説明

果柄切断装置

【課題】収穫対象以外のイチゴの損傷の可能性を低減する。
【解決手段】Z軸方向からステレオカメラ60により撮影された撮影画像から、画像認識部86が、収穫対象のイチゴと、それ以外のイチゴとの、XY面内方向に関する位置関係を取得し、最適接近方向決定部88が、当該位置関係に基づいて、ハンド機構が収穫対象のイチゴに接近する方向を決定する。そして、ハンド機構は、最適接近方向決定部88により決定された方向から収穫対象のイチゴに接近して果柄を切断する。これにより、収穫対象以外のイチゴにハンド機構が接触する可能性を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果柄切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イチゴなどの果実(作物)は、機械で扱うと傷みやすいため、人手で収穫していた。しかしながら、最近においては、養液栽培などの進歩に伴い、機械による収穫の可能性がひらけてきていることから、労働時間の大幅な削減や、労力の低減を図るための収穫装置(収穫ロボット)の開発が進められている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−95348号公報
【特許文献2】特開2009−5587号公報
【特許文献3】特開2008−206438号公報
【特許文献4】特開2008−22737号公報
【特許文献5】特開2001−145411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような収穫装置では、果実の収穫を行う際に、収穫対象の果実以外の果実に収穫装置の一部が接触し、当該果実が損傷してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、収穫対象果実以外の果実の損傷を抑制することが可能な果柄切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の果柄切断装置は、収穫対象果実に対して所定面に沿った方向から接近して、前記収穫対象果実の果柄を切断する切断部と、前記収穫対象果実を、前記所定面に交差する方向から撮影する撮影部と、前記撮影部による撮影画像から、前記収穫対象果実と、当該収穫対象果実以外の果実との、前記所定面内方向に関する位置関係を取得する取得部と、前記取得部により取得された前記位置関係に基づいて、前記切断部が前記収穫対象果実に接近する方向を決定する接近方向決定部と、前記切断部を、前記接近方向決定部により決定された方向から前記収穫対象果実に接近させる駆動部と、を備える果柄切断装置である。
【0007】
これによれば、所定面に交差する方向から撮影部により撮影された撮影画像から、取得部が、収穫対象果実と、収穫対象果実以外の果実との、所定面内方向に関する位置関係を取得し、接近方向決定部が、当該位置関係に基づいて、切断部が収穫対象果実に接近する方向を決定するので、切断部が、接近方向決定部により決定された方向から収穫対象果実に接近して果柄を切断することで、収穫対象果実以外の果実に切断部が接触する可能性を低減し、当該果実の損傷の可能性を低減することができる。
【0008】
この場合において、前記接近方向決定部は、前記収穫対象果実を中心とした角度範囲のうち、前記収穫対象果実以外の果実が存在していない角度範囲を特定し、当該特定された角度範囲内の方向を、前記接近する方向として決定することができる。かかる場合には、切断部は、収穫対象果実以外の果実が存在していない角度範囲内の方向から収穫対象果実に接近するので、収穫対象果実以外の果実に対する接触を効果的に抑制することが可能となる。
【0009】
この場合、前記接近方向決定部は、前記特定された角度範囲の二等分線方向を、前記接近する方向として決定することとしてもよい。かかる場合には、特定された角度範囲を移動する切断部と、収穫対象果実以外の果実との距離が最も離れた状態を維持しつつ、切断部を収穫穫対象果実に接近させることができるので、切断部と収穫対象果実以外の果実との接触を効果的に抑制することができる。
【0010】
