説明

建築用補強金物

【課題】引抜にも水平力にも抗することができるようにするとともに、耐力壁を生かして躯体全体で強度の向上を図れるようにする。
【解決手段】建築物の躯体を構成する垂直材12と水平材13の接合状態を補強する建築用補強金物21であって、前記垂直材12に固定される固定金具22と、前記水平材13に固定される固定金具23が設けられるとともに、これら固定金具22,23が、少なくとも引張耐力を有する耐力部材24で連結され、前記固定金具22,23のうち少なくとも一方が、前記躯体における耐力壁に連続している垂直材12または水平材13に固定される建築用補強金物21。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物、特に木造軸組構造に好適に用いられるような補強金物に関し、より詳しくは、柱の抜けを防ぐために引き寄せるだけではなく、作用する水平力に対して積極的に抵抗することを可能にするような建築用補強金物に関する。
【背景技術】
【0002】
水平力に対して躯体の強度を維持するためには、筋かいや構造用合板で耐力壁を形成することが行われている。筋かいは圧縮と引張を考慮して金物を用いるなどして固定される。構造用合板は柱等の垂直材や土台等の水平材の外側面に釘で固定される。このようにして耐力壁を得ることによって、躯体の強度は増大する。
【0003】
しかし、垂直材と水平材が応力に応じて緊結されていない場合には、垂直材の抜けが起こったり、ほぞ穴端部の破壊が起こったりすることになる。構造用合板を釘で打ちつけておいても、水平力が作用して変形すると釘は抜けてしまい、荷重に対抗できない。
【0004】
このため、ホールダウン金物のように引き寄せる力を発揮する補強金物が必要となる。
【0005】
このような引き寄せのための補強金物としては、例えば下記特許文献1に従来技術として説明がある(特許文献1の段落[0004]、図6参照)。すなわち、柱脚部の側面で土台の上面から上に離れた位置に固定される金具を備えるとともに、この金具の下端には水平方向に張り出す部分が設けられ、この部分に基礎から延びるボルトの上端部が固定される。
【0006】
しかしながら、これは柱脚部を土台に引き寄せるだけのものであり、柱が抜けないようにする作用はあるものの、水平力によってかかる荷重に対して積極的に抵抗するものではない。柱の側面に固定した金具を基礎から延びるボルトの上端部に、土台の上面から隙間を隔てた位置で金具を固定する前述の固定構造ゆえに、仕口や接合金物で支持する以上の荷重がかかった場合には、垂直材の揺れを許容してしまう。
【0007】
このような点について、特許文献1では、水平力が作用したときに荷重が偏って、柱と土台の接合部が強度上の弱点となるという問題点を指摘し、特許文献1では、そのようなことがないように、柱の中心軸に接合用鉄筋(アンカーボルト)を挿入して接着剤で固定する発明を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−100576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1の発明では、柱脚部をその中心で保持するだけで、ホールダウン金物のように引き寄せる力は発揮できない。そのうえ、水平力が作用したときに、かかる荷重に積極的に抗する力は接合用鉄筋部分のみで支えることになり、柱等へのめり込みが考えられ、十分な耐力は得られない。また、接合用鉄筋を柱の中心に通すので、柱と梁などを接合金物で接合する箇所には、互いに干渉してしまうため使用できないという問題も有する。
【0010】
そこで、この発明は、引抜にも水平力にも抗することができるようにするとともに、耐力壁を生かして総合的に強度の向上を図れるようにすることを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのための手段は、建築物の躯体を構成する垂直材と水平材の接合状態を補強する建築用補強金物であって、前記垂直材に固定される固定金具と、前記水平材に固定される固定金具が設けられるとともに、これら固定金具が、少なくとも引張耐力を有する耐力部材で連結された建築用補強金物である。
【0012】
