説明

棒材の固定方法、充填材漏洩防止装置および充填パイプ

【課題】既設のコンクリート構造物に対して棒材を一体に固定する場合において、簡易且つ安価に高品質な施工を行うことを可能とした棒材の固定方法と、この棒材の固定方法に使用する充填材漏洩防止装置および充填パイプを提案する。
【解決手段】コンクリート構造物1に形成された棒材挿入孔10に充填材2を注入する注入工程と、充填材2が注入された棒材挿入孔10に棒材3を挿入する挿入工程と、を備える棒材の固定方法であって、注入工程では、外径が棒材挿入孔10の内径と同等に形成されたリング状のシール部22形成された充填パイプ20を用いて充填材2の注入を行い、挿入工程では、棒材3の挿通が可能な挿通孔と充填材2を排出することができる排出口が形成された漏洩防止リングプレート40を棒材挿入孔10の孔口部に配置した状態で、挿通孔から棒材3を挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のコンクリート構造物に棒材を固定するための棒材の固定方法とこの棒材の固定方法に使用する充填材漏洩防止装置および充填パイプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設のコンクリート構造物に対して、上向きに削孔を行い、この棒材挿入孔にアンカーやせん断補強部材としての棒材と充填材とを配設して、棒材をコンクリート構造物に固定する場合がある。
【0003】
上向きの棒材挿入孔内に棒材を設置する方法としては、例えば、図6(a)および(b)に示すように、コンクリート構造物101に上向きに形成された棒材挿入孔110に、棒材103を挿入するとともに棒材挿入孔110の底部(上端)に開口するように空気抜きホース104を配設し、棒材103が挿入された棒材挿入孔110の孔口(下端)を充填材102の注入孔150が形成された栓105により遮蔽し、この注入孔150から充填材102を注入するとともに空気抜きホース104から棒材挿入孔110内の空気106を排出することにより行う方法がある。なお、注入孔150には注入管107が配設されており、充填材102の棒材挿入孔110への注入は、この注入管107を介して行う。
【0004】
また、特許文献1には、図7(a)および(b)に示すように、既設のコンクリート構造物101に形成された棒材挿入孔110に対して、上向きに棒材103を固定する方法として、エポキシ樹脂やアクリル樹脂等を主剤とした充填材102が詰められたカプセル120を棒材挿入孔110の上端部に挿入し、先端が尖った棒材103を当該カプセル120が配置された棒材挿入孔110に回転させながら挿入することでカプセル120を破壊し、内部の充填材102をカプセル120から流出させるとともに撹拌することで棒材103と棒材挿入孔110との隙間に充填させる施工方法が開示されている。なお、図面において、符号108は、ドリル等の回転装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−011345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前者の棒材挿入後に充填材102を充填する方法は、施工が複雑であり、施工時間が長くなるので、施工コストが高くなる。また、充填材102には、流動性のよいグラウトを使用する必要があるため、モルタル等と比較して材料費が高価であった。
【0007】
また、後者の特許文献1の施工方法は、棒材挿入孔110から充填材102が垂れ落ちる場合があり、そのための施工のやり直しや補修、清掃に手間を要する場合があった。
また、カプセル120を破壊して充填材102を撹拌する際に、棒材挿入孔110の上端に残留している空気106を巻き込むことで、充填材102が多くの気泡を含んでしまい、強度低下の原因になるおそれがあった(図7(b)参照)。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するものであって、既設のコンクリート構造物に対して棒材を固定する場合において、簡易且つ安価に高品質な施工を行うことを可能とした棒材の固定方法と、この棒材の固定方法に使用する充填材漏洩防止装置および充填パイプを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決する本発明の棒材の固定方法は、コンクリート構造物に棒材挿入孔を形成する削孔工程と、前記棒材挿入孔に充填材を注入する注入工程と、前記充填材が注入された前記棒材挿入孔に棒材を挿入する挿入工程と、を備えていて、前記注入工程では、外径が前記棒材挿入孔の内径と同等に形成されたリング状のシール部が形成された充填パイプを用いて前記充填材の注入を行い、前記挿入工程では、前記棒材の挿通が可能な挿通孔と前記充填材を排出することができる排出口が形成された漏洩防止リングプレートを前記棒材挿入孔の孔口部に配置した状態で、前記挿通孔から前記棒材を挿入し、挿入した前記棒材により押し出された充填材を前記排出口から排出することを特徴としている。
