椅子
【課題】シェルの部位ごとに相互に異なる特性を付与して、荷重に応じた背シェルの適切な弾性を備えた撓み変形状態を実現し、腰部を局部的に不自然な状態で押し出されるような違和感を着座者に与えることのない、又は与えることを抑制することが可能な椅子を提供する。
【解決手段】樹脂製の弾性板状体を主体として構成された背シェル71を有する背凭れ7と、背シェル7を支持する背支桿6とを備えた椅子1であって、背シェル71が、左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方へ突出させた湾曲面を形成する背シェル上部71Tと、背シェル上部71Tよりも曲率を大きく設定した湾曲面を形成したランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uとを一体に有し、ランバーサポート部71Lが相対的に前方に突出する形状に保持されるように背シェル上部71T及び背シェル下部71Uをそれぞれ背支桿6に支持させた。
【解決手段】樹脂製の弾性板状体を主体として構成された背シェル71を有する背凭れ7と、背シェル7を支持する背支桿6とを備えた椅子1であって、背シェル71が、左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方へ突出させた湾曲面を形成する背シェル上部71Tと、背シェル上部71Tよりも曲率を大きく設定した湾曲面を形成したランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uとを一体に有し、ランバーサポート部71Lが相対的に前方に突出する形状に保持されるように背シェル上部71T及び背シェル下部71Uをそれぞれ背支桿6に支持させた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィス等で好適に用いられる椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、オフィス等で好適に用いられる椅子として、概略板状をなす樹脂製の背シェルを有する背凭れと、背シェルを支持する背支桿とを備えたものが知られている。
【0003】
背シェルは、左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方へ突出させた湾曲面を全体に形成し、荷重に応じて弾性変形し得るように構成されているのが通常である。そして、着座者が背凭れに凭れ掛かった場合に、着座者の腰部を適度に支持し得るように、背シェルのうち、着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部を背支桿に支持させる態様や、ランバーサポート部を前方へ突出させるための専用の機構を設ける態様が考えられている(前者の態様として例えば下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003―24175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
背シェル全体を同じ曲率の湾曲面で形成している態様であれば、背シェルの何れの部位における剛性もほぼ同じものとなり、背シェル自体の部位ごとに相互に異なる剛性や変形特性を付与することができない。このような背シェルを有する背凭れに着座者が凭れ掛かった場合に、相対的に大きな荷重を受ける背シェルの下部側、特にランバーサポート部が相対的に凹む方向に弾性変形することを防止して適度な腰当り感を着座者に与えるために、前述した各態様、すなわち、ランバーサポート部を背支桿で直接支持する態様、或いはランバーサポート部を前方へ突出させるための専用の機構を設ける態様が採用されているが、これらの態様であれば、着座者の腰部を背シェルの弾性で支持している態様とはならないため、腰部を局部的に不自然な状態で押し出されるような違和感を着座者に与えることがあった。特に、ランバーサポート部を前方へ突出させるための専用の機構を設ける態様は、構造の複雑化を招来するというデメリットもあった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、背シェルの部位ごとに相互に異なる特性を付与することができ、荷重に応じた背シェルの適切な弾性を備えた撓み変形状態を実現し、腰部を局部的に不自然な状態で押し出されるような違和感を着座者に与えることのない、又は与えることを抑制することが可能な椅子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の椅子は、樹脂製の弾性板状体を主体として構成された背シェルを有する背凭れと、前記背シェルを支持する背支桿とを備えたものであり、前記背シェルが、左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方へ突出させた湾曲面を形成する背シェル上部と、当該背シェル上部よりも曲率を大きく設定した湾曲面を形成し、且つ着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部と、当該ランバーサポート部と略同様の湾曲形状で当該ランバーサポート部の下方に延びる背シェル下部とを一体に有し、前記ランバーサポート部が相対的に前方に突出する形状に保持されるように前記背シェル上部及び前記背シェル下部をそれぞれ前記背支桿に支持させていることを特徴とする。
【0007】
ここで、「ランバーサポート部と略同様の湾曲形状」の「背シェル下部」とは、「湾曲面の曲率がランバーサポート部の曲率と同一である背シェル下部」、又は「湾曲面の曲率がランバーサポート部の曲率とは異なるものの背シェル上部の曲率よりも大きい背シェル下部」、これら何れをも包含する趣旨である。
【0008】
このようなものであれば、ランバーサポート部及び背シェル下部の湾曲面の曲率を、背シェル上部の湾曲面の曲率よりも大きく設定しているため、ランバーサポート部及び背シェル下部が背シェル上部よりも相対的に剛性の高いものとなり、このような背シェルを有する背凭れに着座者が凭れ掛かった場合に、相対的に大きな荷重を受ける背シェルの下部側、特にランバーサポート部が、背シェル上部よりも高い剛性により、相対的に凹む方向に弾性変形することを防止する一方、背シェル上部は相対的に剛性が低いため、着座者の肩近傍の動き等に追従して柔軟に弾性変形し易く、背シェル全域に亘って着座者の上半身を均等に支持することができる。しかも、ランバーサポート部が相対的に前方に突出する形状に保持されるように背シェル上部及び背シェル下部をそれぞれ背支桿に支持させているため、背シェルは、荷重に応じて全体的に適切な弾性を備えた撓み変形状態となるとともに、背シェルのランバーサポート部が他の部材によって後方から直接支持されていない態様、換言すれば、背シェル自体の弾性によって着座者の腰部を支持する態様となり、ランバーサポート部を他の部材や機構によって後方から押圧支持して前方に突出させている態様であれば着座者に与え得る腰部の違和感を解消又は抑制し、着座者に無理のない自然な腰当り感を与えるものとなる。しかも、ランバーサポート部を相対的に前方へ突出させるための専用の機構が不要になり、構造の簡素化をも有効に図ることができる。
【0009】
特に、前記背支桿が、前記背シェル上部を支持する上部背フレームと、前記背シェル下部を支持する下部背フレームとを備え、前記上部背フレームを前記下部背フレームに後傾動作可能に枢支させたものであれば、着座者が背シェル上部に体重を掛けた場合に、上部背フレームが下部背フレームとの枢着点を中心に後傾し、これに伴って背シェルのうち上部側が後方へ反り返り、その結果、背シェル上部と背シェル下部との間の領域、具体的にはランバーサポート部が自ずと前方へ突出する方向に湾曲変形し、着座者に良好な腰当り感を与えることができる。しかも、上部背フレームが後傾すると、背シェルがさらに弓なりに湾曲変形し、その弾性復帰力が上部背フレームを前方へ引っ張り戻す方向に付勢する力として作用するため、着座者が背中を背凭れから離す、つまり上半身を起こした際に、上部背フレームはその動作に追従して後傾する前の通常姿勢に素早く自動復帰することになる。また、背シェル上部に体重を掛ける程度に応じてランバーサポート部の前方への突出量も変化するため、別途専用の操作部を操作することなく、着座者は自身の体重の掛け方を変更することによって好みの腰当り感が得られるランバーサポート部の突出量に設定することができ、構造の簡素化を図りつつ何ら実用性を損なうことのない椅子となる。
【0010】
前記背シェルが、前記上部背フレーム又は前記下部背フレームの少なくとも一方に高さ方向にスライド移動可能に支持され、且つ当該スライド移動可能に支持される部分を高さ方向に略直線状に設定したものであれば、背シェル上部又は背シェル下部の少なくとも一方を背支桿にスライド可能に支持させておくことにより、スライド移動によって背シェル全体の湾曲変形を吸収することができ、背シル全体がスムーズに湾曲変形する。しかも、背シェルのうちスライド可能に支持される部分を高さ方向に沿って略直線状に設定とすることにより、スライド移動が略直線的な動作となり、背支桿に対する背シェルのスライド移動の動作安定性が向上し、よりスムーズにスライド移動、ひいては背シェル全体の湾曲変形を行うことが可能となる。
【0011】
具体的な実施態様としては、前記背シェルが、前記背シェル上部以外の部位を、当該背シェル上部よりも大きい曲率の湾曲面に設定し、前記背シェル上部と当該上部以外の部位とを不連続線を介して高さ方向に一体に有している態様が挙げられる。
【0012】
さらに、前記背シェルの左右巾方向略中央部にのみ前記背支桿を配している態様であれば、背シェルの両側端部がフリーな状態になり、樹脂製の板状部材である背シェルが着座者の背荷重を支える強度に構成されたものであっても、背シェルの左右両端部に荷重を掛けた場合にはその荷重に応じて柔軟に大きく撓ませることができる。このように、背シェルの捻れ変形を許容し、着座者の体重の掛け方や背中の動きに応じた背シェルの3次元的な変形が可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、平面視における背シェルの湾曲面の曲率を部位ごとに相互に異ならせることにより、各部位ごとに異なる剛性を付与することができ、着座者の上半身を背シェル全域に亘って均等に支持することができ、荷重に応じた適切な弾性を備えた撓み変形状態を実現し、腰部を局部的に不自然な状態で押し出されるような違和感を着座者に与えることのない、又は与えることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係る椅子1は、図1〜図5に示すように、脚2と、脚2の上端側に水平旋回可能に取り付けた支持基部3と、前部を支持基部3に支持させた座受4と、座受4に取り付けた座5と、下端部を支持基部3に枢支させ且つ座受4の後部を支持する背支桿6と、背支桿6に取り付けた背凭れ7とを備えたいわゆる回転椅子である。
