説明

斜板式流体機械の組み立て方法および組み立て装置

【課題】ピストン端面のセンタ穴の有無を問わず、斜板式流体機械のシャフトアセンブリの自動組み立てを可能にする。
【解決手段】アセンブリ組み立て装置A1で、斜板3bの外周部に、シュー4を介して複数のピストン2を取り付けたシャフトアセンブリSを組み立てる。この組み立て装置A1は、斜板3bを有するシャフト3を縦軸姿勢で支持するシャフト支持部41と、ガイド部材20と、シュー組み込み機構30と、複数のピストン2を縦軸姿勢で搬送する台車10と、斜板3bの外周部に案内された複数のピストン2を、縦軸姿勢で斜板の円周方向等配位置に保持するピストン保持部41とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板式流体機械の組み立て方法および組み立て装置に関する。
【背景技術】
【0002】
斜板式流体機械、例えば斜板式圧縮機の組み立てを自動的に行う装置としては、特開平10−45065号公報(米国特許公報第6038767号)に記載された組み立て装置が公知である。この組み立て装置では、水平姿勢で回転自在に支持された斜板付きシャフトの斜板に順次ピストンを組み込んでシャフトアセンブリを組み立てた後、各ピストンを軸方向両側に配したシリンダで支持することにより、各ピストンの円周方向位置を保持しながらシャフトアセンブリをシリンダブロックに組み込んでいる。
【特許文献1】特開平10−45065号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、斜板式圧縮機は、シャフトに対する斜板の傾斜角度が固定された固定型と、斜板の傾斜角度を可変とした可変型とに大別される。固定型の斜板式圧縮機で使用されるピストンの多くは、ピストンの軸方向中央部に首部を持ついわゆる双頭型であり、ピストンの両端面に研削仕上げ用のセンタ穴が形成されている。これに対し、可変型の斜板式圧縮機で使用されるピストンの多くは、軸方向一方の偏った位置に首部を持ついわゆる片頭式である。片頭式のピストンでは、その構造上、両端面にセンタ穴を形成することは難しく、通常は一方の端面(頭部の端面)にのみセンタ穴を形成する場合が多い。
【0004】
上記特許文献に記載された組み立て装置は、ピストン両端面のセンタ穴を利用してピストンを軸方向両側からシリンダで支持するものであるから、ピストン両端面のセンタ穴が必要不可欠となる。従って、ピストンの一方の端面にのみセンタ穴を有する場合、さらにはピストンの両端面にセンタ穴がない場合には、当該組み立て装置による組み立てが困難であり、このこともあって従来の可変型斜板式流体機械では、手作業での組み立てを余儀なくされている。
【0005】
そこで、本発明はピストン端面のセンタ穴の有無を問わずシャフトアセンブリ、さらには斜板式流体機械の自動組み立てを可能とした組み立て装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明におけるシャフトアセンブリの組み立て装置は、斜板に、その両端面に整合する一対のシューを介して複数のピストンを取り付けたシャフトアセンブリを組み立てるためのものである。この組み立て装置は、斜板を有するシャフトを縦軸姿勢で支持するシャフト支持部と、第一ガイド面および第二ガイド面を備え、一対のシューのうち、一方を第一ガイド面、他方を第二ガイド面に摺接させながら、ピストンを斜板に案内し、一対のシューを斜板の両端面に整合させるガイド部材と、一対のシューをピストンと第一ガイド面の間、およびピストンと第二ガイド面との間に挿入するシュー組み込み機構と、ガイド部材に案内された複数のピストンを縦軸姿勢で搬送する搬送手段と、斜板に案内された複数のピストンを、縦軸姿勢で斜板の円周方向等配位置に保持するピストン保持部とを備えている。
【0007】
また、本発明においては、斜板に、その両端面に整合する一対のシューを介して複数のピストンを取り付けたシャフトアセンブリの組み立てに際し、斜板を有するシャフトを縦軸姿勢で支持し、ガイド部材の第一ガイド面とピストンの間、および第二ガイド面とピストンの間にそれぞれシューを組み込んでから、ガイド部材によって複数のピストンを縦軸姿勢で斜板に案内し、各シューを斜板の両端面に整合させると共に、ピストンを斜板の円周方向等配位置に配置している。
【0008】
