説明

断熱材固定用金物及びこれを用いた建物の断熱材取付構造

【課題】部品点数を削減して低コスト化を図ることができ、しかも繊維系断熱材の施工作業性を向上させることができる断熱材固定用金物及びこれを用いた建物の断熱材取付構造を得る。
【解決手段】H鋼10の下フランジ10Bには差し込み口12が形成されており、この差し込み口12に断熱材固定用金物16が挿入されて繊維系断熱材14が下フランジ10Bの下方側から突き刺されて貫通端部を折り曲げることにより、繊維系断熱材14がH鋼10の下フランジ10Bに固定されている。断熱材固定用金物16は頭部16Bと金具本体16Aと先端部16Cとで構成されており、両側部の所定位置には差し込み口12からの抜け防止用の返し部28が形成されている。また、金具本体16Aにはスリット18が形成されており、差し込み時に弾性変形可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材固定用金物及びこれを用いた建物の断熱材取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、壁躯体に繊維系断熱材を固定する技術が開示されている。簡単に説明すると、壁躯体からは適宜間隔で複数のスタッドボルトが立設されており、これらのスタッドボルトに繊維系断熱材を支持させる。この際、この先行技術では、二種類の支持具を用いる。第1支持具は、中央部にボルト挿通孔が形成された方形の基板部と、この基板部の四辺から折り曲げられた二組の突出板部と、から成り、各一対の突出板部は互いに反対方向へ折り曲げられている。一方、第2支持具は、中央部にボルト挿通孔が形成された方形の基板部と、この基板部の対向する二辺から同一方向へ折り曲げられた一対の突出板部と、から成る。
【0003】
上記構成によれば、まず最初に壁躯体のスタッドボルトに一層目の繊維系断熱材を貫通させ、次に第1支持具の基板部のボルト挿通孔にスタッドボルトを挿通させながら、一方の突出板部を繊維系断熱材に差し込む。次に、二層目の繊維系断熱材を第1支持具の他方の突出板部に差し込む。次に、第2支持具の基板部のボルト挿通孔にスタッドボルトを挿通させながら、一対の突出板部を二層目の繊維系断熱材に差し込みながら、第1支持具に重ねる。
【特許文献1】実開昭61−25407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術による場合、第1支持具及び第2支持具といった二部品で繊維系断熱材を支持するため、部品点数が多く、コストがかかる。また、二部品を使い分けて装着していく手順となるため、繊維系断熱材の施工作業が煩雑になる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、部品点数を削減して低コスト化を図ることができ、しかも繊維系断熱材の施工作業性を向上させることができる断熱材固定用金物及びこれを用いた建物の断熱材取付構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係る断熱材固定用金物は、繊維系断熱材を建物構造材に固定する際に用いられる断熱材固定用金物であって、建物構造材に形成された差し込み口内へ挿通可能とされると共に、繊維系断熱材の厚さを超える所定長さを有する金具本体と、この金具本体の上端側に一体的に設けられると共に差し込み口の開口幅よりも広い幅を有し、差し込み口の周縁部に係止可能とされた頭部と、金具本体における頭部と反対側の端部に設けられ、繊維系断熱材への金具本体の突き刺しを可能とする尖塔形状の先端部と、を有することを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1記載の断熱材固定用金物において、前記金具本体には、金具本体に差し込み口から引抜く力が作用したときに差し込み口周縁部に係止され、金具本体の差し込み口からの抜けを防止する返し部が設けられている、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2記載の断熱材固定用金物において、前記金具本体には、金具本体に繊維系断熱材から引抜く力が作用したときに繊維系断熱材の端面に係止され、繊維系断熱材からの抜けを防止する第2返し部が形成されている、ことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3記載の断熱材固定用金物において、前記金具本体には、当該金具本体の長手方向に沿って金具本体のスリット幅方向への弾性変形を許容するスリットが形成されている、ことを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の断熱材固定用金物において、前記金具本体