説明

新規タンパク質およびそのDNA

【課題】 グルコーストランスポーター活性を有する新規タンパク質、該タンパク質をコードするDNA、該タンパク質の活性を促進又は阻害する化合物のスクリーニング方法、該スクリーニング方法で得られる化合物等の提供。
【解決手段】 ヒト由来のグルコーストランスポーター活性を有する特定のアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質は糖尿病等の診断マーカー等として有用であり、該タンパク質を用いるスクリーニング法により得られる該タンパク質の活性を促進又は阻害する化合物は、例えば、糖尿病、高脂血症等の疾病の予防・治療剤として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規なグルコーストランスポーター活性を有するタンパク質、該タンパク質をコードするDNA、該タンパク質の活性を促進または阻害する化合物のスクリーニング方法、該スクリーニング方法で得られる化合物などを提供する。
【0002】
【従来の技術】グルコースが細胞内外を移行するには、細胞膜上に糖輸送担体と呼ばれる膜蛋白が必要である。グルコースの輸送担体は、グルコーストランスポーター (GLUT)とNa+/グルコーストランスポーター (SGLT)に大別される。GLUT は、濃度勾配に従って輸送を行う促進拡散型の輸送体であり、8種類のアイソフォームが存在し、分子量約5万の細胞膜を12回貫通する共通構造を有している。SGLT は、Na+イオン輸送と共役することでグルコースを濃度勾配に逆らって輸送する能動輸送担体であり、分子量7.5万の細胞膜を14回貫通する共通構造を有している。GLUTは組織や器官によって発現している種類が異なっている。例えば、脂肪細胞ではGLUT4とGLUT1が発現している。膵β細胞、肝細胞では、GLUT2 が主に発現していると考えられている。GLUT2 はグルコースに対する低い親和性と高い最大輸送能を特徴とする。膵β細胞では、血糖値に応じてグルコースを取り込み、グルコキナーゼと共にグルコース濃度依存性のインスリン分泌作用を示すためのグルコースセンサーとして機能していると考えられている。肝細胞では、細胞内外のグルコース濃度勾配に従って、食後高血糖時には血中グルコースを細胞内に取り込み、空腹時にはグリコーゲン分解、あるいは糖新生によって細胞内で作られたグルコースを血中に放出する糖輸送担体として機能している。GLUT4やGLUT1は通常、細胞膜下の小胞に存在し、インスリンの刺激によって小胞が細胞膜に融合し糖の取り込みを促進する。インスリン刺激がなくなると、これら輸送体は小胞に取り込まれて細胞内に戻る。この一連のサイクルによって血中糖濃度の調節に寄与している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】現在使用されているインスリン分泌促進薬(SU剤)は、膵ベータ細胞のKATPチャネルを閉鎖することにより、血糖値に関わらず強制的にインスリンを分泌させる。従って,血糖コントロールが難しく低血糖を起こしたり、過剰なインスリン分泌により肥満を誘発したりする副作用があると考えられている。また、平均して10年で薬が効かなくなるSU剤の二次無効と呼ばれる現象が起きるが,膵ベータ細胞に疲弊を起こすのが原因とも考えられている。GLUT機能を賦活化することにより、膵β細胞への糖取り込みを促進し、血糖値依存性のインスリン分泌を亢進することが期待できる。また、GLUT機能の賦活化薬には,現在使用されているインスリン分泌促進薬(SU剤)の上記副作用は起きないものと期待される。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、新規グルコーストランスポーター蛋白質(ヒトGLUTホモログ)を見出した。該ヒトGLUTホモログ はアミノ酸レベルで、GLUT3と84%の高い相同性を示し、12回膜貫通型の構造を有しており、グルコースの促進拡散型の輸送体として機能し得るものである。GLUTホモログを賦活化する方法としては、例えばGLUTホモログのプロモーターを活性化したり、mRNAを安定化することで発現レベルを亢進することが考えられる。また、GLUTホモログを細胞内から膜表面に移行し、細胞膜上で機能するGLUTホモログの数を増やすことも考えられる。本発明者らは、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0005】すなわち、本発明は、(1)配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質またはその塩、(2)上記(1)項記載のタンパク質の部分ペプチドまたはその塩、(3)上記(1)項記載のタンパク質または上記(2)項記載の部分ペプチドをコードするDNAを含有するDNA、(4)配列番号:2で表わされる塩基配列を有する上記(3)項記載のDNA、(5)上記(4)項記載のDNAを含有する組換えベクター、(6)上記(5)項記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体、(7)上記(6)項記載の形質転換体を培養し、上記(1)項記載のタンパク質または上記(2)項記載の部分ペプチドを生成、蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする上記(1)項記載のタンパク質もしくは上記(2)項記載の部分ペプチドまたはその塩の製造法、(8)上記(1)項記載のタンパク質もしくは上記(2)項記載の部分ペプチドまたはその塩を含有してなる医薬、(9)上記(3)項記載のDNAを含有してなる医薬、(10)上記(1)項記載のタンパク質もしくは上記(2)項記載の部分ペプチドまたはその塩に対する抗体、(11)上記(1)項記載のタンパク質もしくは上記(2)項記載の部分ペプチドまたはその塩を用いることを特徴とする、上記(1)項記載のタンパク質もしくは上記(2)項記載の部分ペプチドまたはその塩の活性を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法、(12)上記(1)項記載のタンパク質もしくは上記(2)項記載の部分ペプチドまたはその塩を含有してなる、上記(1)項記載のタンパク質もしくは上記(2)項記載の部分ペプチドまたはその塩の活性を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニング用キット、(13)上記(11)項記載のスクリーニング方法または上記(12)項記載のスクリーニング用キットを用いて得られる、上記(1)項記載のタンパク質もしくは上記(2)項記載の部分ペプチドまたはその塩の活性を促進または阻害する化合物またはその塩、(14)上記(11)項記載のスクリーニング方法または上記(12)項記載のスクリーニング用キットを用いて得られる上記(1)項記載のタンパク質もしくは上記(2)項記載の部分ペプチドまたはその塩の活性を促進または阻害する化合物またはその塩を含有してなる医薬、(15)糖尿病、高脂血症の予防・治療剤である上記(8)項または(9)項記載の医薬、(16)糖尿病、高脂血症の予防・治療剤である上記(14)項記載の医薬などを提供する。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明で用いられる配列番号:1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質(以下、本発明のタンパク質または本発明で用いられるタンパク質と称することもある)は、ヒトや温血動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)の細胞(例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など)もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織、例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、骨格筋などに由来するタンパク質であってもよく、合成タンパク質であってもよい。
【0007】配列番号:1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上、特に好ましくは約99%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。配列番号:1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質としては、例えば、前記の配列番号:1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有し、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質などが好ましい。実質的に同質の活性としては、例えば、グルコースの輸送活性などが挙げられる。実質的に同質とは、それらの性質が性質的に(例、生理学的に、または薬理学的に)同質であることを示す。したがって、グルコースの輸送活性が同等(例、約0.01〜100倍、好ましくは約0.1〜10倍、より好ましくは0.5〜2倍)であることが好ましいが、これらの活性の程度、タンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。グルコースの輸送活性などの活性の測定は、公知の方法に準じて行うことが出来るが、例えば、J. Biol. Chem. 275: 4607-4612, 2000 に記載の方法またはそれに準じる方法に従って測定することができる。
【0008】また、本発明で用いられるタンパク質としては、例えば、■配列番号:1で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、■配列番号:1で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、■配列番号:1で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、■配列番号:1で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または■それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するタンパク質などのいわゆるムテインも含まれる。上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、とくに限定されない。
