説明

接着シート及びこれを用いた半導体素子

【課題】高圧で半導体素子の封止を行った場合でも封止材が接着シートと被着体の界面に侵入せず、かつ圧着時に充填できなかった空隙を消失させることが可能で耐熱性・耐湿性に優れた接着シート及びこれを用いた半導体素子を提供する。
【解決手段】樹脂組成物から構成され、140℃で1分間加熱することで200℃以下では発泡しなくなる接着シートであって、140℃で1分間、続いて200℃で1分間加熱することによりSiNをコートしたSi基材への接着力が向上し、180℃で測定した接着力が1.0MPa以上となる接着シートとする。また、これを用いた半導体素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造に使用される接着シート及びこれを用いた半導体素子に関する。
より詳細には、リードフレーム上又はチップ上へチップを圧着実装する際に使用され、圧着実装のみでは埋め込めなかった空隙を封止充填時の高温・高圧条件にて消失させることができる耐熱性・耐湿性に優れた接着シート及びこれを用いた半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チップを多段に積層したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及しており、それらは、例えば携帯電話及び携帯オーディオ機器用のメモリパッケージとして搭載されている。
【0003】
そのような用途では、携帯電話等の多機能化に伴って、パッケージの高密度化及び高集積化が推進され、チップの多段化とパッケージの薄型化が要求されている。かかる要求を満足し得るものとして、下チップに対してチップをずらして階段状に積層するパッケージが注目を集めている。
【0004】
スタックドMCP等の半導体素子をはじめとする各種電子部品を搭載した実装基板の分野において、信頼性は重要な特性の1つである。例えば、接着面に空隙を発生させることなくチップを実装できるか否かは、接着信頼性を左右するひとつの要素として挙げられる。
特許文献1では、半導体装置の製造工程に適合し、基板やチップ上にチップを圧着する半導体素子で、圧着実装のみでは埋め込めなかった空隙を封止工程の高温・高圧条件にて消失させることができる耐熱性・耐湿性に優れた接着シートを開示している。
【0005】
近年、半導体装置の製造では、半導体装置の小型化及び薄型化を達成するために、モールドギャップを可能な限り低くデザインする傾向にある。これにより封止が不完全となる、又は封止樹脂中に空隙が残りやすくなるため、封止工程をより高温・高圧とすることで解消することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−220576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接着シートの弾性率が低い又は被着体との接着力が低い場合には、接着シートを半導体素子に用いて封止を行うと、封止樹脂が接着シートと被着体の界面または接着シート内部に浸入しやすくなる。このように封止材が浸入した場合には、下チップの回路面又はチップ自体が破損し、半導体素子の不良となることがある。
【0008】
特許文献1に記載された接着シートによれば、圧着実装のみでは埋め込めなかった空隙を封止工程の高温・高圧条件にて消失させることができるが、封止時の弾性率・被着体への接着力がともに低く、高圧で封止を行うと封止材が浸入するという不具合が発生する。このため、高圧での封止工程に対応可能な接着シートの開発が望まれている。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、接着シートを半導体素子に用いて高圧で半導体素子の封止を行った場合でも封止材が接着シートと被着体の界面に侵入せず、かつ圧着時に充填できなかった空隙を消失させることが可能で耐熱性・耐湿性に優れた接着シート及びこれを用いた半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)樹脂組成物から構成され、140℃で1分間加熱することで200℃以下では発泡しなくなる接着シートであって、140℃で1分間、続いて200℃で1分間加熱することによりSiNをコートしたSi基材への接着力が向上し、180℃で測定した接着力が1.0MPa以上となる接着シート。
【0011】
(2)封止工程を有する半導体素子の製造方法に用いられる接着シートであって、樹脂組成物から構成され、200℃で5分間加熱した後の200℃でのずり貯蔵弾性率が1〜10MPaであり、140℃で1分間、続いて200℃で5分間加熱した後に180℃/13MPa/90秒という条件にて半導体素子を封止することで完全に被着体と密着することができる接着シート。
【0012】
(3)前記樹脂組成物が、熱硬化性樹脂を100質量部と、架橋性官能基を有し、重量平均分子量が10〜80万であり、かつTgが−50〜50℃である高分子量成分を100〜200質量部と、平均粒径が1.0μm以下である無機フィラーを50〜150質量部と、硬化促進剤を0.20〜0.80質量部とを含有し、
前記熱硬化性樹脂が、70℃において液状となる又は軟化する2官能のエポキシ樹脂を15〜50質量%含む上記(1)又は(2)記載の接着シート。
【0013】
(4)前記平均粒径が1.0μm以下である無機フィラーが、99質量%以上が0.1〜4.0μmの範囲に分布する第一の無機フィラーと、99質量%以上が0.01〜1.0μmに分布する第二の無機フィラーを含む上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の接着シート。
