説明

投射型表示システム、投射型表示装置及びスクリーン

【課題】簡単な構成によって、プロジェクタからの映像を投射するスクリーンの周囲の照度が高い環境で発生する黒浮きを回避する。
【解決手段】フロントプロジェクタシステムにおいて、使用するスクリーン31に、電気的な信号によって白黒の表示が可能な、いわゆる電子ペーパーディスプレイ(電子インク)を用いる。電子ペーパーディスプレイによりスクリーン31を、該スクリーン31に投影される画像20に対応した黒表示画像部は黒にし、明度及び彩度の高い画像部分は白にして表示する。そして、その上に投射型表示装置1から光学像(画像20)を投射し重ねて表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射型表示システム、投射型表示装置及びスクリーンに関し、特に周囲の照度が高い環境下においてスクリーンに映像を表示するのに好適な投射型表示システム、投射型表示装置及び映像が投影されるスクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表示装置として、スクリーンに画像を投影、表示するプロジェクタ(投射型表示装置)が知られている。スクリーンの前から画像を投射する前面投射型のものは特にフロントプロジェクタ(前面投射型表示装置)とも呼ばれる。図11に、一般的なフロントプロジェクタシステムの構成を示す。
【0003】
図11に示すフロントプロジェクタシステムを構成している投射型表示装置100は、広く使われているものと同様に、映像入力端子111より映像信号を受ける。この投射型表示装置100に入力された映像信号は、映像処理装置110によって所定の信号処理がなされ、光学エンジン112で画像となる。そして、投射レンズ113より反射型のスクリーン115に向けて投影映像114が投影され、スクリーン115上で結像された投影映像114が反射して視聴者によって観察される。
【0004】
従来の投射型表示装置100では白色のスクリーンを用いてその上に映像を投影しているが、投射型表示装置100を使用時に、投影するスクリーンの周辺の照度が高いと、本来黒く表示されるべき黒表示部が、周囲からの光が白色のスクリーンにあたることにより、黒く表示されない。
【0005】
すなわち、黒、もしくは黒に近い低輝度及び低彩度の映像が表現できない。この現象は、「黒浮き」と呼ばれ、フロントプロジェクタシステムの解決すべき課題である。図12を参照して黒浮き画像について説明する。図12Aは映像信号本来の画像例として切妻造りのロッジを示したものであり、図12Bは低輝度の部分が再現されない黒浮きの画像例を示したものである。図12Aに示すロッジの画像は、切妻屋根121の裏側122や軒下の切妻壁123、開き窓124などの低輝度及び低彩度の部分が適切に再現されている。一方、図12Bの画像では、黒浮きによって切妻屋根121の裏側122や切妻壁123、開き窓124などの低輝度及び低彩度の部分が再現されていないために、十分に表現されておらず各部が判別しにくくなっている。
【0006】
上記「黒浮き」の問題を別の言い方をすると、白映像と黒映像の明るさの比で表される映像のコントラストについて十分なコントラスト比が得られないと言うことができる。この黒浮きのために、暗い部分の映像に含まれる階調や映像の差異が表現できなくなり、特に周囲の照度が高い環境では、映像信号が本来持っている情報を表現しきれずに、映像全体の品質が制限されてしまうこととなる。
【0007】
そのために、プロジェクタを使用する場合には、十分にスクリーンの周囲の照度を下げる必要がある。逆に、周囲が明るい環境で白いスクリーンに黒を映す(光を当てない)ことによって黒が浮いてしまうことから、白色以外のスクリーンを用いることも考えられるが、この場合はスクリーンのゲイン(反射率)が低くなるために、プロジェクタによって得られる映像の輝度全体が下がり、また、反対に映像中の白色に近い高輝度部分(例えば、図12A,Bの白壁125)が表現できず現実的ではない。また、コントラスト自体は改善されない。
【0008】
これらの問題を解決するものとして、基板上に多数の微細素子が配列され、各微細素子は、それぞれスイッチングのオン・オフにより表面が低反射率状態又は高反射率状態に変化するハイコントラストスクリーンが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。この特許文献1に記載の技術によれば、映像の黒色部分と他の部分との明るさが大きく、コントラストの強い明確な映像を得ることができる。
【0009】
【特許文献1】特開2002−365730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1に記載のものは、スクリーンの反射率を制御するために、該スクリーン上に多数の微細素子を設ける必要がある。微細素子として、マイクロブリッジ構造体、エレクトロクロミック構造体、内部に砂鉄が入れられたセルの表面をITO透明電極が覆っている構造体等が開示されているが、スクリーンにこれらの微細素子を2次元アレイ状に設置するとスクリーンが複雑な構造となるので、高い製造技術とコストが要求される。
