工作機械及びその加工制御装置
【課題】安定限界曲線に基づいて設定された条件で切削加工を行う工作機械において、加工中に発生したびびり振動を、容易にかつ安定して抑える。
【解決手段】この加工制御装置は、記憶部7と、演算部8と、振動検出センサ5と、を備えている。記憶部7は、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切込み量を示す安定限界曲線のデータが格納されている。演算部8は、安定限界曲線データに基づいて加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量を設定し、振動検出センサ5の検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定し、びびり振動が発生した場合に、安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する。
【解決手段】この加工制御装置は、記憶部7と、演算部8と、振動検出センサ5と、を備えている。記憶部7は、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切込み量を示す安定限界曲線のデータが格納されている。演算部8は、安定限界曲線データに基づいて加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量を設定し、振動検出センサ5の検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定し、びびり振動が発生した場合に、安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工制御装置、特に、ワークを切削加工する工具が装着された主軸の回転数を制御する加工制御装置及びそれを備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばフライス工具を用いて中ぐり加工を行う場合、工具とワークとの干渉を避けるために工具長を長くする必要がある。このような工具では、工具の刃の部分と主軸にチャックされた部分との間の距離が長くなるので、工具の剛性が比較的弱くなる。
【0003】
ここで、切削中の工具は、先の切削時に残されたワーク側の起伏を、次の切削時においてずれて倣いながら切削することになる。この場合は、切削厚さが変動することになる。このような切削加工において、前述のように工具の剛性が弱い場合には、切削力の変動が工具の固有値振動を励起し、切削加工中にびびり振動が発生しやすくなる。
【0004】
そこで、従来の切削加工においては、何回かの試し加工を行ってびびり振動が生じない加工条件を見つけ出し、最適加工条件を設定するようにしている。
【0005】
また、特許文献1に示されるように、安定限界曲線を利用してびびり振動を予測し、加工条件を設定する方法も提案されている。この特許文献1に示される方法では、工具仕様及びワーク材質で決定される切削力特性値等のパラメータを入力値とし、この入力値に対してびびり振動が発生しない安定限界切込み量の初期値が定められる。そして、この初期値に基づいて得られる計算値と初期値とが比較され、比較結果によって初期値が修正される。以上の処理が繰り返されて、修正された初期値と計算値とが一定の誤差範囲に収まった場合に、安定限界切込み量が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−167980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の試し加工によって加工条件を設定する方法では、何回かの試し加工が必要であり、加工条件を設定するための作業が煩雑である。また、工具やワークが変わるたびに試し加工を行う必要がある。
【0008】
一方、特許文献1に記載の方法では、理論的にはびびり振動を抑制する切込み量を決定することが可能であるが、以下のような問題がある。
【0009】
まず、図1に、特許文献1において利用されている安定限界曲線の一例を示す。この図において、横軸は主軸回転数(rpm)、縦軸は軸方向切込み量(mm)である。そして、安定限界曲線曲線Aの内側(図では下側)の領域が、びびり振動が抑制される安定領域であり、安定限界曲線Aの外側(図では上側)が、びびり振動を生じる不安定領域である。
【0010】
以上のような安定限界曲線Aを想定し、安定領域内のa1点の条件で加工を行ったとする。このとき、工具の剛性のバラツキやワークの素材寸法には誤差やずれが生じるので、実際の安定限界曲線(図1の破線A’でその一部を示している)は図1に示した安定限界曲線Aからずれることになる。すると、条件a1で加工を行ってもびびり振動が生じることになる。特に、鋳物や鍛造品のようなワークは素材寸法の誤差が大きいので、実際の安定限界曲線は、予め定められた素材寸法を前提とした場合の安定限界曲線とはずれる場合が多い。このような場合には、計算によって得られた最適切込み量a1により加工を行っても、実際の加工ではびびり振動を生じることになる。
【0011】
このような場合、切込み量を変えて安定領域内に加工条件を設定し直し、びびり振動が生じないようにするためには、切込み量を条件a2にする必要がある。すなわち、図1の例では、切込み量をほぼ1/2にする必要がある。このように切込み量を大幅に減少させると、効率よく加工を行うことができない。
【0012】
また、切込み量を変える場合は、1回のパスの切削加工(工具の1回の移動)によってワーク表面から切削される量が変わるので、加工プログラム中の切削加工のパス数を変更する必要がある。このため、切込み量の変更は加工プログラムの変更を伴い、加工中に対応することができない場合がある。
【0013】
本発明の課題は、安定限界曲線に基づいて設定された条件で切削加工を行う工作機械において、加工中に発生したびびり振動を、容易にかつ安定して抑えることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明に係る工作機械の加工制御装置は、ワークを切削加工する工具が装着された主軸の回転数を制御する装置であって、データ格納手段と、加工開始条件設定手段と、振動検出センサと、びびり振動判定手段と、回転数制御手段と、を備えている。データ格納手段は、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切込み量を示す安定限界曲線データが格納されている。加工開始条件設定手段は安定限界曲線データに基づいて加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量を設定する。振動検出センサは切削加工時の主軸の振動を検出する。びびり振動判定手段は振動検出センサの検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定する。回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に、安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する。
【0015】
この装置では、安定限界曲線データがデータ格納手段に格納されている。安定限界曲線データは、切削加工時にびびり振動が抑制される主軸回転数と工具の限界切込み量との関係を示すものである。この安定限界曲線の安定領域内に加工条件設定することにより、びびり振動が抑制され、安定して加工が行える。このような安定限界曲線データに基づいて、加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量が設定される。この設定は、オペレータによって設定されてもよいし、使用される工具の仕様等から自動的に設定されるように構成されていてもよい。そして、加工中においては、振動検出センサによって主軸の振動が検出され、その検出結果によりびびり振動が発生したか否かが判定される。びびり振動が発生したと判定された場合には、安定限界曲線データを参照して、びびり振動が抑制されるように主軸回転数が制御される。
【0016】
ここでは、びびり振動が発生したと判定された場合は、主軸回転数を制御することによってびびり振動を抑えることができる。図1を用いて詳細に説明すると、まず、加工開始条件は安定限界曲線のデータを参照して条件a1に設定される。しかし、工具剛性のバラツキやワーク素材寸法の誤差によって安定限界曲線が曲線A’にずれているとする。この場合、加工条件a1は不安定領域内にあり、加工中にびびり振動が発生する。このような場合は、主軸回転数を低下させて、加工条件をa3点に移行させる。これにより、加工条件は安定領域内に位置することになり、びびり振動を抑えて安定した加工が可能になる。
【0017】
以上のように、この発明では、主軸回転数を変更することにより、不安定領域にある加工条件を容易に安定領域に移行させることができる。このとき、主軸回転数を大幅に変更する必要がない。したがって、加工効率の大幅な低下を避けることができる。また、主軸回転数を制御する処理は、加工プログラムを変更する必要がなく、加工中において実行できるので、加工状況に応じて素早く対応できる。
【0018】
第2発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1発明の加工制御装置において、安定限界曲線データは、振動解析によって得られた工具の特性値、ワークの材料によって決まる係数、及び加工条件から求められる。
【0019】
第3発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1又は第2発明の加工制御装置において、回転数制御手段は、第1回転数変更手段と、判断手段と、第2回転数変更手段と、を有している。第1回転数変更手段はびびり振動が発生した場合に主軸回転数を第1回転数分だけ増加又は低下させる。判断手段は第1回転数分だけ調整された主軸回転数が安定限界曲線データに基づいて設定された許容範囲内の回転数であるか否かを判断する。第2回転数変更手段は、調整された主軸回転数が許容範囲内の回転数でない場合、調整された主軸回転数から第1回転数分より少ない第2回転数分だけ主軸回転数を低下又は増加させる。
【0020】
びびり振動が発生した場合、まず、第1回転数分だけ主軸回転数が変更される。ここで、前述のように、安定限界曲線のデータを参照することにより、ある切込み量においてびびり振動が発生しない主軸回転数の範囲(許容範囲)を求めることができる。
【0021】
そこで、この第3発明では、第1回転数分だけ変更された主軸回転数が、この許容範囲内にあるか否かが判断される。そして、許容範囲内でない場合は、主軸回転数は、第1回転数分より少ない第2回転数分だけ逆側に変更される。すなわち、主軸回転数が第1回転数分だけ増加された場合は第2回転数分だけ下げ、第1回転数分だけ下げられた場合は第2回転数分だけ増加させる。このような処理によって、びびり振動が発生した場合に、確実にびびり振動が抑えられる主軸回転数に調整することができる。
【0022】