【0010】
かかる棒材の固定方法によれば、空気が巻き込まれ難くなるので、簡易な作業により高品質に施工を行うことができる。また、施工が簡易なため、短時間で施工を行うことができ、施工コストの低減化が可能となる。
また、本発明の棒材の固定方法によれば、上向きに形成された棒材挿入孔への棒材の固定のみならず、下向きや横向きに形成された棒材挿入孔への棒材の固定も可能である。
【0011】
また、充填パイプにシール部が形成されているため、充填材を棒材挿入孔の底部(先端)から満たしていく際に、空気を巻き込むことなく注入することが可能となる。
また、充填材を注入することで、充填材の圧力により充填パイプがシール部材を介して押し出されるので、充填パイプの引き出し作業の手間を省略することが可能である。
なお、充填材の種類に制限はないが、充填材としてモルタルを使用することが可能なため、安価である。
【0012】
また、前記挿入工程では、前記棒材が所定の押込位置に到達したら、前記漏洩防止リングプレートを撤去し、その後、前記棒材をさらに押し込んで最終位置まで挿入することで、基端部に棒材の直径よりも幅(外径)が大きい部位(拡幅部)を有する棒材を、所定の位置に配置するようにしてもよい。なお、本明細書における「所定の押込位置」とは、最終位置の手前であって、漏洩防止リングプレートの撤去が可能な位置をいう。
【0013】
また、前記挿入工程後に前記充填材に所望の強度が発現するまで養生する養生工程を含み、前記養生工程において、前記棒材挿入孔の孔口部に前記棒材の抜け出しを防ぐストッパーを配置することで、充填材および棒材の抜け出しを防止するものとしてもよい。
【0014】
また、本発明の漏洩防止装置は、充填材が注入された棒材挿入孔内に棒材を挿入する場合において、前記棒材挿入孔内から前記充填材が漏洩することを防止するものであって、棒材挿入孔の孔口部に配置される漏洩防止リングプレートを備え、前記漏洩防止リングプレートには、前記棒材を挿通可能に形成された挿通孔と、前記棒材挿入孔内から前記充填材を排出することができる充填材排出口と、が形成されていることを特徴としている。
【0015】
かかる漏洩防止装置によれば、棒材を挿入する際に、排出される充填材の量を充填材排出口により制御することが可能になるので、棒材挿入孔内に空気が巻き込まれ難くなる。
【0016】
また、前記漏洩防止リングプレートは、分割可能に構成されていてもよいし、変形可能な材料により構成されていてもよい。
【0017】
かかる漏洩防止リングプレートによれば、棒材の端部に拡幅部が形成されている場合であっても、漏洩防止リングプレートの着脱を容易に行うことが可能となる。
【0018】
また、前記充填材排出口に排出チューブが取り付けられていれば、充填材排出口から排出される充填材の量を、排出チューブの内面摩擦抵抗等により調節することができるので、棒材挿入孔内に空気が巻き込まれ難くなる。
【0019】
また、前記充填材漏洩防止装置は、前記漏洩防止リングプレートを支持する支持フレームを備えていてもよい。
【0020】
また、本発明の充填パイプは、棒材挿入孔内に充填材を注入するためのものであって、先端外周囲にシール部が形成されており、前記シール部は、前記棒材挿入孔の内径と同等の外径を有していて、当該シール部よりも基端側に前記充填材が漏洩することを防止するように形成されていることを特徴としている。
【0021】
かかる充填パイプによれば、棒材挿入孔内への充填材の注入を密実に行うことができる。また、充填材の圧力により、充填パイプが棒材挿入孔内から押し出されるため、充填パイプを棒材挿入孔から引き出す作業を簡易に行うことができる。
【0022】
また、前記シール部が空気の通気が可能な材料により形成されていれば、充填材を注入する際に棒材挿入孔の底部に空気が残存している場合や充填パイプの先端まで充填材が満たされていない場合であっても、充填材を注入することで当該空気がシール部を通気して棒材挿入孔から排出される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、既設のコンクリート構造物に対して棒材を一体に固定する場合において、簡易且つ高品質に施工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の好適な実施の形態に係る棒材の固定方法の各施工段階を示す断面図である。
