説明

操舵トルク検出方法及び電動パワーステアリング装置

【課題】従来に比して簡易な構成による操舵トルクの検出を可能とする電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】運転者のステアリング・ホイール3の操作による操舵トルクを電動モータ7により助勢し、舵取装置6を介して車輪15a,15bへ伝達可能に構成されてなる電動パワーステアリング装置において、ステアリング・ホイール3と舵取装置6との間には、トーションバーン12を挟んで、2つのジャイロセンサ2a,2bが設けられ、2つのジャイロセンサ2a,2bにより検出された角速度ω1,ω2の差の積分値が算出され、その積分値に基づいて所定の演算式により操舵トルクが算出されるよう構成されたものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者によるステアリング・ホイールの操作に応じて、モータによりステアリングラック及びステアリング操作等の動きをアシストする電動パワーステアリング装置に係り、特に、構成の簡素化、信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来装置としては、トルクセンサにより検出されたステアリング・ホイールの操舵トルクと、舵角センサにより検出されたステアリング・ホイールの操舵角に基づいて、ステアリングコラムやステアリングラックにあるモーターを電子制御し、これらステアリングコラムやステアリングラックの動きを補助することで、運転者のステアリング・ホイール操作を支援する電動パワーステアリング装置が種々提案、実用化されている(例えば、特許文献1等参照)。
かかる電動パワーステアリング装置において、ステアリング・ホイールの操舵力を検出するトルクセンサとしては、例えば、いわゆるトーションバーのねじれ量を、磁気歪み信号や、磁束変化信号として検出できるように構成されたセンサなどが種々提案、実用化されている(例えば、特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−71756号公報(第2頁、図1−図2)
【特許文献2】特開2011−80870号公報(第6−13頁、図1−図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来のトルクセンサは、多数の機械部品からなり、トーションバの適宜な部位に外嵌される構成のものが主流であり、そのため、取り付け作業に時間を要し、コスト高の要因となるだけではなく、装置構成の複雑化を招くという問題がある。
また、車両においては、その構成部品の取り付けに要するスペースは極力小さいことが望まれるが、上述のような従来のトルクセンサは、その構造上、比較的取り付けスペースの確保が必要であるため、取り付けスペースのさらなる縮小化が望まれるという問題もある。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、従来に比して簡易な構成による操舵トルクの検出を可能とする操舵トルク検出方法、及び、電動パワーステアリング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る操舵トルク検出方法は、
運転者のステアリング・ホイールの操作による操舵トルクを電動モータにより助勢し、舵取装置を介して車輪へ伝達可能に構成されてなる電動パワーステアリング装置における前記操舵トルクの検出方法であって、
前記ステアリング・ホイールと前記舵取装置との間に設けられたトーションバーンを挟んで、2つのジャイロセンサを設け、
前記2つのジャイロセンサにより検出された角速度の差の積分値を算出し、前記積分値に基づいて所定の演算式により前記操舵トルクを算出するよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る電動パワーステアリング装置は、
運転者のステアリング・ホイールの操作による操舵トルクを電動モータにより助勢し、舵取装置を介して車輪へ伝達可能に構成されてなる電動パワーステアリング装置であって、
前記ステアリング・ホイールと前記舵取装置との間に設けられたトーションバーンを挟んで、2つのジャイロセンサが設けられ、
前記2つのジャイロセンサにより検出された角速度の差の積分値が算出され、前記積分値に基づいて所定の演算式により前記操舵トルクが算出され、前記演算算出され操舵トルクが前記電動モータの制御に供されるよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ジャイロセンサをトーションバーの前後に取り付ければ良いので、従来のトルクセンサを設ける構成に比して、簡易な構成となり、部品点数の削減が図られるだけでなく、従来のような取り付けの際の調整作業が不要となるため、装置のさらなる低価格化を実現することができる。
