説明

建設機械のポンプ制御回路

【課題】直進走行中にコントローラが故障した場合等に曲進する危険性もない建設機械の油圧回路を提供すること。
【解決手段】油圧ポンプ11,12の吐出量を制御するレギュレータ21,31と、入力馬力を減少させる減馬力レギュレータ22,32と、低流量優先選択部とを設けたポンプ制御回路20,30において、第1切換弁41と第2切換弁42をカスケード接続した減馬力回路40を設け、第1切換気弁41の1次側にパイロットポンプ13と油タンクを接続し、第2切換弁42の1次側に第1切換弁41の出力とパイロットポンプ13を接続し第1切換弁41及び第2切換弁42の制御ポートに各電磁弁25,35の出力を接続し、第2切換弁42の出力を各減馬力レギュレータ22,32の減馬力ポート22c,32cに接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は建設機械の油圧ポンプの制御回路の技術分野に属する。更に詳細には、2個の油圧ポンプで走行制御を行っている建設機械で油圧ポンプを制御するコントローラが故障、又は配線が断線した場合に円滑な走行を可能にする油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の建設機械の油圧回路においては、左右の走行用モータを駆動するために2個の油圧ポンプを設けて各油圧ポンプで左右の走行用モータを駆動するための制御弁を制御する方式が採用されていた。また、近年の建設機械の油圧回路は電気式(又は電子式)のコントローラを採用し、制御の多様性、構成の簡便性を図っている。しかし、コントローラの故障や配線の断線が起こると想定していた制御が不能となり、事故や操作不能な事態が生じかねない。このような事態が生じない場合でも操作性能の悪化や燃費の悪化等の事態が生じる場合も起こり得る。
【0003】
そこで、コントローラの故障や配線の断線が生じた場合でも大きな不都合が生じないような対策を施した油圧回路が提案されている。以下、このような油圧回路を冗長な油圧回路(又は、冗長回路)と呼ぶことにする。このような冗長回路としては、例えば特許文献1に開示されているものがある。本出願人も油圧ポンプが1個の場合の冗長回路を発明し、出願中である(特許文献2参照)
【特許文献1】公開特許公報、特開平11−303809(油圧駆動機械のポンプ制御装置)
【特許文献2】特許出願、2008−214055(建設機械のポンプ制御回路)
【0004】
図2は特許文献1に記載されている従来装置である。以下、この従来装置について簡単に説明する。エンジン50に油圧ポンプ51、61及びパイロットポンプ53が連結されている。油圧ポンプ51の吐出路には左走行用制御弁54、旋回用制御弁55、アーム用制御弁56が並列に接続されている。また。油圧ポンプ61の吐出路には右走行用制御弁64、バケット用制御弁65、ブーム用制御弁66が並列に接続されている。なお、これらの制御弁54,55,及び56(64,65及び66)にはブリード油路が無く2ポートの切換弁で構成されている。その代わりに、可変ブリード弁57(67)、絞り弁58(68)、油タンクTが油圧ポンプ51(61)の吐出路に接続されている。油圧ポンプ51(61)の吐出流量を制御するレギュレータ52(62)は絞り弁58(68)の前後の圧力によって制御する。
【0005】
コントローラ70の入力側にはリモコン弁54a、55a、56a及び64a、65a、66aのパイロット圧が直接又はシャトル弁を介して圧力センサPによって検出され、その検出値が入力され、また、油圧ポンプ51,61の吐出圧も圧力センサPによって検出され、その検出値が入力される。コントローラ70の出力側には電磁弁59、69を介して可変ブリード弁57、67の流量を制御するように接続されている。コントローラ70はリモコン弁54a、55a、56a(64a、65a、66a)のパイロット圧の最大値を求めて、この最大値に基づいて電磁弁59(69)の制御信号を算出する。一方、リモコン弁54a、55a、56a(64a、65a、66a)のパイロット圧の最大値はシャトル弁に依っても求められ、その最大値は手動切換弁71(72)を介して可変ブリード弁57(67)のパイロットポートに接続されている。
【0006】
