説明

摩擦材及びその製造方法

【課題】バックプレートとの密着性が確保された摩擦材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む、造粒物Aと造粒物Bから、該造粒物Aの結合材比率A(質量比)と該造粒物Bの結合材比率B(質量比)が、結合材比率A/結合材比率B=1/5〜1/2であり、造粒物Aからなる層Aと造粒物Bからなる層Bを積層したものを一体に硬化してなり、該層Aを摩擦面側に設置したことを特徴とする摩擦材。バックプレート上に上記層A及び層Bを積層したものを加熱、及び加圧成形する摩擦材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材に関するものであり、特に自動車、荷物車両、鉄道車両、産業機械などに用いられる摩擦材に関するものであり、より具体的には前記の用途に使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦材の製造方法には、結合材、繊維基材及び摩擦調整材等の全原料粉末を均一に混合し、この原料混合物を加熱・加圧成形する(詳しくは原料混合物を金型内で予備成形後、プレッシャプレートをセットした金型に移して加熱・加圧して前記プレッシャプレートと一体成形し、次いでアフターキュアする)乾式法と、全原料粉末を溶剤の存在下で均一に混合、湿潤化し、この湿潤原料混合物を乾燥後、加熱・加圧成形する湿式法がある。
しかし、いずれの方法も作業環境上問題があり、乾式法では摩擦材の製造中、粉塵を伴ない、また湿式法では作業環境上、トルエン、ケトン類やアルコール類等の好ましくない有機溶剤が使用されてる。
そこで、例えば、ディスクブレーキ用パッドの作製方法として、上記摩擦材原料を造粒化した、簡易的な工法が提案されている。
特許文献1には、熱硬化性樹脂結合材、繊維基材及び摩擦調整材を主体とする原料を乾式混合しながら、水−アルコール混合溶媒からなる粘結凝集剤を添加、混合して原料混合物を湿潤化すると共に粘性を付与し、これを造粒して顆粒物とし、乾燥後、加熱・加圧成形することにより、粉塵や有機溶剤による作業環境上の問題を解消すると共に、湿式法の利点を維持しながら、湿式法の欠点である造粒時や乾燥時の顆粒物の破壊を防止し得る摩擦材を製造できる旨の記載がある。
特許文献2には、ディスクブレーキに用いられる多層構造を持つ摩擦材において、裏板に接する層に造粒材料を用い、該造粒材料を金型に投入する前にあらかじめ金型をバインダーが溶融し且つ硬化反応が進まない温度で予熱しておき、該造粒材料を投入し、予備成形により裏板と一体化したのち、該一体化物を別の熱成形金型にセットし、裏板に接しない材料を投入し、バインダーが硬化反応する温度以上で熱成形することにより、複雑化する工程を簡略化し、且つ摩擦面における摩擦性能はもとより、裏板との密着性を保ち、品質を安定化し、作業を容易にならしめる摩擦材の製造方法が記載されている。
しかしながら、造粒物を用いる摩擦材の製法では、摩擦材とバックプレートとの接着性の安定性に懸念がある。これは、造粒品とバックプレート接着剤面との接触面積の確保が難しく、また、接着剤の摩擦材側への侵入も不安定であり、投錨効果も発揮されにくいことが原因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−136145号公報
【特許文献2】特許第3391120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、バックプレートとの密着性が確保された摩擦材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の摩擦材は、少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む、造粒物Aと造粒物Bから、該造粒物Aの結合材比率A(質量比)と該造粒物Bの結合材比率B(質量比)が、結合材比率A/結合材比率B=1/5〜1/2であり、造粒物Aからなる層Aと造粒物Bからなる層Bを積層したものを一体に硬化してなり、該層Aを摩擦面側に設置したことを特徴とする。
本発明の摩擦材の製造方法は、バックプレート上に上記層A及び層Bを積層したものを加熱、及び加圧成形する。
本発明において、バックプレートとは、例えば、ディスク用ブレーキのプレッシャプレートやドラム用ライニングのシューリムを言う。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、結合材比率の異なる2種の造粒物を用いて、バックプレートととの接着性が向上した摩擦材を簡易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の摩擦材に用いる造粒物Aまたは造粒物Bは、少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む。造粒物Aと造粒物Bで用いる材料は、同じでも異なっていても良い。造粒物Aの結合材比率A(質量比)と造粒物Bの結合材比率B(質量比)は、結合材比率A/結合材比率B=1/5〜1/2であり、好ましくは1/4〜1/2である。この質量比を満たすことにより、バックプレートとの接着性を確保することができる。また、造粒物Aの当該結合材は、造粒物A全体の5〜10質量%が好ましく、6〜8質量%が更に好ましい。上記結合材比率に用いる結合材とは、熱硬化性樹脂を意味する。
本発明の摩擦材は、造粒物Aからなる層Aと造粒物Bからなる層Bを積層したものを一体に硬化してなり、層Aを摩擦面側に設置する。
造粒物A及び造粒物Bから選ばれる1種または2種は、平均粒径が100〜1000μmで、安息角が40°以下、圧壊強度が1粒当り0.2〜1MPaであることが好ましく、平均粒径が300〜900μmであることが更に好ましい。上記範囲は、バックプレートとの接着性がより有効に確保され、造粒物A及び造粒物B共に満たすことが好ましい。
上記平均粒径、安息角、圧壊強度は、以下により測定した値である。
1)平均粒径:レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター、LS13320)
2)安息角:粉体物性測定機(ホソカワミクロン、パラダーテスタ PT−R型)
3)圧壊強度:卓上圧縮試験機(島津製作所、EZ TEST−100)
本発明は、造粒物Aからなる層Aと造粒物Bからなる層Bを積層したものにおいて、層A/層Bの質量比が、5/1〜6/1であることが好ましい。
【0008】
本発明の摩擦材を製造するには、バックプレート上に造粒物Aからなる層Aと造粒物Bからなる層Bを積層したものを加熱、及び加圧成形することができる。所望により成形後、研磨等の処理を施すことができる。
上記加熱、加圧条件は、造粒物組成等に応じて適宜設定することができる。
上記積層は通常、バックプレート上に形成されるが、所望によりそれ以外の基板、例えば、硬化後に容易に剥離可能な基板に積層を形成し、硬化後、硬化物を剥離し、摩擦材としてもよい。また、この剥離した摩擦材と造粒物Bを用いてバックプレートに接着することもできる。
【0009】
本発明に用いられる結合材としては、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、ゴム等による各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。本発明では、造粒物Aと造粒物Bで結合材の種類を変えても同じものを用いてもよいが、造粒物Bとしては、バックプレートとの接着性と造粒物Aへの結合材の投錨性が両立するものが好ましい。造粒物Bの結合材としては、ポリビニルブチラール(PVB)変性フェノール樹脂、NBR変性フェノール樹脂等を挙げることができる。
また、材料の混合、分散を向上させる目的でポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキサイド等の熱可塑性樹脂を結合材中、1〜2質量%用いることもできる。
【0010】
本発明に用いられる繊維基材としては、有機系でも無機系でもよく、例えば、有機系としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられ、無機系としては、銅、スチール等の金属繊維、チタン酸カリウム繊維、Al−SiO系セラミック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール等が挙げられ、各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0011】
本発明に用いられる摩擦調整材としては、例えば、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化クロム、二酸化モリブデン等の金属酸化物、合成ゴム、カシュー樹脂等の有機物、銅、アルミニウム、亜鉛等の金属、バーミキュライト、マイカ等の鉱物、硫酸バリウム、ケイ酸ジルコニウム、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム等の塩、黒鉛を挙げることができ、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらは、粉体等で用いられ、粒径等は種々選定される。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0013】
実施例1
表1に示す組成(質量部)の造粒物Aまたは造粒物Bの配合材料を混合後、複合型流動層造粒装置にて、平均粒径600μm、安息角38°、圧壊強度(1粒当り)0.2MPaの造粒物A、及び平均粒径600μm、安息角38°、圧壊強度(1粒当り)1MPaの造粒物Bを作製した。なお、分散性を高めるためにPVAを用いた。
熱成形の型のプレッシャプレート上に造粒物Bを投入後、造粒物Aを投入して造粒物Aからなる層Aと造粒物Bからなる層Bを積層の積層(層A/層Bの質量比は、5/1)を形成し、160℃、50MPaで10分間加熱加圧成形し、次いで250℃、3時間熱処理し、ディスクパッドを作製した。
【0014】
【表1】

