説明

検出器およびこれを用いた測定システム

【課題】本体部に接続されたヘッド部を容易に認識することが可能な検出器およびこれを用いた測定システムを提供する。
【解決手段】CPUは測定値が許容範囲内にあるか否かを判別する。測定値が許容範囲内にある場合、CPUは表示灯による表示色を緑色に決定し、測定値が許容範囲内にない場合、CPUは表示灯による表示色を赤色に決定する。次に、CPUは使用者によりモードキーが所定時間押下されたか否かを判別する。使用者によりモードキーが所定時間押下された場合には、CPUは表示灯による表示方法を点滅に決定する。使用者によりモードキーが所定時間押下されていない場合には、CPUは表示灯による表示方法を点灯に決定する。次に、CPUは上記のように決定された表示色および表示方法によりヘッド部の表示灯を表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の有無または物理量を検出する検出器、およびこれを用いた測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
接触式変位計は、対象物の表面に当接されるとともに軸方向に変位可能な接触子(可動部)およびトランスを有する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記トランスは、接触子に連動するコアを備える。このコアが接触子の変位に応じて変位することにより、接触子の変位量に対応してトランスから出力される信号のレベルが変化する。このような構成において、対象物の物理的変位量が電気量に変換されることにより、当該対象物の高さ等の物理的変位量が測定される。
【0004】
接触式変位計は、一般的に、トランスを含むヘッド部と当該ヘッド部を制御する本体部とからなる(例えば、特許文献2参照)。この本体部にはPLC(プログラマブルロジックコントローラ)等の外部装置から外部信号が入力される。それにより、外部信号の入力タイミングで対象物の物理的変位量が測定される。
【0005】
対象物の複数箇所の物理的変位量を測定する場合には、複数の接触式変位計が用いられる。通常、複数の接触式変位計のヘッド部は対象物の測定箇所の近くに設置され、本体部は測定箇所から離れた場所に設置される。
【0006】
例えば、ある対象物上において一の箇所(以下、箇所Aと呼ぶ)の物理的変位量の許容範囲を1±0.1mmとし、他の箇所(以下、箇所Bと呼ぶ)の物理的変位量の許容範囲を2±0.1mmとする。この場合、箇所Aには一の接触式変位計のヘッド部が設置され、箇所Bには他の接触式変位計のヘッド部が設置される。
【0007】
このような場合において、箇所Aに設置されたヘッド部の設定と箇所Bに設置されたヘッド部の設定とを、それぞれのヘッド部に接続された各本体部により行う必要がある。すなわち、使用者は、箇所Aに設置されたヘッド部はどの本体部に接続されているか、および箇所Bに設置されたヘッド部はどの本体部に接続されているかについて認識する必要がある。
【特許文献1】特開2000−9412号公報
【特許文献2】特開2002−131037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、ヘッド部と本体部とは離れた場所に設置されるため、使用者は各ヘッド部が各本体部に接続された状態において、接続ケーブルをたどることにより各ヘッド部と各本体部との対応を調べていた。また、使用者は、ヘッド部を設置する際に、本体部との対応が分かるように識別シールを貼っていた。
【0009】
そのため、余計な作業が増える結果、測定のための工数がかかるとともに、識別シールが剥れることにより各ヘッド部と各本体部との対応が不明となる場合があった。
【0010】
本発明の目的は、本体部に接続されたヘッド部を容易に認識することが可能な検出器およびこれを用いた測定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明に係る接触式変位計は、対象物の有無または物理量を検出する検出器であって、対象物の有無または物理量を電気信号として検出する検出手段を含むヘッド部と、ヘッド部と別体として設けられかつヘッド部と有線または無線により電気的に接続され、検出手段により得られる電気信号を処理する処理手段を含む本体部とを備え、本体部は、ヘッド部の認識のための指令を行う指令手段をさらに含み、ヘッド部は、指令手段の指令に応答して本体部に電気的に接続されていることを予め定められた第1の表示形態により表示する表示手段をさらに含むものである。
【0012】
本発明に係る検出器は、ヘッド部と、ヘッド部と別体として設けられかつヘッド部と有線または無線により電気的に接続される本体部とにより構成される。
【0013】