(5)SiNをコートしたSi基材に対する接着力が2.0MPa以上であり、厚さが5〜250μmである上記(1)記載の接着シート。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の接着シートを使用し、140℃/0.04MPa/1秒でチップを実装し、圧着後のアフターヒート又はワイヤボンド前のプレヒート工程で140℃1分の熱履歴を加え、続く200℃以下、5分以下でのワイヤボンド工程を経て、180℃/13MPa/90sの封止工程で製造される半導体素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明の接着シートを使用して圧着実装し、接着シートにかかる工程内の熱履歴を200℃以下、5分間以内とすることによって、180℃/13MPa/90秒という条件で封止した場合でも、接着シートと被着体との界面及び接着シート内部への封止材の侵入を防止でき、圧着時に充填できなかった空隙を消失させることができる。
【0015】
さらに、本発明による接着シートは、SiNをコートしたSi基材に対して優れた接着強度を有し、高耐熱性及び高耐湿性にも優れているため、それら接着シートを適用して信頼性の高い半導体素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の接着シートをスライドガラス(カバーガラス)で挟んだ状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明を実施するための形態について詳細に説明する。
<接着シート>
本発明になる接着シートは、半硬化(Bステージ)状態を経て、硬化処理後に完全硬化物(Cステージ)状態となり得る樹脂組成物から構成される。そして、本発明による接着シートは、140℃で1分間加熱することで200℃以下では発泡しなくなり、140℃で1分間、続いて200℃で1分間加熱することによりSiNへの接着力が向上し、SiNをコートしたSi基材への180℃で測定した接着力が1.0MPa以上となることを特徴とする。
【0018】
なお、本発明において「SiNをコートした基材」とはSiNをコートしたSiチップ等が挙げられる。より具体的には、「SiN」とは窒化ケイ素(Si)のことである。
【0019】
また、「140℃で1分間加熱することで200℃以下では発泡しない」とは、具体的には下記の状態のことを示す。
接着シートを10mm角に打ち抜き、18mm角のカバーガラス(厚さ0.15mm)で挟み込み、60℃のホットプレート上で気泡が入らないように図1のようにラミネートする。
これを初期の状態とし、その画像をスキャナ(解像度:300pix)で取り込み、保存する。その後、ホットプレートを使用して、サンプルを140℃で1分間加熱し、スキャナ(解像度:300pix)で加熱後の状態を画像として取り込み保存する。
次に、加熱処理したサンプルをホットプレートを使用して、200℃に加熱し、同様にスキャナで加熱後の状態を画像(解像度:300pix)として取り込み保存する。加熱前後での接着シートの状態を比較することによって発泡の有無を確認する。具体的には、ボイドの割合が5(面積)%未満である場合を「発泡しない」状態とする。
【0020】
また、140℃で1分間、続いて200℃で5分間加熱した後の200℃でのずり貯蔵弾性率が1〜10MPaであり、当該接着シートにかかる工程内の熱履歴が200℃以下、5分間以内の場合には、接着シートを半導体素子に用いた場合、封止工程において180℃/13MPa/90秒という条件にて封止することで完全に被着体と密着することができることを特徴とする。
【0021】
「完全に被着体と密着」とは、以下の通りである。
まず、接着シートの接着層20μmを厚み75μmの半導体ウェハ(製品名をご開示願います)に60℃で貼り付けた。その後、それらを7.5mm角にダイシングしてチップを得る。個片化したチップの接着層を、レジスト(商品名:「AUS308」、太陽インキ製造(株)製)を塗布した基板表面上に140℃、0.04MPa、1秒間の条件で圧着してサンプルを得る。
次に、得られたサンプルを140℃で1分間加熱し、さらにホットプレートを用いて、熱履歴(200℃、5分)をサンプルに与える。次いで、モールド用封止材(日立化成工業(株)製、商品名:「CEL−9700HF」)を用いて、180℃/13MPa/90秒の条件で封止し、続いて175℃、5時間加熱することでパッケージを得る。
得られたパッケージの一部をSAT及びパッケージの断面観察により分析し、被着体との密着性を確認する。
SAT及び断面観察により、ボイドの割合が15面積%未満の状態ときを「完全に被着体と密着」しているとする。
【0022】
180℃/13MPa/90秒という条件で封止した際に封止材の浸入を防止するためには、140℃で1分間と200℃で1分間加熱した後の180℃(封止温度)での接着力が1.0MPaであることが重要で、2.0MPa以上であることがより好ましい。140℃で1分間と200℃で1分間加熱した後の180℃での接着力が1.0MPa未満であると、封止工程にて封止樹脂が接着シートと被着体の界面に浸入する傾向がある。
140℃で1分間と200℃で1分間加熱した後の、SiNをコートした基材への180℃での接着力が1.0MPa以上とするには、詳細は後述するが特定の熱硬化性樹脂の含有量、99質量%以上が0.1〜4.0μmの範囲に分布する第一の無機フィラーの含有量、硬化促進剤の含有量を特定の範囲とすればよい。それぞれの含有量については後述する。
【0023】
140℃で1分間と200℃で1分間加熱した後の、SiNをコートした基材への180℃での接着力の測定は以下のように行う。
まず、サンプルとなる接着シートを400μm厚のウェハに60℃で貼り付け、5.0mm角にダイシングする。個片化した接着シート付きチップを、SiNで表面処理したSiチップの表面に140℃/100gf/1秒の条件で圧着して接着力測定用サンプルを作製する。
次いで、ホットプレートで140℃/1分、200℃/1分加熱した。得られた試験片を用いて180℃にてダイシェア強度を測定する。
【0024】
180℃/13MPa/90秒という条件で封止することで完全に被着体と密着させるためには、140℃で1分間、続いて200℃で5分間加熱した後の200℃でのずり貯蔵弾性率が1〜10MPaであることが好ましく、1〜5MPaであることがより好ましい。140℃で1分間、続いて200℃で5分間加熱した後の200℃でのずり貯蔵弾性率が10MPaを超えると、180℃/13MPa/90sという高圧条件下の封止工程でも空隙を消失させることが困難となる。一方、1MPa未満であると封止材樹脂が接着シートと被着体の界面に浸入する傾向がある。
