説明

抗体−ルシフェリルペプチド複合体、これを用いた被検物質の測定方法及び被検物質の測定試薬並びに測定試薬の調製方法

【課題】簡便に被検物質を測定でき、かつ適用範囲の広い被検物質の測定方法を提供する。
【解決手段】被検物質に特異的に結合可能な抗体とルシフェリルペプチド化合物とが結合した抗体−ルシフェリルペプチド複合体を用いる。ルシフェリルペプチド化合物は、ペプチドがホタルD−ルシフェリンまたはD−ルシフェリン誘導体と結合した縮合化合物である。抗体−ルシフェリルペプチド複合体と被検物質を含む検体とを溶液中に共存させて、被検物質とルシフェリルペプチドの置換によってルシフェリルペプチドを解離させた後、解離したルシフェリルペプチドから切断したルシフェリンを、ルシフェラーゼ反応を用いて測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルシフェリン又はルシフェリン誘導体にペプチドが結合したルシフェリルペプチド化合物と抗体との複合体、及び、前記複合体を利用し、発光分析によって、前記抗体が特異的に結合し得る物質を被検物質として測定することが可能な被検物質の測定方法及び被検物質の測定試薬並びに測定試薬の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光として有名なホタルの発光は、ホタルルシフェリン−ホタルルシフェラーゼ発光系(ホタル生物発光系)の反応によるものであり、発光基質であるホタルルシフェリンが、ATP及びマグネシウムイオンの存在下でホタルルシフェラーゼによって発光体であるオキシルシフェリンに変換されることによって発光する。上記のホタル生物発光系は、発光収率が非常に高く、高感度に測定できる可能性があることから、ATP検出を利用した衛生検査や、生体内モニタリングに既に応用されており、今後、更なる応用検討が待たれている。
【0003】
生物発光系を利用した測定に関する従来の技術としては、発光反応に必要な要素(発光基質、ATP、発光酵素等)の何れかが不足する系を作り、標的とする現象が生じる際に前述の不足要素が補われて発光するように構成したシステムがあり、生じた発光によって標的現象をモニタリングすることができる。具体的には、例えば、ガラクトシダーゼ活性を標的として、ルシフェリンのフェノール性水酸基にガラクトースを結合させた化合物を用いた測定システムが市販されている。ガラクトシダーゼがこの化合物に作用すると、ガラクトースとルシフェリンの間の結合が切断されてルシフェリンが遊離し、遊離したルシフェリンがルシフェラーゼによって発光することにより、標的とするガラクトシダーゼ活性の存在が検出・可視化される(例えば、特許文献1参照)。標的酵素はガラクトシダーゼに限らず、標的とする酵素の作用に応じて適切な物質を結合させた測定用の化合物を調製し、それを用いることによって、別の酵素活性を検出することもできる。
【0004】
また、抗原、ハプテン又は抗体を定量する方法としては、これらとルシフェリン誘導体からルシフェリンを遊離させる酵素、例えばアミラーゼ、アミダーゼ等を結合させて抗原−、ハプテン−、又は抗体−複合体を構成し、この複合体にルシフェリン誘導体が作用したときに上記酵素によって遊離するルシフェリンを、測定試薬に含まれるルシフェラーゼを用いて発光させることによって、上述した酵素を検出(つまり、リガンドを検出)することが記載されている(例えば、特許文献2参照)。この方法で用いられるルシフェリン誘導体として、ルシフェリンのフェノール性水酸基又はカルボキシル基がアミノ酸に結合した発光基質結合アミノ酸化合物が幾つか提示されている。
【0005】
診断の分野では、近年、微量物質の測定法として種々の方法が開発され、高感度測定法として抗原抗体反応を利用した免疫分析/測定方法が幅広く利用されている。従来から生化学的検査などで広く用いられている測定方法として、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)が挙げられ、タンパク質の定量形態によって、直接吸着法、サンドイッチ法、競合法等に区分されるが、特にサンドイッチ法は広く利用されている。
【0006】
サンドイッチ法は、あらかじめプレート等に被検物質に対する抗体を固定し、この固相化抗体に被検物質である抗原を補足させ、次いで、これを標識抗体(検出抗体)と反応させて当該標識抗体と結合した抗原を検出する方法である。この方法は、被検物質に対する反応特異性を利用した方法であるため、一般的に高感度である。しかし、プレートへの試料の添加と洗浄とを繰り返す必要があり、そのための作業が煩雑で時間を要することから、迅速測定への適性が低いという問題がある。
また、サンドイッチ法においては、同一の抗原について、特異的認識部位がそれぞれ異なる2種類の抗体を用意する必要がある。しかも、その2種類の抗体は、測定系に両者を用いた場合に各々が十分に機能できるよう、認識部位の位置等を考慮し、適当な組み合わせの抗体を見出すためのスクリーニングを行うことが必要であるが、標的物質(抗原)によっては、適当な抗体の組み合わせを見出すことは困難な場合がある。また、標的物質の抗体の標識化が困難なために、さらに、その抗体を検出するための2次抗体が必要となる場合もあり、高コスト化の問題も伴う。
サンドイッチ法に適用可能な抗体のセットが見出せない場合等には、競合法による測定方法が選択されることが多い。この方法を用いると、サンドイッチ法で要求されるような抗体のセットが得られない場合でも、被検物質を免疫測定により測定することが可能である。しかし、この方法を行う場合、十分に精度の高い測定結果を得るには、サンプルの希釈や濃縮、洗浄や分離操作などの煩雑な操作が必要となることが多い。
【0007】
一方、洗浄や分離操作を必要としない免疫測定法として、いくつかの方法が開示されている。例えば、近接した2つの蛍光物質間で生じる蛍光エネルギー転移を利用した方法が知られている(例えば、特許文献3、非特許文献1参照)。蛍光エネルギー転移は、一つの蛍光物質が励起されて放出される蛍光が他の蛍光物質を励起して、より長波長の蛍光を生じさせる現象である。この方法では、測定対象物に特異的に結合し得る第1の結合パートナーに、蛍光エネルギー転移を誘起しうる一対の蛍光物質のうちの一方を結合し、第1の結合パートナーに対して親和性を有する第2の結合パートナーとに他方の蛍光物質を結合して各々標識し、次いで、標識された第1の結合パートナーと第2の結合パートナーとの抗原抗体反応を測定対象物によって競合させ、これによって起こる蛍光エネルギー転移量の変化を指標にして測定対象物を測定する方法である。
しかし、この方法は、蛍光を指標として用いるために、蛍光消光物質を含む系には適用できず、信号増幅にも限界がある。さらに、通常的な蛍光光度計等では測定できず、分析装置として特殊で高価な機器を必要とするため、汎用的な方法として用いるのは困難である。
【0008】
また、別の方法として、補体を用いた方法が報告されている(例えば、特許文献4参照)。補体とは、抗原と抗体の複合体が形成されたときに複合体に結合すると活性を有するものである。この方法では、抗原(被検物質)を含む検体を、抗体溶液に加え、次に補体を加えて、先に形成された抗原−抗体複合体と補体とを結合させる。結合した補体の酵素活性を指標として、抗原−抗体複合体の量、すなわち被検物質の量を測定する。
この方法は、1つの抗原について、特異的認識部位がそれぞれ異なる2種類の抗体を用意する必要はなく、1種類用意すればよい。しかし、補体を用いる方法は、抗原−抗体複合体と補体とが結合して補体を活性化できるような抗体構造を有する場合にのみ有用な方法であるので、各種抗体の派生物あるいはリガンド・レセプター反応などの系に幅広く適用することは困難であり、その有用性は限定的なものと言わざるを得ない。
【0009】