【0011】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成によって、プロジェクタからの映像を投射するスクリーンの周囲の照度が高い環境で発生する黒浮きを回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、スクリーンに投射型表示装置から投射された映像を投影する投射型表示システムであって、この投射型表示装置は、所定の映像信号から投射用映像信号とスクリーン用映像信号を生成する映像処理部と、予め設定された輝度の閾値と所定の映像信号の各画素の輝度値を比較し、映像処理部に対し、比較の結果この閾値より低い輝度値を持つ画素を黒とし、この閾値より高い輝度値を持つ画素を白としてスクリーン用映像信号を生成するよう指示する制御部と、投射用映像信号を光学像に変換し、該光学像をスクリーンに投射する光学像生成部とを備える。また、スクリーンは、投射型表示装置から供給されるスクリーン用映像信号に基づいて白黒の映像表示を行う表示部を備える。そして、スクリーン用映像信号に基づいてスクリーン上に表示されている映像に、投射型表示装置から投射用映像信号に基づく光学像を重ねて投影することを特徴とする。
【0013】
上述の構成によれば、スクリーンに例えば電子ペーパーディスプレイなどの表示機能を設け、該表示部によりスクリーンを、投射用映像信号の黒表示画像部は黒に、輝度の高い画像部は白に表示できるので、例えばスクリーン周囲が明るい場合でも黒浮きの発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡単な構成によって、プロジェクタからの映像を投射するスクリーンの周囲の照度が高い環境で発生する黒浮きを回避し、コントラストを改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態の例について、添付図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るフロントプロジェクタシステムの構成例を示す。本実施形態のフロントプロジェクタシステムは、使用するスクリーンに、電気的な信号によって白黒の表示が可能な、いわゆる電子ペーパーディスプレイ(電子インク)を用い、電子ペーパーディスプレイにより、スクリーンに投影される画像に対応した黒表示画像部は黒にし、明度及び彩度の高い画像部分は白にし、その上に画像を投射する構成となっている。
【0017】
本実施形態のフロントプロジェクタシステムは、図1に示すように、投射型表示装置1と、スクリーン31及びスクリーン駆動回路39を有するスクリーンシステム30とから構成される。
【0018】
投射型表示装置1は、広く使用されているものと同様に、映像入力端子11より映像信号を受けて、該映像信号を映像処理装置10によって処理し、光学エンジン12で光学像(映像)に変換するものである。そして、投射レンズ13よりスクリーン31に向けて光学像が投射され、スクリーン31上で結像された投影映像20が視聴者によって観察される。図1では、先に述べた光学エンジン12と投射レンズ13も投射表示装置1に一体的に設けられているが、別体であっても構成可能である。
【0019】
ここで、光学像を生成する光学エンジンの構成の一例について説明する。図2に示すように、例えば超高圧水銀ランプ(UHPランプ)やメタルハライドランプ等の放電ランプ等からなる光源となるランプ50が、リフレクタ51(放物面鏡)の焦点位置に配置されている。ランプ50から照射された光は、リフレクタ51により反射されて光軸にほぼ平行な平行光束となるようにコリメートされて、リフレクタ51の開口部から出射される。
【0020】
リフレクタ51の開口部から出射された光束は、フライアイレンズ(マルチレンズアレイ)52,53に入射される。このフライアイレンズ52,53を透過することで、光束が効率よく、かつ均一に後述する空間光変調素子の有効開口に照射される。
【0021】
フライアイレンズ52,53を透過した光束は、PS変換素子54で偏光成分が高効率に分離され一定方向に偏光変換されることで最適な光量が確保される。そして、レンズ55を透過し、ダイクロイックミラー56以降の色分離/合成光学系に入射される。まず、ダイクロイックミラー56は、青色の光束Bを反射し、緑色の光束G及び赤色の光束Rを透過する。このダイクロイックミラー56で反射した青色の光束Bは、ミラー57により光路を90゜偏向され、青色用の空間光変調素子の前のコンデンサレンズ71に導かれる。
【0022】