【0016】
脚2は、先端にキャスタをそれぞれ備えた複数本(図示例では5本)の脚羽根21と、各脚羽根21の基端部が集合する部位から起立する脚支柱22とからなるものである。
【0017】
支持基部3は、図6(同図は図5における矢印X方向から見た状態を示す図である)に示すように、上壁部31とこの上壁部31の両側縁からそれぞれ一体に屈曲垂下させた一対の垂下側壁部32と、一対の垂下側壁部32の前端部間に設けた補強リブとして機能する一対の隔壁33,34とを備えた例えば金属製のもので、前記上壁部31の後端部に脚支柱22の上端部を取り付けて脚支柱22に支持させている。なお、一対の隔壁33,34のうち相対的に後方側の隔壁33には、肉厚方向に穿設したリテーナ案内部33aを設け、当該リテーナ案内部33aに挿通したリテーナ912bを、後述するコイルバネ911の圧縮進退方向に進退するように案内するようにしている。またこの支持基部3は、左右の垂下側壁部32の略中央部より若干後方側に寄った部位間に、背支桿6を回動可能に軸支する第1支軸X1を横架させている。さらに、左右の垂下側壁部32の前端部には、後述する座受4の前フレーム(図示省略)を支持するための長孔32aをそれぞれ肉厚方向に穿設させている。支持基部3には下方から支持基部カバー体3cが被せられ、直接外観できないようにしてある(図3参照)。
【0018】
座受4は、前記支持基部3の上方に配され、前端部に設けた図示しない棒状の前フレームを支持基部3の長孔32aに挿通させた状態で支持基部3に支持されている。本実施形態の椅子1は、座受4の左右両側縁部近傍部位からそれぞれ上方に向かって延びる肘掛け8を備えている。図1等に示す肘掛け8は、高さ調整不能なものであるが、これに替えて、高さ調整可能な肘掛けを適用しても構わない。また、肘掛けを有さない椅子であってもよい。
【0019】
座5は、当該座5に掛かる荷重を均等に支持する構造部材としての役割を担う座シェル51と、座シェル51の上方に設けられる座クッション(図示省略)と、座クッションを被覆する座クッションカバー52とを具備したものである。
【0020】
背凭れ7は、この背凭れ7に掛かる荷重を均等に支持する構造部材としての役割を担い背支桿6に支持される背シェル71と、背シェル71の前方に設けられる背クッション(図示省略)と、この背クッションを被覆する背クッションカバー72とを備えたものである。
【0021】
背シェル71は、樹脂製の弾性板状体を主体として構成され、上部及び下部を高さ方向中央部よりも後方に突出させ、且つ左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方に突出させた3次元形状をなすものである。背シェル71のうち着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部71Lよりも上方の領域、より具体的には背シェル71の高さ方向中央部よりも上方の領域には、多数の開口711を設け、背シェル71の所定領域において開口711が占める割合である開口率が、背シェル71の上縁部及び両側縁部に向かって漸次大きくなるように設定している。以下の説明において、背シェル71のうち、開口711を設けた領域全体を「背シェル上部71T」と称す。つまり、背シェル71は、図4等に示すように、背シェル上部71Tと、背シェル71の高さ方向中央部である背シェル中央部71Sと、背シェル中央部71Sよりも若干下方に位置するランバーサポート部71Lと、ランバーサポート部71Lよりも下方の領域である背シェル下部71Uとを一体に有するものである。背シェル中央部71S、ランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uの平面視における湾曲面の曲率は同じであり、この曲率を、背シェル上部71Tの平面視における湾曲面の曲率よりも大きく設定している。そして、図7(同図は図5に対応するものであり、背シェル71のみを左右巾方向中央縦断面で模式的に示す図である)に示すように、相対的に曲率が大きい背シェル中央部71S、ランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uは、相互に連続する弓なりに湾曲した形状となる一方、相対的に曲率が小さい背シェル上部71Tは、高さ方向に沿って略直線状となる。なお、背シェル中央部71Sと背シェル上部71Tとは不連続線712を境界にして相互に連続している。
【0022】
背シェル71のランバーサポート部71Lには、当該ランバーサポート部71Lの周辺部位よりも部分的に変形し易くした変形惹起手段713を設けている。本実施形態では、変形惹起手段713として、左右巾方向に延びるスリット713aを適用している。スリット713aの数は単数であっても複数であってもよく、本実施形態では、高さ方向に所定間隔空けてなる上下一対のスリット713aを設けている。
【0023】
背シェル上部71Tには、図8(同図は図5のY領域における背シェル71と背支桿6との組み付け態様を示すべく、背シェル上部71Tを背支桿6に組み付ける前段階の状態を模式的に示す図である)に示すように、後方に突出し後述する上部背フレーム61の上端部に形成したスライド係合孔611に係合可能な係合部714を一体又は一体的に設けている。なお、図8では、背シェル上部71Tの開口711を省略している。係合部714は、概略ブロック状をなし、先端部(背シェル71の背面から離れた側の端部)に鍔部714aを一体に有するものである。
【0024】
背シェル下部71Uには、図5等に示すように、後方に突出し後述する下部フレームの上端部に支持される被支持部715を一体又は一体的に設けている。本実施形態では、背シェル下部71Uにおける下端部、つまり背シェル71の下端部に左右一対の薄板状の被支持部715を設けている。
【0025】
このような背シェル71を支持する背支桿6は、図5等に示すように、背シェル71のうち着座者の腰部を支持するランバーサポート部71Lよりも上方の部位、具体的には前記背シェル上部71Tを支持する上部背フレーム61と、背シェル下部71Uを支持する下部背フレーム62とを備え、これら上部背フレーム61と下部背フレーム62との枢着点(後述する第3支軸X3)を前記背シェル71の下端部側における後方に設定し、当該枢着点を中心に上部背フレーム61が下部背フレーム62に対して傾動動作(チルト動作)可能に構成したものである。なお、図2に示すように、上部背フレーム61及び下部背フレーム62には、それぞれ後方又は下方から上部背フレームカバー体61c及び下部背フレームカバー体62cが被せられ、直接外観できないようにしてある。
【0026】
下部背フレーム62は、図5及び図6等に示すように、支持基部3の両側面よりも外側方に配される左右一対の下部背フレーム本体621と、これら一対の下部背フレーム本体621の下端部同士を剛結し、且つ前記支持基部3の下面よりも下方に配される剛結軸622とを備えたものである。
【0027】
各下部背フレーム本体621は、概略板状をなし、下端部から上端部近傍部位に向かって漸次斜め後方に延出し、上端部近傍部位を斜め前方に屈曲させた側面視形状を有する。
【0028】
剛結軸622は、棒状をなし、溶接等の適宜の手段により下部背フレーム本体621の下端部間に架け渡した状態で固定されたものである。
【0029】
このような下部背フレーム62を支持基部3に取り付けるには、左右一対の下部背フレーム本体621を剛結軸622によって剛結した状態で、各下部背フレーム本体621の下端部近傍部位同士の間に支持基部3を挟み込むように支持基部3の後方からあてがい、各下部背フレーム本体621の下端部近傍部位に設けた挿通孔621aと支持基部3の両垂下側壁部32に設けた図示しない挿通孔とを相互に連通させた状態で第1支軸X1を挿通させることによって行う。これにより、下部背フレーム62、ひいては背支桿6が、第1支軸X1を中心に支持基部3に対して回動可能なものとなる。なお、本実施形態では各下部背フレーム本体621の下端部近傍部位に他の部位よりも前方に延出させた延出部621bを一体に設け、各延出部621bに挿通孔621aを形成している。第1支軸X1は剛結軸622に対して、相対的に後方且つ上方に配される。
【0030】
本実施形態に係る椅子1は、下部背フレーム62を支持基部3に取り付けた状態において、下部背フレーム62の剛結軸622が支持基部3の下面(具体的には垂下側壁部32の下面)よりも下方に位置付けられ、この剛結軸622と支持基部3との間に背支桿6の後傾動作に伴って反力を発生するコイルバネ911を配している。そして、下部背フレーム62が前記第1支軸X1を中心に後傾した際に、剛結軸622がコイルバネ911を反発力を蓄積する方向に付勢するように構成している。
【0031】
具体的には、図6に示すように、剛結軸622が、その長手方向中央部で後述するコイルバネ911の一端側に設けたコイルばね受部911xを支持している。コイルバネ911及びコイルばね受部911xは、背支桿6を後傾させる際の反力を調整するための傾動反力調整装置9を構成するものである。
【0032】
傾動反力調整装置9は、図5及び図6に示すように、支持基部3内に少なくとも一部が収容され、且つ背支桿6を後傾させる際の反力を座受4とは独立に発生させる反力発生部91と、座5の側縁前端側に設けられ、反力発生部91の反力の強さを調整操作するための反力調整用操作部92とを備えたものである。
【0033】
より具体的に説明すると、反力発生部91は、コイルバネ911と、このコイルバネ911の一端側に設けられ且つ前記反力調整用操作部92が受ける調整操作と連動して前記コイルバネ911を圧縮又は伸長させる圧縮伸長部912とを具備している。圧縮伸長部912は、前記反力調整用操作部92が受ける調整操作と連動してコイルバネ911の圧縮伸長方向と直交する方向に進退する平面視略台形状のスライダ912aと、このスライダ912aと摺動しつつ且つ前記コイルバネ911を支持しながら前記圧縮伸長方向に進退する平面視略台形状のリテーナ912bと、このリテーナ912bの前記圧縮伸長方向への進退を案内する前記リテーナ案内部33aとからなるものである。このリテーナ案内部33aは、上述した通り、座受4を支持するための支持基部3の隔壁33に形成されている。
【0034】
反力調整用操作部92は、支持基部3の何れか一方の垂下側壁部32を貫通して左右巾方向に延びるロッド921と、このロッド921の先端部に設けられ且つロッド921を軸回りに回転させる操作グリップ922とを備えたものである。
【0035】