この構成では、相互に接合される垂直材と水平材に固定された固定金具が、垂直材または水平材上での位置を確保し、水平力が作用したときには固定金具間を連結する耐力部材が、少なくとも引張に対して抵抗する。特に耐力部材が斜めに延びるように固定すれば、筋かいのような作用をして、水平力によって作用する荷重をより積極的に支える。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、垂直材、水平材にそれぞれ固定される固定金具が耐力部材で連結されているので、引抜にはもちろんのこと、水平力が作用して仕口や接合金物で支持する以上の荷重がかかった場合でも、荷重にも抵抗し得る補強構造が得られる。そして、建築用補強金物を耐力壁と関係付けて固定することにより、耐力壁の剛性を活用して建築物全体に剛性の系をつくることができ、建築物の総合的な強度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】建築用補強金物を用いた躯体構造の斜視図。
【図2】図1に示した躯体構造の正面図。
【図3】図1に示した躯体構造の側面図。
【図4】図1の一部を示す拡大斜視図。
【図5】図1の一部を示す拡大正面図。
【図6】図4、図5に示した建築用補強金物の正面図。
【図7】建築用補強金物の使用状態を示す正面図。
【図8】他の例に係る建築用補強金物の正面図。
【図9】他の例に係る建築用補強金物の正面図。
【図10】他の例に係る建築用補強金物の正面図と側面図。
【図11】他の例に係る建築用補強金物の正面図。
【図12】他の例に係る建築用補強金物の正面図と側面図。
【図13】他の例に係る建築用補強金物の正面図。
【図14】他の例に係る建築用補強金物の固定状態を示す一部破断正面図。
【図15】図14の建築用補強金物の固定金具の斜視図。
【図16】他の例に係る建築用補強金物の固定状態を示す一部破断正面図。
【図17】他の例に係る建築用補強金物の固定状態を示す一部破断正面図。
【図18】他の例に係る建築用補強金物の固定状態を示す一部破断正面図。
【図19】他の例に係る建築用補強金物の固定金具の斜視図と断面図。
【図20】図19の建築用補強金物の固定状態を示す正面図。
【図21】他の例に係る建築用補強金物の要部を示す正面図。
【図22】他の例に係る建築用補強金物の固定金具を示す説明図。
【図23】図22の固定金具を有する建築用補強金物の固定状態を示す一部破断正面図。
【図24】他の例に係る建築用補強金物の固定金具を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、建築物としての木造軸組構造11の斜視図であり、図2はその木造軸組構造11の正面図、図3の側面図である。これらの図に示すように、躯体を構成する柱等の垂直材12と梁等の水平材13が、これらの接合状態を補強する複数の建築用補強金物21(以下、「補強金物」という。)で結合されている。
【0016】
この補強金物21は、前記垂直材12の側面に固定される固定金具22と、前記水平材13の上面または下面に固定される固定金具23と、これら固定金具22,23を連結する耐力部材24を有する。
【0017】
図1〜図3に示した複数の補強金物21は、取り付ける箇所に応じて具体的な構成態様を変化さて用いられる一例を示したものである。
【0018】
その複数形態の補強金物21のうちの一つ(図1におけるA部分の補強金物)を図4、図5、図6に示す。これらを用いて補強金物21の構成を説明する。
【0019】
この補助金物21は、垂直材12としての管柱12aの柱脚部と、管柱12aを支持する水平材13としての梁材13aとの接合部分の直角をなす部分を斜めに連結するように構成したもので、垂直材12と水平材13で囲まれた方形状の空間に嵌め込まれた耐力壁構成パネル51の上から固定するのに用いられる。
【0020】
垂直材12に固定される固定金具22も水平材13に固定される固定金具23も、断面コ字状に形成されており、相対向する2つの対向片の間に、相対回転可能な回転軸25が備えられている。
【0021】
そして、垂直材12に固定される固定金具22においては、前記2つの対向片26を連結する連結片27を固定箇所に面接触する固定面とし、連結片27には複数の固定孔27aが形成されている。固定孔27aは、固定のための締結具28を挿通する部分である。締結具28には、周知のボルトナットを用いるとよいが、図6に示したように異形鉄筋の両端部に雄ねじを形成した締結軸材28aとナット28bを用いるとよい。締結具28の長さは、垂直材12の反対側の面においてナット28bで固定できる長さに設定される(図5参照)。