【図2】(a)は棒材挿入孔の概要を示す斜視図、(b)および(c)は(a)棒材挿入孔の変形例を示す斜視図である。
【図3】(a)は棒材の概要を示す斜視図、(b)および(c)は(a)の棒材の変形例を示す斜視図である。
【図4】充填パイプの概要を示す斜視図である。
【図5】(a)および(b)は、充填材漏洩防止装置の概要を示す斜視図である。
【図6】(a)および(b)は従来の棒材の固定方法の施工状況を示す断面図である。
【図7】(a)および(b)は他の従来の棒材の固定方法の施工状況を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態では、既設のコンクリート構造物1の頂版にせん断補強部材としての棒材3を配置する場合について説明する。なお、本実施形態の棒材の固定方法により施工される棒材3の用途はせん断補強部材に限定されるものではなく、例えば、アンカーや曲げ補強部材等であってもよい。
【0026】
本実施形態の棒材の固定方法は、削孔工程と、注入工程(図1(a)参照)と、挿入工程(図1(c)参照)と、養生工程(図1(d)参照)と、を含んでいる。
【0027】
削孔工程は、既設のコンクリート構造物1に棒材3を配置するための棒材挿入孔10を形成する工程である(図1(d)参照)。
【0028】
棒材挿入孔10は、図2(a)に示すように、既設のコンクリート構造物1の頂版の下面から上向きに削孔することにより形成される。
本実施形態の棒材挿入孔10は、棒材3の先端定着部材31(図3(a)参照)の外径(外幅)よりもわずかに大きく、基端定着部材32(図3(a)参照)の外径(外幅)よりも小さい内径を有した円柱状の孔本体11と、頂版の下面に面して孔本体11の基端部に形成されて、棒材3の基端定着部材32の外径(外幅)よりも大きな内径を有した拡径部12と、を備えて構成されている。
【0029】
棒材挿入孔10は、既設のコンクリート構造物1の施工時の配筋図や非破壊試験の情報をもとに、削孔時に主鉄筋及び配力鉄筋(図示省略)に損傷を与えることのないように形成するものとし、本実施形態では主鉄筋および配力鉄筋の略中央に配置する。なお、棒材挿入孔10の形成箇所や個数は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0030】
棒材挿入孔10は、まず、円柱状の孔本体11を所定の深さまで削孔する。
孔本体11の削孔方法は限定されるものではないが、本実施形態ではインパクト・ドリルやロータリーハンマ・ドリル、コア・ドリルなどの穿孔手段を用いて行う。
【0031】
孔本体11の削孔が終了したら、前記穿孔手段を用いて孔本体11の基端部の削孔径を拡径して、拡径部12を形成する。このようにすると、拡径部12の底面に棒材3の基端部(下端)に形成されている基端定着部材32(図3(a)参照)の周縁部を当接させることができる。なお、この拡径部12の削孔深さは限定されるものではないが、本実施形態では、基端定着部材32の厚みに被りコンクリート厚さを加算した値とする。
【0032】
そして、棒材挿入孔10の拡径部12の削孔が完了したら、棒材挿入孔10に削孔のために生じたコンクリート粉を除去する。
【0033】
なお、棒材挿入孔10の形状は限定されるものではなく適宜形成することが可能である。例えば、図2(b)に示す棒材挿入孔10aのように拡径部12を省略して円柱状に形成してもよいし、図2(c)に示す棒材挿入孔10bのように両端部に拡径部12,12を備えるものとしてもよい。
【0034】
注入工程は、図1(a)に示すように、削孔工程において形成された棒材挿入孔10(孔本体11)に充填材2を注入する工程である。
【0035】
本実施形態では、充填材2として、セメント系モルタルに可塑剤を混入したものを使用するが、充填材2を構成する材料は限定されるものではない。充填材2は、高い粘性を有し、半液体で半固体の性質を示す。
なお、可塑剤としては、水ガラスのゲル化剤、ポリエーテル鎖を有する非イオン活性剤、フタル酸系可塑剤やブンゾエート系可塑剤等が使用可能である。
セメント系モルタルのフレッシュ性状としては、モルタルのフロー試験法(JIS R 5201)において、テーブルフロー試験機で15打後のフロー値が160mm〜220mmの範囲内が望ましい。
【0036】
棒材挿入孔10への充填材2の注入は、充填パイプ20を用いて行う。