このように本発明においては、縦軸姿勢に支持されたシャフトの斜板に、ガイド部材を介して複数のピストンが縦軸姿勢のまま順次組み付けられる。この場合、ピストンは、自重で生じる摩擦力によってその位置を保持するため、従来のようにピストン両端面のセンタ穴を利用してピストンをその軸方向両側から支持する必要がない。従って、ピストン端面のセンタ穴の有無にかかわらず、シャフトアセンブリの組み立てが可能となり、かつシリンダの省略により組み立て装置の簡略化を達成することができる。なお、ここでいう縦軸姿勢とは、対象となる部材の中心軸が、ほぼ垂直であることを意味する。特にシャフトの縦軸姿勢には、シャフトの中心軸が斜板の最小傾斜角θ1の範囲で傾いている場合も含まれる。
【0009】
シュー組み込み機構は、例えば、少なくとも何れか一方のガイド面に設けられた溝部と、この溝部に配置された、溝深さを拡大する方向に弾性変形可能の弾性部材とを備えた構成とする。これにより、溝深さが縮小した状態で溝部に供給されたシューを、弾性部材を弾性変形させながら当該ガイド面とピストンとの間に挿入することができ、簡易な機構でシューの組み込みを行うことが可能となる。
【0010】
また、シュー組み込み機構は、一方のシューをピストンと第一ガイド面との間に挿入する第一組み込み部と、他方のシューをピストンと第二ガイド面との間に挿入する第二組み込み部とを備えた構成とする。この場合、第一組込み部および第二組み込み部を、ピストンの搬送方向に離隔して配設することにより、一方のシューの組み込みと他方のシューの組み込みに時間差を設けることができる。この時間差を利用して、例えば、個々のピストンや斜板の加工精度に応じて、最適な表面精度を有するシューを選択して使用するいわゆるマッチングが可能となり、高い組み立て精度を安定して得ることができる。
【0011】
本発明にかかる斜板式流体機械の組み立て装置は、斜板に、その両端面に整合する一対のシューを介して複数のピストンを取り付けたシャフトアセンブリをシリンダブロックに組み込むためのものである。この組み立て装置は、縦軸姿勢のシャフトアセンブリを、各ピストンを斜板に懸垂させた状態で支持するアセンブリ支持部と、シリンダブロックを支持するシリンダブロック支持部とを備えており、アセンブリ支持部とシリンダブロック支持部との相対接近で、シャフトアセンブリのピストンがシリンダブロックのシリンダボアに挿入される。
【0012】
また、本発明においては、斜板に、その両端面に整合する一対のシューを介して複数のピストンを取り付けたシャフトアセンブリをシリンダブロックに組み込むに際し、縦軸姿勢のシャフトアセンブリを、各ピストンを斜板に懸垂させた状態でシリンダブロックに相対的に接近させて、各ピストンをシリンダボアに挿入するものである。
【0013】
流体機械の組み立て時には、ピストンは斜板に懸垂された状態にあり、斜板に対して位置ずれを起こしやすい不安定な状態であるが、ピストンの自重による摩擦力でシューと斜板との間に適度の拘束力が作用するため、多少の衝撃ではピストンが斜板の端面上を滑ることがない。従って、従来装置のように流体機械の組み立て中にシリンダ等でピストンをその両側から拘束する必要がなく、これによりピストン端面のセンタ穴の有無を問わず斜板式流体機械の組み立てが可能となる。また、シリンダを省略できる分だけ組み立て装置の構造を簡略化することができる。
【0014】
この組み立て装置には、シリンダブロックのシリンダボアの開口部内外を進退移動可能で、かつ当該開口部外で待機する矯正面を設けるのが望ましい。この場合、矯正面を、アセンブリ支持部に支持されたシャフトアセンブリのピストン端面と面接触させてピストンの姿勢矯正を行う。
【0015】
斜板に懸垂されたピストンは、斜板に対して揺動可能の状態にあるから、ピストンのシリンダボアへの挿入時にピストンが垂直軸に対して僅かに傾斜する場合がある。そのままでは、ピストンの端面がシリンダボアの開口部に干渉し、スムーズにピストンを挿入させることが難しくなるが、事前にピストン端面を矯正面に面接触させてピストンの姿勢矯正を行っておけば、ピストンは正確に縦軸姿勢に修正されてからシリンダボアに挿入される。従って、スムーズにピストンをシリンダボアに挿入することが可能となる。シリンダボア内へのピストンの挿入に伴い、矯正面がシリンダボア内に後退するので、確実にピストンをシリンダボア内に挿入することができる。
【0016】
