成膜装置及び成膜方法
【課題】膜厚補正板を設けることなく、複数の基板に対して均一な厚みの薄膜を形成することができる成膜装置を提供する。
【解決手段】内部を真空状態に維持した真空容器内で、同一の膜原料物質で構成される一対のターゲット29a,29bを交互にスパッタし、基板Sを保持して回転する回転ドラム13の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲット29a又は29bから膜原料物質を供給し、回転ドラム13の回転毎に間欠的に基板Sの表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置である。一対のターゲット29a,29bのそれぞれを保持して電圧を印加する一対のスパッタ電極21a,21bと、この電極21a,21bに交流電力を供給する交流電源23と、ターゲット29a,29bに向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段と、電極21a,21bの配置を真空容器の外部から変更可能な電極配置調整機構100を有する。
【解決手段】内部を真空状態に維持した真空容器内で、同一の膜原料物質で構成される一対のターゲット29a,29bを交互にスパッタし、基板Sを保持して回転する回転ドラム13の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲット29a又は29bから膜原料物質を供給し、回転ドラム13の回転毎に間欠的に基板Sの表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置である。一対のターゲット29a,29bのそれぞれを保持して電圧を印加する一対のスパッタ電極21a,21bと、この電極21a,21bに交流電力を供給する交流電源23と、ターゲット29a,29bに向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段と、電極21a,21bの配置を真空容器の外部から変更可能な電極配置調整機構100を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜対象としての基板を保持した状態で回転する基板ホルダの所定領域に向けて成膜源から膜原料物質を供給し、基板ホルダの回転毎に間欠的に基板の表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置において、膜厚補正板を成膜源と基板ホルダの間に配置する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−204304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の成膜装置では、成膜源と基板ホルダの間に膜厚補正板が配置してあることから、成膜源から基板ホルダの所定領域に向けて供給される膜原料物質の一部が遮断され、これにより前記所定領域に供給される膜原料物質の量を均一化でき、前記所定領域を通過する複数の基板に対して均一な厚みの薄膜を形成することができる。
【0005】
ところで、特許文献1の成膜装置において、成膜装置の作動を開始した後、基板に形成する薄膜の膜厚分布を変更することを望む場合、膜厚補正板の配置を調整する必要があるが、この場合、配置調整の都度、成膜装置を大気開放する必要があり、生産性の観点から改善が求められている。
【0006】
また、成膜バッチが進むにつれて膜厚補正板に付着する膜原料物質の量が増加し、やがては付着した膜原料物質が補正板から剥離して飛散する。膜原料物質が補正板から剥離して飛散すると、これが成膜不良の原因となり、この観点からの改善も求められている。
【0007】
発明が解決しようとする課題は、膜厚補正板を設けることなく、複数の基板に対して均一な厚みの薄膜を形成することができる成膜装置及び成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。なお、以下の解決手段では、発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、この符号は発明の理解を容易にするためだけのものであって発明を限定する趣旨ではない。
【0009】
第1の発明に係る成膜装置(1)は、内部を真空状態に維持した真空容器(11)内で、同一の膜原料物質で構成される複数のターゲット(29a,29b,49a,49b)を順次スパッタし、基体(S)を保持して回転する基体保持手段(13)の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、基体保持手段(13)の回転毎に間欠的に基体(S)の表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置(1)であって、ターゲット(29a,29b,49a,49b)のそれぞれを保持して電圧を印加する複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)と、複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)に電力を供給する電力供給手段(23,43)と、ターゲット(29a,29b,49a,49b)に向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段(25〜28,45〜48)と、複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)の配置を真空容器(11)の外部から変更可能な電極配置調整機構(100)とを有する。
【0010】
第2の発明に係る成膜装置(1)は、内部を真空状態に維持した真空容器(11)内で、同一の膜原料物質で構成される少なくとも一対のターゲット(29a,29b、又は49a,49b)を交互にスパッタし、基体(S)を保持して回転する基体保持手段(13)の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲット(29a又は29b,49a又は49b)から膜原料物質を供給することで、基体保持手段(13)の回転毎に間欠的に基体(S)の表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置(1)であって、ターゲット(29a,29b,49a,49b)のそれぞれを保持して電圧を印加する複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)と、複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)に交流電力を供給する交流電力供給手段(23,43)と、ターゲット(29a,29b,49a,49b)に向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段(25〜28,45〜48)と、複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)の配置を真空容器(11)の外部から変更可能な電極配置調整機構(100)とを有する。
【0011】
上記発明において、基体保持手段(13)の一部の領域における膜原料物質の付着分布を測定する付着分布測定手段(300)と、前記付着分布に基づいて電極配置調整機構(100)の作動を制御する付着分布制御手段(400)とを有し、付着分布制御手段(400)は、前記付着分布に基づいて算出される電極配置が、目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出し、この算出した変動情報に基づいて電極配置調整機構(100)を作動させることができる。
【0012】
上記発明において、付着分布測定手段(300)は、前記領域に向けてターゲット(29a,29b,49a,49b)から供給される膜原料物質が常時付着する位置に固定された複数の付着量検出部(302,33a1〜33a6,33b1〜33b6)と、この付着量検出部に付着する膜原料物質の付着量に基づいて、前記領域における膜原料物質の付着分布を算出する付着分布算出部(304)とを有することができる。
【0013】
上記発明において、付着量検出部(302)は、基体保持手段(13)が回転する軸線(Z)の延出方向(Y方向)に沿って断続的に配列されることができる。
【0014】
発明に係る成膜方法は、内部を真空状態に維持した真空容器(11)内で、同一の膜原料物質で構成される複数のターゲット(29a,29b,49a,49b)を順次スパッタし、基体(S)を保持して回転する基体保持手段(13)の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、基体保持手段(13)の回転毎に間欠的に基体(S)の表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜方法であって、前記領域における膜原料物質の付着分布を測定する付着分布測定工程と、前記付着分布に基づいて、前記ターゲットのそれぞれを保持する複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)の配置を算出する電極配置算出工程と、前記電極の配置が目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出する変動情報算出工程と、前記変動情報に基づいて、真空容器(11)の外部に設けられた電極配置調整機構(100)を作動させて前記電極配置を前記最適電極配置に変動させる電極位置調整工程とを、有する。
【発明の効果】
【0015】
上記発明によれば、複数のスパッタ電極の配置を真空容器の外部から変更可能な電極配置調整機構を有するので、膜厚補正板を設けることなく、基体保持手段に保持される複数の基板に対して均一な厚みの薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本実施形態に係る成膜装置を上面から見た部分横断面図である。
【図2】図2は図1のII−II線に沿った部分縦断面図である。
【図3】図3は図1のIII−III線方向から見た成膜プロセス領域付近を示す要部拡大図である。
【図4】図4は図3をIV方向から見たときの概略図である。
【図5】図5は図3をV方向から見た場合の概略図である。
【図6】図6は図1のIII−III線方向から見た他の態様の成膜プロセス領域付近を示す要部拡大図である。
【図7】図7は図6をVII方向から見たときの概略図である。
【図8】図8は第2実施形態に係るシステム構成を説明する機能ブロック図である。
【図9】図9(a)〜図9(c)は平面視した場合の一対のターゲットの配置を説明する図である。
【図10】図10(a)及び図10(b)は平面視した場合の一対のターゲットの配置を説明する図である。
【図11】図11は回転ドラム13の一部の領域(所定領域)における中心部分からの位置と、各位置での膜原料物質の付着量との関係を、一対のターゲットの配置毎に示した相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、上記発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
《第1実施形態》
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、略直方体状の中空体である真空容器11を有する。真空容器11には排気用の配管15aが接続され、この配管には容器11内排気のための真空ポンプ15が接続されている。真空ポンプ15は、例えば、ロータリポンプやターボ分子ポンプ(TMP)などで構成される。真空容器11内には回転ドラム13が配設されている。回転ドラム13(基体保持手段)は、その外周面に成膜対象としての基板Sを真空容器11内で保持可能な筒状部材で構成されている。本実施形態の回転ドラム13は、筒方向に延びる回転軸線Zが真空容器11の鉛直方向(Y方向)へ向くように真空容器11内に配設される。回転ドラム13は、モータ17を駆動させることにより軸線Zを中心に回転する。
【0019】
本実施形態では、真空容器11内の、回転ドラム13の周りには、2つのスパッタ源と、1つのプラズマ源80とが配設されている。ただし、本実施形態では、スパッタ源は、少なくとも1つ配設されていればよい。
【0020】
本実施形態の各スパッタ源は、2つのマグネトロンスパッタ電極21a,21b(又は41a,41b)を備えたデュアルカソードタイプで構成されている。成膜に際し、各電極21a,21b(又は41a,41b)の一端側表面には、それぞれ、金属などの膜原料物質で構成されるターゲット29a,29b(又は49a,49b)が着脱自在に保持される。各電極21a,21b(又は41a,41b)の他端側には、電力量を調整する電力制御手段としてのトランス24(又は44)を介して、電力供給手段としての交流電源23(又は43)が接続されており、各電極21a,21b(又は41a,41b)に例えば1k〜100kHz程度の交流電圧が印加されるように構成されている。
【0021】
各スパッタ源には、スパッタ用ガス供給手段が接続されている。本実施形態のスパッタ用ガス供給手段は、スパッタ用ガスの一例としての反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ26(又は46)と、反応性ガスボンベ26(又は46)より供給される反応性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ25(又は45)と、スパッタ用ガスの一例としての不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ28(又は48)と、不活性ガスボンベ28(又は48)より供給される不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ27(又は47)とを含む。
【0022】
スパッタ用ガスは、配管を通じてそれぞれ成膜プロセス領域20(又は40)に導入される。マスフローコントローラ25,27(又は45,47)はスパッタ用ガスの流量を調節する装置である。ボンベ26,28(又は46,48)からのスパッタ用ガスは、マスフローコントローラ25,27(又は45,47)により流量を調節されて成膜プロセス領域20(又は40)に導入される。
【0023】
本実施形態のプラズマ源80は、真空容器11の壁面に形成された開口を塞ぐように固定されたケース体81と、このケース体81に固定された誘電体板83とを有する。そして、誘電体板83がケース体81に固定されることで、ケース体81と誘電体板83により囲まれる領域にアンテナ収容室が形成されるように構成されている。アンテナ収容室は配管15aを介して真空ポンプ15に連通しており、真空ポンプ15で真空引きすることでアンテナ収容室内部を排気して真空状態にすることができる。
【0024】