【0025】
200℃で5分間加熱した後の200℃のずり貯蔵弾性率の測定は以下のように行う。
厚み20μmの接着シート8枚を60℃で重ね合わせ、厚み160μmのシートを得る。次いでそのシートを厚み方向に10mm角状に打ち抜く。
ARES(レオメトリック・サイエンティフィック社製)に直径8mmの円形アルミプレート冶具をセットし、打ち抜いたサンプルシートをここにセットし、140℃で1分間加熱し、続いて200℃へ昇温する温度プラグラム条件下、5%の歪みを与えながらずり貯蔵弾性率を8秒ごとに測定し、5分経過した後の測定値を「200℃で5分間加熱した後の200℃の」すり貯蔵弾性率とする。
【0026】
<接着シートの材料>
本発明の接着シートを構成する樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、その粘度や可撓性等を適切に調整する高分子量成分と、無機フィラーとを含む。本発明で使用する樹脂組成物の一実施態様として、熱硬化性樹脂を100質量部と、架橋性官能基を有し、重量平均分子量が10〜80万であり、かつTgが−50〜50℃である高分子量成分を100〜200質量部と、平均粒径が1.0μm以下である無機フィラーを50〜150質量部と、硬化促進剤を0.20〜0.80質量部とを含有し、前記熱硬化性樹脂が、70℃において液状となる又は軟化する2官能のエポキシ樹脂を15質量%以上含む接着シートが挙げられるが、その他に添加剤、カップリング剤等を含んでもよい。以下、それぞれの成分について説明する。
なお本発明においては、上記熱硬化性樹脂の含有量、99質量%以上が0.1〜4.0μmの範囲に分布する第一の無機フィラーの含有量、硬化促進剤の含有量を特定の範囲とすることにより、SiNをコートしたSi基材への接着力が向上し、接着シートを半導体素子に用いた場合、封止工程において180℃/13MPa/90秒という封止条件にて半導体素子を封止した場合に、完全に被着体との密着性がよい接着シートとすることができる。
【0027】
また、無機フィラーが、上記第一の無機フィラーの他に、99質量%以上が0.01〜1.0μmに分布する第二の無機フィラーを含む構成とすることで、より好ましくは、それぞれの無機フィラーの含有量を熱硬化性樹脂100質量部に対して5質量部以上含有することで、完全硬化後の接着力をより高めることができ、接着シートを半導体素子に用いた場合、封止工程において180℃/13MPa/90秒という封止条件にて半導体素子を封止した場合に、被着体との密着性をよりよくできる。
【0028】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、半導体装置の製造において素子を実装する場合に要求される耐熱性及び耐湿性の観点から、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを含むことが好ましい。
【0029】
エポキシ樹脂は、硬化処理によって接着作用を有するものであればよく、特に制限されない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等の二官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂又はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂を使用することが可能である。
また多官能エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂又は脂環式エポキシ樹脂といった、周知のエポキシ樹脂を使用することも可能である。
【0030】
熱硬化性樹脂が70℃において液状となる又は軟化する2官能のエポキシ樹脂を、熱硬化性樹脂成分全量に対し15〜50質量%含むことが好ましい。50質量%を超えると、200℃での加熱処理後での架橋密度が低くなり、接着力が低く、封止材の浸入が起こりやすくなる。一方、15質量%未満であると、Bステージ状態の接着シートのずり粘度が高く、圧着時の流動性が悪くなり、被着体との濡れ不足のよる接着力低下の結果、接着シートを半導体素子に用いた場合封止する工程において封止材の浸入が起こりやすくなる。なお、特に制限するものではないが、70℃において液状となる又は軟化する2官能のエポキシ樹脂の具体例として、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。
なお、「70℃において液状となる又は軟化する」とは、常温で液体または軟化点が70℃以下の樹脂を示す。
【0031】
一方、フェノール樹脂についても特に制限はないが、加熱時の溶融性の観点から、軟化点が低いものが好ましい。具体的には、軟化点が110℃以下であることが好ましい。
また同様に、Bステージ状態では架橋度が低い方が溶融性に優れるため、フェノール当量の高いものが好ましい。
【0032】
熱硬化性樹脂におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂との配合量は、それぞれエポキシ当量と水酸基当量との当量比で、0.70/0.30〜0.30/0.70とすることが好ましく、0.65/0.35〜0.35/0.65とすることがより好ましく、0.60/0.40〜0.40/0.60とすることがさらに好ましく、0.60/0.40〜0.50/0.50の範囲とすることが最も好ましい。各樹脂の配合比が上限値を超えると、得られる接着シートの硬化性が低下するか、又は硬化処理前の接着シートの粘度が高くなり過ぎて、流動性に劣る傾向がある。
【0033】
より具体的な最良の形態として、熱硬化性樹脂は、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂と、下記一般式(2)で表されるフェノール樹脂を含むことが好ましい。