また、シリンダボアの開口部に設けられたテーパ面で、当該シリンダボアに挿入するピストンを案内すれば、ピストンとシリンダボアとの芯合わせが確実に行われるので、よりスムーズにピストンをシリンダボアに挿入することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ピストン端面のセンタ穴の有無を問わず、シャフトアセンブリ、さらには、これを用いた斜板式流体機械の組み立てが可能となる。また、これらの組み立て装置の構成を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、斜板式圧縮機の概略構造を示す断面図である。
【図2】図2は、シャフトアセンブリの組み立て装置の概略構成を示す平面図である。
【図3】図3は、シュー組み込み機構の概略構成を示す断面図である。
【図4】図4は、図3の要部を拡大した断面図である。
【図5】図5は、図2のV−V線断面図である。
【図6】図6は、アセンブリ移送機構の概略構成を示す平面図である。
【図7】図7は、斜板式圧縮機の組み立て装置を示す断面図である。
【図8】図8は、図7中のP部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図1〜8に基づいて説明する。
【0020】
図1に、斜板式流体機械の一例として、斜板式圧縮機の概略構造を示す。
【0021】
この斜板式圧縮機は、シリンダブロック1、ピストン2、斜板3bを有するシャフト3、斜板3bとピストン2との間に介在するシュー4を主要な構成要素とする。シリンダブロック1のフロント側の空間(クランク室C)はフロントハウジング6で密閉され、リヤ側の空間はリヤハウジング8で密閉されている。シャフト3は、軸方向に配置した二つのラジアル軸受9a・9b、およびスラスト軸受9cでフロントハウジング67およびシリンダブロック1に対して回転自在に支持されている。
【0022】
シリンダブロック1には、その円周方向等配位置に複数のシリンダボア1aが形成され、各シリンダボア1aにピストン2が摺動自在に挿入されている。ピストン2の往復により、図示しない吸入室から吸い込まれた流体(例えば冷媒)が圧縮され、図示しない吐出室へ吐出される。図1に示すピストン2の位置が流体を圧縮した状態で、上死点と呼ばれる。
【0023】
シャフト3は、軸部3a、円盤状の斜板3b、およびフランジ部3cで構成される。軸部3aとフランジ部3bは一体形成され、斜板3aは図示しない軸受等を介して軸部3aに傾動自在に取り付けられている。斜板3bは、適当なリンク機構(図示省略)を介してフランジ部3cと連結されており、このリンク機構の作動により、斜板3bの傾斜角(軸線に対する直交平面との間の角度)と軸方向位置との関係が一義的に定まる。斜板3bは、最小傾斜角θ1(実線で示す)と最大傾斜角θ2(二点鎖線で示す)との間で任意の傾斜角をとることができ、いかなる傾斜角をとろうとも上死点のピストン2は軸方向でほぼ同じ位置にある。斜板3bとフランジ部3cとの間には、弾性部材として例えばコイルバネ5が圧縮状態で配置されており、斜板3bに他の外力が付与されていない状態では、バネ5の弾性力で斜板3bは最小傾斜角θ1をとった状態を維持する。
【0024】
ピストン2はいわゆる片頭式で、首部2aと、首部2aの軸方向一方側に形成された中空円筒状の胴部2bと、首部2aの軸方向他方側に形成された中実状の頭部2cとで一体に構成される。頭部2cの端面2c1には、ピストン2の研削加工等で使用するセンタ穴2c2が形成される。一方、胴部2bの端面2b1にはセンタ穴がなく、平坦面状をなしている。
【0025】
首部2aを形成する凹部には斜板3bの周縁部が挿入され、斜板3bの両端面とこれに対向する胴部2bおよび頭部2cとの間にそれぞれシュー4が介在されている。各シュー4の球面が胴部2bおよび頭部2cに形成された球面座と球面嵌合し、各シュー4の平坦面が斜板3bの両端面に面接触している。
【0026】
シャフト3の軸部3aを回転駆動すると、斜板3bも軸部3aと共に回転する。これに伴って斜板3bに案内された各ピストン2がシリンダボア1a内を軸方向に往復し、冷媒の吸入・圧縮が繰り返し行われて吐出室に圧縮冷媒が吐出される。図示しない制御弁でクランク室C内の圧力を変化させると、ピストン2を介したシリンダボア1a内の吸入圧とクランク室C内の圧力との差圧により、ピストン2のストローク、さらには斜板3bの傾斜角が変化し、冷媒の吐出量が変動する。従って、制御弁でクランク室C内の圧力を制御することで、圧縮容量が任意に制御可能となる。圧縮容量は斜板3bの傾斜角で表され、斜板3bが最小傾斜角θ1をとる時に圧縮容量が最小となり、最大傾斜角θ2をとる時に圧縮容量が最大となる。
