説明

振動型駆動装置による移動体の駆動機構

【課題】振動子と摩擦接触するガイドバーとの間に相対移動力を発生させる際の摩擦力を阻害せず、移動体をガイドバーに沿って円滑に摺動させることが可能となる振動型駆動装置による移動体の駆動機構を提供する。
【解決手段】電気−機械エネルギー変換素子と接触部が形成された弾性体とを有する振動子が固定された移動体と、
移動体を摺動自在に保持する、平行に配された第一ガイドバーと第二ガイドバーとを備え、振動子の接触部の楕円運動によって、移動体を第一及び第二ガイドバーに沿って移動させる振動型駆動装置であって、
移動体は、第一ガイドバーの軸方向及び軸回りに移動可能に該第一ガイドバーに保持されると共に、
移動体には、振動子の接触部を第二ガイドバーに加圧接触させる加圧手段が構成され、
加圧手段によって、移動体の第一ガイドバー軸回りの回転運動が規制されるように、振動子を第二ガイドバーに加圧付勢されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波モータ等と称される振動型駆動装置を用い、この振動型駆動装置により移動体を駆動するようにした移動体の駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
振動型駆動装置の分野において、所謂リニア超音波モータと呼ばれる直線運動を生成する振動型駆動装置が開発され実用化されている。
リニア型超音波モータは、大きさに比して大きな出力が得られ、また制御性に優れるなどの特徴を有している。
そのため、特にカメラなどのレンズ鏡筒を回転駆動するアクチュエータにおいてレンズ群の光軸方向駆動などの光学系の駆動用など、多数のものが提案されている。
【0003】
このようなレンズ群の駆動用として、例えば、特許文献1ではつぎのような振動アクチュエータが提案されている。
この振動アクチュエータでは、移動レンズ群はレンズホルダに固定されており、レンズホルダは第一のガイドバーと第二のガイドバー2つのガイドバーにより所定方向に移動されるようにガイドされている。
また、1つの振動子がレンズホルダに固定され、この振動子と第一のガイドバーとが、振動子の振動部を構成する弾性体の弾性力を用いて加圧接触されるように構成されている。
この振動子の超音波振動により、振動子と第一のガイドバーとの間に相対移動力を発生させ、レンズホルダ及び移動レンズ群をガイドバーに沿って直線移動させる。
この構成によれば、ガイドバーに駆動出力を直接伝達するので、構成の小型化が図られる。
ここで、第一のガイドバーは、レンズホルダに所望の直動方向への移動の自由度を与えると共に、レンズホルダの移動方向と直交する2方向への移動を規制する機能を持つ。
また、第二のガイドバーはレンズホルダの第一のガイドバーの中心軸回りの回転を規制する機能を持つ。
これらレンズホルダに移動の規制が与えられることで、レンズホルダは所望の方向への直線運動のみの自由度が与えられるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−182354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例における特許文献1のものでは、振動子と第一のガイドバーとの加圧接触に、振動子の振動部を構成する弾性体の弾性力が用いられていることから、次のような課題を有している。
すなわち、この従来例の振動アクチュエータでは、振動子と加圧接触する第一のガイドバーを振動子の超音波振動により相対移動させる出力は、弾性体の弾性力による加圧接触の摩擦力によって得られている。
しかしながら、一方ではこの摩擦力は、レンズホルダがガイドバーを摺動する際に、このレンズホルダの摺動を阻害する力として作用することになり、レンズホルダの円滑な摺動の妨げとなる。
そのため、ガイドバー表面にグリス等の摩擦力低減材料等を塗布すれば、振動子と加圧接触する第一のガイドバーを振動子の超音波振動により相対移動させる摩擦力による出力が阻害されることとなる。
このように、加圧接触に振動子の弾性体の弾性力が用いられている従来例のものでは、振動子と第一のガイドバーとを相対移動させるための摩擦力の確保と、レンズホルダのガイドバーに対する円滑な摺動とを両立させる点で、必ずしも満足の得られるものではない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、振動子と摩擦接触するガイドバーとの間に相対移動力を発生させる際の摩擦力を阻害せず、且つ移動体をガイドバーに沿って円滑に摺動させることが可能となる振動型駆動装置による移動体の駆動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の振動型駆動装置による移動体の駆動機構は、少なくとも電気−機械エネルギー変換素子と接触部が形成された弾性体とを有する振動子が固定された移動体と、
前記移動体を摺動自在に保持する、平行に配された第一ガイドバーと第二ガイドバーとを備え、
前記電気−機械エネルギー変換素子に対する駆動電圧の印加によって生成された前記振動子の接触部の楕円運動によって、前記振動子の接触部と接触する前記第二ガイドバーとの間に相対移動力を発生させ、
前記移動体を、前記第一及び第二ガイドバーに沿って移動させる振動型駆動装置であって、
前記移動体は、前記第一ガイドバーの軸方向及び軸回りに移動可能に該第一ガイドバーに保持されると共に、
前記移動体には、前記振動子の接触部を前記第二ガイドバーに加圧接触させる加圧手段が構成され、
