減衰力調整式緩衝器
【課題】減衰力調整式油圧緩衝器において、圧力制御弁の応答遅れ及び弁体の自励振動の発生を防止する。
【解決手段】シリンダ内のピストンの摺動によって生じる環状油路21とリザーバ4との間に生じる油液の流れを背圧型のメインバルブ27及び圧力制御弁28によって制御して減衰力を発生させる。圧力制御弁28によって直接減衰力を発生させると共に、背圧室53の内圧を調整してメインバルブ27の開弁圧力を制御する。圧力制御弁28は、弁体56とプランジャ34との間に弁バネ57を介装し、弁体56の質量をプランジャ34の質量よりも充分小さくし、弁バネ57のバネ剛性をプランジャバネ36のバネ剛性よりも高くする。これにより、弁体56の応答性を高めて減衰力制御の応答遅れを防止し、また、弁体56の固有振動数を高めて自励振動の発生を防止することができる。
【解決手段】シリンダ内のピストンの摺動によって生じる環状油路21とリザーバ4との間に生じる油液の流れを背圧型のメインバルブ27及び圧力制御弁28によって制御して減衰力を発生させる。圧力制御弁28によって直接減衰力を発生させると共に、背圧室53の内圧を調整してメインバルブ27の開弁圧力を制御する。圧力制御弁28は、弁体56とプランジャ34との間に弁バネ57を介装し、弁体56の質量をプランジャ34の質量よりも充分小さくし、弁バネ57のバネ剛性をプランジャバネ36のバネ剛性よりも高くする。これにより、弁体56の応答性を高めて減衰力制御の応答遅れを防止し、また、弁体56の固有振動数を高めて自励振動の発生を防止することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のサスペンション装置等に装着される減衰力調整式緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のサスペンション装置に装着される減衰力調整式緩衝器は、一般に、油液を封入したシリンダ内にピストンロッドを連結したピストンを摺動可能に嵌装してシリンダ内を2室に画成し、シリンダ内のピストンの摺動によって生じる油液の流れをオリフィス、ディスクバルブ等からなる減衰力発生機構によって制御して減衰力を発生させ、また、流量制御弁、圧力制御弁等を用いて減衰力発生機構の流通抵抗を変化させることにより減衰力を調整するようになっている。
【0003】
この種の減衰力調整式緩衝器においては、例えば特許文献1に記載されているように、減衰力発生機構であるディスクバルブの背部に背圧室を形成し、この背圧室を固定オリフィスを介して上流側のシリンダ室に接続し、また、圧力制御弁(ソレノイドバルブ)を介して下流側のシリンダ室に接続する構成としたものがある。
【0004】
このように構成したことにより、圧力制御弁によって油液の流通抵抗を直接調整するとともに、背圧室の内圧を調整してディスクバルブの開弁圧力を調整することができるので、減衰力特性の調整範囲を広くすることができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような減衰力調整式緩衝器では、次のような問題がある。例えば、自動車等の車両のサスペンション制御装置に装着して、車両の走行状態に応じてコントローラからの制御信号によって減衰力制御を実行する場合、圧力制御弁(ソレノイドバルブ)のプランジャの慣性等によって応答遅れが生じて、減衰力制御がオーバーシュートしたり、また、圧力制御弁の弁体の自励振動によって異音が発生したりすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−12534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、圧力制御弁の応答遅れ及び弁体の自励振動の発生を防止するようにした減衰力調整式緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装されたピストンと、一端が前記ピストンに連結され他端が前記シリンダの外部へ延出されたピストンロッドと、前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させ、開弁圧力を調整可能な圧力制御弁とを備えた減衰力調整式緩衝器において、
前記圧力制御弁は、弁体と、該弁体を軸方向一方側に付勢して開弁圧力を調整するプランジャと、前記弁体と前記プランジャとの間に介装された弁バネと、前記プランジャまたは前記弁体を軸方向他方側に付勢するメインバネとを備え、前記弁体は、前記プランジャよりも質量が小さく、前記弁バネは、前記メインバネよりもバネ剛性が高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る減衰力調整式緩衝器によれば、弁体の応答性を高め、減衰力制御の応答遅れを防止することができ、また、弁体の固有振動数を高くして、自励振動の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力発生機構を拡大して示す縦断面図である。
【図2】図1に示す減衰力発生機構の圧力制御弁の弁バネを示す正面図である。
【図3】図1に示す減衰力発生機構の圧力制御弁の弁バネの変形例を示す正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の縦断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力発生機構の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態の他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の更に他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態の更に他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態の更に他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態の更に他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の圧力制御弁のシート面及びシート部を拡大して示す縦断面図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力特性を示すグラフ図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力発生機構の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図4に示すように、本実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器1(減衰力調整式緩衝器)は、シリンダ2の外側に外筒3を設けた二重筒構造となっており、シリンダ2と外筒3との間にリザーバ4が形成されている。シリンダ2内には、ピストン5が摺動可能に嵌装されており、このピストン5によってシリンダ2内がシリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bとの2室に画成されている。ピストン5には、ピストンロッド6の一端がナット7によって連結されており、ピストンロッド6の他端側は、シリンダ上室2Aを通り、シリンダ2及び外筒3の上端部に装着されたロッドガイド8およびオイルシール9に挿通されて、シリンダ2の外部へ延出されている。シリンダ2の下端部には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを区画するベースバルブ10が設けられている。
【0012】
ピストン5には、シリンダ上下室2A、2B間を連通させる油路11、12が設けられている。そして、油路11には、シリンダ下室2B側からシリンダ上室2A側への油液の流通のみを許容する逆止弁13が設けられ、また、油路12には、シリンダ上室2A側の油液の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをシリンダ下室2B側へリリーフするディスクバルブ14が設けられている。
【0013】
ベースバルブ10には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを連通させる油路15、16が設けられている。そして、油路15には、リザーバ4側からシリンダ下室2B側への油液の流通のみを許容する逆止弁17が設けられ、また、油路16には、シリンダ下室2B側の油液の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをリザーバ4側へリリーフするディスクバルブ18が設けられている。シリンダ2内には油液が封入されており、リザーバ4内には油液及びガスが封入されている。
【0014】
シリンダ2には、上下両端部にシール部材19を介してセパレータチューブ20が外嵌されており、シリンダ2とセパレータチューブ20との間に環状油路21が形成されている。環状油路21は、シリンダ2の上端部付近の側壁に設けられた油路22によってシリンダ上室2Aに連通されている。セパレータチューブ20の側壁には、小径の開口23が設けられ、また、外筒3の側壁には、開口23と略同心に大径の開口24が設けられており、外筒3の側壁の開口24に減衰力発生機構25が取付けられている。
【0015】
減衰力発生機構25について、図1乃至図3を参照して説明する。図1に示すように、円筒状のケース26の一端部が開口24に挿入されて溶接によって固定されている。ケース26内には、パイロット型(背圧型)のメインバルブ27及び圧力制御弁28(ソレノイドバルブ)が一体化されたバルブユニット30が挿入されて、ナット31によって固定されている。
【0016】