一方、ダイクロイックミラー56にて透過された緑色及び赤色の光束G,Rはダイクロイックミラー57により分離されることになる。すなわち、このダイクロイックミラー57において、緑色の光束Gは反射されて進行方向を90゜偏向され、緑色用の空間光変調素子の前のコンデンサレンズ75に導かれる。
【0023】
また、赤色の光束Rは、ダイクロイックミラー57を透過して直進し、リレーレンズ59、ミラー60、リレーレンズ61、ミラー62を介して、赤色用の空間光変調素子の前のコンデンサレンズ79に導かれる。
【0024】
このようにして、青色、緑色、赤色の各光束B,G,Rは、各々のコンデンサレンズ71,75,79を通過して、各色用の空間光変調素子にそれぞれ入射される。
【0025】
これら各色の空間光変調素子は、それぞれ液晶パネルと2枚の偏光板から構成されている。例えば青色用の空間光変調素子は、液晶パネル73を有するとともに、この液晶パネル73の前段に入射光の偏光方向を一定方向に揃えるための入射側偏光板72を有している。また、液晶パネル73の後段には、出射光の所定の偏光面を持つ光成分のみ透過させる偏光板74が配置され、液晶を駆動する回路の電圧により、光の強度を表示画像に応じて変調するようになされている。同様に、緑色用の空間変調素子は、液晶パネル77,偏光板76,78を備え、赤色用の空間変調素子は、液晶パネル81,偏光板80,82を備えている。
【0026】
そして、空間光変調素子により光変調された各色の光束は、光合成素子(ダイクロイックプリズム)83に対して、3方向から入射される。この光合成素子83は、4分割された立方体状のプリズムと、該分割面に形成された反射膜とが組み合わされて構成されている。
【0027】
光合成素子83における青色の光束Bは、反射膜で反射され、また赤色の光束Rは、反射膜で反射されて、投射レンズ13に向けて出射される。そして緑色の光束Gは、光合成素子内を直進して透過し、投射レンズ13に向けて出射される。これにより、各光束B,G,Rが1つの光束に合成された状態で、投射レンズ13に向けて出射される。
【0028】
投射レンズ113は、光合成素子153側から入射された光束を投射光に変換して、上述の反射型スクリーン31の前面に対して投射する。一般的に、液晶パネルを光変調素子として用いる前面投射型表示装置においては、液晶パネルが偏光状態を利用することから、所定の偏光状態の投射光を投射する。
【0029】
光学エンジン12の種類としては、図2に示す透過型液晶パネルによるものの他、CRT(Cathode Ray Tube)によるもの、透過型液晶パネルによるもの、反射型液晶パネルによるもの、マイクロデバイスを使用するものなど各種存在する。
【0030】
この光学エンジン12から投射された映像が投影されるスクリーン31は、投射型表示装置1から投影される投影映像20の光束を効率よく利用するために、通常、高い反射率を持ち均等な反射光となる、白色であることが求められている。本発明においては、このスクリーン31に電子ペーパーディスプレイ(電子インク)を用い、投影映像20に同期して、部分的にスクリーン31の表示状態を変えることをその特徴としている。
【0031】
ここで、電子ペーパーディスプレイについて簡単に説明する。表示方式は各種あるが、代表的なものとして、米E Ink社の電気泳動方式と呼ばれるマイクロカプセル型電気泳動方式、米ジリコンメディア社のジリコンビーズ方式などがある。これらは、回転粒子の半球ずつを異なる色と帯電特性に分けたものを表示媒体として用いるものであり、現在も電子ブック等に利用されている。
【0032】
図3は、電子ペーパーディスプレイの構造例を示すものである。図3に示すように、電子ペーパーディスプレイは、マイクロカプセルやジリコンビーズ等のインク層(表示層)33と、それを制御するドライバ層34が2枚のプラスチックフィルム(透明シート)32,35で挟まれた構造となっている。インク層及びデバイス層は表示部を構成する。ドライバ層34は、アクティブマトリックス方式の液晶ディスプレイと同じように、TFT(Thin Film Transistor)もしくは有機トランジスタからなっており、これによって電子ペーパーの自己印字機能が可能になる。これらの電子ペーパーディスプレイは紙と同様に、自発光素子ではないために、周囲が明るい状況で読む、又は見ることが望ましいとされている。
【0033】
図1に示す投射表示装置1は、映像入力端子11より入力される映像信号を処理する映像処理装置10、映像信号を光学像に変換する光学エンジン12、投射レンズ13より構成されている。そして、映像処理装置10は、映像信号処理回路21、SDRAM23、フラッシュROM24、制御部25、各部を接続する内部バス22を備えている。
【0034】
制御部25は、映像処理装置10の制御を司り、CPU(Central Processing Unit)等から構成される。制御に必要なソフトウェア(プログラム)は、フラッシュROM24に記憶させておく。SDRAM(Synchronous DRAM)は、制御部25がソフトウェアを実行するためにプログラムやデータを展開するメモリとして機能するものである。