プラズマ源80は、また、ケース体81及び誘電体板83の他に、アンテナ85a,85bを含む。アンテナ85a,85bは、マッチング回路を収容するマッチングボックス87を介して高周波電源89に接続されている。アンテナ85a,85bは、高周波電源89から電力の供給を受けて真空容器11の内部(反応プロセス領域60)に誘導電界を発生させ、反応プロセス領域60にプラズマを発生させる。本実施形態では、高周波電源89からアンテナ85a,85bに周波数1〜27MHzの交流電圧を印加して、反応プロセス領域60に反応性ガスのプラズマを発生させるように構成されている。マッチングボックス87内には、可変コンデンサが設けられており、高周波電源89からアンテナ85a,85bに供給される電力を変更できるようになっている。
【0025】
プラズマ源80には、反応処理用ガス供給手段が接続されている。本実施形態の反応処理用ガス供給手段は、反応処理用ガスの一例としての反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ66と、反応性ガスボンベ66より供給される反応性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ65と、反応処理用ガスの一例としての不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ68と、不活性ガスボンベ68より供給される不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ67とを含む。
【0026】
反応処理用ガスは、配管を通じて反応プロセス領域60に導入される。マスフローコントローラ65,67は反応処理用ガスの流量を調節する装置である。ボンベ66,68からの反応処理用ガスは、マスフローコントローラ65,67により流量を調節されて反応プロセス領域60に導入される。
【0027】
なお、反応性ガスボンベ66と不活性ガスボンベ68は、成膜プロセス領域20,40の反応性ガスボンベ26,46及び不活性ガスボンベ28,48と同様の装置としたり、または兼用してもよい。また、マスフローコントローラ65とマスフローコントローラ67についても、成膜プロセス領域20,40のマスフローコントローラ25,27(又は45,47)と同様の装置としたり、または兼用してもよい。
【0028】
各スパッタ源の前面には、それぞれ成膜プロセス領域20,40が形成されている。各領域20,40は、真空容器11の内壁面から回転ドラム13に向けて突出する仕切壁12,14により四方が取り囲まれており、それぞれが真空容器11の内部で独立した空間を確保できるように区画されている。同じく、プラズマ源80の前面には、反応プロセス領域60が形成されている。該領域60も領域20,40と同様に、真空容器11の内壁面から回転ドラム13に向けて突出する仕切壁16により四方が取り囲まれており、これにより領域60についても真空容器11の内部で領域20,40とは独立した空間が確保される。
【0029】
従って、モータ17の駆動により回転ドラム13が軸線Zを中心に回転すると、回転ドラム13の外周面に保持される基板Sは、回転ドラム13の自転軸である軸線Zを中心に公転し、成膜プロセス領域20,40に面する位置と反応プロセス領域60に面する位置との間を繰り返し移動する。そして、何れかの領域20,40で行われるスパッタ処理と、領域60で行われるプラズマ処理とが順次繰り返され、基板Sの表面に所定膜厚の最終的な薄膜が形成される。
【0030】
本実施形態では、スパッタ処理で基板Sの表面に中間薄膜が形成され、その後のプラズマ処理でこの中間薄膜が膜変換して超薄膜とされる。そして、スパッタ処理とプラズマ処理とが繰り返し行われることで、超薄膜の上に次の超薄膜が堆積していき、最終的な薄膜となるまでこの操作が繰り返される。
【0031】
なお、「中間薄膜」とは、本実施形態ではターゲット29a,29b(又は49a,49b)を構成する金属あるいはその不完全酸化物からなり、領域20(又は40)で形成される薄膜のことである。「超薄膜」とは、超薄膜が複数回堆積されて最終的な薄膜(目標膜厚の薄膜)となることから、この最終的な「薄膜」との混同を防止するために用いる用語であり、最終的な「薄膜」より十分薄いという意味で用いる。
【0032】
具体的にスパッタ処理は、例えば次のようにして行われる。マスフローコントローラ25,27(又は45,47)を介して、反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ26(又は46)や、不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ28(又は48)から所定流量のスパッタ用ガスが成膜プロセス領域20(又は40)に導入されると、ターゲット29a,29b(又は49a,49b)の周辺が所定ガス雰囲気になる。この状態で、交流電源23(又は43)からトランス22(又は42)を介して、各電極21a,21b(又は41a,41b)に交流電圧を印加し、ターゲット29a,29b(又は49a,49b)に交番電界が掛かるようにする。これにより、ある時点においてはターゲット29a(又は49a)がカソード(マイナス極)となり、その時ターゲット29b(又は49b)は必ずアノード(プラス極)となる。次の時点において交流の向きが変化すると、今度はターゲット29b(又は49b)がカソード(マイナス極)となり、ターゲット29a(又は49a)がアノード(プラス極)となる。
【0033】
このように一対のターゲット29a,29b(又は49a,49b)が交互にアノードとカソードとなることにより、各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)周辺のスパッタ用ガスの一部は電子を放出してイオン化する。各電極21a,21b(又は41a,41b)に配置された磁石により各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)の表面に漏洩磁界が形成されるため、この電子は各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)の表面近傍に発生した磁界中を、トロイダル曲線を描きながら周回する。この電子の軌道に沿って強いプラズマが発生し、このプラズマ中のスパッタ用ガスのイオンが負電位状態(カソード側)のターゲットに向けて加速され、各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)に衝突することで各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)表面の原子や粒子(ターゲット29a,29bがNbの場合はNb原子やNb粒子、ターゲット49a,49bがSiの場合はSi原子やSi粒子)が叩き出される(スパッタ)。この原子や粒子は薄膜の原料である膜原料物質であり、基板Sの表面に付着して中間薄膜を形成する。
【0034】
なお、スパッタを行っている最中に、アノード上には非導電性あるいは導電性の低い不完全酸化物などが付着することもあるが、このアノードが交番電界によりカソードに変換されると、これら不完全酸化物などがスパッタされ、ターゲット表面は元の清浄な状態となる。そして、一対のターゲット29a、29bが、交互にアノードとカソードとなることを繰り返すことにより、常に安定なアノード電位状態が得られ、プラズマ電位(通常アノード電位とほぼ等しい)の変化が防止され、基板Sの表面に安定して中間薄膜が形成される。
【0035】
本実施形態において、基板Sは、回転ドラム13の外周面に、(1)回転ドラム13の回転方向に沿って断続的に複数配列され、かつ(2)回転ドラム13の軸線Zと平行な方向(Y方向)に沿って断続的に複数配列される。以下、(1)の並びを「横方向」と、(2)の並びを「縦方向」と呼ぶこととする。
【0036】
基板Sとしては、酸化ケイ素(SiO2 )からなるガラス材料(例えば石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなど)の他に、プラスチック材料やセラミックス材料、金属などで構成することもできる。
【0037】
ターゲット29a,29b(又は49a,49b)は、膜原料物質を平板状に形成したものであり、本実施形態では、回転ドラム13の外周面と対向する方向の形状、すなわち平面視した場合の形状が略真円状に形成されている(図4,図7など参照)。略真円状に形成することで、後述する配置調整が容易となる。
【0038】
各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)は、その平面方向の面が、回転ドラム13の軸線Zに対して垂直方向を向くように、各電極21a,21b(又は41a,41b)の上記一端側表面にそれぞれ着脱可能に保持される。
【0039】
各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)の材質としては、例えば、Si、Nb、Al、Ti、Zr、Sn、Cr、Ta、Te、Fe、Mg、Hf、Ni−Cr、In−Snなどの各種金属を用いることができる。また、単一種類の金属に限られるものではなく、複数種類の金属をターゲットとして使用してもよい。また、これらの金属の化合物、例えば、Al2 O3 、TiO2 、ZrO2 、Ta2 O5 、HfO2 等を用いることもできる。
【0040】
プラズマ処理は、例えば次のようにして行われる。マスフローコントローラ65,67を介して、反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ66や、不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ68から所定流量の反応処理用ガスが反応プロセス領域60に導入されると、アンテナ85a,85bの周辺が所定ガス雰囲気になる。この状態で、アンテナ85a,85bに高周波電源89から周波数1〜27MHzの電圧が印加されると、反応プロセス領域60内のアンテナ85a,85bに面した領域にプラズマが発生する。これにより、成膜プロセス領域20,40で基板Sの表面に形成された中間薄膜はプラズマ処理され、膜原料物質の完全反応物や不完全反応物に膜変換して超薄膜を形成する。
【0041】
本実施形態では、不活性ガスとしては、例えばアルゴン,ヘリウムなどが考えられる。反応性ガスとしては、例えば酸素ガス,窒素ガス,弗素ガス,オゾンガスなどが考えられる。
【0042】
以下では、代表的に、一方の成膜プロセス領域20に関連する電極21a,21b及びターゲット29a,29bを例に挙げて説明するが、本実施形態では、他方の成膜プロセス領域40に関連する電極41a,41b及びターゲット49a,49bについては、これと同様の構成もしくは異なる構成を採用することができる。
【0043】
図3〜図5に示すように、本実施形態の各電極21a,21bは、対向する回転ドラム13の外周面から見た場合(以下「平面視した場合」と略記することもある。)に、略真円の形状に形成されている。これに伴い本実施形態では、各電極21a,21bの表面に着脱自在に保持されるターゲット29a,29bも同様に、平面視した場合に、各電極21a,21bと同形状の略真円状に形成している(図4参照)。すなわち本実施形態では、各電極21a,21b及び各ターゲット29a,29bの両者の形状を略真円状の同一形状としている。ただし、本発明では、両者の形状を必ずしも同一にする必要はなく、少なくとも各ターゲット29a,29bの形状を略真円状にすればよい。なお、各ターゲット29a,29bの形状は、略真円状に限らず、楕円状、多角形状とすることもできる。
【0044】
《電極配置調整機構》
本実施形態では、各電極21a,21b(引いては各ターゲット29a,29b)の配置を大気側(真空容器11の外側)から変更可能な電極配置調整機構100が設けられている。この機構100を設けることで、スパッタ源が元来有する膜原料物質の付着分布(例えば、回転ドラム13の軸線Zの延出方向であるY方向の付着分布(以下「縦方向の付着分布」という。)など)を、真空容器11内の真空状態を維持した状態で(大気開放することなく)変更することが可能となる。
【0045】
ある配置で一対の電極を配置した場合、それぞれの電極に保持されるターゲットを含むスパッタ源が元来有する膜原料物質の付着分布は自ずと決定する。電極の配置を変更する度に、そのスパッタ源が有する付着分布も変動する。すなわち電極(ターゲット)の配置と、その電極を含むスパッタ源による膜原料物質の付着分布との間には相関関係がある。
【0046】
例えば、Y方向(図1,2参照)に細長い矩形状を呈する2つのターゲットを準備し、これらの長辺同士を所定間隔を空けて対向配置させるように2つの電極に保持させ、順次交互にスパッタを行った場合、回転ドラム13の一部の領域(所定領域)へ向かう膜原料物質の量(付着量)は、回転ドラム13のY方向の中心付近(以下単に「中心付近」と言う。)で多くなり、回転ドラム13のY方向の上側と下側付近(以下「非中心付近」と言う。)で少なくなる。すなわち、前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布は中心付近で最大となり、上下非中心付近に向けて漸次小さくなる。その結果、中心付近に保持される基板Sに付着する膜原料物質からなる薄膜は厚くなる一方、非中心付近の基板Sに付着する薄膜は薄くなり、配置される位置によって基板Sに堆積する膜厚にバラツキを生じる。これは前記所定領域における膜原料物質の付着分布が異なるからである。また、単一の基板Sに付着する薄膜でも、膜形成面の上端付近に形成される膜の膜厚と、下端付近に形成される膜の膜厚との間でバラツキを生じることもある。各基板S単位で付着分布が異なる場合である。
【0047】
このように前記所定領域における膜原料物質の付着分布、引いては各基板Sごとの膜厚分布のバラツキを解消するために従来は、前記所定領域に向けてターゲットから供給される膜原料物質が常時付着する位置(例えば、ターゲットと、回転ドラム13の外周面に保持される基板Sとの間)に膜厚補正板を配置し、回転ドラム13の前記所定領域へ向かう膜原料物質のうち、中心付近を通過しようとする膜原料物質の量を規制して、基板Sに堆積する膜原料物質の付着量を、各基板Sの基板全面に亘って均一になるように制御し、各基板ごとの膜厚のバラツキを解消するような手段を講じていたことは上述した通りである(特許文献1)。すなわち、補正板を配置することで前記所定領域における膜原料物質の付着分布を均一化するようにしていた。
【0048】
具体的には、中心付近をより長い時間遮蔽することで、その分、回転ドラム13の中心付近へ向かう膜原料物質の量を減らして、中心付近の膜厚を、膜厚補正板を設けない場合と比較して相対的に薄くする。これにより、膜厚補正板を設けない場合には膜厚が厚くなってしまう中心付近の膜厚を、膜厚補正板を設けることで薄くし、結果として基板Sの上下方向で、膜厚のバラツキがない(若しくは少ない)均一な厚さの薄膜を成膜することとしていた。
