説明

振動体及び振動波アクチュエータ

【課題】安価な構成で小型化に伴う振動の減衰を抑制して振動効率を向上させ、安定した振動エネルギーを出力できるようにする。
【解決手段】リニア型振動波アクチュエータの振動体を、複数の圧電層と電極層を有する圧電素子15と、振動板としてのセラミックス基板2とを同時に焼成して一体化する。圧電素子15の電極層4とセラミックス基板2との間には、圧電層5と同一成分、又は主成分が同一の化合物層としての圧電層3を介在させ、圧電素子15とセラミックス基板2を焼成により接合できる。また、圧電素子15の電極層6の表面は、圧電層5と同一成分、又は主成分が同一の化合物層で全体的に覆う。電極層4,6には、孔を形成して外部(制御部等)との電気的な導通を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基板上に圧電素子を接合した振動体及びその振動体を用いた振動波アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動波アクチュエータでは、一般に、振動体の振動源として圧電素子が用いられている。この圧電素子としては、多数の圧電層を積層し成形一体化した後に焼成された積層圧電素子が使われている(特許文献1,2参照)。この積層圧電素子は、単一の板状の圧電素子に比べて、多層化により低い印加電圧で大きな変形歪や大きな力が得られるという利点がある。
【0003】
図4は、特許文献2に係るリニア型振動波(超音波)アクチュエータ30の外観斜視図である。このリニア型振動波アクチュエータ30は、振動体31、及び加圧接触されたリニアスライダ36を有している。
【0004】
振動体31は、積層圧電素子35と駆動板32を有し、積層圧電素子35は圧電層と電極層が交互に複数積層化され、駆動板32は金属からなり、接着剤により積層圧電素子35と接着されている。駆動板32は、矩形状に形成された板部と、この板部の上面に対して凸状に形成された2つの突起部33a,33bを有している。突起部33の先端面には、接触部34a,34bが形成されている。接触部34a,34bは、被駆動体としてのリニアスライダ32と直接接触する部材であるため、耐磨耗性を有している。
【0005】
このリニア型振動波アクチュエータ30は、2つの曲げ振動モードを励起し、突起部33a,33bに楕円運動を生起させる。この楕円運動は、振動体31に対して加圧状態で接触されているリニアスライダ36に対して、振動体31との間に相対的な移動運動力を発生させる。この相対的な移動運動力により、リニアスライダ36は、リニア(直線)駆動されることとなる。
【0006】
この積層圧電素子35を製造する場合は、初めに、圧電材料粉末と有機バインダから、ドクターブレード法などの方法により圧電層となるグリーンシートを作り、このグリーンシート上の所定位置に電極材料ペーストを印刷して電極層とする。そして、このグリーンシートを所定の枚数平面状に重ね、加圧して積層化する。この後、圧電層と電極層を同時焼成により一体化し、分極処理を行い、最終的に機械加工を行い所定の寸法に仕上げる。
【0007】
また、セラミックス基板の少なくとも一方の面上に、電極材料と圧電材料が順次層状に積層せしめられ、熱処理によって一体化されてなる一体積層構造を有する圧電電歪膜型アクチュエータが提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−120580号公報
【特許文献2】特開2004−304887号公報
【特許文献3】特開平3−128681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した図4に示す振動波アクチュエータでは、積層圧電素子と金属からなる振動板(駆動板32)は、樹脂からなる接着剤で接着している。しかし、樹脂からなる接着剤は比較的柔らかいため、振動体の振動減衰は大きく、特に小型化するほど振動体の振動減衰の影響が大きくなり、小型の振動波アクチュエータの効率を低下させる主因となっていた。
【0009】
また、小型化した場合に、接着層の厚さのばらつきや接着による位置精度が小型の振動波アクチュエータの性能に与える影響が大きくなり、小型の振動波アクチュエータの性能のばらつきも大きくなっていた。
【0010】
さらに、従来の積層圧電素子の製造方法では、圧電材料粉末から作るグリーンシート成形や積層プレス、機械加工など製造装置の設備投資額も大きく、製造コストを高くする一因となっていた。