上記従来装置は以上のように構成されているので、コントローラ70が故障した場合又は配線が断線した場合等において、手動切換弁71(72)を切り換えることによってほぼ同様な制御が可能になる。しかし、手動切換弁の一方71(72)を切り換えても、他方が切り換わる訳ではない。従って、直進走行をしている場合には両方の手動切換弁を切り換える必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
2個の油圧ポンプを使用した場合でも各油圧ポンプの油圧回路に冗長回路を設ければ足りる場合もある。例えば、一方の油圧ポンプで作業が可能な場合である。しかし、従来の建設機械のように、左右の走行モータを2個の油圧ポンプで駆動している油圧回路では冗長機能が片方の油圧ポンプのみに作動すると、2個の油圧ポンプの吐出流量が必ずしも同等でなくなり、直線進行の操作をしているにも関わらず、左右の走行モータへの供給流量に差が生じ、曲進する危険性がある。
【0008】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、コントローラが故障した場合又は配線が断線した場合等において、手動切換弁を切り換える必要もなく、また、直進走行中にコントローラが故障した場合等に曲進する危険性もない建設機械の油圧回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するための手段として以下の構成を採用している。即ち、
請求項1に記載の発明は、左走行用制御弁を含む一群の制御弁をカスケード接続した第1油圧ポンプと、右走行用制御弁を含む他の一群の制御弁をカスケード接続した第2油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出圧力検出装置、ネガコン圧検出装置又は操作量検出装置の測定結果に基づき前記各油圧ポンプの目標の吐出量を算出し、制御信号を各電磁弁に送出するコントローラと、前記各電磁弁の油圧信号により前記各油圧ポンプの吐出量を制御する各ポンプレギュレータと、前記各ポンプレギュレータの入力馬力を減少させる減馬力レギュレータと、前記減馬力レギュレータと前記ポンプレギュレータとのうちで低流量のレギュレータを優先して選択する低流量優先選択部とを設け、前記各減馬力レギュレータの第1制御ポート及び第2制御ポートに前記各油圧ポンプの吐出圧を入力した建設機械のポンプ制御回路において、
第1切換弁と第2切換弁をカスケード接続した減馬力回路を設け、前記第1切換気弁の1次側にパイロットポンプと油タンクを接続し、前記第2切換弁の1次側に前記第1切換弁の出力とパイロットポンプを接続し、前記第1切換弁及び第2切換弁の制御ポートに前記各電磁弁の出力を接続し、該第2切換弁の出力を前記各減馬力レギュレータの減馬力ポートに接続したことを特徴としている。
【0010】
なお、請求項1に記載の発明における低流量優先選択部は、前記ポンプのポンプレギュレータの油圧シリンダと前記減馬力レギュレータの油圧シリンダの各出力軸に基準バネ力を反対向きに付勢すると共に、各出力軸を第3切換弁のスプールの一側に圧接するように他の側にバネ力を反対向きに付勢し、該第3切換弁の1次側に油タンク圧と前記油圧ポンプの吐出圧が作用するように接続し、出力側をスプール弁の一方の油室に接続し、スプール弁の他方の油室に前記油圧ポンプの吐出圧を作用させ、前記ポンプレギュレータの油圧シリンダと前記減馬力レギュレータの油圧シリンダによるスプール弁の変位を等馬力状態になるようにスプール弁と連動するポンプ傾転角を制御している。
【発明の効果】
【0011】
コントローラが故障した場合或いは断線により電磁弁の何れか一方が正常に作動しない場合に他方の減馬力レギュレータに減馬力油圧信号を送出し、双方の減馬力レギュレータを同時に減馬力することにより、直進走行中にコントローラが故障した場合等において曲進せずに円滑な直進走行が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施形態を図に基づいて説明する。図1は、本発明を実施した油圧回路の要部を示した図である。図1において、エンジン10の出力軸に油圧ポンプ11、油圧ポンプ12及びパイロットポンプ13が連結されている。