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

(式中、R〜Rは直鎖、分岐又は環状アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、水酸基、アリール基又はハロゲン原子を示し、k及びmは0〜4の整数、nは0〜3の整数を示し、繰り返し単位の数を示すpは1〜50の範囲の整数を示す。)
【0036】
上記一般式(1)及び(2)で表されるエポキシ樹脂及びフェノール樹脂は、特に制限されるものではない。しかし、該当する樹脂のなかでも、耐熱性及び耐湿性の観点から、それぞれ、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に48時間投入した後の吸水率が2質量%以下であり、熱重量分析計(TGA)で測定した250℃における加熱質量減少率が5質量%未満(昇温速度:5℃/分、窒素雰囲気下の測定による)となる樹脂を使用することが好ましい。
吸水率は、85℃/85%RHでの質量変化を測定することで得られる。
加熱質量減少率は、示唆熱分析方法を用いて測定できる。
【0037】
上記一般式(1)及び(2)で表される各種樹脂は、市販品として入手することが可能である。一般式(1)で表されるエポキシ樹脂の具体例として、東都化成株式会社製のYDFシリーズが挙げられる。また一般式(2)で表されるフェノール樹脂の具体例として、三井化学株式会社製のミレックスXLC−シリーズとXLシリーズが挙げられる。
またこれらは吸水率2質量%以下であり、加熱質量減少率が5質量%未満である。
【0038】
(高分子量成分)
本発明において使用される高分子量成分は、ウエハダイシング時に切断が容易であり、樹脂屑が出難い点、また接着力及び耐熱性が高い点、さらに未硬化状態で接着シートが高い流動性を示すという点から、ガラス転移温度(Tg)が−50〜50℃であり、重量平均分子量が10〜80万であるものが好ましい。
【0039】
高分子量成分としては、Tgが−20℃〜40℃であり、重量平均分子量が10〜80万であるものがより好ましく、Tgが−10℃〜40℃であり、重量平均分子量が20〜80万であるものがさらに好ましい。
Tgは、DSC(熱示差走査熱量計)(例えば、(株)リガク製「Thermo Plus 2」)を用いて測定した値である。
なお、本発明で規定する「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)に従って、標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値を示している。
【0040】
高分子量成分のTgが50℃を超えると、接着シートの柔軟性が低くなる場合がある。一方、Tgが−50℃未満であると、接着シートの柔軟性が高すぎるため、ウエハダイシング時に接着シートが切断し難く、バリの発生によってダイシング性が悪化する場合がある。
【0041】
また、高分子量成分の重量平均分子量が10万未満であると、接着シート成膜性の悪化やシートの接着力及び耐熱性の低下を引き起こす場合がある。一方、重量平均分子量が80万を超えると、未硬化の接着シートの流動性が低下する場合があり、接着シートを半導体素子に用いる場合、封止工程での空隙の凹凸に対する埋め込みが不完全となる可能性がある。
【0042】
本発明では高分子量成分として、上述の特性を満たすものであれば特に制限はないが、高い耐熱履歴性を発現させるため、分子内に架橋性官能基を有する化合物が好ましい。例えば、それぞれ分子内に、エポキシ基、アルコール性又はフェノール性水酸基、カルボキシル基等の架橋性官能基を有する、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノキシ樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂等をベースとする高分子量成分を使用することが可能である。
【0043】
より具体的には、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレート等の架橋性官能基を有するモノマー化合物と、(メタ)アクリル系化合物とを共重合することによって得られ、(Tg)が−50〜50℃であり、その重量平均分子量が10〜80万である、エポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体が挙げられ、それを使用することが好ましい。
【0044】
そのようなエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体を構成する(メタ)アクリル系化合物として、(メタ)アクリル酸又はそのエステル等の誘導体又はそれらの共重合体を使用することができる。
【0045】
なかでも、アクリル酸エステルを主成分とするエポキシ基含有アクリルゴムを使用することが好ましい。エポキシ基含有アクリルゴムの具体例として、ブチルアクリレートとアクリロニトリルとの共重合体及びエチルアクリレートとアクリロニトリルとの共重合体等が挙げられる。
【0046】
本発明で使用する高分子量成分は、市販品として入手することも可能である。例えば、帝国化学産業株式会社製の商品名「アクリルゴムHTR−860P」が挙げられる。この化合物は、架橋性官能基としてグリシジル部位を有し、アクリル酸誘導体からなるアクリルゴムをベース樹脂とする化合物であり、重量平均分子量が80万、ガラス転移温度Tg(−7℃)である。
【0047】
(フィラー)
本発明の接着シートを構成する樹脂組成物には、Bステージ状態における接着シートのダイシング性の向上、接着シートの取扱い性の向上、熱伝導性の向上、溶融粘度の調整、チクソトロピック性の付与、接着力の向上等を目的としてフィラーが配合される。
【0048】
配合するフィラーとしては、無機フィラーが好ましい。上述の熱硬化性樹脂及び高分子量成分に無機フィラーを適切に配合することによって、接着シートを140℃で1分間、その後200℃で1分間加熱処理後の封止工程前の180℃での接着力を1.0MPa以上に調製することが可能となる。