【0009】本明細書におけるタンパク質は、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。配列番号:1で表わされるアミノ酸配列を含有するタンパク質をはじめとする、本発明で用いられるタンパク質は、C末端が通常カルボキシル基(−COOH)またはカルボキシレート(−COO-)であるが、C末端がアミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)であってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルなどのC1-6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6-12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1-2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基、ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。本発明で用いられるタンパク質がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明で用いられるタンパク質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。さらに、本発明で用いられるタンパク質には、N末端のアミノ酸残基(例、メチオニン残基)のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども含まれる。本発明で用いられるタンパク質の具体例としては、例えば、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有するヒト膵臓由来のタンパク質などがあげられる。
【0010】本発明で用いられるタンパク質の部分ペプチドとしては、前記した本発明で用いられるタンパク質の部分ペプチドであって、好ましくは、前記した本発明で用いられるタンパク質と同様の性質を有するものであればいずれのものでもよい。例えば、本発明で用いられるタンパク質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、さらに好ましくは70個以上、より好ましくは100個以上、最も好ましくは200個以上のアミノ酸配列を有するペプチドなどが用いられる。また、本発明で用いられる部分ペプチドは、そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が欠失し、または、そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が付加し、または、そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が挿入され、または、そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、より好ましくは数個、さらに好ましくは1〜5個程度)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されていてもよい。本発明の部分ペプチドとしては、配列番号:1で表されるアミノ酸配列において例えば第176番目〜201番目、第471番目〜491番目のアミノ酸配列が好ましい。
【0011】また、本発明で用いられる部分ペプチドはC末端が通常カルボキシル基(−COOH)またはカルボキシレート(−COO-)であるが、前記した本発明で用いられるタンパク質のごとく、C末端がアミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)であってもよい。さらに、本発明で用いられる部分ペプチドには、前記した本発明で用いられるタンパク質と同様に、C末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有しているもの、N末端のアミノ酸残基(例、メチオニン残基)のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。本発明で用いられる部分ペプチドは抗体作成のための抗原としても用いることができる。たとえば、後述する本発明の抗体を調製する目的には、例えば配列番号:1で表されるアミノ酸配列において第399〜417番目, 第500〜649番目のアミノ酸配列を有するペプチドなどがあげられる。
【0012】本発明で用いられるタンパク質または部分ペプチドの塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。本発明で用いられるタンパク質もしくはその部分ペプチドまたはその塩は、前述したヒトや温血動物の細胞または組織から公知のタンパク質の精製方法によって製造することもできるし、タンパク質をコードするDNAを含有する形質転換体を培養することによっても製造することができる。また、後述のペプチド合成法に準じて製造することもできる。ヒトや哺乳動物の組織または細胞から製造する場合、ヒトや哺乳動物の組織または細胞をホモジナイズした後、酸などで抽出を行ない、該抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することができる。
【0013】本発明で用いられるタンパク質もしくは部分ペプチドまたはその塩、またはそのアミド体の合成には、通常市販のタンパク質合成用樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、クロロメチル樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4−ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂、4−メチルベンズヒドリルアミン樹脂、PAM樹脂、4−ヒドロキシメチルメチルフェニルアセトアミドメチル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、4−(2',4'-ジメトキシフェニル−ヒドロキシメチル)フェノキシ樹脂、4−(2',4'-ジメトキシフェニル−Fmocアミノエチル)フェノキシ樹脂などを挙げることができる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とするタンパク質の配列通りに、公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂からタンパク質または部分ペプチドを切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的のタンパク質もしくは部分ペプチドまたはそれらのアミド体を取得する。上記した保護アミノ酸の縮合に関しては、タンパク質合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができるが、特に、カルボジイミド類がよい。カルボジイミド類としては、DCC、N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロリル)カルボジイミドなどが用いられる。これらによる活性化にはラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt, HOOBt)とともに保護アミノ酸を直接樹脂に添加するかまたは、対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとしてあらかじめ保護アミノ酸の活性化を行なった後に樹脂に添加することができる。
【0014】保護アミノ酸の活性化や樹脂との縮合に用いられる溶媒としては、タンパク質縮合反応に使用しうることが知られている溶媒から適宜選択されうる。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド,N,N−ジメチルアセトアミド,N−メチルピロリドンなどの酸アミド類、塩化メチレン,クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、トリフルオロエタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ピリジン,ジオキサン,テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリル,プロピオニトリルなどのニトリル類、酢酸メチル,酢酸エチルなどのエステル類あるいはこれらの適宜の混合物などが用いられる。反応温度はタンパク質結合形成反応に使用され得ることが知られている範囲から適宜選択され、通常約−20℃〜50℃の範囲から適宜選択される。活性化されたアミノ酸誘導体は通常1.5〜4倍過剰で用いられる。ニンヒドリン反応を用いたテストの結果、縮合が不十分な場合には保護基の脱離を行なうことなく縮合反応を繰り返すことにより十分な縮合を行なうことができる。反応を繰り返しても十分な縮合が得られないときには、無水酢酸またはアセチルイミダゾールを用いて未反応アミノ酸をアセチル化することによって、後の反応に影響を与えないようにすることができる。
【0015】原料のアミノ基の保護基としては、例えば、Z、Boc、t−ペンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、Cl-Z、Br-Z、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、2−ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、Fmocなどが用いられる。カルボキシル基は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2−アダマンチルなどの直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル化)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4−ニトロベンジルエステル、4−メトキシベンジルエステル、4−クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル化)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、t−ブトキシカルボニルヒドラジド化、トリチルヒドラジド化などによって保護することができる。セリンの水酸基は、例えば、エステル化またはエーテル化によって保護することができる。このエステル化に適する基としては、例えば、アセチル基などの低級(C1-6)アルカノイル基、ベンゾイル基などのアロイル基、ベンジルオキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭酸から誘導される基などが用いられる。また、エーテル化に適する基としては、例えば、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基、t-ブチル基などである。チロシンのフェノール性水酸基の保護基としては、例えば、Bzl、Cl2-Bzl、2−ニトロベンジル、Br-Z、t−ブチルなどが用いられる。ヒスチジンのイミダゾールの保護基としては、例えば、Tos、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル、DNP、ベンジルオキシメチル、Bum、Boc、Trt、Fmocなどが用いられる。
