成膜装置および成膜方法
【課題】効率よく基板上に安定して均一に成膜する。
【解決手段】筐体と、成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して成膜材料を微粒子化したミストを筐体の内部に噴霧する複数のスプレーノズル12とを備える。また、圧縮ガスを圧力の異なる複数の調圧ガスに調整し、複数のスプレーノズル12の各々に複数の調圧ガスのいずれかを導入し、かつ、複数の調圧ガスのすべてを複数のスプレーノズル12に対して導入するガス圧調整機構を備える。
【解決手段】筐体と、成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して成膜材料を微粒子化したミストを筐体の内部に噴霧する複数のスプレーノズル12とを備える。また、圧縮ガスを圧力の異なる複数の調圧ガスに調整し、複数のスプレーノズル12の各々に複数の調圧ガスのいずれかを導入し、かつ、複数の調圧ガスのすべてを複数のスプレーノズル12に対して導入するガス圧調整機構を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関し、特に、2流体スプレーを用いて基板上に薄膜を形成する成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に成膜される膜は、特性に応じて種々の用途に用いられる。たとえば、透明導電膜は、透明で導電性を有するという特性から、太陽光を取り込んで電気エネルギーに変換する太陽電池、および、バックライトなどの光源からの光を効率よく透過させる必要のある液晶表示素子などの透明電極として用いられている。
【0003】
透明導電膜材料としては、酸化インジウム・スズ(以下、ITOと称す)、フッ素をドープした酸化スズ(以下、FTOと称す)、または、アルミニウムもしくはガリウムをドープした酸化亜鉛などが用いられている。
【0004】
これらのなかで、ITO膜は、比抵抗が低く、かつ、エッチングが容易であるため、液晶表示素子の透明電極として広く用いられる。しかし、ITO膜で用いるインジウムは資源上の制約があることから高価である。
【0005】
一方FTOは、ITOに比べて比抵抗は低くないが、耐熱性に優れ、かつ、資源的影響が小さいため、太陽電池に用いられることが多い。また、アルミニウムまたはガリウムをドープした酸化亜鉛は、安価であるが、現状においては比抵抗が高いという問題を有している。
【0006】
これらの透明導電膜を成膜する手段としては、減圧雰囲気を要するスパッタ法および蒸着法、または、常圧で成膜可能な熱CVD法およびスプレー熱分解法などが挙げられる。たとえば、ITO膜においては、スパッタ法を用いて比抵抗の小さい膜を形成している。減圧雰囲気を形成するスパッタ装置は概して高価である。そのため、スパッタ法による膜形成には、製造コストが高くなるという課題がある。よって、常圧での成膜手段を確立することが望まれる。
【0007】
スプレー熱分解法は、加熱基板上にミストを吹き付け、溶質の熱分解および化学反応により薄膜を形成する方法である。スプレー熱分解法においては、簡便なスプレーノズルを用いて常圧にて成膜が可能であるため、成膜装置を簡素に構成することができる。そのため、スプレー熱分解法に関する種々の技術が報告されている。
【0008】
スプレー熱分解法における技術課題の一つは、膜厚の均一性を確保することである。基板の被成膜表面上の温度を制御することにより、基板面内における膜厚のばらつきの低減を図った透明電極用基板の製造装置を開示した先行文献として、特開2005−85700号公報(特許文献1)がある。
【0009】
また、スプレー熱分解法に関する技術ではないが、基板に対してスプレーノズルを走査しながら噴霧し、走査方法を規定して膜厚の均一性の向上を図った成膜装置を開示した先行文献として、特開2010−62500号公報(特許文献2)がある。
【0010】
さらに、スプレーノズルを複数配列するとともに、配列されたスプレーノズルを直線または回転移動させる機構を有する透明電極用基板の成膜装置を開示した先行文献として、特開2005−116391号公報(特許文献3)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−85700号公報
【特許文献2】特開2010−62500号公報
【特許文献3】特開2005−116391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示された技術には、基板上に噴霧されるミストの噴霧量を均一にするための配慮がない。したがって、この技術のみでは、膜厚の均一性を確保するには不十分であり、基板上に均一にミストを噴霧するための技術が必要となる。
【0013】
特許文献2に記載された成膜装置においては、一つのスプレーノズルでレジストを噴霧するため、スプレーノズルの個体差を考慮する必要はないが、成膜する基板が大型になるにしたがって成膜処理時間が長くなるという課題を有している。
【0014】
たとえば、薄膜太陽電池のように1m角クラスの大型基板を短時間で生産効率良く成膜できる成膜装置を具現化するには、複数のスプレーノズルを具備することが望ましい。
【0015】
特許文献3に記載された透明電極用基板の製造装置は、本願発明者らが試験した結果、膜厚を均一化する効果が不十分であることが分かった。これは、スプレーノズルを複数配置する場合、互いに隣接するスプレーノズル同士の配置関係、および、周囲の壁などの構造物の位置関係などの影響によって、ミストの流れが様々な態様をとるため、基板上に安定してミストを到達させることができないことによる。また、使用する複数のスプレーノズル間には噴霧特性に個体差があり、その影響によっても基板上に安定してミストを到達させることができない。
【0016】
特許文献3に記載された透明電極用基板の製造装置は、上記の影響を抑制して基板上に安定して均一にミストを到達させるための構成を有していない。
【0017】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、効率よく基板上に安定して均一に成膜できる成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に基づく成膜装置は、微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置である。成膜装置は、筐体と、成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して成膜材料を微粒子化したミストを筐体の内部に噴霧する複数のスプレーノズルとを備える。また、成膜装置は、圧縮ガスを圧力の異なる複数の調圧ガスに調整し、複数のスプレーノズルの各々に複数の調圧ガスのいずれかを導入し、かつ、複数の調圧ガスのすべてを複数のスプレーノズルに対して導入するガス圧調整機構を備える。
【0019】
本発明の一形態においては、ガス圧調整機構は、複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズルに導入する調圧ガスの圧力を増加させる、または、複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズルに導入する調圧ガスの圧力を低下させる。
【0020】
本発明の一形態においては、ガス圧調整機構が、個別に調整した複数の調圧ガスを複数のスプレーノズルにそれぞれ導入する。
【0021】
本発明の一形態においては、複数のスプレーノズルが複数の群に分けられている。ガス圧調整機構が、個別に調整した複数の調圧ガスを複数の群の各々に含まれるスプレーノズル毎に導入する。
【0022】
本発明の一形態においては、成膜装置は、複数のスプレーノズルの各々に導入される調圧ガス同士の圧力差を算出するためのセンサーをさらに備える。
【0023】
本発明の一形態においては、上記センサーが流量計である。
本発明の一形態においては、成膜装置は、基板を搬送する搬送機構をさらに備える。複数のスプレーノズルは、平面視において、搬送機構の基板搬送方向と交差する方向に互いに間隔を置いて位置する。
【0024】
本発明の一形態においては、成膜装置は、基板上の膜厚を計測する膜厚計測機構をさらに備える。膜厚計測機構は、基板搬送方向と交差する方向における基板上の膜厚を計測する。ガス圧調整機構は、膜厚計測機構の計測結果に基づいて、複数の調圧ガスの圧力を調整する。
【0025】
本発明の一形態においては、ガス圧調整機構は、複数のスプレーノズルから噴霧されるミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように複数の調圧ガスの圧力を調整する。
【0026】
本発明に基づく成膜方法は、微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜方法である。成膜方法は、複数のスプレーノズルから基板に向けて、成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して成膜材料を微粒子化したミストを噴霧する成膜工程と、基板上の膜厚を計測する膜厚計測工程と、膜厚計測工程における計測結果に基づいて、複数のスプレーノズルのうちの少なくとも1つのスプレーノズルに導入される圧縮ガスの圧力を変更する圧力変更工程とを備える。
【0027】
本発明の一形態においては、圧力変更工程において、複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズルに導入される圧縮ガスの圧力を増加させる、または、複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズルに導入される圧縮ガスの圧力を低下させる。
【0028】
本発明の一形態においては、圧力変更工程において、複数のスプレーノズルにそれぞれ導入される圧縮ガスの圧力を個別に調整する。
【0029】
本発明の一形態においては、複数のスプレーノズルが複数の群に分けられる。圧力変更工程において、複数の群の各々に含まれるスプレーノズル毎に導入される圧縮ガスの圧力を個別に調整する。
【0030】
本発明の一形態においては、圧力変更工程において、複数のスプレーノズルの各々に導入される圧縮ガス同士の圧力差を算出する。
【0031】
本発明の一形態においては、圧力変更工程において、上記圧力差を複数のスプレーノズルの各々に導入される圧縮ガス同士の流量差から算出する。
【0032】
本発明の一形態においては、成膜工程において、基板を搬送しつつ、基板搬送方向に交差する方向に配置された複数のスプレーノズルから基板に向けてミストを噴霧する。
【0033】
本発明の一形態においては、膜厚計測工程において、基板搬送方向と交差する方向における基板上の膜厚を計測する。
【0034】
本発明の一形態においては、膜厚計測工程において、複数のスプレーノズルから噴霧されるミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように圧縮ガスの圧力を調整する。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、効率よく基板上に安定して均一に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態1に係る成膜装置の構成を示す一部断面図である。
【図2】同実施形態に係る噴霧ボックスの構成を示す断面図である。
【図3】図2の噴霧ボックスのIII−III線矢印方向から見た図である。
【図4】スプレーノズルに接続される配管構成を示す側面図である。
【図5】後述する実験例で使用したスプレーノズルの特性として、ミストの噴霧量と調圧空気圧および調圧空気流量との関係を示している。
【図6】同実施形態において、複数のスプレーノズルに圧縮空気を供給するための空気供給系の構成を示す系統図である。
【図7】同実施形態の変形例において、複数のスプレーノズルに圧縮空気を供給するための空気供給系の構成を示す系統図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る成膜装置の構成を示す側面図である。
【図9】制御部による制御を示すブロック図である。
【図10】各スプレーノズルに導入する調圧空気の流量を条件ごとにまとめたものである。
【図11】成膜条件aにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。
