説明

放射線画像記録読取装置および該装置の製造方法

【課題】放射線画像情報を潜像として記録する放射線画像記録パネルと、読取光を発する面状光源とが一体的に構成されてなる放射線画像記録読取装置において、光源からの光を効率よく利用すると共に、読取画像の鮮鋭度を向上させる。
【解決手段】放射線画像情報を潜像として記録する画像検出パネル10と、この画像検出パネル10に記録された画像情報を読み取るために、面状光源30から発せられた読取光を該画像検出パネル10に照射する構成を有する画像読取手段20とからなる放射線画像記録読取装置1において、画像検出パネル10と面状光源30とを、面状光源30の上面に設けられた樹脂層36と、該樹脂層36と画像検出パネル10との間に設けられた接着層37とを介して積層して接合し、樹脂層36の接着層37と接する面36aを、読取光に対して指向性を与える面とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線画像記録読取装置、特に詳細には、放射線画像情報を記録する画像記録手段と、この画像記録手段に読取光を照射することにより記録画像情報を読み取る画像読取手段とが一体化されてなる放射線画像記録読取装置に関するものである。
【0002】
また、本発明は放射線画像記録読取装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、医療用放射線画像の記録再生においては、特許文献1等に示されるように、X線等の放射線に感応する例えばa−Seから成るセレン板等の光導電体を感光体(放射線画像記録媒体)として用い、該感光体等に放射線画像情報を担持する放射線を照射して放射線画像情報に対応する潜像電荷を蓄積させ、その後レーザビームで該感光体を走査し、そのとき感光体内に生じる電流を感光体両側の平板電極あるいはクシ電極を介して検出することにより、潜像電荷が担持する静電潜像すなわち放射線画像情報を読み取るシステムが知られている。
【0004】
上述のように、画像情報を潜像として記録する画像記録手段と、この画像記録手段を光源から発せられた読取光により走査し、それにより該画像記録手段から発せられた光を光電変換して画像情報を読み取る画像読取手段とから構成される画像記録読取装置においては、例えば特許文献2に示されるように、画像読取手段の読取光光源を面状光源として、画像記録手段である放射線画像検出パネルと面状光源とを一体化して小型化することも提案されている。
【0005】
また近時、面状光源として、同じく特許文献2に示されるように、有機EL発光素子を用いることも考えられている。
【特許文献1】米国特許第4176275号明細書
【特許文献2】特開2001−264496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述のように画像記録手段と画像読取手段の面状光源とを一体化する上で具体的には、それらを接着層によって接合することが考えられる。両者を一体化した場合において、光源と読取光導電層との間には電極層等の複数の層が存在し、光源からの光が拡散して光導電層に入射してしまうために、画像の鮮鋭度が十分でないという問題がある。
【0007】
画像の鮮鋭度を向上させるために、画像記録手段と面状光源との間に集光シートを挿入することも考えられるが、集光シートを備えた場合、集光シートにおける面状光源からの光の吸収率が非常に大きく、発光光の3%程度しか読取光として利用できないという問題がある。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、画像記録手段と画像読取手段の面状光源とが一体化されてなる画像記録読取装置において、光源からの光を効率よく利用可能であり、かつ読取画像の鮮鋭度を向上させた放射線画像記録読取装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は光源からの光を効率よく利用可能であり、かつ読取画像の鮮鋭度を向上させることができる放射線画像記録読取装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による放射線画像記録読取装置は、放射線画像を担持した記録用放射線の照射量に応じて電荷を発生する記録用光導電層と、読取光の照射を受けて電荷を発生する読取用光導電層とを備えて前記放射線画像を静電潜像として記録する放射線画像検出パネルと、該放射線画像検出パネルに読取光を照射して記録された前記静電潜像を読み出す画像読取手段とを備えた放射線画像記録読取装置において、