【0011】
そこで、積層圧電素子の製造と同時に、接着層を設けずに振動板に積層圧電素子を直接固定することも考えられる。しかしながら、振動板は金属で構成されるため、圧電素子の圧電層と電極層を同時焼成一体化を行なう温度では、金属を構成する元素が圧電層や電極層に拡散する。その結果、圧電層は拡散した元素のため本来の圧電活性を持ち得ない化学組成になってしまっていた。
【0012】
また、金属より耐熱性の高いセラミックス基板では、金属のように元素の拡散は起らないが、貴金属である電極層とセラミックス基板との化学反応が少なく、接合強度がかなり低くなる。そのため、初めから振動板がセラミックス基板から剥離していたり、振動による剥離が起こり易くなったりして、安定した振動エネルギーを出力できなかった。
【0013】
本発明は、上記の技術的な背景の下になされたもので、その目的は、安価な構成で小型化に伴う振動の減衰を抑制して振動効率を向上させ、安定した振動エネルギーを出力できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、圧電層と電極層を有する圧電素子をセラミックス基板に固定してなる振動体において、前記圧電層は、前記電極層から交番信号の供給を受けて歪み前記振動体を変形させるエネルギーを発生する活性部と、発生しない非活性部を備え、前記活性部と前記セラミックス基板の間に位置する前記非活性部が前記活性部の全面にわたり設けられ、前記セラミックス基板に固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安価な構成で小型化に伴う振動の減衰を抑制して振動効率を向上させ、安定した振動エネルギーを出力することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る振動体の構成を示す構成図である。図1(a)、(b)、(c)は、それぞれ振動体の正面図、側面図、平面図である。なお、図1(b)は、図1(c)の矢印で示した破線位置での断面を示している。
【0017】
図1に示す振動体1aは、リニア駆動する振動波アクチュエータに適用することを想定したものである。)である。この振動体1aは、板状のセラミックス基板2と圧電素子15とを有している。
【0018】
このセラミックス基板2と圧電素子15は、後述するように同時焼成により接合(固定)され一体化されたものである。すなわち、振動エネルギー発生源として機能する圧電素子15と、その振動エネルギーを集積する振動板として機能するセラミックス基板2とは、接着層を介することなく固定されて一体化されている。
【0019】
圧電素子15においては、圧電層3、電極層4、圧電層5、電極層6、圧電層7が順次積層されている。電極層4は、2つに分割され、分割体は互いに離間状態で配備されている。同様に、電極層6は、2つに分割され、分割体は互いに離間状態で配備されている。
【0020】
また、圧電層5は、電極層4の全面を覆い、圧電層7は電極層6の全面を覆っている。電極層4,6と外部(制御部等)との電気的な導通は、圧電層5,7に孔(ホール)8を形成し、その孔8を介して導電線9を電極層4,6の上に導入してハンダ等に固定することにより、図られている。
【0021】
電極層4,6には、圧電素子15の振動を制御する制御部等から交番信号が供給され、
この交番信号により圧電層5が伸縮し(歪み)、その伸縮が機械的な振動エネルギーとして外部に放出される。この振動エネルギーによりセラミックス基板2が振動し、そのセラミックス基板2の振動は、被駆動体(図3のリニアスライダ14参照)を駆動する駆動力として利用される。
【0022】
セラミックス基板2は、長さ12mm、幅5mm、厚さ0.3mmであり、圧電層3の厚さは約6μm、圧電層5の厚さは約12μm、圧電層7の厚さは約6μm、電極層4、6の厚さは約5μmである。導通用の孔8は直径1mmである。
【0023】
次に、振動体1aの製造方法を説明する。まず、板状の焼成済みのセラミックスを研削加工、切断加工により所定の寸法に仕上げる。次に、圧電材料粉末と、有機溶剤と有機バインダからなる有機ビヒクルを混合して作った厚膜形成可能な圧電材料ペーストを、セラミックス板の片面の表面にスクリーン印刷法で印刷塗布する。そして、この塗布された圧電材料ペーストを約150℃で10分間ほど加熱することにより、有機溶剤を除去して乾燥させて、圧電層3を形成する。