バルブユニット30は、ナット31によってケース26に固定されるソレノイドケース32を備えている。ソレノイドケース32の外側端部には、軸方向に沿ってガイドボア33が形成されている。ガイドボア33には、プランジャ34が摺動可能に案内され、更に、コイル35(ソレノイド)、メインバネとしてのプランジャバネ36(圧縮コイルバネ)が収容されており、コア37が嵌合され、カシメによってソレノイドケース32に固定されることにより、コイル35を固定すると共に、プランジャバネ36の一端部を支持している。コイル35には、通電用のリード線38が接続されて外部へ延出されている。
【0017】
ソレノイドケース32の内側端部には、ガイドボア33と同心の通路ボア39が形成されており、ガイドボア33と通路ボア39とが小径のポート40を介して連通されている。ソレノイドケース32の内側端部には、有底円筒状のガイド部材41及び有底円筒状のバルブ部材42がこの順で配置され、段付円筒状の通路部材43の一端部がバルブ部材42及びガイド部材41の底部に挿通され、その先端部が通路ボア39にねじ込まれて、これらが一体に結合されている。通路部材43の中間の大径部44がバルブ部材42に嵌合されてバルブ部材42の内部に室45が形成されている。通路部材43の他端部は、セパレータチューブ20の開口23に嵌合されて、通路部材43の内部の軸方向油路46の一端部が環状油路21に連通されている。軸方向通路46の中間部には固定オリフィス47(導入オリフィス)が設けられている。
【0018】
バルブ部材42の底部には、複数の油路49が設けられ、底部の外側端面には、油路49の外周側に環状の弁座50が突出されている。バルブ部材42とガイド部材41との間に、複数枚積層されたディスクバルブ51(メインバルブ)の内周部がクランプされており、ディスクバルブ51の外周部が弁座50に着座している。また、ディスクバルブ51の背面には、環状のシール部材52が固着されており、シール部材52がガイド部材41の円筒部の内周面に液密的かつ摺動可能に嵌合されて、ガイド部材41の内部に背圧室53が形成されている。そして、ディスクバルブ51は、油路49の油液の圧力を受けて撓んで弁座50から離座(開弁)して、バルブ部材42内の室45をケース26内の室48(外筒3の開口24によってリザーバ4に連通されている。)に連通させる。そして、ディスクバルブ51と背圧室53とでパイロット型(背圧型)の減衰弁を形成しており、背圧室53の内圧がディスクバルブ51の閉弁方向に作用するようになっている。バルブ部材42の軸方向油路46の固定オリフィス47の上流側は、通路部材43に設けられた油路54によってバルブ部材42内の室45に連通され、また、固定オリフィス47の下流側は、径方向油路55を介して背圧室53に連通されている。
【0019】
プランジャ34の先端部には、ポート40を開閉する弁体56が軸方向に移動可能に支持されており、弁体56は、弁バネ57(板バネ)によって弾性的に支持されている。弁体56は、大径の頭部58と小径の軸部59とからなる段付形状で、頭部58にはガイドボア33内のポート40の周縁部のシート面60に着座する環状のシート部61が突出されている。また、軸部59は、プランジャ34の中心部に貫通されたガイド孔62に摺動可能に挿入されている。
【0020】
そして、弁体56の頭部58には、環状のシート部61の内周部直近に、ポート40に対向してポート40とほほ同径の凹部80が形成され、これにより、環状のシート部61のシート面60に着座する先端部の径方向の幅が充分小さくなっている。
【0021】
図2に示すように、弁バネ57は、略円形の当接部63に弁孔63Aが設けられ、当接部63からプランジャ34の直径方向に脚部64が延ばされている。そして、弁体56は、軸部59が弁孔63Aに挿通され、頭部58が当接部63に当接し、脚部64の先端部がプランジャ34の先端外周縁部に突出された環状のバネ受部65に当接して、プランジャ34に軸方向に移動可能に弾性的に支持されている。なお、弁バネ57の脚部64は、図3に示すように、放射状に複数(図示の例では等間隔で3つ)配置するようにしてもよい。
【0022】
ポート40と弁体56とで圧力制御弁28を形成しており、弁体56は、ポート40内の油液の圧力が所定圧力に達すると開弁し、その開弁圧力はプランジャバネ36のバネ力及びソレノイドの推力すなわちコイル35への通電電流に応じて調整されるようになっている。ガイドボア33は、ソレノイドケース32に形成された油路66を介して室48に連通されている。プランジャ34には、その両端に形成された室を互いに連通させる絞り通路67が設けられており、その移動に適度な減衰力を作用させるようになっている。
【0023】
弁バネ57のバネ剛性は、プランジャバネ36のバネ剛性よりも高く、また、弁体56の質量は、プランジャ34の質量よりも充分小さく、弁体56の固有振動数が充分高く設定されている。
【0024】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
減衰力調整式油圧緩衝器1は、自動車等の車両のサスペンション装置に対して、シリンダ2側がバネ下側に連結され、ピストンロッド6側がバネ上側に連結され、また、コイル35のリード線38がコントローラ(図示せず)に接続される。
【0025】
ピストンロッド6の伸び行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が閉じ、ディスクバルブ14の開弁前には、シリンダ上室2A側の油液が加圧されて、油路22及び環状油路21を通り、セパレータチューブ20の開口23から減衰力発生機構25の軸方向油路46へ流れる。そして、メインバルブ27のディスクバルブ51の開弁前においては、油液は、固定オリフィス47、通路ボア39及びポート40を通り、圧力制御弁28の弁体56を開弁させてガイドボア33へ流れ、更に、油路66及び室48を通ってリザーバ4へ流れる。そして、バルブ部材42の室45内の圧力がディスクバルブ51の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ51が開弁して、油液が軸方向油路46の固定オリフィス47の上流側から油路54、油室45及び油路49を通って室48へ流れる。
【0026】
このとき、ピストン5が移動した分の油液がリザーバ4からベースバルブ10の逆止弁17を開いてシリンダ下室2Bへ流入する。なお、シリンダ上室2Aの圧力がピストン5のディスクバルブ14の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ14が開いて、シリンダ上室2Aの圧力をシリンダ下室2Bへリリーフすることにより、シリンダ上室2Aの過度の圧力の上昇を防止する。
【0027】
ピストンロッド6の縮み行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が開き、ベースバルブ10の油路15の逆止弁17が閉じて、ディスクバルブ18の開弁前には、ピストン下室2Bの油液がシリンダ上室2Aへ流入し、ピストンロッド6がシリンダ2内に侵入した分の油液がシリンダ上室2Aから、上記伸び行程時と同様の経路を通ってリザーバ4へ流れる。なお、シリンダ下室2B内の圧力がベースバルブ10のディスクバルブ18の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ18が開いて、シリンダ下室2Bの圧力をリザーバ4へリリーフすることにより、シリンダ下室2Bの過度の圧力の上昇を防止する。
【0028】
これにより、ピストンロッド6の伸縮行程時共に、メインバルブ27の開弁前(ピストン速度低速域)においては、固定オリフィス47および圧力制御弁28によって減衰力が発生し、メインバルブ27の開弁後(ピストン速度高速域)においては、その開度に応じて減衰力が発生する。そして、コイル35への通電電流によって圧力制御弁28の開弁圧力を調整することにより、ピストン速度にかかわらず、減衰力を直接制御することができる。このとき、圧力制御弁28の開弁圧力によって背圧室53の内圧が調整されるので、メインバルブ27の開弁圧力を同時に調整することができ、これにより、減衰力特性の調整範囲を広くすることができる。
【0029】
このとき、圧力制御弁28では、弁バネ57のバネ剛性がプランジャバネ36のバネ剛性よりも高く設定され、また、弁体56の質量がプランジャ34の質量よりも充分小さく、弁体56の固有振動数が充分高く設定されているので、プランジャ34の慣性による応答遅れが生じにくく、オーバーシュートを防止して適切な減衰力制御を行なうことができる。そして、ポート40の圧力が急激に上昇した場合には、弁バネ57が撓んで軽量の弁体56のみが後退して、開弁した後、プランジャ34が追従して後退するので、圧力制御弁28の開弁遅れによって背圧室53の圧力が過度に上昇することがなく、安定した減衰力制御を行なうことができる。また、弁体56の固有振動数が充分高く設定されているので、自励振動による異音の発生及び減衰力が不安定になるのを防止することができる。
【0030】
また、圧力制御弁28では、弁体56の頭部58に環状のシート部61を設けたことにより、開弁時の流路面積を大きくすることができ、ソフト側の減衰力の調整範囲を広くすることができる。これに対して、例えば特開平7−259918号公報に記載されているように、圧力制御弁として、ニードル弁を使用した場合には、開弁時に大きな流路面積が得られないので、ソフト側の減衰力を充分小さくすることは困難である。
【0031】
図12を参照して、圧力制御弁28では、開弁時に、ポート40からガイドボア33内へ流出する高速の油液の流れにより、弁体56に閉弁方向の流体力が作用することになる。この流体力により、弁体56の開弁圧力が上昇してソフト側の減衰力が大きくなったり、また、流体力がピストン速度及び弁体56の開度によって変動することにより、圧力制御弁28による減衰力制御が不安定になり、また、弁体56が振動してチャタリングが発生したりするという問題を生じる。したがって、例えば特開平11−287281号公報に記載されているように、圧力制御弁としてディスクバルブを使用した場合には、このような流体力の影響が問題となる。
