説明

微細パターン加工装置及び光学部品の製造方法

【課題】本発明は金型内に配設されると共に微細パターンを有した入れ子の形成に用いて好適な微細パターン加工装置及びこれを用いた光学部品の製造方法に関し、微細パターンを有した入れ子を高精度にかつ効率よく形成することを課題とする。
【解決手段】入れ子20を形成する際に用いられる切削マスタ10に対しバイト40を用いて微細パターンを形成する微細パターン加工装置において、前記バイト40の切削位置に向け切削油44を供給する切削油供給ノズル60と、前記バイト40の切削位置に向け防錆油58を供給する防錆油供給ノズル62とを設け、前記切削油44と前記防錆油58が同時に前記バイト40の切削位置に供給される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細パターン加工装置及び光学部品の製造方法に係り、特に金型内に配設されると共に微細パターンを有した入れ子の形成に用いて好適な微細パターン加工装置及びこれを用いた光学部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば,液晶ディスプレイのバックライト装置に使用されているプリズムシートやプリズム導光体は樹脂により形成されており、またその表面には出射光の状態(例えば、散乱状態)を良好とするために微細パターン(具体的には、鋸状のパターン)が形成されている。
【0003】
一般に、この種のプリズムシートやプリズム導光体は、金型を用いて製造されている。また、通常プリズムシートやプリズム導光体は複雑な形状を有しているため、金型として入れ子を用いる金型が用いられている。
【0004】
更に、入れ子に形成される微細パターンに対応する金型側の微細パターンは入れ子側に形成されており、よって入れ子には微細パターンを形成する必要がある。この際、微細パターンを有するプラスチック光学部品の金型は、非常に高い形状精度や鏡面性が必要となる。
【0005】
このように入れ子は高精度に形成する必要があるため、従来この入れ子を形成する方法としては、電気鋳造法や精密機械加工(精密切削加工)等が用いられていた。また、従来の製造方法ではいわゆる多数個取りが困難であるため、ひとつひとつ別個に加工を行なうことにより入れ子を製造していた。
【0006】
具体的には、電気鋳造法を用いて入れ子を製造する場合には、比較的厚さを有する入れ子を一体に製造することが行なわれており、よって電気鋳造法により形成される入れ子は厚い電鋳層を有した構成とされていた。
【0007】
また、精密切削加工を用いて入れ子を製造する場合には、例えば特許文献1に開示されているような、バイトを用いて切削加工することが行なわれているが、この切削の際に用いる切削油としては軽油や灯油が用いられていた。また、この切削油を切削位置に供給する場合、切削油にエアブローによりエアーを混合してミスト状とし、このミスト状の切削油を切削位置に供給していた。
【0008】
また、微細パターンは上記のように鋸状のパターンであるため、三角溝状のパターンを多数形成する必要がある。このため、従来では精密切削加工を用いて微細パターンを形成する場合、1本の三角溝状パターンを加工した後、一旦バイトを上方に上げて入れ子から離間させ、次に形成するパターンの位置までバイトを移動させ、この上で次の三角溝状パターンを加工していた。即ち、従来ではバイトを入れ子の加工面に対する平面方向と上下方向の双方向に対して移動させる必要があった。
【0009】
また、精密な切削加工を実施する前に入れ子表面に前加工を行なう場合、従来では材料の長手方向に研削加工を行なうことが行なわれていた。また、入れ子の材質としては、一般にアルミニウム・銅・真鍮などの切削性が良い、柔らかい材料が適用されており、これにより切削性を向上することが図られていた。
【0010】
また、精密切削加工を行なう加工装置には、被加工物となる入れ子を送るための送り機構が設けられている。この送り機構は、入れ子を装着するステージと、このステージを駆動する駆動装置とを有している。従来では、駆動装置としてはボールネジ機構が用いられており、またステージの移動を案内する構成としてはころ案内面を用いたものが一般的であった。
【0011】
更に、加工時には、バイトの先端を加工開始位置に高精度に位置合わせする必要があるが、従来では顕微鏡を用いてこの位置合わせを行なっていた。
【特許文献1】特開平01−127215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかるに上記した従来方法では、ひとつひとつ別個に入れ子の加工を行なっていたため、製造される各入れ子に必然的に加工誤差が発生してしまう。しかるに、微細パターンを有するプラスチック光学部品では、1/10μ程度の変化も光学特性に影響し、よって従来の製造方法では光学特性の再現性が悪くなるという問題点があった。
【0013】