また、前記接近方向決定部は、前記特定された角度範囲のうちで最も大きい角度範囲内の方向を、前記接近する方向として決定することができる。かかる場合には、切断部と収穫対象果実以外の果実との接触を効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明の果柄切断装置では、前記撮影部は、ステレオカメラであり、前記駆動部は、前記ステレオカメラによる撮影結果から、前記収穫対象果実の前記所定面に交差する方向の位置を検出し、当該検出結果に基づいて、前記切断部の前記所定面に交差する方向の位置を調整することとすることができる。かかる場合には、距離センサ等を別途設けずに、切断部の所定面に交差する方向の位置を調整することができるので、部品点数の削減及びコスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の果柄切断装置は、収穫対象果実以外の果実の損傷を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態のイチゴ収穫装置及び当該イチゴ収穫装置が設置された高設栽培農場の一部を示す図である。
【図2】図2(a)〜図2(c)は、図1のハンド機構を取り出して拡大して示す図である。
【図3】イチゴ収穫装置の制御系を示すブロック図である。
【図4】イチゴ収穫装置の一連の処理を示すフローチャートである。
【図5】図4のステップS12の処理を示すフローチャートである。
【図6】図6(a)〜図6(c)は、図5の処理を説明するための図(イチゴを下方から見た状態を示す模式図)である。
【図7】図4のステップS16の処理を示すフローチャートである。
【図8】図8(a)、図8(b)は、図7の処理を説明するための図(その1)である。
【図9】図9(a)〜図9(d)は、図7の処理を説明するための図(その2)である。
【図10】図10(a)〜図10(d)は、図7の処理を説明するための図(その3)である。
【図11】図4のステップS18の処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図11に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1には、本実施形態の果柄切断装置としてのイチゴ収穫装置100及び当該イチゴ収穫装置100が設置された高設栽培農場の一部が示されている。この高設栽培農場には、土耕栽培又は養液栽培によるイチゴの結実時に、イチゴが垂れ下がるように栽培するための栽培ベッド40と、この栽培ベッド40を所定高さ(例えば、1m)で支持する複数の脚43とが設けられている。この栽培ベッド40の高さは、作業者の作業性(例えば、作業者が腰をかがめたりせずに作業ができるか否か等)を考慮して設定されている。本実施形態では、栽培ベッド40の長手方向をY軸方向、短手方向をX軸方向、これらX軸及びY軸に垂直な重力方向をZ軸方向として、説明する。
【0016】
イチゴ収穫装置100は、地面上にY軸方向に沿って敷設されたレール32A,32Bと、このレール32A,32Bに沿ってY軸方向に移動する台車30と、台車30上に設けられたロボットアーム20と、ロボットアーム20の先端部に設けられた切断部としてのハンド機構10と、台車30上に設けられた、収穫したイチゴを収集するためのトレー50と、撮影部としてのステレオカメラ60と、を備えている。レール32A,32Bは、栽培ベッド40の長手方向(Y軸方向)の長さとほぼ同一の長さを有している。
【0017】
台車30は、2段の階段状の形状を有しており、その下側の段部30aにロボットアーム20が設けられ、上側の段部30bにトレー50が設けられている。この台車30は、駆動部106(図1では不図示、図3参照)の駆動力により、制御装置90の駆動制御部95(図1では不図示、図3参照)の指示の下、レール32A,32Bに沿って、Y軸方向に移動する。トレー50は、ウレタンなどの柔軟性を有する材料から成り、イチゴを収容可能な凹部が複数設けられている。
【0018】
ロボットアーム20は、モータドライバにより制御される電動モータによって作動する。このロボットアーム20は、それぞれ2軸回りの回転が可能な関節部を2つ有し、1軸回りの回転が可能な機構を2つ有しているため、先端部(ハンド機構10が設けられている部分)は、台車30に対し、6自由度方向に移動可能となっている。すなわち、ハンド機構10は、X軸及びY軸により規定される面(所定面)に沿って移動して、収穫対象のイチゴに接近することができるとともに、Z軸方向への移動や、X軸、Y軸、Z軸回りの姿勢を変化させることもできる。なお、ロボットアーム20の動作は、図3の制御装置90の駆動制御部95により制御される。