前記画像読取手段が、前記読取光を発光する発光層を有する面状光源を備え、
前記放射線画像検出パネルと前記面状光源とが、該面状光源の上面に設けられた樹脂層と、該樹脂層と前記放射線画像検出パネルとの間に設けられた接着層とを介して積層して接合されており、
前記樹脂層の前記接着層と接する面が、前記読取光に対して指向性を与える面であることを特徴とするものである。
【0011】
ここで、「指向性を与える面」とは、発光層において発光した読取光を該面における散乱(拡散)を抑制する作用を有する面であることを意味し、具体的には、前記面の平均粗さ(Ra)が110nm以下であること、前記面が、前記読取光を集光して少なくとも一方向に収束させる複数のレンズ状部が配列されてなるレンズ面であることなどが挙げられる。なお、前記樹脂層の面の平均粗さが110nm以下の平滑な面である場合、面状光源の発光層と放射線画像検出パネルの読取用光導電層との距離は200μm以下であることが望ましい。
【0012】
本発明の放射線画像記録読取装置の製造方法は、前記面状光源の表面に樹脂層を形成し、前記樹脂層の表面に、所定の面状の表面を有する型材の該表面を重ねて前記所定の面状を転写し、前記型材を剥離した後、前記樹脂層の表面に前記接着層を介して前記放射線画像検出パネルを接着することを特徴とする。
【0013】
前記所定の面状は、平均粗さ(Ra)が100nm以下であることが望ましい。あるいは、前記所定の面状は、前記読取光を集光して少なくとも一方向に収束させる複数のレンズ状部が配列されてなるレンズ面に対応したものであることが望ましい。
【0014】
なお、前記型材の少なくとも表面がフッ素樹脂を含むものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の放射線画像記録読取装置によれば、放射線画像検出パネルと面状光源とが、該面状光源の上面に設けられた樹脂層と、該樹脂層と前記放射線画像検出パネルとの間に設けられた接着層とを介して積層して接合されており、樹脂層の接着層と接する面が、読取光に対して指向性を与える面であるため、画像検出パネルと面状光源との間に集光シートを備えることなく、読取光を拡散させずに画像検出パネルの読取用光導電層に照射させることができる。集光シートを備えないため発光層から発光された光を集光シートによる吸収を生じることなく効率よく読取光として利用でき、読取光を拡散させず読取用光導電層に照射させるため鮮鋭度の高い読取画像を得ることができる。
【0016】
本発明の放射線画像記録読取装置の製造方法によれば、面状光源の表面に形成された樹脂層の表面に、所定の面状の表面を有する型材の該表面を重ねて所定の面状を転写するので、簡単な工程で、樹脂層の表面を平均粗さが110nm以下の平滑な面、あるいは読取光を集光して少なくとも一方向に収束させる複数のレンズ状部が配列されてなるレンズ面などの所定の面状とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による放射線画像記録読取装置1の概略斜視形状を示すものであり、また図2は図1中のX−Z断面形状を、図3は同じく図1中のX−Y断面形状を示している。
【0018】
図示の通りこの放射線画像記録読取装置1は、放射線画像を静電潜像として記録する放射線画像検出パネル10と、該放射線画像検出パネル10に読取光を照射して記録された前記静電潜像を読み出す放射線画像読取手段20とを備え、放射線画像検出パネル10と放射線画像読取手段20の面状光源30とが、樹脂層36と接着層37とを介して積層して接合されてなるものである。
【0019】
放射線画像検出パネル10は、放射線画像情報を静電潜像として記録し、読取光で走査されることにより、記録している静電潜像に応じた電流を発生するものであり、具体的には、記録用の放射線を透過させる第1の導電体層11、記録用電磁波の照射を受けることにより導電性を呈する画像記録手段としての記録用光導電層12、導電体層11に帯電される電荷(潜像極性電荷;例えば負電荷)に対しては略絶縁体として作用し、かつ該電荷と逆極性の電荷(輸送極性電荷;上記例においては正電荷)に対しては略導電体として作用する電荷輸送層13、読取光の照射を受けることにより導電性を呈する読取用光導電層14、読取光に対して透過性を有する第2の導電体層15がこの順に積層されてなるものである。図中斜線部として示す上記導電体層15はクシ歯状に形成されており、以下このクシ歯部分を「クシ電極15a」と称する。なおこのようなクシ電極については、例えば特開2000−105297号公報に詳しい記載がなされている。