【0032】
これに対して、環状のシート部61の内周部直近に凹部80を形成したことにより、流体力が作用するシート部61の先端部の受圧面積Aを充分小さくすることができ、流体力の影響を軽減して、ソフト側の減衰力を充分小さくし、また、圧力制御弁28による減衰力制御を安定させることができる。このように環状のシート部61の内周部直近に凹部80を形成することが望ましいが、環状のシート部61から凹部80の底面に向けて例えばなだらかなテーパー部であってもディスクバルブを使用するよりはチャタリング等の問題を低減することができる。
【0033】
減衰力調整式油圧緩衝器1の減衰力特性を図13に示す。図13に示すように、減衰力調整式油圧緩衝器のソフトからハードの減衰力特性の調整範囲Rは、従来のものの調整範囲rに対して広くなっている。
【0034】
なお、上記実施形態は、メインバルブ27及び圧力制御弁28が一体化されたバルブユニット30をシリンダ2の側部のケース26内に配置して、環状油路21とリザーバ4との間の油液の流れを制御して減衰力を発生させるようにしているが、バルブユニット30をピストン5あるいはベースバルブ10に配置して、適宜その油路の油液の流れを制御して減衰力を発生させるようにしてもよい。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態について、図5乃至図11を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0036】
図5は、本実施形態の要部である減衰力発生機構25の圧力制御弁28の部分を拡大して示している。図5に示すように、本実施形態では、圧力制御弁28を形成するポート40、弁体56の頭部58、軸部59及びシート部61の径がそれぞれ上記第1実施形態のものよりも大きくなっている。また、弁体56には、その軸方向に沿って弁体連通路70が貫通されている。プランジャ34のガイド孔62の後端部には、管状のガイドピン71が圧入、固定されてプランジャ34の後部に突出している。ガイドピン71には、その軸方向に沿って連通路72が貫通されている。コア37には、ガイドピン71に対向させてガイド穴73が設けられ、ガイドピン71がガイド穴73に摺動可能かつ液密的に挿入されて、ガイド穴73内に弁体背圧室74が形成されている。
【0037】
そして、圧力制御弁28の閉弁時、すなわち、弁体56のシート部61がシート面60に着座した状態において、弁体背圧室74は、ガイドピン71の連通路72、プランジャ34のガイド孔62及び弁体56の弁体連通路70を介してポート40に連通する。したがって、ポート40に対する弁体56の受圧面積は、シート61の内側の面積から軸部59の断面積を差引いた面積となる。
【0038】
これにより、弁体56は、シート部61の径だけでなく、軸部59の径によってポート40に対する受圧面積を調整することができるので、圧力制御弁28の開弁特性の設定の自由度、延いては減衰力発生機構25の減衰力特性の設定の自由度を高めることができる。
【0039】
例えば、ポート40の径を大きくして、弁体56の開弁時のソフト側の減衰力が充分小さくなるように設定した場合でも、軸部59の径を大きくすることにより、弁体56の受圧面積を小さくすることができるので、大きなプランジャ34の推力を必要とすることなく、圧力制御弁28の開弁圧力を高めてハード側の減衰力を大きくすることができる。
【0040】
また、本実施形態では、図12に示すように、圧力制御弁28の弁体58は、シート部61の内周部の凹部80の側壁80Aをシート面61に対して略垂直とし、外周側をテーパ状に形成して、ポート40からガイドボア33内に流出する油液の流れにによる流体力に対して、シート部61の先端部の受圧面積Aを充分小さくすると共に、流体力が作用しにくい形状としているので、流体力の影響を効果的に軽減して、ソフト側の減衰力を充分小さくし、また、圧力制御弁28による減衰力制御を安定させることができる。
【0041】
次に、上記第2実施形態の変形例について、図6乃至図11を参照して説明する。
図6に示す変形例では、上記第2実施形態において、ガイドピン71がプランジャ34と一体に形成されている。これにより、部品点数を削減することができる。
【0042】
図7に示す変形例では、上記第2実施形態において、コア37と別体に設けられたガイド孔73を有する有底円筒状のガイド部材75がコア37(ソレノイドのケース)に設けられた取付穴76に挿入されている。ガイド部材75は、その底部を取付穴76の底部に当接させて軸方向に固定されている。これにより、ガイド部材75が背圧室形成部材として、プランジャ34の外部に弁体背圧室74を形成すると共に、取付穴76内で径方向に僅かに移動することにより、ガイドピン71とガイド穴73との同心精度の要求を緩和することができる。なお、ガイド部材75を図6に示す変形例と組合わせてもよい。
【0043】
図8に示す変形例では、上記第2実施形態に対して、ガイドピン71が省略され、弁体の軸部59が延長され、その延長部59がプランジャ34の後部から突出してガイド穴に摺動可能かつ液密的に挿入されている。そして、軸部59の延長部59Aによってガイド穴73内に弁体背圧室74が形成されている。これにより、ポート40と弁体背圧室74とが弁体連通路70によって直接連通されるので、摺動部からの漏れを抑制することができる。この場合、図9に示すように、弁体56の頭部と軸部とを別体として互いに結合する構造とすることにより、軸部59としてパイプ材を用いることができるので、製造コストを低減することができる。なお、図8及び図9に示す変形例に、図7に示すガイド部材75を組合わせてもよい。
【0044】
図10に示す変形例では、上記第2実施形態に対して、連通路72を有するガイドピン71の代りに、中実のガイドピン77が設けられている。ガイドピン77は、コア37のガイド穴73に圧入、固定されており、プランジャ34のガイド孔62には、摺動可能かつ液密的に挿入されている。これにより、弁体背圧室74は、プランジャ34のガイド孔62内に形成され、弁体連通路70によってポート40に連通されている。この場合、ガイドピン77に、図5に示すガイドピン77の連通孔72のように軸方向に貫通する通路を設けて弁体背圧室74をコア37のガイド穴73に連通させることにより、弁体背圧室74の容積を大きくすることができる。
【0045】
また、ガイドピン77は、ガイド穴73に圧入せず、図11に示すように、コア37に設けた取付穴76に挿入し、その底部を取付穴76の底部に当接させて軸方向に固定するようにしてもよい。これにより、ガイドピン77とコア37側との同心精度の要求を緩和することができる。
【0046】
次に、本発明の第3実施形態について、図14を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第2実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して、異なる部分についてのみ詳細に説明する。なお、図14は説明する都合上、リリーフ弁84、弁体87、ロッド88、プランジャ34などをソレノイドに非通電時の状態である図の上側と、通電時の弁体87がシート面60に着座した状態を示す図の下側とにずらして示している。
【0047】
本実施形態では、ソレノイドケース32の通路ボア39及び通路ボア39内にネジ込まれた通路部材43の円筒部43Aが大径化されている。円筒部43Aに、大径部81A及び小径部81Bを有する段付円筒状のポート部材81の大径部81Bが挿入されている。ポート部材81には、ポート40及びシート面60が形成され、通路部材43の径方向に設けられた第2油路86及び固定オリフィス47に連通する通路43Bに小径部81Bが挿入されて、ポート40が径方向油路86及び固定オリフィス47に連通している。また、通路ボア39及び円筒部43A内のポート40の下流側に弁室83が形成され、弁室83は、ソレノイドケース32の第1油路66を介して室48に連通している。ポート部材81と通路部材43との間にリリーフ弁84が設けられている。そして、ポート部材81に形成された油路85、リリーフ弁84及び円筒部43Aに形成された第2油路86を介して、弁室83と室48とが連通されている。リリーフ弁84は、弁室83の圧力が所定の開弁圧力に達したとき、開弁して、その圧力を室48側へリリーフするものである。コイル35への通電があるときで、かつ弁体87のシート部61がシート面60から離れているとき、弁体87は、シート面60と段部96の何れからも離間している。この状態のときは、ソレノイドケース32の第1油路100を介して主に室48に連通する。第2油路86とはリリーフ弁84があるため、殆ど連通しない。一方、コイル35への通電がないときは、シート部材93が段部96に当接して第1油路100を閉じ、第2油路86のみ室48と連通する。
【0048】
弁室83内に、小径部87A及び大径部87Bを有する略凸形状の弁体87が設けられている。弁体87には、プランジャ34に取付けられた中空のロッド88の先端部が挿入されている。弁体87の小径部87Aの先端部には、ポート部材81のシート面60に離着座する環状のシート部61が突出されており、ポート40及び弁体87によって圧力制御弁28を構成している。そして、上記第2実施形態と同様、シート部61の内周部直近に凹部80が形成され、シート部61の外周側がテーパ状に形成されている。これにより、流体力の影響を軽減して、ソフト側の減衰力を充分小さくし、また、安定した減衰力制御を行なうことができる。弁体87には、軸方向に貫通する開口89が形成され、開口89にロッド88の先端部が摺動可能かつ液密的に挿入されている。弁体87の大径部87Bの端面外周縁部には環状の当接部90が突出している。
【0049】