【0024】
この後、銀とパラジウムを主成分とする導電材料粉末等からなる導電材料ペーストを乾燥済みの圧電層3の上にスクリーン印刷法で塗布、乾燥し電極層4を形成する。こうして、順次塗布と乾燥を繰り返し圧電層5、電極層6、圧電層7を形成する。なお、導電材料ペーストは、導電材料粉末と、有機溶剤と有機バインダからなる有機ビヒクルを混合して作る。
【0025】
圧電層3,5,7を形成するための圧電材料としては、次のものを使用した。すなわち、鉛を含んだペロブスカイト型の結晶構造を有するジルコン酸鉛とチタン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)を主成分とし、複数の金属元素からなる化合物を少量添加して固溶させた三成分系や多成分系の圧電材料粉末を使用した。すなわち、圧電層3,5,7は、化合物層として形成されている。
【0026】
圧電層5は、分極処理が施され圧電活性部として変位を発生させる層であり、その化学組成が直接振動波アクチュエータの性能に影響する。一方、圧電層3と圧電層7は、圧電活性部でなく圧電非活性部となる。なお、後述のように、少なくとも圧電素子15は、セラミックス基板2に固定される面とその反対側の面が、非活性部で形成されている。また、圧電層5と圧電層3,7とは、その目的に合わせて、ジルコン酸鉛とチタン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)の主成分以外の成分を変更することも可能である、また、その厚さも圧電層5と圧電層3,7とで異なるようにしても良い。
【0027】
上記の圧電活性部とは、圧電層と対向する電極を有し、電極間に電圧を印加して分極処理を施した後に、交流電圧を電極間に供給した時に振動子を変形させる振動エネルギーを発生する圧電層の部位をいう。一方、圧電非活性部は、圧電層と対向する電極を有さず、電極間に電圧を印加出来ず(つまり、分極処理不能)、かつ、交流電圧も電極間に供給出来ない(つまり、振動子を変形させる振動エネルギーを発生しない)圧電層の部位をいう。
【0028】
なお、圧電非活性部は、圧電層と対向する電極を有し、電極間に電圧を印加して分極処理を施しても、分極処理後に一方の電極を除去したため交流電圧を電極間に供給できない(つまり、振動子を変形させず振動エネルギーを発生しない)圧電層の部位もいう。
【0029】
ここで、電極層4,6を形成するための導電材料ペーストとしては、導電材料の他に予め圧電材料粉末を10重量%添加したものを使用した。ただし、添加する圧電材料粉末は、圧電層5と同一成分か、または主成分が同じジルコン酸鉛とチタン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)であっても同様の効果が得られる。また、圧電層5,7には、スクリーン印刷の版に予め細工を施して孔8(未印刷部)を形成できるようにし、電極層4,6は、非印刷部を介して2分割し、離間して配置できるようにしてある。
【0030】
このようにして形成したセラミックス基板2上の複数の積層化された圧電層3,5,7と電極層4,6は、未焼成状態である。そこで、電気炉を用いて200℃〜500℃で加熱して有機バインダを除去した後、鉛雰囲気中で1100℃〜1200℃で焼成した。すなわち、圧電層3,5,7、電極層4,6、及びセラミックス基板2を同時に焼成して一体化した。換言すれば、圧電素子の製造と、圧電素子とセラミックス基板との接合(固定)を同時に行なった。
【0031】
ここで、圧電層3は、セラミックス基板2と電極層4を結合するために設けている。電極層4を形成する導電材料としての銀とパラジウムはセラミックスとは、接合力が弱い。そのため、圧電層3が無い場合には、導電材料粉末の焼成時の粉末の焼結による収縮と焼成後の熱膨張により最初からセラミックス基板2から電極層4が剥離していたり、圧電素子15の振動により剥離してしまう。
【0032】
また、予め、電極層4に圧電粉末を混ぜることで、導電材料粉末の焼成による収縮を抑制して剥離力を小さくした。さらに、圧電層3と電極層4とにそれぞれ混合されたほぼ同一成分の圧電粉末の接触部が反応して、圧電層3と電極層4が固く結合するようにした。
【0033】