【0020】
放射線画像読取手段20は、面状光源30と、この面状光源30を制御する光源制御手段40と、電流検出手段50とから構成されている。
【0021】
面状光源30は有機EL発光素子であって、基本的に、絶縁基板31と、この絶縁基板31の上に形成された平板状全面電極32と、この全面電極32と向かい合うように配置されたクシ電極34と、このクシ電極34と全面電極32との間に挟持された有機EL発光層33と、クシ電極34の上に形成された絶縁層35とから構成されている。
【0022】
上記クシ電極34は、有機EL発光層33が発する光に対して半透過性の材料から形成され、放射線画像検出パネル10のクシ電極15aと略直交する向きに形成されている。一方上記全面電極32は、有機EL発光層33が発する光を略100%反射する材料から形成されている。なお有機EL発光素子においては通常、上記の各構成要素に加えて正孔輸送層や電子輸送層等が設けられるが、図1ではそれらを省略してある。
【0023】
有機EL発光層33から発せられるEL光の波長は、放射線画像検出パネル10から静電潜像を読み取るのに適した波長領域に含まれることは勿論であるが、後述する前露光用の光として適した波長領域にも含まれることが望ましい。有機EL発光層33から発せられる光の波長は、該発光層34の材料によって定まる。例えば、読取用光導電層14が、a−Se,PbI2 ,Bi12(Ge,Si)O20,ペリレンビスイミド(R=n−プロピル),ペリレンビスイミド(R=n−ネオペンチル)等のうち少なくとも1つを主成分とする、近紫外から青の領域の波長(300〜550nm)の光に対して高い感度を有し、赤の領域の波長の光に対して低い感度を有するものである場合には、近紫外から青の領域の波長の光を発するように有機EL発光層33の材料を選択する。
【0024】
光源制御手段40は、クシ電極34とそれに対向する全面電極32との間において、クシ電極34の一個毎に、あるいは複数または全てのクシ電極34を対象として、所定の電圧を印加するものである。この電圧の印加により有機EL発光層33からEL光が発せられ、このEL光が読取光および前露光用の光として利用される。
【0025】
電流検出手段50は、導電体層15の各クシ電極15a毎に接続された多数の電流検出アンプ51を有しており、読取光の照射により各クシ電極15aに流れる電流をクシ電極15a毎に並列的に検出する。放射線画像検出パネル10の導電体層11は接続手段52の一方の入力および電源53の負極に接続されており、電源53の正極は接続手段52の他方の入力に接続されている。なお図示は省いてあるが、接続手段52の出力端は各電流検出アンプ51に接続されている。電流検出アンプ51の構成の詳細については説明を省略するが、周知の構成を種々適用することが可能である。
【0026】
面状光源30と放射線画像検出パネル10とは、面状光源30の絶縁層35上に形成された樹脂層36および接着層37を介して放射線画像検出パネル10の導電体層15と接着されて一体的に積層されている。
【0027】
なお、樹脂層36は、有機EL発光層の劣化を抑制する封止層として機能するものであることが望ましい。この封止層としての樹脂層36は一例として窒化シリコンや窒化シリコンと該酸化物の交互積層から形成し、一方接着層37は、一例としてエポキシ系2液混合型接着剤から形成する。一般にこの種の接着層37からは有機ガスや水分が放出されることがあり、もしそれらが有機EL発光層33に侵入すると、該有機EL発光層33が変性する等により、面状光源30が劣化することになる。しかし有機ガスや水分は封止層として機能する樹脂層36によって遮断されるので、有機EL発光層33まで侵入することがなく、よって面状光源30の劣化が確実に防止される。
【0028】
なお、このような封止層として機能する樹脂層36を構成する好ましい材料として具体的には、例えば特開2003−282243号公報に示されている封止層材料、すなわち、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含む共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリユリア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン及びジクロロジフルオロエチレンから選択される2種以上の共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Tl、Ni等の金属、MgO、SiO、SiO2、Al23、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe23、Y23、TiO2等の金属酸化物、MgF2、LiF、AlF3、CaF2等の金属フッ化物、パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等の液状フッ素化炭素、液状フッ素化炭素に水分や酸素を吸着する吸着剤を分散させたもの、などが挙げられる。