【0016】原料のカルボキシル基の活性化されたものとしては、例えば、対応する酸無水物、アジド、活性エステル〔アルコール(例えば、ペンタクロロフェノール、2,4,5-トリクロロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、パラニトロフェノール、HONB、N-ヒドロキシスクシミド、N-ヒドロキシフタルイミド、HOBt)とのエステル〕などが用いられる。原料のアミノ基の活性化されたものとしては、例えば、対応するリン酸アミドが用いられる。保護基の除去(脱離)方法としては、例えば、Pd−黒あるいはPd-炭素などの触媒の存在下での水素気流中での接触還元や、また、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸あるいはこれらの混合液などによる酸処理や、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジンなどによる塩基処理、また液体アンモニア中ナトリウムによる還元なども用いられる。上記酸処理による脱離反応は、一般に約−20℃〜40℃の温度で行なわれるが、酸処理においては、例えば、アニソール、フェノール、チオアニソール、メタクレゾール、パラクレゾール、ジメチルスルフィド、1,4-ブタンジチオール、1,2-エタンジチオールなどのようなカチオン捕捉剤の添加が有効である。また、ヒスチジンのイミダゾール保護基として用いられる2,4-ジニトロフェニル基はチオフェノール処理により除去され、トリプトファンのインドール保護基として用いられるホルミル基は上記の1,2-エタンジチオール、1,4-ブタンジチオールなどの存在下の酸処理による脱保護以外に、希水酸化ナトリウム溶液、希アンモニアなどによるアルカリ処理によっても除去される。
【0017】原料の反応に関与すべきでない官能基の保護ならびに保護基、およびその保護基の脱離、反応に関与する官能基の活性化などは公知の基または公知の手段から適宜選択しうる。タンパク質または部分ペプチドのアミド体を得る別の方法としては、例えば、まず、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基をアミド化して保護した後、アミノ基側にペプチド(タンパク質)鎖を所望の鎖長まで延ばした後、該ペプチド鎖のN末端のα−アミノ基の保護基のみを除いたタンパク質または部分ペプチドとC末端のカルボキシル基の保護基のみを除去したタンパク質または部分ペプチドとを製造し、これらのタンパク質またはペプチドを上記したような混合溶媒中で縮合させる。縮合反応の詳細については上記と同様である。縮合により得られた保護タンパク質またはペプチドを精製した後、上記方法によりすべての保護基を除去し、所望の粗タンパク質またはペプチドを得ることができる。この粗タンパク質またはペプチドは既知の各種精製手段を駆使して精製し、主要画分を凍結乾燥することで所望のタンパク質またはペプチドのアミド体を得ることができる。タンパク質またはペプチドのエステル体を得るには、例えば、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、タンパク質またはペプチドのアミド体と同様にして、所望のタンパク質またはペプチドのエステル体を得ることができる。
【0018】本発明で用いられる部分ペプチドまたはそれらの塩は、公知のペプチドの合成法に従って、あるいは本発明で用いられるタンパク質を適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。すなわち、本発明で用いられる部分ペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下の■〜■に記載された方法が挙げられる■M. Bodanszky および M.A. Ondetti、ペプチド・シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)■SchroederおよびLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide), Academic Press, NewYork (1965年)■泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験 丸善(株) (1975年)
■矢島治明 および榊原俊平、生化学実験講座 1、 タンパク質の化学IV 205、(1977年)■矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店また、反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などを組み合わせて本発明で用いられる部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0019】本発明で用いられるタンパク質をコードするDNAとしては、前述した本発明で用いられるタンパク質をコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよい。また、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、前記した細胞・組織由来のcDNA、前記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、前記した細胞・組織よりtotalRNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(以下、RT-PCR法と略称する)によって増幅することもできる。本発明で用いられるタンパク質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNA、または配列番号:2で表される塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、本発明で用いられるタンパク質と実質的に同質の性質を有するタンパク質をコードするDNAであれば何れのものでもよい。
【0020】配列番号:2で表される塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号:2で表される塩基配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上、特に好ましくは約99%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd(J. Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。より好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。ハイストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が約19〜40mM、好ましくは約19〜20mMで、温度が約50〜70℃、好ましくは約60〜65℃の条件を示す。特に、ナトリウム濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が最も好ましい。より具体的には、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質をコードするDNAとしては、配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
【0021】本発明で用いられる部分ペプチドをコードするDNAとしては、前述した本発明で用いられる部分ペプチドをコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよい。また、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、前記した細胞・組織由来のcDNA、前記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。本発明で用いられる部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAの一部分を有するDNA、または配列番号:2で表される塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、本発明のタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードするDNAの一部分を含有するDNAなどが用いられる。配列番号:2で表される塩基配列とハイブリダイズできるDNAは、前記と同意義を示す。ハイブリダイゼーションの方法およびハイストリンジェントな条件は前記と同様のものが用いられる。
【0022】本発明で用いられるタンパク質、部分ペプチド(以下、これらをコードするDNAのクローニングおよび発現の説明においては、これらを単に本発明のタンパク質と略記する場合がある)を完全にコードするDNAのクローニングの手段としては、本発明のタンパク質をコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んだDNAを本発明のタンパク質の一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて標識したものとのハイブリダイゼーションによって選別することができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。DNAの塩基配列の変換は、PCRや公知のキット、例えば、MutanTM-superExpress Km(宝酒造(株))、MutanTM-K(宝酒造(株))等を用いて、ODA-LAPCR法やGapped duplex法やKunkel法等の公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って行なうことができる。クローン化されたタンパク質をコードするDNAは目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加したりして使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。本発明のタンパク質の発現ベクターは、例えば、(イ)本発明のタンパク質をコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、(ロ)該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
【0023】ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどの他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV-TKプロモーターなどが挙げられる。これらのうち、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、SRαプロモーターなどを用いるのが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが、宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなど、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0024】発現ベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Amprと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用いてdhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によっても選択できる。また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列を、本発明のタンパク質のN端末側に付加する。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列などが、宿主がバチルス属菌である場合は、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列などが、宿主が酵母である場合は、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列など、宿主が動物細胞である場合には、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列などがそれぞれ利用できる。このようにして構築された本発明のタンパク質をコードするDNAを含有するベクターを用いて、形質転換体を製造することができる。
