
【0004】
しかし、一旦据付けられた工作機械は、工場の配置変えや移転、あるいは売却等によって移設されても、ユーザからの連絡がない限り、工作機械メーカや当該機械を据付けた据付業者は、機械の移設を知ることができない。メーカが知らないまま、不適切な方法で移設されたり、不適当な場所に移設されると、加工精度の低下、工具や機械寿命の低下などの問題が発生し、機械のユーザとメーカの間で補償などについてのトラブルが発生することがある。
【0005】
工作機械を移設するときには、運転時とは異なる種類の振動が工作機械に作用する。特許文献1には、このような振動を検出することによって、機械の移設を認識して、その後の機械の起動を抑制することにより、工作機械の不適切な移設によるトラブルの発生を回避することが提案されている。
【特許文献1】特開2003‐35595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術によれば、工作機械の移設作業が行われた可能性があることを検知することができ、据付不良等によるトラブルの発生を回避できると考えられる。しかし、オペレータの操作ミスなどでワークが機械フレームに衝突したときの振動や地震発生時の振動により、機械の起動ができなくなるということが起り、そのたびにユーザがメーカに連絡して、起動制限を解除するためのパスワードなどの取得を行わなければならず、対応が面倒になるという問題がある。
【0007】
また、地震によって起動停止が掛かる場合のように、不必要なときに機械の起動が制限されるという事態が生ずることは、いわば誤作動によって機械が停止するということであり、機械の信頼を損なう危険性が大きい。
【0008】
この発明は、工作機械の移設に伴う種々のトラブルの発生を防止するための研究の一環としてなされたもので、当初の設置場所からの不適切な移設による機械の精度低下、機能低下、寿命低下などを防止すると共に、機械の移設先や移設履歴を知ることもできる技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この出願の発明は、工作機械のフレームないし当該工作機械を制御するNC装置のフレームの下面に設置されて当該工作機械ないしNC装置の設置床面を検出する距離センサ1aと、この距離センサの検出値に変動があったときに当該変動を記憶する記憶手段2と、NC装置4に電源が投入されたときに充電されて前記距離センサ及び記憶手段に必要な電気を継続的に供給するバッテリー5と、NC装置4に工作機械3の起動指令が与えられた時に前記記憶手段2の内容を読取ることができない場合及び当該記憶手段が前記変動を記憶している場合にNC装置4に動作制限信号を出力する制限情報出力手段7と、所定のリセット信号を受けて前記動作制限信号に基づく動作制限を解除すると共に前記記憶手段の内容を初期化するリセット手段8とを備えている工作機械の移設検出装置を提供することにより、上記課題を解決したものである。
【0010】
この出願の請求項2の発明に係る工作機械の移設検出装置は、上記手段を備えた工作機械の移設検出装置において、機械フレームないしNC装置フレームに設置されて当該機械フレームないしNC装置フレームの傾斜を検出する電子水準器1bを備え、前記記憶手段2は前記電子水準器の検出値に変動があったときにも当該変動を記憶し、前記バッテリー5は前記水準器にも必要な電気を供給していることを特徴とするものである。
【0011】
また、この出願の請求項3の発明に係る工作機械の移設検出装置は、上記各手段を備えた工作機械の移設検出装置において、機械フレームないしNC装置フレームに設置されて地磁気の方向を検出する電子コンパス1cを備え、前記記憶手段2は前記電子コンパスの検出値に変動があったときにも当該変動を記憶し、前記バッテリー5は前記電子コンパスにも必要な電気を供給していることを特徴とするものである。
【0012】
この出願の発明に係る工作機械の移設検出装置は、インターネット接続手段と、前記動作制限が設定された状態でNC装置4に入力された信号をインターネット接続手段を介して送信する送信手段12と、インターネット接続手段を介して前記リセット信号を受信する受信手段13とを備えることにより、据付者の認証や起動制限の解除を遠隔地から行うことが可能になる。
【0013】
距離センサ、水準器及び電子コンパスは、検出値を電気信号として出力するものである。電子センサとして水準器と電子コンパスの両方の機能を備えたベアリングコンパスと呼ばれるセンサが提供されているので、水準器1bと電子コンパス1cを独立して個別に設ける代わりに、ベアリングコンパスを用いることができる。
【0014】
記憶手段2(2a、2b、2c)は、初期値を記憶する初期値記憶領域と、検出値と初期値とを比較する比較器と、検出値が初期値から外れたときに変動有りのフラグを立てるための記憶領域とで構成され、リセットされたときにそのときの検出値を初期値記憶領域に記憶することにより初期化される。複数のセンサを設けたとき、記憶手段2はセンサ一個毎に個別に設けても良いが、いずれかのセンサの検出値に初期値からの変動があったときにフラグを立てる一個の記憶手段で構成することもできる。
【0015】