第4発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1から第3発明のいずれかの加工制御装置において、加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を安定領域の最大切込み量に対応する回転数より低い回転数に設定する。そして、回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に主軸回転数を所定回転数だけ増加させる。
【0023】
ここでは、加工開始時の切込み量が安定領域内に設定され、また主軸回転数が安定領域内において低回転数側に設定される。具体的には、図1の例では、切込み量は、ある安定領域内の最大切込み量(約3.3mm)より少なく設定される。また、主軸回転数は、最大切込み量に対応する回転数(約3000rpm)より低い2600rpmに設定される。
【0024】
ここで、図1からも明らかなように、安定限界曲線の性質上、安定領域において、主軸回転数が高い側は、低い側に比較して傾斜が急峻である。このため、主軸回転数が高い側の安定限界曲線上に加工開始時の主軸回転数を設定すると、主軸回転数の微小な変化に対して安定領域と不安定領域との間で条件が行き来することになる。このような状態では、主軸回転数の制御によって安定してびびり振動を抑えることが困難になる。
【0025】
そこでこの第4発明では、安定領域内において主軸回転数が低い側に加工開始条件を設定し、主軸回転数の制御を容易にして、安定的にびびり振動を抑えるようにしている。
【0026】
第5発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1から第3発明の加工制御装置において、加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を安定領域の最大切込み量に対応する回転数より低い回転数に設定し、回転数制御手段は、びびり振動が発生しない場合は加工開始時の主軸回転数を維持する。
【0027】
加工開始条件が、安定領域内において比較的低い主軸回転数に設定され、かつ実際の安定限界曲線が低回転数側にずれた場合、加工開始条件のままでもびびり振動は発生しない。このため、主軸回転数を上げて加工時間を短縮することが考えられる。
【0028】
しかし、主軸回転数を上げると、不安定領域内に移行する可能性があり、また主軸回転数を上げても、加工時間の大幅な短縮は期待できない。
【0029】
そこで、この第5発明では、以上のような状況の場合でも主軸回転数を加工開始時の回転数に維持するようにしている。
【0030】
第6発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1から第3発明の加工制御装置において、加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を安定領域の最大切込み量に対応する回転数より高い回転数に設定し、回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に主軸回転数を所定回転数だけ減少させる。
【0031】
前述のように、安定領域は主軸回転数に関して幅を有している。そこで、この第6発明では、加工時間の短縮を図るために、加工開始条件は比較的高い回転数(例えば、図1の例では3000rpm)に設定されている。
【0032】
第7発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1から第3発明の加工制御装置において加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を安定領域の最大切込み量に対応する回転数より高い回転数に設定し、回転数制御手段は、びびり振動が発生しない場合は加工開始時の主軸回転数を維持する、
加工開始条件が、安定領域内において最高主軸回転数に設定され、かつ実際の安定限界曲線が高回転数側にずれた場合、加工開始条件のままでもびびり振動は発生しない。このため、主軸回転数をさらに上げて加工時間を短縮することが考えられる。
【0033】
しかし、前記同様に、主軸回転数を上げると、不安定領域内に移行する可能性があり、また主軸回転数を上げても、加工時間の大幅な短縮は期待できない。
【0034】
そこで、この第7発明においても、第5発明と同様に、主軸回転数を加工開始時の回転数に維持するようにしている。
【0035】
第8発明に係る工作機械は、先端に切削工具が装着される主軸と、切削工具の切込み量及び主軸の回転数を含む加工条件を設定するとともに制御する数値制御部と、数値制御部に制御指令を送る請求項1から7のいずれかに記載の加工制御装置と、を備えている。
【0036】
第9発明に係る工作機械の加工制御方法は、工作機械の主軸に切削工具が装着された工作機械の加工制御方法であって、第1ステップから第6ステップを含んでいる。第1ステップでは、切削工具の特性値、ワークの材料によって決まる係数、及び加工条件から、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切り込み量を示す安定限界曲線データを求める。第2ステップでは、安定限界曲線データに基づいて、加工開始時の加工条件として主軸回転数及び工具切り込み量を設定する。第3ステップでは加工開始条件で加工を開始させる。第4ステップでは切削加工時の主軸の振動を検出する。第5ステップでは第4ステップでの振動検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定する。第6ステップでは、びびり振動が発生した場合に、安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する。
【発明の効果】
【0037】
以上のような本発明では、安定限界曲線に基づいて設定された条件で切削加工を行う工作機械において、加工中に発生したびびり振動を、容易にかつ安定して抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】安定限界曲線を示す図。
【図2】びびり振動の原因を説明するための図。
【図3】本発明の基本原理を示す図。
【図4】本発明の一実施形態による工作機械全体のシステムブロック図。
【図5】制御処理の処理1のフローチャート。
【図6】安定限界曲線のずれによるびびり振動の有無を説明するための図。
【図7】主軸回転数の調整を説明するための図。
【図8】安定限界曲線のずれによるびびり振動の有無を説明するための図。
【図9】制御処理の処理2のフローチャート。
【図10】主軸回転数の調整を説明するための図。
【図11】本発明の他の実施形態による主軸回転数の増減の判断のためのロジックを説明するための図。
【図12】本発明の他の実施形態による制御処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[本発明の基本原理]
まず、安定限界曲線について説明する。
【0040】
びびり振動の原因は、切削加工中において切削厚さが変動することに起因している。この状態を図2に示している。図2(a)に示すように、切削中の工具は、前回切削時に残された起伏を、次の切削工程でややずれて倣いながら切削していく。このため、同図(b)に示すように、切削厚さが変動し、これがびびり振動の原因である起振力となり、固有振動を励起してびびり振動が発生することになる。
【0041】
そこで、図3に示すように、切削厚さが一定になるように主軸の回転数を工具の固有振動数に合わせて制御することで、びびり振動を抑えることができる。すなわち、工具による切込み量と切削周期とを所定の関係にすることで、びびり振動を抑えることができることになる。なお、切削周期は工具の刃数がわかっている場合は回転数に換算できる。
【0042】
以上から明らかなように、主軸回転数に対してびびり振動を生じる限界切込み量が変化する。この主軸回転数に対する限界切込み量の変化を表したのが、図1に示す安定限界曲線である。
【0043】
切削中の工具の運動は、質量m、減衰定数c、バネ定数k、外力Ffを用いて以下の運動方程式で表される。また、Kfは、比切削抵抗で、ワークの材質によって決まる値である。さらに、aは軸方向切込み量、hは切取り厚さであり、Tは切削工程における時間遅れ(切削周期)である。なお、切削工具の減衰定数c及びバネ定数kについては、工具を振動解析することによって求めることができる。
【0044】
【数1】
以上の運動方程式を解くことによって、安定限界曲線を得ることができる。そして、安定限界曲線が得られると、加工条件を安定領域内に設定することで、びびり振動の発生を抑えることができる。
【0045】
しかし、工具の剛性のバラツキやワークの素材寸法に誤差があると、実際の安定限界曲線は計算上の安定限界曲線からずれることになる。特に、ワークが鋳物や鍛造の場合、素材寸法の誤差が大きいので切込み量のバラツキも大きくなり、安定限界曲線における安定領域内に加工条件を設定しても、びびり振動が発生する場合がある。
【0046】
そこで、本発明では、安定限界曲線を参照して加工開始条件を設定するとともに、加工中においてびびり振動を検出し、びびり振動が発生した場合は、安定限界曲線を参照して主軸回転数を調整し、びびり振動を抑えるようにしている。
【0047】
[全体構成]
図4は本発明の一実施形態による工作機械全体のシステムのブロック図である。この図に示すように、本システムは、工作機械本体1と、工作機械本体1の加工を制御する数値制御装置(NC装置)2と、数値制御装置2に対して切込み量及び主軸回転数を指令する制御装置3と、を有している。工作機械本体1には、モータによって回転する主軸1aが設けられ、主軸1aの先端には切削工具4が装着される。そして、主軸1aには、主軸1aの振動を計測するための振動検出センサ5が設けられている。振動検出センサ5としては、例えば加速度計が用いられる。また、数値制御装置2には、加工プログラムが格納された記憶装置や、加工条件を設定するための操作盤が設けられている。
【0048】
制御装置3は、振動検出センサ5からの信号を高速フーリエ変換するフーリエ変換部(FFT)6と、安定限界曲線のデータが記憶された記憶部7と、各種の演算を行う演算部8と、を有している。演算部8は、フーリエ変換部6からの入力によってびびり振動が生じているか否かを判定する機能と、びびり振動が生じた場合に主軸回転数を調整するための指令を数値制御装置2に指令する機能と、を有している。また、演算部8は、主軸回転数を調整した場合に、この主軸回転数が予め設定された最大又は最小値(設定限界値)を超えていないか否かを判断する機能を有している。また、記憶部7には、キーボード等の入力装置9を介して、設定限界値、びびり振動の有無を判定するためのしきい値、主軸回転数を調整する際の調整回転数(α)等が入力されるようになっている。また、入力装置9は、オペレータが、安定限界曲線のデータを参照して加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量を設定するために用いられる。なお、加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量については、数値制御装置2の操作盤から入力するようにしてもよい。さらに、安定限界曲線を参照して、演算部8により加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量を決定し、数値制御装置2に対して設定するようにしてもよい。