前記加圧手段によって、前記移動体の前記第一ガイドバー軸回りの回転運動が規制されるように、前記振動子を前記第二ガイドバーに加圧付勢されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、振動子と摩擦接触するガイドバーとの間に相対移動力を発生させる際の摩擦接触による摩擦力を阻害せず、且つ移動体をガイドバーに沿って円滑に摺動させることが可能となる振動型駆動装置による移動体の駆動機構を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1における振動型駆動装置による移動体の駆動機構の構成を説明する斜視図。
【図2】本発明の実施例1における保持部付近の構成を説明する斜視図。
【図3】本発明の実施例1における振動型駆動装置による移動体の駆動機構の断面図。
【図4】本発明の実施例2における振動型駆動装置による移動体の駆動機構の構成を説明する斜視図。
【図5】本発明の実施例2における保持部付近の構成を説明する斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
以下の本実施例の説明では、レンズ群を保持するレンズ保持部材(移動体)を、光軸方向へ直線運動を行う振動型駆動装置による移動体の駆動機構の構成例について説明している。
しかし、本発明はこのような構成に限定されるものではなく広く直動用途として適用可能である。
また本発明において、位置関係を規定する用語として「平行」、「垂直」という表現が用いられるが、本発明における「平行」、「垂直」とは理論的に完全な「平行」、「垂直」だけでなく実質的に「平行」、「垂直」とみなせる状態も含む。実質的に「平行」、「垂直」とみなせる状態とは、本願発明の効果を発現する状態を意味する。本発明者らの知見によれば、「平行」、「垂直」の理論値からの角度のズレは、好ましくは5°以内、より好ましくは1°以内である。
【実施例】
【0011】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した振動型駆動装置による移動体の駆動機構の構成例を、図1を用いて説明する。
本実施例の振動型駆動装置による移動体の駆動機構は、電気−機械エネルギー変換素子と接触部が形成された弾性体とを有する振動子が固定された移動体と、この移動体を摺動自在に保持する、平行に配された第一ガイドバーと第二ガイドバーとを備えている。
そして、この電気−機械エネルギー変換素子に対する駆動電圧の印加によって生成された振動子の接触部の楕円運動によって、振動子と該振動子の接触部と接触する第二ガイドバーとの間に相対移動力を発生させる。
これによって、移動体を第一及び第二ガイドバーに沿って移動可能に構成されている。
具体的には、図1に示すように、本実施例の振動型駆動装置による移動体の駆動機構100は、主にレンズホルダ2、レンズ群7、振動子1、加圧磁石5、2つのガイドバー3、4及び不図示の基体から構成される。
2本のガイドバーで構成された第一のガイドバー3、第二ガイドバー4は、互いに平行に配置されるようにそれらの各ガイドバーの両端が、不図示の基体により保持固定されている。
振動子1は、金属で形成された板状の振動板(弾性体)11と、電気−機械エネルギー変換素子12とを一体に接合して形成される。
レンズホルダ2は、円筒状のホルダ部2a、振動子1及び加圧磁石5を保持固定する保持部2b、第一ガイドバー3と嵌合してガイドの作用をなす第一のガイド部2cから構成される。
振動子1の2箇所の接触部11aが第二ガイドバー4と加圧接触して第二のガイド部を形成する。
【0012】
次に、図2を用いて、本実施例における移動体を構成するレンズを保持するレンズホルダ(レンズ保持部材)2の保持部2b付近の構成について説明する。
本実施例では、保持部2bの上面には加圧磁石5が保持固定される。
加圧手段を構成するための加圧磁石(磁気部材)5は永久磁石52及び永久磁石52の両端に配置される2つのヨーク51から構成される。
永久磁石52は図中の永久磁石52上に記載した矢印方向に着磁処理が行われている。
保持部2bには2つの弾性部材62が配置される。各弾性部材62の両端が保持部2bに固定され、各弾性部材62の中央付近に振動子固定部材61が固定されている。
2つの振動子固定部材61の上面には振動子1の支持部11bが固定される。
【0013】
振動子1は2つの弾性部材62を介して保持部2bに固定されており、ガイドバー4に対して振動子1の2箇所の接触部11bが倣うように振動子1に対して自由度が与えられている。
このように振動子1を保持することで、部品精度等により生じるガイドバー4との接触精度の低下を補償する機能が与えられている。
加圧磁石5とガイドバー4との間に磁気回路が形成され、これら部材間に吸引力が発生する。加圧磁石5はガイドバー4とは間隔を設けて配置されており、ガイドバー4は振動子1と接するように配置されている。
前記の吸引力によりガイドバー4と振動子1との間に加圧力が与えられる。このガイドバー4と振動子1とにより第二のガイド部が形成される。
【0014】
第二のガイド部は磁気による吸引力を利用してガイド機構を形成しており、外力を受ける等により振動子1とガイドバー4が引き離される状態が生じるが、これに対しては、つぎのように対処されている。
すなわち、レンズホルダ2に備えられる脱落防止部2dがガイドバーに当たることで、レンズホルダ2が所望の位置に戻るように対応が施されている。
振動子1に所望の電気信号を与えることで振動子1とガイドバー4との間に駆動力が発生し、この駆動力によりレンズホルダの駆動が行われる。
なお、電気−機械エネルギー変換素子への駆動電圧の印加によって、振動子の接触部に楕円運動を発生させる振動子の構造や作用に関しては、特開2005−354787公報等多くの文献に詳細に開示されており、ここではそれらの説明は省略する。