【0037】
充填パイプ20は、図4に示すように、パイプ本体21とパイプ本体21の先端外周囲に形成されたシール部22と、を備えて構成されている。
【0038】
パイプ本体21には、鋼管、塩化ビニル樹脂やアクリル樹脂からなる管材、耐圧のゴムホース等、充填材2の圧送に対して十分な耐力を有した管材の中から適宜選定して使用すればよい。
【0039】
パイプ本体21は、図1(a)に示すように、先端部にシール部22が周設されていて、後端は耐圧ホース23を介して加圧ポンプ24に接続されている。
【0040】
シール部22は、棒材挿入孔10の内径と同等あるいは若干大きい外径を有したリング状の部材であって、シール部22よりも基端側(本実施形態では下側)に充填材2が漏洩することを防止するように形成されている。
【0041】
シール部22を構成する材料は限定されるものではないが、例えば、毛先が放射状に外側に向かったブラシや、目の粗いスポンジ状の硬質ゴムや、スポンジ状の樹脂や、糸状の樹脂栓を絡めた樹脂性タワシ等、空気の通気が可能な材料により形成されていることが望ましい。
【0042】
充填材2の注入は、まず、棒材挿入孔10(孔本体11)の上端(底部)に充填パイプ20のシール部22の先端面が到達するまで充填パイプ20を挿入する。
このとき、充填パイプ20の先端まで、充填材2が満たされているのが望ましい。
【0043】
次に、加圧ポンプ24により充填材2を圧送する。充填材2は、耐圧ホース23と充填パイプ20を介して、棒材挿入孔10の孔本体11内に送り込まれる。充填材2が孔本体11内に送り込まれるとともに、充填パイプ20は下方に押し下げられる。
また、シール部22は通気が可能な素材により形成されているため、シール部22よりも孔本体11の底部側(上側)に存在する空気は、充填材2の注入に伴い、シール部22から孔本体11の孔口側(下側)に排出される。
【0044】
充填材2の注入は、棒材挿入孔10の孔本体11下端まで行い、図1(b)に示すように、孔本体11内が充填材2により充填されたら、充填パイプ20を撤去する。
【0045】
本体部11内には、空気を巻き込むことなく充填材2が注入されているため、充填材2下端面には、上向きの大気圧力Aが作用しており、充填材2が本体部11から漏れ出すことが防止されている。
なお、注入工程から挿入工程に移行する間に、本体部11の孔口に蓋材を配置してもよい。
【0046】
挿入工程は、図1(c)に示すように、充填材2が注入された棒材挿入孔10内に棒材3を挿入する工程である。
【0047】
棒材3の棒材挿入孔10への挿入は、充填材漏洩防止装置4を利用して、棒材挿入孔10内からの充填材2の流出を制御した状態で行う。
【0048】
棒材3は、図3(a)に示すように、棒本体30と、棒本体30の先端(上端)及び基端(下端)に設けられている、当該棒本体30よりも断面形状が大きい先端定着部材31及び基端定着部材32と、から構成されている。
棒材3は、先端および基端に形成された定着部材31,32により、コンクリートへの定着効果が向上されている。
【0049】
本実施形態では、先端定着部材31として、円形の鋼製プレートを棒本体30の先端に固定させることにより形成するが、先端定着部材31の構成は限定されるものではなく、適宜形成することが可能である。
【0050】
また、基端定着部材32として、先端定着部材31よりも大きな形状からなる矩形状の鋼製プレートを棒本体30の基端に固定することにより形成するが、基端定着部材32の構成は限定されるものではない。
【0051】
なお、定着部材31,32は、必要に応じて形成すればよく、省略してもよい。また、先端定着部材31または基端定着部材32のいずれか一方のみが形成されていてもよい(図3(c)参照)。また、図3(b)に示す棒材3aのように、先端定着部材31と基端定着部材32とが同形状に形成されていてもよい。さらに、図3(c)に示す棒材3bのように、端部にネジ加工33が施されたものであってもよい。
【0052】
漏洩防止装置4は、充填材2が注入された棒材挿入孔10の孔本体11内に棒材3を挿入する場合において、孔本体11からの充填材2の漏洩を防止する。
【0053】
漏洩防止装置4は、図1(c)および図5(a)に示すように、棒材挿入孔10の孔口部であって穴本体11と拡径部12との境界部に配置される漏洩防止リングプレート40と、漏洩防止リングプレート40を支持する支持フレーム45と、を備えている。
【0054】
漏洩防止リングプレート40には、棒材3を挿通可能に形成された挿通孔41と、棒材挿入孔10内から充填材2を排出することができる充填材排出口42,42と、が形成されている。