また、このように加工バラツキを有した入れ子を複数個金型に装着してプラスチック光学部品を多数個取りする場合、この加工誤差により金型のキャビティ内における樹脂の流動バランスが不均一になり、よってゲートバランスの調整に工数を要していた。
【0014】
また、従来において電気鋳造法を用いて入れ子を製造する場合、厚い電鋳層の一体の金型入れ子を製作していたため、この入れ子を製作するには、一般に30〜50日程度の長い日数が必要であり、入れ子の製造が面倒であるという問題点があった。
【0015】
また、精密切削加工を用いて入れ子を製造する場合、従来では軽油や灯油を切削油とし、これにエアブローに混合してミスト状にして供給していた。しるかに、ダイヤモンドバイトなどによる微細鏡面切削では、切削している領域のスキマ(逃げ面、すくい面)が小さく切削油の供給不足が発生し、よって局所的な発熱が多く、発熱によりバイトが摩耗・損傷しやすいという問題点があった。
【0016】
また、従来では精密切削加工を用いて微細パターンを形成する場合、1本の三角溝状パターンを加工した後、一旦バイトを上方に上げて入れ子から離間させた上で次に形成するパターンの位置までバイトを移動させ次のパターンの加工を行なっていた。
【0017】
しかるに、この加工方法ではバイトが上下方向に移動する動作を伴うため、隣同士のパターンであっても微妙にバイト高さと姿勢(角度)が変化し、よって加工面に光沢の変化が発生してしまうという問題点があった。
【0018】
また、従来では前加工として材料の長手方向に研削加工を行なっていたが、研削加工のまま微細鏡面パターン切削すると、研削跡による表面の凹凸や食い込んだ砥粒が断続的に切れ刃に当たることにより、切れ刃損傷を発生させ、バイト寿命を短命化していた。
【0019】
また、従来では入れ子の材質としてアルミニウム・銅・真鍮などの切削性が良い柔らかい材料が適用されていたが、これらの金属は柔らかいために直接金型に使用すると劣化が早く、一つの金型より形成される樹脂成形品の成形数が少なく型寿命が短かいという問題点があった。また、アルミニウム・銅・真鍮などは酸化しやすいため、加工中に既に酸化が開始され加工完了時点では既に鏡面性が落ちてしまう材料もあった。
【0020】
また従来では、被加工物となる入れ子を送るための送り機構は、ボールネジ機構及びいられており、またステージの移動を案内する構成としてはころ案内面を用いていたため、送り動作時に発生する振動により、バイトまたは入れ子が振動して三角状溝の斜面にバイト送り方向に直角に近い角度で交わるようなスジが発生するという問題点があった。
【0021】
更に、従来ではバイトの先端を加工開始位置に位置合わせするのに顕微鏡を用いていたため、入れ子の表面全面に微細パターンが既にある場合、基準となる部位を決定することが困難であった。
【0022】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、微細パターンを有した入れ子を高精度にかつ効率よく形成しうる微細パターン加工装置及び光学部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の課題は、本発明の第1の観点からは、
入れ子を形成する際に用いられる切削マスタに対しバイトを用いて微細パターンを形成する微細パターン加工装置において、
前記バイトの切削位置に向け切削油を供給する切削油供給部と、前記バイトの切削位置に向け防錆油を供給する防錆油供給部とを設け、
前記切削油と前記防錆油が同時に前記バイトの切削位置に供給される構成としたことを特徴とする微細パターン加工装置により解決することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、加工中において切削マスタに酸化が発生することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0026】
図1は、第1参考例である金型の製造方法を示す図である。本参考例の対象となる金型22は、入れ子20,21を組み込んで樹脂成型するものであり、具体的には液晶ディスプレイのバックライト装置に使用されているプリズムシートやプリズム導光体(以下、光学部品26という)を製造するのに用いられるものである。
【0027】
また、本参考例で成型しようとする光学部品26は、その一面に散光用の微細パターン26a(図1(G)参照)を形成する必要があるため、よって一方の入れ子21には微細パターン26aと対応した微細パターン11が形成されている。本参考例では、この微細パターン11を有した入れ子20の製造方法が特徴となるものであり、他の構成は従来の製造方法と変わるところはないため、以下の説明では入れ子20の製造方法を中心にして説明するものとする。
【0028】
入れ子20を製造するには、先ず図1(A)に示す切削マスタ10を用意する。この切削マスタ10は、後述する各参考例に係る製造方法により製造されるものであり、その一面には微細パターン26aと対応した微細パターン11が高精度に形成されている。