しかし、封止層は以上の材料からなる層に限定される訳ではなく、公知の無機材料からなる層や、公知の無機材料層と有機材料層とが重ね合わされてなるもの等を広範に適用することができる。
【0029】
本実施形態において、樹脂層36の接着層37と接する表面36aは平均粗さRaが110nm以下の平滑な面に形成されたものであり、面状光源30の発光層33から放射線画像検出パネル10の読取用光導電層14との距離(詳細には発光層33の画像検出パネル10側の面と読取用光導電層14の面状光源30側の面との距離)Lは25μm〜200μmとなるように、発光層33と読取用光導電層14との間に存在する層の層厚みが設定されている。
【0030】
上記放射線画像記録読取装置の製造方法を説明する。本実施形態の製造方法においては、特に面状光源の表面に樹脂層を形成し、樹脂層の表面を上述の平滑な面として、放射線画像検出パネルと積層する工程に特徴があるため、この工程について説明する。放射線画像検出パネルおよび面状光源の製造方法は既知の種々の方法を適応することができる。
【0031】
図4は面状光源30に放射線画像検出パネル10を積層接合する工程を示す側面図である。図4(A)に示す面状光源30は図1に記載のものであり、図1に記載の絶縁膜35が上面となるように配置されている。この面状光源30の絶縁膜35上に図4(B)に示すように、樹脂層36を形成する。その後、図4(C)に示すように、樹脂層36の表面36aに、所定の面状の表面100aを有する型材100の該表面100aが面するようにして型材100を重ね、加圧および加熱して樹脂層を硬化させ、その後、型材100を剥離する。型材100はフッ素樹脂を含むシート、もしくは少なくとも表面100aがフッ素樹脂コート面とされた、ガラス板や金属板などの表面にフッ素樹脂コートを施したものを用いる。なお、ここで型材の面状は平均粗さ100nm以下の平滑な表面を有するものとする。
【0032】
フッ樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などが挙げられる。フッ素樹脂を含むシートあるいはフッ素樹脂コートを施した型材を用いることにより加熱硬化後の型材と樹脂層との剥離性を向上させることができる。
【0033】
樹脂層36の表面36aに型材100を重ね、加熱させ、樹脂層36を硬化させることにより、樹脂層表面36aに型材100の面状が転写される。型材100として、その面状が平均粗さRaが100nm以下の平滑な表面を有するものを用いることにより、樹脂層36の表面36aの平均粗さRaを110nm以下とすることができる。
【0034】
型材100を樹脂層36から剥離した後、図4(E)に示すように、樹脂層表面36aに接着層37を形成し、図1に記載の放射線画像検出パネル10を導電層15が接着層側となるようにして面状光源20に積層接合させることにより、図1に記載の放射線画像検出パネルと面状光源を一体化した放射線画像記録読取装置を得る。
【0035】
以下、上記構成の放射線画像記録読取装置1の作用について説明する。放射線画像検出パネル10に放射線画像情報を記録する際には、先ず接続手段52を電源53側に切り替え、導電体層11と導電体層15のクシ電極15aとの間に直流電圧を印加して、両導電体層を帯電させる。これにより放射線画像検出パネル10内の導電体層11とクシ電極15aとの間に、クシ電極15aをU字の凹部とするU字状の電界が形成される。
【0036】
次にX線等の放射線を図示外の被写体に爆射し、この被写体を透過した放射線、すなわち被写体の放射線画像情報を担持する放射線を放射線画像検出パネル10に照射する。すると、放射線画像検出パネル10の記録用光導電層12内で正負の電荷対が発生し、その内の負電荷が上述の電界分布に沿ってクシ電極15aに集中し、記録用光導電層12と電荷輸送層13との界面に負電荷が蓄積される。この蓄積される負電荷(潜像電荷)の量は照射放射線量に略比例するので、この潜像電荷が静電潜像を担持することとなる。このようにして静電潜像が放射線画像検出パネル10に記録される。一方、記録用光導電層12内で発生する正電荷は導電体層11に引き寄せられ、電源53から注入された負電荷と再結合して消滅する。