ロッド88は、プランジャ34を貫通してプランジャ34に固定されている。ロッド88の後端部は、プランジャ34の後端部を案内する有底円筒状のガイド部材91の底部に形成されたガイド穴73に摺動可能かつ液密的に挿入されて、ガイド穴73内に弁体背圧室74が形成されている。弁体背圧室74は、中空のロッド88内の連通路88Aを介して、弁体87の凹部80内に連通している。
【0050】
ロッド88の先端側に形成された段部に止輪92が固定されており、止輪92と弁体87の当接部90との間に環状のシート部材93及び弁バネ94(板バネ)が介装されている。シート部材93及び弁バネ94は、外周部が当接部90に当接し、内周部が止輪92に当接している。そして、コイル35への通電により、プランジャ34に推力が発生し、図14中の下側に示すように、プランジャ34の推力によって戻しバネ95のバネ力に抗して弁体87を押圧してシート部61をシート面60に押付ける。このとき、弁体87は、弁バネ94を介してロッド88に弾性的に支持されている。ポート部材81と弁体87との間には、メインバネとしての戻しバネ95(コイルバネ)が介装されている。通路ボア39の底部側には、弁体87の当接部90に対向する部位に段部96が形成されている。そして、コイル35への非通電磁には、図14中の上側に示すように、戻しバネ95のバネ力によって弁体87が後退して、シート部材93が段部96に当接して油路66を閉じて、弁室83、室48間をシート部93のオリフィス97によって連通する。弁バネ94のバネ剛性は、戻しバネ95のバネ剛性よりも大きく、また、弁体87の質量は、プランジャ34に比して充分小さくなっている。
【0051】
このように構成したことにより、圧力制御弁28は、コイル35に通電することにより、図14中の下側に示すように、プランジャ34の推力によって戻しバネ95のバネ力に抗して弁体87を押圧してシート部61をシート面60に押付けて開弁圧力を調整する。このとき、上記第1及び第2実施形態と同様、ポート40の圧力が急激に上昇した場合には、弁バネ94が撓んで軽量の弁体87のみが後退して、開弁した後、プランジャ34が追従して後退するのでプランジャ34の慣性による応答遅れが生じにくく、オーバーシュートを防止して適切な減衰力制御を行なうことができる。そして、圧力制御弁28の開弁遅れによる背圧室53の圧力の過度の上昇を抑制して、安定した減衰力制御を行なうことができる。また、弁体87の自励振動による異音の発生及び減衰力が不安定になるのを抑制することができる。
【0052】
また、上記第2実施形態と同様、圧力制御弁28の閉弁時、すなわち、弁体87のシート部61がシート面60に着座した状態において、弁体背圧室74は、ロッド88の連通路88Aを介してポート40に連通するので、ポート40に対する弁体87の受圧面積は、シート61の内側の面積からロッド88の断面積を差引いた面積となる。これにより、弁体87は、シート部61の径だけでなく、ロッド88の径によってポート40に対する受圧面積を調整することができるので、圧力制御弁28の開弁特性の設定の自由度、延いては減衰力発生機構25の減衰力特性の設定の自由度を高めることができる。
【0053】
コントローラの故障、コイル35の断線等のフェイルの発生により、プランジャ34の推力が失われた場合には、図14中の上側に示すように、戻しバネ95のバネ力によって弁体87が後退して、シート部材93が通路ボア39の段部96に当接して第1油路100を閉じ、弁室83、室48間がオリフィス97によって連通される。そして、ピストン速度の上昇等によって弁室83の圧力が上昇してリリーフ弁84の開弁圧に達すると、リリーフ弁84が開弁してその圧力を室48へリリーフする。
【0054】
これにより、オリフィス97の流路面積及びリリーフ弁84のリリーフ圧力に応じて減衰力が発生し、これにより、背圧室53の圧力すなわちディスクバルブ51の開弁圧力が調整されるので、これらの流路面積及びリリーフ圧力を適宜設定することにより、フェイル時においても適度な減衰力を発生させることができる。そして、図13に示すように、減衰力特性の調整範囲を広くした結果、ハード時の減衰力が相当に大きくなる場合でも、フェイル時には、ハード特性ではなく、オリフィス97及びリリーフ弁84によって適度な減衰力を発生させることができる。例えば、フェイル時にはハードとソフトの間のミディアム特性にすることで、車体への影響を抑えることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 減衰力調整式油圧緩衝器(減衰力調整式緩衝器)、2 シリンダ、5 ピストン、6 ピストンロッド、28 圧力制御弁、34 プランジャ、36 プランジャバネ(メインバネ)、56 弁体、57 弁バネ
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のサスペンション装置等に装着される減衰力調整式緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のサスペンション装置に装着される減衰力調整式緩衝器は、一般に、油液を封入したシリンダ内にピストンロッドを連結したピストンを摺動可能に嵌装してシリンダ内を2室に画成し、シリンダ内のピストンの摺動によって生じる油液の流れをオリフィス、ディスクバルブ等からなる減衰力発生機構によって制御して減衰力を発生させ、また、流量制御弁、圧力制御弁等を用いて減衰力発生機構の流通抵抗を変化させることにより減衰力を調整するようになっている。
【0003】
この種の減衰力調整式緩衝器においては、例えば特許文献1に記載されているように、減衰力発生機構であるディスクバルブの背部に背圧室を形成し、この背圧室を固定オリフィスを介して上流側のシリンダ室に接続し、また、圧力制御弁(ソレノイドバルブ)を介して下流側のシリンダ室に接続する構成としたものがある。
【0004】
このように構成したことにより、圧力制御弁によって油液の流通抵抗を直接調整するとともに、背圧室の内圧を調整してディスクバルブの開弁圧力を調整することができるので、減衰力特性の調整範囲を広くすることができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような減衰力調整式緩衝器では、次のような問題がある。例えば、自動車等の車両のサスペンション制御装置に装着して、車両の走行状態に応じてコントローラからの制御信号によって減衰力制御を実行する場合、圧力制御弁(ソレノイドバルブ)のプランジャの慣性等によって応答遅れが生じて、減衰力制御がオーバーシュートしたり、また、圧力制御弁の弁体の自励振動によって異音が発生したりすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−12534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、圧力制御弁の応答遅れ及び弁体の自励振動の発生を防止するようにした減衰力調整式緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装されたピストンと、一端が前記ピストンに連結され他端が前記シリンダの外部へ延出されたピストンロッドと、前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させ、開弁圧力を調整可能な圧力制御弁とを備えた減衰力調整式緩衝器において、
前記圧力制御弁は、弁体と、該弁体を軸方向一方側に付勢して開弁圧力を調整するプランジャと、前記弁体と前記プランジャとの間に介装された弁バネと、前記プランジャまたは前記弁体を軸方向他方側に付勢するメインバネとを備え、前記弁体は、前記プランジャよりも質量が小さく、前記弁バネは、前記メインバネよりもバネ剛性が高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る減衰力調整式緩衝器によれば、弁体の応答性を高め、減衰力制御の応答遅れを防止することができ、また、弁体の固有振動数を高くして、自励振動の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力発生機構を拡大して示す縦断面図である。
【図2】図1に示す減衰力発生機構の圧力制御弁の弁バネを示す正面図である。
【図3】図1に示す減衰力発生機構の圧力制御弁の弁バネの変形例を示す正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の縦断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力発生機構の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態の他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の更に他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態の更に他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態の更に他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態の更に他の変形例の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の圧力制御弁のシート面及びシート部を拡大して示す縦断面図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力特性を示すグラフ図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力発生機構の圧力制御弁の部分を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図4に示すように、本実施形態に係る減衰力調整式油圧緩衝器1(減衰力調整式緩衝器)は、シリンダ2の外側に外筒3を設けた二重筒構造となっており、シリンダ2と外筒3との間にリザーバ4が形成されている。シリンダ2内には、ピストン5が摺動可能に嵌装されており、このピストン5によってシリンダ2内がシリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bとの2室に画成されている。ピストン5には、ピストンロッド6の一端がナット7によって連結されており、ピストンロッド6の他端側は、シリンダ上室2Aを通り、シリンダ2及び外筒3の上端部に装着されたロッドガイド8およびオイルシール9に挿通されて、シリンダ2の外部へ延出されている。シリンダ2の下端部には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを区画するベースバルブ10が設けられている。