【0029】
この切削マスタ10は、図1(B)に示されるように、容器12内に装着される。そして、シリコンゴム14をこの容器12に流し込むことにより、転写型16を形成する(型取り法)。転写型16が形成されると、続いて図1(C)に示されるように、切削マスタ10は転写型16から取り外される。この際、転写型16には微細パターン11に対応した反転パターン15が形成される。
【0030】
続いて、図1(D)に示すように、転写型16に入れ子20の材料となる金属18を溶融して流し込む(精密鋳造法)。そして、所定時間冷却して金属18を硬化させた後、これを転写型16から取り外すことにより、入れ子20が形成される。この際、転写型16には反転パターン15が形成されているため、この反転パターン15は入れ子20に転写され、これにより入れ子20には微細パターン11が形成される。
【0031】
本参考例のように、予め微細パターン11が形成された切削マスタ10を形成しておき、続いてこの切削マスタ10から型取り方法を用いて転写型16を形成し、更にこの転写型16から精密鋳造法を用いて入れ子20を形成することにより、同一の転写型16から多数個の入れ子20を形成することが可能となる。よって、入れ子20を効率よく形成することが可能となり、また形成される多数個の入れ子20は同一の転写型16から形成されるものであるため、形成される入れ子20は全て同一形状となり加工誤差が存在するようなことはない。
【0032】
図1(F)及び図1(G)は、上記のように製造された入れ子20を用いて光学部品26を製造する成型処理を示している。本参考例で示す金型22は、2個の光学部品26を同時に製造する、いわゆる多数個取りを行なう構成とされている。
【0033】
金型22により光学部品26を製造するには、一対の金型半体22a,22bをクランプし、図1(F)に示すように、金型半体22aに配設された入れ子20と金型半体22bに配設された入れ子21との間に形成されるキャビティにモールド樹脂24を装填する。
【0034】
この際、モールド樹脂24はキャビティ内を移動するが、上記のように金型22内に配設される2個の入れ子20は同一形状であるため、金型22内におけるモールド樹脂24の流動バランスは均一化しており、よってゲートバランスの調整を不要とすることができる。
【0035】
図1(G)は、光学部品26が成型され、一対の金型半体22a,22bが分離された状態を示している。このようにして形成される光学部品26は、同一の入れ子20により形成されるため、その光学特性の再現性を良好とすることができる。
【0036】
続いて、第2参考例である金型の製造方法について説明する。
【0037】
図2は、第2参考例である金型23の製造方法を示す図である。本参考例の対象となる金型23は、試作用の入れ子34を装着して光学部品26の試作品を形成する際に用いられるものである。尚、図2において、図1に示した構成と同一構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0038】
本参考例において入れ子21を製造するには、第1参考例と同様に、片面に微細パターン26aと対応した微細パターン11が高精度に形成された、図2(A)に示す切削マスタ10を用意する。そして、図2(B)に示されるように、この切削マスタ10をアクリル板28と対向するよう配設すると共に、アクリル板28の背面に押さえ板30を配設する。即ち、アクリル板28を挟むように切削マスタ10と押さえ板30とを配設する。
【0039】
続いて、図2(C)に示されるように、加熱処理を行ないつつアクリル板28を切削マスタ10と押さえ板30とによりプレスし、転写マスタ32を形成する。続いて、図2(D)に示されるように、切削マスタ10と押さえ板30とを離間させることにより、転写マスタ32を切削マスタ10及び押さえ板30から取り外す。この際、転写マスタ32には、切削マスタ10に形成されている微細パターンが転写されることにより転写パターン15が形成される。
【0040】
図2(E)に示されるように転写マスタ32が形成されると、この転写マスタ32に基づき電気鋳造が行なわれ、図2(F),(G)に示されるように入れ子34(いわゆる電鋳板)が形成される。
【0041】
この際、本参考例では試作用の入れ子34であるため、その板厚は薄くされている。具体的には、入れ子34の厚さは0.1〜0.5mm程度であり、よって入れ子34はシート状の形状となっている。
【0042】
本参考例においても第1参考例と同様に、予め微細パターン11が形成された切削マスタ10を形成しておき、この切削マスタ10から転写マスタ32を形成し、更にこの転写マスタ32から電気鋳造法を用いて入れ子34を形成することにより、同一の転写マスタ32から多数個の入れ子34を形成することが可能となる。
【0043】
よって、入れ子34を効率よく形成することが可能となり、また形成される多数個の入れ子34は同一の転写マスタ32から形成されるものであるため、形成される入れ子34は全て同一形状となり加工誤差が存在するようなことはない。