このような検出器において、対象物の有無または物理量が電気信号としてヘッド部の検出手段により検出される。検出手段により得られた電気信号が本体部の処理手段により処理される。
【0014】
また、ヘッド部の認識のための指令が本体部の指令手段により行われる。この指令手段の指令に応答して、ヘッド部の表示手段は本体部に電気的に接続されていることを予め定められた第1の表示形態により表示する。
【0015】
ここで、対象物の複数の箇所の物理量を測定する場合には、複数のヘッド部を用いる。各ヘッド部にはそれぞれ本体部が接続される。
【0016】
この場合、本発明に係る検出器においては、ヘッド部の表示手段が指令手段の指令に応答して、本体部に電気的に接続されていることを予め定められた第1の表示形態により表示することによって、使用者は本体部に接続されたヘッド部を容易に認識することができる。
【0017】
表示手段の第1の表示形態は点滅表示、特定の色の表示および本体部を識別するための識別情報の表示のうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0018】
この場合、ヘッド部の表示手段が指令手段の指令に応答して点滅表示、特定の色の表示、または本体部を識別するための識別情報の表示を行うことによって、使用者は本体部に接続されたヘッド部を容易に認識できる。
【0019】
処理手段は、検出手段により得られる電気信号を測定値として取得する取得手段と、取得手段により取得された測定値が予め定められた条件を満足しているか否かを判定する判定手段とを含み、表示手段は、判定手段の判定結果を第1の表示形態と異なる第2の表示形態により表示してもよい。
【0020】
この場合、検出手段により得られる電気信号が測定値として取得手段により取得され、取得手段により取得された測定値が予め定められた条件を満足しているか否かが判定手段により判定される。そして、判定手段の判定結果が第1の表示形態と異なる第2の表示形態により表示手段によって表示される。それにより、使用者は、本体部に電気的に接続されているヘッド部と判定結果とを異なる2つの表示形態(第1および第2の表示形態)により認識することができる。
【0021】
また、判定結果を示すための表示手段が、本体部に接続されたヘッド部の認識のための表示手段を兼ねているので、ヘッド部の認識のための新たな表示手段を設ける必要がない。それにより、検出器のヘッド部の小型化および低コスト化を図ることができる。
【0022】
検出手段は、対象物の物理的変位量を電気信号として検出し、取得手段は、検出手段により得られる電気信号を物理的変位量の測定値として取得し、判定手段は、取得手段により取得された測定値が予め定められた許容範囲内にあるか否かを判定してもよい。
【0023】
この場合、対象物の物理的変位量が電気信号として検出手段により検出される。また、検出手段により得られる電気信号が物理的変位量の測定値として取得手段により取得される。さらに、取得手段により取得された測定値が予め定められた許容範囲内にあるか否かが判定手段により判定される。このような構成により、対象物の物理的変位量が許容範囲内にあるか否かが検出される。
【0024】
検出手段は、対象物に接触することにより変位する接触子と、接触子の変位量を電気信号に変換する変換手段とを含んでもよい。
【0025】
この場合、対象物に接触することにより接触子が変位し、当該接触子の変位量が変換手段により電気信号に変換される。それにより、対象物の正確な物理的変位量が得られる。
【0026】
第2の発明に係る測定システムは、対象物の有無または物理量を検出する複数の検出器を含む測定システムであって、複数の検出器の各々は、対象物の有無または物理量を電気信号として検出する検出手段を含むヘッド部と、ヘッド部と別体として設けられかつヘッド部と有線または無線により電気的に接続され、検出手段により得られる電気信号を処理する処理手段を含む本体部とを備え、本体部は、ヘッド部の認識のための指令を行う指令手段をさらに含み、ヘッド部は、指令手段の指令に応答して本体部に電気的に接続されていることを予め定められた表示形態により表示する表示手段をさらに含み、複数の検出器のうち一の検出器の処理手段は、当該処理手段による処理結果と他の検出器の処理手段による処理結果とを複合演算するものである。
【0027】
本発明に係る測定システムにおける各検出器は、ヘッド部と、ヘッド部と別体として設けられかつヘッド部と有線または無線により電気的に接続される本体部とによりそれぞれ構成される。
【0028】
このような検出器において、対象物の有無または物理量が電気信号としてヘッド部の検出手段により検出される。検出手段により得られた電気信号が本体部の処理手段により処理される。
【0029】