【0055】
漏洩防止リングプレート40は、図5(b)に示すように、二つのプレート部材40a,40aを組み合わせることにより分割可能に形成された環状の板材であって、プレート部材40a同士の当接面には、それぞれ磁石44が対向する位置に固定されている。
漏洩防止リングプレート40を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、金属、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、木材、ゴム、ウレタン樹脂等が使用可能である。
【0056】
ブレート部材40a,40aは、組み合わされた状態で磁石44,44,…により固定されている。
なお、漏洩防止リングプレート40は、必ずしも分割可能に形成されている必要はなく、一体に形成されていてもよい。また、漏洩防止リングプレート40の分割数も適宜設定することが可能である。
【0057】
挿通孔41は、漏洩防止リングプレート40の中央に形成されており、棒材3の棒本体30の外径と同程度の内径を有して形成されている。なお、挿通孔41の内周面には、充填材2の漏洩を防止するための止水材や、棒材3の挿入時の摩擦抵抗を低減する滑材等を必要に応じて配置してもよい。
【0058】
充填材排出口42は、各プレート部材40a,40aに1箇所ずつ形成されており、挿通孔41を挟んで互いに対向する位置となるように形成されている。なお、充填材排出口42の配置や箇所数は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0059】
本実施形態では、充填材排出口42に排出チューブ43が取り付けられている。なお、排出チューブ43は、必要に応じて取り付ければよく、省略してもよい。また、排出チューブ43の長さや内径等も適宜設定することが可能である。
【0060】
支持フレーム45は、図5(a)に示すように、漏洩防止リングプレート40を支持するための部材であって、口字状に形成された脚部46と、脚部46と漏洩防止リングプレート40とを連結する一対のアーム部47,47とを備えている。
【0061】
支持フレーム45の材質は限定されるものではなく、例えば、金属、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、木材等が使用可能であるが、本実施形態では金属により構成する。
【0062】
脚部46は、図5(a)および(b)に示すように、金属板を組み合わせることにより形成されている。また、脚部46の対向する一対の辺は、それぞれ2つの部材をヒンジ48により辺の中間部において連結することにより構成されており、脚部46の折り曲げが可能に構成されている。
なお、漏洩防止リングプレート40が分割可能ではなく、一体に形成された板材である場合には、ヒンジ48,48は省略してもよい。
【0063】
アーム47,47は、脚部46のヒンジ48が設けられていない一対の辺にそれぞれ一端が固定されていて、他端がプレート部材40aの下面に固定されている。
【0064】
プレート部材40a,40aが、ヒンジ48,48を中心に回転することで、互いに離隔して、漏洩防止リングプレート40が分割される。
【0065】
棒材3の棒材挿入孔10への挿入は、図1(c)に示すように、漏洩防止リングプレート40を本体部11の孔口に配置した状態(拡径部12の底面に密着させた状態)で、挿通孔41から棒材3を挿入する(押し上げる)ことにより行う。
【0066】
このとき棒材3は、漏洩防止リングプレート40の挿通孔41に棒本体30を挿通させた状態となっている。棒材3は、図5(b)に示すように、プレート部材40a同士を一旦離隔させて先端定着部材31(基端定着部材32)を挿通孔41に挿通させた後、プレート部材40a同士により棒本体30を挟むことにより挿通孔41に設置される。
【0067】
図1(c)に示すように、棒材3を本体部11に挿入することにより押し出された充填材2は、排出口42から排出チューブ43を介して排出させる。
このとき、本体部11から排出される充填材2の量は、排出口42の形状や排出チューブ43の管損失による抵抗により制御されるため、本体部11内の充填材2の内圧は適度に保たれる。なお、排出チューブ43の先端を適度につぶして充填材の排出量を制御してもよい。
【0068】