【0044】
また、試作用の入れ子34は薄いシート状であるため量産性に富み、短手番で形成することができる。しかるに、金型23への装着においては、薄いことにより装着性の悪化が問題となる。このため本参考例では、入れ子34を金型23に吸着する構成とすることにより、この問題点を解決している。
【0045】
図2(H)及び図2(I)は、上記のように製造された入れ子34を用いて光学部品26を製造する成型処理を示している。本参考例で示す金型23も、2個の光学部品26を同時に製造する、いわゆる多数個取りを行なう構成とされている。
【0046】
金型23は一対の金型半体23a,23bにより構成されており、シート状の入れ子34は金型半体23aに装着される。この際、金型半体23aには吸引配管36が配設されており、その外側端部は図示しない吸引装置に接続され、また内側端部は入れ子34の装着位置に開口した構成となっている。
【0047】
よって、入れ子34を金型半体23aに装着した上で、吸引装置により吸引配管36に負圧印加することにより、入れ子34は金型半体23aに吸着される。この構成とすることにより、薄いシート状の入れ子34であっても確実に金型23(金型半体23a)に装着することができる。
【0048】
上記構成とされた金型23により光学部品26を製造するには、一対の金型半体23a,23bをクランプし、図2(H)に示すように、金型半体23aに配設された入れ子34と金型半体23bに配設された入れ子21との間に形成されるキャビティにモールド樹脂24を装填する。
【0049】
この際、モールド樹脂24はキャビティ内を移動するが、本参考例においても金型23内に配設される2個の入れ子34は同一形状であるため、金型23内におけるモールド樹脂24の流動バランスは均一化しており、よってゲートバランスの調整を不要とすることができる。
【0050】
図2(I)は、光学部品26が成型され、一対の金型半体23a,23bが分離された状態を示している。このようにして形成される光学部品26は、同一の入れ子34により形成されるため、その光学特性の再現性を良好とすることができる。
【0051】
続いて、第1参考例である微細パターンの形成方法について説明する。本参考例に係る微細パターンの形成方法は、前記した切削マスタ10に微細パターン11を形成する際に適用されるものである。
【0052】
図3は、第1参考例である微細パターン11の形成方法を説明するための図である。本参考例では、同図に示されるように、金属よりなる切削マスタ10上に微細パターン11を形成するのにバイト40(ダイヤモンドバイト)を用いている。
【0053】
具体的には、切削マスタ10の表面をバイト40で切削することにより三角溝パターンを形成し、これを複数回繰り返して実施して三角溝パターンを複数本並設し、これにより微細パターン11を形成していた(図5(A)参照)。
【0054】
上記のように金属よりなる切削マスタ10をバイト40で切削する際、切削位置の温度上昇の抑制,バイト40による加工性,及びバイト40の寿命を延ばすことを目的とし、切削位置には切削油44(梨地で示す)が供給される。この切削油44は、バイト40と切削マスタ10の表面との間に形成される隙間、及びバイト40と切り子42との間に形成される隙間に進入し、上記した各機能を発揮する。
【0055】
従来では、切削油として軽油や灯油を用いており、これにエアブローに混合してミスト状にして切削位置に供給していた。しかるに、ダイヤモンドバイトなどによる微細鏡面切削では、切削している領域の隙間(逃げ面、すくい面)が小さく、切削油は図3の矢印A2,B2で示す位置までしか供給されず、供給不足が発生して局所的な発熱や、発熱によるバイトの摩耗・損傷が発生していた。
【0056】
これに対し、本参考例では界面活性剤を添加した切削油44を用いて切削加工を行なうことを特徴としている。具体的には、放電加工油のような低粘度・高引火点のベース油に界面活性剤を加え、エアブローに混合し、ミスト状にしてバイト先端に供給している。また、IPA(イソプロピルアルコール)などの揮発性の高い溶剤を混合し、揮発性を利用して放熱効果を高めている。
【0057】
上記構成とされた切削油44を用いることにより、バイト加工部において、バイトと切削マスタとの隙間により深く切削油44を供給することが可能となる。即ち、従来では図3に矢印A2,B2で示す位置までしか供給することができなかった切削油44を矢印A1,B1で示す位置まで供給することが可能となり、よって局所的な発熱及びバイトの摩耗・損傷の発生を防止することができる。
【0058】
続いて、第2参考例である微細パターンの形成方法について説明する。図4(A)は、第2参考例である微細パターンの形成方法を説明するための図であり、また図4(B)は比較のために従来の微細パターンの形成方法を示している。
【0059】