また、2つのジャイロセンサを設け、これら2つのジャイロセンサの出力信号に基づいて演算により操舵トルクを得るように構成したので、一方が故障した場合、2つの信号の対比によって、その故障を検出できるだけでなく、故障したセンサの出力に代えて、例えば推定値等の所定の代替値を用いる等によって、応急的な操舵トルクを得ることができ、ISO(国際標準化機構)に規定される自動車の安全性に関する規格であるASIL(Automotive Safety Integrity Level)の最高レベル(ASIL-D)をも満足することが可能となるという効果を奏するものである。特に、ジャイロセンサとしてのMEMSジャイロセンサを用いたものにあっては、上述の効果をさらに確実なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態における電動パワーステアリング装置の概略構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における操舵トルク算出処理を実行する電子制御ユニットの機能を機能ブロックで表した機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態における操舵トルク算出処理の他の例を実行する電子制御ユニットの機能を機能ブロックで表した機能ブロック図である。
【図4】MEMSジャイロセンサを舵角センサとして用いた場合の舵角算出処理を説明する電子制御ユニットの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図3を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における電動パワーステアリング装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における電動パワーステアリング装置は、ステアリングコラム1に取着された2つのジャイロセンサ2a,2bと、後述するように2つのジャイロセンサ2a,2bの出力に基づいてステアリング・ホイール3の操舵トルクの演算算出処理(詳細は後述)等が実行される電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4と、電子制御ユニット4により得られた操舵トルク等に基づいてパワーステアリング制御が実行される電子パワーステアリング制御ユニット(図1においては「EPS」と表記)5とに大別されて構成されてなるものである。
【0010】
なお、図1は、図示を簡素化して発明の理解を容易とするため、電子パワーステアリング制御ユニット5において実行されるパワーステアリング制御に必要とされる操舵トルクを得るに必要な構成部分のみを示し、電子パワーステアリング制御ユニット5で必要とされる他の信号等の供給などに関する部分については図示を省略してある。
【0011】
まず、電子制御ユニット4、電子パワーステアリング制御ユニット5は、いずれも、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータを中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)や、外部とのインターフェイス回路(図示せず)等を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる電子制御ユニット4は、操舵トルク算出処理(詳細は後述)を実行するものとなっている。
一方、電子パワーステアリング制御ユニット5は、上述の電子制御ユニット4により得られた操舵トルクや、図示されない舵角センサにより得られた舵角などのデータに基づいて、舵取装置6内に設けられたモータ7(図2参照)によりステアリングラック(図示せず)を駆動することで操舵トルクに対するパワーアシストを行うようになっているものである。
【0012】
一方、ステアリングカラム1は、ステアリング・ホイール3が固着された入力軸11と、トーションバー12と、出力軸13とに大別されてなり、入力軸11と出力軸13は、トーションバー12を介して接続されたものとなっている。そして、出力軸13は、図示されないシャフトを介して舵取装置6に接続されている。
舵取装置6は、例えば、ラックアンドピニオン式のもので、ステアリング・ホイール3の回転が、舵取装置6の図示されないピニオン、及び、このピニオンと噛合する図示されないラックへ伝達されるものとなっている。この図示されないラックの動きは、タイロッド14a,14bを介して、その端部に取着された車輪15a,15bの舵角変更に変換されるようになっている。
【0013】
上述の舵取装置6のラック(図示せず)には、同装置6内に設けられ、電子パワーステアリング制御ユニット5により動作制御されるたモータ7(図2参照)の回転力が付与されて、ステアリング・ホイール3の操作により生じた操舵トルクに対するパワーアシストがなされるようになっている。