【0049】
しかしながら、上述したように、成膜装置の作動を開始した後、前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布の変更を望む場合、膜厚補正板の配置を調整する必要があるが、この場合、配置調整の都度、成膜装置を大気開放する必要があり、生産性が低下する不都合を生じていた。また、成膜バッチが進むにつれて膜厚補正板に付着する膜原料物質の量が増加し、やがては付着した膜原料物質が補正板から剥離して飛散する。膜原料物質が補正板から剥離して飛散すると、これが成膜不良の原因となることもあった。
【0050】
そこで本実施形態では、膜厚補正板を設けることなく、成膜装置1に、真空容器11の外側から各電極21a,21bの配置を変更可能な電極配置調整機構100を設け、真空容器11内の真空状態を維持した状態で、目標とする所望の、膜原料物質の付着分布が得られるよう電極の配置を調整できることとしたものである。
【0051】
本実施形態で用いる電極配置調整機構100の具体的構成は、特に限定されず、例えば図3〜図5に示すように、制御ユニット200によって制御されるモータ102の回転軸104から径方向に延びる2つのアーム106a,106bを含むもので構成することができる。この場合、各アーム106a,106bのそれぞれの先端には、各電極21a,21bの一端を取付け可能な電極取付け部108a,108bが形成されていることが好ましい。
【0052】
こうした構成の電極配置調整機構100では、真空容器11を大気開放することなく、各電極21a,21bを電極取付け部108a,108bに取付けた状態で各アーム106a,106bを介して回転軸104を中心に円弧状に回動(移動)させる。すなわち、制御ユニット200から指令を受けたモータ102が駆動することで、回転軸104を中心に各アーム106a,106bが移動し、このアーム106a,106bの移動に伴って各電極21a,21bも移動する。各電極21a,21bの表面には、ターゲット29a,29bが着脱自在に保持されるので、各電極21a,21bが移動すれば、それに伴ってターゲット29a,29bも移動する。その結果、電極21a,21b(引いてはターゲット29a,29b)の配置が変動することに起因し、ターゲットを構成する膜原料物質の前記所定領域における付着分布も変動し、真空容器11を大気開放することなく、膜厚分布を変更することが可能となる。
【0053】
なお、電極配置調整機構100の構成は、要するに真空容器11の外側(つまり大気側)から電極配置を変更可能なものであれば、本実施形態の態様に限定されず、各電極21a,21bの移動経路も円弧状に限定されない。
【0054】
本実施形態では、例えば、上述した電極配置調整機構100を、膜原料物質の目標とする付着分布に合わせた電極配置となるよう成膜バッチ毎に予め作動させて電極21a,21bの位置を調整し、その後成膜装置1を立ち上げて成膜を開始し、所望の膜厚分布を持つ薄膜を基板S上に成膜することができる。
【0055】
《第2実施形態》
本実施形態では、回転ドラム13の一部の領域に向けて、スパッタされた何れかのターゲット29a若しくは29b(又は49a若しくは49b)から供給される膜原料物質の付着分布を測定し、その測定結果に基づいて、上述した第1実施形態の電極配置調整機構100を作動させ、目的とする付着分布が得られるよう電極21a,21bの配置を変動させるシステム構成を有する。
【0056】
こうしたシステム構成とする場合、成膜途中で膜原料物質の付着分布をリアルタイムに把握できるようなシステムを備えることが好ましい。このようなシステムの一例としては、例えば図1、図2及び図6〜図8に示すように、成膜装置1に付着分布測定手段300を設け、成膜中のある時点における所定領域での膜原料物質の付着分布をリアルタイムに測定し、その測定結果を付着分布制御手段400へ出力し、この出力結果に基づいて付着分布制御手段400は電極配置調整機構100を適切に作動させることにより達成することができる。以下、その構成例を説明する。なお、代表的に、成膜プロセス領域20に関連する電極21a,21b及びターゲット29a,29bを例に挙げて説明することは上述した通りである。
【0057】
《付着分布測定手段》
図6〜図8に示すように、本実施形態の付着分布測定手段300は、付着量検出部302と、この付着量検出部302に電気的に接続される付着分布算出部304とを有する(図8)。
【0058】
《付着量検出部》
本実施形態の付着量検出部302は、例えば、複数の水晶膜厚センサ(以下単に「膜厚センサ」と略記することがある。)33a1〜33a6,33b1〜33b6で構成することができる(図6,7)。膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6は、ターゲット29a,29bから飛散する膜原料物質の付着量を検出し、各センサ毎に、付着量に応じた信号を付着分布算出部304に対して出力する。具体的には本実施形態の各膜厚センサは、その内部に、水晶振動子を備えたセンサ素子35を有する(図8)。水晶振動子は、交流電場が印加されて周期的に共振振動しており、水晶振動子の表面に物質が付着するとその付着量に応じて水晶振動子の共振振動数が変化する。各膜厚センサは、それぞれこの共振振動数の変化をデジタル信号に変換するA/D変換回路38を有しており、この回路38にて共振振動数の変化をデジタル信号に変換し、付着分布算出部304に出力する(図8)。
【0059】
図6及び図7に示すように、膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6は、上述した回転ドラム13の一部の領域(所定領域)に向けてターゲット29a,29bから供給される膜原料物質が常時付着する位置に固定されている。本実施形態では、成膜プロセス領域20を形成する仕切壁12の内側からターゲット29a,29bの前面方向に向けて延びるように取り付けられる左右一対の保持板31a,31bの先端部付近に、ターゲット29a,29bに向けて、しかも回転ドラム13の回転軸線Z方向(図1のY方向)に沿って断続的に一列に設けられている。具体的には、複数の膜厚センサ33a1〜33a6は、保持板31aの先端部付近に、ターゲット29aに向け、しかも回転ドラム13の回転軸線Z方向に沿って断続的に取り付けられ、複数の膜厚センサ33b1〜33b6は、保持板31bの先端部付近に、ターゲット29bに向け、しかも回転ドラム13の回転軸線Z方向に沿って断続的に取り付けられている。
【0060】
本実施形態で用いる保持板31a,31bは、膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6を設置するために設けられるとともに、ターゲット29a,29bから飛翔する膜原料物質が基板Sに対して垂直方向に入射するように入射方向を規制する役割も果たしている。これにより膜原料物質が成膜プロセス領域20の外側に膜原料物質が飛散し、装置1の内部や基板Sを不必要に汚染することを防止することもできる。
【0061】
なお、本実施形態では、保持板31a,31bの両方に膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6を設けているが、何れか一方の保持板にのみ膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6を設けてもよい。また、膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6は、保持板31a,31bに設けられる必要はなく、ターゲット29a,29bと基板Sとの間であって、且つターゲット29a,29bから供給される膜原料物質が付着可能な位置であれば保持板31a,31b以外の位置に設けてもよい。
【0062】
また、水晶振動子を用いた膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6に代えて、膜厚検出が可能な他の手段を用いることもできる。例えば、保持板31a,31bのターゲット29a,29bに対向する面に小型のモニタ基板を配置して、このモニタ基板に付着する薄膜の膜厚を光ファイバなどで光学的にモニタする構成としてもよい。
【0063】
《付着分布算出部》
本実施形態の付着分布算出部304は、例えば、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、入力端子及び出力端子などを備える。入力端子から膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6で測定した付着量の電流値が入力されると、各膜厚センサの配置に対応させて、回転ドラム13の前記所定領域における膜原料物質の付着分布を算出する。
【0064】
本実施形態では、複数の膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6により複数の位置で膜原料物質の付着量をモニタすることで、それぞれの位置に対応する、回転ドラム13の所定領域における縦方向の付着分布を取得することが可能となる。取得した縦方向の付着分布の情報は、ハードディスクなどに記憶される。
【0065】
具体的には、付着分布算出部304では、まず、各膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6から出力される信号(電流値の変化)を受信し、当該信号に基づいて各膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6の水晶振動子に付着した膜原料物質の量を演算する。次に、この演算した膜原料物質の付着量に基づいて、回転ドラム13の前記所定領域における縦方向の付着分布を算出し、付着分布制御手段400に出力する。
【0066】
本実施形態では、各膜厚センサでの膜原料物質の付着量−回転ドラム13の前記所定領域における縦方向付着分布の相関関係第1データと、付着分布算出プログラムがハードディスクなどに記憶してあるので、付着分布算出時にはハードディスクに記憶された相関関係第1データと算出プログラムをRAMに読み出し、膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6で測定した付着量の値をもとに、付着分布算出部304のCPUによって前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布の算出が行われる(付着分布測定工程)。
【0067】
《付着分布制御手段》
本実施形態の付着分布制御手段400は、付着分布測定手段300と電気的に接続されており、例えば付着分布算出部304と同様に、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、入力端子及び出力端子などを備える。
【0068】
本実施形態では、入力端子から入力される付着分布測定手段300(付着分布算出部304)からの算出結果(現在の付着分布情報)に基づいて、所望の付着分布となる電極21a,21bの最適な配置を算出するとともに、電極21a,21bがこの配置となるような電極配置調整機構100の駆動方向及び駆動量(最適位置移動情報)を算出する。
【0069】
具体的には、付着分布制御手段400では、まず、付着分布算出部304による算出結果に基づいて、ターゲット29a,29bを保持する各電極21a,21bの現在の配置(以下「現在の電極配置」という。)を算出する(電極配置算出工程)。これは、予め求めておいた、各電極21a,21bの配置−回転ドラム13の前記所定領域における縦方向付着分布の相関関係第2データ(例えば図11参照)に基づいて算出することができる。
【0070】
次に、現在の電極配置が、目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出する(変動情報算出工程)。これは、予め求めたおいた、ターゲット29aとターゲット29bの間の距離(本実施形態では各電極21a,21bの間の距離に等しい。)、(0,0)点と一方の電極の中心点C1を結ぶ線がX軸に対して為す角度α(何れも後述)、及びターゲット29a,29bと回転ドラム13の外周面に保持される基板Sの距離の3者間での相関関係データに基づく最適電極配置算出プログラムを用いて算出することができる。ここで算出される変動情報は、電極21a,21bの移動方向及び距離などである。
【0071】
次に、前記変動情報に基づいて、前記真空容器の外部に設けられた電極配置調整機構100を作動させるように、モータ102の制御ユニット200に対して出力し、現在の電極配置を前記最適電極配置に変動させる(電極位置調整工程)。
【0072】
本実施形態では、相関関係第2データや各種プログラムがハードディスクなどに記憶してあるので、現在の電極配置や変動情報の算出の際にハードディスクに記憶された相関関係第2データや各種プログラムをRAMに読み出し、付着分布制御手段400のCPUによって所定の演算をし、制御ユニット200に対して所定の出力が行われる(付着分布制御工程)。
【0073】
《ターゲットの配置と縦方向の付着分布との関係》
以下に、本発明者らによって取得した、回転ドラム13の前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布と、ターゲット29a,29b(引いては電極21a,21b)の配置との関係(第2データ)を説明する。
【0074】
この例では、ターゲット29a,29bとして直径2rが4インチ(約100mm)で厚みが6mmの円柱状ターゲット(材質はSi)を2つ用い(デュアルカソード形式)、これらを距離dが50mmとなるように離間させて配置したものを用いた。
【0075】
そして、図9(a)〜図9(c)、図10(a)及び図10(b)に示すように、回転ドラム13の回転軸線Z方向の中点から該回転軸線Z方向に直交する方向に延びるX軸及び前記中点から前記回転軸線Z方向に延びるY軸の交錯点(以下「(0,0)点」とする。)と、一方の電極(例えば21b)に保持される一方のターゲット(例えば29b)の中心点C1とを結ぶ線L1(図9(b)参照)が、前記X軸に対して為す角度をαとしたとき、それぞれαが、90°(図9(a))、60°(図9(b))、45°(図9(c))、30°(図10(a))、0°(図10(b))の角度で、ターゲット29a,29bが配置される場合の、回転ドラム13の前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布をグラフ化した(図11参照)。
【0076】
なお、図11は、スパッタを行った際に膜原料物質が向かう回転ドラム13の所定領域において、Y軸方向(図2のY方向)の中心部分を0とし、かつそこから上下方向の領域をそれぞれ300(単位mm)づつに区切った場合の、それぞれの位置における膜原料物質の付着量(単位nm)を、一対のターゲット29a,29bの配置毎にグラフ化したものである。この図11には、α=15°、40°、50°、75°の場合の付着分布も併記した。