酵素で標識された抗原を用いる別の方法として、EMIT(Enzyme Multiplied Immunoassay Technique)と呼ばれる技術が報告されている。これは、予め酵素で標識した抗原に抗体が結合すると、立体障害により酵素の活性が低下する現象を利用する方法で、抗原(被検物質)を含む検体を加えたときに、酵素標識抗原と検体溶液中の抗原とが競合的に抗体と反応し、残存酵素活性に基づいて検体中の抗原濃度を測定できる。
しかし、EMITは、競合的アッセイに限定される点や、抗体等の物質が抗原と結合した場合に酵素の活性が低下するような立体配置で結合している系を構築しない限り十分に正確な測定が行えない点など、検出される物質の種類や反応系に関して狭く限定的であるという問題を有する。
【0010】
EMITとは別の、分離工程を必要としない酵素標識抗体を用いた方法としては、酵素チャネリングイムノアッセイ法が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。これは、1つの酵素の生成物が他の酵素の基質となるような2種類の酵素を用い、2種類の酵素がゲル中で抗原を介して近接したときに発色を呈する反応系を構築することを特徴とする分析方法である。具体的には、第1の酵素の生成物(第1の生成物)が第2の酵素の基質となり、第2の酵素の生成物として色素を生じて視覚的判断を可能にするというものであり、第1の酵素と第2の酵素がゲル中で近接しているときにのみ色素が生じるような反応系を成立させる。そのため、第1の生成物が無制限に第2の酵素と反応するのを抑制する目的で、ゲル中に第2の酵素を固定化し、溶液側に第1の生成物の転換酵素を存在させることによって、反応の場をゲル中と溶液中とに実質的に分離している。
さらに、酵素チャネリングイムノアッセイ法に関して、2種類の酵素がゲル中で近接しない場合に生じる発色反応を抑えるために、スカベンジャー酵素と呼ばれる反応中間物を分解する酵素を使用する方法も開示されている。しかし、この方法は、ゲル中に第2の酵素を固定化させることを必須とし、そのための操作および時間を要する。また、第1の酵素と複合体を形成した抗体が、ゲル中に固定化された抗原と反応するためにも長時間を有するという欠点を有している。こうした分析時間の問題は、非競合的な系、すなわち、抗原と、第1の酵素と複合体を形成した抗体とが同時あるいは順次にゲル中の第2の抗体と反応する必要がある系において、より顕著になると考えられる。また、系内にゲルと溶液とを含むため、分析系において散乱等のノイズが入る可能性が高く、また、自動化に際してはサンプリングが均一でなくなること、通常のノズルでは吸引圧の制御が困難であることなど、実質的に多くの問題点を有している。使用する抗体についても、1つの抗原に対して、特異的認識部位がそれぞれ異なる2種類の抗体を用意する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−332593号公報
【特許文献2】特表昭63−501571号公報
【特許文献3】特開昭60−233555号公報
【特許文献4】特開平6−94710号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Herman等、Fluorescence Microscopy of Living Cells in Culture- Part B, Academic Press, New York, pp 220-245(1989)
【非特許文献2】D.J. Litman等、Analytical Biochemistry 106, 223-229(1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、抗原抗体反応を利用した測定方法においては、抗原に対して特異的認識部位がそれぞれ異なる2種類の抗体を用意する必要がなく、複数の煩雑な洗浄工程等を必要とせず、より簡便に被検物質を測定でき、かつ、適用範囲が広い被検物質の測定方法が望まれている。
本発明は、抗原抗体反応を利用した測定方法における煩雑な洗浄工程を省き、より簡便に被検物質を測定でき、適用範囲が広い被検物質の測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者らは、ホタル(D−)ルシフェリン又はその誘導体とペプチドとが縮合したルシフェリルペプチドを検出用標識ペプチドとして利用することを着想し、抗原抗体反応系への適用について鋭意検討を行った結果、ルシフェリルペプチドと抗体とが置換可能な状態で結合した複合体を用いて、抗体が認識するエピトープのアミノ酸配列を有する被検物質を生物発光によって検出及び測定できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下に関する。
本発明の一態様によれば、抗体−ルシフェリルペプチド複合体は、ホタルD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体がペプチドと縮合したルシフェリルペプチド化合物と、被検物質に特異的に結合可能な抗体との複合体であって、前記ルシフェリルペプチド化合物のペプチド部分は、前記被検物質によって前記ルシフェリルペプチド化合物が置換可能に前記抗体と結合することを要旨とする。
又、本発明の一態様によれば、被検物質の測定方法は、上記複合体を用意し、前記複合体に検体を供給して、前記複合体のルシフェリルペプチド化合物を前記検体に含まれる被検物質で置換してルシフェリルペプチド化合物を生じさせ、生じたルシフェリルペプチド化合物からホタルD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体を生成して発光反応させ、前記発光の検出によって前記被検物質を測定することを要旨とする。
更に、本発明の一態様によれば、被検物質の測定試薬は、上記複合体を、被検物質測定用発光検出要素として有することを要旨とする。
上記被検物質の測定試薬は、更に、前記ルシフェリルペプチド化合物からホタルD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体を遊離可能な酵素と、ATPと、マグネシウムイオンと、ホタルルシフェラーゼとを有するとよい。
又、本発明の一態様によれば、測定試薬の調製方法は、被検物質に特異的に結合可能な抗体を用意する工程と、前記抗体が特異的に認識する前記被検物質のエピトープ又はそのミモトープのアミノ酸配列を有するペプチドを用意する工程と、前記ペプチドをホタルD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体と縮合してルシフェリルペプチド化合物を調製する工程と、前記ルシフェリルペプチド化合物と前記抗体とが結合する複合体を調製する工程とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、抗原抗体反応を利用した測定方法に伴う煩雑な操作工程、すなわち、試料の添加及び洗浄の繰り返し作業が省かれ、より簡便に被検物質を測定できる。また、本発明によれば、被検物質に対して、認識部位が異なる2種類の抗体を作製する必要がなく、適用範囲の広い測定方法を提供することができる。さらに、汎用的な発光分析装置を用いて検出できるので、特殊で高価な機器を必要としないという点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の測定方法の一実施形態を示す概念図である。
【図2】抗体とエピトープペプチド及び改変ペプチドの複合体に対し抗原(CRP)を各種の量で添加した際に、抗原により置換されずに抗体に残存したエピトープペプチド及び改変ペプチドの残存率を示す図である。。
