説明

油揚げ食品およびその製造方法

【課題】 油ちょう後に時間が経っても、揚げたてと同じような、サク味のある良好な食感を維持し、電子レンジで加熱したときにもヒキの強いガミー感のある硬い食感になったり、ベタついたりせずにサク味のある良好な食感を保つことのできる油揚げ食品及びその製法の提供。
【解決手段】 具材を常温で液状を呈する食用油で被覆し、その上にα化されていない穀粉を主体とする蛋白質含量が10〜70質量%及び澱粉含量が30〜90質量%の打ち粉を付着させた後に、衣材を付着させて油ちょうした油揚げ食品およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油揚げ食品およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、具材から揚げ衣への水分移行がなく、油ちょう後に時間が経っても、揚げたてと同じようにサクサクとしていて、サク味のある良好な食感を維持しており、更に電子レンジで加熱したときにも揚げ衣がヒキの強いガミー感のある硬い食感になったり、ベタついたものにならずに、良好な食感を保ちながら加熱できる、高品質の油揚げ食品、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油揚げ食品の代表例としては、具材にいわゆるバッターと称される衣液を付着させて油ちょうしたテンプラ、具材にカラ揚げ粉を付着させて油ちょうしたカラ揚げ、具材に打ち粉を付着させた後に卵液やバッターを付着させ、更にパン粉などのブレッダー粉を付着させて油ちょうしたフライ類(フライ、コロッケ、カツ類)などを挙げることができる。
近年、生活様式の変化や食生活の簡便化などに伴って、前記した油揚げ食品を、家庭でつくらずに、スーパー、コンビニエンスストア、デパートなどの食品売場や惣菜販売店などで購入して、そのまま食したり、電子レンジなどで加熱して食することが多くなっている。
【0003】
テンプラ、カラ揚げ、フライ類などの油揚げ食品は、揚げたてはサクサクとした良好な食感を有しているが、時間が経つとサク味が失われて、ヘタリやベタつきのある不良な食感になり易い。特に、油揚げ後に冷凍せずに、常温、10℃以下の冷蔵温度やチルド温度で保存、流通、販売される非凍結油揚げ食品は、具材に含まれている水分が液状を呈しているため揚げ衣に移行し易く、それによって衣のサク味が失われて、不良な食感になり易い。更に、常温において冷えた油揚げ食品や、冷蔵保存した油揚げ食品を、電子レンジで加熱したときには、揚げ衣がヒキのつよいガミー感のある硬い状態になったり、ベタついた状態になり、食感が大幅に低下したものになり易い。
【0004】
油揚げ食品の具材に含まれる水分が揚げ衣に移行するのを防止して、油揚げ食品を電子レンジなどで加熱したときに生ずる上記した食感の低下を防ぐための技術が従来から提案されている。そのような従来技術としては、
(1)澱粉または澱粉を主体とする穀粉と食用油脂との混合物で具材を被覆し、その上に衣材を付着させた後に油ちょうしたフライ食品(特許文献1を参照);
(2)具材の表面に食用油を常温下で付着させ、それにα化処理した小麦粉よりなる打ち粉をまぶした後、バッター粉、水および食用油を混合した混合乳化液よりなるバッター液を施し、更にその上に特定のパン粉(小麦粉の一部を米粉で置換したパン生地を用いて製造したパンを粉砕して調製したパン粉)をつけて油で揚げた後に冷凍して電子レンジ対応冷凍フライ類を製造する方法(特許文献2を参照);
(3)具材の表面に食用ワックスからなる被膜を形成した後、特定の水分値を有するゲル形成物質(寒天、カラギーナン、澱粉等)のゲル粉砕物を含むバッターを付着させて油ちょうした油ちょう済みフライ食品(特許文献3を参照);
が知られている。
【0005】
しかしながら、上記(1)の従来技術による場合は、澱粉または澱粉を主体とする穀粉と食用油脂との混合物は具材への付着性が良好ではない。しかも、上記(1)の従来のフライ食品では、具材に含まれている水分の揚げ衣への移行阻止が未だ不十分で、油揚げ後に時間が経つと揚げ衣のサク味が低下し易く、しかも電子レンジで加熱したときに引きのつよいガミー感のある食感になったり、ベタついた食感になり易い。
【0006】
また、打ち粉としてα化処理した小麦粉を用いている上記(2)の従来技術によるフライは、揚げ衣と具材との間にネチャツキが生じて油揚げ食品の揚げ衣のサク味が失われ易い。しかも、上記(2)の従来技術は、最表面にパン粉を付着させて油ちょうした、いわゆる冷凍フライ類(冷凍した魚介類のフライ、コロッケ、カツ類など)に係るものであって、打ち粉としてα化処理した小麦粉を使用すると同時に、パン粉として、特殊なパン粉、すなわち小麦粉の一部を米粉で置換したパン生地を用いて製造した特殊なパンから調製したパン粉を用いることを必須にしているため、パン粉の調製や調達に手間や特別の配慮が必要である。そして、本発明者らが、上記(2)の従来技術におけるパン粉を付着させる前までの工程を採用して、具材表面に食用油を常温下で付着し、それにα化処理した小麦粉よりなる打ち粉をまぶした後、バッター液を施し、パン粉を付着させずにそのまま油ちょうして油揚げ食品(テンプラ)を製造してみたところ、それにより得られた油揚げ食品(テンプラ)は、油揚げ後に時間が経つと揚げ衣のサク味が大きく失われ、また該油揚げ食品(テンプラ)を冷蔵保存した後に電子レンジで加熱したときにも衣のひきが強くてガミー感のある不良な食感になることが判明した。
【0007】

また、上記(3)の従来技術では、通常、常温で固体状をなす食用ワックスを用いているために、フライ(油揚げ食品)が冷えたときに、硬い不良な食感になり易い。しかも、具材表面を被覆している食用ワックスは元々離型性に富むものであるため、食用ワックスを被覆した具材には汎用のバッターなどの衣液が付着しにくく、作業性が悪くなる。
【0008】
【特許文献1】特開平7−250628号公報
【特許文献2】特開平8−154598号公報