【図12】成膜条件bにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。
【図13】成膜条件cにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態1に係る成膜装置について図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0038】
(実施形態1)
<成膜装置>
図1は、本発明の実施形態1に係る成膜装置の構成を示す一部断面図である。本実施形態に係る成膜装置は、微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する。
【0039】
図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置は、メッシュベルト1、金属マッフル2、ヒーターブロック3およびメッシュベルト駆動部4を備えるメッシュベルト式連続熱処理炉を備えている。メッシュベルト1およびメッシュベルト駆動部4から、基板6を搬送する搬送機構が構成されている。
【0040】
金属マッフル2は、上部の一部に開口を有する。噴霧ボックス5は、金属マッフル2の開口内に挿入され,支持部2aにより支持されている。
【0041】
基板6は、成膜装置の基板搬入領域7においてメッシュベルト1上に載置される。メッシュベルト1は、メッシュベルト駆動部4により駆動される。メッシュベルト1上に載置された基板6は、金属マッフル2内の加熱領域8に搬入される。
【0042】
金属マッフル2は、ヒーターブロック3によって加熱される。加熱されて高温になった金属マッフル2によって、基板6が加熱される。基板6は、所定の温度に到達した状態で噴霧ボックス5が位置する成膜領域9に搬送される。
【0043】
噴霧ボックス5内において噴霧された成膜材料を含むミストが基板6の表面に堆積することにより、成膜処理が行なわれる。このとき、基板6は一定速度で連続的に搬送されるため、基板6の搬送方向における長さが成膜領域9の長さより長い場合にも、基板6の表面全域に成膜処理を行なうことが可能である。
【0044】
成膜処理後の基板6は、金属マッフル2の外側の冷却領域10に搬送される。冷却領域10において冷却された基板6は、基板搬出領域11に搬送される。
【0045】
基板6の搬送は、たとえば、加熱領域8において一旦停止して加熱時間を長くするようにしてもよい。このようにした場合、加熱領域8の長さを短縮できるため、一定速度で基板6を搬送する成膜装置に比較して、成膜装置の大きさを小型化できる。
【0046】
しかし、高い生産効率を求められる量産装置においては、処理タクトが長くなることは好ましくないため、一定の速度で基板を搬送しつつ成膜処理する成膜装置の方が好ましい。一定速度で基板6を搬送する成膜装置では、基板搬入領域7において基板6を順次載置して成膜装置内に基板6を投入することにより、複数の基板6を連続して処理できるため、処理タクトの短縮を図れる。
【0047】
なお、上記のような連続搬送方式を採用する場合、被加熱物である基板6の熱容量などを考慮した上で、基板6の搬送速度と金属マッフル2の設定加熱温度とを調整することにより、基板6の加熱温度を制御する。同様に、基板6の搬送速度と冷却領域10における冷却条件とを調整することにより、基板6の冷却温度を制御する。
【0048】
<噴霧ボックス>
図2は、本実施形態に係る噴霧ボックスの構成を示す断面図である。図3は、図2の噴霧ボックスのIII−III線矢印方向から見た図である。なお、図2の噴霧ボックスは、図1と同じ方向から見た状態を示している。なお、図2,3においては、スプレーノズル12と接続された配管を図示していない。
【0049】
図2,3に示すように、噴霧ボックス5は、筐体5aを有している。筐体5a内の上方に、冷却ジャケット13が配置されている。冷却ジャケット13の内部にスプレーノズル12が配置されている。スプレーノズル12は、下方に向けてミストを噴霧できるように配置されている。
【0050】
本実施形態においては、9個のスプレーノズル12が、平面視において、搬送機構の基板搬送方向と直交する方向に互いに間隔を置いて位置する。ただし、複数のスプレーノズル12の配置は、基板搬送方向と直交する方向に限られず、平面視において基板搬送方向と交差する方向であればよい。なお、基板6上の幅方向の全域にミストが噴霧されるように9個のスプレーノズル12が配置されている。
【0051】
冷却ジャケット13は、ステンレスなどの金属からなり、図示しない冷却水路を含み、冷却ジャケット全体を水冷できる構造を有している。このため、スプレーノズル12の周囲は低温に維持される。
【0052】
よって、噴霧ボックス5が熱処理炉からの伝熱により加熱されても、スプレーノズル12および後述するスプレーノズル12と接続された溶液供給配管は高温にならない。そのため、成膜材料の溶液を液体状態でスプレーノズル12まで供給することが可能である。
【0053】
スプレーノズル12の搭載数は、基板6上に成膜する膜の所望の膜厚、および、成膜材料の溶液の濃度などを勘案して適宜決定されるが、本実施形態においては9個のスプレーノズル12を搭載している。
【0054】
冷却ジャケット13の下方に、整流板14が設けられている。整流板14は、スプレーノズル12から噴射されたミストの拡散を抑制してミストの輸送領域を規定している。
【0055】
また、基板6の搬送方向の下流側に、基板6の表面での成膜に寄与しなかった溶液成分を回収するための排気口15が設けられている。排気口15は、必要であれば除害装置と接続される。
【0056】
噴霧ボックス5と基板6との間には、所定の間隔のギャップがある。このギャップの大きさは、特に限定されないが、ギャップが大きすぎると熱処理炉内に大量のミストが拡散して反応生成物の堆積によるパーティクルが発生するため好ましくない。また、たとえば、成膜材料の溶液が酸性溶液の場合、ギャップから漏れ出たミストにより熱処理炉を溶解するなどの問題が生じる。
【0057】
そのため、ギャップの大きさを小さくして、ミストが熱処理炉内に拡散することを抑制することが望ましい。具体的には、噴霧ボックス5の下面と基板6の上面との間のギャップを20mm程度以下に抑えることが例として挙げられる。
【0058】
<スプレーノズル>
噴霧ボックス5に搭載される9個のスプレーノズル12は、成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して成膜材料を微粒子化したミストを筐体5aの内部に噴霧する。本実施形態においては、スプレーノズル12は、圧縮空気と成膜材料の溶液とを混合してミストを噴霧する2流体スプレーである。
【0059】
一般に、スプレーノズルには、液体のみをスプレーノズルに供給してこの液体をミストとして噴霧する1流体スプレーノズルと、液体と気体とをスプレーノズルに供給して混合することによりミストを噴霧する2流体スプレーノズルとがある。
【0060】
2流体スプレーノズルは、微細なミストの生成が可能であり、基板に到達したミストの気化熱によって引き起こされる基板面内の温度分布のばらつきを低減するのに適している。
【0061】
図4は、スプレーノズルに接続される配管構成を示す側面図である。図4に示すように、スプレーノズル12には、成膜材料の溶液が供給されるための溶液供給配管16、および、圧縮空気が供給されるためのエア供給配管17が接続されている。
【0062】
スプレーノズル12は、内部の成膜材料の溶液の経路中にエア駆動型の弁を有している。スプレーノズル12には、この弁を駆動する圧縮空気が供給されるための弁駆動用エア配管18がさらに接続されている。
【0063】
図5は、後述する実験例で使用したスプレーノズルの特性として、ミストの噴霧量と調圧空気圧および調圧空気流量との関係を示している。図5においては、縦軸に、スプレーノズル12に導入される調圧空気の圧力(以下、調圧空気圧と称する)およびその調圧空気の流量(以下、調圧空気流量と称する)を、横軸に、スプレーノズル12から噴霧されるミストの噴霧量を示している。
【0064】
なお、図5に示すデータは、スプレーノズルとして、いけうち社製BIMV8002Sの耐食仕様を使用し、溶液として水を使用し、溶液の圧力を−100mmAqとした際のデータである。
【0065】
使用する溶液の種類および圧力によって具体的な数値は変動するが、図5に示すように、調圧空気圧が0.2MPa以上の範囲においては、調圧空気圧の増加とともにミストの噴霧量が低下する傾向にある。これは、調圧空気圧の増加に伴って、スプレーノズル12から噴射される成分のうち空気は多くなり成膜材料の溶液は少なくなるため、発生するミストの量が低下することによる。調圧空気圧と調圧空気流量とは比例関係にあり、調圧空気圧の増加に伴って調圧空気流量が増加する。
【0066】
<空気供給系>
図6は、本実施形態において、複数のスプレーノズルに圧縮空気を供給するための空気供給系の構成を示す系統図である。図6に示すように、本実施形態においては、圧縮空気の供給源22から9個のスプレーノズル12に圧縮空気が供給されている。
【0067】
具体的には、供給源22は、ヘッダー配管23と接続されている。ヘッダー配管23は、9本の分岐配管24と接続されている。9本の分岐配管の各々には、供給源22側から順に、流量計20とレギュレータ19とが接続されている。1個のレギュレータ19は、1本のエア供給配管17を介して1個のスプレーノズル12と接続されている。
【0068】
本実施形態においては、9本のエア供給配管17の各々にレギュレータ19が接続されている。この9個のレギュレータ19からガス圧調整機構が構成されている。
【0069】
レギュレータ19は、供給源22から供給された圧縮空気を圧力の異なる調圧空気に調整し、その調圧空気をスプレーノズル12に導入する。
【0070】
本実施形態においては、9個のレギュレータ19が、個別に調整した複数の調圧空気を9個のスプレーノズル12にそれぞれ導入する。そのため、最大で9種類の調圧空気を調整することができる。最大で9種類の調圧ガスのすべては、9個のスプレーノズル12に対して導入される。
【0071】
レギュレータ19の種類は特に限定されないが、基板6上の膜厚の計測結果に基づいて自動的に調圧空気の圧力制御を行なうシステムを構築する場合は、レギュレータ19として電空レギュレータを用いることが好ましい。
【0072】
また、ガス圧調整機構の構成は上記に限られず、たとえば、1台で複数の調圧ガスを調整可能なものでもよい。この場合、ヘッダー配管23にガス圧調整機構が接続され、ガス圧調整機構に複数の分岐配管24が接続される。
【0073】
本実施形態においては、9個のスプレーノズル12のそれぞれに供給される圧縮空気の流量を9個の流量計20でモニターしている。したがって、各スプレーノズル12に供給される圧縮空気の流量の増減を確認しつつ、各レギュレータ19にて個々のスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を調整することができる。
【0074】
仮に、レギュレータ19としてニードル弁を用い、流量計20を用いない場合、スプレーノズル12に導入する調圧空気圧を定量的に把握することが難しい。そのため、複数のスプレーノズル12を搭載した場合、各スプレーノズル12に導入される調圧空気同士の圧力差を算出することが困難である。搭載されるスプレーノズル12の数が多くなるほどその困難さが増す。
【0075】
また、流量計20を用いずにレギュレータ19の圧力表示のみに基づいて、調圧空気の圧力を制御することも可能ではあるが、配管内に詰まりなどの異常が生じた場合の圧力変動を感知することが難しいという問題がある。
【0076】
本実施形態に係る成膜装置においては、9個のスプレーノズル12の各々に導入される調圧ガス同士の圧力差を算出するためのセンサーとして流量計20を配置している。
【0077】
流量計20の計測結果は、空気供給系における流量計20以降のコンダクタンスが変化しない限り調圧空気圧に相関して変化する。すなわち、各スプレーノズル12において、上記コンダクタンスが変化しない限り、供給される圧縮ガスの流量と調圧空気圧とが比例関係にある。
【0078】
そのため、9個の流量計20の計測結果から9個のスプレーノズル12の各々に導入される調圧空気同士の流量差を算出することによって、定量性をもって9個のスプレーノズル12の各々に導入される調圧空気同士の圧力差を算出することができる。
【0079】