下部背フレーム62の説明に戻る。下部背フレーム62の各下部背フレーム本体621には、高さ方向中央部より若干下方の部位に周辺部位よりも前方に延出させた第2延出部621cを一体に設け、これら第2延出部621c同士に架け渡した状態で固定された第2支軸X2によって前記座受4の後端側を支持している。さらに、各下部背フレーム本体621の上端部近傍部位に、前記背シェル71の被支持部715をビス止め等の適宜の手段によって相対角度変更不能に固定している。
【0036】
このような構成をなす下部背フレーム62の上端部に枢支される上部背フレーム61は、図5に示すように、前記左右一対の下部背フレーム本体621同士の間に挟まれる巾寸法を有し、上端部及び下端部を高さ方向中央部よりも後方に向かって突出させた側面視略くの字状をなすものである。上部背フレーム61の上端部には、図8に示すように、背シェル上部71Tに設けた前記係合部714がスライド係合可能なスライド係合孔611を形成している。スライド係合孔611は、係合部714の鍔部714aが挿脱可能な大孔部611aと、この大孔部611aの上方に連続して設けられ、大孔部611aから挿入した鍔部714aが抜け外れない状態で係合部714の相対スライド移動を許容し得る小孔部611bとから構成される。小孔部611bの高さ寸法を大孔部611aの高さ寸法よりも大きく設定し、スライド係合孔611と係合部714との相対スライド移動しろを確保している。
【0037】
上部背フレーム61の下端部には図示しない左右巾方向に貫通する挿通孔が形成されており、この挿通孔と各下部背フレーム本体621の上端部に設けた挿通孔621dとを相互に連通させた状態で第3支軸X3を挿通させることにより、上部背フレーム61が、第3支軸X3を中心として後傾動作可能なものとなる。本実施形態では、第3支軸X3が、背シェル71の下端部側における後方に配されるように設定している。さらに、上部背フレーム61は、前記枢着点(第3支軸X3)よりも下方に延出するオーバーハング部612を備え、当該オーバーハング部612と下部背フレーム62との間に、上部背フレーム61の後傾動作に伴って反力を発生する第2コイルバネ63を配している。本実施形態では、下部背フレーム62の左右一対の下部背フレーム本体621のうち前記屈曲させた上端部近傍部位よりも若干下方側の部位同士の間に第4支軸X4を架け渡した状態で固定し、この第4支軸X4に第2コイルバネ63の一端部を支持させ、第2コイルバネ63の他端部を上部背フレーム61のオーバーハング部612に支持させている。
【0038】
背シェル上部71T及び背シェル下部71Uをそれぞれ上部背フレーム61の上端部及び下部背フレーム62の上端部に支持させた状態において、背シェル71と背支桿6(具体的には上部背フレーム61)との間には空間が形成される。
【0039】
次に、上述した各部材から構成される本実施形態に係る椅子1の使用方法及び作用について説明する。
【0040】
本実施形態に係る椅子1は、図1〜図5に示すように、背凭れ7が起立姿勢をとる通常状態(S)と、図9及び図10に示すように、背凭れ7の後傾動作に伴って、座5が連動して後方へ沈み込む方向へスライド移動するシンクロロッキング(シンクロチルト)状態(R)と、図11及び図12に示すように、通常状態(S)において着座者が意図して背凭れ7の上部に体重を掛けることにより、上部背フレーム61が第3支軸X3を中心に後傾し、これに伴って背シェル71全体が側面視において弓なりに湾曲変形する背チルト状態(T)とを少なくともとり得るものである。
【0041】
通常状態(S)にある場合、弾性板状体を主体としてなる背シェル71は、その弾性に抗して側面視弓なりに湾曲した形状となっている。
【0042】
このような通常状態(S)にある椅子1に対して着座者が背中全体を背凭れ7に凭れ掛けさせた場合に、図10に示すように、背支桿6が、上部背フレーム61と下部背フレーム62との相対角度を維持したまま前記第1支軸X1を中心として後傾し、背シェル71も後傾する。この際、着座者の体重が背凭れ7全体に略均等に掛かることになるため、上部背フレーム61が下部背フレーム62に対して後傾することなく、換言すれば上部背フレーム61と下部背フレーム62との相対角度は変わらず、背シェル71も通常状態(S)における形状と略同一形状を保持したまま後傾する。そしてこの背支桿6の後傾動作に伴って下部背フレーム62の前記第2支軸X2によって後端側を支持された前記座受4が、その前端部に設けた前フレーム(図示省略)を長孔32a内で移動させながら後方へ沈み込む方向へスライド移動する。その結果、座受4に支持された座5全体が座受4と同一方向、すなわち後方へ沈み込む方向へスライド移動し(図9参照)、椅子1がシンクロロッキング状態(R)となる。
【0043】
なお、シンクロロッキング状態(R)にある場合、下部背フレーム62の剛結軸622が、前記コイルバネ911を反発力を蓄積する方向に押圧するため、着座者が背中を背凭れ7から離す、つまり上半身を起こすと、コイルバネ911の反発力によって背支桿6全体が後傾する前の通常姿勢に自ずと復帰する。本実施形態では、前記傾動反力調整装置9によって背凭れ7を後傾させる際の反力を調整可能にしている。具体的には、操作グリップ922を時計回り又は反時計回りの何れか一方向(例えば時計回り)に回転させると、これと連動してスライダ912aが操作グリップ922に近づく方向に移動し、当該スライダ912aがリテーナ912bを押圧する。すると、スライダ912aに押圧されたリテーナ912bは、コイルバネ911を圧縮する向きに移動し、背凭れ7を後傾させる際の反力を大きくできる。一方、操作グリップ922を逆方向(例えば反時計回り)に回転させれば、背凭れ7を後傾させる際の反力を小さくできる。
【0044】
他方、通常状態(S)において着座者が意図して背シェル上部71Tに体重を掛けた場合、図12に示すように、背支桿6のうち上部背フレーム61が第3支軸X3を中心として下部背フレーム62に対して後傾する。この上部背フレーム61の後傾動作に伴って背シェル71のうち上部背フレーム61に支持された背シェル上部71Tには後方へ反り返ろうとする力が作用する一方で、下部背フレーム62に支持された背シェル71の下端部は、後傾しない下部背フレーム62によって通常状態(S)における位置に留まろうとするため、背シェル71は背シェル上部71Tと背シェル下部71Uとの間の部位を前方へさらに突出させるようにさらに弓なりに湾曲変形する。本実施形態では、背シェル71のランバーサポート部71Lに変形惹起手段713、具体的にはスリット713aを設けているため、背シェル71全体が弓なりに湾曲変形する際、スリット713aの開口高さを狭める方向にランバーサポート部71Lが変形し、その結果、当該ランバーサポート部71Lが、通常状態(S)にある場合と比較して相対的に前方へ突出する。また、本実施形態では、背シェル上部71Tを上部背フレーム61に高さ方向に相対スライド移動可能に係合支持させており、上部背フレーム61が後傾する際に、背シェル上部71Tに設けた前記係合部714を、上部背フレーム61の上端部に形成したスライド係合孔611内において当該スライド係合孔611に対する係合状態が解除されない範囲で高さ方向に相対スライド移動させることによって、上部背フレーム61の後傾動作に追従して背シェル71全体が湾曲変形できるようにしている。本実施形態の椅子1は、背シェル71のうち平面視における湾曲面の曲率が他の部位よりも小さく、高さ方向に沿って略直線状をなす背シェル上部71Tに上部背フレーム61の上端部を相対スライド移動させる態様であるため、当該スライド移動を安定した状態でスムーズに行うことが可能となる。
【0045】
椅子1の通常状態(S)から背チルト状態(T)への移行に伴って、上部背フレーム61のオーバーハング部612が、当該オーバーハング部612と下部背フレーム62との間に介在する第2コイルバネ63を反発力を蓄積する方向に押圧する。したがって、着座者が背中を背凭れ7から離す、つまり上半身を起こすと、第2コイルバネ63の反発力によって上部背フレーム61が後傾する前の通常姿勢に自ずと復帰し、椅子1が背チルト状態(T)から通常状態(S)に戻ることになる。また、椅子1が通常状態(S)から背チルト状態(T)に移行した際、通常状態(S)における形状よりもさらに弓なりに湾曲変形した背シェル71の弾性復帰力が上部背フレーム61を前方へ引っ張り戻す方向に付勢する力として作用する。したがって、椅子1が背チルト状態(T)にある場合に、着座者が意図してランバーサポート部71Lに体重を掛けると前記付勢力がさらに増大し、この付勢力と前記第2コイルバネ63の反発力とが相俟って、着座者が背中を背凭れ7から離す、つまり上半身を起こした際に、上部背フレーム61はその動作に追従して後傾する前の通常姿勢に素早く自動復帰することになる。
【0046】
なお、椅子1を通常状態(S)から背チルト状態(T)へ移行させた後に、さらに着座者が体重を背凭れ7全体に掛けると、上部背フレーム61が下部背フレーム62に対して後傾した姿勢を保持しながら、下部背フレーム62が前記第1支軸X1を中心にして後傾する。その結果、椅子1が背チルト状態(T)とシンクロロッキング状態(R)とを組み合わせた最後傾状態となる(図示省略)。これと略同様に、通常状態(S)からシンクロロッキング状態(R)へ移行した後に、さらに着座者が意図して上部背フレーム61に体重を掛けると、上部背フレーム61が前記第3支軸X3を中心に下部背フレーム62に対して後傾し、シンクロロッキング状態(R)と背チルト状態(T)とを組み合わせた最後傾状態となる(図示省略)。
【0047】
すなわち、本実施形態に掛る椅子1は、着座者の座り方、より具体的には体重の掛け方に応じて、通常状態(S)、シンクロロッキング状態(R)、背チルト状態(T)、最後傾状態、又はこれらのうち異なる2つ状態の中間である中間状態(例えば通常状態(S)とシンクロロッキング状態(R)との中間状態や、通常状態(S)と背チルト状態(T)との中間状態:図示省略)をとるものとなる。
【0048】
なお、本実施形態の椅子1は、背支桿6と支持基部3との間に設けられ背凭れ7の傾動動作を選択的に可能にするようにした傾動制動装置Aを備えている。傾動制動装置Aは、この傾動制動装置Aの下端部を支持基部3の後端側に揺動可能に支持させ、傾動制動装置Aの上端部を下部背フレーム62の前記第4支軸X4に揺動可能に支持させたものであり、本実施形態では、傾動制動装置Aとして、図6に示すように、略円筒状のガススプリング本体A1と、このガススプリング本体A1内に略全体を収納されるべく進退するピストンロッド部(図示省略)とを具備し傾動制動部として機能する周知のガススプリングを適用しており、詳細な説明は省略する。
【0049】
