説明

歩行支援装置、及び歩行支援プログラム

【課題】装着者の歩行支援に際して装着者に与える違和感を低減する。
【解決手段】本実施の形態では、歩容が変化する場合の一例として、装着型ロボット1の装着者がエスカレータ300に乗る場合を考える。装着者は、エスカレータ300に乗ると、踏板上に立つか、歩くかして歩容が変化するが、エスカレータ300を降りた後は、乗る前と同様の歩き方をすると考えられる。そこで、装着型ロボット1は、エスカレータ300に乗る前に装着者の歩行を支援しつつ、歩行情報を検出してアーカイブに記憶しておき、装着者がエスカレータ300から降りて再び歩き始める際に当該歩行情報を用いて歩行支援を行う。装着型ロボット1は、この制御方法により、装着者がエスカレータ300を降りて歩く際の歩容を推定して先回りして制御するため、装着者に与える違和感を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行支援装置、及び歩行支援プログラムに関し、例えば、装着者の歩行運動をアシストするものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、装着者の動作をアシストする装着型ロボットが注目を集めている。
装着型ロボットには、センサなどで体の動きを検知して装着者の身体動作を支援するものであり、例えば、重量物の持ち上げや歩行運動を補助することができる。
例えば、特許文献1の「装着式動作補助装置、装着式動作補助装置の制御方法および制御用プログラム」は、筋電センサにより装着者の動作意図を読み取って、装着者の運動を支援している。
【0003】
ところで、装着型ロボットを都市部で着用して歩行支援する場合、歩行による移動と公共交通機関を使っての移動との併用が想定されるため、歩行路、エスカレータ、エレベータなどの歩容が異なる場面で、これらの場面に応じた歩行支援をする必要がある。
しかし、これまでに発表された装着型ロボットは、歩行に関しては、転倒しない、装着しやすい、機器の暴走により怪我をしない、といった安全面の工夫がされているものが主であり、歩容が変化する場合に装着者が感じる違和感を如何に低減するかという点はあまり考慮されていなかった。
今後、歩容の変化に対して装着者の感じる違和感を低減し、歩行支援のバリアフリー化を図ることが重要になってくる。
【0004】
また、実施の形態で使用する通信技術に関しては、特許文献2の「通信機能を有する照明器具」がある。
この技術は、電力線によって照明体に信号を送信し、照明体から無線や光の変調により信号を送出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−95561号公報
【特許文献2】特開2009−141766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、装着者の歩行支援に際して装着者に与える違和感を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明では、歩行支援対象者の足部の動きを制御して歩行を支援する歩行支援手段と、通常歩行における前記足部の動きを記録する記録手段と、前記通常歩行が中断したことを検出する中断検出手段と、前記中断した通常歩行の再開を判断する判断手段と、前記判断手段で通常歩行が再開すると判断された場合に、固定された歩行面で前記記録手段が記録した足部の動きを用いて前記歩行支援手段による歩行の支援を再開する歩行支援再開手段と、を具備したことを特徴とする歩行支援装置を提供する。
請求項2に記載の発明では、前記歩行支援再開手段は、前記通常歩行が中断してから再開するまでの前記足部の動きの記録は用いないことを特徴とする請求項1に記載の歩行支援装置を提供する。
請求項3に記載の発明では、前記歩行支援再開手段は、前記通常歩行が中断する直前の所定時間に前記記録手段で記録した足部の動きを用いて歩行の支援を再開することを特徴とする請求項1、又は請求項2に記載の歩行支援装置を提供する。