また、ヘッド部の認識のための指令が本体部の指令手段により行われる。この指令手段の指令に応答して、ヘッド部の表示手段は本体部に電気的に接続されていることを予め定められた第1の表示形態により表示する。さらに、処理手段による処理結果と他の検出器の処理手段による処理結果とが複数の検出器のうち一の検出器の処理手段により複合演算される。
【0030】
ここで、各ヘッド部とこれに接続された各本体部との対応関係を間違って認識し、各ヘッド部に対する所定の設定を行うと、複合演算の演算結果に誤りが生じる。
【0031】
本発明に係る測定システムにおいては、各ヘッド部の表示手段が指令手段の指令に応答して、本体部に電気的に接続されていることを予め定められた第1の表示形態により表示することによって、使用者は本体部に接続されたヘッド部をそれぞれ容易に認識することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、本体部に接続されたヘッド部を容易に認識することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る検出器の一例として接触式変位計について図面を参照しながら説明する。
【0034】
(1)接触式変位計の全体構成
図1は、本実施の形態に係る接触式変位計の構成を示すブロック図である。
【0035】
図1に示すように、本実施の形態に係る接触式変位計100は、ヘッド部100Aおよび本体部100Bを備える。なお、図1では図示していないが、本体部100Bは、後述の表示部32を有する。表示部32の詳細については後述する。
【0036】
ヘッド部100Aおよび本体部100Bは互いにケーブル80により接続されている。また、本体部100Bはケーブル81を介して図示しない外部装置に接続される。
【0037】
図2は、図1のヘッド部100Aの構成を示すブロック図であり、図3は、図1の本体部100Bの構成を示すブロック図である。
【0038】
図2に示すように、ヘッド部100Aは、トランス1、伸縮可能で対象物に当接される接触子1a、トランス駆動回路2、信号検出回路3、アンプ回路4、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)5、表示灯制御回路6、表示灯7、電源回路8、コンパレータ9、およびスイッチ10を備える。
【0039】
また、図3に示すように、本体部100Bは、CPU20、PWM(パルス幅変調)出力回路21、第1のフィルタ回路22、第2のフィルタ回路23、A/D(アナログ/デジタル)変換器24、通信インターフェース25、電源回路26、ドライブ回路27、第1〜第3の入力回路28a,28b,28c、過電流検知回路29、第1〜第3の出力回路30a,30b,30c、EEPROM31、表示部32、表示パネル33、入力部34、および接続部50を備える。
【0040】
ヘッド部100Aと本体部100Bとの間における信号の送受信は、ケーブル80を介して行われる。この場合、ヘッド部100Aに接続されたケーブル80は、本体部100Bの接続部50に接続される。
【0041】
図3において、まず、CPU20は、トランス1を作動させるための矩形波パルス信号をPWM出力回路21に与える。PWM出力回路21は、矩形波パルス信号を正弦波信号に変換する。第1のフィルタ回路22は、正弦波信号のノイズを除去し、その正弦波信号を図2のトランス駆動回路2に与える。
【0042】
トランス駆動回路2は、正弦波信号に応答して正弦波電流をトランス1に与える。トランス1の構成および動作の詳細については後述する。
【0043】
続いて、トランス1は、2つの電圧信号(後述)を信号検出回路3に与える。信号検出回路3は、上記2つの電圧信号を互いに減算し、差分電圧をアンプ回路4に与える。
【0044】
アンプ回路4は、インピーダンス変換を行うとともに、差分電圧を第2のフィルタ回路23(図3)に与える。第2のフィルタ回路23は、差分電圧を直流電圧に変換し、その直流電圧をA/D変換器24に与える。
【0045】
A/D変換器24は、直流電圧をデジタル値に変換し、変換結果を物理的変位量の測定値としてCPU20に与える。CPU20は、与えられた測定値に基づいて表示部32およびドライブ回路27等を制御する。
【0046】
本体部100Bの通信インターフェース25を介して、他の接触式変位計の本体部、パーソナルコンピュータ、またはPLC(プログラマブルロジックコントローラ)(それぞれ図示せず)等の外部装置との間で信号の送受信を行うことができる。例えば、本体部100Bに関する情報をPLCに取り込みたい場合に、上記通信インターフェース25を介してPLCと情報の送受信が行われる。
【0047】
本体部100Bの電源回路26は、例えば24Vの図示しない外部の直流電源に接続されており、ヘッド部100Aの電源回路8を介してヘッド部100Aの各構成部に電力を供給するとともに本体部100Bの各構成部に電力を供給する。
