説明

抗ポリヒスチジンタグ抗体及びそれを用いた非特異反応の回避方法

【課題】免疫測定法において、測定に伴う非特異反応を簡便かつ効果的に抑制し、より効果的な非特異反応抑制効果が得られる非特異反応回避剤を提供し、非特異反応の抑制された測定方法を提供する。
【解決手段】免疫測定法を用いてアナライトを定量する方法において、例えばヒト抗マウス抗体(HAMA)のような異好性抗体による非特異的な干渉による影響を除去する非特異反応回避剤であって、非特異因子活性阻害能を有しアナライトには反応しない抗体、特にポリヒスチジンタグに対する抗体を反応系中に共存させることを特徴とする非特異反応回避方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫測定法においてアナライトを正確に検出、定量するための障害となるヒト抗マウス抗体(HAMA)のような異好性抗体による非特異反応を抑制するための非特異反応回避方法及び非特異反応回避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、血液や尿中等の検体に含まれるアナライト(測定対象)の測定にマウスモノクローナル抗体を用いた免疫測定方法が用いられている。しかし、抗原抗体反応の特異的な結合に基づいた免疫測定法においては、本来の目的とする特異的な抗原抗体反応以外の非特異反応により、測定値の信頼性が損なわれてしまうことがしばしば認められている。
【0003】
この現象は、検体中に含まれる抗原以外の成分が標識抗体と反応することによって引き起こされる。試験される検体中に含まれるヒト抗マウス抗体(以下、HAMAという)のような異好性抗体により、アナライトが存在しないにもかかわらず、例えば、通常のサンドイッチELISA測定において、固相に結合した抗体と標識された検出される抗体との非特異的架橋が起こり、結果として偽陽性シグナルが生じる。検査の自動化が進み迅速な測定が可能になった反面、HAMAのような偽反応が増え、この非特異的反応が見逃されることが多くなっている。このようにイムノアッセイ系において非特異反応が認められ、目的アナライトを含まない検体に対しても反応することにより、本来陰性である検体が陽性と判定されることがあった(非特許文献1、非特許文献2参照。)。
【0004】
ヒト由来の検体中にHAMAが存在する理由の1つには、治療としてマウスモノクローナル抗体を患者に大量に投与されるために生じることが挙げられる。マウス抗体の生体内への投与はHAMAを産生し、異種抗原に対する免疫応答の惹起が問題となっている。近年の抗体医薬品ではマウス由来の抗原結合部位とヒト由来の定常領域を融合させたキメラ抗体や、ヒト化抗体作製技術の進歩により生体内でのHAMAの出現は減少しているもののHAMAを持つ患者は増え続けており、その問題を完全に無視することはできない。
【0005】
測定に使用するモノクローナル抗体とHAMAの結合を防がなければ、不正確な測定結果により、診断ミス等の重大な問題を生じる可能性がある。優れた特異性を持つモノクローナル抗体を実際の測定系に使用しても、その性能を十分生かすことができないことが大きな問題となっている(特許文献1参照)。
【0006】
上述した非特異反応を回避した正しい測定値を得るために、従来色々な試みが行われてきた。
例えば、測定すべき検体を加熱や適当な試薬により前処理をしたり、各種動物血清、免疫グロブリン画分、アルブミン、スキムミルク、界面活性剤等を測定系に添加したりすることが一般的に行われてきた。また、FabやF(ab’)2 等の抗体断片を特異反応に使用することで、抗体のFc部位に起因する非特異反応を回避することも行われている(特許文献2、特許文献3参照)。
また、測定系に使用するモノクローナル抗体とは反応特異性が異なりかつ測定系に係わる反応を阻害しないモノクローナル抗体を測定系に添加することも行われている。例えば、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体から誘導された凝集体の使用が提案されている。この凝集体は該抗体のホモポリマーであっても、抗体断片あるいはアルブミンのような蛋白質やデキストランのような多糖類の巨大分子とのヘテロポリマーであってもよい。
【0007】
また、非特異反応の抑制のために、特異反応に使用するモノクローナル抗体を加熱処理などすることにより調製した、本来の抗体の特異活性は失っているが、非特異反応抑制活性は保持しているモノクローナル抗体由来物質が開示されている(特許文献4参照)。
しかし、これらの方法は非特異反応の抑制にある程度の効果はあるものの、一部の検体ではその効果はまだ不十分であるとともに、目的とする抗原抗体反応を一部阻害することもあり、実用上必ずしも満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2109086号公報
【特許文献2】特開昭54−119292号公報
【特許文献3】特開平04−221762号公報
【特許文献4】特許第2561134号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Clin.Chem. 34/1,261−264(1988)