また、配管内に詰まりが発生した場合またはスプレーノズル12に目詰まりが発生した場合などの異常発生時に、調圧空気流量の低下に起因する調圧空気圧の圧力変動を感知することができる。よって、異常発生を容易に認識することが可能となる。なお、流量計20としては、圧力に依存しない質量流量計であることが望ましい。
【0080】
図7は、本実施形態の変形例において、複数のスプレーノズルに圧縮空気を供給するための空気供給系の構成を示す系統図である。図7に示すように、本実施形態の変形例においては、供給源22は、ヘッダー配管23と接続されている。ヘッダー配管23は、3本の分岐配管24と接続されている。3本の分岐配管の各々には、供給源22側から順に、流量計20とレギュレータ19とが接続されている。1個のレギュレータ19は、3本のエア供給配管17を介して3個のスプレーノズル12と接続されている。
【0081】
すなわち、9個のスプレーノズルが3つの群に分けられている。ガス圧調整機構を構成する3個のレギュレータ19は、、個別に調整した調圧ガスを3つの群の各々に含まれるスプレーノズル12毎に導入する。この構成により、空気供給系の配管数を低減することができる。
【0082】
<膜厚均一化>
基板6の膜厚計測結果に基づいて、必要に応じてガス圧調整機構により調圧空気の圧力を変更する。基板6の膜厚計測は、成膜処理後に行なってもよいし、成膜処理と同時に行なってもよい。
【0083】
成膜処理後に膜厚計測を行なう場合には、膜厚計測された基板6に続いて成膜処理される基板6の成膜処理時に膜厚の均一化が図られる。成膜処理と同時に膜厚計測を行なう場合には、膜厚計測されている基板6の成膜処理時に膜厚の均一化が図られる。
【0084】
また、膜厚測定は、成膜装置とは別の測定器を用いて行なってもよいし、成膜装置に膜厚測定機構を設けて自動で行なうようにしてもよい。
【0085】
本実施形態に係る成膜装置においては、基板6を搬送しつつ成膜処理を行なうため、基板搬送方向における膜厚のばらつきは相対的に小さい。一方、基板搬送方向と直交する方向においては、9個のスプレーノズル12間の個体差、および、噴霧ボックス5の両側の内壁などの影響を受けるため、膜厚のばらつきが相対的に大きい。
【0086】
本実施形態に係る成膜装置においては、基板搬送方向と直交する方向における膜厚のばらつきを低減させることにより膜厚の均一化を図る。
【0087】
具体的には、膜厚の計測結果に基づいて膜厚の薄い領域を確認する。ガス圧調整機構によって、膜厚の薄い領域に対向するスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を増加させる。
【0088】
調圧空気圧は、図5に示すように調圧空気圧と調圧空気流量とが比例関係にある、0.2MPa以上0.4MPa以下程度の範囲で調整されることが好ましい。また、流量計20の計測結果から算出された9個のスプレーノズル12の各々の調圧空気圧を相互に比較して、増加させる調圧空気圧を決定することが好ましい。
【0089】
このようにして、膜厚の薄い領域に対向するスプレーノズル12に導入する調圧空気流量を増加させることにより、基板6上の膜厚の薄い領域の膜厚が厚くなることを実験により確認している。
【0090】
上記の効果は以下の現象に基づいて生じるものと考えられる。
スプレーノズル12から気体が噴射されるとその周辺に負圧が生じるため、スプレーノズル12から噴射された気体はその周辺の気体を巻き込む流れを形成する。互いに隣接する2つのスプレーノズル12においては、それぞれから噴射された気体の流速が大きい方に流速が小さい方の気体が引き込まれる挙動を示す。
【0091】
スプレーノズル12から噴霧されるミストは、上記気体の流れに乗って輸送されるため、流速の大きい方のスプレーノズル12側に、流速の小さい方のスプレーノズル12から噴霧されたミストが引き寄せられて輸送される。スプレーノズル12から噴射される気体の流速は、通常、スプレーノズル12に導入する調圧ガスの圧力に比例する。
【0092】
すなわち、一方のスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を他方のスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力より大きくすることにより、調圧空気の圧力を大きくした側のスプレーノズル12に対向する基板領域により多くのミストを輸送することができる。
【0093】
当然ながら、スプレーノズル12が3つ以上であっても同様の効果を得ることができる。一つのスプレーノズル12から噴射される空気流量が、このスプレーノズル12の周囲に位置するスプレーノズル12から噴射される空気流量よりも大きい場合、周囲に位置するスプレーノズル12から噴霧されたミストの一部は、上記一つのスプレーノズル12から噴射される空気の流れに巻き込まれて、上記一つのスプレーノズル12と対向する基板領域に到達する。その結果、上記一つのスプレーノズル12と対向する基板領域に成膜される膜の膜厚が、その周辺の領域に成膜される膜の膜厚より厚くなる。
【0094】
なお、図5に示すように0.2MPa以上まで調圧空気圧を増加させると、ミストの噴霧量が低下する。そのため、スプレーノズル12を単独で配置した場合には、調圧空気圧を増加させることにより、スプレーノズル12と対向する基板領域に到達するミストの量が低下する。
【0095】
しかし、複数のスプレーノズル12を配置した場合には、上記の気流現象により、調圧空気圧を増加させたスプレーノズル12と対向する基板領域に到達するミストが増加する。すなわち、複数のスプレーノズル12を配置した場合、調圧空気圧を低下させてミストの噴霧量を増加させたスプレーノズル12と対向する基板領域の膜厚は厚くならず、調圧空気圧を増加させてミストの噴霧量を低下させたスプレーノズル12と対向する基板領域の膜厚が厚くなる。
【0096】
ここで、調圧空気圧を増加させる、または、低下させるという制御は、周囲に位置するスプレーノズル12との相対的な関係が変わることによって効果を生じる。このため、たとえば、膜厚が局所的に薄い領域が存在する場合に、当該領域に対向するスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力のみを増加させることと、当該領域に対向するスプレーノズル12以外のすべてのスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を低下させることとは同様の効果を有する。
【0097】
つまり、膜厚のばらつきを低減するために採り得る制御には自由度があり、調圧空気圧を増加させる、または、低下させるのいずれの制御を採ることも可能である。
【0098】
ただし、図5に示すように、スプレーノズル12の噴霧特性においては、調圧空気圧の大きさによってミストの噴霧量が異なる。一つのスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力だけを0.2MPa以上に増加させると、そのスプレーノズル12からのミストの噴霧量が低下するため、9個のスプレーノズル12からのミストの噴霧量の総量が低下する。その結果、基板6上の平均膜厚が低下する。
【0099】
よって、膜厚のばらつきを低減するために調圧空気圧を変更する場合は、一つのスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を増加させるとともに、他のスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を下げて、9個のスプレーノズル12のミストの噴霧量の総量を一定に維持することが望ましい。
【0100】
そのために、使用するスプレーノズル12および成膜材料の溶液において、調圧空気圧とミストの噴霧量との関係を予めデータベース化しておき、使用する全てのスプレーノズル12からのミストの噴霧量の総量が一定となるように調圧空気圧を個々に調整できるように成膜装置を構成することが好ましい。
【0101】
本実施形態においては、9個のレギュレータ19は、9個のスプレーノズル12のうちの基板6上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズル12に導入する調圧ガスの圧力を増加させる、または、9個のスプレーノズルのうちの基板6上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズル12に導入する調圧ガスの圧力を低下させる。
【0102】
また、9個のレギュレータ19は、9個のスプレーノズル12から噴霧されるミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように調圧ガスの圧力を調整する。
【0103】
上記の構成により、複数のスプレーノズル12を用いて効率よく基板6上に安定して均一に成膜することができる。
【0104】
以下、本発明の実施形態2に係る成膜装置について図を参照して説明する。なお、本実施形態に係る成膜装置は、膜厚計測機構を備えて自動的にガス圧調整機構を制御する点のみ実施形態1に係る成膜装置と異なるため、他の構成については説明を繰り返さない。
【0105】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2に係る成膜装置の構成を示す側面図である。図8に示すように、本発明の実施形態2に係る成膜装置においては、冷却領域10と基板搬出領域11との間に膜厚計測機構である光干渉型の膜厚計測器21が設けられている。
【0106】
膜厚計測器21は、基板6上に光を照射する光源21aと、基板6上からの反射光を検出する検出部21bとを有している。本実施形態においては、光源21aおよび検出部21bが、基板搬送方向に直交する方向にライン状に配置されている。膜厚計測器21として、たとえば、Dr.Schenk社製のSolarInspectシリーズの検査装置を用いることができる。
【0107】
膜厚計測器21は、基板搬送方向と直交する方向における基板6上の膜厚を計測する。具体的には、基板搬送方向に直交する方向にライン状に配置された光源21aから、基板6上の幅方向の全域に光を照射する。基板6上で反射された光を基板搬送方向に直交する方向にライン状に配置された検出部21bで検出する。
【0108】
基板6上に成膜された膜の膜厚の違いにより反射光の強度が異なるため、基板搬送方向に直交する方向における基板6上の膜厚を計測することができる。膜厚計測器21の計測結果は制御部に送られる。
【0109】
図9は、制御部による制御を示すブロック図である。図9に示すように、膜厚計測器21による計測結果は、制御部26の入力部26Aに入力される。制御部26は、入力部26Aに入力された基板6上の膜厚計測結果から膜厚のばらつきを認識する。
【0110】
次に、制御部26は、記憶部26Cに記憶されている、使用するスプレーノズル12および成膜材料の溶液における調圧空気圧とミストの噴霧量とに関するデータベースを読み込む。
【0111】
制御部26は、演算部26Bにおいて、記憶部26Cから読み込んだデータベースに基づいて、膜厚のばらつきを低減するために各スプレーノズル12に導入する調圧空気圧力を算出する。
【0112】
制御部26は、演算部26Bにより算出された調圧空気圧力となるように各レギュレータ19に制御信号を送信する。制御信号が入力された各レギュレータ19は、調圧空気の圧力を制御信号に従ってそれぞれ調節する。
【0113】
上記の構成により、成膜処理された基板6の膜厚計測結果に基づいて、各スプレーノズル12に導入される調圧空気の圧力が調整されるため、次に成膜処理される基板6においては、均一な膜厚で成膜することができる。このように、連続して基板6を成膜処理することにより、効率よく基板6上に安定して均一に成膜することができる。
【0114】
また、スプレーノズル12が劣化するなどの何らかの原因でミストの到達領域が変化する異常が発生した場合において、膜厚のばらつきをある程度抑制することができる。
【0115】
以下、本発明の成膜装置を用いて、薄膜太陽電池用透明導電膜としてSnO2膜を成膜した実験例について説明する。
【0116】
(実験例)
成膜条件は以下の通りである。
【0117】
基板6としては、基板サイズが1.4m×1.0m、厚さが3.9mmの白板ガラスからなるガラス基板を用いた。ガラス基板上には、本成膜前に予めアルカリバリアとしてSiO2膜が成膜されている。
【0118】
ガラス基板の長辺方向が基板搬送方向となるように、メッシュベルト1上にガラス基板を載置した。加熱領域8において、ガラス基板の搬送を一時停止し、基板温度が550℃になるまでガラス基板を加熱した。
【0119】