このように、本実施形態に係る椅子1は、ランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uの湾曲面の曲率を、背シェル上部71Tの湾曲面の曲率よりも大きく設定しているため、ランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uが背シェル上部71Uよりも相対的に剛性の高いものとなり、このような背シェル71を有する背凭れ7に着座者が凭れ掛かった場合に、相対的に大きな荷重を受ける背シェル71の下部側、特にランバーサポート部71Lが、背シェル上部71Tよりも高い剛性により、相対的に凹む方向に弾性変形することを防止する一方、背シェル上部71Uは相対的に剛性が低いため、着座者の肩近傍の動き等に追従して柔軟に弾性変形し易く、背シェル71全域に亘って着座者の上半身を均等に支持することができる。しかも、ランバーサポート部71Lが相対的に前方に突出する形状に保持されるように背シェル上部71T及び背シェル下部71Uをそれぞれ背支桿に支持させているため、背シェル71は、荷重に応じて全体的に適切な弾性を備えた撓み変形状態となるとともに、ランバーサポート部71Lが他の部材によって後方から直接支持されていない態様、換言すれば、背シェル71自体の弾性によって着座者の腰部を支持する態様となり、ランバーサポート部71Lを他の部材や機構によって後方から押圧支持して前方に突出させている態様であれば着座者に与え得る腰部の違和感を解消又は抑制し、着座者に無理のない自然な腰当り感を与えるものとなる。さらに、ランバーサポート部71Lを相対的に前方へ突出させるための専用の機構が不要になり、構造の簡素化をも有効に図ることができる。
【0050】
特に、背支桿6が、背シェル上部71Tを支持する上部背フレーム61と、背シェル下部71Uを支持する下部背フレーム62とを備え、上部背フレーム61を下部背フレーム62に後傾動作可能に枢支させたものであるため、着座者が背シェル上部71Tに体重を掛けた場合に、上部背フレーム61が下部背フレーム62との枢着点(第3支軸X3)を中心に後傾し、これに伴って背シェル71のうち上部側が後方へ反り返り、その結果、背シェル上部71Tと背シェル下部71Uとの間の領域、具体的にはランバーサポート部71Lが自ずと前方へ突出する方向に湾曲変形し、着座者に良好な腰当り感を与えることができる。しかも、上部背フレーム61が後傾すると、背シェル71がさらに弓なりに湾曲変形し、その弾性復帰力が上部背フレーム61を前方へ引っ張り戻す方向に付勢する力として作用するため、着座者が背中を背凭れから離す、つまり上半身を起こした際に、上部背フレーム61はその動作に追従して素早く自動復帰することになる。また、背シェル上部71Tに体重を掛ける程度に応じてランバーサポート部71Lの前方への突出量も変化するため、別途専用の操作部を操作することなく、着座者は自身の体重の掛け方を変更することによって好みの腰当り感が得られるランバーサポート部71Lの突出量に設定することができ、構造の簡素化を図りつつ何ら実用性を損なうことのない椅子となる。
【0051】
さらに、背シェル上部71Tが、上部背フレーム61に高さ方向にスライド移動可能に支持されているため、上部背フレーム61が枢着点(第3支軸X3)を中心に後傾した際に、背シェル上部71Tが上部背フレーム61に対して高さ方向にスライド移動することによって背シェル上部71Tの後方への反り返りを許容し、背シェル71全体が弓なりに撓む変形動作をスムーズに行わせることができるとともに、スライド移動可能に支持される背シェル上部71Tが高さ方向に略直線状に設定したものであるため、スライド移動が略直線的な動作となり、上部背フレーム61に対する背シェル71のスライド移動の動作安定性が向上し、よりスムーズにスライド移動、ひいては背シェル71全体の湾曲変形を行うことが可能となる。
【0052】
さらに、背シェル71の左右巾方向略中央部に背支桿6を配しているため、背シェル71の両側端部が開放されたものとなり、背シェル71の捻れ変形を許容し、着座者の体重の掛け方に応じた背シェル71の3次元的な撓み変形が可能となる。なお、本実施形態では、背シェル上部71Tに複数の開口711を形成しているため、これら複数の開口711の存在が、着座者の肩付近を支持し得る背シェル上部71Tのスムーズな捻れ変形の実現に大いに寄与している。さらに付言すれば、所定領域において開口711が占める割合である開口率を、背シェル71の上縁部及び両側縁部に向かって漸次大きくなるように設定していることも背シェル上部71Tのスムーズな捻れ変形の実現に寄与している。
【0053】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0054】
例えば、前記実施形態では、背支桿として、下部背フレームと、当該下部背フレームに対して後傾可能な上部背フレームとを備えたものを例示したが、これに限らず、上部側と下部側との相対角度変更が不能な背支桿であってもよい。この場合の背支桿の一例としては、側面視略L字状をなし、下端部又は下端部近傍部位を座の下方に配される支持基部に枢支させた態様が挙げられる。
【0055】
また、前記実施形態では、背シェルと背支桿との相対スライド移動を許容するスライド係合機構として、背シェル上部71Tを上部背フレーム61に高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持させた態様を例示したが、これに替えて、下部背フレームを、背支桿(下部背フレーム)に高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持させた態様としてもよく、或いは、背シェルの上部及び下部の両方をそれぞれ高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持させた態様であっても構わない。すなわち、背シェルと背支桿との相対スライド移動を許容するスライド係合機構を、上部背フレームと背シェルとの間にのみ設けた態様、又は下部背フレームと背シェルとの間にのみ設けた態様、或いは各背フレームと背シェルとの間にそれぞれ設けた態様、これら何れの態様であっても構わない。さらに、スライド可能な距離は仕様等に応じて適宜設計変更すればよい。前記実施形態では、係合孔に係合部を係合させる態様を例示したが、係合孔に替えて係合溝を適用しても構わない。加えて、スライド係合機構として、背シェル側に係合孔又は係合溝等の係合凹部を一体に設け、背フレーム側に係合凹部にスライド係合可能な係合凸部を設けた態様を採用してもよい。その一例として、図13に示すように、背シェル71(背シェル上部)の背面に、下方にのみ開口するポケット状の係合凹部714’を一体に設ける一方、背支桿(上部背フレーム61)に、前記係合凹部714’に下方から挿入可能な側面視L字状をなす上向きの係合係合凸部611’を設け、上部背フレーム61の後傾動作に伴って、係合凸部611’と係合凹部714’との係合状態が解除されない範囲で係合凸部611’に対する係合凹部714’の呑み込み量を少なくさせることにより、背シェル71が背支桿(上部背フレーム61)に対して高さ方向にスライド移動し得るようにした態様が挙げられる。この場合、背シェルを背支桿に上方から落とし込むことによって係合凹部と係合凸部とを相互に係合させることができ、組み付け作業を簡単に行うことができる。
【0056】
また、背シェルの両側縁部又は両側縁部近傍部位に、上部背フレームと下部背フレームからなる背支桿をそれぞれ配した態様としてもよい。つまり、上部背フレームと下部背フレームからなる背支桿の組を複数組(3組以上も含む)備えた椅子であっても構わない。
【0057】
また、背シェルの両側縁部又は両側縁部近傍部位に、上部背フレームと下部背フレームからなる背支桿をそれぞれ配した態様としてもよい。つまり、上部背フレームと下部背フレームからなる背支桿の組を複数組(3組以上も含む)備えた椅子であっても構わない。
【0058】
また、前記実施形態では背シェルとして、ランバーサポート部及び背シェル下部の湾曲面の曲率をほぼ同一に設定したものを例示したが、これに限らず、背シェル下部の湾曲面の曲率を、ランバーサポート部の湾曲面の曲率とは異ならせる一方で背シェル上部の湾曲面の曲率よりも大きく設定した背シェルであっても構わない。
【0059】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態に係る椅子を斜め前方から見た全体図。
【図2】同実施形態に係る椅子を斜め後方から見た全体図。
【図3】同実施形態において通常状態にある椅子の側面図。
【図4】同実施形態において通常状態にある椅子の背面図。
【図5】図3を一部省略して示す作用説明図。
【図6】図5におけるX方向矢視図。
【図7】図5の一部であって背シェルのみを左右巾方向中央縦断面で模式的に示す図。
【図8】図5のY領域における背シェルと背支桿との組み付け態様を模式的に示す図。
【図9】同実施形態においてシンクロロッキング状態にある椅子を図3に対応させて示す図。
【図10】同実施形態においてシンクロロッキング状態にある椅子を図5に対応させて示す図。
【図11】同実施形態において背チルト状態にある椅子を図3に対応させて示す図。
【図12】同実施形態において背チルト状態にある椅子を図5に対応させて示す図。
【図13】同実施形態におけるスライド係合機構の一変形例を図5及び図12に対応させて模式的に示す図。
【符号の説明】
【0061】
1…椅子
6…背支桿
61…上部背フレーム
62…下部背フレーム
7…背凭れ
71…背シェル
71U…下部(背シェル下部)
71T…上部(背シェル上部)
71S…中央部(背シェル中央部)
71L…ランバーサポート部
712…不連続線
X3…枢着点(第3支軸)
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィス等で好適に用いられる椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、オフィス等で好適に用いられる椅子として、概略板状をなす樹脂製の背シェルを有する背凭れと、背シェルを支持する背支桿とを備えたものが知られている。
【0003】
背シェルは、左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方へ突出させた湾曲面を全体に形成し、荷重に応じて弾性変形し得るように構成されているのが通常である。そして、着座者が背凭れに凭れ掛かった場合に、着座者の腰部を適度に支持し得るように、背シェルのうち、着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部を背支桿に支持させる態様や、ランバーサポート部を前方へ突出させるための専用の機構を設ける態様が考えられている(前者の態様として例えば下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003―24175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