【0012】
ピストン5には、シリンダ上下室2A、2B間を連通させる油路11、12が設けられている。そして、油路11には、シリンダ下室2B側からシリンダ上室2A側への油液の流通のみを許容する逆止弁13が設けられ、また、油路12には、シリンダ上室2A側の油液の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをシリンダ下室2B側へリリーフするディスクバルブ14が設けられている。
【0013】
ベースバルブ10には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを連通させる油路15、16が設けられている。そして、油路15には、リザーバ4側からシリンダ下室2B側への油液の流通のみを許容する逆止弁17が設けられ、また、油路16には、シリンダ下室2B側の油液の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをリザーバ4側へリリーフするディスクバルブ18が設けられている。シリンダ2内には油液が封入されており、リザーバ4内には油液及びガスが封入されている。
【0014】
シリンダ2には、上下両端部にシール部材19を介してセパレータチューブ20が外嵌されており、シリンダ2とセパレータチューブ20との間に環状油路21が形成されている。環状油路21は、シリンダ2の上端部付近の側壁に設けられた油路22によってシリンダ上室2Aに連通されている。セパレータチューブ20の側壁には、小径の開口23が設けられ、また、外筒3の側壁には、開口23と略同心に大径の開口24が設けられており、外筒3の側壁の開口24に減衰力発生機構25が取付けられている。
【0015】
減衰力発生機構25について、図1乃至図3を参照して説明する。図1に示すように、円筒状のケース26の一端部が開口24に挿入されて溶接によって固定されている。ケース26内には、パイロット型(背圧型)のメインバルブ27及び圧力制御弁28(ソレノイドバルブ)が一体化されたバルブユニット30が挿入されて、ナット31によって固定されている。
【0016】
バルブユニット30は、ナット31によってケース26に固定されるソレノイドケース32を備えている。ソレノイドケース32の外側端部には、軸方向に沿ってガイドボア33が形成されている。ガイドボア33には、プランジャ34が摺動可能に案内され、更に、コイル35(ソレノイド)、メインバネとしてのプランジャバネ36(圧縮コイルバネ)が収容されており、コア37が嵌合され、カシメによってソレノイドケース32に固定されることにより、コイル35を固定すると共に、プランジャバネ36の一端部を支持している。コイル35には、通電用のリード線38が接続されて外部へ延出されている。
【0017】
ソレノイドケース32の内側端部には、ガイドボア33と同心の通路ボア39が形成されており、ガイドボア33と通路ボア39とが小径のポート40を介して連通されている。ソレノイドケース32の内側端部には、有底円筒状のガイド部材41及び有底円筒状のバルブ部材42がこの順で配置され、段付円筒状の通路部材43の一端部がバルブ部材42及びガイド部材41の底部に挿通され、その先端部が通路ボア39にねじ込まれて、これらが一体に結合されている。通路部材43の中間の大径部44がバルブ部材42に嵌合されてバルブ部材42の内部に室45が形成されている。通路部材43の他端部は、セパレータチューブ20の開口23に嵌合されて、通路部材43の内部の軸方向油路46の一端部が環状油路21に連通されている。軸方向通路46の中間部には固定オリフィス47(導入オリフィス)が設けられている。
【0018】
バルブ部材42の底部には、複数の油路49が設けられ、底部の外側端面には、油路49の外周側に環状の弁座50が突出されている。バルブ部材42とガイド部材41との間に、複数枚積層されたディスクバルブ51(メインバルブ)の内周部がクランプされており、ディスクバルブ51の外周部が弁座50に着座している。また、ディスクバルブ51の背面には、環状のシール部材52が固着されており、シール部材52がガイド部材41の円筒部の内周面に液密的かつ摺動可能に嵌合されて、ガイド部材41の内部に背圧室53が形成されている。そして、ディスクバルブ51は、油路49の油液の圧力を受けて撓んで弁座50から離座(開弁)して、バルブ部材42内の室45をケース26内の室48(外筒3の開口24によってリザーバ4に連通されている。)に連通させる。そして、ディスクバルブ51と背圧室53とでパイロット型(背圧型)の減衰弁を形成しており、背圧室53の内圧がディスクバルブ51の閉弁方向に作用するようになっている。バルブ部材42の軸方向油路46の固定オリフィス47の上流側は、通路部材43に設けられた油路54によってバルブ部材42内の室45に連通され、また、固定オリフィス47の下流側は、径方向油路55を介して背圧室53に連通されている。
【0019】
プランジャ34の先端部には、ポート40を開閉する弁体56が軸方向に移動可能に支持されており、弁体56は、弁バネ57(板バネ)によって弾性的に支持されている。弁体56は、大径の頭部58と小径の軸部59とからなる段付形状で、頭部58にはガイドボア33内のポート40の周縁部のシート面60に着座する環状のシート部61が突出されている。また、軸部59は、プランジャ34の中心部に貫通されたガイド孔62に摺動可能に挿入されている。
【0020】
そして、弁体56の頭部58には、環状のシート部61の内周部直近に、ポート40に対向してポート40とほほ同径の凹部80が形成され、これにより、環状のシート部61のシート面60に着座する先端部の径方向の幅が充分小さくなっている。
【0021】
図2に示すように、弁バネ57は、略円形の当接部63に弁孔63Aが設けられ、当接部63からプランジャ34の直径方向に脚部64が延ばされている。そして、弁体56は、軸部59が弁孔63Aに挿通され、頭部58が当接部63に当接し、脚部64の先端部がプランジャ34の先端外周縁部に突出された環状のバネ受部65に当接して、プランジャ34に軸方向に移動可能に弾性的に支持されている。なお、弁バネ57の脚部64は、図3に示すように、放射状に複数(図示の例では等間隔で3つ)配置するようにしてもよい。
【0022】
ポート40と弁体56とで圧力制御弁28を形成しており、弁体56は、ポート40内の油液の圧力が所定圧力に達すると開弁し、その開弁圧力はプランジャバネ36のバネ力及びソレノイドの推力すなわちコイル35への通電電流に応じて調整されるようになっている。ガイドボア33は、ソレノイドケース32に形成された油路66を介して室48に連通されている。プランジャ34には、その両端に形成された室を互いに連通させる絞り通路67が設けられており、その移動に適度な減衰力を作用させるようになっている。
【0023】
弁バネ57のバネ剛性は、プランジャバネ36のバネ剛性よりも高く、また、弁体56の質量は、プランジャ34の質量よりも充分小さく、弁体56の固有振動数が充分高く設定されている。
【0024】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
減衰力調整式油圧緩衝器1は、自動車等の車両のサスペンション装置に対して、シリンダ2側がバネ下側に連結され、ピストンロッド6側がバネ上側に連結され、また、コイル35のリード線38がコントローラ(図示せず)に接続される。
【0025】
ピストンロッド6の伸び行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が閉じ、ディスクバルブ14の開弁前には、シリンダ上室2A側の油液が加圧されて、油路22及び環状油路21を通り、セパレータチューブ20の開口23から減衰力発生機構25の軸方向油路46へ流れる。そして、メインバルブ27のディスクバルブ51の開弁前においては、油液は、固定オリフィス47、通路ボア39及びポート40を通り、圧力制御弁28の弁体56を開弁させてガイドボア33へ流れ、更に、油路66及び室48を通ってリザーバ4へ流れる。そして、バルブ部材42の室45内の圧力がディスクバルブ51の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ51が開弁して、油液が軸方向油路46の固定オリフィス47の上流側から油路54、油室45及び油路49を通って室48へ流れる。
【0026】
このとき、ピストン5が移動した分の油液がリザーバ4からベースバルブ10の逆止弁17を開いてシリンダ下室2Bへ流入する。なお、シリンダ上室2Aの圧力がピストン5のディスクバルブ14の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ14が開いて、シリンダ上室2Aの圧力をシリンダ下室2Bへリリーフすることにより、シリンダ上室2Aの過度の圧力の上昇を防止する。
【0027】