【0027】
以下、以上に説明した容量可変型の斜板式圧縮機の組み立て工程を説明する。
【0028】
この斜板式圧縮機の組み立ては、シャフトアセンブリSを製作する第一工程、およびシャフトアセンブリSをシリンダブロック1に組み込む第二工程を経て行われる。
【0029】
第一工程におけるシャフトアセンブリSの組み立ては、図2〜図5に示す組み立て装置A1により自動的に行われる。
【0030】
図2および図3に示すように、この組み立て装置A1は、水平方向に走行する搬送手段としての台車10と、台車10の走行方向と平行に配置されたガイド部材20と、ピストン2とガイド部材20との間にシュー4を組み込むシュー組み込み機構30と、斜板3bにシュー4と共にピストン2を組み込むピストン組み込み機構40とで構成される。
【0031】
台車10は、レール11に案内され、ガイド部材20を挟む二つの領域T1、T2の間で水平方向に往復移動可能である。台車10の上面10aには、受け部材12が装着され、この受け部材12に1セット(本実施形態では7つ)のピストン2を保持するための受け部12aがピストンと同数分形成されている。受け部12aは、ピストン2の胴部2bの外周面に適合する半円筒面状をなし、台車10の走行方向に定ピッチP2で形成されている(図2参照)。ピストン2の胴部2bを挟んだ受け部12aの対向領域には押え部材13が配設されている。この押え部材13は、台車10の走行方向に沿ってピストン組み込み機構40に至るまで形成されている。また、台車10には、その走行方向に沿ってラック14が取り付けられ、このラック14は後述のようにシャフト支持部41の回転軸45に固定したギヤ46(図5参照)との噛み合い位置まで延びている。なお、図2では、図面の簡略化のため、台車10のうち受け部材12のみを図示し、押え部材13やラック14等の図示を省略している。
【0032】
図2に示すように、ガイド部材20の始端部に隣接した領域T1で、中心軸を垂直にした1セットのピストン2が台車10上に供給される。この時、台車10の上面10aでピストン胴部2bの端面2b1が接触支持され、かつ受け部12aと押え部材13とで胴部2bの外周面が両側から拘束される。その後、台車10は、図示しない駆動機構によって図2の左方に走行を開始する。台車10の駆動機構としては、ボールねじやシリンダ等の公知の機構が使用可能であり、その他にもモータ等を組み込んだ自走式の台車を使用することもできる。
【0033】
ガイド部材20は、斜板3bの肉厚と等しい板状に形成されている。ピストン2の供給後、台車10がガイド部材20の側方領域に達すると、図3に示すように、ガイド部材20の側端21がピストン首部2aの凹部に挿入される。同時に、ガイド部材20の下端面22(第一ガイド面)がピストン2の胴部2bと隙間を介して対向し、上端面(第二ガイド面23)が頭部2cと隙間を介して対向する。この状態で、台車10上の各ピストン2が順次シュー組込み機構30に供給される。
【0034】
シュー組み込み機構30は、一対のシュー4のうち、一方をピストン2の胴部2bと第一ガイド面22との間の隙間に挿入し、他方を頭部2cと第二ガイド面23との間の隙間に挿入する。本実施形態では、一対のシュー4の挿入作業を台車10の走行方向に離隔配置した第一組み込み部31と第二組み込み部32でそれぞれ独立して行う場合を例示している。
【0035】
第二組み込み部32には、図3に示すように第二ガイド面23を切り欠いて溝部34が形成される。この溝部34の溝底面には弾性部材として例えば板バネ35が取り付けられており、板バネ35は、その先端が自由端であると共に、溝部34の深さが拡大・縮小する方向に弾性変形可能である。溝部34の深さは、板バネ35を弾性変形させて溝底面に密着させた時、板バネ35とピストン首部2aの凹部入口との間の隙間が、シュー4の最大肉厚以上となるように設定される。また、溝部34の幅はシュー4の直径よりも大きくする。
【0036】