【非特許文献2】Clin.Chem. 35/1,146−151(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、免疫測定法において、検体中の微量成分の正確な検出ならびに定量を実現するために測定に伴う非特異反応を簡便かつ効果的に抑制することに優れた非特異反応回避方法とその非特異反応回避剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をおこなったところ、6から18個の連続したポリヒスチジンタグに対する抗体もしくはその断片タンパク質にHAMAによる非特異反応抑制効果があることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
6から18個の連続したヒスチジン残基からなるヒスチジンタグは、最もよく利用されるキャリアータンパク質の1つであり、目的ポリペプチドのN末端もしくはC末端に融合させて発現させる。ヒスチジンがニッケルイオン等の遷移金属に特異的に配位して結合する性質を使用して、ヒスチジンタグ融合ポリペプチドを大腸菌、酵母、動物細胞等で発現させた培養上清または破砕液から、ニッケル−キレートクロマトグラフィーカラムを用いて精製が可能であることは公知である。
また、上記ヒスチジン融合ポリペプチドの発現を迅速かつ特異的に検出、定量すべく、ヒスチジンタグ部分に特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を使用してウェスタンブロット、ELISA等で測定されている。抗ポリヒスチジンタグ抗体遺伝子の塩基配列は明らかになっていない。
【0013】
本発明者らは、抗ポリヒスチジンタグ抗体を産生するハイブリドーマ細胞を調製し、本細胞から抗体遺伝子を取得することができた。さらに驚くべきことに、本抗体についてHAMAによる非特異反応抑制効果の評価を行ったところ、抗原の免疫測定法を用いて定量する方法において、非特異的な干渉による影響を抗ポリヒスチジンタグ抗体が著しく除去するという、当業者が予想し得る以上の有利な非特異反応回避効果が得られた。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために以下の発明を包含する。
すなわち本発明は、ポリヒスチジンタグに対する結合性を有するタンパク質であって、具体的には抗体もしくは抗体の断片を構成するタンパク質である。その一例として、重鎖の可変領域をコードするDNAである配列番号1と、軽鎖の可変領域をコードするDNAである配列番号2に記載の塩基配列を含む遺伝子によりコードされるタンパク質断片、これらのタンパク質断片を含んでなる抗体分子、あるいはこれらのタンパク質断片を含んでなる抗体断片であることを特徴とする。抗体分子の場合、そのサブクラスは特に限定されないが、IgG1に分類される抗体であることが好ましい。抗体断片の場合は、具体的にはFab、F(ab’)2 、scFvなどが挙げられる。また、上記ポリヒスチジンタグは6から18個の連続したヒスチジン残基が挙げられる。
【0015】
また、本発明の別な態様としては、免疫測定法を用いてアナライトを定量する方法において、上述したタンパク質を非特異的な干渉による影響を除去することができる非特異反応回避剤として用いる方法であって、非特異因子活性阻害能を有しアナライトには反応しない、例えば上述したようなポリヒスチジンタグに対する抗体を反応系中に共存させることを特徴とする非特異反応回避方法である。
【0016】
すなわち、本発明は、以下のような構成からなる。
[項1]配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド。
[項2]項1に記載のポリペプチドを含む抗体。
[項3]項1に記載のポリペプチドを含む抗体断片。
[項4]抗体断片がFab、F(ab’)2又はscFvである項3に記載の抗体断片。
[項5]免疫測定法を用いてアナライトを定量する方法において、非特異的な干渉による影響を除去する非特異反応回避方法であって、項1〜4のいずれかに記載の物質を反応系中に共存させる工程を含む非特異反応回避方法。
[項6]免疫測定法がサンドイッチ法による測定である項5に記載の非特異反応回避方法。
[項7]項1〜4のいずれかに記載の物質を含む非特異反応回避剤。
[項8]項7に記載の非特異反応回避剤を含む免疫測定キット。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、免疫測定法において異好性抗体による非特異反応を排除できるため、特異性の向上および偽陽性の低減が達成され、臨床検査などの分野において信頼性の高い免疫測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】CHO−K1細胞に組換えて取得した抗His−Tag抗体の抗原との反応性について確認した結果を示す図である。
【図2】抗His−Tag抗体のHAMA回避能について測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0020】