背シェル全体を同じ曲率の湾曲面で形成している態様であれば、背シェルの何れの部位における剛性もほぼ同じものとなり、背シェル自体の部位ごとに相互に異なる剛性や変形特性を付与することができない。このような背シェルを有する背凭れに着座者が凭れ掛かった場合に、相対的に大きな荷重を受ける背シェルの下部側、特にランバーサポート部が相対的に凹む方向に弾性変形することを防止して適度な腰当り感を着座者に与えるために、前述した各態様、すなわち、ランバーサポート部を背支桿で直接支持する態様、或いはランバーサポート部を前方へ突出させるための専用の機構を設ける態様が採用されているが、これらの態様であれば、着座者の腰部を背シェルの弾性で支持している態様とはならないため、腰部を局部的に不自然な状態で押し出されるような違和感を着座者に与えることがあった。特に、ランバーサポート部を前方へ突出させるための専用の機構を設ける態様は、構造の複雑化を招来するというデメリットもあった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、背シェルの部位ごとに相互に異なる特性を付与することができ、荷重に応じた背シェルの適切な弾性を備えた撓み変形状態を実現し、腰部を局部的に不自然な状態で押し出されるような違和感を着座者に与えることのない、又は与えることを抑制することが可能な椅子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の椅子は、樹脂製の弾性板状体を主体として構成された背シェルを有する背凭れと、前記背シェルを支持する背支桿とを備えたものであり、前記背シェルが、左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方へ突出させた湾曲面を形成する背シェル上部と、当該背シェル上部よりも曲率を大きく設定した湾曲面を形成し、且つ着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部と、当該ランバーサポート部と略同様の湾曲形状で当該ランバーサポート部の下方に延びる背シェル下部とを一体に有し、前記ランバーサポート部が相対的に前方に突出する形状に保持されるように前記背シェル上部及び前記背シェル下部をそれぞれ前記背支桿に支持させていることを特徴とする。
【0007】
ここで、「ランバーサポート部と略同様の湾曲形状」の「背シェル下部」とは、「湾曲面の曲率がランバーサポート部の曲率と同一である背シェル下部」、又は「湾曲面の曲率がランバーサポート部の曲率とは異なるものの背シェル上部の曲率よりも大きい背シェル下部」、これら何れをも包含する趣旨である。
【0008】
このようなものであれば、ランバーサポート部及び背シェル下部の湾曲面の曲率を、背シェル上部の湾曲面の曲率よりも大きく設定しているため、ランバーサポート部及び背シェル下部が背シェル上部よりも相対的に剛性の高いものとなり、このような背シェルを有する背凭れに着座者が凭れ掛かった場合に、相対的に大きな荷重を受ける背シェルの下部側、特にランバーサポート部が、背シェル上部よりも高い剛性により、相対的に凹む方向に弾性変形することを防止する一方、背シェル上部は相対的に剛性が低いため、着座者の肩近傍の動き等に追従して柔軟に弾性変形し易く、背シェル全域に亘って着座者の上半身を均等に支持することができる。しかも、ランバーサポート部が相対的に前方に突出する形状に保持されるように背シェル上部及び背シェル下部をそれぞれ背支桿に支持させているため、背シェルは、荷重に応じて全体的に適切な弾性を備えた撓み変形状態となるとともに、背シェルのランバーサポート部が他の部材によって後方から直接支持されていない態様、換言すれば、背シェル自体の弾性によって着座者の腰部を支持する態様となり、ランバーサポート部を他の部材や機構によって後方から押圧支持して前方に突出させている態様であれば着座者に与え得る腰部の違和感を解消又は抑制し、着座者に無理のない自然な腰当り感を与えるものとなる。しかも、ランバーサポート部を相対的に前方へ突出させるための専用の機構が不要になり、構造の簡素化をも有効に図ることができる。
【0009】
特に、前記背支桿が、前記背シェル上部を支持する上部背フレームと、前記背シェル下部を支持する下部背フレームとを備え、前記上部背フレームを前記下部背フレームに後傾動作可能に枢支させたものであれば、着座者が背シェル上部に体重を掛けた場合に、上部背フレームが下部背フレームとの枢着点を中心に後傾し、これに伴って背シェルのうち上部側が後方へ反り返り、その結果、背シェル上部と背シェル下部との間の領域、具体的にはランバーサポート部が自ずと前方へ突出する方向に湾曲変形し、着座者に良好な腰当り感を与えることができる。しかも、上部背フレームが後傾すると、背シェルがさらに弓なりに湾曲変形し、その弾性復帰力が上部背フレームを前方へ引っ張り戻す方向に付勢する力として作用するため、着座者が背中を背凭れから離す、つまり上半身を起こした際に、上部背フレームはその動作に追従して後傾する前の通常姿勢に素早く自動復帰することになる。また、背シェル上部に体重を掛ける程度に応じてランバーサポート部の前方への突出量も変化するため、別途専用の操作部を操作することなく、着座者は自身の体重の掛け方を変更することによって好みの腰当り感が得られるランバーサポート部の突出量に設定することができ、構造の簡素化を図りつつ何ら実用性を損なうことのない椅子となる。
【0010】
前記背シェルが、前記上部背フレーム又は前記下部背フレームの少なくとも一方に高さ方向にスライド移動可能に支持され、且つ当該スライド移動可能に支持される部分を高さ方向に略直線状に設定したものであれば、背シェル上部又は背シェル下部の少なくとも一方を背支桿にスライド可能に支持させておくことにより、スライド移動によって背シェル全体の湾曲変形を吸収することができ、背シル全体がスムーズに湾曲変形する。しかも、背シェルのうちスライド可能に支持される部分を高さ方向に沿って略直線状に設定とすることにより、スライド移動が略直線的な動作となり、背支桿に対する背シェルのスライド移動の動作安定性が向上し、よりスムーズにスライド移動、ひいては背シェル全体の湾曲変形を行うことが可能となる。
【0011】
具体的な実施態様としては、前記背シェルが、前記背シェル上部以外の部位を、当該背シェル上部よりも大きい曲率の湾曲面に設定し、前記背シェル上部と当該上部以外の部位とを不連続線を介して高さ方向に一体に有している態様が挙げられる。
【0012】
さらに、前記背シェルの左右巾方向略中央部にのみ前記背支桿を配している態様であれば、背シェルの両側端部がフリーな状態になり、樹脂製の板状部材である背シェルが着座者の背荷重を支える強度に構成されたものであっても、背シェルの左右両端部に荷重を掛けた場合にはその荷重に応じて柔軟に大きく撓ませることができる。このように、背シェルの捻れ変形を許容し、着座者の体重の掛け方や背中の動きに応じた背シェルの3次元的な変形が可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、平面視における背シェルの湾曲面の曲率を部位ごとに相互に異ならせることにより、各部位ごとに異なる剛性を付与することができ、着座者の上半身を背シェル全域に亘って均等に支持することができ、荷重に応じた適切な弾性を備えた撓み変形状態を実現し、腰部を局部的に不自然な状態で押し出されるような違和感を着座者に与えることのない、又は与えることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係る椅子1は、図1〜図5に示すように、脚2と、脚2の上端側に水平旋回可能に取り付けた支持基部3と、前部を支持基部3に支持させた座受4と、座受4に取り付けた座5と、下端部を支持基部3に枢支させ且つ座受4の後部を支持する背支桿6と、背支桿6に取り付けた背凭れ7とを備えたいわゆる回転椅子である。
【0016】
脚2は、先端にキャスタをそれぞれ備えた複数本(図示例では5本)の脚羽根21と、各脚羽根21の基端部が集合する部位から起立する脚支柱22とからなるものである。
【0017】
支持基部3は、図6(同図は図5における矢印X方向から見た状態を示す図である)に示すように、上壁部31とこの上壁部31の両側縁からそれぞれ一体に屈曲垂下させた一対の垂下側壁部32と、一対の垂下側壁部32の前端部間に設けた補強リブとして機能する一対の隔壁33,34とを備えた例えば金属製のもので、前記上壁部31の後端部に脚支柱22の上端部を取り付けて脚支柱22に支持させている。なお、一対の隔壁33,34のうち相対的に後方側の隔壁33には、肉厚方向に穿設したリテーナ案内部33aを設け、当該リテーナ案内部33aに挿通したリテーナ912bを、後述するコイルバネ911の圧縮進退方向に進退するように案内するようにしている。またこの支持基部3は、左右の垂下側壁部32の略中央部より若干後方側に寄った部位間に、背支桿6を回動可能に軸支する第1支軸X1を横架させている。さらに、左右の垂下側壁部32の前端部には、後述する座受4の前フレーム(図示省略)を支持するための長孔32aをそれぞれ肉厚方向に穿設させている。支持基部3には下方から支持基部カバー体3cが被せられ、直接外観できないようにしてある(図3参照)。
【0018】
座受4は、前記支持基部3の上方に配され、前端部に設けた図示しない棒状の前フレームを支持基部3の長孔32aに挿通させた状態で支持基部3に支持されている。本実施形態の椅子1は、座受4の左右両側縁部近傍部位からそれぞれ上方に向かって延びる肘掛け8を備えている。図1等に示す肘掛け8は、高さ調整不能なものであるが、これに替えて、高さ調整可能な肘掛けを適用しても構わない。また、肘掛けを有さない椅子であってもよい。
【0019】
座5は、当該座5に掛かる荷重を均等に支持する構造部材としての役割を担う座シェル51と、座シェル51の上方に設けられる座クッション(図示省略)と、座クッションを被覆する座クッションカバー52とを具備したものである。
【0020】
背凭れ7は、この背凭れ7に掛かる荷重を均等に支持する構造部材としての役割を担い背支桿6に支持される背シェル71と、背シェル71の前方に設けられる背クッション(図示省略)と、この背クッションを被覆する背クッションカバー72とを備えたものである。
【0021】