一方、振動体としてのセラッミクス基板2の材質としては、圧電層3と近接した領域で安定した化学的な結合が起こるような材質のものを選定した。さらに、圧電層3,5,7は比較的軟質なので、セラミックス基板2と電極層4,6の熱膨張の違いにより発生する応力の緩衝材としても機能する。これらの結果、セラミックス基板2と電極層4との剥離を防止することが可能となる。
【0034】
なお、セラミックス基板2の材質は、圧電層3が剥離しないように圧電層3と接触させて焼成しても異常な化学反応が起ったり、脆い化合物が生成されたりしない材質であることが好ましい。この点からは、セラミックス基板2の材質は、圧電層(特に圧電層3)と主成分がほぼ同一のセラミックスであることが好ましい。これは、以下の理由で、セラミックス基板2の材質が圧電層3と主成分がほぼ同一の圧電セラミックスであれば、セラミックス基板2と圧電層3との結合に必要な結合力が容易に得られるからである。
【0035】
すなわち、焼結したセラミックスを形成する個々の結晶粒子と、圧電層を形成する個々の未焼成の更に細かい結晶粒子がほぼ同一成分であれば、未焼成の圧電層は、焼成により結晶粒子が成長しつつセラミックスを構成する結晶粒子と容易に結合できるからである。
【0036】
ただし、圧電セラミックスは、振動板としての振動減衰は少なく実用性はあるものの、やや脆い材料であり機械的な強度もやや弱い。また、圧電セラミックスは、特殊な材料でもありコストもやや高い。
【0037】
そこで、基板(振動板)の更に好ましい材料として、酸化アルミニウムセラミックス(アルミナ)を選定した。アルミナは、他のセラミックスと比べて入手し易く安価である。そして、振動体としての振動の減衰もかなり少ない。
【0038】
ただし、純度が低くガラス質成分(酸化ケイ素)を含むと、鉛との反応が起き易くアルミナの材質を劣化させる。ガラス質成分は通常、低融点で結晶粒界に存在し、結晶粒界で鉛と容易に反応し、アルミナの基板としての機械的な強度を劣化させる。
【0039】
そこで、ガラス成分の少ない99.5%以上の高純度のアルミナを使用したところ、セラミックス基板2と圧電層3とが良好に結合された。これは、高純度のアルミナセラミックスを選んだ結果、圧電層3とごく近接した領域のみで、圧電層を構成する元素がアルミナに拡散し安定な化学的な結合が起こったものと推測される。
【0040】
ただし、アルミナセラミックスは、機械部品としてはやや脆い性質もあり、ガラス成分以外の他の成分を多少添加しても良い。例えば酸化ジルコニアは機械的な強度と電気的な絶縁性を向上させることができ、添加物として好ましい。この場合、特開2006−74850号公報のように、酸化ジルコニアを5〜40重量%添加するのが望ましい。
【0041】
また、圧電層5は電極層4を覆い、圧電層7は電極層6を覆い、特に電極層4,6の端部まで完全に覆うようにし、絶縁性の保護層として電極層4,6が表面に露出しないようにしている。このように圧電層5,7による電極層4,6の保護層を設けることで、外部からの機械的な力による電極層4,6の剥離を防止することができた。また、例えば異物が接触した際のショートや高湿度下での電流リーク、電極層4,6と圧電層5,7の隙間への水分の侵入を防ぎ、電極層4,6の剥離を防止することができた。なお、第1の実施の形態では、対向する電極層4,6とで挟まれた圧電層5が圧電活性部となる。
【0042】
前述のように、圧電層3,5,7、電極層4,6、及びセラミックス基板2を同時に焼成して一体化した後、圧電層5,7の孔8を介して電極層4,6に導電線9をハンダ等で接合し、電極層4,6の間に電圧を印加、圧電層4に分極処理を施した。分極処理の条件は、温度120〜150℃のオイル中で、電極層4をグランド(G)とし、電極層6をプラス(+)として、所定の電圧約35V(3KV/mm相当)を印加して、約30分かけて分極処理を行った。
【0043】
また、圧電層3,5,7、及び電極層4,6を形成する圧電材料ペーストは、圧電材料粉末に多少の添加物を加え、エチルセルロースのような有機バインダとテルピネオールのような有機溶剤を用いた有機ビヒクルを3本ロールで混練して作った。
【0044】
スクリーン印刷法では本例では圧電層の厚さは12μmとしたが、厚さ約2、3μmから約30μmまでの厚膜である圧電層や電極層を高精度に作ることができる。版には分割した電極や圧電層に孔(未印刷部)を設けることも可能である。
【0045】