請求項4に記載の発明では、前記中断検出手段は、前記歩行支援対象者が移動する歩行面に乗ったことを検知することにより前記通常歩行の中断を検出し、前記判断手段は、前記歩行支援対象者が前記移動する歩行面の終点に到達したことを判断することにより前記通常歩行が再開すると判断することを特徴とする請求項1、請求項2、又は請求項3に記載の歩行支援装置を提供する。
請求項5に記載の発明では、歩行支援対象者の足部の動きを制御して歩行を支援する歩行支援機能と、通常歩行における前記足部の動きを記録する記録機能と、前記通常歩行が中断したことを検出する中断検出機能と、前記中断した通常歩行の再開を判断する判断機能と、前記判断機能で通常歩行が再開すると判断された場合に、固定された歩行面で記録した足部の動きを用いて前記歩行支援機能による歩行の支援を再開する歩行支援再開機能と、をコンピュータで実現する歩行支援プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、通常歩行の足の動きを記録しておき、装着者が通常歩行を再開する際に当該記録を用いて歩行支援することにより装着者の歩行支援に際して装着者に与える違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】エスカレータを運営する設備側の通信施設を説明するための図である。
【図2】装着型ロボットの装着状態や装着ロボットシステムを説明するための図である。
【図3】エスカレータの乗口などでの光の照射状態を示した図である。
【図4】装着型ロボットがエスカレータで行う歩行支援の手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)実施形態の概要
本実施の形態では、歩容が変化する場合の一例として、装着型ロボット1(図1)の装着者がエスカレータ300に乗る場合を考える。
なお、歩容とは、歩行している際の身体の運動状態(歩き方)であり、歩行情報(歩幅、歩行ピッチ、歩行速度など)によって規定される。
【0011】
装着者は、エスカレータ300に乗ると、踏板(ステップ)上に立つか、歩くかして歩容が変化するが、エスカレータ300を降りた後は、乗る前と同様の歩き方をすると考えられる。
そこで、装着型ロボット1は、エスカレータ300に乗る前に装着者の通常の歩行を支援しつつ、歩行情報を検出してアーカイブに記憶しておき、装着者がエスカレータ300から降りて再び歩き始める際に当該歩行情報を用いて歩行支援を行う。
【0012】
装着型ロボット1は、この制御方法により、装着者がエスカレータ300を降りて歩く際の歩容を推定して先回りして制御するため、装着者に与える違和感を低減することができる。
この制御方法は、筋電センサを用いた装着型ロボット1に適用することも可能であるが、筋電センサなどを用いない1次遅れの制御を行う場合でも違和感なく歩行支援することが可能となり、この場合、筋電センサを用いないため装着型ロボット1の装着性を向上させることができる。
【0013】
本実施の形態では、歩行アシストと外部連携が必要となる公共交通機関の中から特にエスカレータを降りる場合の制御を取り上げ、装着者にエスカレータを降りた後に装置の制御に対して違和感を感じさせないような手法として、歩行履歴からのアーカイブに基づき、エスカレータを降りた後の歩行速度及び歩容を決める制御を実現する。
【0014】
(2)実施形態の詳細
図1は、エスカレータ300を運営する設備側の通信施設を説明するための図である。
装着者は、エスカレータ300に乗って移動する。
装着型ロボット1は、装着者がエスカレータ300手前の固定された歩行面を歩行している際の歩行情報をサンプリングしてアーカイブに記憶している。
エスカレータ300の乗口には、照明100が設置してあり、乗口に照明光を発光している。照明100の照明光には、エスカレータ300の踏板の速度、及び踏板の繰出ピッチが含まれた踏板情報が照明光を変調することにより重畳されている。
装着型ロボット1は、照明100の照明光を照明領域内の位置200にて検知し、これに含まれる踏板情報を受信する。
【0015】
装着型ロボット1は、踏板情報により前方にエスカレータ300が存在することを検知すると、歩行情報の記録を停止する。