には、当該金具本体が繊維系断熱材を貫通して当該繊維系断熱材における貫通方向側の端面近傍位置にて金具本体を折り曲げる際の目印となる脆弱部が設定されている、ことを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明に係る建物の断熱材取付構造は、建物構造材の断熱材取付面に繊維系断熱材を当接させ、当該断熱材取付面に形成された差し込み口から請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載された断熱材固定用金物を差し込んで繊維系断熱材に突き刺し、貫通端部をその根元又は根元近傍から折り曲げることにより、繊維系断熱材を建物構造材に取り付けた、ことを特徴とする。
【0012】
請求項1記載の本発明によれば、一例として、以下の要領で繊維系断熱材が建物構造材に固定される。
【0013】
建物構造材の差し込み口が形成された面に繊維系断熱材を当接させ、差し込み口から断熱材固定用金物の先端部を挿入し繊維系断熱材に突き刺す。頭部が差し込み口の周縁部に係止されるまで或いはそれに近い状態まで断熱材固定用金物を繊維系断熱材に突き刺すと、金具本体における先端部側が繊維系断熱材を貫通し、その貫通端部が繊維系断熱材の反対側へ現れる。そこで、その貫通端部を根元又はその近傍から折り曲げる。これにより、繊維系断熱材が断熱材固定用金物から抜け落ちることがなくなり、又繊維系断熱材は断熱材固定用金物の頭部と金具本体の折り曲げ部との間に挟持された状態で固定的に保持される。
【0014】
このように本発明によれば、各々異なる機能が付与された頭部、金具本体、及び先端部を備えた断熱材固定用金物を予め用意しておくことにより、繊維系断熱材を固定する固定金具が複数部品化するのを解消することができる。従って、部品点数の削減及び組付工数の削減を図ることができ、更にはこれに伴うコスト削減効果及び施工作業の容易化が図られる。
【0015】
特に、前述した先行技術とは異なるが、一般に広く行われている繊維系断熱材の取付作業は、建物構造材に繊維系断熱材を添わせ、この状態で建物構造材及び繊維系断熱材に粘着テープを巻き付けていく方法であるが、この作業は一人で行うことができず、非常に作業効率が悪い。これに比べて、本発明は、上記組付手順とは異なり、先に差し込み口に断熱材固定用金物を差し込んでおけば、繊維系断熱材を一人で建物構造材に固定することも可能であるので、施工作業を効率よく行うことができる。
【0016】
請求項2記載の本発明によれば、金具本体に返し部が設けられており、断熱材固定用金物を用いて繊維系断熱材を建物構造材に固定した状態から、金具本体に差し込み口から引抜く力が作用すると、返し部が差し込み口周縁部に係止される。これにより、金具本体が差し込み口から抜けるのを防止することができる。
【0017】
請求項3記載の本発明によれば、金具本体に第2返し部が設けられており、断熱材固定用金物を装着した状態から金具本体に繊維系断熱材から引抜く力が作用すると、第2返し部が繊維系断熱材の端面に係止される。これにより、金具本体が繊維系断熱材から抜けるのを防止することができる。
【0018】
特に、請求項2記載の発明に対して本発明が適用された場合は、返し部と第2返し部とを併有することになるため、繊維系断熱材の建物構造材への固定状態がより一層安定する。
【0019】
請求項4記載の本発明によれば、金具本体の長手方向に沿ってスリットが形成されているので、金具本体はこのスリットのスリット幅方向へ弾性変形することができる。このため、返し部又は第2返し部が差し込み口を通過する際に、返し部又は第2返し部の一部が差し込み口周縁部に干渉しても、金具本体は比較的容易に弾性変形して通り抜けることができる。従って、断熱材固定用金物の差し込み口への挿入作業が容易になる。
【0020】
請求項5記載の本発明によれば、金具本体には折り曲げ時の目印となる脆弱部が形成されているため、金具本体を差し込み口へ挿入し繊維系断熱材に差し込んだ後、脆弱部から金具本体を折り曲げればよい。こうすることにより、複数箇所で断熱材固定用金物を使って繊維系断熱材を建物構造材に固定したときに、各金具本体の折り曲げ位置が同一となり、繊維系断熱材の厚さが均一又は略均一になる。従って、繊維系断熱材と建物構造材との間に隙間が生じたり、繊維系断熱材が金具本体の折り曲げ部分によって過度に圧縮されたりすることがなくなる。
【0021】
請求項6記載の本発明によれば、一例として、建物構造材の断熱材取付面に繊維系断熱材を当接させ、当該断熱材取付面に形成された差し込み口から請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載された断熱材固定用金物を差し込んで繊維系断熱材に突き刺す。そして、金具本体の貫通端部をその根元又は根元近傍から折り曲げることにより、繊維系断熱材を建物構造材に取り付ける。