【0049】
[加工制御方法]
本実施形態の工作機械において、主軸回転数を制御する方法は以下のステップを含んでいる。
【0050】
第1ステップ:切削工具の特性値(質量、減衰定数、バネ定数)、ワークの材料によって決まる係数(比切削抵抗)、及び加工条件(外力)から、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切り込み量を示す安定限界曲線データを求める。この安定限界曲線データは、加工開始前に求めておき、制御装置3の記憶部7に格納される。
【0051】
第2ステップ:安定限界曲線データに基づいて、加工開始時の加工条件として主軸回転数及び工具切り込み量を設定する。これらの条件は、制御装置3又は数値制御装置2を介してオペレータによって入力される。あるいは、安定限界曲線データを用いて自動で設定するようにしてもよい。
【0052】
第3ステップ:第2ステップで設定された加工開始条件で加工を開始させる。
【0053】
第4ステップ:切削加工時の主軸の振動を振動検出センサ5によって検出する。
【0054】
第5ステップ:第4ステップでの振動検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定する。
【0055】
第6ステップ:びびり振動が発生した場合に、安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する。
【0056】
[制御処理]
以上の加工制御方法を実施するためのフローチャートを、図5を用いて説明する。このフローチャートには、制御装置3での処理とは別に行われる切削加工を行うための準備処理と、制御装置3によって行われる切削加工中の主軸回転数の制御処理が含まれている。
【0057】
主軸回転数を調整するための制御処理を実行するに際しては、まず準備工程P1を実行する。準備工程P1では、使用する工具仕様、被切削材としてのワークの材質、及び加工条件から、前述の式を解くことによって安定限界曲線を求める。そして、安定限界曲線が求まれば、この安定限界曲線を参照して、準備工程2において、加工開始条件として主軸回転数Rs(rpm)と切込み量a(mm)とを設定する。これらの条件は、オペレータによって入力される。これらの準備工程1,2が終了すれば、ステップS1以降の制御処理が実行される。
【0058】
<処理1>
ここでは、加工開始条件を、図6に示すように、切込み量aでかつ主軸回転数Rs1(条件B1)に設定した場合の処理について説明する。なお、切込み量aは、一例として、安定限界曲線の最も高い切込み量の1/√2である。また、主軸回転数Rs1は、図6に示すように、安定領域の範囲内において、切込み量aにおける最低回転数である。
【0059】
まずステップS1では、加工開始の指令を数値制御装置2に送る。ステップS2では、振動検出センサ5からの検出信号を取得し、ステップ3ではびびり振動が発生しているか否かを判断する。具体的には、振動検出センサ5からの検出信号をフーリエ変換部6で高速フーリエ変換し、最もパワーの強い卓越周波数の振幅Fpを求める。そして、この振幅Fpが所定のしきい値F0以上であるか否かを判断する。
【0060】
−事象1−
例えば、ワークの素材寸法に誤差があり、加工代が増える場合は、相対的に安定限界曲線が低下し、図6の破線A’で示すような特性になる。この場合は、主軸回転数Rs1で切込み量aの加工開始条件B1は、安定領域の外になってしまう。このため、びびり振動が発生することになる。
【0061】
びびり振動が生じた場合は、振幅Fpがしきい値F0以上になる。この場合は、ステップS3からステップS4に移行する。ステップS4では、数値制御装置2に対する主軸回転数の指令値(以下、「主軸回転数の指令値」を単に「主軸回転数」と記載する)を回転数α(rpm)だけ上げる。これにより、加工条件は図6に示す条件C1に移行する。また、ステップS5では、主軸回転数を上げた回数をカウントするための処理を実行する。なお、「n」の初期値は「1」であり、回転数を上げる毎に「+1」される。
【0062】
次にステップS6では、調整された主軸回転数(Rs1+α)が、設定限界値(ここでは設定最高回転数Rmax)を超えていないか否かを判断する。ここで、設定最高回転数Rmaxは、準備工程P1で得られた安定限界曲線のデータを参照して予め設定されている。具体的には、図6において、切込み量aにおける安定領域範囲内の最高の主軸回転数はR2であり、この回転数R2を1.2倍した回転数を設定最高回転数Rmaxとする。回転数R2を1.2倍するのは、実際の安定限界曲線は計算上の安定限界曲線Aからずれている場合が多く、このずれを考慮して最高回転数を高回転数側にシフトしている。
【0063】
図6に示すように、調整された主軸回転数(Rs1+α)が設定最高回転数Rmaxを超えていない場合は、ステップS6からステップS7に移行する。ステップS7では、主軸回転数の変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS2に戻る。
【0064】
また、調整された主軸回転数(Rs1+α)が設定最高回転数Rmaxを超えている場合は、ステップS6からステップS8に移行する。ステップS8では、先に調整された主軸回転数(Rs1+α)からα/nだけ回転数を下げる。すなわち、主軸回転数の調整回数が1回目の場合は、調整された主軸回転数からα/2(rpm)だけ回転数を下げ、ステップS7に移行して主軸回転数変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS2に戻る。
【0065】
以上の処理によって、主軸回転数が変更される。そして、ステップS2からステップS8の処理が繰り返し実行され、びびり振動が発生することなく加工が終了すれば、ステップS9を経て制御処理を終了する。
【0066】
なお、1回目のステップS8の処理で主軸回転数を下げてもびびり振動が生じる場合は、さらに主軸回転数をα/(2+1)だけ下げ、同様の処理を実行する。
【0067】
−事象2−
工具やワークの状況によっては、図7に示すように、実際の安定限界曲線A’が計算上の安定限界曲線Aよりずれる場合がある。この場合は、加工開始条件として設定された主軸回転数Rs1で切込み量aの条件B1は安定領域内にある。したがって、びびり振動は発生しない。この場合は、加工が終了するまでステップS3でNOと判断され、ステップS2及びステップS3を繰り返し実行して加工終了によって制御処理を終了する。
【0068】
ここで、図7に示す事象の場合、びびり振動は発生していないので、主軸回転数を上げると条件B1が安定領域外に移行するおそれがあり、またびびり振動が発生しない程度だけ主軸回転数を上げても、加工時間の大幅な短縮は期待できない。したがって、この場合は、主軸回転数を加工開始時の回転数Rs1に維持するようにしている。
【0069】
<処理2>
次に、加工開始条件を、図8に示すように、切込み量aでかつ主軸回転数Rs2(条件B2)に設定した場合の処理について、図9のフローチャートを用いて説明する。なお、図9において、ステップS11〜13,15,17,19の処理は処理1と同様である。また、切込み量aは、処理1と同様である。主軸回転数Rs2は、図8に示すように、安定領域の範囲内において、切込み量aにおける最高回転数である。
【0070】
この処理2では、ステップS11〜ステップS13までの処理は処理1と全く同様であるので省略する。
【0071】
−事象1−
工具やワークの状況によっては、図8に示すように、実際の安定限界曲線A’が計算上の安定限界曲線Aより低回転数側にずれる場合がある。この場合は、主軸回転数Rs2で切込み量aの加工条件B2は安定領域外になるので、びびり振動が発生することになる。
【0072】
びびり振動が生じた場合は、図9のステップS13からステップS14に移行する。ステップS14では、主軸回転数Rs2をα(rpm)だけ下げる。これにより、加工条件は図8に示す条件C2に移行する。また、ステップS15では、回転数を下げた回数をカウントするための処理を実行する。
【0073】
次にステップS16では、調整された主軸回転数(Rs2−α)が、設定限界値(ここでは設定最低回転数Rmin)より低いか否かを判断する。ここで、設定最小回転数Rminは、図8において、切込み量aにおける安定領域の最小回転数R1を0.8倍した回転数である。回転数R1を0.8倍するのは、前記同様に、実際の安定限界曲線は計算上の安定限界曲線Aからずれている場合が多いからであり、このずれを考慮して設定最低回転数(Rmin)を低回転数側にシフトしている。
【0074】
図8に示すように、調整された主軸回転数(Rs2−α)が設定最低回転数Rmin以上の場合は、ステップS16からステップS17に移行する。ステップS17では、主軸回転数の変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS12に戻る。
【0075】
また、調整された主軸回転数(Rs2−α)が設定最低回転数Rminより低い場合は、ステップS16からステップS18に移行する。ステップS18では、調整された主軸回転数(Rs2−α)からα/nだけ回転数を上げる。そして、ステップS17に移行して主軸回転数変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS12に戻る。
【0076】
−事象2−
工具やワークの状況によっては、図10に示すように、実際の安定限界曲線A'が計算上の安定限界曲線Aより高回転数側にずれる場合がある。この場合は、加工開始条件として設定された主軸回転数Rs2で切込み量aの条件B2は安定領域内にある。したがって、びびり振動は発生しない。この場合は、加工が終了するまでステップS13でNOと判断され、ステップS12及びステップS13を繰り返し実行して加工終了によって制御処理を終了する。
【0077】
この事象2では、びびり振動は発生していないので、主軸回転数を上げると条件B2が安定領域外に移行するおそれがあり、またびびり振動が発生しない程度だけ主軸回転数を上げても、加工時間の大幅な短縮は期待できない。したがって、この場合は、主軸回転数を加工開始時の回転数に維持するようにしている。
【0078】
[特徴]
(1)切削加工中にびびり振動が発生した場合は、主軸回転数を制御することによってびびり振動を抑えることができる。しかも、主軸回転数を大幅に変更することなくびびり振動を抑えることができるので、加工効率の大幅な低下を避けることができる。また、主軸回転数を制御する処理は、加工プログラムを変更する必要がないので、加工中において実行でき、加工状況に応じて素早く対応できる。
【0079】
(2)調整された主軸回転数が設定最高回転数を超えていないか、あるいは設定最低回転数より下回っていないかを、安定限界曲線を参照して判定し、適切な回転数の制御を行っているので、素早く安定してびびり振動を抑えることができる。
【0080】
(3)加工開始条件を、安定領域において、ある切込み量の最低回転数に設定した場合は、最高回転数に設定した場合に比較して制御が容易になる。より詳細には、安定限界曲線の安定領域における低回転数の特性は、高回転数側の特性に比較して傾斜が緩やかである。このため、調整する主軸回転数の増減分を細かく設定する必要がなく、容易にびびり振動を抑えることができる。