ピストン首部2bの凹部の入口付近には、パーツフィーダ等の供給装置から延びたシュー供給部36が配置される。台車10の停止後、シュー供給部36から供給されたシュー4は、溝部34の溝底面から離反した状態の板バネ35の先端上に配置される。その後、適当なプッシャー37で当該シュー4を板バネ35の弾性力に抗して水平方向に押し込めば、板バネ35が弾性変形して溝部34の溝底面に密着し、シュー4が凹部内に押し込まれる。シュー4が凹部に押し込まれると同時に板バネ35が弾性復元し、シュー4の球面が頭部2cの球面座に球面嵌合すると共に、シュー4の平坦面がガイド部材20の第二ガイド面23と同レベルまで押し上げられる。その後の台車10の走行でシュー4の平坦面が第二ガイド面23上に乗り移るので、以後は台車10の走行に伴ってシュー4が第二ガイド面23上を摺動する。
【0037】
第一組み込み部31は、溝部34が第一ガイド面22に形成され、シュー4の挿入作業が第二組み込み部32の裏側で行われる点を除き、第二組み込み部32に準拠した構成を有する。
【0038】
本実施形態では、一方のシュー4の組み込みを行う第一組み込み部31と他方のシュー4の組み込みを行う第二組み込み部32とを台車10の走行方向に離隔させ、両者の組み込みに時間差を設けている。かかる構成を採用することで、個々の斜板3bやピストン2の加工精度に適合した表面精度を有するシュー4を選択使用する、いわゆるマッチングが可能となる。このマッチングは、例えば以下の手順で行うことができる。
【0039】
(1)各シュー4の製作後、その寸法、例えば最大肉厚を測定する。各シュー4を測定値に応じて精度別にグループ分けし、各グループごとにシュー4をストレージする。また、組み立て作業を行うシャフト3の斜板3bの肉厚を予め測定しておく。
(2)図4に示すように、双方のシュー4の組み込み前の状態で、ピストン2の対向する球面座間の距離L1を測定し、その測定値に適合する精度のグループから一方のシュー4を取り出し、第一組み込み部31に供給してその組み込みを行う。
(3)次いで、組み込まれたシュー4の平坦面とこれに対向する球面座との間の距離L2を測定し、この測定値から斜板3bの肉厚の測定値を減じて、この算出値に適合する精度のグループから他方のシュー4を取り出し、第二組み込み部32でその組み込みを行う。
【0040】
以上の手順を経ることにより、ピストン2および斜板3bの加工精度に適合したシュー4を選択して使用することが可能となり、組み立て精度の向上を通じて、斜板式圧縮機の作動安定性および信頼性を高めることができる。なお、以上に述べたマッチング作業を特に必要としない場合には、一対のシュー4を時間差を設けることなく同時にガイド面22、23とピストン2との間の隙間に挿入してもよい。
【0041】
このようにガイド面22、23とピストン2との間にシュー4を組み込んだ後、台車10上のピストン2はピストン組み付け機構40に移送され、斜板3bに組み付けられる。
【0042】
図2に示すように、ピストン組み付け機構40は、シャフト3を支持するシャフト支持部41と、その外周側に配置した外周ガイド42とで構成される。
【0043】
図5に示すように、シャフト支持部41ではシャフト3(二点差線で示す)が斜板3bを基準として縦軸姿勢に支持される。シャフト3は、斜板3bを取り付けた状態、すなわち斜板3bとフランジ部3cとの間にバネ5を挿入し、かつ斜板3bとフランジ部3cとをリンク機構で結合した状態で搬入され、リヤ側を下にしてシャフト41支持部に支持される。組み立て工程では、シャフト3の斜板3bにバネ5の弾性力を超えるような外力が作用することはなく、そのため以後の斜板3bは軸部3aに対して最小傾斜角θ1をとった状態を常時保持する。なお、図5ではシュー4の図示を省略している(図7も同じ)。また、図5は、台車10がピストン組み付け機構40の側方に達した時のV−V断面(図2参照)を表す。
【0044】
シャフト支持部41は有底の筒状であり、その外周には、ピストン2の胴部2bの外周面と適合する半円筒面状のピストン保持部41aがピストン2と同数分だけ円周方向等間隔に形成されている。この保持部41aにピストン2が保持された状態では、ピストン中心を通る円上でのピストン間のピッチP1(円弧の長さ)は、台車10上で受け部材12に保持されたピストン2のピッチP2と等しい(図2参照)。シャフト支持部41の内周には、軸方向の穴部41bが形成され、この穴部41bに、シャフト3のうちの斜板3bよりもリヤ側の軸部3aが収容される。また、シャフト支持部41の上側端面41cは水平面であり、この上側端面41cにシャフト3の斜板3bのリヤ側端面が面接触状態で載置される。この状態では、軸部3aの中心軸が垂直方向から最小傾斜角θ1の分だけ傾斜しているが、実質的には縦軸姿勢である。