【0022】
このように本発明では、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載された断熱材固定用金物を用いて繊維系断熱材を建物構造材に固定するため、前述した各請求項に係る発明の作用がそのまま得られる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る断熱材固定用金物は、部品点数を削減して低コスト化を図ることができ、しかも繊維系断熱材の施工作業性を向上させることができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項2記載の本発明に係る断熱材固定用金物は、金具本体が不用意に差し込み口から抜けて繊維系断熱材の固定状態が不安定になるのを防止することができるという優れた効果を有する。
【0025】
請求項3記載の本発明に係る断熱材固定用金物は、金具本体が不用意に繊維系断熱材から抜けて繊維系断熱材に及ぼしていた保持力を失うことを防止することができるという優れた効果を有する。また、請求項2記載の発明に対して本発明が適用された場合には、建物構造材への繊維系断熱材の固定状態をより一層安定化させることができるという優れた効果を有する。
【0026】
請求項4記載の本発明に係る断熱材固定用金物は、断熱材固定用金物の施工作業性をより一層向上させることができるという優れた効果を有する。
【0027】
請求項5記載の本発明に係る断熱材固定用金物は、繊維系断熱材の品質確保の容易化を図ることができるという優れた効果を有する。
【0028】
請求項6記載の本発明に係る建物の断熱材取付構造は、部品点数を削減して低コスト化を図ることができ、しかも繊維系断熱材の施工作業性を向上させることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
〔第1実施形態〕
【0030】
以下、図1〜図6を用いて、本発明に係る断熱材固定用金物及びこれを用いた建物の断熱材取付構造の第1実施形態について説明する。
【0031】
図1には、本実施形態に係る断熱材固定用金物を用いて繊維系断熱材をH鋼の下面に固定した状態(先端部の折り曲げ前の状態)の縦断面図が示されている。また、図2には、断熱材固定用金物を単品状態で示す拡大正面図が示されている。さらに、図3には、断熱材固定用金物を用いて繊維系断熱材をH鋼の下面に固定した状態(先端部の折り曲げ後の状態)を示す斜視図(但し、繊維系断熱材の図示は省略)が示されている。また、図4には、複数の断熱材固定用金物を使って繊維系断熱材をH鋼に固定した実際の状態を示す斜視図が示されている。
【0032】
これらの図に示されるように、建物構造材としてのH鋼10は、上フランジ10Aと下フランジ10Bと両者を繋ぐウェブ10Cとで構成されている。なお、ここでは、建物構造材の代表例としてH鋼10を用いているが、適用対象はこれに限らず、種々の構造材に対して本発明は適用可能である。例えば、溝形鋼、リップ付き溝形鋼、2本の溝形鋼を背向させてH鋼状にしたもの等、種々の断面形状・構造の構造材が適用可能である。
【0033】
上記H鋼10の下フランジ10Bには、差し込み口12が形成されている。補足すると、本実施形態では、図3に示されるように円孔より成る差し込み口12を用いて説明しているが、差し込み口としては円孔以外でもよく、種々の形状の差し込み口が適用可能である。また、本実施形態で用いた差し込み口12は、H鋼10の下フランジ10Bに重量軽減孔として或いは配線・配管の配索用孔として元々設けられている既設孔である。
【0034】
上述したH鋼10の下フランジ10Bの下面には、矩形パネル状に成形された繊維系断熱材14が配設されている。繊維系断熱材14は、断熱材固定用金物16を用いてH鋼10の下フランジ10Bに固定されている。そこで、次に断熱材固定用金物16について詳細に説明する。
【0035】
図2等に示されるように、断熱材固定用金物16は、金属製の薄板で構成された所定幅の金具本体16Aと、この金具本体16Aの上端部に一体に形成された頭部16Bと、金具本体16Aの下端部に一体に形成された先端部16Cと、によって構成されている。なお、断熱材固定用金物16は、薄肉鋼板をプレス成形により打ち抜くことにより形成されている。
【0036】