【0014】
本発明の実施の形態におけるジャイロセンサ2a,2bは、Si(シリコン)マイクロマシニング技術を利用したいわゆるMEMS(micro electro mechanical systems)ジャイロセンサ(角速度)が用いられており、かかるMEMSジャイロセンサ自体は、本発明特有のものではなく、周知・公知の構成を有してなるものである。
従来、このようなジャイロセンサは、車両においてヨーレートセンサとして一つ用いられているものであるが、本発明の実施の形態においては、従来ヨーレートセンサとして用いられていたジャイロセンサ、特に、MEMSジャイロセンサを2つ設けることで、後述するようにステアリング・ホイール3の操舵トルクを検出する従来のトルクセンサの機能を果たし得るようにしたものである。
【0015】
なお、MEMSジャイロセンサには、センシング部分のみのもの、センシング部分と信号増幅等を行う電子回路とを含んだものなど種々の形態があるが、本発明の実施の形態においては、センシング部分のみの構成のものが用いられている。これは、電子回路を含む構成のものと比べて、ジャイロセンサ2a,2bと電子制御ユニット4間における電源供給線が不要となり、電子制御ユニット4との間の配線を必要最小限とすることができるためである。
【0016】
ジャイロセンサ2a,2bは、図1に示されたように、ステアリングカラム1の軸方向でトーションバー12を挟んで任意の2カ所において取着されたものとなっている。
すなわち、本発明の実施の形態においては、一方のジャイロセンサ2aは、入力軸11上の任意の箇所に、他方のジャイロセンサ2bは、出力軸13上の任意の箇所に、それぞ取着されたものとなっている。
【0017】
ジャイロセンサ2a,2bの取り付け場所は、上述の例に限定される必要はなく、ステアリング・ホイール3の舵角に応じた動きを、トーションバー12を挟んで2カ所で検出可能な場所であれば良い。
したがって、一方のジャイロセンサ2aは、ステアリング・ホイール3からトーションバー12に至るまで間の任意の場所に、他方のジャイロセンサ2bは、トーションバー12の出力軸13との接続部から舵取装置6に至るまでの間の任意の場所に、それぞれ取着するのが好適である。
【0018】
次に図2を参照しつつ、電子制御ユニット4において行われる2つのジャイロセンサ2a,2bの検出信号に基づくステアリング・ホイール3の操舵トルクの算出処理について説明する。
図2は、電子制御ユニット4において実行される2つのジャイロセンサ2a,2bの検出信号に基づくステアリング・ホイール3の操舵トルクの算出処理を、機能ブロックにより示したものである。
【0019】
2つのジャイロセンサ2a,2bにより得られた角速度信号ω1,ω2は、電子制御ユニット4内で、必要な増幅、信号整形等が施された後、デジタル信号とされ、デジタル演算により、それぞれ積分されて、角度α1,α2が算出される(図2の符号a、b参照)。
ここで、この角度α1、α2は、ジャイロセンサ2a,2bが取り付けられた部材、例えば、出力軸13に生ずる回動角度で、その大きさは操舵トルクに応じたものである。
【0020】
次いで、2つの角度α1、α2の差(α1−α2)=αが演算算出される(図2の符号c参照)。
そして、角度差αの関数として予め設定された操舵トルク算出関数f(α)により、この時点の角度差αに対する操舵トルクX(mN)が算出され(図2の符号d参照)、従来のトルクセンサを用いた場合と同様に、電子パワーステアリング制御ユニット5によるモータ7の駆動制御に供されることとなる。
【0021】
図3には、2つのジャイロセンサ2a,2bの検出信号に基づくステアリング・ホイール3の操舵トルクの算出処理の他の構成例が示されており、以下、同図を参照しつつ説明する。
この例においては、2つのジャイロセンサ2a,2bにより得られた角速度信号ω1,ω2は、電子制御ユニット4内で、必要な増幅、信号整形等が施された後、デジタル信号とされ、2つの角速度ω1,ω2の差(ω1−ω2)がデジタル演算により算出される(図3の符号e参照)。
【0022】
次いで、上述のようにして得られた角速度差(ω1−ω2)について積分が行われ、角速度差(ω1−ω2)に応じた角度αが算出される(図3の符号f参照)。
そして、求められた角度αに対する操舵トルクX(mN)が操舵トルク算出関数f(α)により算出される点は、図2で説明したと同様(図2の符号d参照)であり、図3においては、かかる処理についての図示を省略してある。
【0023】
上述のように本発明の実施の形態における電動パワーステアリング装置においては、2つのMEMSジャイロセンサ2a,2bを用いる構成としたので、一方が故障した場合、例えば、2つの信号の対比によって、その故障を検出できるだけでなく、故障したセンサの出力に代えて、推知値を用いる等によって、応急的な操舵トルクを得ることができ、ISO(国際標準化機構)に規定される自動車の安全性に関する規格であるASIL(Automotive Safety Integrity Level)の最高レベル(ASIL-D)をも満足することが可能となっている。