【0049】
硬化処理前の接着シートに高い流動性を付与し、さらに硬化処理時に適切な溶融性を付与するために、無機フィラーは、例えば、熱硬化性樹脂100質量部に対して、50〜150質量部の割合で配合することが好ましい。樹脂組成物中に過剰量の無機フィラーが存在する場合、封止工程前の弾性率が上昇し、封止時に空隙の埋込が不完全となる傾向がある。
【0050】
無機フィラーの平均粒径は、1.0μm以下であり、その99質量%が0.05〜4.0μmの範囲に分布するものが好ましい。平均粒径が0.5μmであり、その99質量%が0.05〜1.0μmの範囲に分布する無機フィラーがより好ましい。平均粒径が0.05μm未満となる無機フィラーを使用した場合、比表面積の増加と含有粒子数の増加によって接着シートの流動性が低下し、封止時に空隙の埋込が不完全となる傾向がある。一方、平均粒径が1.0μmを超えるフィラーを使用した場合、含有粒子の減少によってシート作製時の成膜性の悪化を引き起こす場合がある。
【0051】
また、無機フィラーが、99質量%以上が0.1〜4.0μmの範囲に分布する第一の無機フィラーと、99質量%以上が0.01〜1.0μmに分布する第二の無機フィラーを含む構成とすることで、より好ましくは熱硬化性樹脂100質量部に対してそれぞれ5質量部以上含有することで、完全硬化後の接着力をより高めることができ、接着シートを半導体素子に用いた場合、封止工程において180℃/13MPa/90秒という封止条件にて半導体素子を封止した場合に、被着体との密着性をよりよくできる。
【0052】
なお、本発明においてフィラーの平均粒径は、光散乱法により測定したD50とする。
【0053】
本発明において使用可能な無機フィラーとしては、特に制限するものではなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ、アンチモン酸化物等が挙げられ、これらは単独で又は2種類以上を混合して使用することが可能である。
熱伝導性向上のためには、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が好ましい。
【0054】
溶融粘度の調整やチクソトロピック性の付与の目的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が好ましい。またダイシング性を向上させるためにはアルミナ、シリカが好ましい。
【0055】
(硬化促進剤)
接着シートの円滑な硬化を促進する目的で、熱硬化性樹脂を100質量部に対し、硬化促進剤を0.20〜0.80質量部含有することが好ましく、0.40〜0.70質量部含有することがより好ましい。0.80質量部を超えると、封止時に空隙の埋込が不完全となる傾向がある。一方、0.20質量部未満であると、封止前までの熱履歴での接着シートの硬化が不十分となり、封止工程で封止材が浸入しやすくなる。
本発明において用いられる硬化促進剤は、特に制限はなく、例えば、イミダゾール類等が挙げられる。具体的には、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられ、これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
接着シートを構成する樹脂組成物は、上述の熱硬化性樹脂、高分子量成分、無機フィラー、硬化促進剤の他に、必要に応じて、触媒、添加剤、カップリング剤等の各種添加剤をさらに含んでもよい。特に制限はないが、被着体に対して接着力を向上させるために、カップリング剤を含むことが好ましい。
【0057】
<接着シートの製造方法>
本発明の接着シートは、上述のエポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂、高分子量成分、無機フィラー及び硬化促進剤、さらに必要に応じて選択される各種添加剤を有機溶媒中で混合及び混練することによってワニス状の樹脂組成物を調製し、これを基材フィルム上に塗布することによってワニス層を形成し、引き続きワニス層を加熱乾燥した後に基材フィルムを除去することによって作製することが可能である。
【0058】
混合及び混練は、通常の攪拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜組み合わせて実施することが可能である。上述の加熱乾燥の条件は、使用した有機溶媒が充分に揮散し、110℃でのずり粘度が30000Pa・s以下となる条件であれば、特に制限はない。通常は、60℃〜200℃で、0.1〜90分間にわたって加熱することによって実施する。
【0059】
ワニスとして調製した樹脂組成物を塗布する基材フィルムとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム、メチルペンテンフィルム等を使用することが可能である。
【0060】
ワニスを調製する際に使用可能な有機溶媒としては、各成分を均一に溶解し及び混練又は分散できるものであれば制限はなく、周知の有機溶媒を使用することが可能である。このような溶剤の具体例として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
乾燥速度が速く、低価格である点から、有機溶媒としてメチルエチルケトン、シクロヘキサノン等を使用することが好ましい。
【0061】
接着シートの膜厚は、十分な接着力を発現させる目的で通常5〜250μmとする。膜厚が5μm未満であると応力緩和効果や接着性が乏しくなる傾向がある。一方、膜厚が250μmを超えると経済的でなくなる上に、半導体装置の小型化の要求に対応することが困難となる。
なお、接着性が高く、また半導体装置の薄型化が可能である点から、接着シートの膜厚は5〜100μmであることがより好ましく、5〜40μmであることがより好ましい。
【0062】
本発明の接着シートは、半導体用基板又はチップ等の被着体(具体的には、SiNをコートした基材)に対する硬化後接着力が2.0MPa以上となることが好ましい。