金具本体16Aの幅方向寸法B1は、差し込み口12の口径φ(図4参照)よりも小さく設定されている。従って、金具本体16Aは、差し込み口12内へ干渉することなく挿入させることができる。また、金具本体16Aの長手方向寸法Lは、繊維系断熱材14の厚さt1(図1参照)とH鋼10の下フランジ10Bの板厚t2(図1参照)を足した長さよりも長く設定されている。さらに、頭部16Bの幅方向寸法B2は、差し込み口12の口径φよりも大きく設定されている。従って、頭部16Bは、差し込み口12の周縁部に干渉し差し込み口12を通ることはできないようになっている。また、先端部16Cは、二等辺逆三角形状(尖塔形状)を成しており、繊維系断熱材14に突き刺さり、貫通することが可能とされている。
【0037】
また、上述した断熱材固定用金物16の金具本体16Aの幅方向中間部には、金具本体16Aの長手方向に沿ってスリット18が形成されている。スリット18は、頭部16Bの中央部から先端部16Cに至る手前に亘って形成されている。また、スリット18の幅方向寸法は、後述する返し部28との関係で金具本体16Aに必要量の幅方向内側への弾性変形を生じさせる所定幅に設定されている。さらに、スリット18の上端部、中間部、下端部には、スリット幅よりも大きい径の円形又は略円形の開口部が形成されている。なお、説明の便宜上、スリット18の上端部に形成された開口部を「第1開口部20」と称し、スリット18の中間部に形成された開口部を「第2開口部22」と称し、スリット18の下端部に形成された開口部を「第3開口部24」と称すことにする。また、第2開口部22及び第3開口部24が本発明における脆弱部に相当する。更に補足すると、第1開口部20及び第3開口部24はスリット18の始点の位置にあり、応力集中を緩和する機能を有している。また、第1開口部20は、後述する第2実施形態での使用態様において紐50(図7、図8参照)を通す用途にも供される。
【0038】
上記断熱材固定用金物16の金具本体16Aは、第2開口部22、第3開口部24の形成位置にて容易に折り曲げられるようになっている。以下、適宜、金具本体16Aの折り曲げられた部分を「折り曲げ部26」(図3参照)と称す。
【0039】
さらに、金具本体16Aの両側縁における頭部16B側所定位置には、左右一対の返し部28が形成されている。各返し部28は、上端部が頭部16Bの下縁と平行な辺とされかつ中間部が斜辺とされた直角三角形状に形成されている。
【0040】
(作用・効果)
【0041】
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0042】
図4に示されるように、まず、H鋼10の下フランジ10Bに適宜設けられている差し込み口12内へ断熱材固定用金物16をそれぞれ挿入していく。なお、図4では、説明の便宜上、差し込み口12が等ピッチで形成されているが、差し込み口12は重量軽減孔として或いは配線・配管等の配索用孔として元々形成されている既設孔を用いればよい。
【0043】
断熱材固定用金物16を差し込み口12に差し込むと、一対の返し部28が差し込み口12の周縁部に干渉するが、頭部16Bを強めに押すと、金具本体16Aがスリット18を狭める方向へ弾性変形し、一対の返し部28は差し込み口12を容易に乗り越える。なお、その際、返し部28の斜辺部が差し込み口12の周縁部に干渉することで、返し部28にスリット18側への押圧力が作用するため、断熱材固定用金物16の差し込み時には容易に金具本体16Aが弾性変形して挿入動作をガイドする。
【0044】
各差し込み口12へ断熱材固定用金物16をそれぞれ差し込んだ後、図4に示されるように繊維系断熱材14を断熱材固定用金物16の先端部16Cに押し当ててそのまま突き刺す。なお、このとき断熱材固定用金物16の返し部28の上端部が差し込み口12の周縁部に係止されるので、繊維系断熱材14を断熱材固定用金物16の先端部16Cに押し付ける力で断熱材固定用金物16が弾性変形して差し込み口12から抜けてしまうといったことはない。
【0045】
繊維系断熱材14の断熱材固定用金物16への突き刺し後、図3に示されるように、断熱材固定用金物16の貫通端部を第3開口部24で直角に折り曲げて繊維系断熱材14の端面に沿わせる。これにより、繊維系断熱材14のH鋼10の下フランジ10Bへの固定作業が終了する。
【0046】
繊維系断熱材14がH鋼10の下フランジ10Bに固定された状態では、繊維系断熱材14の自重が断熱材固定用金物16に加わるが、断熱材固定用金物16の先端部16C側が折り曲げられているので、繊維系断熱材14が断熱材固定用金物16から抜け落ちることはない。また、繊維系断熱材14の自重が断熱材固定用金物16に加わると、断熱材固定用金物16には差し込み口12から抜け落ちる方向への荷重が作用するが、頭部16Bが差し込み口12の周縁部に係止されるので、断熱材固定用金物16が差し込み口12から抜け落ちることはない。
【0047】