【0081】
(4)前記とは逆に加工開始条件を、安定領域において、ある切込み量の最高回転数に設定した場合は、加工時間を短縮することができる。
【0082】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0083】
(a)前記実施形態では、加工開始条件が安定限界曲線のどの位置に存在するのかが予めわかっている例を示した。この場合は、主軸回転数を調整するための制御処理において、回転数を増加するのか減少するのかを判断する必要はない。具体的には、各処理1,2のステップS4及びステップS14において、主軸回転数を所定回転数分αだけ増加又は減少する処理で、加工条件を安定領域内に移行させることができる。
【0084】
しかし、加工開始条件を自動で設定する場合は、加工開始時の主軸回転数が、安定領域内のどの位置にあるのかわからない場合がある。
【0085】
より詳細には、加工開始条件を自動で設定する場合、演算上では、加工開始条件は安定領域内に設定されるはずである。しかし、前記実施形態同様に、ワーク素材寸法の誤差等により、実際上は設定された加工開始条件が安定領域の外にずれる場合がある。
【0086】
このような場合には、加工中にびびり振動が発生するので、主軸回転数を調整して加工条件を安定領域内に移行させる必要がある。しかし、加工開始条件が自動で設定された場合、加工開始条件が安定領域内のどの位置に設定されたか、すなわち、安定領域内の低回転数側に設定されたのか、あるいは高回転数側に設定されたのかわからない場合がある。このような場合には、主軸回転数を調整するに際して、主軸回転数を増加させるべきか、減少させるべきか判断できない。
【0087】
そこで、主軸回転数を増加するのか減少するのかを、以下のロジックに従って判断している。
【0088】
まず、安定限界曲線Aの一部をモデル化して図11に示す。安定限界曲線Aのデータは、主軸回転数に対する切込み量の2次元テーブルとして記憶部7に格納されている。このテーブル中のデータと加工開始条件のデータとを参照して、主軸回転数を増加させるか減少させるかを判断する。具体的には、図11(a)に示すように、安定限界曲線Aのテーブルを参照して、加工開始条件としてデータDSが設定されたとする。次に、安定限界曲線Aのテーブル内のデータを走査し、このデータDSと同じ切込み量aで、かつ安定領域内において主軸回転数が最も低いデータDLと、主軸回転数が最も高いデータDHとを求める。さらに、データDSとデータDLとの回転数差DS−Lと、データDSとデータDHとの回転数差DS−Hとを求める。そして、図11(a)に示すように、回転数差DS−Hが回転数差DS−Lよりも大きい場合は、主軸回転数を増加させる。また、図11(b)に示すように、回転数差DS−Lが回転数差DS−Hよりも大きい場合は、主軸回転数を減少させる。
【0089】
以上の判断を含んだ主軸回転数の制御処理のためのフローチャートを図12に示している。このフローチャートにおいて、ステップS21〜23、27,29の処理は前記実施形態と同様である。
【0090】
前述のように、加工開始条件は安定領域内に設定されるが、ワーク素材寸法の誤差等により安定限界曲線が演算上の曲線からずれ、自動で設定された加工開始条件が安定領域の外にずれる場合がある。この場合には、加工中にびびり振動が発生する。
【0091】
そこで、ステップS23においてびびり振動が発生したと判断された場合は、ステップS23からステップS30に移行する。ステップS30では、図11で説明した前述のロジックを用いて、主軸回転数を増加させるか減少させるかを判断する。次にステップS24では、数値制御装置2に対する主軸回転数を、ステップS30の判断に基づいて所定回転数分(α)だけ増加又は減少させる。また、ステップS25では、主軸回転数を調整した回数をカウントするための処理を実行する。なお、前記同様に、「n」の初期値は「1」であり、回転数を調整する毎に「+1」される。
【0092】
次にステップS26では、安定限界曲線Aのデータを参照して、調整された主軸回転数が、設定限界値の範囲内であるか否かを判断する。すなわち、調整された主軸回転数が、設定最低回転数Rminを越え、設定最高回転数Rmax未満であるかを判断する。これらの各回転数Rmin及びRmaxは、前記実施形態と同様にして予め設定されている。
【0093】
調整された主軸回転数が許容回転数の範囲内である場合は、ステップS26からステップS27に移行する。ステップS27では、主軸回転数の変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS22に戻る。
【0094】
また、調整された主軸回転数が許容回転数の範囲外である場合は、ステップS26からステップS28に移行する。ステップS28では、先に調整された主軸回転数を逆方向に調整する。すなわち、主軸回転数の調整回数が1回目の場合は、調整された主軸回転数からα/2(rpm)だけ回転数をステップS24とは逆方向に調整し、ステップS27に移行して主軸回転数変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS22に戻る。
【0095】
以上の処理によって、主軸回転数が変更される。そして、ステップS22以下の処理が繰り返し実行され、びびり振動が発生することなく加工が終了すれば、ステップS29を経て制御処理を終了する。
【0096】
なお、1回目のステップS28の処理で主軸回転数を逆方向に調整してもびびり振動が生じる場合は、さらに主軸回転数をα/(2+1)だけ調整し、同様の処理を実行する。
【0097】
以上のような実施形態においても、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、加工開始条件を自動で設定できるので、より効率よく加工を行うことができる。
【0098】
(b)前記実施形態では、加工開始時の切込み量を、安定限界曲線の最も高い切込み量の1/√2に設定したが、この値は一例であって限定されるものではない。
【0099】
(c)前記実施形態では、制御装置3を工作機械の数値制御装置2とは別に設けたが、制御装置3を数値制御装置2内に組み込んでもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 工作機械本体
2 数値制御装置
3 制御装置
5 振動検出センサ
7 記憶部
8 演算部
A 安定限界曲線
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工制御装置、特に、ワークを切削加工する工具が装着された主軸の回転数を制御する加工制御装置及びそれを備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばフライス工具を用いて中ぐり加工を行う場合、工具とワークとの干渉を避けるために工具長を長くする必要がある。このような工具では、工具の刃の部分と主軸にチャックされた部分との間の距離が長くなるので、工具の剛性が比較的弱くなる。
【0003】
ここで、切削中の工具は、先の切削時に残されたワーク側の起伏を、次の切削時においてずれて倣いながら切削することになる。この場合は、切削厚さが変動することになる。このような切削加工において、前述のように工具の剛性が弱い場合には、切削力の変動が工具の固有値振動を励起し、切削加工中にびびり振動が発生しやすくなる。
【0004】
そこで、従来の切削加工においては、何回かの試し加工を行ってびびり振動が生じない加工条件を見つけ出し、最適加工条件を設定するようにしている。
【0005】
また、特許文献1に示されるように、安定限界曲線を利用してびびり振動を予測し、加工条件を設定する方法も提案されている。この特許文献1に示される方法では、工具仕様及びワーク材質で決定される切削力特性値等のパラメータを入力値とし、この入力値に対してびびり振動が発生しない安定限界切込み量の初期値が定められる。そして、この初期値に基づいて得られる計算値と初期値とが比較され、比較結果によって初期値が修正される。以上の処理が繰り返されて、修正された初期値と計算値とが一定の誤差範囲に収まった場合に、安定限界切込み量が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−167980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の試し加工によって加工条件を設定する方法では、何回かの試し加工が必要であり、加工条件を設定するための作業が煩雑である。また、工具やワークが変わるたびに試し加工を行う必要がある。
【0008】
一方、特許文献1に記載の方法では、理論的にはびびり振動を抑制する切込み量を決定することが可能であるが、以下のような問題がある。
【0009】
まず、図1に、特許文献1において利用されている安定限界曲線の一例を示す。この図において、横軸は主軸回転数(rpm)、縦軸は軸方向切込み量(mm)である。そして、安定限界曲線曲線Aの内側(図では下側)の領域が、びびり振動が抑制される安定領域であり、安定限界曲線Aの外側(図では上側)が、びびり振動を生じる不安定領域である。
【0010】
以上のような安定限界曲線Aを想定し、安定領域内のa1点の条件で加工を行ったとする。このとき、工具の剛性のバラツキやワークの素材寸法には誤差やずれが生じるので、実際の安定限界曲線(図1の破線A’でその一部を示している)は図1に示した安定限界曲線Aからずれることになる。すると、条件a1で加工を行ってもびびり振動が生じることになる。特に、鋳物や鍛造品のようなワークは素材寸法の誤差が大きいので、実際の安定限界曲線は、予め定められた素材寸法を前提とした場合の安定限界曲線とはずれる場合が多い。このような場合には、計算によって得られた最適切込み量a1により加工を行っても、実際の加工ではびびり振動を生じることになる。
【0011】
このような場合、切込み量を変えて安定領域内に加工条件を設定し直し、びびり振動が生じないようにするためには、切込み量を条件a2にする必要がある。すなわち、図1の例では、切込み量をほぼ1/2にする必要がある。このように切込み量を大幅に減少させると、効率よく加工を行うことができない。
【0012】
また、切込み量を変える場合は、1回のパスの切削加工(工具の1回の移動)によってワーク表面から切削される量が変わるので、加工プログラム中の切削加工のパス数を変更する必要がある。このため、切込み量の変更は加工プログラムの変更を伴い、加工中に対応することができない場合がある。
【0013】
本発明の課題は、安定限界曲線に基づいて設定された条件で切削加工を行う工作機械において、加工中に発生したびびり振動を、容易にかつ安定して抑えることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明に係る工作機械の加工制御装置は、ワークを切削加工する工具が装着された主軸の回転数を制御する装置であって、データ格納手段と、加工開始条件設定手段と、振動検出センサと、びびり振動判定手段と、回転数制御手段と、を備えている。データ格納手段は、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切込み量を示す安定限界曲線データが格納されている。加工開始条件設定手段は安定限界曲線データに基づいて加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量を設定する。振動検出センサは切削加工時の主軸の振動を検出する。びびり振動判定手段は振動検出センサの検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定する。回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に、安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する。
