説明

炭化ケイ素焼結体の製造方法

【課題】炭化ケイ素焼結体の耐酸化性を向上させることにより、炭化ケイ素焼結体の再利用性を高める。
【解決手段】炭化ケイ素粉末及び炭素源としてフェノール樹脂を含むスラリー溶液を調製する工程と、スプレードライヤー法を用いて、スラリー溶液から炭化ケイ素顆粒を得る工程と、炭化ケイ素顆粒から形成された成形体をホットプレス法を用いて焼結する工程とを含む炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、スラリー溶液にフェノール樹脂の沸点よりも高い沸点を有する可塑剤としてグリセリンを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、硬度、耐熱性、化学的安定性に優れることから、研磨剤、耐火物、発熱体などに利用することができる。半導体製造の分野では、炭化ケイ素は、半導体製造装置の部材の原料として用いられる。
【0003】
一例として、炭化ケイ素粉末と炭素源とを含むスラリー溶液を調整し、スラリー溶液をスプレードライヤー法によって所定の乾燥率になるまで乾燥し、乾燥して得られた粒体から所定の粒度を有する粒体を選別し、選別された粒体をホットプレス法を用いて炭化ケイ素焼結体を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。この製造方法によれば、炭化ケイ素焼結体の嵩密度を理論嵩密度(3.2kg/cm)により近づけることができ、プラズマ雰囲気下での耐性を高めることができる。
【0004】
炭化ケイ素焼結体は、優れた耐熱性や耐熱衝撃性を有する一方、酸化され易い特性を有する。半導体製造装置の内部において、炭化ケイ素焼結体からなる部材は、高温下で半導体の基板を形成する反応が繰り返されるうちに、反応時に発生した種々のガスと反応することによって酸化され、消耗されてしまう。しかし、炭化ケイ素焼結体は、安価とは言えないため、複数回利用される。
【0005】
このため、複数回の利用に耐え得るように、例えば、化学蒸着法(CVD)によって、炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素の被覆層を形成し、炭化ケイ素焼結体の耐酸化性を向上させることにより、炭化ケイ素焼結体の再利用性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−63197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、CVDは、大がかりな装置を必要とする。そのため、炭化ケイ素焼結体の耐酸化性を向上することができても、CVDにかかるコストが高くなり、再利用回数を増やすことによる本来の利点が希薄になるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、CVDによって被膜層が形成された炭化ケイ素焼結体と遜色のない耐酸化性を有する炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有している。すなわち、炭化ケイ素粉末及び炭素源としての有機化合物を含むスラリー溶液を調製する工程と、スプレードライヤー法を用いて、前記スラリー溶液から炭化ケイ素顆粒を得る工程と、前記炭化ケイ素顆粒から形成された成形体をホットプレス法を用いて焼結する工程とを含む炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、前記スラリー溶液に前記炭素源の沸点よりも高い沸点を有する可塑剤を添加することを要旨とする。
【0010】
本発明によれば、可塑剤が添加されたことにより、炭素源として使用する有機化合物の柔軟性が高められるため、炭素源としての有機化合物が炭化ケイ素粉末を包含した状態で硬化することを防止できる。これにより、焼結する工程で炭化ケイ素顆粒が潰れ易くなり、炭化ケイ素と炭素源とを、一層均一に分散することができる。従って、脱粒、顆粒痕を防止でき、炭化ケイ素焼結体の耐酸化性を向上できる。また、焼結性が向上するため、プラズマ雰囲気下での耐性も向上できる。
