説明

悪液質の治療

本発明は、タンパク質分解誘導因子(PIF)の受容体、ならびに、この受容体を使用する関連した方法および物質を特徴づけ、提供する。これらは、例えば、悪液質の治療の供給において、有用性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪液質(cachexia)の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
ガンの多くの患者(約50%)が、除脂肪体重および脂肪組織の著しい減少に苦しんでおり、このことは、短い生存期間と関連している。体重の30%までが減少した場合は死亡し、このような体重の減少は、ガン患者の死亡の20%以上を占める。この状態は、ガン悪液質として知られている複合的なメタボリック症候群の一部を構成しており、ガン悪液質においては、骨格筋に由来するタンパク質の喪失が明白であるが、肝臓や腎臓等の内臓組織は比較的に影響を受けず、それ故、この状態は単純な飢えの状態と区別される。腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキン-6(IL-6)および毛様体神経栄養因子を含む多くのサイトカインが、悪液質におけるタンパク質の減少と関連しているが、この分解過程に対する直接的な効果を報告する研究は少ない。
【0003】
本発明者は、以前に、悪液質誘導マウス腫瘍から、および、悪液質のガン患者の尿から、非-脂肪のcarcass massの特異的な減少を有する、正常なマウスにおいて体重の減少を誘導できる腫瘍因子を単離した(Todorov, P., Cariuk, P., McDevitt, T., Coles, B., Fearon, K. and Tisdale, M. Characterization of a cancer cachectic factor. Nature, 379: 739-742, 1996)。身体のタンパク質喪失を、骨格筋における、タンパク質の分解の増加と、タンパク質合成の減少によって説明した。彼らがタンパク質分解誘導因子(proteolysis inducing factor (PIF))と称するこの物質は、また、単離した腓腹筋腓腹筋の重さは減少し、心臓または腎臓の重さは変化せず、肝臓の重さは増加した。
【0004】
PIFは、N-およびO-結合オリゴサッカリド鎖を含む、Mr 24,000の硫酸化糖タンパク質であり、生物学的活性にとって必須であることが示されている(Todorov, P.T., Deacon, M. and Tisdale, M.J. Structural analysis of a tumor-produced sulfated glycoprotein capable of initiating muscle protein degradation. J. Biol. Chem., 272: 12279-12288, 1997)。マウスPIFとヒトPIFの両方が、このオリゴサッカリド残基に対するマウスモノクローナル抗体との反応性で定義した、同一の糖鎖成分を含むと考えられている。加えて、N-末端残基のアミノ配列分析によって、2つの種間での相同性が示され(Cariuk, P., Lorite, M.J., Todorov, P.T., Field, W.N., Wigmore, S.J. and Tisdale, M.J. Induction of cachexia in mice by a product isolated from the urine of cachectic cancer patients. Br. J. Cancer, 76: 606-613, 1997)、このことは、ガンの悪液質におけるタンパク質分解は、マウスとヒトとで同一である可能を示唆している。
【0005】
PIFが骨格筋の異化効果をもたらすためには、本発明者は、細胞内タンパク質分解機構に対する生物学的応答を中継することができる特異的な細胞表面受容体が存在するに違いないと考えた。
【0006】
【非特許文献1】Todorov, P., Cariuk, P., McDevitt, T., Coles, B., Fearon, K. and Tisdale, M. Characterization of a cancer cachectic factor. Nature, 379: 739-742, 1996
【非特許文献2】Todorov, P.T., Deacon, M. and Tisdale, M.J. Structural analysis of a tumor-produced sulfated glycoprotein capable of initiating muscle protein degradation. J. Biol. Chem., 272: 12279-12288, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、PIFに対する高いアフィニティーを有する受容体を提供し;このような受容体と相互作用することによって悪液質を調節するのに有効である作用因子を提供し;そして、このような作用因子を同定するためのスクリーニングを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、成熟した天然受容体(mature native receptor)のN末端がアミノ酸配列:
n - DINGGGATLPQPLYQTAAVLTAGFA(配列番号1)または
n - DINGGGATLPQKLYLIPNVL(配列番号13)
および、いずれかの機能的な誘導体
を有することを特徴する、タンパク質分解誘導因子(PIF)に対する単離された受容体を提供する。
【0009】
本発明は、PIFの結合活性を調べていた本発明者によってなされた研究に基づく。これらの実験は、より詳細に、実施例に記載する。簡単に述べると、本発明者は、マウスの筋細管(myotubule)の可溶化(1% Triton)膜から、放射性標識したPIFを用いたインキュベーションによって、受容体を単離した。PIF-受容体複合体を、PIFを結合することができるコムギ胚芽凝集素-アガロース(Wheat Germ Agglutinin-Agarose)カラム上で、遊離の受容体を0.1M N-アセチルグルコサミンを用いて溶出して、精製した。受容体は、約Mr 40,000の単一のタンパク質であることを、15% SDS-PAGEおよびSephadex G-50排除クロマトグラフィーを使用して、見出した。
【0010】
本発明者は、PIF受容体のトリプシン分解に続いて、配列分析(エドマン)を実施し、成熟受容体のN-末端が、配列番号1のアミノ酸配列で開始することを立証した。この配列は、T-細胞刺激活性を有する滑液タンパク質p205(J. Immnuol.; (1996) 157; 1773-80)に由来するペプチド断片に相同性を有している。多型であろうと考えられる、更なるN-末端配列を得た(配列番号13)。この配列は、配列番号1と比較して5つのアミノ酸が異なっており、配列番号1よりも塩基性である。機構に束縛されることを望まないが、PIFは酸性であるので、配列番号13を含む受容体は、PIFとより強力に相互作用することができると考えられる。
【0011】
配列番号1を含む受容体の更なる分析により、以下のアミノ酸配列:
TAINDTFLNADSNLSIGK (配列番号2)
XATVAGVSPAPANVSAAIGA (配列番号3)
…IIPATTAGE… (配列番号4)
…TYMSPDYAAATLAG… (配列番号5)
FVPLPT (配列番号6)
TELSNYVTAXGTxxG (配列番号7)
VTTAGSDS (配列番号8)
DVNGG (配列番号9)
LTTWDLIADSGR (配列番号10)
を有する内部ペプチド断片を同定した。
【0012】
本発明者は、これらの内部ペプチドの如何なる配列相同性も、他のタンパク質と、公共のデーターベース内で、示すことができなかった。従って、本発明によるPIF受容体は、新規のタンパク質である。
【0013】
本発明の第1の態様によるPIF受容体は、更に、少なくとも1つの配列番号2から10の内部ペプチド配列を含むことが好ましい。より好ましくは、受容体は、更に、このような内部ペプチドを少なくとも2つ含み、最も好ましくは、受容体は、それぞれの内部ペプチドを含む。
【0014】
PIF受容体の好ましい機能誘導体は、(野生型と比較して)受容体の活性を変化させない変異を含みうるタンパク質を含む。本発明によれば、好ましい更なる受容体の変化は、一般的に、「保存的」または「安全な」置換として知られている。保存的アミノ酸置換は、受容体の構造および生物学的機能を保存するために、十分に類似した化学特性を有するアミノ酸との置換である。アミノ酸の挿入および欠失は、また、前記で定義した配列中に、その機能を変化させないならば、特に、挿入または欠失が、複数のアミノ酸(例えば10個未満および好ましくは5個未満)のみを含み、受容体の機能的確認に重要であるアミノ酸を除去したり置換しない場合は、実施することができることは明らかである。文献は、保存的アミノ酸置換の選択を、天然のタンパク質の配列および/または構造に対する統計学の研究および物理化学の研究に基づいて実施する、多くのモデルを提供する。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による受容体をコードする核酸を提供する。
【0016】
核酸は、DNA分子またはRNA分子(例えば、mRNA)としうる。好ましくは、核酸は、実質的に配列番号11(最も一般的なコドン使用頻度に基づいて、ヒトのN-末端断片である配列番号1についての予想される配列)で示されるヌクレオチド配列またはその誘導体もしくは機能的バリアントを有する。
【0017】
【化1】

【0018】
代替的に、核酸は、実質的に配列番号14(ヒトのN-末端断片である配列番号13について予期される配列)で示されるヌクレオチド配列またはその誘導体もしくは機能的バリアントを有する。
【0019】
【化2】

【0020】
核酸は、適したベクターに含ませ、リコンビナントベクターを形成することができる。それ故、本発明の第3の態様によれば、第2の態様による核酸を含むベクターを提供する。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミドまたはファージとしうる。このようなリコンビナントベクターは、DNA分子を用いて細胞を形質転換し、本発明の第1の態様による受容体を産生するのに非常に有用である。
【0021】
リコンビナントベクターは、また、他の機能的なエレメントも含みうる。例えば、リコンビナントベクターは、細胞内で自己複製するようにデザインすることができる。この場合、DNA複製を誘導するエレメントは、リコンビナントベクター内に必要である。代替的に、リコンビナントベクターは、ベクターと核酸分子を細胞のゲノム内に組み込むように、デザインすることができる。この場合、(例えば、相同的組換えによって)標的化した組み込みを促進するDNA配列が望ましい。リコンビナントベクターは、また、クローニング工程において選択マーカーとして使用できる遺伝子をコードするDNAを有することができる。リコンビナントベクターは、また、更に、必要に応じて、核酸の発現を制御するプロモーターまたはレギュレーターを含むことができる。
【0022】
当業者にとっては、本明細書に記載のアミノ酸および核酸配列の機能的誘導体は、本明細書に示す任意の配列のアミノ酸/ポリペプチド/核酸配列と、少なくとも30%、好ましくは40%、より好ましくは50%、更により好ましくは60%の配列一致性を有する配列を有することができる。本明細書に示す任意の配列に対して、好ましくは65%、より好ましくは75%、更により好ましくは85%、更により好ましくは90%を超える一致性を有するアミノ酸/ポリペプチド/核酸配列も、想定する。好ましくは、アミノ酸/ポリペプチド/核酸配列は、任意の示した配列と、92%一致性、更により好ましくは95%一致性、更により好ましくは97%一致性、更により好ましくは98%一致性、最も好ましくは99%一致性を有する。
【0023】
異なるアミノ酸/ポリペプチド/核酸配列との間の一致の割合の計算は、以下のように実施することができる。多重アライメントを、最初にClustalXプログラムによって得る(pair wise parameters: gap opening 10.0, gap extension 0.1, protein matrix Gonnet 250, DNA matrix IUB; multiple parameters: gap opening 10.0, gap extension 0.2, delay divergent sequences 30%, DNA transition weight 0.5, negative matrix off, protein matrix gonnet series, DNA weight IUB; Protein gap parameters, residue-specific penalties on, hydrophilic penalties on, hydrophilic residues GPSNDQERK, gap separation distance 4, end gap separation off)。その後、一致の割合を、多重アライメントから、(N/T)*100(式中、Nは、2つの配列が同一の残基を共有する部位の数であり、Tは、比較する部位の総量である)として計算する。代替的に、一致の割合は、(N/S)*100(式中、Sは、比較するより短い配列の長さである)として計算することができる。アミノ酸/ポリペプチド/核酸配列は、de novoで合成することができ、または、天然のアミノ酸/ポリペプチド/核酸配列、もしくはこれらの誘導体とすることができる。