【0022】
一方、水平材13に固定される固定金具23においては、前記連結片27に、締結具28を通す固定孔27aが設けられるとともに、水平材13に対する固定金具23の角度を変更可能にする自在座金手段31が設けられている。
【0023】
この自在座金手段31は、連結片27の内側面と外側面に設けられた半球状の球面を有する球面座金32と、この球面座金32の球面上を摺動する環状の摺動環33で構成される。球面座金32は金属板を一方に棒出するようにプレス成形して構成される。球面座金32の頂部には貫通孔(図示せず)が形成されている。この貫通孔は前記締結具28を通す大きさよりも大きいルーズホールで構成する。このようにルーズホールとすることは、この球面座金32を保持する連結片27の固定孔27aも同様である。
【0024】
前記摺動環33のうち連結片27の内側に備えられるものの上には、締結具28の一端が保持され、連結片27の外側に備えられるものの下には、周知の座金34が保持される。これによって連結片27は水平材13に対して直接面接触することはないが、前記座金34を介して間接的に面接触することになる。
【0025】
前記締結具28には、前述と同様に、周知のボルトナットを用いることができるが、前記締結軸28aとナット28bを用いてもよい。この場合、締結具28の一端を保持するためには、図6に破線で示しているようにロックナットを用いて、強度を確保するとよい。また締結具28の長さは、水平材13の反対側の面においてナット28bで固定できる長さに設定される(図5参照)。
【0026】
このような自在座金手段31を有すると、締結具28によって連結片27に一体化された状態で、固定金具23と締結具28のなす角度を変えることができる。
【0027】
前記耐力部材24は、少なくとも引張耐力を有するように鋼材からなる棒状体で構成され、両端部が前記回転軸25に保持される。保持は、回転軸を貫通した端部の雄ねじにナット35を螺合して行うとよい。この耐力部材には既存の適宜の部材を用いることができるが、図6に示したように、異形鉄筋の両端に雄ねじを形成したものを用いてもよい。
【0028】
前記耐力部材24と、この耐力部材24の端部を保持する回転軸25が、固定金具22,23に対する耐力部材24の角度を変更可能にする角度変更手段36である。
【0029】
この角度変更手段36と前記自在座金手段31を備えるので、耐力部材24を垂直材12や水平材13に対して斜めにして図5のごとく補強金物21を装着した場合、水平材13に対して固定される固定金具23は2箇所で角度が変わることになる。
【0030】
ここで、前記耐力壁構成パネル51について説明する。耐力壁構成パネル51は、垂直材12と水平材13で囲まれた空間の少なくとも四隅部分に取り付けられることで耐力壁15を構成するためのパネルで、相互に接合する垂直材12と水平材13で囲まれた空間における垂直材12と水平材13の内側面に面接触させる面材52と、この面材52の表裏両面に固定されるとともに垂直材12と水平材13の内側面に面接触する挟持枠材53を備えている。
【0031】
前記面材52は、前記空間の高さ方向に並ぶように配設される3枚の面材担体52aで構成され、これら面材担体52aの間には、垂直材12や水平材13の幅と同一幅の介装材54が介装される。介装材54の上下両面には面材担体52aの対応部分を嵌め込む嵌め込み溝54aが形成されている。
【0032】
また面材担体52の幅方向の中間位置には、面材担体52aの表裏両面に固定されるとともに上下方向に延びる挟持縦桟材55が固定されている。この挟持縦桟材55と前記挟持枠材53は、外側の面が垂直材12や水平材13の面と面一になるように設定されている。
【0033】
この耐力壁構成パネル51は釘を用いて固定される。また、予め1枚のパネルに構成しておくこともできるが、リフォームや補強工事に際しては、前記介装材54部分で面材担体52aごとに分割された3つの部材と、前記挟持材53に分離した状態としておき、これらを現場で組立ながら嵌め込んで、耐力壁15を構成することもできる。
【0034】