先ず、図4(B)を用いて従来の微細パターンの形成方法について説明する。同図に矢印で示すのは、バイトの移動軌跡である。同図に示されるように、バイトを用いて微細パターンを形成する場合、先ず切削マスタ10上でバイトを矢印Y1方向に相対的に移動させることにより1本の三角溝状パターンを加工する。
【0060】
この1本の三角溝状パターンの加工が終了すると、バイトは矢印Z1方向(即ち、上方向)にバイトを所定量上動させ、続いてバイトを矢印Y2方向,矢印Z2方向(下方向),矢印X2方向に順次移動させ、バイトを次の切削マスタ10上の切削開始位置まで移動させる。そして、バイトを矢印Y1に移動させることにより次の三角溝状パターンの加工を行ない、以後この動作を繰り返し実施することにより微細パターン形成していた。
【0061】
しかるに、この従来方法ではバイトが上下方向(Z1,Z2方向)に移動する動作を伴うため、隣同士のパターンであっても微妙にバイト高さと姿勢(角度)が変化し、よって加工面に光沢の変化が発生してしまう不都合があることは前述した通りである。
【0062】
これに対し本参考例に係る加工方法では、図4(A)に示すように、切削マスタ10をバイトにより切削加工する際、バイトの平面方向(矢印X1,X2方向及び矢印Y1,Y2方向)の移動は許容し、バイトの高さ方向(矢印Z1,Z2方向)の移動は固定した状態で加工を行なうことを特徴としている。
【0063】
即ち、1本の三角溝状パターンの加工が終了すると、バイトは矢印X1方向に移動することにより矢印Dで示す切削マスタ10の外周を回る軌跡で移動し、次の切削開始位置まで移動する。
【0064】
このように、バイトが高さ方向(矢印Z1,Z2方向)の移動を伴うことなく微細パターンの形成を行なう方法としたことにより、バイトの高さ方向に対するバラツキを無くすことができ、よって微細パターンの光沢変化を防止することが可能となる。
【0065】
続いて、第3参考例である微細パターンの形成方法について説明する。図5(A)は、第3参考例である微細パターンの形成方法を説明するための図であり、また図5(B)は比較のために従来の微細パターンの形成方法を示している。
【0066】
先ず、図5(B)を用いて従来の微細パターンの形成方法について説明する。切削マスタ10は鋳造等により形成されるが、形成された直後のブランク状態ではその表面粗さが大きいため、一般に切削マスタ10に対しては微細パターンの加工処理を行なう前に研削加工が実施される。
【0067】
しかるに、研削加工を実施したままの状態の切削マスタ10に対しバイト40用いて微細パターンを形成する処理を実施すると、図5(B)に示すように、切削マスタ10の表面には研削跡による微細な凹凸や食い込んだ砥粒が存在するため、バイトが断続的にこれらの凹凸や砥粒と当たることとなり、切れ刃損傷を発生させバイト寿命を短命化していた。
【0068】
これに対し本参考例では、微細な凹凸や食い込んだ砥粒が存在するブランク状態の切削マスタ10の表面に対し、表面層の除去を行なう前加工を実施することを特徴とするものである。
【0069】
即ち、本参考例では微細パターンの加工実施する前に、例えばRバイトを微細パターン形成用のバイトの送り方向と同一方向に送り、表面層(微細な凹凸や食い込んだ砥粒を含む層)を除去する処理(この処理をセルフカットという)を実施する。
【0070】
この前加工を行なうことにより、切削マスタ10の表面は平面化し、平滑面52が形成される。よって、図5(A)に示す微細パターンの加工時には、バイトは微細な凹凸や食い込んだ砥粒が存在しない平滑面52に対して切削加工を行なうこととなる。これにより、バイトが断続的にこれらの凹凸や砥粒と当たることとはなくなり、よって切れ刃損傷の発生を防止できバイト寿命を延ばすことができる。
【0071】
続いて、第4参考例である微細パターンの形成方法について説明する。本参考例では、先ずブランク状態の切削マスタ10の表面に少なくともリン或いはセレンの一方を添加したニッケル層を形成し、その後に切削マスタ10の表面に形成されたニッケル層をバイト40により切削加工して微細パターンを形成することを特徴とするものである。
【0072】
具体的には、リン13%の無電解ニッケルメッキをプリハードン鋼よりなる切削マスタ10に0.3mm程度成膜し、そのニッケル層をバイト40により切削加工して微細パターンを形成している。即ち、本参考例では切削マスタ10に対し直接切削加工を行なうのではなく、切削マスタ10に被膜形成されたニッケル層に対し切削加工を行なうことにより微細パターンを形成することとしている。
【0073】
上記組成とされたニッケル層は、鏡面性が高く、硬く傷つきにくく、更に切削性の高いため、バイトが損傷しにくく、切削長の非常に長い加工を行なうことが可能となる。
【0074】
図6は、本参考例に係る微細パターンの形成方法の効果を実証する図である。図6(A)〜(C)は、プリハードン鋼よりなる切削マスタ10に0.3mm程度の各種ニッケル膜を形成し、これらに対しダイヤモンドバイトで切削長25.5mの切削処理を行なった時のバイト40(40A〜40C)の切れ刃46を拡大して示す図である。