【0024】
代替的に、実質的に類似のヌクレオチド配列は、ストリンジェントな条件化で、本明細書で示される任意の核酸配列またはその相補体にハイブリダイズする配列によってコードされる。ストリンジェントな条件については、ヌクレオチドが、6 x 塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中で、約45℃で、フィルターに結合したDNAまたはRNAにハイブリダイズし、その後、0.2 x SSC/0.1% SDS中で約5-65℃での少なくとも1回の洗浄を実施することを意味する。代替的に、実質的に類似のポリペプチドは、本発明によるペプチド配列とは、少なくとも1個の、しかしながら5、10、20、50または100個未満のアミノ酸が異なりうる。
【0025】
遺伝子コードの縮重が原因で、あらゆる核酸配列は、それによりコードされる受容体タンパク質の配列を実質的に変更することなく、変化させ、変換し、その機能的バリアントを提供することができることは明らかである。適したヌクレオチドバリアントは、配列内の同じアミノ酸をコードする異なるコドンの置換によって変化した配列を有し、サイレント変化(silent change)をもたらすバリアントである。他の適したバリアントは、相同的なヌクレオチド配列を有するが、置換するアミノ酸と類似の生物物理学特性の側鎖を有するアミノ酸をコードする異なったコドンの置換によって変化した配列を全て、または一部含み、保存的変化をもたらすバリアントである。例えば、分子量が小さな非-極性の疎水性アミノ酸は、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリンおよびメチオニンを含む。分子量が大きな非-極性の疎水性アミノ酸は、フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンを含む。中性の極性アミノ酸は、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギンおよびグルタミンを含む。正に帯電した(塩基性)アミノ酸は、リシン、アルギニンおよびヒスチジンを含む。負に帯電した(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。
【0026】
タンパク質またはDNA配列の正確なアライメントは、複雑な工程であり、多くの研究者によって、詳細に調べられている。特に、配列の最適なマッチングと、このようなマッチングを得るためのギャップの導入との間のトレードオフ(trade-off)が重要である。タンパク質の場合、マッチングをスコア化する方法も重要である。他の、等しく適用可能なマトリクスは、当業者に知られているが、PAMマトリックス(例えば、Dayhoff, M. et al., 1978, Atlas of protein sequence and structure, Natl. Biomed. Res. Found.)やBLOSUMマトリクスのファミリーは、保存的置換の特性および可能性を定量化し、多重アライメントアルゴリズムにおいて使用する。良く使用される多重アライメントプログラムClustalWおよびそのウィンドウズ(登録商標)バージョンのClustalX(Thompson et al., 1994, Nucleic Acids Research, 22, 4673-4680; Thompson et al., 1997, Nucleic Acids Research, 24, 4876-4882)は、タンパク質およびDNAの多重アライメントを生じさせるのに効率的な方法である。
【0027】
たびたび、自動で作成するアライメントには、研究するタンパク質ファミリーの熟練の使用者の知識(例えば、重要な保存部位の生物学的知識)を利用する、手動のアライメントを必要とする。このようなアライメント編集プログラムの1つは、Alignである(http://www.gwdg.de/~dhepper/download/; Hepperle, D., 2001: Multicolor Sequence Alignment Editor. Institute of Freshwater Ecology and Inland Fisheries, 16775 Stechlin, Germany)が、JalviewまたはCinemaなどの他のものも適している。
【0028】
タンパク質間の一致の割合の計算は、Clustalによる多重アライメントの作成の間に行われる。しかしながら、これらの値は、アライメントを手動で改良する場合、または2つの配列の入念の比較のためには、再計算を行う必要がある。アライメント内のタンパク質配列の対についてこの値を計算するプログラムは、PHYLIP phylogeny package(Felsenstein; http://evolution.gs.washington.edu/ phylip.html)内の、「Similarity Table」オプションを、アミノ酸置換(P)についてのモデルとして使用した、PROTDISTを含む。DNA/RNAについては、理想的なオプションは、PHYLIPのDNADISTプログラム内に存在する。
【0029】
タンパク質配列中の他の修飾(すなわち、翻訳の間または翻訳の後で生じる修飾、例えば、アセチル化、アミド化、カルボキシル化、リン酸化、タンパク質切断またはリガンドへの連結)も想定され、特許請求の範囲に記載の発明の範囲に含まれる。
【0030】
本発明の第1の態様による受容体の知識により、本発明者は、受容体の活性を調節し、それにより悪液質を臨床的に管理する作用因子を開発することが可能となったことは理解されるであろう。本発明は、また、このような作用因子の医療的使用も提供する。それ故、本発明の第4の態様によれば、医薬としての使用のための、本発明の第1の態様によるPIF受容体の生物学的活性を減少させる作用因子を提供する。
【0031】
本発明の第5の態様によれば、悪液質の治療用の医薬の製造における、PIF受容体の生物学的活性を減少させる作用因子の使用を提供する。
【0032】
本発明の第6の態様によれば、悪液質の治療方法であって、このような治療を必要とする対象に、治療的に有効な量の、PIF受容体の生物学的活性を減少させる作用因子を投与することを含む方法を提供する。
【0033】
PIFの生物学的活性を減少することができる作用因子は、多くの手段によって、その効果を達成することができる。例えば、このような作用因子は、
(a)PIF受容体の発現を減少させることができる;
(b)受容体脱感作または受容体分解を増加することができる;
(c)PIFとその内因性受容体との間の相互作用を減少させることができる;
(d)PIF受容体媒介性細胞内シグナル伝達を減少させることができる;
(e)PIF結合について内因性PIF受容体と競合することができる:
(f)PIF受容体に結合し、PIF結合をブロックすることができる;または
(g)PIFに結合し、受容体との相互作用を防止することができる。
【0034】
作用因子が、PIFの受容体と直接相互作用すること(すなわち、前記(e)および(f))、または、作用因子が、PIF受容体の転写もしくは翻訳を阻害するように作用すること(すなわち、前記(a))が好ましい。このような作用因子は、本発明の第1の態様によるPIF受容体の配列の知識にのみ照らし合わせて、デザインすることができると理解されるであろう。
【0035】
本発明の第4、5または6の態様により使用する好ましい作用因子は、PIF受容体に対する中和抗体である。このような抗体は、本発明の重要な特徴である。それゆえ、本発明の第7の態様によれば、本発明の第1の態様によるPIF受容体に対する抗体、またはその機能的誘導体を提供する。
【0036】
抗体は、好ましくは、PIF受容体媒介性細胞内シグナル伝達をブロックする。このことは、受容体上のリガンド結合部位をブロックすることによってもたらされるか、あるいは、幾つかのアロステリックな手法によってシグナル伝達経路から受容体を解離させることができる。
【0037】
本発明による抗体は、抗原を動物へと注入することによって、ポリクローナルな血清として産生することができる。好ましいポリクローナル抗体は、動物(例えば、ウサギ)を抗原で、当該業界で知られた手法を用いて免疫することによって得ることができる。抗原は、PIF受容体全体(グリコシル化もしくは非-グリコシル化形態)またはその断片とすることができる。抗体を産生するための好ましい断片は、配列番号1から10または13を有するペプチドである。好ましいポリクローナル抗体は、実施例で開示されているように、配列番号1のペプチドに対して生じさせる。他の好ましいポリクローナル抗体は、配列番号13のペプチドに対して生じさせる。
【0038】
代替的に、抗体は、モノクローナル抗体とするこができ、マウス内で生じさせることができる。一般的なハイブリドーマ手法を使用して、抗体を生じさせることができる。本発明によるモノクローナル抗体を生じさせるのに使用する抗原は、PIF受容体全体(グリコシル化もしくは非-グリコシル化形態)またはその断片とすることができる。抗体を産生するための好ましい断片は、配列番号1から10または13を有するペプチドである。
【0039】
抗体は、γ-イムノグロブリン(IgG)であることが好ましい。
【0040】
抗体の可変領域は、抗体の特異性を定義し、そのようなものとして、この領域は、本発明による抗体の機能的誘導体において保存されるべきであることは理解されるであろう。可変ドメインを越えた領域(Cドメイン)は、比較的に配列が一定している。本発明による抗体の特徴的な特性は、VHおよびVLドメインであることは、理解されるであろう。更に、CHおよびCLドメインの正確な特性は、全体的に見ると、本発明にとって重要でないことも理解されるであろう。実際に、本発明による好ましい抗体は、非常に異なったCHおよびCLドメインを有することができる。更にその上、以下により詳細に開示するように、好ましい抗体の機能的誘導体は、C-ドメインは存在せずに、可変ドメインを含むことができる(例えば、scFV抗体)。
【0041】
本発明者は、本発明の第7の態様による抗体またはその機能的誘導体が、ガン患者において、悪液質の進展を防止するのに驚くべき有効性を有することを見出した。
【0042】
抗体誘導体は、ポリクローナル混合物におけるモノクローナル抗体または特定の抗体に対して、75%の配列一致性、より好ましくは90%の配列一致性、最も好ましくは少なくとも95%の配列一致性を有することができる。最も変化に富んだ配列多様性は、フレームワーク領域(FR)で生じうるのに対して、抗体およびその機能的誘導体のCDRの配列は最も保存されていることは、理解されるであろう。
【0043】
本発明の第7の態様の多くの好ましい実施態様は、可変および定常ドメインの両方を有する分子に関する。しかしながら、必須に抗体の可変領域を含むが如何なる定常領域も含まない抗体断片(例えば、scFV抗体)も、本発明に包含される。
【0044】
ある種で産生した抗体は、異なる種を治療するのに使用する場合、幾つかの致命的な欠点を有することが知られている。例えば、マウス抗体をヒトにおいて使用する場合、マウス抗体は、血清中で、短い循環半減期しか有さない傾向があり、処置される患者にとっては、外来性のタンパク質として認識される。このことにより、望ましくないヒトの抗-マウス(またはラット)抗体応答の進展が誘導される。これは、特に、抗体の断片投与がしばしば必要である場合に、厄介である。なぜならば、そのクリアランスを増大させ、その治療効果をブロックし、過敏性反応を誘導するからである。従って、ヒトの治療において使用するための好ましい抗体(もし非-ヒト源であるならば)は、ヒト化されている。
【0045】
モノクローナル抗体は、通常は非-ヒトmAbの産生を含む、ハイブリドーマ手法によって産生される。この手法により、ほとんど任意の特異性を有するげっ歯動物のモノクローナル抗体を産生することが可能となる。したがって、本発明の好ましい実施態様は、このような手法を使用して、PIF受容体に対するモノクローナル抗体を開発することができる。このような抗体は治療上有用であるが、このような抗体は、(前記で示唆したように)ヒトにおいては理想的な治療剤ではないことが理解されるであろう。理想的には、ヒトのモノクローナル抗体が、治療的な応用については好ましい選択である。しかしながら、一般的な細胞融合手法を使用したヒトmAbの産生は、現在のところ、それほど成功していない。ヒト化の問題点は、少なくとも部分的には、非-ヒト(例えば、げっ歯動物)mAbに由来するV領域配列、および、ヒト抗体に由来するC領域(そして理想的にはV領域に由来するFR)を使用する抗体を遺伝子操作することによって、解決することができる。得られた「遺伝子操作された」mAbは、由来のげっ歯動物のmAbに比べて、ヒトにおいて免疫原性が弱く、それ故、臨床的使用により適する。
【0046】
ヒト化抗体は、リコンビナントDNA手法を使用して、げっ歯動物のイムノグロブリン定常領域をヒト抗体の定常領域と置換した、キメラモノクローナル抗体でありうる。キメラH鎖およびL鎖の遺伝子を、適した調整エレメントを含む発現ベクター内へとクローニングし、哺乳動物細胞へと誘導し、完全にグリコシル化された抗体を産生することができる。この目的のために適切なヒトのH鎖C領域遺伝子を選択することによって、抗体の生物学的活性を、予め求めることができる。このようなキメラ抗体は、エフェクター機能を活性化する能力を、特定の治療用のためにテーラーメードすることができ、誘導する抗-グロブリン応答を減少させるという点で、非-ヒトモノクローナル抗体よりも優れている。
【0047】
このようなキメラ分子は、本発明による悪液質の好ましい治療剤である。RT-PCRを使用し、好ましいmAbからVHおよびVL遺伝子を単離し、クローン化してヒトドメインを有するmAbのキメラバージョンを構築するのに使用することができる。