なお、以上の組付手順は一例であり、他の手順で繊維系断熱材14をH鋼10に取り付けてもよい。例えば、先に繊維系断熱材14をH鋼10の下フランジ10Bの下面に当接させてから、断熱材固定用金物16を差し込み口12へ差し込んで繊維系断熱材14を貫通させ、その後、貫通端部を第3開口部24で折り曲げるようにしてもよい。
【0048】
このように本実施形態によれば、各々異なる機能が付与された頭部16B、金具本体16A、及び先端部16Cを備えた断熱材固定用金物16を予め用意しておくことにより、前述した先行技術のように繊維系断熱材を固定する固定金具が複数部品化するのを解消することができる。従って、部品点数の削減及び組付工数の削減を図ることができ、更にはこれに伴うコスト削減効果及び施工作業の容易化が図られる。
【0049】
特に、広く一般に行われている繊維系断熱材14の取付作業は、H鋼10の下フランジ10Bに繊維系断熱材14を添わせ、この状態でH鋼10と繊維系断熱材14とを一まとめにして粘着テープで巻き付けていく方法であるが、この作業は一人で行うことができず、非常に作業効率が悪い。これに比べて、本実施形態によれば、H鋼10の差し込み口12に順番に断熱材固定用金物16を差し込んでいき、最後に繊維系断熱材14を断熱材固定用金物16の先端部16Cに突き刺していけば、一人作業が可能になる。従って、施工作業を効率よく行うことができる。
【0050】
以上より、本実施形態に係る断熱材固定用金物及びこれを用いた建物の断熱材取付構造によれば、部品点数を削減して低コスト化を図ることができ、しかも繊維系断熱材14の施工作業性を向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、金具本体16Aに返し部28が設けられており、断熱材固定用金物16をH鋼10に装着した状態から金具本体16Aに差し込み口12から引抜く力が作用しても、返し部28が差し込み口12の周縁部に係止されてストッパとして機能するので、金具本体16Aが差し込み口12から抜けるのを防止することができる。その結果、本実施形態によれば、金具本体16Aが不用意に差し込み口12から抜けて繊維系断熱材14の固定状態が不安定になるのを防止することができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、金具本体16Aの幅方向中間部にその長手方向に沿ってスリット18が形成されているので、金具本体16Aはこのスリット18のスリット幅方向へ弾性変形することができる。このため、返し部28が差し込み口12を通過する際に、返し部28の斜辺部が差し込み口12の周縁部に干渉しても、金具本体16Aは比較的容易に幅方向内側へ弾性変形して通り抜けることができる。従って、断熱材固定用金物16の差し込み口12への挿入作業が容易になる。その結果、本実施形態によれば、断熱材固定用金物16の施工作業性をより一層向上させることができる。
【0053】
加えて、本実施形態では、金具本体16Aには折り曲げ時の目印となる第2開口部22及び第3開口部24が形成されているため、金具本体16Aを差し込み口12へ挿入し繊維系断熱材14に差し込んだ後、第2開口部22又は第3開口部24から金具本体16Aを折り曲げればよい。こうすることにより、図4に示されるように、複数箇所で断熱材固定用金物16を使って繊維系断熱材14をH鋼10に固定したときに、各金具本体16Aの折り曲げ位置が同一となり、繊維系断熱材14の厚さが均一又は略均一になる。従って、繊維系断熱材14とH鋼10の下フランジ10Bとの間に断熱性に影響を与える程大きな隙間が生じたり、繊維系断熱材14が金具本体16Aの折り曲げ部26によって過度に圧縮されたりすることがなくなる。その結果、本実施形態によれば、繊維系断熱材14の断熱性に関する品質確保を容易に確保及び維持することができる。特に、繊維系断熱材14も含めて断熱材一般に言えることであるが、H鋼10等の構造材に取り付けられる断熱材は一旦取り付けてしまうと、増改築や修繕等するときでなければ、交換したり付け直したりすることもない。従って、H鋼10への取付精度が悪いと、繊維系断熱材14が本来有している断熱性が充分に発揮されない。この点、上記のように繊維系断熱材14の取付状態が安定することは、繊維系断熱材14の断熱性に関する品質を持続的に確保することに繋がるので、非常に有利である。
【0054】
<第1実施形態に係る断熱材固定用金物のバリエーション>
【0055】
図5に示される断熱材固定用金物30では、金具本体30A、頭部30B、先端部30C及び左右一対の返し部28を備えている点で、前述した図2に示される断熱材固定用金物16と共通するが、この変形例では、金具本体30Aに形成されるスリット32が裂け目状に形成されており、第1開口部20〜第3開口部24は形成されていない構成となっている。
【0056】