【0035】
外部から投射型表示装置1に供給された映像信号は、映像入力端子11より映像処理装置10の映像信号処理回路21に入力される。外部からの映像信号は例えば、ITU-R BT.601やITU-R BT.709に規定されているYUVのようなデジタル信号を想定している。もしくはアナログ信号や別の方式の信号に関しては、映像信号処理回路21の入力段においてYUVのデジタル信号に変換されるものとする。
【0036】
映像信号処理回路21は、制御部25によって制御され、入力された映像信号に応じて、2つの映像信号出力を行う。
【0037】
ひとつは、プロジェクタ用映像信号(投射用映像信号)であり、光学エンジン12に出力する。通常のプロジェクタではこのプロジェクタ用映像信号のみが存在し、本実施形態のシステムでも、対応するスクリーンシステム30がない場合には、手動もしくは自動にて光学エンジン12にのみ映像信号を出力させることが可能とする。
【0038】
もうひとつは、スクリーン用映像信号であり、映像信号処理回路21のスクリーン用出力端子(出力部)14より、後述するスクリーンシステム30のスクリーン駆動回路39に出力する。
【0039】
次に、本発明にて使用される電子ペーパーディスプレイを用いたスクリーンシステムについて説明する。
【0040】
図4は、スクリーンシステムの構成例を示す図である。本実施形態のスクリーンシステムは、図1にも示したようにスクリーン31とスクリーン駆動回路39とからなり、スクリーン31には、最大のコントラストが得られる、白と黒の2色表示を行う電子ペーパーディスプレイを使用する。この電子ペーパーディスプレイを駆動するためには、信号線(ライン)を選択する回路が必要であり、ライン毎に駆動を制御する。
【0041】
本実施形態で使用する電子ペーパーディスプレイは、上記異なる色(白,黒)が表示可能な画素を構成する例えばカプセルのような小区画40から構成されており、各画素の表示色は画素43ごとに設けられた表示色を決定するTFT44(薄膜トランジスタ)によって決定される。このTFT44の動作は、例えば液晶パネルにおける表示の動作と同様なアクティブマトリクス駆動方式を用いて実行される。
【0042】
アクティブマトリックス駆動方式の等価回路の例を図5に示す。図5に示した等価回路において、1つの小区画は、スイッチとして機能するTFTと液晶を制御する液晶容量素子CLCと保持容量素子Cstgから構成される。TFTのゲート端子Gが走査(ゲート)線N1に接続されるとともに、ソース端子Sが信号(データ)線D1と接続されている。そして、TFTのドレイン端子が液晶容量素子CLCと保持容量素子Cstgの並列回路を介して共通線と接続される。液晶容量素子CLCの画素電極45がTFTのドレイン端子と、対向電極46が共通線に接続されている。
【0043】
スクリーン駆動回路39には、有線又は無線で投射型表示装置1からスクリーン30に表示すべきスクリーン用映像信号が入力される入力部38が設けられており、この入力部38からスクリーン駆動回路39にスクリーン用映像信号が伝達されてアクティブマトリックス駆動等、所定の駆動を行う。
【0044】
スクリーン駆動回路39にはLSI(Large Scale Integration)で構成されたタイミングコントローラ37が設けられており、スクリーン駆動回路39は、スクリーン用映像信号に基づいてタイミング信号を生成して電子ペーパーディスプレイ(スクリーン31)の駆動を制御する。この他、スクリーン駆動回路39は、別途図示しない電源などを備えているがここでは説明を割愛する。なお、このスクリーン駆動回路39はスクリーン31と一体に設けられていても、別体に設けられていてもよい。
【0045】
ここで、アクティブマトリクス駆動方式について説明する。以下の説明において、スクリーン31が縦1080画素、横1920画素で形成されている場合を例にとり説明する。アクティブマトリクス駆動方式は、スクリーン駆動回路39に入力されたスクリーン用映像信号と同期して、タイミングコントローラ37から電子ペーパーディスプレイのドライバ層に対して電気信号が送られる。電子ペーパーディスプレイでは、ゲートドライバ(Hスキャン回路)41によって、ライン1〜ライン1080が選択され、その各ラインの横1920の画素に順次ソースドライバ(Vスキャン回路)42によって、白又は黒を表示するような指示が各TFT44に与えられる。それにより、電子ペーパーディスプレイを用いたスクリーン31上の各画素43が前記指示に従って白又は黒(あるいは後述する中間値)の表示を行う。
【0046】
次に、投射型表示装置1の映像信号処理回路10にて作成されるスクリーン用映像信号について説明する。図6は、1画面分のスクリーン用映像信号の生成処理を示すフローチャートである。以下の説明において、ITU-R BT.709に規定されているYUV信号を扱うものとし、スクリーン31の各画素43は白か黒の2値のみを表示できる場合を想定する。