【0019】
ハンド機構10は、収穫対象であるイチゴの果柄を切断して、イチゴを収穫する機構である。以下、このハンド機構10について図2に基づいて詳細に説明する。図2(a)は、図1のハンド機構10の平面図であり、図2(b)は、ハンド機構10の側面図である。なお、図2(a),図2(b)では、紙面上下方向をZ’軸方向、これに垂直な方向をX’軸方向、Z’軸及びX’軸に垂直な方向をY’軸方向として説明する。
【0020】
これら図2(a)、図2(b)に示すように、ハンド機構10は、一対のフィンガ52a,52bと、果柄検出用カメラ54と、フィンガ52a,52bをX’方向に沿って駆動するエアチャック56と、エアチャック56及び果柄検出用カメラ54を支持する支持台55と、を備える。
【0021】
一方のフィンガ52aの+Y’端部近傍には、切断刃64と、略L字状のストッパ66と、緩衝材62と、が設けられている。切断刃64は、他方のフィンガ52bとともに、イチゴの果柄にせん断力を作用させることで果柄を切断する。ストッパ66は、イチゴの果柄を切断刃64による切断が可能な位置にとどめておく部材である。図2(c)には、フィンガ52a,52bを+Y’方向から見た状態が示されている。この図2(c)に示すように、緩衝材62は、フィンガ52aの−X’面に設けられており、フィンガ52bの+X’面と対向した状態となっている。この緩衝材62は、例えば、ゴムなどから成り、フィンガ52bの+X’面との間において切断後の果柄を挟んだ状態で、イチゴを保持するためのものである。
【0022】
エアチャック56は、駆動制御部95(図3)の指示の下、一対のフィンガ52a,52bをX’軸方向に沿って駆動し、各フィンガ52a,52b間を接近させたり離間させたりして開閉動作を行う。具体的には、フィンガ52aの+X’方向への移動とフィンガ52bの−X’方向への移動とを同時に行うことで、フィンガ52a,52bを開いた状態とすることができる。また、フィンガ52aの−X’方向への移動とフィンガ52bの+X’方向への移動とを同時に行うことで、フィンガ52a,52bを閉じた状態とすることができる。
【0023】
果柄検出用カメラ54は、収穫対象のイチゴ及び当該イチゴの果柄を撮影して、当該撮影画像を、制御装置90の第2画像取得部84(図3参照)に対して出力する。なお、果柄検出用カメラ54にて撮影された画像は、果柄の角度や果柄の切断位置を特定するために用いられるが、これらの処理の詳細については、後述する。
【0024】
図1に戻り、ステレオカメラ60は、2つの光学系及び2つの撮像素子を用いて、XY面(所定面)に交差する方向(ここでは、Z方向)から2つの画像を同時に取得する。ステレオカメラ60は取得した画像を、制御装置90の第1画像取得部82(図3参照)に対して出力する。なお、ステレオカメラ60で撮影された画像は、収穫対象のイチゴの特定、当該イチゴの3次元位置(X,Y,Z方向の位置)の特定、及び、収穫対象のイチゴに対する最適接近方向の決定に用いられるが、これらの処理の詳細については、後述する。
【0025】
図3には、本実施形態のイチゴ収穫装置100の制御系がブロック図にて示されている。この図3に示すように、本実施形態の制御系は、上述した各部のほか、各部を統括的に制御する制御装置90及び当該制御装置90に接続された入力装置99を含んでいる。制御装置90は、CPU、ROM、RAM等を有する情報処理装置であり、当該CPUにおいて制御プログラムが実行されることにより、図3の各機能を実現する。具体的には、制御装置90は、第1画像取得部82、第2画像取得部84、取得部としての画像認識部86、接近方向決定部としての最適接近方向決定部88、及び果柄状態算出部89として機能する。
【0026】
第1画像取得部82は、ステレオカメラ60において撮影された画像を取得する。第2画像取得部84は、果柄検出用カメラ54において撮影された画像を取得する。画像認識部86は、ステレオカメラ60において撮影された画像の画像認識を行い、当該画像認識結果(収穫対象のイチゴとその他のイチゴとの、XY面内方向に関する位置関係)を最適接近方向決定部88に対して出力する。最適接近方向決定部88は、画像認識部86による画像認識結果を用いて、ハンド機構10が収穫対象のイチゴに接近する最適な方向を算出する。果柄状態算出部89は、第2画像取得部84で取得された画像に基づいて、収穫対象のイチゴの果柄の状態を算出する。