なお、上記構成に加えて、金具本体30Aの両側部における返し部28の下方側に、返し部28と同様形状の第2返し部34を追加してもよい。第2返し部34を折り曲げ位置に設定すると、以下の作用効果が得られる。
【0057】
すなわち、繊維系断熱材14のH鋼10への固定状態から金具本体30Aに引抜き力が作用すると、第2返し部34が繊維系断熱材14の端面に係止される。これにより、金具本体30Aが繊維系断熱材14から抜けるのを防止することができる。その結果、金具本体30Aが不用意に繊維系断熱材14から抜けて繊維系断熱材14に及ぼしていた保持力を失うことを防止することができる。また、返し部28と併設されることにより、H鋼10への繊維系断熱材14の固定状態をより一層安定化させることができる。
【0058】
また、図6に示される断熱材固定用金物40では、金具本体40A、頭部40B、先端部40C及び左右一対の返し部28を備えている点で、図5に示される断熱材固定用金物30と共通するが、この変形例では、縦スリット42と、縦スリット42に対して直角に交差するように3本の第1横スリット44〜第3横スリット48とが形成されている。第1横スリット44は縦スリット42の長手方向中間部に形成されており、第3横スリット48は縦スリット42の下端部に形成されており、更に第2横スリット46は第1横スリット44と第3横スリット48との中間に形成されている。これらの第1横スリット44〜第3横スリット48はいずれも繊維系断熱材14の折り曲げ位置の目印であり、ピッチは10mmに設定されている。
【0059】
〔第2実施形態〕
【0060】
以下、図7及び図8を用いて、本発明に係る断熱材固定用金物及びこれを用いた建物の断熱材取付構造の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0061】
図7及び図8に示されるように、この第2実施形態では、第1実施形態で説明した断熱材固定用金物16を用いて繊維系断熱材14を壁に設ける点に特徴がある。
【0062】
具体的に説明すると、複数の断熱材固定用金物16の第1開口部20には、紐50が通されて相互に連結されている。なお、断熱材固定用金物16は等ピッチで配置されている。また、紐50の外径は第1開口部20の内径よりも若干大きく設定されており、紐50と第1開口部20との間に作用する摩擦力で所定の位置に保持されるようになっている。
【0063】
図8に示されるように、最上段に位置する断熱材固定用金物16はH鋼10の下フランジ10Bの差し込み口12に差し込まれており、当該断熱材固定用金物16の頭部16Bを通った紐50の上端部はH鋼10のウェブ10Cに形成された既設孔52に挿通されてから、抜け止め用の玉54が形成されて抜けないようになっている。
【0064】
上記の如くして、二段目の断熱材固定用金物16からは、H鋼10の下フランジ10Bの脇から下方へ垂下させた状態とする。そして、この状態の断熱材固定用金物16に繊維系断熱材14を上から順に突き刺していき、一層目の断熱層56を形成する。次に、断熱材固定用金物16の貫通端部に繊維系断熱材14を重ねて突き刺していき、二層目の断熱層58を形成する。このとき、一層目に配置された繊維系断熱材14に対して二層目に配置される繊維系断熱材14を半ピッチずらして突き刺していく。つまり、一層目の断熱層56を構成する繊維系断熱材14の継目を二層目の断熱層58を構成する繊維系断熱材14が跨ぐように重ねていくことにより、より断熱効果が高くなる。
【0065】
このようにしていくことにより、壁面に断熱層を形成することができる。
【0066】
〔上記実施形態の補足説明〕
【0067】
上述した実施形態では、H鋼10の下フランジ10Bの下面に繊維系断熱材14を固定する場合を例にして説明したが、これに限らず、H鋼10のウェブ10Cに繊維系断熱材14を固定する場合に本発明を適用してもよい。ウェブ10Cにも重量軽減孔等の差し込み口12が形成されており、ウェブ10Cに対して繊維系断熱材14を平行に配置し、断熱材固定用金物16をウェブ10Cに対して面直角方向(横向き)に差し込んで固定する場合に好適である。
【0068】
また、上述した実施形態では、折り曲げる目印となるように第2開口部22、第3開口部24、第1横スリット44、第2横スリット46、第3横スリット48といった欠損部を金具本体16A、30A、40Aに設けたが、これに限らず、脆弱部であればよい。例えば、横ストライプ状の凹溝等を設けて折り曲げやすくしてもよい。
【0069】
さらに、上述した実施形態では、返し部28、第2返し部34が金具本体16A、30A、40Aに対して同一平面上に形成されているが、これに限らず、プレス成形時に金具本体16A、30A、40Aから切欠起こしによる爪を設けて、この爪を差し込み口12に干渉させるようにしてもよい。
【0070】