背シェル71は、樹脂製の弾性板状体を主体として構成され、上部及び下部を高さ方向中央部よりも後方に突出させ、且つ左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方に突出させた3次元形状をなすものである。背シェル71のうち着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部71Lよりも上方の領域、より具体的には背シェル71の高さ方向中央部よりも上方の領域には、多数の開口711を設け、背シェル71の所定領域において開口711が占める割合である開口率が、背シェル71の上縁部及び両側縁部に向かって漸次大きくなるように設定している。以下の説明において、背シェル71のうち、開口711を設けた領域全体を「背シェル上部71T」と称す。つまり、背シェル71は、図4等に示すように、背シェル上部71Tと、背シェル71の高さ方向中央部である背シェル中央部71Sと、背シェル中央部71Sよりも若干下方に位置するランバーサポート部71Lと、ランバーサポート部71Lよりも下方の領域である背シェル下部71Uとを一体に有するものである。背シェル中央部71S、ランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uの平面視における湾曲面の曲率は同じであり、この曲率を、背シェル上部71Tの平面視における湾曲面の曲率よりも大きく設定している。そして、図7(同図は図5に対応するものであり、背シェル71のみを左右巾方向中央縦断面で模式的に示す図である)に示すように、相対的に曲率が大きい背シェル中央部71S、ランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uは、相互に連続する弓なりに湾曲した形状となる一方、相対的に曲率が小さい背シェル上部71Tは、高さ方向に沿って略直線状となる。なお、背シェル中央部71Sと背シェル上部71Tとは不連続線712を境界にして相互に連続している。
【0022】
背シェル71のランバーサポート部71Lには、当該ランバーサポート部71Lの周辺部位よりも部分的に変形し易くした変形惹起手段713を設けている。本実施形態では、変形惹起手段713として、左右巾方向に延びるスリット713aを適用している。スリット713aの数は単数であっても複数であってもよく、本実施形態では、高さ方向に所定間隔空けてなる上下一対のスリット713aを設けている。
【0023】
背シェル上部71Tには、図8(同図は図5のY領域における背シェル71と背支桿6との組み付け態様を示すべく、背シェル上部71Tを背支桿6に組み付ける前段階の状態を模式的に示す図である)に示すように、後方に突出し後述する上部背フレーム61の上端部に形成したスライド係合孔611に係合可能な係合部714を一体又は一体的に設けている。なお、図8では、背シェル上部71Tの開口711を省略している。係合部714は、概略ブロック状をなし、先端部(背シェル71の背面から離れた側の端部)に鍔部714aを一体に有するものである。
【0024】
背シェル下部71Uには、図5等に示すように、後方に突出し後述する下部フレームの上端部に支持される被支持部715を一体又は一体的に設けている。本実施形態では、背シェル下部71Uにおける下端部、つまり背シェル71の下端部に左右一対の薄板状の被支持部715を設けている。
【0025】
このような背シェル71を支持する背支桿6は、図5等に示すように、背シェル71のうち着座者の腰部を支持するランバーサポート部71Lよりも上方の部位、具体的には前記背シェル上部71Tを支持する上部背フレーム61と、背シェル下部71Uを支持する下部背フレーム62とを備え、これら上部背フレーム61と下部背フレーム62との枢着点(後述する第3支軸X3)を前記背シェル71の下端部側における後方に設定し、当該枢着点を中心に上部背フレーム61が下部背フレーム62に対して傾動動作(チルト動作)可能に構成したものである。なお、図2に示すように、上部背フレーム61及び下部背フレーム62には、それぞれ後方又は下方から上部背フレームカバー体61c及び下部背フレームカバー体62cが被せられ、直接外観できないようにしてある。
【0026】
下部背フレーム62は、図5及び図6等に示すように、支持基部3の両側面よりも外側方に配される左右一対の下部背フレーム本体621と、これら一対の下部背フレーム本体621の下端部同士を剛結し、且つ前記支持基部3の下面よりも下方に配される剛結軸622とを備えたものである。
【0027】
各下部背フレーム本体621は、概略板状をなし、下端部から上端部近傍部位に向かって漸次斜め後方に延出し、上端部近傍部位を斜め前方に屈曲させた側面視形状を有する。
【0028】
剛結軸622は、棒状をなし、溶接等の適宜の手段により下部背フレーム本体621の下端部間に架け渡した状態で固定されたものである。
【0029】
このような下部背フレーム62を支持基部3に取り付けるには、左右一対の下部背フレーム本体621を剛結軸622によって剛結した状態で、各下部背フレーム本体621の下端部近傍部位同士の間に支持基部3を挟み込むように支持基部3の後方からあてがい、各下部背フレーム本体621の下端部近傍部位に設けた挿通孔621aと支持基部3の両垂下側壁部32に設けた図示しない挿通孔とを相互に連通させた状態で第1支軸X1を挿通させることによって行う。これにより、下部背フレーム62、ひいては背支桿6が、第1支軸X1を中心に支持基部3に対して回動可能なものとなる。なお、本実施形態では各下部背フレーム本体621の下端部近傍部位に他の部位よりも前方に延出させた延出部621bを一体に設け、各延出部621bに挿通孔621aを形成している。第1支軸X1は剛結軸622に対して、相対的に後方且つ上方に配される。
【0030】
本実施形態に係る椅子1は、下部背フレーム62を支持基部3に取り付けた状態において、下部背フレーム62の剛結軸622が支持基部3の下面(具体的には垂下側壁部32の下面)よりも下方に位置付けられ、この剛結軸622と支持基部3との間に背支桿6の後傾動作に伴って反力を発生するコイルバネ911を配している。そして、下部背フレーム62が前記第1支軸X1を中心に後傾した際に、剛結軸622がコイルバネ911を反発力を蓄積する方向に付勢するように構成している。
【0031】
具体的には、図6に示すように、剛結軸622が、その長手方向中央部で後述するコイルバネ911の一端側に設けたコイルばね受部911xを支持している。コイルバネ911及びコイルばね受部911xは、背支桿6を後傾させる際の反力を調整するための傾動反力調整装置9を構成するものである。
【0032】
傾動反力調整装置9は、図5及び図6に示すように、支持基部3内に少なくとも一部が収容され、且つ背支桿6を後傾させる際の反力を座受4とは独立に発生させる反力発生部91と、座5の側縁前端側に設けられ、反力発生部91の反力の強さを調整操作するための反力調整用操作部92とを備えたものである。
【0033】
より具体的に説明すると、反力発生部91は、コイルバネ911と、このコイルバネ911の一端側に設けられ且つ前記反力調整用操作部92が受ける調整操作と連動して前記コイルバネ911を圧縮又は伸長させる圧縮伸長部912とを具備している。圧縮伸長部912は、前記反力調整用操作部92が受ける調整操作と連動してコイルバネ911の圧縮伸長方向と直交する方向に進退する平面視略台形状のスライダ912aと、このスライダ912aと摺動しつつ且つ前記コイルバネ911を支持しながら前記圧縮伸長方向に進退する平面視略台形状のリテーナ912bと、このリテーナ912bの前記圧縮伸長方向への進退を案内する前記リテーナ案内部33aとからなるものである。このリテーナ案内部33aは、上述した通り、座受4を支持するための支持基部3の隔壁33に形成されている。
【0034】
反力調整用操作部92は、支持基部3の何れか一方の垂下側壁部32を貫通して左右巾方向に延びるロッド921と、このロッド921の先端部に設けられ且つロッド921を軸回りに回転させる操作グリップ922とを備えたものである。
【0035】
下部背フレーム62の説明に戻る。下部背フレーム62の各下部背フレーム本体621には、高さ方向中央部より若干下方の部位に周辺部位よりも前方に延出させた第2延出部621cを一体に設け、これら第2延出部621c同士に架け渡した状態で固定された第2支軸X2によって前記座受4の後端側を支持している。さらに、各下部背フレーム本体621の上端部近傍部位に、前記背シェル71の被支持部715をビス止め等の適宜の手段によって相対角度変更不能に固定している。
【0036】
このような構成をなす下部背フレーム62の上端部に枢支される上部背フレーム61は、図5に示すように、前記左右一対の下部背フレーム本体621同士の間に挟まれる巾寸法を有し、上端部及び下端部を高さ方向中央部よりも後方に向かって突出させた側面視略くの字状をなすものである。上部背フレーム61の上端部には、図8に示すように、背シェル上部71Tに設けた前記係合部714がスライド係合可能なスライド係合孔611を形成している。スライド係合孔611は、係合部714の鍔部714aが挿脱可能な大孔部611aと、この大孔部611aの上方に連続して設けられ、大孔部611aから挿入した鍔部714aが抜け外れない状態で係合部714の相対スライド移動を許容し得る小孔部611bとから構成される。小孔部611bの高さ寸法を大孔部611aの高さ寸法よりも大きく設定し、スライド係合孔611と係合部714との相対スライド移動しろを確保している。
【0037】
上部背フレーム61の下端部には図示しない左右巾方向に貫通する挿通孔が形成されており、この挿通孔と各下部背フレーム本体621の上端部に設けた挿通孔621dとを相互に連通させた状態で第3支軸X3を挿通させることにより、上部背フレーム61が、第3支軸X3を中心として後傾動作可能なものとなる。本実施形態では、第3支軸X3が、背シェル71の下端部側における後方に配されるように設定している。さらに、上部背フレーム61は、前記枢着点(第3支軸X3)よりも下方に延出するオーバーハング部612を備え、当該オーバーハング部612と下部背フレーム62との間に、上部背フレーム61の後傾動作に伴って反力を発生する第2コイルバネ63を配している。本実施形態では、下部背フレーム62の左右一対の下部背フレーム本体621のうち前記屈曲させた上端部近傍部位よりも若干下方側の部位同士の間に第4支軸X4を架け渡した状態で固定し、この第4支軸X4に第2コイルバネ63の一端部を支持させ、第2コイルバネ63の他端部を上部背フレーム61のオーバーハング部612に支持させている。
【0038】
背シェル上部71T及び背シェル下部71Uをそれぞれ上部背フレーム61の上端部及び下部背フレーム62の上端部に支持させた状態において、背シェル71と背支桿6(具体的には上部背フレーム61)との間には空間が形成される。
【0039】
次に、上述した各部材から構成される本実施形態に係る椅子1の使用方法及び作用について説明する。
【0040】