棒材3の挿入が、所定の押込位置にまで到達したら、図5(b)に示すように、プレート部材40a同士を分割して、漏洩防止リングプレート40を棒材3から撤去する。漏洩防止リングプレート40の撤去は、棒材3が落下することのないように、棒材3を指などにより保持した状態で行う。本実施形態では、押込位置として、漏洩防止リングプレート40を撤去することができなくなる手前の位置まで棒材3を挿入する。
【0069】
漏洩防止リングプレート40を撤去したら、棒材3をさらに押し込んで最終位置まで挿入する(図1(d)参照)。本実施形態では、棒材3の先端(上端)と基端(下端)にそれぞれ所定の被りコンクリート厚を確保できるように棒材3を挿入する。
【0070】
養生工程は、図1(d)に示すように、棒材挿入孔内に注入された充填材2に所望の強度が発現するまで養生する工程である。
【0071】
充填材2の養生は、棒材挿入孔10の拡径部12に、棒材3の抜け出しを防ぐとともに充填材2の漏洩を防止するストッパー5を配置した状態で行う。
【0072】
ストッパー5は、本体部11の断面形状よりも大きな形状からなる板状部材である。ストッパー5を構成する材料は限定されるものではなく、木製、鋼製、樹脂製等の中から適宜選定して使用すればよい。また、ストッパー5の固定方法も限定されるものではなく、例えば楔やアンカーボルトを利用して固定すればよい。
【0073】
充填材2に所望の強度が発現したら、ストッパー5を外して、拡径部12内に充填材2またはレジンモルタルや無収縮モルタル等の断面修復材を充填する。
【0074】
以上、本実施形態によれば、施工性に優れており、早期施工が可能となる。
また、充填材2に空気を巻き込むことが防止されているため、棒材3とコンクリート構造物1との一体性が向上する。
【0075】
また、充填材2として、モルタル等の安価な材料を採用することが可能なため、材料費を低減させることができる。
また、早期施工により工期を短くすることで、工事全体の費用を削減することができる。
【0076】
充填パイプ20のシール部22は、通気可能な材料により構成されているため、充填材2を注入する際に棒材挿入孔10内に存在する空気がシール部22を通過して下方に逃げるため、棒材挿入孔10内に空気が残存することが防止される。そのため、充填材2の充填を密実に行うことができ、高品質施工が可能となる。
【0077】
また、シール部22は、ブラシや、スポンジ状の硬質ゴムや、スポンジ状の樹脂や、糸状の樹脂栓を絡めた樹脂性タワシ等により構成されているため、棒材挿入孔10の内壁と接触しても破損する可能性が低く、施工性を維持することができる。
【0078】
また、漏洩防止リングプレート40を利用することで、棒材3の挿入時の充填材2の漏洩を防止することが可能となり、棒材挿入孔10内の密実性を維持することが可能となる。
【0079】
また、棒材3の挿入に伴い溢れだす棒材3の挿入体積分の充填材2の排出量を、充填材排出口42と排出チューブ43により制御しているため、棒材挿入孔10内の充填材の内圧を適度に保つことが可能となり、充填材2に空気が巻き込まれることが防止される。なお、充填材2内に空気塊が作られると、棒材3とコンクリート構造物1との一体性やコンクリート構造物1としての耐久性に影響を及ぼすおそれがある。
【0080】
漏洩防止リングプレート40は、支持フレーム45により支持されているため、施工中に漏洩防止リングプレート40がぶれることで棒材3の位置がずれることや、空気が充填材2内に巻き込まれることなどが防止されている。
【0081】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【0082】
例えば、本発明の棒材の固定方法とこれに使用する充填材漏洩防止装置および充填パイプの適用可能なコンクリート構造物は、限定されるものではない。
【0083】
漏洩防止リングプレート40が、変形可能な材料により構成されていて、棒材3の棒材30の外径と同程度の内径により形成された挿通孔41が基端定着部の挿通が可能な程度に拡径可能に構成されていてもよい。このような漏洩防止リングプレート40を構成する材料としては、剛性を小さくして大変形可能な材料である必要があり、例えば、ゴムやウレタン樹脂等が適用可能である。
【0084】
また、棒材挿入孔10は、上向きに削孔されていればよく、鉛直に形成されていてもよいし、斜めに形成されていてもよい。
また、下向きや横向きに形成された棒材挿入孔を利用して棒材を固定する場合に、当該棒材の固定方法を利用してもよい。
【0085】
また、前記実施形態ではストッパー5を棒材挿入孔10内(拡径部12内)に配置するものとしたが、コンクリート構造物1の表面に配置してもよい。また、棒材3が抜け出すことや充填材2の流出する心配がない場合には、ストッパー5の設置を省略してもよい。