【0047】
ITU-R BT.709のデジタル信号では、輝度は8ビットで表せる数の0−255のうち、最も輝度の低い黒のデジタル値を16、最も輝度の高い白のデジタル値を235として扱っている。よって、全ての画素に対応するYUV信号のYの値は通常16−235の間に入るデジタル値となっている。なおUV信号は色差を表す信号であるが詳細については説明を省略する。
【0048】
本実施形態ではスクリーン31の各画素43は白か黒の2値の表示が可能であるので、予めスクリーン周囲の照度に基づいて映像信号における各画素の輝度の値に対してスレッショルド(閾値)を設定しておく。映像信号処理回路21は、予め設定されたスレッショルド値に基づいて外部から入力された映像信号よりスクリーン用映像信号を作成する。
【0049】
まず、ユーザが図示しない操作部から手動でもしくはシステムにより自動的に与えられた、映像信号の輝度信号Yに対するスレッショルド値aを設定してフラッシュROM等に記憶させる(ステップS1)。次に、制御部25は、映像信号の各画素(m,n;自然数)について、当該画素の輝度値が前記スレッショルド値より大きいか比較して判定する。この比較作業は、映像信号の最初の画素(m=1,n=1)から行う(ステップS2,ステップS3)。
【0050】
比較した結果、映像信号の対象画素(m,n)の輝度値が、スレッショルド値を超えている場合、スクリーン用映像信号の対応する画素(m,n)を白とする(ステップS4)。一方、映像信号の対象画素(m,n)の輝度値が、スレッショルド値を超えていない場合、スクリーン用映像信号の対応する画素(m,n)を黒とする(ステップS5)。
【0051】
制御部15は、ステップS4,ステップS5の処理が終了したら、m=m+1として変数mをインクリメントする(ステップS6)。つまり、入力された映像信号より形成される画像の水平方向に比較対象の画素を移動する。そして、制御部25は、水平方向の画素mが1920を超えたかどうかを判定し(ステップS7)、超えていない場合はステップS3の比較処理に戻る。また、画素mが1920を超え水平方向の1ラインの比較が終了した場合、n=n+1として変数nをインクリメントし比較対象を下段の画素に移動する(ステップS8)。そして、制御部25は、垂直方向の画素nが1080を超えたかどうかを判定し(ステップS9)、超えていない場合は水平方向の画素mを1として(リセットし)、ステップS3の比較処理に戻る。また、画素nが1080を超え垂直方向の比較が終了した場合、全画素についてスレッショルド値との比較が終了したので、1画面分のスクリーン用映像信号生成処理を終了する。
【0052】
すなわち、仮にスレッショルド値を40とすると、制御部25は、各画素43の輝度値が16−39については黒を出力、輝度値が40−235については白を出力するよう判断し、それを縦1080画素、横1920画素について比較を行い、結果縦1080画素、横1920画素からなるスクリーン用映像信号とする。なお、スクリーン用映像信号生成処理に係る制御を、制御部25で行うように説明したが、映像信号処理回路21内で行うようにしてもよい。
【0053】
スクリーンに表示すべき映像信号が動画の場合、投射型表示装置1は1コマ毎に図6に示すスクリーン用映像信号生成処理を実施し、作成したスクリーン用映像信号を随時スクリーンシステム30のスクリーン駆動回路39へ出力する。
【0054】
一方、映像信号処理回路21から光学エンジン12へ供給するプロジェクタ用映像信号については、外部からの映像信号と同じ信号をそのまま出すものとするが、後述のように、映像信号処理回路21により適切に変換処理されたものでもよい。
【0055】
以上説明した、上記スクリーン31に投影されるプロジェクタ用映像信号の投影映像20と電子ペーパーディスプレイによりスクリーン31に表示されるスクリーン用映像信号の映像は、位置合わせがなされていることが前提である。位置合わせについては、例えば次のような方法で行うことができる。
【0056】
第1の方法は、機械的に位置を合わせる方法である。スクリーン31の大きさに合わせて投射型表示装置1の位置又は投射する映像を調節して、図7に示すスクリーン31の所定領域31aに投影映像20の位置を合わせる。
【0057】
第2の方法は、スクリーン側にセンサを設け、投射型表示装置1からスクリーン31に投射されたパターンテスト映像より検出される受光信号に基づいて位置合わせを行うというものである。例えば、図7に示すように、スクリーン31の4箇所にセンサ、ここでは照度センサ91〜94を設置する。センサは投射されるパターンテスト映像の発光パターンが検出できるものであって、センサの設置数はこの例に限られない。それぞれの照度センサ91〜94が設置された位置(座標)を、(m1,n1)、(m2,n2)、(m3,n3)、(m4,n4)とする。それぞれの照度センサ91〜94で検出されたパターンテスト映像の受光信号に基づいて、逆演算を行い、歪み等を補正して投影映像20をスクリーン31の所定領域に表示するようにする。その他、周知の技術を用いて位置合わせを実施することができる。