SiNをコートした基材に対する接着力が2.0MPa以上であり、且つ厚さが5〜250μmであることがさらに好ましい。それにより、優れた耐熱性と耐湿性を実現することができる。
【0063】
<接着シートの使用>
本発明の接着シートは、それ単独で使用することも可能であるが、本発明の一実施態様として、接着シートを周知のダイシングテープ上に積層してダイシング・ダイボンディング一体型接着シートとして使用することも可能である。このように接着シートとダイシングシートとを一体化することによって、ウェハへのラミネート工程が一度で済むため、半導体素子の製造効率を高めることが可能である。
【0064】
本発明で使用可能なダイシングテープとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルム等が挙げられる。また、必要に応じて、ダイシングテープに対して、プライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理等の表面処理を実施してもよい。
【0065】
ダイシングテープは、粘着性を有することが好ましく、上述のプラスチックフィルムに粘着性を付与したものを使用しても又は上述のプラスチックフィルムの片面に粘着剤層を設けてもよい。
【0066】
このような粘着剤層は、粘着材層として周知の樹脂組成物をプラスチップフィルムの表面に塗布し、引き続き乾燥することによって形成することが可能である。本発明の接着シートに用いられる樹脂組成物を使用することも可能であり、その場合、特に熱硬化性樹脂中の液状成分であるエポキシ樹脂の比率及び高分子量成分のTgを調整することによって、樹脂組成物が適度なタック強度を有するようにすることが好ましい。
【0067】
本発明の接着シートを半導体素子の製造に適用する場合、接着シートはダイシング時には半導体素子が飛散しない粘着力を有し、その後のピックアップ時にはダイシングテープから剥離可能となることが必要である。
例えば、接着シートの粘着性が高すぎると、ピックアップ作業が困難になることがある。
【0068】
そのため、適宜、接着シートのタック強度を調節することが好ましい。調節方法としては、接着シートの室温(25℃)における溶融粘度を低下させると粘着強度及びタック強度も上昇する傾向があり、溶融粘度を上昇させると粘着強度及びタック強度も低下する傾向があることを利用すればよい。
【0069】
より具体的には、溶融粘度を低下させる場合には、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂で融点・軟化点が70℃以下のものの含有量を増加させたり、粘着付与材を添加する等によって調節可能である。
【0070】
一方、溶融粘度を上昇させる場合には、上述の化合物の含有量をそれぞれ減少させることによって調節可能である。
【0071】
ダイシングテープ上に本発明による接着シートを積層する方法としては、印刷法の他、予め作製した接着シートをダイシングテープの上にプレス又はホットロールラミネートする方法が挙げられる。連続的に製造することが可能であり、効率がよい点で、ホットロールラミネート法が好ましい。
【0072】
なお、ダイシングテープの膜厚は、特に制限はなく、接着シートの膜厚やダイシングテープ一体型接着シートの用途によって、適宜、当業者の知識に基づいて設定することが可能である。特に制限はないが、経済性がよく、シートの取扱い性がよい点で、60〜150μmの膜厚が好ましく、70〜130μmの膜厚がより好ましい。
【0073】
本発明の接着シートは、半導体素子の製造に使用することが可能である。本発明の接着シートは、本発明の接着シートにより140℃/0.04MPa/1秒でチップを実装し、圧着後のアフターヒート又はワイヤボンド前のプレヒート工程で140℃1分の熱履歴を加え、続く200℃以下5分以内のワイヤボンド工程を経て、180℃/13MPa/90秒の封止工程を含む半導体素子の製造方法に用いることが好ましい。
本発明にかかわる半導体素子の製造方法は、より具体的には、ウェハと接着シートとを0℃〜80℃で貼り合わせた後、ウェハと接着シートとの積層体を回転刃又はレーザーを使用して切断し、接着シート付きチップを得た後、この接着剤付きチップを、リードフレーム上又はチップ上に140℃/0.04MPa/1秒で圧着実装し、圧着後のアフターヒート又はワイヤボンド前のプレヒート工程で140℃1分の熱履歴を加え、続く200℃以下5分以内のワイヤボンド工程を経て、180℃/13MPa/90秒の封止工程で空隙を消失させ、被着体との密着を完全とすることが可能である。
【0074】
本発明の接着シートは、上記ずり貯蔵弾性率を1〜10MPaとすることで、半導体素子の製造方法に用いた場合、封止工程の熱履歴を200℃以下、5分間以内とすることにより、圧着実装のみでは埋め込めなかった空隙を消失させることができる。
【0075】
上述のように接着シートを単独で使用する場合には、ウェハと接着シートとを貼り合わせた後に、引き続き接着シート面にダイシングテープを貼り合わせることが好ましい。別法として、接着シートとダイシングテープとを予め貼り合わせたダイシング・ダイボンディング一体型接着シートを用いることも可能である。接着シートと貼り合わせるウェハは、単結晶シリコンの他、多結晶シリコン、各種セラミック、ガリウム砒素等の化合物半導体等から構成されるものであってよい。
【0076】
接着シートとウェハとを貼り付ける温度、即ち、ラミネート温度は、通常0〜90℃が好ましく、15〜80℃がより好ましく、20〜80℃がさらに好ましい。ラミネート温度が90℃を超えると、接着シートが過度に溶融することによって、接着シートの厚みの変化が顕著となる場合がある。ダイシングテープ又はダイシング・ダイボンディング一体型接着シートを貼り付ける際も、同様の温度で実施することが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに制限するものではない。
(実施例1〜2及び比較例1〜2)