記憶手段2の内容を読取ることができない場合とは、例えば、センサ1(1a、1b、1c)が破損された場合、バッテリー5の電源が切れた場合などである。この場合に起動制限をかけるようにするのは、センサ1や記憶手段2を取外しないし破壊して移設をすることを防止するためと、バッテリー5の充電が切れるほど長い間NC装置4に通電されなかったようなときに、作動油の劣化や漏れなどに起因するトラブルを防止するためである。バッテリー5の駆動時間で起動制限を掛ける代わりに、タイマを内蔵して当該タイマがタイムアップしたときに起動制限をかけるようにすることもできる。なお、バッテリー5は、継続的に、すなわちNC装置に電源が接続されていないときでも、充電された電気を供給し続けている。
【0016】
制限情報出力手段7から出力される制限信号は、簡単には工作機械に起動指令が与えられないようにする信号であるが、起動できるけれども特定の動作が機能しないというような機械の動作を部分的に制限する信号であってもよい。リセット信号は、暗証番号のようなパスワードであって、移設を行った据付担当者が手入力指令するか、インターネットを介して工作機械メーカなどに設置したサーバ11から取得して自動入力する。
【発明の効果】
【0017】
この発明により、機械のリセット信号を知っているメーカ認定の据付業者などの特定人の立ち会いのもとでなければ工作機械やNC装置の移設ができないので、不適切な移設により生ずる機械性能の低下や寿命の低下を防止できると共に、機械の移設先の把握が可能で、機械の譲渡を含む履歴管理が可能になる。そして、機械を移設するときは、機械を設置床面から持上げることが必須であり、フレーム下面に装着した距離センサはフレームを持上げなければ改ざんなどすることができないので、移設を確実に検出できると共に、地震などによって本来必要でない起動制限がかかることもないので、不必要な移設検出装置の作動によって煩雑な解除作業が発生するのを避けることができる。更に、複数のセンサを設けることにより、移設をより確実に検出することができる。
【0018】
また、記憶手段の内容を読出すことができないときも起動制限がかかるため、センサが取外されたり破壊されたとき、更には長時間通電されなかったためにバッテリーの充電が切れた場合などにも起動制限がかかるので、不正な改造や長時間放置されたことに起因する機械故障の発生なども防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1及び図2は、この発明の第1実施形態を示した図で、図1はブロック図、図2は動作手順を示すフローチャートである。
【0020】
図1において、1はセンサ、2は記憶手段である。図の例では、センサ1として距離センサ1a、水準器1b及び電子コンパス1cの複数のセンサが設けられている。記憶手段2には、距離センサ1aの検出値の最大変動量(初期値からのずれの最大値)を記憶する高さ記憶手段2a、水準器の検出値の最大変動量を記憶する傾き記憶手段2b及び電子コンパスの検出値の最大変動量を記憶する方向記憶手段2cとが含まれている。3は工作機械、4は当該工作機械を制御しているNC装置、5はセンサ1及び記憶手段2に電気を供給しているバッテリーである。図には明示してないが、このバッテリー5は、NC装置に通電されているときに充電されるものである。
【0021】
7は制限情報出力手段である。NC装置4の電源が投入され、当該NC装置に工作機械3の起動指令が与えられたときに、NC装置4は、制限情報出力手段7を動作させる。制限情報出力手段7は、記憶手段2を参照し、高さ記憶手段2a、傾き記憶手段2b及び方向記憶手段2cのいずれかの内容を読取ることができないとき及びそれらのセンサのいずれかが変動を記憶しているときに、NC装置4に起動制限信号を送る。NC装置4は、起動制限信号を受けたときには、与えられた工作機械の軌道指令を実行しない。
【0022】
8はリセット手段である。リセット手段8はパスワードの手入力手段を備え、予め設定されている認証パスワードや据付者パスワードが入力されたときに、制限情報出力手段7からの起動制限信号を受けているNC装置4に、その起動制限を解除するリセット信号を出力する。
【0023】
図2は、図1のシステムの制御フローチャートを示した図である。NC装置4の電源が投入されたとき、記憶手段2の内容を読取り、読取り不可能なときは機械を起動しないで処理を終了する。記憶手段2の内容が読み取れたときは、これらの記憶手段2a、2b、2cのいずれにも変動が記憶されていなければ工作機械を起動する。記憶手段2a、2b、2cいずれかに変動が記憶されているときは、制限情報出力手段7からの制限情報によりNC装置4に工作機械の起動制限をかけ、最初はステップ21を通過してNC装置4のディスプレイにパスワード認証画面を表示し、オペレータにパスワードの入力を促す。パスワードが入力されたら、パスワードの認証を行い、適正なパスワードであれば、NC装置に設定された起動制限を解除すると共に記憶手段2に初期値として現在の各センサの検出値を設定し、工作機械を起動する。適正なパスワードが得られなかったときは、ステップ21に戻って入力回数が予め設定したリミット回数に到達したかどうかを判断し、リミット回数に達していなければパスワードの再入力を促す。不適切なパスワードの入力操作がリミット回数に到達したら、画面をロックし、工作機械を起動しないで処理を終了する。なお、上記の例は工作機械に起動制限を掛ける例であるが、次の例に示すように、NC装置自体に起動制限を掛けることもできる。
【0024】