ピストンロッド6の縮み行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が開き、ベースバルブ10の油路15の逆止弁17が閉じて、ディスクバルブ18の開弁前には、ピストン下室2Bの油液がシリンダ上室2Aへ流入し、ピストンロッド6がシリンダ2内に侵入した分の油液がシリンダ上室2Aから、上記伸び行程時と同様の経路を通ってリザーバ4へ流れる。なお、シリンダ下室2B内の圧力がベースバルブ10のディスクバルブ18の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ18が開いて、シリンダ下室2Bの圧力をリザーバ4へリリーフすることにより、シリンダ下室2Bの過度の圧力の上昇を防止する。
【0028】
これにより、ピストンロッド6の伸縮行程時共に、メインバルブ27の開弁前(ピストン速度低速域)においては、固定オリフィス47および圧力制御弁28によって減衰力が発生し、メインバルブ27の開弁後(ピストン速度高速域)においては、その開度に応じて減衰力が発生する。そして、コイル35への通電電流によって圧力制御弁28の開弁圧力を調整することにより、ピストン速度にかかわらず、減衰力を直接制御することができる。このとき、圧力制御弁28の開弁圧力によって背圧室53の内圧が調整されるので、メインバルブ27の開弁圧力を同時に調整することができ、これにより、減衰力特性の調整範囲を広くすることができる。
【0029】
このとき、圧力制御弁28では、弁バネ57のバネ剛性がプランジャバネ36のバネ剛性よりも高く設定され、また、弁体56の質量がプランジャ34の質量よりも充分小さく、弁体56の固有振動数が充分高く設定されているので、プランジャ34の慣性による応答遅れが生じにくく、オーバーシュートを防止して適切な減衰力制御を行なうことができる。そして、ポート40の圧力が急激に上昇した場合には、弁バネ57が撓んで軽量の弁体56のみが後退して、開弁した後、プランジャ34が追従して後退するので、圧力制御弁28の開弁遅れによって背圧室53の圧力が過度に上昇することがなく、安定した減衰力制御を行なうことができる。また、弁体56の固有振動数が充分高く設定されているので、自励振動による異音の発生及び減衰力が不安定になるのを防止することができる。
【0030】
また、圧力制御弁28では、弁体56の頭部58に環状のシート部61を設けたことにより、開弁時の流路面積を大きくすることができ、ソフト側の減衰力の調整範囲を広くすることができる。これに対して、例えば特開平7−259918号公報に記載されているように、圧力制御弁として、ニードル弁を使用した場合には、開弁時に大きな流路面積が得られないので、ソフト側の減衰力を充分小さくすることは困難である。
【0031】
図12を参照して、圧力制御弁28では、開弁時に、ポート40からガイドボア33内へ流出する高速の油液の流れにより、弁体56に閉弁方向の流体力が作用することになる。この流体力により、弁体56の開弁圧力が上昇してソフト側の減衰力が大きくなったり、また、流体力がピストン速度及び弁体56の開度によって変動することにより、圧力制御弁28による減衰力制御が不安定になり、また、弁体56が振動してチャタリングが発生したりするという問題を生じる。したがって、例えば特開平11−287281号公報に記載されているように、圧力制御弁としてディスクバルブを使用した場合には、このような流体力の影響が問題となる。
【0032】
これに対して、環状のシート部61の内周部直近に凹部80を形成したことにより、流体力が作用するシート部61の先端部の受圧面積Aを充分小さくすることができ、流体力の影響を軽減して、ソフト側の減衰力を充分小さくし、また、圧力制御弁28による減衰力制御を安定させることができる。このように環状のシート部61の内周部直近に凹部80を形成することが望ましいが、環状のシート部61から凹部80の底面に向けて例えばなだらかなテーパー部であってもディスクバルブを使用するよりはチャタリング等の問題を低減することができる。
【0033】
減衰力調整式油圧緩衝器1の減衰力特性を図13に示す。図13に示すように、減衰力調整式油圧緩衝器のソフトからハードの減衰力特性の調整範囲Rは、従来のものの調整範囲rに対して広くなっている。
【0034】
なお、上記実施形態は、メインバルブ27及び圧力制御弁28が一体化されたバルブユニット30をシリンダ2の側部のケース26内に配置して、環状油路21とリザーバ4との間の油液の流れを制御して減衰力を発生させるようにしているが、バルブユニット30をピストン5あるいはベースバルブ10に配置して、適宜その油路の油液の流れを制御して減衰力を発生させるようにしてもよい。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態について、図5乃至図11を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0036】
図5は、本実施形態の要部である減衰力発生機構25の圧力制御弁28の部分を拡大して示している。図5に示すように、本実施形態では、圧力制御弁28を形成するポート40、弁体56の頭部58、軸部59及びシート部61の径がそれぞれ上記第1実施形態のものよりも大きくなっている。また、弁体56には、その軸方向に沿って弁体連通路70が貫通されている。プランジャ34のガイド孔62の後端部には、管状のガイドピン71が圧入、固定されてプランジャ34の後部に突出している。ガイドピン71には、その軸方向に沿って連通路72が貫通されている。コア37には、ガイドピン71に対向させてガイド穴73が設けられ、ガイドピン71がガイド穴73に摺動可能かつ液密的に挿入されて、ガイド穴73内に弁体背圧室74が形成されている。
【0037】
そして、圧力制御弁28の閉弁時、すなわち、弁体56のシート部61がシート面60に着座した状態において、弁体背圧室74は、ガイドピン71の連通路72、プランジャ34のガイド孔62及び弁体56の弁体連通路70を介してポート40に連通する。したがって、ポート40に対する弁体56の受圧面積は、シート61の内側の面積から軸部59の断面積を差引いた面積となる。
【0038】
これにより、弁体56は、シート部61の径だけでなく、軸部59の径によってポート40に対する受圧面積を調整することができるので、圧力制御弁28の開弁特性の設定の自由度、延いては減衰力発生機構25の減衰力特性の設定の自由度を高めることができる。
【0039】
例えば、ポート40の径を大きくして、弁体56の開弁時のソフト側の減衰力が充分小さくなるように設定した場合でも、軸部59の径を大きくすることにより、弁体56の受圧面積を小さくすることができるので、大きなプランジャ34の推力を必要とすることなく、圧力制御弁28の開弁圧力を高めてハード側の減衰力を大きくすることができる。
【0040】
また、本実施形態では、図12に示すように、圧力制御弁28の弁体58は、シート部61の内周部の凹部80の側壁80Aをシート面61に対して略垂直とし、外周側をテーパ状に形成して、ポート40からガイドボア33内に流出する油液の流れにによる流体力に対して、シート部61の先端部の受圧面積Aを充分小さくすると共に、流体力が作用しにくい形状としているので、流体力の影響を効果的に軽減して、ソフト側の減衰力を充分小さくし、また、圧力制御弁28による減衰力制御を安定させることができる。
【0041】
次に、上記第2実施形態の変形例について、図6乃至図11を参照して説明する。
図6に示す変形例では、上記第2実施形態において、ガイドピン71がプランジャ34と一体に形成されている。これにより、部品点数を削減することができる。
【0042】
図7に示す変形例では、上記第2実施形態において、コア37と別体に設けられたガイド孔73を有する有底円筒状のガイド部材75がコア37(ソレノイドのケース)に設けられた取付穴76に挿入されている。ガイド部材75は、その底部を取付穴76の底部に当接させて軸方向に固定されている。これにより、ガイド部材75が背圧室形成部材として、プランジャ34の外部に弁体背圧室74を形成すると共に、取付穴76内で径方向に僅かに移動することにより、ガイドピン71とガイド穴73との同心精度の要求を緩和することができる。なお、ガイド部材75を図6に示す変形例と組合わせてもよい。
【0043】
図8に示す変形例では、上記第2実施形態に対して、ガイドピン71が省略され、弁体の軸部59が延長され、その延長部59がプランジャ34の後部から突出してガイド穴に摺動可能かつ液密的に挿入されている。そして、軸部59の延長部59Aによってガイド穴73内に弁体背圧室74が形成されている。これにより、ポート40と弁体背圧室74とが弁体連通路70によって直接連通されるので、摺動部からの漏れを抑制することができる。この場合、図9に示すように、弁体56の頭部と軸部とを別体として互いに結合する構造とすることにより、軸部59としてパイプ材を用いることができるので、製造コストを低減することができる。なお、図8及び図9に示す変形例に、図7に示すガイド部材75を組合わせてもよい。
【0044】
図10に示す変形例では、上記第2実施形態に対して、連通路72を有するガイドピン71の代りに、中実のガイドピン77が設けられている。ガイドピン77は、コア37のガイド穴73に圧入、固定されており、プランジャ34のガイド孔62には、摺動可能かつ液密的に挿入されている。これにより、弁体背圧室74は、プランジャ34のガイド孔62内に形成され、弁体連通路70によってポート40に連通されている。この場合、ガイドピン77に、図5に示すガイドピン77の連通孔72のように軸方向に貫通する通路を設けて弁体背圧室74をコア37のガイド穴73に連通させることにより、弁体背圧室74の容積を大きくすることができる。
【0045】
また、ガイドピン77は、ガイド穴73に圧入せず、図11に示すように、コア37に設けた取付穴76に挿入し、その底部を取付穴76の底部に当接させて軸方向に固定するようにしてもよい。これにより、ガイドピン77とコア37側との同心精度の要求を緩和することができる。
【0046】
