説明

海藻の乳酸発酵物からなる飼料添加物および飼料

【課題】 病気に対する抵抗性を付与し、かつ、摂餌性がよい飼料添加物および飼料を提供する。
【解決手段】 乳酸発酵した海藻を配合したことを特徴とする飼料添加物。乳酸発酵した海藻は、酵素処理後または酵素処理と同時に乳酸発酵した海藻である。酵素は、セルラーゼおよび/またはペクチナーゼである。海藻は、褐藻類である。海藻は、レッソニア、エクロニアおよび/または昆布である。摂餌による抗病性の付加作用を利用するためのものである。上記いずれかの飼料添加物を添加した飼料。飼料は、養魚用飼料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病気に対する抵抗性を付与し、かつ、摂餌性がよい飼料添加物およびそれを添加した飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖業においては魚病による養殖魚の死亡は致命的な損害になることも多く、重大な問題である。例えば、マダイは養殖魚の代表的な魚種であるが、イリドウイルス症などの魚病の発生により安定生産ができないこともある。安定した養殖ができるよう種苗、飼料、ワクチンなどの工夫がされている。
特許文献1には「ワカメやマコンブ、アラメ等の海藻類の抽出物を含有し、甲殻類、魚類、その他の脊椎動物、及びヒトの免疫機能活性化、感染症やアトピー性皮膚炎等の皮膚病、アレルギー性疾患の予防・治療効果、並びに抗腫瘍効果を発現することを特徴とする、動物・ヒト用免疫賦活調整剤。」が記載されており、ワカメ等から抽出したラミナランとガラクトース含有多糖の混合物が有効であると記載されている。
特許文献2には「デキストラン発酵副産物を添加したことを特徴とするタイ用飼料。」が記載されており、デキストラン発酵副産物を添加することによりタイの成長を改善し、飼料効率を高まると記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−12552号
【特許文献2】特開2002−101827号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、病気に対する抵抗性を付与し、かつ、摂餌性がよい飼料添加物および飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記(1)〜(5)の飼料添加物を要旨とする。
(1)乳酸発酵した海藻を配合したことを特徴とする飼料添加物。
(2)乳酸発酵した海藻が、酵素処理後または同時に乳酸発酵した海藻である上記(1)の飼料添加物。
(3)酵素が、セルラーゼおよび/またはペクチナーゼである上記(2)の飼料添加物。
(4)海藻が、レッソニアおよび/またはエクロニアである上記(1)、(2)または(3)の飼料添加物。
(5)摂餌による抗病性の付加作用を利用するためのものである上記(1)ないし(4)のいずれかの飼料添加物。
【0006】
また、本発明は、下記(6)〜(7)の飼料を要旨とする。
(6)上記(1)ないし(5)のいずれかの飼料添加物を添加した飼料。
(7)飼料が、養魚用飼料である上記(6)の飼料。
【発明の効果】
【0007】
本発明の飼料添加物または飼料は、養殖魚等に摂餌させることにより抗病性を付加することができる。天然物であるから安全性が高い。海藻を添加するのでは成長率に影響があるが、乳酸発酵物にすることにより成長に影響しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の乳酸発酵の対象となる海藻は、褐藻類、緑藻類、紅藻類の海藻である。特に褐藻類が好ましい。レッソニアは、褐藻類、異型世代亜網、コンブ目、レッソニア科、レッソニア属のL.fuscencesである。チリ等で生産され、乾燥粉末として輸入されている。エクロニアは、褐藻類、異型世代亜網、コンブ目、コンブ科、カジメ属のE.maximaである。南アフリカ等で生産され、乾燥粉末として輸入されている。海藻は乾燥粉末が取り扱いやすいが、生のままでも良いし、形状も原型を細断して使用することもできる。これらの他、ワカメ、コンブ、アラメ、アスコフィラム等の大量に入手できる海藻を使用することもできる。
【0009】
海藻を乳酸発酵する程度は、pHが6以下、好ましくはpH4〜5以下になるように発酵する。乳酸発酵する前に、酵素処理するのが好ましい。酵素による発酵は乳酸発酵を促進し、短時間で発酵できるようにするのが目的である。セルラーゼ、ペクチナーゼ等の酵素処理をする。酵素処理の程度は、海藻の表面が溶けた程度から原型がなくなり単細胞化する程度までが許容される。海藻の種類により、また、海藻の形状によって調節する。
具体的には、細かく裁断された海藻、あるいは粉末状の海藻に適量の水を添加し、セルラーゼ等の酵素処理した後、乳酸発酵させる。あるいは、酵素処理と乳酸発酵を同時に行ってもよい。
乳酸発酵に用いる乳酸菌は、一般に食品、飼料分野で使用される乳酸菌を用いることができる。ラクトコッカス・ラクテス等のラクトコッカス属、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ブレビス等のラクトバチルス属に属する乳酸菌が例示される。
【0010】
本発明の乳酸発酵した海藻は飼料に1〜30%程度、好ましくは5〜20%程度添加するのがよい。
【0011】
乳酸発酵した海藻を添加することにより抗病性を付与することができ、摂餌性も高くなる。したがって、乳酸発酵した海藻を配合した本発明の飼料添加物および飼料添加物を添加した飼料は、摂餌による抗病性の付加作用を利用するためのものである。本発明の飼料添加物あるいはそれを添加した飼料は、海藻を食する魚類、動物用飼料とされるが、特に養魚用飼料に適している。
【0012】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
[海藻の乳酸発酵物の製造]
海藻としてレッソニアおよびエクロニアを用い、乳酸菌L.plantarum(東亜薬品工業(株)製、製品名:LP菌末トーア)および酵素のセルラーゼ(ヤクルト薬品工業製、製品名:セルラーゼ3S)、ペクチナーゼ(アマノエンザイム製、製品名:ペクチナーゼGアマノ)を添加し、海藻の10倍量の水を加えた後、良く撹拌して10℃で約1ヶ月乳酸発酵させた。乳酸菌および酵素の添加量は、乾燥した海藻重量に対し乳酸菌が8%、酵素のセルラーゼが1.5%、ペクチナーゼが0.35%。
【実施例2】
【0014】
[方法]
試験用飼料として、表1のコントロール区に示した標準組成の飼料から、タンパク源となる原料のホワイトミール、ブラウンミールおよびオキアミミールをほぼ一定の比率で、飼料全体の1割削減し、その減らした部分を海藻またはそれらの乳酸発酵物で置き換えたものを作成した。
飼料の作製は、全ての原料を良く混合した後、適宜水を添加し、φ2.5mmのダイスをつけたペレッターに3回通し成形した。そして、この飼料は製造後、直ちに冷凍保存し、試験まで−20℃のストッカーで保存した。各飼料の飼料組成(乾燥重量)は表2のとおりである。
各区100Lパンライト水槽3基に、平均体重約24gのマダイ稚魚を各20尾収容し、注水を1000ml/分、微通気とし、毎日1回飽食給餌とし60日間の試験を行った。なお試験期間中の水温は、16.0〜21.5℃であった。試験水槽の底掃除は週に2回行った。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
[結果]
平均体重では、海藻乳酸発酵物を添加した試験区はコントロールと同等の結果となり、海藻を単独で添加した、レッソニア添加区、エクロニア添加区は他の区に比較して劣る結果となった。また飼料効率(体重増加量/給餌量)はコントロール区が最も高い結果となった(表3)。
海藻を乳酸発酵させた試験区の成長が、コントロール区と比較して同等かそれ以上だった要因としては、摂餌量の向上が上げられる。表2に示したように海藻乳酸発酵物を添加した飼料は粗タンパク含量が低いので飼料効率はコントロール区よりも低いが、日間給餌率(1日1尾当りの給餌量/1尾当りの平均体重)は高くなっている。何らかの摂餌誘引効果があったと考えられる。
【0018】
【表3】