【0077】
以下、回転ドラム13の外周面には、その回転軸線Z方向に沿って5つの基板(以下、上から順にS1〜S5とする。)が保持されているものとし、各基板S1〜S5に形成される薄膜を上から順に薄膜1〜薄膜5とする。
【0078】
まず、α=90°の電極配置(図9(a)の配置)であるが、この配置は、回転ドラム13の回転軸線Z方向に沿って、電極21a,21bを配置し、それぞれにターゲット29a,29bを保持させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の90°ラインの軌跡を辿る。具体的には、薄膜1〜5の膜厚分布は概ね、薄膜1,薄膜5>>薄膜2,薄膜4>>薄膜3、となる。つまり縦方向の付着分布は、回転ドラム13の回転軸線Z方向の上下部(薄膜1,薄膜5)が最大となり、中央部(薄膜3)が最小となり、残り(薄膜2,薄膜4)が中間となって、付着分布が不均一となる。
【0079】
次にα=75°の電極配置(図示省略)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向(基板側から見た場合、時計回り)に15°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の75°ラインの軌跡を辿る。具体的には、上述した90°ラインと略同一の軌跡であるが、90°ラインの場合と比較して、薄膜1,薄膜5と薄膜2,薄膜4との厚み差、及び薄膜2,薄膜4と薄膜3との厚み差が少しだけ縮まる程度の膜厚分布となる。依然として付着分布は不均一と理解される。
【0080】
次にα=60°の電極配置(図9(b)の配置)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に30°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の60°ラインの軌跡を辿る。具体的には、75°ラインと比較して、薄膜1,薄膜5と薄膜2,薄膜4との厚み差、及び薄膜2,薄膜4と薄膜3との厚み差がさらに縮まるの膜厚分布となる。依然として付着分布は不均一と判断される。
【0081】
次にα=50°の電極配置(図示省略)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に40°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の50°ラインの軌跡を辿る。具体的には、60°ラインよりも、薄膜1,薄膜5と薄膜2,薄膜4との厚み差、及び薄膜2,薄膜4と薄膜3との厚み差がさらに縮まり、薄膜1〜薄膜5の膜厚分布は略均一となり、本実施形態では好ましい付着分布の一つである。
【0082】
次にα=45°の電極配置(図9(c)の配置)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に45°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の45°ラインの軌跡を辿る。具体的には、50°ラインと比較してより一層、薄膜1,薄膜5と薄膜2,薄膜4との厚み差、及び薄膜2,薄膜4と薄膜3との厚み差が縮まっており、薄膜1〜薄膜5の何れも均一な膜厚分布を示す。本実施形態では最も好ましい付着分布である。
【0083】
次にα=40°の電極配置(図示省略)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に50°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の40°ラインの軌跡を辿る。具体的には、薄膜1〜5の膜厚分布は概ね、上述した60°ライン〜90°ラインの場合と比較して、薄膜3>薄膜2,薄膜4>薄膜1,薄膜5、となる。つまり縦方向の膜厚分布は、回転ドラム13の回転軸線Z方向の中央部(薄膜3)が最大となり、上下部(薄膜1,薄膜5)が最小となり、残り(薄膜2,薄膜4)が中間となるが、本実施形態では比較的均一な好ましい付着分布の一つである。
【0084】
次にα=30°の電極配置(図10(a)の配置)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に60°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の30°ラインの軌跡を辿る。具体的には、40°ラインよりもさらに、中央部(薄膜3)と上下部(薄膜1,薄膜5)の厚み差が大きくなり、付着分布は不均一領域に入るものと理解される。
【0085】
次にα=15°の電極配置(図示省略)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に75°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の15°ラインの軌跡を辿り、30°ラインよりもより一層、中央部(薄膜3)と上下部(薄膜1,薄膜5)の厚み差が大きくなり、付着分布は不均一と理解される。
【0086】
次にα=0°の電極配置(図10(b)の配置)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に90°移動させた場合であり、回転ドラム13の回転軸線Z方向に直行する方向に沿って、電極21a,21bを配置し、それぞれにターゲット29a,29bを保持させた場合に相当する。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の0°ラインの軌跡を辿る。具体的には、薄膜1〜5の膜厚分布は概ね、薄膜3>>薄膜2,薄膜4>>薄膜1,薄膜5、となる。つまり縦方向の付着分布は、回転ドラム13の回転軸線Z方向の中央部(薄膜3)が最大となり、上下部(薄膜1,薄膜5)が最小となり、残り(薄膜2,薄膜4)が中間となって、15°ラインの場合よりもさらに付着分布が不均一となる。
【0087】
そして、付着分布制御手段400からの出力を受けた制御ユニット200は、モータ102を作動させて電極配置調整機構100を駆動させ、所望の膜厚分布となるよう電極21a,21bの配置を最適化する。具体的には次の通りである。
【0088】
《電極配置調整機構の駆動》
次に、上記例に基づいて、本実施形態の電極配置調整機構100の駆動方法を説明する。
【0089】
まず、付着分布算出部304による算出結果としての現在の付着分布情報が、図11の0°ライン、15°ライン、30°ラインである場合、縦方向の付着分布を均一とすべく、付着分布制御手段400は、制御ユニット200を介して電極配置調整機構100を駆動させ、少なくとも図11の40°ライン(好ましくは45°ライン)の軌跡を辿るように電極位置を調整する。
【0090】
これに対し、付着分布算出部304による現在の付着分布情報が、図11の60°ライン、75°ライン、70°ラインである場合、付着分布を均一とすべく、付着分布制御手段400は、制御ユニット200を介して電極配置調整機構100を駆動させ、少なくとも図11の50°ライン(好ましくは45°ライン)の軌跡を辿るように電極位置を調整する。
【0091】
なお、付着分布算出部304による付着分布情報が、図11の40°ライン〜50°ラインである場合は、このままの状態でも付着分布は均一と言えるので、電極配置調整機構100を駆動させる必要はない。ただし、付着分布をより一層均一にするために、付着分布制御手段400は、制御ユニット200を介して電極配置調整機構100を駆動させ、付着分布が45°ライン付近の軌跡を辿るよう電極位置を調整してもよい。
【0092】
本実施形態の成膜装置1では、電極配置調整機構100を用い、成膜中に実際に形成されている薄膜の膜厚分布を検出し、その検出結果に基づいて電極配置調整機構100を作動させ、より良い状態の膜厚分布が得られるよう電極21a,21bの配置を変動させることができるので、各成膜バッチ毎での膜厚分布の管理が容易となる。
【0093】
本実施形態では、付着分布測定手段300を設け、成膜中のある時点における所定領域での膜原料物質の付着分布をリアルタイムに測定し、その測定結果を付着分布制御手段400へ出力する。付着分布制御手段400は、付着分布測定手段300からの出力結果に基づいて電極配置調整機構100を適切に作動させ、目的とする付着分布が得られるよう電極21a,21bの配置を変動させる。このため、膜厚補正板を設けなくとも、成膜途中で膜原料物質の付着分布を変更することが容易であり、複数の基板Sに対する膜厚分布の管理が容易となるなど、種々のメリットを有する。
【0094】
《その他の実施形態》
以上説明した実施形態は、上記発明の理解を容易にするために記載されたものであって、上記発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、上記発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0095】
上述した実施形態では、スパッタの一例であるマグネトロンスパッタを行うスパッタリング装置を用いているが、マグネトロン放電を用いない2極スパッタ等、他の公知のスパッタを行うスパッタリング装置を用いることもできる。
【0096】
上述した実施形態では、付着分布制御手段400と、付着分布測定手段300の付着分布算出部304と、モータ102の制御ユニット104を別々の装置としているが、何れかの装置に残りの装置の機能を搭載することで、何れかの装置のみを備えるようにしてもよい。例えば、付着分布測定手段300に、付着分布制御手段400に含まれる各種プログラムを記憶させておき、取得した付着分布情報に基づいて、これらのプログラムにより電極配置調整機構100の駆動方向及び駆動量を決定し、モータ102の制御を行うようにしてもよい。
【0097】
上述した実施形態では、成膜プロセス領域20,40と、軸線Zを中心に成膜プロセス領域20,40から約90°離間した位置に配置される反応プロセス領域60とが、真空容器11の内部に形成してある場合を例示したものであるが、成膜プロセス領域は、少なくとも何れか一つを有する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0098】
1…成膜装置、11…真空容器、13…回転ドラム、S…基板、12,14,16…仕切壁、31a,31b…保持板、
20,40…成膜プロセス領域、
スパッタ源(21a,21b,41a,41b…マグネトロンスパッタ電極、23,43…交流電源、24,44…トランス、29a,29b,49a,49b…ターゲット)、
スパッタ用ガス供給手段(26,46…反応性ガスボンベ、28,48…不活性ガスボンベ、25,27,45,47…マスフローコントローラ)、
60…反応プロセス領域、
80…プラズマ源(81…ケース体、83…誘電体板、85a,85b…アンテナ、87…マッチングボックス、89…高周波電源)、反応処理用ガス供給手段(66…反応性ガスボンベ、68…不活性ガスボンベ、65,67…マスフローコントローラ)、
100…電極配置調整機構(102…モータ、104…回転軸、106a,106b…アーム、108a,108b…電極取付け部)、
200…制御ユニット、
300…付着分布測定手段(302…付着量検出部(33a1〜33a6,33b1〜33b6…水晶膜厚センサ(35…センサ素子、38…A/D変換回路))、304…付着分布算出部)、
400…付着分布制御手段
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜対象としての基板を保持した状態で回転する基板ホルダの所定領域に向けて成膜源から膜原料物質を供給し、基板ホルダの回転毎に間欠的に基板の表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置において、膜厚補正板を成膜源と基板ホルダの間に配置する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−204304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の成膜装置では、成膜源と基板ホルダの間に膜厚補正板が配置してあることから、成膜源から基板ホルダの所定領域に向けて供給される膜原料物質の一部が遮断され、これにより前記所定領域に供給される膜原料物質の量を均一化でき、前記所定領域を通過する複数の基板に対して均一な厚みの薄膜を形成することができる。
【0005】
ところで、特許文献1の成膜装置において、成膜装置の作動を開始した後、基板に形成する薄膜の膜厚分布を変更することを望む場合、膜厚補正板の配置を調整する必要があるが、この場合、配置調整の都度、成膜装置を大気開放する必要があり、生産性の観点から改善が求められている。
【0006】
また、成膜バッチが進むにつれて膜厚補正板に付着する膜原料物質の量が増加し、やがては付着した膜原料物質が補正板から剥離して飛散する。膜原料物質が補正板から剥離して飛散すると、これが成膜不良の原因となり、この観点からの改善も求められている。
【0007】
発明が解決しようとする課題は、膜厚補正板を設けることなく、複数の基板に対して均一な厚みの薄膜を形成することができる成膜装置及び成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。なお、以下の解決手段では、発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、この符号は発明の理解を容易にするためだけのものであって発明を限定する趣旨ではない。
【0009】
第1の発明に係る成膜装置(1)は、内部を真空状態に維持した真空容器(11)内で、同一の膜原料物質で構成される複数のターゲット(29a,29b,49a,49b)を順次スパッタし、基体(S)を保持して回転する基体保持手段(13)の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、基体保持手段(13)の回転毎に間欠的に基体(S)の表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置(1)であって、ターゲット(29a,29b,49a,49b)のそれぞれを保持して電圧を印加する複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)と、複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)に電力を供給する電力供給手段(23,43)と、ターゲット(29a,29b,49a,49b)に向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段(25〜28,45〜48)と、複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)の配置を真空容器(11)の外部から変更可能な電極配置調整機構(100)とを有する。
