説明

新規な光酸発生剤及びそれを含むレジスト材料

【課題】安全なキャスト溶媒への溶解性、熱安定性及び環境保全性に優れた光酸発生剤並びにそれを用いたレジスト材料の提供。
【解決手段】式(I):


(式中、Xはトリフルオロメタンスルホン酸イオン、六フッ化リン酸イオン、カンファースルホン酸イオン又はパーフルオロブタンスルホン酸イオンである)
で表される光酸発生剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な光酸発生剤に関し、更には電子線、X線、遠紫外線などの高エネルギー線に対して高い感度を有するとともに、コントラストが高くて解像性の良い、新規な酸発生剤を含むレジスト材料に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウム塩(別名:ビス(4−t−ブチルフェニル)−2,4,6−トリメチルフェニルスルホニウム塩)は、ケミカルアブストラクト(Chemical Abstract)に記載が無く、また、本発明者等の知る限りでは、その他の文献にも記載が見当たらないので、新規化合物であると考えられる。
【0003】
光酸発生剤の開発初期においては、エポキシ樹脂の光硬化用に開発されたフッ化金属を対アニオンとするオニウム塩が転用されていたが、その後、化学増幅レジスト用に種々の光酸発生剤が合成、開発されている。
【0004】
光酸発生剤に必要な性質は多々あるが、1)安全なキャスト溶媒への溶解性、2)使用するポリマーとの溶解性、3)熱安定性(昇華、分解)、4)保存安定性、5)感光特性(吸収波長、吸収量、酸発生効率)、6)合成の難易、7)環境安全性などの性能を考慮する必要があり、中でも近年では、安全なキャスト溶媒への溶解性、熱安定性(昇華、分解)や環境安全性に優れた光酸発生剤が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、安全なキャスト溶媒への溶解性、熱安定性(昇華、分解)や環境安全性に優れた光酸発生剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、式(I):
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Xはトリフルオロメタンスルホン酸イオン、六フッ化リン酸イオン、カンファースルホン酸イオン又はパーフルオロブタンスルホン酸イオンである)
で表される化合物からなる光酸発生剤並びにその光酸発生剤を、アルカリ水溶液に可溶な樹脂100重量部に対し、0.1〜20重量部配合したレジスト材料が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る式(I)で表わされる化合物からなる光酸発生剤は光の照射により酸を発生し、この酸が二次的な化学反応を起すことができ、また低臭気、低揮発性で、毒性が低く、溶剤に対する許容性が高いので、アルカリ水溶液に可溶な樹脂と共に用いることによって、優れたレジスト材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る光酸発生剤2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウム塩は、前記式(I)を有する。式(I)の光酸発生剤は例えば以下のようにして製造することができる。
【0011】
前記式(I)の光酸発生剤は、アルカリ水溶液に可溶な樹脂と、場合により架橋剤とを組み合わせることにより、優れたレジスト材料となる。ここでアルカリ水溶液に可溶な樹脂(以下、アルカリ可溶性樹脂と略すことがある。)は、アルカリ現像液(例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド)に可溶性であり、光照射作用によりアルカリ不溶性となるものであれば特に限定はなく、例えば、ノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレン等を好適に用いることができる。特に、重量平均分子量が3000〜10000のポリ(p−ヒドロキシスチレン)又はその水酸基の一部を疎水性基(例えばtert−ブトキシカルボニル基)で置換した変性ポリ(p−ヒドロキシスチレン)を用いるのが好ましい。
【0012】
本発明のレジスト材料に場合により用いられる架橋剤としては、例えばメチル化メラミン樹脂、メチル化尿素樹脂、メチル化グリコールウリル樹脂等を好適に用いることができ、メラミン樹脂のトリアジン環の吸収が問題になる波長域では、メチル化尿素樹脂、メチル化グリコールウリル樹脂等が好適に用いられる。
【0013】
本発明に係るレジスト材料は前記アルカリ水溶液に可溶な樹脂100重量部に対し、式(I)の光酸発生剤に0.1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部並びに場合によっては前記架橋剤を好ましくは0.5〜20重量部、更に好ましくは1〜10重量部配合する。光酸発生剤の配合量が少ないと十分な硬化や分解が得難いので好ましくなく、逆に多いと高いコントラストが得難いので好ましくない。架橋剤を使用すると膜強度が高くなり、例えばドライエッチング耐性が向上するので好ましい。
【0014】
本発明に係るレジスト材料に配合する溶剤としては、他の成分の必要量を溶解し、基板上への塗布特性に優れた化合物であれば特に限定はなく、例えばアルコール類、ケトン類、エーテル類、アルコールエーテル類、エステル類、セロソルブエステル類、プロピレングリコール類、ジエチレングリコール類、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類などが用いられるが、安全性に優れ、かつ高沸点溶媒である乳酸エチルまたはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)の使用が特に好ましい。
【0015】
更に、本発明に係るレジスト材料に配合されるビニルエーテルモノマーとしては、HEVE(2−ヒドロキシエチルビニルエーテル),HBVE(4−ヒドロキシブチルビニルエーテル)及びTEGVE(トリエチレングリコールジビニルエーテル)等があげられ、本発明の光酸発生剤はこれらのモノマーに易溶性である。
これらのビニルエーテルモノマーは主として反応性希釈剤としてレジスト全体の粘度をさげるために使用するもので、その使用量はアルカリ水溶液に可溶な樹脂100重量部に対し、1〜100重量部、好ましくは5〜20重量部である。
【実施例】
【0016】
以下に実施例などを挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例などによりなんら限定されるものではない。
【0017】
実施例1