【0048】
抗体の更なるヒト化には、抗体のCDR-グラフト化またはリシェイピング(reshaping)を含むことができる。このような抗体は、げっ歯動物のmAbの重鎖および軽鎖CDR(抗体の抗原結合部位を形成する)を、対応するヒト抗体のフレームワーク領域へと移植することによって産生される。
【0049】
本発明の第4、5または6の態様により使用する更に好ましい作用因子は、本発明の第1の態様による可溶性PIF受容体またはその機能的な誘導体もしくは断片である。PIF受容体は、細胞膜の複合的なタンパク質である。本発明者は、本発明の第1の態様による可溶性受容体を、標的組織に導入することができ、内因性PIFについて競合させることを見出した。可溶性受容体は、細胞間シグナル伝達経路にリンクしていないので、可溶性受容体に結合するPIFは、生理学的効果をもたらさない。したがって、このような作用因子は、PIF受容体媒介性悪液質を減少させるのに有効である。PIF受容体のペプチド断片も、本発明による作用因子として使用することができる。本発明者は、受容体上のPIF結合部位は、末端部分に存在しうると考えている。それ故、作用因子は、PIF受容体のN末端断片であることが好ましい。例えば、作用因子は、配列番号1(実施例3を参照)または配列番号13のペプチドとすることができる。
【0050】
本発明によって使用されるペプチド作用因子の誘導体は、in vivoでの作用因子の半減期を増加させる誘導体を含む。本発明によるポリペプチドの半減期を増加させることができる誘導体の例は、ペプトイド誘導体、D-アミノ酸誘導体およびペプチド-ペプトイドハブリッドを含む。
【0051】
本発明によるタンパク質およびペプチド作用因子は、様々な手法によって分解に供することができる(例えば、標的部位でのプロテアーゼ活性)。このような分解は、生物学的利用性を制限し、それ故、治療的有効性を制限しうる。生物学的状況下で安定性を増大させたペプチド誘導体をデザインし、産生する、十分に確立した多くの手法が存在する。このようなペプチド誘導体は、プロテアーゼ媒介分解に対する抵抗性を増大させた結果として、生物学的利用性を改善することができる。好ましくは、本発明による使用に適した誘導体は、それが由来するタンパク質またはペプチドよりも優れたプロテアーゼ抵抗性を有する。ペプチド誘導体、および、それが由来するタンパク質またはペプチドのプロテアーゼ抵抗性は、良く知られたタンパク質分解アッセイによって、評価することができる。その後、ペプチド誘導体およびペプチドについてのプロテアーゼ抵抗性の相対的な値を比較することができる。
【0052】
本発明によるタンパク質およびペプチドのペプトイド誘導体は、本発明の第1の態様による受容体の構造、または、本発明の第4、5もしくは6の態様による作用因子の構造の知識から容易にデザインすることができる。市販のソフトウェアも、十分に確立されたプロトコールに従って、ペプトイド誘導体を開発するのに使用することができる。
【0053】
レトロペプトイド(全てのアミノ酸が、逆の順番で、ペプトイド残基によって置換されている)も、本発明によるタンパク質またはペプチドを模倣することができる。レトロペプトイドは、ペプチドまたは1つのペプトイド残基を含むペプトイド-ペプチドハイブリッドと比較して、リガンド-結合溝において逆の方向で結合すると予想される。結果として、ペプトイド残基の側鎖は、元のペプチドの側鎖と同じ方向に向くことができる。
【0054】
本発明によるペプチドまたはタンパク質の改変形態の更なる実施態様は、D-アミノ酸形態を含む。この場合、アミノ酸残基の順番は、逆転する。L-アミノ酸ではなくD-アミノ酸を使用したペプチドの調製物は、このような誘導体の通常の代謝性プロテアーゼによる望ましくない分解を著しく減少させ、投与の頻度とともに、投与するのに必要な誘導体の量を減少させる。
【0055】
本発明の第4、5または6の態様による更に好ましい作用因子は、内因性PIF受容体転写産物に結合するアンチセンスDNAまたはRNA分子である。このようなアンチセンス分子は、PIF受容体の発現を低減させ、それ故、PIF媒介性活性も低減する。好ましいアンチセンス分子は、本発明の第2の態様による核酸のアンチセンスである。例として、受容体に対するアンチセンス分子の配列を示す:
5’GGCGAAGCCGGCGGTCAGCACGGCGGCGGTCTGGTACAGGGGCTGGGGCAGGGTGGCGCCGCCGCCGTTGATGTC…3’(配列番号12)
逆相補分子である配列番号12は、配列番号1のN-末端の25個のアミノ酸に対するアンチセンスとして作用する。
5’CAGCACGTTGGGGATCAGGTACAGCTTCTGGGGCAGGGTGGCGCCGCCGCCGTTGATGTC…3’(配列番号15)
逆相補分子である配列番号15は、配列番号13のN-末端の20個のアミノ酸に対するアンチセンスとして作用する。
【0056】
siRNAも、本発明による作用因子として使用することができる。siRNAは、遺伝子サイレンシング機能の一環をなし、RNA干渉(RNAi)として知られており、mRNAの配列特異的な分解をもたらし、遺伝子発現の標的化ノックアウトを可能とする。遺伝子サイレンシングにおいて使用されるsiRNAは、典型的にはそれぞれの3'端で2個のヌクレオチドが突出する、21ヌクレオチド長の二重鎖RNAを含むことができる。代替的に、ヘアピンループによって連結した、センスおよびアンチセンス配列を使用したショートヘアピンRNA(shRNA)を使用することができる。siRNAおよびshRNAの両方は、化学的に合成して、一過性RNAiのために細胞へと導入するか、遺伝子発現の長期間にわたる阻害のためにプロモーターから内因的に発現させることができる。本発明による作用因子として使用するためのsiRNA分子は、10から50ヌクレオチドの二重鎖RNAを含むことができる。好ましくは、本発明による作用因子として使用するためのsiRNAは、18から30ヌクレオチドを含む。より好ましくは、本発明による作用因子として使用するためのsiRNAは、21から25ヌクレオチドを含む。最も好ましくは、本発明による作用因子として使用するためのsiRNAは、21ヌクレオチドを含む。siRNAは、本発明の第2の態様による配列に基づく必要があることは、理解されるであろう。好ましい二本鎖siRNA分子は、配列番号11に由来する21から25の連続したヌクレオチドのセンス鎖を、相補的なアンチセンス鎖(例えば、配列番号12で定義されるアンチセンス鎖)に連結して、含む。代替的に、センスおよびアンチセンス配列を使用するshRNAは、本発明による作用因子として使用することができる。好ましくは、本発明による作用因子として使用することができる、センスおよびアンチセンス配列を使用するshRNAは、20から100ヌクレオチドを含む。より好ましくは、本発明による作用因子として使用することができる、センスおよびアンチセンス配列を使用するshRNAは、42ヌクレオチドを含み、そして、配列番号12に由来する相補的な21ヌクレオチドに連結した、配列番号11に由来する21ヌクレオチドを含むことができる(または、配列番号15に連結した配列番号14)。siRNAに関しては、shRNAは、本発明の第2の態様による配列に基づく必要があることは理解されよう。
【0057】
本発明者は、PIFが、オリゴサッカリド鎖を介して、受容体に結合すると認識している。したがって、他の好ましい作用因子は、PIFおよび/または受容体に存在するオリゴサッカリドと類似のオリゴサッカリドの立体配置を有する(例えば、硫酸コンドロイチンまたは他のスルホイドオリゴサッカリド)。このような作用因子は、受容体への結合についてPIFと競合し、それ故、悪液質を低減するのに有用である。
【0058】
本発明の第4、5または6による作用因子は、特に、組成物を使用する方法に応じて、多くの異なる形態をとりことができる。それ故、例えば、作用因子を含む組成物は、粉末、錠剤、カプセル、液体、軟膏、クローム、ゲル、ヒドロゲル、エアロゾル、スプレー、ミセル、経皮用パッチ、リポソーム、または、ヒトもしくは動物に投与することができる他の任意の適した形態とすることができる。本発明の組成物のベヒクルは、与えられた対象に十分耐性を有し、化合物の脳への伝達を可能にするベヒクルであることは理解されよう。
【0059】
本発明の組成物は、多くの方法で使用することができる。例えば、作用因子が、例えば、錠剤、カプセルまたは液体の形態で口で摂取することができる組成物内に含まれうる作用因子である場合は、全身投与が必要であろう。代替的に、組成物は、血流へ注入することによって、投与することができる。注入は、静脈内(ボーラス投与もしくは点滴)、皮下(ボーラス投与もしくは点滴)、筋肉内とすることができる。作用因子は、(例えば、鼻腔内に)吸引によって投与することができる。作用因子は、脳内、脳室内またはくも膜下腔内によって中枢へと投与することもできる。
【0060】
作用因子は、持続放出または遅延放出用のデバイス内に導入することもできる。このようなデバイスは、例えば、皮膚の上または下に挿入することができ、作用因子を、何週間にもわたり、あるいは何ヶ月にもわたって放出することができる。このようなデバイスは、特に、慢性的な疾患患者に有用であろう。デバイスは、特に、頻繁な投与を通常必要とする作用因子を使用する場合に(例えば、錠剤の少なくとも毎日の摂取または毎日の注入)、特に有用である。
【0061】
必要な作用因子の量は、生物学的活性および生物学的利用性によって求まり、この量は、使用する作用因子の投与の形態、物理化学的特性に依存し、そして、単剤療法または併用療法として使用するかに依存することは理解されるであろう。投与の頻度も、前記因子によって、特に、治療する対象内での作用因子の半減期によって影響を受ける。
【0062】
投与すべき最適な投与量は、当業者によって求めることができ、どの作用因子を使用するか、調製物の強度、投与形態、および疾患状態の進行(例えば、悪液質の重篤度またはガンの進行の段階)により変化する。対象の年齢、体重、性別、食事および投与時間を含む、治療する特定の対象に依存する更なる要素は、投与量を調整する必要性をもたらす。
【0063】
一般的に製薬業界で使用されている手順のような既知の手順(例えば、in vivo実験、臨床試験など)を、組成物の特定の処方および正確な治療計画(例えば、化合物の毎日の投与量および投与の頻度)を確立するのに使用することができる。
【0064】
一般的に、0.01μg/体重kgから1.0g/体重kgの作用因子(例えば、配列番号1に基づく可溶性受容体)の毎日の投与を、悪液質の治療のために使用することができる。使用する量は、どの作用因子を使用するかに依存する。より好ましくは、毎日の投与量は、0.01mg/体重kgから100mg/体重kgである。
【0065】
毎日の投与は、単一の投与として行うことができる(例えば、毎日摂取する経口投与用錠剤または毎日摂取する単一の注入として)。代替的に、使用する作用因子は、1日に2回以上の投与を必要とすることができる。例として、作用因子は、錠剤の形態で、25mgから5000mgの1日に2回(あるいは、悪液質の重篤度に依存して2回以上)の投与として、投与することができる。治療を受けている患者は、起床後に第1の投与を受け、その後、夕方に第2の投与を受け(2回の投与計画である場合)、または、その後に3もしくは4時間間隔で投与を受ける。代替的に、遅延放出デバイスを使用して、最適な投与を患者に、繰り返して投与を行う必要なく提供することができる。
【0066】
PIF受容体に対する抗体の、本発明による作用因子としての使用は、1週間に1回、2回または3回(あるいは、悪液質の重篤度に依存して更なる回数)、25mgから5000mgの抗体を、注入可能な形態で投与することを含むことができる。代替的に、遅延放出デバイスを使用して、最適な投与を患者に、繰り返して投与を行う必要なく提供することができる。
【0067】
本発明は、更に、治療的に有効な量の本発明の作用因子および医薬的に許容可能なベヒクルを含む医薬組成物を提供する。1つの実施態様においては、作用因子(例えば、可溶性受容体)の量は、約0.01mgから約800mgの量である。他の実施態様においては、その量は、約0.01mgから約500mgである。
【0068】
更なる実施態様においては、ベヒクルは液体であり、組成物は溶液である。他の実施態様においては、ベヒクルは固体であり、組成物は錠剤である。更なる実施態様においては、ベヒクルはゲルであり、組成物は座薬である。
【0069】
作用因子は、好ましくは、投与前に、医薬的に許容可能なベヒクルと組合せる。
【0070】
本発明においては、「治療的に有効な量」とは、作用因子が有効である疾患に罹患した対象に投与した場合に、除脂肪体重の保護を介して、悪液質の減少、緩和および退行を誘導する作用因子の量を指す。「対象」は、脊椎動物、哺乳類、家畜、または、好ましくはヒトである。
【0071】
本発明の実施においては、「医薬的に許容なベヒクル」は、医薬組成物を調合するのに有用な、当業者に知られた生理学的ベヒクルである。
【0072】
1つの実施態様においては、医薬ベヒクルは液体とすることができ、医薬組成物は溶液の形態である。他の実施態様においては、医薬的に許容可能なベヒクルは固体であり、組成物は粉末または錠剤の形態である。更なる実施態様においては、医薬ベヒクルはゲルであり、組成物は座薬またはクリームの形態である。更なる実施態様においては、作用因子または組成物は、医薬的に許容可能な経皮パッチの一部として調合することができる。
【0073】