表1に示す組成で各成分を混合し、接着シートを形成するためのワニス状の樹脂組成物をそれぞれ調製した。なお、表1に示す組成の単位は、質量部であり、各成分の詳細は以下の通りである。
【0078】
(エポキシ樹脂)
YDF−8170C(商品名、東都化成株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量159、常温で液体、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)
YDCN−700−10(商品名、東都化成株式会社製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210、軟化点75〜85℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)
【0079】
(フェノール樹脂)
フェノライトLF−4871(商品名、大日本インキ株式会社製、フェノール樹脂、水酸基当量:118、軟化点:130℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)
ミレックスXLC−LL(商品名、三井化学株式会社製、フェノール樹脂、水酸基当量:175、軟化点:77℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)
【0080】
(無機フィラー)
SC2050−HLG(商品名、アドマテックス株式会社製、シリカフィラー分散液、平均粒径:0.5μm)
アエロジルR972(商品名、日本アエロジル株式会社製、シリカ、平均粒径:0.016μm)
【0081】
(カップリング剤)
NUC A−189(商品名、GE東芝シリコーン株式会社製、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)
NUC A−1160(商品名、GE東芝シリコーン株式会社製、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン)
【0082】
(硬化促進剤)
キュアゾール2PZ−CN(商品名、四国化成株式会社製、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール)
【0083】
(高分子量成分)
アクリルゴムHTR−860P(商品名、帝国化学産業株式会社製、重量平均分子量:80万、Tg:−7℃)
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示す組成で、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂と、フィラーとを混合し、さらにシクロヘキサノンを加えて攪拌混合することによって、均一な混合物を得た。この混合物に引き続きアクリルゴムを加えて攪拌し、次いでカップリング剤と硬化促進剤とを加えて均一になるまで攪拌することによって、ワニス状の樹脂組成物を調製し、引き続き、100メッシュのフィルターでろ過し、真空脱泡した。
【0086】
このようにして調製したワニス状の樹脂組成物を、予め離型処理を施した厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)の上に塗布した。これを90℃(5分間)と、それに続く140℃(5分間)との2段階で加熱乾燥することによって、膜厚が20μmのBステージ状態の塗膜を形成し、PETからなるキャリアフィルムを備えた接着シートを作製した。その後、各実施例で作製したそれぞれの接着シートについて、以下に示す方法に沿って各種特性を評価した。
【0087】
[ずり粘度の測定]
接着層のずり粘度は下記の方法により評価した。
上記接着シート8枚から、支持フィルムを剥離除去した後、8枚の接着層を60℃で貼り合わせて厚み160μmの接着シートを得た。
【0088】
次いで、その接着シートを厚み方向に10mm角状に打ち抜いた。ARES(レオメトリック・サイエンティフィック社製)に直径8mmの円形アルミプレート治具をセットし、打ち抜いた接着シートから支持フィルムを剥いでここへセットした。その後、35〜140℃まで昇温速度5℃/分の条件の下、5%の歪みを与えながらずり粘度を8秒ごとに測定した。その結果を表2に示す。
【0089】
[140度で1分加熱した後の200℃での発泡有無確認]
最初に10mm角に打ち抜いた接着シートを18mm角のカバーガラス(厚さ0.15mm)で挟み込み、60℃のホットプレート上で気泡が入らないようにラミネートすることによって、図1に示すようなサンプルを作製した。
【0090】
これを初期の状態とし、その画像をスキャナ(解像度:300pix)で取り込み、保存した。その後、ホットプレートを使用して、サンプルを140℃で1分間加熱し、スキャナ(解像度:300pix)で加熱後の状態を画像として取り込み、保存した。
【0091】
次に、加熱後のサンプルを、ホットプレートを使用して、200℃で加熱し、同様にスキャナ(解像度:300pix)で加熱後の状態を画像として取り込み、保存した。加熱前後での接着シートの状態を比較することによって、発泡の有無を確認した。その結果を表2に示す。
なお、評価基準は以下の通りである。
発泡無し:ボイドの割合が5面積%未満。
発泡有り:ボイドの割合が5面積%以上。
【0092】
[封止前のダイシェア強度の測定]
接着力は、以下の手順に沿って接着シートのダイシェア強度を測定することによって評価した。最初に接着シートを400μm厚のウェハに60℃で貼り付け、5.0mm角にダイシングした。
【0093】
個片化した接着シート付きチップを、SiNを表面処理したチップの表面に140℃/100gf/1秒の条件で圧着してサンプルを作製し、次いで140℃/1分、続いて200℃/1分のホットプレートで加熱した。得られた試験片を用いて180℃にてダイシェア強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0094】