【0015】
この装置では、安定限界曲線データがデータ格納手段に格納されている。安定限界曲線データは、切削加工時にびびり振動が抑制される主軸回転数と工具の限界切込み量との関係を示すものである。この安定限界曲線の安定領域内に加工条件設定することにより、びびり振動が抑制され、安定して加工が行える。このような安定限界曲線データに基づいて、加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量が設定される。この設定は、オペレータによって設定されてもよいし、使用される工具の仕様等から自動的に設定されるように構成されていてもよい。そして、加工中においては、振動検出センサによって主軸の振動が検出され、その検出結果によりびびり振動が発生したか否かが判定される。びびり振動が発生したと判定された場合には、安定限界曲線データを参照して、びびり振動が抑制されるように主軸回転数が制御される。
【0016】
ここでは、びびり振動が発生したと判定された場合は、主軸回転数を制御することによってびびり振動を抑えることができる。図1を用いて詳細に説明すると、まず、加工開始条件は安定限界曲線のデータを参照して条件a1に設定される。しかし、工具剛性のバラツキやワーク素材寸法の誤差によって安定限界曲線が曲線A’にずれているとする。この場合、加工条件a1は不安定領域内にあり、加工中にびびり振動が発生する。このような場合は、主軸回転数を低下させて、加工条件をa3点に移行させる。これにより、加工条件は安定領域内に位置することになり、びびり振動を抑えて安定した加工が可能になる。
【0017】
以上のように、この発明では、主軸回転数を変更することにより、不安定領域にある加工条件を容易に安定領域に移行させることができる。このとき、主軸回転数を大幅に変更する必要がない。したがって、加工効率の大幅な低下を避けることができる。また、主軸回転数を制御する処理は、加工プログラムを変更する必要がなく、加工中において実行できるので、加工状況に応じて素早く対応できる。
【0018】
第2発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1発明の加工制御装置において、安定限界曲線データは、振動解析によって得られた工具の特性値、ワークの材料によって決まる係数、及び加工条件から求められる。
【0019】
第3発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1又は第2発明の加工制御装置において、回転数制御手段は、第1回転数変更手段と、判断手段と、第2回転数変更手段と、を有している。第1回転数変更手段はびびり振動が発生した場合に主軸回転数を第1回転数分だけ増加又は低下させる。判断手段は第1回転数分だけ調整された主軸回転数が安定限界曲線データに基づいて設定された許容範囲内の回転数であるか否かを判断する。第2回転数変更手段は、調整された主軸回転数が許容範囲内の回転数でない場合、調整された主軸回転数から第1回転数分より少ない第2回転数分だけ主軸回転数を低下又は増加させる。
【0020】
びびり振動が発生した場合、まず、第1回転数分だけ主軸回転数が変更される。ここで、前述のように、安定限界曲線のデータを参照することにより、ある切込み量においてびびり振動が発生しない主軸回転数の範囲(許容範囲)を求めることができる。
【0021】
そこで、この第3発明では、第1回転数分だけ変更された主軸回転数が、この許容範囲内にあるか否かが判断される。そして、許容範囲内でない場合は、主軸回転数は、第1回転数分より少ない第2回転数分だけ逆側に変更される。すなわち、主軸回転数が第1回転数分だけ増加された場合は第2回転数分だけ下げ、第1回転数分だけ下げられた場合は第2回転数分だけ増加させる。このような処理によって、びびり振動が発生した場合に、確実にびびり振動が抑えられる主軸回転数に調整することができる。
【0022】
第4発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1から第3発明のいずれかの加工制御装置において、加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を安定領域の最大切込み量に対応する回転数より低い回転数に設定する。そして、回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に主軸回転数を所定回転数だけ増加させる。
【0023】
ここでは、加工開始時の切込み量が安定領域内に設定され、また主軸回転数が安定領域内において低回転数側に設定される。具体的には、図1の例では、切込み量は、ある安定領域内の最大切込み量(約3.3mm)より少なく設定される。また、主軸回転数は、最大切込み量に対応する回転数(約3000rpm)より低い2600rpmに設定される。
【0024】
ここで、図1からも明らかなように、安定限界曲線の性質上、安定領域において、主軸回転数が高い側は、低い側に比較して傾斜が急峻である。このため、主軸回転数が高い側の安定限界曲線上に加工開始時の主軸回転数を設定すると、主軸回転数の微小な変化に対して安定領域と不安定領域との間で条件が行き来することになる。このような状態では、主軸回転数の制御によって安定してびびり振動を抑えることが困難になる。
【0025】
そこでこの第4発明では、安定領域内において主軸回転数が低い側に加工開始条件を設定し、主軸回転数の制御を容易にして、安定的にびびり振動を抑えるようにしている。
【0026】
第5発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1から第3発明の加工制御装置において、加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を安定領域の最大切込み量に対応する回転数より低い回転数に設定し、回転数制御手段は、びびり振動が発生しない場合は加工開始時の主軸回転数を維持する。
【0027】
加工開始条件が、安定領域内において比較的低い主軸回転数に設定され、かつ実際の安定限界曲線が低回転数側にずれた場合、加工開始条件のままでもびびり振動は発生しない。このため、主軸回転数を上げて加工時間を短縮することが考えられる。
【0028】
しかし、主軸回転数を上げると、不安定領域内に移行する可能性があり、また主軸回転数を上げても、加工時間の大幅な短縮は期待できない。
【0029】
そこで、この第5発明では、以上のような状況の場合でも主軸回転数を加工開始時の回転数に維持するようにしている。
【0030】
第6発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1から第3発明の加工制御装置において、加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を安定領域の最大切込み量に対応する回転数より高い回転数に設定し、回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に主軸回転数を所定回転数だけ減少させる。
【0031】
前述のように、安定領域は主軸回転数に関して幅を有している。そこで、この第6発明では、加工時間の短縮を図るために、加工開始条件は比較的高い回転数(例えば、図1の例では3000rpm)に設定されている。
【0032】
第7発明に係る工作機械の加工制御装置は、第1から第3発明の加工制御装置において加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を安定領域の最大切込み量に対応する回転数より高い回転数に設定し、回転数制御手段は、びびり振動が発生しない場合は加工開始時の主軸回転数を維持する、
加工開始条件が、安定領域内において最高主軸回転数に設定され、かつ実際の安定限界曲線が高回転数側にずれた場合、加工開始条件のままでもびびり振動は発生しない。このため、主軸回転数をさらに上げて加工時間を短縮することが考えられる。
【0033】
しかし、前記同様に、主軸回転数を上げると、不安定領域内に移行する可能性があり、また主軸回転数を上げても、加工時間の大幅な短縮は期待できない。
【0034】
そこで、この第7発明においても、第5発明と同様に、主軸回転数を加工開始時の回転数に維持するようにしている。
【0035】
第8発明に係る工作機械は、先端に切削工具が装着される主軸と、切削工具の切込み量及び主軸の回転数を含む加工条件を設定するとともに制御する数値制御部と、数値制御部に制御指令を送る請求項1から7のいずれかに記載の加工制御装置と、を備えている。
【0036】
第9発明に係る工作機械の加工制御方法は、工作機械の主軸に切削工具が装着された工作機械の加工制御方法であって、第1ステップから第6ステップを含んでいる。第1ステップでは、切削工具の特性値、ワークの材料によって決まる係数、及び加工条件から、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切り込み量を示す安定限界曲線データを求める。第2ステップでは、安定限界曲線データに基づいて、加工開始時の加工条件として主軸回転数及び工具切り込み量を設定する。第3ステップでは加工開始条件で加工を開始させる。第4ステップでは切削加工時の主軸の振動を検出する。第5ステップでは第4ステップでの振動検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定する。第6ステップでは、びびり振動が発生した場合に、安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する。
【発明の効果】
【0037】
以上のような本発明では、安定限界曲線に基づいて設定された条件で切削加工を行う工作機械において、加工中に発生したびびり振動を、容易にかつ安定して抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】安定限界曲線を示す図。
【図2】びびり振動の原因を説明するための図。
【図3】本発明の基本原理を示す図。
【図4】本発明の一実施形態による工作機械全体のシステムブロック図。
【図5】制御処理の処理1のフローチャート。
【図6】安定限界曲線のずれによるびびり振動の有無を説明するための図。
【図7】主軸回転数の調整を説明するための図。
【図8】安定限界曲線のずれによるびびり振動の有無を説明するための図。
【図9】制御処理の処理2のフローチャート。
【図10】主軸回転数の調整を説明するための図。
【図11】本発明の他の実施形態による主軸回転数の増減の判断のためのロジックを説明するための図。