【0027】
最適接近方向決定部88の算出結果と、果柄状態算出部89の算出結果は、駆動制御部95に送信される。駆動制御部95は、これら算出結果及び第1画像取得部82から取得した画像に基づいて、駆動部106、ロボットアーム20、エアチャック56の駆動を制御する。
【0028】
次に、上記のように構成されるイチゴ収穫装置100による処理について、図4〜図11に基づいて詳細に説明する。
【0029】
図4は、イチゴ収穫装置100による処理の一連の流れを示すフローチャートである。この図4の処理は、制御装置90の各部により実行されるものである。
【0030】
まず、図4のステップS10では、駆動制御部95が、収穫開始指示が出されたか否かを判断する。収穫開始指示は、作業者が、制御装置90に接続された入力装置99から入力するものである。駆動制御部95は、ステップS10の判断が肯定されるまで待機し、ステップS10の判断が肯定された段階で、ステップS12に移行する。
【0031】
ステップS12に移行すると、制御装置90では、最適接近方向決定処理を実行する。具体的には、制御装置90は、図5のフローチャートに沿った処理を実行する。
【0032】
まず、図5のステップS30では、第1画像取得部82が、ステレオカメラ60から画像を取得する。なお、第1画像取得部82は、取得した画像を画像認識部86に送信する。
【0033】
次いで、ステップS32では、画像認識部86が、赤色果実を認識し、ラベリングを行う。この場合、取得した画像の色を解析して、赤色果実の色である可能性が高い部分を抽出し、その部分を赤色果実として認識し、ラベリングする。なお、画像認識部86は、ラベリングした結果を最適接近方向決定部88に送信する。
【0034】
次いで、ステップS34では、画像認識部86が、未熟果実を認識し、ラベリングを行う。この場合、取得した画像の色を解析して、未熟果実の色(緑白色)である可能性が高い部分を抽出し、その部分を未熟果実として認識し、ラベリングする。なお、画像認識部86は、ラベリングした結果を最適接近方向決定部88に送信する。
【0035】
次いで、ステップS36では、最適接近方向決定部88が、障害角度(β1、β2…βn)を計算する。ここで、最適接近方向決定部88に対し画像認識部86から送信されてきたラベリング結果のデータは、図6(a)のようなイチゴのXY面内方向に関する位置関係に関するデータである。最適接近方向決定部88は、図6(a)のデータから、図6(b)に示す障害角度β1、β2を計算する。具体的には、最適接近方向決定部88は、赤色果実のうちの1つを収穫対象のイチゴとして特定し、当該収穫対象のイチゴを中心とした角度範囲のうち、未熟果実が含まれている角度範囲を、障害角度β1、β2とする。なお、図6(b)では、収穫対象のイチゴの中心を基準として−X側の領域から、障害角度を抽出している。これは、ハンド機構10と栽培ベッド40との位置関係からすると、ハンド機構10は、収穫対象のイチゴに対して、−X側から接近するのみであり、+X側の領域については考慮する必要が無いからである。
【0036】
また、本実施形態では、収穫対象のイチゴの中心を通過するY軸から、所定角度(図6(b)では、15°)の範囲は、未熟果実の存在に関係なく、障害角度としている。これは、当該所定角度から収穫対象のイチゴに接近しようとすると、近接する赤色果実に対してハンド機構10が接触する可能性があるからである。なお、所定角度としては、15°に限らず、栽培ベッド40におけるイチゴの配列や、ハンド機構10の大きさなどに基づいて、種々の角度を採用することができる。
【0037】
図5に戻り、次のステップS38では、最適接近方向決定部88が、収穫対象のイチゴに対する接近可能角度(α1、α2、…αm)を計算する。この場合、ステップS36で計算された障害角度を除く角度範囲が、接近可能角度となる。図6(c)には、接近可能角度α1、α2が示されている。なお、接近可能角度としては、所定角度(例えば5°)未満の角度範囲は除外するものとする。これは、所定角度(5°など)未満という小さな角度範囲を接近可能角度とし、その方向からハンド機構10を収穫対象のイチゴに接近させることとすると、ハンド機構10が未熟果実に接触してしまう可能性があるからである。なお、所定角度としては、5°に限らず、ハンド機構10の大きさ等を考慮して、種々の角度を採用することができる。
【0038】