次いで、装着型ロボット1は、踏板情報を受信すると、所定形状パターンの光を前進方向斜め下の歩行面に照射して像を投影すると共に撮像し、その像の歪みから乗口の櫛板(コムプレート)と踏板の段差を検出して櫛板から繰り出される踏板までの距離を算出する。
そして、装着型ロボット1は、踏板までの距離、及び踏板情報を用いて、装着者の足が適切に踏板に着地するように駆動する。
【0016】
また、エスカレータ300の降口手前の照明101が発光する光にも踏板情報が含まれており、装着型ロボット1は、照明101の照明領域内の位置201にて踏板情報を受信する。
そして、装着型ロボット1は、踏板情報を受信すると、位置202にて前方斜め下に像を投影し、その歪みから櫛板と踏板の段差を検出して櫛板までの距離を算出する。
次に、装着型ロボット1は、櫛板までの距離、及び踏板情報を用いて装着者の足が適切に櫛板に着地するように駆動する。
【0017】
装着型ロボット1は、装着者がエスカレータ300から降りて歩行を再開する際に、アーカイブから装着者の歩行情報を読み出し、これに基づいて歩行支援を行う。また、装着型ロボット1は、アーカイブへの歩行情報の記録も再開する。
【0018】
降口の照明102が発光する光には、周辺地図情報が含まれており、装着型ロボット1は、照明102の照明領域の位置203で周辺地図情報を受信する。
その後、装着型ロボット1は、周辺地図情報を用いて装着者の歩行を支援する。
図1のエスカレータ300は、一例として、下りとなっているが、上りのエスカレータも同様である。また、乗口と降口の構造が同じため、エスカレータ300を動く歩道としてもよい。
【0019】
図2(a)は、装着型ロボット1の装着状態を示した図である。
装着型ロボット1は、装着者の腰部及び下肢に装着し、装着者の歩行を支援(アシスト)するものである。なお、例えば、上半身、下半身に装着して全身の動作をアシストするものであってもよい。
【0020】
装着型ロボット1は、腰部装着部7、歩行アシスト部2、連結部8、3軸センサ3、3軸アクチュエータ6、撮像カメラ5、光源装置4、撮像カメラ5と光源装置4を保持する撮像ユニット9、無線通信装置10、ナビゲーション装置12などを備えている。
腰部装着部7は、装着型ロボット1を装着者の腰部に固定する固定装置である。腰部装着部7は、装着者の腰部と一体となって移動する。
また、腰部装着部7は、歩行アクチュエータ17(図2(b))を備えており、装着者の歩行動作に従って連結部8を前後方向などに駆動する。
【0021】
連結部8は、腰部装着部7と歩行アシスト部2を連結している。
歩行アシスト部2は、装着者の下肢に装着され、歩行アクチュエータ17により前後方向などに駆動されて装着者の歩行運動を支援する。
なお、腰部装着部7、連結部8、歩行アシスト部2による歩行支援は、一例であって、更に多関節の駆動機構によって歩行支援するなど、各種の形態が可能である。
【0022】
3軸センサ3は、腰部装着部7に設置され、腰部装着部7の姿勢などを検知する。3軸センサ3は、例えば、3次元ジャイロによる3軸角速度検出機能や3軸角加速度検出機能などを備えており、前進方向、鉛直方向、体側方向の軸の周りの回転角度、角速度、角加速度などを検知することができる。
なお、前進方向の軸の周りの角度をロール角、鉛直方向の軸の周りの角度をヨー角、体側方向の軸の周りの角度をピッチ角とする。
【0023】
3軸アクチュエータ6は、例えば、球体モータで構成されており、撮像カメラ5と光源装置4が設置された撮像ユニット9のロール角、ヨー角、ピッチ角を変化させる。
撮像ユニット9には、光源装置4と撮像カメラ5が固定されており、3軸アクチュエータ6を駆動すると、光源装置4の照射方向(光源装置4の光軸の方向)と撮像カメラ5の撮像方向(撮像カメラ5の光軸の方向)は、相対角度を保ったまま、腰部装着部7に対するロール角、ヨー角、ピッチ角を変化させる。
【0024】
撮像ユニット9で適切な画像を撮像するためには、撮像ユニット9を所定の角度で歩行基準面(地面や床面など、装着者が歩行する歩行面)に向ける必要があるが、装着者が装着型ロボット1を装着した場合に、装着状態によって撮像ユニット9が傾くため、3軸アクチュエータ6によってこれを補正する。