【0045】
シャフト支持部41は、軸受部43によりフレーム44に対して回転自在に支持される。シャフト支持部41の回転軸45には、台車10に設けられたラック14と噛み合うギヤ46が固定されている。従って、台車10を水平方向に走行させると、ラック14とギヤ46の噛み合いにより、シャフト支持部41、さらにはシャフト支持部41に支持されたシャフト3が台車10の走行と同期して回転する。
【0046】
外周ガイド42は、内周が円筒状の角筒形で、その側壁の一部が切除されて開口した形態をなし、フレーム44に固定されている。外周ガイド42の開口部42aにガイド部材20の終端部が接続され、この終端部の端面の一部は、外周ガイドの42の内周面42bと連続した円筒面状に形成されている。ガイド部材20の終端部端面の残余部分は、シャフト支持部41に支持された斜板3bの外周部近傍まで延び、第一ガイド面22および第二ガイド面23が斜板3bの両端面と段差なく連続している。外周ガイド42のうち、開口部42aに面した一端部42cは上下の二股構造となっており、台車10の受け部材12がその間を通過できるようになっている。外周ガイド42の内周面42bおよびガイド部材20の端面で形成される円筒面は、シャフト支持部41に保持されたピストン2の外周面と外接し、保持部41aに保持されたピストン2の脱落を規制する。
【0047】
シュー組み込み機構30を経た台車10がピストン組み付け機構40の側方に達すると、受け部材12に保持されたピストン2が外周ガイド42の開口部42aを介し、シャフト支持部41のピストン保持部41bと外周ガイド42の内周面42aおよびガイド部材20の端面との間の隙間に順次収容される(図2は6個のピストンが当該隙間に収容された状態を示す)。これに伴い、ピストン2が台車10から斜板3bに乗り移り、ピストン2の首部2bに配されたシュー4が斜板3bの両端面と整合する。前述のようにピストン保持部41bのピッチP1と受け部12aのピッチP2は一致しており、かつピストン支持部41が台車の水平運動に同期して回転するから、台車10の水平移動に伴い、台車10上のピストン2が次々と斜板3bに乗り移り、ピストン保持部41aによって円周方向の等配位置に保持される。
【0048】
シュー4がガイド部材20から斜板3bに乗り移る際、ピストン保持部41と共に斜板3bが回転しているので、シュー4と斜板3bとの間に作用する摩擦力を減じてスムーズにシュー4を斜板3bに乗り移らせることができる。特に問題なければ、ピストン保持部41を回転させる一方でシャフト3を非回転に拘束しても構わない。
【0049】
台車10に支持されたピストン2が受け部12aから僅かに離れた状態でピストン組み付け機構40に供給されると、ピストン2が受け部12aからピストン保持部41aにスムーズに移行できない可能性がある。かかる事態を解消するため、図2に示すように、ガイド部材20の終端部に押圧部材47を配置するのが望ましい。この押圧部材47は、垂直方向の軸を中心として実線位置と二点鎖線位置との間を揺動可能で、かつ図示しない弾性部材の弾性力でピストン2を受け部12a側(二点鎖線位置の方向)に付勢するものである。台車10の走行に伴い、ピストン2が押圧部材47に当接すると、ピストン2が押し込まれてその外周面が受け部12aに密着するため、ピストン2をピストン保持部41aへよりスムーズに移行させることができる。
【0050】
以上の工程により、シャフト3の斜板3bにピストン2が円周方向等間隔に組み付けられ、シャフトアセンブリSの組み立てが完了する。組み立て後のシャフトアセンブリSは、アセンブリ移送機構50によって組み立て装置A1から上方に搬出される。
【0051】
アセンブリ移送機構50は、シャフトアセンブリ組み立て装置A1の上方に配置され、シリンダ等の駆動源に駆動されて昇降自在である。この移送機構50は、シャフトガイド51、アセンブリ支持部52、ピストンガイド53、およびこれらを取り付けるためのベース部材54で構成される。シャフトガイド51の内周には、シャフト3の軸部3aを挿入するための挿入穴51aが形成され、挿入穴51aの下方には、上方ほど縮径させたテーパ面51bが形成されている。アセンブリ支持部52はベース部材54に対して半径方向に移動自在であり、その内径端部にはシャフト3のフランジ部3cのリヤ側端面と係合する係合部52aが形成されている。ピストンガイド53は、図6に示すように斜板3bに組みつけられた各ピストン2の外径側に配置され、ピストン2を外径側から拘束してその脱落を規制する。