次いで、ステップS40では、最適接近方向決定部88が、最大接近可能角度を算出する。図6(c)の場合であれば、α1>α2であるので、最大接近可能角度として、α1が算出される。
【0039】
次いで、ステップS42では、最適接近方向決定部88が、最大接近可能角度に基づいて、最適接近方向を決定する。具体的には、最適接近方向決定部88は、最大接近可能角度α1の二等分線方向(図6(c)の矢印の方向)を、最適接近方向として決定する。その後は、図4のステップS14に移行する。なお、最大接近可能角度が無く、最適接近方向を決定できない場合もある。このような場合には、現在の収穫対象のイチゴの収穫を断念して、次の収穫対象のイチゴの収穫を行うようにしてもよいし、制御装置90が、不図示の出力装置を介して、作業者に対し警告を発するようにしても良い。
【0040】
ステップS14では、駆動制御部95が、第1画像取得部82において取得された画像と、最適接近方向決定部88において決定された最適接近方向に基づいて、ロボットアーム20を駆動する。より具体的には、駆動制御部95は、画像(ステレオカメラ60の画像)から収穫対象のイチゴの、Z方向の位置を算出し、当該算出結果に基づいて、ハンド機構10の目標高さを決定する。そして、画像(ステレオカメラ60の画像)から算出される収穫対象のイチゴのXY面内位置と、最適接近方向とから、ハンド機構10の目標位置・姿勢を決定する。ここで、ハンド機構10の目標位置は、XY面内方向に関し、収穫対象のイチゴから最適接近方向に関して所定距離離れた位置を意味する。また、ハンド機構10の目標姿勢は、収穫対象のイチゴの方向をハンド機構10のフィンガ52a,52bの長手方向(Y’方向)が向いた姿勢を意味する。そして、駆動制御部95は、ハンド機構10が目標位置・姿勢となるように、ロボットアーム20を駆動する。
【0041】
次いで、ステップS16では、制御装置90が、果柄状態取得処理を実行する。具体的には、制御装置90は、図7のフローチャートに沿った処理を実行する。
【0042】
図7の処理では、まず、ステップS50において、第2画像取得部84が、果柄検出用カメラ54から画像を取得する。なお、ここで取得される画像は、前述したハンド機構10の移動(ステップS14)の後に、果柄検出用カメラ54により撮影される画像である。このステップS50において取得される画像は、図8(a)のような収穫対象のイチゴや果柄などが含まれる画像である。第2画像取得部84は、取得した画像を、果柄状態算出部89に送信する。
【0043】
次いで、ステップS52では、果柄状態算出部89が、注目領域の設定を行う。この場合、ハンド機構10を位置決めした後に撮影した画像を用いていることから、果柄状態算出部89は、収穫対象のイチゴが画像内のどの辺りに存在し、果柄がどの辺りに存在するのかを凡そ特定することができる。したがって、果柄状態算出部89は、果柄と、果柄とイチゴとの境界部分が含まれている可能性が高い領域を注目領域として設定する。このように、注目領域を設定するのは、別のイチゴの果柄や蔕、葉などの影響を受けて、収穫対象のイチゴの果柄を誤認識してしまうのを抑制するためである。なお、ステップS52では、図8(b)に示すような領域が注目領域として設定されたものとする。
【0044】
次いで、ステップS54では、果柄状態算出部89が、G(Green)画像の2値化処理を行う。この場合、図8(b)の注目領域のうち、緑の部分(果柄、蔕、葉など)が黒く表され、緑以外の部分が白く表された画像(図9(a)参照)を取得することができる。
【0045】
次いで、ステップS56では、果柄状態算出部89が、黒画像のうち縦長の部位のみを抽出する。具体的には、果柄状態算出部89は、図9(a)の2値画像を横方向に所定の圧縮率で圧縮して、縦長の部分を消去し、当該圧縮した画像を横方向に所定の膨張率(上記所定の圧縮率の逆数)で膨張して、比較画像を作成する。そして、果柄状態算出部89は、図9(a)の2値画像と、比較画像との差をとることで、図9(b)のような縦長の部位のみを抽出した画像を得る。
【0046】
次いで、ステップS58では、果柄状態算出部89が、図9(b)の画像の黒画像部分それぞれをラベリングする(図9(c)参照)。そして、ステップS60では、果柄状態算出部89が、図9(c)の画像のうち、面積が所定の面積よりも小さい黒画像部分をノイズと推定して、当該ノイズを除去した画像を取得する(図9(d)参照)。
【0047】