【0048】
ドライブ回路27は、ヘッド部100Aの表示灯7を点灯または点滅させるために必要な電流をスイッチ10を介して表示灯制御回路6に供給する。
【0049】
ここで、CPU20は、本体部100Bの電源回路26を介してヘッド部100Aの電源回路8の電圧レベルを切り替えることができる。この電圧レベルは、起動時に行う通信モード時の例えば8.5Vと、通常動作モード時の例えば6.5Vとを含む。
【0050】
通信モードとは、CPU20がヘッド部100AのEEPROM5に記憶されている補正情報を受信するモードをいい、通常動作モードとは、CPU20がヘッド部100Aの表示灯制御回路6を制御することにより、表示灯7の点灯または点滅の動作が行われるモードをいう。なお、EEPROM5に記憶されている上記補正情報については後述する。
【0051】
ヘッド部100Aのコンパレータ9は、CPU20による電源回路8の電圧レベルの切り替えに基づいて、当該電圧レベルが8.5Vである場合には、スイッチ10をEEPROM5側に接続する。一方、コンパレータ9は、上記電圧レベルが6.5Vである場合には、スイッチ10を表示灯制御回路6側に接続する。このような構成により、接触式変位計100において通信モードと通常動作モードとが切り替えられる。
【0052】
第1〜第3の入力回路28a,28b,28cは、外部から入力される所定の信号をCPU20に与える。所定の信号とは、例えば測定開始を指示するためのタイミング信号、基準位置を設定するためのプリセット信号等をいう。
【0053】
第1〜第3の出力回路30a,30b,30cは、CPU20がヘッド部100Aからの差分電圧に応じて得られた対象物の物理的変位量および予め設定された上限値および下限値からなる許容範囲に基づいて、外部に信号をそれぞれ出力することができる。
【0054】
具体的には、例えば、第1の出力回路30aは、対象物の物理的変位量が許容範囲の上限値を超えている場合に、所定レベル(例えば「H」レベル)の判定信号を出力する。また、第2の出力回路30bは、対象物の物理的変位量が許容範囲内にある場合に、所定レベル(例えば「H」レベル)の判定信号を出力する。さらに、第3の出力回路30cは、対象物の物理的変位量が許容範囲の下限値を下回っている場合に、所定レベル(「H」レベルまたは「L」レベル)の判定信号を出力する。
【0055】
過電流検知回路29は、第1〜第3の出力回路30a,30b,30cに定格電流値以上の電流が流れたか否かをモニタする。第1〜第3の出力回路30a,30b,30cのいずれかに定格電流値以上の電流が流れた場合、過電流検知回路29は当該出力回路を一時的にオフの状態にする。その後、CPU20は定期的に当該出力回路をオンの状態にし、過電流検知回路29は当該出力回路のモニタを継続する。
【0056】
本体部100BのEEPROM31は、補正情報を記憶する。この補正情報については後述する。
【0057】
表示部32は、CPU20の制御により、対象物の物理的変位量等を表示する。表示部32は、表示パネル33および入力部34を含む。表示パネル33および入力部34の詳細については図面を参照しながら後述する。リセット回路35は、使用者の操作に基づいてCPU20にリセット信号を与えることにより、CPU20を初期状態にリセットする。
【0058】
ここで、接触子1aの使用頻度が高くなった場合等、ヘッド部100Aは故障することが比較的多い。このような場合、本体部100Bはそのまま使用し、ヘッド部100Aは新しいものに交換する。
【0059】
まず、本体部100Bに新しいヘッド部100A(以下、単にヘッド部100Aと呼ぶ)を取り付ける。本体部100BのCPU20は、通信モードでヘッド部100AのEEPROM5と通信を行う。
【0060】
EEPROM5は、ヘッド部100Aの補正情報(以下、ヘッド補正情報と呼ぶ)および後述する検査用のマスター本体部の補正情報(以下、マスター補正情報と呼ぶ)を記憶する。
【0061】
ヘッド補正情報とは、対象物の物理的変位量と本体部100BのA/D変換器24からの出力値との関係(以下、変位−出力テーブルと呼ぶ)におけるばらつきを補正するための情報である。
【0062】
また、マスター補正情報とは、上記ヘッド補正情報を得るために使用した検査用のマスター本体部の変位−出力テーブルにおけるばらつきを補正するための情報である。
【0063】
CPU20は、EEPROM5と通信を行うことにより、上記のマスター補正情報を取得する。次に、CPU20は、本体部100BのEEPROM31と通信を行う。
【0064】
EEPROM31は、本体部100Bの補正情報(以下、本体補正情報と呼ぶ)を記憶する。
【0065】