【0075】
図6(A)は、本参考例に係るものであり、リン13%の無電解ニッケルメッキをプリハードン鋼よりなる切削マスタ10に0.3mm程度成膜したものに対し切削長25.5mの切削処理を行なった時のバイト40Aの切れ刃46を拡大して示している。
【0076】
また、図6(B)は比較例を示すものであり、リン7%の無電解ニッケルメッキをプリハードン鋼よりなる切削マスタ10に0.3mm程度成膜したものに対し切削長25.5mの切削処理を行なった時のバイト40Bの切れ刃46を拡大して示している。
【0077】
更に、図6(C)も比較例を示すものであり、リンを含まない無電解ニッケルメッキをプリハードン鋼よりなる切削マスタ10に0.3mm程度成膜したものに対し切削長25.5mの切削処理を行なった時のバイト40Cの切れ刃46を拡大して示している。
【0078】
図6(A)から明らかなように、本参考例である切削マスタ10にリン13%を含有するニッケル層を形成した場合には、バイト40Aには刃欠けや摩耗は発生しておらず、よってバイトが損傷しにくいことが実証された。
【0079】
これに対し、図6(B)に示されるように、切削マスタ10にリン7%を含有するニッケル層を形成した場合には、バイト40Bには刃欠け部48が発生している。また、図6(C)に示されるように、切削マスタ10にリンを含有させないニッケル層を形成した場合には、バイト40Cには湾曲状の刃摩耗部50が発生している。よって、本参考例の如く切削マスタ10にリン13%を含有するニッケル層を形成し、このニッケル層に対し切削加工を行なって微細パターンを形成することにより、バイト寿命を延ばすことができる。
【0080】
続いて、第5参考例である微細パターンの形成方法について説明する。本参考例では、前記した第4参考例を実施することにより切削マスタ10の表面に形成されたニッケル層をバイトにより切削加工して微細パターンを形成した後に、この微細パターンが形成された切削マスタ10に対して加熱処理を実施すると共に、続いて徐冷処理を実施することを特徴とするものである。
【0081】
図7は、上記のニッケル層に対し熱処理を実施した時の加熱時間とビッカース硬度との関係を示しており、また図8は熱処理を行なった後に冷却を行なった場合のビッカース硬度及び応力割れの様子を示す図である。
【0082】
本参考例では、前述のニッケルメッキ層(リン13%含有)に微細パターンを切削加工後、300℃で90分保持する加熱処理を行ない、その後に加熱炉内で常温まで徐冷する処理を行なった。この結果、図8に・で示すように、ビッカース硬度は700〜900となり、またビッカース硬度750程度まで応力割れを発生せずに硬化することができた。
【0083】
このように、ニッケル層加工後、適当な熱処理を実施することにより、応力割れや鏡面性劣化などのない高硬度の切削マスタ10を形成することができ、よって高精度で信頼性の高い入れ子の製造を行なうことが可能となる。
【0084】
続いて、本発明の一実施例である微細パターン加工装置について説明する。図9は、本実施例である微細パターン加工装置63の要部を拡大して示す図である。
【0085】
本実施例に係る微細パターン加工装置63は、バイト40の切削位置に向け切削油44を供給する切削油供給ノズル60(切削油供給部)と、同じくバイト40の切削位置に向け防錆油58を供給する防錆油供給ノズル62(防錆油供給部)とを設けると共に、各ノズル60,62から切削油44と防錆油58が同時にバイト40の切削位置に供給される構成としたことを特徴とするものである。
【0086】
具体的には、切削油供給ノズル60はバイト40の送り方向に対し前方側(矢印Y2側)に配設されており、また防錆油供給ノズル62はバイト40の送り方向に対し後方側(矢印Y1側)に配設されている。
【0087】
この構成とすることにより、バイト40の加工位置に対する前方部分に切削油44は供給されるため、切削位置の冷却及び加工性を良好な状態とすることができる。また、バイト40の加工位置に対する後方部分に防錆油58が供給されるため、切削マスタ10の切削された部位に酸化が発生することを防止することができ、加工済表面の酸化を防止した長時間加工が可能となる。
【0088】
続いて、第1参考例である微細パターン加工装置について説明する。図10は、第1参考例である微細パターン加工装置64の要部を拡大して示す図であり、具体的には切削加工時に切削マスタ10を送る送り機構70を示すものである。
【0089】
送り機構70はテーブル68上に配設されており、大略するとサブテーブル72,送り台74,油圧シリンダー78等により構成されている。バイト40は、この送り機構70の上部に配設されたチャック66に固定されている。
【0090】
そして、送り機構70により切削マスタ10がバイト40に対し相対的に図中矢印Xで示す方向に送られることにより、切削マスタ10の上面に微細パターンが形成される。尚、図10ではバイト40が切削マスタ10に対し上動した位置にある状態を示している。