また、スクリーン印刷法は、上述のグリーンシートによる積層に比べて、より薄くて高精度な厚さの層の形成が容易であるばかりでなく、塗布位置を高精度に制御可能であり、焼結後の機械加工も必要としない。さらに、製造設備もより安価である。これらの結果、製造コストも安価となる。
【0046】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る振動体の構成を示す構成図である。図2(a)、(b)、(c)は、それぞれ振動体の正面図、側面図、平面図である。なお、図2(b)は、図2(c)の矢印で示した破線位置での断面図を示している。
【0047】
第1の実施の形態では、電極層で挟まれた圧電層は1つであったが、第2の実施の形態では、電極層で挟まれた圧電層は2つとなっている。
【0048】
すなわち、第2の実施の形態では、第1の実施の形態に対して圧電層と電極層を1層ずつ加えた積層型圧電素子16となっている。換言すれば、第2の実施の形態では、圧電活性部である圧電層を2層とすることにより、圧電層が1層である第1の実施の形態よりも、低電圧化を図っている。なお、圧電活性部である圧電層を3層以上にし、更なる低電圧化を図ることも可能である。
【0049】
第2の実施の形態に係る振動体1bは、具体的には、板状の焼成したセラミックス基板2の上に、積層型圧電素子16として圧電層3、電極層4、圧電層5a、電極層6a、圧電層5b、電極層6b、圧電層7が順次重ねられている。
【0050】
圧電層5aは電極層4を全体的に覆い、圧電層5bは電極層6aを全体的に覆い、圧電層7は電極層6bを全体的に覆っている。電極層4,6bは、導電ペースト(導電材)を充填した孔10で電気的に導通し、孔11に接合した導電線9で外部電源と導通可能となっている。電極層6aは,導電ペーストを充填した孔12に接合した導電線9で外部(制御部等)と導通可能となっている。
【0051】
振動体1bは、例えば、セラミックス基板は長さ12mm幅5mm、厚さ0.3mmであり、圧電層3の厚さは約6μm、圧電層5a,5bの厚さは約12μm、圧電層7の厚さは約6μm、電極層4,6a,6bの厚さは約5μmである。孔10,11の径は、配線を考慮して直径1mmとなっている。なお、本実施の形態では、圧電層5a,5bが圧電活性部となる。
【0052】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態と異なり、孔10,11,12には、電極層4,6a,6bを形成した導電ペーストとほぼ同じ成分の導電ペーストが充填されている。この場合、孔10,11,12を形成した後、電極層4,6a,6bを形成する前後で、スクリーン印刷法などで孔10,11,12に導電ペーストを充填し、積層圧電素子16と同時にセラミックス基板2を焼成して一体化する。また、別の製造方法として、積層圧電素子16を焼成した後に、熱硬化する接着剤と導電粉末混ぜた導電ペーストを孔10,11,12に充填しても良い。
【0053】
図3は、第1、第2の実施の形態に係る振動板1a、又は振動板1bを組込んだリニア型振動波アクチュエータの構成を示す図である。リニア駆動の原理は従来例と同じである。振動板1a又は振動板1bには、突起部13が設けられている。リニアスライダ14は加圧された状態で突起部13に接触し、圧電素子15又は16の振動で突起部13に励起された楕円運動により、リニアスライダ14が移動する。すなわち、本リニア型振動波アクチュエータは、圧電素子15又は16を駆動動力源としてリニアスライダ14を往復駆動している。
【0054】
なお、本発明は、第1,第2の実施の形態に限定されることなく、例えば、電極層と外部電源との導通は導電線を用いて行ったが、導電線の代わりにフレキシブル回路基板や導電ペーストで電極層と外部電源との導通を図っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る振動体の構成を示す構成図である。(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る振動体の構成を示す構成図である。(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図3】本発明の第1,第2の実施の形態に係る振動体を組込んだリニア型振動波アクチュエータの駆動機構を示す図である。
【図4】従来のリニア型振動波アクチュエータの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1a,1b…振動体