次いで、ステップS62では、果柄状態算出部89が、図9(d)の画像に対して、スケルトン処理を行う。スケルトン処理では、ラベリングされた各黒画像部分に対して中心線を引き、当該中心線のみの画像を取得する(図10(a)参照)。次いで、ステップS64では、果柄状態算出部89が、スケルトン(中心線)を接合点で分断する。具体的には、図10(a)のうち、2本以上のスケルトン(中心線)が接合している部分を、図10(b)に示すように分断する。
【0048】
次いで、ステップS66では、果柄状態算出部89が、最長のスケルトン(中心線)を抽出する。ここでは、図10(b)の複数のスケルトンのうち、画像のほぼ中央に位置する、最長のスケルトンが抽出される(図10(c)参照)。
【0049】
次いで、ステップS68では、果柄状態算出部89が、最長のスケルトンの傾きを最小二乗法により算出し、これを果柄の傾きとする(図10(d)参照)。なお、果柄状態算出部89は、ステップS68で算出した果柄の傾きを、駆動制御部95に対して出力する。
【0050】
そして、ステップS70では、果柄状態算出部89が、最長のスケルトンの最下端の位置を求め、当該位置を、果柄切断位置として決定する(図10(d)参照)。なお、果柄状態算出部89は、ステップS70で決定した果柄切断位置を、駆動制御部95に対して出力する。以上のような処理を行った後は、図4のステップS18に移行する。
【0051】
ステップS18では、駆動制御部95は、ロボットアーム20を駆動して、ハンド機構10に設けられた切断刃64の切断面が、図11に示すように、果柄の傾きと垂直になるようにする。また、駆動制御部95は、ロボットアーム20を駆動して、切断刃64の切断面の高さが、果柄切断位置と略一致するようにする。ハンド機構10を移動する。
【0052】
次いで、ステップS20では、駆動制御部95は、ロボットアーム20を駆動して、ハンド機構10を果柄切断位置まで移動する。具体的には、駆動制御部95は、収穫対象のイチゴの果柄が、フィンガ52a(切断刃64)とフィンガ52bとの間に位置するように、ハンド機構10を直進させる。
【0053】
次いで、ステップS22では、駆動制御部95は、エアチャック56を制御して、一対のフィンガ52a,52bを互いに近づく方向に移動する(閉じた状態とする)ことで、果柄を果柄切断位置にて切断する。なお、この場合には、切断後の果柄(下側)及び当該果柄に接続されている収穫対象のイチゴは、フィンガ52bとフィンガ52aの緩衝材62により保持されている。
【0054】
次いで、ステップS24では、駆動制御部95が、ロボットアーム20を駆動して、ハンド機構10をトレー50の上方に位置決めする。そして、駆動制御部95は、エアチャック56を制御して、フィンガ52a,52bを互いに離間する方向に移動する(開いた状態とする)ことで、ハンド機構10の保持するイチゴをトレー50上に載置する。すなわち、ステップS24の処理により、イチゴの収穫が行われる。なお、トレー50は、前述のようにウレタンなどの柔軟性を有する部材から成るため、トレー50の上方からイチゴを落下させても、イチゴは損傷しないようになっている。
【0055】
次いで、ステップS26では、駆動制御部95が、収穫終了指示が出されたか否かを判断する。ここでの判断が否定された場合には、ステップS12に戻り、次のイチゴの収穫を、前述したのと同様の方法により行う。一方、ステップS26の判断が肯定された場合、すなわち、入力装置99を介して、作業者からの収穫終了指示が入力された場合には、図4の全処理を終了する。
【0056】
なお、上記説明から分かるように、本実施形態では、ロボットアーム20と、駆動制御部95とにより、駆動部が実現されている。
【0057】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、Z軸方向からステレオカメラ60により撮影された撮影画像から、画像認識部86が、収穫対象のイチゴと、それ以外のイチゴとの、XY面内方向に関する位置関係を取得し、最適接近方向決定部88が、当該位置関係に基づいて、ハンド機構10が収穫対象のイチゴに接近する方向を決定する。そして、ハンド機構10は、最適接近方向決定部88により決定された方向から収穫対象のイチゴに接近して果柄を切断する。これにより、イチゴの収穫の際に、収穫対象のイチゴ以外のイチゴにハンド機構10が接触する可能性を低減し、イチゴの損傷の可能性を低減することができる。