【図12】本発明の他の実施形態による制御処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[本発明の基本原理]
まず、安定限界曲線について説明する。
【0040】
びびり振動の原因は、切削加工中において切削厚さが変動することに起因している。この状態を図2に示している。図2(a)に示すように、切削中の工具は、前回切削時に残された起伏を、次の切削工程でややずれて倣いながら切削していく。このため、同図(b)に示すように、切削厚さが変動し、これがびびり振動の原因である起振力となり、固有振動を励起してびびり振動が発生することになる。
【0041】
そこで、図3に示すように、切削厚さが一定になるように主軸の回転数を工具の固有振動数に合わせて制御することで、びびり振動を抑えることができる。すなわち、工具による切込み量と切削周期とを所定の関係にすることで、びびり振動を抑えることができることになる。なお、切削周期は工具の刃数がわかっている場合は回転数に換算できる。
【0042】
以上から明らかなように、主軸回転数に対してびびり振動を生じる限界切込み量が変化する。この主軸回転数に対する限界切込み量の変化を表したのが、図1に示す安定限界曲線である。
【0043】
切削中の工具の運動は、質量m、減衰定数c、バネ定数k、外力Ffを用いて以下の運動方程式で表される。また、Kfは、比切削抵抗で、ワークの材質によって決まる値である。さらに、aは軸方向切込み量、hは切取り厚さであり、Tは切削工程における時間遅れ(切削周期)である。なお、切削工具の減衰定数c及びバネ定数kについては、工具を振動解析することによって求めることができる。
【0044】
【数1】
以上の運動方程式を解くことによって、安定限界曲線を得ることができる。そして、安定限界曲線が得られると、加工条件を安定領域内に設定することで、びびり振動の発生を抑えることができる。
【0045】
しかし、工具の剛性のバラツキやワークの素材寸法に誤差があると、実際の安定限界曲線は計算上の安定限界曲線からずれることになる。特に、ワークが鋳物や鍛造の場合、素材寸法の誤差が大きいので切込み量のバラツキも大きくなり、安定限界曲線における安定領域内に加工条件を設定しても、びびり振動が発生する場合がある。
【0046】
そこで、本発明では、安定限界曲線を参照して加工開始条件を設定するとともに、加工中においてびびり振動を検出し、びびり振動が発生した場合は、安定限界曲線を参照して主軸回転数を調整し、びびり振動を抑えるようにしている。
【0047】
[全体構成]
図4は本発明の一実施形態による工作機械全体のシステムのブロック図である。この図に示すように、本システムは、工作機械本体1と、工作機械本体1の加工を制御する数値制御装置(NC装置)2と、数値制御装置2に対して切込み量及び主軸回転数を指令する制御装置3と、を有している。工作機械本体1には、モータによって回転する主軸1aが設けられ、主軸1aの先端には切削工具4が装着される。そして、主軸1aには、主軸1aの振動を計測するための振動検出センサ5が設けられている。振動検出センサ5としては、例えば加速度計が用いられる。また、数値制御装置2には、加工プログラムが格納された記憶装置や、加工条件を設定するための操作盤が設けられている。
【0048】
制御装置3は、振動検出センサ5からの信号を高速フーリエ変換するフーリエ変換部(FFT)6と、安定限界曲線のデータが記憶された記憶部7と、各種の演算を行う演算部8と、を有している。演算部8は、フーリエ変換部6からの入力によってびびり振動が生じているか否かを判定する機能と、びびり振動が生じた場合に主軸回転数を調整するための指令を数値制御装置2に指令する機能と、を有している。また、演算部8は、主軸回転数を調整した場合に、この主軸回転数が予め設定された最大又は最小値(設定限界値)を超えていないか否かを判断する機能を有している。また、記憶部7には、キーボード等の入力装置9を介して、設定限界値、びびり振動の有無を判定するためのしきい値、主軸回転数を調整する際の調整回転数(α)等が入力されるようになっている。また、入力装置9は、オペレータが、安定限界曲線のデータを参照して加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量を設定するために用いられる。なお、加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量については、数値制御装置2の操作盤から入力するようにしてもよい。さらに、安定限界曲線を参照して、演算部8により加工開始時の主軸回転数及び工具切込み量を決定し、数値制御装置2に対して設定するようにしてもよい。
【0049】
[加工制御方法]
本実施形態の工作機械において、主軸回転数を制御する方法は以下のステップを含んでいる。
【0050】
第1ステップ:切削工具の特性値(質量、減衰定数、バネ定数)、ワークの材料によって決まる係数(比切削抵抗)、及び加工条件(外力)から、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切り込み量を示す安定限界曲線データを求める。この安定限界曲線データは、加工開始前に求めておき、制御装置3の記憶部7に格納される。
【0051】
第2ステップ:安定限界曲線データに基づいて、加工開始時の加工条件として主軸回転数及び工具切り込み量を設定する。これらの条件は、制御装置3又は数値制御装置2を介してオペレータによって入力される。あるいは、安定限界曲線データを用いて自動で設定するようにしてもよい。
【0052】
第3ステップ:第2ステップで設定された加工開始条件で加工を開始させる。
【0053】
第4ステップ:切削加工時の主軸の振動を振動検出センサ5によって検出する。
【0054】
第5ステップ:第4ステップでの振動検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定する。
【0055】
第6ステップ:びびり振動が発生した場合に、安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する。
【0056】
[制御処理]
以上の加工制御方法を実施するためのフローチャートを、図5を用いて説明する。このフローチャートには、制御装置3での処理とは別に行われる切削加工を行うための準備処理と、制御装置3によって行われる切削加工中の主軸回転数の制御処理が含まれている。
【0057】
主軸回転数を調整するための制御処理を実行するに際しては、まず準備工程P1を実行する。準備工程P1では、使用する工具仕様、被切削材としてのワークの材質、及び加工条件から、前述の式を解くことによって安定限界曲線を求める。そして、安定限界曲線が求まれば、この安定限界曲線を参照して、準備工程2において、加工開始条件として主軸回転数Rs(rpm)と切込み量a(mm)とを設定する。これらの条件は、オペレータによって入力される。これらの準備工程1,2が終了すれば、ステップS1以降の制御処理が実行される。
【0058】
<処理1>
ここでは、加工開始条件を、図6に示すように、切込み量aでかつ主軸回転数Rs1(条件B1)に設定した場合の処理について説明する。なお、切込み量aは、一例として、安定限界曲線の最も高い切込み量の1/√2である。また、主軸回転数Rs1は、図6に示すように、安定領域の範囲内において、切込み量aにおける最低回転数である。
【0059】
まずステップS1では、加工開始の指令を数値制御装置2に送る。ステップS2では、振動検出センサ5からの検出信号を取得し、ステップ3ではびびり振動が発生しているか否かを判断する。具体的には、振動検出センサ5からの検出信号をフーリエ変換部6で高速フーリエ変換し、最もパワーの強い卓越周波数の振幅Fpを求める。そして、この振幅Fpが所定のしきい値F0以上であるか否かを判断する。
【0060】
−事象1−
例えば、ワークの素材寸法に誤差があり、加工代が増える場合は、相対的に安定限界曲線が低下し、図6の破線A’で示すような特性になる。この場合は、主軸回転数Rs1で切込み量aの加工開始条件B1は、安定領域の外になってしまう。このため、びびり振動が発生することになる。
【0061】
びびり振動が生じた場合は、振幅Fpがしきい値F0以上になる。この場合は、ステップS3からステップS4に移行する。ステップS4では、数値制御装置2に対する主軸回転数の指令値(以下、「主軸回転数の指令値」を単に「主軸回転数」と記載する)を回転数α(rpm)だけ上げる。これにより、加工条件は図6に示す条件C1に移行する。また、ステップS5では、主軸回転数を上げた回数をカウントするための処理を実行する。なお、「n」の初期値は「1」であり、回転数を上げる毎に「+1」される。
【0062】
次にステップS6では、調整された主軸回転数(Rs1+α)が、設定限界値(ここでは設定最高回転数Rmax)を超えていないか否かを判断する。ここで、設定最高回転数Rmaxは、準備工程P1で得られた安定限界曲線のデータを参照して予め設定されている。具体的には、図6において、切込み量aにおける安定領域範囲内の最高の主軸回転数はR2であり、この回転数R2を1.2倍した回転数を設定最高回転数Rmaxとする。回転数R2を1.2倍するのは、実際の安定限界曲線は計算上の安定限界曲線Aからずれている場合が多く、このずれを考慮して最高回転数を高回転数側にシフトしている。
【0063】
図6に示すように、調整された主軸回転数(Rs1+α)が設定最高回転数Rmaxを超えていない場合は、ステップS6からステップS7に移行する。ステップS7では、主軸回転数の変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS2に戻る。
【0064】
また、調整された主軸回転数(Rs1+α)が設定最高回転数Rmaxを超えている場合は、ステップS6からステップS8に移行する。ステップS8では、先に調整された主軸回転数(Rs1+α)からα/nだけ回転数を下げる。すなわち、主軸回転数の調整回数が1回目の場合は、調整された主軸回転数からα/2(rpm)だけ回転数を下げ、ステップS7に移行して主軸回転数変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS2に戻る。
【0065】
以上の処理によって、主軸回転数が変更される。そして、ステップS2からステップS8の処理が繰り返し実行され、びびり振動が発生することなく加工が終了すれば、ステップS9を経て制御処理を終了する。
【0066】
なお、1回目のステップS8の処理で主軸回転数を下げてもびびり振動が生じる場合は、さらに主軸回転数をα/(2+1)だけ下げ、同様の処理を実行する。
【0067】
−事象2−
工具やワークの状況によっては、図7に示すように、実際の安定限界曲線A’が計算上の安定限界曲線Aよりずれる場合がある。この場合は、加工開始条件として設定された主軸回転数Rs1で切込み量aの条件B1は安定領域内にある。したがって、びびり振動は発生しない。この場合は、加工が終了するまでステップS3でNOと判断され、ステップS2及びステップS3を繰り返し実行して加工終了によって制御処理を終了する。
【0068】