噴霧ボックス5を通過する際の基板搬送速度を24cm/minの一定に維持して搬送しつつガラス基板に成膜処理を行なった。スプレーノズル12としては、いけうち社製BIMV8002Sの耐食仕様(材質:ハステロイB)を用いた。
【0120】
成膜材料の溶液としては、0.9mol/LのSnCl4・5H2Oと、0.3mol/LのNH4Fと、30vol%のHClと、2.5vol%のメタノールとを含む水溶液を用いた。
【0121】
溶液供給配管16としては、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)製のチューブを使用した。密閉した圧力容器内で圧力調整を行なった溶液タンクから、成膜材料の溶液を供給した。なお、溶液圧力は水頭差分を勘案した上で、スプレーノズル12において−100mmAqに設定した。
【0122】
流量計20としては、CKD社製小型流量センサーFSM2シリーズの流量計を用いた。レギュレータ19としては、CKD社製の小型レギュレータRB500を用いた。
【0123】
膜厚計測器21としては、BrightView Systems社製のInsight M5を用いて、光学干渉法により基板6上の膜厚を計測した。
【0124】
なお、平面視において、基板搬送方向をY方向、基板搬送方向と直交する方向をX方向とする。また、基板搬送時の基板先頭の端面をY方向における基板位置の原点とし、基板搬送方向に向いて後方から基板を見た際の左端面をX方向における基板位置の原点とする。
【0125】
噴霧ボックス5内に、ノズル番号がNo.1〜No.9の9個のスプレーノズル12を配置した。噴霧ボックス5の下方を通過するガラス基板に対して、No.1のスプレーノズルは、X=20mmの基板位置に対向するように配置されている。No.2のスプレーノズルは、X=140mmの基板位置に対向するように配置されている。No.3のスプレーノズルは、X=260mmの基板位置に対向するように配置されている。
【0126】
No.4のスプレーノズルは、X=380mmの基板位置に対向するように配置されている。No.5のスプレーノズルは、X=500mmの基板位置に対向するように配置されている。No.6のスプレーノズルは、X=620mmの基板位置に対向するように配置されている。
【0127】
No.7のスプレーノズルは、X=740mmの基板位置に対向するように配置されている。No.8のスプレーノズルは、X=860mmの基板位置に対向するように配置されている。No.9のスプレーノズルは、X=980mmの基板位置に対向するように配置されている。
【0128】
図10は、各スプレーノズルに導入する調圧空気の流量を条件ごとにまとめたものである。本実験例においては、成膜条件a,b,cの3条件で成膜処理を行なった。図10に示すように、成膜条件aにおいては、調圧空気流量をすべてのスプレーノズルで20L/minとした。
【0129】
成膜条件bにおいては、調圧空気流量を、No.1のスプレーノズルで22L/min、No.2のスプレーノズルで20L/min、No.3のスプレーノズルで16L/min、No.4のスプレーノズルで16L/min、No.5のスプレーノズルで16L/min、No.6のスプレーノズルで16L/min、No.7のスプレーノズルで16L/min、No.8のスプレーノズルで20L/min、No.9のスプレーノズルで22L/minとした。
【0130】
成膜条件cにおいては、調圧空気流量を、No.1のスプレーノズルで22L/min、No.2のスプレーノズルで20L/min、No.3のスプレーノズルで18L/min、No.4のスプレーノズルで16L/min、No.5のスプレーノズルで14L/min、No.6のスプレーノズルで16L/min、No.7のスプレーノズルで18L/min、No.8のスプレーノズルで20L/min、No.9のスプレーノズルで22L/minとした。
【0131】
図11は、成膜条件aにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。図12は、成膜条件bにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。図13は、成膜条件cにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。
【0132】
なお、図11〜13においては、縦軸に膜厚(nm)、横軸にX方向における基板上の位置(mm)を示している。また、Y=200mmの位置、Y=700mmの位置、Y=1200mmの位置での計測結果を示している。
【0133】
図10に示すように、成膜条件aにおいては、すべてのスプレーノズルにおいて調圧空気流量を均一に設定しているにも関わらず、図11に示すように、X方向において両端付近で膜厚が薄くなっている。
【0134】
図10に示すように、成膜条件bにおいては、X方向における両端に位置するNo.1,9のスプレーノズル12に導入する調圧空気の流量を増加させ、中央側に位置するNo.3〜No.7のスプレーノズル12に導入する調圧空気の流量を均一に低下させるように設定している。図12に示すように、成膜条件bでは、成膜条件aに比較して、X方向における両端付近で膜厚が厚くなり、基板上の膜厚のばらつきが低減されている。
【0135】
図10に示すように、成膜条件cにおいては、X方向において両端に位置するスプレーノズルに導入する調圧空気の流量を増加させ、中央に位置するほどスプレーノズルに導入する調圧空気の流量を段階的に低下させるように設定している。図13に示すように、成膜条件cでは、X方向の全域において膜厚のばらつきがさらに低減されていた。
【0136】
なお、平均膜厚に対する膜厚のばらつきは、成膜条件aで±57%、成膜条件bで±24%、成膜条件cで±23%であった。
【0137】
上記の実験結果から、複数の2流体スプレーを用いた成膜装置において、調圧空気流量を調整することにより、基板上の膜厚のばらつきを低減することができることが確認された。調圧空気流量は調圧空気圧に比例するため、調圧空気圧を調整することにより基板上の膜厚のばらつきを低減することができる。
【0138】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0139】
1 メッシュベルト、2 金属マッフル、2a 支持部、3 ヒーターブロック、4 メッシュベルト駆動部、5 噴霧ボックス、5a 筐体、6 基板、7 基板搬入領域、8 加熱領域、9 成膜領域、10 冷却領域、11 基板搬出領域、12 スプレーノズル、13 冷却ジャケット、14 整流板、15 排気口、16 溶液供給配管、17 エア供給配管、18 弁駆動用エア配管、19 レギュレータ、20 流量計、21 膜厚計測器、21a 光源、21b 検出部、22 供給源、23 ヘッダー配管、24 分岐配管、26 制御部、26A 入力部、26B 演算部、26C 記憶部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関し、特に、2流体スプレーを用いて基板上に薄膜を形成する成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に成膜される膜は、特性に応じて種々の用途に用いられる。たとえば、透明導電膜は、透明で導電性を有するという特性から、太陽光を取り込んで電気エネルギーに変換する太陽電池、および、バックライトなどの光源からの光を効率よく透過させる必要のある液晶表示素子などの透明電極として用いられている。
【0003】
透明導電膜材料としては、酸化インジウム・スズ(以下、ITOと称す)、フッ素をドープした酸化スズ(以下、FTOと称す)、または、アルミニウムもしくはガリウムをドープした酸化亜鉛などが用いられている。
【0004】
これらのなかで、ITO膜は、比抵抗が低く、かつ、エッチングが容易であるため、液晶表示素子の透明電極として広く用いられる。しかし、ITO膜で用いるインジウムは資源上の制約があることから高価である。
【0005】
一方FTOは、ITOに比べて比抵抗は低くないが、耐熱性に優れ、かつ、資源的影響が小さいため、太陽電池に用いられることが多い。また、アルミニウムまたはガリウムをドープした酸化亜鉛は、安価であるが、現状においては比抵抗が高いという問題を有している。
【0006】
これらの透明導電膜を成膜する手段としては、減圧雰囲気を要するスパッタ法および蒸着法、または、常圧で成膜可能な熱CVD法およびスプレー熱分解法などが挙げられる。たとえば、ITO膜においては、スパッタ法を用いて比抵抗の小さい膜を形成している。減圧雰囲気を形成するスパッタ装置は概して高価である。そのため、スパッタ法による膜形成には、製造コストが高くなるという課題がある。よって、常圧での成膜手段を確立することが望まれる。
【0007】
スプレー熱分解法は、加熱基板上にミストを吹き付け、溶質の熱分解および化学反応により薄膜を形成する方法である。スプレー熱分解法においては、簡便なスプレーノズルを用いて常圧にて成膜が可能であるため、成膜装置を簡素に構成することができる。そのため、スプレー熱分解法に関する種々の技術が報告されている。
【0008】
スプレー熱分解法における技術課題の一つは、膜厚の均一性を確保することである。基板の被成膜表面上の温度を制御することにより、基板面内における膜厚のばらつきの低減を図った透明電極用基板の製造装置を開示した先行文献として、特開2005−85700号公報(特許文献1)がある。
【0009】
また、スプレー熱分解法に関する技術ではないが、基板に対してスプレーノズルを走査しながら噴霧し、走査方法を規定して膜厚の均一性の向上を図った成膜装置を開示した先行文献として、特開2010−62500号公報(特許文献2)がある。
【0010】
さらに、スプレーノズルを複数配列するとともに、配列されたスプレーノズルを直線または回転移動させる機構を有する透明電極用基板の成膜装置を開示した先行文献として、特開2005−116391号公報(特許文献3)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−85700号公報
【特許文献2】特開2010−62500号公報
【特許文献3】特開2005−116391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示された技術には、基板上に噴霧されるミストの噴霧量を均一にするための配慮がない。したがって、この技術のみでは、膜厚の均一性を確保するには不十分であり、基板上に均一にミストを噴霧するための技術が必要となる。
【0013】
特許文献2に記載された成膜装置においては、一つのスプレーノズルでレジストを噴霧するため、スプレーノズルの個体差を考慮する必要はないが、成膜する基板が大型になるにしたがって成膜処理時間が長くなるという課題を有している。
【0014】
たとえば、薄膜太陽電池のように1m角クラスの大型基板を短時間で生産効率良く成膜できる成膜装置を具現化するには、複数のスプレーノズルを具備することが望ましい。
【0015】
特許文献3に記載された透明電極用基板の製造装置は、本願発明者らが試験した結果、膜厚を均一化する効果が不十分であることが分かった。これは、スプレーノズルを複数配置する場合、互いに隣接するスプレーノズル同士の配置関係、および、周囲の壁などの構造物の位置関係などの影響によって、ミストの流れが様々な態様をとるため、基板上に安定してミストを到達させることができないことによる。また、使用する複数のスプレーノズル間には噴霧特性に個体差があり、その影響によっても基板上に安定してミストを到達させることができない。
【0016】
特許文献3に記載された透明電極用基板の製造装置は、上記の影響を抑制して基板上に安定して均一にミストを到達させるための構成を有していない。
【0017】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、効率よく基板上に安定して均一に成膜できる成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に基づく成膜装置は、微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置である。成膜装置は、筐体と、成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して成膜材料を微粒子化したミストを筐体の内部に噴霧する複数のスプレーノズルとを備える。また、成膜装置は、圧縮ガスを圧力の異なる複数の調圧ガスに調整し、複数のスプレーノズルの各々に複数の調圧ガスのいずれかを導入し、かつ、複数の調圧ガスのすべてを複数のスプレーノズルに対して導入するガス圧調整機構を備える。