【0011】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記炭素源は、フェノールであり、前記可塑剤は、水酸基を有する有機化合物であることを要旨とする。
【0012】
本発明の第3の特徴は、本発明の第2の特徴に係り、前記可塑剤の含有量は、前記フェノールに対して0.3重量%以上20重量%以下であることを要旨とする。
【0013】
本発明の第4の特徴は、本発明の第2の特徴に係り、前記可塑剤の含有量は、前記フェノールに対して0.5重量%以上1.0重量%以下であることを要旨とする。
【0014】
本発明の第5の特徴は、本発明の第2乃至第4の何れか1つの特徴に係り、前記可塑剤は、グリセリンであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、CVDによって被膜層が形成された炭化ケイ素焼結体と遜色のない耐酸化性を有する炭化ケイ素焼結体を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、炭化ケイ素焼結体の製造方法の各工程を説明するフローチャートである。
【図2】図2は、スプレードライヤー装置を説明する構成図である。
【図3】図3(a)は、比較例の炭化ケイ素焼結体の表面の電子顕微鏡写真図であり、(b)は、実施例の炭化ケイ素焼結体の表面の電子顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、上述した特許文献1に開示された炭化ケイ素焼結体の製造方法によって製造される炭化ケイ素焼結体の耐酸化性に関して鋭意検討を行った。その結果、炭化ケイ素焼結体の耐酸化性が製造方法の途中の工程における炭化ケイ素顆粒の状態に起因することが判った。
【0018】
特許文献1に開示された炭化ケイ素焼結体の製造方法は、(a)炭化ケイ素粉末及び炭素源を含むスラリー溶液を調製する工程と、(b)スラリー溶液からスプレードライヤー法を用いて乾燥率89%以上の炭化ケイ素顆粒を得る工程と、(c)炭化ケイ素顆粒の中から粒度分布が150〜50μmの炭化ケイ素顆粒を取り出す工程と、(d)炭化ケイ素顆粒をホットプレス法を用いて焼結する工程とを含む。
【0019】
耐酸化性が低く、表面にCVDによる被膜層が必要とされる炭化ケイ素焼結体の表面に、脱粒又は顆粒痕が確認できた。これらの脱粒又は顆粒痕は、炭素源としてのフェノール樹脂が炭化ケイ素粉末を包含した状態で硬化したため、焼成する工程で炭化ケイ素顆粒が潰れにくくなったことによるものである。このように、焼結時に潰れなかった炭化ケイ素顆粒は、脱粒、顆粒痕の原因となる。また、焼結時に潰れなかった炭化ケイ素顆粒の周囲では、炭化ケイ素の密度が低くなるためプラズマ耐性等も低下する。そこで、発明者らは、炭化ケイ素顆粒の改善を試みた。
【0020】
以下、本発明に係る炭化ケイ素焼結体の製造方法の実施形態について説明する。具体的には、(1)炭化ケイ素焼結体の製造方法に用いられる成分、(2)炭化ケイ素焼結体の製造方法、(3)作用・効果、(4)その他の実施形態、(5)実施例について説明する。
【0021】
(1)炭化ケイ素焼結体の製造方法に用いられる成分
本発明の実施形態にかかる炭化ケイ素焼結体の製造方法に用いられる成分について説明する。炭化ケイ素粉末は、α型、β型、非晶質、あるいはこれらの混合物等を広く用いることができる。炭化ケイ素粉末は、市販品を用いてもよい。中でもβ型炭化ケイ素粉末が好適に用いられる。炭化ケイ素焼結体を高密度化するためには、炭化ケイ素粉末の粒度は小さいほうがよい。好ましくは0.01〜10μm程度、より好ましくは0.05〜2μmである。粒径が0.01μm未満であると、計量、混合等の処理工程における取り扱いが困難となり、一方10μmを超えると、粉体の比表面積、即ち、隣接する粉体との接触面積が小さくなり、高密度化が困難となるので好ましくない。
【0022】