このような耐力壁構成パネル51の上から固定するので、前記補強金物21における固定金具22,23の連結片27の幅は、前記挟持枠材53の幅と同等に設定されている。
【0035】
以上のように構成された補強金物21は、躯体にかかる荷重を考慮して躯体における適宜位置に取り付ける。新築の場合はもちろんのこと、リフォームする場合や、補強工事をする場合にも使用できる。
【0036】
取り付けは、前記躯体における例えば耐力壁15に連続している垂直材12または水平材13に、一方の固定金具22,23を固定するようにして行うとよい。固定位置は耐力壁15に近いほうが好ましく、荷重を支え、分散できる部位に適宜固定される。
【0037】
図4、図5、図6の補強金物21では、耐力壁15を構成する部分に耐力壁構成パネル51を固定したのち、垂直材12と水平材13と耐力壁15に形成された貫通孔16(図5参照)に補強金物21における固定金具22,23の締結具28を挿通して緊結する。この結合は、双方の固定金具22,23共に、垂直材12と水平材13の接合部分からそれぞれの材の長手方向に沿って離れた位置で行われる。
【0038】
このとき、水平材13に固定する固定金具23には自在座金手段31と角度変更手段36を備えているので、固定金具23を耐力部材24の長手方向に向けた状態で固定できる。しかも、自在座金手段31がナット28aの締め付けによって水平材13に対して緊結されるので、固定状態を強力に維持できる。
【0039】
このため、耐力部材24が引き抜き防止のほか、筋かいの作用もすることになり、水平力が作用したときにかかる引張荷重に対して、強く対抗できる。
【0040】
しかも、2個の固定金具22,23はそれぞれ垂直材12又は水平材13に固定されており、これによって耐力部材24の両端の位置が強く規制され、垂直材12と水平材13の位置関係も保持される。このため耐力部材24に引張荷重がかかっても、垂直材12と水平材が開くのを積極的に阻止できる。
【0041】
また、固定金具23の固定は垂直材12と水平材13の接合箇所から離れた位置に行われるので、垂直材12と水平材13の接合が仕口で行われている場合でも脆弱性の招来を防いで、接合力を維持できる。垂直材12と水平材13の接合が接合金物で行われている場合には接合金物との干渉を防いで、接合金物による強固な接合と補強金物による確かな補強の両立を図ることができる。
【0042】
補強金物21は耐力壁15を構成している垂直材12や水平材13に対して固定されるので、荷重を分散するとともに、耐力壁15の有する剛性を他の部位に付与して、耐力壁15と補強金物21の配置によって、システム化を図り、躯体全体としての強度を高めることができる。この結果、耐震性の高い長期優良の住宅などを得られる。
【0043】
このため、耐力壁15を前述のような高剛性の耐力壁構成パネルで構成せずに、それよりも強度の低い図7に示したような筋かい56で構成してもよい。また、垂直材12と水平材13の接合も、仕口で構成しても、躯体全体としての強度を得ることが可能になる。
【0044】
なお、補強金物21を前述のような耐力壁15の上から固定しない場合には、垂直材12や水平材13の幅方向の中心に結合するとよく、その場合には固定金具22,23の連結片27の幅を大きくすることができる。
【0045】
また、引張荷重のみではなく、圧縮荷重にも抵抗するようにするためには、前記耐力部材24の端部に対して回転軸25を挟むようにナット35を固定するとよい。
【0046】
以下、補強金物21の他の例について説明する。この説明において、先の構成と同一または同等の部位については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0047】
図8に示した補強金物21は、4個の固定金具22,23を備えた例であり、垂直材12の下部と上部を一緒に水平材13に固定するときに好適に使用できるものである(図1におけるB部分参照)。
【0048】
すなわち、垂直材12に対して固定する2個の固定金具22と、これらの回転軸25に一端部がそれぞれ保持される2本の耐力部材24と、これら耐力部材24の他端部を回転軸25に固定する2個の固定金具23と、これら固定金具23の自在座金手段31同士を連結する締結具28を備える。
【0049】