【0019】
本発明の一形態においては、ガス圧調整機構は、複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズルに導入する調圧ガスの圧力を増加させる、または、複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズルに導入する調圧ガスの圧力を低下させる。
【0020】
本発明の一形態においては、ガス圧調整機構が、個別に調整した複数の調圧ガスを複数のスプレーノズルにそれぞれ導入する。
【0021】
本発明の一形態においては、複数のスプレーノズルが複数の群に分けられている。ガス圧調整機構が、個別に調整した複数の調圧ガスを複数の群の各々に含まれるスプレーノズル毎に導入する。
【0022】
本発明の一形態においては、成膜装置は、複数のスプレーノズルの各々に導入される調圧ガス同士の圧力差を算出するためのセンサーをさらに備える。
【0023】
本発明の一形態においては、上記センサーが流量計である。
本発明の一形態においては、成膜装置は、基板を搬送する搬送機構をさらに備える。複数のスプレーノズルは、平面視において、搬送機構の基板搬送方向と交差する方向に互いに間隔を置いて位置する。
【0024】
本発明の一形態においては、成膜装置は、基板上の膜厚を計測する膜厚計測機構をさらに備える。膜厚計測機構は、基板搬送方向と交差する方向における基板上の膜厚を計測する。ガス圧調整機構は、膜厚計測機構の計測結果に基づいて、複数の調圧ガスの圧力を調整する。
【0025】
本発明の一形態においては、ガス圧調整機構は、複数のスプレーノズルから噴霧されるミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように複数の調圧ガスの圧力を調整する。
【0026】
本発明に基づく成膜方法は、微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜方法である。成膜方法は、複数のスプレーノズルから基板に向けて、成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して成膜材料を微粒子化したミストを噴霧する成膜工程と、基板上の膜厚を計測する膜厚計測工程と、膜厚計測工程における計測結果に基づいて、複数のスプレーノズルのうちの少なくとも1つのスプレーノズルに導入される圧縮ガスの圧力を変更する圧力変更工程とを備える。
【0027】
本発明の一形態においては、圧力変更工程において、複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズルに導入される圧縮ガスの圧力を増加させる、または、複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズルに導入される圧縮ガスの圧力を低下させる。
【0028】
本発明の一形態においては、圧力変更工程において、複数のスプレーノズルにそれぞれ導入される圧縮ガスの圧力を個別に調整する。
【0029】
本発明の一形態においては、複数のスプレーノズルが複数の群に分けられる。圧力変更工程において、複数の群の各々に含まれるスプレーノズル毎に導入される圧縮ガスの圧力を個別に調整する。
【0030】
本発明の一形態においては、圧力変更工程において、複数のスプレーノズルの各々に導入される圧縮ガス同士の圧力差を算出する。
【0031】
本発明の一形態においては、圧力変更工程において、上記圧力差を複数のスプレーノズルの各々に導入される圧縮ガス同士の流量差から算出する。
【0032】
本発明の一形態においては、成膜工程において、基板を搬送しつつ、基板搬送方向に交差する方向に配置された複数のスプレーノズルから基板に向けてミストを噴霧する。
【0033】
本発明の一形態においては、膜厚計測工程において、基板搬送方向と交差する方向における基板上の膜厚を計測する。
【0034】
本発明の一形態においては、膜厚計測工程において、複数のスプレーノズルから噴霧されるミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように圧縮ガスの圧力を調整する。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、効率よく基板上に安定して均一に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態1に係る成膜装置の構成を示す一部断面図である。
【図2】同実施形態に係る噴霧ボックスの構成を示す断面図である。
【図3】図2の噴霧ボックスのIII−III線矢印方向から見た図である。
【図4】スプレーノズルに接続される配管構成を示す側面図である。
【図5】後述する実験例で使用したスプレーノズルの特性として、ミストの噴霧量と調圧空気圧および調圧空気流量との関係を示している。
【図6】同実施形態において、複数のスプレーノズルに圧縮空気を供給するための空気供給系の構成を示す系統図である。
【図7】同実施形態の変形例において、複数のスプレーノズルに圧縮空気を供給するための空気供給系の構成を示す系統図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る成膜装置の構成を示す側面図である。
【図9】制御部による制御を示すブロック図である。
【図10】各スプレーノズルに導入する調圧空気の流量を条件ごとにまとめたものである。
【図11】成膜条件aにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。
【図12】成膜条件bにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。
【図13】成膜条件cにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態1に係る成膜装置について図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0038】
(実施形態1)
<成膜装置>
図1は、本発明の実施形態1に係る成膜装置の構成を示す一部断面図である。本実施形態に係る成膜装置は、微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する。
【0039】
図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置は、メッシュベルト1、金属マッフル2、ヒーターブロック3およびメッシュベルト駆動部4を備えるメッシュベルト式連続熱処理炉を備えている。メッシュベルト1およびメッシュベルト駆動部4から、基板6を搬送する搬送機構が構成されている。
【0040】
金属マッフル2は、上部の一部に開口を有する。噴霧ボックス5は、金属マッフル2の開口内に挿入され,支持部2aにより支持されている。
【0041】
基板6は、成膜装置の基板搬入領域7においてメッシュベルト1上に載置される。メッシュベルト1は、メッシュベルト駆動部4により駆動される。メッシュベルト1上に載置された基板6は、金属マッフル2内の加熱領域8に搬入される。
【0042】
金属マッフル2は、ヒーターブロック3によって加熱される。加熱されて高温になった金属マッフル2によって、基板6が加熱される。基板6は、所定の温度に到達した状態で噴霧ボックス5が位置する成膜領域9に搬送される。
【0043】
噴霧ボックス5内において噴霧された成膜材料を含むミストが基板6の表面に堆積することにより、成膜処理が行なわれる。このとき、基板6は一定速度で連続的に搬送されるため、基板6の搬送方向における長さが成膜領域9の長さより長い場合にも、基板6の表面全域に成膜処理を行なうことが可能である。
【0044】
成膜処理後の基板6は、金属マッフル2の外側の冷却領域10に搬送される。冷却領域10において冷却された基板6は、基板搬出領域11に搬送される。
【0045】
基板6の搬送は、たとえば、加熱領域8において一旦停止して加熱時間を長くするようにしてもよい。このようにした場合、加熱領域8の長さを短縮できるため、一定速度で基板6を搬送する成膜装置に比較して、成膜装置の大きさを小型化できる。
【0046】
しかし、高い生産効率を求められる量産装置においては、処理タクトが長くなることは好ましくないため、一定の速度で基板を搬送しつつ成膜処理する成膜装置の方が好ましい。一定速度で基板6を搬送する成膜装置では、基板搬入領域7において基板6を順次載置して成膜装置内に基板6を投入することにより、複数の基板6を連続して処理できるため、処理タクトの短縮を図れる。
【0047】
なお、上記のような連続搬送方式を採用する場合、被加熱物である基板6の熱容量などを考慮した上で、基板6の搬送速度と金属マッフル2の設定加熱温度とを調整することにより、基板6の加熱温度を制御する。同様に、基板6の搬送速度と冷却領域10における冷却条件とを調整することにより、基板6の冷却温度を制御する。
【0048】
<噴霧ボックス>
図2は、本実施形態に係る噴霧ボックスの構成を示す断面図である。図3は、図2の噴霧ボックスのIII−III線矢印方向から見た図である。なお、図2の噴霧ボックスは、図1と同じ方向から見た状態を示している。なお、図2,3においては、スプレーノズル12と接続された配管を図示していない。
【0049】
図2,3に示すように、噴霧ボックス5は、筐体5aを有している。筐体5a内の上方に、冷却ジャケット13が配置されている。冷却ジャケット13の内部にスプレーノズル12が配置されている。スプレーノズル12は、下方に向けてミストを噴霧できるように配置されている。
【0050】
本実施形態においては、9個のスプレーノズル12が、平面視において、搬送機構の基板搬送方向と直交する方向に互いに間隔を置いて位置する。ただし、複数のスプレーノズル12の配置は、基板搬送方向と直交する方向に限られず、平面視において基板搬送方向と交差する方向であればよい。なお、基板6上の幅方向の全域にミストが噴霧されるように9個のスプレーノズル12が配置されている。
【0051】
冷却ジャケット13は、ステンレスなどの金属からなり、図示しない冷却水路を含み、冷却ジャケット全体を水冷できる構造を有している。このため、スプレーノズル12の周囲は低温に維持される。
【0052】
よって、噴霧ボックス5が熱処理炉からの伝熱により加熱されても、スプレーノズル12および後述するスプレーノズル12と接続された溶液供給配管は高温にならない。そのため、成膜材料の溶液を液体状態でスプレーノズル12まで供給することが可能である。
【0053】
スプレーノズル12の搭載数は、基板6上に成膜する膜の所望の膜厚、および、成膜材料の溶液の濃度などを勘案して適宜決定されるが、本実施形態においては9個のスプレーノズル12を搭載している。
【0054】
冷却ジャケット13の下方に、整流板14が設けられている。整流板14は、スプレーノズル12から噴射されたミストの拡散を抑制してミストの輸送領域を規定している。
【0055】
また、基板6の搬送方向の下流側に、基板6の表面での成膜に寄与しなかった溶液成分を回収するための排気口15が設けられている。排気口15は、必要であれば除害装置と接続される。
【0056】
噴霧ボックス5と基板6との間には、所定の間隔のギャップがある。このギャップの大きさは、特に限定されないが、ギャップが大きすぎると熱処理炉内に大量のミストが拡散して反応生成物の堆積によるパーティクルが発生するため好ましくない。また、たとえば、成膜材料の溶液が酸性溶液の場合、ギャップから漏れ出たミストにより熱処理炉を溶解するなどの問題が生じる。
【0057】
そのため、ギャップの大きさを小さくして、ミストが熱処理炉内に拡散することを抑制することが望ましい。具体的には、噴霧ボックス5の下面と基板6の上面との間のギャップを20mm程度以下に抑えることが例として挙げられる。
【0058】
<スプレーノズル>
噴霧ボックス5に搭載される9個のスプレーノズル12は、成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して成膜材料を微粒子化したミストを筐体5aの内部に噴霧する。本実施形態においては、スプレーノズル12は、圧縮空気と成膜材料の溶液とを混合してミストを噴霧する2流体スプレーである。
【0059】
一般に、スプレーノズルには、液体のみをスプレーノズルに供給してこの液体をミストとして噴霧する1流体スプレーノズルと、液体と気体とをスプレーノズルに供給して混合することによりミストを噴霧する2流体スプレーノズルとがある。