高純度の炭化ケイ素粉末を用いると、得られる炭化ケイ素焼結体も高純度になるので好ましい。高純度の炭化ケイ素粉末は、例えば、ケイ素化合物(以下「ケイ素源」という場合がある)と、加熱により炭素を発生する有機材料と、重合触媒または架橋触媒とを混合し、得られた固形物を非酸化性雰囲気中で焼成することにより製造することができる。ケイ素源としては、液状、および固体状の化合物を広く用いることができるが、少なくとも液状の化合物を1種以上用いる。
【0023】
液状のケイ素源としては、エチルシリケート、アルコキシシラン(モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−)の重合体等が挙げられる。アルコキシシランの重合体の中では、テトラアルコキシシランの重合体が好適に用いられる。具体的には、メトキシシラン、エトキシシラン、プロピロキシシラン、ブトキシシラン等が挙げられるが、ハンドリングの点からはエトキシシランが好ましい。テトラアルコキシシラン重合体の重合度は2〜15程度であると液状の低分子量重合体(オリゴマー)となる。その他、重合度が高いケイ酸ポリマーで液状のものもある。
【0024】
液状のケイ素源と併用可能な固体状のケイ素源としては、炭化ケイ素が挙げられる。炭化ケイ素には、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)の他、シリカゾル(コロイド状超微細シリカ含有液であって、コロイド分子内にOH基やアルコキシ基を含有するもの)、微細シリカ、石英粉体等も含まれる。これらのケイ素源の中でも、均質性やハンドリング性が良好であるテトラアルコキシシランのオリゴマー、またはテトラアルコキシシランのオリゴマーと微粉体シリカとの混合物等が好ましい。また、これらのケイ素源は高純度であることが好ましく、具体的には初期の不純物含有量が20ppm以下であるのが好ましく、5ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
炭素源としては、加熱により炭素を生成する有機材料を用いることができる。炭素源としては、液状のものの他、液状のものと固体状のものを併用することもできる。残炭率が高く、かつ触媒あるいは加熱により重合または架橋する有機材料が好ましい。具体的には、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ポリビニルアルコール等のモノマー、およびプレポリマーが好ましい。その他、セルロース、しょ糖、ピッチ、タール等の液状物も用いられる。中でもレゾール型フェノール樹脂が、熱分解性および純度の点で好ましい。有機材料の純度は、目的に応じて適宜、制御すればよい。特に高純度の炭化ケイ素粉末が必要な場合は、不純物元素の含有量が各々5ppm未満である有機材料を用いるのが好ましい。
【0026】
炭素源とケイ素源との配合比率は、炭素とケイ素のモル比(以下「C/Si」と略記する。)を目安に好ましい範囲をあらかじめ決定することができる。ここにいうC/Siとは、炭素源とケイ素源との混合物を1000℃にて炭化した炭化ケイ素中間体を元素分析し、その分析値より得られるC/Siである。炭素は、以下の反応式で表されるように、酸化ケイ素と反応し、炭化ケイ素に変化する。
【0027】
式(I): SiO+3C→SiC+2CO
したがって、化学量論的には、C/Siが3.0であると、炭化ケイ素中間体における遊離炭素は0%になるが、実際にはSiOガス等が揮散するため、C/Siが3.0より低い値であっても遊離炭素が発生する。
【0028】
遊離炭素は、粒成長を抑制する効果を有するので、目的とする粉末粒子の粒径に応じて、C/Siを決定し、その比となるようにケイ素源と炭素源とを配合すればよい。例えば、約1気圧、1600℃以上で、ケイ素源と炭素源との混合物を焼成する場合、C/Siが2.0〜2.5の範囲になるように配合すると、遊離炭素の発生を抑制することができる。同条件で、C/Siが2.5を超えるように配合すると、遊離炭素の発生が顕著となり、粒子の小さな炭化ケイ素粉末が得られる。
【0029】