【図3】本発明の測定方法によりCRPを測定したときの、CRP量と発光量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
抗原抗体反応において、抗体は、抗原全体を認識するのではなく、抗原の特定部位を認識して結合することが知られており、この抗体結合部分は、エピトープ(抗原認識部位)と呼ばれる。従って、抗体が反応する物質は、抗原自体だけではなく、抗原のエピトープと同一のアミノ酸配列を有する物質とも反応する。又、エピトープと同一ではないが、類似のアミノ酸配列を有するものに抗体が反応する場合があり、このようなエピトープと類似のアミノ酸配列を有し抗体が反応するペプチドは、ミモトープペプチドと呼ばれる。
ホタルルシフェリン又はルシフェリン誘導体とペプチドとを結合させた化合物であるルシフェリルペプチド化合物(以下、単に、ルシフェリルペプチドと称する)は、そのペプチド部分を抗原抗体反応可能なエピトープ又はミモトープとして構成することができ、そのように構成したルシフェリルペプチドは、抗体によって認識されて結合し、複合体を形成可能と考えられる。複合体のルシフェリルペプチドは、抗原物質と競争的関係になると、抗原物質と近接した際に抗原物質で置換されて抗体から解離し得る。この解離したルシフェリルペプチドからルシフェリンを遊離すると、ルシフェラーゼを用いて発光検出可能となる。つまり、複合体における競争置換反応に基づいて抗原物質が間接的に発光検出され、ルシフェリルペプチドは標識ペプチドとして作用する。本発明は、このような発想に基づき、ルシフェリルペプチドを用いた発光検出系を抗原抗体反応系に適用して、抗原物質又は抗原様物質(つまり、エピトープのアミノ酸配列を有する物質)の発光検出及び測定を実現するものである。つまり、被検物質(検出対象)に含まれる所定の部位をエピトープとして特異的に認識・結合し得る抗体に、エピトープペプチド又はそのミモトープペプチドをペプチド構成成分とするルシフェリルペプチドが置換可能に結合した複合体(抗体−ルシフェリルペプチド複合体)を用いて、測定試薬を構成する。抗体−ルシフェリルペプチド複合体と、被検物質を含む検体とを溶液中に共存させると、抗体−ルシフェリルペプチド間、及び、抗体−被検物質間の親和性の差によって、被検物質とルシフェリルペプチドとが置換されてルシフェリルペプチドが解離し、この解離したルシフェリルペプチドからルシフェリンを遊離させて、ルシフェラーゼによる酵素反応を用いてルシフェリン量を検出光量として測定することにより、複合体に置換結合した被検物質の間接測定が簡便に実施できる。以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
(被検物質)
本発明の測定方法を用いて測定できる被検物質は、抗体によって特異的に認識・結合可能なエピトープペプチドを構成部分として含む物質であれば、特に限定されることはなく、ペプチド及びタンパク質全般を対象とすることができる。従って、後述のデータベース等から取得可能なエピトープのアミノ酸配列を分子内に含む物質は、被検物質とすることができる。又、後述するように、任意のアミノ酸配列をエピトープとして認識する抗体を作製することが可能であるので、任意のペプチド又はタンパク質について、そのアミノ酸配列中の一定部位をエピトープとして設定して、それを認識する抗体を作製することによって、当該ペプチド又はタンパク質を被検物質とすることができる。
前記被検物質を含む可能性がある試料を検体として、検体中に含まれる被検物質が間接的に測定される。検体は、測定時に液体状態であることが好ましい。例えば、血液、尿、髄液、唾液、痰、細胞懸濁液などの体液をはじめとする生体から採取される液体を挙げることができる。検体が液体でない場合は、微細化、磨砕あるいは可溶化などの手段を用いて液体状態にした上で本発明の測定方法に供することができ、液体化の方法は任意に選択できる。本発明の測定方法は、その目的を特に限定することなく、検体中被検物質の有無の検出、被検物質の定量などに利用できる。又、免疫分析として、臨床検査、食品検査、環境検査などにおける分析に用いることができる。
【0019】
(エピトープ及びミモトープ)
種々の天然タンパク質において、エピトープが同定されている。例えば、C反応性タンパク(C reactive protein:CRP)の場合、<YLGGPFSPNVLN(Tyr-Leu-Gly-Gly-Pro-Phe-Ser-Pro-Asn-Val-Leu-Asn)というエピトープのアミノ酸配列が知られている(例えば下記非特許文献3参照)。この他、HCVウイルス由来タンパク、HIVウイルス由来タンパク、ダニアレルゲン等もエピトープが同定されている(例えば、下記特許文献5、特許文献6を参照)。このような各種のエピトープに関する情報は、Immune epitope database analysis resource(http:www.iedb.org)などのデータベース上で公開されている。
(特許文献5)特表2001−500723号公報
(特許文献6)特表平5−508837号公報
(非特許文献3)THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY 25095-25102,2005
(非特許文献4)Molecular Immunology 1999;36:53-60
このような既知のエピトープ部位と同一のアミノ酸配列を有するペプチド、又は、その一部を改変(欠失、付加又は置換)させた、部分的に異なる類似アミノ酸配列を有するペプチドを、ルシフェリン又はその誘導体と縮合結合させることによって、ルシフェリルペプチドを作製できる。得られるルシフェリルペプチドは、後述の抗体との親和性に基づいて、上記エピトープを有する抗原(被検物質)を認識する抗体に結合可能な標識ペプチドとして用いられる。尚、エピトープとの類似性が見られないアミノ酸配列であっても抗体と結合可能なペプチドは存在する可能性があり、このようなペプチドもまた、本発明の測定試薬を構成する抗体―ルシフェリルペプチド複合体の調製に利用可能である。エピトープペプチド及びその改変ペプチドの配列情報を利用する方法は、最適な測定試薬を効率的に用意できる1手段として非常に有利であるが、これに限られない。
【0020】
(抗体)
本発明の測定方法に用いる抗体は、被検物質のエピトープを特異的に認識・結合し得る抗体であれば、特に限定されることなく使用でき、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、または二特異性抗体、合成抗体、Fab、FvもしくはscFv断片などの抗体断片、あるいはこれらの化学的に修飾された誘導体の何れでもよく、人工物又は合成物を問わない。特定の物質に対して特異的な抗体の作製は、天然のタンパク質等を用いて、各種公知の方法を用いて行うことができる。例えば、モノクローナル抗体の場合、免疫した哺乳動物由来の脾臓細胞をマウス骨髄腫細胞と融合させることを包含する方法によって調整できる(例えば下記非特許文献5および非特許文献6参照)。
(非特許文献5)KohlerおよびMilstein, Nature 256(1975), 495
(非特許文献6)Galfre, Meth.Enzymol. 73 (1981), 3
また、現在では、合成反応技術の進歩やペプチド合成装置の開発によって、予め設定されたアミノ酸配列に従ってアミノ酸からペプチドを合成することが容易であり、任意の天然又は人工のペプチド(高分子量ペプチドであるタンパク質を含む)を合成することができる。さらにその合成ペプチドを免疫することで抗体を誘導し得ることも公知である。従って、これらの方法を用いることにより、任意のアミノ酸配列をエピトープとして認識する抗体を各種作製することができる。故に、測定対象とする物質のアミノ酸配列の一部分をエピトープとして、これを認識する抗体を作製することにより、この物質を被検物質とする測定に使用可能なルシフェリルペプチド−抗体複合体を調製することができる。