攪拌機および冷却器を備えた300mlのガラス製四つ口フラスコに、メシチレン86.1g(0.72モル)、無水酢酸12.3g(0.12モル)、ビス(4−t−ブチルフェニル)スルホキシド15.7g(0.05モル)を仕込んだ。次いでトリフルオロメタンスルホン酸9.1g(0.06モル)を攪拌しながら滴下し、滴下終了後、内温が40℃になるまで昇温して5時間反応させた。反応終了後、反応液を脱イオン水50mlで2回洗浄した。その後、減圧下に反応液を濃縮し、これに酢酸エチル30ml、ジイソプロピルエーテル40mlを加えて析出した結晶をろ過し、結晶をジイソプロピルエーテルで洗浄した。得られた結晶を、減圧下60℃で終夜乾燥を行い、2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホナートを16.1g得た。この生成物の収率は、原料のスルホキシドに対して、56.9%であった。
【0018】
また、得られた結晶を酢酸エチルで再結晶にて精製したところ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、純度が97.7%の2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホナートが得られた。融点は、178.0〜178.8℃であり、最大吸収波長並びにモル吸光係数は205nm及び61,000であった。
【0019】
実施例2
攪拌機および冷却器を備えた300mlのガラス製四つ口フラスコに、メシチレン78.4g(0.65モル)、塩化アルミニウム15.5g(0.12モル)、ビス(4−t−ブチルフェニル)スルホキシド12.1g(0.04モル)を仕込んだ。内温が40℃になるまで昇温して8時間反応させた。反応終了後、反応液を別の500mlのフラスコに調製した塩酸67.9g(35%塩酸11.4gと氷水56.5gの混合物)に攪拌しながら滴下し、加熱して内温約70℃で30分攪拌を続けた。放冷後、3層に分かれた最上層の有機層を取り除き、トルエン25mlで2回洗浄を行った。次いでn−ブタノール65mlを加えて抽出し、n−ブタノール層を脱イオン水25mlで5回洗浄した。この有機層を減圧下に濃縮し、これに酢酸エチル50ml、脱イオン水70ml、六フッ化リン酸カリウム7.6g(0.04モル)を加え、室温で2時間攪拌した。反応終了後、反応液を脱イオン水30mlで2回洗浄した。その後、減圧下に反応液を濃縮し、これに酢酸エチル30ml、ヘキサン15mlを加えて析出した結晶をろ過し、結晶を酢酸エチルで洗浄した。得られた結晶を、減圧下60℃で終夜乾燥を行い、2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファートを12.7g得た。この生成物の収率は、原料のスルホキシドに対して、58.7%であった。
【0020】
また、得られた結晶をメタノールで再結晶にて精製したところ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、純度が99.2%の2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファートが得られた。融点は、219.5〜221.2℃であり、最大吸収波長並びにモル吸光係数は205nm及び66,000であった。
【0021】
実施例3
攪拌機および冷却器を備えた300mlのガラス製四つ口フラスコに、メシチレン79.0g(0.65モル)、塩化アルミニウム15.3g(0.12モル)、ビス(4−t−ブチルフェニル)スルホキシド12.1g(0.04モル)を仕込んだ。内温が40℃になるまで昇温して8時間反応させた。反応終了後、反応液を別の500mlのフラスコに調製した塩酸67.7g(35%塩酸11.4gと氷水56.3gの混合物)に攪拌しながら滴下し、加熱して内温約70℃で30分攪拌を続けた。放冷後、3層に分かれた最上層の有機層を取り除き、トルエン25mlで2回洗浄を行った。次いでn−ブタノール65mlを加えて抽出し、n−ブタノール層を脱イオン水25mlで5回洗浄した。この有機層を減圧下に濃縮し、これにn−ブタノール20ml、炭酸水素ナトリウム10gを加え、室温で30分攪拌した。反応終了後、無機塩をろ過により取り除いた反応液を減圧下に濃縮し、これにメタノール40ml、カンファースルホン酸9.0g(0.04モル)を加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、反応液を減圧下に濃縮し、酢酸エチル50mlを加えて溶解し、脱イオン水25mlで5回洗浄した。その後、減圧下に反応液を濃縮、乾固させた後、得られた生成物を、減圧下60℃で5時間乾燥を行い、2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムカンファースルホナートを18.0g得た。この生成物の収率は、原料のスルホキシドに対して、72.1%であった。
【0022】
また、得られた生成物をシリカゲルカラムにより精製したところ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、純度が99.4%の2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムカンファースルホナートが得られた。融点は、95.0〜110.0℃であり、最大吸収波長並びにモル吸光係数は205nm及び60,000であった。
【0023】
実施例4
攪拌機および冷却器を備えた100mlのガラス製四つ口フラスコに、メシチレン34.67g(0.288モル)、無水酢酸5.08g(0.050モル)、ビス(4−t−ブチルフェニル)スルホキシド6.41g(0.020モル)を仕込んだ。次いで5℃以下に冷却し、パーフルオロブタンスルホン酸7.75g(0.026モル)を攪拌下5℃以下に保ちながら滴下し、滴下終了後、5℃以下で1時間反応させた。次いで、内温が30℃になるまで昇温して24時間反応させた。反応終了後、反応液を脱イオン水20mlで5回洗浄、続いてこの有機層をヘキサン20mlで2回洗浄し、残った有機層を減圧下に濃縮した。これに、メタノール50ml、活性炭0.6gを加えて、室温で1時間攪拌し、ろ過により活性炭を除去した。その後、減圧下に反応液を濃縮、乾固させた後、得られた生成物を、減圧下50℃で終夜乾燥を行い、2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムパーフルオロブタンスルホナートを9.87g得た。この生成物の収率は、原料のスルホキシドに対して、67.6%であった。
【0024】
また、得られた生成物をシリカゲルカラムにより精製したところ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、純度が97.2%の2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムパーフルオロブタンスルホナートが得られた。融点は、136.2〜138.2℃であり、最大吸収波長並びにモル吸光係数は203nm及び52,000であった。
【0025】
実施例5
本発明により得られた光酸発生剤の溶媒ならびにモノマーに対する溶解性を確認した。結果を表Iに示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表2は、2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホナートの1H−NMR及び13C−NMRのピークの帰属結果である。
【0028】
【表2】