【0086】
前記実施形態では、棒材3が棒材挿入孔10内に全体が収まるように挿入するものとしたが、棒材3は基端部がコンクリート構造物1から突出するように挿入されていてもよく、また、基端面がコンクリート構造物1の表面に面しているように挿入されていてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 コンクリート構造物
10 棒材挿入孔
11 本体部
12 拡径部
2 充填材
20 充填パイプ
21 パイプ本体
22 シール部
3 棒材
30 棒本体
31 先端定着部材
32 基端定着部材
4 充填材漏洩防止装置
40 漏洩防止リングプレート
41 挿通孔
42 充填材排出口
43 排出チューブ
45 支持フレーム
5 ストッパー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に棒材挿入孔を形成する削孔工程と、
前記棒材挿入孔に充填材を注入する注入工程と、
前記充填材が注入された前記棒材挿入孔に棒材を挿入する挿入工程と、を備える棒材の固定方法であって、
前記注入工程では、外径が前記棒材挿入孔の内径と同等に形成されたリング状のシール部が形成された充填パイプを用いて前記充填材の注入を行い、
前記挿入工程では、前記棒材の挿通が可能な挿通孔と前記充填材を排出することができる排出口が形成された漏洩防止リングプレートを前記棒材挿入孔の孔口部に配置した状態で、前記挿通孔から前記棒材を挿入し、挿入した前記棒材により押し出された充填材を前記排出口から排出することを特徴とする、棒材の固定方法。
【請求項2】
前記挿入工程では、前記棒材が所定の押込位置に到達したら、前記漏洩防止リングプレートを撤去し、その後、前記棒材をさらに押し込んで最終位置まで挿入することを特徴とする、請求項1に記載の棒材の固定方法。
【請求項3】
前記挿入工程後に前記充填材に所望の強度が発現するまで養生する養生工程を含み、
前記養生工程において、前記棒材挿入孔の孔口部に前記棒材の抜け出しを防ぐストッパーを配置することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の棒材の固定方法。
【請求項4】
充填材が注入された棒材挿入孔内に棒材を挿入する場合において、前記棒材挿入孔内から前記充填材が漏洩することを防止する漏洩防止装置であって、
棒材挿入孔の孔口部に配置される漏洩防止リングプレートを備え、
前記漏洩防止リングプレートには、前記棒材を挿通可能に形成された挿通孔と、前記棒材挿入孔内から前記充填材を排出することができる充填材排出口と、が形成されていることを特徴とする充填材漏洩防止装置。
【請求項5】
前記漏洩防止リングプレートが、分割可能に構成されていることを特徴とする、請求項4に記載の充填材漏洩防止装置。
【請求項6】
前記棒材の端部に拡幅部が形成されており、
前記漏洩防止リングプレートが、変形可能な材料により構成されていて、前記棒材の外径と同程度の内径により形成された前記挿通孔が前記拡幅部の挿通が可能な程度に拡径可能に構成されていることを特徴とする、請求項4に記載の充填材漏洩防止装置。
【請求項7】
前記充填材排出口に排出チューブが取り付けられていることを特徴とする、請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の充填材漏洩防止装置。
【請求項8】
前記漏洩防止リングプレートを支持する支持フレームを備えることを特徴とする、請求項4乃至請求項7のいずれか1項に記載の充填材漏洩防止装置。
【請求項9】
棒材挿入孔内に充填材を注入するための充填パイプであって、
先端外周囲にシール部が形成されており、
前記シール部は、前記棒材挿入孔の内径と同等の外径を有していて、当該シール部よりも基端側に前記充填材が漏洩することを防止するように形成されていることを特徴とする、充填パイプ。
【請求項10】
前記シール部は、空気の通気が可能な材料により形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の充填パイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−52476(P2011−52476A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203359(P2009−203359)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】