このように、目的に応じて、配合比率を適宜決定することができる。なお、炭化ケイ素粉末に起因する遊離炭素の作用および効果は、焼結助剤から生じる遊離炭素の作用および効果と比較して非常に弱いため、炭化ケイ素粉末に起因する遊離炭素は、本実施形態の効果には本質的に影響しないものである。
【0030】
ケイ素源と炭素源との混合物を硬化させ、固形物にすることもできる。硬化の方法としては、加熱による架橋反応を利用する方法、硬化触媒により硬化する方法、電子線や放射線を利用する方法等がある。硬化触媒は、用いる有機材料に応じて適宜選択できるが、フェノール樹脂、フラン樹脂を有機材料に用いた場合は、トルエンスルホン酸、トルエンカルボン酸、酢酸、蓚酸、塩酸、硫酸等の酸類、ヘキサミン等のアミン類等が挙げられる。
【0031】
ケイ素源と炭素源を含有する固形物は、必要に応じ炭化される。炭化は、窒素またはアルゴン等の非酸化性の雰囲気中800℃〜1000℃にて30〜120分間加熱することにより行われる。さらに、非酸化性雰囲気中1350℃〜2000℃で加熱すると炭化ケイ素が生成する。焼成温度と焼成時間は、得られる炭化ケイ素粉末の粒径等に影響するため、適宜決定すればよいが、1600〜1900℃で焼成すると効率的で好ましい。以上に説明した高純度の炭化ケイ素粉末を得る方法は、特開平9−48605号明細書により詳細に記載されている。
【0032】
炭化ケイ素粉末中の炭素源の添加量は、炭化ケイ素焼結体の遊離炭素が2〜10重量%になるように決定する。遊離炭素がこの範囲外であると、接合処理中に進行するSiCへの化学変化、および炭化ケイ素焼結体間の接合が不十分となる。ここで、遊離炭素の含有率(重量%)は、炭化ケイ素焼結体を酸素雰囲気下において、800℃で8分間加熱し、発生したCO、COの量を炭素分析装置で測定し、その測定値から算出することができる。
【0033】
炭素源の添加量は、用いる炭素源の種類および炭化ケイ素粉末の表面シリカ(酸化ケイ素)量によって異なる。添加量を決定する目安としては、あらかじめ炭化ケイ素粉末の表面シリカ(酸化ケイ素)量をフッ化水素水を用いて定量し、この酸化ケイ素を還元するのに十分な化学量論(式(I)で算出される化学量論)を算出する。これと、炭素源が加熱により炭素を生成する割合を考慮し、遊離炭素が前述の適する範囲となるように添加量を決定することができる。以上に説明した炭化ケイ素焼結体の炭素源についての説明は、特願平9−041048号明細書中により詳細に記載されている。
【0034】
スラリー状の混合粉体を得る工程に用いられる溶媒としては、水、エチルアルコール等の低級アルコール類やエチルエーテル、アセトン等が挙げられる。溶媒としては不純物の含有量が低いものを使用することが好ましい。消泡剤としてはシリコーン消泡剤等が挙げられる。また、炭化ケイ素粉末からスラリー状の混合粉体を製造する際に有機バインダーを添加してもよい。有機バインダーとしては、解膠剤、粉体粘着剤等が挙げられる。
【0035】
解膠剤としては、導電性を付与する効果をさらに上げる点で窒素系の化合物が好ましく、例えばアンモニア、ポリアクリル酸アンモニウム塩等が好適に用いられる。粉体粘着剤としては、ポリビニルアルコールウレタン樹脂(例えば水溶性ポリウレタン)等が好適に用いられる。
【0036】
非金属系焼結助剤として、加熱により遊離炭素を生じる有機材料(以下「炭素源」という)を含有するものを用いる。前述の炭素源を単独で、または前述の炭素源を炭化ケイ素粉末(粒度:約0.01〜1μm)表面に被覆させたものを焼結助剤として用いてもよい。効果の点からは、炭素源を単独で用いるのが好ましい。非金属系焼結助剤としては、具体的には、残炭化率の高いコールタールピッチ、ピッチタール、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂の他、各種糖類、例えば、グルコース等の単糖類、しょ糖等の小糖類、セルロース、でんぷん等の多糖類等が挙げられる。
【0037】