固体のベヒクルは、芳香剤、潤滑剤、可溶化剤、懸濁化剤、フィラー、流動促進剤、圧縮補助剤、バインダーまたは錠剤崩壊剤としても作用することができる1つまたは複数の物質を含むことができる;また、封入材料とすることもできる。粉末においては、ベヒクルは、微粉化した活性成分との混合物中に存在する微粉化した固体である。錠剤においては、活性成分を、必要な圧縮特性を有するベヒクルと適した割合で混合し、望む形状および大きさに成型する。粉末および錠剤は好ましくは、99%までの活性成分を含む。適した固体ベヒクルは、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、スターチ、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリドン、低融点ワックスおよびイオン交換樹脂を含む。
【0074】
液体ベヒクルは、溶液、懸濁物、エマルジョン、シロップ、エリキシル剤および加圧組成物を調製するのに使用する。活性成分を、医薬的に許容可能な液体ベヒクル、例えば、水、有機溶媒、両者の混合物または医薬的に許容可能な油もしくは脂肪中に、溶解または懸濁することができる。液体ベヒクルは、他の適した医薬付加物、例えば、可溶化剤、乳化剤、バッファー、防腐剤、甘味剤、芳香剤、懸濁化剤、増粘剤、着色料、粘度調節剤、安定化剤または浸透圧調節剤を含むことができる。経口および非経口投与用の液体ベヒクルの適した例は、水(一部、前記の付加物、例えば、セルロース誘導体を含む溶液、好ましくは、カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコール(例えばグリコール)を含む)およびその誘導体、ならびに油(例えば、ヤシ油およびラッカセイ油)を含む。非経口投与については、ベヒクルは、また、油状エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルとすることができる。滅菌した液体ベヒクルは、非経口投与用の滅菌液体形態組成物に有用である。圧縮組成物についての液体ベヒクルは、ハロゲン化炭化水素または他の医薬的に許容可能な高圧ガスとすることもできる。
【0075】
滅菌した溶液または懸濁物である液体の医薬組成物は、例えば、筋肉内、髄腔内、硬膜外、腹腔内または皮下注入によって利用することができる。滅菌した溶液は、また、静脈内に投与することもできる。作用因子は、滅菌水、生理的食塩水または他の適切な滅菌注入媒体を使用して、投与と同時に溶解または懸濁できる滅菌した固体組成物として調製することができる。ベヒクルは、必須で不活性のバインダー、懸濁化剤、潤滑剤、芳香剤、甘味剤、防腐剤、色素およびコーティング剤を含むことを意図する。
【0076】
作用因子は、経口で、他の溶質または懸濁化剤(例えば、溶液に等張性を付与するのに十分な塩またはグルコース)、胆汁酸塩、アカシア、ゼラチン、モノオレイン酸ソルビタン、ポリソルベート80(ソルビトールのオレイン酸エステルおよびエチレンオキシドと共重合化したその無水物)などを含む滅菌溶液または懸濁物の形態で投与することができる。
【0077】
作用因子は、経口で、液体または固体組成物形態のいずれかでも投与することができる。経口投与に適した組成物は、固体形態、例えば、ピル、カプセル、顆粒、錠剤および粉末、ならびに液体形態、例えば、溶液、シロップ、エリキシル剤および懸濁液を含む。非経口投与に有用な形態は、滅菌溶液、エマルジョンおよび懸濁物を含む。
【0078】
作用因子は、医薬的に許容可能なベヒクルおよび他の治療活性剤を、投与前に組合せることができる。他の治療活性剤は、ガンまたは悪液質の治療用でありうる。
【0079】
PIF受容体の知識により、本発明者は、試験化合物が、本発明の第4、5または6の態様に使用できる作用因子であるかどうかを同定するためのスクリーニングを開発することが可能となった。それ故、本発明の第8の態様によれば、化合物が悪液質の治療に対して有効性を有するかどうかを試験するために、化合物をスクリーニングする方法であって、
(i)本発明の第1の態様によるPIF受容体を含む細胞または膜を、試験化合物に、予め決められた期間、暴露する工程;
(ii)PIF受容体の活性または発現を検出する工程;および
(iii)化合物で処理した細胞または膜におけるPIF受容体の活性または発現を、化合物で処理しなかったコントロール細胞または膜における活性または発現に対して比較する工程
を含み、悪液質の治療に対して有効性を有する化合物は、コントロールと比較して、PIF受容体の活性を減少させ、または発現を減少させる、方法を提供する。
【0080】
本発明の第8の態様による方法は、化合物が悪液質を誘導するかどうかを試験するために使用するように、適応させることができることは理解されるであろう。それ故、本発明の第9の態様によれば、化合物が悪液質を誘導するかどうかを試験するために、化合物をスクリーニングする方法であって、
(i)本発明の第1の態様によるPIF受容体を含む細胞または膜を、試験化合物に、予め決められた期間、暴露する工程;
(ii)PIF受容体の活性または発現を検出する工程;および
(iii)化合物で処理した細胞または膜におけるPIF受容体の活性または発現を、化合物で処理しなかったコントロール細胞または膜において見られる活性または発現に対して比較する工程
を含み、悪液質を誘導する化合物は、コントロールと比較して、PIF受容体の活性を増加させ、または発現を増加させる、方法を提供する。
【0081】
本発明の第8および9の態様による「PIF受容体の活性または発現を検出する」については、PIF受容体の「活性」とは、リガンド-受容体結合の検出;受容体媒介性細胞内シグナル伝達の検出;または、エンドポイント生理学的効果の測定を意味する。「発現」とは、細胞膜、小胞体もしくはゴルジ体中のいずれかにおける受容体タンパク質の検出;または、受容体タンパク質をコードするmRNAの検出を意味する。
【0082】
本発明のスクリーニング方法は、PIF受容体の発現および/または活性は、悪液質の発病に密接に関連しているという発明者の認識に基づく。
【0083】
本発明の第8または9の態様によって使用される細胞は、この方法がin vivoに基づく試験である場合、実験動物(例えば、マウスまたはラット)に含まれていてもよい。代替的に、細胞は、組織サンプル中に含まれていてもよく(例えば、ex vivoに基づく試験)、細胞は、培養液中で増殖させてもよい。このような細胞は、機能的なPIF受容体を発現し、または、機能的なPIF受容体を発現するように誘導することができることは理解されるであろう。
【0084】
また、PIF受容体を本来は発現しにくい細胞を、このような細胞が、本発明の第3の態様による発現ベクターを用いて形質転換させる場合は、使用することもできる。このような細胞は、本発明による使用のための好ましい試験細胞である。なぜならば、動物細胞、または、真核細胞でさえ、ヒトPIF受容体を発現するように形質転換することができ、それゆえ、ヒト治療用の候補薬剤の有効性を試験するための良好な細胞モデルとなりうるからである。
【0085】
本発明の第8および9の態様による方法は、また、PIF受容体を含む細胞膜または単離された可溶性PIF受容体の使用に基づくこともできる。このような膜は、好ましくは、前記の細胞に由来する。このような膜は、機能的PIF受容体を含まないが、膜が受容体結合に基づく方法において使用できるように調製することができる。
【0086】
PIF受容体の活性または発現は、多くの一般的な手法を使用して、測定することができる。
【0087】
試験は、イムノアッセイに基づく試験とすることができる。例えば、標識した抗体(好ましくは、本発明の第7の態様による標識した抗体)をイムノアッセイに使用して、細胞または細胞膜中の受容体レベルを評価することができる。このような試験は、特に、作用因子がPIF受容体の発現、分解または脱感作(desentisation)(すなわち、受容体リサイクリング)を調節するかどうかを評価する場合に、有用である。リガンド結合部位に対する抗体も、試験化合物がPIF受容体のアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを評価するのに使用することができる。
【0088】
代替的に、一般的な受容体結合アッセイ(例えば、放射性標識したPIFリガンドおよび/または放射性標識した試験化合物を使用)を、使用することができる。このようなアッセイは、PIF受容体を含む膜を、様々な濃度の[35S]-PIFに、競合させる試験化合物の存在下または非存在下で、暴露させる工程を含むことができる。膜を、遠心分離またはフィルター上での膜回収によって、バッファーから分離することによって、結合したサンプルに由来する放射線および遊離サンプルに由来する放射線を、カウントすることができる。好ましい受容体結合に基づくアッセイを、実施例に示す。
【0089】
代替的に、PIF活性を測定する機能的活性を使用することができる。例えば、悪液質の進展を、試験動物内でモニターすることができる。
【0090】
更にその上、分子生物学の手法を、PIF受容体を検出するのに使用することができる。例えば、cDNAを、試験した細胞または対象物から抽出したmRNA、および、cDNAから増幅させるために、定量ポリメラーゼ連鎖反応において使用する試験配列を増幅するようにデザインしたプライマーから産生することができる。
【0091】
対象(例えば、動物モデルまたはヒトPIF受容体を発現するように遺伝子操作した動物モデル)を使用する場合、試験化合物は、対象に、予め決められた期間投与し、その後、対象から、PIF受容体の活性または発現をアッセイするために、サンプルを摂取する。サンプルは、例えば、血液または生検組織とすることができる。しかしながら、アッセイは、機能的でありえ、この場合、エンドポイントは、試験した対象における悪液質のモニターリングとしうる。
【0092】
本発明は、以下の図面を参照し、実施例によって更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、処理無し(●)またはPN Gase Fとの24時間のインキュベーション後(■)またはO-グリコシダーゼとの24時間のインキュベーション後(▲)の、[3H]ペプチドPIFの、C2C12膜への結合を示す。
【図2】図2Aは、C2C12膜の電気泳動の結果、すなわち、1%Triton中で可溶化させ、50μgのタンパク質を、15%SDSポリアクリルアミドゲルの各ウェルへとロードしたC2C12膜の電気泳動の結果を示す。サンプルを電気泳動に供し、ブロッキングバッファー(0.1%Tween-20を含むPBS中の5%Marvel)中で一晩予めブロッキングさせておいたニトロセルロースフィルターに転写した。フィルターを、ブロッキングバッファー中で濃度を増やしていった[35S]-PIFを用いて、2時間室温でブロッティングした。[35S]-PIFの濃度は、レーン1が5nM、レーン2が10nM、レーン3が15nM、レーン4が30nM、レーン5が60nM、レーン6が80nM、レーン7が100nMであった。フィルターを、0.1%Tween-20を含むPBSで三回洗浄し、風乾し、オートラジオグラフィーのために処理した。40kDaのバンドを、各レーンから切除し、放射線を直接カウントした(19)。 図2Bは、ニトロセルロースフィルターの記録、すなわち、電気的に転写し、[35S]-PIF(30nM)を、単独で(レーン1)、非標識PIFと共に(10nM(レーン2)、20nM(レーン3)、40nm(レーン4)、80nM(レーン5)、160nM(レーン6)、320nM(レーン7))、ブロッキングバッファー中で、室温でブロッティングし、オートラジオグラフィーのために処理した膜タンパク質のニトロセルロースフィルターの記録を示す。
【図3】図3は、15%SDS-PAGE上で電気泳動したC2C12膜の、単離した放射線を有するフラクションを示し、受容体は、約Mr40kDaの単一のタンパク質として存在する(1 - 分子量マーカー、2,3,4 - カラムに由来するフラクション。
【図4】図4は、PIF受容体のN-末端断片(10μM)の非存在下(■)および存在下(網掛けグラフ)での、C2C12筋細管における、PIFに応答するタンパク質分解のグラフを示す。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、aはp<0.05、bはp<0.01、cはp<0.001である。Rペプチドグループとコントロールグループとの間の差については、dはp<0.05、eはp<0.01、fはp<0.001である。
【図5】図5は、PIF受容体のN-末端断片(10μM)の非存在下(□)および存在下(■)での、C2C12筋細管における、PIFに応答するキモトリプシン様酵素活性のグラフを示す。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、aはp<0.05であり、Rペプチドグループとコントロールグループとの間の差については、dはp<0.05である。
【図6A】図6Aは、C2C12筋細管における、PIFおよびPIF受容体ペプチドに応答する20Sプロテアソームα-サブユニットの発現を示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はRコントロール、レーン7はRおよびPIF 2.1nM、レーン8はRおよびPIF 4.2nM、レーン9はRおよびPIF 10.5nM、レーン10はRおよびPIF 16.8nM)。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、aはp<0.05であり、Rペプチドグループとコントロールグループとの間の差については、dはp<0.05、eはp<0.01である。
【図6B】図6Bは、C2C12筋細管における、PIFおよびPIF受容体ペプチドに応答するMSS1の発現を示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はRコントロール、レーン7はRおよびPIF 2.1nM、レーン8はRおよびPIF 4.2nM、レーン9はRおよびPIF 10.5nM、レーン10はRおよびPIF 16.8nM)。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、bはp<0.05であり、Rペプチドグループとコントロールグループとの間の差については、eはp<0.01、pはp<0.001である。