【0037】
その後放射線画像検出パネル10から静電潜像を読み取る際には、先ず接続手段52を放射線画像検出パネル10の導電体層11側に接続する。次いで光源制御手段40が、クシ電極34を順次切り替えながら、各クシ電極34と全面電極32との間に所定の直流電圧を印加する。この直流電圧の印加により、クシ電極34と全面電極32とに挟まれた部分の有機EL発光層33からEL光が発せられる。クシ電極34はライン状になっているので、該クシ電極34を透過したEL光がライン状の読取光として利用される。すなわち面状光源30は、ライン状の光源を面状に配列したものと等価となり、電圧印加するクシ電極34を順次切り替えてEL発光させることにより、読取光が放射線画像検パネル10を走査することとなる。なお、発光層33から発せられるEL光は、クシ電極34、絶縁膜35、樹脂層36、接着層37および導電体層15を経て読取用光導電層14に入射する。この時、樹脂層36の表面に本実施形態のような型材による処理を施さず、樹脂層36の表面の平均粗さが110μmを超えるほど大きい場合には、樹脂層表面においてEL光が散乱(拡散)し、読取画像の鮮鋭度が低下するが、本実施形態の装置においては、樹脂層36の表面36aの平均粗さが110μm以下であるため、EL光の散乱を抑制し、十分な鮮鋭度の読取画像を得ることができる。EL光を積層面に垂直な方向に進行する平行光として光導電層14に入射させることが鮮鋭度の高い読取画像を得るために好ましい。
【0038】
上記ライン状の読取光が光導電層14に入射すると、光導電層14内に正負の電荷対が発生し、その内の正電荷が記録用光導電層12と電荷輸送層13との界面に蓄積された負電荷(潜像電荷)に引きつけられるように電荷輸送層13内を急速に移動し、光導電層12と電荷輸送層13との界面で潜像電荷と電荷再結合し消滅する。一方、光導電層14に生じた負電荷は、電源53から導電体層15に注入される正電荷と電荷再結合して消滅する。
【0039】
このようにして、放射線画像検出パネル10に蓄積されていた負電荷が電荷再結合により消滅し、この電荷再結合の際の電荷の移動による電流が放射線画像検出パネル10内に生じる。この電流は、各クシ電極15a毎に接続された電流検出アンプ5により、各クシ電極15a毎に並列的に検出される。放射線画像読取りの際に放射線画像検出パネル10内を流れる電流は、潜像電荷すなわち静電潜像に応じたものであるから、この電流を検出することにより静電潜像を読み取ることができる。
【0040】
上記放射線画像記録読取装置1は、放射線画像検出パネル10から静電潜像を読み取った後には、潜像電荷が基本的には蓄積されておらず、基本的にはそのまま再記録できるものである。しかしながら、場合によっては潜像電荷を完全に読み取ることができず、放射線画像検出パネル10に残留電荷が残されることもある。また、放射線画像検出パネル10に静電潜像を記録するとき、放射線照射の前に放射線画像検出パネル10に高電圧を印加するが、この電圧印加の際に暗電流が発生し、それによる電荷(暗電流電荷)も放射線画像検出パネル10に蓄積される。さらに、それら以外の原因によっても、放射線照射前に種々の電荷が放射線画像検出パネル10に蓄積することが知られている。この残留電荷、暗電流電荷等の不要電荷は、放射線照射により蓄積される画像情報を担持する電荷に加算されることになるから、結局放射線画像検出パネル10から静電潜像を読み取ったとき、出力される信号には画像情報を担持する電荷に基づく信号以外に、不要電荷による信号成分が含まれることになり、残像現象やS/N劣化等の問題を生じる。
【0041】
そこで、放射線画像検出パネル10に蓄積されている不要電荷を消去し、残像現象やS/N劣化等の問題を解消するために、放射線を放射線画像検出パネル10に照射する前に、所定の光を放射線画像検出パネル10に照射する、いわゆる前露光を行うことが望ましい。本例の放射線画像記録読取装置1においても、この前露光用の光を面状光源30から発することができる。
【0042】
具体的には、複数のクシ電極34と全面電極32との間に所定の電圧を同時に印加する。この際、電圧の印加により有機EL発光層33から発せられた前露光用の光が放射線画像検出パネル10に略一様に照射されればよく、クシ電極34の数の大小は問わない。例えば、所定間隔で間引いてもよいし、全てのクシ歯34としてもよい。なお、この前露光に関しては前述の特開2000−105297号公報に詳しい記載がなされている。このように読取光と前露光用の光を同一の光源から発生させれば、装置の部品点数を削減することができ、安価な装置にすることができる。