炭素源を炭化ケイ素粉末と均質に混合するには、炭素源は、常温で液状のもの、溶媒に溶解するもの、または熱可塑性、熱融解性を有するもの(加熱により軟化するもの)が好ましい。中でも、フェノール樹脂を用いると炭化ケイ素焼結体の強度が向上するので好ましく、さらにレゾール型フェノール樹脂が好ましい。これらの炭素源の作用機構は明確にはなっていないが、炭素源は加熱されると系中にカーボンブラック、グラファイトの如き無機炭素系化合物を生成する。この無機炭素系化合物が焼結助剤として有効に作用しているものと考えられる。但し、カーボンブラック等を焼結助剤として用いても、同様な効果は得られない。
【0038】
本実施形態では、炭素源及び炭化ケイ素粉末を含むスラリー状の混合粉体に、加熱により遊離炭素を生じる炭素源の沸点よりも高い沸点を有する可塑剤を添加する。
【0039】
炭素源がフェノール樹脂のとき、水酸基を有する可塑剤を添加することが好ましい。水酸基を有する可塑剤は、フェノール樹脂との相溶性が良好であるため、フェノール樹脂の効果を抑止する効果が高いと考えられる。フェノール樹脂の沸点は140℃であるため、沸点が140℃以上であり、且つ水酸基を有する可塑剤を添加する。具体的には、炭素源がフェノール樹脂のとき、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジアシルグリセロールなどを添加する。
【0040】
非金属系焼結助剤は、所望により有機溶媒に溶解し、その溶液と炭化ケイ素粉末を混合してもよい。使用する有機溶媒は、非金属系焼結助剤により異なる。例えば、焼結助剤としてフェノール樹脂を用いる場合、エチルアルコール等の低級アルコール類、エチルエーテル、アセトン等を選択することができる。高純度の炭化ケイ素焼結体を作製する場合は、高純度の炭化ケイ素粉末を使用するのみならず、焼結助剤および有機溶媒も不純物含有量の少ないものを用いるのが好ましい。
【0041】
非金属系焼結助剤の炭化ケイ素粉末に対する添加量は、炭化ケイ素焼結体の遊離炭素が2〜10重量%になるように決定する。遊離炭素がこの範囲外であると、接合処理中に進行するSiCへの化学変化及び炭化ケイ素焼結体間の接合が不十分となる。ここで、遊離炭素の含有率(重量%)は、炭化ケイ素焼結体を酸素雰囲気下において、800℃で8分間加熱し、発生したCO、COの量を炭素分析装置で測定し、その測定値から算出することができる。
【0042】
焼結助剤の添加量は、焼結助剤の種類および炭化ケイ素粉末の表面シリカ(酸化ケイ素)量によって異なる。添加量を決定する目安としては、あらかじめ炭化ケイ素粉末の表面シリカ(酸化ケイ素)量を弗化水素水を用いて定量し、この酸化ケイ素を還元するのに十分な化学量論(式(I)で算出される化学量論)を算出する。これと、非金属系焼結助剤が加熱により炭素を生成する割合を考慮し、遊離炭素が前述の適する範囲となるように添加量を決定することができる。以上に説明した炭化ケイ素焼結体の非金属系焼結助剤についての説明は、特願平9−041048号明細書中により詳細に記載されている。
【0043】
(2)炭化ケイ素焼結体の製造方法
図1は、炭化ケイ素焼結体の製造方法の各工程を説明するフローチャートである。炭化ケイ素焼結体の製造方法は、以下の工程A〜Dを有する。すなわち、(A)炭化ケイ素粉末及び炭素源を含むスラリー溶液を調製する工程、(B)スプレードライヤー法を用いて、前記スラリー溶液から、乾燥率=100−{(乾燥前の炭化ケイ素粉末の重量−乾燥後の炭化ケイ素粉末の重量)/乾燥前の炭化ケイ素粉末の重量}×100で定義される乾燥率89%以上の炭化ケイ素顆粒を得る工程、(C)炭化ケイ素顆粒の中から所定の粒度分布の炭化ケイ素顆粒を取り出す工程、(D)前記炭化ケイ素顆粒をホットプレス法を用いて焼結する工程とを含む。工程Aにおいて、スラリー溶液に炭素源の沸点よりも高い沸点を有する可塑剤を添加することが特徴である。以下、工程毎により詳細に説明する。
【0044】
(2−1)工程A:スラリー溶液を調整する
炭化ケイ素粉末及び炭素源を有機溶媒に混合してスラリー溶液を調製する。炭化ケイ素粉末(SiC)と炭素源としてのフェノール樹脂の成分比(重量比)は、SiC:フェノール樹脂=92〜84:8〜16が好ましい。混合方法としては、公知の方法、例えば、ミキサー、遊星ボールミル等を用いる方法が挙げられる。混合に使用する器具は、金属元素不純物の混入を防止するため、合成樹脂素材のものを用いるのが好ましい。混合は10〜30時間程度、特に16〜24時間程度行い、十分に混合するのが好ましい。