本発明の実施形態の一つは、配列番号1および2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド(これらのポリペプチドはそれぞれ配列番号3、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する。)、もしくは、それらを含む抗体分子または抗体断片などの物質である。
これらの物質は、ポリヒスチジンタグに対する結合性を有し、具体的には抗体もしくは抗体の断片を構成する。抗原のポリヒスチジンタグは、6から18個の連続したヒスチジン残基からなるタグが例示される。好ましくは6個の連続したヒスチジン残基からなるものであり、他のタンパク質のN末端及び/又はC末端に融合されていてもよい。
【0021】
配列番号1の塩基配列は、ポリヒスチジンに対する抗体の重鎖の可変領域をコードするDNAである。また、配列番号2の塩基配列は、ポリヒスチジンに対する抗体の軽鎖の可変領域をコードするDNAである。
【0022】
配列番号1および2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチドを含む抗体分子は、そのサブクラスは特に限定されないが、IgG1に分類される抗体であることが好ましい。
配列番号1および2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチドを含む抗体断片は、具体的にはFab、F(ab’)2 、scFvなどが挙げられる。
【0023】
本発明のポリペプチド、抗体もしくは抗体の断片等は、当業者に公知の方法により生産され、また例えば遺伝子操作によって組換え生産された抗体もしくは抗体の断片であってもよく、ポリヒスチジンタグに対する抗体遺伝子を発現ベクターに連結し、哺乳動物細胞にトランスフェクションして抗体を取得する場合も含まれる。また、抗体遺伝子は抗体フラグメント(Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)や各単鎖抗体、あるいは一本鎖抗体(scFv)であってもよい。重鎖および軽鎖を別々に含む2つのベクターを用いてもよいし、また抗体の重鎖と軽鎖がタンデムにつながった1つのベクターを用いてもよい。
FabおよびF(ab’)は、抗体全長を発現させた後、ペプシン,トリプシン又はパパイン等のタンパク質分解酵素で分解することによって得てもよい。
【0024】
トランスフェクションする哺乳動物細胞(宿主細胞)は特に限定されるものではなく、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(例えば、CHO−K1細胞、入手先:例えば、ATCC CCL−61、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0285、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0403等)、ヒト胎児腎臓細胞(例えばHEK293細胞、入手先:例えば、ATCC CRL−1573、理化学研究所バイオリソースセンター RCB1637、理化学研究所バイオリソースセンター RCB2202等)、アフリカミドリザル腎臓細胞(例えばCOS−7細胞、入手先:例えば、ATCC CRL−1651、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0539等)、ヒト子宮頸部癌細胞(例えば、HeLa細胞、入手先:例えば、ATCC CCL−2、ATCC CCL−2.2、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0007、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0191)、マウスミエローマ細胞(例えばNS0細胞、入手先:例えば、理化学研究所バイオリソースセンター RCB0213)などの各種哺乳動物細胞が挙げられる。
【0025】
本発明の別の実施形態は、免疫測定法を用いてアナライトを定量する方法において、非特異的な干渉による影響を除去する非特異反応回避方法であって、配列番号1および2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド、もしくは、それらを含む抗体分子または抗体断片などの物質を反応系中に共存させる工程を含む非特異反応回避方法である。
【0026】
免疫測定法とは、抗原抗体間の結合の高い特異性を利用して、目的とするアナライトを測定する方法である。この免疫測定法の測定感度を飛躍的に高めるために放射性化合物、蛍光物質、酵素、金属等の標識法を組み合わせ、微量の物質の測定が可能となっている。標識法に従いそれぞれ放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、酵素免疫測定法(EIA)等と呼ばれている。
【0027】
上述した物質の非特異反応回避剤としての使用方法は、特に限定されるものではないが、免疫測定法において行う特異的な免疫反応工程の前に予め適当な緩衝液中で非特異反応回避剤と検体を同一の免疫反応中で接触させ、適当な時間(例えば、1分〜2時間程度)インキュベートする方法がある。
この間に、検体中の非特異反応を起こす物質(非特異反応物質)は非特異反応回避剤と反応し、特異的免疫反応工程での非特異反応活性は失われる。特異的免疫反応工程にはインキュベートを完了した検体と非特異反応回避剤の混合液をそのまま用いればよい。