【0025】宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。エシェリヒア属菌の具体例としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),60巻,160(1968)〕,JM103〔ヌクイレック・アシッズ・リサーチ,(Nucleic Acids Research),9巻,309(1981)〕,JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)〕,120巻,517(1978)〕,HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー,41巻,459(1969)〕,C600〔ジェネティックス(Genetics),39巻,440(1954)〕などが用いられる。バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔ジーン,24巻,255(1983)〕,207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry),95巻,87(1984)〕などが用いられる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R-,NA87−11A,DKD−5D,20B−12、シゾサッカロマイセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)KM71などが用いられる。
【0026】昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞またはEstigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N 細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn, J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo),13, 213-217,(1977))などが用いられる。昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる〔前田ら、ネイチャー(Nature),315巻,592(1985)〕。動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7,Vero,チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記),dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記),マウスL細胞,マウスAtT−20,マウスミエローマ細胞,ラットGH3,ヒトFL細胞などが用いられる。エシェリヒア属菌を形質転換するには、例えば、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンジイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),69巻,2110(1972)やジーン(Gene),17巻,107(1982)などに記載の方法に従って行なうことができる。
【0027】バチルス属菌を形質転換するには、例えば、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティックス(Molecular & General Genetics),168巻,111(1979)などに記載の方法に従って行なうことができる。酵母を形質転換するには、例えば、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),194巻,182−187(1991)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),75巻,1929(1978)などに記載の方法に従って行なうことができる。昆虫細胞または昆虫を形質転換するには、例えば、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),6, 47-55(1988))などに記載の方法に従って行なうことができる。動物細胞を形質転換するには、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール.263−267(1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456(1973)に記載の方法に従って行なうことができる。このようにして、タンパク質をコードするDNAを含有する発現ベクターで形質転換された形質転換体を得ることができる。宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する際、培養に使用される培地としては液体培地が適当であり、その中には該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他が含有せしめられる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など、窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質、無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。また、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは約5〜8が望ましい。
【0028】エシェリヒア属菌を培養する際の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔ミラー(Miller),ジャーナル・オブ・エクスペリメンツ・イン・モレキュラー・ジェネティックス(Journal of Experiments in Molecular Genetics),431−433,Cold Spring Harbor Laboratory, New York1972〕が好ましい。ここに必要によりプロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行ない、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行ない、必要により通気や撹拌を加えることもできる。宿主が酵母である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian, K. L. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),77巻,4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter, G. A. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),81巻,5330(1984)〕が挙げられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約24〜72時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する際、培地としては、Grace's Insect Medium(Grace, T.C.C.,ネイチャー(Nature),195,788(1962))に非動化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔サイエンス(Science),122巻,501(1952)〕,DMEM培地〔ヴィロロジー(Virology),8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medical Association)199巻,519(1967)〕,199培地〔プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding ofthe Society for the Biological Medicine),73巻,1(1950)〕などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。以上のようにして、形質転換体の細胞内、細胞膜または細胞外に本発明のタンパク質を生成せしめることができる。
【0029】上記培養物から本発明のタンパク質を分離精製するには、例えば、下記の方法により行なうことができる。本発明のタンパク質を培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過によりタンパク質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX−100TMなどの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中にタンパク質が分泌される場合には、培養終了後、公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれるタンパク質の精製は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0030】かくして得られるタンパク質が遊離体で得られた場合には、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって塩に変換することができ、逆に塩で得られた場合には公知の方法あるいはそれに準じる方法により、遊離体または他の塩に変換することができる。なお、組換え体が産生するタンパク質を、精製前または精製後に適当な蛋白修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、ポリペプチドを部分的に除去することもできる。蛋白修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グリコシダーゼなどが用いられる。かくして生成する本発明のタンパク質の存在は、特異抗体を用いたエンザイムイムノアッセイやウエスタンブロッティングなどにより測定することができる。