【0045】
炭素源がフェノール樹脂であるとき、スラリー状の混合粉体に対するグリセリンの含有量は、フェノール樹脂に対して0.3重量%以上20重量%以下であることが好ましい。また、より好ましくは、フェノール樹脂に対して0.5重量%以上1.0重量%以下である。フェノール樹脂に対する可塑剤の含有量が0.3重量%よりも少ない場合には、フェノール樹脂の硬化を十分に抑止することができず、耐酸化性の向上が不十分である。また、フェノール樹脂に対する可塑剤の含有量が20重量%を超える場合には、炭化ケイ素顆粒を維持するのに十分な硬さが得られない。
【0046】
(2−2)工程B:スラリー溶液から溶媒を除去する。
【0047】
スプレードライヤー装置を用いてスラリー溶液を乾燥させて溶媒を除去する。スラリー溶液から溶媒を除去することにより、炭化ケイ素顆粒を形成する。このとき、スラリー溶液を絶乾しない。次式(II)で定義される乾燥率が89%以上、好ましくは89%〜98%となるように乾燥時間を変化させる。
【0048】
式(II):乾燥率=100−{(乾燥前の炭化ケイ素顆粒重量−乾燥後の炭化ケイ素顆粒重量)/乾燥前の炭化ケイ素顆粒重量}×100
図2を用いて、スプレードライヤー装置10について説明する。工程Aで作成されたスラリー21をスプレードライによって造粒する。具体的には、図2に示すスプレードライヤー装置10のノズル22からスラリー21を噴射する。
【0049】
(2−3)工程C:炭化ケイ素顆粒を分級する
噴射したスラリー21の液滴に熱風を接触させると、液滴中の水分がほぼ瞬間的に蒸発気化して、スラリー溶液が乾燥させられて、5〜300μmの粒度分布を持つ炭化ケイ素顆粒24が得られる。この炭化ケイ素顆粒の中から、50μm〜150μmの粒子径を有する炭化ケイ素顆粒を分級する。ここで「粒子径1mm以下の粒子」とは、目の直径が1mmの篩を通り抜けた粒子をいう。乾燥温度としては、125〜145℃であることが好ましい。
【0050】
(2−4)工程D:ホットプレスにより焼結する
炭化ケイ素顆粒24及び非金属系焼結助剤を成形モールドに充填し、ホットプレスにより焼結する。具体的には、炭化ケイ素顆粒24を成形モールドに入れ、面圧25MPa〜50MPa、室温で型押しする。続いて、加熱する。加熱温度は、2250℃〜2350℃が好ましい。
【0051】
好ましい昇温工程の一例を以下に示す。まず、原料粉体をいれた成形モールドを加熱炉内に配置し、炉内を1×10−4torrの真空状態にする。室温から200℃まで穏やかに昇温し、その後、700℃まで6〜10時間で昇温し、2〜5時間700℃に保つ。室温から700℃までの昇温工程で、吸着水分や有機溶媒の脱離が起こり、また、非金属系焼結助剤の炭化も進行する。一定温度の保持時間は、炭化ケイ素焼結体のサイズによって異なり、適宜好適な時間に設定すればよい。また、保持時間が十分であるか否かの判断は、真空度の低下がある程度少なくなる時点を目安にすることができる。
【0052】
次に、700℃〜1500℃まで6〜9時間で昇温し、1〜5時間程1500℃に保持する。1500℃に保持している間、酸化ケイ素が還元され炭化ケイ素に変化する反応が進行する(式(I))。保持時間が不十分であると、二酸化ケイ素が残留し、炭化ケイ素粉末表面に付着するため、粒子の緻密化を妨げ、大粒の成長原因となるので好ましくない。保持時間が十分であるか否かの判断は、副生成物である一酸化炭素の発生が停止しているかを目安にする。すなわち、真空度の低下がおさまり、還元反応の開始温度である1300℃の真空度まで回復しているかを目安にする。
【0053】
ホットプレスは、焼結が開始する1500℃程度まで炉内を昇温し、次に炉内を非酸化性雰囲気とするために、不活性ガスを充填した後に行うのが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、あるいはアルゴンガス等が用いられるが、高温においても非反応性であるアルゴンガスを用いるのが好ましい。高純度炭化ケイ素焼結体を製造したい場合は、不活性ガスも高純度のものを用いる。炉内を非酸化性雰囲気とした後、温度が2000℃〜2400℃、圧力が300〜700kgf/cmとなるように炉内を加熱および加圧する。