本実施形態に係る椅子1は、図1〜図5に示すように、背凭れ7が起立姿勢をとる通常状態(S)と、図9及び図10に示すように、背凭れ7の後傾動作に伴って、座5が連動して後方へ沈み込む方向へスライド移動するシンクロロッキング(シンクロチルト)状態(R)と、図11及び図12に示すように、通常状態(S)において着座者が意図して背凭れ7の上部に体重を掛けることにより、上部背フレーム61が第3支軸X3を中心に後傾し、これに伴って背シェル71全体が側面視において弓なりに湾曲変形する背チルト状態(T)とを少なくともとり得るものである。
【0041】
通常状態(S)にある場合、弾性板状体を主体としてなる背シェル71は、その弾性に抗して側面視弓なりに湾曲した形状となっている。
【0042】
このような通常状態(S)にある椅子1に対して着座者が背中全体を背凭れ7に凭れ掛けさせた場合に、図10に示すように、背支桿6が、上部背フレーム61と下部背フレーム62との相対角度を維持したまま前記第1支軸X1を中心として後傾し、背シェル71も後傾する。この際、着座者の体重が背凭れ7全体に略均等に掛かることになるため、上部背フレーム61が下部背フレーム62に対して後傾することなく、換言すれば上部背フレーム61と下部背フレーム62との相対角度は変わらず、背シェル71も通常状態(S)における形状と略同一形状を保持したまま後傾する。そしてこの背支桿6の後傾動作に伴って下部背フレーム62の前記第2支軸X2によって後端側を支持された前記座受4が、その前端部に設けた前フレーム(図示省略)を長孔32a内で移動させながら後方へ沈み込む方向へスライド移動する。その結果、座受4に支持された座5全体が座受4と同一方向、すなわち後方へ沈み込む方向へスライド移動し(図9参照)、椅子1がシンクロロッキング状態(R)となる。
【0043】
なお、シンクロロッキング状態(R)にある場合、下部背フレーム62の剛結軸622が、前記コイルバネ911を反発力を蓄積する方向に押圧するため、着座者が背中を背凭れ7から離す、つまり上半身を起こすと、コイルバネ911の反発力によって背支桿6全体が後傾する前の通常姿勢に自ずと復帰する。本実施形態では、前記傾動反力調整装置9によって背凭れ7を後傾させる際の反力を調整可能にしている。具体的には、操作グリップ922を時計回り又は反時計回りの何れか一方向(例えば時計回り)に回転させると、これと連動してスライダ912aが操作グリップ922に近づく方向に移動し、当該スライダ912aがリテーナ912bを押圧する。すると、スライダ912aに押圧されたリテーナ912bは、コイルバネ911を圧縮する向きに移動し、背凭れ7を後傾させる際の反力を大きくできる。一方、操作グリップ922を逆方向(例えば反時計回り)に回転させれば、背凭れ7を後傾させる際の反力を小さくできる。
【0044】
他方、通常状態(S)において着座者が意図して背シェル上部71Tに体重を掛けた場合、図12に示すように、背支桿6のうち上部背フレーム61が第3支軸X3を中心として下部背フレーム62に対して後傾する。この上部背フレーム61の後傾動作に伴って背シェル71のうち上部背フレーム61に支持された背シェル上部71Tには後方へ反り返ろうとする力が作用する一方で、下部背フレーム62に支持された背シェル71の下端部は、後傾しない下部背フレーム62によって通常状態(S)における位置に留まろうとするため、背シェル71は背シェル上部71Tと背シェル下部71Uとの間の部位を前方へさらに突出させるようにさらに弓なりに湾曲変形する。本実施形態では、背シェル71のランバーサポート部71Lに変形惹起手段713、具体的にはスリット713aを設けているため、背シェル71全体が弓なりに湾曲変形する際、スリット713aの開口高さを狭める方向にランバーサポート部71Lが変形し、その結果、当該ランバーサポート部71Lが、通常状態(S)にある場合と比較して相対的に前方へ突出する。また、本実施形態では、背シェル上部71Tを上部背フレーム61に高さ方向に相対スライド移動可能に係合支持させており、上部背フレーム61が後傾する際に、背シェル上部71Tに設けた前記係合部714を、上部背フレーム61の上端部に形成したスライド係合孔611内において当該スライド係合孔611に対する係合状態が解除されない範囲で高さ方向に相対スライド移動させることによって、上部背フレーム61の後傾動作に追従して背シェル71全体が湾曲変形できるようにしている。本実施形態の椅子1は、背シェル71のうち平面視における湾曲面の曲率が他の部位よりも小さく、高さ方向に沿って略直線状をなす背シェル上部71Tに上部背フレーム61の上端部を相対スライド移動させる態様であるため、当該スライド移動を安定した状態でスムーズに行うことが可能となる。
【0045】
椅子1の通常状態(S)から背チルト状態(T)への移行に伴って、上部背フレーム61のオーバーハング部612が、当該オーバーハング部612と下部背フレーム62との間に介在する第2コイルバネ63を反発力を蓄積する方向に押圧する。したがって、着座者が背中を背凭れ7から離す、つまり上半身を起こすと、第2コイルバネ63の反発力によって上部背フレーム61が後傾する前の通常姿勢に自ずと復帰し、椅子1が背チルト状態(T)から通常状態(S)に戻ることになる。また、椅子1が通常状態(S)から背チルト状態(T)に移行した際、通常状態(S)における形状よりもさらに弓なりに湾曲変形した背シェル71の弾性復帰力が上部背フレーム61を前方へ引っ張り戻す方向に付勢する力として作用する。したがって、椅子1が背チルト状態(T)にある場合に、着座者が意図してランバーサポート部71Lに体重を掛けると前記付勢力がさらに増大し、この付勢力と前記第2コイルバネ63の反発力とが相俟って、着座者が背中を背凭れ7から離す、つまり上半身を起こした際に、上部背フレーム61はその動作に追従して後傾する前の通常姿勢に素早く自動復帰することになる。
【0046】
なお、椅子1を通常状態(S)から背チルト状態(T)へ移行させた後に、さらに着座者が体重を背凭れ7全体に掛けると、上部背フレーム61が下部背フレーム62に対して後傾した姿勢を保持しながら、下部背フレーム62が前記第1支軸X1を中心にして後傾する。その結果、椅子1が背チルト状態(T)とシンクロロッキング状態(R)とを組み合わせた最後傾状態となる(図示省略)。これと略同様に、通常状態(S)からシンクロロッキング状態(R)へ移行した後に、さらに着座者が意図して上部背フレーム61に体重を掛けると、上部背フレーム61が前記第3支軸X3を中心に下部背フレーム62に対して後傾し、シンクロロッキング状態(R)と背チルト状態(T)とを組み合わせた最後傾状態となる(図示省略)。
【0047】
すなわち、本実施形態に掛る椅子1は、着座者の座り方、より具体的には体重の掛け方に応じて、通常状態(S)、シンクロロッキング状態(R)、背チルト状態(T)、最後傾状態、又はこれらのうち異なる2つ状態の中間である中間状態(例えば通常状態(S)とシンクロロッキング状態(R)との中間状態や、通常状態(S)と背チルト状態(T)との中間状態:図示省略)をとるものとなる。
【0048】
なお、本実施形態の椅子1は、背支桿6と支持基部3との間に設けられ背凭れ7の傾動動作を選択的に可能にするようにした傾動制動装置Aを備えている。傾動制動装置Aは、この傾動制動装置Aの下端部を支持基部3の後端側に揺動可能に支持させ、傾動制動装置Aの上端部を下部背フレーム62の前記第4支軸X4に揺動可能に支持させたものであり、本実施形態では、傾動制動装置Aとして、図6に示すように、略円筒状のガススプリング本体A1と、このガススプリング本体A1内に略全体を収納されるべく進退するピストンロッド部(図示省略)とを具備し傾動制動部として機能する周知のガススプリングを適用しており、詳細な説明は省略する。
【0049】
このように、本実施形態に係る椅子1は、ランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uの湾曲面の曲率を、背シェル上部71Tの湾曲面の曲率よりも大きく設定しているため、ランバーサポート部71L及び背シェル下部71Uが背シェル上部71Uよりも相対的に剛性の高いものとなり、このような背シェル71を有する背凭れ7に着座者が凭れ掛かった場合に、相対的に大きな荷重を受ける背シェル71の下部側、特にランバーサポート部71Lが、背シェル上部71Tよりも高い剛性により、相対的に凹む方向に弾性変形することを防止する一方、背シェル上部71Uは相対的に剛性が低いため、着座者の肩近傍の動き等に追従して柔軟に弾性変形し易く、背シェル71全域に亘って着座者の上半身を均等に支持することができる。しかも、ランバーサポート部71Lが相対的に前方に突出する形状に保持されるように背シェル上部71T及び背シェル下部71Uをそれぞれ背支桿に支持させているため、背シェル71は、荷重に応じて全体的に適切な弾性を備えた撓み変形状態となるとともに、ランバーサポート部71Lが他の部材によって後方から直接支持されていない態様、換言すれば、背シェル71自体の弾性によって着座者の腰部を支持する態様となり、ランバーサポート部71Lを他の部材や機構によって後方から押圧支持して前方に突出させている態様であれば着座者に与え得る腰部の違和感を解消又は抑制し、着座者に無理のない自然な腰当り感を与えるものとなる。さらに、ランバーサポート部71Lを相対的に前方へ突出させるための専用の機構が不要になり、構造の簡素化をも有効に図ることができる。
【0050】
特に、背支桿6が、背シェル上部71Tを支持する上部背フレーム61と、背シェル下部71Uを支持する下部背フレーム62とを備え、上部背フレーム61を下部背フレーム62に後傾動作可能に枢支させたものであるため、着座者が背シェル上部71Tに体重を掛けた場合に、上部背フレーム61が下部背フレーム62との枢着点(第3支軸X3)を中心に後傾し、これに伴って背シェル71のうち上部側が後方へ反り返り、その結果、背シェル上部71Tと背シェル下部71Uとの間の領域、具体的にはランバーサポート部71Lが自ずと前方へ突出する方向に湾曲変形し、着座者に良好な腰当り感を与えることができる。しかも、上部背フレーム61が後傾すると、背シェル71がさらに弓なりに湾曲変形し、その弾性復帰力が上部背フレーム61を前方へ引っ張り戻す方向に付勢する力として作用するため、着座者が背中を背凭れから離す、つまり上半身を起こした際に、上部背フレーム61はその動作に追従して素早く自動復帰することになる。また、背シェル上部71Tに体重を掛ける程度に応じてランバーサポート部71Lの前方への突出量も変化するため、別途専用の操作部を操作することなく、着座者は自身の体重の掛け方を変更することによって好みの腰当り感が得られるランバーサポート部71Lの突出量に設定することができ、構造の簡素化を図りつつ何ら実用性を損なうことのない椅子となる。
【0051】