本体補正情報とは、本体部100Bの第2のフィルタ回路23により変換された直流電圧のレベルとA/D変換器24からの出力値との関係におけるばらつきを補正するための情報である。
【0066】
CPU20は、EEPROM31と通信を行うことにより、上記の本体補正情報を取得する。そして、CPU20は、取得した本体補正情報とマスター補正情報とに基づいて、基準となる検査用のマスター本体部を用いた状態と同じ状態、すなわち、A/D変換器24の出力値から対象物の正確な物理的変位量を認識できる状態をつくる。
【0067】
その後、CPU20は、EEPROM5と通信を行うことにより上記のヘッド補正情報を取得することによって、第2のフィルタ回路23の直流電圧のレベルとA/D変換器24の出力値との関係を正確に認識できる状態をつくる。これにより、ヘッド部100Aを交換した場合でも、本体部100Bを基準となるマスター本体部と同じ状態にすることができ、対象物の適切な物理的変位量を得ることができる。
【0068】
(2)トランスの構成
続いて、ヘッド部100Aのトランス1の詳細な構成について図面を参照しながら説明する。
【0069】
図4は、トランス1の詳細な構成を示す模式図である。
【0070】
図4に示すように、トランス1は、1次側コイル1b、2次側コイル1c、1次側抵抗1d、2次側抵抗1e、および磁性体からなるコアCを含む。コアCは、接触子1aに連動して1次側コイル1bおよび2次側コイル1c内に往復移動可能に設けられる。
【0071】
1次側コイル1bの一端はトランス駆動回路2に接続され、その他端は信号検出回路3に接続される。2次側コイル1cの一端は接地され、その他端は信号検出回路3に接続される。1次側コイル1bと2次側コイル1cの捲き方向は互いに逆向きである。
【0072】
1次側コイル1bと信号検出回路3との間のノードN1に1次側抵抗1dの一端が接続され、その他端は接地される。2次側コイル1cと信号検出回路3との間のノードN2に2次側抵抗1eの一端が接続され、その他端は接地される。
【0073】
このような構成において、トランス駆動回路2から正弦波電流が1次側コイル1bに流れると、これに伴って2次側コイル1cに誘導電流が流れる。この場合、1次側抵抗1dに電圧降下が生じるとともに2次側抵抗1eにも電圧降下が生じる。1次側抵抗1dの一端のノードN1の電圧および2次側抵抗1eの一端のノードN2の電圧が信号検出回路3に与えられる。
【0074】
このように、2次側コイル1cに誘導電流が流れる状態でコアCを移動させると、1次側コイル1bと2次側コイル1cとの相互インダクタンスが変化する。それにより、コアCの位置に依存してノードN2の電圧が変化する。
【0075】
信号検出回路3は、ノードN1の電圧とノードN2の電圧との差分電圧を算出し、当該差分電圧をアンプ回路4に与える。このような構成により、接触子1aの移動量を差分電圧に変換することによって、対象物の物理的変位量を検出することができる。
【0076】
また、本実施の形態では、1次側コイル1bと2次側コイル1cの捲き方向が逆向きとなっているので、1次側コイル1bおよび2次側コイルの抵抗成分が互いに打ち消される。このように、温度により変動する特性を有する抵抗成分を打ち消すことにより、接触式変位計100の使用場所の温度変化の影響を受けることなく正確な上記差分電圧を得ることができる。その結果、対象物の正確な物理的変位量を得ることができる。
【0077】
(3)表示部の構成
次に、本体部100Bの表示部32の構成について図面を参照しながら説明する。
【0078】
図5は、本体部100Bの表示部32の構成を示す模式図である。
【0079】
図5に示すように、本体部100Bの表示部32は表示パネル33および入力部34を備える。
【0080】
表示パネル33は、3つの出力表示灯41、7セグメントLED42およびバー表示部43を含む。また、入力部34は、モードキー44、セットキー45および十字キー46を含む。
【0081】
使用者は、測定値等を表示する通常モードにおいてモードキー44を例えば3秒以上押下することにより、通常モードから設定モードに移行させることができ、設定メニューを7セグメントLED42に表示させることができる。
【0082】
また、使用者は、十字キー46を左右に操作することにより設定メニューの設定項目を変更することができ、十字キー46を上下に操作することにより設定項目の値を変更することができる。さらに、使用者は、セットキー45を押下することにより当該設定項目の値を確定することができる。上記の設定項目には、プリセット値、許容範囲を定めるための上限値および下限値等がある。
【0083】
7セグメントLED42は、対象物の測定値等を表示し、出力表示灯41の一つは、測定値が上限値を上回っている場合に点灯(HI点灯)し、出力表示灯41の他の一つは、測定値が許容範囲内に入っている場合に点灯(GO点灯)し、出力表示灯41のさらに他の一つは、測定値が下限値を下回っている場合に点灯(LO点灯)する。