【0043】
次に、種々の型材を用いて製造した場合の放射線画像記録読取装置から得られる放射線画像についての鮮鋭度を測定した実験結果を説明する。
【0044】
以下の実施例および比較例においては、発光層と読取用光導電層との距離Lを100μmとした。なお、両層の距離が200μm以上ある場合は読取画像の鮮鋭度が非常に低くなってしまうことを確認した。
【0045】
鮮鋭度はMTF(modulation transfer function)の測定結果から評価した。MTFは、鉛製のCTFチャート(矩形波チャート)を10mmレントゲンで照射して画像を撮影し、その画像データから各周波数の振幅を測定して求めた。MTF値が90以上であれば、画像のボケが許容できる範囲であり良好(○)、90未満は不良(×)と評価した。また、剥離性は実験者の手で剥離できるか否かで判断したものである。
【0046】
実施例1は、型材として、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)からなる0.1mm厚のテフロン(登録商標)シートであって表面の平均粗さRaが0.018μmのものを用いて製造した放射線画像情報記録読取装置であり、面状光源上に設けられた樹脂層の表面の平均粗さRaが0.03μmのものである。
【0047】
以下、実施例2、3および比較例1〜4はそれぞれ、表1に示すような型材を用いて製造した放射線画像情報記録読取装置であり、それぞれの面状光源上に設けられた樹脂層の表面の平均粗さRaは表1に示すとおりである。なお、比較例5のテフロン(登録商標)材表面Raは未測定である。表1は各実施例および比較例の放射線画像記録読取装置についての型材種類、型材表面Ra、面状光源表面に形成された樹脂層の表面Ra、MTFおよび剥離性の評価結果を示すものである。なお、実施例3でMTF値は90、比較例1でMTF値は80であった。
【表1】

【0048】
実施例1〜3についてはMTFおよび剥離性ともに良好であるという結果が得られた。一方、少なくとも表面がフッ素樹脂からなる型材を用いた比較例2〜4は剥離性は良好であるが、MTFの結果は不良であった。
【0049】
図5は、実施例1〜3および比較例1〜4の型材の表面Raとこの型材の表面状態が転写された、面状光源上の樹脂層表面のRaとの関係を示すものである。樹脂層表面には、型材の表面状態が転写されるが、そのRaは型材の表面Raと比較して若干大きくなる傾向がある。しかしながら、図5に示すように、型材の表面Raが100nm以下であれば、樹脂層表面のRaを110nm以下とすることができた。
【0050】
以上においては、面状光源30上に設けられた樹脂層36の面状が平均粗さ110nm以下の平滑な面であるものについての実施形態および実施例を説明したが、樹脂層36の面状は、平滑なものに限らず、レンズ面であってもよい。
【0051】
レンズ面は、発光層33からの発光光を集光して少なくとも一方向に収束させる複数のレンズ状部が配列されてなるものであればよい。具体的には、図6に示すような、スリット状のレンズ状部81が配列されたレンズ面82が挙げられる。このスリット81の延びる方向がクシ電極34の延びる方向(Z方向)と一致するように形成されていれば、このスリット81により読取光をY軸方向に収束させることができ、鮮鋭度を向上させることができる。なお、図6には断面が三角形のスリット状のレンズ状部を備えたレンズ面を例に挙げたが、スリット状のレンズ状部としては、断面が半円のもの等であってもよい。
【0052】
また、図7から図9に示すような、マイクロレンズ状のレンズ状部が設けられたレンズ面であってもよい。なお、図6から図9は樹脂層表面に形成されるレンズ面の一部を示す模式図である。図7から図9においてはそれぞれ(A)1つのレンズ状部の形状と、(B)レンズ状部が配列されたレンズ面とを示すものである。図7に示すように、円錐状のレンズ状部83がY方向およびZ方向に配列されたレンズ面84、図8に示すように、四角錐状のレンズ状部85がY方向およびZ方向に配列されたレンズ面86、図9に示すように四角錘状の凹レンズ部87がY方向およびZ方向に配列されたレンズ面88などいずれのようなレンズ面であってもよい。このようなレンズ面を備えた場合、発光層からの発光光を集光し読取用光導電層に収束光として入射させることができるため、読取画像の鮮鋭度を向上させることができる。
【0053】