【0025】
光源装置4は、例えば、レーザ、赤外光、可視光などの光を所定の形状パターンで照射する。本実施の形態では、光源装置4は、照射方向に垂直な面に対して円形となる形状パターンで光を照射するものとするが、矩形形状、十字、点など各種の形状が可能である。
【0026】
撮像カメラ5は、被写体を結像するための光学系と、結像した被写体を電気信号に変換するCCD(Charge−Coupled Device)を備えた、赤外光カメラ、可視光カメラなどで構成され、光源装置4が歩行基準面に照射した投影像を撮像(撮影)する。
光源装置4が所定の形状パターンで照射した光による投影像は、照射方向と歩行基準面の成す角度や、歩行基準面に存在する障害物(段差など)により円形から変形した(歪んだ)形状となるが、この形状を解析することにより前方に存在する段差を検知することができる。
【0027】
無線通信装置10は、照明100が発光する光に含まれる踏板情報などの各種情報を検出する。
これにより、装着型ロボット1は、前方にエスカレータ300の乗口が存在すること、あるいは、照明101からの踏板情報により、エスカレータ300の降口が存在することを認識する。踏板の速度、ピッチ、ステップ幅などの踏板自体の情報も併せて認識させてもよい。
【0028】
ここで、無線通信に照明光を用いたのは、情報を受信する箇所を照明領域に限定することができるほか、通常、エスカレータの設置箇所には照明が設置されており、これを利用すると無線通信のための新たな設備投資を低減することができるためである。
なお、照明光を用いず、通常の電波を用いた無線通信とすることも可能である。
【0029】
ナビゲーション装置12は、GPS(Global Positioning Systems)衛星からのGPS信号を受信したり、所定のサーバと通信したりして装着者の現在位置を特定したり、現在位置から目的地までの経路を探索したりなどのナビゲーション機能を有している。
装着型ロボット1は、ナビゲーション装置12によって装着者がエスカレータ300に乗るか否かを検出することも可能である。
【0030】
図2(b)は、装着型ロボット1に設置された装着ロボットシステム15を説明するための図である。
装着ロボットシステム15は、歩行支援機能を発揮するように装着型ロボット1を制御する電子制御システムである。
【0031】
ECU(Electronic Control Unit)16は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、記憶装置、各種インターフェースなどを備えた電子制御ユニットであり、装着型ロボット1の各部を電子制御する。
【0032】
CPUは、記憶媒体に記憶された各種コンピュータプログラムを実行し、装着者がエスカレータ300で歩行を持続するのか否かを推定したり、当該推定結果を用いて歩行アクチュエータ17を駆動して歩行支援を行ったりする。
CPUは、光源装置4、撮像カメラ5、3軸アクチュエータ6、3軸センサ3、無線通信装置10、及びナビゲーション装置12とインターフェースを介して接続しており、光源装置4からの照射をオンオフしたり、撮像カメラ5から撮像データを取得したり、3軸アクチュエータ6を駆動したり、3軸センサ3から検出値を取得したり、無線通信装置10から踏板情報を取得したり、ナビゲーション装置12から装着者の現在位置を取得したりする。
【0033】
ROMは、読み取り専用のメモリであって、CPUが使用する基本的なプログラムやパラメータなどを記憶している。
RAMは、読み書きが可能なメモリであって、CPUが演算処理などを行う際のワーキングメモリを提供する。本実施の形態では、受信した踏板情報を記憶したり、段差までの距離を計算したりするためのワーキングメモリを提供する。
【0034】