【0054】
最高温度が2000℃未満であると、高密度化が不十分となる。一方、最高温度が2400℃を超えると、粉体もしくは成形体原料が昇華(分解)する虞があるため好ましくない。1500℃近傍〜最高温度までの昇温は2〜4時間かけて行い、最高温度で1〜8時間保持するのが好ましい。1850〜1900℃で焼結は急速に進行し、最高温度保持時間中に焼結が完了する。また加圧条件が、300kgf/cm未満であると高密度化が不十分である。また、700kgf/cmを超えると黒鉛製の成形金型がダメージを受けることもあり、製造効率上好ましくない。
【0055】
(3)作用・効果
本発明の実施形態に係る炭化ケイ素焼結体には、可塑剤が添加されたことにより、炭素源として使用する有機化合物の柔軟性が高められるため、炭素源としての有機化合物が炭化ケイ素粉末を包含した状態で硬化することを防止できる。これにより、炭化ケイ素焼結体を焼結する工程で炭化ケイ素顆粒が潰れ易くなり、炭化ケイ素と炭素源とを、一層均一に分散することができる。従って、脱粒、顆粒痕を防止でき、炭化ケイ素焼結体の耐酸化性を向上させることができる。また、焼結性が向上するため、プラズマ雰囲気下での耐性も向上させることができる。これにより、CVDによって被膜層が形成された炭化ケイ素焼結体と遜色のない耐酸化性を有する炭化ケイ素焼結体を製造することができる。
【0056】
(4)その他の実施形態
上記のように本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。
【0057】
本実施形態では、炭素源は、フェノールであり、可塑剤は、グリセリンであると説明した。しかし、炭素源はフェノールに限定されない。また、水酸基を有する有機化合物であれば、グリセリンに限定されない。
【0058】
この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0059】
(5)実施例
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の主旨を超えない限り本実施例に限定されるものではない。
【0060】
炭化ケイ素粉末として、中心粒径2μmの高純度炭化ケイ素粉末(特開平9―48605号に記載の製造方法に準じて製造された不純物含有量5ppm以下の炭化ケイ素/1.5重量%のシリカを含有)100重量部に対して、フェノール樹脂10.5重量部、エタノール、さらにグリセリンを以下の割合で添加し、スラリー状の混合粉体を得た。グリセリンの添加量に応じて、比較例1,2、実施例1〜8とした(表1に示す)。
【0061】
また、得られたスラリー状の混合粉体からスプレードライヤーを用いて炭化ケイ素顆粒粉を作成した。このとき、各サンプルにつき、表1に示す範囲で乾燥温度を変化させた。乾燥時間は全て10分間とした。乾燥温度の違いにより、スラリーの形態が表1に示すように変化した。例えば、液/粘は、相溶しないことを示す。
【表1】

【0062】
実施例1乃至4のグリセリン含有率であって、スプレードライヤー装置により乾燥温度130〜145℃で乾燥して得られた炭化ケイ素顆粒の粒径及び強度を測定した。結果を表2に示す。
【表2】

【0063】
表2に示すように、グリセリンを含有する実施例において、スプレードライヤー装置により乾燥温度130〜145℃で乾燥して得られた炭化ケイ素顆粒の粒径は、粒径45μm〜65μmであった。また、炭化ケイ素顆粒の強度の平均値は、1.68MPaであった。ここで、炭化ケイ素顆粒の強度とは、炭化ケイ素顆粒を圧子によって押圧し、顆粒が崩壊したときの圧力である。表2に示すように、比較例の炭化ケイ素顆粒に比べて、強度が低いことが判った。一方、比較例1,2の炭化ケイ素顆粒の粒径は、粒径30μm〜65μmであった。