【0021】
(D−ルシフェリン及びその誘導体)
D−ルシフェリン及びD−ルシフェリン誘導体は、ATP及びマグネシウムイオンの存在下でホタルルシフェラーゼによって発光体であるオキシルシフェリンに変換されることによって発光するので、その発光量を適切な発光量測定装置を用いて定量する事が出来る。従って、このD−ルシフェリンの発光量に基づいて、ルシフェリルペプチドと置換した被検物質量を算出する事ができる。
本発明で用いるD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体は、上述のようなホタルルシフェラーゼによって発光反応を起こすものであれば特に限定されない。D−ルシフェリン誘導体としては、例えば、下記特許文献7に記載されるような、D−ルシフェリンのヒドロキシ基がアミノ基に置換されたものや、硫黄原子が酸素原子に置換されたもの等が挙げられる。
(特許文献7)特開2006−219381号公報
【0022】
(ルシフェリルペプチド及びその作製)
ルシフェリルペプチドのペプチド部分は、そのアミノ酸配列が、被検物質のエピトープと同一のアミノ酸配列、又は、部分的に改変(1〜数個のアミノ酸の欠失、付加又は置換)された類似アミノ酸配列(ミモトープのアミノ酸配列)を含む。従って、被検物質のエピトープペプチド又はミモトープペプチド、或いは、これらの何れかを一部分として分子内に有するペプチドを既知のペプチド合成法に従って調製し、これをルシフェリルペプチドの合成原料として使用できる。又、上記に限定されず、D−ルシフェリン又はその誘導体と結合させることで、最終的にエピトープ又はミモトープのアミノ酸配列を含んだペプチド部分が完成すればよい。ペプチド合成法としては、縮合剤を用いるペプチド形成、活性エステル化法、混合酸無水物法、ライゲーション、固相合成法等が知られており、これらから適宜選択して利用でき、又、市販されるペプチド合成装置を用いて自動的に行ってもよい。
【0023】
本発明の測定方法に用いるルシフェリルペプチドの一形態として、ペプチド鎖のアミノ末端となるα位アミノ基とD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体のカルボキシル基とを脱水縮合により結合して、これらがアミド結合を介して連結されたD−ルシフェリルペプチドが挙げられる。D−ルシフェリンは、カルボキシル基がAMP化されることにより活性体となって発光することが知られているが、上記のD−ルシフェリルペプチドのD−ルシフェリン部分は、カルボキシル基部位がアミド結合でブロックされているため、ペプチドから切断されない限り発光しない。またD−ルシフェリンの代わりにD−ルシフェリン誘導体を使用した場合も同様である。このアミドの生成は、常法に従ってカルボジイミド法を用いた反応によって可能であり、具体的には、例えば本願実施例2の操作を参照して実施できる。従って、ルシフェリルペプチドのペプチド部分を既知のペプチド合成方法によって用意し、これを原料としてD−ルシフェリン又はその誘導体とアミド化することによって、標識ペプチドとして用いるルシフェリルペプチドが得られる。
【0024】
(ペプチドの抗体との親和性)
上述のように、被検物質のエピトープと同一または類似のアミノ酸配列を有するペプチド(エピトープペプチド、ミモトープペプチド又は何れかを一部に有するペプチド)は、ホタルD−ルシフェリンまたはD−ルシフェリン誘導体と結合することでD−ルシフェリルペプチドに調製され、これを被検物質測定用の標識ペプチドとして、測定試薬の調製に用いられる。本発明において、ルシフェリルペプチドは、標識ペプチドとして、被検物質を特異的に認識する抗体と結合して抗体−ルシフェリルペプチド複合体を形成し得る程度の、前記抗体との親和性を有していることが必要であるので、このような前記抗体との親和性を有するための一形態として、ルシフェリルペプチドのペプチド部分のアミノ酸配列が、エピトープ、つまり、抗体が抗原(被検物質)を認識する部位と同一のアミノ酸配列を含むものがある。
また、本発明の測定方法においては、被検物質の検出に際して、抗体−ルシフェリルペプチド複合体が被検物質に接触したときに、抗体−ルシフェリルペプチド複合体のルシフェリルペプチドが被検物質で置換されてルシフェリルペプチドが解離することが必要である。従って、抗体−ルシフェリルペプチド間の親和性は、複合体を形成するためには十分に高いが、抗体−被検物質間の親和性に比較すると低く、測定条件下で好適に置換が起こることが必要である。本発明では、このような標識ペプチドに適したルシフェリルペプチドを得るために、各種ペプチドと抗体との親和性を評価し、これを参考として選択することができる。ペプチドと抗体との親和性は、そのペプチドから得られるルシフェリルペプチドと抗体との親和性とは同一ではないが、適性の予測には有用である。
ペプチド部がエピトープペプチドであるルシフェリルペプチドと抗体との親和性は、当該エピトープを有する抗原(被検物質)と抗体との親和性とは相異し得るが、その差が上述のような複合体上での好適な置換が得られるものではない場合には、好適な置換を実現するために、必要に応じて、エピトープペプチドの代わりに、アミノ酸配列の一部を改変(付加、欠失又は置換)させた類似配列のペプチドを適用することができる。どのような改変が適切であるかは、使用するペプチドのアミノ酸配列および抗原、抗体の構造や、各種測定条件によって異なるが、抗体と反応し得るミモトープペプチドを適宜選択して使用できる。
【0025】
特定のアミノ酸配列を有するエピトープ情報に基づいて本発明の測定方法で採用するペプチドを決定する際に、エピトープのアミノ酸配列をベースとして各種の改変ペプチドを調製して、その適性を比較評価することができる。例えば、各ペプチドについて抗体との結合の可否及び被検物質との置換の可否を調べ、結合及び置換が可能なペプチドを選択した後に、選択したペプチドについてルシフェリルペプチドを調製して抗体との結合及び置換を再度確認することができる。或いは、ペプチド段階での比較評価では、抗体との結合の可否のみを調べ、置換の可否についてはルシフェリルペプチドの状態で調べても良い。適性の評価は、本発明の測定方法自体を用いて行ってもよい。この場合、複合体上での好適な置換が得られれば、抗原濃度に応じて検出される発光光量が増加する。逆に、好適な置換が得られなければ、抗原との置換が起こらず発光は検出されない。また、実施例1のように、エピトープペプチドにビオチンを付加し、ビオチンと結合するストレプトアビジンとアルカリフォスファターゼの複合体を用いてエピトープペプチドを標識すると、発色法によって吸光度を測定することによりエピトープペプチドを検出することが可能であるので、アミノ酸配列が改変されたペプチドが本測定に有効であるかをスクリーニングすることができる。本測定にエピトープペプチドが有効である場合、標識されたエピトープペプチドが抗体に結合している状態では、吸光度がバックグラウンドに比べて十分高く、抗原との好適な置換が得られると、抗原量に応じて置換が起こり、吸光度が低下する。このビオチン-ストレプトアビジン結合を利用した方法では、洗浄と分離工程が必要であるが、ビオチン化ペプチドが容易に入手できるので、スクリーニングには有用である。
【0026】
(抗体−ルシフェリルペプチド複合体の調製)
抗体−ルシフェリルペプチド複合体は、ルシフェリルペプチドと抗体とを適切な緩衝液中で反応させる事で、抗体とルシフェリルペプチドとの親和性によって結合し、複合体を調製することができる。使用する緩衝液は特に限定されず、例えば、リン酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、塩化アンモニウム−アンモニア緩衝液、グッドの緩衝液等が挙げられる。緩衝液の濃度及びpHは、特に限定されず、必要に応じて適宜設定して使用できるが、通常使用される10mM〜800mMの濃度及びpH4〜10の範囲が好ましい。また、反応は、20℃〜45℃で1分〜4時間、望ましくは、25℃〜37℃で1分〜1時間行うとよい。