【0015】
図3に、振動子1を含みレンズ光軸方向と直交する面内での振動型駆動装置1の断面図を示す。
第一のガイド部は円筒形状のガイドバー3と、ガイドバー3と接する円筒形状の穴を持つガイド部2cにより構成されており、レンズホルダ2にはZ方向及びガイドバー3の中心軸P1回りの自由度θzが与えられる。
振動子1は、第二ガイドバー4と接する接触面が中心軸P1を含む平面上に一致するように位置が決められている。
ガイドバー4は振動子1の接触面と倣う位置に固定されており、第二のガイド部によりレンズホルダ2は中心軸P1回りの回転が規制される。
これら第一および第二のガイド部によりレンズホルダはZ方向の自由度のみが与えられるのでレンズ群は光軸方向のみの移動が行われる。
【0016】
本実施例においては、加圧手段によって、移動体の第一ガイドバー軸回りの回転運動が規制されるように、振動子を第二ガイドバーに加圧付勢されている。
そして、上記のように振動子1の第二ガイドバー4と接する接触面が中心軸P1を含む平面上に一致するように、振動子の位置を規定する構成が採られている。しかし、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、振動子の接触部と第二ガイドバーとの接触領域が、第一及び第二ガイドバーの軸を含む平面に対し、垂直の角度を除き所定の角度となるように構成されていればよい。
例えば、保持部2b上に固定される各部品がガイドバー4の軸回りに回転した位置に配置されるようにしてもよい。
これにより、第二ガイド部として中心軸P1回りの回転を規定できれば良いことから、振動子の接触部と第二ガイドバーとの接触領域が、第一及び第二ガイドバーの軸を含む平面に対し、直交する状態を除けば第二のガイド部として作用する。
以上に説明した本実施例の構成によれば、振動子と第二のガイドバーとを相対移動させるための摩擦力の確保と、レンズホルダのガイドバーに対する円滑な摺動とを両立させることが可能となる。
【0017】
[実施例2]
実施例2として、実施例1とは異なる形態の振動型駆動装置による移動体の駆動機構の構成例について、図4、図5を用いて説明する。
図4に示すように、100は本実施例の振動型駆動装置による移動体の駆動機構である。以下では実施例1と同一の構成については説明を省略する。
【0018】
図5を用いて、本実施例におけるレンズホルダ2の保持部2b付近の構成について説明する。
振動子11の上面中央にはガイドバー4と接触して互いの相対運動を発生するための接触部11aが1箇所形成されている。
レンズホルダの保持部2bには振動子1の2箇所の支持部11bが直接固定される。
本実施例においては、振動子1の接触部11aは1箇所であるので、振動子1とガイドバー4との間に部品精度や組立精度に起因する傾きが生じても互いの接触状態は良好な状態を保つことができる。
【符号の説明】
【0019】
1:振動子
2:レンズホルダ
3:ガイドバー
4:ガイドバー
5:加圧磁石
7:レンズ群
100:振動型駆動装置による移動体の駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも電気−機械エネルギー変換素子と接触部が形成された弾性体とを有する振動子が固定された移動体と、
前記移動体を摺動自在に保持する、平行に配された第一ガイドバーと第二ガイドバーとを備え、
前記電気−機械エネルギー変換素子に対する駆動電圧の印加によって生成された前記振動子の接触部の楕円運動によって、前記振動子の接触部と接触する前記第二ガイドバーとの間に相対移動力を発生させ、
前記移動体を、前記第一及び第二ガイドバーに沿って移動させる振動型駆動装置による移動体の駆動機構であって、
前記移動体は、前記第一ガイドバーの軸方向及び軸回りに移動可能に該第一ガイドバーに保持されると共に、
前記移動体には、前記振動子の接触部を前記第二ガイドバーに加圧接触させる加圧手段が構成され、
前記加圧手段によって、前記移動体の前記第一ガイドバー軸回りの回転運動が規制されるように、前記振動子を前記第二ガイドバーに加圧付勢されていることを特徴とする振動型駆動装置による移動体の駆動機構。
【請求項2】
前記振動子の接触部と前記第二ガイドバーとの接触領域が、前記第一及び第二ガイドバーの軸を含む平面に対し、垂直の角度を除き所定の角度となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置による移動体の駆動機構。
【請求項3】
前記振動子の接触部と前記第二ガイドバーとの接触領域が、1箇所であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動型駆動装置による移動体の駆動機構。
【請求項4】
前記加圧手段が、磁気部材によって構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の振動型駆動装置による移動体の駆動機構。
【請求項5】
前記移動体が、レンズを保持するレンズ保持部材によって構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の振動型駆動装置による移動体の駆動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−259557(P2011−259557A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130129(P2010−130129)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】