【特許文献3】特開平11−103791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、油ちょう後に時間が経っても、食感の低下が生じず、サクサクとしてサク味のある良好な食感を維持することのできる油揚げ食品およびその製造方法を提供することである。
さらに、本発明の目的は、常温、冷蔵温度、チルド温度、または冷凍温度で保存した油揚げ食品を電子レンジで加熱した際に、ひきが強くなってガミー感が生じたり、べたついたりせずに、サク味のある良好な食感に仕上げることのできる油揚げ食品およびその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、具材を常温で液状を呈する食用油で被覆し、その上にα化されていない穀粉を主体とする、特定の蛋白質含量および特定の澱粉含量を有する打ち粉を付着させ、次いでそれに衣材を付着させて油ちょうすると、油ちょう後に時間が経っても、食感の低下が生じず、サクサクとしてサク味のある良好な食感を維持することができること、そして常温、冷蔵温度、チルド温度または冷凍温度で保存した後に電子レンジで加熱した際に、ひきが強くなってガミー感が生じたり、べたついたりせずに、サク味のある良好な食感に仕上がる油揚げ食品が得られることを見出した。
さらに、本発明者らは、上記した油揚げ食品において、打ち粉にフラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を含有させると、油ちょう後に時間が経ってもサク味のある良好な食感が一層良好に維持され、かつ電子レンジで加熱したときにひきが強くなってガミー感が生じたり、べたついたりすることが一層円滑に抑制されて、サク味のある一層良好な食感に仕上がることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 具材を常温で液状を呈する食用油で被覆し、その上にα化されていない穀粉を主体とする蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%の打ち粉を付着させた後に、衣材を付着させて油ちょうしたことを特徴とする油揚げ食品である。
【0012】
そして、本発明は、
(2) 打ち粉がフラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を含有する前記(1)の油揚げ食品;
(3) 打ち粉が、打ち粉の全質量に基づいてフラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を5〜60質量%の割合で含有する前記(2)の油揚げ食品;および、
(4) 非凍結製品である前記(1)〜(3)のいずれかの油揚げ食品;
である。
【0013】
さらに、本発明は、
(5) 具材を常温で液状を呈する食用油で被覆した後、その上にα化されていない穀粉を主体とする蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%の打ち粉を付着させ、次いで衣材を付着させて油ちょうすることを特徴とする油揚げ食品の製造方法;
(6) 打ち粉がフラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を含有する前記(5)の油揚げ食品の製造方法;および、
(7) 打ち粉が、打ち粉の全質量に基づいてフラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を5〜60質量%の割合で含有する前記(6)の油揚げ食品の製造方法;
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の油揚げ食品は、油ちょう後に時間が経っても、食感の低下が生じず、サクサクとしてサク味のある良好な食感を維持している。
本発明の油揚げ食品は、常温流通品、冷蔵品、チルド品または冷凍品のいずれであっても、電子レンジで加熱したときに、ひきが強くなってガミー感が生じたり、べたついたりせずに、サク味のある良好な食感に仕上げることができる。
【0015】
特に、本発明の油揚げ食品において、フラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を含有する、α化されていない穀粉を主体とする蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%である打ち粉を用いて製造したもの、および具材に被覆する常温で液状を呈する食用油としてオリーブ油を用いたものは、油ちょう後に時間が経ってもサク味のある良好な食感が一層良好に維持され、かつ電子レンジで加熱したときにひきが強くなってガミー感が生じたり、べたついたりすることが一層円滑に抑制されて、サク味のある一層良好な食感に仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の油揚げ食品は、具材に衣材を付着させて油ちょうして製造される油揚げ食品であればいずれでもよく、代表例としては、最表面の揚げ衣がバッターを用いて形成された油揚げ食品(例えば、テンプラ、アメリカンドッグ、フリッターなど)、カラ揚げ類(特にカラ揚げ粉を水などの液体で溶いた衣液から形成した揚げ衣を有するカラ揚げ類)、最表面の揚げ衣がパン粉などのブレッダー粉から形成されている油揚げ食品(いわゆるフライ類、コロッケ類、カツ類など)を挙げることができる。
そのうちでも、本発明は、最表面の揚げ衣が、穀粉を水やその他の液体で溶いたバッターを用いて形成されたテンプラ、アメリカンドッグ、フリッターなどの油揚げ食品である場合に、本発明の効果、すなわち油ちょう後に時間が経ってもサク味のある良好な食感を維持し、しかも電子レンジで加熱した際にひきが強くなったり、べたついたりせずに、サク味のある良好な食感に仕上がるという効果をより良好に発揮する。
【0017】