本発明の測定方法に用いる抗体−ルシフェリルペプチド複合体は、上述の任意の緩衝液中で安定であり、保存・流通が可能であるので、測定ごとに用時調製する必要はない。
【0027】
(抗体−ルシフェリルペプチド複合体の固定化)
本発明の測定方法においては、上述の複合体を適切な担体に結合させて固定化したものを用いることもできる。複合体の固定化は、抗体に対して過剰に加えられて複合体を形成しなかったルシフェリルペプチドを複合体から分離・除去して余分なバックグラウンドを低下させた測定ができる点で有用である。担体の素材は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、セラミック、アガロース等が挙げられ、このような素材からなるビーズ、プレート、試験管、ラテックス等の酵素免疫測定法に通常用いるものを適宜選択して利用できる。種々の担体の中でも、特に、ポリスチレン製96穴マイクロプレートに複合体を結合させると、同時に多検体を測定できるという点で有用である。また、後述の実施例1で示すように、ポリスチレン製96穴マイクロプレートに、抗体のFc部位を認識するプロテインG、又は、プロテインAを固定したマイクロプレートも市販されており、そのような担体を用いると、担体上に結合可能な複合体量が増えるので、さらに有用である。抗体−ルシフェリルペプチド複合体を上述のような担体に固定した場合、乾燥状態、液状状態のどちらでも安定であるので、保存・流通が容易である。
【0028】
(D−ルシフェリルペプチドからのルシフェリンの解離)
本発明の測定方法においては、発光検出を可能とするために、抗体から解離したルシフェリルペプチドのD−ルシフェリンを遊離させることが重要である。この遊離は、酵素を使用することで達成できる。D−ルシフェリンをルシフェリルペプチドから遊離させるために使用される分解酵素としては、エステラーゼ、ペプチダーゼ、ホスファターゼ、リパーゼ、アセチルエステラーゼ、ヌクレオチダーゼ、グルコシダーゼ、アミラーゼ、アミダーゼ、アシラーゼ、プロテアーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない。特に、ルシフェリンのカルボキシル基とペプチドのアミノ基を縮合して得たルシフェリルペプチドの場合、結合を切断するための分解酵素としては、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、アミノアシラーゼ、プロテアーゼ等を挙げることができるが、これらに限定はされない。なお、抗体に結合したルシフェリルペプチドは安定であり、ペプチダーゼ等の酵素の切断を受けないか、少なくとも解離した状態のルシフェリルペプチドに比べて切断を受け難いので、本発明の測定方法において、置換反応を起こしていない複合体中のルシフェリルペプチドが発光検出に影響する事はない。酵素を用いた切断反応は、緩衝液中で進行可能であり、例えば、リン酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、塩化アンモニウム−アンモニア緩衝液、グッドの緩衝液等の各種緩衝液を反応系として使用可能である。具体的には、濃度10mM〜800mM、pH4〜10の範囲の緩衝液中で、温度20℃〜45℃において1分〜4時時間、望ましくは、温度25℃〜37℃において1分〜1時間程度酵素反応を行うと、好適にルシフェリルペプチドからルシフェリンが解離する。
【0029】
(ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼ反応)
本発明の測定方法においては、遊離したD−ルシフェリンを最終的にルシフェラーゼ発光反応により検出する事が重要である。ルシフェラーゼについては、ホタルだけでなく、ホタルルシフェリンを利用して発光する酵素であれば、天然由来、組換え体由来、さらには変異を導入したものについても、由来によらず使用することができる。
D−ルシフェリンを発光させる測定系は、濃度10mM〜800mM、pH4〜10の範囲の緩衝液であることが好ましく、緩衝液として、例えば、リン酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、塩化アンモニウム−アンモニア緩衝液又はグッドの緩衝液等が挙げられる。ルシフェラーゼ濃度は、0.1μg/ml以上、好ましくは1〜1000μg/mlに調整するとよい。また、発光にはATP及びマグネシウムイオンが必要であり、ATP濃度及びマグネシウムイオン濃度は、各々、0.001mM以上、好ましくは1〜1000mMとするとよい。
D−ルシフェリンの発光反応と、前述のルシフェリルペプチドのD−ルシフェリン遊離反応は、同一系内で進行するので、測定系が前述の反応系を兼ねるように条件を最適化すると連続的に進行させるのに都合がよい。酵素反応、発光反応を円滑に行わせるために、種々の添加剤を測定系に配合してもよい。このような添加剤として、安定化剤、界面活性剤、賦活剤等が挙げられる。例えば、ルシフェラーゼの安定剤としては、ジチオスレイトール(0.1〜10mM)、EDTA(0.1〜10mM)、BSA(0.01〜10%)などを使用することができ、反応系の安定化剤としては、Tricine緩衝液やHEPES緩衝液(20〜200mM)などが使用可能である。
【0030】
(発光検出)
本発明の測定方法は、ルシフェリン−ルシフェラーゼ発光反応の検出に基づく方法であり、ルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応は、汎用的な発光検出装置を用いて検出できるので、高価で大型な励起光照射装置を必要とせず、汎用的に発光検出装置を用いればよい。
【0031】
(本発明の方法を用いた被検物質の測定)
本発明の測定方法の一実施形態について、図1に基づいて具体的に説明する。
まず、水性液(上述のような緩衝液)を測定系とし、測定系中には、抗体−ルシフェリルペプチド複合体が存在する。この複合体のルシフェリルペプチドは、そのペプチド部分に、抗体が被検物質を認識するエピトープ配列と同一または一部改変したペプチド(エピトープペプチド又はミモトープペプチド)を含んでおり、この部位で抗体と解離・置換可能な結合を形成している。ここに、被検物質であるエピトープを有する抗原(=本来の結合抗原)が供給されると、先に結合していたルシフェリルペプチドと抗体の親和性よりも、被検物質と抗体との親和性の方が強いために、ルシフェリルペプチドが抗体から解離して被検物質の方が抗体に結合し、その結果、ルシフェリルペプチドと被検物質とが置換される。次いで、解離したルシフェリルペプチドに対して、測定系中の切断酵素(ペプチダーゼ等)が作用して、ルシフェリンが解離する。この時、被検物質と置換されずに抗体と複合体を形成しているルシフェリルペプチドに関しては、酵素による切断を受けないので、ルシフェリンの解離は起こらない、もしくは、少なくとも解離状態のルシフェリルペプチドに比べて切断を受けにくい。故に、置換反応を起こさなかった複合体中のルシフェリルペプチドは、実質的に測定に影響しない。更に、生成したルシフェリンを基質として、ATP及びマグネシウムイオンの存在下でホタルルシフェラーゼによる発光反応が起こり、生じた発光量によってルシフェリンを定量できるので、これに基づいて、抗体に結合した被検物質を定量することが可能である。
【0032】