【0091】
以下、送り機構70の各構成要素について説明する。
【0092】
サブテーブル72は、図示しない固定機構によりその上部に切削マスタ10を固定する構成とされている。このサブテーブル72は、送り台74の上部を矢印X方向に移動可能な構成とされている。また、送り台74はテーブル68に固定具75により固定されている。
【0093】
本参考例では、このサブテーブル72を駆動する手段とし油圧シリンダー78を用いると共に、サブテーブル72を送り台74上で移動させる案内手段として油圧静圧案内面76を設けたことを特徴とするものである。油圧シリンダー78は、供給される油圧により駆動軸79を伸縮させ直接的にサブテーブル72を駆動する構成とされているため、従来のようにボールネジ機構を介した駆動に比べて発生する振動を低減することができる。
【0094】
また、油圧静圧案内面76は一対の傾斜面を有しており、その下部の角度が略90度とされたV字溝形状を呈している。また、サブテーブル72にはこの油圧静圧案内面76と対応した傾斜面を有した三角状突起が形成されており、この三角状突起がV字溝形状と係合し案内されることにより、サブテーブル72は送り台74上を移動する。
【0095】
また、油圧静圧案内面76の各傾斜面には油膜が設けられており、よってサブテーブル72は送り台74に対し油静圧で受けられた構成となっている。よって、油圧静圧案内面76を設けることによっても、従来用いられていたサブテーブルがころ案内面により案内されていた構成に比べ、サブテーブル72が送り台74上を移動する際の振動の発生を抑制することができる。
【0096】
このように本参考例によれば、サブテーブル72が送り台74上を移動する際の振動の発生を抑制することができ、よって微細パターンの切削加工時に切削マスタ10の表面に振動に起因したスジが発生することを防止することができる。
【0097】
続いて、第2参考例である微細パターン加工装置について説明する。図11及び図12は、第2参考例である微細パターン加工装置の要部を拡大して示す図であり、具体的にはバイト40の近傍を拡大して示している。
【0098】
本参考例では、CCDカメラ80(撮像手段)を用いてバイト40の切削位置を位置決めする構成とされている。また、CCDカメラ80と切削マスタ10との間にはプリズム82(バイト画像重畳手段)が配設されており、よって切削マスタ10上の状態はプリズム82を介してCCDカメラ80で撮像される構成となっている。
【0099】
このプリズム82は、バイト40と略平行となるよう配設されており、その下端に形成された入射面84には固定焦点レンズ86が設けられている。切削マスタ10上の状態を示す映像光は固定焦点レンズ86を介して入射面84からプリズム82内に入射され、プリズム82を通過してCCDカメラ80に入射する。尚、固定焦点レンズ86は、予め決められた所定焦点距離を有したものである。
【0100】
また、プリズム82の下端部には入射面84と連続して反射面88が形成されている。この反射面88は、プリズム82を映像光の光軸に対し45°傾いた面であり、その表面に例えば金属薄膜を形成することによりハーフミラーとして機能するものである。この反射面88は、バイト40の映像をCCDカメラ80が撮像できるようにするために設けられている。
【0101】
従って、本参考例ではCCDカメラ80は、切削マスタ10の上面及びバイト40を3種類の態様で撮像することとなる。即ち、図12に矢印aで示す固定焦点レンズ86を通過した光による画像と、矢印bで示す入射面84を通過した光による画像と、矢印cで示す反射面88で反射されたバイト40を示す画像である。
【0102】
図13は、本参考例において、CCDカメラ80により撮像された撮像画面94を示している。同図に示される例では、撮像画面94の上部が反射面エリアでありバイト40の側面が表示されている。また、撮像画面94の下部が入射面エリアであり、切削マスタ10の表面の様子が表示されている。
【0103】
更に、入射面エリアでの内部には固定焦点レンズ86によるレンズ拡大エリアが形成されており、このレンズ拡大エリアには切削マスタ10の表面の様子が拡大された状態で表示されている。尚、図13に示す入射面エリアの縞状の模様は、微細パターン11aが撮像されたものである。
【0104】
また、本参考例では、プリズム位置合わせダイヤル90を操作することによりプリズム82は水平方向及び垂直方向に移動可能な構成とされており、またバイト40はバイト移動装置92によりプリズム82に対し垂直方向に移動可能な構成とされている。尚、バイト40はプリズム82を水平方向に移動させる時は、プリズム82と一体的に移動する構成とされている。
【0105】