【0028】
さらに簡便な本発明の非特異反応回避剤としての使用方法は、非特異反応回避剤共存下に特異的免疫反応を行う方法である。
例えば、最も一般的に用いられる正サンドイッチ法の場合、固相化抗体と検体中の抗原とを反応させる第一免疫反応工程の緩衝液に非特異反応回避剤を添加するだけで、それ以外は何ら特別な工程を必要とせずに所望の効果を得ることができる。
さらに、抗体の特異反応部位を介して固定化された抗原と標識抗体とを反応させる第二免疫反応工程の緩衝液にも添加すれば、第一免疫反応工程で完全に吸収されなかった非特異反応物質も吸収されるため、測定の信頼性をより一層高めることができる。
なお、通常は第一免疫反応工程の緩衝液に添加されていれば十分な効果が得られる。
【0029】
また、1段階サンドイッチ法においても免疫反応工程の緩衝液に非特異反応回避剤を添加して反応させることにより、非特異反応は回避される。
本発明の非特異反応回避剤はサブクラスの異なる抗体を少なくとも2種以上共存させることによって非特異反応を起こす物質との結合力を高めることもできる。
また、過剰量を添加しておけば非特異反応を起こす物質は優先的に非特異反応回避剤と反応するので非特異反応は回避される。
【0030】
本発明の別の実施形態は、配列番号1および2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド、もしくは、それらを含む抗体分子または抗体断片などの物質を含む非特異反応回避剤である。
また、該非特異反応回避剤を含む免疫測定キットである。
【0031】
本発明の非特異反応回避剤は、免疫反応工程の前に予め適当な緩衝液に添加して使用されるか、あるいは免疫反応工程の緩衝液に添加して使用される。
該非特異反応回避剤の非特異反応物質と反応させる系における濃度は0.1〜500μg/mlであることが好ましく、さらに好ましくは1〜50μg/mlである。使用される緩衝液は公知の通常免疫反応に使われる適当な緩衝液であってよい。また、緩衝液中に通常添加される助剤、たとえば反応促進剤、洗浄剤または安定化剤と共に使用することができる。さらに別の非特異反応回避剤と共に混合して使用することもできる。
【0032】
本発明の非特異反応回避剤は単独でキットの構成試薬にしてもよいし、他の構成試薬の成分としてもよい。しかし、測定操作を増やすことなしに非特異反応抑制効果が得られることを考慮すれば、構成試薬の一成分として添加するのが好ましい。
本発明の非特異反応回避剤は、好ましくは検体と固相化抗体を反応する緩衝液や標識抗体液に添加してキットの構成試薬とする。非特異反応回避剤の懸濁用媒体としては、被測定物質の種類、使用される測定原理、測定方法に応じた各種緩衝液が用いられる。緩衝液としては、測定物質を失活させることがなく、かつ、抗原抗体反応を阻害しないようなイオン濃度やpHを有するものであればよく、例えば、リン酸塩緩衝液(10〜100mM;pH6〜8)またはトリス−塩酸(50mM/NaCl 100mM;pH7〜8)などが使用できる。
【0033】
反応促進剤としては、例えばデキストランサルフェートまたはポリエチレングリコールなど、洗浄剤としては、例えばトリトンX−100、Tween20などを、また安定化剤としてアルブミン、スキムミルク、ゼラチンなどの蛋白質やアジ化ナトリウム、チメロサール、ケーソンCGなどの防腐剤を挙げることができる。
標識抗体は、代表的には、西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼなどの酵素、放射性物質、蛍光物質等の何らかの手段により定量可能なシグナルを出す物質を結合した抗体を用いることができる。これらの構成試薬が凍結乾燥品の場合には復元液に添加することもできる。
【0034】
本発明の非特異反応回避剤を用いる免疫測定法において使用される検体としては、例えば、血清、血漿、髄液、唾液等の体液や尿、糞便抽出液等が挙げられる。
又、測定対象となりうるアナライトとしては特に制約されないが、臨床検査に利用される物質、例えば体液中に含まれる生体内物質や疾患マーカーである、ヒトイムノグロブリン、ヒトアルブミン、ヒトフィブリノーゲン、β−ミクログロブリン、フェリチン、C反応性蛋白質、α−フェトプロテイン、癌胎児性抗原、CA19−9、塩基性フェトプロティン、組織ポリペプチド抗原、免疫抑制酸性蛋白質、CA−50、膵癌胎児性抗原、シアリルLe−i抗原、SCC抗原、CA15−3、CA72−4、シアリルTn抗原、CA125、NCC−ST−439、γ−セミノプロティン、前立腺特異抗原、甲状腺刺激ホルモン、ニューロン特異エノラーゼ、肝炎ウイルス抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ヒト胎盤性ラクトーゲン、インスリンなどが挙げられる。