【図6C】図6Cは、C2C12筋細管における、PIFおよびPIF受容体ペプチドに応答するp42の発現を示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はRコントロール、レーン7はRおよびPIF 2.1nM、レーン8はRおよびPIF 4.2nM、レーン9はRおよびPIF 10.5nM、レーン10はRおよびPIF 16.8nM)。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、aはp<0.05であり、Rペプチドグループとコントロールグループとの間の差については、dはp<0.05、eはp<0.01である。
【図6D】図6Dは、C2C12筋細管における、PIFおよびPIF受容体ペプチドに応答するE214kの発現を示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はRコントロール、レーン7はRおよびPIF 2.1nM、レーン8はRおよびPIF 4.2nM、レーン9はRおよびPIF 10.5nM、レーン10はRおよびPIF 16.8nM)。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、bはp<0.01であり、Rペプチドグループとコントロールグループとの間の差については、eはp<0.01である。
【図6E】図6Eは、C2C12筋細管における、PIFおよびPIF受容体ペプチドに応答するミオシンの発現を示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はRコントロール、レーン7はRおよびPIF 2.1nM、レーン8はRおよびPIF 4.2nM、レーン9はRおよびPIF 10.5nM、レーン10はRおよびPIF 16.8nM)。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、aはp<0.05であり、Rペプチドグループとコントロールグループとの間の差については、dはp<0.05、eはp<0.01である。
【図7】図7は、50%の飽和硫酸アンモニウムの添加に続くプロテインAカラムクロマトグラフィーによる抗体の精製後に実施した、抗-受容体抗血清を使用した、ウェスタンブロッティングの写真を示す。レーン1:精製した受容体 5μgのタンパク質レーン2:精製した受容体 10μgのタンパク質レーン3:精製した受容体 20μgのタンパク質レーン4:クルードな膜フラクション 20μgのタンパク質レーン5:クルードな膜フラクション 30μgのタンパク質レーン6:クルードな膜フラクション 40μgのタンパク質
【図8】図8は、5から15μg/mlの濃度のPIF受容体に対する抗体の、PIFによる誘導されるin vitroでのタンパク質分解に及ぼす効果を示す。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、bはp<0.01であり、コントロールと抗-受容体との間の差については、dはp<0.05、eはp<0.01である。
【図9】図9は、PIF受容体に対する抗体の、キモトリプシン様酵素活性のPIF誘導性の増加に及ぼす効果を示す。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、cはp<0.001であり、コントロールと抗-受容体との間の差については、dはp<0.05、eはp<0.01である。
【図10A】図10Aは、C2C12筋細管における、PIFおよび抗-受容体抗体(10μg/ml)に応答する20Sプロテアソームα-サブユニットの発現を示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はαPIF Abコントロール、レーン7はαPIF AbおよびPIF 2.1nM、レーン8はαPIF AbおよびPIF 4.2nM、レーン9はαPIF AbおよびPIF 10.5nM、レーン10はαPIF AbおよびPIF 16.8nM)。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、cはp<0.001であり、抗-受容体10mg/mlとPIFとの間の差については、fはp<0.001である。
【図10B】図10Bは、C2C12筋細管における、PIFおよび抗-受容体抗体(10μg/ml)に応答するMSS1の発現を示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はαPIF Abコントロール、レーン7はαPIF AbおよびPIF 2.1nM、レーン8はαPIF AbおよびPIF 4.2nM、レーン9はαPIF AbおよびPIF 10.5nM、レーン10はαPIF AbおよびPIF 16.8nM)。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、bはp<0.01、cはp<0.001であり、抗-受容体10mg/mlとPIFとの間の差については、dはp<0.05、eはp<0.01、fはp<0.001である。
【図10C】図10Cは、C2C12筋細管における、PIFおよび抗-受容体抗体(10μg/ml)に応答するp42の発現を示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はαPIF Abコントロール、レーン7はαPIF AbおよびPIF 2.1nM、レーン8はαPIF AbおよびPIF 4.2nM、レーン9はαPIF AbおよびPIF 10.5nM、レーン10はαPIF AbおよびPIF 16.8nM)。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、cはp<0.001であり、抗-受容体10mg/mlとPIFとの間の差については、fはp<0.001である。
【図10D】図10Dは、C2C12筋細管における、PIFおよび抗-受容体抗体(10μg/ml)に応答するE214kの発現を示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はαPIF Abコントロール、レーン7はαPIF AbおよびPIF 2.1nM、レーン8はαPIF AbおよびPIF 4.2nM、レーン9はαPIF AbおよびPIF 10.5nM、レーン10はαPIF AbおよびPIF 16.8nM)。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、aはp<0.05、bはp<0.01であり、抗-受容体10mg/mlとPIFとの間の差については、dはp<0.05、eはp<0.01である。
【図10E】図10Eは、等量のタンパク質(PIFおよび抗-受容体抗体、10μg/ml)を、図AからDにおいてロードしたことを示すためのローディングコントロールとしての、アクチンブロットを示す(レーン1はPBSコントロール、レーン2はPIF 2.1nM、レーン3はPIF 4.2nM、レーン4はPIF 10.5nM、レーン5はPIF 16.8nM、レーン6はαPIF Abコントロール、レーン7はαPIF AbおよびPIF 2.1nM、レーン8はαPIF AbおよびPIF 4.2nM、レーン9はαPIF AbおよびPIF 10.5nM、レーン10はαPIF AbおよびPIF 16.8nM)。
【図11A】図11Aは、抗-PIF IgG存在下および非存在下での、i.p.処理を毎日行った、MAC16腫瘍を有するマウスにおける体重の変化を示す。cは、一元配置の分散分析後のTukeyのポストテストによる、コントロールからの統計学的有意さp<0.001を示す。
【図11B】図11Bは、抗-PIF IgGで処理した、および、抗-PIF IgGで処理しなかった、MAC16腫瘍を有するマウスにおける腫瘍体積を示す。
【図12A】図12Aは、抗-PIF IgGで処理した、および、抗-PIF IgGで処理しなかった、MAC16腫瘍を有するマウスのヒラメ筋におけるタンパク質合成を示す。aは、一元配置の分散分析後のTukeyのポストテストによる、コントロールからの統計学的有意さp<0.05を示す。
【図12B】図12Bは、溶媒で処理したコントロールと比較した、体重に対する平筋の重さを示す。統計学的分析:グループ間の平均の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。溶媒からの差については、bは<0.01である。
【図12C】図12Cは、PIF受容体抗体(3.47mg/kg)についての、in vivoでのチロシン放出アッセイの結果を示す。統計学的分析:グループ間の平均の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。溶媒からの差については、cはp<0.001である。
【図12D】図12Dは、抗-受容体抗体(3.47mg/kg)の、腓腹筋におけるキモトリプシン様酵素活性に及ぼす効果を示す。統計学的分析:グループ間の平均の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。溶媒からの差については、aはp<0.05、bは<0.01である。
【図13A】図13Aは、腓腹筋における、抗-受容体抗体(3.47mg/kg)に応答する20Sプロテアソームα-サブユニットの発現を示す。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、cはp<0.001であり、抗-受容体とMAC16グループとの間の差については、fはp<0.001である。
【図13B】図13Bは、腓腹筋における、抗-受容体抗体(3.47mg/kg)に応答するMSS1の発現を示す。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、bはp<0.01であり、抗-受容体とMAC16グループとの間の差については、dはp<0.05である。
【図13C】図13Cは、腓腹筋における、抗-受容体抗体(3.47mg/kg)に応答するp42の発現を示す。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、aはp<0.05であり、抗-受容体とMAC16グループとの間の差については、eはp<0.001である。
【図13D】図13Dは、腓腹筋における、抗-受容体抗体(3.47mg/kg)に応答するE214kの発現を示す。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、bはp<0.01であり、抗-受容体とMAC16グループとの間の差については、eはp<0.001である。
【図13E】図13Eは、腓腹筋における、抗-受容体抗体(3.47mg/kg)に応答するミオシンの発現を示す。統計学的分析:グループ間の平均値の差は、一元配置の分散分析後の、Tukeyのポストテストによって求めた。コントロールからの差については、bはp<0.01であり、抗-受容体とMAC16グループとの間の差については、dはp<0.05である。
【図13F】図13Fは、等量のタンパク質を、図AからEにおいてロードしたことを示すための、腓腹筋における、抗-受容体(3.47mg/kg)に応答する、アクチンコントロールローディングブロット発現を示す。
【実施例】
【0094】
(実施例1)
本発明は、様々な組織におけるPIF結合部位を研究および特徴付けるために実施した以下の実験に基づく。
【0095】
(1.1 材料と方法)
(化合物)
ウシ胎児血清、RPMI1640およびダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を、GIBCO-BRL(Scotland, United Kingdom)から購入した。
MAC16モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞ラインの培養培地(Todorov, P.T., McDevitt, T.M., Cariuk, P., Coles, B., Deacon, M. and Tisdale, M.J. Induction of muscle protein degradation and weight loss by a tumor product. Cancer Res., 56: 1256-1261, 1996.)から、プロテインA-セファロースカラムを用いて、単離した。
L-[2,6-3H]フェニルアラニン(比活性54 Cimmol-1)およびNa235SO4(比活性10-100 Cimmol-1)を、Amersham Int.(Buckinghamshire, United Kingdom)から購入した。
全ての化合物は、Sigma Chemical Co.(Dorset, United Kingdom)から購入した。Optiphase Hisafe 3シンチレーション液体(scintillation fluid)は、Fisons(Loughborough, United Kingdom)から供給された。
【0096】
(細胞培養および腫瘍増殖)