ここで、図7に示す事象の場合、びびり振動は発生していないので、主軸回転数を上げると条件B1が安定領域外に移行するおそれがあり、またびびり振動が発生しない程度だけ主軸回転数を上げても、加工時間の大幅な短縮は期待できない。したがって、この場合は、主軸回転数を加工開始時の回転数Rs1に維持するようにしている。
【0069】
<処理2>
次に、加工開始条件を、図8に示すように、切込み量aでかつ主軸回転数Rs2(条件B2)に設定した場合の処理について、図9のフローチャートを用いて説明する。なお、図9において、ステップS11〜13,15,17,19の処理は処理1と同様である。また、切込み量aは、処理1と同様である。主軸回転数Rs2は、図8に示すように、安定領域の範囲内において、切込み量aにおける最高回転数である。
【0070】
この処理2では、ステップS11〜ステップS13までの処理は処理1と全く同様であるので省略する。
【0071】
−事象1−
工具やワークの状況によっては、図8に示すように、実際の安定限界曲線A’が計算上の安定限界曲線Aより低回転数側にずれる場合がある。この場合は、主軸回転数Rs2で切込み量aの加工条件B2は安定領域外になるので、びびり振動が発生することになる。
【0072】
びびり振動が生じた場合は、図9のステップS13からステップS14に移行する。ステップS14では、主軸回転数Rs2をα(rpm)だけ下げる。これにより、加工条件は図8に示す条件C2に移行する。また、ステップS15では、回転数を下げた回数をカウントするための処理を実行する。
【0073】
次にステップS16では、調整された主軸回転数(Rs2−α)が、設定限界値(ここでは設定最低回転数Rmin)より低いか否かを判断する。ここで、設定最小回転数Rminは、図8において、切込み量aにおける安定領域の最小回転数R1を0.8倍した回転数である。回転数R1を0.8倍するのは、前記同様に、実際の安定限界曲線は計算上の安定限界曲線Aからずれている場合が多いからであり、このずれを考慮して設定最低回転数(Rmin)を低回転数側にシフトしている。
【0074】
図8に示すように、調整された主軸回転数(Rs2−α)が設定最低回転数Rmin以上の場合は、ステップS16からステップS17に移行する。ステップS17では、主軸回転数の変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS12に戻る。
【0075】
また、調整された主軸回転数(Rs2−α)が設定最低回転数Rminより低い場合は、ステップS16からステップS18に移行する。ステップS18では、調整された主軸回転数(Rs2−α)からα/nだけ回転数を上げる。そして、ステップS17に移行して主軸回転数変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS12に戻る。
【0076】
−事象2−
工具やワークの状況によっては、図10に示すように、実際の安定限界曲線A'が計算上の安定限界曲線Aより高回転数側にずれる場合がある。この場合は、加工開始条件として設定された主軸回転数Rs2で切込み量aの条件B2は安定領域内にある。したがって、びびり振動は発生しない。この場合は、加工が終了するまでステップS13でNOと判断され、ステップS12及びステップS13を繰り返し実行して加工終了によって制御処理を終了する。
【0077】
この事象2では、びびり振動は発生していないので、主軸回転数を上げると条件B2が安定領域外に移行するおそれがあり、またびびり振動が発生しない程度だけ主軸回転数を上げても、加工時間の大幅な短縮は期待できない。したがって、この場合は、主軸回転数を加工開始時の回転数に維持するようにしている。
【0078】
[特徴]
(1)切削加工中にびびり振動が発生した場合は、主軸回転数を制御することによってびびり振動を抑えることができる。しかも、主軸回転数を大幅に変更することなくびびり振動を抑えることができるので、加工効率の大幅な低下を避けることができる。また、主軸回転数を制御する処理は、加工プログラムを変更する必要がないので、加工中において実行でき、加工状況に応じて素早く対応できる。
【0079】
(2)調整された主軸回転数が設定最高回転数を超えていないか、あるいは設定最低回転数より下回っていないかを、安定限界曲線を参照して判定し、適切な回転数の制御を行っているので、素早く安定してびびり振動を抑えることができる。
【0080】
(3)加工開始条件を、安定領域において、ある切込み量の最低回転数に設定した場合は、最高回転数に設定した場合に比較して制御が容易になる。より詳細には、安定限界曲線の安定領域における低回転数の特性は、高回転数側の特性に比較して傾斜が緩やかである。このため、調整する主軸回転数の増減分を細かく設定する必要がなく、容易にびびり振動を抑えることができる。
【0081】
(4)前記とは逆に加工開始条件を、安定領域において、ある切込み量の最高回転数に設定した場合は、加工時間を短縮することができる。
【0082】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0083】
(a)前記実施形態では、加工開始条件が安定限界曲線のどの位置に存在するのかが予めわかっている例を示した。この場合は、主軸回転数を調整するための制御処理において、回転数を増加するのか減少するのかを判断する必要はない。具体的には、各処理1,2のステップS4及びステップS14において、主軸回転数を所定回転数分αだけ増加又は減少する処理で、加工条件を安定領域内に移行させることができる。
【0084】
しかし、加工開始条件を自動で設定する場合は、加工開始時の主軸回転数が、安定領域内のどの位置にあるのかわからない場合がある。
【0085】
より詳細には、加工開始条件を自動で設定する場合、演算上では、加工開始条件は安定領域内に設定されるはずである。しかし、前記実施形態同様に、ワーク素材寸法の誤差等により、実際上は設定された加工開始条件が安定領域の外にずれる場合がある。
【0086】
このような場合には、加工中にびびり振動が発生するので、主軸回転数を調整して加工条件を安定領域内に移行させる必要がある。しかし、加工開始条件が自動で設定された場合、加工開始条件が安定領域内のどの位置に設定されたか、すなわち、安定領域内の低回転数側に設定されたのか、あるいは高回転数側に設定されたのかわからない場合がある。このような場合には、主軸回転数を調整するに際して、主軸回転数を増加させるべきか、減少させるべきか判断できない。
【0087】
そこで、主軸回転数を増加するのか減少するのかを、以下のロジックに従って判断している。
【0088】
まず、安定限界曲線Aの一部をモデル化して図11に示す。安定限界曲線Aのデータは、主軸回転数に対する切込み量の2次元テーブルとして記憶部7に格納されている。このテーブル中のデータと加工開始条件のデータとを参照して、主軸回転数を増加させるか減少させるかを判断する。具体的には、図11(a)に示すように、安定限界曲線Aのテーブルを参照して、加工開始条件としてデータDSが設定されたとする。次に、安定限界曲線Aのテーブル内のデータを走査し、このデータDSと同じ切込み量aで、かつ安定領域内において主軸回転数が最も低いデータDLと、主軸回転数が最も高いデータDHとを求める。さらに、データDSとデータDLとの回転数差DS−Lと、データDSとデータDHとの回転数差DS−Hとを求める。そして、図11(a)に示すように、回転数差DS−Hが回転数差DS−Lよりも大きい場合は、主軸回転数を増加させる。また、図11(b)に示すように、回転数差DS−Lが回転数差DS−Hよりも大きい場合は、主軸回転数を減少させる。
【0089】
以上の判断を含んだ主軸回転数の制御処理のためのフローチャートを図12に示している。このフローチャートにおいて、ステップS21〜23、27,29の処理は前記実施形態と同様である。
【0090】
前述のように、加工開始条件は安定領域内に設定されるが、ワーク素材寸法の誤差等により安定限界曲線が演算上の曲線からずれ、自動で設定された加工開始条件が安定領域の外にずれる場合がある。この場合には、加工中にびびり振動が発生する。
【0091】
そこで、ステップS23においてびびり振動が発生したと判断された場合は、ステップS23からステップS30に移行する。ステップS30では、図11で説明した前述のロジックを用いて、主軸回転数を増加させるか減少させるかを判断する。次にステップS24では、数値制御装置2に対する主軸回転数を、ステップS30の判断に基づいて所定回転数分(α)だけ増加又は減少させる。また、ステップS25では、主軸回転数を調整した回数をカウントするための処理を実行する。なお、前記同様に、「n」の初期値は「1」であり、回転数を調整する毎に「+1」される。
【0092】
次にステップS26では、安定限界曲線Aのデータを参照して、調整された主軸回転数が、設定限界値の範囲内であるか否かを判断する。すなわち、調整された主軸回転数が、設定最低回転数Rminを越え、設定最高回転数Rmax未満であるかを判断する。これらの各回転数Rmin及びRmaxは、前記実施形態と同様にして予め設定されている。
【0093】
調整された主軸回転数が許容回転数の範囲内である場合は、ステップS26からステップS27に移行する。ステップS27では、主軸回転数の変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS22に戻る。
【0094】
また、調整された主軸回転数が許容回転数の範囲外である場合は、ステップS26からステップS28に移行する。ステップS28では、先に調整された主軸回転数を逆方向に調整する。すなわち、主軸回転数の調整回数が1回目の場合は、調整された主軸回転数からα/2(rpm)だけ回転数をステップS24とは逆方向に調整し、ステップS27に移行して主軸回転数変更指令を数値制御装置2に送信し、ステップS22に戻る。
【0095】
以上の処理によって、主軸回転数が変更される。そして、ステップS22以下の処理が繰り返し実行され、びびり振動が発生することなく加工が終了すれば、ステップS29を経て制御処理を終了する。
【0096】
なお、1回目のステップS28の処理で主軸回転数を逆方向に調整してもびびり振動が生じる場合は、さらに主軸回転数をα/(2+1)だけ調整し、同様の処理を実行する。
【0097】
以上のような実施形態においても、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、加工開始条件を自動で設定できるので、より効率よく加工を行うことができる。
【0098】
(b)前記実施形態では、加工開始時の切込み量を、安定限界曲線の最も高い切込み量の1/√2に設定したが、この値は一例であって限定されるものではない。
【0099】
(c)前記実施形態では、制御装置3を工作機械の数値制御装置2とは別に設けたが、制御装置3を数値制御装置2内に組み込んでもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 工作機械本体
2 数値制御装置
3 制御装置
5 振動検出センサ
7 記憶部
8 演算部
A 安定限界曲線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを切削加工する工具が装着された主軸の回転数を制御する工作機械の加工制御装置であって、