本発明の油揚げ食品で用いる具材は、衣材を付着させた後に油ちょうして製造される油揚げ食品で従来から用いられている具材であればいずれでもよく、特に制限されない。本発明の油揚げ食品に用い得る具材の例としては、魚介類、肉類、いも類、豆類、きのこ類なども含めた野菜類、茹で卵、チーズなどの乳製品、前記のものの1種または2種以上を用いて製造された加工食品や半製品(例えばソーセージ、ハム、各種コロッケ用具材、チクワ、カマボコ、フィッシュポーションなど)を挙げることができる。
【0018】
本発明では、まず具材の表面を常温で液状を呈する食用油で被覆する。本発明で用いる食用油は、常温で液状を呈する食用油であればいずれでもよく特に制限されない。本発明で用い得る食用油の具体例としては、サラダ油、オリーブ油、ゴマ油、大豆油、ナタネ油、米油、コーン油、落花生油、サフラワー油、ヒマワリ油、ヤシ油、パーム油、カカオ油、アボカド油、中鎖脂肪酸系油(例えば花王株式会社製「エコナ」など)、乳化剤油脂を含有する株式会社J−オイルミルズ製「フライアップ393」、月島食品工業株式会社製「ゼノア」などを挙げることができる。これらの食用油は、単独で使用してもよいし、または2種以上を混合して使用してもよい。前記した食用油のうちでも、オリーブ油を用いた場合には、油ちょう後に時間が経ってもサク味の低下がより少なくなり、しかも電子レンジで加熱したときに食感の低下のより少ない、高品質の油揚げ食品を得ることができる。
【0019】
具材への食用油の被覆量は、具材の種類、食用油の種類などに応じて調整することができ、一般的には、食用油で被覆する前の具材の質量に対して、2〜40質量%、特に5〜30質量%であることが、食用油を被覆した具材への打ち粉の付着、具材からの揚げ衣への水分の移行防止、具材の風味が良好になり、しかも油揚げ食品が過度に油っぽくならない点から好ましい。
【0020】
具材への食用油の被覆方法は特に制限されず、具材の表面全体に食用油を均一に被覆または付着し得る方法であればいずれでもよく、例えば、具材を食用油中に浸漬する方法、具材の表面に食用油を噴霧やハケ塗りで塗布する方法、具材を食用油を用いて短時間素揚げする方法などを挙げることができ、いずれの方法による場合も、本発明の目的を良好に達成することができる。具材を被覆している食用油は、場合により、具材の表面から具材内部に多少であれば浸透しても構わない。
【0021】
具材を食用油で被覆するために、具材を食用油中に浸漬する場合は、食用油の温度は特に制限されず、例えば室温〜100℃程度の温度を採用することができる。また、食用油中での浸漬時間は具材の種類や食用油の温度などに応じて調整するのがよく、一般的には、1秒〜24時間程度とすることができ、更には2秒〜1時間程度、特5秒〜10分の浸漬時間が、工程性、油過多の防止などの点から好ましく採用される。
必要に応じて、具材の食用油への浸漬を脱気条件下で行ってもよい。
【0022】
また、具材を食用油で被覆するために、具材を食用油を用いて短時間素揚げする場合は、食用油の温度を140〜190℃、特に150〜185℃にして、3〜80秒、特に5〜60秒間素揚げするのがよい。
一般的には、具材を20〜50℃の食用油中に5〜20秒程度浸漬する方法が、簡便で、処理時間が短くて済み、しかも具材の表面全体に食用油を均一に付着できる点から好ましく採用される。
具材への食用油の塗布は、手動で行ってもよいしまたは機械で自動的に行ってもよい。
【0023】
具材に常温で液状を呈する食用油を被覆した後、その上に打ち粉を付着させる。
本発明では、打ち粉として、α化されていない穀粉を主体とする、蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%の打ち粉を使用することが必要である。
そのうちでも、α化されていない穀粉を主体とする、蛋白質含量が15〜50質量%、特に20〜40質量%、および澱粉含量が35〜80質量%、特に40〜70質量%の打ち粉を使用することが好ましい。
かかる打ち粉を使用することにより、食用油を被覆した具材の表面全体に打ち粉を均一に付着させることができ、それによってバッターなどの衣材を具材全体に良好にかつ均一に付着させることができる。しかも、具材と揚げ衣との間に打ち粉に起因するネチャツキが生じず、具材と揚げ衣との結着が良好で、具材の収縮が少なく、油ちょう後に時間が経過しても揚げ衣のサク味が失われず、更に冷えたり、冷蔵したりまたは冷凍した油揚げ食品を電子レンジで加熱したときに、衣のヘタリやべたつキがなく、引きが強くならず、ガミー感のない、サク味のある良好な食感となる油揚げ食品を得ることができる。
【0024】
本発明とは異なり、α化されている打ち粉を用いた場合には、食用油を被覆した具材に打ち粉が均一に付着しにくくなり、しかも具材と揚げ衣との間に打ち粉によるネチャツキが生じたりして、サク味のある油揚げ食品が得られにくくなる。また、α化されていない打ち粉を用いた場合であっても、蛋白質含量および/または澱粉含量が本発明の範囲から外れた打ち粉を用いた場合には、油ちょう後に時間が経つと揚げ衣のサク味が失われ、しかも電子レンジで加熱したときに、揚げ衣のヘタリやべたつキが生じたり、または引きが強くなってガミー感を生じ易い。
【0025】
本発明で用いる打ち粉の主体をなす「α化されていない穀粉」としては、α化されていない、小麦粉、澱粉類、米粉、ライ麦粉、大麦粉、燕麦粉、丸麦粉、ハト麦粉、蕎麦粉、コーンフラワー、ソルガム粉、豆粉などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、α化されていない穀粉としては、α化されていない小麦粉および/または澱粉類が食味の点から好ましく用いられる。
【0026】
蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%の打ち粉としては、蛋白質含量および澱粉含量が前記範囲内にある、蛋白質含量および澱粉含量(以下「二者の値」という)が既知のα化されていない穀粉をそのまま使用してもよいし、二者の値が既知のα化されていない穀粉の複数を、二者の値が本発明で規定する範囲内になるような適当な割合で配合して調製してもよいし、二者の値が既知のα化されていない穀粉に対して蛋白質および/または澱粉を二者の値が本発明で規定する範囲内になるような適当な割合で配合して調製してもよい。