C2C12マウス筋芽細胞ラインを、60×15mmのペトリディッシュを用いて、12%のウシ胎児血清、1%の非-必須アミノ酸および1%のペニシリン-ストレプトマイシンを補足した3mlのDMEM中で、5%のCO2の加湿環境下37℃で増殖させた。筋芽細胞を用いる全ての実験を、サブコンフルエント状態の細胞で実施した。MAC16細胞は、5%のウシ胎児血清を含むRPMI 1640倍地中で、37℃で5%のCO2雰囲気下で維持した。正常なヒト筋肉細胞Hs94Muを、European Collection of Cell Cultures (Wiltshire, United Kingdom)から入手し、2mMのグルタミンおよび10%のウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地中で、5%のCO2雰囲気下で維持した。生合成標識のために、細胞懸濁物は、Na235SO4(1μCiml-1)を、48時間、1.5%の透析したウシ胎児血清を含むRPMI 1640倍地中で含んでいた。
本発明者自身がコロニー中で生育した純系NMRIマウスを、規定した体重減少を有するドナー動物から切除したMAC16腫瘍の小部分を用いて脇腹に移植した。移植後10から12日で、腫瘍がはっきりとわかり、体重減少は明らかになった。MAC13腫瘍の小部分を、同じ手法で移植した。この腫瘍は、増殖中に体重減少をもたらさない。
【0097】
(標識したPIFの精製)
細胞を、低速遠心分離(1500rpmで5分間のベンチ-トップ遠心)によって沈殿させた。細胞ペレットを、0.5mMのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、0.5mMのEGTAおよび1mMのジチオトレイトールを含む1mlの10mM Tris HCl, pH8.0で再懸濁し、超音波発振器を使用して溶解させた。遠心後(15,000rpm20分間)、固体の硫酸アンモニウム(38%w/v)を、攪拌しながら上清にゆっくりと加えて、混合物を一晩4℃で保存した。ソニケーティングバッファーに対する、10,000の分子量カットオフを有する膜フィルターを含むAmicon filtration cellを用いた限外濾過によって、塩をサンプルから除去した。Affi-Gel Hz(Bio-Rad, Hemel Hempstead, United Kingdom)にカップリングさせ、10mMのTris HCl, pH8.0で平衡化したMAC16モノクローナル抗体(Todorov, et al. Cancer Res. supra)を含むアフィニティカラム上に、濃縮したサンプルをロードした。5ml h-1の流速で一晩循環させ、カラムを10mMのTris HCl, pH8.0で洗浄し、保持された物質を、100mMのTris HCl, ph2.5で溶出した。1MのTris HCl, pH8.0を用いて中和した後、放射線を含むフラクションを、水に対するAmicon filtrationによって濃縮し、更に、記載されているように(Todorov, et al. Cancer Res. supra and Todorov, et al. Nature. supra)、Brownlee Aquopore RP-300 C8カラムおよび水中でのアセトニトリルグラジエントを用いた疎水性クロマトグラフィーによって精製した。55%のアセトニトリルで溶出する物質を、水に対して、10,000の分子量カットオフを有する膜フィルターを含むAmicon filtration cellを使用して、濃縮した。
【0098】
(膜の単離)
筋繊維膜を、基本的には記載されているように(Ohlendieck, K., Ervasti, J.M., Snook, J.B. and Campbell, K.P. Dystrophin-glycoprotein complex is highly enriched in isolated skeletal muscle sarcolemma. J. Cell Biol., 112: 135-148, 1991)、MAC16またはMAC13腫瘍のいずれかを有するマウスの腓腹筋腓腹筋(5g)を切除し、20mMのピロリン酸ナトリウム、20mMのリン酸ナトリウム、1mMのMgCl2、0.303Mのスクロース、0.5mMのEDTA、pH7.0(プロテアーゼ阻害剤アプロチニン(76.8nM)、リューペプチン(1.1μM)、ペプスタチンA(0.7μM)、ベンズアミド(0.83mM)、ヨードアセトアミド(1mM)およびPMSF(0.23mM)を含む)中でホモゲナイズした。ホモジネートを、30,000×gで30分間遠心した。固体KClを最終濃度0.6Mになるように加え、その後、142,000gで35分間遠心分離することによって、軽ミクロソームを上清から得た。ペレットを、0.303Mのスクロース、20mMのTris-マレート、pH7.0(バッファーB)中に懸濁し、再度、KClで処理し、その後、記載したように遠心した。軽ミクロソームの最終的なペレットを、0.6MのKClを含むバッファーB(6ml)で懸濁し、1mlのサンプルを、7mlの0.878Mスクロース、0.6M KCl、20mM Tris-マレート、pH7.0上に、遠心管内でロードし、112,000gで17時間遠心した。0.303M/0.878Mスクロース界面に存在するクルードの表面膜フラクションを回収し、バッファーB中で再懸濁し、-80℃で凍結保存した。ブタの筋肉に由来する筋繊維膜は、同じ手法によって調製した。
【0099】
(C2C12細胞膜について)
ホモジナイゼーションは、20mMのHEPES、pH7,4、1mMのEDTA、0.5mMのPMSFおよび1mMのDTT中で、4℃で実施した。ホモジネートを、20,000rpmで30分間遠心し、同じバッファーで洗浄した。ペレットを結合試験のために使用した。脂肪細胞の細胞膜を、オスのBKWマウスの精巣上体脂肪組織から、Belsham et al.の手法の改良によって、調製した(Belsham, G.J., Denton, R.M. and Tanner, M.J.A. Use of a novel rapid preparation of fat-cell plasma membranes employing percoll to investigate the effects of insulin and adrenaline on membrane protein phosphorylation within intact fat cells. Biochem. J., 192: 457-467, 1980)。本質的には、細胞膜は、細胞ホモジネートの他のコンポーネントから、自己密度勾配パーコールを使用して単離した。膜フラクションを、NaClバッファー中で洗浄し、10mMのTris HCl、pH7.4、250mMのスクロース、2mMのEGTAおよび4μMのPMSF中で、1-2mg ml-1に希釈し、液体窒素で即座に凍結して、使用まで-70℃で保存した。肝細胞の細胞膜を、脂肪細胞についての細胞膜と類似のスキーム(ただし、肝細胞のために改変(Nakamura, T., Tomomura, A., Noda, C., Shimoji, M. and Ichihara, A. Acquisition of a β-adrenergic response by adult rat hepatocytes during primary culture. J. Biol. Chem., 258: 9283-9289, 1983))によって精製した(Belsham et al. Supra)。
【0100】
(結合試験)
膜(200μlのPBSに懸濁した200μgのタンパク質)を、24時間4℃で、50μlのPBS中の様々な濃度の[35S]PIFとインキュベートした(詳細は図に示す)。結合した[35S]PIFに由来する放射線および遊離[35S]PIFに由来する放射線を、5分間13,000gで遠心することによって分離した。
【0101】
(PIFのモノクローナル抗体についての親和定数(Kaff)の測定)
固定した微量の抗原を、段階的に希釈した抗体に結合することが可能である場合に、結合した抗体と遊離の抗体とが測定できるならば、抗体の抗原に対する親和性は、見積もることができる。最大結合の半分結合する時の抗体の濃度が、親和性の程度である。
モノクローナル抗体を、記載されているように(Todorov, et al. Cancer Res. supra)、ハイブリドーマの組織培養上清から、タンパク質Aカラムを使用して精製した。抗体の段階的な希釈は、2%の仔ウシ血清および1%のTween20を含む希釈液0.25MのTris HCl、pH8.5を用いて実施し、104から105の希釈係数とした。PIFを、記載されているように(Todorov, et al. Nature. supra)、ヨード化し、前記の希釈液で、50μlで2×104cpmを含むように希釈した。希釈したモノクローナル抗体(100μl)をチューブに分注し、その後、125I PIF(50μl)を加え、チューブを、2時間室温でインキュベートした。その後、プロテインA-セファロース(100μl)を加え、チューブを更に2時間振盪した。希釈液(3ml)を加え、チューブを遠心し、デカンテーションを行い、更に3mlの希釈液で洗浄した。最終的に沈殿した固相を、ガンマカウンターでカウントした。
【0102】
([35S]PIFの競合的結合)
PBS(250μl)中のC2C12膜(200μg)を、1、5、10、50、100、500または1000ngのモノクローナル抗体、コンドロイチン、デルマタンまたはヘパラン硫酸のいずれか、および、20nM(480ng)の[35S]PIFと、一晩4℃でインキュベートした。結合したサンプルに由来する放射線を、13,000gで5分間遠心分離によって得られたペレット中の放射線から求めた。
Kaffは、Mullerの方法(Muller, R. Calculation of average antibody affinity in anti-hapten sera from data obtained by competitive radioimmunoassay. J. Immunol. Methods, 34: 345-352, 1980)の改変(Clark, B.R. and Todd, C.W. Avidin as a precipitant for biotin-labelled antibody in a radioimmunoassay for carcinoembryonic antigen. Anal. Biochem., 121: 257-262, 1982)によって求めた。
【0103】
【数1】

【0104】
(式中、Itは、PIF結合を50%阻害するときの阻害剤の濃度を示し、Ttは、総PIF濃度を示し、bは、阻害剤の非存在下での結合したPIFの割合を示す)
【0105】
(タンパク質分解の測定)
C2C12筋芽細胞を、L-[2,6-3H]フェニルアラニン(0.5μCi 比活性0.72Ci mmol-1)を用いて、24時間標識した。標識後、細胞を洗浄し、新鮮な培地(3ml)中で、PIFおよびシクロヘキシミド(1μM)の存在下で、必要な時間インキュベートし、培地に放出された放射線の量を測定した。タンパク質に結合した放射線は、細胞を3回、氷冷したPBS(1ml、pH7.4)で洗浄し、その後、残ったPBSを除去して、インキュベーションを、4℃で20分間、0.2Mの過塩素酸(1ml)とともに続けることによって測定した。過塩素酸を除去し、1mlの0.3M NaOHを用いて4℃で30分間置換し、更に37℃で20分間インキュベーションを行った。溶解した細胞タンパク質を含むNaOH溶液を、新しいチューブに移し、更に1mlの0.3M NaOHを使用して、ディッシュをリンスした。タンパク質分解の割合は、インキュベーション培地へと放出される放射線をタンパク質に結合した放射線で割ることによって計算した。
【0106】
(1.2 結果)
結合試験は、生合成により標識したMAC16細胞によって得られた[35S]PIFを使用して実施した。この放射性リガンドは、細胞上清から、アフィニティクロマトグラフィーと、その後のC8カラムを用いた逆相HPLCとの組合せを使用して、精製した。リガンド結合試験は、マウスの筋芽細胞ラインC2C12(結果を示さず)およびヒトの筋肉細胞ラインHs 94 MU(結果を示さず)から単離した膜を使用して実施した。両方の種において、結合反応のスキャッチャード分析により、Kd〜10-10Mおよび10-9Mを有する2つの結合部位についての証拠が得られた(表1)。類似の結合部位は、ブタから単離された筋繊維膜において見出された(結果を示さず)。MAC16腫瘍(結果を示さず)およびMAC13腫瘍(結果を示さず)を有するNMRIマウスの腓腹筋から単離した筋繊維膜においては

、肝臓の細胞膜と同様に(表1)、2つの結合部位が観察され、低い親和性の結合部位のKdが、10-9から10-10Mへと減少した。MAC13腫瘍を有するマウス(悪液質を誘導しない)に由来する筋繊維膜に見出された受容体の数と比較して、MAC16腫瘍を有する悪液質のマウスにおいて、受容体の数が上方制御される証拠は存在しなかった。ヒラメ筋および心臓に由来する細胞膜も、PIFに関する2つの結合部位についての証拠を示した(表1)のに対して、如何なる受容体も、腎臓または脂肪組織上では検出されなかった。
【0107】
【表1】

【0108】
PIFの生物学的活性は、N-およびO-結合オリゴサッカリド鎖がペプチド:N-グリコシダーゼF(PNGase F)またはエンド-α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(O-グリコシダーゼ)とのインキュベーションによって除去された場合は、消失する。PIFの脱グリコシル化の、受容体への結合に対する効果を求めるために、MAC16細胞をL-[2,5-3H]ヒスチジンとインキュベートすることによって産生した標識化PIFを用いて、実験を行った。PNGase FまたはO-グリコシダーゼと24時間インキュベーションした後では、[3H]PIFの結合は、実質的に減少しており(図1)、標識化したポリペプチド鎖の膜への非特異的な結合のみ生じていた。
【0109】