このように構成された補強金物21では、垂直部材12の脚部のほかに頭部も同時に補強でき、図1のB部分のように耐力壁15の剛性をその上方に位置する垂直材12にも作用させるのに好適である。
【0050】
図9に示した補強金物21は、前記自在座金手段31を省略した例である。自在座金31を有しないものの、前記角度変更手段36を有するので、垂直材12や水平材13に形成した貫通孔16の位置にずれがあっても対応できる。また水平材13に固定される固定金具23の固定位置が垂直材12に近いものの、例えば垂直材12と水平材13の接合に接合金物を用いていない場合に、図1のC部分に示したように好適に使用して、少なくとも引張に対して対抗できる耐力が得られる。
【0051】
この場合も、図8に示した補強金物21のように4個の固定金具を用いて構成すると、図1のD部分に示したように、水平材13の上下に位置する垂直材12を水平材13と一体にしつつ垂直材12同士の一体性を高めることができ、引張荷重や圧縮荷重に対する耐力を高めることが可能となる。
【0052】
図10(a)に示した補強金物21は、前記耐力部材24を棒状体ではなく、細長い板材で構成した例である。板材からなる耐力部材24は、図10(b)に示したように、前記回転軸25上にスペーサ37を介して2枚平行に備えられる。
【0053】
この補強金物21では、前記異形鉄筋からなる耐力部材24を備えた補強金物21と同様の作用効果を発揮する。特に、耐力部材24が板材で構成され、両端部が回転軸25に回転可能に保持されているので、別途にナットを固定せずとも、引張荷重と圧縮荷重に対する耐力を有することになる。
【0054】
図11に示した補強金物21は、図10の補強金物21から自在座金手段31を省略した例である。図9の補強金物21と同様の作用効果が得られる。
【0055】
図12(a)に示した補強金物21は、前記耐力部材24を棒状体や板状体ではなく、ループ状のワイヤで構成した例である。すなわち、各固定金具22,23の回転軸25にワイヤからなる耐力部材24が掛けられている。耐力部材24の太さが回転軸25の幅に比して細い場合には、図11(b)に示したように耐力部材24の両側にスペーサ37を保持しておく。
【0056】
この補強金物21では、耐力部材24が引張荷重に対して強力に対向し、前記異形鉄筋からなる耐力部材24を備えた補強金物と同様の作用効果を発揮する。また耐力部材24はワイヤであるので垂直材12や水平材13の貫通孔16の位置ずれにも柔軟に対応できる。
【0057】
図13の補強金物21は、図12の補強金物21から自在座金手段31を省略した例である。図12の補強金物21と同様の作用効果が得られる。
【0058】
図14に示した補強金物21は、固定金具22,23が正面視正三角形状に形成された例である。すなわち、垂直材12または水平材13に接触する固定片41と、耐力部材24の一端部を結合する結合片42と、これら固定片41と結合片42を連結する連結片43を有する。各片41,42,43の幅や長さは、取り付ける場所の大きさ等に合わせて適宜設定される。
【0059】
各片41,42,43同士の結合部分には、補強のために補強片44が備えられている。図15(a)は、各片41,42,43の幅方向の両面を塞ぐように補強片44を装着した例で、図15(b)は、各片41,42,43を橋渡しするように補強片44を装着した例である。
【0060】
前記固定片41には、締結具28を挿通する固定孔41aが形成され、前記結合片42には、耐力部材24を通す貫通孔42aが形成されている。この貫通孔42aは、耐力部材24の太さに比して大きめに設定される。これは、角度変更手段36を備えるためである。
【0061】
この例における角度変更手段36は、結合片42の内側面に設けられた半球状の球面を有する球面座金45と、この球面座金45の球面上を摺動する環状の摺動環46で構成される。これら球面座金45と摺動環46は、前記自在座金手段31のそれらと同一の構造であり、球面座金45の頂部には貫通孔(図示せず)が形成されている。前記摺動環46の上には、締結具24の一端が保持される。締結具24には、前述と同様に、周知のボルトを用いることができるが、異形鉄筋かならなる棒状体を用いてもよい。
【0062】
圧縮荷重にも対応できるようにするためには、結合片42の外側面にも球面座金45と摺動環46を備えるとよい。