油圧ポンプ11のセンタ油路11aには左走行用制御弁を含む一群の制御弁Fp、例えば、左走行用制御弁、旋回用制御弁、アーム用制御弁、絞り弁がカスケードに接続されている。又、油圧ポンプ12のセンタ油路12aには右走行用制御弁を含む一群の制御弁Rp、例えば、右走行用制御弁、バケット用制御弁、ブーム用制御弁、絞り弁がカスケードに接続されている。何れも図示が省略されている。なお、アームの引っ張り側の油圧流量を多くするために切換弁を介して油圧ポンプ12のセンタ油路12aから圧油を合流する回路を設けてもよいし、ブームの上げ側の油圧流量を多くするために切換弁を介して油圧ポンプ11のセンタ油路11aから圧油を合流する回路を設けてもよい。
【0013】
油圧ポンプ11の吐出流量を制御するレギュレータ回路20には通常時に油圧ポンプ11の吐出流量を制御するポンプレギュレータ21とコントローラの故障、配線の断線等の異常時に油圧ポンプ11の吐出流量を減少させる減馬力レギュレータ22が設けられている。ポンプレギュレータ21の入力ポート21aにコントローラ15からの制御信号が比例電磁弁25を介して油圧信号が入力される。コントローラ15の入力側にはセンタ油路11aの最下流に設けた絞り弁(図示省略)の直前の油圧、所謂負帰還用のネガコン圧や油圧ポンプ11の吐出圧の計測値が入力され、この計測値に基づいて目標の吐出流量が算出され、出力側から目標の吐出流量相当の制御信号が比例電磁弁25に出力される。
【0014】
一方、減馬力レギュレータ22は3個の入力ポート22a、22b、22cを有し、入力ポート22aには油圧ポンプ11の吐出圧がセンタ油路11aから供給され、入力ポート22bには油圧ポンプ12の吐出圧がセンタ油路12aから供給され、入力ポート22cには減馬力油圧回路40の出力油圧が供給される。
【0015】
油圧ポンプ12を制御するレギュレータ回路30もレギュレータ回路20と全く同じ回路構成になっている。即ち、油圧ポンプ12の吐出流量を制御するレギュレータ回路30には通常時に油圧ポンプ12の吐出流量を制御するポンプレギュレータ31とコントローラの故障、配線の断線等の異常時に油圧ポンプ12の吐出流量を減少させる減馬力レギュレータ32が設けられている。ポンプレギュレータ31の入力ポート31aにコントローラ15からの制御信号が比例電磁弁35を介して油圧信号が入力される。コントローラ15の入力側にはセンタ油路12aの最下流に設けた絞り弁(図示省略)の直前の油圧、所謂負帰還用のネガコン圧や油圧ポンプ12の吐出圧の計測値が入力され、この計測値に基づいて目標の吐出流量が算出され、出力側から目標の吐出流量相当の制御信号が比例電磁弁35に出力される。また、減馬力レギュレータ32は3個の入力ポート32a、32b、32cを有し、入力ポート32aには油圧ポンプ12の吐出圧がセンタ油路12aから供給され、入力ポート32bには油圧ポンプ12の吐出圧がセンタ油路12aから供給され、入力ポート32cには減馬力油圧回路40の出力油圧が供給される。
【0016】
減馬力油圧回路40は2個の切換弁41、42をカスケードに接続して構成されている。切換弁41の1次側ポートには電磁弁35の出力ポートと油タンクTに接続されており、2次側ポートは切換弁42の1次側ポートに接続されている。切換弁41の制御ポートは電磁弁25の出力ポートに接続されている。切換弁42の他の1次側ポートにはパイロットポンプ13が接続されている。切換弁42の2次側ポートは減馬力レギュレータ22の入力ポート22c及び減馬力レギュレータ32の入力ポート22cに接続されている。従って、電磁弁25の2次側が油タンク圧で、電磁弁35の2次側がパイロット圧の場合は、切換弁42の2次側出力ポートはパイロットポンプ圧となり、減馬力レギュレータ22の入力ポート22c及び減馬力レギュレータ32の入力ポート32cにパイロットポンプ圧が作用する。また、逆に、電磁弁25の2次側がパイロット圧で、電磁弁35の2次側が油タンク圧の場合も同様に、減馬力レギュレータ22の入力ポート22c及び減馬力レギュレータ32の入力ポート32cにパイロットポンプ圧が作用する。
【0017】
又、減馬力レギュレータ22の入力ポート22a、22bには同一側の油圧ポンプ11の吐出圧と反対側の油圧ポンプ12の吐出圧が作用しており、減馬力レギュレータ32の入力ポート32a、32bも同一側の油圧ポンプ12と反対側の油圧ポンプ11の吐出圧が作用している。従って、減馬力レギュレータ22と減馬力レギュレータ32の減馬力するための作用力の大きさは略等しい。