【0031】本発明で用いられるタンパク質もしくは部分ペプチドまたはその塩に対する抗体は、本発明で用いられるタンパク質もしくは部分ペプチドまたはその塩を認識し得る抗体であれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。本発明で用いられるタンパク質もしくは部分ペプチドまたはその塩(以下、抗体の説明においては、これらを単に本発明のタンパク質と略記する場合がある)に対する抗体は、本発明のタンパク質を抗原として用い、公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。
〔モノクローナル抗体の作製〕
(a)モノクロナール抗体産生細胞の作製本発明のタンパク質は、温血動物に対して投与により抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。用いられる温血動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ニワトリが挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。モノクローナル抗体産生細胞の作製に際しては、抗原で免疫された温血動物、例えばマウスから抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を同種または異種動物の骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、後記の標識化タンパク質と抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行なうことができる。融合操作は既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー(Nature)、256、495 (1975)〕に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。
【0032】骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1、P3U1、SP2/0、AP−1などの温血動物の骨髄腫細胞が挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくはPEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、20〜40℃、好ましくは30〜37℃で1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用できるが、例えば、タンパク質抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法、抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識したタンパク質を加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法などが挙げられる。モノクローナル抗体の選別は、公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地で行なうことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%の牛胎児血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%の牛胎児血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))あるいはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行なうことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0033】(b)モノクロナール抗体の精製モノクローナル抗体の分離精製は、公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って行なうことができる。
【0034】〔ポリクローナル抗体の作製〕本発明のポリクローナル抗体は、公知あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。例えば、免疫抗原(タンパク質抗原)自体、あるいはそれとキャリアー蛋白質との複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に温血動物に免疫を行ない、該免疫動物から本発明のタンパク質に対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造することができる。温血動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアー蛋白質との複合体に関し、キャリアー蛋白質の種類およびキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミンやウシサイログロブリン、ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプルさせる方法が用いられる。また、ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。縮合生成物は、温血動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行なわれる。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された温血動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0035】本発明で用いられるタンパク質または部分ペプチドをコードするDNA(以下、アンチセンスヌクレオチドの説明においては、これらのDNAを本発明のDNAと略記する場合がある)の塩基配列に相補的な、または実質的に相補的な塩基配列を有するアンチセンスヌクレオチドとしては、本発明のDNAの塩基配列に相補的な、または実質的に相補的な塩基配列を有し、該DNAの発現を抑制し得る作用を有するものであれば、いずれのアンチセンスヌクレオチドであってもよいが、アンチセンスDNAが好ましい。本発明のDNAに実質的に相補的な塩基配列とは、例えば、本発明のDNAに相補的な塩基配列(すなわち、本発明のDNAの相補鎖)の全塩基配列あるいは部分塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列などが挙げられる。特に、本発明のDNAの相補鎖の全塩基配列うち、本発明のタンパク質のN末端部位をコードする部分の塩基配列(例えば、開始コドン付近の塩基配列など)の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスヌクレオチドが好適である。具体的には、配列番号:2で表わされる塩基配列を有するDNAの塩基配列に相補的な、もしくは実質的に相補的な塩基配列、またはその一部分を有するアンチセンスヌクレオチド、好ましくは例えば、配列番号:2で表わされる塩基配列を有するDNAの塩基配列に相補な塩基配列、またはその一部分を有するアンチセンスヌクレオチドなどが挙げられる。アンチセンスヌクレオチドは通常、10〜40個程度、好ましくは15〜30個程度の塩基から構成される。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンスDNAを構成する各ヌクレオチドのりん酸残基(ホスフェート)は、例えば、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾りん酸残基に置換されていてもよい。これらのアンチセンスヌクレオチドは、公知のDNA合成装置などを用いて製造することができる。
【0036】以下に、本発明のタンパク質もしくは部分ペプチドまたはその塩(以下、本発明のタンパク質と略記する場合がある)、本発明のタンパク質または部分ペプチドをコードするDNA(以下、本発明のDNAと略記する場合がある)、本発明のタンパク質もしくは部分ペプチドまたはその塩に対する抗体(以下、本発明の抗体と略記する場合がある)、および本発明のDNAのアンチセンスヌクレオチド(以下、本発明のアンチセンスヌクレオチドと略記する場合がある)の用途を説明する。
【0037】本発明のタンパク質の活性を促進する化合物もしくはその塩を含有する医薬は、例えば膵β細胞への糖取り込みを促進し、血糖値依存性のインスリン分泌を亢進できるので例えば、糖尿病などの治療・予防剤として使用することができる。一方、本発明のタンパク質の活性を阻害する化合物もしくはその塩を含有する医薬は、糖取り込みを抑制することで、脂肪合成を抑制することができるので例えば、高脂血症などの治療・予防剤として使用することができる。
【0038】〔1〕本発明のタンパク質が関与する各種疾病の治療・予防剤本発明のタンパク質は、グルコーストランスポーターとしてグルコースの促進拡散型の輸送活性を有し、膵β細胞への糖取り込み、血糖値依存性のインスリン分泌に寄与している。したがって、本発明のタンパク質をコードするDNAに異常があったり、欠損している場合あるいは本発明のタンパク質の発現量が減少している場合には、例えば、糖尿病などの種々の疾患が発症する。したがって、本発明のタンパク質および本発明のDNAは、例えば、糖尿病などの疾患の治療・予防剤などの医薬として使用することができる。例えば、生体内において本発明のタンパク質が減少あるいは欠損しているために、グルコースの膵β細胞への糖取り込みが十分に、あるいは正常に発揮されない患者がいる場合に、(イ)本発明のDNAを該患者に投与し、生体内で本発明のタンパク質を発現させることによって、(ロ)細胞に本発明のDNAを挿入し、本発明のタンパク質を発現させた後に、該細胞を患者に移植することによって、または(ハ)本発明のタンパク質を該患者に投与することなどによって、該患者における本発明のタンパク質の役割を十分に、あるいは正常に発揮させることができる。本発明のDNAを上記の治療・予防剤として使用する場合は、該DNAを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って、ヒトまたは温血動物に投与することができる。本発明のDNAは、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤などの生理学的に認められる担体とともに製剤化し、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与できる。本発明のタンパク質を上記の治療・予防剤として使用する場合は、少なくとも90%、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上に精製されたものを使用するのが好ましい。