【0084】
ここで、本実施の形態では、測定値が許容範囲内に入っている場合には、ヘッド部100Aの表示灯7は緑色に点灯し、測定値が許容範囲外にある場合には、表示灯7は赤色に点灯する。
【0085】
また、バー表示部43は、測定値が許容範囲のどの位置に入っているかという入り度合いを複数のバーにより表示する。これにより、使用者は、測定値が下限値または上限値付近の値であるのか、あるいは許容範囲内の測定値の位置に余裕があるのか否か等を容易に認識することが可能となる。
【0086】
(4)表示処理
次に、CPU20によるヘッド部100Aの表示灯7の表示処理について説明する。
【0087】
図6は、CPU20によるヘッド部100Aの表示灯7の表示処理を示すフローチャートである。
【0088】
図6に示すように、まず、CPU20は、測定値が許容範囲内にあるか否かを判別する(ステップS1)。測定値が許容範囲内にある場合、CPU20は表示灯7による表示色を緑色に決定する(ステップS2)。
【0089】
ステップS1の処理において、測定値が許容範囲内にない場合、CPU20は表示灯7による表示色を赤色に決定する(ステップS3)。
【0090】
次に、CPU20は、使用者によりモードキー44が所定時間(例えば3秒間)押下されたか否かを判別する(ステップS4)。使用者によりモードキー44が所定時間押下された場合には、CPU20は表示灯7による表示方法を点滅に決定する(ステップS5)。
【0091】
使用者によりモードキー44が所定時間押下されていない場合には、CPU20は表示灯7による表示方法を点灯に決定する(ステップS6)。なお、上記ステップS4の処理においてモードキー44の代わりに、十字キー46等の他のキーが押下されたか否かにより表示方法が決定されてもよい。
【0092】
次に、CPU20は、上記のように決定された表示色および表示方法によりヘッド部100Aの表示灯7を表示させる(ステップS7)。
【0093】
この場合、測定値が許容範囲内にあり、かつ、使用者によりモードキー44が所定時間押下された場合には、表示灯7は緑色で点滅する。
【0094】
また、測定値が許容範囲内にあり、かつ、使用者によりモードキー44が所定時間押下されていない場合には、表示灯7は緑色で点灯する。
【0095】
また、測定値が許容範囲内になく、かつ、使用者によりモードキー44が所定時間押下された場合には、表示灯7は赤色で点滅する。
【0096】
さらに、測定値が許容範囲内になく、かつ、使用者によりモードキー44が所定時間押下されていない場合には、表示灯7は赤色で点灯する。
【0097】
これらにより、使用者は、測定値が許容範囲にあるか否かについての判定結果と、本体部100Bに接続されたヘッド部100Aとを同時に認識することができる。
【0098】
(5)本実施の形態における効果
対象物の複数の箇所の物理的変位量を測定する場合には、複数のヘッド部100Aを用いる。各ヘッド部100Aにはそれぞれ本体部100Bが接続されている。このような構成において、各本体部100Bから出力される判定信号を1つの本体部100Bに与え、当該本体部100Bにおいてこれらの判定信号に基づいて後述の複合演算を行う場合がある。
【0099】
この場合、各ヘッド部100Aとこれに接続された各本体部100Bとの対応関係を間違って認識し、各ヘッド部100Aに対する所定の設定を行うと、上記複合演算の演算結果に誤りが生じる。
【0100】
そこで、本実施の形態においては、使用者により本体部100Bのモードキー44が所定時間押下されることによって、当該本体部100Bに接続されているヘッド部100Aの表示灯7が点滅する。それにより、使用者は、本体部100Bに接続されたヘッド部100Aを容易に認識することができる。これとともに、測定値が許容範囲内にあるか否かで表示灯7の表示色が異なる。それにより、使用者は判定結果も同時に認識することができる。
【0101】
また、判定結果を示すための表示灯7が、本体部100Bに接続されたヘッド部100Aの認識のための表示手段を兼ねているので、ヘッド部100Aの認識のための新たな表示手段を設ける必要がない。それにより、接触式変位計100のヘッド部100Aの小型化および低コスト化を図ることができる。
【0102】
(6)複合演算
以下、本体部100BのCPU20により行われる複合演算の複数の例について図面を参照しながら説明する。
【0103】
図7は、複合演算の複数の例を説明するための説明図である。
【0104】
図7(a)は、複合演算の例ではなく、対象物Wの箇所A〜Dを測定し、各測定値が許容範囲内にあるか否かを判定する例である。
【0105】