【実施例3】
【0019】
イリドウイルス攻撃試験:
[方法]
各区200Lパンライト水槽3基を用い、ウイルス原液を打注した平均体重32.9±3.2gのマダイ稚魚を各槽50尾ずつ収容した。そして注水を1000ml/分、毎日2回飽食給餌とし、25日間の飼育を行い斃死状況を観察した。なお試験期間中の水温は、25℃に保持した(試験開始9日目に豪雨の影響から断水し加温が停止したため水温が20℃に低下した。11日目に22℃、12日目に25℃に復旧させた。)。また、攻撃に用いたイリドウイルス原液の力価及び接種量は、105.8TCID50/mlおよび50μlとした。
[結果]
試験結果を表4、生残率の推移を図1に示した。海藻添加飼料でも生残率が向上する効果が見られたが、海藻乳酸発酵物添加区ではコントロール区と比較して有意に生残率が向上した。
【0020】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0021】
天然物である海藻の乳酸発酵物は安全性が高い飼料添加物であり、飼料に魚粉の代替品として添加することにより、成長性に影響することなく、抗病性を付加する飼料を提供することができる。魚粉の代替品として使用できる。また、病気に対する抵抗性を高め、抗生物質等の使用を抑制することができる
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例2の各群のマダイの生残率を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸発酵した海藻を配合したことを特徴とする飼料添加物。
【請求項2】
乳酸発酵した海藻が、酵素処理後または酵素処理と同時に乳酸発酵した海藻である請求項1の飼料添加物。
【請求項3】
酵素が、セルラーゼおよび/またはペクチナーゼである請求項2の飼料添加物。
【請求項4】
海藻が、褐藻類である請求項1、2または3の飼料添加物。
【請求項5】
海藻が、レッソニア、エクロニアおよび/または昆布である請求項1、2または3の飼料添加物。
【請求項6】
摂餌による抗病性の付加作用を利用するためのものである請求項1ないし5のいずれかの飼料添加物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかの飼料添加物を添加した飼料。
【請求項8】
飼料が、養魚用飼料である請求項7の飼料。


【図1】
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【公開番号】特開2006−50915(P2006−50915A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233577(P2004−233577)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(395008506)ニューフード・クリエーション技術研究組合 (5)
【Fターム(参考)】