【0024】
次に、ジャイロセンサを用いて舵角を検出する構成例について、図4を参照しつつ説明する。なお、説明の便宜上、適宜、図1も参照することとする。
この例は、舵角センサとしてのMEMSジャイロセンサ8を設け、次述するように、その出力信号に基づく演算処理によってステアリング・ホイール3の舵角を得て、電子パワーステアリング制御ユニット5に供することができるようにしたものである。
まず、舵角センサとしてのMEMSジャイロセンサ8は、従来の角度センサ同様、ステアリング・ホイール3の舵角を検出可能な場所に取り付けられるもので、例えば、ステアリングカラム1の適宜な位置に取り付けられる。
【0025】
さらに、この構成例においては、基準値取得のために基準センサとしてのMEMSジャイロセンサ9が設けられている。かかる基準センサとしてのMEMSジャイロセンサ9は、車両(図示せず)の動きを、基準データとして取得するためのものであるため、車両のシャシ(図示せず)に固着される必要がある。
【0026】
次に、電子制御ユニット4における舵角算出処理について説明する。
電子制御ユニット4において、舵角センサとしてのMEMSジャイロセンサ8の出力値から、基準センサとしてのMEMSジャイロセンサ9の出力値が減算される(図4の符号g参照)。かかる減算により、X軸方向(車両の前後方向)まわりにおけるローリング成分と、Y軸方向(X軸に直交する車両の横方向)まわりの傾き成分が除去されることとなる。
そして、上述の減算結果に対する積分が施され(図4の符号h参照)、その積分結果は、ステアリング・ホイール3の舵角として、電子パワーステアリング制御ユニット5によるモータ7の駆動制御に供されることとなる。
なお、この構成例における基準センサとしてのMEMSジャイロセンサ9は、車両のシャシに固定されているものであれば、この構成例のように基準センサを独立に設ける場合に限定される必要はなく、例えば、ESC(横滑り防止装置)で車両のヨーレートの検出に用いられているジャイロセンサを本構成例における基準センサとして共用する構成としても良く、また、エアバック等の乗員保護装置において制御ユニット内等に取り付けられて制御に用いられるジャイロセンサを基準センサとして共用する構成としても良く、種々改変可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
より簡易な構成による操舵トルクの検出機構が所望される電動パワーステアリング装置に適する。
【符号の説明】
【0028】
1…ステアリングカラム
2a,2b…ジャイロセンサ
3…ステアリング・ホイール
4…電子制御ユニット
5…電子パワーステアリング制御ユニット
6…舵取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のステアリング・ホイールの操作による操舵トルクを電動モータにより助勢し、舵取装置を介して車輪へ伝達可能に構成されてなる電動パワーステアリング装置における前記操舵トルク検出方法であって、
前記ステアリング・ホイールと前記舵取装置との間に設けられたトーションバーンを挟んで、2つのジャイロセンサを設け、
前記2つのジャイロセンサにより検出された角速度の差の積分値を算出し、前記積分値に基づいて所定の演算式により前記操舵トルクを算出することを特徴とする操舵トルク検出方法。
【請求項2】
ジャイロセンサは、MEMSジャイロセンサであることを特徴とする請求項1記載の操舵トルク検出方法。
【請求項3】
運転者のステアリング・ホイールの操作による操舵トルクを電動モータにより助勢し、舵取装置を介して車輪へ伝達可能に構成されてなる電動パワーステアリング装置であって、
前記ステアリング・ホイールと前記舵取装置との間に設けられたトーションバーンを挟んで、2つのジャイロセンサが設けられ、
前記2つのジャイロセンサにより検出された角速度の差の積分値が算出され、前記積分値に基づいて所定の演算式により前記操舵トルクが算出され、前記演算算出され操舵トルクが前記電動モータの制御に供されるよう構成されてなることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
ジャイロセンサは、MEMSジャイロセンサであることを特徴とする請求項3記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−79875(P2013−79875A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220271(P2011−220271)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】