モノクローナル抗体へのPIFの結合親和性(Kaff 108M-1)は、マウスの受容体上の高いまたは低い親和性部位に対する結合よりも低いことが見出された(結果を示さず)。しかしながら、モノクローナル抗体を、C2C12膜に、1から1000ng/250μlの濃度で加えた場合、受容体に対する結合は、効果的に阻害された(Kd 1.4×10-8M)。モノクローナル抗体は、PIF後に加えた場合、膜受容体とのPIFへの競合について効果的ではなくなった(Kd 5.8×10-7M)。
【0110】
PIFは、硫酸化された糖タンパク質であるが、オリゴサッカリド鎖は、プロテオグリカンとある程度の類似性を有し、コンドロイチナーゼABCは、抗原決定基を破壊するので、分子量は減少するが、オリゴサッカリドに対応する如何なる低分子量の物質も得られなかった。このことは、受容体へのPIFの結合が、プロテオグリカンによって弱められることを示唆している。このことを試験するため、アッセイ当り5から5000ngの濃度のコンドロイチン、デルマタンおよびヘパラン硫酸が、C2C12膜上の受容体へのPIFの結合に及ぼす効果を求めた。3つのプロテオグリカンの中で、コンドロイチン硫酸だけが、Kd 1.1×10-7Mを有する結合の競合阻害を示した(結果を示さず)。
【0111】
15%SDS-PAGEで電気泳動し、ニトロセルロースフィルターへ移した、C2C12細胞に由来するトリトン可溶化膜への[35S]PIFのリガンドブロッティングにより、約Mr40,000を有する結合タンパク質についての証拠が提供された(図2A)。
【0112】
非-標識化PIFの濃度を増加させることにより、結合タンパク質に由来する放射線が置換され(図2B)、このことにより、受容体に対する結合が特異的であることが確認された。
【0113】
C2C12筋芽細胞は、PIFに対する受容体を有するので、この細胞ラインにおいて機能的活性を確立することが重要である。タンパク質分解に対するPIFの効果を、L-[2,6-3H]フェニルアラニンの、シクロヘキシミドの存在下での、24時間予め標識した細胞からの放出によって、測定した。タンパク質の分解率の増加は、PIFの添加後6時間で観察され、0.98から1.4nMの濃度で最高になった(結果を示さず)。この値は、この細胞ラインに対するPIFの結合親和性と近い値であった。PIFの濃度を増すことにより、フェニルアラニン放出が減少することは、2つの結合部位間のネガティブな共同的相互作用を示唆する。タンパク質分解率が増加することは、より長い期間にわたって(24および48時間)、0.14から1.4nMのPIFの濃度で観察された。
【0114】
(1.3 考察)
PIFによる骨格筋におけるタンパク質分解を誘導するためには、細胞間タンパク質分解システムの活性化へとメッセージを伝達することができる筋肉タンパク質受容体との特異的な相互作用が存在する必要がある。PIFは、高度にグリコシル化されており、硫酸化糖タンパク質であるので、PIFは、膜に結合していると思われる。この度の研究の結果により、筋肉細胞内におけるPIFに対する特異的で高い親和性を有する結合部位についての証拠が提示された。結合親和性は、インスリンについて観察された結合親和性に匹敵するものであり、PIFの精製に使用されてきたモノクローナル抗体への結合の10から100倍の大きな親和性を示した。しかしながら、高い濃度の抗体は、PIFを膜受容体から置換することができた。このことは、なぜ高い濃度の抗体が、PIFの生物学的効果を中和するのに必要であるかということを説明する。抗体へのPIFの結合と同様に、受容体への結合は、恐らく、硫酸化オリゴサッカリド鎖を介して媒介される。なぜならば、結合は、特異的にコンドロイチン硫酸によって阻害されるが、関連したプロテオグリカンであるデルマタンおよびヘパラン硫酸によっては阻害されないからである。加えて、酵素的な脱グリコシル化により、受容体へのPIFの特異的な結合の喪失がもたらされる。高い結合親和性は、恐らく、PIFと受容体との間の静電相互作用に由来する。
【0115】
PIFの、マウス、ブタおよびヒトに由来する筋肉膜への結合のスキャッチャードプロットは、非直線であり、このことは、2つの異なる部位が存在するか、結合部位間の共同的な相互作用が存在することを示している。15%SDS-PAGEで電気泳動した、[35S]PIFの、C2C12細胞に由来するトリトン可溶化膜へのリガンドブロッティングにより、約Mr40,000を有する結合タンパク質についての証拠が提供された。結合定常状態の曲線のスキャッチャードプロットは、多くのホルモンおよび非ホルモンシステムについて記載されている。インスリンについては、結合部位におけるネガティブな共同性を示すことが示されている。このことにより、受容体への結合は、低い濃度のホルモンで好ましく、ホルモンの濃度が増すと、より困難になるというメカニズムがもたらされた。このような効果は、PIFによって誘導されるC2C12細胞におけるタンパク質分解において明白であり、この場合は、ベル型用量応答性曲線が観察される。以前の研究では、PIFによって誘導された単離されたヒラメ筋および腓腹筋におけるタンパク質分解についての同じような用量応答性曲線を示唆していた。加えて、腫瘍を有する動物における増加したタンパク質分解は、腫瘍の大きさが大きくなると、減少することが報告されている。これらの結果は、PIF結合部位間のネガティブな共同的相互作用を示唆している。
【0116】
我々は、最近、PIFが、MAC16腫瘍を有する悪液質のマウスにおいて、骨格筋の喪失を担っていることを確認した。しかしながら、骨格筋におけるPIFについての多くの結合部位は、悪液質を誘導しないMAC16腫瘍およびMAC13腫瘍を有するマウスにおいて類似であり、このことは、悪液質の工程中の筋肉タンパク質の分解の誘導は、受容体の上方制御が原因ではないことを示唆している。その代わりに、腫瘍によるPIFの産生に関連していることは明らかである。なぜならば、尿分析により、PIFが、体重減少を伴うガン患者においてのみ存在しており、体重が安定なガン患者または非-ガン患者に存在しないことが示されたからである。それ故、腫瘍によるPIFの産生は、筋肉タンパク質の分解の構成的活性化をもたらす。
【0117】
組織内のPIF受容体の分布は、PIFの、骨格筋タンパク質の異化作用における役割に相応している。C2C12筋芽細胞内のタンパク質分解の割合は、PIFに対する応答において、50から90%まで増加することが示され、その最大刺激は、0.98から1.4nMの濃度であり、この値は、受容体へのPIFの結合親和性の値に近い。肝臓は、骨格筋で観察されるようなタンパク質分解よりもむしろ、体重を増加させることによって、PIFに反応するので、PIF受容体の肝臓での役割は知られていない。このことは、肝臓内のPIF受容体は、タンパク質分解を活性化するセカンドメッセンジャーシステムに連結していないことを示唆している。受容体は、PIFを、循環から除去するのに使用することができ、または、他のシステムの活性(肝細胞における急性期反応)をもたらすことができる。
【0118】
現在までの我々の研究は、ガンの悪液質との関連でPIFを同定したにすぎず、他の体重減少を伴う状態との関連では同定していない。それ故、PIFへの事前の暴露が無くとも、このような因子についての受容体を有する筋肉を見出すことは興味がある。受容体の結合親和性および分子量は、マウス、ブタおよびヒトにおいて類似しているようであり、種をまたぐ機能の普遍性が示唆された。(例えば、食事での摂取不足またはTNF-α-誘導性代謝変化の間の)骨格筋の異化を調節する天然に存在するアゴニストは知られていないが、受容体の交差反応性の点で、PIFに似ているかもしれない。骨格筋におけるタンパク質異化を制御する細胞間の工程についてはほとんど知られていないが、最終的には、ATP-ユビキチン-依存性タンパク質分解システムの活性化がもたらされると考えられる。
【0119】
(実施例2)
PIF結合部位の特徴づけを行ったので(実施例1参照)、本発明者は、実験を進めて、本発明の第1の態様によるPIF受容体を単離し、配列を決定した。
【0120】
(C2C12筋細管に由来するPIF受容体の単離)
本発明者は、コムギ胚芽凝集素(Wheat Germ Agglutinin;WGA)が(セファデックスと結合した場合に)、PIFのオリゴサッカリド鎖と結合することを確立した。このことにより、PIFとのインキュベーションに続く、WGAを用いたレシチンクロマトグラフィーを用いて、PIF受容体を効率的に単離することが可能となった。
【0121】
C2C12膜サンプルは、受容体バッファー中(20mMのHEPES、pH 7.4、1mMのEDTA、0.5mMのPMSF、1mMのDTT、4℃で)で超音波処理して、20,000rpmで20分間遠心することによって調製した。ペレットを洗浄し、1% Tritonで30分間可溶化した。その後、サンプルを、PBSに対して、一晩4℃で透析した。200μlの可溶化した透析サンプルを、35S PIFを用いて24時間4℃で、プロテアーゼ阻害剤の存在下でインキュベートし、その後、PIF受容体を、WGAカラムを使用して精製した。カラム(1mlベッド、10mg WGA/ml)を、サンプルとともにロードし、20倍の容積の洗浄バッファー(0.02%のNaN3を添加した10mMのTris、pH 7.4)を用いて洗浄した。受容体の溶出を、洗浄バッファー中の0.1MのN-アセチルグルコサミンを用いて行った。10本のフラクション(1ml)を回収し、プロテアーゼ阻害剤の存在下で、4℃で保存した。
【0122】
放射線を有するフラクションを、10kDa未満の分子量を有するタンパク質をカットオフする膜を備えたMicrocon遠心分離を用いて濃縮し、15%SDS-PAGE上で電気泳動した(図3)。受容体は、分子量約40kDaの単一のタンパク質として現れた。類似の分子量は、Sephadec G-50を使用した排除クロマトグラフィーからも明らかであった(結果を示さず)。PIF-受容体複合体は、単一のフラクションとして流れ出た。類似の結果は、グルタルアルデヒドを用いた、PIFの、受容体への架橋後にも得られた(結果を示さず)。コントロールインキュベーション(PIFとの事前のインキュベーション無しに、C2C12筋細管から単離した可溶化膜を、WGAを用いたレシチンクロマトグラフィーに供した)は、如何なるタンパク質も溶出しなかったことが示され、このことにより、40kDaの物質は、内因性の糖タンパク質では無いことが確認された。
【0123】
(PIF受容体の配列分析(Edman))
(N-末端)
DINGGGATLPQPLYQTAAVLTAGFA(配列番号1)
この配列は、T細胞刺激活性を有する滑液タンパク質p205に由来するペプチド断片に適合する(J. Immnuol.; (1996) 157; 1773-80)。
DINGGGATLPQKLYLIPNVL(配列番号13)
この更なる配列は、受容体の多型バリアントを示すと考えられる。
【0124】
(内部ペプチド断片)
TAINDTFLNADSNLSIGK (配列番号2)
XATVAGVSPAPANVSAAIGA (配列番号3)
…IIPATTAGE… (配列番号4)
…TYMSPDYAAATLAG… (配列番号5)
FVPLPT (配列番号6)
TELSNYVTAXGTxxG (配列番号7)
VTTAGSDS (配列番号8)
DVNGG (配列番号9)
LTTWDLIADSGR (配列番号10)
データーベースには、他のタンパク質と、内部ペプチドの相同性を示す配列は存在しない。
【0125】
(実施例3)
PIF受容体の配列を決定したので、本発明者は、実験を進めて、本発明の第4、5または6の態様に使用するための作用因子を開発した。
【0126】
本発明者は、配列番号1のペプチドが、PIF受容体へのPIF結合をブロックできることを確立し、それにより、このペプチドを、本発明の第4、5または6の態様による作用因子として使用できることを実証した。
【0127】
(3.1 方法)
PIFの精製およびタンパク質分解アッセイ、「キモトリプシン様」酵素活性およびウェスタンブロッティングに使用した手法は、前記に開示したものであり、以下の出版物にも含まれている:
1. Gomes-Marcondes et al., Br. J. Cancer (2002) 86, 1628-1633
2. Whitehouse and Tisdale, Br. J. Cancer (2003) 89, 1116-1122
3. Smith and Tisdale, Br. J. Cancer (2003) 89, 1783-1788
【0128】
(3.2 結果)
PIFは、報告されているように(Gomes-Marcondes et al. supra)、ベル型の用量応答性曲線で、マウス筋細管におけるタンパク質分解を誘導した(図4)。この効果は、N-末端合成ペプチドにより、10μMの濃度で、完全に弱められた。この濃度で、ペプチドは、また、PIF-誘導性のキモトリプシン様酵素活性(主なプロテアソームタンパク質分解活性)の増加をブロックした(図5)。
【0129】
ウェスタンブロッティングにより、ペプチドは、また、PIF-誘導性の20Sプロテアソームα-サブユニットの発現(図6A)、プロテアソームMSS1の19Sレギュレーターの2つのATPaseサブユニットの発現(図6B)、p42の発現(図6C)およびユビチキンコンジュゲート酵素E214kの発現(図6D)の増加も、完全に抑制することが示された。このペプチドを用いたユビキチン-プロテアソームタンパク質分解経路の誘導の阻害により、PIF-誘導性の筋原線維タンパク質の発現の減少を弱めた(図6E)。これらの結果は、PIFが、受容体のN-末端領域ペプチドに結合し、筋細管における受容体との相互作用を防止することを示唆している。
【0130】
これらの結果は、配列番号1のペプチドを、本発明による作用因子として使用できることを明確に示している。
【0131】
(実施例4)
本発明の第4、5または6の態様に使用するための抗体剤も研究した。