免疫測定法には放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等が挙げられ、さらには、化学発光法の応用や、ラテックス凝集法の応用等も含まれる。好ましくはRIA,EIA等による測定キットの大部分で採用されているサンドイッチ法であり、正サンドイッチ法、1段階サンドイッチ法、固相サンドイッチ法などが挙げられる。より好ましくは、固相サンドイッチ法が挙げられる。サンドイッチ法とは、固相に結合させた抗原特異的な非標識抗体(一次抗体)を抗原と反応させ、次いで標識した二次抗体を抗原と一次抗体の複合体に結合させて抗原を検出する方法であり、一般に高い抗原特異性が利点である。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
6×ヒスチジンタグ(連続した6個のヒスチジン残基からなるヒスチジンタグ)融合サルコシン分解酵素を抗原として、Balb/cAマウスに免疫し、マウスB細胞を取り出してマウスミエローマ細胞SP2/0と細胞融合させた後、6×ヒスチジンタグに特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞をELISA法でスクリーニングした。なお、初回免疫にはフロイント完全アジュバント(DIFCO製、品番:0638−60−7)を、2回目以降の追加免疫にはフロイント不完全アジュバント(DIFCO製、品番:0639−60−6)を使用した。得られたハイブリドーマ細胞をCD Hybridoma Medium(GIBCO製、品番:11279−023)で培養し、1×10cellsからRNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN製、品番:74134)を用いてトータルRNAを抽出し、Poly(A)Purist mRNA Purification Kits(Ambion製、品番:AM1916)でメッセンジャーRNAを抽出した。さらに、ReverTra Ace−α−(登録商標;東洋紡績製、品番:FSK−101)を使用して1本鎖cDNAを合成した。
Mouse Ig−Primer Set(Novagen製、品番:69831−3)を使用して重鎖と軽鎖をKOD−Plus−(東洋紡績製、品番:KOD−201)でPCR増幅した後、CMVプロモーターをEF−1αプロモーターに変更したpCI−neoプラスミド(プロメガ製、品番:E1841)の制限酵素XbaI−NotIサイトにそれぞれクローニングしてシーケンスを確認した。重鎖の可変領域をコードするDNAの塩基配列を配列番号1に、軽鎖の可変領域をコードするDNAの塩基配列を配列番号2に、それぞれ示す。これらのポリペプチドはそれぞれ配列番号3、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する。アミノ酸配列への変換は配列解析ソフトであるGenetyx(Genetyx社)を用いて行った。これにより本抗体の遺伝子配列が同定できた。
【実施例2】
【0037】
実施例1で作製された発現ベクターをCHO−K1細胞(理化学研究所バイオリソースセンター RCB0285)にLipofectamine LTX(Invitrogen製、品番:15338−100)を使用してトランスフェクションした。24時間培養後、培養上清を回収し、6×ヒスチジンタグ抗原との反応性をELISA測定で確認した。
詳細には、10μg/ml濃度の抗原を固相化したELISAプレートに、それぞれ10ng/ml、50ng/ml、100ng/mlに希釈した培養上清(上清中の抗体濃度はマウス抗体を用いたサンドイッチELISA法で測定した。)50μlを添加し35℃で2時間インキュベートした。次に、PBS−T(0.1%Tween20含有10mMリン酸緩衝生理食塩水)で3回洗浄し、4000倍希釈した抗マウス抗体−HRP(DAKO製)を50μl添加して35℃で1時間インキュベートした後、さらにPBS−Tで3回洗浄し、TMB+(3,3’,5,5’−tetramethylbenzidine;DAKO製)で5分間反応させた。50μlの1N 硫酸を加えて反応停止後、プレートリーダー(製品名;SPECTRA、TECAN Austria社製)(主波長450nm、副波長620nm)で吸光度を測定した。なお、標準品としてポリヒスチジンタグに特異的な抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞から得られた抗体を用いた。
結果を図1、表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
その結果、ハイブリドーマ細胞由来の抗体と同様に6×ヒスチジンタグ抗原との反応性があることが確認でき、取得した抗体遺伝子が目的とする抗体遺伝子であることが証明された。
【実施例3】
【0040】
抗ポリヒスチジンタグ抗体発現ベクターをCHO−K1細胞(理化学研究所バイオリソースセンター RCB0285)にLipofectamine LTX(Invitrogen製、品番:15338−100)を使用してトランスフェクションして1日培養後、400μg/mlのG418二硫酸塩溶液(ナカライテスク製、品番:16513−84)入りハムF−12培地(ナカライテスク製、品番:17458−65)で2週間の薬剤選択培養を実施して得られた細胞集団を限界希釈法でクローニングすることにより、ポリヒスチジンタグに特異的な抗体を産生する単一な組換えCHO−K1細胞を構築した。本細胞を培養しプロテインAカラムであるHiTrap MabSelect SuRe(GE Healthcare製、品番:11−0034−93)で精製された抗体を使用して、HAMAによる影響を抑制できるかどうか正サンドイッチELISA法で確認した。