【0010】
第2の発明に係る成膜装置(1)は、内部を真空状態に維持した真空容器(11)内で、同一の膜原料物質で構成される少なくとも一対のターゲット(29a,29b、又は49a,49b)を交互にスパッタし、基体(S)を保持して回転する基体保持手段(13)の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲット(29a又は29b,49a又は49b)から膜原料物質を供給することで、基体保持手段(13)の回転毎に間欠的に基体(S)の表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置(1)であって、ターゲット(29a,29b,49a,49b)のそれぞれを保持して電圧を印加する複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)と、複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)に交流電力を供給する交流電力供給手段(23,43)と、ターゲット(29a,29b,49a,49b)に向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段(25〜28,45〜48)と、複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)の配置を真空容器(11)の外部から変更可能な電極配置調整機構(100)とを有する。
【0011】
上記発明において、基体保持手段(13)の一部の領域における膜原料物質の付着分布を測定する付着分布測定手段(300)と、前記付着分布に基づいて電極配置調整機構(100)の作動を制御する付着分布制御手段(400)とを有し、付着分布制御手段(400)は、前記付着分布に基づいて算出される電極配置が、目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出し、この算出した変動情報に基づいて電極配置調整機構(100)を作動させることができる。
【0012】
上記発明において、付着分布測定手段(300)は、前記領域に向けてターゲット(29a,29b,49a,49b)から供給される膜原料物質が常時付着する位置に固定された複数の付着量検出部(302,33a1〜33a6,33b1〜33b6)と、この付着量検出部に付着する膜原料物質の付着量に基づいて、前記領域における膜原料物質の付着分布を算出する付着分布算出部(304)とを有することができる。
【0013】
上記発明において、付着量検出部(302)は、基体保持手段(13)が回転する軸線(Z)の延出方向(Y方向)に沿って断続的に配列されることができる。
【0014】
発明に係る成膜方法は、内部を真空状態に維持した真空容器(11)内で、同一の膜原料物質で構成される複数のターゲット(29a,29b,49a,49b)を順次スパッタし、基体(S)を保持して回転する基体保持手段(13)の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、基体保持手段(13)の回転毎に間欠的に基体(S)の表面に膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜方法であって、前記領域における膜原料物質の付着分布を測定する付着分布測定工程と、前記付着分布に基づいて、前記ターゲットのそれぞれを保持する複数のスパッタ電極(21a,21b,41a,41b)の配置を算出する電極配置算出工程と、前記電極の配置が目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出する変動情報算出工程と、前記変動情報に基づいて、真空容器(11)の外部に設けられた電極配置調整機構(100)を作動させて前記電極配置を前記最適電極配置に変動させる電極位置調整工程とを、有する。
【発明の効果】
【0015】
上記発明によれば、複数のスパッタ電極の配置を真空容器の外部から変更可能な電極配置調整機構を有するので、膜厚補正板を設けることなく、基体保持手段に保持される複数の基板に対して均一な厚みの薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本実施形態に係る成膜装置を上面から見た部分横断面図である。
【図2】図2は図1のII−II線に沿った部分縦断面図である。
【図3】図3は図1のIII−III線方向から見た成膜プロセス領域付近を示す要部拡大図である。
【図4】図4は図3をIV方向から見たときの概略図である。
【図5】図5は図3をV方向から見た場合の概略図である。
【図6】図6は図1のIII−III線方向から見た他の態様の成膜プロセス領域付近を示す要部拡大図である。
【図7】図7は図6をVII方向から見たときの概略図である。
【図8】図8は第2実施形態に係るシステム構成を説明する機能ブロック図である。
【図9】図9(a)〜図9(c)は平面視した場合の一対のターゲットの配置を説明する図である。
【図10】図10(a)及び図10(b)は平面視した場合の一対のターゲットの配置を説明する図である。
【図11】図11は回転ドラム13の一部の領域(所定領域)における中心部分からの位置と、各位置での膜原料物質の付着量との関係を、一対のターゲットの配置毎に示した相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、上記発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
《第1実施形態》
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、略直方体状の中空体である真空容器11を有する。真空容器11には排気用の配管15aが接続され、この配管には容器11内排気のための真空ポンプ15が接続されている。真空ポンプ15は、例えば、ロータリポンプやターボ分子ポンプ(TMP)などで構成される。真空容器11内には回転ドラム13が配設されている。回転ドラム13(基体保持手段)は、その外周面に成膜対象としての基板Sを真空容器11内で保持可能な筒状部材で構成されている。本実施形態の回転ドラム13は、筒方向に延びる回転軸線Zが真空容器11の鉛直方向(Y方向)へ向くように真空容器11内に配設される。回転ドラム13は、モータ17を駆動させることにより軸線Zを中心に回転する。
【0019】
本実施形態では、真空容器11内の、回転ドラム13の周りには、2つのスパッタ源と、1つのプラズマ源80とが配設されている。ただし、本実施形態では、スパッタ源は、少なくとも1つ配設されていればよい。
【0020】
本実施形態の各スパッタ源は、2つのマグネトロンスパッタ電極21a,21b(又は41a,41b)を備えたデュアルカソードタイプで構成されている。成膜に際し、各電極21a,21b(又は41a,41b)の一端側表面には、それぞれ、金属などの膜原料物質で構成されるターゲット29a,29b(又は49a,49b)が着脱自在に保持される。各電極21a,21b(又は41a,41b)の他端側には、電力量を調整する電力制御手段としてのトランス24(又は44)を介して、電力供給手段としての交流電源23(又は43)が接続されており、各電極21a,21b(又は41a,41b)に例えば1k〜100kHz程度の交流電圧が印加されるように構成されている。
【0021】
各スパッタ源には、スパッタ用ガス供給手段が接続されている。本実施形態のスパッタ用ガス供給手段は、スパッタ用ガスの一例としての反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ26(又は46)と、反応性ガスボンベ26(又は46)より供給される反応性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ25(又は45)と、スパッタ用ガスの一例としての不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ28(又は48)と、不活性ガスボンベ28(又は48)より供給される不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ27(又は47)とを含む。
【0022】
スパッタ用ガスは、配管を通じてそれぞれ成膜プロセス領域20(又は40)に導入される。マスフローコントローラ25,27(又は45,47)はスパッタ用ガスの流量を調節する装置である。ボンベ26,28(又は46,48)からのスパッタ用ガスは、マスフローコントローラ25,27(又は45,47)により流量を調節されて成膜プロセス領域20(又は40)に導入される。
【0023】
本実施形態のプラズマ源80は、真空容器11の壁面に形成された開口を塞ぐように固定されたケース体81と、このケース体81に固定された誘電体板83とを有する。そして、誘電体板83がケース体81に固定されることで、ケース体81と誘電体板83により囲まれる領域にアンテナ収容室が形成されるように構成されている。アンテナ収容室は配管15aを介して真空ポンプ15に連通しており、真空ポンプ15で真空引きすることでアンテナ収容室内部を排気して真空状態にすることができる。
【0024】
プラズマ源80は、また、ケース体81及び誘電体板83の他に、アンテナ85a,85bを含む。アンテナ85a,85bは、マッチング回路を収容するマッチングボックス87を介して高周波電源89に接続されている。アンテナ85a,85bは、高周波電源89から電力の供給を受けて真空容器11の内部(反応プロセス領域60)に誘導電界を発生させ、反応プロセス領域60にプラズマを発生させる。本実施形態では、高周波電源89からアンテナ85a,85bに周波数1〜27MHzの交流電圧を印加して、反応プロセス領域60に反応性ガスのプラズマを発生させるように構成されている。マッチングボックス87内には、可変コンデンサが設けられており、高周波電源89からアンテナ85a,85bに供給される電力を変更できるようになっている。
【0025】
プラズマ源80には、反応処理用ガス供給手段が接続されている。本実施形態の反応処理用ガス供給手段は、反応処理用ガスの一例としての反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ66と、反応性ガスボンベ66より供給される反応性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ65と、反応処理用ガスの一例としての不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ68と、不活性ガスボンベ68より供給される不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ67とを含む。
【0026】
反応処理用ガスは、配管を通じて反応プロセス領域60に導入される。マスフローコントローラ65,67は反応処理用ガスの流量を調節する装置である。ボンベ66,68からの反応処理用ガスは、マスフローコントローラ65,67により流量を調節されて反応プロセス領域60に導入される。
【0027】
なお、反応性ガスボンベ66と不活性ガスボンベ68は、成膜プロセス領域20,40の反応性ガスボンベ26,46及び不活性ガスボンベ28,48と同様の装置としたり、または兼用してもよい。また、マスフローコントローラ65とマスフローコントローラ67についても、成膜プロセス領域20,40のマスフローコントローラ25,27(又は45,47)と同様の装置としたり、または兼用してもよい。
【0028】
各スパッタ源の前面には、それぞれ成膜プロセス領域20,40が形成されている。各領域20,40は、真空容器11の内壁面から回転ドラム13に向けて突出する仕切壁12,14により四方が取り囲まれており、それぞれが真空容器11の内部で独立した空間を確保できるように区画されている。同じく、プラズマ源80の前面には、反応プロセス領域60が形成されている。該領域60も領域20,40と同様に、真空容器11の内壁面から回転ドラム13に向けて突出する仕切壁16により四方が取り囲まれており、これにより領域60についても真空容器11の内部で領域20,40とは独立した空間が確保される。
【0029】
従って、モータ17の駆動により回転ドラム13が軸線Zを中心に回転すると、回転ドラム13の外周面に保持される基板Sは、回転ドラム13の自転軸である軸線Zを中心に公転し、成膜プロセス領域20,40に面する位置と反応プロセス領域60に面する位置との間を繰り返し移動する。そして、何れかの領域20,40で行われるスパッタ処理と、領域60で行われるプラズマ処理とが順次繰り返され、基板Sの表面に所定膜厚の最終的な薄膜が形成される。
【0030】
本実施形態では、スパッタ処理で基板Sの表面に中間薄膜が形成され、その後のプラズマ処理でこの中間薄膜が膜変換して超薄膜とされる。そして、スパッタ処理とプラズマ処理とが繰り返し行われることで、超薄膜の上に次の超薄膜が堆積していき、最終的な薄膜となるまでこの操作が繰り返される。
【0031】
なお、「中間薄膜」とは、本実施形態ではターゲット29a,29b(又は49a,49b)を構成する金属あるいはその不完全酸化物からなり、領域20(又は40)で形成される薄膜のことである。「超薄膜」とは、超薄膜が複数回堆積されて最終的な薄膜(目標膜厚の薄膜)となることから、この最終的な「薄膜」との混同を防止するために用いる用語であり、最終的な「薄膜」より十分薄いという意味で用いる。
【0032】
具体的にスパッタ処理は、例えば次のようにして行われる。マスフローコントローラ25,27(又は45,47)を介して、反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ26(又は46)や、不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ28(又は48)から所定流量のスパッタ用ガスが成膜プロセス領域20(又は40)に導入されると、ターゲット29a,29b(又は49a,49b)の周辺が所定ガス雰囲気になる。この状態で、交流電源23(又は43)からトランス22(又は42)を介して、各電極21a,21b(又は41a,41b)に交流電圧を印加し、ターゲット29a,29b(又は49a,49b)に交番電界が掛かるようにする。これにより、ある時点においてはターゲット29a(又は49a)がカソード(マイナス極)となり、その時ターゲット29b(又は49b)は必ずアノード(プラス極)となる。次の時点において交流の向きが変化すると、今度はターゲット29b(又は49b)がカソード(マイナス極)となり、ターゲット29a(又は49a)がアノード(プラス極)となる。
【0033】