【0015】
比較例1
実施例1において、造粒物Bに代えて造粒物Aを同量用いた以外は、実施例1と同様にして摩擦材を作製した。
得られた摩擦材の性能を以下により評価した。
(せん断強度試験)
ディスクパッドフルサイズせん断強度試験をJASO C444−78に準じて常温、及び高温(300℃)にて行った。結果を表2に示す。
【0016】
【表2】

【0017】
上表より、常温、高温強度共に実施例1は比較例1を上回っており、本内容の優位性が検証できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む、造粒物Aと造粒物Bから、該造粒物Aの結合材比率A(質量比)と該造粒物Bの結合材比率B(質量比)が、結合材比率A/結合材比率B=1/5〜1/2であり、造粒物Aからなる層Aと造粒物Bからなる層Bを積層したものを一体に硬化してなり、該層Aを摩擦面側に設置したことを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記造粒物A及び造粒物Bから選ばれる1種または2種は、平均粒径が100〜1000μmで、安息角が40°以下、圧壊強度が1粒当り0.2〜1MPaである請求項1の摩擦材。
【請求項3】
前記層A/層Bの質量比が、5/1〜6/1である請求項1又は2の摩擦材。
【請求項4】
バックプレート上に請求項1の層A及び層Bを積層したものを加熱、及び加圧成形する摩擦材の製造方法。

【公開番号】特開2011−1987(P2011−1987A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144096(P2009−144096)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】