本発明の測定方法の反応条件は、上記の反応の各ステップが好適に進行する条件であれば、特に限定されず、被検物質を加えた際に、抗体に結合しているルシフェリルペプチドと被検物質とが良好に置換するのに適したpH及び温度、解離したルシフェリルペプチドを酵素で良好に切断するのに適したpH及び温度が設定される。必要に応じて、各ステップの条件を相異させて段階的に進行させることもできるが、両ステップに共通的な条件を設定できるのであれば、連続して進行するので、より好ましい。例えば、濃度10mM〜800mM、pH4〜10の範囲の緩衝液中において、5℃〜60℃で1分〜4時時間、望ましくは、5℃〜45℃で1分〜1時間で、反応を進行することができる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、塩化アンモニウム−アンモニア緩衝液、グッドの緩衝液などの各種緩衝液が使用できる。
【0033】
本発明の方法においては、被検物質の測定の際に、非吸着の抗原や抗体等を洗浄・分離する操作を繰り返す必要がなく、試薬を順次添加するだけで測定を行うことができる。したがって、それらの操作の繰り返しが必要な従来の方法よりも簡便に被検物質を免疫測定に基づいて測定できる。
また、使用する抗体も一種類のみでよく、サンドイッチELISA法のように一つの被検出物質に対して認識部位の異なる2種類の抗体のセットを用意する必要もなく、抗体取得の労力が少ない分、低コスト化が図れる。更に、物理的に小さいために、認識部位の異なる2種類の抗体が同時に結合するには適当でない等の理由から、従来サンドイッチELISA法での測定ができなかった物質(抗原)などについても、測定ターゲットとすることが可能となる。
また、検出方法として、ルシフェラーゼの発光反応を利用するので、発光量測定装置として汎用的なルミノメーター等を用いればよく、特殊で高価な機器を必要としない。さらに、試薬を順次添加していくだけで検出できるので、測定の自動化も容易である。
【0034】
(被検物質の測定試薬)
本発明の測定方法に使用する上述の要素を組み合わせて、被検物質の測定試薬を調製することができる。具体的には、被検物質の測定試薬は、(a)抗体−ルシフェリルペプチド複合体、(b)ルシフェリルペプチドからルシフェリンを遊離可能な酵素、(c)ATP、(d)マグネシウムイオン、及び、(e)ホタルルシフェラーゼ、を構成成分として有する。抗体−ルシフェリルペプチド複合体は、(a1)被検物質に特異的に結合可能な抗体と、(a2)該抗体に置換可能に結合するD−ルシフェリルペプチドとからなり、D−ルシフェリルペプチドは、該抗体が特異的に認識する被検物質のエピトープ(抗原認識部位)と同一または改変されたアミノ酸配列を有するペプチドが、ホタルD−ルシフェリンまたはD−ルシフェリン誘導体と結合した化合物である。
各構成成分の濃度は、被検物質を正確に測定できる限り、特に限定されず、適宜最適化することができる。例えば、(a)抗体−ルシフェリルペプチド複合体:0.1ng/ml以上、好ましくは1ng/ml〜100mg/ml、(b)ルシフェリルペプチドからルシフェリンを解離可能な酵素:0.1U/ml以上、好ましくは0.1U/ml〜5000U/ml、(c)ATP:0.001mM以上、好ましくは、0.005〜100mM、(d)マグネシウムイオン:0.001mM以上、好ましくは1〜1000mM、(e)ホタルルシフェラーゼ:0.1μg/ml以上、好ましくは1〜1000μg/mlに設定することができる。
これらの試薬は、保存料、緩衝剤などを含んでも良く、全てを個別の容器に収容するか、あるいは複数の成分をまとめて同じ容器に収容するか、選択することができる。また、これらの試薬を収容した容器と、測定方法の説明書、必要に応じ、被検物質の標準品等を添付した被検物質測定キットを作製することができる。
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、以下記載される記述は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0035】
(C反応性タンパク質エピトープペプチドの作製および親和性改変)
C反応性タンパク質(C reactive protein;以下、CRPと記す)は、血漿タンパク質成分の1種である。通常、正常人血液中には微量(1μg/ml以下)しか認められないのに対して、細菌感染やウイルス感染のような炎症性疾患、又は、心筋梗塞などの組織崩壊性疾患の際に血中濃度が急増することが知られている。この現象を利用して、CRP検査は、炎症性疾患又は組織崩壊性疾患の診断、及び、その重傷度の判定や、経過の観察、予後の判定に有用とされている。このC反応性タンパク質をモデルとして、以下のように、エピトープペプチドの作製を行った。
【0036】
CRPのエピトープ配列として、Tyr-Leu-Gly-Gly-Pro-Phe-Ser-Pro-Asn-Val-Leu-Asn(以後、STDと記載する)が知られている。この配列情報に基づき、同一のアミノ酸配列、又は、1以上のアミノ酸が改変(付加、欠失又は置換)されたアミノ酸配列を有するエピトープペプチド及び改変ペプチドを用意し、各々、抗体と結合させて抗体−ペプチド複合体を調製し、さらに、抗原(CRP)を添加した時に抗原との置換反応を起こすか否かを調べて、各ペプチドの適性を評価した。
ビオチン化エピトープペプチドは、Peptide.Ab(SIGMA社)サービスを利用して作製した。また、抗体との親和性を改変するためにアミノ酸を付加又は欠失した改変エピトープペプチドは、以下の表1に示す9種類を合成した。
1%のBSA(bovine serum albumin;和光純薬工業株式会社、カタログ番号:014−15134)、0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液を用意した。これを用いて、抗CRPポリクローナル抗体(BETHYL LABORATORIES,INC、カタログ番号:A80−125A)の濃度が14.6μg/mlになるように上記Tris−HCl緩衝液に溶解したものを調製した。又、合成した各ペプチドについて、1μg/mlになるように上記Tris−HCl緩衝液に溶解したものを各々調製した。更に、ペプチドを標識するストレプトアビジン化アルカリフォスファターゼ(和光純薬社製 カタログ番号199−12031)を、濃度が10μg/mlになるように上記Tris−HCl緩衝液に溶解したものを調製した。
抗体溶液100μl、ペプチド溶液100μl、及び、ストレプトアビジン化アルカリホスファターゼ溶液100μlをマイクロチューブに入れ、室温で1時間放置して結合反応を行わせた。また、プロテインGが固定化されたマイクロプレート(Reactive Bind Protein G coated microplate;PIERCE社、カタログ番号:15131)を、0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液200μlで3回洗浄を行い、その後、2%のBSAを含む150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液200μlを30分反応させ、ブロッキング反応を行った。続いて、この溶液100μlを上述のマイクロプレートに入れ、抗体を固定化した。従って、抗体−ペプチド−標識酵素複合体が生成していると、これがマイクロプレートに固定化されている。固定後、0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液で3回洗浄を行った。
【0037】