【0064】
続いて、実施例2,4,5,6,7のスラリーを乾燥温度130,135,140℃でそれぞれ乾燥したサンプルにつき、炭化ケイ素の成形体を作成した。本実施例では、焼成前のものを単に成形体という。実施例2,4,5,6,7の炭化ケイ素顆粒を室温(25℃)で、39.2MPaの圧力で押圧した。結果を表3に示す。
【表3】

【0065】
表3に示すように、グリセリンを含まない比較例のスラリーに比べて、成形体の密度が10%以上向上した。また、比較例1,実施例2,4の炭化ケイ素顆粒から作成された成形体を焼成し、炭化ケイ素焼結体を作成した。得られた焼結体の密度を測定した。結果を表4に示す。焼成温度は、2320℃の場合である。表4に示す、条件(MAX→MAX)昇温開始時に最大荷重をかける方法である。通常は、最高温度のときに最大荷重がかかるように、昇温開始後からかける圧力を徐々に高くしていく方法である。
【表4】

【0066】
表4に示すように、実施例2,4,5,6,7のグリセリン含有率のスラリーであって、スプレードライヤー装置により乾燥温度130〜145℃で乾燥して得られた炭化ケイ素顆粒から作成された焼結体の密度は、比較例1のスラリーから得られた炭化ケイ素顆粒から作成された焼結体の密度よりも高いことが判った。
【0067】
従って、本実施例に係る炭化ケイ素焼結体は、CVDによって被膜層が形成された炭化ケイ素焼結体と遜色のない耐酸化性を有する。
【0068】
また、実施例2のスラリーから作成された炭化ケイ素焼結体と、比較例1のスラリーから作成された炭化ケイ素焼結体とを1100℃下に3時間曝した後、洗浄する処理を4回繰り返し行って、表面を電子顕微鏡で観察した。結果は、図3に示す。図3(a)は、比較例1の炭化ケイ素焼結体の表面の状態を示し、図3(b)は、実施例2の炭化ケイ素焼結体の表面の状態を示す。
【0069】
図3からも明らかなように、実施例2の炭化ケイ素焼結体は、炭化ケイ素顆粒の集合体が潰れ、密度が高められていることが判る。上述した繰り返し試験に対し高い耐性を有することも認められる。
【符号の説明】
【0070】
10…スプレードライヤー装置、 21…スラリー、 22…ノズル、 24…炭化ケイ素顆粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素粉末及び炭素源としての有機化合物を含むスラリー溶液を調製する工程と、
スプレードライヤー法を用いて、前記スラリー溶液から炭化ケイ素顆粒を得る工程と、
前記炭化ケイ素顆粒から形成された成形体をホットプレス法を用いて焼結する工程と
を含む炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、
前記スラリー溶液に前記炭素源の沸点よりも高い沸点を有する可塑剤を添加する炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記炭素源は、フェノールであり、
前記可塑剤は、水酸基を有する有機化合物である請求項1に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記可塑剤の含有量は、前記フェノールに対して0.3重量%以上20重量%以下である請求項2に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記可塑剤の含有量は、前記フェノールに対して0.5重量%以上1.0重量%以下である請求項2に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記可塑剤は、グリセリンである請求項2乃至4の何れか1項に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−225389(P2011−225389A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95329(P2010−95329)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】