【0027】
そのうちでも、本発明では、打ち粉として、α化されていない汎用の薄力小麦粉(一般に蛋白質含量6〜9質量%、澱粉含量75〜80質量%)、澱粉類(一般に蛋白質含量0〜2質量%、澱粉含量80〜95質量%)、大豆粉(一般に蛋白質含量40〜90質量%、澱粉含量0〜40質量%)、卵白粉(一般に蛋白質含量70〜90質量%、澱粉含量0質量%)、バイタルグルテン(一般に蛋白質含量60〜90質量%、澱粉含量0〜40質量%)などの1種または2種以上を混合して、蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%の範囲になるようにして調製した穀粉が、具材に被覆した食用油の固定化が円滑に行われ、しかも油揚げ食品の食感、食味が良好になる点から好ましく用いられる。
ここで、本発明で用いる打ち粉やその原料粉における二者の値は、以下の方法で測定することができる。
【0028】
[蛋白質含量の測定法]
蛋白質含量は、ケルダール法によって測定した。
具体的には、以下の方法で測定した。
(a) ティケーター社(スエーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、試料を0.5g秤量して入れ、これに分解促進剤[日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」、硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(質量比)]1錠および濃硫酸5mlを加える。
(b) ケルテックオートシステムのケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015 型)を用いて、ダイヤル9または10で1時間分解処理を行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030 型)を用いて、前記で分解処理を行った液体を蒸留および滴定して(測定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料の蛋白質含量(全粗蛋白質含量)を求める。

蛋白質含量(質量%)=(0.14×T×F×N)/S
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用事に測定)
N=窒素蛋白質換算係数[「五訂 日本食品標準成分表」(科学技術庁資源調査会編集)(平成12年12月20日 初版発行)の第12頁の「表7 窒素−たんぱく質換算係数」に記載の係数を採用、因に小麦粉=5.70、米=5.95、そば=6.25、大豆=5.71、乳=6.38]
S=試料の秤取量(g)
【0029】
[澱粉含量の測定法]
澱粉含量は、グルコアミラーゼ−グルコオキシダーゼ法によって測定した。
具体的には、以下の方法で測定した。
試料0.5gを80%熱アルコールで処理して低分子糖を除去し、その試料と純水25mlを三角フラスコに入れ、3分間糊化後、オートクレーブ(130℃、1.8kg/cm2、60分)処理を行う。この処理液に、2M 酢酸緩衝液(pH4.8)2.5mlとメチオレートを0.01%になるように加え、さらに純水を加えて45mlとする。これにグルコアミラーゼ(Aspergillus niger)を加え、60℃で6時間作用させて糖化を行う。試料1mlを採り、グルコースオキシダーゼ法によるグルコースを定量し、澱粉含量を求める。
【0030】
また、本発明で用いる打ち粉は、フラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を含有していてもよい。フラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を含有する、α化されていない穀粉を主体とする蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%である打ち粉を用いて製造した本発明の油揚げ食品は、油ちょう後に時間が経過しても揚げ衣のサク味が一層失われにくくなり、しかも冷えたり、冷蔵したり、冷凍した油揚げ食品を電子レンジで加熱したときに、衣のヘタリやべたつキが一層生じにくくなり、また引きが強くならず、ガミー感のない、サクサクとしたより良好な食感になる。
【0031】
フラクタンは、フルクタンとも称され、フルクトースが十数個以上重合した多糖類である。また、フラクタンには、重合したフルクトースの還元末端にグルコースが結合したものがあるが、本発明ではそのようなフラクタンを用いてもよい。
フラクタンは、フルクトースの重合形式に応じて、イヌリン型(フルクトースがβ2−1結合で重合したもの)とレバン型(フルクトースがβ2−6結合で重合したもの)に大別され、本発明ではイヌリン型とレバン型のいずれもが使用できる。そのうちでも、イヌリン型のフラクタン、特にフルクトースが10〜30個程度結合したイヌリン型のフラクタンが、具材に被覆した食用油の固定化が円滑に行われ、油揚げ食品の食感が優れる点から好ましく用いられる(以下イヌリン型のフラクタンを「イヌリン」という)。
イヌリンは、多糖類の1種で水溶性の食物繊維であり、天然では菊芋、ダリアなどのキク科植物の根茎、チコリーなどに多く含まれている。本発明では、菊芋やチコリーなどの植物から得られたイヌリン、酵素法によりショ糖から製造されたイヌリンなどのいずれもが使用できる。
【0032】
また、トレハロースは、二糖類の1つで、2分子のD−グルコースがその還元性基同士で結合したものである。トレハロースには、α,α−体、α,β−体およびβ,β−体の異性体があるが、本発明ではそれらのいずれもが使用でき、特に天然に由来するα,α−体が入手のし易さの点から好ましく用いられる。
【0033】
フラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を含有する打ち粉を用いる場合は、打ち粉の全質量に基づいて、フラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種の含有量(両者を含有する場合はその合計量)が、5〜60質量%、更には10〜50質量%、特に20〜40質量%にすることが、油揚げ食品の食感の点から好ましい。フラクタンおよび/またはトレハロースの含有量が多くなり過ぎると、具材と揚げ衣との結着性が悪くなり易い。
【0034】
本発明で用いる打ち粉は、上記した成分以外に、必要に応じて、例えば結晶性セルロース粉末、フラクタン以外の食物繊維、糖類、塩類、増粘剤類、調味料類(アミノ酸、有機酸)、膨張剤類、酸性剤類、粉乳類、卵粉類、油脂類、乳化剤類、酵素類、二酸化ケイ素、カルシウム製剤類などの1種または2種以上を本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。
【0035】
具材への打ち粉の付着方法は、常温で液状を呈する食用油を被覆した具材の表面に打ち粉を均一に付着し得る方法であればいずれの方法を採用してもよく、例えば、打ち粉を入れたバットなどの開放した容器に食用油を被覆した具材を入れて転がして付着させる方法、食用油を被覆した具材の表面に打ち粉を散布する方法などを採用することができる。打ち粉の付着は、手で行ってもよいし又は機械により自動的に行ってもよい。
【0036】
食用油を被覆し、打ち粉を付着させた具材に、次いで衣材を付着させる。
衣材としては、一般にバッター(穀粉類などを液体で溶いた液状の衣材)を用いるか、またはバッターとその上に施すパン粉などのブレッダー粉とを組み合わせて用いることができる。
バッターの種類や組成は特に制限されず、テンプラ、カラ揚げ、フライ類(フライ、コロッケ、カツ類など)の製造に従来から用いられているのと同様のものを用いることができる。
限定されるものではないが、バッターは、例えば、小麦粉、米粉、ライ麦粉、大麦粉、燕麦粉、丸麦粉、ハト麦粉、蕎麦粉、コーンフラワー、ソルガム粉、豆粉、澱粉類[馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーン澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉などの澱粉またはこれらの加工澱粉(但しα化澱粉を除く)]などの穀粉類の1種または2種以上を主体とし、これに必要に応じて、動植物性蛋白質、乳化剤、糖類、膨張剤、増粘剤、着色料、香辛料、調味料などの1種または2種以上を添加し、それに水、調味液、卵液、牛乳などの液体成分を加えて溶くことにより調製することができる。
【0037】
バッターの調製に用いる液体成分の量は、穀粉などの固体成分100質量部に対して、一般に50〜300質量部、特に100〜200質量部程度にするのが、バッターの取り扱い性、穀粉を付着させた具材へのバッターの付着性、揚げ衣の外観、食感などの点から好ましい。
また、バッターに乳化剤を配合する場合は、食品に使用可能な乳化剤であればいずれも使用でき、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
具材へのバッターの付着方法は特に制限されないが、表面を食用油で被覆し、その上に打ち粉を付着させた具材を、バッター中に浸漬して付着させる方法が一般的に採用される。しかし、場合によっては、表面を食用油で被覆し、その上に打ち粉を付着させた具材の表面に、ハケ塗りや散布などによってバッター液を付着させてもよい。
具材へのバッターの付着は、手で行ってもまたは機械で自動的に行ってもよい。
【0039】
本発明の油揚げ食品が、テンプラ、アメリカンドッグ、カラ揚げ(バッターが水溶きタイプのカラ揚げ粉を水で溶いたものに相当する場合)である場合は、バッターを付着させた具材を、油ちょうして油揚げ食品を製造する。
油ちょうに用いる揚げ油は特に制限されず、油揚げ食品の製造に従来から用いられている各種の植物性食用油、ラード、ヘットなどの動物性油脂、それらの混合物などを用いることができる。
油ちょう時の揚げ油の温度も特に制限されず、具材や衣材の種類、揚げ油の種類などに応じて適当な温度を選択することができ、一般的には140〜200℃程度の温度が採用されるが、本発明の特徴として、具材を食用油で被覆し、打ち粉でそれを固定化するため、通常よりも強い油ちょう条件を採用した場合にも、具材の成分が油ちょう油中に漏洩したり、具材の水分が過度に蒸発するのを防ぐことができ、しかも衣の水分をよく蒸発させることができる。
【0040】
バッターを付着させた後にそのまま油ちょうするテンプラなどの油揚げ食品は、バッターを付着した後にさらにその上にパン粉などを付着して油ちょうする、いわゆるフライ類(フライ、コロッケ、カツ類など)に比べて、油ちょう後に時間が経つと揚げ衣のサク味が失われ易く、また電子レンジで加熱したときに、揚げ衣のヘタリ、べたつき、ガミー化などがより生じ易い。そのため、本発明は、バッターを付着させた後にそのまま油ちょうするテンプラ、アメリカンドッグ、カラ揚げ、フリッターなどの油揚げ食品において、本発明の効果を一層良好に発揮する。
【0041】
しかし、本発明の油揚げ食品は、それに限定されず、バッターを付着させた後に、更にその上にパン粉などのブレッダー粉を付着させてから油ちょうする、いわゆるフライ類(フライ、コロッケ、カツ類など)などであってもよい。
その場合のブレッダー粉としては、例えば、パン粉、クラッカー、コーンフレークなどの穀物フレークの粗粉砕物、粗粉砕したナッツ類、ゴマ、春雨やビーフンの粗粉砕物などを挙げることができる。パン粉を用いる場合は、生パン粉、セミドライパン粉、ドライパン粉のいずれもが使用できる。
ブレッダー粉を付着させてから油ちょうする場合も、バッターを付着させてそのまま油ちょうする場合と同様の揚げ油を使用して、同様の温度で油ちょうすることにより、各種フライ類(フライ、コロッケ、カツ類など)を製造することができる。
【0042】