【0052】
シャフトアセンブリSの組み立てが完了すると、アセンブリ移送機構50が降下し、軸部3aのフロント側先端部がシャフトガイド51に挿入される。上述のようにシャフト支持部41上でのシャフト3は最小傾斜角θ1で傾いているが、軸部3aのフロント側先端部はシャフトガイド51のテーパ面51bによってスムーズに挿入穴51aに案内される。次いで、アセンブリ支持部52を内径側に移動させて係合部52aをフランジ部3cのリヤ側端面の外周部に係合させ、その後、アセンブリ移送機構50を上昇させる。これにより、斜板3bがシャフト支持部41から離反し、斜板3bでピストン2を懸垂したシャフトアセンブリSが組み立て装置A1から搬出される。挿入穴51aに軸部3aが挿入されると、シャフト3の姿勢修正が行われ、傾斜角θ1が消失してシャフト3の軸心が完全に垂直となる。これにより、シャフト3の支持状態が、それまでの斜板3bベースから軸部3aベースに切り替わる。一方、ピストン2は、シュー4と球面座との球面嵌合により斜板3bに対して揺動可能であること、および内周面が軸心に対して垂直なピストンガイド53で外径側から拘束されていること、から中心軸はほぼ垂直に維持される。
【0053】
その後、アセンブリ移送機構50は、アセンブリ支持部52でシャフトアセンブリSを支持したまま水平移動し、シャフトアセンブリSを第一工程に隣接した第二工程に移送する。この第二工程では、図7に示す組み立て装置A2により、斜板式圧縮機の主要部の組み立てが行われる。
【0054】
この実施形態の組み立て装置A2は、上述のアセンブリ移送機構50の他、シリンダブロック支持部60、およびピストン姿勢矯正機構70とで構成される。
【0055】
シリンダブロック支持部60はフレーム44に固定されている。この実施形態において、シリンダブロック支持部60は、台座61およびベース台62からなり、ベース台62上にフロント側の端面を上に向けたシリンダブロック1が位置決め状態で支持されている。ベース台62には、シリンダブロック1のシリンダボア1aと同位置かつ同径のガイド穴62aが形成されている。
【0056】
ピストン姿勢矯正機構70は、円筒状の矯正部材71と、矯正部材71に上方向の弾性力を付与する弾性部材としてのバネ72とで構成される。シリンダボア1aおよびガイド穴61aで形成される連続穴に矯正部材71が摺動自在に挿入され、矯正部材71の内周面に形成された段部71aと固定側の例えば台座61との間にバネ72が圧縮状態で介装されている。図8に拡大して示すように、矯正部材71の外周面にはストッパ部71bが形成され、このストッパ部71bはバネ72の弾性力によりベース台62の端面と軸方向で係合している。この状態では、矯正部材71の先端面71c(矯正面)は、シリンダボア1のフロント側端面よりも僅かな幅(δ)だけ突出している。
【0057】
シャフトアセンブリSを支持したアセンブリ移送機構70は、ベース台62上にシリンダブロック1が供給され、位置決め支持されたところで降下する。シャフトアセンブリSの降下に伴い、先ず斜板3bに懸垂された各ピストン2のリヤ側端面2b1が矯正部材71の矯正面71aと面接触し、さらに各ピストン2がバネ72の弾性力に抗して矯正部材70を後退させながらシリンダボア1aに挿入される。
【0058】
ところで、アセンブリ移送機構70によるシャフトアセンブリSの移送中、ピストン2は、シュー4と球面座との球面嵌合により揺動可能な状態にあり、かつ主にシュー4と斜板3bの端面との間の摩擦力でその位置を保持しているにすぎない。従って、外部からの振動等の要因でピストン2が垂直軸に対して僅かに傾斜し、あるいは位置ずれを起こす場合がある。これに対し、本発明では、上述のように矯正部材71を設け、シリンダボア1aへの挿入前にピストン2のリヤ側端面2b1を矯正面71aと面接触させるから、ピストン2が傾斜している場合でもその姿勢を垂直に矯正することができる。また、通常、シリンダボア1aのフロント側開口部にはテーパ面1b(図1参照)が形成されているので、挿入時のテーパ面1bの案内作用でピストン2の位置ずれや傾斜姿勢も矯正される。従って、シリンダボア1aに対してかじりを生じることなくスムーズにピストン2をシリンダボア1aに挿入することができる。
【0059】