MAK33−IgG1(Roche製、品番:1200941)、マウスIgG(CHEMICON製、品番:PP54)、Heterophilic Blocking Reagent1(以下、HBRという)(SCANTIBODIES LABORATORY,INC.製、品番:3KC534−075)、ポリヒスチジンタグに特異的な抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞から得られた抗体および組換えCHO−K1細胞から得られた抗体の5種類を用いて、HAMA干渉除去効果測定を行った。なお、HAMA血清にはHAMA血清タイプ1(Roche製、品番:1767275)を使用した。
より詳細には、50mM 炭酸バッファー(pH9.6)で2000倍希釈したAnti−hCEA抗体(Medix Biochemica製)を、50μl/wellを96穴ELISAプレート(住友ベークライト製、品番:MS−8896F)に添加し固相化した。また、抗ポリヒスチジンタグ抗体濃度が0.5μg/mlおよび1μg/mlになるよう、0.1% BSA+PBS溶液で希釈したHAMA抑制のための抗体溶液を作製した。次いで、その抗体溶液50μlにHAMA血清50μlを混合し、それぞれ50μl/wellずつ前記96穴ELISAプレートに分注し、室温で1時間インキュベートした。その後、PBS−Tで3回洗浄し水分を十分に切った後、ペルオキシダーゼで標識したAnti−hCEA抗体を0.1% BSA+PBS溶液で4000倍に希釈して50μl/well加え、室温で1時間インキュベートした。PBS−Tで4回洗浄し、水分を切った後、TMB+発色液(DAKO製)を50μl/well分注し、室温で5分間反応させ、1N 硫酸で反応を止めた。プレートリーダー(製品名:SPECTRA、TECAN Austria社製)(主波長;450nm、副波長;620nm)にて測定しHAMA回避率を算出した。
結果を図2及び表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
ハイブリドーマ由来と組換えCHO―K1細胞由来の抗ポリヒスチジンタグ抗体ではほぼ同程度のHAMA回避効果が確認できた。通常の抗マウス抗体であるマウスIgG抗体(CHEMICON製、品番:PP54)では1μg/mlでのHAMA回避効果が61%であるのに対し、組換えCHO―K1細胞由来の抗ポリヒスチジンタグ抗体のHAMA回避率は72%と高く、市販のHAMA回避剤MAK33−IgG1(Roche製、品番:1200941)の69%やHBR(SCANTIBODIES LABORATORY,INC.製、品番:3KC534−075)の68%と比較しても同等以上の回避効果があるという優れた結果が得られた。抗ポリヒスチジンタグ抗体のHAMA回避効果は極めて有効であることが確認できた。評価に用いた抗体は同じマウス抗体であり定常領域は同じであると考えられることから、抗原との反応性に寄与しているCDR領域(complementarity determining region)を含めた可変領域の違いがHAMA回避効果に影響していることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、免疫測定法において非特異反応を排除できるため、非特異因子を含む生体由来の試料についても該非特異因子により生じる非特異反応を抑制して、抗原を正確に測定することができ、偽陽性の削減および特異性の向上が達成され、より信頼性の高い臨床検査が可能となることから産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列によりコードされるポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドを含む抗体。
【請求項3】
請求項1に記載のポリペプチドを含む抗体断片。
【請求項4】
抗体断片がFab、F(ab’)2又はscFvである請求項3に記載の抗体断片。
【請求項5】
免疫測定法を用いてアナライトを定量する方法において、非特異的な干渉による影響を除去する非特異反応回避方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の物質を反応系中に共存させる工程を含む非特異反応回避方法。
【請求項6】
免疫測定法がサンドイッチ法による測定である請求項5に記載の非特異反応回避方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の物質を含む非特異反応回避剤。
【請求項8】
請求項7に記載の非特異反応回避剤を含む免疫測定キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−16773(P2011−16773A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163865(P2009−163865)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】