本発明の油揚げ食品は、油ちょう後に、非凍結状態(常温、0〜10℃程度の冷蔵温度、チルド温度)で流通販売したり、保存される油揚げ食品として特に好適である。しかしながら、それに限定されず、場合によっては、油ちょう後に冷凍して冷凍油揚げ食品として保存、流通、販売してもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のものに限定されない。以下の例で用いた打ち粉における蛋白質含量および澱粉含量は上記した方法で測定した。
【0044】
《実施例1》
(1) 具材として、殻と背腸を取り除いたエビ(約12g/1匹)を30匹準備した。
(2) 下記の表1に示す材料を表1に示す割合で配合して、蛋白質含量26質量%および澱粉含量61質量%の打ち粉を調製した。
【0045】
【表1】

【0046】
(3) 上記(1)で準備したエビを、常温(25℃)のサラダ油(日清オイリオ株式会社製「日清サラダ油」)に5秒間浸漬した後、取り出して、上記(2)で調製した打ち粉を入れたバット内で転がしてエビの表面全体に打ち粉を均一に付着させた。
(4) 次に、打ち粉を付着したエビを、バッター(薄力粉100質量部、ベーキングパウダー1.5質量部、冷水160質量部を混合して調製)に浸けて表面全体にバッターを付着させた後、温度170℃のサラダ油に入れて3分間油ちょうして、エビテンプラを製造した。
【0047】
(5)(i) 上記(4)で製造した30個のエビテンプラのうち、10個については、揚げたてのものを10名のパネラーが食して下記の表4に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
(ii) 上記(4)で製造した30個のエビテンプラのうち、別の10個については、揚げてから室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後に、上記(i)と同じ10名のパネラーが食して下記の表4に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
(iii) 上記(4)で製造した30個のエビテンプラのうち、残りの10個については、揚げてから室温(25℃、70%RH)下に5分放置して冷まし、それを冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後、冷蔵庫から取り出して電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)して、上記(i)と同じ10名のパネラーが食して下記の表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0048】
《実施例2》
(1) 下記の表2に示す材料を表2に示す割合で配合して、蛋白質24質量%および澱粉含量46質量%の打ち粉を調製した。
【0049】
【表2】

【0050】
(2) 実施例1の(3)において、表1に示した打ち粉の代わりに、表2に示す配合組成を有する打ち粉を用いた以外は、実施例1の(1)および(3)〜(4)と同じ工程を行って、30個のエビテンプラを製造した。
(3) 上記(2)で製造した30個のエビテンプラを10個ずつ3つに区分して、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、実施例1におけるのと同じ10名のパネラーが、下記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0051】
《実施例3》
(1) 下記の表3に示す材料を表3に示す割合で配合して、蛋白質24質量%および澱粉含量46質量%の打ち粉を調製した。
【0052】
【表3】

【0053】
(2) 実施例1の(3)において、表1に示した打ち粉の代わりに、表3に示す配合組成を有する打ち粉を用いた以外は、実施例1の(1)および(3)〜(4)と同じ工程を行って、30個のエビテンプラを製造した。
(3) 上記(2)で製造した30個のエビテンプラを10個ずつ3つに区分して、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、実施例1におけるのと同じ10名のパネラーが、下記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0054】
《実施例4》
(1) 実施例1の(3)において、エビの表面に被覆する食用油としてサラダ油の代わりにオリーブ油(日清フーズ株式会社販売のエクストラバージンオリーブオイル)を用いた以外は、実施例1の(1)〜(4)と同じ工程を行って、30個のエビテンプラを製造した。
(2) 上記(1)で製造した30個のエビテンプラを10個ずつ3つに区分して、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、実施例1におけるのと同じ10名のパネラーが、下記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0055】
《実施例5》
(1) 実施例1の(3)において、エビの表面に被覆する食用油としてサラダ油の代わりにゴマ油(かどや製油株式会社製「かどやの純正ごま油」)を用いた以外は、実施例1の(1)〜(4)と同じ工程を行って、30個のエビテンプラを製造した。
(2) 上記(1)で製造した30個のエビテンプラを10個ずつ3つに区分して、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、実施例1におけるのと同じ10名のパネラーが、下記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0056】
《実施例6》
(1) 実施例1の(3)において、エビの表面に被覆する食用油としてサラダ油の代わりに、大豆白絞油(株式会社J−オイルミルズ製「豊年油」)を用いた以外は、実施例1の(1)〜(4)と同じ工程を行って、30個のエビテンプラを製造した。