記憶装置は、例えば、ハードディスクやEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)などで構成された大容量の記憶媒体を備えており、光源装置4の投影像を解析して階段やエスカレータなどの段差を認識するためのプログラム、歩行支援を行うためのプログラムなどの各種プログラムや、装着型ロボット1の歩行情報をサンプリングにより検出して記憶するためのアーカイブなどを記憶している。
【0035】
歩行アクチュエータ17は、ECU16からの指令に基づいて歩行アシスト部2を駆動する。
装着型ロボット1が、股関節、膝関節、足首関節などを有する多関節の場合は、各関節に歩行アクチュエータ17が備えられており、ECU16は、これらを個別に制御することにより、装着型ロボット1に一体として歩行支援動作を行わせる。
【0036】
図3の各図は、エスカレータ300の乗降口における櫛板40と踏板50の段差を検出する方法を説明するための図である。
図3(a)は、エスカレータ300の乗口での光の照射状態を示した図である。
エスカレータ300の乗口は、櫛板40と、櫛板40の前方かつ櫛板40より低い位置に配設された踏板50を備えている。
櫛板40の先端部分は、平坦部41と、踏板50にかけて形成された傾斜部42を有しており、傾斜部42による段差が形成されている。そして、傾斜部42の先端からは、踏板50が所定速度で繰り出されている。
【0037】
図3(b)は、乗口で撮像カメラ5が撮像した光源装置4の投影像26の画像の一例である。
装着型ロボット1は、光源装置4によって所定形状パターンの光を段差に照射し、撮像カメラ5によって投影された像を撮像する。
本実施の形態では、光源装置4は円形断面の光を前進方向斜め下方に存在する歩行基準面に照射するため、歩行基準面が平面の場合、投影像26は、前進方向を長軸とする楕円形となる。
ところが、投影像26内に段差が存在すると、投影像26が本来あるべき楕円形から歪み、画像認識によって当該歪みを検出することによって段差を検知することができる。
【0038】
図3(b)の例では、傾斜部42による段差によって、櫛板40の傾斜部42の開始位置に対応する位置(画面フレーム31の下端からxピクセルの位置)、及び傾斜部42の先端、即ち、踏板50が繰り出される位置に対応する位置(画面フレーム31の下端からyピクセルの位置)に歪みが生じている。
なお、画面フレーム31において前進する側の端を上端、装着者に近い側の端を下端とし、下端から上端までの距離をzピクセルとする。
【0039】
光源装置4の照射する光は、光源装置4から遠くに離れるに従って広がり、櫛板40の傾斜は、先端にかけて基準面から低くなる方に傾斜しており、踏板50は、櫛板40よりも低い位置に存在する。
そのため、櫛板40の傾斜では、櫛板40の平坦な箇所に比べて投影像26の幅が広がり、踏板50は、櫛板40よりも低い位置にあるため、投影像26の幅は更に広がる。
【0040】
このように、段差によって下に降りる場合は、画面フレーム31の上端側で投影像26の幅が広がる。逆に段差によって上に登る場合は、画面フレーム31の上端側で投影像26の幅が狭まる。
即ち、投影像26の輪郭の歪み(不連続な箇所)によって段差の存在を認識し、投影像26の幅によって、上りの段か下りの段かを判断することができる。
【0041】
図3(c)は、段差までの距離を求める方法を説明するための図である。
撮像カメラ5から、画面フレーム31の下端に対応する位置までの水平距離をC、上端に対応する位置までの水平距離をD、下端から櫛板40の傾斜部42の開始位置までの距離をa、下端から櫛板40の先端部分までの距離をbとする。
すると、画面フレーム31のx、y、zは、a、b、(D−C)に対応するため、これらの比例式から、撮像カメラ5(即ち、装着者の位置)から櫛板40の傾斜部42の開始位置までの水平距離C+aは、次の式(1)で表される。
【0042】
C+a=C+x(D−C)/z … (1)
【0043】
また、撮像カメラ5(即ち、装着者の位置)から櫛板40の先端までの水平距離C+bは、次の式(2)で表される。
これら式(1)、(2)は、記憶装置に格納されており、計算の際にCPUによって読み出される。
【0044】
C+b=C+y(D−C)/z … (2)
【0045】