主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切込み量を示す安定限界曲線データを格納するデータ格納手段と、
前記安定限界曲線データに基づいて加工開始時の主軸回転数及び工具切り込み量を設定する加工開始条件設定手段と、
切削加工時の主軸の振動を検出する振動検出センサと、
前記振動検出センサの検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定するびびり振動判定手段と、
びびり振動が発生した場合に、前記安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する回転数制御手段と、
を備えた工作機械の加工制御装置。
【請求項2】
前記安定限界曲線データは、振動解析によって得られた工具の特性値、ワークの材料によって決まる係数、及び加工条件から求められる、請求項1に記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項3】
前記回転数制御手段は、
びびり振動が発生した場合に主軸回転数を第1回転数分だけ増加又は減少させる第1回転数変更手段と、
前記第1回転数分だけ調整された主軸回転数が前記安定限界曲線データに基づいて設定された許容範囲内の回転数であるか否かを判断する判断手段と、
前記調整された主軸回転数が前記許容回転数でない場合、前記調整された主軸回転数から前記第1回転数分より少ない第2回転数分だけ主軸回転数を減少又は増加させる第2回転数変更手段と、
を有する請求項1又は2に記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項4】
前記加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を前記安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を前記安定領域の最大切込み量に対応する回転数より低い回転数に設定し、
前記回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に主軸回転数を所定回転数だけ増加させる、
請求項1から3のいずれかに記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項5】
前記加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を前記安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を前記安定領域の最大切込み量に対応する回転数より低い回転数に設定し、
前記回転数制御手段は、びびり振動が発生しない場合は前記加工開始時の主軸回転数を維持する、
請求項1から3のいずれかに記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項6】
前記加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を前記安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を前記安定領域の最大切込み量に対応する回転数より高い回転数に設定し、
前記回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に主軸回転数を所定回転数だけ減少させる、
請求項1から3のいずれかに記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項7】
前記加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を前記安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を前記安定領域の最大切込み量に対応する回転数より高い回転数に設定し、
前記回転数制御手段は、びびり振動が発生しない場合は前記加工開始時の主軸回転数を維持する、
請求項1から3のいずれかに記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項8】
先端に切削工具が装着される主軸と、
前記切削工具の切込み量及び前記主軸の回転数を含む加工条件を設定するとともに制御する数値制御部と、
前記数値制御部に制御指令を送る請求項1から7のいずれかに記載の加工制御装置と、
を備えた工作機械。
【請求項9】
工作機械の主軸に切削工具が装着された工作機械の加工制御方法であって、
切削工具の特性値、ワークの材料によって決まる係数、及び加工条件から、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切り込み量を示す安定限界曲線データを求める第1ステップと、
前記安定限界曲線データに基づいて、加工開始時の加工条件として主軸回転数及び工具切り込み量を設定する第2ステップと、
前記加工開始条件で加工を開始させる第3ステップと、
切削加工時の主軸の振動を検出する第4ステップと、
前記第4ステップでの振動検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定する第5ステップと、
びびり振動が発生した場合に、前記安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する第6ステップと、
を含む工作機械の加工制御方法。
【請求項1】
ワークを切削加工する工具が装着された主軸の回転数を制御する工作機械の加工制御装置であって、
主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切込み量を示す安定限界曲線データを格納するデータ格納手段と、
前記安定限界曲線データに基づいて加工開始時の主軸回転数及び工具切り込み量を設定する加工開始条件設定手段と、
切削加工時の主軸の振動を検出する振動検出センサと、
前記振動検出センサの検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定するびびり振動判定手段と、
びびり振動が発生した場合に、前記安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する回転数制御手段と、
を備えた工作機械の加工制御装置。
【請求項2】
前記安定限界曲線データは、振動解析によって得られた工具の特性値、ワークの材料によって決まる係数、及び加工条件から求められる、請求項1に記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項3】
前記回転数制御手段は、
びびり振動が発生した場合に主軸回転数を第1回転数分だけ増加又は減少させる第1回転数変更手段と、
前記第1回転数分だけ調整された主軸回転数が前記安定限界曲線データに基づいて設定された許容範囲内の回転数であるか否かを判断する判断手段と、
前記調整された主軸回転数が前記許容回転数でない場合、前記調整された主軸回転数から前記第1回転数分より少ない第2回転数分だけ主軸回転数を減少又は増加させる第2回転数変更手段と、
を有する請求項1又は2に記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項4】
前記加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を前記安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を前記安定領域の最大切込み量に対応する回転数より低い回転数に設定し、
前記回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に主軸回転数を所定回転数だけ増加させる、
請求項1から3のいずれかに記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項5】
前記加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を前記安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を前記安定領域の最大切込み量に対応する回転数より低い回転数に設定し、
前記回転数制御手段は、びびり振動が発生しない場合は前記加工開始時の主軸回転数を維持する、
請求項1から3のいずれかに記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項6】
前記加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を前記安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を前記安定領域の最大切込み量に対応する回転数より高い回転数に設定し、
前記回転数制御手段は、びびり振動が発生した場合に主軸回転数を所定回転数だけ減少させる、
請求項1から3のいずれかに記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項7】
前記加工開始条件設定手段は、加工開始時の切込み量を前記安定限界曲線データにおける安定領域の最大切込み量より少ない切込み量に設定するとともに、加工開始時の主軸回転数を前記安定領域の最大切込み量に対応する回転数より高い回転数に設定し、
前記回転数制御手段は、びびり振動が発生しない場合は前記加工開始時の主軸回転数を維持する、
請求項1から3のいずれかに記載の工作機械の加工制御装置。
【請求項8】
先端に切削工具が装着される主軸と、
前記切削工具の切込み量及び前記主軸の回転数を含む加工条件を設定するとともに制御する数値制御部と、
前記数値制御部に制御指令を送る請求項1から7のいずれかに記載の加工制御装置と、
を備えた工作機械。
【請求項9】
工作機械の主軸に切削工具が装着された工作機械の加工制御方法であって、
切削工具の特性値、ワークの材料によって決まる係数、及び加工条件から、主軸回転数に対してびびり振動が抑制される限界切り込み量を示す安定限界曲線データを求める第1ステップと、
前記安定限界曲線データに基づいて、加工開始時の加工条件として主軸回転数及び工具切り込み量を設定する第2ステップと、
前記加工開始条件で加工を開始させる第3ステップと、
切削加工時の主軸の振動を検出する第4ステップと、
前記第4ステップでの振動検出結果によりびびり振動が発生したか否かを判定する第5ステップと、
びびり振動が発生した場合に、前記安定限界曲線データを参照してびびり振動が抑制されるように主軸回転数を制御する第6ステップと、
を含む工作機械の加工制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−213830(P2012−213830A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80696(P2011−80696)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
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