【0060】
2流体スプレーノズルは、微細なミストの生成が可能であり、基板に到達したミストの気化熱によって引き起こされる基板面内の温度分布のばらつきを低減するのに適している。
【0061】
図4は、スプレーノズルに接続される配管構成を示す側面図である。図4に示すように、スプレーノズル12には、成膜材料の溶液が供給されるための溶液供給配管16、および、圧縮空気が供給されるためのエア供給配管17が接続されている。
【0062】
スプレーノズル12は、内部の成膜材料の溶液の経路中にエア駆動型の弁を有している。スプレーノズル12には、この弁を駆動する圧縮空気が供給されるための弁駆動用エア配管18がさらに接続されている。
【0063】
図5は、後述する実験例で使用したスプレーノズルの特性として、ミストの噴霧量と調圧空気圧および調圧空気流量との関係を示している。図5においては、縦軸に、スプレーノズル12に導入される調圧空気の圧力(以下、調圧空気圧と称する)およびその調圧空気の流量(以下、調圧空気流量と称する)を、横軸に、スプレーノズル12から噴霧されるミストの噴霧量を示している。
【0064】
なお、図5に示すデータは、スプレーノズルとして、いけうち社製BIMV8002Sの耐食仕様を使用し、溶液として水を使用し、溶液の圧力を−100mmAqとした際のデータである。
【0065】
使用する溶液の種類および圧力によって具体的な数値は変動するが、図5に示すように、調圧空気圧が0.2MPa以上の範囲においては、調圧空気圧の増加とともにミストの噴霧量が低下する傾向にある。これは、調圧空気圧の増加に伴って、スプレーノズル12から噴射される成分のうち空気は多くなり成膜材料の溶液は少なくなるため、発生するミストの量が低下することによる。調圧空気圧と調圧空気流量とは比例関係にあり、調圧空気圧の増加に伴って調圧空気流量が増加する。
【0066】
<空気供給系>
図6は、本実施形態において、複数のスプレーノズルに圧縮空気を供給するための空気供給系の構成を示す系統図である。図6に示すように、本実施形態においては、圧縮空気の供給源22から9個のスプレーノズル12に圧縮空気が供給されている。
【0067】
具体的には、供給源22は、ヘッダー配管23と接続されている。ヘッダー配管23は、9本の分岐配管24と接続されている。9本の分岐配管の各々には、供給源22側から順に、流量計20とレギュレータ19とが接続されている。1個のレギュレータ19は、1本のエア供給配管17を介して1個のスプレーノズル12と接続されている。
【0068】
本実施形態においては、9本のエア供給配管17の各々にレギュレータ19が接続されている。この9個のレギュレータ19からガス圧調整機構が構成されている。
【0069】
レギュレータ19は、供給源22から供給された圧縮空気を圧力の異なる調圧空気に調整し、その調圧空気をスプレーノズル12に導入する。
【0070】
本実施形態においては、9個のレギュレータ19が、個別に調整した複数の調圧空気を9個のスプレーノズル12にそれぞれ導入する。そのため、最大で9種類の調圧空気を調整することができる。最大で9種類の調圧ガスのすべては、9個のスプレーノズル12に対して導入される。
【0071】
レギュレータ19の種類は特に限定されないが、基板6上の膜厚の計測結果に基づいて自動的に調圧空気の圧力制御を行なうシステムを構築する場合は、レギュレータ19として電空レギュレータを用いることが好ましい。
【0072】
また、ガス圧調整機構の構成は上記に限られず、たとえば、1台で複数の調圧ガスを調整可能なものでもよい。この場合、ヘッダー配管23にガス圧調整機構が接続され、ガス圧調整機構に複数の分岐配管24が接続される。
【0073】
本実施形態においては、9個のスプレーノズル12のそれぞれに供給される圧縮空気の流量を9個の流量計20でモニターしている。したがって、各スプレーノズル12に供給される圧縮空気の流量の増減を確認しつつ、各レギュレータ19にて個々のスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を調整することができる。
【0074】
仮に、レギュレータ19としてニードル弁を用い、流量計20を用いない場合、スプレーノズル12に導入する調圧空気圧を定量的に把握することが難しい。そのため、複数のスプレーノズル12を搭載した場合、各スプレーノズル12に導入される調圧空気同士の圧力差を算出することが困難である。搭載されるスプレーノズル12の数が多くなるほどその困難さが増す。
【0075】
また、流量計20を用いずにレギュレータ19の圧力表示のみに基づいて、調圧空気の圧力を制御することも可能ではあるが、配管内に詰まりなどの異常が生じた場合の圧力変動を感知することが難しいという問題がある。
【0076】
本実施形態に係る成膜装置においては、9個のスプレーノズル12の各々に導入される調圧ガス同士の圧力差を算出するためのセンサーとして流量計20を配置している。
【0077】
流量計20の計測結果は、空気供給系における流量計20以降のコンダクタンスが変化しない限り調圧空気圧に相関して変化する。すなわち、各スプレーノズル12において、上記コンダクタンスが変化しない限り、供給される圧縮ガスの流量と調圧空気圧とが比例関係にある。
【0078】
そのため、9個の流量計20の計測結果から9個のスプレーノズル12の各々に導入される調圧空気同士の流量差を算出することによって、定量性をもって9個のスプレーノズル12の各々に導入される調圧空気同士の圧力差を算出することができる。
【0079】
また、配管内に詰まりが発生した場合またはスプレーノズル12に目詰まりが発生した場合などの異常発生時に、調圧空気流量の低下に起因する調圧空気圧の圧力変動を感知することができる。よって、異常発生を容易に認識することが可能となる。なお、流量計20としては、圧力に依存しない質量流量計であることが望ましい。
【0080】
図7は、本実施形態の変形例において、複数のスプレーノズルに圧縮空気を供給するための空気供給系の構成を示す系統図である。図7に示すように、本実施形態の変形例においては、供給源22は、ヘッダー配管23と接続されている。ヘッダー配管23は、3本の分岐配管24と接続されている。3本の分岐配管の各々には、供給源22側から順に、流量計20とレギュレータ19とが接続されている。1個のレギュレータ19は、3本のエア供給配管17を介して3個のスプレーノズル12と接続されている。
【0081】
すなわち、9個のスプレーノズルが3つの群に分けられている。ガス圧調整機構を構成する3個のレギュレータ19は、、個別に調整した調圧ガスを3つの群の各々に含まれるスプレーノズル12毎に導入する。この構成により、空気供給系の配管数を低減することができる。
【0082】
<膜厚均一化>
基板6の膜厚計測結果に基づいて、必要に応じてガス圧調整機構により調圧空気の圧力を変更する。基板6の膜厚計測は、成膜処理後に行なってもよいし、成膜処理と同時に行なってもよい。
【0083】
成膜処理後に膜厚計測を行なう場合には、膜厚計測された基板6に続いて成膜処理される基板6の成膜処理時に膜厚の均一化が図られる。成膜処理と同時に膜厚計測を行なう場合には、膜厚計測されている基板6の成膜処理時に膜厚の均一化が図られる。
【0084】
また、膜厚測定は、成膜装置とは別の測定器を用いて行なってもよいし、成膜装置に膜厚測定機構を設けて自動で行なうようにしてもよい。
【0085】
本実施形態に係る成膜装置においては、基板6を搬送しつつ成膜処理を行なうため、基板搬送方向における膜厚のばらつきは相対的に小さい。一方、基板搬送方向と直交する方向においては、9個のスプレーノズル12間の個体差、および、噴霧ボックス5の両側の内壁などの影響を受けるため、膜厚のばらつきが相対的に大きい。
【0086】
本実施形態に係る成膜装置においては、基板搬送方向と直交する方向における膜厚のばらつきを低減させることにより膜厚の均一化を図る。
【0087】
具体的には、膜厚の計測結果に基づいて膜厚の薄い領域を確認する。ガス圧調整機構によって、膜厚の薄い領域に対向するスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を増加させる。
【0088】
調圧空気圧は、図5に示すように調圧空気圧と調圧空気流量とが比例関係にある、0.2MPa以上0.4MPa以下程度の範囲で調整されることが好ましい。また、流量計20の計測結果から算出された9個のスプレーノズル12の各々の調圧空気圧を相互に比較して、増加させる調圧空気圧を決定することが好ましい。
【0089】
このようにして、膜厚の薄い領域に対向するスプレーノズル12に導入する調圧空気流量を増加させることにより、基板6上の膜厚の薄い領域の膜厚が厚くなることを実験により確認している。
【0090】
上記の効果は以下の現象に基づいて生じるものと考えられる。
スプレーノズル12から気体が噴射されるとその周辺に負圧が生じるため、スプレーノズル12から噴射された気体はその周辺の気体を巻き込む流れを形成する。互いに隣接する2つのスプレーノズル12においては、それぞれから噴射された気体の流速が大きい方に流速が小さい方の気体が引き込まれる挙動を示す。
【0091】
スプレーノズル12から噴霧されるミストは、上記気体の流れに乗って輸送されるため、流速の大きい方のスプレーノズル12側に、流速の小さい方のスプレーノズル12から噴霧されたミストが引き寄せられて輸送される。スプレーノズル12から噴射される気体の流速は、通常、スプレーノズル12に導入する調圧ガスの圧力に比例する。
【0092】
すなわち、一方のスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を他方のスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力より大きくすることにより、調圧空気の圧力を大きくした側のスプレーノズル12に対向する基板領域により多くのミストを輸送することができる。
【0093】
当然ながら、スプレーノズル12が3つ以上であっても同様の効果を得ることができる。一つのスプレーノズル12から噴射される空気流量が、このスプレーノズル12の周囲に位置するスプレーノズル12から噴射される空気流量よりも大きい場合、周囲に位置するスプレーノズル12から噴霧されたミストの一部は、上記一つのスプレーノズル12から噴射される空気の流れに巻き込まれて、上記一つのスプレーノズル12と対向する基板領域に到達する。その結果、上記一つのスプレーノズル12と対向する基板領域に成膜される膜の膜厚が、その周辺の領域に成膜される膜の膜厚より厚くなる。
【0094】
なお、図5に示すように0.2MPa以上まで調圧空気圧を増加させると、ミストの噴霧量が低下する。そのため、スプレーノズル12を単独で配置した場合には、調圧空気圧を増加させることにより、スプレーノズル12と対向する基板領域に到達するミストの量が低下する。
【0095】
しかし、複数のスプレーノズル12を配置した場合には、上記の気流現象により、調圧空気圧を増加させたスプレーノズル12と対向する基板領域に到達するミストが増加する。すなわち、複数のスプレーノズル12を配置した場合、調圧空気圧を低下させてミストの噴霧量を増加させたスプレーノズル12と対向する基板領域の膜厚は厚くならず、調圧空気圧を増加させてミストの噴霧量を低下させたスプレーノズル12と対向する基板領域の膜厚が厚くなる。
【0096】
ここで、調圧空気圧を増加させる、または、低下させるという制御は、周囲に位置するスプレーノズル12との相対的な関係が変わることによって効果を生じる。このため、たとえば、膜厚が局所的に薄い領域が存在する場合に、当該領域に対向するスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力のみを増加させることと、当該領域に対向するスプレーノズル12以外のすべてのスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を低下させることとは同様の効果を有する。
【0097】
つまり、膜厚のばらつきを低減するために採り得る制御には自由度があり、調圧空気圧を増加させる、または、低下させるのいずれの制御を採ることも可能である。
【0098】