一般に、エスカレータ300の乗降口の段差が小さいため、上記比例式を用いることができ、また、装着型ロボット1は、照明100によって前方にエスカレータ300の段差が存在することを認識するため、前方の段差に上記比例式を適用する。
なお、式(1)、(2)は、近似式の一例であって、これらと異なる式を用いてもよい。
【0046】
図3(d)は、エスカレータ300の降口での光の照射状態を示した図であり、図3(e)は、降口で撮像カメラ5が撮像した光源装置4の投影像26の画像の一例である。
装着型ロボット1は、降口でも同様にして段差までの距離を計算することができる。
【0047】
図4は、装着型ロボット1がエスカレータ300で行う歩行支援の手順を説明するためのフローチャートである。
以下の処理は、ECU16のCPUが所定のプログラムに従って行うものである。
まず、CPUは、装着者が固定された歩行面を通常歩行している間、装着型ロボット1の各所に取り付けたセンサや歩行アクチュエータ17などの信号をサンプリングして歩行情報(歩幅、歩行ピッチ、歩行速度)をアーカイブに保存する(ステップ5)。
ここで、通常歩行とは、装着者が固定された平地上で行う歩行とする。
【0048】
次に、CPUは、装着者が設備側通信範囲内にいるか否かを判断する(ステップ10)。
CPUは、無線通信装置10によって照明100から送信される踏板情報の受信を試み、受信できた場合は、設備側通信範囲内にいると判断し、受信できない場合は、設備側通信範囲外にいると判断する。
装着者が設備側通信範囲内にいない場合(ステップ10;N)、CPUは、ステップ5に戻る。
【0049】
装着者が設備側通信範囲内にいる場合(ステップ10;Y)、CPUは、装着者がエスカレータ300に乗ったか否かを判断する(ステップ15)。
装着型ロボット1は、撮像ユニット9によってエスカレータ300の乗口における櫛板40と踏板50の段差までの距離を計測し、装着者がこの距離を経過した場合に装着者がエスカレータ300に乗ったと判断する。
【0050】
装着者がエスカレータ300にまだ乗っていないと判断した場合(ステップ15;N)、CPUは、ステップ5に戻る。
装着者がエスカレータ300に乗ったと判断した場合(ステップ15;Y)、CPUは、歩行情報のサンプリング、及び保存を停止する(ステップ20)。
【0051】
装着型ロボット1が記録した歩行情報は、装着者の健康管理のための履歴情報として用いたりなどの各種の利用形態が可能である。
そのため、通常歩行を行っている歩行情報に他の歩容を歩行情報が混在しないように本実施の形態では、エスカレータ300に乗っている間の歩行情報は保存しないこととした。
【0052】
なお、エスカレータ300に乗っている間も歩行情報のサンプリングと保存を継続し、通常歩行の場合とエスカレータ300に乗っている場合を区別するフラグ情報を歩行情報に付与して両者を区別可能としてもよい。
また、エスカレータ300のみならず、階段を乗り降りしているときや、エレベータに乗っているときなど、歩容が行われた状況を区別する情報を歩行情報に付加して、より詳細な情報を収集するように構成することも可能である。
何れにせよ、装着型ロボット1は、エスカレータ300における歩行情報は、降口での通常歩行再開時の歩行支援には使用しない。
【0053】
次に、CPUは、直近の過去t秒間(即ち、エスカレータ300に乗る直前のt秒間)の歩行情報をアーカイブから読み出し、歩幅、歩行ピッチ、歩行速度の平均値を算出してRAMに記憶する(ステップ25)。
なお、より過去の歩行情報を用いてもよいが、装着者の日々の体調変化なども考慮し、直近の値を用いることにした。
【0054】
次に、CPUは、装着者が設備側通信範囲内にいるか否かを判断する(ステップ30)。
CPUは、無線通信装置10によって照明101から送信される踏板情報の受信を試み、受信できた場合は、設備側通信範囲内にいると判断し、受信できない場合は、設備側通信範囲外にいると判断する。
装着者が設備側通信範囲内にいない場合(ステップ30;N)、CPUは、ステップ30で引き続き判断を行う。
【0055】