2…セラミックス基板
3,5,5a,5b,7…圧電層
4,6,6a,6b…電極層
8,10,11,12…孔
15…圧電素子
16…積層型圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層と電極層を有する圧電素子をセラミックス基板に固定してなる振動体において、
前記圧電層は、前記電極層から交番信号の供給を受けて歪み前記振動体を変形させるエネルギーを発生する活性部と、発生しない非活性部を備え、
前記活性部と前記セラミックス基板の間に位置する前記非活性部が前記活性部の全面にわたり設けられ、前記セラミックス基板に固定されていることを特徴とする振動体。
【請求項2】
圧電層と電極層を有する圧電素子と、該圧電素子が固定されるセラミックス基板からなる振動子において、
前記圧電素子は、前記電極層に交番信号が供給されることによって前記振動子を変形させるエネルギーを発生する活性部と、発生しない非活性部を備え、
前記活性部と前記セラミックス基板の間に位置する前記非活性部が前記セラミックス基板に固定され、該固定された非活性部を有する圧電層には前記活性部が含まれていないことを特徴とする振動体。
【請求項3】
前記圧電層はジルコン酸鉛とチタン酸鉛を主成分として構成され、前記電極層は銀とパラジウムを主成分として構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動体。
【請求項4】
前記圧電素子の前記活性部は複数の前記電極層に挟まれた部位であり、前記圧電素子の前記非活性部は複数の前記電極層に挟まれていない部位であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の振動体。
【請求項5】
前記圧電素子は、前記セラミックス基板に固定される面とその反対側の面が、前記非活性部で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の振動体。
【請求項6】
前記圧電素子は、前記セラミックス基板に固定されている面の反対側の面が、前記圧電層と同一成分または主成分が同じ化合物層で形成されていることを特徴とする前記請求項1乃至5の何れかに記載の振動体。
【請求項7】
前記反対側の面を形成されている化合物層は、ジルコン酸鉛とチタン酸鉛を主成分として構成されていることを特徴とする請求項6に記載の振動体。
【請求項8】
前記電極層には、前記圧電層と同一成分または主成分が同じ化合物の粉末が添加されていることを特徴とする前記請求項1乃至7の何れかに記載の振動体。
【請求項9】
前記電極層に添加されている粉末は、銀とパラジウムを主成分として構成されていることを特徴とする請求項8に記載の振動体。
【請求項10】
前記セラミックス基板は、前記圧電層と同一成分または主成分が同じ材料のセラミックスで構成されていることを特徴とする前記請求項1乃至9の何れかに記載の振動体。
【請求項11】
前記セラミックス基板は、99.5%以上の純度のアルミナ、または99.5%以上の純度のアルミナを主成分としジルコニアを添加したセラミックスで構成されていることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の振動体。
【請求項12】
前記圧電素子は、圧電材料からなる前記圧電層と、電極を形成する前記電極層が交互に積層されたものであることを特徴とする請求項1乃至11の何れかに記載の振動体。
【請求項13】
前記電極層は、前記圧電層に形成された孔を介して又は孔に充填した導電材を介して、前記圧電素子の外部との電気的な導通を行なうことを特徴とする請求項1乃至12の何れかに記載の振動体。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れかに記載の振動体を駆動動力源として用いたことを特徴とする振動波アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−124791(P2009−124791A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293247(P2007−293247)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】