【0063】
このような構成の補強金物21では、前述の補強金物21と同様の作用効果を達成する上に、垂直材12に固定する固定金具22も、水平材13に固定する固定金具23も同一のものを使用できるので、使用が簡便であるとともに、製造コストを抑えることもできる。
【0064】
図示例では、固定金具22,23の固定位置が垂直材12と水平材13から等距離にあるので、耐力部材24は45度の角度をなしているが、前記角度変更手段36を備えているので、固定金具22,23の位置が変化すればそれに追従して耐力部材24の角度も変化可能であり、固定態様に応じて柔軟に対応できる。
【0065】
また、固定金具22,23は正面視三角形状であるゆえに、強度が高く、使用する材料の量を抑えることもできる。
【0066】
図示を省略するが、固定金具22,23の固定は、浅く座彫りした部分に行ってもよい。
【0067】
図16は、図14の補強金物21の他の例を示している。これは、固定金具22,23を4個備え、2個の固定金具22,23を1本の耐力部材24で連結したものを2組備えて、水平材13に固定される固定金具23同士を締結具28で連結して構成する例である。
【0068】
このように構成された補強金物21では、垂直部材12の脚部のほか、頭部も同時に補強できるので、図1のB部分のように耐力壁15の剛性をその上方に位置する垂直材12にも作用させるのに好適である。
【0069】
さらに、図17に示したように、垂直材12と水平材13の接合部分を取り囲むように固定できる補強金物21とすることもできる。
【0070】
図18は、正三角形状の固定金具22,23を用いた補強金物21の他の例を示し、締結具として、円柱状をなして両端に雌ねじ28cを有したコアピン28dを用いた例である。コアピン28dの雌ねじ28cにはボルト28eが螺合され、これによって、固定金具22,23や垂直材12、水平材13への固定状態が保持される。
【0071】
この構成によっても、図14に示した補強金物21と同様の作用効果が得られるが、前記のようなコアピン28dを用いるため、コアピン28dの長手方向の中間部に設けた穴28fを他の部材の固定等に利用できて、躯体を構成する態様を広げることができる。
【0072】
図19に示した固定金具22,23は、1枚の金属板を折曲して形成した例を示している。図19(a)は斜視図で、図19(b)は断面図である。すなわち、適宜幅の金属板を長手方向の中間部が正面視正三角形状を形成するように折り曲げるとともに、両端部が重合するようにプレス加工する。そして、固定片41と面一に延びる延設部47を備え、この延設部47と固定片41に締結具28を挿通する固定孔41a,47aが形成されている。そのほか、結合片42には前述の場合と同様に貫通孔42aが形成されている。
【0073】
図20に示した固定金具22,23は、図14の補強金物21から角度変更手段36を省略した例であり、また図19のように固定片41と結合片42と連結片43の間の角度を60度にした正三角形状ではなく、正面視直角三角形状にした例である。この場合には、直角を挟む2つの片が取り付け向きによって共に結合片42として機能することになる。
【0074】
すなわち、固定片41とこれに連続する延設片47には、締結具28を挿通する固定孔41a,47aを備えるとともに、直角をなす2個の片(結合片42または連結片43)には、耐力部材24の端部を挿通する貫通孔41a,42aを備える。そして、結合片42または連結片43のうち、垂直材12または水平材13に固定されたときに垂直材12の固定金具22と水平材13の固定金具23との間で互いに対向する片が結合片42となり、他の片が連結片となる。固定金具22,23の向きを変えたときはこれらが逆転する。
【0075】
このように構成された補強金物21では、対向する結合片42が平行になるように対向させて固定して用いられ、耐力部材24が30度、あるいは60度の角度で傾斜するように固定される。図20の固定態様において耐力部材24は30度の角度で斜材の機能を果たす。
【0076】
この構成によると、図14の補強金物21と同様の作用効果を達する上に、角度変更手段36が不要であるので、コストの低減を図れる。
【0077】