[200℃で5分加熱した後のずり貯蔵弾性率]
接着層のずり貯蔵弾性率は下記の方法により評価した。
上記接着シート8枚から、支持フィルムを剥離除去した後、8枚の接着層を60℃で貼り合わせて厚み160μmの接着シートを得た。
【0095】
次いで、その接着シートを厚み方向に10mm角状に打ち抜いた。ARES(レオメトリック・サイエンティフィック社製)に直径8mmの円形アルミプレート治具をセットし、打ち抜いた接着シートから支持フィルムを剥いでここへセットした。その後、200℃で5%の歪みを与えながらずり貯蔵弾性率を8秒ごとに測定し、5分経過した後の測定値を記録した。その結果を表2に示す。
【0096】
[封止時の埋込性と耐リフロー性の評価]
接着層の耐リフロー性を下記の方法により評価した。まず、接着シートの接着層20μmを厚み75μmの半導体ウェハに60℃で貼り付けた。その後、それらを7.5mm角にダイシングしてチップを得た。個片化したチップの接着層を、レジスト(商品名:「AUS308」、太陽インキ製造(株)製)を塗布した基板表面上に140℃、0.04MPa、1秒間の条件で圧着してサンプルを得た。
【0097】
次に、得られたサンプルを140℃で1分間加熱し、さらにホットプレートを用いて、ワイヤボンディングと同等の熱履歴(200℃、5分)をサンプルに与えた。次いで、モールド用封止材(日立化成工業(株)製、商品名:「CEL−9700HF」)を用いて、180℃/13MPa/90秒の条件で封止し、続いて175℃、5時間加熱することでパッケージを得た。
【0098】
得られたパッケージの一部をSATにて分析し、封止時の埋込性を確認した。また、封止材の浸入の有無については、パッケージの断面観察により確認した。埋め込み性の評価基準は以下の通りである。
○:ボイドの割合が15面積%未満。
×:ボイドの割合が15面積%以上。
【0099】
また、得られたパッケージを、JEDECで定めた環境下(レベル2、85℃、60RH%、168時間)に曝して吸湿させた。続いて、IRリフロー炉(260℃、最高温度265℃)に吸湿後のパッケージを3回通過させた。
パッケージの破損や厚みの変化、界面の剥離等が1個も観察されない場合を「A」、1個でも観察された場合を「B」と評価した。その結果を表2に示す。
【0100】
[硬化後のダイシェア強度の測定]
接着強度は、以下の手順に沿って接着シートのダイシェア強度を測定することによって評価した。最初に接着シートを400μm厚のウェハに60℃で貼り付け、5.0mm角にダイシングした。個片化した接着シート付きチップを、SiNを表面処理したチップの表面に140℃/100gf/1秒の条件で圧着してサンプルを作製した。
【0101】
次いで、140℃/1分、続いて200℃/1分のホットプレートで加熱した。得られたサンプルを封止条件相当の圧着として180℃/13MPa/30sで圧着し、さらに170℃で3時間加熱し、接着シートを硬化させた。
【0102】
得られたサンプルを85℃/60RH%条件下に168時間にわたって放置し、その後、即座に250℃でダイシェア強度を測定し、これを接着強度とした。その結果を表2に示す。
【0103】
【表2】

【0104】
表2に示されるように、本発明の接着シート(実施例1〜2)は、比較例1〜2の接着シートと比較して、溶融による未充填部位の充填性に優れていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物から構成され、140℃で1分間加熱することで200℃以下では発泡しなくなる接着シートであって、140℃で1分間、続いて200℃で1分間加熱することによりSiNをコートしたSi基材への接着力が向上し、180℃で測定した接着力が1.0MPa以上となる接着シート。
【請求項2】
封止工程を有する半導体素子の製造方法に用いられる接着シートであって、樹脂組成物から構成され、200℃で5分間加熱した後の200℃でのずり貯蔵弾性率が1〜10MPaであり、140℃で1分間、続いて200℃で5分間加熱した後に180℃/13MPa/90秒という条件にて半導体素子を封止することで完全に被着体と密着することができる接着シート。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、熱硬化性樹脂を100質量部と、架橋性官能基を有し、重量平均分子量が10〜80万であり、かつTgが−50〜50℃である高分子量成分を100〜200質量部と、平均粒径が1.0μm以下である無機フィラーを50〜150質量部と、硬化促進剤を0.20〜0.80質量部とを含有し、
前記熱硬化性樹脂が、70℃において液状となる又は軟化する2官能のエポキシ樹脂を15〜50質量%含む請求項1又は2記載の接着シート。
【請求項4】
前記平均粒径が1.0μm以下である無機フィラーが、99質量%以上が0.1〜4.0μmの範囲に分布する第一の無機フィラーと、99質量%以上が0.01〜1.0μmに分布する第二の無機フィラーを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項5】
SiNをコートしたSi基材に対する接着力が2.0MPa以上であり、厚さが5〜250μmである請求項1記載の接着シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着シートを使用し、140℃/0.04MPa/1秒でチップを実装し、圧着後のアフターヒート又はワイヤボンド前のプレヒート工程で140℃1分の熱履歴を加え、続く200℃以下、5分以下でのワイヤボンド工程を経て、180℃/13MPa/90sの封止工程で製造される半導体素子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−132884(P2010−132884A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246790(P2009−246790)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】