上記構成とされた微細パターン加工装置において、バイト40の先端部40aを所定の切削開始位置に位置決めするには、入射面84の高さと同一高さとなるようバイト移動装置92を用いてバイト40の先端部40aの高さを位置決めすると共に、固定焦点レンズ86の合焦点位置が切削マスタ10の表面に位置するよう上下方向の位置調整を行なう。
【0106】
続いて、撮像画面94を見ながらバイト40をプリズム82と共に水平方向に移動させ、バイト40の先端部40aが切削処理を開始しようとする切削開始位置と一致するよう位置決め処理を行なう。この際、バイト40及び切削マスタ10は同一の撮像画面94に表示されているため、この位置決め処理を容易に行なうことができる。
【0107】
このように、バイト40の先端部40aと切削開始位置との位置決めが終了すると、続いてバイト40は固定焦点レンズ86の焦点距離分だけ下動され、これによりバイト40は切削開始位置に高精度に位置決めされた状態で当接することとなる(即ち、切削開始しうる状態となる)。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、第1参考例である金型の製造方法、及び光学部品を成形する方法を説明するための図である。
【図2】図2は、第2参考例である金型の製造方法、及び光学部品を成形する方法を説明するための図である。
【図3】図3は、第1参考例である微細パターン加工方法を説明するための図である。
【図4】図4は、第2参考例である微細パターン加工方法を説明するための図である。
【図5】図5は、第3参考例である微細パターン加工方法を説明するための図である。
【図6】図6は、第4参考例である微細パターン加工方法を実施した時の効果を説明するための図である。
【図7】図7は、第5参考例である微細パターン加工方法を実施した時の効果を説明するための図である(その1)。
【図8】図8は、第5参考例である微細パターン加工方法を実施した時の効果を説明するための図である(その2)。
【図9】図9は、本発明の一実施例である微細パターン加工装置を説明するための図である。
【図10】図10は、第1参考例である微細パターン加工装置を説明するための図である。
【図11】図11は、第2参考例である微細パターン加工装置を説明するための図である。
【図12】図12は、第2参考例である微細パターン加工装置を説明するための図であり、プリズム配設位置近傍の構成を示す図である。
【図13】図13、第2参考例である微細パターン加工装置を説明するための図であり、CCDの撮像画面の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0109】
10 切削マスタ
11 微細パターン
15 反転パターン
16 転写型
20,34 入れ子
22 金型
26 光学部品
28 アクリル板
32 転写マスタ
36 吸引配管
40,40A〜40C バイト
42 切り子
44 切削油
46 切れ刃
48 刃欠け部
50 刃摩耗部
52 平滑面
58 防錆油
60 切削油供給ノズル
62 防錆油供給ノズル
64 微細パターン加工装置
68 テーブル
70 送り機構
72 サブテーブルユニット
74 送り台
76 油圧静圧案内面
78 油圧シリンダー
80 CCDカメラ
82 プリズム
84 入射面
86 固定焦点レンズ
88 反射面
90 プリズム位置合わせダイヤル
92 バイト移動機構
94 撮像画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入れ子を形成する際に用いられる切削マスタに対しバイトを用いて微細パターンを形成する微細パターン加工装置において、
前記バイトの切削位置に向け切削油を供給する切削油供給部と、前記バイトの切削位置に向け防錆油を供給する防錆油供給部とを設け、
前記切削油と前記防錆油が同時に前記バイトの切削位置に供給される構成としたことを特徴とする微細パターン加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微細パターン加工装置を用いて形成された微細パターンを有する金型を用いて光学部品を製造することを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の光学部品の製造方法において、
前記光学部品は、プリズムシートまたはプリズム導光体であることを特徴とする光学部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−183710(P2008−183710A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104260(P2008−104260)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【分割の表示】特願2003−177659(P2003−177659)の分割
【原出願日】平成9年10月21日(1997.10.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】