図7(b)は、箇所A〜Dの測定値のうち、最大値と最小値との差を算出し、算出結果が許容範囲内にあるか否かを判定する例である。図7(b)の例では、箇所Cの測定値が最大値であり、箇所Bの測定値が最小値である。
【0106】
図7(c)は、各箇所の測定値と基準となる箇所の測定値との間にどれだけの差があるかを算出する例である。図7(c)の例では、箇所Aが基準となる箇所であり、箇所B,Cの各測定値と箇所Aの測定値との差がそれぞれ算出される。
【0107】
図7(d)および図7(e)は、各々ねじれ演算および反り演算の例であり、下記式(1)および下記式(2)に基づいて算出される値XおよびYをそれぞれ判定する例である。
【0108】
X=(a−b)−(d−c) ・・・(1)
Y=b+(a+c)/2 ・・・(2)
なお、上式(1)および上式(2)において、a〜dは箇所A〜Dの測定値を示す。
【0109】
図7(f)は、箇所A〜Dの測定値の平均値が算出される例である。また、図7(g)は、対象物Wの厚みを測定する例である。この場合、2台のヘッド部100Aによりそれぞれ得られる箇所Aの測定値と箇所Bの測定値との和が厚みとして算出される。
【0110】
(7)他の実施の形態
上記実施の形態では、測定値が許容範囲内にある場合の表示灯7の表示色は緑色であり、測定値が許容範囲内にない場合の表示灯7の表示色は赤色である例を説明したが、測定値が許容範囲内にある場合に表示灯7に所定の表示色を表示させ、測定値が許容範囲内にない場合に表示灯7を消灯させてもよい。
【0111】
また、上記実施の形態では、測定値が許容範囲内にあるか否かの判定結果を示す表示灯7が設けられている場合について説明したが、表示灯7が設けられていない場合にも本発明を同様に適用することができる。例えばヘッド部100Aに電流が供給されていることを示す通電表示灯が設けられている場合に、当該通電表示灯によりヘッド部100Aの認識のための点滅表示を行ってもよい。
【0112】
また、複数の本体部100Bが順に接続された状態にある場合において、各本体部100Bにそれぞれ接続されたヘッド部100Aの各表示灯7を接続順に点滅させてもよい。このような構成により、使用者は、各ヘッド部100Aと各本体部100Bとの対応関係だけでなく、複数の本体部100Bの接続の順序も容易に認識することができる。この場合、表示灯7ごとに点滅速度または点滅時間を変更してもよい。
【0113】
また、ヘッド部100Aに表示灯7に加えて、ヘッド部100Aの認識のために新たに表示手段を設けてもよい。この場合、使用者によりモードキー44が所定時間押下されることによって、当該表示手段が点灯または点滅するよう構成する。
【0114】
また、ヘッド部100Aに7セグメントLEDまたは液晶ディスプレイ等の表示器を設けてもよい。この場合、使用者によりモードキー44が所定時間押下された際に、7セグメントLEDまたは液晶ディスプレイ等の表示器に各種表示パターンでヘッド部100Aの認識のための表示が行われる。例えば、ヘッド部100Aの表示器に本体部100Bとの共通の認識番号(ID)を表示させてもよい。
【0115】
さらに、各ヘッド部100Aに複数の表示灯を設け、各本体部100Bごとに対応するヘッド部100Aの異なる表示灯を点灯または点滅させてもよい。また、各本体部100Bごとに対応するヘッド部100Aの表示灯を異なる色で点灯させてもよい。
【0116】
また、上記実施の形態では、ヘッド部100Aと本体部100Bとがケーブル80により接続されているが、ヘッド部100Aと本体部100Bとが無線通信により接続されてもよい。
【0117】
さらに、上記実施の形態では、本発明を接触式変位計に用いた例について説明したが、これに限定されるものではなく、本発明は、ヘッド部および本体部から構成される例えば対象物の有無を検出する光電センサ、対象物の有無を検出する近接センサ、物理量として流量を検出する流量センサ、圧力を検出する圧力センサ、対象物の温度を検出する非接触式温度センサ、対象物の有無を検出する超音波センサ、および対象物の画像を検出する画像センサ等の他のセンサにも同様に適用することができる。
【0118】
(8)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0119】
上記実施の形態においては、接触式変位計100が検出器に相当し、トランス1が検出手段および変換手段に相当し、CPU20が処理手段、指令手段、取得手段、および判定手段に相当し、表示灯7が表示手段に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明に係る検出器は、対象物の有無または物理量を検出するために利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本実施の形態に係る接触式変位計の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のヘッド部の構成を示すブロック図である。