【0039】本発明のタンパク質等は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、本発明のタンパク質等を生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノールなど)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM、HCO−50など)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。本発明のDNAが挿入されたベクターも上記と同様に製剤化され、通常、非経口的に使用される。
【0040】このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、温血動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して投与することができる。本発明のタンパク質等の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、糖尿病の治療目的で本発明のタンパク質等を経口投与する場合、一般的に成人(60kgとして)においては、一日につき該タンパク質等を約0.1mg〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該タンパク質等の1回投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、糖尿病の治療目的で本発明のタンパク質等を注射剤の形で成人(体重60kgとして)に投与する場合、一日につき該タンパク質等を約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を患部に注射することにより投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0041】〔2〕疾病に対する医薬候補化合物のスクリーニング本発明のタンパク質は、本発明のタンパク質の活性を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニングのための試薬として有用である。すなわち、本発明は、(1)本発明のタンパク質を用いることを特徴とする本発明のタンパク質の活性(例えば、グルコースの促進拡散型の輸送活性など)を促進または阻害する化合物またはその塩(以下、それぞれ促進剤、阻害剤と略記する場合がある)のスクリーニング方法を提供し、より具体的には、例えば、(2)(i)本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞の糖取り込み活性と(ii)本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞と試験化合物の混合物の糖取り込み活性の比較を行なうことを特徴とする促進剤または阻害剤のスクリーニング方法を提供する。具体的には、上記スクリーニング方法においては、例えば、(i)と(ii)の場合において、糖取り込み活性を3H標識したグルコースまたは2-deoxy-glucoseなどのグルコース類縁体の細胞内への蓄積を放射活性で測定し、グルコースの促進拡散型の輸送活性の指標として比較することを特徴とするものである。
【0042】試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。上記のスクリーニング方法を実施するには、本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞をスクリーニングに適したバッファーに浮遊して調製する。バッファーには、pH約4〜10(望ましくは、pH約6〜8)のリン酸バッファー、ほう酸バッファーなどの、本発明のタンパク質のNa+イオンチャネル活性を阻害しないバッファーであればいずれでもよい。本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞としては、例えば、前述した本発明のタンパク質をコードするDNAを含有するベクターで形質転換された宿主(形質転換体)が用いられる。宿主としては、例えば、CHO細胞などの動物細胞が好ましく用いられる。該スクリーニングには、例えば、前述の方法で培養することによって、本発明のタンパク質を細胞膜上に発現させた形質転換体が好ましく用いられる。
【0043】本発明のタンパク質のグルコースの輸送活性は、公知の方法、例えば、J. Biol. Chem. 275: 4607-4612, 2000 に記載の方法あるいはそれに準じる方法に従って測定することができる。例えば、上記(ii)の場合におけるグルコースの輸送活性を、上記(i)の場合に比べて、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上促進する試験化合物を本発明のタンパク質の活性を促進する化合物またはその塩として選択することができる。また、例えば、上記(ii)の場合におけるグルコースの輸送活性を、上記(i)の場合に比べて、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上阻害(または抑制)する試験化合物を本発明のタンパク質の活性を阻害する化合物またはその塩として選択することができる。また、本発明のタンパク質GLUTホモログ遺伝子のプロモーター下流に分泌型アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼなどの遺伝子を挿入し、上記の各種細胞に発現させ、該細胞に上記試験化合物を接触させた場合における酵素活性を賦活化または阻害する化合物またはその塩を探索することによって本発明のタンパク質(GLUTホモログ)の発現を促進または抑制(すなわち、本発明のタンパク質の活性を促進または阻害)する化合物またはその塩をスクリーニングすることができる。
【0044】本発明のスクリーニング用キットは、本発明で用いられるタンパク質もしくは部分ペプチドまたはその塩、または本発明で用いられるタンパク質もしくは部分ペプチドを産生する能力を有する細胞を含有するものである。
【0045】本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物またはその塩は、上記した試験化合物、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などから選ばれた化合物またはその塩であり、本発明のタンパク質の活性(例、グルコースの輸送活性など)を促進または阻害する化合物またはその塩である。該化合物の塩としては、前記した本発明のタンパク質の塩と同様のものが用いられる。本発明のタンパク質の活性を促進する化合物またはその塩は、例えば、糖尿病に対する治療・予防剤などの医薬として有用である。また、本発明のタンパク質の活性を阻害する化合物またはその塩は、例えば、高脂血症に対する治療・予防剤などの医薬として有用である。
【0046】本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物またはその塩を上述の治療・予防剤として使用する場合、常套手段に従って製剤化することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、無菌性溶液、懸濁液剤などとすることができる。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトまたは温血動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。該化合物またはその塩の投与量は、その作用、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、糖尿病治療の目的で本発明のタンパク質の活性を促進する化合物またはその塩を経口投与する場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき該化合物またはその塩を約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該化合物またはその塩の1回投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、糖尿病治療の目的で本発明のタンパク質の活性を促進する化合物またはその塩を注射剤の形で通常成人(体重60kgとして)に投与する場合、一日につき該化合物またはその塩を約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0047】〔3〕本発明のタンパク質、その部分ペプチドまたはその塩の定量本発明のタンパク質に対する抗体(以下、本発明の抗体と略記する場合がある)は、本発明のタンパク質を特異的に認識することができるので、被検液中の本発明のタンパク質の定量、特にサンドイッチ免疫測定法による定量などに使用することができる。すなわち、本発明は、(i)本発明の抗体と、被検液および標識化された本発明のタンパク質とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化された本発明のタンパク質の割合を測定することを特徴とする被検液中の本発明のタンパク質の定量法、および(ii)被検液と担体上に不溶化した本発明の抗体および標識化された本発明の別の抗体とを同時あるいは連続的に反応させたのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することを特徴とする被検液中の本発明のタンパク質の定量法を提供する。上記(ii)の定量法においては、一方の抗体が本発明のタンパク質のN端部を認識する抗体で、他方の抗体が本発明のタンパク質のC端部に反応する抗体であることが望ましい。
【0048】また、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体(以下、本発明のモノクローナル抗体と称する場合がある)を用いて本発明のタンパク質の定量を行なえるほか、組織染色等による検出を行なうこともできる。これらの目的には、抗体分子そのものを用いてもよく、また、抗体分子のF(ab')2 、Fab'、あるいはFab画分を用いてもよい。本発明の抗体を用いる本発明のタンパク質の定量法は、特に制限されるべきものではなく、被測定液中の抗原量(例えば、タンパク質量)に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられるが、感度、特異性の点で、後述するサンドイッチ法を用いるのが特に好ましい。標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−アビジン系を用いることもできる。
【0049】抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が挙げられる。サンドイッチ法においては不溶化した本発明のモノクローナル抗体に被検液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明のモノクローナル抗体を反応させ(2次反応)たのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することにより被検液中の本発明のタンパク質量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。標識化剤および不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相用抗体あるいは標識用抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。本発明のサンドイッチ法による本発明のタンパク質の測定法においては、1次反応と2次反応に用いられる本発明のモノクローナル抗体は、本発明のタンパク質の結合する部位が相異なる抗体が好ましく用いられる。すなわち、1次反応および2次反応に用いられる抗体は、例えば、2次反応で用いられる抗体が、本発明のタンパク質のC端部を認識する場合、1次反応で用いられる抗体は、好ましくはC端部以外、例えばN端部を認識する抗体が用いられる。
