説明

植物の栽培装置

【課題】燃料電池を備える温室において、エネルギー効率の高い植物の栽培技術を提供することを課題とする。
【解決手段】温室消費電力に、余裕を見込んで発電量を決定する。すなわち、発電を効率よく実施することのできる燃料電池を選択する。燃料電池の発熱量を示す横線と、温室消費電力を示す曲線との間(斜線を施した領域)が余剰電力となる。この余剰電力は、温室外へ供給することや、電力会社へ売ることができる。
【効果】燃料電池の発熱量は一定であるから、燃料電池を最も効率のよい条件で連続運転させることができる。結果、エネルギー効率の高い植物の栽培技術が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
植物を人為的(人工的)な環境で育てるには、ハウス栽培が好適である。そして、ハウス栽培における光源や熱源に、燃料電池を利用することが提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図4は従来の技術の基本構成を説明する図であり、温室101の外に配置されている燃料電池102へ、空気と燃料とを供給する。燃料電池102で発電した電気エネルギーで温室101内に設けられている照明103を点灯する。また、燃料電池102から排出される水(HO)とCOガスは、バブリング装置104で分離され、水(HO)は温水の形態で温室101へ供給され、また、COガスは適量を温室101へ供給され、植物の育成に供される。
【0004】
燃料電池102で発生した電気エネルギーだけでなく、水(HO)やCOガスを有効に利用することができる。しかし、特許文献1には、燃料電池102に余剰が発生した場合の処置が説明されていない。
【0005】
余剰電力が発生しないように、燃料電池102の出力を制御することが考えられる。普通のパワープラントでは、効率カーブは山形の曲線を描く。そこで、大出力時に効率が高くなり、小出力時に効率が低くなるように設計される。そのため、パワープラントの一種である燃料電池102も、出力によって発電効率が変化し、エネルギー効率の点で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−250358公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、燃料電池を備える温室において、エネルギー効率の高い植物の栽培技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、水素、炭化水素又はアルコールからなる燃料の供給を受けて発電すると共に水、二酸化炭素及び熱を排出する燃料電池と、この燃料電池から前記水、二酸化炭素及び熱が供給されると共に植栽用土壌を内蔵する温室と、この温室内に設けられ前記燃料電池からの給電により発光して植物へ照射する照明と、温室に設けられ前記燃料電池からの給電により前記温室内の空気の湿度及び温度を調整する空調機とを備える植物の栽培装置において、
この植物の栽培装置は、前記燃料電池の発電の余剰電力を温室外の用途に供することができるように、外部出力端子を備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、出力端子は電力会社の送電する送電線に接続させることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、燃料電池は、固体酸化物型燃料電池であり、この固体酸化物型燃料電池は、温室内に設けられることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、燃料は、外部から供給されることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明では、燃料は、前記植物の不要部分を原料として水素、炭化水素又はアルコールからなる燃料を製造する燃料製造機から供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、外部出力端子を用いて余剰電力を外部へ供給することができる。すなわち、燃料電池は、最も発電効率の良い条件で連続運転させることが可能となる。この結果、エネルギー効率の高い植物の栽培装置が提供される。
【0014】
請求項2に係る発明では、出力端子は電力会社の送電する送電線に接続させる。すなわち、余剰電力を電力会社へ売却することができ、余剰電力の有効活用を促すことができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、温室内に、固体酸化物型燃料電池を設けた。固体酸化物型燃料電池の外面からの放散熱は、温室内へ放出され、温室内の温度上昇に供される。そのため、一層の省エネルギーを図ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明では、燃料を外部から供給する。任意の種類の燃料を必要なだけ燃料電池へ供給することができるため、燃料電池の運転が容易になる。