【図3】図1の本体部の構成を示すブロック図である。
【図4】トランスの詳細な構成を示す模式図である。
【図5】本体部の表示部の構成を示す模式図である。
【図6】CPUによるヘッド部の表示灯の表示処理を示すフローチャートである。
【図7】複合演算の複数の例を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0122】
1 トランス
1a 接触子
2 トランス駆動回路
3 信号検出回路
4 アンプ回路
5 EEPROM
6 表示灯制御回路
7 表示灯
8 電源回路
9 コンパレータ
20 CPU
21 PWM出力回路
22 第1のフィルタ回路
23 第2のフィルタ回路
24 A/D変換器
25 通信インターフェース
28a,28b,28c 第1〜第3の入力回路
29 過電流検知回路
30a,30b,30c 第1〜第3の出力回路
31 EEPROM
32 表示部
33 表示パネル
34 入力部
41 出力表示灯
42 7セグメントLED
43 バー表示部
44 モードキー
45 セットキー
46 十字キー
50 接続部
80 ケーブル
100 接触式変位計
100A ヘッド部
100B 本体部
C コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の有無または物理量を検出する検出器であって、
対象物の有無または物理量を電気信号として検出する検出手段を含むヘッド部と、
前記ヘッド部と別体として設けられかつ前記ヘッド部と有線または無線により電気的に接続され、前記検出手段により得られる電気信号を処理する処理手段を含む本体部とを備え、
前記本体部は、前記ヘッド部の認識のための指令を行う指令手段をさらに含み、
前記ヘッド部は、前記指令手段の指令に応答して前記本体部に電気的に接続されていることを予め定められた第1の表示形態により表示する表示手段をさらに含むことを特徴とする検出器。
【請求項2】
前記表示手段の前記第1の表示形態は点滅表示、特定の色の表示および前記本体部を識別するための識別情報の表示のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載の検出器。
【請求項3】
前記処理手段は、
前記検出手段により得られる電気信号を測定値として取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された測定値が予め定められた条件を満足しているか否かを判定する判定手段とを含み、
前記表示手段は、前記判定手段の判定結果を前記第1の表示形態と異なる第2の表示形態により表示することを特徴とする請求項1または2記載の検出器。
【請求項4】
前記検出手段は、対象物の物理的変位量を電気信号として検出し、
前記取得手段は、前記検出手段により得られる電気信号を前記物理的変位量の測定値として取得し、
前記判定手段は、前記取得手段により取得された測定値が予め定められた許容範囲内にあるか否かを判定することを特徴とする請求項3記載の検出器。
【請求項5】
前記検出手段は、
対象物に接触することにより変位する接触子と、
前記接触子の変位量を電気信号に変換する変換手段とを含むことを特徴とする請求項4記載の検出器。
【請求項6】
対象物の有無または物理量を検出する複数の検出器を含む測定システムであって、
前記複数の検出器の各々は、
対象物の有無または物理量を電気信号として検出する検出手段を含むヘッド部と、
前記ヘッド部と別体として設けられかつ前記ヘッド部と有線または無線により電気的に接続され、前記検出手段により得られる電気信号を処理する処理手段を含む本体部とを備え、
前記本体部は、ヘッド部の認識のための指令を行う指令手段をさらに含み、
前記ヘッド部は、前記指令手段の指令に応答して前記本体部に電気的に接続されていることを予め定められた表示形態により表示する表示手段をさらに含み、
前記複数の検出器のうち一の検出器の前記処理手段は、当該処理手段による処理結果と他の検出器の前記処理手段による処理結果とを複合演算することを特徴とする測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−170988(P2007−170988A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369117(P2005−369117)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000129253)株式会社キーエンス (681)
【Fターム(参考)】