(2) 上記(1)で製造した30個のエビテンプラを10個ずつ3つに区分して、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、実施例1におけるのと同じ10名のパネラーが、下記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0057】
《比較例1》
(1) 打ち粉として、α化処理した小麦粉(日清製粉株式会社製「アルファーフラワーP」、蛋白質含量8質量%、澱粉含量80質量%)を用いた以外は、実施例1の(1)および(3)〜(4)と同じ工程を行って、30個のエビテンプラを製造した。
(2) 上記(1)で製造した30個のエビテンプラを10個ずつ3つに区分して、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、実施例1におけるのと同じ10名のパネラーが、下記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0058】
《比較例2》
(1) 打ち粉として、α化していない薄力小麦粉(日清製粉株式会社製「フラワー」、蛋白質含量8質量%、澱粉含量77質量%)を用いた以外は、実施例1の(1)および(3)〜(4)と同じ工程を行って、30個のエビテンプラを製造した。
(2) 上記(1)で製造した30個のエビテンプラを10個ずつ3つに区分して、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、実施例1におけるのと同じ10名のパネラーが下記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0059】
《比較例3》
(1) 具材として、殻と背腸を取り除いたエビ(約12g/1匹)を30匹準備した。
(2)(i) 実施例1の(3)で使用したのと同じサラダ油70質量部を60℃に加熱し、これに湿熱処理澱粉(三和澱粉工業株式会社製「デリカスターH−100」)30質量部を混合してホイッパーを用いて良く分散させた後、冷却水に漬けて30℃まで冷却して、澱粉とサラダ油の混合液(粘度:約150〜300cP)を調製した。
(ii) 上記(i)で調製した澱粉とサラダ油の混合液に、上記(1)で準備したエビを浸けてエビの表面に該混合液を付着させた。
(3) 次に、上記(2)で混合液を付着させたエビを、実施例1の(4)で用いたのと同じバッターに浸けて表面全体にバッターを付着させた後、温度170℃のサラダ油に入れて3分間油ちょうして、エビテンプラを製造した。
(4) 上記(3)で製造した30個のエビテンプラを10個ずつ3つに区分して、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、実施例1におけるのと同じ10名のパネラーにより、下記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0060】
《比較例4》
(1) 具材として、殻と背腸を取り除いたエビ(約12g/1匹)を30匹準備した。
(2)(i) 実施例1の(3)で使用したのと同じサラダ油60質量部を80℃に加熱し、これに蜜蝋(和光純薬工業株式会社製「Bees Wax White Pellets」)40質量部を混合して蜜蝋をサラダ油に溶解させて混合液を調製した。
(ii) 上記(i)で調製したサラダ油と蜜蝋の混合液(温度80℃)に、上記(1)で準備したエビを2分間浸けてエビの表面を該混合液で被覆した。
(3) 上記(2)でサラダ油と蜜蝋の混合液により被覆したエビを、実施例1の(4)で用いたのと同じバッターに浸けて表面全体にバッターを付着させた後、温度170℃のサラダ油に入れて3分間油ちょうして、エビテンプラを製造した。
(4) 上記(3)で製造した30個のエビテンプラを10個ずつ3つに区分して、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、実施例1におけるのと同じ10名のパネラーが、下記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
上記の表6の結果にみるように、実施例1〜6では、具材(エビ)を常温で液状を呈する食用油で被覆し、それにα化されていない穀粉を主体とする蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%の範囲内の打ち粉を付着させた後に、衣材(バッター)を付着させて油ちょうしたことにより、実施例1〜6で得られたエビテンプラ(油揚げ食品)は、油ちょう後に時間が経ってもサクサクとしたサク味に優れる良好な食感を維持している。しかも、実施例1〜6で得られたエビテンプラは、24時間冷蔵保存した後に電子レンジで加熱したときに、サクサクとしていてサク味があり、ひきが少なくてガミー感のない、良好な食感になった。
【0065】
それに対して、比較例1のエビテンプラは、打ち粉としてα化した小麦粉を用いたことにより、油ちょう後に時間が経つとサク味が失われて食感が不良になり、しかも24時間冷蔵保存後に電子レンジで加熱したときに、ひきが強くてガミー感のある、サク味の失われた不良な食感になった。
また、比較例2では、非α化小麦粉よりなる打ち粉を用いたものの、打ち粉(小麦粉)の蛋白質含量が8質量%および澱粉含量が77質量%であって、蛋白質含量が本発明で規定している範囲から外れているために、比較例2で得られたエビテンプラは、油ちょう後に時間が経つとサク味が失われて食感が不良になり、しかも24時間冷蔵保存後に電子レンジで加熱したときに、ひきが強くてガミー感のある、サク味の失われた不良な食感になった。
【0066】
また、比較例3のエビテンプラは、食用油と穀粉(澱粉)を混合した混合液でエビ(具材)を被覆した後に、打ち粉を付着させることなく、バッターをそのまま直接付着して油ちょうしたことにより、油ちょう後に時間が経つとサク味が失われて食感が低下し、さらに24時間冷蔵保存後に電子レンジで加熱したときに、ひきが強くてガミー感のある、サク味の失われた不良な食感になった。