また、本発明が適用される建物は、ユニット住宅等のユニット建物やスチールハウスが好適であるが、これらに限定されるものではなく、他の工法による建物に対しても適用可能である。また、用途も住宅に限らず、商業用店舗や公共施設等に対しても当然に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1実施形態に係り、断熱材固定用金物を用いて繊維系断熱材をH鋼の下面に固定した状態(先端部の折り曲げ前の状態)の縦断面図である。
【図2】図1に示される断熱材固定用金物の拡大正面図である。
【図3】第1実施形態に係り、断熱材固定用金物を用いて繊維系断熱材をH鋼の下面に固定した状態(先端部の折り曲げ後の状態)を示す斜視図(但し、繊維系断熱材の図示は省略)である。
【図4】複数の断熱材固定用金物を使って繊維系断熱材をH鋼に固定した実際の状態を示す斜視図である。
【図5】図2に示される断熱材固定用金物のバリエーション1を示す正面図である。
【図6】図2に示される断熱材固定用金物のバリエーション2を示す正面図である。
【図7】第2実施形態に係り、複数の断熱材固定用金物に紐を通して連結して吊るした状態を示す正面図である。
【図8】図7に示される断熱材固定用金物を用いて壁用に繊維系断熱材を固定していった施工例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0072】
10 H鋼(建物構造材)
12 差し込み口
14 繊維系断熱材
16 断熱材固定用金物
18 スリット
22 第2開口部(脆弱部)
24 第3開口部(脆弱部)
26 折り曲げ部
28 返し部
30 断熱材固定用金物
32 スリット
34 第2返し部
40 断熱材固定用金物
42 縦スリット
44 第1横スリット(脆弱部)
46 第2横スリット(脆弱部)
48 第3横スリット(脆弱部)
52 既設孔(差し込み口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維系断熱材を建物構造材に固定する際に用いられる断熱材固定用金物であって、
建物構造材に形成された差し込み口内へ挿通可能とされると共に、繊維系断熱材の厚さを超える所定長さを有する金具本体と、
この金具本体の上端側に一体的に設けられると共に差し込み口の開口幅よりも広い幅を有し、差し込み口の周縁部に係止可能とされた頭部と、
金具本体における頭部と反対側の端部に設けられ、繊維系断熱材への金具本体の突き刺しを可能とする尖塔形状の先端部と、
を有することを特徴とする断熱材固定用金物。
【請求項2】
前記金具本体には、金具本体に差し込み口から引抜く力が作用したときに差し込み口周縁部に係止され、金具本体の差し込み口からの抜けを防止する返し部が設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載の断熱材固定用金物。
【請求項3】
前記金具本体には、金具本体に繊維系断熱材から引抜く力が作用したときに繊維系断熱材の端面に係止され、繊維系断熱材からの抜けを防止する第2返し部が形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の断熱材固定用金物。
【請求項4】
前記金具本体には、当該金具本体の長手方向に沿って金具本体のスリット幅方向への弾性変形を許容するスリットが形成されている、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の断熱材固定用金物。
【請求項5】
前記金具本体には、当該金具本体が繊維系断熱材を貫通して当該繊維系断熱材における貫通方向側の端面近傍位置にて金具本体を折り曲げる際の目印となる脆弱部が設定されている、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の断熱材固定用金物。
【請求項6】
建物構造材の断熱材取付面に繊維系断熱材を当接させ、
当該断熱材取付面に形成された差し込み口から請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載された断熱材固定用金物を差し込んで繊維系断熱材に突き刺し、貫通端部をその根元又は根元近傍から折り曲げることにより、繊維系断熱材を建物構造材に取り付けた、
ことを特徴とする建物の断熱材取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−249857(P2009−249857A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96316(P2008−96316)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】