【0058】
図8A〜Bを参照して、スクリーン用映像信号によってスクリーン31に表示される映像の画とその効果について説明する。
【0059】
図8Aは、図12Aと同じ画像であって、投射型表示装置1に外部から供給された元々の映像信号の表示例である。図8Aに示すロッジの画像は、その切妻屋根121の裏側122や軒下の切妻壁123、開き窓124などの低輝度及び低彩度の部分が適切に再現され、コントラストも適正に出ている。周囲に明かりがない真っ暗な環境においての、通常のフロントプロジェクタもしくは投射型表示装置1による白色スクリーンへの投影は概この映像に近い。
【0060】
一方、スクリーン周囲の照度が明るい状態でのスクリーン上で結像された投影映像を、図8Bに示している。この図8Bの画像は、図12Bと同じ画像であり、切妻屋根121の裏側122や切妻壁123、開き窓124などの低輝度及び低彩度の部分が再現されていないが、これは前述のように周囲からの光によって黒浮きの症状が発生するためである。
【0061】
さらに、前述のようにして作成された、スクリーン用映像信号によるスクリーン31の表示は図8Cに示すようなものとなる。図8Cに示す画像は2値画像であり、切妻屋根121の裏側122や切妻壁123は黒で、開き窓124は1階入り口付近の白壁125と同様に白で表示される。
【0062】
このスクリーン31に表示される映像の画素(m,n)に対して、投影映像20の対応する画素(m,n)を一致させて投影させると、図8Dに示すような画像が視聴者に観察される。図8Bの映像と比較してわかるように、図8Dの映像は、切妻屋根121の裏側122や切妻壁123などの黒くもしくは低輝度で表示されるべきところが黒く表示され、かつ白もしくは高輝度で表示されるところ(例えば、白壁125)は白く表示されており、全体としてコントラストの高い映像となり、明るいところでも高品位な映像が得られている。これは、投射型表示装置1から投影される映像に対応する画素の輝度が低い部分に対して、スクリーン31に表示される2値画像の前記投影映像と対応する画素が黒で表示されるので、スクリーンの反射率が低いことにより黒浮きが発生しないためである。
【0063】
なお、この方法によると、スクリーン用映像信号が黒の表示になるスレッショルド値の部分で、視聴者が観察する映像の輝度変化が大きくなることが懸念される。そこで、プロジェクタ用映像信号については、投影される映像の画素に対応する画素が設定した画素スレッショルド値以下の輝度の場合には、映像信号処理回路21にて適切に輝度を上げて、滑らかに輝度が繋がるように適切に変換するようにしてもよい。
【0064】
さらに、電子ペーパーディスプレイを用いたスクリーン31での各画素の表示については、ユーザの手動により好みの表示に調整することによって、もしくはスクリーン31の周囲の照度によって、各部の黒表示を行う信号処理のスレッショルド値、つまり映像信号処理回路21にて生成されるスクリーン用映像信号を変化させることが望まれる。周囲の照度を知る手段としては、明るさセンサ(照度センサ)を設け、それをスクリーンシステム30もしくは、投射型表示装置1もしくは映像処理装置10に一体に組み込まれることが望ましい。
【0065】
次に周囲の照度に応じたスレッショルド値の調整方法について述べる。例えば、周囲が十分に低い照度の場合には、スクリーン31の黒表示におけるスレッショルド輝度値を低くする。周囲が十分に低い照度の場合には、黒浮きが発生しにくい。そこで、投影映像20が投影される部分の、映像の部分的な輝度レベルが低い(例えば0−255の25以下)部分に関して表示状態を黒にする。図9Aに、このスクリーン周囲の照度が低いときのスクリーン31の表示画像を示す。図9Aに示す2値画像は、図8Cの2値画像と比較して切妻屋根121の裏側122や切妻壁123、開き窓124などにも白い部分が多くなり、全体的に白っぽい表示である。
【0066】
さらに遮光がなされて周囲が暗い場合には、従来のプロジェクタ用のスクリーン同様に、白のみの表示としてもよい。このように対応する理由は、周囲の照度が低いことにより、それほど輝度の低くない部分では、スクリーンが白いことによる黒浮きは発生しにくく、ほとんど黒に近い輝度の部分のみに黒浮きが発生するためである。スクリーンが白いことにより、輝度レベルが低い部分でも発色がよくなる効果がある。
【0067】