【0050】本発明のモノクローナル抗体をサンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどに用いることができる。競合法では、被検液中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させたのち、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定し、被検液中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、前記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。イムノメトリック法では、被検液中の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被検液中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させたのち、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被検液中の抗原量を定量する。また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被検液中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0051】これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のタンパク質の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ〕(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ〕(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGYVol. 70(Immunochemical Techniques(Part A))、 同書 Vol. 73(Immunochemical Techniques(Part B))、 同書 Vol. 74(Immunochemical Techniques(Part C))、 同書 Vol. 84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、 同書 Vol. 92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、 同書 Vol. 121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。以上のようにして、本発明の抗体を用いることによって、本発明のタンパク質を感度良く定量することができる。さらには、本発明の抗体を用いて本発明のタンパク質の濃度を定量することによって、(1)本発明のタンパク質の濃度の減少が検出された場合、例えば、糖尿病などの疾病である、または将来罹患する可能性が高いと診断することができる。また、本発明の抗体は、体液や組織などの被検体中に存在する本発明のタンパク質を検出するために使用することができる。また、本発明のタンパク質を精製するために使用する抗体カラムの作製、精製時の各分画中の本発明のタンパク質の検出、被検細胞内における本発明のタンパク質の挙動の分析などのために使用することができる。
【0052】〔4〕遺伝子診断剤本発明のDNAは、例えば、プローブとして使用することにより、ヒトまたは温血動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)における本発明のタンパク質またはその部分ペプチドをコードするDNAまたはmRNAの異常(遺伝子異常)を検出することができるので、例えば、該DNAまたはmRNAの損傷、突然変異あるいは発現低下や、該DNAまたはmRNAの増加あるいは発現過多などの遺伝子診断剤として有用である。本発明のDNAを用いる上記の遺伝子診断は、例えば、公知のノーザンハイブリダイゼーションやPCR−SSCP法(ゲノミックス(Genomics),第5巻,874〜879頁(1989年)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ユーエスエー(Proceedings of theNational Academy of Sciences of the United States of America),第86巻,2766〜2770頁(1989年))などにより実施することができる。例えば、ノーザンハイブリダイゼーションにより発現低下が検出された場合やPCR−SSCP法によりDNAの突然変異が検出された場合は、例えば、糖尿病などの疾病である可能性が高いと診断することができる。
【0053】〔5〕アンチセンスヌクレオチドを含有する医薬本発明のDNAに相補的に結合し、該DNAの発現を抑制することができる本発明のアンチセンスヌクレオチドは低毒性であり、生体内における本発明のタンパク質または本発明のDNAの機能(例、グルコースの輸送活性)を抑制することができるので、例えば、高脂血症などの治療・予防剤として使用することができる。上記アンチセンスヌクレオチドを上記の治療・予防剤として使用する場合、公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。例えば、該アンチセンスヌクレオチドを用いる場合、該アンチセンスヌクレオチドを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って、ヒトまたは哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的に投与することができる。該アンチセンスヌクレオチドは、そのままで、あるいは摂取促進のために補助剤などの生理学的に認められる担体とともに製剤化し、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与できる。該アンチセンスヌクレオチドの投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、高脂血症の治療の目的で本発明のアンチセンスヌクレオチドを肝臓に局所投与する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき該アンチセンスヌクレオチドを約0.1〜100mg投与する。さらに、該アンチセンスヌクレオチドは、組織や細胞における本発明のDNAの存在やその発現状況を調べるための診断用オリゴヌクレオチドプローブとして使用することもできる。
【0054】本明細書および図面において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclature による略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA :デオキシリボ核酸cDNA :相補的デオキシリボ核酸A :アデニンT :チミンG :グアニンC :シトシンRNA :リボ核酸mRNA :メッセンジャーリボ核酸dATP :デオキシアデノシン三リン酸dTTP :デオキシチミジン三リン酸dGTP :デオキシグアノシン三リン酸dCTP :デオキシシチジン三リン酸ATP :アデノシン三リン酸EDTA :エチレンジアミン四酢酸SDS :ドデシル硫酸ナトリウムGly :グリシンAla :アラニンVal :バリンLeu :ロイシンIle :イソロイシンSer :セリンThr :スレオニンCys :システインMet :メチオニンGlu :グルタミン酸Asp :アスパラギン酸Lys :リジンArg :アルギニンHis :ヒスチジンPhe :フェニルアラニンTyr :チロシンTrp :トリプトファンPro :プロリンAsn :アスパラギンGln :グルタミンpGlu :ピログルタミン酸
【0055】また、本明細書中で繁用される置換基、保護基および試薬を下記の記号で表記する。
Me :メチル基 Et :エチル基 Bu :ブチル基 Ph :フェニル基 TC :チアゾリジン−4(R)−カルボキサミド基 Tos :p−トルエンスルフォニル CHO :ホルミル Bzl :ベンジル Cl2-Bzl :2,6−ジクロロベンジル Bom :ベンジルオキシメチル Z :ベンジルオキシカルボニル Cl−Z :2−クロロベンジルオキシカルボニル Br−Z :2−ブロモベンジルオキシカルボニル Boc :t−ブトキシカルボニル DNP :ジニトロフェニル Trt :トリチル Bum :t−ブトキシメチル Fmoc :N−9−フルオレニルメトキシカルボニル HOBt :1−ヒドロキシベンズトリアゾール HOOBt :3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ− 1,2,3−ベンゾトリアジン HONB :1-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド DCC :N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド
【0056】本願明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
〔配列番号:1〕ヒトTCH104タンパク質のアミノ酸配列を示す。
〔配列番号:2〕配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有するTCH104タンパク質をコードするDNAの塩基配列を示す。
【0057】
【発明の効果】配列番号:1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質は糖尿病等の診断マーカー等として有用であり、該タンパク質を用いるスクリーニング法により得られる該タンパク質の活性を促進または阻害する化合物は、例えば、糖尿病、高脂血症などの疾病の予防・治療剤として使用することができる。
【0058】
【配列表】