ただし、図5に示すように、スプレーノズル12の噴霧特性においては、調圧空気圧の大きさによってミストの噴霧量が異なる。一つのスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力だけを0.2MPa以上に増加させると、そのスプレーノズル12からのミストの噴霧量が低下するため、9個のスプレーノズル12からのミストの噴霧量の総量が低下する。その結果、基板6上の平均膜厚が低下する。
【0099】
よって、膜厚のばらつきを低減するために調圧空気圧を変更する場合は、一つのスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を増加させるとともに、他のスプレーノズル12に導入する調圧空気の圧力を下げて、9個のスプレーノズル12のミストの噴霧量の総量を一定に維持することが望ましい。
【0100】
そのために、使用するスプレーノズル12および成膜材料の溶液において、調圧空気圧とミストの噴霧量との関係を予めデータベース化しておき、使用する全てのスプレーノズル12からのミストの噴霧量の総量が一定となるように調圧空気圧を個々に調整できるように成膜装置を構成することが好ましい。
【0101】
本実施形態においては、9個のレギュレータ19は、9個のスプレーノズル12のうちの基板6上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズル12に導入する調圧ガスの圧力を増加させる、または、9個のスプレーノズルのうちの基板6上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズル12に導入する調圧ガスの圧力を低下させる。
【0102】
また、9個のレギュレータ19は、9個のスプレーノズル12から噴霧されるミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように調圧ガスの圧力を調整する。
【0103】
上記の構成により、複数のスプレーノズル12を用いて効率よく基板6上に安定して均一に成膜することができる。
【0104】
以下、本発明の実施形態2に係る成膜装置について図を参照して説明する。なお、本実施形態に係る成膜装置は、膜厚計測機構を備えて自動的にガス圧調整機構を制御する点のみ実施形態1に係る成膜装置と異なるため、他の構成については説明を繰り返さない。
【0105】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2に係る成膜装置の構成を示す側面図である。図8に示すように、本発明の実施形態2に係る成膜装置においては、冷却領域10と基板搬出領域11との間に膜厚計測機構である光干渉型の膜厚計測器21が設けられている。
【0106】
膜厚計測器21は、基板6上に光を照射する光源21aと、基板6上からの反射光を検出する検出部21bとを有している。本実施形態においては、光源21aおよび検出部21bが、基板搬送方向に直交する方向にライン状に配置されている。膜厚計測器21として、たとえば、Dr.Schenk社製のSolarInspectシリーズの検査装置を用いることができる。
【0107】
膜厚計測器21は、基板搬送方向と直交する方向における基板6上の膜厚を計測する。具体的には、基板搬送方向に直交する方向にライン状に配置された光源21aから、基板6上の幅方向の全域に光を照射する。基板6上で反射された光を基板搬送方向に直交する方向にライン状に配置された検出部21bで検出する。
【0108】
基板6上に成膜された膜の膜厚の違いにより反射光の強度が異なるため、基板搬送方向に直交する方向における基板6上の膜厚を計測することができる。膜厚計測器21の計測結果は制御部に送られる。
【0109】
図9は、制御部による制御を示すブロック図である。図9に示すように、膜厚計測器21による計測結果は、制御部26の入力部26Aに入力される。制御部26は、入力部26Aに入力された基板6上の膜厚計測結果から膜厚のばらつきを認識する。
【0110】
次に、制御部26は、記憶部26Cに記憶されている、使用するスプレーノズル12および成膜材料の溶液における調圧空気圧とミストの噴霧量とに関するデータベースを読み込む。
【0111】
制御部26は、演算部26Bにおいて、記憶部26Cから読み込んだデータベースに基づいて、膜厚のばらつきを低減するために各スプレーノズル12に導入する調圧空気圧力を算出する。
【0112】
制御部26は、演算部26Bにより算出された調圧空気圧力となるように各レギュレータ19に制御信号を送信する。制御信号が入力された各レギュレータ19は、調圧空気の圧力を制御信号に従ってそれぞれ調節する。
【0113】
上記の構成により、成膜処理された基板6の膜厚計測結果に基づいて、各スプレーノズル12に導入される調圧空気の圧力が調整されるため、次に成膜処理される基板6においては、均一な膜厚で成膜することができる。このように、連続して基板6を成膜処理することにより、効率よく基板6上に安定して均一に成膜することができる。
【0114】
また、スプレーノズル12が劣化するなどの何らかの原因でミストの到達領域が変化する異常が発生した場合において、膜厚のばらつきをある程度抑制することができる。
【0115】
以下、本発明の成膜装置を用いて、薄膜太陽電池用透明導電膜としてSnO2膜を成膜した実験例について説明する。
【0116】
(実験例)
成膜条件は以下の通りである。
【0117】
基板6としては、基板サイズが1.4m×1.0m、厚さが3.9mmの白板ガラスからなるガラス基板を用いた。ガラス基板上には、本成膜前に予めアルカリバリアとしてSiO2膜が成膜されている。
【0118】
ガラス基板の長辺方向が基板搬送方向となるように、メッシュベルト1上にガラス基板を載置した。加熱領域8において、ガラス基板の搬送を一時停止し、基板温度が550℃になるまでガラス基板を加熱した。
【0119】
噴霧ボックス5を通過する際の基板搬送速度を24cm/minの一定に維持して搬送しつつガラス基板に成膜処理を行なった。スプレーノズル12としては、いけうち社製BIMV8002Sの耐食仕様(材質:ハステロイB)を用いた。
【0120】
成膜材料の溶液としては、0.9mol/LのSnCl4・5H2Oと、0.3mol/LのNH4Fと、30vol%のHClと、2.5vol%のメタノールとを含む水溶液を用いた。
【0121】
溶液供給配管16としては、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)製のチューブを使用した。密閉した圧力容器内で圧力調整を行なった溶液タンクから、成膜材料の溶液を供給した。なお、溶液圧力は水頭差分を勘案した上で、スプレーノズル12において−100mmAqに設定した。
【0122】
流量計20としては、CKD社製小型流量センサーFSM2シリーズの流量計を用いた。レギュレータ19としては、CKD社製の小型レギュレータRB500を用いた。
【0123】
膜厚計測器21としては、BrightView Systems社製のInsight M5を用いて、光学干渉法により基板6上の膜厚を計測した。
【0124】
なお、平面視において、基板搬送方向をY方向、基板搬送方向と直交する方向をX方向とする。また、基板搬送時の基板先頭の端面をY方向における基板位置の原点とし、基板搬送方向に向いて後方から基板を見た際の左端面をX方向における基板位置の原点とする。
【0125】
噴霧ボックス5内に、ノズル番号がNo.1〜No.9の9個のスプレーノズル12を配置した。噴霧ボックス5の下方を通過するガラス基板に対して、No.1のスプレーノズルは、X=20mmの基板位置に対向するように配置されている。No.2のスプレーノズルは、X=140mmの基板位置に対向するように配置されている。No.3のスプレーノズルは、X=260mmの基板位置に対向するように配置されている。
【0126】
No.4のスプレーノズルは、X=380mmの基板位置に対向するように配置されている。No.5のスプレーノズルは、X=500mmの基板位置に対向するように配置されている。No.6のスプレーノズルは、X=620mmの基板位置に対向するように配置されている。
【0127】
No.7のスプレーノズルは、X=740mmの基板位置に対向するように配置されている。No.8のスプレーノズルは、X=860mmの基板位置に対向するように配置されている。No.9のスプレーノズルは、X=980mmの基板位置に対向するように配置されている。
【0128】
図10は、各スプレーノズルに導入する調圧空気の流量を条件ごとにまとめたものである。本実験例においては、成膜条件a,b,cの3条件で成膜処理を行なった。図10に示すように、成膜条件aにおいては、調圧空気流量をすべてのスプレーノズルで20L/minとした。
【0129】
成膜条件bにおいては、調圧空気流量を、No.1のスプレーノズルで22L/min、No.2のスプレーノズルで20L/min、No.3のスプレーノズルで16L/min、No.4のスプレーノズルで16L/min、No.5のスプレーノズルで16L/min、No.6のスプレーノズルで16L/min、No.7のスプレーノズルで16L/min、No.8のスプレーノズルで20L/min、No.9のスプレーノズルで22L/minとした。
【0130】
成膜条件cにおいては、調圧空気流量を、No.1のスプレーノズルで22L/min、No.2のスプレーノズルで20L/min、No.3のスプレーノズルで18L/min、No.4のスプレーノズルで16L/min、No.5のスプレーノズルで14L/min、No.6のスプレーノズルで16L/min、No.7のスプレーノズルで18L/min、No.8のスプレーノズルで20L/min、No.9のスプレーノズルで22L/minとした。
【0131】
図11は、成膜条件aにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。図12は、成膜条件bにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。図13は、成膜条件cにおいて成膜された膜の膜厚の分布を示すグラフである。
【0132】
なお、図11〜13においては、縦軸に膜厚(nm)、横軸にX方向における基板上の位置(mm)を示している。また、Y=200mmの位置、Y=700mmの位置、Y=1200mmの位置での計測結果を示している。
【0133】
図10に示すように、成膜条件aにおいては、すべてのスプレーノズルにおいて調圧空気流量を均一に設定しているにも関わらず、図11に示すように、X方向において両端付近で膜厚が薄くなっている。
【0134】
図10に示すように、成膜条件bにおいては、X方向における両端に位置するNo.1,9のスプレーノズル12に導入する調圧空気の流量を増加させ、中央側に位置するNo.3〜No.7のスプレーノズル12に導入する調圧空気の流量を均一に低下させるように設定している。図12に示すように、成膜条件bでは、成膜条件aに比較して、X方向における両端付近で膜厚が厚くなり、基板上の膜厚のばらつきが低減されている。
【0135】
図10に示すように、成膜条件cにおいては、X方向において両端に位置するスプレーノズルに導入する調圧空気の流量を増加させ、中央に位置するほどスプレーノズルに導入する調圧空気の流量を段階的に低下させるように設定している。図13に示すように、成膜条件cでは、X方向の全域において膜厚のばらつきがさらに低減されていた。
【0136】
なお、平均膜厚に対する膜厚のばらつきは、成膜条件aで±57%、成膜条件bで±24%、成膜条件cで±23%であった。
【0137】
上記の実験結果から、複数の2流体スプレーを用いた成膜装置において、調圧空気流量を調整することにより、基板上の膜厚のばらつきを低減することができることが確認された。調圧空気流量は調圧空気圧に比例するため、調圧空気圧を調整することにより基板上の膜厚のばらつきを低減することができる。
【0138】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0139】
1 メッシュベルト、2 金属マッフル、2a 支持部、3 ヒーターブロック、4 メッシュベルト駆動部、5 噴霧ボックス、5a 筐体、6 基板、7 基板搬入領域、8 加熱領域、9 成膜領域、10 冷却領域、11 基板搬出領域、12 スプレーノズル、13 冷却ジャケット、14 整流板、15 排気口、16 溶液供給配管、17 エア供給配管、18 弁駆動用エア配管、19 レギュレータ、20 流量計、21 膜厚計測器、21a 光源、21b 検出部、22 供給源、23 ヘッダー配管、24 分岐配管、26 制御部、26A 入力部、26B 演算部、26C 記憶部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置であって、