【0018】
レギュレータ回路20(又は30)の低流量優先選択部はバネ22dのバネ力を反対向きに付勢した減馬力レギュレータ32の減馬力方向(図の中心方向)に作用する偏差力22fと、バネ21dのバネ力を反対向きに付勢したポンプレギュレータ21の減馬力方向(図の中心方向)に作用する偏差力21fが切換弁23のスプールの減馬力側23aを減馬力方向に付勢しており、バネ23bが切換弁23のスプールの増馬力側23bを増馬力方向に付勢している。従って、偏差力22fと偏差力21fの合力がバネ23bのバネ力よりも大きい場合には切換弁23のスプールは減馬力方向(図の中央方向)に移動する。また、偏差力22fと偏差力21fの一方が多き場合には減馬力の大きい方が優先的に選択される。切換弁23のスプールが減馬力方向に移動すると切換弁23が切り換わり、スプール弁26のスプール26aが右方向(図の中央方向)に変位して油圧ポンプ11の吐出流量が減少する。レギュレータ回路30についても全く同様である。
【0019】
従って、バネ22d、21d及び23bのバネ係数を適当な値に調整しておけば、コンのローラ15の故障、配線の断線等の異常時に偏差力22fが偏差力21fよりも大きくなり、減馬力作用が働き、しかも油圧ポンプ11と油圧ポンプ12の減馬力の大きさは略等しい。従って、第1油圧ポンプのセンタ油路に左走行用制御弁を含む一群の制御弁を接続し、第2油圧ポンプのセンタ油路に右走行用制御弁を含む他の一群の制御弁を接続した場合に上記した異常事態が生じても円滑な直線走行が可能になる。
【0020】
以上本発明の実施形態を図面に基づいて詳述してきたが、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を実施した回路図を示す。
【図2】従来装置の回路図を示す。
【符号の説明】
【0022】
11、12 油圧ポンプ
15 コントローラ
20、30 レギュレータ回路
21 ポンプレギュレータ
22、32 減馬力レギュレータ
23、33 切換弁
25、35 比例電磁弁
26、36 スプール弁
40 減馬力回路
41、42 切換弁
Fp、Rp 制御弁群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左走行用制御弁を含む一群の制御弁をカスケード接続した第1油圧ポンプと、右走行用制御弁を含む他の一群の制御弁をカスケード接続した第2油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出圧力検出装置、ネガコン圧検出装置又は操作量検出装置の測定結果に基づき前記各油圧ポンプの目標の吐出量を算出し、制御信号を各電磁弁に送出するコントローラと、前記各電磁弁の油圧信号により前記各油圧ポンプの吐出量を制御する各ポンプレギュレータと、前記各ポンプレギュレータの入力馬力を減少させる減馬力レギュレータと、前記減馬力レギュレータと前記ポンプレギュレータとのうちで低流量のレギュレータを優先して選択する低流量優先選択部とを設け、前記各減馬力レギュレータの第1制御ポート及び第2制御ポートに前記各油圧ポンプの吐出圧を入力した建設機械のポンプ制御回路において、
第1切換弁と第2切換弁をカスケード接続した減馬力回路を設け、前記第1切換気弁の1次側にパイロットポンプと油タンクを接続し、前記第2切換弁の1次側に前記第1切換弁の出力とパイロットポンプを接続し、前記第1切換弁及び第2切換弁の制御ポートに前記各電磁弁の出力を接続し、該第2切換弁の出力を前記各減馬力レギュレータの減馬力ポートに接続したことを特徴とする建設機械のポンプ制御回路。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−48396(P2010−48396A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215445(P2008−215445)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(502246528)住友建機株式会社 (346)
【Fターム(参考)】