次に、本発明の第3実施形態について、図14を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第2実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して、異なる部分についてのみ詳細に説明する。なお、図14は説明する都合上、リリーフ弁84、弁体87、ロッド88、プランジャ34などをソレノイドに非通電時の状態である図の上側と、通電時の弁体87がシート面60に着座した状態を示す図の下側とにずらして示している。
【0047】
本実施形態では、ソレノイドケース32の通路ボア39及び通路ボア39内にネジ込まれた通路部材43の円筒部43Aが大径化されている。円筒部43Aに、大径部81A及び小径部81Bを有する段付円筒状のポート部材81の大径部81Bが挿入されている。ポート部材81には、ポート40及びシート面60が形成され、通路部材43の径方向に設けられた第2油路86及び固定オリフィス47に連通する通路43Bに小径部81Bが挿入されて、ポート40が径方向油路86及び固定オリフィス47に連通している。また、通路ボア39及び円筒部43A内のポート40の下流側に弁室83が形成され、弁室83は、ソレノイドケース32の第1油路66を介して室48に連通している。ポート部材81と通路部材43との間にリリーフ弁84が設けられている。そして、ポート部材81に形成された油路85、リリーフ弁84及び円筒部43Aに形成された第2油路86を介して、弁室83と室48とが連通されている。リリーフ弁84は、弁室83の圧力が所定の開弁圧力に達したとき、開弁して、その圧力を室48側へリリーフするものである。コイル35への通電があるときで、かつ弁体87のシート部61がシート面60から離れているとき、弁体87は、シート面60と段部96の何れからも離間している。この状態のときは、ソレノイドケース32の第1油路100を介して主に室48に連通する。第2油路86とはリリーフ弁84があるため、殆ど連通しない。一方、コイル35への通電がないときは、シート部材93が段部96に当接して第1油路100を閉じ、第2油路86のみ室48と連通する。
【0048】
弁室83内に、小径部87A及び大径部87Bを有する略凸形状の弁体87が設けられている。弁体87には、プランジャ34に取付けられた中空のロッド88の先端部が挿入されている。弁体87の小径部87Aの先端部には、ポート部材81のシート面60に離着座する環状のシート部61が突出されており、ポート40及び弁体87によって圧力制御弁28を構成している。そして、上記第2実施形態と同様、シート部61の内周部直近に凹部80が形成され、シート部61の外周側がテーパ状に形成されている。これにより、流体力の影響を軽減して、ソフト側の減衰力を充分小さくし、また、安定した減衰力制御を行なうことができる。弁体87には、軸方向に貫通する開口89が形成され、開口89にロッド88の先端部が摺動可能かつ液密的に挿入されている。弁体87の大径部87Bの端面外周縁部には環状の当接部90が突出している。
【0049】
ロッド88は、プランジャ34を貫通してプランジャ34に固定されている。ロッド88の後端部は、プランジャ34の後端部を案内する有底円筒状のガイド部材91の底部に形成されたガイド穴73に摺動可能かつ液密的に挿入されて、ガイド穴73内に弁体背圧室74が形成されている。弁体背圧室74は、中空のロッド88内の連通路88Aを介して、弁体87の凹部80内に連通している。
【0050】
ロッド88の先端側に形成された段部に止輪92が固定されており、止輪92と弁体87の当接部90との間に環状のシート部材93及び弁バネ94(板バネ)が介装されている。シート部材93及び弁バネ94は、外周部が当接部90に当接し、内周部が止輪92に当接している。そして、コイル35への通電により、プランジャ34に推力が発生し、図14中の下側に示すように、プランジャ34の推力によって戻しバネ95のバネ力に抗して弁体87を押圧してシート部61をシート面60に押付ける。このとき、弁体87は、弁バネ94を介してロッド88に弾性的に支持されている。ポート部材81と弁体87との間には、メインバネとしての戻しバネ95(コイルバネ)が介装されている。通路ボア39の底部側には、弁体87の当接部90に対向する部位に段部96が形成されている。そして、コイル35への非通電磁には、図14中の上側に示すように、戻しバネ95のバネ力によって弁体87が後退して、シート部材93が段部96に当接して油路66を閉じて、弁室83、室48間をシート部93のオリフィス97によって連通する。弁バネ94のバネ剛性は、戻しバネ95のバネ剛性よりも大きく、また、弁体87の質量は、プランジャ34に比して充分小さくなっている。
【0051】
このように構成したことにより、圧力制御弁28は、コイル35に通電することにより、図14中の下側に示すように、プランジャ34の推力によって戻しバネ95のバネ力に抗して弁体87を押圧してシート部61をシート面60に押付けて開弁圧力を調整する。このとき、上記第1及び第2実施形態と同様、ポート40の圧力が急激に上昇した場合には、弁バネ94が撓んで軽量の弁体87のみが後退して、開弁した後、プランジャ34が追従して後退するのでプランジャ34の慣性による応答遅れが生じにくく、オーバーシュートを防止して適切な減衰力制御を行なうことができる。そして、圧力制御弁28の開弁遅れによる背圧室53の圧力の過度の上昇を抑制して、安定した減衰力制御を行なうことができる。また、弁体87の自励振動による異音の発生及び減衰力が不安定になるのを抑制することができる。
【0052】
また、上記第2実施形態と同様、圧力制御弁28の閉弁時、すなわち、弁体87のシート部61がシート面60に着座した状態において、弁体背圧室74は、ロッド88の連通路88Aを介してポート40に連通するので、ポート40に対する弁体87の受圧面積は、シート61の内側の面積からロッド88の断面積を差引いた面積となる。これにより、弁体87は、シート部61の径だけでなく、ロッド88の径によってポート40に対する受圧面積を調整することができるので、圧力制御弁28の開弁特性の設定の自由度、延いては減衰力発生機構25の減衰力特性の設定の自由度を高めることができる。
【0053】
コントローラの故障、コイル35の断線等のフェイルの発生により、プランジャ34の推力が失われた場合には、図14中の上側に示すように、戻しバネ95のバネ力によって弁体87が後退して、シート部材93が通路ボア39の段部96に当接して第1油路100を閉じ、弁室83、室48間がオリフィス97によって連通される。そして、ピストン速度の上昇等によって弁室83の圧力が上昇してリリーフ弁84の開弁圧に達すると、リリーフ弁84が開弁してその圧力を室48へリリーフする。
【0054】
これにより、オリフィス97の流路面積及びリリーフ弁84のリリーフ圧力に応じて減衰力が発生し、これにより、背圧室53の圧力すなわちディスクバルブ51の開弁圧力が調整されるので、これらの流路面積及びリリーフ圧力を適宜設定することにより、フェイル時においても適度な減衰力を発生させることができる。そして、図13に示すように、減衰力特性の調整範囲を広くした結果、ハード時の減衰力が相当に大きくなる場合でも、フェイル時には、ハード特性ではなく、オリフィス97及びリリーフ弁84によって適度な減衰力を発生させることができる。例えば、フェイル時にはハードとソフトの間のミディアム特性にすることで、車体への影響を抑えることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 減衰力調整式油圧緩衝器(減衰力調整式緩衝器)、2 シリンダ、5 ピストン、6 ピストンロッド、28 圧力制御弁、34 プランジャ、36 プランジャバネ(メインバネ)、56 弁体、57 弁バネ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装されたピストンと、一端が前記ピストンに連結され他端が前記シリンダの外部へ延出されたピストンロッドと、前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させ、開弁圧力を調整可能な圧力制御弁とを備えた減衰力調整式緩衝器において、
前記圧力制御弁は、弁体と、該弁体を軸方向一方側に付勢して開弁圧力を調整するプランジャと、前記弁体と前記プランジャとの間に介装された弁バネと、前記プランジャまたは前記弁体を軸方向他方側に付勢するメインバネとを備え、前記弁体は、前記プランジャよりも質量が小さく、前記弁バネは、前記メインバネよりもバネ剛性が高いことを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項2】
前記弁体は、前記プランジャに、その軸方向に沿って摺動可能に案内されていることを特徴とする請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項3】
前記弁バネは、板バネであることを特徴とする請求項1又は2に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項4】
前記弁体は、流路を開閉するシート部を有する頭部及び軸部を有し、前記プランジャは、前記軸部が摺動可能に挿入されるガイド孔及び先端外周縁部に突出するバネ受部が設けられ、前記弁バネは、前記頭部に当接し、前記軸部が挿通される弁穴を有する当接部と、該当接部から延ばされて先端部が前記バネ受部に当接する脚部を有していることを特徴とする請求項3に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項5】
前記脚部は、前記当接部から前記プランジャの直径方向に延ばされていることを特徴とする請求項4に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項6】