さらに、背シェル上部71Tが、上部背フレーム61に高さ方向にスライド移動可能に支持されているため、上部背フレーム61が枢着点(第3支軸X3)を中心に後傾した際に、背シェル上部71Tが上部背フレーム61に対して高さ方向にスライド移動することによって背シェル上部71Tの後方への反り返りを許容し、背シェル71全体が弓なりに撓む変形動作をスムーズに行わせることができるとともに、スライド移動可能に支持される背シェル上部71Tが高さ方向に略直線状に設定したものであるため、スライド移動が略直線的な動作となり、上部背フレーム61に対する背シェル71のスライド移動の動作安定性が向上し、よりスムーズにスライド移動、ひいては背シェル71全体の湾曲変形を行うことが可能となる。
【0052】
さらに、背シェル71の左右巾方向略中央部に背支桿6を配しているため、背シェル71の両側端部が開放されたものとなり、背シェル71の捻れ変形を許容し、着座者の体重の掛け方に応じた背シェル71の3次元的な撓み変形が可能となる。なお、本実施形態では、背シェル上部71Tに複数の開口711を形成しているため、これら複数の開口711の存在が、着座者の肩付近を支持し得る背シェル上部71Tのスムーズな捻れ変形の実現に大いに寄与している。さらに付言すれば、所定領域において開口711が占める割合である開口率を、背シェル71の上縁部及び両側縁部に向かって漸次大きくなるように設定していることも背シェル上部71Tのスムーズな捻れ変形の実現に寄与している。
【0053】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0054】
例えば、前記実施形態では、背支桿として、下部背フレームと、当該下部背フレームに対して後傾可能な上部背フレームとを備えたものを例示したが、これに限らず、上部側と下部側との相対角度変更が不能な背支桿であってもよい。この場合の背支桿の一例としては、側面視略L字状をなし、下端部又は下端部近傍部位を座の下方に配される支持基部に枢支させた態様が挙げられる。
【0055】
また、前記実施形態では、背シェルと背支桿との相対スライド移動を許容するスライド係合機構として、背シェル上部71Tを上部背フレーム61に高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持させた態様を例示したが、これに替えて、下部背フレームを、背支桿(下部背フレーム)に高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持させた態様としてもよく、或いは、背シェルの上部及び下部の両方をそれぞれ高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持させた態様であっても構わない。すなわち、背シェルと背支桿との相対スライド移動を許容するスライド係合機構を、上部背フレームと背シェルとの間にのみ設けた態様、又は下部背フレームと背シェルとの間にのみ設けた態様、或いは各背フレームと背シェルとの間にそれぞれ設けた態様、これら何れの態様であっても構わない。さらに、スライド可能な距離は仕様等に応じて適宜設計変更すればよい。前記実施形態では、係合孔に係合部を係合させる態様を例示したが、係合孔に替えて係合溝を適用しても構わない。加えて、スライド係合機構として、背シェル側に係合孔又は係合溝等の係合凹部を一体に設け、背フレーム側に係合凹部にスライド係合可能な係合凸部を設けた態様を採用してもよい。その一例として、図13に示すように、背シェル71(背シェル上部)の背面に、下方にのみ開口するポケット状の係合凹部714’を一体に設ける一方、背支桿(上部背フレーム61)に、前記係合凹部714’に下方から挿入可能な側面視L字状をなす上向きの係合係合凸部611’を設け、上部背フレーム61の後傾動作に伴って、係合凸部611’と係合凹部714’との係合状態が解除されない範囲で係合凸部611’に対する係合凹部714’の呑み込み量を少なくさせることにより、背シェル71が背支桿(上部背フレーム61)に対して高さ方向にスライド移動し得るようにした態様が挙げられる。この場合、背シェルを背支桿に上方から落とし込むことによって係合凹部と係合凸部とを相互に係合させることができ、組み付け作業を簡単に行うことができる。
【0056】
また、背シェルの両側縁部又は両側縁部近傍部位に、上部背フレームと下部背フレームからなる背支桿をそれぞれ配した態様としてもよい。つまり、上部背フレームと下部背フレームからなる背支桿の組を複数組(3組以上も含む)備えた椅子であっても構わない。
【0057】
また、背シェルの両側縁部又は両側縁部近傍部位に、上部背フレームと下部背フレームからなる背支桿をそれぞれ配した態様としてもよい。つまり、上部背フレームと下部背フレームからなる背支桿の組を複数組(3組以上も含む)備えた椅子であっても構わない。
【0058】
また、前記実施形態では背シェルとして、ランバーサポート部及び背シェル下部の湾曲面の曲率をほぼ同一に設定したものを例示したが、これに限らず、背シェル下部の湾曲面の曲率を、ランバーサポート部の湾曲面の曲率とは異ならせる一方で背シェル上部の湾曲面の曲率よりも大きく設定した背シェルであっても構わない。
【0059】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態に係る椅子を斜め前方から見た全体図。
【図2】同実施形態に係る椅子を斜め後方から見た全体図。
【図3】同実施形態において通常状態にある椅子の側面図。
【図4】同実施形態において通常状態にある椅子の背面図。
【図5】図3を一部省略して示す作用説明図。
【図6】図5におけるX方向矢視図。
【図7】図5の一部であって背シェルのみを左右巾方向中央縦断面で模式的に示す図。
【図8】図5のY領域における背シェルと背支桿との組み付け態様を模式的に示す図。
【図9】同実施形態においてシンクロロッキング状態にある椅子を図3に対応させて示す図。
【図10】同実施形態においてシンクロロッキング状態にある椅子を図5に対応させて示す図。
【図11】同実施形態において背チルト状態にある椅子を図3に対応させて示す図。
【図12】同実施形態において背チルト状態にある椅子を図5に対応させて示す図。
【図13】同実施形態におけるスライド係合機構の一変形例を図5及び図12に対応させて模式的に示す図。
【符号の説明】
【0061】
1…椅子
6…背支桿
61…上部背フレーム
62…下部背フレーム
7…背凭れ
71…背シェル
71U…下部(背シェル下部)
71T…上部(背シェル上部)
71S…中央部(背シェル中央部)
71L…ランバーサポート部
712…不連続線
X3…枢着点(第3支軸)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の弾性板状体を主体として構成された背シェルを有する背凭れと、前記背シェルを支持する背支桿とを備えた椅子であり、
前記背シェルが、左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方へ突出させた湾曲面を形成する背シェル上部と、当該背シェル上部よりも曲率を大きく設定した湾曲面を形成し、且つ着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部と、当該ランバーサポート部と略同様の湾曲形状で当該ランバーサポート部の下方に延びる背シェル下部とを一体に有し、前記ランバーサポート部が相対的に前方に突出する形状に保持されるように前記背シェル上部及び前記背シェル下部をそれぞれ前記背支桿に支持させていることを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記背支桿が、前記背シェル上部を支持する上部背フレームと、前記背シェル下部を支持する下部背フレームとを備え、前記上部背フレームを前記下部背フレームに後傾動作可能に枢支させたものである請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記背シェルが、前記上部背フレーム又は前記下部背フレームの少なくとも一方に高さ方向にスライド移動可能に支持され、且つ当該スライド移動可能に支持される部分を高さ方向に略直線状に設定したものである請求項2記載の椅子。
【請求項4】
前記背シェルが、前記背シェル上部以外の部位を、当該背シェル上部よりも大きい曲率の湾曲面に設定し、前記背シェル上部と当該上部以外の部位とを不連続線を介して高さ方向に一体に有している請求項1、2、又は3記載の椅子。
【請求項5】
前記背シェルの左右巾方向略中央部にのみ前記背支桿を配している請求項1、2、3又は4記載の椅子。
【請求項1】
樹脂製の弾性板状体を主体として構成された背シェルを有する背凭れと、前記背シェルを支持する背支桿とを備えた椅子であり、
前記背シェルが、左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方へ突出させた湾曲面を形成する背シェル上部と、当該背シェル上部よりも曲率を大きく設定した湾曲面を形成し、且つ着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部と、当該ランバーサポート部と略同様の湾曲形状で当該ランバーサポート部の下方に延びる背シェル下部とを一体に有し、前記ランバーサポート部が相対的に前方に突出する形状に保持されるように前記背シェル上部及び前記背シェル下部をそれぞれ前記背支桿に支持させていることを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記背支桿が、前記背シェル上部を支持する上部背フレームと、前記背シェル下部を支持する下部背フレームとを備え、前記上部背フレームを前記下部背フレームに後傾動作可能に枢支させたものである請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記背シェルが、前記上部背フレーム又は前記下部背フレームの少なくとも一方に高さ方向にスライド移動可能に支持され、且つ当該スライド移動可能に支持される部分を高さ方向に略直線状に設定したものである請求項2記載の椅子。
【請求項4】
前記背シェルが、前記背シェル上部以外の部位を、当該背シェル上部よりも大きい曲率の湾曲面に設定し、前記背シェル上部と当該上部以外の部位とを不連続線を介して高さ方向に一体に有している請求項1、2、又は3記載の椅子。
【請求項5】
前記背シェルの左右巾方向略中央部にのみ前記背支桿を配している請求項1、2、3又は4記載の椅子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−165663(P2009−165663A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7402(P2008−7402)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】
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