筐体と、
前記成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して前記成膜材料を微粒子化したミストを前記筐体の内部に噴霧する複数のスプレーノズルと、
前記圧縮ガスを圧力の異なる複数の調圧ガスに調整し、前記複数のスプレーノズルの各々に前記複数の調圧ガスのいずれかを導入し、かつ、前記複数の調圧ガスのすべてを前記複数のスプレーノズルに対して導入するガス圧調整機構と
を備えた、成膜装置。
【請求項2】
前記ガス圧調整機構は、前記複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズルに導入する前記調圧ガスの圧力を増加させる、または、前記複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズルに導入する前記調圧ガスの圧力を低下させる、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記ガス圧調整機構が、個別に調整した前記複数の調圧ガスを前記複数のスプレーノズルにそれぞれ導入する、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記複数のスプレーノズルが複数の群に分けられ、
前記ガス圧調整機構が、個別に調整した前記複数の調圧ガスを前記複数の群の各々に含まれるスプレーノズル毎に導入する、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記複数のスプレーノズルの各々に導入される前記調圧ガス同士の圧力差を算出するためのセンサーをさらに備えた、請求項1から4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記センサーが流量計である、請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
基板を搬送する搬送機構をさらに備え、
前記複数のスプレーノズルは、平面視において、前記搬送機構の基板搬送方向と交差する方向に互いに間隔を置いて位置する、請求項1から6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
基板上の膜厚を計測する膜厚計測機構をさらに備え、
前記膜厚計測機構は、前記基板搬送方向と交差する前記方向における基板上の膜厚を計測し、
前記ガス圧調整機構は、前記膜厚計測機構の計測結果に基づいて、前記複数の調圧ガスの圧力を調整する、請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記ガス圧調整機構は、前記複数のスプレーノズルから噴霧される前記ミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように前記複数の調圧ガスの圧力を調整する、請求項1から8のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜方法であって、
複数のスプレーノズルから基板に向けて、前記成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して前記成膜材料を微粒子化したミストを噴霧する成膜工程と、
基板上の膜厚を計測する膜厚計測工程と、
前記膜厚計測工程における計測結果に基づいて、前記複数のスプレーノズルのうちの少なくとも1つのスプレーノズルに導入される前記圧縮ガスの圧力を変更する圧力変更工程と
を備える、成膜方法。
【請求項11】
前記圧力変更工程において、前記複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズルに導入される前記圧縮ガスの圧力を増加させる、または、前記複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズルに導入される前記圧縮ガスの圧力を低下させる、請求項10に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記圧力変更工程において、前記複数のスプレーノズルにそれぞれ導入される前記圧縮ガスの圧力を個別に調整する、請求項10または11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記複数のスプレーノズルが複数の群に分けられ、
前記圧力変更工程において、前記複数の群の各々に含まれるスプレーノズル毎に導入される前記圧縮ガスの圧力を個別に調整する、請求項10または11に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記圧力変更工程において、前記複数のスプレーノズルの各々に導入される前記圧縮ガス同士の圧力差を算出する、請求項10から13のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項15】
前記圧力変更工程において、前記圧力差を前記複数のスプレーノズルの各々に導入される前記圧縮ガス同士の流量差から算出する、請求項14に記載の成膜方法。
【請求項16】
前記成膜工程において、基板を搬送しつつ、基板搬送方向に交差する方向に配置された前記複数のスプレーノズルから基板に向けて前記ミストを噴霧する、請求項10から15のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項17】
前記膜厚計測工程において、前記基板搬送方向と交差する前記方向における基板上の膜厚を計測する、請求項16に記載の成膜方法。
【請求項18】
前記膜厚計測工程において、前記複数のスプレーノズルから噴霧される前記ミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように前記圧縮ガスの圧力を調整する、請求項10から17のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項1】
微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置であって、
筐体と、
前記成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して前記成膜材料を微粒子化したミストを前記筐体の内部に噴霧する複数のスプレーノズルと、
前記圧縮ガスを圧力の異なる複数の調圧ガスに調整し、前記複数のスプレーノズルの各々に前記複数の調圧ガスのいずれかを導入し、かつ、前記複数の調圧ガスのすべてを前記複数のスプレーノズルに対して導入するガス圧調整機構と
を備えた、成膜装置。
【請求項2】
前記ガス圧調整機構は、前記複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズルに導入する前記調圧ガスの圧力を増加させる、または、前記複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズルに導入する前記調圧ガスの圧力を低下させる、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記ガス圧調整機構が、個別に調整した前記複数の調圧ガスを前記複数のスプレーノズルにそれぞれ導入する、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記複数のスプレーノズルが複数の群に分けられ、
前記ガス圧調整機構が、個別に調整した前記複数の調圧ガスを前記複数の群の各々に含まれるスプレーノズル毎に導入する、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記複数のスプレーノズルの各々に導入される前記調圧ガス同士の圧力差を算出するためのセンサーをさらに備えた、請求項1から4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記センサーが流量計である、請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
基板を搬送する搬送機構をさらに備え、
前記複数のスプレーノズルは、平面視において、前記搬送機構の基板搬送方向と交差する方向に互いに間隔を置いて位置する、請求項1から6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
基板上の膜厚を計測する膜厚計測機構をさらに備え、
前記膜厚計測機構は、前記基板搬送方向と交差する前記方向における基板上の膜厚を計測し、
前記ガス圧調整機構は、前記膜厚計測機構の計測結果に基づいて、前記複数の調圧ガスの圧力を調整する、請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記ガス圧調整機構は、前記複数のスプレーノズルから噴霧される前記ミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように前記複数の調圧ガスの圧力を調整する、請求項1から8のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜方法であって、
複数のスプレーノズルから基板に向けて、前記成膜材料の溶液と圧縮ガスとを混合して前記成膜材料を微粒子化したミストを噴霧する成膜工程と、
基板上の膜厚を計測する膜厚計測工程と、
前記膜厚計測工程における計測結果に基づいて、前記複数のスプレーノズルのうちの少なくとも1つのスプレーノズルに導入される前記圧縮ガスの圧力を変更する圧力変更工程と
を備える、成膜方法。
【請求項11】
前記圧力変更工程において、前記複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の薄い領域と対向するスプレーノズルに導入される前記圧縮ガスの圧力を増加させる、または、前記複数のスプレーノズルのうちの基板上の膜厚の厚い領域と対向するスプレーノズルに導入される前記圧縮ガスの圧力を低下させる、請求項10に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記圧力変更工程において、前記複数のスプレーノズルにそれぞれ導入される前記圧縮ガスの圧力を個別に調整する、請求項10または11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記複数のスプレーノズルが複数の群に分けられ、
前記圧力変更工程において、前記複数の群の各々に含まれるスプレーノズル毎に導入される前記圧縮ガスの圧力を個別に調整する、請求項10または11に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記圧力変更工程において、前記複数のスプレーノズルの各々に導入される前記圧縮ガス同士の圧力差を算出する、請求項10から13のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項15】
前記圧力変更工程において、前記圧力差を前記複数のスプレーノズルの各々に導入される前記圧縮ガス同士の流量差から算出する、請求項14に記載の成膜方法。
【請求項16】
前記成膜工程において、基板を搬送しつつ、基板搬送方向に交差する方向に配置された前記複数のスプレーノズルから基板に向けて前記ミストを噴霧する、請求項10から15のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項17】
前記膜厚計測工程において、前記基板搬送方向と交差する前記方向における基板上の膜厚を計測する、請求項16に記載の成膜方法。
【請求項18】
前記膜厚計測工程において、前記複数のスプレーノズルから噴霧される前記ミストの噴霧量の総量が一定に維持されるように前記圧縮ガスの圧力を調整する、請求項10から17のいずれかに記載の成膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−111515(P2013−111515A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258837(P2011−258837)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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