前記脚部は、前記当接部から放射状に複数延ばされていることを特徴とする請求項4に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項7】
前記弁体は、流路を開閉する環状のシート部を有し、該シート部の内周部直近に凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項8】
前記弁体には、前記凹部に連通する開口が設けられ、前記プランジャから延びるロッドが前記開口に摺動可能に挿入されて、前記弁体が前記プランジャに対して移動可能に支持されていることを特徴とする請求項7に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項9】
前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させるメインバルブと、該メインバルブに閉弁方向に内圧を作用させる背圧室とを有し、前記流体の流れの一部を前記背圧室に導入し、前記圧力制御弁によって前記背圧室の内圧を調整することにより前記メインバルブの開弁を制御することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項10】
前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させるメインバルブと、該メインバルブに閉弁方向に内圧を作用させる背圧室と、前記メインバルブの上流側から前記背圧室側に流体を導入する固定オリフィスとを有し、前記背圧室側から前記メインバルブの下流側への流体の流れを前記圧力制御弁によって制御して前記背圧室の内圧を調整することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項11】
前記圧力制御弁は、前記弁体の背面側に設けられた弁体背圧室と、前記弁体の上流側と前記弁体背圧室とを連通する弁体連通路と、前記プランジャの推力を調整して前記弁体の開弁圧を制御するソレノイドとを備え、前記弁体は、上流側に対する受圧面積よりも前記弁体背圧室に対する受圧面積が小さいことを特徴とする請求項10に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項12】
前記弁体背圧室は、前記プランジャの外部に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項13】
前記メインバネは、前記弁体の閉弁方向の付勢を行うことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項14】
前記メインバネは前記弁体の開弁方向の付勢を行うことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項15】
前記圧力制御弁は、フェイル時に前記メインバネの付勢によって前記弁体が開弁方向に移動して下流側への第1の流路を閉じ、オリフィスを介して流体を下流側へ第2の流路を介して流通させることを特徴とする請求項14に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項16】
前記第2の流路にリリーフ弁が設けられていることを特徴とする請求項15に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項17】
前記圧力制御弁は、前記シリンダの側部に配置されていることを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項1】
流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装されたピストンと、一端が前記ピストンに連結され他端が前記シリンダの外部へ延出されたピストンロッドと、前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させ、開弁圧力を調整可能な圧力制御弁とを備えた減衰力調整式緩衝器において、
前記圧力制御弁は、弁体と、該弁体を軸方向一方側に付勢して開弁圧力を調整するプランジャと、前記弁体と前記プランジャとの間に介装された弁バネと、前記プランジャまたは前記弁体を軸方向他方側に付勢するメインバネとを備え、前記弁体は、前記プランジャよりも質量が小さく、前記弁バネは、前記メインバネよりもバネ剛性が高いことを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項2】
前記弁体は、前記プランジャに、その軸方向に沿って摺動可能に案内されていることを特徴とする請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項3】
前記弁バネは、板バネであることを特徴とする請求項1又は2に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項4】
前記弁体は、流路を開閉するシート部を有する頭部及び軸部を有し、前記プランジャは、前記軸部が摺動可能に挿入されるガイド孔及び先端外周縁部に突出するバネ受部が設けられ、前記弁バネは、前記頭部に当接し、前記軸部が挿通される弁穴を有する当接部と、該当接部から延ばされて先端部が前記バネ受部に当接する脚部を有していることを特徴とする請求項3に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項5】
前記脚部は、前記当接部から前記プランジャの直径方向に延ばされていることを特徴とする請求項4に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項6】
前記脚部は、前記当接部から放射状に複数延ばされていることを特徴とする請求項4に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項7】
前記弁体は、流路を開閉する環状のシート部を有し、該シート部の内周部直近に凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項8】
前記弁体には、前記凹部に連通する開口が設けられ、前記プランジャから延びるロッドが前記開口に摺動可能に挿入されて、前記弁体が前記プランジャに対して移動可能に支持されていることを特徴とする請求項7に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項9】
前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させるメインバルブと、該メインバルブに閉弁方向に内圧を作用させる背圧室とを有し、前記流体の流れの一部を前記背圧室に導入し、前記圧力制御弁によって前記背圧室の内圧を調整することにより前記メインバルブの開弁を制御することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項10】
前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させるメインバルブと、該メインバルブに閉弁方向に内圧を作用させる背圧室と、前記メインバルブの上流側から前記背圧室側に流体を導入する固定オリフィスとを有し、前記背圧室側から前記メインバルブの下流側への流体の流れを前記圧力制御弁によって制御して前記背圧室の内圧を調整することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項11】
前記圧力制御弁は、前記弁体の背面側に設けられた弁体背圧室と、前記弁体の上流側と前記弁体背圧室とを連通する弁体連通路と、前記プランジャの推力を調整して前記弁体の開弁圧を制御するソレノイドとを備え、前記弁体は、上流側に対する受圧面積よりも前記弁体背圧室に対する受圧面積が小さいことを特徴とする請求項10に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項12】
前記弁体背圧室は、前記プランジャの外部に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項13】
前記メインバネは、前記弁体の閉弁方向の付勢を行うことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項14】
前記メインバネは前記弁体の開弁方向の付勢を行うことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項15】
前記圧力制御弁は、フェイル時に前記メインバネの付勢によって前記弁体が開弁方向に移動して下流側への第1の流路を閉じ、オリフィスを介して流体を下流側へ第2の流路を介して流通させることを特徴とする請求項14に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項16】
前記第2の流路にリリーフ弁が設けられていることを特徴とする請求項15に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項17】
前記圧力制御弁は、前記シリンダの側部に配置されていることを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の減衰力調整式緩衝器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−281584(P2009−281584A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40780(P2009−40780)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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