また周囲の照度が高い、周囲が十分に高い照度の場合には、スクリーン31における黒表示のスレッショルド輝度値を高くする。例えば昼間のリビングルームのような場合には、黒浮きが発生しやすい。そこで、投影映像20が投影される部分の、映像の部分的な輝度レベルがそれほど低くない(例えば0−255の40以下)部分に関してスクリーン31の表示状態を黒にする。明るさに応じて輝度レベルのスレッショルド値を50,60と調節してもよい。図9Bに、スクリーン周囲の照度が高いときのスクリーン31の表示画像を示す。図9Aの画像と比較して、切妻屋根121の裏側122や切妻壁123、開き窓124などにも黒い部分が多く、全体的に黒っぽい表示である。これにより、輝度の低い黒に近い部分でも、黒浮きを発生させず、結果、投影映像20の黒を黒と表現することによりコントラスト感を得て、明るい周囲状況でも良好な画質を実現する効果がある。
【0068】
なお、今までの説明においては、電子ペーパーディスプレイを用いたスクリーン31の表示は白と黒の2値にて説明を行ったが、実際の表示における変形例としては、電子ペーパーディスプレイの中間階調を用いて表示するようにしてもよい。図10Aに、投影映像20の輝度に合わせて同期的に、4値で表示した場合の表示状態を示す。図8Cの画像と比較して、細かい諧調表現のプロジェクタ用映像が得られる。
【0069】
さらには、電子ペーパーディスプレイを用いたスクリーン31でより細かい階調の表現ができれば、スクリーン31での表示状態をさらに連続的に滑らかに変化させることも可能である。図10Bに、電子ペーパーディスプレイ上において16階調以上で表示した場合の表示状態を示す。図10Aの画像と比較して、低輝度部分である切妻屋根121の裏側122や切妻壁123、開き窓124なども多階調で表示され、より繊細なモノクロ画像のようなプロジェクタ用映像が得られるので、スクリーン31に投影される映像を高コントラストに表示することができる。この場合には、スクリーン31と投影映像20のγ値を同期して、もしくは独立にコントロールすることにより、どのような輝度においてもコントラスト感の高い投影映像を得ることができる。
【0070】
また、電子ペーパーディスプレイを用いたスクリーン31の解像度は、投射型表示装置1から投影される投影映像20と同一でなくてもよく、例えば、縦、横ともその2分の1のものが考えられる。この場合に投影映像20の映像が縦1080画素、横1920画素で形成される場合には、スクリーン31の解像度は縦540、横960画素となる。これによりスクリーンを駆動する回路規模が少なくなり、その分コストの削減が容易になる。また、投影映像20自体は高い解像度を持つために、感度の高い高輝度の映像部分では高解像度が得られ、結果合成されて観察者の目に入る映像の解像感も得られる。
【0071】
また、スクリーン31の解像度と、投影映像20の解像度の比は、正しく整数比で無くてもよく、その場合はスケーリング処理がなされて対応する映像画素部分が合致するように投影されることとなる。
【0072】
また、スクリーン31の大きさは投射型表示装置1から投影される投影映像20より大きければ問題はなく、スクリーン31の一部に投影映像20を投影することも考えられる。この場合、スクリーン31の一部に投影映像20が投影されている以外の場所には、本来の電子ペーパーディスプレイの機能として、例えば白黒2値の文字や図形などを表示するようにするとよい。このようにすることにより、自発光を行うディスプレイではない電子ペーパーディスプレイでは本来周囲の明るさが必要であるが、その状態でも良好な電子ペーパーディスプレイと、投射型表示装置1(フロントプロジェクタ)を用いた映像の高コントラストで高品位な映像を両立することが可能になる。
【0073】
以上説明した構成によれば、本発明のフロントプロジェクタディスプレイでは、これによりプロジェクタによって映像が投影されるスクリーンの周囲の明るさが明るい場合でも、映像の黒に近い輝度部分のみを黒くすることにより、黒浮きの問題を回避することができる。それにより、投射型表示装置によって投影される映像のコントラストを改善し、暗い部分の映像に含まれる階調、映像の差異を表現でき、特に周囲の照度が高い環境でも映像全体の品質が制限されることなく表示することが可能となる。
【0074】
また、明るい場所での電子ペーパーディスプレイでの表示と、投射型表示装置を用いた映像の高コントラストで高品位な映像を両立することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係るフロントプロジェクタシステムの構成を示す図である。
【図2】光学エンジンの例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る電子ペーパーディスプレイの構造を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るスクリーンシステムの構成を示す図である。