このようにしてピストン2をシリンダブロック1の規定位置まで挿入した後、軸受9a〜9c等の必要部品の取り付けを行い、さらにシリンダブロックの両端にフロントハウジング6およびリヤハウジング8を取り付けることにより、図1に示す斜板式圧縮機の組み立てが完了する。
【0060】
なお、シリンダブロック1とリヤハウジング8を予めアセンブリ化してベース台62上に配置し、その上で上記と同様の手順でシャフトアセンブリSの組み付けを行えば、リヤハウジング8の取付け工程を省略でき、生産性をさらに向上させることができる。
【0061】
このように本発明によれば、組み立て装置A1によるシャフトアセンブリSの組み立て、さらには組み立て装置A2による斜板式圧縮機の主要部の組み立てが何れも縦軸姿勢で行われるので、従来のように横軸姿勢でこれらの組み立てを行う場合のように、ピストン2をその軸方向両側から支持する必要がない。従って、ピストン2の両端面2b1、2c1に形成されるセンタ穴2c2の有無にかかわらず、これらの組み立てを行うことが可能となる。
【0062】
なお、以上の説明では、ピストン2として片頭式を例示しているが、本発明は双頭式のピストンを使用する場合にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 シリンダブロック
1a シリンダボア
1b テーパ面
2 ピストン
2a 首部
2b 胴部
2b1 端面
2c 頭部
2c1 端面
2c2 センタ穴
3 シャフト
3a 軸部
3b 斜板
3c フランジ部
4 シュー
5 弾性部材(バネ)
6 フロントハウジング
8 リヤハウジング
10 搬送手段(台車)
11 レール
12 受け部材
12a 受け部
14 ラック
20 ガイド部材
22 第一ガイド面
23 第二ガイド面
30 シュー組み込み機構
31 第一組み込み部
32 第二組み込み部
34 溝部
35 弾性部材(板バネ)
40 ピストン組み付け機構
41 シャフト支持部
41a ピストン保持部
42 外周ガイド
43 軸受部
44 フレーム
46 ギヤ
50 アセンブリ移送機構
51 シャフトガイド
52 アセンブリ支持部
53 ピストンガイド
60 シリンダブロック支持部
70 ピストン姿勢矯正機構
71 矯正部材
71c 矯正面
72 弾性部材(バネ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜板に、その両端面に整合する一対のシューを介して複数のピストンを取り付けたシャフトアセンブリをシリンダブロックに組み込む斜板式流体機械の組み立て装置において、
縦軸姿勢のシャフトアセンブリを、各ピストンを斜板に懸垂させた状態で支持するアセンブリ支持部と、
シリンダブロックを支持するシリンダブロック支持部とを備え、
アセンブリ支持部とシリンダブロック支持部との相対接近で、シャフトアセンブリのピストンをシリンダブロックのシリンダボアに挿入する斜板式流体機械の組み立て装置。
【請求項2】
シリンダブロックのシリンダボアの開口部内外を進退移動可能で、かつ当該開口部外で待機する矯正面を備え、当該矯正面を、アセンブリ支持部に支持されたシャフトアセンブリのピストン端面と面接触させてピストンの姿勢矯正を行う請求項1記載の斜板式流体機械の組み立て装置。
【請求項3】
シリンダボアの開口部に設けられたテーパ面で、シリンダボアに挿入するピストンを案内する請求項1記載の斜板式流体機械の組み立て装置。
【請求項4】
斜板に、その両端面に整合する一対のシューを介して複数のピストンを取り付けたシャフトアセンブリをシリンダブロックに組み込むに際し、
縦軸姿勢のシャフトアセンブリを、各ピストンを斜板に懸垂させた状態でシリンダブロックに相対的に接近させて、各ピストンをシリンダボアに挿入することを特徴とする斜板式流体機械の組み立て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−197792(P2012−197792A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−121038(P2012−121038)
【出願日】平成24年5月28日(2012.5.28)
【分割の表示】特願2011−85552(P2011−85552)の分割
【原出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000177128)三洋機工株式会社 (35)
【Fターム(参考)】