<110> Takeda Chemical Industries, Ltd.<120> Novel Protein and its DNA<130> P2001-006<160> 2<210> 1<211> 457<212> PRT<213> Human<400> 1Lys Val Thr Pro Ser Leu Ile Phe Ala Ile Thr Ile Ala Thr Ile Gly 5 10 15 Ser Phe Gln Phe Gly Tyr Asn Thr Gly Val Ile Asn Ala Pro Glu Met 20 25 30 Ile Ile Arg Glu Phe Ile Asn Thr Leu Lys Asp Lys Ala Asn Thr Pro 35 40 45 Pro Ser Glu Met Leu Cys Leu Ser Leu Trp Cys Leu Ser Met Ala Ile 50 55 60 Phe Ser Ile Gly Cys Met Ile Ser Ser Phe Ser Val Gly Leu Phe Val 65 70 75 80 Asn Ser Phe Asp Arg Arg Asn Ser Met Leu Thr Val Asn Leu Leu Ala 85 90 95 Ala Thr Gly Gly Cys Leu Met Gly Leu Cys Lys Val Ala Glu Leu Val 100 105 110 Glu Ile Leu Ile Leu Ala Tyr Leu Val Ile Gly Leu Phe Cys Arg Leu 115 120 125 Cys Thr Gly Phe Val Pro Thr Tyr Ile Gly Asp Ile Ser Pro Ile Gly 130 135 140 Leu Gln Gly Val Phe Gly Thr Leu Asn Gln Leu Gly Ile Val Val Gly 145 150 155 160 Ile Leu Val Ala Gln Ile Phe Asp Leu Glu Phe Ile Leu Gly Ser Glu 165 170 175 Asp Leu Trp Pro Val Leu Leu Gly Phe Pro Ile Ser Pro Ala Met Leu 180 185 190 Gln Ser Ala Ala Leu Pro Phe Cys Pro Glu Ser Pro Arg Phe Leu Leu 195 200 205 Ile Asn Arg Lys Glu Glu Glu Asn Ala Lys Glu Ile Leu Gln Trp Leu 210 215 220 Trp Gly Thr Gln Asp Val Ser Gln Asp Ile Gln Glu Met Lys Asp Glu 225 230 235 240 Ser Ala Arg Met Ala Gln Glu Lys Gln Val Thr Val Leu Glu Leu Phe 245 250 255 Arg Val Ser Ser Tyr Arg Gln Pro Ile Ile Ile Ser Ile Met Leu Gln 260 265 270 Leu Ser Gln Gln Leu Ser Val Ile Asn Thr Val Phe Tyr Tyr Ser Thr 275 280 285 Gly Ile Phe Lys Gly Ala Gly Val Gln Glu Pro Ile Cys Val Thr Ile 290 295 300 Gly Val Gly Val Val Asn Thr Ile Phe Thr Ile Val Ser Leu Phe Leu 305 310 315 320 Val Glu Arg Ala Val Arg Arg Thr Leu His Met Ile Gly Leu Gly Gly 325 330 335 Met Ala Phe Cys Ser Ile Leu Met Ser Val Cys Leu Leu Leu Lys Asp 340 345 350 Glu Cys Asn Gly Ile Ser Phe Val Cys Ile Gly Ala Ile Leu Val Phe 355 360 365 Val Val Phe Phe Glu Ile Gly Pro Asp His Ile Pro Trp Phe Ile Val 370 375 380 Ala Glu Leu Phe Ser Gln Gly Pro Gly Pro Ala Val Met Ala Val Ala 385 390 395 400 Gly Cys Ser Thr Trp Thr Ser Asn Phe Leu Val Arg Leu Leu Phe Pro 405 410 415 Ser Ala Ala Tyr Tyr Leu Gly Ala Tyr Val Phe Ile Ile Phe Thr Asp 420 425 430 Phe Leu Ile Thr Phe Leu Ile Phe Thr Phe Phe Lys Val Pro Glu Met 435 440 445 Cys Tyr Arg Thr Phe Lys Asp Ile Thr 450 455 <210> 2<211> 1371<212> DNA<213> Human<400> 2AAGGTCACCC CATCTCTGAT CTTCGCCATC ACAATTGCTA CAATCGGCTC TTTCCAATTT 60GGCTACAACA CTGGGGTCAT CAATGCTCCT GAGATGATCA TAAGGGAATT TATCAACACT 120TTGAAGGACA AGGCAAATAC CCCTCCCTCT GAGATGTTGT GCTTGTCCCT TTGGTGCTTG 180TCTATGGCCA TATTCTCCAT TGGTTGTATG ATTAGCTCCT TTTCTGTTGG ACTGTTTGTC 240AACAGCTTTG ACAGGCGTAA TTCAATGCTT ACTGTCAACC TGTTGGCTGC CACTGGTGGC 300TGCCTTATGG GACTGTGTAA AGTAGCTGAG TTGGTTGAAA TACTGATCCT GGCCTACTTG 360GTTATTGGCC TCTTCTGCAG ACTCTGCACA GGTTTTGTGC CCACGTACAT CGGAGACATC 420TCACCTATTG GCCTGCAAGG TGTCTTTGGC ACTCTCAACC AGCTGGGCAT TGTTGTTGGA 480ATTCTGGTGG CCCAGATCTT TGATCTGGAA TTCATCCTGG GGTCTGAAGA CCTATGGCCT 540GTGCTATTAG GCTTTCCCAT CTCTCCTGCT ATGCTACAAA GTGCAGCCCT TCCTTTTTGC 600CCTGAAAGTC CCAGATTCTT GCTCATTAAC AGAAAAGAAG AGGAGAATGC TAAGGAGATC 660CTCCAGTGGT TGTGGGGCAC CCAGGATGTA TCCCAAGACA TCCAGGAGAT GAAAGATGAG 720AGTGCAAGGA TGGCACAAGA AAAGCAAGTC ACTGTGCTGG AGCTCTTTAG AGTATCCAGC 780TACCGACAGC CCATCATCAT TTCCATCATG CTCCAGCTCT CTCAGCAGCT CTCTGTAATC 840AATACTGTGT TCTATTACTC AACAGGAATC TTTAAGGGTG CAGGTGTTCA AGAGCCCATC 900TGTGTCACCA TTGGTGTGGG TGTGGTTAAT ACTATCTTCA CTATAGTTTC CCTATTTCTA 960GTGGAAAGGG CAGTAAGAAG GACTCTACAT ATGATAGGCC TTGGAGGGAT GGCTTTTTGT 1020TCCATCCTCA TGTCTGTTTG TTTGTTATTG AAGGATGAGT GTAATGGGAT AAGCTTTGTC 1080TGTATTGGGG CTATCTTGGT CTTTGTGGTC TTCTTTGAAA TTGGGCCAGA CCACATTCCC 1140TGGTTTATTG TGGCTGAACT CTTCAGCCAG GGCCCTGGCC CAGCTGTGAT GGCAGTGGCC 1200GGCTGCTCCA CCTGGACCTC CAACTTCCTA GTCAGATTGC TTTTCCCTTC TGCTGCTTAC 1260TATTTAGGAG CCTACGTTTT TATTATCTTC ACCGACTTCC TCATTACCTT CTTGATCTTT 1320ACCTTCTTCA AAGTCCCTGA GATGTGTTAC AGGACTTTCA AGGATATCAC A 1371

【特許請求の範囲】
【請求項1】 配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質またはその塩。
【請求項2】 請求項1記載のタンパク質の部分ペプチドまたはその塩。
【請求項3】 請求項1記載のタンパク質または請求項2記載の部分ペプチドをコードするDNAを含有するDNA。
【請求項4】 配列番号:2で表わされる塩基配列を有する請求項3記載のDNA。
【請求項5】 請求項4記載のDNAを含有する組換えベクター。
【請求項6】 請求項5記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項7】 請求項6記載の形質転換体を培養し、請求項1記載のタンパク質または請求項2記載の部分ペプチドを生成、蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする請求項1記載のタンパク質もしくは請求項2記載の部分ペプチドまたはその塩の製造法。
【請求項8】 請求項1記載のタンパク質もしくは請求項2記載の部分ペプチドまたはその塩を含有してなる医薬。
【請求項9】 請求項3記載のDNAを含有してなる医薬。
【請求項10】 請求項1記載のタンパク質もしくは請求項2記載の部分ペプチドまたはその塩に対する抗体。
【請求項11】 請求項1記載のタンパク質もしくは請求項2記載の部分ペプチドまたはその塩を用いることを特徴とする、請求項1記載のタンパク質もしくは請求項2記載の部分ペプチドまたはその塩の活性を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法。
【請求項12】 請求項1記載のタンパク質もしくは請求項2記載の部分ペプチドまたはその塩を含有してなる、請求項1記載のタンパク質もしくは請求項2記載の部分ペプチドまたはその塩の活性を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニング用キット。
【請求項13】 請求項11記載のスクリーニング方法または請求項12記載のスクリーニング用キットを用いて得られる、請求項1記載のタンパク質もしくは請求項2記載の部分ペプチドまたはその塩の活性を促進または阻害する化合物またはその塩。
【請求項14】 請求項11記載のスクリーニング方法または請求項12記載のスクリーニング用キットを用いて得られる請求項1記載のタンパク質もしくは請求項2記載の部分ペプチドまたはその塩の活性を促進または阻害する化合物またはその塩を含有してなる医薬。
【請求項15】 糖尿病、高脂血症の予防・治療剤である請求項8または請求項9記載の医薬。
【請求項16】 糖尿病、高脂血症の予防・治療剤である請求項14記載の医薬。

【公開番号】特開2002−218981(P2002−218981A)
【公開日】平成14年8月6日(2002.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−16565(P2001−16565)
【出願日】平成13年1月25日(2001.1.25)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】