このように一対のターゲット29a,29b(又は49a,49b)が交互にアノードとカソードとなることにより、各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)周辺のスパッタ用ガスの一部は電子を放出してイオン化する。各電極21a,21b(又は41a,41b)に配置された磁石により各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)の表面に漏洩磁界が形成されるため、この電子は各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)の表面近傍に発生した磁界中を、トロイダル曲線を描きながら周回する。この電子の軌道に沿って強いプラズマが発生し、このプラズマ中のスパッタ用ガスのイオンが負電位状態(カソード側)のターゲットに向けて加速され、各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)に衝突することで各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)表面の原子や粒子(ターゲット29a,29bがNbの場合はNb原子やNb粒子、ターゲット49a,49bがSiの場合はSi原子やSi粒子)が叩き出される(スパッタ)。この原子や粒子は薄膜の原料である膜原料物質であり、基板Sの表面に付着して中間薄膜を形成する。
【0034】
なお、スパッタを行っている最中に、アノード上には非導電性あるいは導電性の低い不完全酸化物などが付着することもあるが、このアノードが交番電界によりカソードに変換されると、これら不完全酸化物などがスパッタされ、ターゲット表面は元の清浄な状態となる。そして、一対のターゲット29a、29bが、交互にアノードとカソードとなることを繰り返すことにより、常に安定なアノード電位状態が得られ、プラズマ電位(通常アノード電位とほぼ等しい)の変化が防止され、基板Sの表面に安定して中間薄膜が形成される。
【0035】
本実施形態において、基板Sは、回転ドラム13の外周面に、(1)回転ドラム13の回転方向に沿って断続的に複数配列され、かつ(2)回転ドラム13の軸線Zと平行な方向(Y方向)に沿って断続的に複数配列される。以下、(1)の並びを「横方向」と、(2)の並びを「縦方向」と呼ぶこととする。
【0036】
基板Sとしては、酸化ケイ素(SiO2 )からなるガラス材料(例えば石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなど)の他に、プラスチック材料やセラミックス材料、金属などで構成することもできる。
【0037】
ターゲット29a,29b(又は49a,49b)は、膜原料物質を平板状に形成したものであり、本実施形態では、回転ドラム13の外周面と対向する方向の形状、すなわち平面視した場合の形状が略真円状に形成されている(図4,図7など参照)。略真円状に形成することで、後述する配置調整が容易となる。
【0038】
各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)は、その平面方向の面が、回転ドラム13の軸線Zに対して垂直方向を向くように、各電極21a,21b(又は41a,41b)の上記一端側表面にそれぞれ着脱可能に保持される。
【0039】
各ターゲット29a,29b(又は49a,49b)の材質としては、例えば、Si、Nb、Al、Ti、Zr、Sn、Cr、Ta、Te、Fe、Mg、Hf、Ni−Cr、In−Snなどの各種金属を用いることができる。また、単一種類の金属に限られるものではなく、複数種類の金属をターゲットとして使用してもよい。また、これらの金属の化合物、例えば、Al2 O3 、TiO2 、ZrO2 、Ta2 O5 、HfO2 等を用いることもできる。
【0040】
プラズマ処理は、例えば次のようにして行われる。マスフローコントローラ65,67を介して、反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ66や、不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ68から所定流量の反応処理用ガスが反応プロセス領域60に導入されると、アンテナ85a,85bの周辺が所定ガス雰囲気になる。この状態で、アンテナ85a,85bに高周波電源89から周波数1〜27MHzの電圧が印加されると、反応プロセス領域60内のアンテナ85a,85bに面した領域にプラズマが発生する。これにより、成膜プロセス領域20,40で基板Sの表面に形成された中間薄膜はプラズマ処理され、膜原料物質の完全反応物や不完全反応物に膜変換して超薄膜を形成する。
【0041】
本実施形態では、不活性ガスとしては、例えばアルゴン,ヘリウムなどが考えられる。反応性ガスとしては、例えば酸素ガス,窒素ガス,弗素ガス,オゾンガスなどが考えられる。
【0042】
以下では、代表的に、一方の成膜プロセス領域20に関連する電極21a,21b及びターゲット29a,29bを例に挙げて説明するが、本実施形態では、他方の成膜プロセス領域40に関連する電極41a,41b及びターゲット49a,49bについては、これと同様の構成もしくは異なる構成を採用することができる。
【0043】
図3〜図5に示すように、本実施形態の各電極21a,21bは、対向する回転ドラム13の外周面から見た場合(以下「平面視した場合」と略記することもある。)に、略真円の形状に形成されている。これに伴い本実施形態では、各電極21a,21bの表面に着脱自在に保持されるターゲット29a,29bも同様に、平面視した場合に、各電極21a,21bと同形状の略真円状に形成している(図4参照)。すなわち本実施形態では、各電極21a,21b及び各ターゲット29a,29bの両者の形状を略真円状の同一形状としている。ただし、本発明では、両者の形状を必ずしも同一にする必要はなく、少なくとも各ターゲット29a,29bの形状を略真円状にすればよい。なお、各ターゲット29a,29bの形状は、略真円状に限らず、楕円状、多角形状とすることもできる。
【0044】
《電極配置調整機構》
本実施形態では、各電極21a,21b(引いては各ターゲット29a,29b)の配置を大気側(真空容器11の外側)から変更可能な電極配置調整機構100が設けられている。この機構100を設けることで、スパッタ源が元来有する膜原料物質の付着分布(例えば、回転ドラム13の軸線Zの延出方向であるY方向の付着分布(以下「縦方向の付着分布」という。)など)を、真空容器11内の真空状態を維持した状態で(大気開放することなく)変更することが可能となる。
【0045】
ある配置で一対の電極を配置した場合、それぞれの電極に保持されるターゲットを含むスパッタ源が元来有する膜原料物質の付着分布は自ずと決定する。電極の配置を変更する度に、そのスパッタ源が有する付着分布も変動する。すなわち電極(ターゲット)の配置と、その電極を含むスパッタ源による膜原料物質の付着分布との間には相関関係がある。
【0046】
例えば、Y方向(図1,2参照)に細長い矩形状を呈する2つのターゲットを準備し、これらの長辺同士を所定間隔を空けて対向配置させるように2つの電極に保持させ、順次交互にスパッタを行った場合、回転ドラム13の一部の領域(所定領域)へ向かう膜原料物質の量(付着量)は、回転ドラム13のY方向の中心付近(以下単に「中心付近」と言う。)で多くなり、回転ドラム13のY方向の上側と下側付近(以下「非中心付近」と言う。)で少なくなる。すなわち、前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布は中心付近で最大となり、上下非中心付近に向けて漸次小さくなる。その結果、中心付近に保持される基板Sに付着する膜原料物質からなる薄膜は厚くなる一方、非中心付近の基板Sに付着する薄膜は薄くなり、配置される位置によって基板Sに堆積する膜厚にバラツキを生じる。これは前記所定領域における膜原料物質の付着分布が異なるからである。また、単一の基板Sに付着する薄膜でも、膜形成面の上端付近に形成される膜の膜厚と、下端付近に形成される膜の膜厚との間でバラツキを生じることもある。各基板S単位で付着分布が異なる場合である。
【0047】
このように前記所定領域における膜原料物質の付着分布、引いては各基板Sごとの膜厚分布のバラツキを解消するために従来は、前記所定領域に向けてターゲットから供給される膜原料物質が常時付着する位置(例えば、ターゲットと、回転ドラム13の外周面に保持される基板Sとの間)に膜厚補正板を配置し、回転ドラム13の前記所定領域へ向かう膜原料物質のうち、中心付近を通過しようとする膜原料物質の量を規制して、基板Sに堆積する膜原料物質の付着量を、各基板Sの基板全面に亘って均一になるように制御し、各基板ごとの膜厚のバラツキを解消するような手段を講じていたことは上述した通りである(特許文献1)。すなわち、補正板を配置することで前記所定領域における膜原料物質の付着分布を均一化するようにしていた。
【0048】
具体的には、中心付近をより長い時間遮蔽することで、その分、回転ドラム13の中心付近へ向かう膜原料物質の量を減らして、中心付近の膜厚を、膜厚補正板を設けない場合と比較して相対的に薄くする。これにより、膜厚補正板を設けない場合には膜厚が厚くなってしまう中心付近の膜厚を、膜厚補正板を設けることで薄くし、結果として基板Sの上下方向で、膜厚のバラツキがない(若しくは少ない)均一な厚さの薄膜を成膜することとしていた。
【0049】
しかしながら、上述したように、成膜装置の作動を開始した後、前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布の変更を望む場合、膜厚補正板の配置を調整する必要があるが、この場合、配置調整の都度、成膜装置を大気開放する必要があり、生産性が低下する不都合を生じていた。また、成膜バッチが進むにつれて膜厚補正板に付着する膜原料物質の量が増加し、やがては付着した膜原料物質が補正板から剥離して飛散する。膜原料物質が補正板から剥離して飛散すると、これが成膜不良の原因となることもあった。
【0050】
そこで本実施形態では、膜厚補正板を設けることなく、成膜装置1に、真空容器11の外側から各電極21a,21bの配置を変更可能な電極配置調整機構100を設け、真空容器11内の真空状態を維持した状態で、目標とする所望の、膜原料物質の付着分布が得られるよう電極の配置を調整できることとしたものである。
【0051】
本実施形態で用いる電極配置調整機構100の具体的構成は、特に限定されず、例えば図3〜図5に示すように、制御ユニット200によって制御されるモータ102の回転軸104から径方向に延びる2つのアーム106a,106bを含むもので構成することができる。この場合、各アーム106a,106bのそれぞれの先端には、各電極21a,21bの一端を取付け可能な電極取付け部108a,108bが形成されていることが好ましい。
【0052】
こうした構成の電極配置調整機構100では、真空容器11を大気開放することなく、各電極21a,21bを電極取付け部108a,108bに取付けた状態で各アーム106a,106bを介して回転軸104を中心に円弧状に回動(移動)させる。すなわち、制御ユニット200から指令を受けたモータ102が駆動することで、回転軸104を中心に各アーム106a,106bが移動し、このアーム106a,106bの移動に伴って各電極21a,21bも移動する。各電極21a,21bの表面には、ターゲット29a,29bが着脱自在に保持されるので、各電極21a,21bが移動すれば、それに伴ってターゲット29a,29bも移動する。その結果、電極21a,21b(引いてはターゲット29a,29b)の配置が変動することに起因し、ターゲットを構成する膜原料物質の前記所定領域における付着分布も変動し、真空容器11を大気開放することなく、膜厚分布を変更することが可能となる。
【0053】
なお、電極配置調整機構100の構成は、要するに真空容器11の外側(つまり大気側)から電極配置を変更可能なものであれば、本実施形態の態様に限定されず、各電極21a,21bの移動経路も円弧状に限定されない。
【0054】
本実施形態では、例えば、上述した電極配置調整機構100を、膜原料物質の目標とする付着分布に合わせた電極配置となるよう成膜バッチ毎に予め作動させて電極21a,21bの位置を調整し、その後成膜装置1を立ち上げて成膜を開始し、所望の膜厚分布を持つ薄膜を基板S上に成膜することができる。
【0055】
《第2実施形態》
本実施形態では、回転ドラム13の一部の領域に向けて、スパッタされた何れかのターゲット29a若しくは29b(又は49a若しくは49b)から供給される膜原料物質の付着分布を測定し、その測定結果に基づいて、上述した第1実施形態の電極配置調整機構100を作動させ、目的とする付着分布が得られるよう電極21a,21bの配置を変動させるシステム構成を有する。
【0056】
こうしたシステム構成とする場合、成膜途中で膜原料物質の付着分布をリアルタイムに把握できるようなシステムを備えることが好ましい。このようなシステムの一例としては、例えば図1、図2及び図6〜図8に示すように、成膜装置1に付着分布測定手段300を設け、成膜中のある時点における所定領域での膜原料物質の付着分布をリアルタイムに測定し、その測定結果を付着分布制御手段400へ出力し、この出力結果に基づいて付着分布制御手段400は電極配置調整機構100を適切に作動させることにより達成することができる。以下、その構成例を説明する。なお、代表的に、成膜プロセス領域20に関連する電極21a,21b及びターゲット29a,29bを例に挙げて説明することは上述した通りである。
【0057】
《付着分布測定手段》
図6〜図8に示すように、本実施形態の付着分布測定手段300は、付着量検出部302と、この付着量検出部302に電気的に接続される付着分布算出部304とを有する(図8)。
【0058】
《付着量検出部》
本実施形態の付着量検出部302は、例えば、複数の水晶膜厚センサ(以下単に「膜厚センサ」と略記することがある。)33a1〜33a6,33b1〜33b6で構成することができる(図6,7)。膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6は、ターゲット29a,29bから飛散する膜原料物質の付着量を検出し、各センサ毎に、付着量に応じた信号を付着分布算出部304に対して出力する。具体的には本実施形態の各膜厚センサは、その内部に、水晶振動子を備えたセンサ素子35を有する(図8)。水晶振動子は、交流電場が印加されて周期的に共振振動しており、水晶振動子の表面に物質が付着するとその付着量に応じて水晶振動子の共振振動数が変化する。各膜厚センサは、それぞれこの共振振動数の変化をデジタル信号に変換するA/D変換回路38を有しており、この回路38にて共振振動数の変化をデジタル信号に変換し、付着分布算出部304に出力する(図8)。
【0059】