概知濃度のCRP(C反応性タンパク質;Life Diagnostics,inc、カタログ番号:8000)を、1%のBSA、0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液に溶解して、濃度の異なるCRP溶液を作製した。CRP溶液を用いて、以下のように、複合体からペプチドが置換解離するか否かを調べた。この際、CRP溶液100μlを、抗体−ペプチド−標識酵素複合体が固定されたマイクロプレートに加え、室温で1時間放置して置換反応を行わせた。その後、0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液で3回洗浄を行った。
【0038】
標識酵素であるアルカリホスファターゼを発色させる測定液として、0.5mM塩化マグネシウムを含むpH9.8に調整した1.0Mジエタノールアミン溶液に、p−ニトロフェニルリン酸を加えて終濃度10mMになるように調整した溶液を作製した。その溶液を、前述のCRP溶液を加える前後のマイクロプレートに200μl入れ、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices社製、SPECTRAmax)にて、波長405nmで20秒おきに吸光度を測定し、1分間あたりの吸光度変化量を算出した。標識酵素が結合したペプチドと抗体が結合した場合、CRP溶液を加える前のマイクロプレートにおける吸光度変化量は高くなる。また、標識酵素が結合したペプチドがCRPで置換されずに抗体に結合している量が多いほど、CRP溶液を加えた後の吸光度変化量、すなわち、抗体におけるペプチドの残存率が高いことを表す。各ペプチドと抗体の結合、置換を評価した結果を表1に示す。吸光度変化量が0.5mAbs/min以上の場合、ペプチドと抗体が結合したと判定した。置換は、CRP添加後のものの吸光度変化量が低下した場合に置換したと判定した。
【表1】

【0039】
CRP添加なしの場合の吸光度変化量を100としたときの吸光度変化量の割合をエピトープペプチド及び改変ペプチドの残存率として、異なる濃度のCRP溶液を添加した場合に算出した値を用いて、CRP添加量とペプチドの残存率との関係を図2で示す。つまり、CRP添加量0mg/dLでは、抗体にペプチドが全て結合しており置換が起こっていないため、吸光度変化量が最も高い。アミノ酸配列を改変していないエピトープペプチド(STD)を用いた時には、CRPの添加量に関わらず、吸光度変化は一定であった。一方、アミノ酸配列を改変したペプチド:Phe-Tyr-Leu-Gly-Gly-Pro-Phe-Ser-Pro-Asn-Val-Leu(以後I174Fと称する)を用いた系において、CRPを添加すると、親和性の違いによって抗体に結合する物質がCRPに置換して、CRP添加量の増加とともに吸光度変化量が減少することが確認された。これは、改変ぺプチドとCRPのエピトープとが置換を起こしたこと示している。すなわち、今回の測定条件下では、エピトープ配列を改変していないペプチドを用いた場合には、ペプチドとCRPエピトープとの置換が起こらず、一方、エピトープのアミノ酸配列を改変して親和性を変えたペプチドを用いた場合は、CRP添加量に応じて、吸光度変化量の低下、すなわち、被検物質の添加量に応じた置換が起きることが確認された。
【実施例2】
【0040】
(ルシフェリルペプチドの作製)
D−ルシフェリン(8.5mg、0.03mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(4.1mg、0.03mmol)、及び、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(5.8mg、0.03mmol)を含む無水DMF溶液0.3mlに、氷浴上にて攪拌下、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(10μl、0.1mmol)を加えて5分間攪拌した。次いで、CRPエピトープの改変配列:Phe-Tyr-Leu-Gly-Gly-Pro-Phe-Ser-Pro-Asn-Val-Leuを有するペプチド1174F(2mg、1.53×10−3mmol)を含む無水DMF溶液0.3mlを、ルシフェリン溶液に1分間かけて氷浴上にて滴下し、室温にて2時間攪拌して、下記構造式で表されるルシフェリルペプチド(式中、Rは、α−アミノ基において縮合するペプチド1174Fを示す)を合成した。反応溶液を減圧下で濃縮し、酢酸エチル4ml及び純水4mlで分配した。酢酸エチル相を分離して遠心濃縮した。
【化1】

【0041】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でルシフェリルペプチドの精製を行った。精製条件は、逆相カラム(関東化学、Mightysil PR-18 GP(H)、250×4.6(5μm))を使用し、0.05%TFAを含んだCH3CN溶媒を用いて、グラジエント機能を使用してCH3CN濃度を20分間で10%から90%に上げた。流速は1ml/分、カラム温度は20℃、検出は波長254,330nmで行った。
【実施例3】
【0042】
(ルシフェリルペプチド−抗体複合体の担体への固定)
1%のBSA(bovine serum albumin;和光純薬工業株式会社、カタログ番号:014−15134)、0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液に、抗CRPポリクローナル抗体(BETHYL LABORATORIES,INC、カタログ番号:A80−125A)を、濃度14.6μg/mlになるように溶解した。同じTris−HCl緩衝液を用いて、実施例2で作製したルシフェリルペプチドを濃度1μg/mlになるように溶解したルシフェリルペプチド溶液を調製した。抗体溶液100μl及びルシフェリルペプチド溶液100μlをマイクロチューブに入れ、室温で1時間放置して結合反応を行わせた。また、プロテインGが固定化されたマイクロプレート(Reactive Bind Protein G coated microplate;PIERCE社、カタログ番号:15131)を、0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液200μlで3回洗浄し、その後、2%のBSAを含む150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液200μlを30分反応させてブロッキングを行った。続いて、上述した抗体―ルシフェリルペプチド複合体溶液100μlを上述したマイクロプレートに加え、抗体−ルシフェリルペプチド複合体をマイクロプレートに固定した。固定後、0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液で3回洗浄して乾燥させた。
【0043】
(ルシフェリルペプチド−抗体複合体を用いたCRP濃度の測定)
1%のBSA、0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液に、概知濃度のCRP(C反応性タンパク質;Life Diagnostics,inc、カタログ番号:8000)を異なる濃度で溶解したCRP溶液を作製した。各濃度毎に、CRP溶液100μlを上述したルシフェリルペプチド−抗体複合体が固定されたマイクロプレートに入れ、室温で1時間反応させて置換反応を行わせた。
【0044】
0.05%のTween20及び150mMの塩化ナトリウムを含むTris−HCl(50mM、pH7.0)緩衝液に、Carboxypeptidase A(SIGMA社、カタログ番号:C9268)及びD-Aminoacylase Amano(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:329−61061)をそれぞれ濃度0.6mg/ml及び2.5mg/mlになるように溶解した。この酵素溶液200μlをマイクロチューブに入れ、上述の置換反応後の溶液を50μl加えて、37℃で1時間、ルシフェリルペプチドの切断反応を行った。