【0058】
また、本実施形態では、最適接近方向決定部88は、収穫対象のイチゴを中心とした角度範囲のうち、収穫対象のイチゴ以外のイチゴが存在していない角度範囲(α1、α2…αm)を特定し、当該特定された角度範囲内の方向を、接近する方向として決定する。これにより、ハンド機構10は、収穫対象以外のイチゴに対する接触を効果的に抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態では、最適接近方向決定部88が、特定された角度範囲の二等分線方向を、接近する方向として決定するので、特定された角度範囲を移動するハンド機構10と、収穫対象以外のイチゴとの距離が最も離れた状態を維持しつつ、ハンド機構10を収穫穫対象のイチゴに接近させることができる。これにより、ハンド機構10と収穫対象以外のイチゴとの接触を効果的に抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態では、最適接近方向決定部88は、特定された角度範囲のうちで最も大きい角度範囲内の方向を、接近する方向として決定するので、この点からも、ハンド機構10と収穫対象以外のイチゴとの接触を効果的に抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、駆動制御部95は、ステレオカメラ60による撮影結果から、収穫対象のイチゴのZ方向位置を検出し、当該検出結果に基づいて、ハンド機構10のZ位置を調整する。したがって、距離センサ等を別途設けることなく、ハンド機構10のZ位置を調整することができるので、部品点数の削減及びコスト低減を図ることができる。
【0062】
なお、上記実施形態では、収穫対象以外のイチゴが存在していない角度範囲のうち、最大の角度範囲を特定し、当該角度範囲の2等分線方向を、最適接近方向とする場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではない。例えば、収穫対象以外のイチゴが存在していない角度範囲のうち、現在のハンド機構10の位置に最も近い角度範囲の方向を最適接近方向として決定することとしてもよい。この場合、所定の角度以上の角度範囲のうち、ハンド機構10に最も近い角度範囲の方向を最適接近方向として決定してもよい。また、上記では、角度範囲の2等分線方向を最適接近方向とする場合について説明したが、これに限られるものではない。すなわち、角度範囲のうち、ハンド機構10と収穫対象以外のイチゴとが確実に接触しない方向であれば、いずれの方向であっても良い。
【0063】
なお、上記実施形態では、ステレオカメラ60を用いて、収穫対象のイチゴのZ位置を検出する場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、距離センサなどを用いて、収穫対象のイチゴのZ位置を検出することとしてもよい。このように距離センサ等を用いる場合には、ステレオカメラ60に代えて、通常のカメラ(1つの光学系及び1つの撮像素子)を用いることとしてもよい。また、ハンド機構10に設けたステレオカメラ60により、収穫対象のイチゴのZ位置を検出するとともに、下方に設けた通常のカメラにより、収穫対象のイチゴのX,Y位置を検出するようにしてもよい。更に、ハンド機構10に設けたステレオカメラ60により、収穫対象のイチゴのX,Y,Z位置を検出するようにしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では特に言及していないが、ステレオカメラ60の近傍に撮影時の光量を確保するための光源を設けることとしてもよい。また、果柄検出用カメラ54の近傍にも、光源を設けることとしてもよい。この場合、果柄検出用カメラ54の近傍には、緑色の光を照射する光源を設けることとしてもよい。緑色の光を照射する光源を設けることで、果柄や蔕など、緑色の部分の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0065】
なお、上記実施形態では、接近方向を決定する処理(ステップS12)に加えて、果柄状態を取得する処理(ステップS16)を行う場合について説明したが、これに限られるものではない。果柄状態を取得する処理及びハンド機構10を果柄の傾きに合わせ、果柄切断位置に合わせる処理(ステップS18)は省略してもよい。
【0066】