【0017】
請求項5に係る発明では、燃料は、植物の不要部分を原料として水素、炭化水素又はアルコールからなる燃料を製造する燃料製造機から供給されることを特徴とする。育てた植物の不要部分を、燃料化して燃料電池へ供給するため、外部から燃料電池へ燃料を供給する必要がない。そのため、十分な省エネルギーを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る植物の栽培装置の原理図である。
【図2】温室消費電力を説明するグラフである。
【図3】余剰電力を説明するグラフである。
【図4】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、植物の栽培装置10は、水素、炭化水素又はアルコールからなる燃料の供給を受けて発電すると共に水、二酸化炭素及び熱を排出する燃料電池11と、この燃料電池11から水、二酸化炭素及び熱が供給されると共に植栽用土壌を内蔵する温室12と、この温室12内に設けられ固体酸化物型燃料電池11からの給電により発光して植物へ照射する照明13と、温室12に設けられ燃料電池11からの給電により温室12内の空気の湿度及び温度を調整する空調機14と、温室12内で育てられた植物15の不要部分(茎、葉、根など)16を原料として水素、炭化水素又はアルコールからなる燃料を製造する燃料製造機17とからなる。
【0021】
更に、電力の制御を実施させる制御部30に、外部出力端子41を備えている。この外部出力端子41の設置目的や作用は後述する。
【0022】
以上の構成要素を詳しく説明する。
燃料電池11は、固体高分子型燃料電池(PEFC/PEM)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)の何れもが使用可能である。特に、固体高分子型燃料電池(PEFC/PEM)は動作温度が常温〜100℃であり、小型化が容易であるため、好ましい。ただし、発電効率は最大45%に留まる。一方、固体酸化物型燃料電池(SOFC)は動作温度が700〜1000℃であり、発電効率は最大60%に達する。
【0023】
以下、燃料電池11は固体酸化物型燃料電池(SOFC)を例に説明する。
固体酸化物型燃料電池11では、電解質の一方の面に水素ガス及び一酸化炭素ガスを接触させ、他方に面に酸素ガスを接触させ、化学反応により発電作用を発揮させる。副産物として水が生成される。水素ガス及び一酸化炭素ガスは、炭素と水素の結合体である炭化水素又はアルコールを改質器で改質することで得られる。改質器は固体酸化物型燃料電池11に内蔵されている。固体酸化物型燃料電池11の動作温度は700〜1000℃であり、排熱の形態で、熱が排出される。また、燃料に含まれる炭素は二酸化炭素(CO)の形態で排出される。
【0024】
温室12は、天井21と壁22が透明体で構成され、太陽光が室内に採り入れられる。床23は、外気の侵入を防ぐためにコンクリート床とすることが望ましい。そして、温室12の出入り口は、外扉24と内扉25とを備えた二重扉室26で構成することが望ましい。二重扉室26では、外扉24と内扉25との一方のみが開放可能となるようにインターロックが掛けられており、外気の侵入及び室内の空気が外へ逃げることを防止することができる。
【0025】
したがって、温室12は、実質的に密閉された室である。密閉すると、温室内の雰囲気の温度、湿度、成分の制御が容易になる。温室であるから、ある程度の外気の侵入や温室内の空気の外への漏れは許容できるが、これらの量が大きいほど、温室内の雰囲気の温度、湿度、成分の制御が難しくなる。そのために、温室12は、完全又は殆ど密閉された室とすることが望ましい。
【0026】
空調機14は、室外機27と室内機28と冷媒管29とからなる、いわゆるエアコンデショナである。
空調機14は、照明13と共に固体酸化物型燃料電池11からの給電で駆動される。
そして、空調機14は、制御部30により、温室12内の雰囲気の温度と湿度を所望の値になるように制御される。
【0027】
固体酸化物型燃料電池11から排出された水は、ポンプ31で汲み上げられ、散水管32を介して植物15に散布され、土壌33へ供給される。ポンプ31のモータも燃料電池11からの電力で駆動する。
温室12の外には、燃料タンク34と、燃料製造機17とが設けられている。
【0028】
例えば、植物15がトマトであれば、トマトの実が必要部35で、その他の茎、葉、根が不要部分16となる。この不要部分16は、燃料製造機17の醗酵槽36へ投入され、醗酵され、精製槽37に移され、エチルアルコールの形態で回収される。