【0029】
表3は、2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファートの1H−NMR及び13C−NMRのピークの帰属結果である。
【0030】
【表3】

【0031】
表4は、2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムカンファースルホナートの1H−NMRのピークの帰属結果である。
【0032】
【表4】

【0033】
表5は、2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムカンファースルホナートの13C−NMRのピークの帰属結果である。
【0034】
【表5】

【0035】
表6は、2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムパーフルオロブタンスルホナートの1H−NMR及び13C−NMRのピークの帰属結果である。
【0036】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る式(I)の化合物からなる光酸発生剤は低臭気、低揮発性で、毒性が低く、溶剤に対する許容性が高いのでアルカリ水溶液に可溶な樹脂と共に用いることによって、優れたレジスト材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホナートの1H−NMRチャートである。
【図2】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホナートの13C−NMRチャートである。
【図3】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホナートのIRチャートである。
【図4】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファートの1H−NMRチャートである。
【図5】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファートの13C−NMRチャートである。
【図6】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファートのIRチャートである。
【図7】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムカンファースルホナートの1H−NMRチャートである。
【図8】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムカンファースルホナートの13C−NMRチャートである。
【図9】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムカンファースルホナートのIRチャートである。
【図10】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムパーフルオロブタンスルホナートの1H−NMRチャートである。
【図11】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムパーフルオロブタンスルホナートの13C−NMRチャートである。
【図12】2,4,6−トリメチルフェニルビス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムパーフルオロブタンスルホナートのIRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、Xはトリフルオロメタンスルホン酸イオン、六フッ化リン酸イオン、カンファースルホン酸イオン又はパーフルオロブタンスルホン酸イオンである)
で表される化合物からなる光酸発生剤。
【請求項2】
アルカリ水溶液に可溶な樹脂100重量部及び請求項1に記載の光酸発生剤0.1〜20重量部を含んでなるレジスト材料。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液に可溶な樹脂が、重量平均分子量が3,000〜10,000のポリ(p−ヒドロキシスチレン)又はポリ(p−ヒドロキシスチレン)の水酸基の一部を疎水性基で置換したポリマーである請求項2に記載のレジスト材料。
【請求項4】
架橋剤を更に含む請求項2又は3に記載のレジスト材料。
【請求項5】
メシチレンとビス(4−t−ブチル−フェニル)スルホキシドとを反応させ、次いで相当する酸あるいは塩と反応させることを特徴とする請求項1に記載の光酸発生剤を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−280740(P2009−280740A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135898(P2008−135898)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】