なお、上記実施形態のイチゴ収穫装置100は、ロボットアーム20が搭載された台車30が、地面上に敷設されたレール32A,32Bに沿ってY軸方向に移動することで、ロボットアーム20と、固定された栽培ベッド40とのY軸方向に関する相対移動を実現する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、例えば、特開2010−57448号公報に開示されているように、栽培ベッド40をY軸方向に移動可能に構成し、ロボットアーム20を固定とすることで、ロボットアーム20と栽培ベッド40との相対移動を実現することとしてもよい。また、栽培ベッド40とロボットアーム20の両方が、Y軸方向に移動可能であってもよい。
【0067】
なお、上記実施形態では、本発明の果柄切断装置が、イチゴ収穫装置である場合について説明したが、これに限られるものではない。すなわち、果柄切断装置は、果柄を切断する機能のみを有する装置であってもよい。
【0068】
なお、上記実施形態では、本発明の果柄切断装置を、イチゴの果柄切断に用いる場合について説明したが、これに限らず、ブドウやモモ、ナシ、リンゴなどのその他の果物や、トマト(房取り)やナス、キュウリ、ゴーヤなどの野菜の果柄切断に用いることとしてもよい。
【0069】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 ハンド機構(切断部)
20 ロボットアーム(駆動部の一部)
60 ステレオカメラ(撮影部)
86 画像認識部(取得部)
88 最適接近方向決定部(接近方向決定部)
95 駆動制御部(駆動部の一部)
100 イチゴ収穫装置(果実切断装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収穫対象果実に対して所定面に沿った方向から接近して、前記収穫対象果実の果柄を切断する切断部と、
前記収穫対象果実を、前記所定面に交差する方向から撮影する撮影部と、
前記撮影部による撮影画像から、前記収穫対象果実と、当該収穫対象果実以外の果実との、前記所定面内方向に関する位置関係を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記位置関係に基づいて、前記切断部が前記収穫対象果実に接近する方向を決定する接近方向決定部と、
前記切断部を、前記接近方向決定部により決定された方向から前記収穫対象果実に接近させる駆動部と、を備える果柄切断装置。
【請求項2】
前記接近方向決定部は、前記収穫対象果実を中心とした角度範囲のうち、前記収穫対象果実以外の果実が存在していない角度範囲を特定し、当該特定された角度範囲内の方向を、前記接近する方向として決定することを特徴とする請求項1に記載の果柄切断装置。
【請求項3】
前記接近方向決定部は、前記特定された角度範囲の二等分線方向を、前記接近する方向として決定することを特徴とする請求項2に記載の果柄切断装置。
【請求項4】
前記接近方向決定部は、前記特定された角度範囲のうちで最も大きい角度範囲内の方向を、前記接近する方向として決定することを特徴とする請求項2又は3に記載の果柄切断装置。
【請求項5】
前記撮影部は、ステレオカメラであり、
前記駆動部は、前記ステレオカメラによる撮影結果から、前記収穫対象果実の前記所定面に交差する方向の位置を検出し、当該検出結果に基づいて、前記切断部の前記所定面に交差する方向の位置を調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の果柄切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−110255(P2012−110255A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260547(P2010−260547)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 農業機械学会 刊行物名 第69回農業機械学会年次大会講演要旨 発行年月日 平成22年9月5日 研究集会名 第69回農業機械学会年次大会 主催者名 農業機械学会 開催日 平成22年9月14日
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(508134337)シブヤ精機株式会社 (20)
【Fターム(参考)】