図6及び図7に示すように、膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6は、上述した回転ドラム13の一部の領域(所定領域)に向けてターゲット29a,29bから供給される膜原料物質が常時付着する位置に固定されている。本実施形態では、成膜プロセス領域20を形成する仕切壁12の内側からターゲット29a,29bの前面方向に向けて延びるように取り付けられる左右一対の保持板31a,31bの先端部付近に、ターゲット29a,29bに向けて、しかも回転ドラム13の回転軸線Z方向(図1のY方向)に沿って断続的に一列に設けられている。具体的には、複数の膜厚センサ33a1〜33a6は、保持板31aの先端部付近に、ターゲット29aに向け、しかも回転ドラム13の回転軸線Z方向に沿って断続的に取り付けられ、複数の膜厚センサ33b1〜33b6は、保持板31bの先端部付近に、ターゲット29bに向け、しかも回転ドラム13の回転軸線Z方向に沿って断続的に取り付けられている。
【0060】
本実施形態で用いる保持板31a,31bは、膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6を設置するために設けられるとともに、ターゲット29a,29bから飛翔する膜原料物質が基板Sに対して垂直方向に入射するように入射方向を規制する役割も果たしている。これにより膜原料物質が成膜プロセス領域20の外側に膜原料物質が飛散し、装置1の内部や基板Sを不必要に汚染することを防止することもできる。
【0061】
なお、本実施形態では、保持板31a,31bの両方に膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6を設けているが、何れか一方の保持板にのみ膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6を設けてもよい。また、膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6は、保持板31a,31bに設けられる必要はなく、ターゲット29a,29bと基板Sとの間であって、且つターゲット29a,29bから供給される膜原料物質が付着可能な位置であれば保持板31a,31b以外の位置に設けてもよい。
【0062】
また、水晶振動子を用いた膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6に代えて、膜厚検出が可能な他の手段を用いることもできる。例えば、保持板31a,31bのターゲット29a,29bに対向する面に小型のモニタ基板を配置して、このモニタ基板に付着する薄膜の膜厚を光ファイバなどで光学的にモニタする構成としてもよい。
【0063】
《付着分布算出部》
本実施形態の付着分布算出部304は、例えば、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、入力端子及び出力端子などを備える。入力端子から膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6で測定した付着量の電流値が入力されると、各膜厚センサの配置に対応させて、回転ドラム13の前記所定領域における膜原料物質の付着分布を算出する。
【0064】
本実施形態では、複数の膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6により複数の位置で膜原料物質の付着量をモニタすることで、それぞれの位置に対応する、回転ドラム13の所定領域における縦方向の付着分布を取得することが可能となる。取得した縦方向の付着分布の情報は、ハードディスクなどに記憶される。
【0065】
具体的には、付着分布算出部304では、まず、各膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6から出力される信号(電流値の変化)を受信し、当該信号に基づいて各膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6の水晶振動子に付着した膜原料物質の量を演算する。次に、この演算した膜原料物質の付着量に基づいて、回転ドラム13の前記所定領域における縦方向の付着分布を算出し、付着分布制御手段400に出力する。
【0066】
本実施形態では、各膜厚センサでの膜原料物質の付着量−回転ドラム13の前記所定領域における縦方向付着分布の相関関係第1データと、付着分布算出プログラムがハードディスクなどに記憶してあるので、付着分布算出時にはハードディスクに記憶された相関関係第1データと算出プログラムをRAMに読み出し、膜厚センサ33a1〜33a6,33b1〜33b6で測定した付着量の値をもとに、付着分布算出部304のCPUによって前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布の算出が行われる(付着分布測定工程)。
【0067】
《付着分布制御手段》
本実施形態の付着分布制御手段400は、付着分布測定手段300と電気的に接続されており、例えば付着分布算出部304と同様に、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、入力端子及び出力端子などを備える。
【0068】
本実施形態では、入力端子から入力される付着分布測定手段300(付着分布算出部304)からの算出結果(現在の付着分布情報)に基づいて、所望の付着分布となる電極21a,21bの最適な配置を算出するとともに、電極21a,21bがこの配置となるような電極配置調整機構100の駆動方向及び駆動量(最適位置移動情報)を算出する。
【0069】
具体的には、付着分布制御手段400では、まず、付着分布算出部304による算出結果に基づいて、ターゲット29a,29bを保持する各電極21a,21bの現在の配置(以下「現在の電極配置」という。)を算出する(電極配置算出工程)。これは、予め求めておいた、各電極21a,21bの配置−回転ドラム13の前記所定領域における縦方向付着分布の相関関係第2データ(例えば図11参照)に基づいて算出することができる。
【0070】
次に、現在の電極配置が、目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出する(変動情報算出工程)。これは、予め求めたおいた、ターゲット29aとターゲット29bの間の距離(本実施形態では各電極21a,21bの間の距離に等しい。)、(0,0)点と一方の電極の中心点C1を結ぶ線がX軸に対して為す角度α(何れも後述)、及びターゲット29a,29bと回転ドラム13の外周面に保持される基板Sの距離の3者間での相関関係データに基づく最適電極配置算出プログラムを用いて算出することができる。ここで算出される変動情報は、電極21a,21bの移動方向及び距離などである。
【0071】
次に、前記変動情報に基づいて、前記真空容器の外部に設けられた電極配置調整機構100を作動させるように、モータ102の制御ユニット200に対して出力し、現在の電極配置を前記最適電極配置に変動させる(電極位置調整工程)。
【0072】
本実施形態では、相関関係第2データや各種プログラムがハードディスクなどに記憶してあるので、現在の電極配置や変動情報の算出の際にハードディスクに記憶された相関関係第2データや各種プログラムをRAMに読み出し、付着分布制御手段400のCPUによって所定の演算をし、制御ユニット200に対して所定の出力が行われる(付着分布制御工程)。
【0073】
《ターゲットの配置と縦方向の付着分布との関係》
以下に、本発明者らによって取得した、回転ドラム13の前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布と、ターゲット29a,29b(引いては電極21a,21b)の配置との関係(第2データ)を説明する。
【0074】
この例では、ターゲット29a,29bとして直径2rが4インチ(約100mm)で厚みが6mmの円柱状ターゲット(材質はSi)を2つ用い(デュアルカソード形式)、これらを距離dが50mmとなるように離間させて配置したものを用いた。
【0075】
そして、図9(a)〜図9(c)、図10(a)及び図10(b)に示すように、回転ドラム13の回転軸線Z方向の中点から該回転軸線Z方向に直交する方向に延びるX軸及び前記中点から前記回転軸線Z方向に延びるY軸の交錯点(以下「(0,0)点」とする。)と、一方の電極(例えば21b)に保持される一方のターゲット(例えば29b)の中心点C1とを結ぶ線L1(図9(b)参照)が、前記X軸に対して為す角度をαとしたとき、それぞれαが、90°(図9(a))、60°(図9(b))、45°(図9(c))、30°(図10(a))、0°(図10(b))の角度で、ターゲット29a,29bが配置される場合の、回転ドラム13の前記所定領域における膜原料物質の縦方向の付着分布をグラフ化した(図11参照)。
【0076】
なお、図11は、スパッタを行った際に膜原料物質が向かう回転ドラム13の所定領域において、Y軸方向(図2のY方向)の中心部分を0とし、かつそこから上下方向の領域をそれぞれ300(単位mm)づつに区切った場合の、それぞれの位置における膜原料物質の付着量(単位nm)を、一対のターゲット29a,29bの配置毎にグラフ化したものである。この図11には、α=15°、40°、50°、75°の場合の付着分布も併記した。
【0077】
以下、回転ドラム13の外周面には、その回転軸線Z方向に沿って5つの基板(以下、上から順にS1〜S5とする。)が保持されているものとし、各基板S1〜S5に形成される薄膜を上から順に薄膜1〜薄膜5とする。
【0078】
まず、α=90°の電極配置(図9(a)の配置)であるが、この配置は、回転ドラム13の回転軸線Z方向に沿って、電極21a,21bを配置し、それぞれにターゲット29a,29bを保持させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の90°ラインの軌跡を辿る。具体的には、薄膜1〜5の膜厚分布は概ね、薄膜1,薄膜5>>薄膜2,薄膜4>>薄膜3、となる。つまり縦方向の付着分布は、回転ドラム13の回転軸線Z方向の上下部(薄膜1,薄膜5)が最大となり、中央部(薄膜3)が最小となり、残り(薄膜2,薄膜4)が中間となって、付着分布が不均一となる。
【0079】
次にα=75°の電極配置(図示省略)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向(基板側から見た場合、時計回り)に15°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の75°ラインの軌跡を辿る。具体的には、上述した90°ラインと略同一の軌跡であるが、90°ラインの場合と比較して、薄膜1,薄膜5と薄膜2,薄膜4との厚み差、及び薄膜2,薄膜4と薄膜3との厚み差が少しだけ縮まる程度の膜厚分布となる。依然として付着分布は不均一と理解される。
【0080】
次にα=60°の電極配置(図9(b)の配置)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に30°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の60°ラインの軌跡を辿る。具体的には、75°ラインと比較して、薄膜1,薄膜5と薄膜2,薄膜4との厚み差、及び薄膜2,薄膜4と薄膜3との厚み差がさらに縮まるの膜厚分布となる。依然として付着分布は不均一と判断される。
【0081】
次にα=50°の電極配置(図示省略)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に40°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の50°ラインの軌跡を辿る。具体的には、60°ラインよりも、薄膜1,薄膜5と薄膜2,薄膜4との厚み差、及び薄膜2,薄膜4と薄膜3との厚み差がさらに縮まり、薄膜1〜薄膜5の膜厚分布は略均一となり、本実施形態では好ましい付着分布の一つである。
【0082】
次にα=45°の電極配置(図9(c)の配置)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に45°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の45°ラインの軌跡を辿る。具体的には、50°ラインと比較してより一層、薄膜1,薄膜5と薄膜2,薄膜4との厚み差、及び薄膜2,薄膜4と薄膜3との厚み差が縮まっており、薄膜1〜薄膜5の何れも均一な膜厚分布を示す。本実施形態では最も好ましい付着分布である。
【0083】
次にα=40°の電極配置(図示省略)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に50°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の40°ラインの軌跡を辿る。具体的には、薄膜1〜5の膜厚分布は概ね、上述した60°ライン〜90°ラインの場合と比較して、薄膜3>薄膜2,薄膜4>薄膜1,薄膜5、となる。つまり縦方向の膜厚分布は、回転ドラム13の回転軸線Z方向の中央部(薄膜3)が最大となり、上下部(薄膜1,薄膜5)が最小となり、残り(薄膜2,薄膜4)が中間となるが、本実施形態では比較的均一な好ましい付着分布の一つである。
【0084】
次にα=30°の電極配置(図10(a)の配置)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に60°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の30°ラインの軌跡を辿る。具体的には、40°ラインよりもさらに、中央部(薄膜3)と上下部(薄膜1,薄膜5)の厚み差が大きくなり、付着分布は不均一領域に入るものと理解される。
【0085】
次にα=15°の電極配置(図示省略)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に75°移動させた場合である。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の15°ラインの軌跡を辿り、30°ラインよりもより一層、中央部(薄膜3)と上下部(薄膜1,薄膜5)の厚み差が大きくなり、付着分布は不均一と理解される。
【0086】
次にα=0°の電極配置(図10(b)の配置)であるが、この配置は、図9(a)の配置から、図6及び図7に示す電極配置調整機構100のアーム106a,106bをd1方向に90°移動させた場合であり、回転ドラム13の回転軸線Z方向に直行する方向に沿って、電極21a,21bを配置し、それぞれにターゲット29a,29bを保持させた場合に相当する。この配置での、縦方向の付着分布は、図11の0°ラインの軌跡を辿る。具体的には、薄膜1〜5の膜厚分布は概ね、薄膜3>>薄膜2,薄膜4>>薄膜1,薄膜5、となる。つまり縦方向の付着分布は、回転ドラム13の回転軸線Z方向の中央部(薄膜3)が最大となり、上下部(薄膜1,薄膜5)が最小となり、残り(薄膜2,薄膜4)が中間となって、15°ラインの場合よりもさらに付着分布が不均一となる。