これらのレンズ面を樹脂層の表面に設ける工程は上述の実施形態の平滑面を設ける工程と同様であるが、型材として、レンズ面に対応した面状を表面に有するものを用いる。レンズ面に対応した面状とは、具体的には、図7のようなレンズ面を設ける場合であれば、レンズ状部83に対応した円錐状の凹部が複数配列されてなる面状であり、図8のようなレンズ面を設ける場合あれば、レンズ状部85に対応した円錐状の凹部が複数配列されてなる面状である。また、型材としては上述の場合と同様にフッ素樹脂を含むシートあるいは少なくともレンズ面に対応した表面にフッ素樹脂を含むコートが施されていることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態による放射線画像記録読取装置を示す概略斜視図
【図2】図1の放射線画像記録読取装置のX−Z断面形状を示す断面図
【図3】図1の放射線画像記録読取装置のX−Y断面形状を示す断面図
【図4】放射線画像記録読取装置の製造工程を示す図
【図5】実施例および比較例における型材の表面粗さと樹脂層の表面粗さとの関係を示すグラフ
【図6】面状光源の樹脂層表面のレンズ面の例を示す斜視図(その1)
【図7】面状光源の樹脂層表面のレンズ面の例を示す斜視図(その2)
【図8】面状光源の樹脂層表面のレンズ面の例を示す斜視図(その3)
【図9】面状光源の樹脂層表面のレンズ面の例を示す斜視図(その4)
【符号の説明】
【0055】
10 放射線画像検出パネル
11 第1の導電体層
12 記録用光導電層
13 電荷輸送層
14 読取用光導電層
15 第2の導電体層
20 放射線画像読取手段
30 面状光源
31 絶縁基板
32 全面電極
33 有機EL発光層
34 クシ電極
35 絶縁層
36 樹脂層
36a 樹脂層の表面
37 接着層
81、83、85、87 レンズ状部
82、84、86、88 レンズ面
100 型材
100a 型材の表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線画像を担持した記録用放射線の照射量に応じて電荷を発生する記録用光導電層と、読取光の照射を受けて電荷を発生する読取用光導電層とを備えて前記放射線画像を静電潜像として記録する放射線画像検出パネルと、該放射線画像検出パネルに読取光を照射して記録された前記静電潜像を読み出す画像読取手段とを備えた放射線画像記録読取装置において、
前記画像読取手段が、前記読取光を発光する発光層を有する面状光源を備え、
前記放射線画像検出パネルと前記面状光源とが、該面状光源の上面に設けられた樹脂層と、該樹脂層と前記放射線画像検出パネルとの間に設けられた接着層とを介して積層して接合されており、
前記樹脂層の前記接着層と接する面が、前記読取光に対して指向性を与える面であることを特徴とする放射線画像記録読取装置。
【請求項2】
前記面の平均粗さ(Ra)が110nm以下であることを特徴とする請求項1記載の放射線画像記録読取装置。
【請求項3】
前記面が、前記読取光を集光して少なくとも一方向に収束させる複数のレンズ状部が配列されてなるレンズ面であることを特徴とする請求項1記載の放射線画像記録読取装置。
【請求項4】
請求項1記載の放射線画像記録読取装置の製造方法であって、
前記面状光源の表面に樹脂層を形成し、
前記樹脂層の表面に、所定の面状の表面を有する型材の該表面を重ねて前記所定の面状を転写し、
前記型材を剥離した後、前記樹脂層の表面に前記接着層を介して前記放射線画像検出パネルを接着することを特徴とする放射線画像記録読取装置の製造方法。
【請求項5】
前記所定の面状が、平均粗さ(Ra)が100nm以下であることを特徴とする請求項4記載の放射線画像記録読取装置の製造方法。
【請求項6】
前記所定の面状が、前記読取光を集光して少なくとも一方向に収束させる複数のレンズ状部が配列されてなるレンズ面に対応したものであることを特徴とする請求項4記載の放射線画像記録読取装置の製造方法。
【請求項7】
前記型材の少なくとも表面がフッ素樹脂を含むものであることを特徴とする請求項4から6いずれか1項記載の放射線画像記録読取装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−298425(P2007−298425A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127236(P2006−127236)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】