【図5】アクティブマトリックス方式の等価回路を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る1画面分のスクリーン用映像信号生成処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態に係るスクリーン用映像信号生成処理の説明に供する図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るスクリーン用映像信号によってスクリーンに表示される映像の画を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るスクリーン周囲照度によるスクリーンの表示状態を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る電子ペーパーディスプレイへの多値グレイスケールでの表示例を示す図である。
【図11】一般的なフロントプロジェクタシステムの構成を示す図である。
【図12】黒浮きの説明に供する図である。
【符号の説明】
【0076】
1…投射型表示装置、10…映像処理装置、11…映像入力端子、12…光学エンジン、13…投射レンズ、14…スクリーン用出力端子、20…投影映像、21…映像信号処理回路、22…内部バス、23…SDRAM、24…フラッシュROM、25…制御部、30…スクリーンシステム、31…スクリーン、31a…所定領域、32,35…プラスチックフィルム、33…インク層、34…ドライバ層、37…タイミングコントローラ、38…入力部、39…スクリーン駆動回路、91,92,93,94…照度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーンに投射型表示装置から投射された映像を投影する投射型表示システムにおいて、
前記投射型表示装置は、所定の映像信号から投射用映像信号とスクリーン用映像信号を生成する映像処理部と、
予め設定された輝度の閾値と前記所定の映像信号の各画素の輝度値を比較し、前記映像処理部に対し、比較の結果前記閾値より低い輝度値を持つ画素を黒とし、前記閾値より高い輝度値を持つ画素を白として前記スクリーン用映像信号を生成するよう指示する制御部と、
前記投射用映像信号を光学像に変換し、該光学像を前記スクリーンに投射する光学像生成部とを備え、
前記スクリーンは、前記投射型表示装置から供給されるスクリーン用映像信号に基づいて白黒の映像表示を行う表示部を備え、
前記スクリーン用映像信号に基づいて前記スクリーン上に表示されている映像に、前記投射型表示装置から前記投射用映像信号に基づく光学像を重ねて投影する
ことを特徴とする投射型表示システム。
【請求項2】
前記輝度の閾値を、利用者が任意に設定できるようにした
ことを特徴とする請求項1に記載の投射型表示システム。
【請求項3】
前記スクリーンの周囲の照度を測定し、前記輝度の閾値を、該測定した照度に応じて設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の投射型表示システム。
【請求項4】
前記スクリーンにおける前記スクリーン用映像信号に基づく表示を多値グレイスケールで行う
ことを特徴とする請求項1に記載の投射型表示システム。
【請求項5】
前記スクリーンは、電子ペーパーディスプレイを使用して形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の投射型表示システム。
【請求項6】
スクリーンに映像を投射して表示する投射型表示装置において、
所定の映像信号から投射用映像信号とスクリーン用映像信号を生成する映像処理部と、
予め設定された輝度の閾値と前記所定の映像信号の各画素の輝度値を比較し、前記映像処理部に対し、比較の結果前記閾値より低い輝度値を持つ画素を黒とし、前記閾値より高い輝度値を持つ画素を白として前記スクリーン用映像信号を生成するよう指示する制御部と、
前記投射用映像信号を光学像に変換し、該光学像を前記スクリーンに投射する光学像生成部とを備え、
前記スクリーンに前記スクリーン用映像信号を出力し、該スクリーン用映像信号に基づいて前記スクリーン上に表示されている映像に、前記投射用映像信号に基づく光学像を重ねて投影する
ことを特徴とする投射型表示装置。
【請求項7】
投射型表示装置から投射された映像を投影するスクリーンにおいて、
前記投射型表示装置から供給されるスクリーン用映像信号の白黒映像を表示する表示部と
前記投射型表示装置から供給される前記スクリーン用映像信号に基づいて前記表示部に駆動信号を出力するスクリーン駆動回路部とを備え、
前記表示部が前記スクリーン用映像信号に基づいて前記スクリーン上に表示した映像に、前記投射型表示装置から投射用映像信号に基づく光学像が重ねて投影される
ことを特徴とするスクリーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−32925(P2008−32925A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205066(P2006−205066)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】