図3は、この発明の第2実施形態のブロック図、図4は、その動作フローチャートで、リセット手段8に与えるリセット信号をインターネット10を介して取得することを可能にした例である。この第2実施形態の装置では、図1の装置に、インターネット10を介してセンタに設置したサーバ11とデータを送受信する送信手段12と受信手段13とが付加されている。受信手段13は、インターネット10を介してサーバ11から取得したリセット信号をリセット手段8に与える。送信手段12は、制限情報出力手段7の制限信号によりNC装置4に動作制限が設定されている状態で当該NC装置4のディスプレイに表示した認証画面の指示に従ってパスワードが入力されたとき、当該パスワードをサーバ11に送る。その他の構成は、図1のものと同じである。
【0025】
次に図4を参照して、図3のシステムの動作を説明する。NC装置4の電源が投入されたとき、記憶手段2の内容を読取り、読取り不可能なときはNC装置4を起動しないで処理を終了する。記憶手段2の内容が読み取れたときは、これらの記憶手段2a、2b、2cのいずれにも変動が記憶されていなければNC装置4を起動する。記憶手段2a、2b、2cいずれかに変動が記憶されているときは、制限情報出力手段7からの制限情報によりNC装置4に起動制限をかける。
【0026】
次にステップ42でNC装置4のディスプレイにパスワード認証画面を表示して、ステップ43でインターネット認証が可能かどうかを判定し、可能であればオペレータにステップ44で工作機械の移設を行った据付者のパスワードの入力を促し、入力された据付者パスワードをインターネット10を介してサーバ11に送る。サーバ11は、当該パスワードが正規の据付者としてサーバ11に登録されているパスワードに一致すれば、インターネット10を介して認証情報を送る。
【0027】
サーバから認証情報を取得して認証が完了したら、ステップ45で記憶手段2に初期値として各センサの現在の検出値を設定し、通常のNC装置の起動を行う。サーバ11から認証情報を取得できないときは、ステップ44に戻って据付者のパスワードの入力を促す。そして、図2の場合と同様に、入力動作の繰り返し回数がリミットに達したときは、NC装置4を起動しないで処理を終了する。
【0028】
ステップ43でインターネット認証ができないと判断したときは、ステップ44のパスワード認証画面を表示したまま認証パスワードの入力を待つ。オペレータは、この間に据付者パスワードを電話等により管理センターに連絡して、認証パスワードを取得し、手入力で認証パスワードを入力する。入力された認証パスワードが正しければ、ステップ45で記憶手段2の内容を初期値に戻して、NC装置4を起動する。正しい認証パスワードが入力されないときは、パスワード認証画面に戻り、図2の場合と同様に、入力動作の繰り返し回数がリミットに達したときに、NC装置4を起動しないで処理を終了する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態のブロック図
【図2】図2のシステムの動作フローチャート
【図3】第2実施形態のブロック図
【図4】図3のシステムの動作フローチャート
【符号の説明】
【0030】
1 センサ
2 記憶手段
3 工作機械
4 NC装置
5 バッテリー
7 制限情報出力手段
8 リセット手段
13 受信手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械フレームないしNC装置フレームの下面に設置されて当該機械ないしNC装置の設置床面を検出する距離センサ(1a)と、
この距離センサの検出値に変動があったときに当該変動を記憶する記憶手段(2)と、
NC装置(4)に電源が投入されたときに充電されて前記距離センサ及び記憶手段に必要な電気を継続的に供給するバッテリー(5)と、
NC装置(4)に工作機械(3)の起動指令が与えられた時に前記記憶手段(2)の内容を読取ることができない場合及び当該記憶手段が前記変動を記憶している場合にNC装置(4)に動作制限信号を出力する制限情報出力手段(7)と、
所定のリセット信号を受けて前記動作制限信号に基づく動作制限を解除すると共に前記記憶手段の内容を初期化するリセット手段(8)とを備えている、工作機械の移設検出装置。
【請求項2】
機械フレームないしNC装置フレームに設置されて当該機械フレームないしNC装置フレームの傾斜を検出する電子水準器(1b)を備え、
前記記憶手段(2)は前記電子水準器の検出値に変動があったときにも当該変動を記憶し、
前記バッテリー(5)は前記水準器にも必要な電気を供給している、請求項1記載の移設検出装置。
【請求項3】
機械フレームないしNC装置フレームに設置されて地磁気の方向を検出する電子コンパス(1c)を備え、
前記記憶手段(2)は前記電子コンパスの検出値に変動があったときにも当該変動を記憶し、
前記バッテリー(5)は前記電子コンパスにも必要な電気を供給している、請求項1又は2記載の移設検出装置。
【請求項4】
インターネット接続手段と、
前記動作制限が設定された状態でNC装置(4)に入力された信号をインターネット接続手段を介して送信する送信手段(12)と、
インターネット接続手段を介して前記リセット信号を受信する受信手段(13)と
を備えている、請求項1、2又は3記載の移設検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−126336(P2008−126336A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311756(P2006−311756)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000212566)中村留精密工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】