装着者が設備側通信範囲内にいる場合(ステップ30;Y)、CPUは、装着者がエスカレータ300から降りるか否かを判断する(ステップ35)。
装着型ロボット1は、撮像ユニット9によってエスカレータ300の降口における櫛板40と踏板50の段差までの距離を計測し、装着者がこの距離を経過する場合に装着者がエスカレータ300を降りると判断する。
【0056】
装着者がエスカレータ300をまだ降りていないと判断した場合(ステップ35;N)、CPUは、ステップ30に戻る。
装着者がエスカレータ300を降りると判断した場合(ステップ35;Y)、CPUは、歩行情報のサンプリング、及び保存を再開すると共に(ステップ40)、RAMに記憶した歩幅、歩行ピッチ、歩行速度の平均値を読み出し、歩容がこれら平均値となるように歩行アクチュエータ17を制御する(ステップ45)。
【0057】
なお、装着者が踏板50を歩く場合と踏板50で停止する場合があるが、装着型ロボット1は、装着者が歩く場合は歩行を支援し、停止する場合は直立状態を維持するように支援する。これは、歩く歩道の場合も同様である。
また、実施の形態で説明した制御方法は、通常歩行が何らかの理由によって中断した後、通常歩行を再開する場合に広く適用することができる。
例えば、装着者がエレベータに乗って希望階に到達した後に通常歩行を再開する場合や、装着者が歩道の赤信号で停止した後に青信号で通常歩行を再開する場合に適用することができる。
【0058】
以上に説明した実施の形態により、次の効果を得ることができる。
(1)装着型ロボット1は、歩容が変化する前に、通常歩行の歩容を特定する歩行情報をアーカイブに記録することができる。
(2)装着型ロボット1は、歩容が通常歩行に復帰する際に、歩容変化前の通常歩行の歩行情報を用いて歩行制御を行い、装着者の感じる違和感を低減することができる。
(3)装着型ロボット1は、通常歩行再開時に歩容変化直前の歩行情報を用いることにより、装着者の日々の体調変化に対応した歩行制御を行うことができる。
【0059】
また、以上に説明した実施の形態により、次の構成を提供することができる。
装着型ロボット1は、歩行アシスト部2や連結部8を駆動して装着者の歩行を支援するため、歩行支援対象者(装着者)の足部の動きを制御して歩行を支援する歩行支援手段を備えている。
また、装着型ロボット1は、装着者が通常歩行している場合の足の動きを歩行情報によって取得してアーカイブに記録するため、通常歩行における前記足部の動きを記録する記録手段を備えている。
また、装着型ロボット1は、装着者がエスカレータ300に乗る場合に櫛板40と踏板50の段差までの距離を計測し、装着者が当該距離を超えたことを検出することにより、通常歩行が中断したことを検出するため、前記通常歩行が中断したことを検出する中断検出手段を備えている。
また、装着型ロボット1は、エスカレータ300の降口にて櫛板40と踏板50の段差までの距離を計測し、装着者が当該段差に到達するとき装着者が通常歩行を再開すると判断するため、前記中断した通常歩行の再開を判断する判断手段を備えている。
また、装着型ロボット1は、装着者が通常歩行を再開すると判断した場合に、固定された平坦の歩行面での通常歩行を記録した歩行情報を用いて通常歩行での歩容と同じになるように装着者の歩行支援を再開するため、前記判断手段で通常歩行が再開すると判断された場合に、固定された歩行面で前記記録手段が記録した足部の動きを用いて前記歩行支援手段による歩行の支援を再開する歩行支援再開手段を備えている。
【0060】
また、装着型ロボット1は、エスカレータ300に乗っている間など、歩容が通常から変化している期間の歩行情報は、歩行支援再開に使用しないため、前記歩行支援再開手段は、前記通常歩行が中断してから再開するまでの前記足部の動きの記録は用いない。
【0061】
また、装着型ロボット1は、エスカレータ300に乗る直前のt秒間の歩行情報を用いて歩行支援を再開するため、前記歩行支援再開手段は、前記通常歩行が中断する直前の所定時間に前記記録手段が記録した足部の動きを用いて歩行の支援を再開している。
【0062】