さらに、比較例4のエビテンプラは、食用油(サラダ油)と蜜蝋の混合液でエビ(具材)を被覆した後に、打ち粉を付着させずに、バッターを直接付着させて油ちょうしたことにより、油ちょう後に時間が経つとサク味が失われて食感が低下し、さらに24時間冷蔵保存後に電子レンジで加熱したときに、ひきが強くてガミー感のある、サク味の失われた不良な食感になった。
【0067】
《実施例7》
(1) 澱粉(三和澱粉工業株式会社製のコーンスターチ)(蛋白質含量0質量%、澱粉含量90質量%)、大豆粉(不二製油株式会社製「フジプロ−CA」)(蛋白質含量85質量%、澱粉含量0質量%)および結晶セルロース粉末(旭化成株式会社製「セオラス」)(蛋白質含量0質量%、澱粉含量0質量%)を打ち粉用材料として使用して、これらの穀粉の配合比率を変えて下記の表7に示す蛋白質含量および澱粉含量を有する29種類の打ち粉をそれぞれ調製した。
(2) 実施例4で用いた打ち粉の代わりに、上記(1)で調製したそれぞれの打ち粉を用いた以外は、実施例4の(1)と同様の工程を行ってエビテンプラを製造した。
(3) 上記(2)で製造したエビテンプラについて、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、10名のパネラーが上記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表7に示すとおりであった。
【0068】
【表7】

【0069】
《実施例8》
(1) 実施例1の(3)において、サラダ油にエビを5秒間浸漬する代わりに、オリーブ油を用い、オリーブ油にエビを10秒間、1時間または12時間浸漬するか、或いはオリーブ油をエビの表面にハケで塗るかまたは噴霧した以外は、実施例1の(1)〜(4)と同じ工程を行ってエビテンプラを製造した。
なお、オリーブ油への1時間の浸漬試験では、オリーブ油中にエビを入れた後に、蓋をして容器内の空気を脱気しながら浸漬を行った。
(2) 上記(1)で製造したエビテンプラについて、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を10名のパネラーが、上記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表8に示すとおりであった。
【0070】
【表8】

【0071】
《実施例9》
(1) 実施例1の(3)において、サラダ油にエビを5秒間浸漬する代わりに、大豆白絞油を用いて、エビを下記の表9に示した温度の大豆白絞油で下記の表9に示した時間だけ素揚げし、それ以外は実施例1の(1)〜(4)と同様にして、打ち粉の付着、バッターの付着および油ちょうを行ってエビテンプラを製造した。
(2) 上記(1)で製造したエビテンプラについて、実施例1の(5)の(i)〜(iii)と同様にして、揚げたてのエビテンプラの品質、室温(25℃、70%RH)下に2時間放置した後のエビテンプラの品質、および冷蔵庫(温度5℃)で24時間保存した後に電子レンジ(500W)で加熱(加熱時間10秒/1個)した時の品質を、10名のパネラーが上記の表4または表5に示す評価基準にしたがって点数評価し、10名のパネラーの平均値を採ったところ、下記の表9に示すとおりであった。
【0072】
【表9】

【0073】
上記の表8および表9の結果から、具材に常温で液状を呈する食用油を被覆するに当たっては、具材を食用油に浸漬する方法以外に、具材に食用油をハケで塗ったり、噴霧する方法、または具材を食用油で短時間素揚げする方法を採用した場合にも、本発明の効果が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明により、油ちょう後に時間が経っても、揚げたてと同じように、サクサクとしてサク味のある良好な食感を維持し、更に電子レンジで加熱したときにも揚げ衣がヒキの強いガミー感のある硬い食感になったり、ベタついたものにならずに、良好な食感を維持する油揚げ食品が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
具材を常温で液状を呈する食用油で被覆し、その上にα化されていない穀粉を主体とする蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%の打ち粉を付着させた後に、衣材を付着させて油ちょうしたことを特徴とする油揚げ食品。
【請求項2】
打ち粉がフラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を含有する請求項1に記載の油揚げ食品。
【請求項3】
打ち粉が、打ち粉の全質量に基づいてフラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を5〜60質量%の割合で含有する請求項2に記載の油揚げ食品。
【請求項4】
非凍結製品である請求項1〜3のいずれか1項に記載の油揚げ食品。
【請求項5】
具材を常温で液状を呈する食用油で被覆した後、その上にα化されていない穀粉を主体とする蛋白質含量が10〜70質量%および澱粉含量が30〜90質量%の打ち粉を付着させ、次いで衣材を付着させて油ちょうすることを特徴とする油揚げ食品の製造方法。
【請求項6】
打ち粉がフラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を含有する請求項5に記載の油揚げ食品の製造方法。
【請求項7】
打ち粉が、打ち粉の全質量に基づいてフラクタンおよびトレハロースの少なくとも1種を5〜60質量%の割合で含有する請求項6に記載の油揚げ食品の製造方法

【公開番号】特開2007−143513(P2007−143513A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344932(P2005−344932)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(398012306)日清フーズ株式会社 (139)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【Fターム(参考)】