【0132】
(4.1 方法)
ポリクローナル抗血清を、N-末端ペプチド断片(配列番号1)の最初の19個のアミノ酸に由来する19-merにより産生した。抗血清は、Severn Biotech Ltd., Worcs, UKとの秘密契約の条件下で、ウサギにおいて産生させた。
【0133】
より詳細には、スルホ-SMCCを用いて、C-末端システインを介して19merペプチド(5mg)を5mgのPPD(キャリアタンパク質として)にコンジュゲートさせ、その後、4つの部位のそれぞれで、フロイントアジュバント内で、0.25mlの抗原を皮下注入(50-200mg)して、2羽のウサギを免疫することによって、ポリクローナル抗血清を産生した。血清は、テスト採血、産生採血および末期採血により供給された。
【0134】
50%飽和硫酸アンモニウムの添加に続く、プロテインAのカラムクロマトグラフィー(PURE1A kit, Sigma Aldridge, Dorset, UK)による精製後に、抗血清は、ウェスタンブロッティングによってPIF受容体を検出した(図7)。実施例1から3で用いた方法は、別の方法で使用した。
【0135】
(4.2 結果)
5から15μg/mlの濃度のPIF受容体に対する抗体の、PIFにより誘導されるタンパク質分解に及ぼす効果を、図8に示す。PIF効果の部分的な弱化が、5μg/mlで見られたのに対し、完全な弱化が、10μg/ml以上の濃度で見られた。類似の効果が、PIF誘導性の、キモトリプシン様酵素活性の増加にも見られた(図9)。
【0136】
ウェスタンブロッティングにより、C2C12筋細管において、抗-受容体抗体は、また、20Sプロテアソームα-サブユニットの発現(図10A)、プロテアソームMSS1の19Sレギュレーターの2つのATPaseサブユニットの発現(図10B)、p42の発現(図10C)およびユビキチン-コンジュゲーティング酵素E214kの発現(図10D)の、PIF誘導性の増加を、完全に防ぐことが示された。これらのデータは、明確に、配列番号1のペプチドに対する抗体を、本発明による作用因子として使用できることを示している。
【0137】
抗-受容体抗体が、PIFによるin vivoでの筋肉タンパク質分解を防ぐ能力を評価するために、悪液質誘導性のMAC16結腸腫瘍を有するマウス(このマウスにおいては、PIFは骨格筋の喪失を担っていることは示されている(Lorite et al, Br. J. Cancer (1998) 78, 850-856))を、抗-PIF受容体ポリクローナル抗血清のi.p.投与(3.47mg/kg)によって毎日処理した。処理3日後に、抗-受容体抗体を与えたマウスは、溶媒コントロールと比較して、体重の減少を有意に抑えることができた(図11A)。腫瘍体積に対する効果を、図11Bに示す。タンパク質分解(図12A)に対する有意な効果が見られ、そして、溶媒処理したコントロールと比較して、ヒラメ筋の重さの有意な増加が見られ、このヒラメ筋の増加は、腫瘍を有さない体重をあわせたNMRIマウスとは有意には異ならなかった(図12B)。抗-受容体抗体処理により、ヒラメ筋において、タンパク質分解を、腫瘍を有さないマウスのレベルにまで弱化させ(図12C)、そして、キモトリプシン様酵素活性によって測定した、機能的プロテアソーム活性も弱化させた(図12D)。20Sプロテアソームα-サブユニットの発現(図13A)、MSS1の発現(図13B)、p42の発現(図13C)およびE214kの発現(図13D)は、全て、抗-受容体抗体を用いた悪液質マウスの処理後に、腫瘍を有さないマウスのレベルにまで減少した。図13Eの結果は、抗-受容体抗体により、MAC16腫瘍を有するマウスで見られた腓腹筋におけるミオシンの喪失が、非腫瘍マウスのレベルにまで、回復することを示す。これらのデータは、配列番号1のペプチドに対する抗体を、本発明による作用因子として使用できることを明確に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質分解誘導因子(PIF)の単離された受容体であって、その成熟天然受容体のN末端が、以下のアミノ酸配列:
n - DINGGGATLPQPLYQTAAVLTAGFA (配列番号1);または
n - DINGGGATLPQKLYLIPNVL (配列番号13)
を有することを特徴とする、受容体。
【請求項2】
(i)マウスの筋細管の膜を、放射性標識したPIFと共に、1%のTriton中でインキュベーションすることによって、可溶化する工程;
(ii)PIFを結合することができるコムギ胚芽凝集素-アガロースカラム上で、PIF-受容体を精製する工程;および
(iii)0.1MのN-アセチルグルコサミンを用いて溶出させた、遊離の受容体を溶出する工程、
を含む方法によって得ることができ、
15%SDS-PAGEおよびSephadex G-50排除クロマトグラフィーを使用して約40,000の分子量を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項3】
TAINDTFLNADSNLSIGK (配列番号2)
XATVAGVSPAPANVSAAIGA (配列番号3)
…IIPATTAGE… (配列番号4)
…TYMSPDYAAATLAG… (配列番号5)
FVPLPT (配列番号6)
TELSNYVTAXGTxxG (配列番号7)
VTTAGSDS (配列番号8)
DVNGG (配列番号9)
LTTWDLIADSGR (配列番号10)
からなる群から選択される、少なくとも1つ、2つまたは全ての内部アミノ酸配列を更に含む、請求項1または2に記載の受容体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の受容体の機能的誘導体であることを特徴とする、タンパク質分解誘導因子(PIF)の変異した受容体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の受容体をコードする核酸。
【請求項6】
配列番号11:
【化1】

で実質的に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項5に記載の核酸。
【請求項7】
配列番号14:
【化2】

で実質的に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項5に記載の核酸。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載の核酸を含み、DNA複製を誘導するエレメント;細胞のゲノムへの標的化した組み込みを促進するエレメント;選択可能なマーカー;プロモーターの1つまたは複数を含んでいてもよい、ベクター。
【請求項9】
悪液質の治療用の医薬として使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の受容体の生物学的活性の低減剤。
【請求項10】
受容体の生物学的活性を、
(h)受容体の発現を減少させること;
(i)受容体脱感作または受容体分解を増加すること;
(j)PIFと内因性受容体である受容体との間の相互作用を減少させること;
(k)受容体媒介性細胞内シグナル伝達を減少させること;
(l)PIF結合について内因性受容体と競合すること:
(m)受容体に結合し、PIF結合をブロックすること;または
(n)PIFに結合し、受容体との相互作用を防止すること
によって低減する、請求項9に記載の低減剤。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか一項に記載の受容体に特異的に結合することができる抗体。
【請求項12】
受容体媒介性細胞内シグナル伝達をブロックする、請求項11に記載の抗体。
【請求項13】
配列番号1から10または13のペプチドの1つに対して産生させた、請求項11または12に記載の抗体。
【請求項14】
ポリクローナルである、請求項11から13のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項15】
モノクローナルである、請求項11から13のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項16】
γ-イムノグロブリン(IgG)である、請求項11から15のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項17】
少なくともその可変ドメインを有する、請求項11から16のいずれか一項に記載の抗体の機能的誘導体。
【請求項18】
scFV抗体であってもよい、抗体断片である、請求項17に記載の機能的誘導体。
【請求項19】
ヒト化抗体である、請求項11または12に記載の抗体。
【請求項20】
請求項11から19のいずれか一項に記載の抗体または機能的誘導体である、請求項9または10に記載の低減剤。
【請求項21】
請求項1から4のいずれか一項に記載の可溶性受容体またはその断片である、請求項9または10に記載の低減剤。
【請求項22】
配列番号1もしくは配列番号13から選択されてもよく、または配列番号1もしくは配列番号13を含んでもよい、受容体のN末端断片である、請求項21に記載の低減剤。
【請求項23】
由来する受容体断片と比較して、in vivoでの半減期が増大したペプチド誘導体である、請求項22に記載の低減剤。
【請求項24】
内因性受容体のRNA転写物に結合して、受容体発現を減少させる、アンチセンスDNAまたはRNA分子である、請求項9または10に記載の低減剤。
【請求項25】
5’GGCGAAGCCGGCGGTCAGCACGGCGGCGGTCTGGTACAGGGGCTGGGGCAGGGTGGCGCCGCCGCCGTTGATGTC…3’(配列番号12)
5’CAGCACGTTGGGGATCAGGTACAGCTTCTGGGGCAGGGTGGCGCCGCCGCCGTTGATGTC…3’ (配列番号15)
から選択されるアンチセンス分子である、請求項24に記載の低減剤。
【請求項26】
siRNA分子またはshRNAである、請求項9または10に記載の低減剤。
【請求項27】
化合物が悪液質の治療に対して有効性を有するかどうかを試験するために、化合物をスクリーニングする方法であって、
(iv)請求項1から3のいずれか一項に記載の受容体を含む細胞または膜を、試験化合物に、予め決められた期間、暴露する工程;
(v)受容体の活性または発現を検出する工程;および
(vi)化合物で処理した細胞または膜における受容体の活性または発現を、化合物で処理しなかったコントロール細胞または膜において見られる活性または発現に対して比較する工程
を含み、悪液質の治療に対して有効性を有する化合物は、コントロールと比較して、受容体の活性を減少させ、または発現を減少させる、方法。
【請求項28】
化合物が悪液質を誘導するかどうかを試験するために、化合物をスクリーニングする方法であって、
(iv)請求項1から3のいずれか一項に記載の受容体を含む細胞または膜を、試験化合物に、予め決められた期間、暴露する工程;
(v)受容体の活性または発現を検出する工程;および
(vi)化合物で処理した細胞または膜における受容体の活性または発現を、化合物で処理しなかったコントロール細胞または膜において見られる活性または発現に対して比較する工程
を含み、悪液質を誘導する化合物は、コントロールと比較して、受容体の活性を増加させ、または発現を増加させる、方法。
【請求項29】
実験動物に存在する細胞を、試験化合物に暴露する、請求項27または28に記載のin vivo方法。
【請求項30】
前記細胞中で前記受容体を発現するために、前記細胞が、請求項8に記載のベクターを用いて形質転換されている、請求項27から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞または膜中の受容体のレベルを、請求項11に記載の抗体である標識した抗体;放射性標識したPIFリガンドまたは放射性標識した試験化合物を使用して、評価する、請求項27から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
悪液質の治療用医薬の製造における、請求項1から3のいずれか一項に記載の受容体の生物学的活性の低減剤の使用。
【請求項33】
前記低減剤が、請求項9、10または20から26のいずれか一項に記載にされているものである、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
治療を必要とする患者に、請求項1から3のいずれか一項に記載の受容体の生物学的活性の低減剤を治療的に有効な量で投与する工程を含む、悪液質の治療方法。
【請求項35】
前記低減剤が、請求項9、10または20から26のいずれか一項に記載されてるものである、請求項34に記載の方法。

【図1】
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【図7】
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【図10E】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【公表番号】特表2010−512159(P2010−512159A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540845(P2009−540845)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004726
【国際公開番号】WO2008/071934
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(509164555)アストン・ユニヴァーシティ (1)
【Fターム(参考)】