【0045】
4.8mMのATP、12mMのMgSO、1mMのEDTA、6g/lのグリセロール、1.2g/lのBSA及び0.1mMのメルカプトエタノールを含むTricien−NaOH(50mM、pH7.8)に、ルシフェラーゼを濃度50mg/mlになるように溶解し、これを発光測定液とした。
【0046】
上述の酵素切断した溶液50μlを96穴ホワイトマイクロプレートに入れ、ルミノメーター(ベルトールド社製発光測定器、LB96V)を用いて、以下のようにして発光を測定した。発光測定液は、ルミノメーターの自動インジェクション機能を利用して、酵素切断後の溶液が測定開始直前に発光測定液100μlと反応するように加えた。測定値は、3秒間の積算にて得られる発光量である。測定した結果を図3に示す。
【0047】
図3に示す通り、CRPを含有しない溶液を本測定法で測定した場合の発光量に比べ、CRP含有量が0.5mg/dl、2.1mg/dl、5.3mg/dlと増やした溶液を測定した場合、CRP濃度に応じて発光量が増加した。したがって本測定法により、被検物質(CRP)を測定できることが確認された。また、本測定では、非検物質を添加後、洗浄、分離操作が無く、簡便に測定できた。
【実施例4】
【0048】
(被検物質測定試薬の調製)
以下のような組成の(a)〜(c)で構成される被検物質の測定試薬を調製した。
(a)ルシフェリルペプチド−抗体複合体液:CRPエピトープ改変配列(Phe-Tyr-Leu-Gly-Gly-Pro-Phe-Ser-Pro-Asn-Val-Leu)を有するルシフェリルペプチドと、抗CRPポリクローナル抗体(BETHYL LABORATORIES,INC、カタログ番号:A80−125A)とを実施例3に従って結合させたルシフェリルペプチド−抗体複合体0.1mg/ml、1%BSA(bovine serum albumin;和光純薬工業株式会社、カタログ番号:014−15134)、0.05%Tween20、150mM塩化ナトリウム及びTris−HCl(50mM、pH7.0)。
(b)ルシフェリルペプチド切断酵素液:0.6mg/mlのCarboxypeptidase A(SIGMA社、カタログ番号:C9268)、2.5mg/mlのD-Aminoacylase Amano(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:329−61061)、0.05%Tween20、150mM塩化ナトリウム及びTris−HCl(50mM、pH7.0)。
(c)発光測定液:4.8mM ATP、12mM MgSO、1mM EDTA、6g/l グリセロール、1.2g/l BSA、0.1mM メルカプトエタノール、Tricien−NaOH(50mM、pH7.8)及び50mg/ml ルシフェラーゼ。
実施例3に準じて、CRPが3.0mg/ml含まれた溶液を検体として、CRPを被検物質とする測定を上記測定試薬を用いて行ったところ、問題なく被検物質を測定できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタルD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体がペプチドと縮合したルシフェリルペプチド化合物と、被検物質に特異的に結合可能な抗体との複合体であって、前記ルシフェリルペプチド化合物のペプチド部分は、前記被検物質によって前記ルシフェリルペプチド化合物が置換可能に前記抗体と結合することを特徴とする複合体。
【請求項2】
前記ルシフェリルペプチド化合物の前記ペプチド部分における前記抗体との親和性が、前記被検物質の前記抗体との親和性より小さい請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記ルシフェリルペプチド化合物が、下記一般式(式中、Rは、α−アミノ基において結合する前記ペプチドを示す。)で示されるホタルD−ルシフェリンの縮合化合物である、請求項1又は2に記載の複合体。
【化1】

【請求項4】
前記ルシフェリルペプチド化合物の前記ペプチド部分が、前記抗体が特異的に認識する前記被検物質のエピトープと同一のアミノ酸配列を有するペプチド又はその改変ペプチドである請求項1〜3の何れかに記載の複合体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の複合体を、被検物質測定用発光検出要素として有することを特徴とする被検物質の測定試薬。
【請求項6】
更に、前記ルシフェリルペプチド化合物からホタルD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体を解離可能な酵素と、ATPと、マグネシウムイオンと、ホタルルシフェラーゼとを有することを特徴とする請求項5に記載の被検物質の測定試薬。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかに記載の複合体を用意し、
前記複合体に検体を供給して、前記複合体のルシフェリルペプチド化合物を前記検体に含まれる被検物質で置換してルシフェリルペプチド化合物を生じさせ、
生じたルシフェリルペプチド化合物からホタルD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体を生成して発光反応させ、
前記発光の検出によって前記被検物質を測定することを特徴とする被検物質の測定方法。
【請求項8】
前記複合体が、固相用担体に固定化されており、供給された前記検体と液中で接触する請求項7記載の被検物質の測定方法。
【請求項9】
前記ホタルD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体のルシフェリルペプチド化合物からの遊離が、エステラーゼ、カルボキシペプチダーゼ、アリールスルフォターゼ、アルカリ性および酸性ホスファターゼ、リパーゼ、アセチルエステラーゼ、ヌクレオチダーゼ、キニナーゼ、グルコシダーゼ、アミラーゼ、アミダーゼ、アミノペプチダーゼ、アミノアシラーゼ及びプロテアーゼからなる群より選択される1種以上を用いる請求項7又は8記載の被検物質の測定方法。
【請求項10】
被検物質に特異的に結合可能な抗体を用意する工程と、
前記抗体が特異的に認識する前記被検物質のエピトープ又はそのミモトープのアミノ酸配列を有するペプチドを用意する工程と、
前記ペプチドをホタルD−ルシフェリン又はD−ルシフェリン誘導体と縮合してルシフェリルペプチド化合物を調製する工程と、
前記ルシフェリルペプチド化合物と前記抗体とが結合する複合体を調製する工程とを有することを特徴とする測定試薬の調製方法。
【請求項11】
前記複合体のルシフェリルペプチド化合物が被検物質で置換されることを確認する工程を有する請求項10に記載の測定試薬の調製方法。
【請求項12】
前記ペプチドを用意する工程は、
前記被検物質のエピトープペプチド、及び、その改変ペプチドを1種類以上用意する工程と、
前記エピトープペプチド及び改変ペプチドから、前記抗体に結合可能なペプチドを選択する工程とを有する請求項10又は11に記載の測定試薬の調製方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−37791(P2011−37791A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187979(P2009−187979)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【出願人】(803000045)株式会社キャンパスクリエイト (41)
【Fターム(参考)】