【0087】
そして、付着分布制御手段400からの出力を受けた制御ユニット200は、モータ102を作動させて電極配置調整機構100を駆動させ、所望の膜厚分布となるよう電極21a,21bの配置を最適化する。具体的には次の通りである。
【0088】
《電極配置調整機構の駆動》
次に、上記例に基づいて、本実施形態の電極配置調整機構100の駆動方法を説明する。
【0089】
まず、付着分布算出部304による算出結果としての現在の付着分布情報が、図11の0°ライン、15°ライン、30°ラインである場合、縦方向の付着分布を均一とすべく、付着分布制御手段400は、制御ユニット200を介して電極配置調整機構100を駆動させ、少なくとも図11の40°ライン(好ましくは45°ライン)の軌跡を辿るように電極位置を調整する。
【0090】
これに対し、付着分布算出部304による現在の付着分布情報が、図11の60°ライン、75°ライン、70°ラインである場合、付着分布を均一とすべく、付着分布制御手段400は、制御ユニット200を介して電極配置調整機構100を駆動させ、少なくとも図11の50°ライン(好ましくは45°ライン)の軌跡を辿るように電極位置を調整する。
【0091】
なお、付着分布算出部304による付着分布情報が、図11の40°ライン〜50°ラインである場合は、このままの状態でも付着分布は均一と言えるので、電極配置調整機構100を駆動させる必要はない。ただし、付着分布をより一層均一にするために、付着分布制御手段400は、制御ユニット200を介して電極配置調整機構100を駆動させ、付着分布が45°ライン付近の軌跡を辿るよう電極位置を調整してもよい。
【0092】
本実施形態の成膜装置1では、電極配置調整機構100を用い、成膜中に実際に形成されている薄膜の膜厚分布を検出し、その検出結果に基づいて電極配置調整機構100を作動させ、より良い状態の膜厚分布が得られるよう電極21a,21bの配置を変動させることができるので、各成膜バッチ毎での膜厚分布の管理が容易となる。
【0093】
本実施形態では、付着分布測定手段300を設け、成膜中のある時点における所定領域での膜原料物質の付着分布をリアルタイムに測定し、その測定結果を付着分布制御手段400へ出力する。付着分布制御手段400は、付着分布測定手段300からの出力結果に基づいて電極配置調整機構100を適切に作動させ、目的とする付着分布が得られるよう電極21a,21bの配置を変動させる。このため、膜厚補正板を設けなくとも、成膜途中で膜原料物質の付着分布を変更することが容易であり、複数の基板Sに対する膜厚分布の管理が容易となるなど、種々のメリットを有する。
【0094】
《その他の実施形態》
以上説明した実施形態は、上記発明の理解を容易にするために記載されたものであって、上記発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、上記発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0095】
上述した実施形態では、スパッタの一例であるマグネトロンスパッタを行うスパッタリング装置を用いているが、マグネトロン放電を用いない2極スパッタ等、他の公知のスパッタを行うスパッタリング装置を用いることもできる。
【0096】
上述した実施形態では、付着分布制御手段400と、付着分布測定手段300の付着分布算出部304と、モータ102の制御ユニット104を別々の装置としているが、何れかの装置に残りの装置の機能を搭載することで、何れかの装置のみを備えるようにしてもよい。例えば、付着分布測定手段300に、付着分布制御手段400に含まれる各種プログラムを記憶させておき、取得した付着分布情報に基づいて、これらのプログラムにより電極配置調整機構100の駆動方向及び駆動量を決定し、モータ102の制御を行うようにしてもよい。
【0097】
上述した実施形態では、成膜プロセス領域20,40と、軸線Zを中心に成膜プロセス領域20,40から約90°離間した位置に配置される反応プロセス領域60とが、真空容器11の内部に形成してある場合を例示したものであるが、成膜プロセス領域は、少なくとも何れか一つを有する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0098】
1…成膜装置、11…真空容器、13…回転ドラム、S…基板、12,14,16…仕切壁、31a,31b…保持板、
20,40…成膜プロセス領域、
スパッタ源(21a,21b,41a,41b…マグネトロンスパッタ電極、23,43…交流電源、24,44…トランス、29a,29b,49a,49b…ターゲット)、
スパッタ用ガス供給手段(26,46…反応性ガスボンベ、28,48…不活性ガスボンベ、25,27,45,47…マスフローコントローラ)、
60…反応プロセス領域、
80…プラズマ源(81…ケース体、83…誘電体板、85a,85b…アンテナ、87…マッチングボックス、89…高周波電源)、反応処理用ガス供給手段(66…反応性ガスボンベ、68…不活性ガスボンベ、65,67…マスフローコントローラ)、
100…電極配置調整機構(102…モータ、104…回転軸、106a,106b…アーム、108a,108b…電極取付け部)、
200…制御ユニット、
300…付着分布測定手段(302…付着量検出部(33a1〜33a6,33b1〜33b6…水晶膜厚センサ(35…センサ素子、38…A/D変換回路))、304…付着分布算出部)、
400…付着分布制御手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を真空状態に維持した真空容器内で、同一の膜原料物質で構成される複数のターゲットを順次スパッタし、基体を保持して回転する基体保持手段の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、前記基体保持手段の回転毎に間欠的に前記基体の表面に前記膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置であって、
前記ターゲットのそれぞれを保持して電圧を印加する複数のスパッタ電極と、
前記電極に電力を供給する電力供給手段と、
前記ターゲットに向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段と、
前記電極の配置を前記真空容器の外部から変更可能な電極配置調整機構とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
内部を真空状態に維持した真空容器内で、同一の膜原料物質で構成される少なくとも一対のターゲットを交互にスパッタし、基体を保持して回転する基体保持手段の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、前記基体保持手段の回転毎に間欠的に前記基体の表面に前記膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置であって、
前記ターゲットのそれぞれを保持して電圧を印加する複数のスパッタ電極と、
前記電極に交流電力を供給する交流電力供給手段と、
前記ターゲットに向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段と、
前記電極の配置を前記真空容器の外部から変更可能な電極配置調整機構とを有し、
前記電極に前記電力供給手段から交流電圧を印加して前記ターゲットに交番電界を掛け、前記一対のターゲットの一方と他方を交互に負電位状態としてスパッタするように構成されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の成膜装置において、
前記領域における前記膜原料物質の付着分布を測定する付着分布測定手段と、
前記付着分布に基づいて前記電極配置調整機構の作動を制御する付着分布制御手段とを有し、
前記付着分布制御手段は、前記付着分布に基づいて算出される電極配置が、目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出し、この算出した変動情報に基づいて前記電極配置調整機構を作動させることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項3記載の成膜装置において、
前記付着分布測定手段は、
前記領域に向けて前記ターゲットから供給される前記膜原料物質が常時付着する位置に固定された複数の付着量検出部と、
前記付着量検出部に付着する膜原料物質の付着量に基づいて、前記領域における前記膜原料物質の付着分布を算出する付着分布算出部とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項4記載の成膜装置において、
前記付着量検出部は、前記基体保持手段が回転する軸線の延出方向に沿って断続的に配列されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
内部を真空状態に維持した真空容器内で、同一の膜原料物質で構成される複数のターゲットを順次スパッタし、基体を保持して回転する基体保持手段の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、前記基体保持手段の回転毎に間欠的に前記基体の表面に前記膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜方法であって、
前記領域における前記膜原料物質の付着分布を測定する付着分布測定工程と、
前記付着分布に基づいて、前記ターゲットのそれぞれを保持する複数のスパッタ電極の配置を算出する電極配置算出工程と、
前記電極の配置が目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出する変動情報算出工程と、
前記変動情報に基づいて、前記真空容器の外部に設けられた電極配置調整機構を作動させて前記電極配置を前記最適電極配置に変動させる電極位置調整工程とを、有することを特徴とする成膜方法。
【請求項1】
内部を真空状態に維持した真空容器内で、同一の膜原料物質で構成される複数のターゲットを順次スパッタし、基体を保持して回転する基体保持手段の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、前記基体保持手段の回転毎に間欠的に前記基体の表面に前記膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置であって、
前記ターゲットのそれぞれを保持して電圧を印加する複数のスパッタ電極と、
前記電極に電力を供給する電力供給手段と、
前記ターゲットに向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段と、
前記電極の配置を前記真空容器の外部から変更可能な電極配置調整機構とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
内部を真空状態に維持した真空容器内で、同一の膜原料物質で構成される少なくとも一対のターゲットを交互にスパッタし、基体を保持して回転する基体保持手段の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、前記基体保持手段の回転毎に間欠的に前記基体の表面に前記膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜装置であって、
前記ターゲットのそれぞれを保持して電圧を印加する複数のスパッタ電極と、
前記電極に交流電力を供給する交流電力供給手段と、
前記ターゲットに向けてスパッタ用ガスを供給するスパッタ用ガス供給手段と、
前記電極の配置を前記真空容器の外部から変更可能な電極配置調整機構とを有し、
前記電極に前記電力供給手段から交流電圧を印加して前記ターゲットに交番電界を掛け、前記一対のターゲットの一方と他方を交互に負電位状態としてスパッタするように構成されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の成膜装置において、
前記領域における前記膜原料物質の付着分布を測定する付着分布測定手段と、
前記付着分布に基づいて前記電極配置調整機構の作動を制御する付着分布制御手段とを有し、
前記付着分布制御手段は、前記付着分布に基づいて算出される電極配置が、目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出し、この算出した変動情報に基づいて前記電極配置調整機構を作動させることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項3記載の成膜装置において、
前記付着分布測定手段は、
前記領域に向けて前記ターゲットから供給される前記膜原料物質が常時付着する位置に固定された複数の付着量検出部と、
前記付着量検出部に付着する膜原料物質の付着量に基づいて、前記領域における前記膜原料物質の付着分布を算出する付着分布算出部とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項4記載の成膜装置において、
前記付着量検出部は、前記基体保持手段が回転する軸線の延出方向に沿って断続的に配列されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
内部を真空状態に維持した真空容器内で、同一の膜原料物質で構成される複数のターゲットを順次スパッタし、基体を保持して回転する基体保持手段の一部の領域に向けてスパッタされた何れかのターゲットから膜原料物質を供給することで、前記基体保持手段の回転毎に間欠的に前記基体の表面に前記膜原料物質を付着させて薄膜を形成する成膜方法であって、
前記領域における前記膜原料物質の付着分布を測定する付着分布測定工程と、
前記付着分布に基づいて、前記ターゲットのそれぞれを保持する複数のスパッタ電極の配置を算出する電極配置算出工程と、
前記電極の配置が目的とする付着分布が得られる最適電極配置となるのに必要な変動情報を算出する変動情報算出工程と、
前記変動情報に基づいて、前記真空容器の外部に設けられた電極配置調整機構を作動させて前記電極配置を前記最適電極配置に変動させる電極位置調整工程とを、有することを特徴とする成膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−242176(P2010−242176A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92956(P2009−92956)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】
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