図21は、図20に示した固定金具22,23と同様に正面視直角三角形状に構成した補強金物21を示すが、2個の固定片41を長手方向の両端に突出させて開放された三角形状に構成した例である。
【0078】
前述のいずれの補強金物21においても、強度を確保できるように、図示しないが、適宜の補強片を備えたり、リブを形成したりするとよい。
【0079】
図22は、略三角錐形状に形成した固定金具の例を示し、図22(a)は平面図、図22(b)は底面図、図22(c)は正面図、図22(d)はA−A断面図、図23はその使用状態の一部断面正面図である。すなわち、正三角錐の4つの角部分を切除した形状であり、4つの面のいずれもが垂直材12または水平材13に面接触する固定片41にも、耐力部材24の一端部を結合する結合片42にも、これらを連結する連結片43にもなる構造である。各片には貫通孔48が形成され、前記と同様の締結具28や耐力部材24が接続される。各貫通孔48には、必要に応じてナット28bなどを予め保持しておく。図23の例では角度変更手段36を備えたものを示したが、これを省略することもできる。
【0080】
このような構成の固定金具22,23を用いた補助金物21では、前述と同様の作用効果を図ることができる上に、耐力部材24の一端部を連結する面が3面あるので、前記のような角度変更手段36を備えることで、耐力部材24の向きを360度いずれの方向にも向けることができて、適用範囲を拡大できる。また、三角錐形状であるため、固定金具22,23自体の強度も高く、例えば前記の補強片44を省略できる。
【0081】
また、図24に示すように、固定金具22,23の複数の角部分を閉塞して、この閉塞片49にボルト等を挿通する貫通孔49aを形成すれば、さらに適用範囲や用途を拡大することができる。なお、図24(a)は底面図、図24(b)は断面図である。
【0082】
この発明の構成と、前述の一形態の構成との対応において、
この発明の挟持材は、前記挟持枠材53に対応するも、
この発明は前述の構成のみに限定されるものではなく、その他の構成を採用することができる。
【0083】
例えば、木造建築物のほか、鉄骨建築物に適用してもよい。
【0084】
前述の例では二階建ての建築物の構造を示したが、三階建て等であってもよい。特に木造の三階建て住宅では、前述の効果をより発揮でき、長期優良住宅耐震システムの構築に大いに貢献する。
【符号の説明】
【0085】
12…垂直材
13…水平材
15…耐力壁
21…補強金物
22,23…固定金具
24…耐力部材
36…角度変更手段
41…固定片
42…結合片
43…連結片
51…耐力壁構成パネル
52…面材
53…挟持枠材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の躯体を構成する垂直材と水平材の接合状態を補強する建築用補強金物であって、
前記垂直材に固定される固定金具と、前記水平材に固定される固定金具が設けられるとともに、
これら固定金具が、少なくとも引張耐力を有する耐力部材で連結された
建築用補強金物。
【請求項2】
前記耐力部材が、前記垂直材と水平材の間を斜めに延びるものである
請求項1に記載の建築用補強金物。
【請求項3】
前記複数の固定金具のうちの少なくとも一方の前記耐力部材の端部に、前記固定金具に対する前記耐力部材の角度を変更可能にする角度変更手段が設けられた請求項1または請求項2に記載の建築用補強金物。
【請求項4】
前記固定金具が、垂直材または水平材に接触する固定片と、前記耐力部材を結合する結合片と、これら固定片と結合片を連結する連結片を有する三角形状に形成された
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の建築用補強金物。
【請求項5】
前記固定金具が、略三角錐形状をなすものである
請求項4に記載の建築用補強金物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2013−2171(P2013−2171A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135336(P2011−135336)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(591000757)株式会社アクト (20)
【Fターム(参考)】