得られエチルアルコールは地下パイプ38を通じて、燃料タンク34へ移され、固体酸化物型燃料電池11へ供給される。
【0029】
また、燃料タンク34には、外部から燃料を注入することができる燃料注入管43が、別途設けられている。燃料製造機17が設置されない場合や、燃料製造機17が故障した場合や、燃料製造機17での生産量が不足した場合に、燃料注入管43から燃料を補給することができる。
燃料注入管43からは、任意の種類の燃料を必要なだけ燃料電池へ供給することができるため、燃料電池の運転が容易になる。
【0030】
ところで、植物15を刈り取り、温室12外へ搬出すると、植物15に相当する物質が温室12外へ出されることになる。植物15を構成する物質の一部はエチルアルコールの形態で温室12へ戻されるが、残渣などの残部は戻されない。そこで、残部に相当する物質を、土壌及び肥料の形態で補充する。そうすれば、土壌が痩せる心配がない。
【0031】
次に、余剰電力について説明する。
図2において、横軸を1日の時間、縦軸を温室消費電力とすると、照明を点灯させて光合成を促す時間帯では消費電力が高まり、照明を消灯させ呼吸作用のみを行わせる時間帯では消費電力は小さくなる。曲線は、季節変動によって上下する。
【0032】
そこで、図3に示すように、余裕を見込んで発電量を決定する。すなわち、発電を効率よく実施することのできる燃料電池を選択する。
燃料電池の発熱量を示す横線と、温室消費電力を示す曲線との間(斜線を施した領域)が余剰電力となる。この余剰電力は、温室外へ供給することや、電力会社へ売ることができる。
【0033】
そして、図3に示すように、燃料電池の発熱量は一定であるから、燃料電池を最も効率のよい条件で連続運転させることができる。
【0034】
尚、燃料製造機17は植物の不要部分を腐敗させてメタンガスを主体とする炭化水素ガスの形態で取り出す物であってもよい。そのため、固体酸化物型燃料電池などの燃料電池11へは、水素、炭化水素又はアルコールを供給することができる。
【0035】
また、固体酸化物型燃料電池11は、温室12内に配置することで、排熱を温室内で有効利用するようにしたが、温室12の外に配置することは差し支えない。
植物はトマト、イチゴ、メロンなど温室栽培に適した果実又は野菜であれば、種類は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、果実又は野菜の栽培する温室に好適である。
【符号の説明】
【0037】
10…植物の栽培装置、11…燃料電池(固体電解質型燃料電池)、12…温室、13…照明、14…空調機、15…植物、16…植物の不要部分、17…燃料製造機、30…制御部、41…外部出力端子、43…外部から燃料を供給する燃料注入管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素、炭化水素又はアルコールからなる燃料の供給を受けて発電すると共に水、二酸化炭素及び熱を排出する燃料電池と、この燃料電池から前記水、二酸化炭素及び熱が供給されると共に植栽用土壌を内蔵する温室と、この温室内に設けられ前記燃料電池からの給電により発光して植物へ照射する照明と、温室に設けられ前記燃料電池からの給電により前記温室内の空気の湿度及び温度を調整する空調機とを備える植物の栽培装置において、
この植物の栽培装置は、前記燃料電池の発電の余剰電力を温室外の用途に供することができるように、外部出力端子を備えていることを特徴とする植物の栽培装置。
【請求項2】
前記外部出力端子は、電力会社の送電する送電線に接続させることを特徴とする請求項1記載の植物の栽培装置。
【請求項3】
前記燃料電池は、固体酸化物型燃料電池であり、この固体酸化物型燃料電池は、前記温室内に設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の植物の栽培装置。
【請求項4】
前記燃料は、外部から供給されることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の植物の栽培装置。
【請求項5】
前記燃料は、前記植物の不要部分を原料として水素、炭化水素又はアルコールからなる燃料を製造する燃料製造機から供給されることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3の植物の栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−246401(P2010−246401A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95918(P2009−95918)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】