また、装着型ロボット1は、エスカレータ300の乗口で櫛板40と踏板50の段差までの距離を計測することにより装着者が踏板50、即ち移動する歩行面に乗ったことを検知して通常歩行の中断を検出するため、前記中断検出手段は、前記歩行支援対象者が移動する歩行面に乗ったことを検知することにより前記通常歩行の中断を検出している。
また、装着型ロボット1は、降口の櫛板40と踏板50の段差までの距離を計測することによりエスカレータ300の終点、即ち、移動する歩行面の終点に到達したことを判断して通常歩行の歩行支援を再開するため、前記判断手段は、前記歩行支援対象者が前記移動する歩行面の終点に到達したことを判断することにより前記通常歩行が再開すると判断している。
【0063】
また、ECU16の記憶装置には、歩行支援対象者の足部の動きを制御して歩行を支援する歩行支援機能と、通常歩行における前記足部の動きを記録する記録機能と、前記通常歩行が中断したことを検出する中断検出機能と、前記中断した通常歩行の再開を判断する判断機能と、前記判断機能で通常歩行が再開すると判断された場合に、固定された歩行面で記録した足部の動きを用いて前記歩行支援機能による歩行の支援を再開する歩行支援再開機能と、をコンピュータで実現する歩行支援プログラムが記憶されている。
【符号の説明】
【0064】
1 装着型ロボット
2 歩行アシスト部
3 3軸センサ
4 光源装置
5 撮像カメラ
6 3軸アクチュエータ
7 腰部装着部
8 連結部
9 撮像ユニット
10 無線通信装置
12 ナビゲーション装置
15 装着ロボットシステム
16 ECU
17 歩行アクチュエータ
26 投影像
31 画面フレーム
40 櫛板
41 平坦部
42 傾斜部
50 踏板
100〜102 照明
200〜203 位置
300 エスカレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行支援対象者の足部の動きを制御して歩行を支援する歩行支援手段と、
通常歩行における前記足部の動きを記録する記録手段と、
前記通常歩行が中断したことを検出する中断検出手段と、
前記中断した通常歩行の再開を判断する判断手段と、
前記判断手段で通常歩行が再開すると判断された場合に、固定された歩行面で前記記録手段が記録した足部の動きを用いて前記歩行支援手段による歩行の支援を再開する歩行支援再開手段と、
を具備したことを特徴とする歩行支援装置。
【請求項2】
前記歩行支援再開手段は、前記通常歩行が中断してから再開するまでの前記足部の動きの記録は用いないことを特徴とする請求項1に記載の歩行支援装置。
【請求項3】
前記歩行支援再開手段は、前記通常歩行が中断する直前の所定時間に前記記録手段で記録した足部の動きを用いて歩行の支援を再開することを特徴とする請求項1、又は請求項2に記載の歩行支援装置。
【請求項4】
前記中断検出手段は、前記歩行支援対象者が移動する歩行面に乗ったことを検知することにより前記通常歩行の中断を検出し、
前記判断手段は、前記歩行支援対象者が前記移動する歩行面の終点に到達したことを判断することにより前記通常歩行が再開すると判断することを特徴とする請求項1、請求項2、又は請求項3に記載の歩行支援装置。
【請求項5】
歩行支援対象者の足部の動きを制御して歩行を支援する歩行支援機能と、
通常歩行における前記足部の動きを記録する記録機能と、
前記通常歩行が中断したことを検出する中断検出機能と、
前記中断した通常歩行の再開を判断する判断機能と、
前記判断機能で通常歩行が再開すると判断された場合に、固定された歩行面で記録した足部の動きを用いて前記歩行支援機能による歩行の支援を再開する歩行支援再開機能と、
をコンピュータで実現する歩行支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−115313(P2012−115313A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265192(P2010−265192)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】